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晩秋

 老いた指でまさぐった少女の腿の内側は、あくまでもやわらかだった。
 健康的につややかにひかる膝頭に、丁寧に、なぶるように舌を這わせる。同時に、間接だけがやけに目立つ、筋張った枯れ枝のような指を色鮮やかな処女の秘処にのばす。
 少女のもっとも重要な箇所を、直接舌で味わうつもりはなかった。
 男性が役に立たなくなってから、もう随分になる。生理的要求というよりフェティシズム、それに、亡くしてしまってからひさしい若さへの執着から、かも知れない。
 性器の、性器への挿入。それに射精というカタルシスを失った代償として、わたしは若い……というより、幼いピンクの肌への執拗な執着を覚えた。
 老醜と笑いたいのなら、好きなだけ笑うがいい。わたしはたしかに老いぼれだが、自分の年齢の重ね方にはそれなりの自身と自負をもっている。そこいらの若さだけが取り柄の連中がなにをわめこうが、さして気にはしない。
 年をとるということは顔面の皮膚が厚くなるということでもあり、多少の誹謗中傷くらいでは傷つかなくなるということでもある。世間との関わりが次第に薄くなっていく、というのは、ひょっとしたら年寄りの唯一の美点なのかも知れない。
 舌で感じる少女の肌は適度な弾性があり、かつ、滑らかだった膝頭の周辺部から中心に向かってゆっくりとらせんを描くように舌の尖端を這わせていく。舌のはった痕がわたしの唾液でてらてらと光を反射しており、その反射はちいさい肉色の膝の上で指紋状の文様を形作っていた。
 渦巻き模様を中心までかき上げ、いったん舌を放す。そして、右手でそおっと足首をつかみ、持ち上げ、左の掌の上にかわいい足をのせる。じっくりと汗ばんだ足の裏の感触が心地よい。
 ……なんとちいさな足だろう。
 感嘆しつつ、肉の薄いふくらはぎの感触を楽しみながら、右手で靴下を刷り降ろしていく。光沢をおびた、健康的な色合いの脛があらわになる。骨張った直接的なラインは、とても優美に感じられた。まだ、余分な脂肪がつく年頃ではないのだ。
 くるぶしに、ついで足の親指と人差し指の間に、そっと口づけをする。その瞬間、かぎつけた若々しい汗の臭いに、わたしは年甲斐もなく動悸をはやめた。
 ついで、ちいさな足の指を、小指から順にしゃぶり、清めていく。わたしの口のなかで、かわいい指がくすぐったさに耐えかね、細かく震え出す。わたしはかまわず舌の先で、あるいは舌の中程の平らなぶぶんで、ときに繊細に大胆に、足の指やその間をねぶりつづける。すべすべのピンクの肌が、唾液に濡れ光っていく。
 次に、両手でやさしく足の親指と小指の根本を押さえ、踵から踝にかけての骨ばった部分に強弱の差をつけ、わざと音をたてて接吻の雨を降らせる。
 続いて、ふくらはぎをゆっくりとした動作で愛撫しながら、踝から脛にかけての部分に、下から上にかけて幾つか接吻をし、膝から上の部分は、内股の柔らかい肉の感触を楽しみつつ、口唇と舌全体を這わすようにして、やさしくなぶっていく。
 このあたりから少女の下半身が小刻みに震え出すのだが、それは決してくすぐったさのためではなかった。
 私は少女の膝と膝の間に頭をいれ、腿の内側の肉を、時間をかけて舐め回した。
 余り知られていない事実だが、人間の舌というのは、非常に多くの神経が集中する繊細な器官なのだ。このちっぽけな部分に、下半身全体に張り巡らされている神経とほぼ同じだけの神経が詰まっている。
 だから、もし君のパートナーを本当に悦ばせたいのなら、上手な腰の振り方などよりも、上手なキスの仕方を練習したほうが良い。──理屈では、そうなる。
 それはともかく。
 わたしの執拗な愛撫に少女の未開発な身体が応えはじめていた。
 大腿部と、それに平坦な胸部とが朱に染まり、ちいさな水滴がいくつもうかびあがる。それらが光を反射するさまは、肌一面にばらまいた真珠を連想させた。
 可愛い抗議のうめき声にもかまわず、不意をついて少女の股間から顔を話し、細い肢体を、つくずくと、みる。
 手足はあくまで細く、華奢であり、全体にやせていて余分な脂肪はほとんどついていない。胸には肋骨が浮いてみえるほどで、股間を確かめなければ、同じ年頃の男の子と見分けることができなかっただろう。ようするに、まだまだ体型は幼児のそれなのだ。
 それでも性欲はあるし、やり方によっては、そんな幼い身体から快感を引き出すこともできる。
 大切なのは、あせらず、やさしく丁寧に扱うこと、である。
 その事実を実証するために、わたしはそっと彼女のへそにキスをし、そのまわりに舌の先端で円をえがく。それから脇の下に手を入れて上半身を浮かせ、彼女の脊椎沿いに、つつつ、中指をすべらせる。
 あっ、というかれんな声とともに、ぴくん、と、小さな体躯がはねあがった。
 片手で頚の後ろをやさしくささえ、視線を、こころなしか潤みはじめたつぶらな瞳に据えたままで、もう片方の手の中指を口唇におき、身体の中心をなぞるように指先をすべらせていく。口唇から顎、顎から喉、喉から胸の中央を通り、やわらかな腹部へ、そして、その下へ。
 が、一番大事な部分にいたるま寸前で指をとめ、かわりにピンクに染まった耳の下の部分に口唇をあてる。
 かぐわしい吐息を頬に感じながら、いまにも折れそうなほどに細い首から鎖骨にかけて、口唇を這わせる。
 耳元に、長く切ないため息が吹きかけられるのを感じた。
 いつの間にか、少女はわたしの大腿部の上に足を揃えて座っていた。その裸の背中と腿の部分をわたしの両手がそっと支えている。
