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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(116)

第五章 「友と敵」(116)

 楓、ガク、テンが帰ると、途端に茅が荒野に身をすり寄せてくる。ここ数日、茅はこれみよがしに荒野にじゃれついてくるようになっている。
 荒野にしてみれば、「毎日のようにそんなにひっつかなくともいいだろうに……」とは思うのだが、同時に、決して悪い気もしないので、邪険にも扱えない。
 基本的に、荒野は、茅には甘い。

「お風呂、湧いているの」
 と手を引かれ、荒野と茅は脱衣所でさっさと全裸になり、風呂場に入る。
 風呂場に入るとすぐ、茅は正面から荒野に抱きついてきた。
「荒野の……硬い……」
 茅は、お腹に当たった荒野の感触を、端的に言葉にする。
「……はいはい」
 荒野は故意にやる気のない声を出した。
「そんな、毎晩やらなくてもいいでしょ?
 昨日も一昨日も、あれだけやったんだし……あんまりがっつくと、そっちの身が持たないぞ……」
 そういって茅の肩に手を置き、半ば強引に茅を腰掛けさせ、肩から背中にかけて、ざっとお湯をかける。
 一通り、茅の体にお湯をかけ終えると、今度は茅のほうが、荒野に背中を向けさせ、お湯をかけ、肩のあたりで、感触を確かめるように掌を滑らせて、まさぐる。
「……荒野の肩……背中……広い……」
 切れ切れにそういう茅に、
「男だからね……」
 と素っ気なく返して、荒野は立ち上がり、湯船に体を沈めた。茅もそれに続き、荒野の前に割り込むように、湯船にはいる。
 しかし、もともとバスタブが狭いので、茅の体は完全には入らない。窮屈そうに膝を屈め、体のごく一部がようやくお湯に浸かっている、という状態だった。
「一度に二人は無理だって……。
 茅、いつものように、先に体を洗ってろよ……」
 茅が体を洗っているうちに荒野が湯に浸かり、茅が体を洗い終わったら、荒野が茅の洗髪を手伝う……というのが、いつもの手順だった。
 荒野がそういうと、茅は立ち上がって、荒野のと向き合い、そこで浴槽の縁に腕を廻している荒野の上に覆い被さるようにして、顔を近づける。
「荒野……・
 茅、荒野の役に立ってる?」
 上から荒野の顔を見下ろした茅の顔は、意外に真剣なものだった。
「十分に、役に立っていると思うけど……」
 荒野の方は、何故いきなり茅がそんなことを言いはじめたのか……その理由が掴めなくて、少し戸惑っている。
「楓よりも? あの三人よりも?」
 茅は、さらに続ける。
「……あー……」
 荒野の方にしてみれば、茅と他人と……楓や三人組と比較する思考は、そもそも持ち合わせていない。
「茅は……役に立とうが立つまいが……あいつらとは、別格だ。
 ……おれの中では……」
 そう、答えるより他、なかった。
 紛れもなく、荒野の本音だった。
「でも!」
 普段、感情の起伏を表面に出さない茅にしては珍しく、声を大きくする。
「荒野、朝、あの三人に秦野の相手させたし……楓にはいろいろ命令するのに、茅にはなにもいってくれないし……」
『……なるほど……』
 荒野は、段々と、納得してくる。
『茅は……おれの、役に立ちたいと……思っているわけか……』
 さらにいうのなら……褒めて貰いたい、のだろう……。
「あー……茅。
 ひょっとして、コンピュータのこと、いきなり勉強しだしたのは……」
「荒野の役に立つことをすれば、荒野が褒めてくれると思ったから……。
 荒野、玉木たちのボランティア、成功させたいんでしょ?」
 荒野は、軽く目眩を感じた。
 役に立つのか立たないのか、と言われれば……今夜のコンピュータの扱い方を見ただけでも……茅が、そこいらの一般人が束になったのよりも、よっぽど役に立つ存在なのである……。
『茅、って……』
 楓以上に、能力と自覚とが、アンバランスだ……。
 まだまだ発現しきっていない、膨大な潜在能力を持ちながら……メンタリティの面では、まだまだ、親に褒めて貰いたがっている、子供……あるいは、飼い主に気に入られたい子犬……。
 この状態というのは……ひとつ、扱いを間違えると……とても、危険なことなのではないだろうか……。
「念のために聞く。
 茅、朝のランニングはじめたりして、体を鍛えはじめたのは……」
「茅、強くなって、荒野の役に立つの。足手まといには、ならないの……」
 即答、だった。
「茅の心がけは、嬉しい……」
 荒野は、慎重にいった。
 ここで間違ったことをいって、かなりうまくいっている茅との関係に亀裂が入ったら……外的な要因に拠らず、今まで築いてきたもの、今、守り通そうとしているもの全てが、瓦解することになる……。
 茅ならきちんと説明すれば分かってくれる……ということも確信はしていたが……今更ながらに、荒野は、茅が「生身の人間」である、ということを強く意識し、緊張していた。
「第一に、茅を守り通すことが、おれの仕事だ。
 だから、茅を荒事の前線に出すことは、ありえない……」
 茅は、少し間を置いて、頷いてくれる。
「第二に、今の時点で、茅は最大の隠し球だ。
 楓や三人のデータはかなり外部に流出しているようだけど、茅の能力については、今の所、あまり注目されていない……」
 というより……荒野自身、茅の潜在能力の全てを、把握しているわけでない。
 いざという時のために、知らないままでいるほうがいい、とさえ思っている。
「いわば……茅は、切り札だ。
 切り札は、最後の最後まで、伏せておくもの……。
 本当の勝負時まで取っておきたいから……当分の間、他の一族の者がちょっかいだしてきたら、楓とか三人とか、あるいはおれとかが、相手をして……そいつの手の内を、さらけ出す……。
 だから、当面、茅はそういうのを観察して、いろいろな奴らの技や術に対して、対応策を練っていてくれ……」
 実際、茅は、技を見切ることには、長けている。
「茅にもしも、万が一のことがあったら……おれが、困る。
 だから、当分は、おれに、茅のことを守らせてくれ……」

 茅は、先ほどよりも長く沈黙して考え込んでいたが……ようやく、頷いてくれた。
「荒野がそういうのなら……当面は、茅、他の人たちのことをみて……どうしたら対抗できるのか、考える……。
 みんなに守られて、そういうことを考えるのが、しばらくは茅の仕事……」

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彼女はくノ一! 第五話 (74)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(74)

 最初のうちこそエラーを連発して楓の手を患わせたが、茅はすぐにコーディングのコツを体得したようで、いくらもしないうちに、楓はほとんど見守っているだけでいい感じになった。プラグラミングを今日からはじめたとは思えない流麗な指さばきで、茅は次々と細かいパーツを仕上げて行く。
 そのうち、LAN経由でできあがったブロックを次々に荒野のパソコンに転送し、楓に評価や試験をさせてる。その間にも、茅は自分のパソコンで次のブロックに取り組む……という流れができた。
 楓がみたところ、茅のコードは教本どおりの実にきれいなもので、後から手をいれるための注意書きや注釈も、手を抜かず丁寧に書き込まれている。
 そして、実際に走らせてみると、問題なく動くのだった。バグ取りが必要にだったのは最初のうちだけで、楓が「このコードの何行目、しかじかの箇所が」といった具体に口頭でいくつかの欠陥やロジックミスを指摘すると、茅は頷いて二度と同じミスはしないのだった。
 楓は、茅の持つ記憶力の意味を、恐らくこの時初めて思い知らされたような気がした。
 今日、ネット上にある情報だけを参照していきなりサイズの大きなプロブラム、それも、実際に走らせることができるものをこうして目の前で作り上げてしまう……というのは、やはり、人間業とは思えない……。
 みれば、テンも茅の真似をして、同じくネット上の情報を参照したり、楓が報告する茅の失敗例に聞き耳を立てながら、何やらコードを書き込んでは時折走らせて試験をしているようだった。テンの指の動きは茅のものに負けず劣らず早く、画面上に流れる文字の動きを、楓が追えないほどだった。
 楓が後ろから画面を覗き込んでいるのに気づくと、テンは、
「今のこれは、練習……トクツーさんの所で仕事をするとなると、この程度のことは、できておかないとね……」
 振り向きもせず、テンの背中がそう答える。

 茅とテンのそうした様子を横目で睨みながら、楓は、荒野の話しをガクといっしょに聞いていた。実戦経験のない楓にとっても、若年ながら多くの修羅場をかいくぐってきた荒野の体験談は興味深く、参考になる点が多かった。
 意外だったのは、荒野の話しを聞いたガクが、いきなり泣きそうな顔になったことだ。
 荒事中心に数多くの現場を渡り歩いてきた荒野の話しは、当然のことながら、流血沙汰などの凄惨な話しが多い。そのことに関して、ガクは、なにやら感じる所があったらしい。
 優しい子なんだな、と楓はそう思う。
 荒野は、三人について何度か「プロフェッショナルではない」という言い方をしているを聞いたことがあるが、ガクのこうした甘受性は、楓には好ましく思った。

「……区切りのいい所まで終わったの……」
 茅がそういったので、その日はお開きということになった。もう、いい時間になっている。
「これで、パソコン部の仕事の進行状態が、チェックできるの……」
 茅は、今後大人数を動員するためのシステムの雛形として、まずはパソコン部の仕事を管理するためのシステムを作り上げたものらしい。
「……明日から、プログラムの参考書、届くんだよね……」
 テンが楓に、確認する。楓は、頷いた。
「ネット書店に在庫がある分は、すぐにつく筈なの」
「じゃあ、明日の夜もこっちに来て、一緒にそれを見せてもらっていい?」
「かまわないの」
「……その前に、明日は美容院にいくからな。忘れるなよ……」
 荒野が横合いから口を挟む。
「わかっているよ。
 こっちは、忘れようとしても、忘れられないように出来ているんだから……」
「……そうだ、お前ら……。
 商店街の方で、バレンタインに向けて、才賀を使ってまたなにかやるようだけど……そのことについて、なにか聞いてないか?」
 荒野がそう尋ねると、テンとガクは顔を見合わせた。
「なに、かのうこうや、あのこと、聞いてないの!」
「……おっくれってるぅ!」
 テンとガクは、口々にそんなことを言いながら、まだ電源を落としていないパソコンを操作し、あるサイトのトップページを開いた。

「……バレンタイン・ゴシックロリータ・ファッションコンテスト……」
 いつの間にか出来ていた、駅前商店街のサイトのトップページでは、盛装……というよりは仮装に近い……つまり、彼女自身の嗜好を忠実に反映したファッションに身を包んだ才賀孫子が、婉然と微笑んでいた。
「最近おとなしいと思ってたら……裏でこんなこと、やってたのか、あいつ……」
 荒野は、呆然と呟いた。
 荒野もあれから周囲にいろいろ吹き込まれて、今ではその手のファッションが、一部の若い女性層に強くアピールする、一種のポップカルチャーであることも理解している。そういう情報を吹き込まれる過程で、そういうファッションの愛好者は意外に多い、ということも知らされていた。
 なるほど……こういうマニアックな人種をターゲットにすれば……県外からもそれなりに人は呼べるだろう……。
 ……集まってくる人種に、なにかと問題があるような気もするが……。

「……これ、ボクたちも出るんだってー……審査対象ではないっていってたけど……」
「ノリは、真理さんと一緒に順也先生の絵を売りに行くんで、しばらくいなくなるけどねー……」
 顔色を失っている荒野と楓をよそに、テンとガクの二人は無邪気にそんなことをいいあっていた。

「ま……この件には、おれ、声をかけられていないから、どうでもいいといえばいいけどな……」
「この格好……トナカイの着ぐるみよりも、恥ずかしい気が……」
 荒野と楓は、そんなことをいいあってこくこくと頷きあった。
 二人とも、完全に、顔から血の気が失せていた。

「……孫子ちゃん、商店街のサイトみたよ……」
 翌朝、そういって飯島舞花は「わはは」と笑った。
「……似合ってた、似合ってた。
 あれ、今週末からやるの?」
「本番は、来週の土日。
 今週末から、エントリー受付……」
「ああ。
 エントリーした人は、本番の審査の時まで商店街周辺でピーアル活動が出来る、って書いてあったけど……」
「……ええ。今週末から審査が終わるまでの間、あのファッションの子たちがあの近辺を闊歩する風景がみられるわけです……。
 エントリーしてきた順番に、三分のPRビデオも、ネットで配信出来るようになっています……」
 エントリーしてきた者自身が撮影、編集してきた映像を持ち込むのも可能だが……商店街のサイトには、そうした機材を持たない人のためには、商店街の写真館を撮影と編集を行う、という旨も、ちゃっかり記載され、写真館のサイトへ続くバナーが張ってあった。それはもちろん、その際の実費、撮影料などは有償であり、写真館のサイト内には、「サンプル」と称して、才賀孫子のピーアル映像が置かれていた。
 なお孫子自身は、主催者である商店街の協力者、という位置付けであり、コンテストにはエントリーしていない。
 ファッション・コンテストにエントリーするには、ン千円の参加料を主催者である商店街に収めなければならない。また、十八歳以下の参加希望者は、保護者の同意書が必要となる。
 これは参加者の本気度を図るためのもので、実際には、舞台の設置料や人件費等の必要経費を考えると、よほど大量の参加者がこない限り、商店街の持ち出しになる……と、孫子は説明する。

「……そうそう」
 例によって途中から合流してきた玉木が、孫子の説明を補足した。
「商店街にしてみれば、さ……。
 いつまでも君たちのような人たちに頼ってばっかじゃ、どうしようもない、っていうのがあるんよ……」
 そういって玉木は、荒野や茅、楓などの顔を見渡す。
「人が集まらない、っていうのなら、人が集まるようなイベントをしかけていけばいい、っていうのは、年末に、証明されちゃったから……。
 まあ、その初期加速の段階には、ちょっくら力を貸してくれい……」
 その代わり、ボランティア方面の広報にも、協力するから……と、玉木は付け加える。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(115)

第五章 「友と敵」(115)

