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2006-05

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髪長姫は最後に笑う。第五章(86)

第五章 「友と敵」(86)

「荒野……。
 あーん……なの」
 同じ頃、背負ってきた徳川浅黄をベッドに横たえ、キッチンに戻った荒野は、ある理由によって冷や汗をかいていた。
 浅黄を寝かしつけて戻ると、昨夜のカレーの残りを暖め直したものを、キッチンで茅が皿に盛っていた。
 カレーは、一晩ぐらい置いた方が味に深みが出るのだが……。
 茅は、スプーンを荒野に顔先につきつけるようにして、執拗に「あーん、あーん」と荒野に口を空けるように催促している。
 荒野は、「……恨むぞ、玉木……」とか「……浅黄ちゃんが寝ている時でよかった……」とか、思ったりした。
 とりあえず、興味を持ったものは、一通り試して見ないと気が済まない茅の性格も、いい加減、どうにかならないものか……。
 世の中には、「裸エプロン」とか「あーん」とか、自分とは与り知らぬ場所でただ存在してくれればそれでいい! という事物も、少なからずあるのだ……。

 しかし、間の悪いことに、観念した荒野が口を空け、二口目、三口目……と食べ続けている最中に、目を擦りながら起きてリビングに入って来た浅黄に目撃されてしまう。「あー!」と大声を出されてしまった。
 おかげで荒野は、茅の膝の上に乗った浅黄にからも、「あーん」をしてもらうはめになった。浅黄も、茅に負けず劣らず、好奇心が強く、思いついたことは、一通り試してみたい気質であるようだ。
 一応、浅黄に口止めはしておいたが……何分、四歳児の口約束である。どこまであてになるのか、はなはだ心もとない。

 翌朝も、浅黄がいたので、昨日の朝と同じく、荒野が留守番をして、茅だけが走りにいった。どうせ三人と一緒になるだろうし、もし三人が来ないようであれば、早めに帰ってくるように茅にいっておいた。
 まず大丈夫、とは思うもの、人目の少ない夜や早朝に茅だけを外出させるのは、未だに不安がある。かといって、預かった浅黄を長時間一人にしておくわけにもいかず、結局荒野は、マンションのエントランスまで茅を見送っていき、三人が茅と合流することを確認してから、マンションに戻った。

 浅黄はきっかり七時に目を覚ます。
 昨夜も同じく時間に目を覚ましたから、普段の起床時間を体が反復しているのだろう。浅黄をバスルームにある洗面所に連れていき、キッチンから持って来た椅子の上に浅黄を立たせ、タオルと篤朗が持参したお泊まりセットの中から歯ブラシなどを用意してあげる。
 そんなことをしていると、茅が三人を引き連れて帰って来た。
「……なんだ。
 お前らも来たのか……」
 荒野はそういって四人を出迎える。
「なんだはないだろ。なんだは」
「こっちはお客だぞ。お客」
「……せっかく来てやったのに……」
 口々に不平を言いはじめる三人に、荒野は問い返す。
「別にいいけど……なんだって、今日に限って向こうの家に帰らないんだ?」
「向こうの家、まだまだ全員、寝ているんだよ……」
 なるほど、と、荒野は納得する。
 狩野家の人々は、いつもは日曜や休日でも同じ時間に起きていると思ったが……たまには、寝坊もするらしい。真里以外の住人は、昨日の午前中あれだけ泳いだ訳で……少しぐらい、長く朝寝を楽しみたい気分なのだろう。
「……お前らの分まで、朝飯の用意していないぞ……」
 荒野がそういうと、
「途中のコンビニで、ちゃんと買って来たもんね!
 トースターくらいは使わせてよ!」
 ビニール袋を掲げてみせる。
「あと、とっととバスルームから出てけ! 覗くなよ!」
「覗かねーよ……。
 しかし……用意周到だな、お前ら……」
 狩野家の人々がまだ寝ている、というのは単なる口実で、三人は茅や浅黄と遊びたかっただけなのではないのか、と、荒野は思った。
 そして、茅と三人がシャワーを浴びている間に、荒野はトーストとサラダ、ベーコンエッグという簡単な朝食を作る。トーストとベーコンエッグは、材料が不足していたので茅と浅黄と自分の分しか用意できなかったが、野菜は普段から余分に買い置きしているので、かなり多めに作った。
 やがて、茅を先頭にした一団がバスルームからぞろぞろと出てくる。
 茅がまずテレビをつけ、浅黄はソファに座り込んでテレビに見入る。日曜の朝、茅お気に入りのスーパーヒーロータイムがそろそろ始まろうとしている時刻だった。三人組は、コンビニで買ってきたばかりの食パンをトースターにほうり込んだり、「グラス、借りるよ」といって、やはり持参した紙パックの牛乳やジュースを用意し始める。
「……ベーコンはないけど、玉子くらいならあるぞ。
 目玉焼きくらい、作るか?」
 荒野がそういうと、
「玉子だけくれ。スクランブルエッグにする」
 ノリから、そういう答えが返って来た。
『……一度、敬語の使い方教えなけりゃな……』
 と思いながらも、荒野は半分ほど残っていた玉子のビニールパックを冷蔵庫から取り出して、ノリに渡す。
「茅と浅黄ちゃん。ご飯、冷めちゃうよ」
 荒野がそういうと、ちょうどCMを放映していたので、テレビに釘付けになっていた二人がとことことキッチンにやってくる。
 どうしても、テレビが気になるらしい……。
 ノリが、玉子五個分のスクランブルエッグと焼き上がったトーストを皿に乗せて、そのテーブルに置き、ようやく朝食がはじまった。

 それからの朝食の時間は、荒野の予測に反して静かに進行した。
 と、いうのは、荒野を除く全員が、テレビで放映していた「奉仕戦隊メイドール3」に見入っていたからだ。

 ……一旦は敵に寝返ったメイドブラックは、メイドール3の元に復帰したものの、やはり仲間との関係まではたやすく修復する訳ではない。内部に不安要素を抱えたまま、奉仕戦隊はいよいよ最後の敵、ガンドール大帝に対峙する。しかし、その最後の敵は、今までの強敵など問題にならないほど巨大な魔力を秘めていた。
 嘲笑とともに翻弄され、成すすべもなく傷つき、倒れていくメイドール3と御剣兄弟。
 すわ、全滅か!
 と思われた、ちょうどその時。
 単身、前に飛び出したメイドブラックが、大帝の魔力を一人で受け止め、大帝に抱きついて動きを封じる。
 メイドブラックは、叫ぶ。
「……今だ! わたしごと、大帝を倒せ!」

 ……というところで、次回に続く。

『……ベタだなぁ……』
 と荒野は思ったが、ほかのやつらは真剣に見入っていた。
 エンディングテーマの「メイドール体操1! 2! 3!」が流れ始めると、荒野を除く全員が食事そっちのけてテレビの前で歌って踊りはじめる。
 どうやら、茅と浅黄に続いて、三人組までこの番組のファンになったようだ。

[つづく]
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彼女はくノ一! 第五話 (44)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(44)

 翌朝、香也は見事な筋肉痛になっていた。

 養成所での経験から、そうしたことの処理にはなれている楓が、起き上がろうともしない香也の体をパジャマ越しにマッサージしていく。マッサージ、とはいっても、決してやさしいものではないらしく……。
「痛い! 痛い痛い痛い! 痛いよ! 楓ちゃん!」
「……今、痛くして血行をよくしておいたほうが、後々楽なのです……。
 知っていますか? 筋肉痛って、毛細血管が切れて、内出血している状態なんですよ? だから、こうして丁寧に揉みほぐしたり、お風呂に入って暖めて、無理にでも血行をよくしていかないと、なかなか直らないのです……」

 ぐりぐりぐりぐり、と、楓の凄い握力で全身を揉まれ倒された香也は、痛い痛いと当初痛い痛いと悲鳴を上げ続けるばかりだったが、一時間以上もそうしていると今度は満足げなため息をつくようになっている。

 どうやら、血流が滞った部分が一通り揉みほぐされ、楓のマッサージも、痛みを通り越して気持ち良さを伝えるものに変化したらしい。
 香也が「あぅう。あふぅ」とかいうどこか切なげなため息をするようになると、楓は、香也の背中に自分の乳房を押し付けるように馬乗りになって体重を乗せ、腰の部分を両手で揉みほぐしながら、「ここですか、ここがいいのですか?」などといいつつ、香也のうなじのあたりに吐息を吹きかける。
 香也は、背中に押しつけられた楓の柔らかさと吐息をうなじに感じ、マッサージの気持ちよさとも相俟って、正常な思考能力を奪われてそのまま輪郭がとろけていきそうな脱力感を感じはじめる。
 パジャマ越しに感じる楓の感触に下半身がそろそろ反応し始めているのだが、あまりにも気持ちがいいので、いつものように楓を払いのけて起きあがろうという気力が湧いてこない……。
「……そこまで!」
 孫子が楓の首根っこを掴んで、まるで猫の子かなにかのように持ち上げた。
「いくら休日とはいえ、朝食前からそういうみだらががましい真似は、許しません」

 孫子にそう言われたことで我に帰った楓と香也は、二人で頬を赤らめてバツの悪い表情をした。

 それから洗面所に向かい、顔を洗ってから居間に行く。三人組の姿はなく、羽生譲が外出の支度をして、玄関に向かうところだった。今日は朝からバイトらしい。
 真里は、来週からの長期出張に備えて、荷物をまとめているらしい。二週間に渡って全国各地を転々とする、となれば、用意もそれなりに入念なものになる。
 妙に静かな所から推察しすると、三人組は外出中らしい。
 柱の時計をみると、そろそろ十時近かった。
 楓たちが来てからこっち、規則正しい生活を強いられて来た香也にしてみれば、朝起きてからこれだけ遅い時間まで自室でうだうだしていたのも久しぶりのことになり、裏を返せば、ここ最近、いかに規則正しい生活をしていたのか……という、感慨をあらたにした。
 顔を洗っている間に孫子が暖めて直してくれた味噌汁とご飯、それに切り身の焼き魚に漬け物、というオーソドックスな朝食を手早く済ませ、自室に帰って着替えた後、香也は、自分の頬をパチパチと平手で叩いて気合いを入れ、幾つかの画材を持ち、庭のプレハブに向かう。
 昨日、ほとんど絵が描けなかった分、今日は一日中、プレハブに籠もる予定だった。

 しゃしゃしゃ、と、紙の上を鉛筆が滑る音だけが、プレハブの中に響く。
 この所、香也は人間のスケッチを描く機会が、飛躍的に多くなっている。
 周囲に、描き甲斐のあるモデルが多い、ということ。それに、堺雅史経由で依頼されたゲームのために、多種多様な人物画を用意しなければならなかった、という必然性があった。
 ゲーム用の絵は、他の制作者たちの意見を聞きながら、デザインを一転二転、どころか、十転二十転させていく態、なので、最近では簡単な線画しか用意していない。それを、羽生譲のスキャナとパソコンを使ってアップし、複数の人間の細かな注文に応じながら手直ししていき、ようやく決定、ということになったら、着色する……という工程になっている。その「複数の人間の細かな注文」も、往々にして矛盾することが多く、最近では、その手の意見調整など、面倒なことは堺雅史や楓に任せて、その二人がなんとか取り付けた妥協案を聞いてから、決定稿を描く、という段取りが定着している。楓も堺雅史も、人当たりがよく、そうした意見調整の仕事には向いている、と、香也は思った。
 ……本人は、それなりにストレスが溜まるのではないか、とも、思ったが。
『……ぼくらの年頃は……』
 香也は、クラスメイトや、一緒に登校する人たちの顔を思い浮かべながら、そう思った。
『……個人差が、大きいから……』
 荒野や孫子、飯島舞花や有働勇作のように、ほとんど成人と変わらないような体つきの者がいる一方、香也のクラスメイトや同級生には、まだまだあどけなさが残る風貌の持ち主も、多数いる。柏あんなや堺雅史などは、どちらかと年齢よりも幼くみえるタイプだろう。
『……だから……』
 ガク、テン、ノリの三人組のような、子供子供した風貌のキャラクターを原案に紛れ込ませても、特に問題はないだろう、と、香也は思った。
 どもみち、設定しなければならないキャラクター数は数十名という数になる。
 どこかで極端な差別化をしなければ描き分けられるものではないし、また、見る側も別人として認識できない。極端な話し、「シュルエットで誰だか言い当てられるくらいの特徴付けを行う」くらいのほうがいい……と、いつだったか教えてくれたのは、マンガやアニメに詳しい羽生譲だった。
 特定のストーリーに付属することが前提となっている絵には、香也が普段接している絵画とはまた違った制約や約束事があって、そうした「縛り」に応じた絵を多数描き起こす作業も、こうしたことはやった経験がない香也にとっては、新鮮といえば新鮮で、それなりにいい刺激にはなった。
 年に二回ほど、羽生譲に誘われて行う同人誌の仕事は、そもそも、元になるキャラクターなり画風なりが先にあり、それをいかにうまく模倣するか、という問題だから、一から自分で考え、絵造りをしていかなければならないこのゲームの仕事とは、性質的として、根本から異なるところがあった。
 もっとも、できあがり、色まで付けた完成画をパソコンの画面で確認すると、均一な太さの線画に、べたっとした階調のない色がついている、いわゆるアニメ絵調の絵になっていたりするのだが……短期間のうちにとにかく量をこなさなくてはならないゲームの仕事では、あまり細かい手入れをするわけにも行かず、また、香也自身が、パソコンに向かって絵を描く行為に未だになじめずにいる関係で、その辺は妥協するしかない。
 香也の仕事はキャラクターの設定と、背景画。それに、キャラクターの線画まで、つまり、彩色は別の人が行う、と取り決めて貰った関係上、完成品が香也にとってあまり満足すべきものではなかったとしても、あまり神経質になるべきではない、と、香也は思った。
 自分は、自分の領分を、全うすればよい、と。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(85)

第五章 「友と敵」(85)

 狩野家からの帰り道は、有働に送ってもらうことになった。眠ったままの徳川浅黄を背負った荒野や茅、それに三島も、玉木や有働と一緒に狩野家を出る。外に出ると、ちょうど日が落ちるところで、あたり一面、夕焼けで茜色に染まっていた。
 三島と荒野、茅は、すぐ隣りのマンションだったので、玉木と有働はいくらもしないうちに二人きりになる。
 とはいっても、付き合いはそれなりに長いし、気心も知れた仲なので、いきなり二人きりになっても気まずさを感じる、ということはない。
「今まで、深く考えたこと、なかったけど……」
 いつものように、玉木が口火を切った。話を切り出すのは、いつも玉木のほうだ。
「……カッコいいほうのこーや君が、むやみ人目や外聞を気にするの、分かるような気がする……」
「……それ、ぼくも、今日、分かったような気がします……」
 有働も、そう答えた。
「なんというか……彼らは、ぼくらよりもずっと、強くて、美しくて……」
 ……自分たちとは、異質な存在だ……という感想は、あえて口にはしなかった。
 しかし玉木は、有働がいいかけたことを理解したように、頷く。
「……この前……カッコいいほうのこーや君、自分たちの正体を明かしてから、何度も何度も、聞いて来たよね……。
 ……怖いか? って……」
 何度もそう問いかけてくる……ということは、荒野は、そのように念入りに確認しなければまともな対人関係を築けないような経験を、おそらく、しているのだ……。
 玉木は、そう予測する。
 明白に自分たちよりも優れた存在を目の前にして……その存在を鷹揚に受け入れられる人ばかりではない……ということは、社会経験が浅く、実体験としては、近所と学校くらいしか知らない玉木にしても……容易に、想像ができた。
 平均敵な現代日本人は……根本的なところで、「異質な存在」に対して、敏感に反応する。外見上、ほとんど見分けがつかなくとも、自分たちとは異なる言葉や文化、価値観を持っているだけで、排斥する、という傾向がある。
 それが、荒野のいう「一族」……つまり、外見上は自分たちと何ら変わらないが、格段に優れた能力を持つ人たちの存在を、安易に受け入れるとは……とうてい、思えないのだ……。
 荒野が周囲の目を恐れるのも、当然のことなのだ……と、玉木は理解した。

「……ぼく、これでもジャーナリスト志望、なんです……」
 突然、有働は玉木に一見関係ないような話題を振ってくる。
「だから、放送部に入ったし、そこに玉木にさんのような人がいて、嬉しかった……。
 それで、今度は、彼ら……。
 偶然、なんでしょうけど……今日、ぼく、彼らの姿撮っていて、とてもゾクゾクきたんです。こん身近なところで、なんかとんでもない人達が平然と生活していて、それどころか、普通の生徒たちに混ざって自分と同じ学校に通っている……こんな幸運、ないですよ。普通……」
「商店街の人達は、彼らのこと、ある程度勘づいている節があるんだけど……どうも、見て見ぬふりをしているようなんだよね。
 年末のイベントにあの子たちが出たのだって、どうも、ショッピングセンターで暴れたのをみて、あれと同じようなのを商店街でやってくれ、ってこっちから挨拶にいったのが始まりらしいし……」
 商店街の事情を知っている人達が、楓や孫子について不穏な噂を口外しようとしないのは……彼女らの存在が近年未曾有の人手と売上をもたらした、との認識があったからだ。
 玉木の近所の人たちは、恩人に不利な噂を広めるほど、悪辣な人々ではない……。
「……でも、無関係の、町の人達とか、学校のやつらが、彼女たちのことを知って、同じように口をつぐんでくれるかというと……」
 有働も、玉木がなにをいいたいのか察して、頷いた。
「……でも、この手の秘密、そうそう長く保てるとも、思わないんです。
 彼女たち……その、無邪気で不用心な所、かなり、あるし……」
「そだね……。
 カッコいいこーや君の苦労が忍ばれる所だわ……」
「……ところで、この市の人口って、わかりますか?」
 また、有働が話題を変える。
「んにゃ。
 市、っていうことは、五万は越えている筈だけど……詳しい、数字は……」
「実は、ぼくも知りません。でも、十万、と仮定しましょう。
 その十万に対して、ぼくらが、放送部の設備や部員、玉木さんや羽生さんの個人的なコネ……とにかく、使えるものをなんでも総動員して、彼らが危険な存在ではないってことを、それとなくアピールする……って、できないものですかね?」
「時間との勝負……競争に、なるな……」
 玉木が、目を細める。
「ええ。競争です……」
 有働も、頷く。
 彼らの正体が露見し、周囲からの排斥がはじまる前に……先回りして、彼らへのマイナスイメージを払拭するだけの、プラスイメージを、徹底して植えつける……。
「……明らかに、部活の範疇を越えるよな……」
「ええ。一種の、大衆操作です」
 玉木の言葉に、有働は平然と頷いた。
「さっすがぁ、わたしが相棒と見込んだ男だよ、君はぁ……」
 玉木は、有働の背中を、ばしーんと叩いた。
 有働は、痛みに顔をしかめる。
「わたしも、まったく同じことを考えていたよ!
 彼らのいう一般人というヤツが、それでも本気になればどれほどのことをできるのか、やってみせじゃないか!」
 有働と玉木……彼らは二人は良き相棒であり、そして、今では荒野たちの友人でも、あった。

 そして、二人は、荒野たちの一番の敵が、ほかならぬ、自分たちと同じ一般人であることを本能的に、理解している。荒野と同じ側に立つ、特殊な人々が相手なら、荒野自身が倒すなり取引をするなりして、どうにでも対処できる。
 しかし、一般人の、生理的な恐怖心は……。
 荒野たちがいくら卓越した能力を持っていようとも……いや、秀でた能力を発揮すればするほど、結果として、煽ることになり……。
 荒野が、自分たちの正体を知られるのを過度に怖がるのも、決して、故がないことではないのだ。
 未知のものに対する恐怖心は……無形のものであり、倒すことができない……。
 だから、周囲の人々の、彼らを見る目を、根底から変える……。
 これは、彼ら特殊な、一族の側に立っていない、一般人の人間にしか、できない仕事であり……玉木と有働の資質からいっても、適任ではあった。
 第一、生徒や教師の些細なスキャンダルを追うより、よっぽどやり甲斐のある仕事だった。
「……この先、どうなるかわかりませんけど……」
 有働は、玉木に告げる。
「ぼく、出来る限り、彼らを追い続けますよ……。
 ぼく自身、彼らがどうなるのか、とても興味があるんです……」
「……そうだね」
 玉木は、答えた。
「それは、とてもいい仕事になると思う……」
 有働が彼らの動きを記録し続け、それをまとめたとして……それを、堂々と公表できる日は、果たして、くるのだろうか?

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彼女はくノ一! 第五話 (43)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(43)

 玉木や有働、それに浅黄をかついだ荒野や茅も帰ると、居間はしんと静まりかってしまった。このような時、いつもは早々と席を立つ香也までもが、ぼんやりと炬燵にあたっている。午前中に珍しく激しい運動をした反動が、今になってきているのだろう。
 真里は羽生譲などと「今夜の夕飯はどうする?」などと話し合っている。全員、長時間かけてバーベキューを目一杯詰め込んだ後ではあったが、三人組の普段の食欲を考慮すると、少し時間が立てばまた食事が必要になりそうな気もする。まだ、夕方といっていい時刻でもあり、寝るまでにはかなり時間があった。
「……そうそう。
 今のうちに言っておくわね……」
 真里が、心持ち背筋を延ばして、その場にいたみんなに告げた。
「また、順也さんの個展が決まりました……」
 職業作家である順也は、目下のところ海外在住でこの家には不在である。
 が、真里は家計を預かる主婦として、順也の絵を売る営業行為を、普段から地道に行っている。言い方をかえるならば、地道に、心当たりの画廊に声をかけて、絵を売る機会を増やそうとしている。
 今回は、全国のいくつかの画廊を渡り歩いて、二週間ほどの留守になりそうだ、という。
「……一応、三島先生にも様子を見にくるようにお話していますが、皆さんも留守中、しっかりとするように……。
 特に……譲さん。
 年末の時のように、何日もうちの香也君と他の、よそからお預かりしたお嬢さんを二人きりにするようなことはないように……」
 この辺、真里は年齢相応の常識的な判断を下だす。
 真里は、双方合意の上で自然に関係を……ということであれば、それなりに寛容ではあったが、だからといって、若い男女をことさらに二人きりにして、勢いをつけ易い環境を整える、というほどにくだけても、いない。
 羽生譲も、コクコクと頷いた。
 年末と今では、香也と他の少女たち……特に、才賀孫子との関係が、変化している。あの時なら、二人きりにしても別に問題はないと思えたが……今なら、かなり高い確率で、問題が起きてしまうだろう。
 それ以前に、楓が、今の孫子と香也が何日も二人きりで過ごす、という状況など、許しそうにない気もするが。

 しばらく休んでから、楓と孫子は「時間的には、いつもより早いけど……」と香也の勉強をみることになった。香也にしても、まともに絵筆を取る気力のない時間を勉強にあてることに異存はない。
 年長の三人が固まって教科書やらノートやらを広げるのをみて、年少の三人もばらばらと独自に動き始める。
 ノリは、部屋の隅に常備されているスケッチブックとシャープペンを取り出し、なにやら描きだした。香也に続いて、明日樹が絵を描くところを見たことが、いい刺激になったらしい。
 テンは、羽生譲に、「あのCADってソフト、にゅうたんのパソコンに入っていないの?」とか、尋ね始める。
「……さすがに、CADは入れてないなぁ……」
 羽生譲は苦笑いした。
 職業的なエンジニア以外、CADソフトを自分のパソコンにインストールしている者は稀、であろう。
「……近いので、全然使っていない3Dソフトなら入っているけど……。
 あー……フリーのCADって、ネット上にあったかなぁ……ちょっと、探して見ようか?」
「あっ! そっか……。
 ごめん。ソフトの使用って、ライセンスを買わなけりゃならないんだっけ……」
 羽生譲の対応をみて、テンはようやく思い当たる。
 テンたち三人は、まだ「モノには値段があり、物品であれサービスであれ、無償のモノはほとんどない」という資本主義的な価値観になじんでないし、適切なモノの値段にも、疎い。
「……そうだね……。
 なるべくフリーのを、ネットで探してみよう……。
 ボク、英語のサイトも大丈夫だから……」
「そりゃ……すごいな……」
 そんなことを言い合いながら、羽生譲とテンは、居間から出て羽生譲の部屋に向かう。
 ガクは、その場で炬燵にあたりながら、ごろんと横になって寝息を立てていた。

