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2006-03

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髪長姫は最後に笑う。第五章(25)

第五章 「友と敵」(25)

「……そういや、徳川や才賀も一緒にカラオケにいったんだよな……」
 荒野は、今度はその二人に水を向けた。
「二人とも、なに歌ったんだ?」
 才賀は器用になにでも歌えそうな気がするが、徳川はいったいどういう曲を歌うのか見当がつかない。ある意味、今日の主役は二人だから、歌わずに済ませる、という選択肢は与えられなかったと思うのだが……。
 才賀は、今流行しているJ-popのナントカ(荒野は、その曲名も歌手名も知らなかった)を、徳川は「戦え! ご奉仕! メイドール3!」を歌った、という。
 才賀は歌唱力の確かさで、徳川は選曲のミスマッチさで大いに受けを取った、と、同行した玉川が保証してくれた。
「ぼくが歌える歌などそのていどくらいしかないのだ!」
 と、何故か徳川篤朗は胸を張った。姪の浅黄につき合って、毎週日曜日の朝には例の「特撮物」を観ているらしい。

 夕食後、茅と意気投合した浅黄は、
「かやといっしょにいる」
 と駄々をこねはじめたため、そのまま荒野たちのマンションに一泊することになった。一応保護者であるはずの徳川篤朗は、浅黄を二人に預けても、あまり心配そうな様子も遠慮している様子も見せなかった。荒野たちを無条件で信用しているのか、それとも単に鈍感なだけなのか、篤朗の泰然とした態度からは推し量れなかった。
 浅黄は茅といっしょに風呂にも入り、外にいる荒野にも聞こえる音量で「戦え! ご奉仕! メイドール3!」を合唱していた。少し狭かったが三人で川の字になって同じベッドに寝た。浅黄がいるので、荒野も茅もひさしぶりにパジャマを着用した。荒野は、浅黄に腹を蹴られ、何度か夜中に目を覚ました。

 翌朝、いつもの時間に浅黄を起こさないように気をつけながらごそごそ起きだし、スポーツウェアに着替えてランニング。帰ってきても浅黄はぐっすりと寝込んでいたので、そのまま交代でシャワーを浴びる。先に荒野がざっと汗を流し、朝食の用意をしている間に茅がシャワーを浴びた。
 浅黄を起こし、三人でいつものように朝食を摂る。浅黄の飲み物は、ホットミルクを用意した。一晩ぐっすり寝た浅黄は、一旦目を覚まし顔を洗うと、昨日と同じくらいの元気さをみせ、大きな声で「いただきます!」と唱和してから、口のまわりを盛大に汚しながら騒がしく食事を済ませた。

 食事を終えた後、三人でソファに座って「奉仕戦隊メイドール3」を鑑賞する。
 三島の話しによると「二月に番組の入れ替えがある」ということで、「奉仕戦隊メイドール3」は最後の盛り上がりを見せていた。
 それまでシュルエットでしか姿をみせなかったガンドール皇帝ガンジールが直接メイドールたちの前に姿を現すようになり、メイドブラックは敵組織の幹部であるマハラジャフスキー伯爵の甘言を真に受けて奉仕戦隊の敵に寝返って悪のメイドさんになり、メイドブラックを失った御剣兄弟は悲観にくれ「真の、あるべきご主人様像とは何か?」と迷うようになっていた。
 そんな感じでテンパっていた番組の内容に浅黄はいちいち反応し、怒声やら歓声やらをあげる。
 そのうち、いつもは静かにじっと観ている茅までもが浅黄の反応に引きずられて声をあげながら観るようになり、エンディングテーマの「元気にご奉仕体操! 1! 2! 3!」が流れはじめる頃には、二人してテレビの前で「ご奉仕体操」の振り付けつきで合唱をし始めた。
『……まあ、茅が楽しそうだから、いっか……』
 そんな二人の様子をみながら、荒野はそう思った。

「奉仕戦隊メイドール3」が終わってしばらくすると羽生譲から「そろそろ撮影の準備だよーん」という連絡が入ったので、三人でお隣りの狩野家にお邪魔する。
 松島楓や才賀孫子、それに玉木珠美や有働勇作をはじめとする私服の放送部の面々、以前の撮影でもお世話になった写真館のご隠居やメイクさんがすでに庭に集まっていた。何故か飯島舞花も、栗田精一込みで見物に来ていた。
 楓や孫子はすでに衣装に着替えていて、放送部員たちにからかわれたり称賛の声を浴びたりしながらメイクを直されていた。孫子は平然としていたが、楓はとても恥ずかしそうで、真っ赤になって「ほら、もっと顔を上げて」ととりついているメイクさんに注意されていた。
 今回ばかりは、荒野は楓の気持ちがよくわかった……。
「ほい。これ、衣装。さっさと向こうで着替えくれい……」
 羽生譲から衣装を渡されたので、ちょうど暇そうだった飯島に浅黄を預けて母屋に入っていく。
 そこの空いている部屋で着替えをして、再び外に出ると、背中に羽をつけた小悪魔的な衣装の才賀孫子とどうみてもSMの女王様にしか見えない真っ赤なエナメル・ボンテージの楓が布団を抱えていた。孫子は例によって平然としていたが、楓のほうも例によって耳まで真っ赤にしている。
「退廃的なコスチュームと布団干し。非日常と日常の対比。
 いいだろ?」
 荒野が着替えて出てきたことに気づくと、羽生譲は荒野に声をかけてきた。
「天気、良いしさ。ちょうど、布団干したかったところだし……」
 楓と孫子の回りでは、レフ板などをもった放送部員たちがご隠居の指示に従ってわらわらと光量などを調整していた。その写真館のご隠居も、時折有働勇作のほうに振り返って、ビデオカメラの操作法などを質問しては「うん、うん」と楽しそうに頷いている。
「今回は写真館のスタジオが取れなかったんで、急遽外になったんだが……かえってよかったな……今回は、衣装がああいう感じだから、下手にスタジオなんかで撮っちゃうと、不健康そうな印象ばかり強くなるじゃないかなーって危惧もあったんだけど……外の光線で、あの二人にああいう日常的なことやらせると、外面の退廃的な雰囲気なんか吹っ飛んじゃうんだよな……。
 二人とも、若いし……どんな衣装着ても……肌の若さとか、内面から滲み出る健康そうな雰囲気は、隠せないんだよな……」
 羽生はつらつらとそんなことを荒野に言って聞かせたが、荒野は羽生の話しの内容を半分も理解できなかった。荒野は才賀や楓と同年配で、彼らの姿に「若さ」を感じたことはない。
 ただ、改めてそう言われてみると、退廃的……というよりは、もはやイッちゃっててお笑いの領域に突入していそうな極端なコスチュームに身を包んでいても、二人の顔色や肌のきめ細かさは隠しようもない……という点については、同意できた。
 荒野がそんなことを思っていると、日傘を差し盛装した茅がとことこと出てきた。モノトーンで過剰にフリルやらリボンやらが着いていることを除けば、モネの絵にでも出てきそうな古めかしいシュルエットのドレス姿だった。

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彼女はくノ一! 第四話 (33)

第四話 夢と希望の、新学期(33)

「どもども。対局中、おじゃましますぅー」
 マイクを片手ににこやかに部室に入ってきた玉木珠美は、ねめつける才賀孫子の視線にもたじろいだ様子がない。有働勇作よりは、よほど肝が座っていた。
「才賀さんが次の手を考えている間に、徳川君にちょこちょこといろいろなことを聞いてみたいと思いますぅ……。
 早速ですが徳川君。
 この対戦相手の才賀さんについてはどう思われますか?」
「今までに対局した相手の中では二番目に強いのだ。
 それでも、狭間先輩の足下にも及ばないのだ。もちろん、ぼくにも。
 つき合ってやっているこっちは、退屈で退屈でしかたがないのだ……」
 才賀孫子は、すぐそばで行われている玉木珠美と徳川篤朗のやりとりをノイズだと思いこもうと努め、盤面に意識を集中させようとする。
 ……完全に成功はしなかったが。
「このノートパソコンは私物ですか?」
「常時、部室のロッカーにキープしてある。仕事用なのだ」
「部室に? 置きっぱなしなんですか? それって、不用心じゃありません?」
「ちゃんと防犯装置も付いているのだ」
 徳川はノートパソコンの電源を落として液晶画面を閉じ、机の上に置く。
 そしてカメラを構えている有働勇作をちょいちょいと手招きし、
「このパソコンを持ち上げてみるのだ」
 と命じた。
 有働勇作は玉木珠美と顔を見合わせてしばらく躊躇していたが、玉木が眉間に皺を寄せ、首をちょいちょいと振り、無言のまま有働を即した。
 有働は、「しかたがない」と思っていることがありありとわかる渋面を作って持っていたビデオカメラを玉木に預け、玉木がカメラを構えたのを確認してから、こわごわと篤朗のノートパソコンを指先でちょんちょんとつつき、それからゆっくりと指を回して落ち上げようとした。
 すると、それまで有働の頭の上に鎮座していた黒猫が飛び跳ねて有働から離れ、同時に有働は「ぎゃん!」と叫んでノートパソコンを手にしたまま白目をむいてがたがた震えはじめた。
 有働は数十秒震え続けた後、唐突に、どさり、と床の上にに崩れ落ちた。

「……えーと……徳川君。これは……」
「所定の手続きを経ないで正規の持ち主以外がマシンをどこかに運ぼうとすると、高圧電流が流れるのだ。
 一応特許は取得しているのだが、ノートパソコンのカバーを完全絶縁構造にしなければ中身が保全できないので通常の機体よりもコストがかかること、それに、バッテリーの消耗が激しすぎるのがネックになって、いまだに製品化にされていないのだ……」
「……えっとぉ……。
 つまり、ウドー一号……その、有働君は、防犯装置のせいで感電した、ってことで……。
 おーい! 有働くーん! 大丈夫ですかぁ?」
「お年寄りや子供、それに心臓に疾患のある方ならかなりやばいが、健康な成人男子なら十分ほど痺れっぱなしになる程度で命に別状はない筈のだ……。
 この生徒は、心臓に疾患があるのか? なければ、ガタイも大きいし、多分大丈夫な筈なのだ」
「……なるほどなるほど。そうですかー」
 驚いたことに、玉木は篤朗の言葉を信用してか、あっさり納得して引き下がった。
 玉木はそれ以上有働の事に触れようとせず、相変わらず床にのびて時折痙攣している有働をそのままにして、徳川へのインタビューを続行した。
「ところで、徳川君の会社の収益とか、差し支えなければお聞かせ願いたいのですが……」
「ぼくの会社ではないのだ。名義的には、姉が経営者なのだ。年齢的な問題もあって、日本ではそういうかたちのほうがなにかと都合がいいのだ……」
「……はあ。
 で、そのおねーさんの会社なんですが、ぶっちゃけ儲かってるんですか?」
「儲かっているといえば、儲かっている。
 もっとも、儲かった分、すぐに工場の維持費、研究開発費、それに、取引先の株を買う方に使うので、あまり手元には残っていないのだが……」
「ええと……年間でどれくらいの売り上げになるんですか?」
「さあ……詳しい数字は覚えてないのだが……たしか、今、ン十億くらいの単位だったと記憶しているのだ」
「じ、十億円……ですかぁ!」
「円、ではない。うちの取引先は海外が多いので、単位はUSドルなのだ」
「ン十億ドル、単位……って……。
 え? ええっ?」
 玉木は頭の中で、数日前、ニュースで聞きかじった現在のレートを思い返し、日本円に換算してみた。今、一ドルが……円くらいだから……。
「まじっすかぁ!」
 ざっと暗算してみた玉木は、マイクを手にしていたことも忘れて、絶叫した。女子アナ志望と自称するだけあって喉は鍛えているらしく、かなりの音量だった。マイクが、ハウリングを起こす。
 絶叫した玉木は、すぐに我に帰った。
「……し、失礼。
 し、しかし、徳川君、きみって人は……すっげぇ、お金持ちだったんだなぁ……」
「金持ち、ということでいうのなら、そこの才賀嬢の家の足下にも及ばないのだ」
 徳川篤朗はおもしろくなさそうな顔をして答えた。
「それに、研究開発というのは金食い虫なのだ。多少稼いだといっても、すぐに消える。千の実験をやって一つの成功例を得ることができればいいほうで……利益率を考えると、もっとぼろい商売は世の中にいくらでもあるのだ。割に合わない事業なのだ」
「ええと……そうすると、儲けてもすぐに使っちゃうってことですか?」
「もちろん、家族の生活費くらいは残しておくが……それ以外は自分の工場を保全するためとか、関係企業との繋がりを太くしたり、現在続行中の研究のほうに流れていくのだ。
 それでも、ぼくはぼくの手でぼくのやりたい環境を構築、保守するのに成功しているので、満足なのだ」
「……じゃあ、卒業後も、そういう生活を続けるつもりですか?
 進学は?」
「卒業後もなにも、このまま一生続けるのだ。
 進学、については、今更どこの学校に進んでも、研究室で学べることは少ないと思っているのだ。ぼくは、自分が思うような研究室を、自分自身ですでにあつらえているのだ。肩書きとか学歴が必要になったら、その時点で大検でも受けてどうにでもするのだ……。
 今の学校も、姉さんが、今の学校ぐらいはせめて卒業してくれ、というので、卒業できる程度に適当に通ってやっているのだ……」
 徳川篤朗は豪語した。
「……はぁ……なるほど……」
 玉木が毒気を抜かれた表情で呟くと、どかどかと慌ただしい足音が廊下から響いてきて、がらりと部室のドアを開ける者があった。
「ばかっもん!
 感電して痙攣している生徒をにのびたままに放置しておく馬鹿がどこにいる!」
 三島百合香、だった。
 どこかで、おそらく根城の保健室でネット中継をチェックしていたらしい。
 三島先生は、その場にいた放送部員たちにテキパキと指示を出し、数人がかりで床にのびたままだった有働勇作を保健室に運ばせた。
 保健室のベッドに寝かされた有働勇作は五分もせずに意識を取り戻し、すぐに囲碁将棋部の部室に戻ってカメラマン役に戻った。なんの異常もないのに隣のベッドで寝息をたてていた加納荒野は、有働が隣のベッドに寝ていたことにも気づかなかった。

 一局目、なんとか勝てた才賀孫子は、二局目、徳川篤朗に惨敗した。

 敗因。多分、周囲が騒がしすぎて精神の集中が破られたため。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(24)

第五章 「友と敵」(24)

「面白いモン見せて貰ったから、今夜はわたしらが御馳走する」
 といって、三島百合香とシルヴィ・姉は三島の車に乗り込んで去っていった。
 荒野と茅は自転車を持って帰るなければならないことと、浅黄を連れていることもあって、同行しなかった。
 荒野のママチャリの荷台の上に浅黄を乗っけて、荒野と茅は自転車のハンドルを手で押して帰路についた。歩いてもどうせたいした距離ではないし、同年配以上の人間ならともかく、浅黄のような小さな子を乗せて慣れない二人乗りをするのは危なっかしく思えたからだ。
 自転車の荷台に浅黄をちょこんと乗っけて、カラカラと押していくと、昼間、はしゃぎすぎたのか、浅黄はすぐにうとうととし始めた。荒野は片手でハンドル、もう一方の手で浅黄の体を支えながら、慎重に自転車を押していく。
「この子がいて、先生が食事の用意する、ってことは……また、みんな集まるんだ……」
 荒野の言葉に、茅は頷いた。
「玉木と徳川、堺と柏、それに、狭間先輩が来るの」
 堺と柏たちまで来るとなると、飯島たちも来るんだろうな……と、荒野は思った。なんだかこの辺の連中は、なにかあると狩野家に集まるようになってきている。
「荒野……。
 浅黄は、奉仕戦隊メイドール3のファンだったの」
「……そ、そうか……。
 よかったな、同好の志がみつかって……」
 そんなことを話しながら、荒野と茅はマンションに戻った。

 マンションの駐輪場に着く頃には浅黄はすっかりおねむモードに入っていて、仕方がないから自転車を片付けると荒野が抱えてマンションの部屋に上がった。
 浅黄の体をソファの上に横たえ、毛布を掛けてから私服に着替え、茅に紅茶を入れて貰ったり交代でシャワーを浴びたりする。帰宅してから小一時間ほどした所で、茅と荒野の携帯に「狩野家に来い」というメールが複数殺到してきて、浅黄を起こして三人で狩野家に向かった。
 その日のメニューはぶりの照り焼き、ひじきの煮付け、麻婆春雨、それに味噌汁代わりの治部煮で、とりたてて御馳走、というわけではなかったが、どれも白いご飯に良くあって食が進んだ。
 人数分のぶりとひじきははカラオケの帰りに自宅に寄った玉木珠美が強奪してきたもので、麻婆春雨は昼間出番がなかった柏が、それ以外の料理は三島百合香が調理した、という。柏は、昨日の生春巻きや回鍋肉など、中華系やエスニックな料理が得意らしい。食事の時にそんなことをいうと、柏は、「うちのおねーちゃんがそっちのほう得意だから……」といった。柏あんなは、姉の柏千鶴から料理を習っている、とつけ加えた。
「……そういや、他の放送部の面々は?」
 荒野が玉木に尋ねる。いつも玉木と一緒にいる、というイメージがある有働勇作のでかい体も見あたらなかった。
「あんな大人数で押しかけられるか」
 と答えた後、玉木は、
「……明日の撮影には、みんなノリノリで協力することになっているから、よろしく」
 とつけ加え、荒野を憂鬱にさせた。
『そういや……明日、だったよな……』
 マンドゴドラのCM撮り、本番。
「ネットでもかなり好評だったって話しだろ?」
 孫子と篤朗の試合を中継していた時間、バイト先のファミレスで働いていた羽生譲が、誰にともなく尋ねた。
「……凄いことになってましたよ、アクセス数……」
 松島楓の説明によると、ユニークユーザー数は最初、せいぜい数百程度のオーダーだったのが、時間がたつにつれてどんどん膨れあがり、最終的には十万人を超える人間が中継のサイトにアクセスしてきた、という。
「ネット囲碁のサイト利用したんで、そっちから流れてくる人も多かったですし、三割近くが外国からのアクセスでした……」
「……ヒカ碁みたいな展開だな」
 楓の説明に、羽生譲はそんな相づちを打った。
 それ以外にも、口コミを行った者が相当数存在していたらしい。
 囲碁の対局場面の合間に孫子や篤朗の動画、それに、マンドゴドラのCMのテスト映像が流れていたわけで……事情を知らなければ、なにかのパフォーマンス映像だと思えたかもしれない……。
「才賀さんの映像が流れると、ぼーんとアクセス増えるんです」
 荒野は見ていないが、孫子の伯父である才賀鋼蔵から送られてきた映像を玉木が編集して流した、という。
「わかいかったよー。ご幼少のみぎりの才賀さん……」
 玉木珠美はそう持ち上げ、その後、ぼそりと、
「……ロリ掲示板からリンク張られるのも道理だとな」
 などと不穏なことをつけ加える。
 セキュリティ周りに関しては特に力を入れていたので、動画のダウンロードやコピーはまず不可能で、リアルタイムで見るしか鑑賞の方法はなかった筈だ……と、担当した楓と篤朗は請け負った。そっちの方面では楓もかなりの腕前と知識を持っているのだが、加えて、篤朗を出し抜くとなると、かなり難しい筈であり……。
 もちろん、今日使用した動画データなども、すでに学校のマシン上から「完全に」削除している。
 普通の「削除」ではなく、篤朗や楓が「削除」したと断言るのなら、ハードディスク上の痕跡を辿ることも、かなり難しい……というよりは、やはり不可能に近いのではないか、と、荒野は思った。
 学校のマシンに対してそこまで執拗にデータ・ザルベージかける者も、まず、いないだろうが……ネット配信、などという大がかりことをする割に、変に気を遣っている所もあり、で、その辺の基準や加減の仕方が荒野にはまるで理解できないのだった。
「そういや、明日……放送部のやつら、って、なんで来るの?」
 荒野が改めて玉木に水を向けると、
「なんで……って……。
 面白そうだし、羽生さんが人手欲しい、とかいうし……」
 玉木はそう答え、その後、羽生が、
「……いや、人手欲しがっているのは、わたしというよりは、写真館のご隠居なんだけどな……。
 ご隠居、この前のでデジタルに興味持ったのはいいが、どうにも手元不如意でなぁ……誰か手取り足取り教えて差し上げる若いの、欲しかったのよ……。
 ご隠居、写真の腕は確かなんだがなぁ……。
 それに今回はスタジオ撮りじゃなくて野外撮りなんで、なにかと雑用が多くてな。タダで使える助手は、余分にいるに越したことはない……」
「……野外……あの恰好で、外に出るわけですかぁ……」
 初耳だった荒野は、思わず悲鳴に似た声を上げた。
「あれ? 言ってなかったっけ?
 ……まあ、外、っていっても、すぐそこの、うちの庭、なんだけど……」
 羽生譲は荒野の狼狽ぶりにはあまり頓着せず、恬然と答えた。

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金髪のパイパン白人ロリータ金髪美少女の無料画像や動画をザーメンぶっかけ妄想付きでお届け。つるつるまんこや貧乳のロリータ乳首、金髪にザーメン射精したい白人ロリータ金髪美少女マニア、フェチな方どうぞ。


ということですが、このblog、
・写真選択センスの品の良さ。
と、
・コメント文の品の無さ。
が、見事なまでに乖離している。
こうようパターンも珍しいと思ったので、ご紹介させていただきます。

イヤ、本当。
写真の選択センスは上品なんですよ、このblog。
どっかから適当に拾って来たのを並べているわけだけど、白人美少女で、エロというよりはアート系で……。

でも、その写真に添えられているコメント文が、ひたすら、イクナイ。
一例を挙げると、
白人美少女に一日中裸でにゅるにゅるのオマンコ広げっぱなしでいさせて、いつでもズボズボできるように準備させとく。好きなときにオマンコにチンポぐにゅぐにゅ入れて、何回も美少女の顔にザーメンどぴゅどぴゅぶっかけ。

やたら隠語でにゅるにゅるでずぼずぼなんです。
品がなさすぎで、汁気多すぎ。
っつうか、ネタでこういうキャラ作っているのだとしても、なぜそんな演出をするのか正直、理解に苦しみます。

絡みとかハードコアの写真、紹介しているのならこういうコメントも分かるんですが……このblogで紹介されている写真、単体のヌードがメインで、しかも完全に脱いでない物も多数、ある。
モデルの質も、平均して高水準だと思います。

「最初は業者が作っているのかな?」
とも思ったけど、その割にはトラップな騙しリンクとかアクセスアップのためのあざとい仕掛けないようだし(広告は、それなりにある)……。
だから、どっかの素人さんが趣味でやっているのだろうと思うけど……。

……まあ、コメントの文章はあれだけど、ここで紹介されている写真自体の質は高いと思うので、これから見る人はコメントを無視して写真のみを鑑賞することを推奨します。


∪・ω・∪ が、ナニカやってます!!