 夕食が終わって後片付けを済ませた後、茅は自分のノートパソコンをリビングに持ち出して、猛然とキーボードをタイプしはじめる。その速度は荒野があきれるほどで、後ろから覗き込むと、いくつものウインドウが凄い勢いで開いたり閉じたりして、その中では茅の指の動きに合わせて、これまた凄い速度でだーと文字が流れていく。
「……あのー、茅さん……」
 荒野が眼を点にして茅に声をかけると、そのことを予期していたのか、茅は振り返りもせずに、
「……学校で覚えた知識を、実際に試しているところなの。
 これだけでは足りないから、荒野のマシンも貸して……」
 慌てて荒野が自分のノートパソコンを持ってきて開くと、茅は電源をいれて立ち上げ、両手を、二つのマシンのキーボードに置き、左右同時にタイプしはじめる。驚いたことに、両手で一つのマシンを操作していた時と、タイプする速度は変わらないように見えた。
 茅は、真剣な表情で、左右に置いた二つのパソコンの画面を等分に見ながら、どちらのマシンでも別個の処理をさせているらしく、忙しく流れ変わっていく、画面に表示させられ内容は、二つのマシンでまったく違っていた。
 荒野は、ただただ驚愕して、その様子をみていた。
 ……そういえば、荒野は、茅がパソコンを操作する現場を目撃するのは、これがはじめてだった……。

「ふう」、と息をついて茅が顔を上げたのは、茅が作業を開始してから二十分ほどたってからだった。
 軽く息をつくと、茅は、今度は自分の携帯を取り出し、メールを打ち出した。
 携帯のボタンを指で押しながら、茅は顔も上げずに、
「……今までの復習は終わったから、楓を読んで新しいことを教えて貰うの……」
 と、傍で様子を見守っていた荒野に説明した。

 茅が呼び出しのメールを送ってから五分もたたないうちに、楓が、マンションの玄関口にたっていた。ただし、楓一人ではなく、ガクとテンを後ろに連れていた。ガクは手ぶらだったが、テンは厚みのあるノートパソコンを抱えている。
 小柄なテンがそうしたゴツいマシンを抱えている様子は、かなり危なっかしく見えた。
 茅が紅茶を入れる間に、今朝の秦野の一件について楓に説明がてら、軽く話す。
 テンは、荒野が秦野や監視している連中の目測を狂わせる目的で故意に三人をけしかけたことを見抜いており、そのことについて、表面上ぶーたれていた。しかし、あまりしつこく追求してこなかった、ということは、テン自身も、「今の時点でむざむだ敵を呼び込むような真似をすることはない」という判断自体は、支持しているようにみえた。ただし、そのための引き立て役として自分たちの性格が利用されたことに関しては、かなり不満を残しているようだったが。
 その件で、大ポカをやった張本人であるガクは、荒野やテンの思惑など想像だにしていなかったようで、軽く解説してやると、「ええー!」と大声を上げて驚き、その後、テンに冷淡な態度を取られると、みるからに悄然とした様子で肩を落とした。それはもう、しょぼーんとした様子で、見ている荒野が可哀想に思ったくらいのうちひがれようだった。
『テンは思慮深く、ガクは短慮……』
 荒野としては、以前からの観測結果と一致した反応に満足することにした。

 楓と茅が、もともとこの部屋にあった二台のパソコンでわいのわいのいいながら「学習」をはじめると、テンも自分で持ち込んできたマシンの電源をいれ、二人の横に陣取って、見よう見まねで操作をはじめる。見よう見まね、といっても、テンも茅と同様、見聞したことを遂一正確に記憶する体質である以上、それは通常の学習となんらかわりはない。
 テンが持ち込んだマシンは徳川から借りた物で、テンは、荒野と茅のマシンが無線LANでネットに接続していることを知ると、自分のパソコンの設定を即座に切り替えて、自分のマシンでも、この部屋でネットに接続できるようにした。
 楓が示したダース単位のアドレスを参照しながら、茅とテンはネット上の情報を猛然と「読み込み」はじめる。
 茅が先ほどと同じような高速度で指を動かしはじめると、テンもそれにならった。茅に出来ることは、だいたい、テンにも出来る……ということらしい。
 二人が操作するパソコンのディスプレイが、めぐるましくウィンドウを開閉して点滅する。
 最初のうち、教える立場だった楓も、すぐに能動的に動き、めぼしい情報を検索して片っ端から走査しはじめた二人に置いていかれた形になり、ついには干渉を諦めて、荒野の隣に座って冷めかけた紅茶を啜るようになった。

「なあ、かのうこうや……」
 その頃、ようやく立ち直ってきたガクが顔を上げて、荒野に話しかけてくる。
「ボクたち……一族って人たちのこと、全然、知らない……。
 よかったら、今、話してくれないかな……」
「……いいだろ……いい機会だしな……」
 荒野は頷いたが、いざ改まって話すとなると、話せることはあまりない。
 佐久間ほど極端な秘密主義も珍しいのだが、六主家は完全に利害が一致しているわけではない。だから、当然、それぞれの血族外へ漏れてくる情報も、かなり限られたものだった。
 いつ敵にまわるか分からない相手に向かって、そうそう手の内を曝すわけにはいかないのだった……。
「だから、おれが知っていることも、かなり限られているんだけど……」
 そう前置きして、荒野は自分自身が今までに見聞してきた他の一族の者について、話し出す。
 独立心が強く、他の一族に依存するよりは一般人に紛れて暮らすのをヨシとする野呂。
 独立心が強い……というよりは、気まぐれで、次の行動が読みにくく、しかし、単体での戦闘能力は極端に高い二宮。
 逆に、最弱といわれ、自らもそのことを認めながらも、蓄積してきた知識と多数の一般人勢力をも抱き込んだコネクションの力で他の六主家と対等以上に渡りあっている姉崎。
 なにかと謎が多く、なかなか実態が掴めない佐久間……。
 そうした一族の者の中で……荒野が今までに関わってきた人々のことを順々に語っていくと、いつの間にか手持ち不沙汰になった楓も、ガクと一緒に真剣な顔をして聞き入っていた。荒野の話しが進むにつれて、ガクの表情は、真剣と言うよりは、なんだか痛ましい話しでも聞いている時のような、泣きそうな顔になっていった。
「……かのうこうやぁ……」
 荒野の話しが一区切りすると、ガクは今にも泣き崩れそうな顔をして、荒野にそういった。
「お前……今ではのほほんとしているけど……ついこの間まで、悲惨な、とんでもない生活していたんだなぁ……」
 どうやら、同情してくれているらしい……と気づいて、荒野は苦笑いしたい気持ちになった。
「……おれ、ここに来る前の生活、これっぽっちも悲惨だなんて思っていないけど……」
 荒野は、平然とした顔をして答える。
「おれら、プロフェッショナルだから。
 例えば、一般人がおれらと同じ仕事をしようとしたら……多分、もっと多くの血が流れ、もっと悲惨なことになる……。
 その点、何百年かのノウハウを持つおれら一族がやれば、最小限の犠牲ですむわけだから……」
 一族の者は、総じて自分の技と力量に自負と矜持を持つ傾向がある。
 ……おれ自身も、例外ではないようだ……と、荒野は皮肉に思った。

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彼女はくノ一! 第五話 (73)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(73)

 夕食の後、小一時間ほど香也の勉強をみて、その後、香也にゲーム製作関係の連絡事項を伝える。いつもなら、そのまま香也の後についてプレハブに向かうところだが、楓は羽生譲に声をかけて、パソコンを使わせてもらうことにした。
 放課後、パソコン部で仕様を検討したシステムの構築を、少しでも進めておきたかった。
 だいぶ大規模なシステムになりそうっだし、他の部員の実習も兼ねたかったから、モジュールごとに細分化して、多人数で同時進行で組み上げる形にもしておきたい。参加を希望した各部員の知識と技能に合わせて仕事を割り振るためにも、おおもとの設計はできるだけ早い段階で詰めておきたい所だ。
 楓は羽生のパソコンを立ち上げ、メーラーを開いて今日届いた徳川のメールをチャックし、中に書かれたアドレスを片っ端から開いて、内容を子細に検討しはじめた。どのソースも、徳川が推奨するだけあって、非常に参考になる内容だ。
 楓が夢中になってそれらの内容をむさぼり読んでいると、携帯の方に、茅からのメールが入って来た。
 茅からのメールは、「マンションの方に来て一緒に作業をしないか?」という誘いであり、茅の方も、楓と同様のことを考えて、ソフト開発の学習をはじめているらしい。
 茅はまるで経験のない初心者だが、完璧な記憶力を持つ。すぐに必要な知識を吸収して、数日で楓と同様のレベルにまで追いついてしまうに違いない……と、考えた楓は、どうせすぐそこに住んでいる訳だし、今のうちに協調体制を整えて置いた方がいい、と判断し、羽生のパソコンの電源を落とし、外出の用意をはじめた。

 楓が玄関口まで出ると、居間にいたガクとテンが「どこにいくのか?」と尋ねてくる。楓が、昼間、堺雅史がしたためたレポート用紙を小脇に抱えていたため、いつものようにプレハブに行くのではない、ということを察知したらしい。
 楓が簡単に事情を説明し、荒野たちのマンションにいくと伝えると、ガクとテンも、一緒にいく、と、いいだした。
 一族に関することを荒野にもっと聞きたい、というのが二人の言い分で、テンのほうはそれに加えて、茅がコンピュータの知識を学習するのなら、自分も一緒に学びたい、と、いった。コンピュータの関連の知識について、三人は、島でも一通り基本的な操作方法は教えらられてはいたが、ネットワーク関連を中心としてかなり詳細な知識をたたき込まれた楓ほどには詳しく教えられてはいない、という。
 それで、ノリを除くガクとテンを連れて、楓は荒野たちのマンションに赴いた。
 ノリの姿は居間にみえなかった。かなり高い確率で、香也のいるプレハブに行っている……と、楓は思った。

 二人を連れて楓がマンションを訪ねると、荒野と茅は快く出迎えてくれた。
 茅が紅茶をいれる準備をしている間に、荒野はガクとテンに向かって、
「……お前ら、秦野のにいさんたちにしてやられたのが、そんなにショックだったか……」
 と、揶揄を含んだ口調でいった。
 楓は初耳だったが、今朝、朝のランニングの最中に、秦野衆うち三人だけが、わざわざ荒野たちに会いにやって来たのだ、という。
 そう聞いて、楓は驚愕した。
 直接接触したしたことはないが、秦野衆といえば、二宮と並んで一族のうちでも荒事に特化した連中である。しかし同時に、「秦野は排他的な集団で、部隊単位でしか動かない」とも聞いていた。
 それが、たった三人という小人数で、秦野以外の者の前に姿を表した、という例は……楓は聞いたことがない。
「……だからさ、敵意がないことを、示したかったんだろう……」
 荒野は、何故か憮然とした顔でそういった。
 秦野の最大の武器は、「数」だ。その「数」を自ら制限して接触することで、敵意はないことを示す……確かに、理屈としては、わかる気がする。
 しかし……。
「……この子たち、そんなに重要な存在なんですか……」
 荒野のいう「姫の仮説」についても、一通りの説明は聞かされていたのだが……楓には、いまいちピンときていない部分が、あった。
 楓は、荒神のいうところの「雑種」、つまり一族とは関係のない出自を持つ。また、実際に次々と生きている六主家の者を目の当たりにしたのは、この土地にきてからのことだ。
 そんな楓が、いきなり「姫の仮説」みたいな話を聞かされても、なかなか実感できないのは当然のことだった。
「こいつらが全然VIPらしくない、って点には同感だがな……」
 荒野もため息をつき、肩をすくめた。
「現にこいつら……育ちきっていない今の時点でも、そこいらの大人の一族関係者……六主家の平均よりも、よっぽどスペック高いし……。
 さらにいうと、秦野までが出ばってきた、ってことは、茅とかこいつらのことが、一族の中ではもはや秘密でもないんでもない、ってことだな……」
 荒野は楓に、
「今朝、秦野の兄さんたちは、じいいの所に挨拶してからこっちに来た、といっており、加えて、そこで、三人に関する資料もチェックしたという意味の事もいっていた……」
 とも、告げた。
 つまり涼治は、茅や三人のことを、秘匿する意志はない、ということなのだろう……。
「ま……三人がこっちに合流したことで、フェーズが変わった……と、みるべきなんだろうな……」
 最後に、荒野はそういって、締めくくる。
「なあ、かのうこうや……」
 ガクが、合点のいかない顔で、荒野に尋ねた。
「ボクらの存在が知れわたると……なにか、困るのか?
 ボクら、取られて困るような宝物とか、なにも持っていないぞ……」
「……お前らの存在自体が、他の者たちを呼び寄せる……」
 荒野は、ため息混じりに説明をはじめる。
 一族の内情や気質についてよく知らない、というう点については、三人組も、楓も、同じようなものだった。
「……いいか。
 基本的に、一族の者、というのは、自分たちの能力や技能に関して、矜持を持っている。自負心、とでもいうのか……秀でた能力を持つ者ほど、気位が高い……」
 ガクは頷く。
 そこまでは、ガクにも想像できる。
「……そこに、だ……。
 たいした努力もせず、生まれついて、自分たちよりも優れた能力を持つお前らのような存在がいきなり現れたとしたら……どう思う?」
「えっと……」
 ガクは考え込む。
「……ねたむ? 怖がる?
 の、前に……本当にボクらがそんなにたいした存在なのか、自分の目で確認しようとする……」
「……だから、今朝のあれがあったの……」
 それまで会話に入らなかったテンが、かなりむすっとした表情で、口を挟んだ。
「かのうこうやは、狡いよ……。
 わざとボクらをけしかけて、茅ちゃんから注意をそらしたんだ……」
「まあ、そういうな、テン……」
 荒野は、にやりと笑った。
「ガクが見事に間抜けな真似しでかしてくれたおかげで、秦野の兄さんたち、お前らのこと、過小評価したまま帰ってくれただろ?
 あそこで下手に兄さんたちをやりこめるよりは、今の時点では、見下されるぐらいのが、こっちにとっては都合がいいんだ……」
「え? え? え?」
 ガクは、眼を見開いて半ば腰を浮かせ、中腰になったまま、テンと荒野の顔を交互に見る。
「……えー!
 今朝のアレ……って、そういうことだったのー!」
 何秒かして、ようやく叫んだガクに向かって、テンはいった。
「そういうことだったの……
 かのうこうや……ボクらに任せれば、なんか致命的なヘマをやるだろう、そうしたら、相手も、しばらくはボクらのこと、本気で脅威だとは判断しないだろう……って思って、実際に、そうなったの……」
「……今の時点では、変に腕自慢がわらわらと挑戦してくるよりは、そっちのが平和だからな……」
 荒野が澄ました顔でそう答えた時、暖めた紅茶のセットを盆に乗せた茅がやってきて、全員分の紅茶を用意しはじめる。

[つづき]
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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(114)

第五章 「友と敵」(114)