 楓と孫子が香也の勉強を見ていると、時折、スケッチブックを持ったノリが「ちょっといいかな……」といいながら香也に話しかけてくる。
 その度に香也は自分の勉強を中断し、丁寧に、ノリの質問に答えながら、白黒の階調だけで絵を描くことの意味、モノの形を正確に把握するこの重要さ、階調だけで質感を表現するための基本的な技法、などを説明したりした。
 香也も、自分の得意な分野に関して説明し始めると意外に多弁であり、目に見えて生き生きとしてくる。
 楓や孫子にしても、香也が乗り気になっている行為を無下に制止するはずもなく、勉強のほうを中断して香也とノリのやり取りをみている。
 そんな感じで何度か中断を繰り返しながら、その日の香也の勉強は、普段の倍以上の、三時間弱、行われた。
 時折、ノリに絵の基本を教えるのがいい気分転換になったのか、香也にしてもそれだけの時間、拘束されることがあまり苦にならず、それどころか、かえっていつもよりも集中できたような気さえ、している。
 香也の学力は、同級生たちに追いついた、とまではいかないにしても、それなりに向上している。
 例えば英語などは、毎日のように繰り返して、同じページの同じ構文を書いたり音読したりしているので、いやでも単語や文法についての知識が頭の中に入ってくる。まだ一年であり、覚えるべき単語数も少ないので、英語に関しては、かなり追いついた、と、いえるだろう。
 逆に苦手なのが、必ずしも暗記を必要としない文系の科目で、現国や古典、歴史などの、読解力や理解力が求められるような科目は、香也があまり興味を持てないからか、英語などに比べると、理解する速度が遅いように思える。
 数学は、学科、というよりも、問題によって理解度の差が大きく、連立方程式の解法、などはなかなか覚えなかったが、図形や立体の面積や体積を求めるタイプの問題は、少しヒントを与えるとすらすらと解いた。
 以前、年末の時に飯島舞花もしてきしていたが、香也は、どうも視覚的な物事に関する記憶力や想像力に関しては突出していて、かわりに、抽象的な思考とかに関しては、平均よりも弱いような傾向があった。

 真里が茹で上げたうどんにおろし大根を乗せたというサッパリ系の遅い夕食を用意することになると、香也たちも気分的にかなり落ち着いてきており、充足した気分の中でその日の勉強を終えることができた。
 楓が羽生譲やテンを呼びに行くと、寝息を立てていたガクも気配を察してもぞもぞと体を起こす。
「……いやぁ、テンちゃん、すごいや……。
 ポンポン外国のサイトにアクセスしちゃって、さっさとダウンロードして、英語のヘルプファイルみながら、さっさと使いこなしちゃってた……」
「……んー……ノリちゃんも、昨日今日はじめたにしては、しっかりした絵を……」
 羽生譲と香也に褒められたテンとノリは、どことなく照れたような仕草をした。
「……そういや、ガクちゃんは?」
「……寝て、いましたね……」
 羽生譲が尋ねると、頷きながら楓が答えた。
「寝てた!
 このおうどん、さっぱりしていておいしいね!」
 ガク本人も、無邪気にそう言い切った。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(84)

第五章 「友と敵」(84)

 庭でのバーベキューが終わった後も、有働勇作は残って後片付けを手伝った。男手は別に不足していなかったが、誘われるまま、お金も払わずにさんざん飲食したということもあり、それ以上に居間に眠ったままの玉木珠美のことが気にかかった。
 一通りの後片付けを終え、皆で居間に入ると玉木はまだ寝ており、茅と荒野がマンションから茶器を持参してきて紅茶をいれ、皆に配ってくれても、まだ眠っている。
 その場に残っていた人々は、祭りの後の静けさというか、みんな、どこどなくぼんやりと放心している風だった。
 そんな気怠い静けさの中、三島百合香が有働に向かって「玉木を起こせ」と行ってきたので、有働はその言葉に素直に従う。もともと、「そろそろ玉木を起こさなければ」と思っていた矢先でもあり、いいきっかけになった。
 有働が揺すり起こしても、目覚めた玉木はかなり長い間ぼんやりとしていた。どうやら、しばらくの間、自分がどうしてここで寝ていたのか、記憶がなかったらしい。
 三分以上経過してから、ようやく今日の出来事を断片的に思い出したのか、いきなり有働の首を掴んでガクガク揺さぶりながら、
「肉は! 宴は!」
 などと聞いてくる。
 ガクガク揺さぶられながらも有働が柱時計を指さして「バーベキューはもう終わった」ということを伝えると、今度はその場に膝をついてがっくりとうなだれた。
 三島百合香は、有働と玉木のやりとりを明らかに面白がっている風で、ニヤニヤ笑いながらビデオカメラと居間のテレビをケーブルで繋ぎ、今日撮影した映像を早速再生して見せた。
 まず、大口を開けて執拗に有働に食べ物をねだる玉木の顔がどアップで映し出された。

 玉木は、近所迷惑になるのではないか、という大声で尾を引く悲鳴を上げる。

 一端テレビに取り付いて自分の体で画面を隠そうとしたが、その玉木の体を今度は荒野が羽交い締めにして引きはがす。
「まあまあまあ……」
 荒野は、この少年には珍しく、少し意地の悪い感じの笑みを浮かべていった。
「……ここにいる面子、この場にいて、ライブでこれ見ているわけでな。今更隠されても……。
 どうだ?
 お前、この映像を元に自分のスキャンダル、放送部でみんなに触れ回ってみたら?」
 どうやら、ここ数日の玉木に対する溜飲を、ここで下げようとしているらしい。
 荒野に取り押さえられた玉木は「あうあうあう……」とか呻いている。
 やがて巣の中の小鳥が親鳥に餌をねだるような態の玉木の映像が途切れ、続いて羽生と三島のアカペラ・ピンクレディーの映像に切り替わる。
「……あっ……これ……」
 それまで涙目で呻いた玉木が、不意に真顔になった。
「……商店街の時の……そっか……この二人が源流だったのか……」
 玉木はひどく納得した様子で一人頷いた。
 楓や孫子のキャラクターから出てこない芸だ、とは、以前から思っていたのだ……。しかし、この二人から伝授された、とすれば、納得がいく。
 その玉木の予測を裏付けるように、楓と孫子が加わる。続いて、ガク、ノリ、テン……それに、徳川浅黄までもが、一緒になって滅茶苦茶に手足を振り回しはじめる。おそらく、意味も分かっていないのだろう。
「……なんか……すごい、ね……」
 自分でも知らないうちに、玉木はそう呟いていた。
 昨年のクリスマスの時、楓と孫子のショーを見た時にも感じたことだが……このたちはどうして……こうも、人の目を引きつけるのだろう? 引きつけて、それでいて……しばらくみていると、どことなく切ない気持ちになるのは、どういう事なのだろう?
 曲の切れ目切れ目で適当にメンバーが交代して、メドレーは延々と続いていた。
 多分、カメラに入っていない時は、適当に飲食をしたり休んでいたりするのだろう。その歌と踊りは、延々二時間近く続いた。羽生と三島は、最初の五曲くらいまでしか姿を見せていない。早々に引っ込んで、見物する側に回ったのだろう。楓と孫子の出番が一番長く、ほとんど出ずっぱりといっても良かった。例によって、お互いの存在を意識しすぎて張り合っている……面は、あるのだろうが、それにしても、振り付けが激しいことを考えると、驚くべき体力だった。
 ……と、ここまで考えて、玉木はこの前、荒野たちのマンションで聞かされた彼女たちの正体を思い出す。
 ……そっか。彼女たちなら、これくらいのことは……出来てあたり前、なのか……。
 ガク、テン、ノリの三人組は、ちょこまかと細切れに出たり入ったりする。時に、口をもぐもぐ動かしながら思ってくることがあって、どうやら画面に出ていない間は、飲食に勤しんでいたらしい。
 そんな三人も、最初のうちこそ、ややぎこちのない動きをしていたが、すぐにコツを掴んで楓や孫子のものと遜色ない動きになっていた。
 例外的に、真似にもなっていないのが、徳川浅黄だか……彼女の場合、たぶん、雰囲気に当てられて興奮し、闇雲に体を動かしているだけのようにみえだ。聞けば、まだ四歳、ということだから、それで順当なのだろう。それはそれで、年齢相応のかわいらしさがあった。
「……なー、玉木ちゃん……」
 煙草に火をつけながら、羽生譲がうっそりとした口調で玉木に尋ねた。
「今度の商店街のな……三人と孫子ちゃんに、これ、やらせてみようかと思うんだが……これ、年末の時のあれで、商店街ではおなじみだし……」
 玉木は、ゴスロリーな衣装に身を包んだ孫子とテン、ノリ、ガクが商店街の路上でこの歌と踊りをしている光景を想像して、一瞬、くらっと目眩を感じた。
 なんというか……とても場違い、で……目立つか目立たないか、といったら、確実に目立つだろう……。
 しかし……。
「あ、あのー……才賀さんは、それでいいの?」
 玉木には珍しく、少しおどおどした様子で、孫子にそうお伺いを立ててしまう。苦手、とまではいかないが、玉木は、いつも毅然とした才賀孫子という少女に、どことなく気後れを感じてしまっているところがある。
 この少女には、自分と同年配とは思えないくらいに、風格がある。
「わたくしは、別によろしくてよ」
 孫子は、あっさりと答えた。
「って、いうか……」
 荒野が、ぽんぽん、と孫子の頭を軽く叩く。
「こいつ、おおぴらにあの恰好ができれば、後の子細は構わないんじゃねーの……」
 ……孫子のことを軽々しく「こいつ」呼ばわりできるのは、加納荒野くらいだろうな……と、玉木珠美はぼんやりと思った。

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彼女はくノ一! 第五話 (42)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(42)

 テンは適当に食べ物を口にいれながら、あちこちから聞こえる人々の会話に聞き耳を立てている。
 カクテルパーティ効果、というものがある。
 複数の会話が同時進行している雑然としたパーティ会場などで、自分が興味をもっている話題のみがはっきりと聞こえる、というものだ。テンは「人間」そのものに興味があり、これだけ多種多様な関係が混在し、なおかつ、それぞれの「人間」の背景について予備知識をもっている、という状況は、これが初めてだった。加えて、テンには、見たもの、聞いたものをすべて記憶している、という卓越した記憶力の外に、常人の域を遥かに越えた鋭敏な聴力、同時進行する複数の会話を聞き分ける、説話の中の聖徳太子のような能力ももっている。
 一番最後の能力については、人口が極端に少なかった島ではよく確認できず、本土に渡ってきてから気づいた……と、いうより、他の、普通の人にはできないようだ……ということに、気づいた。
 この発見については、まだ、ノリやガクにも話していない。
 それよりも、今は、他の人の観察、だった。
 ここには、実に多種多様な「人間」がいる。
「つきあっている」という舞花と栗田、あんなと堺は、どうやら、昨夜の性行の回数を競っていたらしい。
 テンはそもそも今まで適齢の異性がいない環境で育ったので、もちろん、テンには性体験はない。今の家には香也という適例の男性がいる。好奇心の強いテンとしては、その適当な相手である香也にお願いして早く実地に体験してみたいところなのだが、在宅時の香也には大抵楓や孫子がへばりついているので、なかなか試す機会を得られないでいる。
 テンには一般人のいう「つきあう」という感覚、いわゆる、「恋愛」が、まだ理解できていない。ノリもガクも、そのあたりの理解度は、テンとあまり変わらないだろう。なにせ、ついこの間まで、自分たちとじっちゃんしかいない島にいなかったのだ。
 飯島舞花と栗田精一、それに、柏あんなと堺雅史の二組のカップルは、テンたちとさほど変わらない年齢(書類上では、一歳しか違わないことになっている。もっとも、テンたちは誰も自分たちの正確な年齢や生年月日を知らされてはいないのだが)であるのにも関わらず、周囲に大人たちがいる環境下で、自分たちの性交回数をあけすけに語っている……ということは、実際には、テンたちが教えられたほど、性的な情報は秘匿されているわけではない……と、いうことを意味するのだろうか? それとも、彼らとここにいる大人たちが、特別その手のことに寛容である、ということなのだろうか……。
 テンは、考える。
 データが、少なすぎる、と。
 テンは、まだ、「人間」について、あまりにも少数の例しか、知らない。その段階で一般論を推測しようとするのは、早計に過ぎるというものだ。
 春から通うという「学校」……には、数百人からの人間が、長時間、一カ所に集まる。いいデータ採取場になるだろう。だが、今は……。
 テンは、「みんな」のほうを振り返る。
 羽生譲の長身と三島百合香の短身が、なにやら意味が取りづらい奇妙な歌を歌いながら、そのメロディに合わせて激しく体を全体を使うようにして振り動かしている。
 三島百合香に誘われて、楓と孫子、それに茅までもが、その歌舞に加わった。真面目に意味を取ろうとしている聞いていると頭が痛くなるようなシュールな歌詞に合わせて五人の女性が激しく手足を揺り動かす様子は、統御されたヒステリー発作を目の当たりにしているかのような、一種異様な迫力があった。
 その様子を、有働勇作がビデオカメラに収めている。
 徳川浅黄も、彼女らの派手なパフォーマンスをみて、手を叩きながらはしゃいでいる。
 飯島舞花と柏あんなも三島に手招きされたが、首を振ってその場にとどまり、専ら見る側に回っている。
 香也は樋口明日樹からスケッチブックを受け取り、なにやら描きはじめた。例によって、「滅多に見られない光景」だから、簡単なスケッチを残しているのだろう。

 テンとガク、そしてノリは、お互いの表情を確認する。
 三人の顔は、抑えきれない好奇心に輝いていた。
 三人の表情は、
『やってみよう!』
 と言っているようなものだった。
 三人は、歌と踊りの輪に加わり、見よう見まねで歌い、踊りはじめた。

 そんな感じで、盛況のうちに用意した料理もあらかたなくなり、日も傾いて気温が下がりはじめたので、三人組の歓迎パーティも兼ねた庭でのバーベキュー・パーティは幕を閉じた。
 みんなで片付けをした後、居間の炬燵で寛いでいると、茅と荒野がマンションから茶器一式を用意してきて、残っている皆に紅茶を用意してくれる。茅はいつものようにメイド服で、いつもにも増して張り切っているように見えた。
 飯島舞花と栗田精一、柏あんなと堺雅史の二組のカップルは「楽しかったけど、疲れたから……」といって、帰って行った。結局、三人組少し遅れて歌と踊りの輪に入ってきた徳川浅黄は、疲れが出たのか、炬燵に入るとまた眠りはじめた。浅黄の様子を確認した荒野が、徳川篤朗の所に電話をかけて、浅黄をもう一泊させたほうがいいのではないのか、と、提案している。
 それ以外の者たちは、湯気をたてるティーカップを前にして、高揚の後の虚脱感にひたる時間を過ごしていた。
「おい、有働……」
 眠そうな目をした三島が、有働勇作に声をかける。
「いい加減、その騒がしいの、たたき起こせ……」
 三島百合香は自分のことを棚に上げ、未だに眠り続けていた玉木珠美を「その騒がしいの」呼ばわりする。
 どうやら、玉木の世話は有働がするもの、と、決めつけているらしい。
 有働は逆らいもせず、毛布にくるまって眠り続ける玉木珠美を揺すり起こした。
 玉木は、目を醒ましてしばらくの間はぼーっとしていたが、有働の顔を三分間ほど見続けた後、あたりを見渡してようやく頭がはっきりとしてきたらしく、
「宴会は! 肉は!」
 と有働の襟首を掴んでガクガクと揺さぶった。
「もう、終わりましたよ……」
 こうした扱いも慣れたものなのか、有働は特に動揺した様子もなく、柱時計を指さして玉木に答えた。すでに、夕方、といえる時刻になっている。
「あ。あ。あ……」
 玉木は、呻き、その後、叫んだ。
「わたしの肉を返せー!」
「……起きる早々騒がしいな、お前は……」
 三島はそういうなり、先ほど有働勇作が使っていたビデオカメラをケーブルで居間のテレビに繋ぐ。
「ん、じゃあ……せめても、宴の様子を見せてしんぜよう……。
 ……ぽちっとな、っと……」
 テレビに、有働に向かって「あーん」をして肉をねだっている玉木の顔が大写しになる。
 玉木は「うぎゃー!」と悲鳴を上げて、テレビに取り付いて自分の体で画面を隠した。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(83)

第五章 「友と敵」(83)

「いや、だからな、クリリン……なんでお前や堺みたいなのばかりが、ああいうおいしそうなおにゃのこたちと、つ、つきあえるのかって……そそそ、それどころか、どっちも幼なじみで、向こうから迫ってくるなんて、揃ってご都合主義な展開であるなんて偶然など許さんぞ! 断じておれは許さないぞ!……」
 顔を赤くした樋口大樹は栗田精一を捕まえて長々と嫉妬混じりのくだを巻いている。
 向こうで柏あんなとなにやら話していた飯島舞花がやってきて、その栗田精一の背中を抱いた。
「セイッチぃ……」
 小柄な栗田の背後に大柄な飯島舞花が抱きついたのかで、舞花のバストが栗田の後頭部に押しつけられた形になっているのだが、舞花は気にしている様子はない。
「……もっと肉食え、精力つけて今夜はもっとガンガンいくぞぉ……」
 そういいながらも、舞花の声は、どことなく元気がなかった。
 樋口大樹の口が「お、お、お……」という形に開かれるが、声は出ない。
 舞花は、そんな大樹の様子など勿論目に入っておらず、どこかぼんやりとした様子で、自分の紙皿と大樹の紙皿に延々と肉を盛り続ける。どんどん山盛りとなっていく紙皿の上と舞花の顔を交互にみながら、しかし栗田はなにもいえずにいた。
 漏れ聞こえてくる羽生譲と三島百合香の会話からおおよその事情を察した荒野は、
『……そんなもんの回数、競い合ってどうする……』
 と、心中で突っ込んだ。

 その向こうでは、ノリが、ビニールシートの上に座り込んでスケッチブックを広げはじめた樋口明日樹の手元を覗き込んでいる。
「……だからな、好漢と好漢が出会ったら、必ず宴会をしてお酒を酌み交わして友誼を結ばなければいければいけないんだ。水滸伝って、ケンカや戦争の他に、宴会のシーンばっかり多くてな……」
 ガクは、そんな講釈をしている。
「……友誼なの」
 茅が、そんなガクに空のグラスを手渡し、そこにぼとぼと缶ビールの中身を注いだ。
「……友誼なの」
 重ねて、茅がそういうと、ガクは、珍しくひるんだ表情をした。
「これ……お酒……ボク、飲んだことないんだけど……」
「……好漢と好漢が出会ったら、友誼なの」
「でも……酔っぱらうと、暴れちゃったら……」
 ガクが読んだ「水滸伝」では、酒の上で取り返しのつかない失敗をするエピソードには事欠かない。
「暴れても、いいの。
 暴れても、他の人が……楓や荒野が、才賀が、茅が止めるの」
「ほ、ほんとう?
 なんかやばそうなことやりかけたら、ちゃんと、止めてくれる?」
 茅が頷くのを確認し、ガクは、意を決してグラスを傾けた。
 ガク初めて飲んだビールは、想像していたよりも苦かった。

「おい……お前ら、なにシケたツラしてやがる。
 歌え! 踊れ! 舞え!
 せっかくの宴ぞ!」
 やがて、三島百合香がそんなことを喚きはじめる。
 一通り飲食して食欲を満足させたのか、今度は座興が欲しくなったらしい。
「ええい! にゅうたん、我らが先陣を切るぞ!」
「お! ひさびさにアレを行きますか、先生……」
 羽生は玉木の狂態を撮った時に持ち出したハンディ・ビデオカメラをそばにいた有働勇作に手渡す。
「……しっかり撮っておいて。
 あとでプレミアになるかもよ……」
 といってウィンクして見せた。
 小学生並の三島百合香と身長百七十で細身の羽生譲が並んで「きーん、こーん、きーん、こーん……」とアカペラで前奏をつけつつ、ピンクレディの「UFO」を歌って踊りはじめると、その場にいた人々はそれを拍手と爆笑、歓声で迎えた。
 一曲目が終わると、三島は「お前らも来い!」と楓と孫子を誘った。
 楓と孫子は年末の商店街イベントの際、一通りの歌と振り付けを憶えており、特に断るべき理由もなかったので即座に呼応した。
 四人によるピンクレディー・メドレーが進むと、茅にガク、ノリ、テンの四人も面白がって見よう見真似でそれに加わる。
 合計八人が今でいう電波ソング的なトチ狂った歌詞を歌って踊る様子は、それはもはや滑稽を通り越して圧巻といってもよく、事実、それを見ていた少数のギャラリーは、笑うよりもむしろ迫力に圧倒されている。
 ビデオカメラで撮影しながら、有働勇作は、
『なんだ……これは……』
 と、思い始めている。
 茅、楓、孫子……同じ学校に通う生徒たち……ということで、今まで深く考えたことはなかったが……ついこの間、荒野たちのマンションで知らされたことが……ガク、ノリ、テンの三人と一緒に集まっているのを、こうして液晶越しに見ていると……彼女らのような容姿が整いすぎた少女たちが、こうして一堂に会している……ということの非現実性を、ひしひしと実感してしまう。
 同じ液晶の中の羽生譲や三島百合香だって、外見的にはかなりイケているほうだとは思うが……。
「飯島、柏、それに樋口! お前らも来い!
 どうせアホならおどらにゃソンソン、だ!」
 曲と曲の切れ目に、三島百合香がそういって手招きした。
 もちろん、誘われたほうは首や手を横に振ったりして、その誘いには乗らない。
 誘いを断った柏あんなや飯島舞花だって、それまでは学校で人気を二分していた美少女なのだ。いや、決まった相手の出来た今だって人気は衰えていないのだが……。
『……そういった人たちと比べても……』
 液晶の中で歌って踊っている少女たちは、美しく見えた。
 美しすぎて……いっそ、非現実的な存在に、見えた。
『……彼女たちは……』
 いったい……何者、なのだろう?
 この前、マンションで聞いたはなしが嘘だと思ったわけではない。
 そう、ではなくて……この町にとって、学校にとって……そして、自分も含めた、今、ここにいる、知り合いの人たちに、とって……。
『彼女たちとは……一体、何者、なのだろう……』

 有働勇作の中に、
『彼女らの行く末を、知りたい……』
 という、渇きにも似た強い欲望が、芽生えていた。

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彼女はくノ一! 第五話 (41)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(41)

「先輩先輩……」
 三人の話しが一段落すると、柏あんなが飯島舞花の肩をちょんちょんと指でつつく。
 飯島舞花は振り向いて柏あんなと正面から向き合う。

 しばしの間。

「三回!」
「四回!」
 同時に、小さく叫ぶ。
 小柄な柏あんなが勝ち誇ったように薄い胸を張って、大柄な飯島舞花ががっくりと肩を落とす。
「セイッチぃ……」
 きびすを返してとぼとぼと歩いていった舞花は、背後から栗田精一の背中に抱きつき腕き、
「……もっと肉食え、精力つけて今夜はもっとガンガンいくぞぉ……」
 と、この少女にしては珍しく、ぼそぼそとした覇気のない声でいった。
 柏あんなは、傍らにいた堺雅史の腕を取って、勝ち誇ったように微笑んだ。
 栗田精一と堺雅史は、照れたような表情を浮かべて、居心地の悪そうにして視線をなにもない空中にさまよわせている。

「……センセ、なんすか? あれ?」
「だから……あれは、アレだろ……昨夜の、アレの回数……」
 そのやりとりをみていた羽生譲は、小さな体に似合わない健啖ぶりを発揮して焼いた肉を頬張っている三島百合香に尋ねる。
「アレって……はー……アレ、っすかぁ……。
 最近の学生さんは随分オープンなんすね……」
「あいつらはまた、ナニだからな……特別だろ……」
「しかし……三回と四回、かぁ……元気だなあ……堺君なんか、細っこいのに……」
 学校でも公認のバカップル、ということになっている飯島舞花と栗田精一、柏あんなと堺雅史は、前の夏にある経緯があってその手の事もかなりオープンに話すようになっている。その「経緯」の時にたまたま学校に居合わせた三島百合香はかなり詳細に事情を知っていた。だが、その詳細な事情を軽々しく他人に明かすほど軽率でもなかった。