↓この∪・ω・∪、なんですが……。

http://www.collegehumor.com/movies/1675517/
↑見事にやってます。

……サルだけではなくイヌもやるんだな……。
指ではなくて肉球であるあたりが、哀れといえば哀れか……。

…………ネタ系ですまん。

avies

彼女はくノ一! 第四話 (32)

第四話 夢と希望の、新学期(32)

 才賀孫子は恵まれていた。
 生まれた家は何百年も続くいわゆる名家(海賊+その他よろず稼業も数百年続くと名門とみなされるらしい)というやつだし、風貌にも恵まれ(手垢のついた形容をあえて使用すれば「美貌の持ち主」というやつだ)、知力や身体能力的にも水準以上の潜在的資質を持っていながら、幼少時より自発的な努力を怠らず、特に後者に関しての成長は著しく、すぐに大人の才賀衆に混ざって教練を受けても問題ないレベルにまで達するほどだった。
 負けず嫌いな性格が幸いした面もあるし、加納ほど極端ではないが、もともと遺伝的に早熟の家系で、少なくとも同年配の人間を相手にした場合、孫子はどんなことを競い合っても「負け知らず」だった。
 ……この土地に、来るまでは。

 それが、この土地に来てからこっち、負け知らずだった才賀孫子は、負けてばかりいる。
 もともと、この土地に足を踏み入れたそもそものきっかけが、第一線でめざましい働きをしている」と伯父が昔からよく噂していた「加納本家の跡取り」が、なぜかここに長期滞在している……という断片的な情報をたまたま耳に挟んだためで……若年者故にまだ才賀衆の正式な一員と見なされていない孫子は、非公式の、つまりは私的なルートから乏しい情報をかき集め、繋ぎ合わせて、具体的な居場所を確定したのが始まりで……。
 結局、その集めた情報にはかなり重要な欠落があり、そのおかげで孫子は屈辱的な扱いを強要した松島楓と決闘をし、しかも、引き分けることになる。
 この決闘で引き分けたあたりが、それまで負け知らずだった孫子の重要な転換点になった……。

 本来の目的である加納荒野とは、一線を交えるまでもなく、対面しただけで気迫負けした。
「自分の限界を知る」ことによって壊滅的な打撃をうけることを回避するためには、時には退却や不戦も必要だ……ということを、孫子はよく知っていた。世の中には、逆立ちしても自分が敵わない相手がいる……ということを認めることを、孫子は特に恥とは思わない。
「敵を知り、己を知り尽くせば、百戦してもまず不安はない」と孫子のネーミングのモトネタになった古代の兵法者もいっていて、絶対に敵わない相手に敵わないと分かりながら向かっていくのは潜在的な自殺願望の持ち主か単なるマゾヒストだ……と、孫子は思っている。
 だから、体術で加納荒野に、碁で狭間沙織や佐久間源吉に負けることは、孫子は別段恥だとは思わない……。

 微妙なのは、松島楓とか、今、対局している徳川篤朗とか……「実際に戦ってみるまでは楽に勝てそうに思えるのに、実際に対戦してみると実は容易に勝てない」という相手であり、この辺りの「少し頑張ればなんとか勝てそうな相手」に対しては、孫子は格別の敵愾心を覚える。

 一局目、猫とか姪の出現、それに、とても真面目に打っているとは思えない篤朗の態度などがネックになって、心理的にさんざん引きずり廻された孫子は、今度は相手の言動にペースを乱されないよう、自制心の保持を肝に銘じ、徳川篤朗との二局目に望んだ。三回戦勝負、ということは二回先勝したほうが自動的に勝者とみなされる、ということであり、すでに一敗している孫子が続けて負けたら、徳川との勝負はもうそこで決したことになる。
 つまり、孫子にはもう後がなかった。
 だから孫子は、極力、盤面のみに神経を集中させた……。
 集中させた、筈……だった。

「……あのぉ……徳川さん、なにをしているんですか?
 と、聞いてくれ……と、玉川さんに言われたんですけど……」
 ビデオカメラを手に持ち、頭上に丸々と太った黒猫を乗せた有働勇作が、大柄な身体を屈めるようにして、徳川篤朗に尋ねた。有働はヘッドセットをしていて、それで実習室から連絡や指示を受けているらしい。
「仕事なのだ。待ち時間がもったいないのだ」
 ロッカーから取り出した薄型のノートパソコン(昨夜、狩野家に持ち込んだのとは別の物だった)に向かって猛烈な勢いでタイピングしながら、徳川篤朗は顔も上げずに答えた。
「具体的にいうと、試験材八八五号の曲げ強度の弱さを克服するために製法の見直しと改良案を作り、それに沿ってロボットの動作プログラムを書き換えているところなのだ」
「……は、はぁ……」
 篤朗の答えを有働がどこまで理解できたのかは外見からは判断できなかったが、有働は律儀に篤朗の回答をヘッドセットのマイクに言い直して、実習室の玉川に伝えた。

 ……つまり、孫子が真剣に囲碁の対局に臨む、ということは、それだけ一手一手を丁寧に考え抜く、ということであり……徳川にしてみれば、そうした孫子の心情や都合にはあまり関心はなく、例によってざっと盤面をみて、ぽちり、とすぐ石を置き、また自分の仕事に戻る……ということを繰り返している。
 黙ってキーボードをうっている分には構わないのだが、携帯ボイスレコーダーを取り出してブツクサ専門用語混じりの晦渋な英語をしゃべり出したりすると、さすがに孫子の集中力の妨げになった。徳川はかなり小声で録音しているのだが、ファインセラミックスの焼成過程におけるどうたらこうたらなどという日本語でいっても充分に理解できない専門用語をすぐ側で英語で早口にまくし立てられると……気が散る。
 それ以上に、気に障る。
 それだけ不真面目な態度で対局しているというのに、今現在、盤面を見れば、全然自分が優勢ではない……という事実が、孫子を苛立たせる……。

「……あのぉ……」
 今度は、怖い顔をして盤面を睨み続ける孫子に向かって、有働がこわごわと話しかけた。
「……玉川さん、こっちに来て軽くコメント取りたい、といってますけど……」
 孫子が顔を上げて有働のほうに向き直ると、有働は「ひっ」と小さな悲鳴を上げた。有働の頭の上に乗っていた黒猫も、孫子の気迫に反応してか、軽く毛を逆立てている。
 その時の孫子の、鬼気迫る表情を有働が持っていたビデオカメラでリアルタイムにネット配信された。
「……コメント……ですって?」
 有働は冷や汗を浮かべながらコクコクと頷く。
 度重なる孫子の長考により、かなり余裕を持って用意した筈の徳川と孫子関係の動画が底をつきかけているらしい。
「ふっ。どうぞ、ご自由に……」
 余裕を持った口調で孫子は答えたが……カメラを見据えてそう答えた時の孫子の射すくめるような強い目線が、あまりにも印象的だった。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(23)

第五章 「友と敵」(23)

 荒野が実習室を出ていって当てもなく歩いていると、どこからか場違いな子供の声が聞こえてきた。意外に近くから聞こえてきたのでその声を辿ってすぐ近くの教室に入る。すると、そこで茅と徳川浅黄が戯れていた。茅を椅子に座らせ、その後ろにたった浅黄が、茅の髪を三つ編みに編んでいるところだった。
「なんだ。こんなところにいたのか?」
 茅と浅黄以外誰もいない教室に入ると、荒野は茅にいった。浅黄は、茅が用意したのか一応、来客用のスリッパを履かされていたが、サイズ的に四歳児には当然大きすぎ、ペタペタとスリッパを引きずるように歩いていた。
「荒野……体温少し高い。
 ……心拍数も、早くなっている。
 なにか、あった?」
 茅が、首を傾げて尋ねる。
「こんだけ離れててもわかるのかよ……」
 荒野は首を振りながら二人がいる場所まで近づいていき、近くの椅子を引いて腰掛ける。。
「なんとなく、わかるの」
 茅は頷こうとして、髪を編んでいた浅黄の手に髪の毛を引っ張られ、涙目になった。
「うん。例の、この間撮ったマンドゴドラのCM、いきなり目の前で流されてな……。
 観ていていたたまれなくなって、出てきた……。
 おれ、本当に、ああいう形でみんなの注目を浴びるのが駄目らしい……」
 荒野も、自分のそういう性向に今まで自覚を持っていなかった。要するに、「照れ屋」なのである。
 その風貌故、あるいは一族の他の者に「加納本家の直系」として注目されるのと、今の注視のされ方とでは……まるで、違う。
 また、実習室で注視された時のドキドキは、「荒事」に従事する時などの高揚感とは、これもまた、全然違った……。
「……凄いな、浅黄ちゃん。
 髪、編めるんだ……」
 なんとなく決まりが悪くなった荒野は、さり気なく話題をそらした。
「あめる。みつあみ」
 浅黄は茅の髪を弄びながら、胸を張った。
「このあいだ、ならった」
「そうかそうか。
 で、どうする? 茅。もうそろそろ帰るか?
 おれら、これ以上ここにいても、する事ないし……」
「浅黄と遊ぶの」
「あさぎ、かやとおともだちになったの」
 荒野が尋ねると、茅と浅黄はほぼ同時に答えた。
「そうか。おともだちか……」
 荒野は少し考えた。
 少なくとも、また実習室に戻って注目の的になるのはいやだった。
「……おれは才賀に……いや、邪魔になると悪いから、先生のところにでもいっているかな……」
 三島百合香は、今日は保健室で事務仕事をやっている、という話しだった。普段、三島は「保健室の先生なんて閑職だぞ」といっているが、それ一種の韜晦であり、実際にはそれなりに業務はある。平日で終わりきらない場合、休日に学校に出て片づけるのも珍しいことではなかった。
 また、囲碁将棋部の部室に顔をだして、これ以上自分の顔を売る気にもなれなかった。
「じゃあ、おれ、しばらく保健室にいるから。
 なにかあったら……あと、帰るとき、連絡してくれ」
 と茅に言い残して、荒野は保健室へと向かう。

 荒野が保健室のすぐ近くまでいくと、廊下にまで響くけたたましい笑い声が中から聞こえてきた。
「……先生、はいるよ……」
 がらりと引き戸を開けて中に入ると、三島百合香とシルヴィ・姉崎が机の上に置いたノートパソコンの画面を指さしながら、けたたましい笑い声をあげている。
『……先生はともかく、ヴィまでかよ……』
 荒野は、そのまま回れ右して逃げ出したくなった。
「わはは……こ、荒野か……今、ノートで中継見てたんだがな……わは。わはははははっ。腹、痛ぇ。傑作だな、この恰好! くふぅ。くぅはははははあ。だ。駄目だ。今、荒野の顔見ると。笑いが、はははははっ。顔、まともにみられねー……」
 ノートパソコンの画面には、例のマンドゴドラのCM映像が流れている。
 そのノートパソコンはたしか三島の私物だったから、モバイル環境は自前のものなのだろう。再生されている動画は、回線の状況に合わせてコマ数を落とし、かなりカクカクした動きになっている。
「……コウ……」
 三島ほど哄笑しはしていなかったが、シルヴィも微妙な表情で自分の体をだきすくめるように腕を組み、ぷるぷる体全体を震わせている。
「……ぐ、ぐっじょぶ!」
 シルヴィは荒野から露骨に目をそらして、荒野に親指を立てた。
 ……どうやら、荒野と目を合わせると、笑いを堪えきれなくなって吹き出してしまう……ということらしい。
 机の上にはノートパソコンの他に、湯呑み二つと煎餅の袋があった。
 どうやら、女二人でここでお茶しながら中継を観ていたらしい……。

「……先生、おれ、ベッド借りるから」
 ふてくされたようにそう言い放って、荒野はカーテンを閉めてベッドの中に潜り込む。
 向こうではしばらく二人分の嘲笑がうるさいばかりに響いていたが、荒野は布団をかぶってなるだけ聞かない事にした。
 二人の話し声を極力意識から追い払って、うとうとしかけると、携帯が鳴った。見慣れない番号で、とりあえず出てみると、マンドゴドラのマスターからだった。
「お。出た出た。凄いよ反響! ネットの影響力ってすさまじいな。さっきから問い合わせと注文の連絡がひっきりなしだ! わはは!」
 マスターは早口でひとしきり自慢なんだか報告なんだかわからないことを叫んだ後、
「……じゃ、お客の対応に忙しいんで!」
 と、すぐに通話を切った。
 荒野は、携帯電話を見つめながら、
「……そうっすか……そりゃーよーござんしたねぇー……」
 と不明瞭な低い声で呟き、今度こそ本格的に昼寝をはじめた。
 疲労はまるで感じていなかったが、精神的な面で現実から逃避したい、という意識が強かったのか、荒野の意識はすぐになくなり、深い睡眠に落ちていった。

「……荒野、起きるの」
 と茅に体を揺すられ、目を覚ました。
「ほれ、もう夕方だぞ……」
 三島とシルヴィも、茅の後ろに立っている。
 徳川浅黄は茅の前、荒野の顔のすぐ近くまで顔を近づけて、荒野の顔をまともに覗き込んでいた。
 窓の外が、夕焼けの色に染まっていた。
「……試合、どうなりました?」
 荒野が半身を起こして目を擦りながら誰にともなく尋ねると、
「一勝二敗で才賀の負け。
 やつら、徳川と才賀、それに楓は、放送部の連中に引きづらるようにして打ち上げにいった。
 カラオケだとよ」
「……じゃあ、おれらも帰りますか……」
 荒野は大きく伸びをして、ベッドから降りた。
「当たり前だ。
 お前はずっとここにいても困らないだろうが、わたしは鍵をかけねばならないのでな。さっさと外に出ろって……」
 荒野たちが廊下にでると、三島は保健室の鍵をかける。
「……徳川も放送部のやつらと一緒にいったって……浅黄ちゃん、なんでこっちにいるんだ?」
「やつらが学校出たのって、かなり前だぞ……徳川、あとで狩野さん家に来るって。っていうか、もうそろそろ、そっちについていてもおかしくない……」
 浅黄が茅から離れたがらなかったのと、カラオケに子供連れでいくのを遠慮して、こっちに置いていった、ということらしい。

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彼女はくノ一! 第四話 (31)

第四話 夢と希望の、新学期(31)

 しばらく、パチリ、パチリ……と孫子と篤朗が交互に石を置く音がテンポよく続いた。当初、孫子が一手置く度に篤朗の白石を取るような感じだったが、時間がたつにつれて次第にただ石を置くだけになり、反対に、当初石を置くだけだった篤朗が、じわりじわりと孫子の黒石を取っていくようになった。
 一時は誰がみても優勢だった孫子の黒石はどんどん篤朗の白石に浸食され、試合を終えた時には、白石と黒石が半々に入り混ざったモザイク状の盤面になっていた。
 最初の対局は、篤朗にかなり追い上げられた孫子が、僅差で辛うじて勝ったのびた、という形で終了した。

 試合が終わると十五分の休憩時間がとられ、その間、試合に臨んでいた孫子たちはモニターしていないネット上では、場つなぎに数日前撮ったばかりのマンドゴドラのCM映像が流れている。
 ほとんどマスカレードに近いノリの加納兄弟や才賀孫子、松島楓がにこやかに笑い戯れている映像が軽快なBGMとともに流れ、時折「洋菓子のマンドゴドラ」の店頭写真や電話番号を書いた静止画が挿入される。もともとテストとして撮った映像を突貫で適当に加工、編集したものだから、映像としてのコンセプトが一貫していないし、見ていてもどこか締まりのない印象を与える。
 しかし、囲碁の試合中継の合間に予告なく流された映像としてはインパクトがありすぎるくらいで、その場にいた出演者たちに向かって「ぐっじょぶ!」と親指を突き出したり、「いいよ、これ、いいと」とp笑いながら親しげに肩を叩く、などの反応を示す生徒が続出した。
 出演者たちの反応は、というと、加納荒野は映像が流れ出した途端、皆があっけにとられ、そのような反応を起こす前に引きつった顔をしてさっさと実習室から出て行き、すぐに生徒たちに囲まれて賛辞の渦中に填ってしまった松島楓は俯いて赤くなったり青くなったりしながら小さくなっている。
 孫子がいたの囲碁将棋部にはカメラマン役の数人しかおらす、楓のいた実習室ほどの騒ぎにはならなかった。孫子はそうした外野の思惑や反応にはあまり関心がなかったし、周囲の人間に注目され、騒がれることに慣れていたので、片手を挙げて軽くいなしながら椅子から降りて背背伸びをしたり、肩を回したり、と、こわばった体をほぐしはじめた。
 見ると、篤朗も孫子と同じようなことをしていた。

 最初の対局で孫子が理解したことは、篤朗は、普通の碁打ちならごく普通に学ぶはずの定石などの知識はまるで欠いており、従ってまるっきり我流の、予測のつかないうち方をする、ということ。
 それににも関わらず、とても、強い……ということだった。
「……トクロウ君、やりずらい相手でしょ?」
 いつの間にか、部室に来ていた狭間紗織が、孫子に近寄って小声で話しかけた。
「ええ。とても……」
 孫子は真面目な顔をして、紗織の言葉に素直に頷く。
「とても、やりずらい、相手です……」
 孫子が、荒野たちのマンションで、初めて紗織と佐久間源吉の対局を見た時、双方の打ち方の緻密さ、エレガントさにかなり驚いたものだったが……徳川篤朗のうち方は、それと比較するのにも馬鹿らしくなるほど出鱈目で行き当たりばったりで予測がつかなくて……それでも、気づくといつの間にか窮地に立たされているのだった。
 ひらめきに頼った篤朗の打ち方は、孫子が今までに知っているどんな打ち手とも異なっていた。
「篤朗君の打ち方、ね……」
 紗織はため息をつきながら、率直な感想を述べる。
「……特定のパターンというものがないの……あそこまでランダムに打てる、というのも、一種の才能だわ……」
 異常ともいえる記憶力を持つ紗織は、篤朗との対局も合わせ、今までに行った対局の一手一手を克明に記憶している……というより、忘れようとしても忘れられない体質なのだ、という。
 その紗織が、「特定のパターンがない」と断言するというのは……やはり、「一種の才能」、なのだろう。
 紗織の洗練された打ち方を思い返して、孫子もため息をついた。
 紗織の打ち方に比べたら、篤朗の打ち方はいかにもその場しのぎで野蛮で出たとこまかせで……しかし、篤朗が「三回に一回は紗織に勝てた」という言葉が、とても真実味をもって孫子の腑にも落ちるのだった。

 孫子は紗織に碁で一度も勝てたことがないが……紗織のような洗練された打ち方に対抗するには、篤朗のような破天荒な打ち方しかないだろう……。
 そして、沙織ほど突出した記憶力は持たないものの、多くの定石を努力して覚え、対局数を増やすことで地道に腕を上げてきた努力家の孫子は、碁のうち手としては沙織に近い。
 よって、次の一手の予測がつきがたく、それでいてここぞというときに妙手をくりだしてくる篤朗のような相手は、とても苦手だった……。
 言い方をかえれば、孫子と篤朗の対局は、努力の末知識と経験を積み上げてきた秀才型の孫子と、どこから来るのか分からないひらめきに頼った天才型の篤朗との対決、という事になる。
 そして孫子は、沙織のような正当派の打ち手に負けるのならまだしも、篤朗のような「なんで強いのか理解できない」相手に負ける、というのは、どうにも納得がいいかないのだった。

 囲碁将棋部の部室内で孫子が真面目に闘志を燃やしている頃……。
「いやー、凄いな、みんなの恰好……いったい誰の趣味だ?」
「……その、今回のは大体才賀さんの……」
「ええ? 才賀さん? あの子、こういうのが趣味なの! 楓ちゃんのこれも?」
「こ、これは、羽生さんって同居している人がどこからか持ってきた衣装で……。 わ、わたしの趣味じゃ、ないんですよ……」
「……い、いや……そうだろうけど……」
「い、いいじゃん。似合いよ、うん。こう、ぼん、きゅっ、ぼん、な感じで……」
「楓ちゃん、制服だと目立たないけど、スタイルいい……」
「衣装という点では、加納兄も凄いな……猫耳がチョコレート工場の社長に化けた……」
「チョコレート工場の社長は、どちらかというと徳川だろ? みたろ? 徳川の工場」
「馬鹿! ファッションの話しだって!」
 マンドゴドラのCMを流しっぱなしにしてすることがなくなった実習室内で、CMの出演者の中で一人取り残された楓は、他の生徒たちに取り囲まれて逃げ場を失った状態にあった。
 楓を取り囲んだ生徒たちはいつ果てるともない雑談に興じている。
 やたらと騒がしい生徒たちに囲まれて縮こまりながら、楓は、モニターでアクセス数をチェックする。アクセス数は、CM映像が流れ始めても、増え続ける一方だった。

 孫子は気を引き締め……油断もしないし、相手のペースに巻き込まれない……ということを自分自身に命じて、気概を新たにして二局目以降に臨んだ。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(22)

第五章 「友と敵」(22)

 強引で人使いが荒い割に、玉木珠美はなかなか人望があるようだった。
 一見強引なようだが、荒野や楓の例から考えても、玉木は他人の表情を読むのがうまく、本当に嫌がる相手に仕事を押しつける、ということはほとんどないらしい。と、いうよりは、目の前にいる人間がなにをできるのか、したがっているのかを見抜くのが、巧い……というべきだろうか?
 学習して修得できるタイプのスキルではなく、天性の資質、なのだろうな……と、同年代の人間に比べ、より多様な種類の人間を見てきている荒野は思う。
 玉木は、個人として特に優れた、突出した能力を持っているわけではない。が、人と人を繋ぐ潤滑油的な人材としては、優れている、と……。
 徳川篤朗と狭間紗織、それに荒野自身や孫子、楓、茅など、癖のある面々と短期間に親しくなり、それなりの関係を即座に築き上げる……というのは、一種の人徳というものが備わっている、とみるべきだろう。
 なんだかんだいいながらも、楓や堺などの部外者を含めて、今、この場、実習室にいる放送部員たちは玉木を中心にして動いていた。

 玉木は狭間紗織と軽快な会話で地味な「囲碁中継」にアクセントを加えながら、長考(そうした長考は、大方、孫子のものだった。最初のうち、徳川篤朗はその場の思いつきで石を即座に置いているとしか思えなかった)の時間を有効活用して、昨夜編集した動画を流していた。それらの動画は、要するに徳川とか孫子のインタビューやプロフィールを編集して、一、二分くらいの短い物にまとめたものだったが、徳川は現在の活躍を中心に、孫子の場合は、玉川が実家にコンタクトを取るとどっさりと動画や静止画を送ってくれた、という。

「……うん。才賀さんが教えてくれた番号にかけると、最初秘書みたいな人がでて、用件を告げるとなんかしぶい声のおっさんに変わって、
『なに? 孫子の学校の友達? ……あいつ、もう友達できたのか……。
 やっぱり転校させて正解だったなぁ、おい……聞いてくれよねーさん。
 あいつ、おれの末の弟の娘でなぁ……』
 とか延々長話されちゃって……」
 そうした経緯を、玉木は例によって達者な物真似混じりに長々と語ってくれた。
 どうやら、玉木と意気投合した鋼蔵によって、どっさりと「孫子の成長の記録」が玉木の元にもたらされたらしい。基本的に「他人の家族のアルバム」というのは退屈なものなのだが、玉木は、編集の面でもそれなりの才能を発揮し、例えば動画などでも一回のつき二分以内にまとめ、視聴者が本格的に退屈を感じる前に画面を中継に戻した。
 囲碁の中継、孫子の思いでアルバム、篤朗の事業の実体……この三つが数分単位でめぐるましく入れ替わりながらネット上で放映される。そのどれかに興味を持った視聴者は、続きが気になるところで全く別の映像が流れるので、よけいなフラストレーションと「早く続きが見たい」という欲望に駆られるようになった。
 玉木の指示に従って用意した映像を流すタイミングを調整していた楓は、同時にアクセス数もチェックしていたのだが、アクセス数は最初の数分で簡単に全校の生徒数を越え、時間が経過するごとに、さらに加速度をつけて増え続けた。
 どこでどういう口コミが発生しているのか、孫子の幼少時の映像が流れる度にどかーんとアクセスがあがったし、篤朗の工場の内部が映し出されると「これ、合成?」という意味の問い合わせが殺到して、それらの映像は全てドキュメンタリーであることを字幕で流さなくてはならなかった。
 一般的な常識として、篤朗の年齢で、歴とした事業主である、という例は、なかなか信じてもらえないらしい。