 下校時刻ギリギリに下駄箱の前に降りて行くと、ちょうど楓や茅、それに堺雅史や斎藤遥などのパソコン部の面々が、たむろしているところだった。そちらも、時間一杯まで今後のことについて話し合いを行っていたらしい。
 荒野が茅や楓から、別れた後の情報を収集している間に香也と樋口明日樹もでてきて、自然と集団で下校しようということになった。
 校門を出る前に、まず駐輪場に向かう生徒と徒歩組とで別れ、校門前で、さらに大多数の生徒たちと別れることになる。
 結局荒野と一緒の方向に帰る者は、荒野と茅、楓、香也、樋口明日樹、それに玉木と、いつもの顔触れになる。
 玉木の話によると、学校に通う生徒たちの家庭は、役場や会社に籍を置きながら自分の家の田畑を守っている、いわゆる兼業農家が多く、純粋なサラリーマンや玉木の家のような自営業は、どちらかといえば少数派である、ということだった。
 もっとも玉木は、田畑を潰して造成された住宅に住んでいる生徒たちも多いので、駅と反対側に帰った生徒すべてが、そういう家庭の子たちではない、とも付け加えた。
 そういえば、堺雅史はちょうど荒野たちとは反対方向に帰宅していったが、この前、堺の隣りにある柏あんなの家を訪ねた、という孫子の話によると、その辺の一角は、同じデザインの家が何十軒もずらずらと並んでいる典型的な建て売り住宅地だったそうだ。
 なんの用事があって孫子が柏あんなの家を訪問したのか、ということまでは、荒野は聞き及んでいない。

 帰り道でパソコン部の方の進展を楓と茅から聞く。
 大きな進展はなかったが、士気は総じて高い、という印象を、茅も楓も持っていた。
「こういう世の中だから……早いうちから手に職をつけたいと思っている子、パソコン部だけはなくて、割合に多いよ……」
 と、玉木がさりげなく説明してくれる。
 一家の大黒柱がリストラされて、家庭全体の収入が激減している生徒も、少なくはないらしい……。
「だから……危機感があるっていうか、必死で技術を身につけようとしている子は、多いと思う……」
 そういう生徒にとって、今回の件は、大規模なプロジェクトを一から係わりあいになる、実習のいい機会なのだろう、と、説明された。
 
「……今日、少しお金使い過ぎたの……」
 玉木の説明が一段落すると、実習室のパソコン経由で、ネット書店に技術書を大量に発注した一件について茅から報告される。
「絶対に、無駄遣いではないの……」
 その件について一通りの説明をした後、茅はそう付け加えるのを忘れなかった。
「……それはいいけど……」
 茅が使った金額は、確かに決して少額とはいえなかったが、そんなことは些事だと荒野は考える。荒野個人名義の資産も、それに、必要経費用として涼治から預けられている金額にも、まだまだ余裕がある。
「茅……今度はコンピュータ、本格的に使いはじめるのか?」
 茅さえその気で学習しはじめれば、例によって、物凄い速度で知識を吸収してしまうのだろう。
 茅は、こくん、と一つ頷いてから、
「そろそろ体系的に、学習したいと思っていたところなの……。
 解らない所があれば、楓や篤朗に聞けるし……」
 ……茅は、日々、自分の意志で成長していく……と、荒野は思った。

 商店街に抜ける道で、玉木が荒野たちと別れようとするのをみて、荒野は急に冷蔵庫内の在庫状況が心配になってきた。そういえば、まだ今日は買い物に行っていない……。
 荒野は茅と手短に話し合い、香也や楓たちと別れて、玉木の後を追うようにして商店街のほうに向かう。商店街に向かいながら、茅と今夜の夕食の献立のことを話し合う。
 商店街につくと、顔見知りになった店員さんたちと挨拶を交わしつつ、いつものようにてきぱきと必要なものを買って行った。
 荒野たちが二人で、あるいは単独で、学校帰りにここによることも、珍しい光景ではなくなっている。常連さん、ということもあり、いつも商品を多めに包んでくれるお店が多かった。

 買って来た食材を冷蔵庫に放り込んでから服を着替え、二人で夕食を作って、食べる。このように二人きりになる時、以前なら茅は黙々と手だけを動かしていたものだが、この頃の茅は、ぽつりぽつりと様々なことを話すようになってきている。
 それは、荒野がその場にいないときに茅が遭遇した出来事であったり、共通の知人たちの言動についてだったりする。もともと茅は、正確無比な記憶力を持っている。話題には事欠かないはずだったが、それまでそうしたおしゃべりをしてこなかったのは、一つにはやはり、学校に通うようになる前は、世界が狭すぎた、ということ、もう一つは、覚えている事柄を、どこまで詳細に語ればいいのか、経験に乏しい以前では、判断材料がなかったこと……の二点が、原因になっているのではないか……と、荒野は見当をつけている。
 学校に通うようになって、直接間接に茅と接触する人数が格段に増え、同時に、茅のほうも手本となるべき観察対象に多数接触しているわけだから、茅の態度が普通の少女に近づいてくるのは当然のことだ、と、荒野は考える。
 茅自身も、こうして荒野と二人きりで話している時、荒野の反応を観察して、自分の話し方が不自然ではないか、チェックを行いつつ、日常会話の練習をしているような節もあった。
 その成果かどうか、例えば登下校時など、茅は、以前より他人と話す回数が多くなっている。また、こうして荒野しか周囲にいない時の会話にも、荒野があまりよく知らない茅のクラスメイトの名前が出る回数も、徐々に増えている。
 それらの兆候から、荒野は、茅が普段接している学校の友達などへ、徐々に関心を持ち始め、観察し、彼らにとけ込もうと希望している……という予測をたてる。
 完璧すぎる記憶力ほどではないにせよ、学習能力のほうについても、茅はかなり高い適性を示しており、茅が学校の友達とごく普通に軽口や冗談をいって笑いあったりする日もそう遠くないのではないのか……と、荒野は予測する。

 この前の検査結果をコピーして回してくれるよう、頼みにいった時、三島百合香は、こんな仮説を話してくれた。
 茅が、一見するとポーカーフェイスで感情の起伏が読み取りにくい理由は、茅の感受性が普通よりも鈍いわけではなく……常人よりもきめ細かなセンサーを持ち、絶えず膨大な情報の波にさらされている茅が、全身で受け止めた情報を処理するのだけで手一杯で、感情に合わせて顔面をコントロールところまで、手が回らないからではないのか……。

 三人とともに、三センチ角の表皮を剥がしてそれを詳細に調べた結果……茅の皮膚にだけ、平均値の倍以上の密度で汗腺が並んでいるのが、観測された……という。

 そうした検査結果から類推すると、茅の神経網のほうも、平均値以上に「密度が濃い」可能性がある……。
「……もっとも神経ってやつは、骨とは違って、とってもスキャンしにくい細胞だからな。
 そんな仮説たててもなかなか確かめる方法はないんだが……でも、舌の写真を撮って拡大すれば、味蕾の密度くらいは確認できるか……。
 茅が温度差や皮膚感覚に鋭敏だ、ってことは、今までの茅の言動とも一致するし……」
 三島はそういって肩をすくめた。
「荒野……お前さんと茅とやっている時、茅、普通の女のより、激しく反応してたりしてないか? ン?」
 ……荒野は問答無用で三島の頭を叩きたい衝動に駆られたが、実際にはこういっただけだった。
「おれ、茅以外の女、よく知らないんで……普通の女の人があれをする時、どれくらい反応するのか、よくわかりませんよ……」
 続けて、
「それじゃあ、一度、わたしと試してみるか? ん?」
 などという寝言を三島がいったので、今度こそ荒野は三島の頭を叩いた。

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彼女はくノ一! 第五話 (72)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(72)

 下駄箱のところで、荒野や玉木、有働とばったりあった。
 楓たちが美術室をでた後も、荒野は、放送室で玉木たちと打ち合わせを続けていたらしい。パソコン部の方も放送部と同様に時間ギリギリまで打ち合わせをしていたのだから、帰りにかちあうのは当然なのかも知れなかった。
 少し遅れて、香也と樋口明日樹の美術部組も合流してくる。

 合流した帰り道では、自然と今日の話し合った内容についての情報交換になった。
 放送部関係は斎藤遥が持ち帰ってきた以上にこれといった進展はないようだったが、帰るみちすがら、茅と楓が、スケジュール管理ソフトを作るための話し合いをしているうちに、茅がネット書店で技術書を大量に発注し、読み終わった後はパソコン部に寄付する、と約束した話しをすると荒野が何か言いたそうな顔をして、いった。
「……茅……今度はコンピュータ、本格的に使いはじめるのか?」
 そう問いかけた時の荒野の顔は、期待と畏敬の念がないまぜになった、いかにも複雑な表情だった。
「そろそろ体系的に、学習したいと思っていたところなの……。
 解らない所があれば、楓や篤朗に聞けるし……」
 荒野の問いかけにに対して、茅の返答は、そっけなく響いた。

「夕飯の買い物をしてくる」
 という荒野と茅、それに玉木の三人と、商店街の入り口で別れ、香也と楓、それに樋口明日樹は、真っすぐに帰る。冬の日は短く、たいして遅い時間ではないというのに、日は完全に落ちていた。
「それで、結局……放送部とかパソコン部とか……本当にあの計画、全部実現できると思っているの?」
 三人きりになると、樋口明日樹は楓に向かってそう尋ねてくる。
「実現出来るかどうかは、実際にやってみないとなんともいえませんけど……」
 楓は、いつになく不機嫌そうな明日樹の態度に少し引き気味になりながら、おずおずと答えた。
「……みなさん、予想以上に、やる気になっています……」
 いつになく積極的に動き出した茅もそうだが……楓は、い活気づいていたパソコン部の面々を思い出す。
「それはあれ……。
 パソコン部の人達は、計画の成否よりも、プログラムの実習が出来ればそれでいい、って人が多いから……」
 なんとなく刺のある言い方をする明日樹に、今度は楓の方がむっとなる。
「……実習の、どこがいけないのですか?
 自分で組んだプログラムを実際に走らせてみる……これ以上の学習はないのです……」
「でも……実際に大勢の人が使うシステムだと……失敗すれば、それだけ多くの人に、迷惑がかかるんだよ……」
 そこまでいわれて、楓にも、明日樹がなにを危惧しているのか、ようやく理解出来た。
 明日樹に指摘されるまでもなく……今、動かしているボランティア関係の活動は……「いかに多くの人々を動かすのか」というのが、主眼なのである。
 荒野たちが、「多くの人々の役にたち、顔を記憶してもらい、いい印象を与える」ということを「達成目標」として捕らえている以上……校内校外を問わず、多くの人々を巻き込む……というのは、必然的な成り行きであった……。
 明日樹は、今回の動きが、今までとは違う規模と波及効果をもつことを感じ取り……そして、失敗した時の事を、恐れている……。
「……大丈夫ですよ……」
 明日樹の危惧を理解した楓の声は、やさしいものになった。
「失敗はするつもりは、ありませんから……」
 なにせ、荒野も茅も、ただ者ではないのだ……ということを、楓は知っている。
「わたし……ごめん……」
 樋口明日樹は、顔を伏せた。
「わたし……楓ちゃんたちほど強くないし……怖い物知らずでも、なれないから……」

 明日樹を送って行くという香也と玄関の前で別れ、家に入る。
 自分の部屋で着替えて台所に向かうと、すでに孫子が真里を手伝っていおり、手は足りていると言われたので、居間に向かう。
 居間では三人組みが炬燵に入っていて、テンはパソコンを、ノリはスケッチブックを、ガクは分厚い本をそれぞれに広げていている。
 三人ともそれぞれに真剣な面持ちで、会話はなかった。
 しん、と、静まり返った空間に、なんとなくいたたまれなくなった楓は、夕食が出来るまでまだ余裕があるので、一度、羽生の部屋に向かうことにする。ゲーム製作に関することもあり、羽生のパソコンは、空いている時は自由に使っていい、と、言われていた。
 羽生の部屋でパソコンを立ち上げ、ネットに接続して、自分用に取得してあったフリーのメールアドレスにまずチェックを入れる。
 ゲーム製作関係の連絡がいくつか、それから、スパムや広告がいくつか、それに、見慣れないアドレスからメールが来ていいた。
 スパムや広告を反射的に削除し、添付ファイルがなかったので、そのまま、差出人に心当たりのないメールを開く。
 中身をみてみると、なんのことはない、そのメールは徳川篤朗からのもので、今日の放課後、茅と話した内容から、「このあたりのツールを使って見たらどうか?」といくつかのフリー配布のシステムを紹介する内容だった。
 ……態度は尊大だが、悪い人ではないよな……と、楓は思う。
 篤朗の紹介してくれたURLアドレスを開いてざっと確認してみると、確かに、若干の手をいれれば使いものになりそうな気がした。
 だが、そちらのほうは手をつけはじめると時間がかかりそうなので、とりあえず、夕食後に回すとして……楓は、ゲーム製作関係のメールをチェックしていく。
 いずれも、緊急性はない内容なのだが、香也に伝えるべき変更点などが書かれており、そのうちいくつかは香也にみせるためにプリントアウトし、そこまでしなくても間に合いそうなものは、内容を暗記して後で口頭で香也に伝えることにする。

 楓が一連の作業を終えて居間に戻ると、ちょうど夕食がはじまるところだった。明日樹を送っていった香也も、仕事を終えて帰宅していた羽生譲も、すでに炬燵に入ってくつろいでいる。
「ガクちゃん、今日は本読んでいるのか? なに読んでいるんだ?」
「水滸伝。今日、図書館にいって、借りて来た……」
 羽生が問いかけると、ガクは、本をたてて、ハードカバーの表紙を見せる。
「でもこれ……とても、悲しい話しだった……。
 何かの間違いで産まれたような異能の人達が、普通の人達に交ざって暮らしているうちに、どんどん周囲と衝突して、世間から追いやられて……居場所を探しながら……他にどうしようもなくて、暴れて……集まって……でも、最後には、体制側に取り込まれて、どうでもいいような消耗戦に投入され、捨て駒にされて……ほぼ、全滅するんだ……」
 ガクの声は、思いのほか沈んでいた。
 最後には、体制側の手先になってほぼ全滅する、という水滸伝の好漢たちと、自分の境遇とを、重ねて読んでいたらしい……。
「……ガク、心配することはないよ……」
 今にも泣きそうな顔になったガクの肩に、ノートパソコンから顔をあげたテンが、掌を置いた。
「周りに流されないだけの力をつけるために……ボクが、今、いろいろと考えているところだから……」

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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(113)

第五章 「友と敵」(113)