 香也とその取り巻きたちも二組の公認バカップルのやりとりを見、三島百合香が羽生譲に仄めかした内容も察した。
 数人で固まってしばらくもぞもぞと居心地が悪そうに身じろぎしていたが、しばらくして楓と孫子が左右から立っていた香也の体に身を寄せ、それをみた樋口明日樹までもが、香也の胸板に後頭部を預けるように、そっと、もたれかかる。

「まぁ……こっちはこっちで……」
「これが若さか! って、ことで……」
 香也たちの様子をみて、羽生譲と三島百合香はそんなことを言い合って頷きあった。この二人にとってはもはや日常茶飯事に近い光景だった。
 ただし、三人組にとっては十分に目新しい光景だった。香也たちが登下校の際、明日樹の顔くらいはみていた。が、改まって紹介された事はない。
「……ねーねー」
 三人のうちテンが、トコトコと明日樹の前まで歩いていって、無邪気そうな笑顔を浮かべて、尋ねた。
「おねーちゃん、誰? おにーちゃんと、どういう関係?」
 下から見上げるようにしてテンに改めてそう聞かれ、樋口明日樹はしばらく目をパチクリさせていた。が、すぐに気を取り直し、
「わ……わたしは、樋口、明日樹……香也君の、部活……美術部の先輩で……」
「美術部!」
 今度は、三人のうち、ノリが明日樹のほうに身を乗り出す。
「おねーちゃんも、おにいちゃんみたいに絵を描くの!」
 ノリは羽生のマンガを何冊か読んでいた関係で、他の二人よりは学校生活の内情を理解している。この時点では、かなり誤解している部分も多かったが、少なくとも「部活」についてはかなり理解していた。「美術部=美術に関する部活」という連想……それに、普段、家での香也を見ていれば、「美術部」が単に美術品を鑑賞するだけの部ではないことも、容易に推察がついた。
「う、うん……一応、描くけど……」
 明日樹は若干どもりながら頷く。
「でも、狩野君ほどには……うまくないし……」
 香也ほどには……ということを必要以上に自覚している明日樹は、こうした場ではどうしても気後れしてしまう。
「いいんじゃん、そんなの!」
 ノリは、明日樹の目をまともに見て断言した。
「描きたいものがあって、それ描けるってだけで凄いよ!
 ボク、描いたことなかったもん! 昨日、ちょっとおにいちゃんに描き方教えて貰ったけど、全然駄目駄目で……」
 ノリはたたみ込むように明日樹に向かってそういった後、
「ね! おねーちゃんの絵、見せて! 描いてみせてよ!」
 と、明日樹に迫った。
 明日樹は、ノリに気圧され、黙って頷くしかなかった。

 香也がプレハブから取ってきたスケッチブックと鉛筆を手にした明日樹は、ビニールシートの上に腰掛けて、そこから目についたものを描きはじめる。ちゃんとした作品にしあげるつもりはないから、あくまで簡単なものだが、グラスや缶などの小物、コンロの周りに集まり、談笑している目についた知り合いや友人たちの後ろ姿、庭にある植木や灌木……などを、スケッチしていく。
 スケッチブックに顔を近づけて明日樹の手元を覗き込んでいたノリは、明日樹の手がひらめき、紙の上に何かの形が出現する度に、感嘆の声をあげる。
 明日樹は、そうして絵を描くところを間近で遂一見つめられることに慣れていなかったので、くすぐったいような照れくさいような、奇妙な気分になった。が、ノリが揶揄するつもりもなく、ごく自然体で感心してくれているのも伝わってきた。
「……そんなに、面白い?」
 手元から目を離さずに、明日樹はノリに尋ねる。
「面白い……面白いよ……ボク、これ、だったからさ……」
 ノリは自分の眼鏡を指さしてみせる。
「島に眼鏡屋さん、なかったし……。
 最近まで、自分の手元って、ぼやけていたんだよね。遠くははっきり見えるんだけど……だからね、絵をみていると……他の、普通の人の目には、いろいろなものがこう見えるんだ、っていうのが分かって、すごく面白いんだ……」

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髪長姫は最後に笑う。第五章(82)

第五章 「友と敵」(82)

 玉木を寝かせて帰ってきた有働は、浅黄を背後にしていた。玉木を寝かせる準備をしていた時の物音で、起きたらしい。
 浅黄は、少し前に起きていた茅の隣に立った。
 茅も浅黄も、まだ寝足りなそうな顔をしていたが、コンロの近くに来て肉が焼ける臭いが近くなると、段々と表情が変わってきた。
 香也たちと同様、運動をした後だから、お腹が空いているらしい。
 串から外した熱々の肉や野菜を紙皿に盛って箸といっしょに渡すと、慌てて食べようとして「あつっ!」と、小さく叫んで顔を離した。
 茅と浅黄の、その一連の動きが、見事な相似形だったので、観ていた人々から軽い笑い声が起こる。
 その後、きょとん、と首を小さく傾げた動作も、まるでシンクロナイズドスイミングの様に同調していたので、笑い声はさらに大きくなった。

 しばらく食べるとようやく落ち着いたのか、茅は庭を出て行こうとした。
「茅……どこに行く?」
 荒野が呼び止めると、茅は、
「お茶の準備。おもてなしなの」
 と、答えた。
 荒野は自分の皿から肉を一片つまみ、
「……茅……肉を焼く時の、この臭い……。
 紅茶に、合うと思うか?」
 そして、肉を摘んだままの箸の先で、コンロをさす。

 炭火に炙られた肉が、じりじりと脂が焼ける時の香ばしい煙が上がっている……。

 茅は、棒立ちになってしばらく鼻をひくつかせた後、がっくりと肩を落とし、もと居た荒野の隣に戻ってきた。荒野は黙って、茅のグラスに缶ビールの中身を注いだ。茅は、それを一息に飲み干す。再び荒野はビールを注いだが、今度は一口、口をつけただけだった。
 そして、茅はきっと顔をあげ、皿の上の料理をガツガツと平らげはじめた。
 浅黄もそれを真似しようとしたが、何分、年齢が年齢だったから、一度に食べられる量もそれなりで、すぐにペースダウンして箸を置いた。
 茅が黙々と食べ続けている間、三人組が島での生活の話しなどを、周囲の人間にきかれるままにしている。ガクが何の考えもなくポンポンと答え、テンとノリがそこにさり気なくフォローをいれ、さほど不自然ではないように印象づけようとしている……。
 ように、見受けられた。
 あまり成功しているようにも見えなかったが、どの道、この場にいる人たちは荒野たちの正体をあらかじめ知らされているか、そうでなければ、うすうす何かがあると感づいている人たちなので、あまり問題はないだろう……と、荒野は思い、放置することにする。
『……まぁ……元々、あの三人の歓迎会、ってことだったしな……』
 それを考えると、三人の話しが受けている今の状態は、それなりに「いい雰囲気」、なのではあろう。
 あの三人の中では、ある意味、ガクが一番無邪気で天真爛漫……といえば聞こえはいいが、端的にいえば、考えなしで周りがみえないお子様。ノリは客観的な判断力や他人と話しを合わせるという社交性の萌芽のようなものがある。テンも、一見無邪気で天真爛漫……を装ってはいるようだが、ガクとは違い、どうも半分以上は、自分の外見が与える効果を見越して意識的にそう見えるように振る舞っているだけではないのか……。
『……やはり、テンが一番……』
 油断ならない存在だ、と、荒野は思った。
 逆にいえば、他の二人がなにか行きすぎた行動を起こそうとした場合、有効なストッパーになりそうなのも、テン、なのであり……。
『……両刃の刀、だな……』
 テンも、あの三人も……荒野にとっては、この先、自分や茅にとってどのような存在に成長していくのか予断を許さない、未知数の、両義的な存在、なのだった。
 いや……三人のそうした「不確実性」が、一番顕著に現れているのが、テン……と、みるべきなのだろう。
 その意味で、三人が「鬼」に由来した名をつけられているのは……本質に根ざしたネーミングで、とても、正しい。
 三人は……まさしく、「鬼子」だ。

 荒野がそんなことを考えている間にも、その他のみんなは歓談しながら飲食を楽しんでいる。荒野や香也、孫子、楓など以外にも、ちびちびとアルコールに手をだす者があらわれはじめ、先に酔っぱらって勝手に潰れてしまった玉木の相手をしていた有働勇作に、「大変だったな」とかねぎらいの声をかけている。
 そう声をかけているのは玉木に絡まれている有働を助けようともせずに生温かく見守っていた面々でもあるわけで、客観的にみてかなり無責任な態度である、ともいえる。
 それでも根本的な所で人柄が良い有働は、そういった人々の態度に対して怒る、と、いうこともなく、ごく普通に対応している。
「玉木とそういう関係なの?」、とか、
「どこまでいっているの?」
 などという質問も当然でるわけだが、
「いやぁ……玉木さんとは、なにも……。
 そもそも、部活以外で会うことも、二人きりで顔を合わせたこともありませんし……」
 有働勇作は照れくさそうにやんわりとそういって、頭を掻くだけだった。
 特に誤魔化している、という風でもなかったし、また、その時の有働の衒いのない表情が、見た目にも心地よかった。
 その時の有働の表情が様になっていたので、何人かが手を伸ばして、
「それにしては、面倒見がいいよな……」
 とか、
「あんた、いいヤツだな……」
 とかいいながら、有働のグラスにビールを注ごうとした。
 有働のほうは長身を折り曲げるようにして、「いただきます」といいなが、グラスを出し、注がれた先から飲んでいく。
 どうやらそれなりに飲み慣れているらしく、それにそこそこイケル口らしく、ごくごく飲んでは、いかにもうまそうな顔をして「はーっ」と息をつく。
 それでも玉木のように調子に乗って飲み過ぎるということもなく、酒を勧められても辞退するべき時は辞退し、適度に自分のペースを守りながら、これまたいかにもうまそうに料理を頬張る。
『……こういう落ち着いた人が傍にいたから……』
 玉木の暴走体質も、増長したんじゃないか……と、荒野は思った。
 この二人は、傍迷惑な所もあるが、いいコンビだ、と……。

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彼女はくノ一! 第五話 (40)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(40)

 狩野家の前に到着すると、楓がシートに座ったまま寝ていた茅をゆすり起こし、助手席で熟睡している浅黄は荒野が抱えて居間に運び込み、布団を用意して貰って、そこに寝かせておくことにする。他の連中は台所のほうにいって食材を準備していた三島や玉木に合流したり、庭に向かったりした。
 庭では有働勇作が長身を屈めるようにしてバーベキュー用のコンロの火をみている。
 香也たちがぞろぞろと庭に入ってくるのに気づくと、有働は顔をあげて、
「……炭火起こすのって初めてなんで、なかなか火が着かなくて……」
 などと頭を掻いてみせた。
 発言とはうらはらに、コンロの中身は赤々と燃えさかっている。
「炭火かよ!」
「……本格的ー!」
 栗田精一と堺雅史は、そんなことをいい合いながら、コンロの火に手をかざす。晴れているとはいえ冬の最中。外気はまだまだ冷たい。
「そこ! 人に働かせておいてくつろいでいるんじゃねぇ!」
 樋口大樹が重そうなクーラーボックスをよたよたと持ちながら、そんなツッコミをいれる。
「……中身と容れ物、別々に運べばいいのに……」
 大樹のすぐ後ろにいた樋口明日樹は、大樹に対してさらにツッコミをいれた。
 明日樹は、串に刺した肉や野菜を山盛りにした大皿を持っていた。
「はい、これ。
 手の空いている人、どんどん焼いて食べてて……」
 香也に皿を渡し、すぐに母屋にとって帰す。
「……こっちは、いいから……」
 荒野が香也の手から皿を引き取った。
「なんか、テーブルとかないかな? 後、椅子とかビニールシートとか……。
 あと、食器、箸、コップ……」
 肉を焼くのは誰でもできるが、そうした物の用意は、やはりこの家の者がやったほうがいい。

 香也が母屋と庭を何往復かして必要な物を整えていると、焼き上がった料理は順々に行き渡り、そして、そうしている間にも、玉木はすっかりできあがっていて、有働に絡んでいた。
 有働には悪いが、助けに行って有働と一緒に玉木に絡まれる二重遭難になる恐れもあり、それ以上に恰好の酒の肴だったので、大方は遠目に生暖かい目で見ながら焼き上がった端から肉や野菜を取って食べ始める。アルコールに耐性がある荒野、香也、楓、孫子、茅は三島や羽生に進められるままにビールを、それ以外の者はジュースやウーロン茶を飲みながらの立食となる。コンロの前に、物置代わりにしている部屋に何故か残っていた会議用の細長いテーブルを置き、そこに串に刺した食材を盛った皿や飲み物のグラスを置いており、人数分の椅子は流石になかったので地面にビニールシートを敷いて疲れたら直接そこに座るようにしている。
 最初のうちは玉木と有働のやりとりを物珍しそうに見ていた三人組も、時期に飽きたのか、それとも、早いペースで焼き上がった食物を摂りたいと思ったのか、いくらもしないうちにコンロの周囲に集まって来て、焼き上がった肉を奪い合うようにして食べはじめる。三人ほどのハイペースではないにせよ、たった今、泳いできたばかりの香也たちもよく食べた。
「これ、牛? 牛もうまいね。
 島では肉といえば、鳥か豚がほとんどだったから……」
「……ほー……君ら、島に住んでいたの? どこの島?」
 ガクと舞花が会話をはじめる。話題は、自然と今食べているものの事や、ガクたち三人のことになる。
「わかんない。ここよりは南のほうだと思うけど……」
「名前も? ふーん……。
 でも、みんな元気だし、なんとなく島の子って感じだよな……。
 牛、食べたことないの?」
「たまに、コンビーフとかジャーキーとかは食べたけど……牛、島にはいなかったし……。
 豚が、島で一番大きな生き物だったな……」
「……ぶ、豚かぁ……どこか、近所で飼ってたの?」
「ううん。
 野生のイノブタがいてね、ひょっとしたらイノシシかも知れないけど、こーんな大きくて毛がふさふさしたの。
 奴ら、放っておくと際限なく殖えて何でもかんでも島のもの食べ尽くしちゃうから、大きくなったのから順番にみんなで狩るんだ」
「……か、狩る……の?」
「うん。
 大きな落とし穴つくってねえ、そっちのほうにみんなで追い込むの。
 でね、狩ってもヤツら、体が大きすぎて一度にお肉食べきれないから、みんなでハムとか腸詰めとか薫製とか塩漬けとかにしてとっておくの……」
 無邪気な口調と表情でサバイバルな体験を語るガク。
 舞花をはじめとする聴衆の目は、点になっていた。
「……それ、本当?」
 舞花は、他の二人、ノリとテンに尋ねる。
「だいたい。
 大きさは、もっと大きかったけど。平均……」
 いいかけて、テンは、昨夜の会話を思い出す。
 普通の人間は、「物の正確な寸法や重さは、見ただけ、持ち上げただけではわからない」。
「こーんくらい!
 ……は、あったよ!」
 そこで正確な数値は出さず、わざと子供っぽい動作で両手を大きく広げてみせる。
「そ、そっかぁ……追い込むくらいなら、子供でも、できる……の、かなぁ……」
 舞花は、無理に自分自身をそう信じ込ませようとする。
 実際には、そんなに容易なことでもないのだが。
 なにせ、野生のイノブタと子供たちとでは体重差がありすぎる。加えて、気性も荒い。相手を歩かせ、行く先を変える程のダメージを与えつつ、相手の攻撃をかわし続け、落とし穴のある場所まで追い込むのは、結構ハードな仕事だったりする。
 今考えると……自分たちの訓練も兼ねていたのかな……とも、テンは思った。
「おいしかったよね!」
 ノリも、無邪気を装って、ガクやテンに頷きかけた。
 テンも半ば芝居で、ガクは本心から、
「うん!」
「うん!」
 と元気よく賛同する。
 ……確かに、狩りの後、くたくたになってから頬張る筋張った肉の味は、格別だった……。
 ガクはさらに、
「でも、牛もおいしいね!」
 と続けた。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(81)

第五章 「友と敵」(81)

 玉木珠美に手渡される缶の中身は「雑穀酒」から「麦酒」に移り、その後すぐに缶ではなくグラスに注がれた米を原料とする透明な発酵性の飲料へと変化した。
 結果、肉が焼き上がる頃には、玉木珠美はすっかりできあがっていた。
「……た、玉木さん……飲むだけだと体に悪いから、これ……」
 有働勇作が串から外して紙皿に盛った肉や野菜と割り箸を、玉木の前に差しだす。
 赤い顔をした玉木は、「ヒクッ」としゃっくりをした後、顔を真っ赤にして、上目遣いに有働の方をみる。
「おぅ……気がきくなぁ……ウドー一号君……」
 玉木は、紙皿を有働に持たせたまま、割箸をとってそれを割ろうとした。
「ちょうど……つまみがな、欲しいと……ん? んん?」
 なかなか、割れない。
 実は、すでに前後不覚になている玉木が、割り箸の割れ目の部分を指でしっかりつうかんだまま割り箸を左右に、力任せに引っ張っているせいで割れないのであるが、すでに前後不覚にあえいる玉木珠美は、そのことに気づかない。
 ひとしきり「ん? んんんー!」とめいっぱい力んで割り箸を左右に引っ張っていた玉木は、駄目だ、と判断したのか、がっくりとうなだれて有働を手招きした。
「……駄目だ……ウドーちゃん、これ、お願い……」
 この頃から、玉木と有働の様子がおかしいのに気づいた三人組が、紙皿と箸を手にして、二人を取り囲むようにして車座になり、見物しはじめた。
 割れていない割り箸を玉木に差し出され、有働は一瞬ぎくりとした顔をした。
 が、結局は、玉木から箸を受け取る。しかし、すでに紙皿を持っているので、両手を使うことはできず、しかたがなく、左手に皿を持ったまま、右手と歯で軽く噛んで、割り箸を割る。自分で使うのならともかく、こうした割り方をした箸を他人に渡すのは抵抗があったが……とりあえず、有働は玉木に割った箸を手渡……そうとは、した。
「玉木さん……はい……」
「ん? できた? じゃ……あーん……」
 玉木は、有働の予想に反して、手を出すのではなく、大きく口を開ける。
 有働は目に見えて動揺し、視線を宙にさまよわせた。
「……な、なんのもり……」
「だから、あーん……そのお肉、入れて入れて……」
 玉木は、有働の動揺に気づいているのかいないのか、相変わらず目を閉じたまま、無防備に大口を開けていた。
「……早くいれてぇ……。
 口開けたまんま、というのも、これで疲れるんだから……」
 有働は周囲を見渡した。
 肉を焼いている樋口明日樹は「……有働君……かわいそうに……」というモロ同情のまなざしで、ビールの缶を傾けていた羽生譲は「若い者はいいねー」とでもいいたげなにやにや笑いを浮かべながら、羽生の隣りで焼き上がった料理を持った皿を配りながら、真理は「あらあらあら……」といった表情で、飯島舞花と孫子はあかるさまに面白がっている表情で、楓と柏あんなはどこか期待を込めたまなざしで、樋口大樹は羨望のまなざしで、それ以外の香也、栗田精一、堺雅史は同情……というよりは、もっと切実な、「狢が、同じ穴の狢を見るような」悲哀に満ちた表情で有働勇作を見守っている。
 プレッシャーだった。
 はっきりいって、プレッシャーだった。
「むー……ウドーくぅん……早くぅ……」
 玉木は上気した顔を有働のほうに、つまりは上にむけ、何故か目をつむって催促する。
 有働勇作は、ごくりと固唾を呑んで、箸で摘んだ肉を玉木の口元にもっていった。
 肉が口唇に触れるか触れないか、という間合いで、玉木は突如有働の手首を両手でがっちりと掴み、箸で摘んだ肉を素早く引きちぎるようにもぎ取り、そのまま咀嚼する。
 何故か、様子を見守っているギャラリーから歓声と拍手が起こった。
 唖然として棒立ちになっている有働に構わず、玉木は地面に直接置いていたグラスに半分ほど残っていた冷酒をぐびぐび喉を鳴らして飲み干し、ぷはー、大きく息を吐いてから「ヒクッ」とまたしゃっくりをした。
 妙に、親父くらい動作だった。
 それから玉木は、唐突にげたげた笑いだし、
「ウドー君、もういっちょう!」
 などといって、また目をつむって「あーん……」をした。
 またも、しぶしぶ従う有働勇作。泣く子と酔っぱらいと玉木には勝てない。玉木が泣き上戸ではないだけ、まだマシだった。

「……荒野……」
「やらない」
 荒野は、興味津々、といった感じでその様子を見ていた茅がなにか言い出すが早いか、その言葉を途中で遮った。
「ああいうのは、普通、人前でやるものじゃないし、特に、兄弟でやることは、まず、ない」
 それから茅の耳元に口を寄せ、
「……どうしてもっていうなら、後で、二人きりのときにな」
 と小声でつけ加える。
 なにを思っているのかは分からなかったが、茅はとりあえず頷いてくれた。
『……まあ、物珍しさが先に立っているだけだろうから……』
 一回か二回、実地に経験してみれば満足するだろう……と、荒野は思った。

 三島百合香が「も一杯いくか? ん?」などと言いながら一升瓶の中身を空になった玉木のグラスに注ぐ。一応、三島も学校職員の端くれであるのだが、生徒に飲酒を勧める三島の挙動を、誰もおかしくは思っていない。
『三島先生だから……』
 ということで、その場にいる誰もが納得してしまっている。
 そのうち、一端家の中に入ってビデオカメラを持ってきた羽生譲が玉木にカメラを向ける。
 ビデオカメラに気づいた玉木は、レンズに向かってVサインをし、けけけ、と笑いながら有働の胸板に抱きついた。抱きつかれた有働はおろおろと周りを見回したが、誰も助けに入ろうとはしてくれず、ただただ哀れみのこもった視線を送りながら、各自勝手に飲食やおしゃべりに興じている。
 しばらくすると玉木は、抱きついていることに飽きたのか、あっさりと有働から離れ、三島が注いでくれた中身をまたもや一気に飲み干すと、とろーんとした目を周囲にめぐらせ、目についた二人、ノリと樋口明日樹を手招きする。
 ノリは不審そうな顔をして、明日樹は明確に警戒した表情で、下手に逆らうと、怖そうだったから、それでもしぶしぶ玉木の方に歩み寄る。
 寄ってきたノリと明日樹の肩を強引に左右から自分のほうに抱き寄せ、玉木は羽生が構えたビデオカメラに向かって、
「三人揃って! 眼鏡っ子スリー!」
 と大声で喚いてげたげた笑った。

 その玉木も、流石に飲むピッチが速すぎたのか、それからいくらもしないで意識を失うようにその場で寝息を立て始め、有働に担がれて居間に運ばれ、炬燵に寝かされた。
 三島の、
「寝ゲロ対策……しておいたほうがいいぞ……」
 という忠言に従って、玉木の下にはビニールシートが敷かれ、玉木の体にかけられたのは、いつ捨ててもいいような古毛布になった。

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彼女はくノ一! 第五話 (39)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(39)

 三人組に引っ張られてるようにして連れて行かれた子供用プールには少児とか児童とか学童とかに区分される子供たちが大勢たむろしており、それはそれで別に問題はないのだが、そういった低年齢のお子さま方には大抵母親かなんかが付き添いで来ているわけで、当然のことながら、子供の年齢が低ければえして母親の年齢も若くなる傾向がある。従って、香也は騒がしい子供の群と水着姿の若い女性の群に向かってたわけで、プールの近くに来てその場を目の当たりにして初めて自分がどういう場所に近づいているのか気づいた香也は、かなりうろたえた。
 大方の母親同士はご近所さんなのかそれとも常連同士なのか、数人ずつグループを形成してプールサイドにたむろしており、プールで騒いでいる子供たちに負けぞおとらず熱心に世間話に興じていた。
 そして、カラフルな水着に身を包んだ三人組、その三人に手を引かれている香也、さらにその後をちょこちょことついてくる浅黄、という奇妙な取り合わせに気づくといかにもうさんくさそうな目つきで香也の顔をみつめる。
 あまり人付き合いが得意ではない香也は、陽気に挨拶して二、三の会話でも交わせばそれなりに疑念も晴らせる、ということいも思い当たらず、その視線に負けて「あう、あう」とか不明瞭な発声を口の中で反芻しながら、疚しいことなど何一つしていないのにも関わらず、ただひたすらいたたまれないような気分になってくる。
 香也たちの集団に楓と孫子、という単独でも人目を引く少女二人が追いついていきなり香也の腕を左右からとったりするものだから、香也に注目していた母親たちの視線は一層険しくなり、チラチラこちらを盗み見ながら声を潜めてごしょごしょ内緒話をしはじめる。
 香也とは別の意味で人なれていない三人組は周囲のそうした雰囲気に気づいているのかいないのか、普段通り三人同士と浅黄を含んだ四人でプールに入ってはしゃいでいる。