 そのうちに黒猫が部室内に侵入したり、篤朗の姉が乱入して浅黄を篤朗に押しつけていったり、というハプニングを起こる。
 篤朗の姪、浅黄がカメラマン役の有働の足下にじゃれついて邪魔をし始めると、それまで黙って成り行きを見守っていた茅が突然立ち上がって囲碁将棋部の部室に向かい、浅黄を抱えて実習室に帰ってきた。浅黄は、昨夜茅から強奪した猫耳カチューシャを装備していた。
 モニターの中では、有働が頭に太った黒猫を乗せながら、けなげにカメラを抱えている。
 一旦浅黄を抱えて帰ってきた茅は、実習室に来ても浅黄が一向に静かにしようとしないので、中継の邪魔になると判断したのか、浅黄と一緒に廊下に出ていった。いつもとは違う雰囲気の中にあって、浅黄も、わけがわからないだながも、興奮しているらしい。

 最初のうち、孫子は一手一手真剣に考えながらうっていたのだが、次第にぞんざいな篤朗の態度や黒猫や浅黄の乱入、などに真面目にやるのが馬鹿らしくなったのか、途中から、パチン、パチンとテンポ良く打ち始めた。
 当初、孫子が圧倒的に有利だったが、篤朗がじりじりと孫子の石を囲み、追いつめて、一つ、また一つ、と、孫子の白石を取っていく。
 荒野のような素人の目にも、当初優勢だった孫子の白石が、すぐに優勢を失い、混戦状態に入ったことが、盤面からわかるようになった。今では、盤面は白と黒がまだらになった、モザイク状にになっている。
 楓が孫子と篤朗のゲームをコピーしている画面も、両者が取った石の数が、ほとんど拮抗していることを表示していた。

 一旦テンポよく打ち始めた孫子は、すぐに事態の推移を感じ取り、再び元の、一手一手慎重に検討しながら打つ方法に戻した。が、一度崩れたペースは容易に元に戻らず、一局目は、当初圧倒していた孫子が篤朗にいいように崩される形で終わった。
 結果として孫子は僅差で勝つことができたが、辛勝、といっていいだろう。
 あるいは、孫子は、本来ならもっと楽に勝てたところを、篤朗に振り回されたおかげで、苦労してどうにか負けないですんだ……という所まで追い込まれた形で……。
 勝ったにも関わらず、孫子の表情は苦渋に満ちていて、晴れやかではなかった……。

「……さて、一局目はこれで才賀孫子さんの勝利という形で終わりました。
 ここで十五分の休憩の後、二局目に入ります。
 それまでの間、みなさんはこのままCMをどうぞ……」

 玉木珠美はそういって、昨夜羽生譲が編集していたマンドゴドラのCM映像を流しはじめた。
 すっとんきょうな格好をした加納荒野、加納茅、才賀孫子、松島楓の姿が軽快なBGMを背景に流れ出すと、実習室にいた面々の視線が瞬間に荒野に注がれた。
 いや、厳密には、荒野と同じ実習室内にいた松島楓のほうをみた人間もいた筈だったが、荒野の主観では、その場にいた全員の視線が荒野に集中した……ように、思えた。

 彼らの視線を無理に言語に翻訳すると……。
 好奇と……憐憫……だったろう……。

 たいていのことには動じない荒野も、この時ばかりは頬が熱くなるのを感じた。
「……お、おれ……」
 と、不明瞭な擦れた声をあげ、その場にいたたまれなくなった荒野は、反射的に背を向けて実習室から逃げ出すように出ていった。

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彼女はくノ一! 第四話 (30)

第四話 夢と希望の、新学期(30)

 盤面を睨みながら長々とあらゆる可能性を検討し、ようやく篤朗がうった手はトラップでも布石でもない、と結論づけた孫子は、ようやく石を置いて篤朗の黒石を取った。
 無難で順当な一手だったが、篤朗は盤面をちらりと一瞥すると、また見当はずれ(の、ように見える)位置に、ぞんざいで適当な動作で自分の石を置く。
 孫子は、また、今の時点で篤朗がそんな場所に石を置いたのか十分近くかけて検討し、結局先ほどと同じような無難な一手を置いて、篤朗の石を取る……。

 そんな「孫子の熟考の末の一手、篤朗のいい加減な一手、孫子の熟考の末の一手……」という流れが何度か繰り返された末、篤朗の白石はみるみる孫子に取られ、盤面に残った石はほとんど黒になった。

「……これ、孫子さんが圧倒しているように見えるんですけど……」
 玉木が不審な表情で解説役の狭間に訪ねた。
「……と、いうより、篤朗君……徳川君が、勝負を投げているように見えるでしょうねぇ……。
 これでは……」
『……これ、篤朗君がよくやる手なんだけど……』
 篤朗の手口をよく知る狭間紗織は、どのように説明したものか言葉を選びながら、ゆっくりと説明しはじめた。
「篤朗君、しばらく対局してみて、手応えがありそうだと思った相手に対しては、いつも、わざとこうするんです……」
「……はい?」
 玉木が、目を点にして狭間に問い返した。
「篤朗君……気に入った相手には、しばらくランダムな所に石を置いて……盤面をわざとカオス状態にしてから、真面目に打ち始めるんです……」
 狭間は……篤朗のこの嫌がらせに近い打ち方のせいで、真面目な部員が何人も幽霊部員と化した……ということは、あえていわなかった。

「あ……猫」
 カメラマン役をつとめていた有働勇作は、どこからか太った黒猫が部室内に入り込んできたのを確認した。その猫が器用に長椅子によじ登り、机の上に置いた盤面、孫子と篤朗の間に置かれた勝負中の盤面に飛び乗ろうとするのを、有働は危ういところで抱きとめて、阻止する。
 まるまると太ったその黒猫は重く、片手にカメラを持ちながらもう一方の手で黒猫の体を抱えなければならなかった有働は、想像した以上の負荷を感じ、有働の猫を抱えたほうの手をぷるぷると震わせる。
「……ん?」
 その様子に、篤朗がようやく気づいた。
「……もうそんな時間なのか……」
 とかいいながら、部室のロッカーを開けて猫缶を取り出し、それを開ける。
 猫の鼻先に見せつけるように蓋を開けた猫缶をちらつかせ、猫缶を床に置くと。黒猫は有働の胸板をけ飛ばして、床の猫缶に殺到した。
「……いつもこの時間に餌をやっているのだ……」
 眉毛をぴくりと動かした孫子が、篤朗になにか言おうと口を開けた時、篤朗はぱちりと例によって盤面をろくに見もせずに自分の石を置く。
 勝負にどん欲で基本的に真面目な孫子は、篤朗に文句をいうタイミングを失い、盤面に向き直り、またあらゆる可能性を検討しはじめた……。

「……とくろー、こっちいるー?
 仲元さんにこっちって聞いたけど……」
 そして数分後、ようやく孫子が自分の石を置いたところで、がらりと引き戸を開けて二十代に見える女性が部室に入ってきた。
「……あ。いたいた……って、なんか今日は賑やかね、珍しく……。
 みんな学校休みだってのにこんな所来て……暇だねぇ……若いうちはもっと積極的に遊んだ方がいいぞ、青少年たち……」
 その女性は、カメラを抱えて篤朗たちを囲んでいた放送部員にたちに気軽にそう声をかけてから、
「ま。いいや。
 急ぎの仕事入ったから、また二、三日、浅黄のこと頼むわ……」
 と、連れてきた浅黄の小さな体を篤朗に押しつけるようにして、来たときと同じ素早さで部室から姿を消した。
 篤朗は適当に石を置いてから、誰にともなく説明しはじめた。
「今のが姉、これが姪なのだ」
 篤朗がそう紹介すると、それまでおとなしくしていた浅黄が、
「猫さんだー!」
 と食後、その場で丸くなってうとうとしていた黒猫に突進した。
 黒猫は浅黄の甲高い声に即座に反応し、俊敏な動作で椅子や机の上をバウンドし、最終的には有働勇作の頭の上に鎮座した。
 頭上にいきなり五キロ以上の負荷を抱えることになった有働勇作は情けない顔をして上目遣いに自分の額の辺りをうろうろしている黒猫のしっぽを見つめる。
「……そいつは、姪がそばにいる時は、高いところに逃げる習性があるのだ……」
 篤朗は、有働に諭すような口調で、そういう。
 黒猫は有働の頭の上で丸くなって、盛大なあくびをした。
「姉は、トラベル・ライター……旅行雑誌のフリーライターをやっているのだ。
 よく姪を預けて、何日か仕事にいくのだ……」

 孫子は、そうした騒ぎに肩を震わせながらも、懸命に盤面に集中しようとしていた。方を震わせていたのは、笑いを堪えたため、ではなく、逆に、怒りの発作を抑えているためだろう。
 徳川浅黄は、がたいの大きな有働の足下にまとわりついて「ねこさんー、ねこさんー」と言いながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。

 モニター越しのそうした光景を見ていた加納茅が、無言のまま実習室から出ていって、数分後、モニターの中、つまり囲碁将棋部の部室内に姿を現した。
 茅の姿を認めた徳川浅黄は、「ねこさんー、ねこさんー」と言いながら、今度は茅のほうにまとわりつきはじめ、茅は浅黄にまとまりつかれながら、静かに部室を出ていった。

 ようやく静かになった部室で、才賀孫子はあきらかにほっとした表情で、一手、うった。

「……えー。才賀さん、今のところ、十五石を取っています。
 対して、徳川君はわずか三石。盤面もほとんど白で、素人目には才賀さんがかなり有利にみえるのですが……」
「……普通なら、そうなんですけど……徳川君が、相手ですと……」
 玉木の言葉に狭間が答えた時、篤朗がぱちりと石を置いて、同時に、孫子が目を見開いてその一手を見つめた。
『……ほら、来た……』
 そう思いながらも、狭間は盤面のコピー画面を指さしながら解説する。
「……今、徳川君がうったのはここ……ここに置くと、才賀さんが一手で今、徳川君がいた石を取れるようになります……ほら、才賀さん、そこに置きました。
 普通なら、そうしますね……」
 孫子が黒石を取ると、すぐさま篤朗が次の石を置く。その石も、すぐに孫子に取られた。

 断然有利、と確信した孫子は、もはや最前のように数分の時間をかけて細部を検討することなく、直感に従って石を置きはじめているように見えた。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(21)

第五章 「友と敵」(21)

 ランニングを終えてマンションに帰り、競うようにして風呂場に入る。二人とも汗をかいているし、順番に入るのも面倒なので、最近では一緒にシャワーを浴びることにしている。
 一緒にシャワーを浴びても、茅は髪を完全に乾かさなければならないので、最近では朝食の準備は荒野の仕事になっている。トーストとハムエッグにサラダ、に飲み物……荒野はコーヒー、茅は紅茶……という簡素なものだったが、それで充分だった。
 学校に通うようになって、茅は食事中に学校での出来事を荒野に話すようになった。大方は「同じクラスの」あるいは「文芸部の」誰それの他愛のない噂話だったりするのだが、同じ年頃の同性が強く興味を持つ「恋愛感情」について、茅はまだ実感として完全に理解しきれていないようで、伝聞で聞くそうした噂話しの大半はどこか焦点がぼやけているような所があった。その関係で荒野のほうも何度か聞き返してようやく理解するような所もあり、おかげで一回の食事時間は以前よりはよほど長くなってしまった。
 荒野としては、茅が今まであまり興味を示さなかった「人間関係」に対して興味を持ち始めた、という事自体を、「いい傾向だ」と思っている。そして、荒野と茅の関係がこのまま「偽装兄弟」あるいは「育成役と被育成者」で終わるのか、それとも本格的な「恋人」になっていくのか結論づけるのも、もう少し時間がかかる……と、荒野はみている。この土地に来てから初めて「他人」という者を意識した茅は当然として、荒野自身もまだまだ人格的に未熟であり、今の時点で二人の関係性を変に意識することはお互いにとってあまり良くない結果を招きかねない……というのが、荒野の判断だった。
 このぬるま湯のような環境下で、茅としゃべくりながら時間をかけて食事を摂ったりする関係は、目下の所、荒野もかなり気に入ってはいるのだが……。

 週末の朝は、食事の後、茅はキッズ向けトクサツ番組を鑑賞する。
 土日の朝、日本のテレビではこの手のヒーロー番組が花盛りであり、茅の一番のお気に入りは日曜の朝にやる例の「戦隊物」というやつだが、それ以外の「怪獣がでてくると異星人の巨人に変身する青年の話」とか、「バイクに乗った仮面ヒーロー」とか、それよりもっとマイナー(らしい)な似たような番組も含めて、茅は真剣に観賞していた。
 たいていはソファに座った荒野の膝の上に乗り、瞬きも惜しむように一心不乱に見ていた。
 その手の番組は基本的に子供向けなので、ストーリー自体は単純で、善悪の区別が着ぐるみのデザインを見れば一目で分かるようになっている。日本では何故か、ヒーローも戦うときは着ぐるみに変身して戦うことになっているらしい。合成された光線や火花を散らしながら着ぐるみのヒーローと悪役が予定調和的な勧善懲悪のストーリーを毎週のように繰り返す内容は、荒野には大同小異の退屈な繰り返しにしか見えなかったが、茅は、そうした単純な内容のどこが気に入っているのか、いつも真剣に、食い入るように見ていた。
 茅と一緒にそうした番組を鑑賞しながら荒野は、
『……現実が……こんなに善悪きっぱりときれいに区別できる世界なら、誰も苦労しないよなぁ……』
 と、思った。
『おれたち一族なんて、こういう番組の中にでたら、ヒーローに倒される側の悪役モンスターだよな、絶対……』
 とかも、思った。
 ある番組の中で、実際に「悪の忍者集団」という設定の悪役組織が出てきた時、荒野はあやうく吹き出しそうにもなった。その番組の中の「忍者」はプラスチックだがカーボンだかの安っぽくてゴテゴテしたプロテクターを着けた集団で、「いくらキッズ向けの番組といってもこれはないだろう……」的なチープさと胡散臭さを発散させていて、荒野を多いに失笑させた。
 ……これが現在の一般的な「忍のイメージ」だとすれば……むしろ、その非現実的なイメージを、荒野たち一族の者は歓迎すべきなのだろう……。
 もっとも、番組の視聴者の大半も、その辺の安っぽさは弁えた上で番組を楽しんでいるのだろうが……。ハリウッド映画の中のニンジャのイメージも相当にアレなので……日本のトクサツ番組だけをどうこういうつもりは、荒野にはないのだが。

 土曜日のトクサツ・タイムが終わると、掃除と洗濯を茅と分担して行う。それが終わって買い物に行くと、ちょうど店の開く時間になった。学校が始まってからこっち、保存の効く食材に関しては、なるべく週末にまとめて買う習慣になっていた。
 その週は才賀孫子と徳川篤朗の囲碁の試合があったので、一旦買い物から戻った後、改めてパンと具材を買いに出て、かなり多めにサンドイッチを作る。昨夜からそうしようと茅と打ち合わせしていた。
 二人で二十人分くらいのサンドイッチを作り終わったところで、ちょうど茅の携帯に孫子からメールが来たので、ついでに問い合わせてお隣の狩野家からかなり大きなバスケットをお借りすることにした。
 すぐに孫子が大きなバスケット抱えてきて、「支度があるから」と座りもせずにそのまま狩野家に引き返す。いくら学校の、とはいってもネットでストリーミング中継する場にすっぴんでいくわけもなく、これから入念にメイクでもするのだろう。制服姿でも浮かないようなナチュラルメイク、くらいは、孫子なら訳なくできるような気がした。
 放送部の玉木にかなり当てにされていた楓は、朝から学校に詰めている、という。

 サンドイッチを孫子が持ってきたバスケットに詰めて制服に着替え、茅と二人で自転車に乗って学校に向かう。学校は休みだったから、駐輪場はがら空きの筈だった。
 途中、コンビニでペットボトルのジュースや炭酸飲料、それに紙コップを買い、学校に着くとちょうど昼過ぎくらいの時間だった。放送部員とパソコン部員でごった返す実習室に着く、とちょうど中継の準備が一段落した所なのか、食料を持参した荒野たちは熱烈に歓迎された。
 特に、玉木珠美の歓迎ぶりが印象的で、
「 ナイス・タイミング!
 いやー。ありがとうありがとう。
 ちょうど、なにか買い出しに行かせるか、出前かデリバリでも取ろうかと思っていた所なんだ」
 と荒野たちの手を握ってぶんぶんと振った。
 玉木はかなり強引な手段を用いて人手を集めていた節もあったから、荒野たちの差し入れで余分な散在をせずに済んで本心から安堵としているのかも知れない……と、荒野は思った。
 玉木は楓に抱きついて「この子すごいのよー」とか、他の放送部員たちに吹聴している。玉木に抱きつかれた楓は、照れ笑いを浮かべながら困ったような顔をしていた。
『……ああ。楓、なじんでいるな……』
 楓のそんな様子をみて、荒野はなんとなく嬉しくなった。
 荒野は、楓は、もっといろいろな事に自信を持っていいと思っている。
 玉木が楓を認めたことが、何故かとても嬉しかった。

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彼女はくノ一! 第四話 (29)

第四話 夢と希望の、新学期(29)

 中継開始時刻の三分前くらいになって解説役を頼んでおいた狭間沙織が実習室に駆け込んできて、中継に必要な人員は勢揃いした。
「カメラさーん。予定通り行きますから準備よろしくぅ!」
 玉木珠美がヘッドセットのマイクに向かって告げると、囲碁将棋部の部室内に配置されていたモニターの中で、放送部員たちが緊張した面持ちでカメラの角度を調整する。
「秒読み入ります! 四! 三! 二! 一!
 ぽちっとな」
 玉木が手前のエンターキーを押すと、「しばらくお待ち下さい」の画面が用意されたファイルに書き換わった。雅楽のBGMが流れはじめ、才賀孫子と徳川篤朗の顔写真を向かい合わせに配置し、中間に「VS」の大文字を置いた静止画が、天井に設置したカメラからみた、中央に碁盤を置いた画面に切り替わり、その中央にでかでかとした白い筆書きの「囲碁三番勝負!」という文字が浮かぶ。

「皆様お待たせいたしました。二年E組の徳川篤朗君と二年B組の才賀孫子さんの囲碁対決をお送りします。実況はわたくし、二年A組玉木珠美、解説は三年C組の狭間沙織さんにお願いいたしました。
 狭間さん、お願いいたします」
「解説を担当する挾間沙織です。よろしくおねがいいたします」
 ヘッドセットを受け取ったばかりの狭間沙織が軽く会釈しつつ挨拶を述べた。
「さっそくですが狭間さん、この実況を視聴するほとんどの人が囲碁について詳しく知らないと思うので、簡単なルールの説明をお願いします」
「はい。囲碁ルールは極めてシンプルです。
 碁盤の線の交差点に白と黒の石を置いて、自分の石で相手の石を囲むと、相手の石を取る事が出来ます。
 それで、最後まで打って盤上に残った石の数が多いほうが勝ちです」
 玉木に話題を振られた狭間は、耳慣れない用語を避けてすらすらと答えた。
「あ。一手目、才賀さんが打ちました。才賀さんは黒い石を使うようです」
「先攻は黒い石、ということになっています。一般には、黒のほうが有利とされていますね。才賀さんが挑戦者という形ですから、先に黒石を譲られたのでしょう」
 松島楓がログインしていたネット碁のゲーム画面で、孫子の手と同じ位置に黒石を置いた。
「徳川君、間髪入れずに石を置きます。才賀さんが打ったところから、だいぶ離れた所に置きましたね……。
 挾間さん、石はどこに置いてもいいんですか?」
「相手の石に囲まれた地点……呼吸点へは、置いてもすぐに取られるの打てませんが、それ以外には特に制約はありません。
 数手先を読んであえて一見関係のなさそうな場所に置く、ということもありますが……これは、すぐに才賀さんの動きに対応せず、地を作るためでしょうね」
「地を作る?」
「長期的なことを視野に入れて、自分の有利な地勢を作ろうとすることをそういいます。
 相手の動きを牽制しながら盤面を自分の有利な方向に形成していくわけで、よく将棋は戦術的なゲーム、囲碁は戦略的なゲーム、などという言い方をいいます。
 二人とも初対戦の相手ですから、しばらくはお互いの手の内の探り合いでしょう」
「はぁ、なるほど……。
 ああ。才賀さんも徳川君もパチパチ景気よく石を置いていきます」
 離れた場所に幾つか石を置くことで始まったが、孫子がすぐに篤朗の陣地に隣接した場所に石を置きはじめ、それからは乱戦に近い状態になった。
「あ。今、才賀さんが白石を取りました」
「囲むと、ああして相手の石を取れるわけですね」
「今度は徳川君が黒石を……」
 玉木は、事前にそれなりに勉強してきたものの、囲碁のルールをあまりよく知らなかったので、実況といってもたいした事はいえなかった。だいたい、才賀孫子も徳川篤朗もテンポ良く石を置いて陣地を作り、素早く相手の石を取っていくので、解説や実況がまるで間に合わない。楓が素早く対応しているゲーム画面を黙って見ていた方が、ゲームの進行がよく理解できるくらいだった。
「両者とも相手の手を見た後、すぐに自分の石を置いていきます。
 狭間さん。
 碁、というのは、いつもこれだけ速いスピードで進行するものなんでしょうか? もっとスローな……お年寄りがのんびり打つ物、というイメージがありますが……」
「それは……プレーヤー次第でしょうね……」
 狭間沙織は苦笑いしながら玉木の初心者らしいイメージをやんわりと否定した。
「実力の拮抗するプロ同士の対局ですと、長考するすることも珍しくありませんが……。
 今のところ、二人とも定石に応じた打ち方をしていると思います」
 つまり、まだ、「篤朗らしい」打ち方を披露していない……と、狭間沙織は見る。

 盤面が四分の一ほど埋まったところで、徳川篤朗は腕を組んで三分ほど考え込んだ。
『そろそろ来るかな?』
 と、挾間沙織は思った。
 案の定、篤朗の次の一手を見た才賀孫子は、「え?」と小さく声を上げて目を見開いた。
「才賀さん、かなり驚いているようですが、これは?」
「徳川君が、どうして今、そこに打つのか、まるで理解できないのでしょう」
 狭間は頷きながら玉木の質問に答えた。
「それ以外にもっと差し迫った場所……打たなければ自分の石を取られる場所、局面がかなり悪くなる場所があるんですが……」
 ……こことか……こことか……と、狭間は楓が孫子たちのゲームをコピーしているネット碁の対戦画面を指さして説明した。
「……そうした火急の場所をさしおいて、徳川君がまるで関係のない場所に置いたので、才賀さんは戸惑っているのだと思います……」
『……篤朗君、これが怖いのよねー……』
 説明しながら、狭間はそんなことを思っている。
 今までの打ち方を見ていると、孫子は基本に忠実な、極めてオーソドックスな打ち方をするプレーヤーだ。そうしたプレーヤーが篤朗のようなトリッキーなプレーヤーと対面すると、場合によって、大きく自分のペースを乱されることになる……。

 案の定、才賀孫子も、徳川篤朗に続いて長考を始めた。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(20)

第五章 「友と敵」(20)

 翌日の土曜日、荒野は最近、いつもそうであるように、茅の体温によって目を醒ました。
 以前と同じように茅と裸で抱き合って寝ている荒野は、早朝のランニングを開始してからこっち、睡眠中の茅の体温が以前よりも上昇していることに気づいた。最初のうちは「気のせい?」とも思ったが、密着した自分の肌での感覚であること、それに、茅の寝汗が以前よりひどく、シーツを替える頻度が多くなったこと、などから、睡眠中、茅の体温が上昇することは確かなことのようだ。
 茅の寝顔が安らかで寝苦しそうでもなかったから、荒野はあまり問題視していない。毎朝、ランニングを行うようになってからこっち、茅の体調は良好で、体力的な面についていえば、格段に向上している、と断言することができた。
 つまり、就寝時の体温上昇、という一点を除けば茅は従来以上の健康体であり……と、そこまで思考を巡らせたところで、荒野はあること気づいた。
 ……この、茅の体温上昇……ランニングを始めてしばらくしてから始まった現象じゃないのか? ……と。