 話していて荒野が一番驚いたのは、茅の反応についてで、例によってあまり表情には出していないので表面的には解りづらいかったが、茅はかなり乗り気になっているようだった。少なくとも、玉木たちが漠然と期待しているような「客寄せマスコット」に収まっているつもりはないらしい……と、荒野は、判断する。
 荒野にしか判別できないのかもしれないが……微妙に、茅の表情が……年末、ネコ耳メイド服姿で商店街の特設ステージに乱入した時と似たような雰囲気に、なっている……。
 ……今度はどうか、あまり過激なことは考えていませんように……と、荒野は祈った。

 その荒野の危惧を裏付けるように、一通りの打ち合わせが終わると、茅は、楓についてパソコン部員たちの待つ実習室へと向かっていった。楓はともかく、茅があそこにいく必然性はあまりないように思えたが……荒野はなにもいわず、二人を見送る。
 茅がなにを考えていようとも……少なくとも、悪いことではあるまい……と、無理にでも、そう思うことにする。
 そのまま美術室に残っても香也たちの邪魔になると思ったので、荒野は、玉木たちについて放送室に向かう。今回のボランティア関係の作戦については、荒野自身も首謀者の一人だったし、まだまだ打ち合わせが必要なことは山ほどあった。

 玉木と有働が放送室に入ると、放送室にいた生徒たちは申し合わせたように、
「……では、あとはお願いします……明日の準備があるんで……」
 と頭を下げて出ていった。
「……明日の準備って、なにがあるんだ?」
「……カッコいいこーや君、忘れたのかね?
 明日は、君たちがカットモデルさんをやりに行く日じゃないか……」
 玉木が、半ば呆れたような声をだす。
「映像班は、明日の機材の準備に入っているよ……。
 ご隠居のテク盗むんだ、って息巻いているのも多いから、彼らにしても、ご隠居のアシスタント作業は、いい刺激になっている……」
 なんだかよく解らないが、士気だけは高い……ということだけは、荒野にも理解できた。
 玉木の話しによると、今度卒業する三年生を除いても、放送部員は全部で二十余名おり、文化部の中でも一番人数が多く、玉木に代表される派手なイベントが好きなタイプと、有働に代表される地味な裏方作業がちょうど半々くらいで、いい具合にバランスが取れている、という。
「……で、その派手なイベント好きが、明日、美容院にくるわけか……」
 荒野はため息をつく。
 喜ぶべき所なのか、それとも、本心では目立ちたくないと思っている荒野にとっては、悲しむべき所なのか……判断が、難しかった。
「そっちに行かない人達は、手分けして、不法投棄ゴミのマップを作成するための調査をはじめます……」
 有働がそういいかけた時、
「失礼します」
 という声とともに、女生徒先頭とした十人前後の生徒たちが、放送室に入って来た。
「君たちは……パソコン部の……」
 以前、囲碁勝負の時に協同作業の経験があったので、放送部員とパソコン部員とは、お互いに面識がある。
「はい。パソコン部の、斎藤遥と申します」
 先頭の女生徒が、はきはきと答える。ネクタイの色から判断すると、香也や茅、楓と同じ一年生のようだが、態度や挙動に物怖じしているところを感じさせず、実に堂々としていた。
「加納さん、松島さん経由でボランティア関係のお話しを、かなり詳しく、聞かせていただきました。」
 斎藤遥は、「かなり詳しく」の部分を特に強調して発音する。

『……かなり突っ込んだ所までばれているな……』
 と、荒野は思った。
 茅が自主的な判断で内情をばらしたのか、それとも放送部員たちの疑問に答える形でぶちまけたのかまでは、判断できなかったが……。
「……いろいろ構想や思う所はおありでしょうが、今、加納さんと松島さん、それに、パソコン部員の有志は、将来必要になりそうな複雑なシステムの構築に着手した所です。
 システムの規模と使える人員が限られていることから考えて、そちらが使えるようになるまでには、数日から数週間の時間がかかるものと予測されます。
 こちらに来たパソコン部員は、放送部が予定しているという、不法投棄ゴミをネットで公開するためのお手伝いをするために来た、有志の者です。
 今、実習室で動いている別同班ほどにはプログラム関係の知識がない者ばかりですが、それでもネット関係のことにはそれなりに詳しいので、微力ながらお手伝いをさせていただきます……」
 この斎藤遥という生徒は、口上の歯切れが良いだけではなく、言っている内容も論理的で、淀みがない……。
『……結構、いい人材かも……』
 荒野は、そう思う。
 専門的な知識や技能をもつ人間も必要ではあるのだが……こうした、理路整然とした知性と泰然とした心性を合わせ持つ人材は、放送部とパソコン部の橋渡しとしてふさわしいように思えた。
 この手の交渉役は、おどおどしていても駄目、強気すぎても駄目、で……特に放送部には玉木という一見ハイテンションな人材がいるから、そっちに振り回されずに、できることは「できる」といい、できそうもないことは「出来ない」と断言することが出来る性格の人間でないと、務まらない……。
「ご足労様です。
 こちらこそ、よろしくお願いします……」
 有働が、やってきたパソコン部員たちに向かって、深々と頭をさげる。
 有働は、体こそでかいが、誰にでも礼儀正しく腰が低かった。
 その有働が、自分の手で部屋の隅に立て掛けてあった折り畳み椅子を、やってきたパソコン部員の人数分、広げ始める。もちろん、荒野や玉木も、すぐに手伝った。
 椅子が全員に行き渡り、さほど広くはない放送室が鮨詰め状態になるのを確認して、有働は今のところ考えている構想を、滑らかな口調で説明しじめる。
「……大体のことをお聞きになっている、ということで、概要の説明は省かせていただきます。
 長期的な準備はすでにはじまっている、とのことなので、当面、すぐにでも必要になりそうなところから、早速説明に入らせていただきます……」
 あわてて玉木が、荒野たちに配ったのと同じプリントアウトを、あるだけ回しはじめた。いきなりのことで人数分は用意していなかったから、受け取ったパソコン部員のほうは、回し読みに近い状態になる。
 それでも集まったパソコン部員のほうは、真剣な表情で一通り有働の説明を聞く。
 有働の説明が終わると、若干の質疑応答の後、パソコン部から、かなり活発に提案が奔出した。
 そのひとつひとつに、有働が細かくコメントを返して行く。
 いろいろ意見を交換した結果……。
 当面、「不法投棄ゴミ」方面の問題は、調査とその報告を大々的に行う、というところからはじめる。
 調査結果を公表する方法として、掲示板、ネット、校内放送、チラシ……などを適宜使い分ける。
 パソコン部が担当するのは、そのうちネットでの広報部分。これは、ブログとCGI抜きのWEBページとの併用を予定。
 学校や教師側の説得や、活動に必要な許可を得ること、などは、放送部が行う……。
 などの事が、あっという間に決定した。
 そうやって熱心に話し込むうちに、玉木の携帯から「ダースベイダーのテーマ」のメロディが流れはじめた。
「ありゃ……もう、こんな時間……」
 玉木は携帯の画面をみてそういい、
「……ちょっくら放送するから、静かにしててね……」
 と辺りを見渡して、告げる。
 返事も待たずに、マイクのスイッチを入れ、
「……全校生徒の皆さん……最終下校時刻、三十分前になりました……まだ学校に残っている生徒、部活動などを行っている生徒は、後片付けや着替えなど、帰宅の準備をはじめてください……」
 と、この学校の関係者なら誰もが聞き慣れた声で、アナウンスをしはじめる。
 マイクのスイッチを切ると、玉木は振り返り、
「……ということだから、そろそろ帰りの支度をしよう。
 今回のは、急げば今日明日にでもどうにかなる問題じゃないし……とりあえず、明日やることは、今日の話し合いで決まっている訳だから……残りは、明日以降、またみんなでにじっくり考えようよ……」
 玉木の提案に異論を挟む者はなく、その日はその場でお開きとなった。

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彼女はくノ一! 第五話 (71)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(71)

 茅の構想を堺がレポート用紙に書き留め、必要な機能を持っていそうなソフトを、実習室のパソコンを使い、楓は検索しはじめた。
 楓は当初、Linuxベースのビジネス用途のソフトを英語圏のサイトから探そうとしていたが、それを見ていた他のパソコン部員たちから、「せめて、日本語化パッチが実装されているものを……」と押し止どめられる。
 このソフトを利用することが想定されるユーザーは、楓のような英語に不自由しない者ばかりではなく、それどころか自分たちのような低年齢層とその逆のお年寄りたちまが、かなりの割合を占める。インターフェースが分かりやすくなければ、意味がない……といった意味のことを、楓の回りに集まった部員たちは必死になって説明した。
 そして、自分たちも実習室のパソコンに向かい、使えそうなソフトを探しはじめる。
 普段、そうしたビジネス用途のソフトには縁がない生徒たちがほとんどだったので、どこのサイトを探せばいいのかよく分からず、みんなで「ああでもない、こうでもない」と議論する時間が長かったが、誰かが「この、グループウェアというのが、似たような機能を持っているんじゃないのか?」といいだし、試しに楓がそのソフトの仕様書ページに目を走らせてみる。
 楓は、
「……カスタマイズは、必要なようですけれど……一から組み上げるよりは、ずっと簡単になりそうです……」
 といい、フリーで配布されているそのソフトのソースをダウンロードしはじめた。
「……これ、UNIXベースだね……」
 いつの間にか楓のそばに来ていた堺が、楓が見ていた仕様書のページに目を走らせながら、そういう。
 堺と話し込んでいた茅は、いつのまにか部屋の隅に移動して、電話をかけていた。多分、徳川篤朗と、必要な交渉を行っているのだろう。
「インターフェース部分に触れるユーザーには、中身のことはどうでもいいと思いますけど……」
 楓は、首を傾げる。
 楓自身は、サーバとかネットワーク関係の技術情報を中心に知識をたたき込まれているので、UNIXベースのほうが扱いも、手をいれるのも、楽だったりする。
「……いや、そういう意味じゃなくて……中身、いじれるのが松島さんだけ、ということになると……長期間に渡るオペレーション面で、少し不安かなぁ、って……。
 メンテナンスとかのことを考えると……」
 堺は、頭を掻きながら、そういう。
 そして、片手を上げて、実習室内にいる部員たちに声をかけた。
「えーと……。
 この中で、そっち方面の知識を、身につけたい人、ちょっと集まって!
 このあたりの知識を身につけておくと、将来、食いっぱぐれがないよ!」
 堺が声をかけると、ぞろぞろと室内に残っていた部員たちの大半が集まって来た。
「……ということで、松島さん。
 即戦力、っていうのは無理だけど……ぼくらちに、初歩的なことから教えてもらえるかな?
 時間がなければ、推薦図書や参考になるサイトのリストを作ってくれるだけでも、いいんだけど……」
 堺の要請にこたえて、楓が参考になりそうなサイトのアドレスや書名のリストを、学校のパソコンにタイピングし始める。
 早速、それをみていた部員たちが、楓の推奨するアドレスにアクセスしはじめる。技術書は彼らの小遣いで購入するには少し高価すぎるため、後で市立図書館などを利用することを考えていた。
「……ここの本の内容を読めば、基本的なことは解るの?」
 いつの間にか電話を終えて楓のそばに寄って来た茅が、楓の背中に声をかけた。
「……ええ……。
 大体、基本的なことは……」
 楓が答えると、
「じゃあ、茅が買うの。
 読んだ後、全部、パソコン部に寄付する……」
 そういって茅は、実習室のパソコンに取り付き、普段利用しているネット書店に自分のIDとパスワードを使ってログインし、楓があげた技術書を片っ端から検索して買い物カゴにいれ、さっさと決済まで済ませてしまった。
「……ちょうど、コンピュータ回りの知識も、体系的に学びたいと思っていた所なの……」
 茅がそういうと、呆気にとられて一連の動作を見守っていたパソコン部員たちが、ようやく茅の一連の行動の意味を理解し、反応しはじめる。
「……あれだけの、全部、いっぺんに……」
「おれ、一回で何万円分も本買う現場、初めてみた……」
「でもでも、あれ、全部寄付してくれるって……これ、パソコン部にとっては、画期的なことなんじゃないか?」
「……ああ。うち、予算少ないからな……」
「やる気がある部員にとっては……凄く、都合がいい展開だよな……」

「無駄遣いしなければ、好きなものを買っていいと荒野にいわれているの……」
 茅の表情は、相変わらず読みにくい。
「茅が読んで、その後、ここにいる人達で共有する。
 そこで得た知識で、いろいろな人達を助ける……無駄は、どこにもないの……」
 楓は、茅が「一度見聞きしたものを忘れない」という体質であることをしっているため、「茅が読む」ということは、その本の内容をすべて記憶する、ということに等しい……ということも、理解している。しかし、他の部員たちは、そうではない。
 そうした茅の特殊な体質を前提とした場合……たしかに、無駄は、ないのだが……しかし、茅のことをよく知らない部員たちは、単純に「気前がいい篤志家」としか、解釈できない。
「加納さんのじいさん……大地主だって噂、本当だったんだな……」
 とか、呟きあっている。
「……それじゃあ……加納さんの厚意を無駄にしないためにも……」
 堺雅史と、そんな風に茅と楓を遠巻きにしている部員たちに声をかけると、部員たちにどこか毒気を抜かれたような表情で頷いて、それぞれのパソコンに向かい合った。

 最初のうち、楓はダウンロードしたファイルを解答して、カスタマイズしたり、いろいろといじくり回していたが、そのうち楓が紹介したサイトで自習をしていた部員たちから質問されるようになり、それがあまりにも頻繁にくるようになったので、外の部員よりは知識と経験がある堺と一緒になって質問に答えたりアドバイスをしたり、といったインストラクターめいた仕事に精を出すようになった。

 最終下校時刻三十分前に、別れて放送部との打ち合わせにいっていた部員たちも実習室に帰ってきて合流し、お互いの成果について確認しあって、その日は解散、ということになった。
 放送部の「不法投棄ゴミ」関連については、速報性と、携帯の写真を気軽にアップできること、それに、学校外へのアピールの一助、という効果も考えて、フリーで共同使用できるブログと、学校が管理するサーバスペースに置く通常のwebページの二本立てで行う、ということに決まったらしい。
 生徒が自主的に行う調査ではあったが、先々のことも考えて、教師たちにも「学校のサーバを使ってこういうことをやりますよ」という通達を行い、今日はとっておいた方がいい、という意見もでて、、この教員への根回しは放送部が分担することになった。
 普段、問題を起こすことが多い放送部は、他の生徒よりも教員たちの内情に詳しいから、これはこれで適任かもしれない……と、楓も思う。
 放送部による教員への工作と、周辺地域で、現在、ゴミ溜まりになっている場所のチェックは、明日から本格的にはじまる。
 ブログのアカウン取得とデザインなどの初期設定、それに、webページの作成……などのパソコン部の分担は、斉藤遙が中心となり、明日から行う、という……。
「あ。
 明日はわたし、放課後用事が入っているんで、こっちにはでられません……」
 楓は、その場にいたみんなに、そういった。
 明日は、木曜日。
 荒野と約束した、美容院に髪を切りにいく日、だった。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(112)