 楓と孫子のうち、そうした他人の視線に敏感なのは孫子のほうだった。
 孫子は、周囲の若い母親たいの態度に気づくと、香也の腕を自分の胸に押しつけるように抱きしめて、
「……このおにいちゃん、泳ぐのもとてもうまいのですのよ……」
 とことさら大きな声で、プールで泳いでいる三人に告げる。
 泳ごう、おにいちゃん一緒に泳ごう、などといいながら三人は香也を半ば無理矢理プールに引きずりこみ、香也に水をかけたりどさぐさに紛れて抱きついたりする。すうと楓もすばやくプールに入って香也に抱きついたものを引き剥がしたりするのだが、ないせ相手は三人、多勢に無勢というか、一人引き剥がしている隙にもう一人が香也に抱きつく、といった感じで、しかも浅黄も理由も意味も理解していないままにそのゲームに加わったりする。孫子も楓に加勢して香也に抱きつく子供たちを引き剥がそうとするのだが、その頃には周囲から見知らぬ子供たちがこのゲームに参入しはじめており……。
 なんのことはない。香也は、成り行きで水中人間棒倒しの棒、になったようなものだった。

 最初、香也のことを如何にもうさんさいものを見る目で見てひそひそ囁きかわしていた母親たちは予想外の事態の推移に目を丸くしてあっけにとられている。
 プールの監視員が「プール内での悪ふざけはあぶないからやめてください!」とかなんとか拡声器で叫びながら近づいてきて、その声にようやく我に返って、呆然とみているだけだった母親たちは、自分の子供の名前を呼びながら、「○○ちゃん、やめない!」とようやく制止に入るのだった。

 数分後、子供たちが香也に迷惑をかけたのが決まり悪かったのか、三人組の真似をして香也に抱きついてきた子供たちは、母親に手を引かれて帰っていき、結果として、子供用プールの人口密度は一時的に激減した。
 そのことを無邪気に喜んだのは、三人組と浅黄だった。
 四人は、いきなり空いたプールの中で思う存分に泳いだりじゃれ合ったりして、香也、孫子、楓の三人は時折水に入ってそれにつき合いながらも、基本的にはプールサイドに腰掛けたり子供たちの様子を見守ったりしながら過ごした。
 やがって、定期的にとることになっている休憩時間になり、全員で南に面したベンチに移る。室内プールの南側は、一面ガラス張りになっており、天気が良ければ日差しがよく差し込む。今日は、雲は多少あったが、よく晴れていて、日差しも、冬とは思えないほどに強かった。
 ベンチで休んでいると、浅黄が眠そうに目を擦りはじめる。年齢が年齢で体力もないし、はしゃぎすぎたのだろう。香也がうとうとしはじめた浅黄の体を支えていると、大人用のプールで泳いでいた同行者たちが近寄ってきた。羽生譲が浅黄の様子を確認すると、
「ああ。浅黄ちゃんは……おねむか……。
 しゃあないな。
 わたしも疲れたから、一足お先に一緒に車に戻って一緒に休ませて貰うよ……」
 といってくれ、浅黄をやさしく起こして、更衣室のほうに連れていった。浅黄は、羽生譲に肩をおされ、目を擦りながらもとことこと歩いていく。

 三人と茅、それに水泳部所属の飯島舞花、栗田精一、柏あんなはまだ泳ぎ足りないと思っているのか、もう一時間泳いでいく、という。茅がいるのなら香也も、あんなが残るのなら堺雅史も残るに決まっている。そんなわけで香也たちも残ることになった。今更いうまでもないことだが、香也が残れば楓や孫子も残る。
 みんなで固まってベンチで休んでいると、
「舞花おねーちゃん、おっぱいどーんどーん!」
 とか、三人組が騒ぎはじめ、その辺の話題にはナーバスな反応を見せる柏あんなの顔をひきつらせたり、その柏あんなが孫子の水着姿をしげしげと見たあげく、
「……同士」
 などと手を差し伸べて、今度は孫子の顔を引きつらせたりした。
 確かに孫子は、舞花や楓には及ばないものの、あんなよりは、確実に、「あった」。
 あんなは、どちらかというと、三人組に近いレベルなのであったりするのたが、その事を正面から指摘する命知らずは皆無だった。柏あんなは幼少時から空手の道場に継続して通い続けており、普段はもちろんおとなしいのだが、一度キレた時の攻撃力に関しては、学校内で定評があるほどだった。
 あんなの幼なじみである堺雅史は、話題があんなにとって微妙な方向にいきつつあるこおを察知して、少しあんなから距離をとり、香也と共同制作中のゲームのことを話し始める。

 そんな感じで休憩時間が終わると、一同はまた大人用プール組と子供用プール組に別れた。その区分というのはようするに、「香也を離そうとしない三人組と、香也から離れようとしない楓、孫子」という香也を中心としたグループと、それ以外、ということなのだが。
 例によって、別れ際に、飯島舞花が、
「相変わらず……モテなぁ……」
 などと評したが、それだけ大勢の異性に取り囲まれた香也を羨ましがる者は、同行者の中にはいなかった。
 荒野、堺雅史、栗田精一などの男性陣にはすでに決まった異性がいた、ということもあったが……そういった要素がなくても……彼らの香也を見る「同情に満ちたまなざし」に、変化があるうのかどうか……。

 そんな感じでもう小一時間ほど泳いだ後、着替えて帰り支度をしはじめる。
 香也たちは駐車場で待っている羽生譲と浅黄のほうに合流し、自転車で来た他の四人は一足先に出て、狩野家へと向かった。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(80)

第五章 「友と敵」(80)

 潜水して並んで泳いでいた荒野、香也、舞花は、ほとんど同時にゴールに近づいた。とはいっても、ゴール近くの壁には数名の人たちが立って休んでおり、上を泳いでいる人とぶつからないように注意しつつ、ゆっくりと浮上していく感じだったから、順位は特定できない。いや、そもそも、マイペースで長距離を泳いでいいて途中から潜水に切り替えた香也、香也ほど続けて泳いでいたわけではないが、やはり途中から潜水の舞花、百メートルを潜水し続けた荒野では、条件が違いすぎて競争は成立しないわけだが。
 ともかく、ほぼ同時に浮上した三人は、人を掻き分けるようにしてプール際の壁に取り付き、香也の近くに集まる。香也は、壁に肩を預けて忙しく空中から酸素を取り込んでいる。
「……いやあ、すごいな、絵描きさん……」
「うん。意外と……といっては失礼か……とにかく、やるななぁ……」
「今からでも、水泳部にスカウトしたいくらいだ……」
「……それ、実際にやったら樋口に恨まれるぞ、かなり……」
「ほ、本当にはやらないよ……いくらなんでも……」
 香也のもとに近づいてきた舞花と荒野は、交互にそんなことを言い合った。
「……なんか……泳ぎだしたら……途中から、楽しくなってきて……止まらなくなっちゃって……」
 香也は、ゴーグルも外さずに喘いでいたが、忙しい呼吸の合間にそんなことをいう。
「……ああ……そう、だな……」
 香也の言葉を聞いた途端、荒野は、何故か切ない気持ちになった。
「……楽しい……よな……こういうの……」
 言われてみて初めて気づく、というのもなんだが……確かに、舞花や香也と並んで泳いでいる時……。
「うん。楽しい……な……」
 たしかに、無性に、楽しかった。
 一体なにがおかしいのか、舞花が声を立てて笑いはじめる。一往復泳いで帰ってきた栗田精一が、笑っている舞花を怪訝な顔をして見つめる。
 荒野も、何故だか笑いたい気分になった。
 三人組と徳川浅黄が香也を子供用プールに誘いにきて、それを追って楓と孫子もプールサイドに上がる。
 入れ替わりに、茅と柏あんな、堺雅史がこっちのレーンに移ってくる。
 柏あんなはしきりに茅の覚えの良さに感心していて、茅が一時間もかからずに自由形のフォームをマスターしたと聞いて、飯島舞花と栗田精一も、かなり驚いていた。
 茅が実際に泳いでいるのを見て、水泳部の三人は呆れたような関心したような、なんともない表情をしている。
「正確なフォームって……実は、難しいんだよ……水泳部のヤツでも、ずっと下手なまんまのヤツもいるし……」
 舞花がそういうのを聞いて、荒野はなんとなく納得する。
『……フィジカルな学習能力、か……』
 いわれてみれば……「頭では理解していても、想定していた通りに体が動かない」というのは、よくあることで……というか、スポーツの難しさはそのあたりに起因しているわけで……そういうのは、記憶力とは、あまり関係ない……。
『見たものを、即座に真似することができる、というのも……』
 ……今まであまり深く考えたことがなかったが……確かに、かなり特殊な能力だ……と、荒野は思い当たる。
 ……一族の者の中にも……そんな、便利かつ都合の良すぎる特技をもつ者がいる……とは、聞いたためしがない。一族の技は、先天的な資質持った者が、中い年月を修練して、初めて体得できるものだ……。
『そう考えると……たしかに凄いよなぁ……茅って……』
 荒野はぱちゃぱちゃと水飛沫をあげて泳ぎ続ける茅を見つめながら、そんなことを考えている。

 結局プールには二時間ほどいた。
 例のラジオ体操は一時間に一回の割合であって、その前に十分間、プールの点検を兼ねた休憩時間がある。ラジオ体操、四十五分のプール開放時間、十分間の休憩、のローテーションを二回転ほど繰り返したところで、三人組と荒野、楓、孫子以外の面子に、目に見えて疲労の色が濃くなった。特に四歳の徳川浅黄はかなり疲れている様子で、にも関わらず自分の体力を顧みずにさらに遊ぼうとしたので、周りの人たちが慌てて押しとどめて帰り支度をすることになった。
 帰りの車の中で、浅黄と茅はすでに寝息をたてていたが、狩野家の居間に入ってからもその様子は変わらず、むしろ即座に炬燵に潜り込んで熟睡し始めた。
 他の連中は、「疲れたー」、「腹減ったー」とか言いながら庭に出て、バーベキューの用意をしていた真理や三島百合香、樋口明日樹、大樹、玉木珠美や有働勇作と合流する。玉木珠美は「こっちに知らせずにプールいったんだって?」と口を尖らせた。
「なんだ。お前も行きたかったのか?
 なに分、昨日急に決まったことだし……それに、プールっていっても、あの市民プールだぞ。ほとんど運動不足のおじさんおばさんしかいないような……」
 荒野はそういって玉木いなしたが、玉木のほうは、
「こんだけ人数いて誰ひとりこっちに知らせてくれないとは友達甲斐のない奴らだ嘆かわしい」
 とか、芝居がかった大げさなジェスチャーで嘆き悲しみはじめた。
「それより、肉焼こう肉。運動したからお腹空いたー」
「野菜もだ。栄養のバランスを考えろ。たっぷり用意しているからな……」
「焼こう焼こう! 早く焼こう!」
 ……誰も、玉木を相手にしていなかったが。
「ままま。玉木ちゃん、いつまでもむくれてないで、飲み物でもおひとつ……」
 いつの間にか近寄ってきた羽生譲がよく冷えた缶のプルトップを開けて玉木に差し出す。玉木は特になにも考えず、ごくごくと一息に飲み干し、ぷはーっと息を吐いたかと思うと「ヒクッ」としゃっくりをしだした。
「……炭酸、はいってますね、これ……」
 そういって玉木は「ヒクッ」と、また、しゃっくりをした。
「まあ、炭酸もはいっているけど……基本的には、その他雑穀の汁を巧い具合に発酵させたものだな……」
「初めて飲みますけど……おいしいですね、これ……もう一本……」
「おー。いいよいいよ。いくらでも冷えたのあるから……。
 玉木ちゃん、いける口だなぁ……」
 玉木は、羽生譲から渡された缶を片っ端からごきゅごきゅと喉を鳴らして飲み干した。
 そのすぐ側で、有働勇作が心持ち青い顔をして玉木珠美が空き缶を作るのを見物している。
「あ、あの……そんなにいっぺんに飲むと……急性……」
「ままま。
 うどーくん、堅いこというなよ今日は無礼講だよ。
 それに、だな、未成年はこういう経験を積んで大人になるのさ。自分の適量は早めに見極めておいたほうがいいんだって……」
 柏あんな、堺雅史、飯島舞花、栗田精一は、遠巻きにして「……をい、羽生さん、また年末と同じようなことやっているよ……」などと囁きあっていた。

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彼女はくノ一! 第五話 (38)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(38)

 香也が泳ぐのはおおよそ半年ぶりだった。しかし、体の方は泳ぎ方を忘れていない。義理の父にあたる順也が家に居着いていた頃は、真理や香也、羽生譲を連れてよく海や山などに泊まりがけで外出していたものだ。順也はアウトドアの趣味があり、幼少時からそれにつき合わされていた香也は、本人の意志によらず、野宿や山歩き、それに泳ぎなどの訓練を自然に受けていたことになる。
 おかげで香也は、順也が海外を放浪するようになってからも、小遣い銭程度の現金とバックパック、それに画材とスケッチブックをだけを持って近郊の山奥に写生旅行に行く習慣ができてしまった。習慣ができてしまった、というよりは、休み期間中に風景画を描きたくなると、ふらりと写生にいってしまう。
 ただし、香也は基本的に寒がりだったので、そういう貧乏旅行は春とか夏、あるいは秋、とにかく肌寒くない季節に限定されるわけだが。
 そんなわけで、香也は、普段インドア一辺倒な生活をしている割には、それなりに体力もあり、先ほど飯島舞花が、香也の体つきをみて感嘆したように、体もできている。
 泳ぐのはひさしぶりだったが、実際に体を動かしはじめると香也はすぐに楽しくなってしまった。リズミカルに両腕を交互に回し、力強く水を後ろに掻いていくと、呼吸が制限されていることもあって、すぐにハイな気分になってくる。ランナーズ・ハイ、ならぬ、スイミング・ハイだ。普段滅多に体を動かさない香也は、かえってこうした高揚に弱いのかも知れない。

 楓と孫子は、泳ぎはじめた香也の姿を強く意識しながら、同じレーンで泳いでいる。最初のうちは香也の後ろを追うようにして泳いでいたが、段々人が多くなってきて自由に泳げなくなってきたこと、それに、香也がなかなか休もうとしないのとで、すぐに休みがちになり、終いにはほとんど飛び込み台の下に休んで香也を見守っているような感じになった。
 なんというか、勝手に「ひ弱」というイメージを持っていた香也が、意外な体力を見せたことに半ば呆れ、半ば魅入られている。
 もちろん、二人とも本気を出せば香也など目ではないくらいの速度と持続力で泳げるのだが、実際にそうしてしまったら、いい注目の的になる。それ以上に、この混雑ぶりでは到底実力を出し切れるものではない……。
 そこまで考えた時、二人ははっと顔を見合わせて頷きあう。

「お前ら、泳がないか?」
 と背後から声をかけられた時、二人は視線の力でこれ以上このレーンに人が入ってこないように、文字通り睨みを効かせている所だった。
 振り返ると、荒野が立っている。
「……泳ぎたいのは、山々なのですけど……」
「……こんなにゆっくりは、かえって泳ぎにくく……」
 ぎくりとしながら、二人はなんとなくそんな風に言葉を濁す。そんな二人の様子に納得したのかしないのか分からないが、
「……そっか……」
 などと一人頷いて、そろそろと楓たちの傍の水に、足から入ってきた。
「おれは、泳がせて貰おう……。
 ……そういや、ほかの連中は?」
 首から下を水につけた荒野が、二人に尋ねる。
「あっちこっちに」
「……香也くんは?」
 二人が、自分たちがいるレーンの先の方を指さすと、荒野は再び頷いて、なにも言わずに泳ぎはじめる。荒野は向こう岸で香也に声をかけ、二、三、なにやら話した後、すぐにプールサイドに上がった。香也のほうはすぐにゴーグルをかけ直し、再び泳ぎだした。

 香也はなかなか休もうとしない。流石に速度はそれほどでもないのだが、すでに三十分前後、マイペースで泳ぎ続けている。
 五十メートルを何往復もした後、最後に途中からいきなり潜水を始め、すっかり全身を水面下に隠す。
 そして数秒後、楓と孫子の前に唐突に浮上してきた。遠距離を泳いだ後に五十メートルの半分ほど、二十五メートル前後を無呼吸で泳いで来たわけで……流石に香也も、大きく口を開けて壁面に背中を預け、ぜいぜいと喘いでいる。
「……いやあ、すごいな、絵描きさん……」
「うん。意外と……といっては失礼か……とにかく、やるななぁ……」
 近隣のレーンから、香也とほぼ同じタイミングで浮上してきた飯島舞花と加納荒野が近づいてくる。
「今からでも、水泳部にスカウトしたいくらいだ……」
「……それ、実際にやったら樋口に恨まれるぞ、かなり……」
「ほ、本当にはやらないよ……いくらなんでも……」
 香也は相変わらず壁に体重を預け、ぜはぜはと一時的に不足した血中酸素を補給するのに忙しかったが、少し落ち着いてくると、
「……なんか……泳ぎだしたら……途中から、楽しくなってきて……止まらなくなっちゃって……」
 ようやく、そんなことをいった。
「……ああ……そう、だな……」
 傍にきていた荒野は、どことなく虚をつかれたような表情になって、相づちを打った。
「……楽しい……よな……こういうの……」
 香也とは違って、こっちのほうは息一つ乱していない。
「うん。楽しい……な……」
 そんな香也と荒野の様子をみて、なにがおかしいのか舞花が声を立てて笑いはじめた。一往復泳いで帰ってきた栗田精一が、笑っている舞花を怪訝な顔をして見つめる。

「ねーねー、おにいちゃん……」
 香也がぜはぜは喘ぎ続けていると、プールサイドの上から声をかけられた。
 三人組、プラス、徳川浅黄だった。
「……おにいちゃん、あっちのプール来ようよー……。
 かのうこうやとか監視員とかが、こっちのプール入っちゃ駄目だって……」
「あっちのプール」とは子供用の底の浅いプールであり、「こっちのプール」は香也たちが居る一般用のプールのことらしかった。
「……んー……」
 香也は少し考えて、答えた。
「……もう、十分泳いだし……疲れたから、そっちいって休もうか……」
 そういって、腕の力だけで一気にプールサイドの上にあがった。
「……おにいちゃん……本当に、疲れているの?」
 香也の素早い動きに、三人組は少し驚いているようだった。
「……んー……本当。くたくた……」
 三人に手を引かれるようにして、香也は子供用のプールのほうに向かった。
「……モテモテだなぁ、あっちの香也君……」
 舞花がそう呟くと、楓と孫子がはっとした様子で慌ててプールからあがり、香也たちの後を追う。
 入れ替わりに、茅と柏あんな、堺雅史の三人が、初心者用レーンから、荒野や舞花のいるレーンに近寄ってきた。
「……すごいよー、茅ちゃん……。
 憶えが良すぎ……。もう、こっちのレーンでも十分大丈夫っていうか……見ただけでフォーム憶えちゃう、っていうか……」

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髪長姫は最後に笑う。第五章(79)

第五章 「友と敵」(79)

「いやぁ……こういうところだし、いきなり囲まれた時はちょっくら焦っちゃたよ……」
 羽生譲は、すぐにいつも通りの快活さを取り戻した。
「こういうひと目が多いところでも、ああいう真似するの、いるんだなぁ……」
「確かに、あいつら頭悪そうですが……」
 荒野は苦笑いを浮かべた。
「羽生さんも、そんな、他人ごとみたいに……」
 二人は、一面ガラス張りになっているプールの南側に置かれているベンチに座っている。
 冬ではあるが、室内はプールの湿気が充満しており、外からは意外に強い日差しが差し込み、で、じっとしていても肌に汗が浮かぶ。
 羽生譲は、
「でも、ああいうのは、こっちでは避けようがないからなぁ」
 といって、ははは、と笑った。
「……まあ、こういう場所だし、ついていってもそんなたいした事はなかったと思うけど……ありがとな、カッコいいこーや君」
 茅がビート板から顔を上げて立ち上がり、手を振ってきたので、荒野と羽生譲は手を振り替えした。茅と柏あんながいる初心者用のレーンは、荒野たちのいる南側の端にある。そんなこともあって、荒野は今のベンチを休憩場所に選んだ。
「たまたま通りかかっただけですから、礼なんて別にいいんですけど……」
 荒野は、羽生に聞いた。
「あいつらが誰か、心当たりあります?」
 羽生は、腕を組んでうーん……と唸った。
「……たぶん、近くの大学の、サークル……だと、思う。確証とか根拠があるわけではないけど……全員、それなりに鍛えた体してたし、声かけてきた時もどもってたから、あれ、本気でナンパ、っていうより、そういうのに慣れていない体育会系の学生が、度胸試しなんだか、それとも、人数多いんで気が大きくなったのか知らないけど……」
 ……なるほど……と、荒野は心中で頷く。
 そういえば、水着姿になっていてさえ、よく言えば木訥、悪く言えば垢抜けない雰囲気を漂わせていたような気も、する……。
 少なくとも、荒んだような気配は漂わせていなかった。
 案外、普段はそれなりに気のいい奴らなのかも知れないな……と、荒野は思った。

「なあ、かのうこうや……」
 ベンチで休んでいると、いつの間にか三人組と徳川浅黄が傍に来ていた。
「……なんだ、お前ら……もう泳がないのか?」
「プールの水って、変な味と臭いすんのな! 水道水の味と臭いも最初はアレだったけど、プールの水は、そっちとはまた別で、なんかよりキツイ感じで……」
「それ、塩素……消毒薬のせいだ。多少は入れ替えて、浄化をしているんだろうが……基本的に、同じ水、ぐるぐる廻して使っているから、消毒くらいしないと衛生的に危ない……」
「ふーん……そういうもんなのか、プールって……あ。そうじゃなくてな。
 ボクたち、こっちの深いほうのプールで泳ぎたいんだけど、あっちの人たちが駄目だっていうんだ! かのうこうや、なんとかならないか!」
 そういってガクは、バイザーをかぶり、拡張期をもって監視台の上に座っていた係員を指さした。
「……ここでは、泳げるとか泳げないとかに関係なく、子供はあっちのプールしか入れない規則なの……。
 あの人も仕事で規則を守らせようとしているだけなんだから、駄々こねてあんまり困らせるな……」
 ガクは、「つまんないのー……」といって、口を尖らせた。
「ねね。かのうこうや……」
 ノリが、ちょいちょいと、手首だけで荒野を手招きした。
「さっき、にゅうたんにいいところ見せてたでしょ?
 この、知能犯!」
 荒野が顔を近づけると、耳元でノリはそんなことをくっちゃべった。
「にゅうたん」というのは、羽生譲の事、なのだろうが……なんなんだ、その知能犯、っていうのは……。まるでこちらが仕組んだようないいかたではないか。
 第一、どこでそんな語彙と用法を仕入れてくるのか……。
「……スケベ!」
 テンは、上目遣いに荒野の目を見据えて、ふん、と鼻を鳴らして顔を背けた。
「……はいはい。
 もうどうでもいいから、お前らは浅黄ちゃんと一緒に向こうのプールで遊んでこいって……」
 荒野が適当にいなすと、三人組はトコトコと元の子供用プールのほうに戻ってくる。浅黄も、大人しくその後をついていった。
「……なんか、すっかりいいおにーさんだなぁ、カッコいいこーや君……」
 振り返ると、そんな荒野の様子を、羽生が面白そうな顔をしてみていた。
「いや……あの程度のことに、本気で怒るまでもないかなー……ってだけのことなんですけど……」
「でも、カッコいいこーや君のこういう所をみれるとは、思っていなかったよ……。
 最初の、知り合った頃のカッコいいこーや君からは、さっきみたいなカッコいいこーや君は想像できない……」
 どうやら、羽生譲は笑いをかみ殺しているようだった。
「……おれ、もうちょっと泳いできます……」
 そういって、荒野はその場を離れた。