 どのみち、そろそろ茅がいつも起床する時間だったので、方を揺すって茅を起こし、「就寝時、自分の体温上昇」について、茅に尋ねてみる。
 自覚はあるのか? ほかに異常はないのか?
「……起きた時に汗をかいていたから、多分そうなんじゃないかな、と思っていたの」
 茅は荒野が疑問視していた現象を、あっさり自覚していた、と、答えた。
 寝ている間に汗をかくことを前提に、就寝前に以前よりも余分に水分を取ることにしている、とまでいった。
「……それ、病気とかじゃないのか?」
 荒野はさらに問いを重ねた。
 茅は、荒野が人間であるくらいには人間だったが……「通常の人間以上」の部分も間違いなく持っており、こと、身体的な側面に関しては、一般的な尺度でははかれない部分もある。荒野としては、三島が行う定期検診で異常が認められないからといって、安心するつもりにはならなかった。
「病気……じゃあ、ないと思うの」
 茅は、荒野に説明する言葉を頭の中で整理しつつ、ゆっくりと言葉を……自分の仮説を、紡いだ。
「茅……前よりも速く夢を見ることができるようになったの……」
 ランニングをはじめ、しばらくして、以前より体力……特に、心肺機能が強化されたことによって……従来よりも、脳に送り込むことが出来る酸素量が増大し……結果、就寝時など、身体の他の機能の多くが休眠している期間、茅の身体は、以前より多くの処理を茅の脳にさせるようになったのではないか……。
「茅、今までみた夢を全て覚えているし……子供の頃はともかく、身体ができてからは、寝ているときの夢を全てコントロールしていたの……」
 ヒトが就寝時にみる「夢」の機能や効能は、まだ不明の部分が多い。
 睡眠、という一時的な意識喪失時に、脳内で「覚醒時に体験した記憶の整理」が行われているのではないのか……という仮説があり、その「記憶の編集時、意識が覚醒に近い状態にみるもの」が「夢」なのではないのか……と、言われている。
 茅は、その就寝時の「夢」でさえも、明瞭な意識をもって望み、それどころか、より高速で効率的な記憶の整理法を寝ながら考え、模索し、実行している……という。
「体力がついて、身体がそういうことに耐えられるようになってから……前よりもずっとうまくやれるようになったの」
 脳は、通常の状態でさえ、他の細胞よりも余分に酸素や養分を消費する、燃費の悪い、贅沢な器官である。茅が、自分で申告するとおり、寝ている間にその脳を酷使しているとすれば……たしかに、発熱くらいするだろう……。
 計測してみれば、その間の酸素消費量も、普段とは格段に増大しているのが分かるかも知れない……。
 荒野は、茅の説明を噛みしめながら、みたび尋ねる。
「では、異常とか体調が悪い、ということではないんだな?」
「調子は、いいの。
 前より、ずっと」
 茅は軽く首を振って荒野の懸念を否定した。
「むしろ、起きている時、以前よりずっと頭が軽くなった気がするくらいなの……」
 茅が率先して毎朝のランニングを行い、体力作りに熱心なのは、そうした動機があったからだった。
 茅は、見たこと聞いたこと、体験したこと全てを、細部に至るまで記憶している。記憶した上で、瞬時に思いかえし、反芻することができる……。
 だが、そうした能力は、「人間」というハードウェアにとっては明らかにオーバースペックであり、どこかにしわ寄せが来る。人間の記憶というのは、基本的に「効率よく忘れる」ことによってうまく機能している部分があり……通常の人間の「夢」も、そうした「効率的な忘却」のための機序、なのだろう。
 故に、通常の人間とは違った記憶のシステムを持っている茅は、通常の人間とは違った夢の見方をする。
 通常の人間より多くのカロリーと酸素を消費し、身体の他の部分を休めていても体温が上昇するくらいに脳細胞を酷使しながら……。

 その週の土曜日、学校は休みだったが、茅はいつものように早朝から起き出し、スポーツウェアに着替えてランニングを始めた。当然、荒野もそれにつき合う。
 ここ数日、同じ距離を走りながらも、茅は以前ほど息を切らさなくなった。
 細胞が、より少ない酸素消費量で同じ運動を行えるようになってきた、ということで、要するに、身体全体が、「走る」という行為に慣れはじめている。
 また、走るペースも格段に速くなっている。
『明日あたりから、もう少し遠くまで走らせてみるかな……』
 と、併走している荒野は考えはじめている。
 今の様子だと、同じ時間に起きても、もう少し余計に走り込んでも充分に学校が始まる時間に間に合いそうだった。
 別にスポーツ選手ではないのだからムキになって身体を鍛える必要もなかったが、茅自身がかなりやる気になっているし、荒野もまた、茅がこの先どのように変化していくのか、強い興味を覚えていた。
 物心ついてからこれまで、ほとんどの時間を海外で過ごした荒野は、日本の気候に関してはあまり実感的な知識はないが、これから二月にかけてがこの辺りの「寒さのピーク」になり、それをこえると徐々に気温が上昇しはじめ、「梅雨」とかいう雨期を挟んで蒸し暑い夏になるのだ……と、色々な人々から聞かされていた。
 そうなれば、今度は「暑さ」が茅の体力を奪う要因にもなるだろうし、今のうちから頑張れば、それを押し返せるところまで体力を増強しておくことも充分に可能な筈だ……と、今の茅の状態をみて、荒野は思った。
 とりあえず、一月末の現在の早朝の空気は身を切るように冷たく、運動により火照った肌に心地よかった。

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彼女はくノ一! 第四話 (28)

第四話 夢と希望の、新学期(28)

 食事が終わった後、二時間ほど作業を続け、一通りの作業について区切りのよいところまで終えると、客たちは迎えに来た自動車や乗ってきた自転車に乗って三々五々に帰っていった。その頃にはすでに、深夜、の一歩手前の時刻になっていた。
 客たちが帰った後、楓と羽生は二人で羽生の部屋に籠もり、構築されたシステムを使用して、共同でマンドゴドラのCMのテスト映像の編集や加工作業を行った。シーケンス毎のシーンを分類し、貼り合わせ、あるいは破棄し、そのままでは使えないカットも、背景に別の画像を合成したり、などの加工を試みることで使いようがないかどうか、検討した。
 玉木があくまで自分の主観を根拠にテキパキと判断を下したのとは対照的に、楓と羽生の二人は、「ここはこうしたら使えるのではないか?」とか「このカットは捨てていいのではないだろうか?」などのミーティングをしつこいぐらいに行った。時には背景用のカットを羽生がペンタブレットを取り出し、その場で「ほれ、こういう馬鹿らしい絵を入れると笑えるだろ」とかいいながら書き込んで動画と合成して見せたりする。
 二人が声高に漫才のようなやりとりをしながら作業を続けていると才賀孫子も寄ってきて、あれこれと口を挟んだりするようになり……また、使用可能なBGMを選択したり、BGMに合わせてシーン構成をしたり、と……と、マシンパワーが過剰気味な今のうちにやっておいたほうが良い事は多く、結局、その晩は三人ともかなり夜更かしをしてしまった。

 翌日、というのは孫子の試合が予定してある土曜日で、香也たちが通う学校はゆとり教育とかの影響で、ここ数年、変則的な週休二日制になっている。
 つまり、休日でもある土曜日の朝、ここのところ規則正しい香也は、久しぶりにゆっくりと朝寝を楽しむことが出来た。ここのところ、休みであるか否かに関わらず決まった時間に香也を起こしに来た人々が、こぞって朝寝坊していたからである。
 結局、松島楓、才賀孫子、羽生譲、狩野香也の四名は、午前十時過ぎ、昨夜やり残した作業をしに玉木珠美が訪問してくるまで快適な睡眠をとり続けた。

 玉木の来訪によって起こされた形の楓は、急いで顔を洗い、トーストとコーヒーだけの簡単な食事を摂り、昨日と逆の手順を踏んでデータをとりまとめ、あまりサイズの大きくならないものは圧縮して自分のメールアドレスに放り込んでおく。昨日と違うのは、編集済みでそのまま使用できる動画が多くなっているので、DVDに焼く量が圧倒的に少なくなっていることだった。昼過ぎまで家にいるという羽生譲は、連絡があればバックアップし忘れたデータを楓のアドレスに送ってくれる、といってくれたので、楓は安心して玉木と一緒に学校に向かった。
 楓の外出の準備が済むと、玉木は楓に自転車の後部座席に座るよういい、楓が腰掛けるのを確認すると、「うぉーりゃー!」と奇声を発して猛然と自転車をこぎ始めた。速度としては、楓が全力失踪した時の数分の一程度……と、楓は体感したが、それでも普通に歩いていく時間の半分弱で学校に着いた。
 速度はともかく、玉木が自分を乗せて走ってくれた、という厚意の部分に、楓は名鑑を受けた。玉木にとっては、部外者でありながらここまで身を入れて頑張ってくれた楓にこの程度の事をするのは当たり前だ、という感覚があったのだが。

 駐輪場に玉木の自転車を停め、二人でばたばたと放送室に入ると、有働勇作をはじめとする放送部員たちはすでに総出で昼過ぎに始まる中継の準備をしていた。玉木はそっちに合流して囲碁将棋部の部室にカメラを設置したりなんだり、の、作業に入り、楓は、昨夜やりきれなかった編集作業、それに、ストリーミングの準備にかかる。昨夜使用したソフトは楓と徳川篤朗の手によりアップデートされ格段に使い勝手が良くなっており、圧縮して自分のアドレスに放り込んでおいたそれらのデータを展開する。それから、篤朗が昨夜教えてくれたアドレスに接続すると、約束通りにサーバ領域が確保されているらしく、ストリーミング用の管理画面が表示された。ヘルプやマニュアルを参照しながら、楓がそのサーバのレスポンスなどを計測すると、とても良好な数値が帰ってきて、昨夜篤朗が「性能もバックボーンも折り紙付きなのだ」と豪語するだけのことはある、と納得するだけの数値をたたき出した。
 楓はマニュアルを見ながら、昨夜編集し終わった動画データを次々と篤朗が用意したサーバに転送し、続いて、編集作業を続行することになっている未整理の動画データを学校のマシンに落としていく。
 そうこうするうちに昼前くらいの時間になり、囲碁将棋部のほうの準備を終えた玉木たち放送部員がどやどやと楓の居る実習室に集まってきて、編集し終わった動画や未整理のデータを観たりしはじめた。
 玉木と有働以外の放送部員は、
「これ、一晩でやったのか?」
 と驚きを隠せない様子でざわめいていた。
「いやー。見せたかったなー。
 この子の家にいる人たち、みんな凄いのだよ……」
 と、玉木は楓に抱きつきながら、我が事のように自慢した。

 そんな時、大きなバスケットを抱え、コンビニのビニール袋を抱えた制服姿の加納兄弟が実習室に入ってきた。
 加納荒野は、
「これ、差し入れ。調理実習室の使用許可取ってないんで、簡単なものだけど……」
 といってバスケットを開けた。
 中には色とりどりのサンドイッチがぎっしりと詰め込まれており、ちょうど昼食の時間であったこともあり、放送部員たちは競うようにして加納兄弟が用意した食事を取り合った。
 茅はコンビニのビニール袋からソフトドリンクのペットボトルと紙コップを取り出し、紙コップを配って歩いた。
 サンドイッチを賞味しながら、交代で残った編集作業を片付けると二時を少しこえるくらいの時刻になっており、ポスターなどで告知しておいた中継用のURLアドレスにアクセスしてくる者もかなり増えてきた。そのアドレスに置いてあるファイルは、この時点では、
「中継開始は14:30を予定しております。
 それまでしばらくお待ち下さい
  ○○校放送部」
 と書いているだけの素っ気ないページだったが、解析用のタグは埋め込んでいたので中継開始時間が近づくにつれてアクセス数が増加していく様子が手に取るようにわかった。
 午後二時十五分頃、前後して才賀孫子と徳川篤朗が囲碁将棋部の部室内に入ってきた。中継の準備は完了していたので、二人が入ってきた様子は楓たちがいる実習室からでも、モニター越しに克明に観察することができた。
 実際に対戦をする孫子たちの希望で、対戦を行う囲碁将棋部の部室内には、最小限の人間しか入ってはいけない、という約束になっている。おかげで、低解像度のウェブカム用のカメラと三脚に固定した数台のカメラ、それにたった二人のカメラマンが手持ちのハンディビデオを持って待機する形になった。
 それでも、楓たちの居る実習室から、各カメラの映像を自由に切り替えるシステムはすでに構築済みであり、急造の中継システムにしては、完成度が高いほうだ……と、関係者たちはみていた。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(19)

第五章 「友と敵」(19)

 徳川篤朗の工場とは、要するに二十四時間体制で新素材の製法を模索し続ける自動実験場だった。これだけの規模の施設が「生産」ではなく専ら「開発実験」のために使用され、しかも個人の資本で動いている……という事実に荒野も驚かされたが、荒野と同道した有働勇作は、もっと毒気を抜かれたようだった。
 少なくとも徳川が、「株と特許で儲けている」という評判からイメージする……町の発明家……みたいな暢気で牧歌的な存在ではないことは、確かだった。
 荒野も有働も徳川篤朗と同年輩であり、にもかかわらず、徳川はすでに地に足のついた事業を成功させているように見える。つい数ヶ月までまで別の方面で一人前大人並みの活躍をしていた荒野はともかく、有働ら通常の人間は、まだ社会に出てさえいない年齢である……。
 一通り、徳川の話しを聞き、工場内の撮影を終えると、。荒野と有働は、どちらからともなく「いい時間だし」ということで取材を切り上げることにした。
 ビデオのメモリーには十分な量の映像が記憶されていたし、これ以上につっこんだ取材をするのなら、囲碁対決のおまけ映像などではなく、徳川篤朗個人の特集を数十分の番組に編纂する……くらいの意気込みで出直さなければならない……くらいの手応えを、有働も荒野も感じていた。

 荒野と有働が帰ると言いだすと、篤朗は何ヶ所かに電話をかけてから、
「仲元さんが送ってくれるというのだ。
 あと、玉木が狩野香也の家で待っているそうなのだ」
 と荒野たちに告げて、何故か姪と猫ともども、外出の準備をし始めた。
「おれの家? 玉木が?」
「違うのだ。一年のほうの。狩野香也。
 そこに住んでいるパソコン部の一年に用があるそうなのだ」
 こういう時、同音の名前というのは紛らわしい。「そこに住んでいるパソコン部の一年」とは、楓のことだろう。
「……徳川君も、家に帰るのか?」
 まさか、この工場に住んでいるわけでもあるまい。
「いいや。
 玉木から、面白いことになっているからあんたも来い、と誘われたのだ。
 一年の狩野香也の家には、明日の対戦相手も住んでいるそうではないか……」
 そういうことで荒野と有働、徳川篤朗と姪の浅黄、おまけに篤朗の頭に乗った黒猫は、仲元さんが運転するワゴン車に同乗して狩野家へと向かうことになった。

「……どうだい? 驚いたろう?」
 運転をしながら、仲元さんはバックミラー越しに荒野たちの顔をちらちら見ながら、声をかけてきた。
「うちはもともと、工業用のマニュピレータとかのメーカーだったんだが……これがm受注先によって細かいカスタマイズの伴う仕事でな……。
 需要はそれなりにあったんだが、手がかかりすぎてコスト的に厳しいところだったんだ……。技術が金に直線的に換算されない業種なんだよ、これが……。
 そこいくとトクの奴は同型機種をまとめて大量に発注してくれるお得意さんだし、新しい取引先を紹介したりしてくれるから、こっちも便宜払って工場ごと貸したりしているんだけどな……」

 送ってくれた仲元さんに礼をいってワゴン車を降り、狩野家に入ると、猫耳メイド服姿の茅が出迎えてくれた。
「ちわーっす。おばんでーす」
 と荒野が元気に挨拶し、続いて有働も、
「……お、おじゃまします」
 おどおどと入っていく。
 初めての家、ということ以外に、いきなり異様な格好で現れた茅にびびっているらしい。
 篤朗の姪、浅黄は、有働とは逆に全く物怖じすることなく、茅の姿をみるとその場で、
「ネコさんだー!」
 と叫んで抱きついた。
「姪は、気に入ったものに抱きつく習性があるのだ」
 と篤朗は解説した。
「おかげで、こいつはすっかり恐がりになって、できるだけ高いところに逃げる癖がついてしまったのだ」
 そういいいながら、自分の頭上に居座ってあくびをしている太った黒猫を指さした。
「……茅、玉木はいる?」
「玉木はまだ来てないの。楓なら、羽生の部屋にいるの」
 ノートパソコンを脇に抱えた徳川は、案内されたわけでもないのに「来てやったのだー!」といいながら、ずんずんと家の奥に進んでいった。
 方向的には合っているので、荒野は篤朗を放置しておき、居間を通って台所に顔を出し、居間でくつろいでいた狩野真理、何故か台所で食事の支度をしていた飯島舞花などに声をかけてから、楓がいるという羽生の部屋に向かった。徳川篤朗が明日対戦する予定の才賀孫子と狩野香也は不在だった。孫子はどこにいるのかわからないが、香也なら、この時間は庭のプレハブだろうか?
 有働のビデオカメラからDVDを抜き取って、それを渡しに羽生譲の部屋に向かう。
 羽生譲の部屋はあちこちから持ち込んだノートパソコンがケーブルで繋がれており、雑然としていた。徳川も、自分で持ち込んだノートパソコンにケーブルをさして、もの凄い勢いでタイピングしている。荒野は、持ってきたDVDを楓に渡し、楓は受け取ったDVDのデータをすぐに羽生のパソコンにコピーした。
 そのうち、羽生譲が様子を見に来たり、玉木珠美が顔を出してすぐに台所に引っ込み、また羽生の部屋に戻ってきて本格的に楓に指示を出し始めたり、堺雅史が合流して玉木に煽られるようにして荒野たちが収録してきた動画を編集しはじめたり……などと賑やかにやっているうちに、食事の支度ができた、と居間に呼ばれた。
 居間にいくと、外から狩野香也、才賀孫子、シルヴィ・姉崎の三人が入ってきたところだった。シルヴィは、荒神が不在の時、代わりに夕食を食べていくことが多い、という。荒神は、教師の仕事をないがしろにする、ということはなかったが、週の半分ほどは、狩野家に帰らない、というはなしを聞いて、荒野は「本業のほうもそれなりに多忙らしいな」と思った。

 玉木の家が商店街の「うお玉」だとかで、玉木が店から強引に食材を強奪してきたおかげで、その日の夕食は海産物が主体となった。
 玉木がパエリア、飯島舞花が牡蛎フライ、茅がしじみの味噌汁、柏あんながほいこうろうと生春巻き……と、国籍的には多様になったが、どれもうまく、大人数で取り分けて食べるのに適したメニューが多かった。
 途中で羽生譲が数日前に撮影したマンドゴドラのCMのテスト映像を居間のテレビで再生しはじめたため、その場は大いに盛り上がった。
 その映像を観た玉木は、食事の途中でマンドゴドラのマスターに「今、羽生さんのところで例のバレンタイン向けの動画みたんだけど……」と前置きし、このテスト映像を明日の中継の合間に流して良いか打診した。同じ商店街繋がりのご近所さん同士、ということで、マンドゴドラのマスターと玉木は面識があったし、マスターが宣伝の機会を逃すわけもなく、玉木の提案はマスターに即座に快諾された。
 マンドゴドラ関係の事情をよく知らない……というよりは、万事自分の研究以外の世事に疎い徳川篤朗は周囲の人々を質問責めにし、有働勇作は、荒野のことを憐憫に満ちたまなざしで見つめた。
 ほかの狩野家の面々はいつもの通りで、飯島舞花とシルヴィ・姉崎は遠慮も容赦もなく腹を抱えて笑いながら「かわいー! 似合うー!」を連発し、柏あんなは一所懸命笑いを噛み殺そうとして見事に失敗し、堺雅史に「わ、笑っちゃ悪いよ……」と諭されたり、堺雅史は柏あんなを諭しながら、周囲を見渡したりしながらおろおろしていた。
 夕食後、二時間ほど作業をすると動画の編集もなんとか終わり、明日のストリーミングの件も、徳川篤朗が「なんならうちのサーバを使えばいいのだ。性能もバックボーンも折り紙付きなのだ」と言いだしたことで、楓にいわせると「かなり楽になった」そうで、「残りの細かい作業は明日の朝から準備をしても十分に間に合う」ということで、その日はお開きとなった。 ちょうど仕事を終えた篤朗の姉が篤朗の電話に連絡をしてきて、はしゃぎすぎて寝ていた浅黄と篤朗を車で拾って帰り、柏あんなと堺雅史、玉木珠美は自転車に乗って、荒野と茅、飯島舞花は隣のマンションに、と、それぞれの自宅に戻った。

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彼女はくノ一! 第四話 (27)

第四話 夢と希望の、新学期(27)

 いつものように帰宅してからすぐに庭のプレハブ籠もり絵を描いていると、才賀孫子が夕食の時間だ、と、呼びに来た。孫子の後ろにはシルヴィ・姉崎もおり、三人で母屋に入る。
 最近、夕方になるとシルヴィ・姉崎が孫子を訪ねてくることが多い。シルヴィ・姉崎について、香也は「加納兄弟の関係者らしい」くらいの認識しか持っていない。二宮浩司こと二宮荒神についても同様で、彼らの身元などついて詳細な事情を聞いてもしかたがない、と達観している部分がある。もともと香也は、他人に関する興味が薄い、ということもあったが、香也は加納兄弟の関係者には不干渉の立場をとっている。
 香也は学力的にも体力的にも平均以下の無力な学生なのである。
 彼ら、複雑な事情を背負った者たちの世界について、興味本位に覗き込んでも、得るところは少ない……と、心得ている。

 その夜も盛況だった。
 ここ最近、夕食時などに、不意に来客があることが少なくない。
 下宿人の二宮は、無遅刻無欠勤で真面目に学校に勤めている割には、夜や週末は家を空けがちな人で、二宮が不在の時に限定で、シルヴィ・姉は夕食に同席していく。
 最初は二人で申し合わせているんじゃないのか……と思っていたが、孫子の話によると、姉崎の方が一方的に二宮を嫌い、避けているということで、いずれにせよ、食事を用意する真理にしてみれば、二宮の予定を確認するまでもなく、いつも同じ人数分の食事を用意すればいいので、本来なら不意の来客であるシルヴィ・姉崎は歓迎されている。

 それ以外に、年末からこっち、なにか事があるとなにかと狩野家に人が寄ってくるようになった。
 古い代わりに敷地も広く部屋数も多い家だから、極端に大人数でなければ、場所的には不自由しない。また、食事時に来訪がある時には、下宿人とか加納兄弟、それに来訪者自身が手を回して食事の手配をしてくれるので、主婦の真理は、これも歓迎している節がある。毎日それなりの人数の食事を作るのは、単調といえば単調な仕事で、たまに誰かが変わってくれる、という申し出があれば、思わず「どうぞどうぞ」と言ってしまうのだ。
 おかげで、お客が多い日の狩野家の台所に、お客様自身が食材持ち込みでわたわた立ち働く光景が、半ば日常化してしまったりしている。