第五章 「友と敵」(112)

 学校に通い出して半月以上も経てば、それなりに友人、知人もできる。
 荒野がよく話しかけられるのは、席が近くで少し気が強い所がある本田さん、それに、クラス委員で野球部所属の嘉島君、その他、男子生徒はだいたい荒野の存在に慣れてきて、「おい!」と気軽にため口を聞いてくるようになっていた。
 以前はマンドゴドラのCMのイメージが強かったため、「おい! ネコミミ!」、最近ではそれもマンネリになってきたためか、「おい! ガイジン!」と呼びかけられることが多い。
 荒野が誰にでも愛想良く対応するとこ、割合に気安い態度を一貫してとっていたこと、などが原因で、だいたいのクラスメイトは、荒野を特別視することはなくなっていた……と、荒野は思っていた。
 この前、本田に、荒野の存在は、「明らかに、目立っている」と指摘されるまでは。
 目立ち方、にもいろいろある。
 荒野は日本人の中に混じれば否が応でも目立つ風貌を持っていたので、「完全にとけ込む」のは難しいだろう、とは、以前から予測していた所、ではあるが……本田が、そして、その後の放課後、孫子や玉木が、わざわざ荒野の目の前でわざとらしく荒野本人の噂話しをしてくれたことから、荒野も、自分に向けられる視線に対し、以前よりも注意を払ってみたのだが……。
 確かに、荒野は、予測もしない「目立ち方」をしているらしい……と、結論づけるよりほかないような証拠がいくつか、観測できた。

 基本的に荒野は、自分に向けられる視線に関しては鈍感である……その視線が、敵意や殺気を含んでいない場合は。
 ことにこの国は、住人のほとんどがモンゴロイドで、なおかつ、意識のうちでも、よくいえば同質性を重視し、悪くいえば排他的な文化を持っている。荒野のような外見のものが奇異の目で見られるのは必然的な成り行きだ……と、思い、今までことさら気に止めないようにして来たのだが……。
 当然のことながら、その気になれさえすれば、荒野にとって、自分に向けられる不自然な視線をそれとなく辿ることは可能であり……そして、実際に辿ってみた結果……そんなことに気を止めた自分の軽率さを後悔した。
 荒野に向けられた不自然な視線の主は……ほぼ例外なく、同じ学校に通う女生徒だった。

『……気づかなけりゃよかった……』
 荒野は、軽い自己嫌悪に陥った。
 自分の顔がそれなりに整っていること、それに、この国の中では珍しい、エキゾチックな風貌を持っていること……などは、十分に分かっているつもりだったが……それを、自分が、同年代の異性に与える影響、として意識しないのが、荒野という少年である。ついこの間まで殺すの殺されるのとかいう殺伐とした世界で何年間も暮らしていたのだから、どうしてもそっちの方面の感働きが鈍くなってしまう……。

 荒野は自分を「特別な眼」で見ていた女生徒たちを、彼女たちには気取られないようにさり気なく観察する。そうした真似に関しては、荒野は非常に得意だった。
『……各学年に、十名以上……』
 マジかよ……と、荒野は思う。
 荒野に特別な目線を送る女生徒たちは、一人で、というのはかなり希で、大抵は二人とか三人づつ固まって、荒野が通りかかった後などに肘でお互いの体をつつきあったりしながら、笑いを無理に堪えているような、なんとも微妙な表情を形作る……。
『……勘弁してくれよ……』
 いわゆる、恋愛感情以前、の、ものなのだと思う。
 この年頃にありがちな、ムービースターやロックシンガーなど、少し離れた世界にいる異性にあこがれる気持ち、とでもいおうか……。
 その証拠に、そうした少女たちの誰一人として、荒野に話しかけてきたり、具体的なモーションをかけてくる様子はなかった。
『そういや……』
 部活の時、やけに見学者や部員の友達が遊びにくるとは思っていたが……。
『彼女たちが、入れ替わり立ち替わり、来ていたのか……』
 荒野がチェックした少女たちの顔にどうも見覚えがあったのは……そういう理由だった。

『そういうの……おれには似合わないんだけどな……』
 自分が置かれた立場に改めて気づかされた荒野は……正直な話し、かなり困惑していた。
『こんなこと……誰にも、相談できやしない……』
 と、思い、そこで荒野は慄然とする。
 特に茅には……茅に知られたりしたら、絶対に……拗ねる。

 最悪……何日か、口をきいてくれなくなるかもしれない……。

 荒野が内心で冷や汗をしている間に、時間はあっという間に経過し、放課後になった。
 今日は部活も掃除当番もない日だったが、なんとなくいつものように商店街に寄ってマンションに帰る気にもならず、下校するのを遅らせる理由を探してしまう。
 時間稼ぎにトイレに寄ってから鞄を取りに教室に帰る途中で、
『あ……例の、ボランティア!』
 その話しするついでに、それとなく玉木に、荒野を物陰から見守る少女たちについて、確認してみよう……。
 荒野はそう思い、放送室に向かいかけたが、その途中で今朝、登校中に、玉木が香也に声をかけていたことを思い出す。
 そっか。今の時間だと、美術室にいる可能性が大きいか……と、荒野はきびすを返した。

 確かに、玉木と有働は美術室で香也と話していた。しかし、その三人以外に、茅と樋口明日樹、それに楓もいる。
 楓は何故か、椅子から立ち上がろうとする玉木の肩を上から押さえつけ、押し戻そうとしている最中だった。

 樋口明日樹は香也と同じ美術部に所属しているから、ここにいるのはむしろ当然だったが、茅と楓がここにいる理由を、荒野は理解できなかった。
 しかし、しばらく会話をしてみると……なんのことはない。

 荒野と同じで……茅と楓も、独自の判断で、ボランティア活動のことについて、話しにきただけだった。

[つづき]
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彼女はくノ一! 第五話 (70)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(70)

「……当面は、ここに書いてある、不法投棄ゴミの問題に重点を置く、ということで、放送部の人たちが集めたデータを、学校のサイトにアップしたいという事なんですけど……」
 楓は放送部謹製の企画書、その該当箇所を指さしながら、その場にいた放送部員たちに、たった今美術室で話してきた内容を説明する。
「……放送部の人たちの、調査報告を、集めた端からアップし続ける、ということになりそうです……」
 コピー用紙を見ながら楓の説明を聞いていたパソコン部員たちは、お互いに顔を見合わせた。
「これ……これ、本当に放送部の企画?」
「……なんか地味……っていうか、あの連中のアイデアにしては、真面目すぎ!」
「部活、というより、授業でやりそうな内容だな……」
 ようするに、今までの「放送部の実績」と比較すると、内容的に乖離しすぎている……という意見が。多かった。
 本論もできず、愛想笑いがひきつり気味になる楓。
「あの……松島さん……」
 不信感を隠そうとしないパソコン部員を代表する形で、堺雅史が、いいにくそうに、楓に問いただす。
「本当に、これ……裏、とかないの?
 何か知っていることがあれば、今のうち、いってくれたほうが、ぼくたちも協力しやすいんだけど……」
 堺の言葉に「うんうん」と頷くパソコン部員たち。
「協力しやすい……というより、あれ、またなんか企んでいるんなら、早いうちから詳しい事情を話して欲しいよな……。
 どうせアレだろ? 最後にはお祭り騒ぎになるんだろ?」
 という意見が、やたらと多かった。
 楓は、
「……あは。あはははは……」
 と、ひとしきり乾いた笑いを放った後、楓は、観念して「商店街への客寄せ」の部分までを含めた構想の大部分を放送部員たちに説明するはめになった。
 荒野や楓側の動機については説明できないので、この場では「玉木さんの要望に答える形で、そうした協力を行うことになった」と説明する。
「……なるほど……この真面目さは、そこまで持っていくためのカモフラージュか……」
「放送部……いや、玉木たちが考えそうなことだよな、そういう派手なの……」
「駅前……閑散としているからな……そのくらいして、ちょうどいいか……」
「年末のアレが異常だったんだよ……アレをもう一度、っていうのは、お店やっている所には、割と切実かも……」
「……年末のアレ……楓ちゃん、また、ああいうのやるの?」
 斉藤遙という女生徒が、楓に問いかける。パソコン部では女生徒は完全に少数派であり、また、同じ一年ということもあって、部活中、楓とはよく話す間柄だった。
「……そのうち、やることにはなると思いますが……」
 楓は、考え考え、答える。
 まだしっかりと確認されたわけではないが、話しの流れからいっても……今後、楓も「年末のアレ、みたいなもの」にかり出される可能性は、かなり大きかった。
「二年の才賀さんが……バレンタインの前後を狙って、なにかやるそうです……うちの同居人の子たちと……」
「……あー……あの子たち……」
 堺雅史が声をあげる。
 狩野家に出入りする機会が多い堺は、ガク、ノリ、テンの三人のことも見知っていた。
「二年の加納先輩……そこの茅ちゃんのおじいさんの関係で、ぼくらよりも少し小さいくらいの女の子たちが三人、今、あそこの家に住んでいるんだ……」
 と、他の放送部員たちに簡単に説明する。
「なにぃ! あの家、また女の子増えたのか! 楓ちゃんと才賀さんが住んでいるだけでも許し難いのに!」
「美人か!? 可愛いのか!? やっぱりまた美人なのか! 才賀さんと一緒にイベントに出るくらいだから見劣りしない子たちなんだな!」
「……くっそー、あの糸目め! 一人だけいい思いをしやがって……」
 堺の説明を受け、いきなり騒ぎはじめる堺以外の男子部員たち。
「……ああいうバカどもは、とりあえず置いておいて……」
 斉藤遙は、体の前で見えない荷物を持ち上げ、脇に置き直すような動作を、パントマイムで行う。
「それだけ大がかりなことやるとなると、楓ちゃん、またプログラム、この場でぱーっと書き上げちゃうつもりでしょ?
 そっちを手伝えるほど、わたしたち、スキルはないけど……でも、簡単なhtmlのコードぐらい、書けるのいっぱいいるから……当面の、さっき話していた放送部の不法投棄ゴミのレポート、ぐらいは手伝えるから……。
 ほら、男子、無駄に騒いでないで、協力する気があるのはこっちに集合!
 これから放送部の所に出向いていって、打ち合わせしてくるよ!」
 と、片手をあげる。
 それまで騒いでいたパソコン部員たちの半分以上が、斉藤遙の呼びかけに応じてぞろぞろ集まり、実習室から出て行った。

 残ったのは、協力する気がないものと、それに、それなりにプログラムの知識があり、楓の仕事をいくらかでも手伝うつもりになっている部員たちだった。
「楓ちゃん……それで、とりあえず、今度はどういうプログラム、必要なの?」
 そう声をかけてきた堺雅史は、後者だ。
 楓ほど徹底的に知識を詰め込んでいるわけではないが、堺にしても、この年齢のアマチュアとしてはかなり高度な知識と経験を持っている。
「……データを共有出来る、スケジュール管理ソフトなの……」
 楓、ではなく、茅が、堺に答えた。
 続いて茅は用意して欲しいソフトの条件をかなり詳しく述べはじめる。
 携帯のメールで作業予約、予約の変更が可能なこと。
 携帯電話の画面でも、予約状況の確認が可能なこと。
 誰でも仕事の依頼をできるフォームの設置。
「……以上は、トータルで必要となるもの……」
 不法投棄ゴミを片付ける、などの、いっぺんに大人数の人手が必要になる仕事では、こうした情報の管理が必須だった。
 それとは別に、仕事の種類に応じて、個別に必要になるものがある、と、茅はさらに続ける。
「……一人暮らしのお年寄りに定期的に訪問するためには……」
 訪問を希望する人と、その仕事が可能でボランティア希望者の都合をうまくすりあわせるためのスケジュール管理やオペレーションのためのシステム……特に、住所によるマッチングシステムは、あったほうがいい……。
「……ちょ、ちょっと待って……」
 まだまだ細かい内容をしゃべりそうな勢いの茅を、堺はとりあえず、とどめた。
「それだけ大がかりになると……メモとって、ちゃんとした仕様書から起こさないと、後々絶対困る……」
 そういって、自分の鞄の中からレポート用紙と筆記用具を取り出した。
 いくら楓が優秀なスクリプトライターであり、囲碁勝負の件でのように、既製のフリースクリプトに手を加えるにしても……それだけ大規模なシステムともなると、使用に耐えるだけの形にするまでにも、保守や管理をするのにも、多人数の手が、必要になる……そうなると、仕様書やマニュアルの整備は、不可欠だった。
「それに……それだけ大きなプログラムを、二十四時間稼働させることが条件になると……学校が管理するサーバじゃあ、ちょっと不安だよ……。
 個人情報を預かるわけだから、セキュリティの面からいっても……どっかから、もっとしっかりとしたサーバ、確保する必要があると思う……」
「そのあたりは、徳川にも頼むつもりなの……」
 茅も、堺の言葉に頷く。
「茅、浅黄と友達だから……ちゃんと頼めば聞き届けてくれると思うの……」

[つづく]
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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(111)

第五章 「友と敵」(111)