 時間がたつにつれて、人が増え始めたようだ。
 レーンにはさっきよりも人が増えていて、どうせ思うように泳げないのならば、と、荒野はプールの底に潜水したまま、どこまでもどこまでも泳いでいく。監視員にみつかれば注意されるかも知れないが、急に浮上したりしなければ、危なくもないし見つかりもしない筈だった。
 無音の世界で、手足を使って水を掻いて進んでいると、水面上で泳いでいる人やプールの外の世界を、ことさら意識しないようになる。
 おそらく……酸素が不足し、思考能力が落ちる分、想像力が欠落するだけ、なのだろうが。
 荒野は、そうした、「自分以外の存在を意識しないで済む時間」が、けっして嫌いではない。
 レーンに沿って五十メーメートルを泳ぎ切り、水のそこで壁を蹴ってターンをして、そのままさらに泳ぐ。
 苦しいことは苦しいが、限界はまだまだ先にあった。出発した場所に戻るまでは、十分に息が持つだろう……。
 そんなことを漠然と考えながら泳ぎ続けると、右隣のレーンで泳いでいた男が、途中から深度を下げて潜水し始め、ほぼ、プールの底すれすれの、荒野と同じくらいの場所を、荒野と平行して泳ぎはじめる。
 左隣のレーンを泳いでいた者も、右隣のレーンの男にならって、潜水して荒野と並んで泳ぎはじめた。
 確認すると……右隣の男は香也、左隣の女は飯島舞花らしかった。

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彼女はくノ一! 第五話 (37)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(37)

 朝食が終わり、皆でお茶を飲んでくつろいでいると、誰からともなく「今日、プールに行く」という話しがでてくる。
「茅様が、泳ぎを憶えたいそうで、そのお付き合いでわたしも……」
 と楓が言えば、三人組も、
「プールで泳ぐの初めて!」
 と、はしゃぎはじめる。
 なにも言わないが、孫子も同行することに決定しているのか、妙に表情が柔らかい。もっとも、表面に出さないように努めてはいるようだが、実は、内心はかなり嬉しそう……というのは楓も同様で、時折、なにやら思い出したように、にやら、と頬が緩む。
「ほー……そんで、どこ行くの?」
 羽生譲が興味本位でそう聞いた。
 真冬の今、みんなで遊びに行けるような遊泳用プールは、県外のかなり遠くに行かなければない筈だったが……。
「市民プール、とか言っていましたけど……」
 楓の答えを聞いて、羽生譲は反射的に、
『……あんなセコいところ……』
 と思ってしまい、次の瞬間、そう思ってしまった自分を少し恥ずかしく思った。
 遊びに行く、というよりは……茅が泳ぎを習う、ということが第一義であり、後の人たちはあくまで便乗しているだけなのだろう。
「ええっ、とぉ……」
 羽生譲は、視線を上に反らせて、質問を続けた。
「誰が……あと、何人くらい、行くのかな?」
「はっきりしているのは、茅様、柏さん、わたし、この三人……」
 楓は、指折り数えながら答える。綿密な打ち合わせをしているわけでもなく、楓にしても、はっきりとした人数は把握していなかった。
「……それに、わたくしも、同行いたしますわ……」
 才賀孫子も、湯飲みを傾けつつ、そう答える。
「……それに、香也様……」
 楓がそう続けたので、香也は飲みかけていたお茶を吹き出しそうになった。
「……どうしたんですか?」
 楓が、怪訝そうな表情を浮かべ、香也に顔を向ける。
「……んー……」
 と、香也は例によってひとしきり唸ってから、
「……ぼく、その話し、今はじめて聞いたんだけど……」
 と答えた。
 三人組が「えー!」と声を揃えた後、「おにーちゃん、行かないのぅ……」といかにも残念そうな口調でいう。
 楓は、「あっ」という表情を浮かべてから、香也ににじり寄り、香也の腕を取って、自分の胸を押しつけるようにして、抱きかかえた。
「そういえば、そうですね……でも、今、言いました。
 香也様……みんなで一緒に、泳ぎに行きましょうよぉ……」
 と、香也の耳元に息を吹きかけるようにして、囁いた。
 香也が、むず痒いようなそれでは済まないような感覚を背筋に感じてぶるっと体を震わせると、
「……ねぇ……ここまで来て、断る……なんてことは、ないですわよね……」
 負けじと、孫子も楓の反対側の腕を取り、自分の体を香也に擦りつけながら、囁く。
 三人組も立ち上がって香也のほうに殺到してくる体勢に入ったので、香也はあわててブンブンとかぶりを縦に振った。朝っぱらから真理や羽生の目の前で組みつほぐれつのバトルロワイヤルを演じるよりは、大人しく一緒にプールに行く方がまだしも平和だ。それに、どのみち今日の午後は庭でバーベキューをやる予定だったので、半日は潰れる予定なのだったのだ。それを考えれば、一日まるごとつき合うのも、そう悪くない選択であるように思えた。
 そんな香也たちの様子を面白そうに見ていた羽生譲は、「プールまで意外に遠いし、人数多そうだから……」といって、その場で真理と相談し、ワゴン車を出してくれる、と申し出てくれた。

 家の前で加納兄弟や樋口兄弟、飯島舞花と栗田精一と一端合流し、少し話してから狩野家の人々と加納兄弟はワゴン車で、舞花と栗田は自転車で、樋口兄弟は狩野家に残って午後の準備を手伝ってくれることになった。
 樋口明日樹は少し寂しそうな様子だったが、香也が声をかけたときには、
「すぐに三島先生や玉木たちも来るっていうし……」
 といって微笑んで見せた。
 その三島先生は、なんでも材料を安く揃えるあてがあるとかで、朝から車で外出している、という話しだった。

 プールの駐車場に着いてワゴン車を停めると、途端に三人組と浅黄が元気よく飛び出していく。少し遅れて年長者たちが後を追い、男女に分かれて更衣室に入った。
 着替えてプールサイドに出ると、すでに女性陣は全員着替え終わっていて、いつものように舞花と荒野が立ち話をはじめる。三人組は「プールって、変な臭いがする!」、「海に比べると、全然狭い!」とかなんとか、わいわいしゃべりながら香也の周りに集まってくる。全員、ここの規則に従ってスイムキャップをかぶり、首や額にゴーグルをかけていた。そうしてスイムキャップに髪をまとめて、水着姿でいると、三人のボディラインが否が応でも強調されているようで、こうして近くに寄られてみると、香也はこの子たちと初めての会った日、一緒に風呂に入った時のことなども連想してしまい、少しドキドキしてくる。
 すぐに三人にならって楓や孫子も近寄ってきて、初めて彼女たちの水着姿を目の当たりにした香也は、いよいよドキドキしてくる。楓は、背はあまり高くはないものの、水着を着ていると、普段は隠れがちなぼん、きゅ、ぼん、な体型であることがはっきりと分かってしまい、孫子は孫子で、一応黒のワンピースではあるものの、キュッとキツイ角度のいわゆるハイレグというヤツで、足の長さを強調していた。
『……ここにいる全員の……』
 全裸姿を拝んだことがあり、なおかつ、裸同士ですり寄られた経験がある香也は、そうした過去を連想しないように気を静めるのに、大変な努力が必要だった。香也自身も水着である、ということは、反応してしまえば、即座にその事実が周知のものになってしまう、ということで……そういう情けない状態だけは、回避したかった。
 この場で勃起などしようものなら……例えば、この三人組の性格などを考慮すれば、香也のその部分を指をさしながら「あー! おにいちゃん、大きくなってるー!」などと無邪気に大声で叫んでも不思議ではない。
 そんな事態は、断じて避けたかった。
 自宅から直接こっちに向かった柏あんなや堺雅史も、準備運動のラジオ体操が流れる前にプールサイドに出てきた。
 柏あんなは部活で着用しているのと同じ競泳用の水着、堺雅史は香也と同じ、なんの変哲もない、体育の授業で使用している、学校指定の水着だった。
「……しかし、まあ……こうしてみてみると……」
 羽生譲が勢揃いした面子をゆっくり見渡して、わざとらしく感嘆してみせた。
「……よくもまあ、臆面もなく……タイプの違う美少女ばかりが集まったもんだ……」
 それから、「よ! 果報者!」といいながら、平手で香也の背中を叩く。
 パシィン! という小気味良い音がした。
 香也が痛がって自分の背中をさすろうとしていると、
「……プール……水着……やっぱり、ポロリが……」
「……ありません!」
 楓、孫子、舞花、あんなの四人が、一斉に声を合わせてツッコミをいれた。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(78)

第五章 「友と敵」(78)

 ラジオ体操が終わると、ようやくプールに入れるようになった。とはいっても、レーン毎に初心者用、ウォーキング用、巡航用、と使い方が定められている。子供用の浅いプールは大人用のものとは別にあり、三人と浅黄はそっちに向かった。そっちのほうはレーン毎に細かい決まりがあるわけではなく、小学生前後の子供たちが賑やかに水遊びをしている。茅もそちらのほうに行きたそうな顔をしていたが、柏あんなは大人用のプールの、初心者用のレーンに茅を連れていき、水に顔をつけられるかどうか、という所から確認しつつ、丁寧に教えはじめた。茅は、泳ぐのは初めてとはいえ、水に対する過剰な恐怖心は持ち合わせていないようで、顔をつける、そのまま、顔を下にして全身を水面に浮かべる……など、柏あんなの指示することを無難にこなした。
 すると、柏あんなは、プールサイドに置いてあったビート板を借りてきて茅に渡し、使い方とばた足のやり方、それに息継ぎの仕方を簡単に教えると、すぐに実地にやらせてはじめた……。
 しばらく様子を伺っていた荒野は、「どうやら問題はないらしい」と判断し、その初心者用のレーンから離れる。
 そのすぐ隣りのレーンは、ウォーキング用のレーンになっていて、体型からしても明らかに生活習慣病候補者と思われる男女が自分の贅肉をたぷたぷと揺らしながらゆっくりと歩いていた。
 そちらのレーンには用はなく、さらにその隣りの、普通に泳げる人たちのためのレーンに向かうと、まだ朝も早いというのに、そこは結構込み合っていた。
 泳げることは泳げるが、前後に常時別の人間が泳いでいる状態で、前後の人の速度にあわせなければならず、自分のペースで泳げないようだった。
『……イモ洗いの一歩手前、って感じだな……』
 と、荒野は思った。
 日本人口の局地集中的な傾向を今までの経験から体感してきたので、さして不思議には思わなかったが。
 ……あの二人も、このような状態なら張り合いようがない……。
 そんな理由で、荒野としてはどちらかというと有り難い状態だった。
 これだけ込み合っていると、二レーンを占有しての競泳、など、できよう筈もなかった。
 その二人、楓と孫子は、あるスタート台の下で、つまらなそうな顔をして水に浸かっている。荒野は二人に近づいて、
「お前ら、泳がないか?」
 と尋ねてみた。
「……泳ぎたいのは、山々なのですけど……」
「……こんなにゆっくりは、かえって泳ぎにくく……」
 そんな所だろうな、と、荒野は思った。
 この二人が全力で泳がせるのなら、レーンを完全に空けなければ、危なくてしかたがない。そして、この二人は、揃ってその手のことで手を抜くのを嫌がっていた。
「……そっか……。
 おれは、泳がせて貰おう……」
 飛び込みも禁止されているので、荒野は二人の近くで、足から静かに水の中に入っていく。
「……そういや、ほかの連中は?」
 首から下を水につけた荒野が、二人に尋ねる。
「あっちこっちに」
 ということで、あんまり固まっているのも周囲の邪魔だから、適当にレーンを別れたらしい。特に飯島舞花と栗田精一などは、できるだけ二人きりになりたいことだろう。そういえば、堺雅史も、それなりに泳げる様子だったのんい、初心者用のレーンで柏あんなの回りをうろろしていた。
「……香也くんは?」
 二人は、自分たちがいるレーンの先の方を指さした。
 考えてみれば、この二人が、香也の側から離れたがるわけはないのであった。
『……あー。……香也君が泳いでいるのを邪魔しないために……』
 自分たちはここにいるのか、と、香也はようやく思い当たった。
 そういえば……左右のレーンに比べ、このレーンだけなんっとなく人口密度が薄い。
 二人がここで睨みを効かせて、なんとなく他人が入りにくい雰囲気を作っているらしかった。
『……なんだかなぁ……』
 と、思いながら、荒野は壁面を蹴って泳ぎはじめる。
『実力行使とか、はっきりと脅しつけて人払いしていないだけマシか……』
 他のレーンと比較するれば、確かに多少は人は少ないとはいえ、このレーンもやはりそれなりに泳いでいる人はいる。
 泳ぎ初めてすぐ、荒野は前を泳ぐ人に追いつき、その人のペースに合わせてかなりゆっくりとした速度で泳がなければならなかった。
 そんなに遅い速度で泳ぐのは初めてのような気がしたが……あえて悠々と泳ぐのも、なかなか気持ちがいい。

 ゆっくりとしたぺースで五十メートルを泳ぎきると、楓や孫子たちがいる場所の対面で、香也が休憩しているのをみつけた。四、五人ほどの人々が、首だけをだして香也と同じように休憩している。
「……や」
 荒野は、香也に声をかけた。
「楽しんでる? あの二人、迷惑かけていない?」
 香也は、
「……んー……」
 と、例によってどううとでもとれるような唸りを発し、その後、
「……泳ぐのも、久しぶりだから……」
 といって、額に押し上げていたゴーグルをかけ直し、荒野が来た側に向かって泳ぎはじめる。
 さして速くもないし、力強くもなかったが……無駄な動作がない、なかなか端正なフォームだと思った。
『……別に、運動が苦手、というわけでもないのか……』
 普段、プレハブに籠もって絵ばかり描いている、というイメージが先行していたため、香也が割とまともに泳いでみせたのが、なんとなく意外だった。

 荒野は水からあがり、他の連中を捜してみる。
 飯島舞花と栗田精一は、やはり一緒にいた。同じレーンを前後して泳いでは、岸に度に小休止してあにやら談笑している。
 羽生譲は、プールサイドで数人の男性に囲まれていた。荒野が通りかかったのに気づくと、
「荒野君!」
 と小さく叫んで男たちの輪を強引にかき分けて、荒野の腕をとった。
「……ナンパ」
 と、荒野の耳元で、小声で囁いた。
 事情を察した荒野が、ほんの少し殺気を込めて一睨みする。
 すると、大学生らしい、筋肉質の二十歳前後の男たちは、少し青ざめた顔をして二、三歩後退し、荒野と羽生譲に背を向けた。
「……助かったよー、カッコいい荒野君」
 そいつらの姿が完全に遠ざかると、羽生譲は明らかに安堵の表情になった。

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彼女はくノ一! 第五話 (36)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(36)

 ライフルを分解し、テーブル一面に部品を終わると、篤朗は、
「ふむ」
 と頷いた。
 いつの間にか、篤朗の後ろにテンが立っていて、テーブルの上にぶちまけられた部品をじっと見つめている。
「さっきの話しでは、これらの寸法、全て覚えているということだったな?」
 篤朗が背後のテンに確認すると、テンは黙って頷いた。
「……それを、忘れないように。
 ちょっと、これを持って……重さ、形……この、内側の溝の深さまで……しっかり覚えるのだ……」
 テンは、篤朗から渡された、鉄パイプに見える銃身部分をしげしげと眺め、内側を覗きこんだりしていったが、「わかった」というように頷いて、すぐに篤朗の手に銃身を戻した。
「もういいのか? 
 では、見ているのだ。今から組み立て直すのだ……」
 分解した時とは比較にならない早さで、篤朗の腕が動く。
 作業に慣れた孫子の半分くらいの時間で、篤朗は元通りにライフルを組み上げた。
「……ちょうどいいのだ……」
 篤朗は、組み上げたライフルを孫子に渡し、テンの頭の上に掌を乗せ、強引にテンの体を自分のほうに引き寄せた。
「この子に、君のライフルのコピーを作らせるのだ。
 新入りの実習に、ちょうどいい課題なのだ……」
 篤朗は、「テンに自分の設備と材料を与え、実技指導を行い、テンに孫子のライフルのコピーを作らせる」と宣言した。
「……この子がどの程度使えるのかわかるし、一石二鳥なのだ……」
 呆気にとられている孫子とテンをよそに、篤朗はそんなことをうそぶいた。
 テンのほうは、篤朗がいったことを理解して、だんだんと顔を輝かせてくる。
 孫子のほうは、最初呆れ顔だったが、しまいには「やれやれ」といった感じで肩をすくめた。
「……確かに、そちらの作業が終わるまで、この子を貸し出したままにしておく……というのも、不用心ですわね……」
 無理に、納得した表情を作った。
 孫子にしてみれば、篤朗の思惑が不首尾に終わっても、実家から新しいライフルを取り寄せればそれで済む話しで……任せても、なんら、不都合はないのであった。
 孫子は篤朗から返却されたライフルをゴルフバックをしまい、自分の元に引き寄せた。
 細かな部品まで含めて、テンの頭の中に入っている……というのであれば、見本品は、しばらく必要ないのだ。
『……後は、……』
 彼らの複製が、ある程度、実物通りの形になっているのを確認したら……素材などの「詰め」は、その後に、行えば良い。
 銃器に使用される金属類には、精度、硬度、耐熱性……など、特殊な条件が要求される。多少の技術力があったとしても、見よう見真似で複製できる代物ではなかった……。
「……最初は、銃身……それをクリアしたら、他の細かい部品も、一つ一つ作らせるのだ」
 孫子の考えていることを見透かしたような口調で、篤朗はそういった。

 しばらくして、食料品の詰まったビニール袋をぶら下げた荒野が帰宅したのを潮に、孫子はマンションを辞した。

「……じゃあ、徳川君の所で孫子ちゃんの鉄砲、作らせることになったんか?」
「試しにやらせてみる、といった感じですわね……」
 三人がいない食卓は、やけに静かに感じた。
 そんな中で、羽生譲一人が快活で、なにかと他の住人たちに話しかけている。
「……そんなに簡単にできる代物ではございませんので、実際に言ったとおりのものができるのかどうかは……しばらく、様子をみてみないことには……」
 孫子のライフルは、簡易な設備で複製できることを前提とした、量産品前提の安物のハンドガンではない。電装品類を除いたとしても、部品一つ一つが寸分の狂いもなくぴったりと組みあわされる事で初めて満足に機能する……精密機械だ。
「……そういいながらも……孫子ちゃん、案外やれると思っているんだろ?」
「わたくしがどう思うとも……豪語した通りのことが実際にできなければ、意味がありません……」
 孫子は澄ました顔をしてそういい、食事を続ける。

 食後、一息ついてから、楓と孫子は一時間前後、香也の勉強を見る。これはもはや、完全に日課となっていた。
 その後、寝るまでの時間、香也は庭のプレハブに入って絵を描くことになる。
 この時の楓と孫子の行動は日によって異なる。自分の勉強のために、あるいは他の用事にあてることもあれば、別の用事をしていることもあり、あるいは、庭のプレハブにいって香也の背中を黙って眺めていることもある。
 楓と孫子の間では、いつの間にか、「絵を描いている時、香也の邪魔はしない」というような不文律が、暗黙のうちに成立していた。
 だから、プレハブで香也と二人のうちどちらかが二人っきりになっても、とりたてて問題視することはなかった。
 この日の場合は、香也と一緒にプレハブについていいったのは楓だけで、孫子のほうは自室に引きこもった。
 孫子は、それから寝るまで間、明日、着る予定の水着を選び続けることになる。
 孫子は、楓とは違い、何着かの水着を所有している。そのうち、どの水着を着用するのか、まだ決定していなかった。
 鏡の前でそれらをとっかえひっかえして自分の体の前にあててポーズを取ったり、かと思えば、ポーズを取ったり、急に赤面して顔を伏せたり、また別の水着を手に取ったり……と、なかなかに忙しかった。
 普段の、冷静沈着を絵に描いたような孫子しか知らないクラスメイトたちが今の孫子をみたら……かなり、違和感を覚えたことだろう。

 翌日、学校は休みだったが、狩野家の人々は、だいたい平日と同じ時刻に起き出していた。楓や孫子が来てからというもの、香也の生活も、学校に行くか行かないかにかかわらず、かなり規則正しいものになっている。以前のように、休みだから……といって朝寝を愉しんでいると、二人が競うようにしてたたき起こしに来るので、自然と規則正しい生活態度になってしまう。
 根本的な部分で放任主義の真理も、どちらかというとこの傾向は歓迎している。香也の生活が健康的になっったから、ではなくて、朝御飯の準備と片づけが一回で済む、という極めて即物的な理由からだったが。
 この日、隣りにある荒野たちのマンションに泊まりに行った三人は、朝早くに帰ってきて、風呂場でざっと汗を流した後、自分たちの部屋に戻って着替え、真理と一緒に朝食作りの手伝いをしている。
 三人は毎朝ジョギングでもしているらしく、毎朝、朝早くから外出していた。狩野家の中で一番の早起きは、間違いなくこの三人だろう。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(77)

第五章 「友と敵」(77)

「……で、当然……こうなるのか……」
 狩野家の前で、両腕に松島楓と才賀孫子をぶら下げ、なんとも情けない表情をしている狩野香也と顔を見合わせ、加納荒野は、うんうん、と頷き合った。
 周囲には、茅、飯島舞花、栗田精一の二人以外にも、樋口明日樹と樋口大樹がいた。羽生譲は、車庫からワゴン車を出しにいっている。
 もちろん、その他に徳川浅黄がいる。三人組もいる。
「ええと……」
 荒野はあたりを見渡していった。
「……こんなに大人数で……車、大丈夫」
「あ。わたしとセイッチは、チャリでいく」
 飯島舞花が片手をあげる。
「あの……わたしたちは、泳ぎのほうには……午後のほうのお手伝いに……」
 樋口明日樹もおずおずと言い出した。
「おれたち、行ってもどうせ泳げませんから」
 樋口大樹がそう続けると、明日樹はすかさず大樹の後頭部を平手ではたいた。
『……かなづち……か』
 ……明日樹がプールに行きたがらないわけだ。香也が一緒なら、なおさらだろう。
 荒野は、心中で人数を数え直す。
 荒野、茅、香也、楓、孫子、ガク、テン、ノリ、浅黄……それに、運転手の羽生。
 それでも、十人。

「大丈夫、大丈夫」
 車を出してきた羽生譲は、ワゴン車の荷台にシートを出して座席を作ってくれた。
「……これで、三人分くらい座れるたろ?
 で、それでも座れない人は、さらにそのうしろ……」
 羽生譲は、荷物置き場を指さす。
 そこには、三人組とか徳川浅黄とかが座りたがった。

 市民プールとやらには、車で十分もかからなかった。この距離なら、自転車で出発した舞花たちもそう遅れずに到着するだろう、と、荒野は思った。
「あっちがゴミの処理場でな。そっちで可燃物燃やした時の熱を利用している、ってわけだ……。
 廃棄物処理ナントカって法律で、あの手の処理場には政府の補助金が出るとかで……」
 駐車場にワゴン車を駐車させて車から降りると、羽生譲は隣接する建物を指さしながら、そんな説明をしてくれた。
「ま……そのおかげでこうして一年中泳げるんですから、いいじゃないですか……」
 荒野としては、そんな凡庸な返事をするしかない。
 三人組は「プール、はじめてー」とはしゃいでいる。
「……そういえば、浅黄ちゃんは泳げるのかな?」
 荒野は、三人組と一緒になってはしゃいでいる浅黄に、そう聞いてみた。
「うん! あさぎ、およげるー!」
 浅黄は、元気にそう答えてくれた。
「かやに、およぎかた教えるー」
「そりゃあ、すごいなぁ……。
 ……よかったな、茅……先生がいっぱいいて……」
 荒野がそういうと、茅は「むぅ」とむくれて見せた。

 ロビーで男女に別れ、更衣室に向かう。とはいっても、今の時点で男性用の側にいくのは荒野と香也だけだ。
「……また、楓と才賀に無理に引っ張られた?」
 二人きりになると、荒野は香也にそう尋ねてみた。
 香也は例によって、
「……んー……」
 とひとしきり唸ってから、
「そう……だけど……。
 でも、そういうのも慣れてきたし、それに……」
 そうして強引に誘われるのも、結構嬉しいから……。
 と、香也は答えた。
 着替えている途中に、栗田精一が更衣室に入ってきた。