 そんな時は大体加納兄弟あたりが指揮をとっていることが多いのだが、この夜は珍しいことに誰も献立を統制する者がおらず、来訪者たちが持ち寄った食材を、各自適当に調理していた。
 香也が台所に様子を見にいくと、コンロにはフライパンが火にかけられており、それ以外に茅と柏あんなが鍋と中華鍋を前に格闘していた。茅は味噌汁を、柏は炒め物かなにかをつくっているらしい。それ以外に、飯島舞花が背を丸めて、フライと生春巻きを皿に盛りつけていた。
「あ。すぐに出来るから、炬燵の方で待ってて……」
 香也の姿に気づいた飯島舞花は、即座にそういって香也を居間に追い出した。
 居間では、制服姿の加納荒野が四、五歳くらいの小さな女の子にじゃれつかれてぐったりとしており、その隣には見慣れない大柄な男子生徒が炬燵で背を丸めていた。荒野にじゃれついている女の子は、茅から略奪したのか、黒い猫耳カチューシャを頭につけていた。
 香也の姿に気づくと、大柄な生徒が香也に頭を下げ、女の子の相手をしながらぐったりしていた荒野も香也に目礼した。
「……んー……今日は、なに?」
 香也が荒野に尋ねると、荒野は、遠い目をして、
「まあ、いろいろあって……最初は才賀と徳川の囲碁勝負って話しだったんだけど……それが、いつの間にか大事になって……」
 とか、いった。
 ……才賀孫子と誰かが囲碁を打つと、なんでこれだけの人数がこの家に集まるのかよく分からなかったが、年末の商店街での一件からこっち、何気ない出来事が周囲を巻き込んで異常な規模の騒ぎに発展することも、半ば日常化していた。だから香也は、詳しい事情が分からないながらも、荒野の半端な説明で「そんなもんか」と納得することにした。

 そのうち、食器を抱えた孫子とシルヴィ・姉崎が台所から来て、椀や皿などを配りはじめた。舞花や柏あんなが盛りつけをした皿を、茅が味噌汁の入った鍋やプライパンを、それぞれ何往復かして炬燵の上や周りに配置する。
 奥の方から羽生譲、松島楓、堺雅史、眼鏡の少女、見慣れない白衣姿で頭に黒猫を乗せた少年、などがやってくる。眼鏡の少女は、名前は咄嗟に浮かんでこないが顔は覚えていたので、香也にも放送部の生徒だとすぐに分かった。白衣の少年の顔は、香也には覚えがなかった。
「そこの玉木が魚介類をふんだんに提供してくれたので、割と御馳走になりました……」
 飯島舞花がそういいながらフライパンの蓋を取ると、びっちりと魚介類が敷き詰められた中身が顔を出した。下の方に敷いてあるのは、着色した米、らしい。
「……パエリア、カキフライ、生春巻き、回鍋肉、シジミの味噌汁……あ。そこの猫ちゃんには、こっち、と……」
 舞花が余った食材を盛った皿を出すと、それが自分用のものだと分かるのか、白衣の少年の頭上に乗っていた黒猫は「にゃん」と鳴いて少年の頭から飛び降り、舞花が畳の上に置いた皿の中に頭を突っ込んだ。
 それが合図になって炬燵に適当に座った面々は、「いただきます」と唱和して、食事を開始した。初対面の面々は名乗りあったり、どうしてこういう事になったのか、という説明をして貰ったり、で、それなりに盛り上がった食事になった。

「最初は才賀さんの入部問題で……」
「それをこの玉木が放送部で中継するとか言い出して……」
「いうのは簡単なんですけど、ゼロからそういうシステム作るのって大変なんですよ……」
「あんだけテキパキやっててそういうこといっても説得力ないって、楓ちゃん……」
「このぼくが手を入れたからもはや万全なのだ!」
「……いずれにせよ、部活とかいうのの範囲を超えているよな、とっくに……」

 話題が一通り回ると、頃合いを見て羽生譲が立ち上がり、奥の方からDVDを持ってきて、居間にあるテレビで再生をしはじめる。
「……マンドゴドラの対バレンタイン用に考えたヤツなんだが……」
 という羽生の説明とともに、盛装とも仮装ともつかない恰好をした加納兄弟、松島楓、才賀孫子の四人が、戯れあったりポーズをつけたりした映像が流れはじめる。ほんの二、三日前、この家の中で撮影したものだから、背景のほとんどは障子だった。
 加納茅と才賀孫子は平然とした顔で、加納荒野はどこかいたたまれない顔で、松島楓は真っ赤になって俯いて、それぞれ自分の映像が流れている場で食事を続けた。
 それ以外の、当事者でない者たちは、無責任に「似合う、似合う」などとはやし立てたりして、このも映像もまた、食卓を盛り上げることに貢献した。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(18)

第五章 「友と敵」(18)

「……おれは、加納荒野。三学期から転入してきたばかりの転校生。
 だから、顔を覚えていなくても無理はない……」
 内心の動揺を隠しながら、荒野は徳川篤朗に名乗った。
「たしかに放送部ではない部外者だが、玉木に乗せられて、ここにいる。
 まあ、成り行きってやつかな……」
「そうか。玉木に乗せられたのか……。
 ……ありそうなことなのだ……」
 徳川篤朗は、もっともらしい顔をして頷いた。
 この徳川も、過去に玉木となにかあったのかも知れない。
「ぼくは徳川篤朗。見ての通り、ろくに学校にも通わない偏屈な不良なのだ。
 それから……浅黄、挨拶」
 篤朗が傍らの幼児に即すと、
「とくがわあさぎ、よんさいです」
 女の子は、大きな声ではきはきと挨拶をしてくれた。

「……さて、君らの目的と正体が判明したところで……」
 徳川篤朗は立ち上がった。
 篤朗が立ち上がると、筐体の上で丸くなっていた黒猫が起きあがり、即座に篤朗の頭の上に乗る。
「……さっそく案内させて貰おうか。
 もっとも、時間もないし企業秘密に属するような深部までは取材して貰っては困るので、全部は案内はできないが……」
「その前に、少し質問、いいですか?」
 荒野は先に立って部屋を出ようとする篤朗を押しとどめる。
「徳川さん、ご専門はなんなんです?」
「専門? 専門、か……はっ。愚問だなのだな。
 そんなもの、この年端も行かない、ドクターにもなっていない若造にあるわけがなかろう……」
 篤朗は、涼しい顔をして答えた。
「気が向けばなんでもやるのだ!
 当面の目標は常温超伝導物質の製法を確立することだが、流石にそれにはまだ成功していないのだ!」
「……で、でも、それで、こんなに成果をだしているのって……」
 荒野が渡された資料に寄れば、篤朗が取得した特許やパテント類は数十に登り、出願中のものを含めれば、その数は数倍に膨れ上がる。
「特許……か。
 あんなもんは数を撃てば当たるのだ。思いついたことを片っ端から口述して申請していると一定の割合で取得できるのだ。そのうち首尾良くお金になるのは、さらに数割。割のいい商売ではないのだのだ」
 篤朗は、時間の許す限り、英語の口述ソフトを使って、アイデアを記録していくという。後でプリントアウトして、使えそうなものをまとめて出願する……という。
 本人もいうとおり、成功率はさして高くないのだろう。
「……最初は、株をやってたんですよね……」
「祖父が相場師だったのだ。
 子供の頃、おもしろ半分にいくらかの現金を預かって張ってみたら割合に儲かったのだ。たまたま手元にあったそれを最初の資金にしただけの話しなのだ。
 ぼくの本領と興味は、博打や金儲けにはないのだ」
「それを元手に、今は好きなことをやっている、と……」
 荒野は来る途中で聞いた仲元の言葉を思い出す。
 ……多額の現金を抱えて工作機械を使わせてくっれ、といってきた、子供……。
「祖父も晩年は痴呆気味で負けが込んできたので、周囲が相場には手を出させなかったのだ。
 ぼくが株をほどほどにして、本気で金を稼ぐ気になったのは、姉にこの浅黄ができたからなのだ……」
 篤朗は浅黄の頭に掌をおいた。
「姉はぼくの親代わりで、その姉が親になって、お金が必要だけど、お金が稼げないようになったのだ。
 だったら、ぼくが稼ぐしかなかったのだ……」
 実際には、今でも証券の売買による収益はかなり多いようだが……それでも、幼い頃に祖父の没落ぶりをみていた篤朗は、自分たちの生活費を株だけに頼ろうという気にはなれないようだった。
 株は、水物だ……という認識が、身に染みてしまったらしい。
「……だから、実業……製造業に乗り出したのだ」
 投資や投機と違い、製造業は、良い製品を作れば、長い目で見れば確実に利益を出せる……と、思っていた。加えて、幼い頃から様々な分野に興味を持ち、多種多様な知識を存分に仕入れていた篤朗は、自分の中から際限なく沸いてくるアイデアを実現する機会も狙っていた。
 篤朗の脳裏には、基礎研究をしっかりやりさえすればモノになりそうな製品や素材のアイデアが多数ひしめいており、その基礎研究に必要な資金も、自前で調達することが可能だった。
「それでぼくは、他の企業や大学がやりたがらない、やりたくても手が出ないような実験を、自前で辛抱強くやり続け、結果を出してきただけのことなのだ。
 今は、成功した時の儲けが多いので、マテリアルの開発に力を入れているのだ……」
 一旦製法が確立すれば、低廉に製造することができる合金や複合素材の製法を、数十億とか数百億単位の資金をかかけて開発する。
 資本も自前なら、製法を確立するための人員も、工作機械を手がける仲元さんと時折助手を雇う以外、ほとんど篤朗自身だけだった。

 篤朗は、荒野たちをプレハブの一階に案内してくれた。
「ここでは、比較的精度の低い実験を行っているのだ……」
 プレハブの一回の内部では、壁中にぶら下がったロボットアームが際限なく蠢いていて、資材……大抵は、金属片……をハンマーでうったり伸ばしたり折り曲げたりしていた。
 何十というロボットアームがそれぞれ勝手に蠢いている様子は、圧巻といえた。
「仲元さんはもともと、こうした工業用ロボットの設計や製造をしていたのだ。それにぼくのソフトで制御すると、休みも疲れも知らない試験要員になるのだ。
 今では、上のフロアにぎっちりとこの手のロボットが働いて、ぼくのアイデアを実現するための実験をフル稼働で繰り返しているのだ……」
 工場の上のフロアには、気温や外気の成分など、特殊な条件を設定した場合での試料の加工実験をするために特設された部屋がひしめいている、という。
 そして、新しい資料の製造法を確立したら、即座にパテントやら特許やらと出願し、内外の大企業に売り込んだりするのだという……。
 売り込みに成功したら、その企業の株も買い、資金源をより強固なものにして、今後の開発のためのコネクションも強化する。

 潤沢な自己資本と「徳川篤朗」という特異な個性があって、初めて成立する商法だった。
 なるほど……。
 普段こんなことやっているのなら、地方の公立校など、まともに通う気にはならないだろう……。
「徳川篤朗」という生徒の実体は、当初予想していた以上に、突出した、異質な知性であり、存在だった。
『でもこいつ……一族の者や才賀とは別の意味で……周囲から孤立してきたのだろうな……』
 と、荒野は思った。

 結局、徳川はプレハブの一階部分しか工場の内部をみせてくれなかった。
 が、それでも、休みなく動き続ける無数のアーム群を背景に、徳川徳郎自身が荒野に話してくれた内容を録画しただけでも、十分にインパクトがある……と、荒野は判断する。
 カメラを構えていた有働勇作が終始驚愕の表情を浮かべて、沈黙していたことから推察しても、荒野の判断は、さして的外れなものではないはずだった。

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彼女はくノ一! 第四話 (26)

第四話 夢と希望の、新学期(26)

 徳川篤朗が自分が持ち込んだ末端に向かって凄い勢いでコードを書き始めたので、楓はDVDとUSBメモリーにコピーしてきたバックアップデータを羽生のマシンのハードディスクに落とす。篤朗のものを別格とすれば、手元にあるマシンの中で一番高性能なのは羽生のマシンだった。いくら分散処理するといってもハードディスクのシークタイムは高速な程、良い。

 そうこうするうちに、篤朗といっしょに来た加納荒野が「これ、たったいま収録してきたばかりの動画……」とDVDを持ち込んできたので、それもハードディスクに落とす。
 荒野は羽生の部屋の状態を見渡して、
「……しかし、凄いことになっているなぁ……」
 と感慨深げに呟いた。
 羽生のデスクトップから放射状にLANケーブルで繋がれたノートパソコン数台が雑然と畳の上に放置されており、楓はパソコンデスクに、篤朗は畳の上に座って自分の膝の上に持ち込むのノートパソコンを置いて作業している。
「……おお。やってるやってる」
 様子を見にきた羽生譲も、一瞬沈黙したが、すぐに楓が向き合っている画面に動画が表示されていることに気づく。
「あ。動画編集やるんか? じゃあ、終わったらこっにも使わせてくんない?
 この間の撮ったごすろりーな動画、ちょっち編集してみたいから……」
 マンドゴドラのマスターは羽生が持ち込んだテスト映像を一目見るなりいかつつい顔を崩して笑い、しばらくして笑い納めると、「これ、いい! 絶対受ける! 是非、この線で!」と即座にGOサインを出してくれた。
 バレンタイン・デーまであまり間がないため、本番の収録日は今度の日曜日、つまり明後日に予定されている。
 羽生譲は、数日前にテストとして収録した動画についても、良いショットを吟味し、背景などを合成して使用するつもりだった。
「……ええ、構わない……と、思いますけど……」
 楓は曖昧に言葉を濁す。
 それよりもまず、明日、使用する予定の動画の処理が終わらないことには……そしてその作業は、玉木珠美の指示を仰がなくてはどうにも進められないのであった。
「おばんでーっす!
 こっちに松島楓さんと加納荒野君その他諸々がいるって聞いたんですけどー……」
 その時、玄関のほうで玉木珠美の声がした。

「おお。凄い凄い! みんな協力的だなあ! おねーさんは感激だぞ! なんだ、トクツー君まで手伝ってくれてるのか!」
 ひとまず荷物を台所に置いてから、私服姿の玉木珠美が浅黄にまとわりつかれている茅に案内されて、羽生譲の部屋にやってきた。
「おお。楓ちゃん、でかした。もう準備万端だな!
 今ちょっと晩御飯の支度をちゃっちゃと終わらせてくるから、もうちょい待ってな!」
 と叫んで、すぐに台所のほうにとって返した。
「……なんだか、騒がしくて忙しない子だな……」
 顔を出したかと思ったらすぐにとって返した玉木珠美を、羽生譲はそう評した。
「羽生さん、彼女とは気が合うと思いますよ……」
 加納荒野は羽生譲にそう請け合った。羽生譲と玉木珠美は、性格的に似ている部分が多いと思う……。

 荒野が台所のほうに様子を見に行くと玉木珠美と飯島舞花が肩を並べて料理を作っている最中だった。
「おにーさん、玉木、新鮮な魚介類どっさり持ってきてくれたよ……」
 荒野の姿に気づいた飯島舞花が、振り返ってそう告げる。
「玉木の家、商店街の魚屋さんだって……」
「新鮮な、というと語弊があるな……売れ残りかけていたのをまとめて強奪してきただけだから……」
 フライパンを揺すってオリーブオイルで生の米を炒めていた玉木は、振り返らずに舞花の言葉を訂正した。
「よし。あとは……」
 玉木はフライパンの中身を平らにならし、持参してきた貝やゲソ、魚の切り身などを適当に表面に散らして、サフランを落とし、フライパンに水を注ぎ、弱火にする。
「……これで、炊きあがるのを待つだけ……飯島、後は頼む。
 わたし、作業のほうに戻る」
「ん。もうすぐ柏も来るし、任せて……」
 玉木は舞花の返事も聞かずにばたばたと羽生の部屋に戻った。
 飯島舞花のほうは、フライにするつもりなのか、牡蠣に衣をつけているところだった。
「忙しない奴だなぁ……」
 荒野は、玉木の背中をみながらそういった。
「彼女が騒がしいのは、前からだから……」
 舞花がそういった時、玄関のほうで柏あんなと堺雅史の来訪を告げる声が聞こえた。

 台所に向かった柏あんなと別れて堺雅史が羽生譲の部屋に向かうと、そこはすでに臨戦状態で、LANケーブルで繋がれた複数のマシンを駆使して松島楓、徳川篤朗、玉木珠美の三人が作業にいそしんでいた。
 玉川珠美は松島楓の後ろに立って楓に指示を出して編集作業をさせながら、手元のノートパソコンで荒野たちが収録してきたばかりの篤朗のインタビュー動画をチェックしている。徳川篤朗は二人から少し離れた所で猛烈になにかをタイピングしている。羽生譲もいて、どてらの懐に手を入れながら、玉川珠美のやり方を興味深そうに見学していた。
「来たか、パソコン部の一年」
 堺の存在に気づいた玉木珠美は、顔も上げずに堺に声をかけてきた。
「もうちょい待て。もう少しで楓ちゃんがやっている、才賀の分の処理が一段落するから……そしたら、今日撮ってきた徳川のほうの作業に移る……そしたら、君の出番だ……」
「……なー……。
 玉川さんとやら……」
 突如、それまで黙って作業を見学していた羽生譲が、玉川珠美に声を掛けた。
「今、楓ちゃんがやっているの、一通り編集終わったら、コピーしてわたしにもいじらせてくんないか?
 このままでも面白いけど、エフェクトとかBGMつけるともっとよくなるでよ……」
「……助かりまーす、おねーさん。
 こっちはそこまで手がまわらないもんで……」
「おねーさんではなくて、羽生譲。
 もしくはにゅうたんと呼んでくれい……」
 玉川珠美と羽生譲は目を見合わせて不適に笑い合った。

「……そいいや、才賀はいないの?」
 羽生の部屋にも台所にも身の置き場なし、と判断した荒野は結局居間の炬燵に戻ってきた。居間では、狩野真理が茅がいれた紅茶を飲みながらくつろいでいて、その横に相変わらず浅黄にまとわりつかれている茅、大きな体を小さくして炬燵に入っている有働勇作がいる。
「才賀さん、最近、夕方……夕食の前くらいになると、金髪の先生と一緒に外出するのよ。二十分くらいですぐに帰ってくるけど」
 真理が、何気ない噂話でもするように荒野にそういった。
『……結局、そうなったか』
 シルヴィ・姉崎が孫子のどこまで一族の技術体系を伝えるつもりかはわからないが……荒野は、そう聞いてもあまりいい気分にはならなかった。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(17)

第五章 「友と敵」(17)

「着いた着いた。そこそこ。
 あのプレハブの右手に見える方のが、一応、トクのヤツの研究室ということになっているな……。今の時間は、だいたいあそこに居るはずだ……」
 工場内を三百メートルも走っただろうか。
 荒野たちが入ってきた側とは違って、こちらのほうには資材などが整然と配置されている。こちらの方にもゲートがあって、ゲートの付近にはトラックのものらしい太い轍の跡が地面に黒々と刻み込まれていた。こちらからも搬出入できる構造になっているらしい……というよりは、荒野たちが入ってきた門のほうが、バス停からは近かったが、どちらかというと裏口なのだろう。
 その、本来の搬出入口の脇に、確かに、仲元のいうとおり二階建てのプレハブが二軒あった。プレハブ、といっても、かの狩野香也が普段プレハブ代わりに使用しているような物置に毛の生えたような代物ではなく、かなり大きな、建築現場の飯場にでも使用されるようなものだった。屋内とはいえ敷地が広く、天井も高い工場内で、効率よく空調を整えるためにプレハブという容器を必要としているらしい。
「右手のプレハブ、一階のほうがトクの研究室、二回の方が事務室だ。
 トク、どちらかに居る筈だから……」
 そういうと仲元はプレハブの前にフォークリフトを停め、
「おーい! トクー! お客さんをお連れしたぞー」
 と、プレハブの方に向けて大声を出した。
 数秒の間を置いて、二階の窓ががらりと開き、徳川篤朗がぼさぼさ髪の頭だけを出し、
「二階にいるのだ!」
 と、手招きした。
 荒野と有働はフォークリフトのアームの上から足を降ろし、外付けの階段を上りはじめた。
「ぼく、フォークリフトに乗ったの、今日が初めてです」
「……おれも……」
 プレハブの階段を昇りながら、有働と荒野はそんな会話を交わした。
 階段を昇りきるとそこはもうすぐに入り口で、荒野たちが引き戸に手をかけようとすると、勝手に戸がスライドした。
『……自動ドア?』
 と、一瞬思いかけたが、足元の方で、
「いらっしゃい」
 という舌足らずな声がしたので視線を降ろす。そこには場違いな、幼稚園ぐらいの可愛らしい女の子がいた。この子が、荒野たちの足音を聞きつけて、タイミング良く戸を開いてくれたらしい。
「……お、おじゃまします」
 意表を突いた人物に出迎えられ、有働と荒野はおずおずと殺風景なプレハブの内部に入った。荒野たちを出迎えた女の子は、
「とくろーはおちゃもってくるから、こっちにすわってて」
 と、室内にあった応接セットを指さす。途端に、
「ちょうどいい具合にお茶がはいったのだ」
 と盆を持った白衣姿の徳川篤朗がしきりの向こうから姿を現した。
「インターフォンが鳴ってから来客がここに来るまでの所要時間はほぼ一定、そのタイミングに合わせてちょうどいいようにいれたお茶なのだ」
 篤朗が自らいれてくれたらしいお茶は玉露で、濃さも温度も適切であり、意外なことに、かなりうまかった。

 応接セットとスチール製の事務机、それに、壁際にある大型筐体がLEDを光らせているだけのガランとした部屋だった。大型筐体の上には丸々と太った黒猫が昼寝をしている。篤朗と女の子の他には、誰もいなかった。
「ええと……姪御さん?」
「その通り。よく調べているのだ。姉の子供で、名を浅黄という」
 荒野が篤朗の隣に座ってストローでジュースを啜っている女の子を指さして訪ねると、篤朗が頷いた。
「これ、玉木に貰った紙に書いてあったから……」
 荒野が学校を出るまぎわに手渡されたプリントアウトをひらひらさせると、篤朗は無言のまま意外に俊敏な動作でそれをもぎ取り、書いてある内容にざっと目を通してから、
「かなり正確な概要なのだ」
 と保証した。
「ここまで調べてあれば、ここまで出向いてきて聞くようなことも残っていないと思うのだが……」
「あ、ああ……い、いや! そうじゃなくてだな……」
 荒野も危うく頷きかけ、慌てて自制する。
「どうやって調べたのか、玉木の下調べもかなり正確だったわけだど……それ以外にも、ケレン味とかハッタリが必要ってこともあって……」
「……そんなもん、誰が必要とするのだ?」
 荒野の言いぐさに、篤朗は首を傾げる。
「玉木か? それとも君か?
 すくなくともこのぼくは、そんなものは必要としないのだ」
 正論だ、と、荒野は思った。
『玉木には強引さでペースを狂わせらられるけど……』
 玉木とは別な意味で、やりにくい相手だな、とも。
『こいつはこいつで、マイペースすぎる……』
「玉木とかおれとか、ではなくてね、その、囲碁対決の中継を見る視聴者に対するサービスというか……」
「……そんな奴らのことは知ったことではないのだ。
 狭間先輩の口利きでナントカという奴と囲碁をすることになった。玉木からその中継をして良いかと聞かれたから勝手にしろといった」
 篤朗は、さらに首を傾げた。
「なのに君らのような奴らがのこのこ訪ねてきて、分かりきったことを聞こうとする……因果関係が、謎だ……」
『ようするにコイツは……』
 荒野は、頭が痛くなってきた。
『学校で自分がどうみられているか、とか、今回の囲碁対決がどれだけ注目されているのか、ということについて……まるで自覚がない……。
 それ以上に、自分の関心事以外に、まるで関心がないタイプなんだ……』
「もちろん、こちらはこちらで相応の思惑というものがあるわけだけど……」
 そこで、荒野は方針を変えることにした。
 徳川篤朗がなにを重んじる人間なのか、ということさえ把握すれば、交渉は可能だ。
「そんなことは、しょせんこちらの都合なわけだし……。
 ここは一つ、徳川君の研究とか仕事について、無知な大衆に知らしめるためのいい機会だと、とらえて欲しいな……」
「……うむ……まあ、タダでCMうってくれると思えばいいのか……」
「そうそう。ちゃんと、ビデオも持ってきたし……」
 荒野は、隣に座るビデオカメラを構えた有働を示した。篤朗にとってもメリットがあることを強調する。
「徳川君が予想する以上に今回の中継、反響があったし、注目も集めいている……らしい、から……。
 アピールする、いいチャンスなんじゃないかな?
 ここまでカメラ担いで取材に来た人、いないでしょ?」
「……そっち方面の取材、というのは、もちろん、大歓迎なのだが……」
 篤朗は、ふんふんと頷きながらも、荒野に尋ねた。
「そもそも、君は誰なのだ? そっちのでかいのは、放送部にいるのを見かけたことあるような気がしたが……。
 うちの制服着ているけど、君のような生徒、うちの学校にいたか?」
 ……いわれてみれば……荒野も、徳川篤朗が才賀孫子に挨拶をしに荒野たちの教室に来た時、みかけている程度で……。
 しっかり名乗りあって挨拶した、という間柄でもないのだが……ここまで招き入れて、お茶まで出してからいう台詞だろうか……。この、徳川篤朗いう男の、他人に関する無関心ぶりは……いっそ、清々しいほどだった。
 この分だと徳川篤朗は、対戦相手の才賀孫子という存在も、まるで意識していないのかも知れない……。「才賀孫子」という相手のことはよく知らないが、ただ単に「狭間先輩に言われたので勝負してやるのだ!」程度にしか、認識していない可能性も、ある。いや、その可能性が、大である。

『……そういや、おれ、なんだってこんな所でこんなことやっているんだろう?』
 ここにいたって、ようやく気づく荒野だった。
『ひょっとしておれって……玉木に……いいように使われてる?』

 よくよく考えてみると……玉木や荒野、徳川や才賀……全ての関係者をひっくるめて……いつの間にか、狭間沙織の書いたシナリオに沿って動かされているような感覚を覚えた。

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スキヤキAV

blog紹介 「■■erotic☆sniper■■」

blog紹介 「■■erotic☆sniper■■

以下、プロフ文引用。
3サイズ☆B89・W59・H86☆
152㎝のカラダにGカップのおっぱぃ☆
べビーフェイスとカラダの
アンバランスが武器かなっ☆
エロテロリストと言えばインリン。
せぃゎ、みんなのココロとペニスを
撃ち抜いちゃぅエロスナイパー♪

ということで、茶髪でおっぱいの大きい「せぃ」さんのblogです。

この手のblogも多い割に「当たり」はほとんどないような気がしますが、これは「当たり」かと。

写真のサイズも大き目だし、
モデルのせぃさんのプロポーションもいい。
ポーズなんかも工夫しているし、
それに、コスチュームの種類が多いのもGood!