「それでは、ぼくらはこれで……」
「今日は、三人の様子を確認しに来ただけですし……」
「ぼくらは大勢でいることが多いから、どうも、三人っきりでいるというのも落ち着かないもので……」
 そういって秦野三人衆の姿が小さくなるのを見送った後、テンは荒野に問いかける。
「……なあ、かのうこうや?」
「なんだよ?」
「あの人たちって、集団で行動することが多いんだよな?」
「うん。人数の多さも、秦野の大きな武器だ」
「じゃあさ、ボクらの島にこっそりと荷物を運び込んでいたのって……あの人たちの仲間なんじゃない?」
 荒野はテンの顔をまじまじと見つめる。
「確証はないけど……おれも、そうなんじゃないかって推測はしていた……」
 孤島とか道もろくにない廃村に、定期的に、少なくない荷物を届ける……しかも、そこに住んでいる、茅や三人組にさえ気づかれない間に……となると、そんな真似が出来るのは一族の関係者くらいしか、思いつかない。
 ただ運び込む、というだけではなく、「こっそりと、気づかれずに運び込み、荷物だけを置いて撤退する」となると……やはり、一般人の運送業者、ではないだろう……。
 特に三人組みは、一族の者と比較しても敏感な感覚器官を持っている。その三人に気づかれずに……ということになると、一族の者の中でも、可能なものは限られてくる……。
 そして、そうした集団作業を六主家の中で最も得意とするのが、秦野……なのだ。
「……そのへんのことは、除去法でいけば、なんとなく予想つくけど……」
 テンの表情は、複雑だった。
「そうすると、あの人たち……じっちゃんと一緒に、ボクたちを育ててくれた人たち、ってことに、なるんじゃないのかな……」
 今度は、荒野の表情が微妙なものになった。
「そういう観点で考えたことはなかったけど……筋からいえば、そういうことになるな……。
 いや……そうすると、お前らだけではない……茅も、そうだ……」
 荒野は複雑な気持ちになる。
 野呂良太、二宮荒神、シルヴィ・姉、佐久間源吉に、この三人組……そして、今度は秦野……。
 荒野がこの土地で待ちの一手に徹しているのは、他にやりようがないからだが……それでも、こうして相手の出方を待っているだけで、一族の者たちが向こうからやってきて、情報のピースが少しづつ、集まってくる……。
 これは……どこまでが偶然で、どこまでが仕組まれたことなのか……。
「ボクたち……ボクたちと、じっちゃんだけが仲間だと思っていたけど……」
 テンは、そういって、じわり、と涙ぐむ。
「ボクたち……ボクたちだけではなかった……ちゃんと、じっちゃんと一緒に、育ててくれた人たちが、いたんだ……」
 テンがぼたぼたととどめなく涙を流しはじめたので、横に立っていた荒野はぎょっとする。
 子供とはいえ……横に立っている女性がいきなり泣き出した、などという経験は……荒野には、なかった。当然、手際よいあしらい方も、しらない。
「……お、おい……」
 荒野はおろおろと狼狽して、左右をきょろきょろと見渡す。
 茅は、秦野と三人のやりとりもどこ吹く風で、自分のトレーニングを行っている。
「あー! かのうこうや、テンを泣かしてるー!」
 ガクがそう叫んで、荒野を指さす。
「ああ。ああ。またテンが……」
 脇を手で押さえながら、ノリがこっちに小走りで向かってきた。
「気にしなくていいよ、かのうこうや……テン、涙腺が緩いっていうか……。
 昔から、なにかの弾みで、いきなりひょろっと泣きはじめるだ……」
 そういいながらもノリは、軽く顔をしかめている。
 先ほど受けた打撃の痛みが、まだ引いていないらしい。
「そりゃ、いいけど……おい、ノリ、大丈夫か? 顔色が悪いぞ。
 さっきの……肋でもいってるんじゃないのか? ちょっと見せてみろ……」
 荒野は、テンに駆け寄ろうとするノリの手首を捕まえて、自分のほうに振り向かせた。
 泣きすぎても健康には支障はないが、骨折や打撲は初期治療を誤れば、治りがそれだけ遅くなる場合がある。今、助けが必要なのは、テンよりもノリのほうだ……と、荒野は判断する。
「……う……あ……あ……」
 いきなり腕を掴まれて、荒野と真っ正面から向き合って顔を合わせたノリは、かーっと赤面しはじめる。
「なにノリを襲っているのかー! かのうこうやー!」
 ガクが、頭っから荒野の背中に体当たりした。
 不意をつかれた荒野は、ノリの上に覆い被さる形で地面に倒れ込む。ノリと顔を激突させる寸前で地面に手をつき、危うくそれを免れる。
「……だから! ノリを襲うなって! かのうこうや!」
 ガクが、げしげしと荒野の背中を踏みつける。
 至近距離に近づいたノリの眼が、じわり、と潤みはじめる。
「……ガク、てめえ……」
 荒野は、ガクの攻撃に耐えながら、ノリの体に乗りかかるまいと、腕に力を揉めている。ガクの攻撃が上から来ているので、自分が避ければノリがとばっちりを食う形になり、動くに動けない。
「……お前が攻撃やめれば、ノリの上からどけるんだってーの!」
 流石に耐えきれず、荒野は大声を上げた。
 すると、「ひっ!」とノリが小さな悲鳴を上げた。
「……な、泣くな、ノリ!
 これはあれ、不可抗力だ! 決して悪気があるわけでは……」
 荒野が言いつのると、
「なにー! かのうこうや! テンだけでは飽きたらず、今度はノリまで泣かせるのか!」
 ガクはさらに怒り狂って、以前以上の力を込めて、荒野の背中を蹴る。
 ガクはただの子供ではない。三人の中で最も筋力がある、子供だ。膂力は、一族の中でもトップクラスと言っていいだろう。
 その力を持って遠慮なく蹴りつけられている荒野は、身動きが取れない。

 どこか遠くで、テンが「あー、あー」と子供のような泣き声を上げている。
 荒野の下では、ノリが、「ひく、ひっく……」と嗚咽を漏らしはじめている。

 荒野がその窮地から脱出するまで、それから十五分ほどの時間が必要だった。

 マンションに帰る途上、荒野が茅に向かって「どうして助けくてくれなかった?」と尋ねると、茅は、「荒野……楽しそうだったの……」といって、ぷい、と顔を横に向けた。
 その日、登校する時まで、茅は一言も口をきいてくれなかった。

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彼女はくノ一! 第五話 (69)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(69)

 当面の仕事ととして、荒野や茅、楓、孫子たちは、明日の美容院のモデル、玉木はその前後に必要な手配、有働は周辺地域の下調べがあり、香也の出番は、少し後になりそうだった。
「……こちらから声をかけておいて、お待たせする、というのもなんですが……」
 と、有働は大きな体を小さくして香也に恐縮して見せたが、香也にとっては、「なんでもいいから描いて」といわれるよりは、「しかじかのものを、このように」とかいう具体的な指示があったほうが、よほどやりやすい。
 香也は、今回の件にかかわることで、自分が、「どうにでも解釈できる、抽象的な指示が嫌い」であることに、初めて気づいた。そうした「絵にしにくいもの」は、どうやら香也にとっては鬼門であるらしい……。

 打ち合わせが済み、部外者が出て行った後、そんなことをぼんやりと考えながら香也が筆を走らせていると、
「……なんか、おおげさなことになってきているね……」
 と、樋口明日樹が声をかけてくる。
「玉木や有働君あたりは妙に自信ありげだったけど、本当にあんなこと、できるのかなぁ……」
 樋口は、玉木たちのボランティア活動の成否に関しては、未だに懐疑的である。
 荒野も指摘していたように、トラックを一台動かしてゴミを処理するだけで、十万円前後の金銭が必要となる。それを常時動かす、ということになれば……あっと言う間に、必要な予算はン千万とか億の単位に突入してしまうだろう……。
 それをすべて寄付で賄うのを前提とするのは……どう考えても、無謀に思える。
「……んー……」
 香也は、意識の大半を目前の絵に集中させながら、あまり考えないで反射的に返事をしている。
「……できるかどうかは、わからないけど……そういうの考えるの、計画した人たちだし……ぼくは、頼まれた絵を描くだけ……」
 そうした香也の無関心振りをみて、明日樹は、自分が玉木たちの計画を意外に真剣に考えていたことを、自覚する。
 明日樹は性格の根本で生真面目な所ありすぎて、香也の関心事は、かなり狭いものだった。
 明日樹はそれ以上の会話をあきらめ、自分の絵に専念する。
 気づけば、もう二月に入っていた。明日樹がこうして部活に参加できる期間も、残り少なくなっている。香也ほど、絵にこだわりはなかったが、後で思い返した時、悔いが残るような活動も、したくはない……。

 美術室を出た後、楓と茅は、二人でパソコン実習室へ向かう。
 珍しく図書室には向かわず、楓の後について来た茅は、楓に作ってもらいたいソフトがあるという。
 今後、ボランティアが本格的に立ち上がる前に、「大人数での使用を前提とした、スケジュール管理ソフト」が欲しい、というのが、茅の要望だった。
 今日はパソコン部の部活がある日であり、堺たち幽霊部員ではない生徒たちはそこに集合している筈だった。楓は、早速パソコン部の生徒たちに対して、玉木ちのボランティア活動に協力するよう、相談してみるつもりだった。
 パソコン部の部員たちが積極的に協力してくれるかどうかは、今の時点ではなんともいえなかったが、学校のサイトの管理を実質的に行っているのはパソコン部であり、その学校のサーバで各種データの公開を予定している以上、早めに「しかじかの活動を予定しています」という断りをいれておいた方が、将来的にも話しが通じやすくなる。
 この間の孫子の囲碁勝負の際、ネットワークやスクリプトライターとしての楓の知識と技量はパソコン部内でも知れ渡っており、そのおかげで楓は、新参者でありながら、他のパソコン部員たちに一目置かれる存在になっていた。また、プログラミングの技能という点においては、他のパソコン部員たちが全員でかかっても楓一人の処理能力にはかなわなかったので、仮にパソコン部員全員が今回の件に積極的に参加してこなくとも、サーバへのデータアップロードの許可さえ取り付けておけば、特に問題にはならない筈だった。

 楓と茅が二人で実習室に入ると、中にいたパソコン部員あちの間で軽いざわめきが起こる。
 部員である楓が入ってくるのは、別に驚くには値しない。いつもより一時間ほど遅れてきた、ということが、滅多に部活をさぼらない楓にしてみれば、珍しいといえばえいたが……そもそも、在籍しているだけで部活動に顔を見せない幽霊部員のほうが多いのだ。楓が多少遅刻したからといっても、「なにか外せない用事でもあったのだろう」と思うくらいで、咎める者はいなかった。
 ざわめきを作った原因は、楓と一緒に入ってきた茅にある。

 楓や茅と同じクラスの部員もいるし、なんだかんだで楓や香也の周辺にいる人々と仲良くしている堺雅史は、別に驚かないが……一見極端に口数が少ない謎めいた美少女、その実、たまになにかいったかと思えば、かなり電波すれすれの、トンデモかつ頓狂な発言をしがちな加納茅は、整った容姿と時折見せる非常識な振る舞いのミスマッチさとで、この頃には何かと注目を浴びる存在となっていた。
 業者テストで全国区レベルの点数をたたき出す頭脳、それでいて、体育の時間などでもそこそこの活躍をする。クラスにも文芸部にも、それなりに顔見知りはできているが、親しい、というほどの友人はいないように見える。強いていえば、登下校をともにする楓が一番親しいように見えるが……楓の茅に対する態度は、端から見ても少し距離を感じさせるうやうやしさがあり、「親しい友人」という間柄とは、少しニュアンスが違って見えた……。
 要するに、この学校に通う生徒たちにとって、茅とは、「頭脳明晰成績優秀容姿端麗、で、なおかつ、未だに実態や性格が把握しきれない謎めいた美少女転校生」という存在として、把握されている。
 陰ではその特徴的な語尾から「なのなのちゃん」などと呼ばれ親しまれており、直接茅と関わりのない連中の中には、「実は、未来人」説、「実は、妖怪が化けている」説、「実は、宇宙人が化けている」説などの風説を面白半分、かつ、無責任にやりとりなする連中も、決して少なくはない。

「……その、加納さん……珍しいね……」
 他の部員たちの無言の圧力を受け、堺雅史が茅に声をかける。
 堺は、決して茅と話す事に慣れているわけではない。が、楓たちの集団と行動をともにすることが多い関係上、相対的に、他の部員たちよりは、茅と接する機会が多い。
「あの……堺君……」
 茅がなにか答える前に、楓が堺に向かって、そう声をかけた。
「少し、学校のパソコンを使わせて貰いたい用事ができそうなんですけど……」
 そういって、楓は、玉木たちから配られた、何枚かのコピー用紙を何枚かホッチキスで止めた束を、堺に手渡した。
「それ、昨日までの話しででた案をまとめたものなんで、データが少し古いんですけど……」
 玉木と有働がまとめた、ボランティア関係の企画案がプリントアウトされていた。こういう資料造りに関しては、放送部員はマメだった。
 楓がそのプリントには記されていない、今日の会議で出た話などを補足しながら説明するうちに、パソコン部員たちが堺や楓、茅の周辺に寄ってくる。
「なに? また放送部が変なことはじめるの?」
「……でも、今度はなんか真面目っぽい……」
「いいんじゃねーの……どうせ抵抗したってこの間みたいにいいように使われるのがオチだから、最初から積極的に関わって楽しんだほうが得だと思うぜ……」
 パソコン部の反応は、おおむねそんな感じだった。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(110)

第五章 「友と敵」(110)

 真っ先に突っ込んでいったガクは、真ん中の秦野の懐に、やすやすと入り込むことに成功した。
 そして、
「……荒神の真似ー!」
 と叫びながら、下からすくい上るように、自分よりずっと大きな体格の持ち主である秦野を、軽々と真上に放り上げ……ようと、した。

 実際、ガクとは半メートル近い身長差がある秦野の体は、いったん軽々と浮かびかけたのだが……放り投げられた秦野のほうも、素直に投げられるばかりではない。
 ガクの頭上に浮かび上がった所で、咄嗟に、ガクの襟首を掴んだ。
 がくん、という衝撃と共に、遥か上空へ飛ぶ筈だった秦野の体が止まり、ガクの上に落ちる。
 そのまま秦野は、体格差を生かして、そのままガクの体を上から覆いかぶさるように押さえ込みはじめる。

「……ガクの馬鹿!」
 思わず、テンが悪態をつく。
 いくら力に自信があるとは言っても……体格差があることは、最初から明白なのだから……組みあったら、不利だということぐらい……分かりそうなものだが……。

 実際、ガクは、まともな抵抗をする前に、その秦野に、体を持ち上げれる。地に足がついてない状態で、なおかつ、背中を下にして密着していては……いかに筋力があっても、それを相手に伝達するのが難しくなる。
 結果、秦野は、一人を犠牲にすることで、三人の中で一番の力持ちであるガクを、完全に拘束することに、成功した。
「……危ない危ない……」
 ガクを肩に担いだ秦野が、のんびりとした口調で、いった。
「……君……ガク君っていったっけ?
 資料の通り、力持ちなんだねぇ……」
 その秦野の肩にかつぎ上げられ、両腕ごと胴体にがっしりと腕を回され、拘束されたガクは、「馬鹿! 離せ!」とか喚きながら、じたばたと両足をばたつかせている。ガクの背中がその秦野の後頭部に密着している、いわゆるバックブリーカーにも似た状態なので、ガクが足をばたつかせてみても、ガクを拘束している秦野にダメージはない。