 着替え終わってプールサイドにでると、女性陣はすでに勢揃いしていた。
「……早いな……」
「全員、中に着てきたから……」
 自転車で来ていた筈の飯島舞花が、代表して答えた。
「しかし……おにいさんはともかく……絵描きさん、脱ぐと結構……。
 細いだけかと思ったら、意外にがっしりと……」
 舞花の視線を遮るように、左右から楓と孫子が香也の前に進み出て、「ムッ」とした顔をして舞花を睨む。
「いや……そういうつもりじゃ……わたし、セイッチいるし……」
 舞花はポリポリと自分の後頭部を掻く。
「そうだ!
 セイッチもたいしたもんだろ? 部活で鍛えているし!」
 そういって舞花、傍に来ていた栗田の肩を掴んで引き寄せ、自分の前に差し出す。
「……背が小さいのです」
「筋肉、つきすぎですわ」
 楓と孫子の二人には、不評だった。
 栗田精一は、背を丸めてこそこそと二人の前から立ち去った。「あ! セイッチ!」といって、舞花がその後を追う。
 そんなことをしているうちに、柏あんなと堺雅史の二人もプールサイドにでてくる。

 プール中に鳴り響く音量で「ラジオ体操」が流れる。
 まだ朝が早いせいか、荒野たち一行を除くと、プールサイドに集まった人たちは運動不足解消を企図した中高年の方々が大半で、その他にチラホラと小さな子供とその親御さんらしい女性の姿が混ざっている。
『……消毒曹に浸からなければいけなかったり、スイムキャップとゴーグルが義務づけられていたり……』
 市民プールというやつも、いろいろと繁雑だな……と、荒野は思った。
 後でみんなにそういうと、
「……そういうのがイヤな人とか金のあるヤツは、民間のフィットネスとかにいく」
 といわれた。
 そういわれてみれば、このプールの入場料は、やけに安かった。

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彼女はくノ一! 第五話 (35)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(35)

『……ああー……』
 楓は「絶対秘密だ」といわれた一族の事を篤朗が推測し、茅が認める現場に居合わせ、居心地が悪い思いしていた。しかし、篤朗に不審な点をつつかれたからと言っても、茅自身が進んで明かしたようにも見えたので、楓の立場からはなにもいえない。
 荒野が玉木珠美にそのあたりの事情を話した時も、かなり軽々しいと思えたものだが……。
『……こんなにいろいろな人に知られてしまって……』
 ……いいのだろうか?
 と、楓は思う。
 あるいは楓は、荒野や茅以上に、今の生活が壊れることを恐れているのかも、知れない。
 そんな楓の気持ちをよそに、徳川篤朗とテンは、「徳川の仕事」について詳しいことを話し始めている。テンは、コンピュータや自動制御の工作機械を駆使した徳川の工場に、強い興味を持ったようだ。確かに、それまでのテンの生活の中には、なかった要素だろう。だが、テン以外の二人、ノリとガクの方は、篤朗が連れてきた浅黄や茅と無邪気に遊んでいるところをみると、三人の中でテンだけが特別、好奇心が強いようにも思える。
 テンの質問が、篤朗の語る工場の設備や機構などに関する部分に集中しているところをみると、単純な好奇心……というより、未知の物への探求心が強い、とみるべきか……。
 帰宅した才賀孫子も、着替えて居間に戻ってきて、徳川とテンの話しの輪に加わった。以前、玉木珠美に「ライフルの整備を篤朗に任せてはどうか?」と示唆された事もあって、孫子は、徳川の工場の設備でそれが可能であるのか、見極めたいようだった。
 その場で小一時間ほど話し込み、一息ついたところで、茅が、
「……続きは、マンションですればいいの」
 といって立ち上がった。みれば、茅はまだ、制服姿のままだった。
 茅に率いられるようにして、徳川篤朗、徳川浅黄、三人組、それに、愛用のライフルをいれたゴルフバッグを背負った才賀孫子が、ぞろぞろと玄関から出て行くのを見送って、楓は、どことなく気の抜けたような、ホッとしたような気持ちになった。
「……んじゃ、わたしたちも食事の支度、手伝おうか?
 人数減ったしわたしもいるし、今日くらいは真理さんには休んで貰おう……」
 楓と一緒にみんなを見送った羽生譲が、楓の肩に手を置いて楓をそくす。
 三人組は、浅黄が荒野たちのマンションに泊まっていくと聞いて、そのままマンションに一緒に泊まるといいだしていた。
「……はい」
 楓はどことなく釈然としない気分を抱えたまま、羽生の後に続いて台所に向かう。

「……銃器は、特に遠距離用の物は、精密機械ですの。
 その辺のこと、分かっていらっしゃいます?」
「現在の日本の体制下では、兵器製造は一部大手企業に押さえられているが、技術力ではうちも決して負けてはいないのだ……というか、はっきりいって、勝っているのだ」
 徳川篤朗は才賀孫子のライフルを両手にとって、重さを確かめるようにして持ち上げる。
「兵器というのが、局限の場で使用される以上、信頼性に直結する部品の精度が問題になるのは、先刻承知しているのだ。うちの工場のオート・マニュピュレータ制御は、日本中の町工場を駆け回って採取した熟練工の手業をデータベース化しているのだ。国内で作れるものでうちで作れない製品はないといってもいいのだ」
 微妙にやばそうな内容も含めてそんなことをいいながらも、篤朗は銃口を覗き込む。
「……そういう真似……いくら、弾が入っていないからと言っても……」
 孫子は、眉をひそめた。
 あくまでライフルを「武器」としか観られない孫子は、平然とそんな真似をする篤朗の精神が理解できない。
「……なるほど……」
 そんな孫子の様子に気づいているのかいないのか、篤朗は銃口の中をじっくりと覗き込んだ。
「ライフリングは摩耗していないが……重心が、微妙に、歪んでいるのだ……。
 思ったより硬度のある素材を使っているようだが……横からの力には、以外に弱い、か……。
 ふむ……」
 篤朗は顔を上げ、孫子と目を合わせる。
「……これでは、近距離はともかく、標的が遠くなればなるほど、弾道がそれるだろう?」
 そういわれた孫子は、頷くより他なかった。
 銃身の歪みは、肉眼では確認できないほど僅かなものだと思ったが……。
「こちらの技術力を疑うのなら、試しにこの銃身だけでも作らせてみせるのだ。
 今のうちの技術力なら、これと同じ寸法で、これよりもっと軽くて、硬くて、それに熱に強い強い銃身が明日にでも製造可能なのだ。
 それ以上のことは……例えば、この標準器などは特殊な半導体部品が多数使用されているし、弾丸も、炸薬関係の原料を調達するのは法的な問題で国内では珍しいと思うのだが……そうした特殊な物を除けば、あとはうちでも十分に複製可能なのだ。
 ……これ、分解していいのか?」
 孫子は、半ば呆れながら頷いた。
「あなた……自分の専門分野のことになると……随分、多弁になりますのね」
「そうか?」
 篤朗には、そんな自分の性癖に自覚はないようだった。
 素っ気なく返事をして、孫子のライフルから弾倉を抜き出し、白衣のポケットからドライバーセットやペンチなどの工具を取り出して、テキパキとその場で分解しはじめる。外したビスやネジの一つ一つをテーブルの上に並べていく。
「……元にもどせますの? それ?」
「あの二人ほど完璧な記憶力はないが、自分の手でバラしたものくらいは、憶えているのだ。
 頭が、というよりは、この手がな……」
 そういいながら。篤朗は孫子の方に目も向けず、手際よく分解作業を行っていく。
 孫子自身も、メンテナンスのため分解掃除をすることも多く、お目を瞑っていても行えるほど習熟した作業だったが……その孫子の手よりも、下手をすると動きが早い。
「……これでも、プロフェッショナルの端くれつもりなのだ……」
 徳川篤朗は、手を休めずにそういった。
『……頭に猫を乗せていう台詞ではありませんわ……』
 と、孫子は思った。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(76)

第五章 「友と敵」(76)

 羽生譲から借りてきたDVDを「とっとろ、とっとろー」というメインテーマの合唱付きでめでたく観終わると、徳川浅黄は欠伸をしだした。いい具合に、眠たくなったようだ。
 荒野は全員に風呂に入るように命じ(この時、荒野と三人の間に「覗くなよ!」「覗くか!」という心温まる会話が発生した)、荒野以外の全員が入浴している間に、来客者たちの人数分、新しい歯ブラシを用意する。
 それから、物置にしている部屋のベッドからマットレスを引っぺがしてきてリビングの床に直接置き、普段使っているベッドからも同じようにマットレスを引っぺがしてきて隣に置く。その上に敷き布団を置き、シーツをかけ、その上に毛布と掛け布団を置く。
 人数は多いけど、荒野自身と茅以外は、子供子供した体格だし、これでなんとかなるだろう……と、思った。つまり、寝具が足りないので、この状態で雑魚寝である。
 他の連中が長風呂から出てくると、入れ替わりに荒野が下着とパジャマを持って風呂場に入り、ざっとシャワーを浴びる。

 翌朝、目覚ましもセットしていないのにも、茅は、いつもの時間にぞもぞと起きだした。茅の動きに反応した三人が、次々に目を醒まし、身じろぎしたのを、荒野は感知する。荒野は頭だけを起こし、左手の人差し指を口の前に立て、熟睡している浅黄を指さす。灯りはついていないが、三人とも夜目が効くのか、小さく頷くのが分かった。一足先に布団から抜け出した茅は、足音を立てないようにして、着替えの置いてある隣に部屋に姿を消す。三人も、そろそろと布団から抜け出した。
 茅はすぐにスポーツウェアに着替えてリビングに帰ってきて、そのまま外に出ようとする。三人とパジャマ姿の荒野もそれにつづく。
 玄関のところで茅と三人が靴を履いて出て行くのを確認すると、荒野はドアノブを押さえながら、そっと閉めようとした。
 廊下に出た三人が、荒野に向かって「来ないのか?」というジェスチャーをしたが、浅黄が寝ている布団のほうを指さすと、こくこくと頷きはじめた。
 寝ている浅黄一人を残して、全員が外出するわけにはいかないのである。
 そんなわけで荒野は、茅と三人が帰ってくるまで、寝たままの浅黄と二人きりで、横になって過ごした。

 出て行ったのは夜明け前だが、帰ってきたのはあたりが明るくなってしばらくしてからだった。出て行ったのは四人だったが、帰ってきたのは茅一人だった。
 汗だくになって帰ってきた茅は、汗に濡れた下着とスポーツウェアを脱いで洗濯機に放り込み、全裸になって浴室に入る。
 茅がシャワーを浴びているうちに、浅黄ももぞもぞと目を醒ましはじめたので、荒野は布団を出て着替え、茅の着替えを脱衣所に置き、朝食の準備をはじめることにした。
 昨夜のカレーはまだ多少、鍋の底に残っていたが、二食続けてカレーというのもなんなので、常備している材料で作れるもの……を、頭の中でリストアップし、その中から、フレンチトーストをチョイスして作ることにする。
 朝食の準備をしているうちに浅黄が本格的に起きだしたので、椅子に座らせて暖めた牛乳をいれたマグカップを渡し、テレビをつける。テレビでは、ニュースなのかバラエティなのかよく分からない半端な番組ばかりで、浅黄はつまらなそうな顔をしてリモコンを手に、頻繁にチャンネルを変えていた。
 茅が風呂から出てきて、ちょうど朝食の準備も整ったので、三人で「いただきます」と唱和して朝食になる。茅と浅黄はどうでもいいようなことをにこやかに話しながら(と、いっても、主として話したのは浅黄で、茅はそれに相槌をうっていただけだが)、荒野は黙々とフレンチトーストとサラダにカフェオレ、という食事を摂った。
 食後、茅が浅黄と一緒に歯を磨かせている間に食器を片付ける。その後、二人と入れ替わるようにして洗面台に向かい、歯を磨き顔を洗う。
 リビングに戻ると、そろそろ週末の朝恒例のお子様番組の時間に突入していて、茅と浅黄はテレビに釘付けになっている。
 荒野は時計を確認し、
「……あと三十分くらいで、家をでるんだろ? そろそろ、用意しなくていいのか?」
 と、二人に声をかけた。
 浅黄は知らないが、茅は毎朝、外出前の身支度に、二十分以上かける。
 茅は頷いて、「浅黄、お願い」といった。
 浅黄はテレビから視線を離さないまま、とことこと茅の背後に回り、茅の髪を指で軽く梳いてから、三つ編みに編み始める。
「今日は、編むのか?」
 荒野が怪訝そうな顔をして尋ねる。
「プール、帽子かぶらないと、入れないって言われたから……」
「帽子……スイムキャップのことか?」
 言われてみれば、公共の施設なら、衛生上の理由がどうのこうのと、規則がうるさいのかも知れない。
 浅黄が茅の髪を編み上げる前に、ドアホンのチャイムが鳴った。
 あの三人が迎えに来たのかな? と思って開けると、飯島舞花と栗田精一が立っていた。
「……なんだ、お前ら……朝っぱらから……」
「いきなりなんだ、はないだろ、お兄さん……」
 何故か、飯島舞花の機嫌は良さそうだった。
「みんなでプールに行く、っていうから、こうして集まってきたんじゃないか……」
「ちょっと待て! プールはいいけど……
 みんなで……だって?」
「ちゃんと、荒野の分の水着も用意しているの」
「……聞いてないぞ! 茅!」
「お。おはよー、茅ちゃん、浅黄ちゃん。
 ちゃんと髪まとめて用意しているねー……って、お兄さん、わたしら、いれてくれないの?」
「お。おお……。
 お茶かコーヒーくらいしかないけど……」
「それでいいよ。セイッチとちゃんとご飯くってきたから……」
 どうやら、週末であるのをいいことに、栗田精一は飯島舞花の家に泊まっていったらしい。
『同じ泊まりでも……こっちのお子様合宿とは、えらい違いだな……』
 と、荒野は思った。
 新しいお客は二人とも「コーヒーでいい」といってくれたので、荒野は自分の分もいれて、三人分のコーヒーをペーパーフィルタでいれる。
「……で……」
 ケトルでお湯を落としながら、荒野は舞花にいった。
「さっき、みんな……って、いってたな?
 あと何人くるんだ?」
「うーん……全部で、何人になるんだろ?
 お隣の人たちは、真理さんと二宮先生を除いてだいたい来るみたいだけど……。
 羽生さん、真理さんからワゴン車借りてくれるっていうし……」

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彼女はくノ一! 第五話 (34)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(34)

 茅がまた早めに帰宅するというので、当然のように楓もお伴することになる。学校から二人で直帰して狩野家に入ると、徳川篤朗と徳川浅黄はすでに居間にいて、三人組と羽生譲と一緒に炬燵ででくつろいでいた。
 何故がテンと篤朗がオセロゲームの盤面を挟んで対峙しており、石を置いては凄い勢いでパタパタとそれまでに置かれた石をひっくり返している。
「あ」
 居間に入ってきた楓と茅の姿に最初に気づいたのは、ノリだった。
「おかえり、楓おねーちゃん。いらっしゃい、茅さん……」
「どう……したんですか?」
 まっすぐ帰ってきたのにもかかわらず篤朗が先についていたことにもそれなりに驚いたが、それよりも篤朗とテンがオセロ勝負をやっていることのほうが意外といえば意外だった。
「徳川篤朗」と「テン」、それに「オセロゲーム」……。
 なんというか、全然接点がなさそうな組み合わせに、楓には思えた。
「あー。楓ちゃん、おかえりー……」
 羽生譲も二人の勝負を観戦していた。それどころか、スケッチブックを広げ、なにやら文字を書き込んでいる。
「いやー……最初は、碁の勝負をやりたい、っていってたんだけど……。
 うちには盤も石もないし、代わりにこれ持ってきたら、二人で黙々と熱中し出しちゃって……。テンちゃん、こういうボードゲームそのものが初めてだってことだけど、オセロはルール単純だし、すぐ呑み込むだろう……っていってたら……。
 まごついてたのは、結局、最初の二、三回くらいかな? 後は、徳川君と互角……というよりも、勝率、後の方になるほど、テンちゃんのが上がってきている……。
 あ。また終わった」
「勝者、テンなのだ」
 篤朗は脇目もふらずに置いた石を回収にかかる。
「はい。これでテンちゃん、三十八勝。引き分けが五回、っと……」
 羽生譲はそういいながら、スケッチブックになにやら書き込む。
「……この二人……勝負のほうもともかく……石を置く速度が凄くて……。
 今では、一ゲームに一分かかっていないんじゃないのかな?
 さっきみたいに接戦でも、石を数えないで勝敗分かっちゃうみたいだし……」
 そういっている間にも、二人は交互に盤に間髪いれずに石を置いてはひっくり返している。新しいゲームも、盤面はあらかた埋め尽くされ、終盤に入っていた。
「勝敗なんてみていればわかるのだ」
「石を置きながら、ひっくり返しながら、一つ一つ数えているから、間違いようがないよ」
 篤朗とテンが、ほぼ同時にそういった。
「ええと……着替えてきます」
 楓はそういって、自分の部屋に向かった。
 茅は、自分の携帯をとりだして、心持ち弾んだ声で荒野に電話をかけ始めた。

 楓が制服から私服に着替えて帰ってくると、オセロゲームは終わり、全員で炬燵に当たって湯飲みを傾けていた。浅黄は、茅だけではなく、三人組にも人気で、チヤホヤされている。いや、チヤホヤされている、というよりも、三人も茅も、浅黄と同じレベルで遊んでいる……ように、楓には思えた。
「結局、どちらが勝ったんですか?」
「テンが五十勝したところでやめたのだ。経験を積めば積むほど強くなるのがわかったので、あれ以上やるのは無駄だのだ。テンは、まぎれもなく茅君の同類なのだ」
 篤朗は、「茅君の同類」という言葉を、やや強く発音している。
「さて、誰に聞けば素直に話してくれるのか……。
 君たちは……一体何者なのだ?」
 そういう篤朗に、楓はなにも言うことができなかった。
「何者、っていわれてもなぁ……」
 浅黄を中心にしてじゃれ合っていた輪から少し外れて、ガクが篤朗に問い返す。
「一言で何者だ、っていえるわけないじゃん。
 おじさんは、お前は何者だ、っていきなり言われたら、即答できるの?」
「このぼくは、まぎれもなく天才なのだ!」
 徳川篤朗は、白衣の中の薄い胸を反らして鼻息荒く即答した。
 ガクは、
「……聞いた相手が悪かった……」
 と小さくぼやいた後、
「じゃあ、茅ちゃんとテンは、その天才よりちょっと上の天才。
 そんで、いいんじゃないの?」
 と投げやりに答えた。
「別に異論があるわけではないのだが……」
 篤朗は納得しきれないのか、さらに質問を重ねる。
「茅君といい、そこのテン君といい……初めて目にするゲームを、あそこまで上手にやれる……というのは、こういう言い方もなんだが……明らかに、異常なのだ。
 ただ単に、ゲームが強い、というのなら、やり込んでいればなんとかなるのだが……初めてプレイするゲームが、滅茶苦茶強い、ということは……ルールを憶える記憶力と、それに、経験なしでもそれを補うシミュレートを頭の中で瞬時に行えるタイプの、特殊な頭の良さが必要なのであって……そうした特殊な知性の持ち主が、これほど近くに二人もいる、という偶然は……」
 偶然、と言い切ってしまうにしては……あまりにも、ご都合主義なのだ……。
 と、徳川篤朗は言い切った。

 しばらく、誰もなにも返答できなかった。

「……こう考えると、説明できると思うの」
 浅黄と向き合っていた茅が、顔だけを篤朗に向けていった。
「あるところに、ある目的のため、自分たちの能力を伸ばそうとした血族集団がいたの。
 ある集団は、足を早くすることを望み、別の集団は、力を強くすることを、さらに別の集団は、頭を良くすることを望み、それを至上の命題として自らを鍛え、鍛えた者同士で子孫を作り……何百年もかけて、血と能力を濃くしていったの……」
「……そのうちの、頭を良くすることを望んだ集団、というのが……茅君やテンなのかね?」
 篤朗の問いに、茅は首を振る。
「……正確には、その集団から遺伝子を抜き出して作られた、スピンアウト的な改良品……」
「人権無視も甚だしいし、いかにも嘘くさい話しではあるが……それなりに、辻褄はあうな……」
 徳川篤朗は、うっすらと、笑った。
「……なにより、実物が、目の前に二人もいることではあるし……。
 で、足の速いのと、力が強いのは……この中の、誰になるのだ?」
 篤朗があたりを見回してそういうと、ノリとテンは顔を見合わせた。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(75)

第五章 「友と敵」(75)

 浅黄が形作った二本角の人形……本人曰く、「ウサギ」らしい……は、残念なことに壊さねばならなかった。そのままの形では焼けないし、食べ物を粗末にするのもいただけない。浅黄の作った人形モドキを崩して生地に戻し、丸めて平たくして、ごく普通のハンバーグの形にする。それを、他のハンバーグの元と一緒に熱して油を引いたフライパンの上に並べ、蓋をしめる。
 そちらのフライパンは茅に見させておいて、ガク、テン、ノリの三人にはサラダ作りを命じた。野菜を洗って切ったりちぎったりするだけの仕事だが、三人がどの程度調理の経験があるか荒野は知らなかったので、その程度の簡単な仕事を割り振るくらいが適切だった、ともいえる。

「……随分と作ったな……」
 徳川篤朗が、寸胴鍋にいっぱいになった液体を眺めて、いった。
「煮物は、いっぱい作った方がうまからな。
 それに、余ったら、凍らせておく」
 荒野は寸胴鍋の中身をおたまで小さめの鍋に移し、その中に子供向けのカレールーを割って放り込み、かき混ぜて溶かした。
「こっちは浅黄ちゃん用ので……あとは、中辛と辛口、どっちがいい?」
 荒野は、誰にともなく、そういう。
 何種類分か、ルーの買い置きをしていた。
「辛口、なのだ!」
 と、徳川篤朗。
「……甘口、ないの?」
 と、ガク。
「辛口がいい……」
 と、ノリ。
「ええっと……あまり辛くないヤツ」
 と、テン。
 ……見事にバラバラでやんの……と、荒野は思った。統一してくれると、手間が省けれるのだが。
「じゃあ、ガクは、浅黄ちゃんと同じのな。この鍋で三皿から四皿分くらいはあるから。
 で、徳川とノリと茅が辛口。
 テンとおれが中辛、っと……」
 荒野自身は、極端に甘ったるいカレーでなければなんでも良かった。
「はい。甘口、終わり。
 手が空いているヤツ、皿にご飯盛って準備しろ……」
 そういって、先にルーをいれた甘口の鍋を火から降ろし、テーブルの上の鍋敷きに置いた。
 寸胴鍋からまた別の鍋に、残っていた液体を半分くらい移す。
 二つの鍋に、それぞれ中辛と辛口のルーを割り込む。
 荒野の横では、ぼちぼちハンバーグが焼き上がっていた。
『……この人数だと、あまりそうもないな……』
 ハンバーグの生地も、余ったら凍らせて保存しておくつもりだったので、材料はかなり多めに買ってあった。買い物をした時は、荒野、茅、浅黄……それに、篤朗が加わる程度だろう、と、予測していたのだが……。
『……こいつらも、食いそうだもんなぁ……』
 荒野は、意外に手際よく野菜をボールの中に放り込んでいる三人を見た。

 テーブルについて、「いただきます」と唱和し、全員で一斉にスプーンを使い始める。
「……で、テン、本当に徳川んとこにしばらく世話になるのか?」
「うん。
 いろいろ勉強になりそうだし、徳川さん、いろいろ教えてくれるっていうし、お金も欲しいし……」
「あのカード、どうせじじいの手配だろ? 遠慮なく使っちまえよ……」
「そういうわけには……真理さんにも、買い食いとか無駄遣いはするな、っていわれたし……」
「……一般論としては、それで正しいと思うけどな……。
 それに、徳川のとこにいくっていっても、平日は徳川も学校があるし、今までとあまりかわんないだろ……」
「ああ、そうだ。かのうこうや。
 ボクらの身分証明書って、どうなってんの?
 今日、図書館にいったら、住所が証明できるものがなければ、貸し出しカード作れないっていわれた……」
「お前ら、今日は図書館いってたのか?
 だから、年上を呼び捨てにするなって。徳川は、さん付けで呼ぶ癖に……。
 身分証明書、かぁ……。
 お前らにも、携帯電話持たせたいからなぁ……これくったら、じじいに連絡してまとめて用意させよう……」
「だって、かのうこうやと家のおにいちゃん、同じ名前でややこしいし、徳川さんは、これからお世話になるから……。
 あ。そっちの手配は頼みます……」
「だから、なんで向こうが、おにいちゃん、で、こっちが呼び捨てなんだと……」
「だって、おにいちゃんはおにいちゃんじゃないか。
 かのうこうやは、どうみたっておにいちゃんという感じじゃないし……」
 それまで荒野とテンの会話を聞く一方だったノリとガクが、「そうだそうだ」と、テンの言葉に賛同しはじめた。
「おにいちゃんとかのうこうやは、同じ名前だけど全然ちがうぞー……」
「こっちのかのうこうやは、全然おにいちゃんって感じじゃないぞー……」
 ……なんなんだ、この差は……と、荒野は思った。
 別にこいつらに慕われたいとは思っていなかったが、ここまで差別されるのも、なんか理不尽な気がする……。
「……大丈夫。荒野には、茅がついているの」
 よほど憮然とした顔をしていたのか、横に座っていた茅が、荒野の膝を軽く手で叩きながらそういってくれた。