どこかあっけらかんとした感じの文章も、等身大な感じがして、いい。

お薦めっす。


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彼女はくノ一! 第四話 (25)

第四話 夢と希望の、新学期(25)

「……いやー、本当、助かった。
 楓ちゃん、使えるわー。うちの部に欲しいくらい……」
 下校時刻になり、とりあえずその日の作業は切り上げなくてはならなくなった時には、玉木珠美はすっかり楓のことを気に入っていた。
「……あの、堺さん、学校のマシンって、夜とかは電源入っているんですか?」
 楓は、玉木には答えず、堺に向かって質問をする。
「……多分、電源全部落としちゃうと思うけど……」
 堺の回答を確認した楓は、書きかけのスクリプトを圧縮して一ファイルにまとめ、自分のメールアドレス宛に送信する。学校のマシンの電源が入っていれば、加納家からもリモートコントロールが効くように設定して置いたのだが、電源が入っていないとなると、続きは羽生のマシンを借りて、ということになる。場合によっては、真理や孫子のマシンも繋いで並行処理が可能なようにも設定できるが……それでも、処理速度的にはかなり落ちることになる。
 リソースを食う映像の処理が一段落しているのが、幸いだった。作業が終了した分の映像データをDVDやUSBメモリーに分散してバックアップし、帰る支度に取りかかりはじめた。
 堺のほうの作業進行状況を聞き、どこまで進んでいるのか確認してから、そちらのファイルも圧縮してまとめて自分のメールアドレスに送信した。
 堺が関わったコードは、詳細に注釈を入れてくれるので、後で手を入れる時、わかりやすい。
「え? なに? 楓ちゃん、持ち帰ってまでやってくれるの?」
 楓がなにをしているのかようやく理解した玉木が、驚きの声を上げた。
「……このままだと、明日の放映予定時刻まで、間に合いそうにありません」
 楓は玉木に、できるだけわかりやすく説明する。
「持ち帰って、できるところまでやってみます。
 中途半端なのは、気持ち悪いですから……」
「そ、そうだね。ぼくも、手伝う……楓ちゃんの家……ああ。狩野君の家か、今日、これからいっていいかな?」
 堺も、楓のほうに向き直っていった。
「多分大丈夫だとは思うけど……真理さんに聞いてみます」
「えらいなあ、一年生たち! おねぇさんは感激したぞ! でも……」
 楓と堺のやりとりをみた玉木は、壁に掛けてある時計を指さした。
「……残りの打ち合わせは、学校をでてからな。下校時間だ。
 あと、おねーさんも、もちろん君たちを手伝うから……」

 急いで帰り支度をして、校門前で打ち合わせた結果、一時間後に狩野家に集合。
 場所を提供して貰う代わりに、玉木が狩野家の今夜の夕食を用意する、ということに落ち着いた。
 楓と堺を待たせてあちこちに電話を掛けていた玉木は、一段落つくと、
「楓ちゃん……あんたの家、すごいことになっているんだなぁ……。
 囲碁勝負なんかよりも、こっちのほうがよっぽど面白いかも……」
 と前置きした後、
「加納兄とうちのウドー一号、それにトクツー君と何故かその姪っ子さんも来るって……とりあえず、夕飯の材料買ってくるようにメールしておいた」
「……こっちも、なんか……あんなちゃん……柏あんなが、夕飯作りのお手伝いに来るそうです……」
「柏……ああ。あの、可愛い君の相方か……まあ、賑やかになる分にはいいじゃなか……」
 一時間後に加納家で、という約束をして、校門前で一旦別れる。

「……楓、荒野がこれをもっていけって……」
 狩野家の近くまでいくと、通り道のマンション前にメイド服姿の茅と飯島舞花が待っていた。茅は楓を手招きし、ティーポットを持たせた。茅自身は茶器の入った箱を抱えていて、飯島舞花はノートパソコンを片手に一台ずつ持っていた。舞花が持っているのは、荒野兄弟が普段使っているものだ、という。
「あ。ありがとうございます。ありがたく使わせてもらいます」
 荒野が茅に連絡して手配したのだろう。実際、処理能力を考えると、マシンは多ければ多いほどいい。
「パソコン、わたしんちにもあるけど、デスクトップだから持ち運ぶのはちょっとなぁ……」
 ネットに接続した状態なら、楓なら遠隔操作することもできた。が、今回の件ではそこまでの処理能力は必要としないのではないか、と、楓は思った。ともあれ、舞花がそう申し出てくれたこと事態は、とてもありがたく思えた。

 楓たちと茅が楓の鞄とノートパソコン二台、茶器一式を持って狩野家に入り、楓が私服に着替えている間に、茅がお茶の準備をし始める。

 私服に着替え終えた楓は、在宅していた真理と羽生に断りを入れてマシンを借り、羽生が使用していたポートにLANケーブルを接続して、加納兄弟の二台ともども接続する。
 ネットに接続し、自分のメアドにチェック、学校で自分宛に送ったファイルを展開し、そこにあったソフトをインストールして強固で効率的な分散処理環境を整備する。

 その上で、学校でやりかけた作業を再開しようとしたところに、食材を抱えた荒野と「放送部」の腕章をつけた大柄な男子生徒、黒猫を頭に乗せ、白衣姿で腕にノートパソコンを抱えた徳川篤朗、四、五歳くらいの女の子、の、四人と一匹が揃って狩野家にやってきた。
「っちーっす。おおばんでーす」
「……お、おじゃまします」
「来てやったのだ!」
「こんばんわー!」
 四者四様の挨拶が玄関のほうから聞こえ、真理と羽生が出迎える。小さな女の子は徳川篤朗の姪で、母親に当たる徳川の姉が不在のため、面倒を見る者がいなくて連れてきた、という。
 その浅黄という女の子は、猫耳メイド服姿の茅を見つけると「ネコさんだー!」と叫んで抱きついた。
 楓とは初対面になる徳川篤朗は、
「ほれ、存分に使うがいいのだ」
 といいながら、持参したノートパソコンを自分の手で楓が構築したばかりのLAN環境に組み込む。徳川のマシンは、普段どういう用途に使っているのか、と思うほどに高性能だった。
 楓の不審そうな顔を見て、徳川は、
「物理シミュレーションとかやるには、最低限これくらいのスペックが必要なのだ」
 と、楓に説明した。
 これが初対面になる徳川篤朗について、楓は、「……本当に研究者なんだな」とか「言葉使いは尊大だけど、意外にいい人かも」という印象を持った。

 その徳川は、さっそく自分が持参した末端に取り付いて、楓が構築したばかりの分散処理環境をチェックしだした。
「これは、君が書いたのか?」
「既存のスクリプトに手を加えただけです」
「元の部分がほとんど残っていないではないか。
 だが、たしかにこっちのヴァージョンの方が、早くて安定しているのだ……」
 徳川篤朗は、褒めながらも、その側から楓のシステムの改良版のコードをキーボードに叩き込んでいく。
「コンセプトは理解したのだ。
 システムはすぐにこっちでもっと凄いのにヴァージョンアップしてやるから、そっちは目先の作業を進めるのだ……」

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髪長姫は最後に笑う。第五章(16)

第五章 「友と敵」(16)

「……ということで、加納君。
 君は、うちのウドー一号たちと一緒にトクツー君まわりの取材頼む……」
 玉木珠美は、放課後も荒野たちの教室にやってきた。
「なんでおれが……」
「才賀さんまわりの取材、ストリーミング放送の準備……人手が足りないんだ。
 この前協力してくれるといってくれたろ? 加納君イケ面だし、度胸もあるし、十分レポーターも勤まる」
「いきなりレポーターかよ!」
「断るんか? あぁん?」
 玉木珠美は荒野のネクタイを掴んで自分のほうに引き寄せた。
「協力するって約束を反故にするとは良い度胸だなぁ! おおぅ! 本気で断るならこっちにも考えがあるで!
 ウドー一号、ビデオ回せ! これから加納君に思いっきりディープなキスしてやる! そんでももってそれ、世界中にネット配信してやる!」
「……こ、こら離せ。
 わかった。わかったから……」
 玉木が大声を上げたので、クラスに残っていた生徒たちが一体何事かと荒野たちを注目した。
「了解してくれたのなら、それでいい……」
 玉木はあっけなく荒野のネクタイを離した。
「……とんでもなく強引な奴だな、お前……」
「よくいわれる」
「……そのかわりこっちにも条件がある……」
 荒野は今日一日分のギャラとして、牛丼特盛り三杯おしんこ味噌汁付きを要求した。

「……いやーすいませんねぇ、彼女、強引で……」
 玉木と組んでいる有働勇作という生徒は、玉木と一緒の時は無口な印象があったが、荒野と二人きりになるとそれなりにしゃべるようになった。荒野とビデオカメラを抱えた有働は、今、徳川篤朗がいるという市の外れにある町工場に向かっている。
「玉木といい、この徳川といい、この学校も意外に変なのが揃っているよな……」
 バスのシートに腰掛けたまま、手渡された徳川篤朗の資料をめくりながら荒野がいうと、有働は、
「彼女とか徳川君は、また特別ですよ……」
 と、答えた。
 有働は、いかつい体格に似合わず、物腰が柔らかい生徒だった。

 荒野は徳川篤朗の資料に目を通している。
 荒野と同じ二年生。しかし、授業には最低限にしか受けていないし、学校に来る頻度もそれに準じて少なくなる。それでいて、学科試験の成績はいい。学校を休んでも遊んでいるわけではなく、仕事……それも、徳川にしかできないような特殊な仕事をしていて、学校側も注意しようにもできない状態だった。
 徳川篤朗は姉と姉の娘……つまり。篤朗にとっては姪にあたる……の三人で暮らしており、一家の収入は、現在の所ほとんど篤朗からもたらされている。
 両親は何年か前に他界しており、以前は働きながら篤朗を育てきた姉も、ここ数年は自分の娘の出産と養育に専念しいて、篤朗の働き以外に収入源がないような状態だった。
 数ヶ月前から、ようやく娘を篤朗に預けて以前やっていたライター稼業を再開しはじめたが、まだまだ篤朗の姪も手の掛かる年齢であり、フル稼働とはいかないらしい。
「……まあ、誰にでも、いろいろな事情があるもんだな……」
 荒野が呟くと、
「そうですね」
 有働も頷いた。
 荒野に渡された資料にははっきりと記されてはいなかったが、篤朗の姉の伴侶について、明確な記述がないところをみると、シングルマザー、なのだろう。
 死別したのか、婚姻届を出せないような事情があったのかまでは、わからないが……。

 バスを降りた荒野たちはプリントアウトした地図を頼りにある町工場の前に到着した。塗装が所々剥げ、錆が浮いた大きな鉄の扉があり「(有)仲元興業」と白いペンキで書かれていた。その脇にある門柱にインターホンがあったので、ボタンを押して「ここに徳川篤朗君がいると聞いたんですけど……」と来意を告げると、「おお。いるいる。鍵空いているから勝手に入ってくれ」と返事が返ってきた。
 荒野は有働に、
「もうこっから撮っちゃおう……」
 と指示を出して、自分はマイクを取り出して、鉄の扉を開けた。
 玉木の話しによると、有働は極端なあがり症で、多人数の前とかカメラの前ではまともに話せない、ということだった。
「こんちはー。放送部の者ですー……」
 といいながら、荒野たちは工場の中に入っていく。
 中は広い……というよりは、がらんとしている。天井がやけに高い(普通のビルなら三フロか四アフロア分くらいの高さは優にある)ので、一層、「がらんとしている」という印象が強くなるのかも知れない。
『……倉庫に似ているな……』
 その工場の中を見た瞬間、荒野は思った。
 倉庫と違うところは、あちこちに廃材と見分けのつかない錆掛かった金属材が雑然と放置されていることだった。打ち捨てられたように見える金属片は形も大きさもまちまちで、ねじくれて天井近くまで延びているものもあれば、床付近を這い回っている有刺鉄線状の物体もある。
 実用的な製品、というよりは、
『前衛彫刻?』
 に、見えた。
 有働も物珍しいのは荒野と同じらしく、ビデオカメラをあちこちに振って、工場内の情景を記録させている。
「……こっちこっち」
  作業服を着た中年男性が、フォークリフトに乗って工場の奥から荒野たちの近くまでやってきた。
「トクの奴なら奥に籠もっているから、案内するよ。
 ここからちょっと離れているから、悪いけど、そこに乗ってくんな」
 と、フォークリフトのアームを指さす。
 荒野と有働は、フォークリフトのアームにしがみつくようにして、徳川がいるという奥の研究室まで運ばれた。

「あの、さっき工場内撮影させて貰ったんですけど……」
「ああ。かまわんよ。あの辺りは実験に使った廃材置き場だ」
 作業服の中年男性は仲元と名乗り、この工場の経営者だという。
「しかしまあ、トクみたいなのに友達がいるっていうのも驚きだな……」
「徳川君は、こっちで研究しているんですか?」
「ああ。設備が必要なのとかは、だいたいこっちでやっているようだな。
 あと、トクが作った機械とかは、だいたいこっちに置いてるし……。
 おれもあの若いのが……って、今だって若いが、当時は本当にガキもいいところだったんだ……いきなり株でつくった現金もって訪ねてきて、うちの設備使って実験させてくれ、って言ってきた時は面食らったけどよ。
 奴の話しきいてみるとどうにも面白くなってきてなぁ。技術屋として試させてみたくなっちゃったわけよ……」
「徳川君はそんなに優秀なんですか?」
 フォークリフトのアームにしがみつきながらも、荒野は仲元のインタビューを続けた。有働も必死になってその様子をカメラに収めている。
「ありゃあ……優秀、ってえのと、ちょっと違うなあ……。
 常識的な所からは出てこない、めちゃくちゃなアイデアをどうにかこうにかつぎはぎして無理矢理実用的な製品にまで強引にもっていっちゃう、って感じで……完成したはいいが、商品としてまるで売れてないのも山ほどあるし……」
「……マ、マッド・サイエンティスト……」
「そう。一番近いのは、それだ。
 トクの奴に言わせると、自分は既存の技術をうまく組み合わせているだけだ、なんて抜かしやがるが……」

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彼女はくノ一! 第四話 (24)

第四話 夢と希望の、新学期(24)

 放課後、楓が部活のために実習室に行くと、堺雅史やパソコン部の生徒たちの他に、見慣れない生徒も何人か入り交じって末端に向かってなにやら作業をしていた。
「なにしているんですか?」
 楓が顔見知りの堺雅史に声をかけると、堺は振り返り、
「これ、この間話してた、放送部のお手伝い」
 と説明してくれた。
「もう明日なんだよね。いきなり放送部の人たちがこれ編集してくれっ持って来てさ……学校のマシンに動画編集ソフトなんて入っていたかな?」
 堺は楓に放送部員が持ち込んだDVDディスクを示す。
「OSに付属してきしょぼいのなら……。
 なんなら、フリーのをちょっと検索してダウンしてみますか?」
 楓が何の気なしに提案すると、堺はこっそり頷いた。

 学校のネットワーク・システムには、当然のことながらそれなりの防壁とかフィルタリングが掛かっていて、海外の素性の知れないフリーソフトを落とすこと自体、容易ではないのだが……初日、そのあたりのシステムに触れた楓は「こんなザルみたいなシステムを公共の場で使うなんて!」という不満を持ち、勝手にその場で書き換えてしまった。
 その時、気の弱いところのある堺は、おろおろしながらも楓の作業を見守るばかりだった。
 結果、従来のシステムよりセキュリティも強化され、レスポンスもかえって良くなったくらいなのだが……楓は、学校のシステムの管理キーを、正規の管理者ではないのにもかかわらず、自分でも持つような仕様にしてしまった。
 おまけに、楓は英語も堪能だったので、なにかあると海外のフリーソフトをダウンロードして使用する、というのも日常茶飯事となっている。
 もちろん、システムを改良したとはいっても、もともと楓の知識はセキュリティ方面に偏重しており、従来のシステムに加え、二重三重のフィルタを追加したくらいなので、ウイルスやワームを掴まされるようなへまもしない。

「うん。いざとなったら、ね。それよりも今は、囲碁の中継をどうやったらわかりやすく見せられるか、っていうの相談しているんだけど……」
 もともと囲碁のルールについて知識のある視聴者が圧倒的に少ない、というのが前提となっているので、放送部のほうでもいろいろもめているらしい、と、堺は楓に説明した。
「……そんな専門的なこと放送しても誰もわからないでしょ?」
 案の定、眼鏡をかけた二年生の女生徒が喚いている。腕章をしているところをみると、放送部らしい。
「だからな、パソコン部はそういう内容のことはわかんねーんだよ! ストリーミングとかネット配信については協力するけどな、放送する内容についてはそっちの領分だろうが!」
 パソコン部の二年生も、放送部の眼鏡の女生徒に反撃する。
「いいか? もともと囲碁なんて、ルール知らない者にとっては退屈なもんなんだよ! 延々と盤面ながしてみろ。五分もせずに眠たくなること請け合いだよ! 某教育テレビをみてみろ!」
「その辺は狭間先輩に解説頼んだわよ! 先輩、そっちの方面にも詳しいんだから!」
「じゃあ、後の部分で面白くするのはお前らの仕事じゃねーか! こっちに当たるんじゃねー!」
 楓は堺が止めるまもなく、怒鳴り合うように言い合いを続ける二年生たちの間に入り、「……あのぉ」と片手を上げた。
「その、狭間先輩ですか? 解説する人、確保しているんなら……」

「……なるほど……囲碁のネット対戦システムを使うのか……」
「……ええ。国内にも海外にも、フリーで使えるのがいくらもありますから……」
 楓がアクセスしたページには、囲碁の盤面が映し出されている。
 一方のプレイヤー名が「toku^2」、もう一方が「sonshi」。
「本番の時は、お二人が置いた石をそのままこの盤面に置いて、その先輩に解説してもう時に使って……後は、中継画面とうまくつないでメリハリをつける……というのは……」
「……この一年生のほうが、文句ばかりのあんたなんかよりよっぽど役にたつじゃない……」
 眼鏡の二年生が先ほどまで言い合いをしていた二年生の男子を睨みつけると、そのパソコン部の二年生は、
「……やってられっか!」
 と捨てぜりふを吐いて実習室から出ていった。
「……いいから、放っておきなさい。
 ああいう威張るだけの人間はどこにでもいる。
 でも、わたしたち、ああいう手合いには用はないの……」
 出ていった二年生を追おうとした楓たち一年生を、その放送部の二年生が止めた。
「初対面、だったけ? わたし、二年の玉木珠美。あなた、使える一年生さんはなんていうの?」
 楓が名乗ると、玉木は目を細めていった。
「わたしたち、昨日撮ってきた動画の編集も、今ここで、やっつけたいんだけど……あなたたち、なんか手っ取り早い方法、知らない?」

「……ええと、マニュアルには、プロの使用にも耐える速度とクオリティって書いてありましたけど……話半分でも、OS付属のソフトよりは使えると思います……」
「なんでもいいから。ちゃっちゃとやっつけちゃいましょう……」
 ダウンしたばかりのソフトを、楓が手慣れた操作でインストールしている横で、玉木が楓を煽っている。
「これね、編集するデータ。トクツーの取材映像とか入っているんだけど、長いし演出とかないから、これから効果とか音とかつけて、ショーアップすんの……じゃんと素材も別に用意しているから……」

「……接続環境に差があるはずだから、中継画面が多少荒くなるのはしかたないんじゃないか?」
「高画質のがほしければ、あとで配布するDVD見てもらうか?」
「うん。高画質のビデオ数台と安物のウェブカム用の端子沢山設置して、中継用のはウェブカムをメイン、後で配布するのはビデオメインに編集、という感じかな?」
「中継は、かろうじて表情の変化が分かる、という程度が現実的じゃないかなぁ……盤面については、別の解説画面でフォローできるわけだし……」
「……あと、玉木たちが撮ってきた取材映像を合間合間に入れれば、結構間持つんじゃねー……」
「ああ。素材については余裕をもって撮って来たって話しだからな……」
 向こうのマシンでは、堺たちと別の放送部員が話し合いながら、中継画面のデザインやインターフェースなどを詰めていた。

「……えーと……ここから、二十五秒後あたり、だして……そう、ここいら……ここまでは、切っていい。
 このカットとこのカットを繋げて、その次に……」
 玉木は自分たちが撮ってきた映像については大体覚えているのか、細切れの動画を全部再生することなく、矢継ぎ早に楓に指示を下して切ったりはったりを繰り返している。
 楓は、慣れないソフトということもあって、ショートカットキーを駆使して玉木の指示に遅れないようにするのが精一杯だった。
「……うーん。さすが学校のマシンねー。レスポンスがいい……
 単体のマシンで編集すると、動画とか重くて重くて……」
「マシン自体はそんな高性能じゃないんですけど……」
 楓は実習室を振り返って玉木に説明する。
「これだけのマシンがありますから、サイズの大きなファイル扱う時には、並列処理をするようにしているんです……」
 そのように改造したのは実は楓自身だったのだが、それは玉木に説明しなかった。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(15)

第五章 「友と敵」(15)