「ガク……間抜けだ……」
 その光景をみたノリが、茫然と呟く。そんなことを呟きながらもノリは、流れるような動作で、素早くガクを肩に抱えた秦野の後ろに回り込む。
 ノリは、三人の中で一番、早くて、速い。つまり、三人の中で一番、動作や反射神経が機敏で、足も速い。
 そして、三人は、基本的な身体能力だけを取り出せば、成長途上の現時点でさえ、一族の平均値を遥かに上回っていた。三人の中で一番、ということは、ごく一部の例外を除き、一族の大多数の者よりも抜きん出ている、ということを意味する。
 事実、ガクを抱えていない二人の秦野は、軽快なノリのフットワークを捕らえきれず、大きく体を泳がせる。
 体勢が崩れた二人の秦野の足元を、テンが、一本の棒状に連結した六節棍で的確に薙ぎ払っていく。

 ガクほど短慮ではないテンは、体格差のある相手に対しては、距離をおいて対応する。多少、筋力や反射速度に勝っていたとしても、組みつかれたら、始末が悪い……ということは、今現在、ガクが身をもって示してくれていた。

 ガクを抱えた秦野の背後に迫ったノリは、一足に、その秦野の頭上まで跳躍し、落下する勢いをそのまま利用して、ガクの胴体を掴んでいる秦野の腕を目がけて、真っ直ぐに六節棍の切っ先を振り下ろす。
 しかし、ガクを抱えた秦野は、背後にいるノリの動きを予測したように、ほんの少し、肩に乗せていた、ガクの体の位置を、ずらす。
 それだけの動作で、ノリが振り下ろす六節棍のちょうどその先に、ガクの頭部が位置するようになる。
「……やべぇ!」
 驚きに目を見開いているガクと、今まさに棍を振り下ろそうとしているノリとの目線が、瞬間、まともにかち合う。

 二人とも……経験から、ここまで勢いをつけて振り下ろした動作は、瞬時に別の方向へはそらすことができない……と、判断している。

 ノリは身をよじってなんとか棍の軌道を逸らそうと試みるが、あまり効果はなかった。
 ノリの速度と筋力、それに、体重を付加した落下速度、が、加われば、ガクの頭部などは簡単にはじけて、石榴のように真っ赤になるだろう……。
 ノリは冷静にそう予測し、ノリより冷静なテンが、ノリとガクの窮状を救った。
 一目見て二人の状態を把握したテンは、下から棍で、ノリの脇腹を無造作に払う。
 ノリの体は脇に吹っ飛び、結果としてガクの頭部が破砕されることだけは免れた。しかし、テンの打撃を脇でまともに受け止めたノリは、顔をしかめている。
 ガクが致命傷を受けるよりは、はるかに増しだが……勢いがついたノリの体を逸らすには、相応のエネルギーが必要となる。
 テンの棍によってノリが受けたダメージも、決して軽いものではなかった……。
「なにやっているんだよ! 二人とも!」
 普段は温厚なテンが、叫ぶ。
「昨日……かのうこうやが、秦野の特徴として、綿密な連携をあげていたの聞いたばかりじゃないか!
 少しは用心しろよ!」

「やれやれ……テン君は、本当に頭がいいな……」
「それに……順応性も、他の二人に比べて、高い……」
 テンに足を払われ、地面に転がっていた二人の秦野が、決して機敏とは言えない動作で起き上がりながら、交互にそんなことを言いはじめる。
「そうだな……ひとつ、教えておくと……」
「我々秦野は、海外ではレギオンとか呼ばれることがあってね……」
「三人の人間を相手にする、というよりも、体が三つに別れている一体の生物を相手にしている……と、そう思った方がいい……」
「君達は、運がいい……生きたまま、我らがレギオンと呼ばれる理由を、知ることが出来るのだから……」
 決して俊敏とはいえない動作で歩いて来る二人の男を前にして、テンとノリは、恐怖さえ覚えた。
 彼ら、一人一人は……たいした能力を持っていない。筋力も反射速度も……三人とは比べ物にならないくらいに、弱い。
 一対一なら、油断さえしなければ、ガク、テン、ノリ、誰か一人だけであっても、遅れをとるとは思わない……。
 しかし……「三人の人間」と、「三人分の手足と感覚器官を持った、一体の生物」とを相手にするのとでは、まるで勝手が違う……。

「……降参!」
 テンが、手にしていた棍を放し、両手を上げて万歳をした。
 ノリも、慌ててそれにならう。
「負ける気はしないけど、勝てる気もしない。
 これ以上やっても、双方に損害がでる消耗戦になるだけで……そんな潰しあいに、意味ないし……それ以上に、不経済だよ……」
「テン君……君は、決断力も、あるんだね……」
 ガクを担いでいた秦野が、ガクの体を地面に降ろし、そういって快活に笑った。
「君達は……ぼくらより、よっぽど凄い素質を持っている……。
 けど……それを十全に生かす術を、教えられていない……。
 荒野君は、そのことを教えたくて、ぼくらと君達がぶつかるように仕向けたのではないかな?」
「……そういうこと、気軽にばらさないでください……」
 少し離れた場所で、成り行きを見守っていた荒野は、憮然とした表情で答えた。
「こいつら、今まで井の中の蛙できたから……ここいらで痛い目にあっておいたほうが、先々のためなんです……」
「ああ……。
 だが……ぼくたちの方も、得るところはあった……。
 彼らの実態を、この体で確かめることができたからね……」
 秦野の一人が、前に進み出て、三人の顔をみわたして、そういう。
「君達三人は……術は教えられているが、術者ではないんだね……。
 卓越した能力を持ちながら……どちらかというと、一般人的な価値観で、動いている……」
「ええ……こいつらは、甘いんです……」
 その言葉を受けて、荒野はうなずく。
「でも……こつら三人も、茅も……あっと言う間に、成長しますよ……」
「……わかっている。
 子供が成長するのは、早いからねぇ……」
 その秦野は、にやりと笑った。
「あの小さかった荒野君が、今では立派なリーダーになっているし……」
 荒野は……なにも、言い返せなかった。
 内心で、
『……これだから、ガキの頃からの知り合いは苦手なんだ……』
 とか、思いながら。

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彼女はくノ一! 第五話 (68)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(68)

「……これだけの面子が揃っているのなら、茅も呼んでおくか……」
 加納荒野はそういって自分の携帯を取り出し、茅にメールを送信する。才賀孫子は、まだ校内に居残っているのかどうか不明なので、あえて呼ばなかった。
 それから、結果として美術室に集まった面々に、昨夜、真理から出された「不法投棄ゴミ」の問題について話しはなしはじめる。
 荒野が一通り説明し、
「……こいつに手をつけるとなると、一番に問題になってくるのが……」
 と、いいかけた時、鞄を持った茅が美術室に入って来た。
 荒野は、茅に片手をあげて合図して、続ける。
「……端的にいって……金だ……」

 荒野は、主に玉木と有働に向かって、諄々と説明しはじめる。
「……おれ、その不法投棄、ってのが、この近辺でどれくらいあるのか知らないけど……問題視されるってことは、決して少なくはない量が、どっか目立たない場所に、どかーとあるんだろう……とは、予測している……」
 有働は、そうした場所に心当たりがあるのか、うんうんとうなずいている。
「で……仮にそういう、多量のゴミを、片付けるとして……まず、最初に必要になるのが、そのゴミを移送するためのトラック……」
 荒野は右手のひとさし指を折る。
「……日本のチャーター代の相場、おれよく知らないけど……燃料費や維持費、人件費もろもろ考えて、一台を一日拘束するとして……まあ、これだけでも、五万や十万は軽く飛ぶだろうな……」
 金銭に関する話題に敏感な玉木の喉が、ごくりと鳴る。
 玉木も、荒野と同じく、そうしたガテン系の仕事を依頼する際の相場に詳しい訳ではないが……決して、安いものではないであろう……ということは、容易に想像がつく。
「……続いて、トラックに乗せたゴミをどこに持って行くのか、という問題……。
 正規の処理場に頼むとしたら……これも、トラックの荷台に一杯あたり、ン万、の世界だろう……」
 なにかと規制がうるさい先進国の場合、それくらいはする筈だ……と、荒野は考える。
「さらに……ものが不法投棄、だ……。
 片付けても片付けても、次から次へとゴミが増え続け、それを片っ端から片付けて行くとしたら……こうした出費は、恒常的なものとなる……」
 この周辺をきれいにする……という単純な目標を達成するためには、少なからぬ予算が必要になるの……という事実を荒野は指摘した。
「玉木……お前んところの商店街では、そういう金まで負担してくれそうか?」
「あはは……。
 そういうの、本来はお役所のお仕事なんじゃ……」
「そのお役所が……うまく機能していないから、ゴミ溜まりができているんじゃないのか?」
 から笑いをしてごまかそうとする玉木に、荒野がおいうちをかける。
 やってもやっても追いつかないくらいにゴミがでるのか……それとも、予算不足その他の原因で、手がつけられない状態なのか、までは知らないが……「自治体などによる自浄作用が機能していない」結果として、現在、ゴミが溜まっている場所が発生する……と、指摘する。
「やっぱり……どうしたって、玉木たちの手には、余るよ……」
 明日樹は、慎重な常識論を述べた。
 役所でも手に余る仕事が……学生の集団にできるとは、思わない……。
 と、いうのが、明日樹の本音だ。
「……いや……」
 思案顔の有働が、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「お金の問題なら……年末の人手を再現できれば……なんとか……」
 続いて有働は、輪郭のはっきりとした計画案を出しはじめる。
「具体的な目標額を設定して、募金を募るんです。まず、そうした片付けが必要な地区をピックアップしてそこの地主さんの証言の採取……それに、そこのゴミを実際に片付けるとしたら、どれくらいのお金が必要なのか、実際に試算もします……。
 ここまでの調査と報告書の公表は、放送部で行います。そうした内容は、校内で発表するだけではなく、学校のホームページに掲載してもらってもいいでしょう……」
「……そういう真面目な内容であれば、学校が管理するサーバにでも、問題なくアップできると思います……」
 パソコン部に所属する楓も、頷く。学校のホームページの管理は、もちろん、教師による最低限のチェックは常時入っている訳だが、基本的にはパソコン部に委任されている。
 そのような堅い情報を生徒が自主的に集めてレポートしたデータをアップロードすることは、特に問題視はされない筈だった。
 むしろ、その内容によっては、内外から評価される可能性すら、ある……。
「それで、これだけのお金が集まれば、現在の不法投棄ゴミは片付けられる、という具体的な数字を出して、アピールして……人手の募集と、それに、必要な資金を、募金という形で、広く募ります。
 もちろん、その際の会計監査は、ぼくたちだけでは心もとないので、社会的な信用のある大人……例えば、学校の先生に頼むことになる訳ですが……。
 それで、そのアピールの部分は、松島さんたちに頑張ってもらいます……。
 去年の年末に、商店街でやったようなことを再現できれば……人集めも、お金集めも、決して、夢でも無理な相談でもないと思います……」
「……なんか……出来そうな気がして来たなあ……」
 荒野も、頷いた。
 堅い調査部分は有働、ショーアップの手配やなんかは玉木……場合によっては羽生にも声をかける。
 楓や才賀孫子、それに茅には、イメージキャラクターとして、先陣をきって様々なボランティア活動に従事してもらい、その映像なども記録してリアルタイムで公表し、PRの資料とする……。
 加えて、集まって来た人たちの陣頭指揮は、茅、楓、孫子あたりにまかせる……。
 有働がいうように、チャリティショーという名目で商店街でイベントをやり、人を集めることが出来れば……個人による寄付以外に、そちらから、まとまった金額を寄付されることも、あり得るかも知れない……。
「てことは……まずは、その不法投棄ゴミ関係の調査だね……」
 玉木も、いつになく真剣な表情で頷いた。
「そうですね。
 まず最初は、放送部員で手分けして調べて、具体的に片付けが必要な場所をリストアップ……そこの様子を詳しくレポートすることから、はじめましょう……。
 これは、せいぜい一、ニ週間あれば可能だと思います。
 処理をすべきゴミの量や種類が具体的に明らかになれば、それを処理するのに必要な費用を割り出すのは、簡単です。
 データを提出して、これだけのものを動かしたり処理したりするのに、どれくらいかかるのかと、業者の方々に見積もりを出して貰えばいい訳ですから……」
「……その、調査の過程もさ、リアルタイムに情報を小出しにしていこうよ……。
 関心や問題意識を風化させないためにも、持続的にレポートしていくほうがいいと思うんだ……。
 うちら放送部は、校内放送、掲示板、学校のホームページ……場合によっては、チラシくばり……今までの杵柄で、そうした宣伝には慣れているし……」
「その辺の広報は、玉木さんに任せます。
 ぼくは、裏方とか地道な調査の方が、性にあっていますので……」
「うん。
 その代わり、調査とか告発とか、お堅い社会派方面は、有働君に任せた……」
 有働と二人でぽんぽんと話し合っていた玉木は、急に荒野のほうを振り向いて、にたり、と笑った。
「……ということで、カッコいいほうのこーや君も、こっちのPR方面でのご協力、どうかよろしくお願いします……。
 美容院へ行くの、明日の予定だよねー……」
「あ……。
 こちらの……一年のほうの狩野君は、できれば、ぼくたちにお付き合いしていただければ……。
 ゴミ溜まりの場所をリストアップしたら、そこのレポートをしたいと思います。その時、イラストなんか入れて貰えると、ありがたいのですが……」
 有働勇作も、負けじと香也のほうに顔を向けて、そういう。
「あ。イラストルポ……味があって、いいかも……。
 ……写真やビデオだけじゃ、物足りないかもしれないし……」
 一度弾みがついた玉木と有働コンビの構想は、留まる事なく転がり続ける。
 荒野と香也は、なんともいえない表情で、顔を見合わせた。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(109)

第五章 「友と敵」(109)