 わたしは鼻面を脇の下につっこみ、思う存分酸味を含んだ若い体臭を楽しんだ。それから鼻歌を歌いながら、鼻債をあばらにこすりつけるようにして顔を下にもっていき、細いウエストの側面に何度か音をたててキスをする。
 そのわたしのうなじに、ちいいさな掌がふたつ、そっと置かれるのが感じられた。
 片手を少女の腿の下にさしこみ、少女の身体をもちあげる──それにしても、なんと軽いのだろう──と、同時に、背をまるめてとがり気味の鎖骨に口づけをする。
 少女は、わたしの腿に乗りながら両手でわたしの頭を抱えている。そして、わたしの頭髪をかき分けて、頭皮にちいさな口唇をおしつけた。
 ふたたび少女の身体をベッドの上におき、今度はうつぶせに寝かせる。
 やわらかな足の裏を充分にまさぐり、ふくらはぎを軽く撫でたあと、太腿の側面に指を這わせつつ、臀部の膨らみに顔をおしつけ、筋肉質の硬質な感触を愉しむ。
 尾てい骨のあるあたりを、少々強めに音をたてて吸う。それから掌で、背中全体をゆっくりと撫でるように愛撫した。続いて肩胛骨のあたりに何度となく接吻し、顔を、あまりにも細いうなじへともっていく。
 そして後ろからそっと、彼女の耳たぶを噛む。
 ここで、少女の身体を抱きとめながら、少し休憩する。
 こういうときに、行為を焦ってはいけない。彼女は、こうした行為は今回が初めてだというし、かくいうわたしだって、過激な運動は控えるように、と医者からきつく諫められている身だ。
 それに、こういったことはがむしゃらに攻めるばかりが能でもあるまい。エクスタシーの感じ方も男性と女性とでは随分様子が違う。そうだ。わたしは一度も女性になった経験がないので、真偽のほどまでは保証できかねるが、それでも性的に不能になったおかげで、ゆるやかな上昇と下降の意味が、以前よりは想像しやすくなったのは、事実だ。
 本当はこういうタイミングでやさしく語りかけ、緊張をほぐしたり雰囲気を盛り上げたりすると、かなり効果があるのだが、彼女との事前の取り決めで、行為の最中はどちらも口をきかない、ということになっていたので、二人とも押し黙ったままである。
「あくまで、肉体的な接触のみで、彼女を絶頂に導く」というのが、二人の間で交わされた、今回の基本ルールだった。
 彼女の高揚は、休憩により幾分静まったように見受けられた。──そうみてとっったわたしは、いよいよ最後の仕上げにかかる。
 背骨に沿っていくつもの接吻を送りながら、左手を身体の下に差し込むようにして、平坦な胸の乳首の周囲に微妙な刺激を与え続ける。左手は股の間にさしいれ、秘処と肛門との間のごくごく限られた部分を、すべての指を駆使して揉みほぐす。
 数分、そうした行為を、執拗に、細心の注意を払って休むことなく続けると、口唇越しに、彼女の鼓動が早くなっていくのが確認できた。彼女の身体が小刻みに震えだし、その振幅は次第に大きくなっていく。しまいには、けいれんするかのように、ピクン、ピクン、と背を反らせる、頭を跳ね上げるようになる。
 呼吸はすでに荒く、吐息の中に、あっ、あっ、という甘い喘ぎが混入する割合が多くなる。
 顔を腰の後ろ辺りにもっていき、やさしい接吻の雨を音を立てて降らせながら、右手の動きをさらに大胆なものにする。
 指全体とそれに掌もつかって、太ももの付け根とお尻、それに肛門と秘処のあいだの微妙な箇所に、荒っぽいぐらいの大胆な動作で刺激を与えていく。
 ただし、秘処そのものには、けっして触れない。これは、彼女との間で取り決めたルールではなく、わたしが自身に課したルールだ。経験値に絶対的な格差があるのだから、この程度のハンデを設けるのが妥当なところだと思う。
 少女の背中が、身体全体が、みるみるうちに朱に染まる。
 両耳も、うなじも、上腕部も、背中も、腰も、お尻も、太股も、膝の後ろも、ふくらはぎも、足の裏も、目に見える部分全てが、朱に染まる。
 あっ、あっ、という甘い喘ぎはもはや、頻繁、を通り越して途切れることなく続いている。
 それに、ピクン、ピクン、と背を反らせ頭を跳ね上げる回数も、かなり増えた。ときおり、そうして背を反らせたまま、震えつつ、なにかにじっと耐えるように姿勢を保っていることも、ままある。
 彼女の腰は所在なげに動くようになっていた。腰だけではなく、下半身全体がまるで目に見えないなにかから逃れようとしているかのように、うねうねと蠢く。
 足を開いたり閉じたり、お尻を持ち上げて腰を浮かせたかと思えば、次の瞬間にはベッドのシーツに自分の腰を押しつけて沈み込ませている。膝を折り曲げて脛を浮かせたり、あるいは足全体をピンと一直線にのばしてしばらく動かなくなったりと、と、みていて忙しないことといったらない。
 それでもわたしは、愛撫する手指を休ませなかった。淡々と、しかし、今まで蓄積してきた経験と知識、それに愛情を込めて、それら全てを注ぎ込むように、執拗に、彼女に刺激を与え続ける。
 例によって口唇と下とでやさしく背骨をたどりながら、顔を少女の頭のほうへと運んでいく。彼女の様子からピークが間近になったことは予測できていた。
 ……それにしても、彼女の火照った背中は、とても好い香りがする。
 熱いうなじと耳の下、それに耳の感触をひとしきり舌で愉しんだ後、頬に接吻をする。それから、顎の曲線を口唇でたどり、彼女の口を開け、おもむろに中に舌を突き入れる。掻き回す。
 そこから先は、企業秘密だ。わたし自身、体得するまでにかなりの苦労を強いられた技術だし、そう易々と他人にお教えするわけにはいけない。
 ともかく、その門外不出のわたしの舌技によって、彼女は無事絶頂を迎えることができた。彼女の閉じた目尻には涙が浮かび、か細い腕はこの老いぼれの頚をきつくかき抱いて放そうとはしない。身体全体が、まるで棒を飲んだかのようにピンと張りつめて硬直している。