 賑やかな食事が終わると、徳川篤朗は一人で帰って行った。明日の午後、狩野家で行われるバーベキューにも呼ばれているらしい。この間の囲碁勝負の関係で、というより、浅黄のオマケ扱いなのではないか、と、荒野は思った。
 その浅黄は、茅や三人組とすっかりうち解けていた。
 外見的には、それなりに年齢差があったが、こうして一緒に騒いでいると、中身の精神年齢は、たいして変わらないのではないかという気がしてくる。
 試しに、荒野はDVDプレーヤーに、夕方、羽生譲が「子供を大人しくさせるには、これ」といって押しつけてきたDVDをセットし、その映像をテレビに映してみた。
 どたばたとじゃれ合っていた三人組と浅黄と茅は、その映像が流れはじめるとすぐにテレビに釘付けになり、しーんと静まりかえって、テレビの近くに寄ってきた。
 荒野はベランダに出て涼治を電話で呼び出し、食事中、テンと話した身分証明書と携帯電話の件を伝え、「すぐに用意して送る」という返事を得た。
 室内からは「あっるこー、あっるこー、わたしはーげんきー」という五人分の元気な歌声が、響いてくる。
『……ご近所から苦情、こなければいいがな……』
 と、荒野は思った。

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彼女はくノ一! 第五話 (33)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(33)

 ガクは、ノリに案内された雑誌や新聞が置いてあるコーナーに案内される。テンはそこの長椅子に寝かされていた。
「また……頭、使いいすぎたんだろう?」
 ガクがテンに顔を近づけて、囁く。
「じっちゃんがいてってたじゃないか。
 人間以上のチカラを使うということは、人間という器に負担をかけることだって……」
 テンが「頭を使いすぎて」鼻血をだしたことは、以前にも何度かある。
 脳細胞がフル稼働しはじめると、必要される酸素や養分を届けようとして、鼓動が早くなり体温が上昇する。風邪などを引いた時、高熱を発するような症状に似ているが、テンの場合、常人以上に強靱な心肺・循環機能を持っている。それが仇になって、血流が早くなった分、血管への圧力が強まり、鼻の粘膜などの弱い部分から出血する。
 仮に出血がなかったとしたら……体温が上昇しすぎれば、人体を構成する蛋白質は以外に低温で溶けだす。だから、どこかで歯止めがかかったほうが、かえって良い筈、なのだが……。
「……わかっているよ……」
 テンは、拗ねたような顔をして、ガクから目を背けた。
「今日は……つい、興奮しちゃったんだ……こんなところ、初めてだから……」
 そういてテンは、上体を起こして、陶酔したような表情で、顔をゆっくりとめぐらせて、図書館の内部を見渡した。
「こんなにいっぱい……学ぶべき情報があるなんて……凄いことじゃないか……」
 そういってテンは、立ち上がった。
 出血は、すでに止まっているらしい。
「頭、冷やしたいし……今日は、もう、帰ろう。
 一旦帰って、もうちょっと計画たてて、出直す。
 ……ここには、知識が……学ぶべき情報がありすぎて、目移りする……。
 貸し出したい本も沢山あるし、効率よく消化するためにも、一端出直したい……」
 特に急ぐ用事もなかったので、ガクとノリはテンに従い、おとなしく帰路についた。
 三人とも、四月に学校がはじまるまでは、比較的時間を持て余している身だ。

 三人が肩を並べて帰宅すると、家の前で奇妙な二人連れを見かけた。
 やせ細った白衣の男と五歳くらいの女の子が手を繋いで三人の前を歩いていていた。女の子のほうが作り物の猫耳を頭につけているのはいいにしても、男のほうがまるまると太った黒猫を頭上に乗せているのは、いかにも奇妙に思えた。
「……あ、あぶないヤツなんじゃないか? あれ……。
 変な恰好、しているし……」
「女の子のほうは、可愛いのに……」
「……兄弟……にしては、歳の差、ありすぎるだろ?」
 後ろでこそこそ囁きあう三人。
 白衣の男……いや、どうみても二十才を越えているようにはみえないから、「白衣の少年」、とでもいうべきなのかもしれないが……ぼさぼさで、ろくに櫛を通した様子のない髪といい、白昼の街路で白衣姿であるうことといい、頭の上に猫を乗せていることといい……不審な点が、多すぎる。
 やがてその二人と一匹は、狩野家の門をくぐり、玄関も開けて中に入る。
 そこで、白衣の少年が、中に向かって、……。
「お邪魔するのだ! パソコンの引き取りに来てやったのだ!」
 と、大声で、叫んだ。
 三人は、顔を見合わせた。

「……おー……トクツーくん、早かったな……。
 うちの他の連中はまだ学校から帰ってないけど……」
 玄関先に、羽生譲が姿を現して、徳川篤朗と徳川浅黄を出迎える。
「今日は、浅黄が早くこっちに来たがったので、六時限目の授業は自主休講して浅黄の保育園に迎えにいったのだ。
 加納茅がこちらで合流することになっているのだ……」
「そーか、そーか……いや、君のノートパソコンは、非常によく働いてくれたけど……。
 って……君ら、そんなところでなにやっているの? 早く中に入ったら?」
 羽生譲は、徳川篤朗と浅黄の後ろで、なんともいえない微妙な顔をして固まっていた三人をみつけると、そう声をかけた。

 これが、徳川篤朗と三人の出会いだった。

「……って、わけで、これが、この間から話している徳川君だ……。
 外見は非常に怪しくて、中身はそれ以上に危ないけど、下手に刺激しなければ基本的に無害なので、そのように心得ること……」
 徳川篤朗と徳川浅黄、それに三人をとりあえず居間に通した羽生は、三人に向かって徳川篤朗をそう紹介した。
 徳川篤朗のほうも、
「……外見は非常に怪しくて、中身はそれ以上に危ない徳川篤朗なのだ……」
 と、何故か胸を張って名乗る。
 微妙な紹介のされ方であり、しかた、だった。
 三人は(今日、何度目になるのか)また、顔を見合わせた。

「……ええっと……」
 両脇から肘でつつかれて、ガクが三人を代表して質問を切り出す。
「こちらの……猫耳の、女の子は……」
「浅黄は、姉の娘、姪にあたるのだ。
 姉がまた留守にしているので、ぼくがしばらく預かっているのだ」
『……全然似てませんね……』
 という言葉は、なんとか飲み込んだ。

「……あのぅ……」
 ノリが、おずおずと片手をあげる。
「その……頭の上の……は?」
「この黒猫か?」
 徳川篤朗は、自分の頭の上を指さして、
「よく聞かれるのだ……。
 部室によく来る野良なのだが、時折餌をやっているうちに、こうしてなつくようになったのだ……」
『なついた……というのは……頭の上に乗っけている理由に……なるんだろうか?』
 とは思ったが……なんとなく不躾な質問に思えたし、それ以上に、篤朗と長く会話しているとなにか自分が引き返せないところまでいってしまうのではないか、という気がしてきたので、その疑問は口には出さなかった。

「……それで……君らは?」
 今度は、徳川のほうが三人の素性を尋ねてきた。
「この家に、住んでいるのかね?
 それに、才賀君、松島君、それに加納茅君ほどに、頭の切れる者は、三人の中にいるのかね?」
 今度は、テンが他の二人につつかれて、前に出ることになった。
「……この中で一番頭の切れるのは、たぶん、ボクだと思いますけど……」
「君は、碁というゲームを知っているかね?
 茅君は、初めてやった碁で、このぼくを完敗させたのだぞ……」

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髪長姫は最後に笑う。第五章(74)

第五章 「友と敵」(74)

「……だからな、普通の人は、目でみただけで物体の正確な大きさをミリ単位で計測できやしないし、手にしただけで正確な重さを量ることもできねーの……。ついでにいうと、ほんの五分ざっと説明されただけで、CADソフト使いこなして正確な三面図も、描けない。
 テン。
 お前、三面図の描き方、前に誰かに習ってたのか?」
 テンはブンブンと首を横に振った。
「……でも、そのCADとかいうソフトの仕様みれば、だいたい推測できるよ。
 立体を表示する合理的な表記の仕方だと思うし……」
「……と、いうわけだ、徳川……こいつら、こういうやつらだから……」
 荒野はぽんぽんとテンの頭を叩きながら、徳川篤朗に顔を向けた。
「ま、あんま気にしないでくれ……こいつら、特別製だから……」
「荒野……」
 茅が、荒野の肩を叩いて荒野の気を引いた。
「普通の人、見ただけでは正確な寸法わからないし、持っただけでは重量わからないって話……本当?」
 荒野は、頷いた。
「大体の見当はつくけど……正確に、というのは、あまりできる人いないなぁ……。
 昔の熟練工とかで、見た目だけで正確な採寸できた人は居たようだけど……そういうのは、あくまで例外だ」
「……茅……それ、できるの……」
 茅はそいうと、篤朗のノートパソコンを自分の元に引き寄せて、素早くトラックボールを操作して、新しい三面図を描き起こす。
 見る間に、テンが描いた六節棍の図面よりよっぽど複雑な、多数の細かいパーツを組み合わせた形状の「機械」の図面を完成させた。
「これ……このマンションの、屋上の、鍵の構造図……」
 荒野と篤朗は、顔を見合わせた。
「いくつか、確認させて貰う……」
 荒野は深々と深呼吸をしてから、茅に問いただした。
「茅……お前も、CADソフトを扱うの初めてか?」
「初めて。
 説明は、さっき徳川がテンに説明していたので、十分だったの」
「この鍵の構造……いつ、調べた」
「このマンションに来たばかりの頃……近くを探検していた時……ヘアピンで鍵穴を探ってみたら、ほぼ正確な構造が理解できたの……。
 屋上にいたとき、荒野、迎えに来た……」
『あの時、か……』
 そういわれて初めて、荒野は思い当たった。
『……ヘアピン突っ込んだ感触だけで……正確な構造が理解できるんなら……機械式の鍵は、大抵外せるよなぁ……』
「テン……お前にも同じ様なこと、できそうか?」
「試したことないけど……」
 荒野が問いかけると、テンはあっけなく頷いた。
「ボクも……感触だけでも、モノの形とか大きさ、把握できるから……たぶん、できると思う……」
 荒野は、徳川篤朗に向き直った。
「聞いただろ?
 こういうやつら、なんだ……。
 いろいろと常識外れではあるが、そういうもんだと納得してくれ……」
 そう話しを振られた篤朗のほうは、呆然とした表情をしながらも、なんとか頷いてみせた。
「常識外れではあるが……こうして実際に目の当たりにしたら……認めないわけには、いかないのだ……」
 それから篤朗は腕を組んで少し考え込み、
「……ほかの二人は、そういうと特技とか隠し芸はないのか?」
 と尋ねた。
 今度は、ガクとノリが顔を見合わせる。
「……そう、いわれても……」
「……どういうのが、特技とか隠し芸になるのが……」
 いわゆる「一般人」が普通にできることと、できないことの区別がつかない……と、いうことらしい。
「テンや茅みたいに、モノの形や重さを正確に把握することは?」
 二人は首を振った。
「……できないよ、そんなの」
「ボク、テンみたいに全てを憶えようとすると、頭痛くなる……」
「……全てを憶える?」
 篤朗が、眉をひそめる。
「茅は、体験したこと全てを、漏らさず記憶しているそうだ……。
 たしか……テンも同じだ、っていってたな……」
「そこまでいくと……隠し芸の域を越えているのだ……」
「……ああ……」
 荒野は、ため息をついた。
「ある程度説明されたとは思うが……おれとかこいつらとかは……ようするに、人間の亜種だ。
 交配は可能だから、かろうじて、まだ人間の範疇には入っているらしいがな……」
 それから荒野は、
「……怖いか?」
 と、徳川篤朗に尋ねた。
「……なにを、今更……」
 徳川篤朗は、にやりと笑う。
 不敵な笑み、と、いえないこともなかった。
「この徳川も、奇才とか天才とかいわれているのだ。
 怪物が、怪物を怪物呼ばわりするのも、しゃれにならないのだ……」
「……そっか……」
 なんとなく、荒野は納得した。
「おれたちが亜種だとすれば……お前は、突然変異、だったな……」
「……亜種、結構! 突然変異、結構!」
 徳川篤朗は腕組みをしたまま背を反らして笑いはじめた。
 頭の上に居座ったままの黒猫が、つまらなそうにあくびをする。
「まあ、凡人凡俗どもには理解されない境遇同士、せいぜい仲良くしようではないか!」
 ……こいつなりの、親愛の情の表し方、なのだろう……と、荒野は思った。
「時に……そこの、隠し芸の二人……どっちか、あるいは両方でもいい。
 わたしの工場で働いてみる気はないかね?
 凡人凡俗どもの従業員は必要としないが、そうした隠し芸の持ち主はいつでも高額優遇で召し抱えてやるのだ!」

 そんなわけで、学校に通い始めるまでの間、テンは徳川の工場に通うことになった。なにより、テン自身が乗り気になっていた。

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彼女はくノ一! 第五話 (32)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(32)

 結局、その日図書館にいいたのは二時間ほどだった。

 最初のうち、三人ともはじめて目の当たりにする膨大な書物に圧倒され、それが分野別に棚別に分類されていることに気づいてぽかんと口を開けたままになった。これだけの、何万冊もの蔵書が自由に閲覧できる、いう事実に、ある種の空恐ろしい気分になった。
 三人のうち、テンは、昨日のうちに他の二人に先駆けて「ワールド・ワイド・ウェブ」の体験を済ませていたが、ネットの世界は、基本的に動的に情報を求めない限り、目の前に飛び込んでくることはない。
 その点、今、目の前に存在する圧倒的なまでに膨大な書架は、否が応でも三人に、今までいた世界がいかに狭いものだったのかを、実感させた。
 島では、厳重に吟味されたごく少数の書物しか与えられておらず……こうして、多種多様な書物に囲まれて、はじめて三人は、自分たちがいかに「閉ざされた」世界で育てられたのか、実感した……と、いってもいい。
「……これ、全部……本?」
「こんだけのもの……誰かが、書いたり作ったりしたんだよなぁ……」
「本当に……ヒトって、いっぱいいっぱい、いたんだね……」
「世界の人口、六十億以上、っていってたろ?
 日本だけでも、一億以上……」
「そのうち何千だか何万だかが、こうして日夜本を作っているんだなぁ……ご飯もとらずに……」
 この台詞を翻訳すると、「直接食料生産に従事しない人口が、万単位以上で存在する」というくらいの意味になる。
 島での狩猟生活が長い三人にとって、「ご飯」すなわち「食料」とは、「生産するもの」というよりは、「とる」ものなのである。
「……そっかぁ……ヒトって、本当にたくさん、いるんだなぁ……」
 テンそういって感嘆せると、他の二人もうんうんと頷いて同意を示した。

 いつまでもそうして感嘆しているわけにもいかないので、三人はカウンターに座る図書館の職員に声をかけて、目当ての本のありかを尋ねてみた。
 最初のうち、三人の外見だけをみて児童向けの本が置いてあるコーナーに案内しそうになった職員を遮り、テンはとりあえず「遺伝子操作の実際についての本が置いてあるところ」、ノリは「美術書」、ガクは「なんでもいいから、面白そうな本が置いてあるところ。ただし、絵本やマンガ以外で」というオーダーを伝える。
 パートタイマーらしい中年女性の職員は、怪訝な顔をしながらも素直にテンとノリの注文については、すぐに目当ての書架を教えてくれた。ガクについては、少し質問をして、ガクが「絵画やイラストについてまったく興味が沸かない」ということを確認すると、
「……ここなら、やさしい言葉遣いで書かれた物語が置いてありますから……」
 といって、「ヤングアダルト」のコーナーに連れてきてくれた。
 市立図書館のヤングアダルトの書架だから、海外の児童文学からけばけばしいカバーのライトノベルの文庫本までが雑然と固まっている。
「ものがたり、ってなに?」
 ガクが素直に疑問を口にすると、
「おはなし。
 全くの架空のおはなしがほとんどだけど、元になる出来事が現実にあって、それを脚色しておもしろおかしくしたものもあるわね」
「って、いうことは……よするに、嘘?」
「嘘……では、あるけど……本当以上に本当のような、面白くて良くできた嘘も、世の中にはいっぱいあるの」
「それって……全部面白いの?」
「ものによる……いえ、正直にいうと、本当に面白いといえるのは、この中の、ほんの一握り」
「その、一握りって、どれ?」
「それは、教えられないわね」
「どうして?」
「面白さ、といのは、本を読む人によって違うものだし……それに、図書館の職員は、そういうことをいってはいけない決まりになっているの。
 君にとって面白い本は、君自身が捜さなくては意味がないし」
「ふーん……そういうもんなの」
「そういうもんなの」
 そういうと、その職員はカウンターの中に戻って返却された本の整理などを再開しはじめた。

 そうしてガクが「フィクション」という概念について初めて接し、やや哲学的な「面白い本の探し方」について簡単なレクチャーを受けている頃、ノリは大判の美術書を取り出して、書架の近くの空いた机の上に拡げていた。
 平日の昼間とはいえ、図書館の閲覧室はお年寄りを中心にして、それなりに席が埋まっている。
 ノリが選んだのは、たまたま目に付いたエッシャーの画集だった。一見整然としていて、その実、よく見ていくと時空がねじ曲がっているような騙し絵を多く残した画家だった。たまたま開いたページの絵は、ぐるりと四角形に描かれた階段が描かれていた。その階段を目で辿っていくと、途中からその階段が上り階段なのか下りの階段なのかわからなくなる。
 そもそも、階段がどこにもつかず、四角く輪をかいて繋がっていることからして、現実の世界ではありえないわけで……そうした絵をみたことがなかったノリは、頭がくらくらする感覚を味わいながらも、いつまでもじっくりとその絵を見続けていた。

 英字の本も含めて、分厚い専門書を何冊も机の上に集めたテンは、椅子に腰掛けると一冊づつ取り出してばらららとページをめくる。周囲の大人たちは、難しそうな学術書ばかりを選んで集めたテンに一瞬注目したが、すぐに「なんだ、真似事をして遊んでいるだけか」と結論づけてテンから視線を外した。
 だが、動体視力と記憶力に優れたテンは、実際にそうしてページが開いた一瞬で内容を把握し、記憶し、同時に、読んでもいた。二冊、三冊とめくりとばす間に、前後の本で同じ用語を違った訳語で表現しているのを関連づけたり、記述に矛盾のある箇所を頭の中でリストアップしたり、重複した内容を読み飛ばしたりしている。
 ごく短時間のうちに集めた本の全てを「読み」終えたテンは、飛躍的増大した知識に満足しながら、新しく吸収したキーワードを元に、まだよく理解できていない概念などを説明する書物を求めて、読み終えた本を戻しがてらに、新しい本を探しに行く。

 ガクは、「面白い本」を出し惜しみして教えてくれない職員の態度に不満を持ちながら、「ヤングアダルト」の書架をざっと見渡した。
 やけに目が大きく描かれた表紙のライトノベルはとりあえずパスすることにして……ガクは、翻訳物であるらしい、ハードカバーの本が並んでいるあたりの前にたつ。
 いくつか取り出して、表紙をみてみる。
 童話調の絵が描いてあったり、少女マンガ調の絵が描いてあったり、古風な服装をしたやや写実的な人間が描かれていたりしたが……ガクは、イマイチ食指が動かなかった。
『……あれ?』
 いくか表紙をみてみた中で、ガクの興味を引くものがようやく現れた。
『みず、の……ほとり……。
 すいこ……とでも、読むのかな?』
 表紙には、昔の中国風の甲冑を着込んだ武者が描かれている。
 裏表紙に書いてあった「あらすじ」をみてみると、ある役人が間違えて、山中に閉じこめていた百八つの魔星を解き放つところからはじまる……お話、のようだ……。
『まあ……嘘……なんだろうけど……』
 武術を使う人間がでてくる「おはなし/嘘」であるなら、なんとかガクでも興味が持てそうだった。

 なんとなく手に取った「水滸伝」を読み始めると、ガクは途端に夢中になった。
 最初の魔星を解き放つエピソードこそまるっきりの「嘘」だったが、それ以降は、腕に覚えのあるチンピラとか小役人とか元軍人とかが、なにかと理由をつけては暴れ回る話しだった。
 訳文も、子供向けとはいえ文語体を意識した歯切れのいい文章であったため、ガクにも抵抗なく読むことができた。難しい漢字や単語はルビや注釈がついていたが、もともと年齢不相応の知識を持っていたガクは、それらをいちいち参照せずとも、そのまま物語を愉しむことができた。
 ガクは、自分が「強いやつらが暴れ回る」お話しが好きであることに、初めて気づいた。
 テンの速度にはとうてい及ばないものの、ガクも意識を集中すれば、十分に読む速度は相当に早い。
 あっという間に「武松の虎退治」のくだりまで読みすすめたところで、ぽん、と肩を叩かれて我に返った。
『……もう少しで、素手で虎を殺せるところだったに……』
 そんなことを思いながら振り返ると、
「……向こうで、テンが鼻血、出したって……」
 ノリが、どこか白けた顔で立っていた。
「……どうも、頭を使いすぎて、血が頭に昇りすぎたらしい……。
 向こうで、横になっている……」

 そんなわけで、テンの鼻血が止まるのをまって、三人の帰路についた。
 三人の図書館遠征第一回目は、こんな感じで終わった。

[つづく]
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髪長姫は最後に笑う。第五章(73)

第五章 「友と敵」(73)

「……って、なんでお前らまで来ているんだよ……」
 買い物袋を抱えた荒野が帰宅すると、マンション内には太った黒猫を頭に乗せた徳川篤朗、徳川浅黄、才賀孫子、それにガク、テン、ノリの三人組までもが、メイド服姿の茅に紅茶を振る舞われていた。徳川浅黄は茅から譲り受けた猫耳カチューシャを装備している。なかなか、似合う。
「なんでって……まさか、あの家の中で、ライフル整備の打ち合わせをするわけにもいかないでしょう?」
 才賀孫子が、澄まして答える。
「お邪魔しているのだ」
 徳川篤朗は、薄い胸を張ってそういう。
「きみらとこの子たちについては、いろいろ興味深い話しを聞かせて貰ったのだ」
 椅子に座っているのはこの二人だけで、三人と浅黄は、床に直に座り込んでトランプゲームをやっていた。
「……なにを、どこまで聞いた?」
 荒野が、神経質に片側の眉をピクンと動かす。
「だいたい、全部。大丈夫。篤朗、信用できるの」
 ティーポットを抱えた茅が荒野に顔をむけて、いった。
「信用できる、というより……篤朗、自分の研究と商売のこと以外に、あまり興味はないの」
「その通りなのだ」
 篤朗が、さらに胸を張った。
 頭の上の黒猫が、篤朗の動きに合わせてもぞもぞ体を動かし、安定した重心を捜す。
「生物関係はぼくの守備範囲外だから、この子らやきみの妹さんのこともあまり詮索するつもりはないのだ……」
『……守備範囲内だったら、生体解剖くらい平気でしそうだな、こいつは……』
 と、荒野は思った。
「それよりも、ぼくは才賀君のライフルとかこういった小道具のほうに興味があるのだ。
 それに、こういったものも、ぼくなら低コストで製造できるのだ……」
 そういって徳川篤朗は、白衣のポケットの中から、何種類かの金属片を取り出してテーブルの上に置いた。
 楓が普段使っている、六角とか手裏剣が数種類、だった。
「……ねーねー。おじさん……」
 いつの間にか、篤朗の背後にテンが立っていた。
「おじさん、こーゆーのも作れる? 今もっているの、もうガタガタで……」
 そういって、テンは取り出した、折りたたんだままの六節棍を篤朗に見せる。
「……これ、こうやって、関節繋げて棒状にして使うもんなんだけど、この間、かなり無茶な使い方したんで、このはめ込みの部分がガタガタに緩くなっちゃってさ……」
「おじさんではないのだ。これでも、そこの才賀君とか加納君と同年なのだ。
 ……構造は、簡単なものだし……素材は、強化グラスファイバー製、か……これもすぐに調達できる材料だから、複製は可能なのだ……」
『……なんだか、どんどんややこしいことになっていくなぁ……』
 とか思いながら、荒野は、とりあえず、買ってきた食材を片付けることにした。
 ここから先は、なんだか長い話しになりそうだし……。
 それからふと気づいて、その場にいた全員に尋ねた。
「……で、こんなかで、ここで晩飯を食っていくのは、結局、何人なんだ?」
 才賀孫子と徳川篤朗以外の全員が、挙手した。
「ライフルの打ち合わせは済みましたので、わたくしは、もうおいとまします」
 孫子はそういって実際に席を立ち、
「……ぼくは、この子らの仕事を引き受けるかどうかで変わってくるのだ……」
 篤朗はそういって首を振り、三人組は、
「ボクたち、浅黄ちゃんと一緒にお泊まりするんだもんねー!」
 と声を揃えた。
 荒野は、やれやれと思いながら、
「手が空いているヤツ、メシ作るの手伝え……これから、ハンバーグカレー、作る……」
 と宣言すると、「わー!」と声をあげながら、ノリとガク、それに浅黄がトランプを放り出して荒野のほうに寄ってきた。
 買い置きの分の合わせれば、材料は余分にあるし、なんとかなるだろう、と思いながら、荒野は篤朗に声をかける。
「とりあえず、徳川も一緒にくってけ。
 浅黄ちゃんが心配だろうし、用意する人数がわかんないと、作る方も困る……」
 どんなに特殊な人間も、生きている限り生活があり、メシを食う。なにをするにしても、そうした基本的なことをないがしろにすると、どこかで足元を掬われる……というのが、荒野の持論だった。