「……というわけで、率直にお聞きしたいのだが、才賀さんの実家は、あの才賀なのか?」
 翌日の昼休み、玉木珠美は荒野たちの教室に乗り込んできて、才賀孫子に直談判した。
「あなたのいう『あの才賀』がどの才賀を指すのかはよくわかりませんけど……」
 才賀孫子は初対面にも関わらず挨拶も抜きに本題を切り出した玉木にも物怖じせず、淡々と答えた。
「……それがいわゆる才賀グループを指すのであれば、たしかにわたしの保護者の伯父が代表を務めております」
 荒野が指摘した通り、隠すつもりはないらしい。
 いきなり乗り込んできて才賀孫子の席に一直線に近寄った玉木の様子に、何事かと見守っていたクラスメイトたちは、孫子がそう言い切る。
 すると、
「おおおおおおぉ!」
 と雄叫びともため息ともどよめきが、教室内のそこここで上がった。

「ね、ね。加納君知ってた?」
 たまたま荒野のそばの友人立ちと雑談に興じていた本田三枝がおろおろしながら荒野に詰め寄る。
「うん。まあ」
「すごいよ、才賀さん! 財閥だよお嬢様だよ! あんな美人で頭もいいのにお金持ちだよ!」
 本田三枝の狼狽ぶりは他のクラスメイトの思いを代弁したものだったらしい。
「天が二物も三物も与えた!」
 とか、
「まるでマンガだ!」
 みたいな吠え声が、教室のあちこちから聞こえはじめる。
 比較的静かな者も、携帯を取り出して才賀孫子に関する新しい情報をメールや通話で親しい友人に伝えている。

「ところであなた、初対面だと思うのですけど……」
 そうしたクラス内の混乱とは別に、孫子はあくまで自分のペースを崩さない。
「失礼。わたしはこういうもんだ」
 玉木珠美は荒野にも渡した例の酔狂な名刺を孫子に手渡す。
 玉木の名刺を一瞥した孫子の眉が、ぴくん、と跳ねた。
「……この学校の放送部は、転入生の身元調査までなさるのですか?」
「そこの加納君に打診して断れてたばかりでね。才賀君で二人目だ」
 玉木は芝居がかった仕草で肩をすくめる。
「……と、いうのは冗談。
 確か才賀君は、うちの一年生が徳川との囲碁対決を中継する許可を取りに行った時、
『ふっ。御存意に』
 とかいってご了承してくださった筈。
 今日のはまあ、その中継をより面白くするためための下調べだな……。
 ご協力いただけると、ありがたい……」
 孫子当人の目の前で孫子物真似をした玉木を、孫子は冷ややかに見つめた。
「わたくしよりも、対戦相手の方がいろいろと面白いのではなくて? なかなか興味深い人物と聞いておりますけど……」
「トクツー君かぁ……
 確かにあれはミニラ先生流にいうと、
『ヤツはアレでナニだな』
 っていうやつだけど、如何せんこの学校では既に名物と化しているから、情報として新鮮味がない」
「その点、転入生でまだ詳しいことを知られていないわたくしは、まだしも弄り甲斐がある、と……」
「いやだなぁ、才賀君。弄り甲斐だなんてそんな直球な……」
 玉木はぱたぱたと掌を振った。
「……で、どうかね? 中継の前に、少し時間をとって才賀君と徳川君の簡単なプロフィールを流したいのだが、ご協力いただけるかね?」
「構いませんわ。どうぞ御存意に……。
 タマツーさん」
 孫子ににっこりと微笑まれながらそう言われてた玉木珠美は目をしばたいた。
「徳川篤朗君がトクツー君なら、玉木珠美はタマツーさんでよろしいのではなくて?」
 怪訝な顔をする玉木に、孫子は追い打ちをかけるようにいった。
「……それとも、タマタマさんとお呼びいたしましょうか?」
「タマタマいうなぁ!」
 ほぼ脊髄反射的に、玉木珠美は叫んでいた。
「失礼。お約束ということで。
 それでは、才賀さんのプロフィールはこちらで調べさせてもらい、後でチェックしていただく、ということで……」
 玉木珠美はいきなり振り返り、教室内にたむろしていた生徒たちに向かって、
「今度の土曜日、午後一時半からの放送部の中継、よろしくぅ!
 アドレスとか詳細は今日の放課後、ポスターにして張り出すから!」
 と大声で宣伝して荒野たちの教室から出ていった。

『……なかなか、興味深いやりとりだ……』
 と、荒野は思った。
『……こいつら、結構いいコンビなんじゃねぇ?』
 玉木珠美も、孫子を目前にして物怖じせず、余裕で即興漫才かませる程度には度胸もあり、頭も回る生徒だった……というわけで……。
 玉木と孫子のやりとりをみていた教室内の生徒たちも、孫子が見る目が以前の壊れ物の高価な美術品を眺めるような目つきから、より親しみを持ったものに変わっているような気がする……。
 それだけでも、放送部に協力した甲斐があった……と、荒野は思った。
『……あとは、土曜日の中継がどういう感じになるかだな……』
 荒野がそんなことを思っていると、二の腕を誰かにつつかれた。
 振り返ると、樋口明日樹がすぐそばまで来ていて、
「……あれ、仕組んだの、加納君でしょ?」
 と小声で聞いてくる。
「いや。放送部の中継は、大体、狭間先輩の仕込み。
 おれは才賀のこと、少々放送部の玉木に耳打ちしただけ」
 荒野が素直に答えると、
「狭間先輩かぁ……」
 樋口明日樹は何故かため息をついた。
「……いわれてみれば、あの人がやりそうな……」
「……知ってるの? 狭間先輩?」
「うん。あの人、生徒会長やってた時、文化部のテコ入れに力入れてたんだよねー。
 徳川君みたいなのがおとなしく囲碁将棋部に居着いているのも、あの先輩のおかげみたいなもんだし……」
 運動部に比べ、全般に幽霊部員が多い文化部は、放置するとすぐに活力がなくなる。
 狭間紗織が会長に在任中の一年間、紗織は時に強引な手段も使って有力な生徒を適所に在籍させ、それなりに活気を持たせた、という。
「……まあ、狭間先輩が生徒会から降りちゃうと、すぐに元の黙阿弥になったんだけどね……。
 しかし卒業間際に、こういう絡め手やっていくかな、普通……」
 樋口明日樹の説明を、荒野は内心で頷きながら聞いていた。
『……先輩、おれらがこの学校に来なければ、こんな強引な真似しないで、そのまま大人しく卒業していったんじゃないのか?』
 とも、思わないでもなかったが。

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彼女はくノ一! 第四話 (23)

第四話 夢と希望の、新学期(23)

 楓自身は茅の警護を第一の任務と心得ていたが、荒野は楓が心配しているほどには茅の安全面に気を払っておらず、いや、気を払っていない、というと語弊があるのだろうが、それでも楓から見ると変に鷹揚な所があって、例えば、平気で文芸部員だけで帰宅させたりする。また、茅一人で外出することも多いらしい。
 そのことについて、「茅の外出時には、せめて自分が同伴しても」と楓が荒野に申し出てみたことも、再三、あった。
 が、荒野が首を縦に振ることはなかった。
「……あのなぁ、楓……」
 そんな時、荒野は楓を諭すようにいう。
「お前の心配も分からないではないけど、相手はおれたちと同じ一族だぞ?
 その気になって力押しで来られたら、少人数のこっちは、遅いか早いかの差はあれ、あっけなくやられちまうって……」
 どだい、戦力差が違う……と、荒野はいう。
 だとすれば、今まで茅や荒野が無事でいる、ということは、相手方になんらかの理由や事情があって手出しできないでいるのか……それとも、誘拐などの強硬手段を使って茅を確保しても意味がないか、のどちらかだ、と。
「おれ、思うんだけど……茅の遺伝子とかは、とっくの昔に採取されていると思うんだよね……」
 茅が、今後どれほど潜在能力を開花させるか……それを確かめたくて、茅の存在を知るものは、あえて泳がせている……というのが現状なのではないか……。
 と、荒野は楓に自分の推測を話した。
「実際、茅、こっちに来てから、かなり変わってきているし……」
 話しをするようになった、人とつき合うようになった、感情が豊かになった……といった表面的な変化に加え、荒野を信用してきたようで、最近では、今まで隠していた能力……佐久間並の記憶力など……についても、隠すことなく荒野に話すようになっている。また、様々な経験を経ることで開花する能力もあるようで……。
「そういったことも含めて、どっかでじっと観察しているやつらがいるんだと思うんだ……」
 荒野は、仁明から茅を受け継いだ、茅の養育係……と、関係者からは見られているのではないか?
「……だから、当分は、茅に直接的には手出しをしてくる者はいないと思う……」
 荒野は、楓にはいわなかったが……この次、何者かが本気で茅に向かってくることがあるとすれば……それは、茅の最終性能試験の時か……それとも、茅が計画者たちの予想を超えた成長をみせ、一族全ての者にとっての脅威と見なされた時、だろう……と、みている。
 いずれにしろ、そのような時はシャレや冗談では済まないプレッシャーを受ける筈で……。
 しかし、茅自身がまだまだ成長しつつある今の段階では、余分な手出しをしてきても得をする者は誰もいない筈、でもあった。
 だから、その時までは……。
「お前は、今の生活を楽しめ……」
 荒野は、改めて、楓にそう命じた。

 思い返してみると、以前、荒野は涼治にも全く同じ事を言われている。
「お前は考えすぎだ」
「もっと、今の生活を楽しめ」
 と。

 その時の荒野がどこか釈然としない気持ちを抱えていたのと同じく、楓もあまり納得した風でもなかったが……それでも、なんとか荒野の言葉に頷いた。
 荒野と同じく、今の生活は楽しいし、それを謳歌すること自体には、異存がないのだろう。

 そんなわけで、楓は今の生活を楽しんでいた。
 荒野に相談した様に、不安材料がないでもなかったが……楓は所詮上の人間に指示を貰い、その元で動くことを当然として教育された側の人間である。多少疑問を持っていても荒野などに強く言われると、それ以上の詮索はせず、服従するのが習いになっている。
 最近、楓に体術を仕込んでいる二宮荒神は、そうした楓の思考停止体質を「下忍根性」と呼び、「そういう根本的な所から直していかないと、雑種ちゃんはこれ以上先にいけないよーん」などと嘯く。
 荒神は、すでに基本的な技術を習得し、最近は荒神との模擬戦のおかげで実践の場での勘や咄嗟の際の応用力もつけてきた楓の、一番弱い部分として、「判断力」を挙げる。誰かの指示を仰ぐことが習性になっているので、自分の判断で動く、という決断力に欠け……。
「そういうの、いざという時には致命傷になりかねないんだけどね……」
 楓を弟子、と認めた割には、荒神の言いぐさは他人事のような軽さがあった。荒神が気にかけているのはあくまで「楓の資質」であって、「楓本人」の進退についてはあまり興味がないらしい。
 それでも、
「雑種ちゃんは今、実質荒野君と二人で任務に当たっているわけでしょ?
 そんな時、自分自身で的確に判断できるようになっておかないと、いざという時身体がうごかないよーん」
 という具合に念を押すあたり、微妙に気にかけてはくれてはいるようだ。
 言われてみるまでもなく、荒野とは別行動を取ることが多いし、また、荒神や荒野をみていると、一流の術者とは、体術などの技術だけではなく、自分の判断で動ける者をいうのだ……ということも、理屈抜きで納得できる。
 荒神の性格を考えると、それだけ念を押されて進歩がなければ即刻見放される、という可能性も大きかったが……指摘され、自身も納得したからといって……それまで仕込まれた服従体質が即座に一掃される……ということも、ないのであった。
 それでも、楓は今までの自分の在り方に懐疑的になりつつある。
 香也や同じ学校に通う同じ年頃の生徒たちに比べ、自分はいかにも卑屈で、屈託が多い、と……。

「……そんなの、即座に改められなければ、時間をかけて変えていけばいいだけなの」
 そんな楓の悩みを、茅は一蹴する。
 最近、同じ学校の同じクラスに通うようになってから、楓は、茅と話す機会が多くなった。
「学校はそのための……自己形成と、学習のための場なの……」
 茅は首を巡らせて、休み時間中の雑然とした教室内を見渡すよう、楓の視線を誘導する。生徒たちは三々五々、適当に仲間たちでグループを作り、雑談に興じている。
「楓は、ここにいる生徒たちより、よっぽど高性能なの。でも、単機能。自我を抑圧するように教育されてきたの……」
 ……楓は、もっと自分自身のことを考えたほうがいいの……。
 と、茅はいう。
 茅のいうことは、荒神や荒野のいうことと重なっているようでいて、少しずれているような気もする。茅のいうことは時々難しすぎて、楓には理解しきれない時があった……。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(14)

第五章 「友と敵」(14)

 徳川とか玉木とか、時折奇妙な生徒はいるものの、荒野のクラスメイトを見渡す限り、大半の生徒は平凡なごく普通の学生たちだった。その辺は三島百合香が指摘したとおり、何百人も通う施設の中に数人は変わり種が混じってしまうのは、確率の問題だろう、という気もする。
 その観点から見ても、三学期という半端な時期に四人まとめて転入してきた荒野たちが目立つのも道理で、一人一人でも充分に目立つの外見の持ち主なのに、一遍に四人もまとめて転入してきたら……確かに、玉木に指摘されるまでもなく、注目を浴びて当然、な筈なのだ。
 それでも、一年に入った茅と楓は、まだいい。
 始業式の騒動が緩衝材になったということと、ある意味、外見よりも強い印象を残す二人の奇矯な言動のせいで、結果としてかえって荒野や才賀より早く周囲にとけ込んだような気がする。
 荒野がなんとかクラスメイトたちとうち解けてきたのは転入から二週間ほど経過してからで、それも旧知の樋口明日樹、クラス委員の嘉島繁、席が近い本田三枝などが何くれと話しかけてくれるようになって、そこで初めてほぐれたかな、という感じだった。
 荒野は、自分の外見が平均的な日本人の集団の中に入ると浮き上がることを知っていたし、均質性を重視する日本が、異質な存在に対して過敏に反応するとも聞いていたので、特に焦るということもなかったが、その程度の時間でクラスメイトたちとタメ口をきけるようになったのは僥倖だった、とも、思っている。
 そうした荒野に比べ、才賀孫子は未だにクラスの中で孤立しているように見えた。孫子の、一見して取り澄ました様子が同性異性を問わず周囲の者を遠ざけている、というのもあったし、孫子も、話しかけられれば慇懃に答えはするが、どうも積極的にクラスの連中と交わろうとはしていない。
 通学時や狩野家での孫子は、従来通り、それなりに感情を見せるのだが、学校では少し表面を取り繕っているように見受けられた。
 四人の転入生のうち、それまで「学校」という環境に馴染みのなかった三人がどうにかこうにか環境に適応しつつあるのに、唯一の学生生活経験者である孫子が未だに馴染んでいない……という奇妙な逆転現象が起こっているわけで……。

『……前の学校でも、あんな調子だったのかな……』
 そう思った荒野は、ある朝、通学の途中でそれとなく孫子に前の学校での様子を尋ねてみた。
「……前の、学校……」
 荒野が尋ねると、孫子は形の良い眉をぴくりと吊り上げた。
「あ、あなた……女子校……それも、良家の子女しか通わないような閉鎖的な女子校が、どれだけ非人間的な環境か、知っていて……」
「あの」孫子が、自分の肘を抱いて小刻みに震えだした。
「……そ、そんなに大変なところなのか?」
 そもそも、ほんの子供の頃を除けば学校に通った経験がない荒野は、まるで想像がつかなかった。
 孫子は顔面を蒼白にしながらコクコクと頷いた。
「……年末に手伝った同人誌……あれ、同性愛を扱ったものもあったでしょ?」
 ……あれを地でいくような世界だった……いいや、現実のほうがはるかに上にいっていた……と、孫子に告げられ、荒野はこめかみを指で掻きながら、返答に困った。
 孫子の説明を要約すると、以下のようになる。
 元々、派閥とか友人関係を重視する年頃の少女ばかり……しかも、異性にあまり免疫がなく、卒業後も生家の都合優先で結婚するのが当然だと思っているような箱入り娘が集まってくるような学校では……。
 人間関係は、強固、というよりは、粘着質なものになる、と……。
「今の学校に移ったことだけは、伯父様に感謝していますわ……」
 孫子は、呟いた。
 本来になら異性に向かうべき興味が、同性に向かう。生徒間に、比較的自由に振る舞えるのは学生のうちだけ、という共通の認識がある。加えて、生徒たちの家柄がよいから、表面を取り繕うことだけは、幼い頃から仕込まれている。親同士が取引相手だったりしたら、それも生徒の関係に反映してくる……。
 要するに、濃厚な疑似的同性愛関係が、どんどん陰湿な方向に向かう下地が揃っているのだ……と、孫子はいう。
「……もちろん、まともな生徒も多かったのですけど……」
 最後にとってつけたように孫子がつけ加えても、孫子の説明を拝聴していたみんなは、しばらく二の句が継げなかった。
「……あ、あれだ。
 わたしも、ちょい前まで女子からラブレターとか貰ってたけど……そういうの聞くと、まだまだ可愛いほうだったんだな……」
 飯島舞花が慌てて取り繕うようにいって、「ははははははは」といかにもわざとらしい、乾いた笑い声をたてた。
 舞花がラブレターを貰わないようになったのはここ数ヶ月のことで、栗田精一との交際をカミングアウトしてから以降である。
「……ってことは、才賀、前の学校でも今みたいにしてたわけ?」
 不審に思っていた孫子の学校での態度について、なんとなく納得してきた荒野は、孫子にさらに質問を重ねた。
「今みたいに……っていうのがどういうことをさすのかよくわかりませんけど……」
 孫子は荒野に頷いてみせた。
「……前の学校でも今の学校でも、特に変わったことをしているとは思いません」
 孫子の取り澄ました態度は、前の学校で、余分な派閥関係に取り込まれたくない、という一種の障壁でもあったものが、習性となったものだろう……と、荒野は納得した。
 そして荒野は、
『才賀は、学校でも、もっと地を出した方がいい……』
 とも、思った。

「……というわけで、おれも協力するから」
 放課後、いきなり放送部の部室に乗り込んだ荒野は、簡単に孫子の事情を説明し、玉木珠美に協力を申し出た。
「……昨日はインタビューをあっさり断っておいて、それかい」
 荒野を出迎えた玉木珠美は、荒野を値踏みするように目を細めた。
「ま、人手はいくらあっても足りないから、ご協力には感謝するがね。
 で、君、狩野君は具体的になにができる?」
 玉木に昨日のハイテンションな様子はなく、あくまで冷静な、ビジネスライクな態度だった。そっちのほうが玉木という生徒の地で、昨日のは放送用につくったキャラだろう、と、荒野は判断する。
「……まず、才賀についての情報提供……」
 といって、荒野が孫子の実家のことなどを話し出すと、それまであまり荒野に興味を示さなかった玉木は、途端に身を乗り出してきた。
「おい! 才賀って、あの才賀なのか!」
 身を乗り出して、興奮した様子でそう叫んだ後、ふとなにかに気づいたかのように、玉木は座り直して姿勢を正す。
「……それ、おおやけにしても構わないんだろうな?
 あと、裏はとらせて貰うぞ……」
「本人も隠している様子はいないし、公開しても大丈夫だとは思うけど……なんなら、本人に確認してみたら?」
 そうする、と、玉木は頷いた。
「あと、実況中継って具体的になにやるの? 手伝えること、ある?」
「狩野君はパソコンに詳しいか?」
 玉木の眼鏡が光った。
「囲碁の実況だと、映像がないと分かりづらい、という意見が出てな……。
 いろいろ相談した結果、パソコン部と協力して、ネットで映像中継することにした……」
 ウェブカムの応用だよ、と玉木はいった。
 孫子と徳川の囲碁対決に興味を持つ生徒が予想以上に多く、なるべく多くの生徒に見せようとすると、ネットでストリーミング配信して、放映するアドレスを告知する……という方法が一番楽にいける、ということになったらしい。
「……それ以外に、ネット環境がない生徒のために、希望者には、後でDVDに焼いたデータを実費で配布する予定だがね……」
 たかが学校の放送部……と、いえども、かなり本格的なんだな……。
 と、荒野は思った。
 インタビューの件、即座に断っておいて良かった……とも。

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彼女はくノ一! 第四話 (22)

第四話 夢と希望の、新学期(22)

 三時間ほどかけて、羽生譲はデジカメとビデオで楓たち四人を撮影した。あくまでモデルや衣装の雰囲気を確認するための企画用のスナップであり、背景や証明は二の次、ということで、加納家の一室で撮影されたわけだが、最初にノリの良い才賀孫子と茅の撮影を行ってから、あまり乗り気ではない荒野や楓の撮影を行う。単体でポーズを撮らせることもあり、二人とか三人とかでうち解けて話している様子をビデオで撮ることもあり、で、まず絵コンテありき、だった以前とは方法論が明確に違うようだった。
 モデルが茅と荒野の二人から、孫子と楓も加わった四人に増え、一画面に入れる組み合わせを考えるための資料、という側面もあったのだろうし、それ以外にも、今回は種類を多く撮ってなるべく長い期間放映することも考えているようだった。羽生譲は、そのために、撮影をしながらアイデアを練っているような節も見受けられた。
 交代でカメラの前に立ち、羽生の細かい指示に従ってポーズをとったり表情を調整したりしているうちに、最初は乗り気ではなかった荒野や楓も、徐々に羽生の真剣さに取り込まれていく。こうした時の羽生譲の目は妥協を許さない真摯さを含んでいて、付き合っている人間も真剣に対応せざるを得なくなる迫力を持っていた。
「はい。ご苦労さん。
 今日はこれでいいや」
 と羽生譲が宣言した時、揃って高揚した気分になっていたモデルの四人は、ほっとしたような物足りないような複雑な表情をしていた。
「続きは今度の日曜日な……」
 羽生はそう続け、モデルたちに向かって「汗かいたろ? 風呂にでも入って早めに休んで」、とつけ加えた。
 平日の夕食後からの撮影だったのでかなりいい時間になっていたし、明日も平常通りの授業があるわけで、早めに就寝したい即席モデルたちは、女性陣三名が一度に風呂に入ることにした。狩野家の風呂は必要以上に大きく、その程度の人数なら一度に入ってもなんら問題ない。
 風呂の順番待ちをする間、加納荒野は狩野香也がこっそりしたためていたスケッチを発見した。撮影中は気づかなかったが、珍しい服装だったので、先ほどの四人の姿を隅のほうでこっそりと描いていたらしい。服装や体のラインが克明に描写されている割に、顔は細部まで描かれていなかった。三時間強の撮影時間内で、香也はスケッチブック一冊分を四人の姿で埋めていた。
 そのスケッチブックの中の香也の描線は、以前にも増して生き生きとしているように思えた。