 ふたりとも、しばらくはそのまま動けないでいた。

「想像していたのより、ずっとずっと素晴らしかったわ。おじさま」
 しばらく休んだ後で、彼女は舌足らずな発音でそう告げる。
「年齢通りに年をとるのもいいもんさ」
 着衣の皺をなんとかみられる程度には直し終えたわたしは、ベッドの上に惜しみなく裸体を晒し横臥したままの少女にそう言い残して、その部屋を辞した。
 ──そうとも。
 家路を急ぐ路上で、わたしは自分自身にそういい聞かせる。
 ──年齢通りに年をとるのも、いいもんさ。どんなボディでも自由に選べる、こんなご時世でも。
 男でも女でも、どんな年齢のボディにでも自分の個性と知識を転写する技術が確立して、もう随分になる。わたしのように、一度も転写した経験がない者は、今となってはかなり少数派の変わり者、ということになるのだろう。さきほどの少女も、あれが産まれたままの姿ではない確率のほうが、高い。
 わたしの老いぼれぶりを笑うのなら、笑うがいい。だが、わたしはあえて断言しよう。
 ──老いることにも、それなりに「良さ」があるのだ、と。
 たしかにこの身体は、あちこちくたびれ果て、摩耗し、いつ機能を停止してもおかしくない有様だ。だが、衰えた機能を補うために得ることができる「なにか」もまた、けっして少なくはないのだと。
 わたし自身は、自分の「老い」を充分に愉しんでいるつもりだ。

 例え、それが厳冬を間近に控えた、晩秋の「最後の収穫」であるにしても、だ。

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