 孫子が玄関から出て行って、テンの詳細なオーダーを篤朗が自分のパソコンに入力していくのを横目にみながら、荒野は、仕事の割り振りをした。
 茅には、米をといで炊飯器をセットした後、フードプロセッサでタマネギのみじん切りを作って貰う。
 ノリとガクには、ジャガイモとニンジン、それにタマネギの皮を剥き、細かく切って貰う。保存のきく野菜類は、普段から余分に買い置きしている。
 荒野は、フライパンで煮込み料理用の角切り肉を軽くソテーしてから、ボールを出してそこに買ってきたばかりの挽肉とパン粉をいれて、茅が作ったタマネギのみじん切りもそこにいれて塩、胡椒を振り、なにかやりたそうな顔をしている浅黄に捏ねさせた。茅には、それを監督させる。
 軽くソテーした角切り肉を油を引いた寸胴鍋に移し、ノリとガクが作った細切れの野菜も鍋に放り込み、炒め合わせてから水を入れて弱火で煮込む。
 煮込んでいる間、ノリとガクに交代で丁寧にアクをすくって貰う。
 ハンバーグの生地もできたようなので、それを浅黄と茅にハンバーグに形にしてもらう。
 煮込む時間を多めに欲しかったので、ここで荒野は手を洗い、篤朗とテンが向き合っているテーブルのほうに戻った。
 詳細にわたるテンのオーダーは、一通り終わったようだった。
 篤朗が腕を組んで自分のノートパソコンの画面を睨んでいる。
「どうした? なんか難しい注文でもあったのか?」
 エプロン姿の荒野が、椅子に腰掛けながら篤朗に尋ねた。
「難しくは、ない」
 篤朗はそういったが、眉間には皺が寄っている。
「難しくは、ないのだが……一体、この子は……どういう頭の構造をしているのだ?」
 篤朗はパソコンの画面を指さしながら、荒野に説明した。
「この子……たった今、ほんの五分ほど説明しただけで、CADソフトの使用法を呑み込んで……この図面、書いてみせだのだ……」
 篤朗の説明によると、テンは微妙に寸法や重量バランスの異なる三種類の六節棍の仕様書を、荒野が料理をしている最中に、仕上げてしまったという。
「え? でも……自分で使う道具のことくらい、普通、頭の中に入ってしまうもんじゃないの?」
 テンは、なんで篤朗が驚いているのか、よく分かっていないようだった。

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彼女はくノ一! 第五話 (31)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(31)

 朝食が終わり、香也、楓、孫子が学校に行くのを見送ると、とりあえず真理の家事を手伝うことにする。狩野家は古い平屋が個人宅としては敷地が広く、部屋数が多い。なんでも、この家を建てた羽生譲の祖父にあたる人が、人を使う仕事をやっていたとかで、その当時は従業員の家族なども同居していたそうだ。
 その、広く部屋数が多い家を隅から隅まで掃除や手入れしようと思えばそれなりに手がかかり、それまでは香也に手伝わせて週末や学校の長期休暇の時などに大がかりな掃除や手入れなどを行っていたが、新しい住人たちは率先して炊事や洗濯などを手伝ってくれるので、主婦である真理は、以前に比べるとかなり楽になった。
 孫子なども年末の留守中に大掃除をやってくれたし、今度来た三人も、香也たちが学校に行っている間は暇なのか、真理が止めるまで競い合うようにして働いてくれる。
「掃除や洗濯は前にいた島でも交代でしていた」とのことだが、掃除機や洗濯機などの家電品を使って家事をすることは初めてであるらしく、最初に一通り使い方を教えると、三人は毎朝、掃除機の奪い合いを演じるようになった。
 洗濯機に汚れ物を放り込んで廻すと、次は三人で恒例の掃除機の奪い合いがはじまる。
 ちなみに、当然のことながら、住人の増加に比例して日々の洗濯物の量も増えている。最近では一回につき二度から三度、洗濯機を廻す。
 掃除機の奪い合いは、結局は口論とかじゃんけんで決着がつくのだが、奪い合いに破れた二人は、廊下や板の間のモップがけやぞうきんがけ、食器洗いなどを分担して行う。前述の通り、狩野家は個人宅としてはかなり広いから、そうしたモップがけやぞうきんがけなども真理一人で行うとなると重労働だし時間もかかるのだが、なにしろ三人は元気がいいし、疲れ知れずなので、二時間も要せずに家の隅から隅までを綺麗にしてくれる。
 その後、昼食の前か後に買い物に出るのだが、最近では人数が増えた分、食材の減りも早いので、だいたい毎日のように車ででている。特に三人組は、体はまだまだ小さかったが、実によく食べる。成人男性の平均以上は、平気で食べるのではないか? 例えば、今では、一回の食事につき十合ほどのご飯を炊いているのだが、それでほとんど余ることがない。炊飯器の中に少しでもご飯が残っていると、三人のうちの誰かがお代わりしてきれいに平らげてくれる。
 そんなわけで、安売り品は見逃さず、特に「先着○名様まで」とか「お一人様○個まで」とかいう商品に関しては、三人全員を車に乗せて、おっとり刀で買いにいく。涼治経由で十分以上の生活費と謝礼を頂いているので、家計のほうは以前よりよほど楽になったくらいだが、そこは主婦の習性というものである。コストダウンした分、おかずを一品でも増やしたいと真理は思っている。
 買い物に出る先は、はやり近場の商店街とかショッピングセンターになるわけだが、三人を伴って出かける時は、帰りにちょっと寄り道してなにか細かいものを食べさせることにしている。三人ともよく働いてくれるし、買い食いなどをされるよりは、真理と同伴で食べさせる方がいい。ショッピングセンターに行った昨日はアイスクリーム、商店街に行った今日はマンドゴドラ。どちらも、三人の口にあったようで、実においしそうな顔をして食べてくれる。
 三人が来てまだ三日目だが、こんな感じで、真理と三人は、かなりうまくやっていた。

 真理の手伝いは、そんな感じでだいたい昼前後には終わってしまう。その後、三人はほぼ完全に手が空いてしまう。
 昨日、バイトが遅番だった羽生譲は、自室の配線を片付け、掃除をしてから出勤していった。その時、手伝った三人のうち、ノリは羽生の膨大な蔵書に、テンはデスクトップのコンピュータに興味を示し、羽生に使用、閲覧の許可を求め、羽生は快諾した。そのどちらにも興味を示さなかったガクは、結果として暇を持てあまし、楓が帰宅するまでふて寝をしていた。
 今日は、そんな昨日とは少し様子が違い、午前中のうちに真理の用事を済ませ、お昼を食べて一休みしてから、自分からなにか提案するということが滅多にないテンが、「今日、これから、図書館というところに行こうと思うんだけど……二人とも、一緒に来る?」と尋ねて来た。
「いきなり、どうして?」
 ガクはいった。
「図書館」なるものがこの世に存在し、当然この近辺にもある、ということは容易に想像できたが……このテンの提案は、いかにも唐突だった。
「昨日、ネットでいろいろと見て回ったんだけど……」
 テンはいった。
「……感触として、ネットの情報は量的には膨大だけど、イマイチ信憑性にかける。ボクとしては、もう少ししっかりしたソースで知識を得たい」
 普段はぼーっとして反応が薄い印象のあるテンが、いきなりはきはきとした口調でそういいだしたので、ノリとガクは顔を見合わせた。
「知識って……テン、なにを、調べているの?」
 ノリが、首を傾げながらテンに聞いた。
「調べている、というよりは、とにかく何でもかんでも知りたいって気持ちが強いんだけど……」
 テンは、早口にそういう。
「……とりわけ知りたいのは、やっぱりボクたちのことだね。
 もうじっちゃんもいないし、ここは島ではない。せっかく、知ろうと思えば、どんなことだって調べられる環境にあるんだ。それを、活用しない手はないだろう?
 もちろん、かのうこうやにだって聞くべきこと、問いただすことはいくらでもあるけど……その前に、ボクらはボクらで、調べられることを一通り調べておくべきだと思う。知っての通り……」
 ……ボクらが育てられた環境は、異常だ。
 何故、ボクらがそんな育てられ方をしなければならなかったのか、ボクは、知りたい……。
 テンは真顔でそういい、ノリとガクはぽかんとした顔をして、そんなテンを見つめた。

 ノリとガクは、そんなことを今まで疑問に思ったことすらなかった。

 それでもテンについて図書館まで足を運んだのは、テンと同じ事に興味があったから、ではなく、ノリとガクそれぞれに思惑があったためだ。それに、今まで三人一緒に行動してきた、という習慣も、多少の心理的な慣性として働いたこともあったが。
 ノリは、「図書館に行けば、大判の画集がある」と思った。昨日、羽生の蔵書を数時間漁り、夜、香也に簡単な絵の手ほどきを受けたノリは、「人間がなにを描いてきたか」という知識を得たいと思っていた。島にあった書籍類では、その分野はあまりにも貧弱だった。
 ガクは、ノリとテンがそれぞれに「興味の対象」をみつけ、そのために動き出したことを感じ、少し寂しく思い始めていた。ガク自身は、まだ「そういうもの」を見つけ出していない。「図書館にいけば、なにか自分にでも興味が持てるものがみつかるのかな?」と思っていた。しかし、正直、あまり期待はしておらず、「他の二人につき合って、ついでに」という気持ちが強かった。

 しかし、ガクはその日、図書館で、のめり込むべき対象を見つけた。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(72)

第五章 「友と敵」(72)

「……へぇ、じゃあ、昨日はみんなで水着買ってきたんだ……」
「そう。茅、あんなに泳ぎを習うの」
 登校時、飯島舞花は相変わらず司会役みたいな役回りを率先して行っていた。
「……そういや、今朝、ランニングの時にガクは来なかったな。
 ……楓、なにか知っているか?」
「……さ、さぁ? わたしは、なにも……」
 荒野が尋ねると、楓がもろに動揺した様子で答えた。
 荒野は「また、なんかあったな」とは思ったが、深く追求しない。それでなくても、今週は忙しすぎた。楓が秘匿したいことをほじくり返して、これ以上、面倒な案件を自分から抱え込むのも、馬鹿らしかった。
「……ようやく、週末かぁ……」
 荒野はそういって伸びをした。
 今日は金曜日、一月最後の週末だった。
 明日、明後日とバーベキュー、健康診断……と予定が詰まっているので、荒野としては、今日くらいは平穏に過ごしたかった。

 そうした希望的観測、というものは、往々にして裏切られる運命にあるのだが。

 珍しく恙なく一日の授業を終え、荒野は週末分の食材を確保するために商店街に向かった。その途中で電話が鳴る。茅の携帯から、だったので、そのまま取った。
『……今日、徳川篤朗が、狩野家に、自分のノートパソコンを取りにくるの』
 茅は、荒野の返事も待たずに、まくし立てるようにいった。
『篤朗の姪の浅黄が、茅にあいたがっているというの。
 浅黄、またうちに泊めてもいい?』
 文法的には質問の形をしていたが、語調はどことなく命令調だった。
 ……そういや、茅の数少ない、仲のよいお友達、だもんなぁ……と、荒野は思った。
 なにしろ、茅が、お気に入りの猫耳カチューシャを無条件で浅黄に手渡したほどである。
「……いいけど……」
 荒野は慎重に答えた。
「……今日、泊めるのはいいけど……明日は、午前中はプールにいって、午後はバーベキューだろ?
 ろくに相手、できないと思うぞ。一泊させただけですぐに帰すのか?」
 前の事例から考えても、浅黄がくれば茅も一緒になってはしゃぐのは、容易に想像できた。
『大丈夫なの。
 篤朗に、ちゃんと浅黄の分の水着を用意するようにいったの。
 みんなでプールとかバーベキュー、するの』
 茅の声は、心なしか弾んでいるように思えた。
「……いや、そこまで決まっているんなら、別に構わないけど……」
 茅に押し切られる形で、荒野は承諾した。
 通話を切って、しばらく考えてから、荒野は登録していた玉木の番号に電話をかける。
「あ。おれ、加納。
 たった今茅から電話あったけど、お前、浅黄ちゃんのほうに、さりげなく手を回したろ?」
 荒野は開口一番に断定口調でそういった。
 茅と徳川篤朗、徳川浅黄を繋ぐ線は、玉木と孫子くらいしか思い浮かばない。そして、孫子は、浅黄のような子供のために便宜を図る性格ではなかった。
「お前……今度は、なにを考えている?」
『いきなりなにを考えている、はないんじゃないかなぁ、カッコいいこーや君』
「今までが今までだからな。警戒もするさ」
『……最初は、孫子ちゃんの鉄砲が壊れかけている、って話しだったんだけどねー。実家に送り返して代わりの送って貰う、っていっていたから、なんならいっそ近場で修理して貰えば、って耳打ちしたのよ。
 トクツー君、そういうの得意だし、お仕事として出せば、秘密厳守の人だし。
 近場に専任のメンテナンス要員、確保しておいたほうが、孫子ちゃんもなにかと安心でしょう、と……』
「たしかに徳川は、必要以上に好奇心を持ってこっちの事情に首突っ込んでくるタイプじゃなさそうだけどな……」
 お前と違って……という言葉は、辛うじて飲み込む。
 それに……孫子のライフルがしょっちゅうオーバーホールを要求されるほどに酷使される、という状況も……できれば、勘弁して欲しかった。
 そもそも、あんなもん、間違っても日本の町中でぶっ放すものではないのである……。
「で……そっから浅黄ちゃんには、一体どう結びつくんだ?」
『……いや、囲碁将棋部の部室でそういう話しを三人でやっているところにな、ちょうどトクツー君の姉君が浅黄ちゃん連れてきて、例によって、しばらくトクツー君に預けたい、っと……。
 で、浅黄ちゃんは、孫子ちゃんの顔、覚えていてな、「今日は猫のおねーちゃんいないのー!」と、こうだ。
 どうも浅黄ちゃんは、茅ちゃんのことを、猫のおねーちゃんと認識しているらしいねー……。
 茅ちゃんがあげた猫耳、今では自分がつけているのになー……』
 玉木は電話の向こうでからからと笑った。
「……だいたいの経緯は、理解した」
 荒野は、憮然としていった。
「ようするに、いろいろな偶然が重なっただけで、お前はなにも画策しているわけではないのだな……」
『……なにをいう!』
 玉木はわざとらしく声を大きくした。
『この玉木珠美、友人をネタにすることはあっても、友人の弱みにつけ込むほど卑劣ではないぞ!』
「……あのなぁ……」
 実際に、荒野たち一族関連のことを黙ってくれているのだから、それなりに信用はしている……の、だが……。
「……そのネタと弱みの境界線は、お前の中で一体どのように区分されているんだ?
 後学のために、是非聞いておきたい」
『はっはっは。愚問だ!
 笑ってつけ込めるのがネタ、つけ込むと笑い事ではなくなるのが弱み、だよ……』
 そんなことをうそぶいて「わはははは」と笑い続ける玉木の基準は、イマイチ、信用しきれないところがあった。
「……いいけど……。
 今後、万が一、とんでもないことになったら……その時は遠慮なく、お前に楓とかあの三人とかをけしかけるからな……」
 荒野がそういうと、玉木の笑い声のトーンが、若干乾いたものになった。
 構わず、荒野は通話を切る。
『……浅黄ちゃんが、来るのか……』
 荒野は冷蔵庫の中に買い置いている食材を思い浮かべる。
 子供の喜びそうな料理……カレーか、ハンバーグか……この間シーフードカレーやったばかりだけど、茅はカレー好きだから、別に問題はないだろう……。
 カレーハンバーグ、とかいうやつ、試してみるかなぁ……。
 たしか、子供用の甘そうなカレールー、売っていたよなぁ……。

 平日の夕食は茅が、朝食と週末の食事は荒野が用意することが多い。
 荒野は現在の冷蔵庫の中身と必要な食材を頭の中でチェックしながら、商店街へと急いだ。

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彼女はくノ一! 第五話 (30)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(30)

 バス停の前で柏あんなと別れ、玄関前で茅とも別れて、五人で狩野家の中に入っていくと、夕食ができあがるところだった。バイトが遅番であるらしく、羽生譲の分は用意されておらず、本日も帰宅しないのか二宮荒神の分の食事もなかった。
 楓と孫子はそれぞれの部屋に一旦戻って上着を脱ぎ、荷物を置く。三人組はそれではあきたらず、買ってきたばかりの水着に着替えて居間に戻ってきて、香也の前でくねくねとまだ中性的な体をくねらせてポーズらしきものをとってみせてから、ようやく炬燵に入った。
 香也は、「……んー……」と唸るだけで、三人の水着姿に関する明確なコメントは差し控えた。
 水着姿のまま炬燵に入り、三人はそれぞれに「今日の出来事」を身振り手振りを交えて賑やかに語り出す。日中はほとんど家の中……少なくとも三人のうち二人、テンとノリは、羽生譲の部屋に入り浸っていた。その間、ガクは暇を持て余して昼寝をして時間を潰していた、ということだった。
 学校から帰ってきた楓や孫子たちと合流してからは、三人が一緒に行動していたこともあって、説明に熱が入っていた。
 初対面だった柏あんなの印象、はじめて乗ったバスでの出来事、水着売場での自分たちの行動……そんなことを三人で交代交代説明しながら、説明する。
 賑やかな食事が終わると、三人はそそくさと自分たちの食器を片づけ、水着のまま風呂場に向かった。
 賑やかな三人が居間から姿を消すと、一服してから今度は一時間前後、楓と孫子の二人で香也の勉強をみる。昨年末からはじまった習慣だが、なんどか形態を変化させながら、今では「楓と孫子の二人で、居間で行う」という形に落ち着いている。楓も孫子も、さすがに絵を描いている時は遠慮するものの、それ以外の時に相手を香也と二人きりにするのは危険だ、と、考えており、しかも二人ともそれを隠そうとしていない。
 そうした牽制合戦も、他人の目があるときは多少緩和される傾向があるので、香也の発案で、「三人で、居間で」という形に、現在では落ち着いている。学校の勉強については、香也は決して積極的に取り組んでいるわけではない。が、それでもつきっきりで見る限りはそれなりに真面目にやってくれるので、香也の教科に関する基礎知識は、着実に蓄積されている。今の時点では同級生の平均に追いついているとはいえないが、毎日の積み重ねが効を奏し、香也の基礎学力は着実についていた。
 そうして香也の勉強をみている間に、三人組がバスタオルだけを体に巻き付けただけ、というあられもない恰好で「着替え、忘れたー」と騒ぎながら居間を通って自分たちの部屋に駆け込んでいった。時間的にもちょうど区切りのいいところだったので、本日の香也の勉強はそれまでとなった。
 香也は庭のプレハブに、孫子は自分の部屋に、楓は風呂場に向かう。

 風呂から上がり、パジャマの上に上着をひっかけただけの軽装で庭のプレハブに向かう。香也が母屋に帰ってきた痕跡がなかったから、まだそちらにいるのだろう、と、思った。
 遠慮がちにプレハブの中に入ると、予想もしなかった人物が香也と寄り添うようにして立っていた。というより、椅子に腰掛けたノリに、側に立った香也が覆い被さるような姿勢で、こちらに背を向けていた。
「……な、な、な……」
 いつもならこの場にいそうな面子、孫子とか荒野とかの姿は見えず、完全に、二人きり、だった。
「なにしているですかー!」
 思わず、楓は大声を上げていた。
「……んー……」
 こちらに背をむけていた香也が振り返り、楓の顔を確認すると、どことなく困ったような、ばつの悪そうな顔をした。
「なにって……ノリちゃん、絵に興味あるっていうから、ちょっと描き方教えていたんだけど……」
 楓と目が合うと、パジャマ姿のノリが決まり悪そうな表情をして、楓に向かってちょこんと頭を下げる。
 ノリは落ち着いていたし、香也も、戸惑ってはいるものの、慌てた様子はない。
「ノリちゃん、初めてだから手がついてこないけど……いい観察眼、していると思う……」
 椅子に座ったキャンバスに、スケッチブックがたてかけえあり、そこには鉛筆描きの描きかけの静物画がみえた。香也の線よりは、よっぽどたどたどしいから……やはり、ノリが描いたもの、なのだろう……。
 香也もノリも、やましい行為をしていたような形跡は、全くなかった様子だった。つまり、楓の早とちりだったわけだが……。
 楓は、なんとなく面白くなかった。

 その晩、布団を敷いて横になった楓は、あることにはたと思い当たり、香也の部屋の前に原始的なトラップをしかけた。
 香也の部屋の前の低い位置に、細い紐を渡し、それに鈴をつける。
 それから自分の部屋に帰って浅い眠りをとる。

 夜半、案の定、かすかな鈴の音が鳴った。
 音もなく跳ね起きた楓は、枕元に用意していた紐を掴んで香也の部屋の前に、気配を絶って急行する。
 襖を開けて、眠そうな顔をしたガクが香也の部屋に入ろうとしているところだった。
『……やはり……』
 夕食時、ガクは「今日はすることがなかったので、昼寝をしていた」という意味のことを言っていた。
 だから、夜に眠れなくなり、また香也の部屋に忍び入るのではないか……という楓の読みは、当たった。
 ガクに気づかれないまま、ガクの背後に忍び寄った楓は、素早く細い紐でガクの体を戒めはじめる。
 そこでようやく楓の存在に気づいたガクは、目を見開いて楓の顔を見る。
 ガクが口を開けた瞬間、楓の顔の横からぬっと伸びた手が、持っていた小さなスプレー容器から「なにか」を噴霧した。
 すると、ガクはすぐに目を閉じ、がくり、と頭を落とす。
 楓が振り向くと、すぐ背後に立っていた孫子と目があった。
 楓と孫子は、無言のまま頷きあう。
 現在の状況下では、二人の利害は一致していた。

 ガクは、香也の部屋の前の廊下で、細くて頑丈な紐でぐるぐる巻きにされているところを、翌朝、ノリとテンに発見された。
 なんとなく、昨夜、ここでなにが起こったのか察したノリとテンは、ガクの体をそのまま三人の部屋に放り込んで、そのまま朝のランニングに出かけた。
 二人とも、この時までに「楓と孫子には敵わない」ということが脳裏に刷り込まれていたし、どちらかというと、悪いのは性懲りもなく香也の部屋に夜這いをかけたガクのほうだ、ということも弁えていた。

 ガクは、ノリとテンがランニングから帰ってきて起こされるまで、ぐるぐる巻きに縛られたままで、平和に眠っていた。

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