 そんなことがあった翌日も、学生たちは学校には平常通りに通う。
「そういや、才賀さん、今度の土曜日に徳川と囲碁対決するんだって?」
 いつも通り適当にマンション前あたりで合流し、適当に挨拶を交わしあった後、飯島舞花がそう切り出した。
「噂で聞いたんだけど……というか、全校的にかなり噂になっているけど……。
 変人対美人、って……」
「相手の方のことはよく知りませんけど……」
 孫子は、徳川篤郎とは一度しか対面していない。
「……狭間先輩に三回に一度勝つような相手なら、不足はありませんわ」
 才賀孫子は何度か狭間沙織に碁の勝負を挑んだが、一度も勝てたことがない。
「……で、負けたら、才賀さんはそのまま囲碁将棋部に入る、と……」
 舞花がそう続けて、孫子が頷く。
 そういう約束だった。
 孫子にしても、自分が全力を出して挑める相手が居るクラブになら、籍を置いてもいいと思っている。
「で……才賀さんが勝った時は、相手はどうすんの?」
「別に、なにも……」
 孫子は澄まして答えた。
 この前の昼休み、なんの前置きもなく「挑戦することを許す」などと尊大な事を言い出した生徒の態度にはたしかにカチンと来たところもあったが……だからといって、必要以上に敵意をもっているわけでもない。
 まるで頭に来ない、というわけではないが、長年定石を研究し、それなりに経験を積んでいる孫子がまるで歯が立たなかった相手、狭間沙織に、一定の割合で勝てる相手なら、その程度の態度はとってもいい、と、孫子は思っている。
 孫子は、負けず嫌いではあったが、同時に、実力を持つ人間を認める度量というものもあった。ある種の才覚を持っている人間に対して、相応の敬意を払うのに、躊躇はしない。
「……狭間先輩の話では……」
 荒野はそう前置きをして、孫子に対戦相手に対する情報を伝える。
「あの人、相当な奇手を使うって……」
 努力家で勉強家、秀才肌の孫子に対して、相手の徳川篤朗は、瞬間のひらめきや思いつきをその場その場にうまく適応させて結果に結びつける天才型の人間だ、と、荒野は聞いていた。
 碁でも、その他の場でも……。
 ある意味、勝つための努力は惜しまず、しかし、突発的なトラブルに対する順応性には弱い孫子との相性は、かなり悪い……と、荒野は見ている。
「……それは……楽しみですわね……」
 荒野の言葉の意味を理解した孫子は、満足げに微笑んだ。
 その孫子の表情をみて、荒野は、孫子が、本当になにを望んでいるのかを、初めて察した。
『孫子と楓は……本当に、正反対なんだな……』
 荒野は、そう思う。
 恵まれた境遇に産まれた孫子と、そうではない楓。
 どちらも努力家で、潜在的な能力に恵まれていて……でも、今までは、自分が勝者の側に立つのが当然だと思っていた孫子と、そうではない楓……。
『この場に孫子を置いた鋼蔵さんの判断は、正しい……』
 荒野は、そう思う。

 器用で、努力家で、大抵のことはできる孫子は……自分以上に突出している存在と接することを、無意識裡に、求めている。
 楓の存在にあれだけ過剰反応しているのも、香也に惹かれているのも、勝てないと分かりながらも狭間沙織に何度も碁を挑むのも……同じ心理から、でている……。
 富にも才能にも容姿にも恵まれた孫子は、この土地に来るまで、物事が自分の思い通りに動くのが当然、という環境下にいたはずで……そんな孫子は、多分、自分では意識していないのだろうが……自分の思惑を超えた存在に、触れたいと思っている。
『鋼蔵さん、あの時点でそこまで見抜いていたのかなぁ……』
 だとしたら、とてもではないが、敵わない……と、荒野は思う。
 あの時、鋼蔵は、荒野たちを見渡して「ここには面白い子ばかりがいるなぁ」といっていた。流石、才賀の首領、というとこか。
 人を見る目、見抜く目が、荒野のような若造とは、まるで違うのだ。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(13)

第五章 「友と敵」(13)

「……とりあえず、君が物まねが得意だって事は分かった……」
 かなりしらけた気分になった荒野は半眼にならないように気をつけながら玉木珠美言った。
「……で、ね。マッチメイクの件、手配したの狭間先輩だから。おれがマッチメイクしたっていうのは、完全に君の誤解。おれ、狭間先輩に才賀のこと相談しただけ。そしたら、狭間先輩が囲碁将棋部のこと持ち出して、今のような状況になっちまったわけで……」
 加納荒野は警戒していた。
 初対面になる玉木珠美……とかいうこの生徒、なんだかノリが羽生譲に近い……。
『……深入りをするのは、危険』
 荒野の本能が、警報を発していた。
「……っていうわけだから、おれ、ほとんど無関係。詳しいことは、狭間先輩に聞くといいよ……。
 そういうことなんで……じゃあ、今日はこのへんで!」
 しゅた! と片手を挙げて、荒野は保健室から出ようとする。これ以上巻き込まれたくはない、というのが本音だった。羽生譲もそうだが、悪気もなく実に楽しそうに他人をオモチャにするこの手の人種が、加納荒野はかなり苦手だった。この町に来るまでこの手の人種を知らなかったので気づきもしなかったが……。
「逃がすな! うどー一号!」
「……」
 玉木珠美と一緒に保健室に入ってきたガッシリとした体型の男子生徒が、保健室を出ようとした荒野の手を掴んで拘束した。
「その子は有働祐作。
 わたしと同じ、放送部員で滅多にしゃべらないシャイなナイス・ガイだ!
 ちなみに、ウドの大木とか使い古されたシャレをいうのは禁止だ!」
 玉木珠美が同じ放送部員である有働祐作について説明する。
 有働祐作という生徒は、荒野よりも一回り大きい位だったが、横幅と厚みがある男性らしい体型の持ち主で、なんの予備知識も無しにあったら、なにかしらスポーツをやっているもの、と、思ったことだろう。
『……それでも、百八十前後かな?』
 と、荒野は有働祐作の身長を目測で見積もった。同年配の生徒のなかではでかい方なのだろうが、飯島舞花と比べるとたいしたことはないな、と、思ってしまう。最近、飯島舞花というデカ物と顔を合わす機会が多いので、荒野の中で身長に対する感覚が狂っていた。荒野の二の腕を掴んでいる力も、一般人としては強い方だろう。
『……なんだかなぁ……』
 と思いながらも、荒野はとりあえず保健室の脱出を断念した。振り払うことも可能だったが、そこまで強引に荒野を引き留める理由を知っておきたかった。
「えっと……まだなんか、おれに用があるの?」
 歩みを止めた荒野は、にっこりと愛想笑いを浮かべて振り返り、首謀者である玉木珠美に問いただした。
「さっきも説明したとおり、才賀とか徳川君とかの件、おれはほとんど部外者だから……」
「その件はそれでよし。
 ……しかぁし!」
 玉木珠美は少し間を置いて、閉じていた目をいきなり見開いて、叫んだ。
 擬音でいうと「くわっ!」というやつだが、荒野は玉木のそうしたその芝居がかった挙動に接し、内心でいよいよ白けきった。
「……もとより、放送部の興味は、加納荒野君、君自身のほうにより大なのだねぇ!
 ある時はケーキ屋の猫耳! またある時は謎の転入生兼帰国子女! そのまたある時はまったく似てない美少女の兄! さらにまたある時はリーマンな国語教師の遠縁! さらにさらにまたある時は何の伏線もなしに現れたパツキン・ガールの身内!
 こんなにも話題性てんこ盛りで、その実、正体に関しては確実な情報がまるで流れてこないという加納荒野君……一体、君は何者なのだぁ?
 ということで、我が放送部はここに、加納兄弟に独占インタビューを申し込む!」
「玉木さん、所々日本語がおかしいぞ……」
 ハイテンションに人差し指でびしぃ! と指さされ、玉木珠美に詰め寄られた荒野は、それでも落ち着きはらった様子を崩さずに、やれやれと首を振った。
「それから……いろいろ不信感をお持ちなのは分かったけど、独占インタビューの件は謹んでお断りする。
 おれにもプライバシーってのがあるから……」
 加納荒野は冷静だった。
 アクションこそ大げさであるものの、玉木の荒野たちに抱いた疑問や興味自体は、不自然だとは思わない。荒野個人は極力目立たない、平凡な一般人の学生を演じるつもりだったが……この学校に通う前に遭遇したいろいろな偶然や、それに一族の他の者の勝手な行動により、荒野たちは当初の予定よりもずっと目立つ存在になってしまっている……。
 ここまで来たら……疑問を持つな、興味を持つな……というほうが、どだい、無理なのだ……。
 が、そうした興味本位な視線に付き合って、いちいちリアクションしなければならない理由も、荒野の側にはないのであった。
「……なるほど……プライバシー、か……」
 荒野が冷静な態度を崩さないのを見て、玉木珠美は目を細めた。
 そうして真剣な顔つきをすると、ついさっきまでのハイテンションな時とは随分印象が異なる。
「……そういいたくなる気持ちも、分からないではないがな……。
 加納君……君に興味を持ったもの、一人一人に説明してまわるより、この機会に全校に君のことを正確に知って貰った方が、後々のためにもいいとは思わないかね? 放送部は、君がみんなにそうと信じ込ませたい君の情報を流布することが可能だし、君にとってもいい機会だと思うが……」
 こうして真剣に話そうとすると、玉木という生徒も意外にいい顔をする……と、荒野は思った。
「全校、とか、みんな、なんて抽象的なものに、自分のことをしゃべってもなあ……」
 荒野は愛想笑いをとどめたまま、頭を掻いた。
「おれ、自分のことなんて、すぐ目の前にいる人たち、毎朝挨拶しあうような身近な人たちにさえ分かって貰えば、それで充分だよ……。興味本位で誤解したり変な噂流したりしたい人は、勝手にやってりゃいいと思う。少なくとも、いちいち説明して誤解を解きたいとは思わないな……」
 実は、玉木がなにげにほめのかした「風評」というのは、意外に、怖い。
 一度弾みがつくとどこまでもエスカレートする。
 今の時点では、荒野たちは「なんか風変わりな」程度に認識されている。が、荒たちの持つ常人離れした能力が、なにかのきっかけで衆目を集めはじめたら……それまで親しく付き合ってきた人々の大半は、荒野たちを怖がり、排斥し始めるだろう……。
「……玉木さんはマスコミ方面に行くのを志望しているみたいだから、メディアに対しておれよりも幻想を持っているんだと思う……。
 おれ、悪いけど、校内放送で自分のことしゃべっても、たいして状況は変わらないと思う……。
 だから、インタビューも、パスな……」
 玉木という生徒が、なにか確信を持って荒野に興味を持ち始めた……とは思わない。確かに目立つ存在であるから、興味を持っただけで……一族のこと、などは当然、知らないだろう。
 ただ、いろいろかぎまわるうちに、「……偶然にしては……」と思い始め、口実を設けて、荒野に直に対面する機会を作った……ということなのだ、と、荒野は、今のやりとりをそう解釈する。
「……そっか。……それは残念」
 荒野がまともに視線を合わせてそう断ると、玉木珠美は、ふっ、と微笑んで、視線を外した。
「……それでは、放送部は独自に、地道に君の周囲をかぎまわることにするよ……」
 そういって、玉木は、有働を伴って保健室から出て行った。
 インタビューは諦めたが、荒野の周辺は調べ続ける……と、いっている……。

「……ま、あれだな……」
 保健室から出てきた三島百合香は、荒野の背中をぽんと叩いた。
「……謎の多い主人公に不信感を持ってつきまとうキャラ……ってのもお約束だよな……」
「……日本の伝統、とかいうのはナシにしてくださいよ……」
「……ぎくぅ!」
 荒野は、三島の機先を制した。

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彼女はくノ一! 第四話 (21)

第四話 夢と希望の、新学期(21)

「……ゴスロリ……」
 そう呟いた羽生譲は、咀嚼していた豚の生姜焼きを豆腐とわかめの味噌汁で喉の奥に流し込んだ。
「……うーん……見た目、インパクトがあるのは確かだけど……。
 思いっきり趣味に走った提案だな、ゴスロリ子ちゃん……」
「……ゴスロリってなんすか?」
 そうした事柄に疎い荒野は、キャベツのみじん切りを箸で摘みながら、誰にともなく尋ねる。
「黒くて、ひらひらーっとしてて……。
 あれ、一言でいうと、孫子ちゃんがこっちきた初日にやっていたような恰好。
 リボンやフリル目一杯あしらった黒めのファッション・スタイル……」
 羽生譲は里芋の煮っ転がしを小鉢からとりながら、その筋の愛好者が聞いたらその場で卒倒するか怒り出すような、皮相的かつ大雑把な説明を荒野に行った。
 それでも、「孫子ちゃんがこっちきた初日にやっていたような恰好」という具体例を提示されたので、荒野は「ああ。ああいうのか……」とすぐに了解する。
「……茅はどうだ? ああいう恰好?」
 荒野は内心で「ああいうの似合うの、女の子だけだもんな……」と思って、かなり楽観的な気分になっていた。
 今度は、自分がモデルになる必要はない、と。
「……別に構わないの……」
 茅は白菜の自家漬けを口に運びながらあっけなく同意した。
 基本的に、自分がどういう恰好をさせられるのか、あまり関心がないらしい。
「……じゃあさ、今回は女の子二人でいこうよ。以前とは変化をつけてさ……」
 正直、もう学校で「猫耳」呼ばわりされるのに飽き飽きしていた荒野は、自分にとって有利な方向に話しを進めようとする。
「才賀も、実はそういう格好、したいからそういう提案するんだろ?
 茅と才賀の二人ゴスロリ……絵になるじゃぁないか……」
 荒野がそう水を向けたのは、孫子と茅がモデルを務めれば、自分にまで出番が回ってこないだろうと踏んだからだ。
「……孫子ちゃん、やるの?」
 羽生譲は荒野の言葉にインスピレーションを受けたのか、一旦箸を置いて居間の隅に放置してあったスケッチブックを手にした。
「衣装提供は是非お願いしたいけど、それ以外にもモデルやってくれるとなると……おねーさん萌えて燃えちゃったりしちゃうなー……って、柏姉の真似」
 顔が小さく手足が長い才賀孫子、長髪で綺麗な顔立ちをした茅が、ツーショットでいかにもごすろりーな格好をしているイメージが羽生の中で発酵しつつあった。
 ……才賀孫子は手足の長さを強調するため、ノースリーブでミニ。ただし、タイツなどで手足は覆い、出きるだけ皮膚は露出させない。それでも、ほっそりとしたボディラインは強調できる筈だ。いっそ、造り物の黒い翼でも背中につけるか。小悪魔、ないしは、墜天使のイメージで……。
 ……茅は、孫子とは反対に長袖にロングスカートのオーソドックスなドレス姿。もちろん、ごてごての過剰なまでのフリル&リボン付き。シュルエットを人工的な物にするため、古くさいガーターベルトやペティ・コートも、あえて使う。ちょっと退嬰的なメイクとあわせ、十九世紀的のちょっと退屈しているご令嬢、って感じで……。
 箸を置き、羽生譲は、しゃこしゃこしゃこ、と、スケッチブックにシャーペンを走らせる。
 イメージが沸いてきた時はこんなもんだ……ということを解っているので、食事の途中でスケッチをし始めた羽生譲を、狩野真理も狩野香也もとがめ立てはしない。黙々と食事を続けている。
「……そうだ。くノ一ちゃんはどうする?」
「……んんっ!
 わ、わたしですかぁ……」
 いきなり羽生に尋ねられた楓は、慌ててご飯を嚥下した。
 楓は、今までの会話の流れが、イマイチ飲み込めていない。
「……んじゃあ、くノ一ちゃんもな……」
 羽生譲は楓がまごついているうちに、さっさと「楓も参加する」ということに独断で決定してしまった。
 目を爛々と輝かせ、シャーペンを走らせる。
 茅が清楚で孫子が小悪魔。それなら楓は……。

「……これ、本当にわたしが着るんですかぁ……」
 数日後、羽生譲がどこからか調達してきた衣装を手に取った松島楓は悲鳴に近い声を上げることになる。
 羽生譲が楓のために用意したのは、真っ赤なエナメルのボンテージ・スーツだった。
「……くノ一ちゃん、わたしと違って胸あるしメリハリのある体型しているから、こういうボディラインがくっきり出る格好も十分いけると思うぞ……」
 羽生譲は、楓からクレームが来るとはまるで思っていないらしい。
「ほれ。目の回りだけ隠すマスクもあるでよ。これもつければ妖しさ爆発、これで今日から君も女王様だ!
 はいはい。今日は企画書用の写真撮るだけだから、ちゃっちゃと着替えてくださいねー。三人娘さんあんどカッコいいほうのこーちゃん……」
「……なんでおれが……こんな……」
 加納荒野も、手渡された衣装を手にしたままぶつくさ言っていた。
 が、そうした抗議の声は仕切モードに入った羽生譲の耳には届かないのであった。
「……んー……無理……」
 企画書用写真の撮影は、平日の夜、狩野家で行われたので、香也もこの騒動を炬燵に入りながらぼーっと眺めていた。
 香也は、ひきつった顔をして棒立ちになっている荒野と楓に向かって訳知り顔に説明しはじめた。
「……羽生さん、ここまで入っちゃったら、モデルなんか自分のイメージ具現化するための道具としか考えてないから……」
 羽生譲は、道具が文句言っても受け付けないよ、と、香也はいっている。
「はいはい。なんでもいいからさっさと着替える! これでマスターのOKが出れば、本番は明後日なんだから……」
『……香也君も別口で昔、羽生さんの被害にあっているのかもしれないな……』
 加納荒野はそう思うことでなんとか自分を納得させることにした。
 そして、手にしたチョコレート色のスーツに着替えるために別の部屋に向かった。
『……どっから調達してくるんだろう……こんな凄まじい色の衣装……』
 荒野のために用意されたスーツは、茅のものと合わせるためか、古くさいデザインのスリーピースで……古くさい、というのは、言い方を変えればオーソドックスな、といいうことでもある。
 色のコーディネートを除けば、一番「マトモな」衣装である、ともいえた。
 ……町中では、絶対に着たくはないが……。
『……まあ、こんな機会でもなけりゃあ、こんな色のやたらフリフリした服、着る機会もないだろうし……』
 茅と孫子は意外にノリノリらしく、早々と着替えて日傘や黒い翼を振りながら羽生の指示に従ってポーズをとっている。
 楓だけが納得いかないとかいった表情をして、「……あぅあぅ……」とか途方に暮れながら、いつまでも立ちつくしているのであった。

[つづき]
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髪長姫は最後に笑う。第五章(12)

第五章 「友と敵」(12)

「……あー。徳川かぁー……」
 その日は部活がない日だったので、放課後、荒野は保健室に直行して三島百合香に報告と相談をした。才賀のこと、とはいえ、荒野が狭間紗織に相談したことが契機となったらしいから、無関心ではいられない。
「……ま、イロイロとアレでナニなヤツだが、実害はなかろう……。
 好きにやらせとけ……」
 三島百合香が、荒野の視線を露骨に避けて言葉を濁したので、なにかあると感じた荒野は、さらに三島を問いつめることにした。
「……いや、あいつとは……以前、ちょっとな……」
「ちょっと……なんなんですか……」
「この学校に来たばっかのわたしアイツが、どちらが白衣が似合うかで揉めたもんだから……。
 その時、さんざんやりこめてやって、ヤツが学校内で白衣を着るの禁止してやった……。
 ……いや、だからな。ヤツもこっちも白衣がトレードマークでな……」
「……学校内で、人気投票でもやったんですか?」
 小学生並みの体格の三島とやせっぽっちで身なりにあまり構わない徳川篤朗とが、ともに白衣姿で「こっちのほーが似合うもんねー」、「いいや、絶対こっちだもんねー」などと幼稚園児並の口喧嘩している様子がさまざまと目に浮かぶようだった。
 そんな想像が容易に行えるようになっている自分に気づき、荒野は内心ひそかに頭を抱えた。
「いや。弁舌ではこっちのほうが上でな。
 議論を誘導してこっちの得意なジャンルに引きずり込んで、コテンパンにしてやった」
 どういうロジックを駆使したのか不明だが、赴任してきたばかりの三島は、生意気な徳川篤朗と口論の末……何故か「料理対決」で負けた方が、以後、校内で白衣着用を禁止する……などという、色々な意味でとんでもない条件を呑ませ……結果、以後、徳川篤朗は、白衣着用を禁止された、という……。

「……なんなんですか、その料理対決ってのは……」
「日本の伝統的な勝負方法だよ。
 アジヘイとかマンタロウとかテツジンとか……」
 ……三島の話しを鵜呑みにすると、日本の伝統文化に対する誤解が蓄積していくばかりのような気がする……のは、気のせいだろうか……。
「……あの時は鮟鱇勝負やってやったんだ。
 素人に捌ける魚じゃないから、ヤツ、ほとんどなんの手出しもできないでやんの……」
 三島百合香は、にしし、と、笑った。
 鮟鱇は、プロでも捌ける人はかなり限られている……と、荒野は思った。
 というか、……そんなくだらない理由で、保健室の先生が、本気で生徒と争うなよ……。
 ……とりあえず、……。
『……先生も先生だけど、その徳川ってのも、確かに相当にアレでナニだなぁ……』
 とりあえず、呆れるのに飽きた荒野は納得することにした。
「……お前さん、かなり呆れているようだけどな……この学校、その手のイベントに関してはノリがいいから。
 というか、放送部にかなり活きのいい問題児が一人いて……」
 三島百合香がそういいかけた時、保健室の引き戸ががらりと開けられ、マイクを持った女生徒とビデオカメラを持った男子生徒が入ってきた。二人とも、「放送部」と印刷された腕章をしている。
「……噂をすれば影、だな……」
 三島百合香は他人事のように呟いて、冷めかけたお茶をの入った湯飲みを傾けた。
「はい、カメラ廻して。
 いい? 三、二、一……はい!

 わたくしは今、保健室にいる話題の転入生、二年B組の狩野荒野君の元におります。
 狩野君。
 今回の徳川篤朗君と才賀孫子さんの囲碁対決は、狩野君がマッチメイクしたとの噂が流れておりますが、それ、本当でしょうか?」
「……え?
 あ……あ……」
 何の事前説明もなくいきなりマイクとカメラを突きつけられた狩野荒野は、頭の中が真っ白になった。
「……って、いうか、なに?
 ちょっと! なんで勝手にカメラ廻してるの! 駄目! 肖像権侵害っ!」
 荒野がカメラに向かって手を振って自分の姿を隠そうとしたので、マイクを持った女生徒はカメラマン役の生徒に合図し、一旦カメラを止めさせた。
「……もー……ノリ悪いなぁ、この転入生は……」
 荒野に振り返った女生徒は、露骨にふくれっ面をした。
「いや……ノリ悪いって……そもそも、君たち、誰? 何者?」
「……なにぃ!」
 その眼鏡の女生徒は、のけぞって、叫んだ。
「……わたしを知らない生徒がいたのかぁ!」
 その大仰なジェスチャーをみて、荒野は半眼になって三島百合香を振り返る。
「……なあ、先生……日本の学校ってのは……徳川とかこんなんばっかりなのか?」
「お前がいうな、お前が……」
 三島百合香は相変わらず出がらしのお茶を啜っている。
『……現役でニンジャやっている学生が、それいうかね……』
 という思考は、放送部の連中がいる手前、口には出せない。
「お前のクラスメイトを見てみろ。大半はごくごく普通の、平々凡々たる生徒だ。
 たまーに、何百人に一人とか割合で、徳川とかお前とか才賀とか、そこの放送部みたいなのがいるだけの話しでな……」
「申し遅れました! わたし、こういうもんです!」
 マイクを持った眼鏡の女生徒が、荒野に名刺を手渡す。
 その名刺にはゴチック体で
 未来の女子アナ(全国ネットキー局就職希望)
 放送部部長
  玉木珠美

 と印刷されていた。
「……たま、たま……?」
「タマタマいうなっー!」
 玉木珠美は一度シャウトしてから、ゴホン、と咳払いをし、
「失礼。一応、お約束ということで。
 ……そういうわけで狩野君。
 徳川君と才賀さんの囲碁対決を、放送部で独占生中継したいのだが、その辺どうかね?」
「どうかね? と聞かれたところで、こっちは当事者じゃないし……。
 どういうわけでおれの所に来たのか知らないが、そういうのは順序として、まず徳川君なり才賀さんなりに了解を求めるべきなのでは?」
「お二方にはすでに打診して快くご了承いただいた。
 才賀さんは、
『ふっ。ご存意にどうぞ』
 徳川君は、
『そんなの好きにするのがいいのだ!』
 と申しておりました」
 いきなり才賀孫子と徳川篤朗の物真似を交えて荒野に説明しだす玉川珠美。物真似も、特徴を掴んでいて、うまい。
 なかなか芸達者な生徒のようだった。

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