 いつもの通り、土手の上の遊歩道をしばらく走って体を暖めた後、河川敷に出る。ここ最近、茅は自分で作ったメニューをこなすようになっていて、五十メートルほどの短距離全力疾走を、休み休み、時間一杯行うようになっている。茅の足腰にある程度バネがでてきてきた今では、持久力と瞬発力の両方を向上させる、効率的なやりかただと、荒野も思っている。
 その間、三人も適当に周囲を跳びはねているのだが……この日の朝は、河川敷に不釣り合いな、先客がいた。
「……やあ、荒野君。おひさしぶり……」
 早朝の河川敷、という人気のない場所に似つかわしくない、コート姿の、三人の男たち……。
 彼らの正体を見極めるのと同時に、荒野は、叫んでいた。
「……気配を!」
 探れ……と言い終わる前、ガクが風上の方に、眼鏡を外したノリが、その反対の方に向き直る。そうすると、ちょうど、二人がテンを中心にして周囲を警戒しているような具合になり、みていた荒野はなんとなくおかしかった。
『……まるで……二人して、テンを守っているみたいだな……』
 と、荒野は思った。

 そんな具合に、ガクは主に嗅覚に、ノリは視覚に頼って、瞬時に索敵行動を行い、終了した。
 一見なにもしないで、立っていただけに見えた茅が、
「……見える範囲内には、誰もいないの……」
 と荒野に告げると、その言葉を裏付けるように、ガクとノリが同時に頷く。
「半年ぶりになるのかなぁ、荒野君とは……」
「その三人は、先週ここに来たばかりだというが……なかなかどうして、結構なチームワークじゃないか……」
「大丈夫。
 今日は、ぼくらは三人しかこの場には来てないし、ぼくらは、君達に敵対する意志もない……。
 荒野君は知っているかと思うが、ぼくらは、単独行動を好まない性質でね……この人数が、ぎりぎりの小人数なんだ……」
「……いえ、このタイミングでわざわざ挨拶に来てくださるとは想定していなかったので、つい、警戒してしまっただけです……」
 そういって、荒野はため息をついた。
 完全にその言葉を信用した訳ではなかったが……相手が悪い。この相手が荒野たちに害意や悪意を持っていたら……荒野たちは、ひとたまりもないだろう……。
 だから、とりあえず荒野は、「敵対する意志はない」という言葉を信じる以外、選択肢はなかった。

「……わざわざ出向いてくださったんだから、紹介しておこう……。
 この人たちが、昨日の夜、ちらりと話した……六主家のひとつ、秦野の兄さんたちだ……」
 荒野は、目の前にいる、がっしりとした体つきの三人の青年を、茅と三人組にそう紹介する。
「……君達からみて右側から、太郎、次郎、三郎だ……。
 もっとも、最初のうちは、見分けがつかないだろうから、なにか用がある時は、太郎、あるいは、秦野、と呼びかけてくれればいい……」
 真ん中の青年……次郎が、そう挨拶した。
 確かに、三人は、体格といい、顔つきといい、雰囲気といい……とてもよく似ていた。
 よほど見慣れなければ、見分けはつきそうもなかった。
「ここまで出向いてきたのは他でもない。
 荒野君が守るという噂の姫様方を、こちらでも一目、確かめておきたくてね……」
 太郎がいう。
「いやはや、皆さん、写真よりもよっぽど可愛いじゃないか……」
 次郎がいう。
「もっともそちらの三人は、可愛いだけの存在じゃあないようだけど……」
 三郎がいう。
「まず、第一に、おれが守っているのは茅だけで、あとの三人は、おまけだ……」
 荒野はよどみなく答えはじめる。
 秦野の怖さは綿密な連携と物量戦にある。近場に仲間がいない、という言葉を信じるのなら、今、この場で即座に危機に陥る、という可能性は少ない。
 だから、焦る必要はない……。
「……次に、茅だって、他の三人に負けず劣らず、やっかいな存在に育ちつつある。
 最後に、少なくとも、茅に関しては、写真写りが悪いということはない……兄さん方が使った盗撮屋の腕が悪かっただけだと思います……」
 そういって荒野は、秦野の三人組に愛想よく笑いかける。
 後ろの方でガクが、
「おまけだって。ボクら三人、おまけだって……」
 と嘆いて、他の二人が慰めている気配があったが、荒野は気にしない。
「……なんなら、写真館のご隠居にお願いして、この間の写真を焼き増ししてもらいますか?」
 と続けてみる。
 すると、秦野の三人衆は、微妙に怯んだ顔をした。
「……いや……実をいうとだねぇ……」
「我々は、ここに来る前に涼治老の所に挨拶にいったのだが……」
「そこで散々、そこの髪の長い子……茅ちゃんの写真やビデオをみせられて、正直、食傷気味なのだよ……。
 いくら可愛い、といっても、あれだけ見せつけられると、ちょっとねぇ……」
『……じじ馬鹿の、勝利……か……』
 げんなりとそう思いかけてから、荒野は、あることに気づいてハッとする。
『……するってぇと、なにか?
 ……おれ、じじいと同じレベル、なの?』
 荒野の顔が微妙にひきつったのにも気づかぬ風で、秦野三人衆は言葉を継いだ。
「そういうことで、我々は……」
「目下の所、その茅ちゃんよりは……」
「そっちの、三人のほうに興味がある……」
『……そんな所だろうな……』
 と、荒野は思った。
 日曜日の検査結果が、ぼちぼち出回る頃だろうとは踏んでいたし……真っ先に、小細工なしに正面から食いついて来たのが、秦野……というのも、なんとなく、面白かった。
「おい、そこのおまけ三人衆!
 秦野の兄さん方は、お前らとのお手合わせをご所望のようだ!
 お前ら、どうする?」
「おまけおまけ連発するなぁ!」
 案の定、一番単純なガクが、荒野の挑発に乗ってきた。
 ノリは、おろおろと困惑した顔をして、温厚なほほ笑みを浮かべている秦野三人衆の顔をみ、今にも秦野のほうに躍りかかって行きそうなガクを取り押さえている。
 テンは、面白そうな顔をして、荒野と秦野三人衆を等分にみる。
「……まあ、いいじゃないか、ノリ……」
 テンは、ノリの方を叩いた。
「ガクも、かのうこうやも、それに、このおじさんたちもやる気になっているようだし……ここはひとつ、挑発に乗って上げようよ……。
 ちょうど、人数的にも、三人対三人でちょうどいいし……それに、ガク、こうなったらなんらかの形で決着つけないと収まりがつかないと思う……」
 そういいながら、テンが自分の分の六節棍を取り出すと、ノリとテンも、それに従う。
「秦野のおじさんたち……おじさんたちは大人だし、ボクら、これ、使わせてみて、いいかな?」
「……これでもまだ、お兄さんと呼ばれたい年齢なんだけどね、ぼくらは……」
 太郎が、秦野の三人を代表して、苦笑いを浮かべながら、テンに答える。
「問答無用でかかってきたのなら、ともかく……そうやって、あらかじめ断りを入れられると……大人としては、君たちに素手で対抗するしかないなぁ……。
 君……テン君、だったけ?
 頭が、いいんだね……」
 太郎は、好青年然とした笑顔を浮かべたまま、三人組にこう叫んだ。
「いいよ! 好きにしたまえ!
 ぼくらは、君たちの希望どおり、今回は武器を使わない!」
 それが、合図となった。
 ガク、テン、ノリの三人は、がっしりとした体格の秦野三人衆に、一斉に躍りかかる。

[つづく]
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彼女はくノ一! 第五話 (67)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(67)

 放課後、香也はいつもの通りに、美術室へと向かう。自分の部活がない時、いつもついてくる楓は、掃除当番に当たっていたため、遅れてくるという話だった。
 香也が美術室につくと、珍しく顧問の旺杜先生がいた。美大を出ても他に職がなくて、しかたがなく美術教師になった、と公言してはばからない旺杜先生は、放課後、美術室に姿をみせることは滅多にない。
「お。相変わらず、絵に関してだけは真面目だなぁ、狩野……。
 真面目なのもいいが、若いうちはもっと寄り道して遊ばないと、視野が狭くなるぞ……」
 香也の顔をみると、旺杜先生はそんなことをいう。
 香也は、挨拶がわりに「……んー……」と唸ったきり、なにも返答しない。
 一見やる気がなさそうでいて、授業はしっかりやる。その代わり、顧問である美術部の活動に関しては、美術室の合鍵を生徒に渡して、事実上放任。しかし、基礎がしっかりとできている香也の絵を「面白味がない」とバッサリ切る批評眼も持っている。
 旺杜先生とは、そういう先生だった。

 旺杜先生は、私物のカメラを取りに来ただけのようだった。
 ごつい望遠レンズがついた古風な銀塩カメラを抱えて美術室を出て行こうとする所で、美術室に入って来ようとする玉木や有働と鉢合わせになった。
「……なんだ? お前ら……。
 樋口や松島はよく来るが、お前らが来るのは珍しいな……」
「ええ……ちょっと、そっちの狩野君に用が……」
「おい……放送部……。
 また変なこと、たくらんでいるんじゃないだろうな……。
 狩野を巻き込むのは勝手だが、へた打って職員会議を長引かせるような真似はするんじゃねーぞ……。
 あんなんで拘束されても、残業代もなんもでねーんだから……あんま、安月給の公務員をいじめるなよ……」
 と、旺杜先生は玉木の顔をまじまじと見つめて、いった。
「いえいえ。
 今度のは、人助けでして……。
 どうです、先生も一口……」
 玉木は愛想よくそう返事をし、旺杜先生に計画中のボランティア活動について説明をしはじめる。
 旺杜先生も、うさん臭そうな顔をしながらも、しばらく玉木の話に耳を傾けていたが、ひとしきり聞いた後、
「駄目駄目!
 おらぁ、そういうの、かかわらない!」
 と、ぴしゃり、と、断った。
「……あのなあ……教師の給料ってのは、ただでさえ、安いんだぞ……」
 旺杜先生は、玉木に向かって夢も希望もない話をしはじめる。
「たとえば、だ。
 こうして部活の顧問として、放課後、生徒たちに何時間か付き合ったとする……その分の残業代が出るか出ないか、っていったら……でないんだなぁ、これが……」
 だから、自分は極力、部活には出ないで、生徒たちの自主性に任せている、と、旺杜先生は胸をはった。
「部活の監督した分のお給料って……でないんですか?」
 玉木の目も、点になった。
「いや……まったく出ない、という訳ではないんだが……。
 補助金って名目で、ほんのスズメの涙ほど金額だ……」
 旺杜先生は、「一時間あたり、ン円」と端的に金額を告げる。
 玉木の目が、点になった。
 旺杜先生があげた金額が、玉木の基準からいっても、あまりにも低額だったのだ。
「……それって……コンビニやファーストフードのバイトのほうが、よっぽど……」
「公務員は、原則としてバイト禁止だ」
 旺杜先生は、憮然とした面持ちで答えた。
「だから、おれは、授業以外の仕事は、極力断るようにしている……」
 信念を持って、「割に合わない仕事はしない」と生徒に断言する教師もどうかと思うが、玉木の方はコクコクと頷いている。
 実家で商売をしている関係上、コストに対する感覚には、敏感になっている玉木だった。
「それはそれは……ご同情申し上げます……。
 ささ。どうぞどうぞ。堂々と、サボってくださいまし……」
 玉木は頭を下げて、芝居がかった動作で道を空ける。
 旺杜先生は、「うむっ」と重々しく頷いて廊下にでて、去っていった。

「……でも、ああいう話し聞いちゃうと、ますます先生を引っ張り込むのが難しい、ってことになっちゃいますねぇ……」
 旺杜先生の背中を見送りながら、有働が玉木に囁く。
「うーん……そのあたりは、もう一度人選からしっかりと考え直そう……」
 玉木は有働にそう答え、中にいた香也に手をあげながら、美術室に入って行く。
「や。あまりカッコよくないほうのこーや君、今日は時間作ってくれてありがとう……」

 香也が、「どういう絵が欲しいのか?」と尋ねると、
「……なんかこう……。
 未来は君が作る!
 みたいな、希望に満ちたポーズで……」
 そういって、左手を腰に当て、右手で空中を指さしてみせた。
 玉木の考える、「希望に満ちたポーズ」であるらしい。
「……玉木さん……それは、ちょっと……あまりにも……」
 流石に、有働が玉木の案を却下する。
「……んー……」
 香也は、一向に要領を得ないので、珍しくいらつき始めている。
 オーダーを出されて、その通りに描く……という作業は、羽生譲の同人誌で慣れているつもりだったが……具体的に構図まで指示して来る羽生と、漠然とした、抽象的な注文しかしてこない玉木たちとでは、かなり勝手が違う。
「……もう少し、具体的に……なにをどう描け、といってくれると助かるんだけど……」
 とりあえず、そういってみる。
「そもそも……校内で使用するポスターっていう話だけど……学校側は、そのポスター掲示する許可、もうだしているの?」
 いつもの放送部の壁新聞のように、「貼りました、剥がされました」では、しょうがない。出し惜しみをする訳ではないが……香也はそんな無駄なことのために、労力を傾けたくはなかった。
 香也は、荒野たちとは違って、ボランティア活動うんぬんについての、詳しい説明を受けている訳ではなかった。
「そ、それは……」
 玉木が、香也から目線をそらす。
「許可は、これからです」
 そんな玉木に変わって、有働が、重々しく香也に答える。
「でも、絶対に認めさせてみせます……。
 活動自体、意義がある、ということもありますが……それ以上に、これは、加納君や松島さん、才賀さんたちのため、なんです……」
 そういって、有働は自分たちの計画を香也に説明しはじめる。
 その途中で、樋口明日樹や楓が美術室に入って来た。

「……大体のことは、わかったけど……」
 途中から話を聞いた樋口明日樹は、軽く眉をひそめた。
「それ……大掛かりすぎる……と、思う……」
 明日樹の目には、玉木と有働の計画は、学生が、課外活動として行う規模を……かなり、上回っているように思えた。 
「仮に、可能だと仮定しても……わたしたち、来年、三年生……。
 受験生、だよ……。
 そんなことにかまけている余裕、あるの?」
 樋口明日樹の思考は、思いっきり地に足がついていた。常識的だった……と、言い換えることもできる。
「受験」という単語を聞いて、玉木が、目に見えて動揺した。
「……大丈夫です……」
 しかし、有働のほうは、動揺した様子はなかった。
「玉木さんも、他の参加者も、勉強のほうは、決しておろそかにはさせません……」
 がたいがでかく、普段から真面目で成績もいい有働がそう断言すると、なんとなく重みがあった。
 ひっ! と小さく悲鳴を上げて逃げようとした玉木の肩を、楓ががっしりと取り押さえる。
「わたしも……学年は下ですけど、英語とかならご協力できますから……」
 楓の目が、妖しい光りを帯びている……ように、玉木には感じられた。
 ぞわぞわぞわ、と、玉木の背筋に悪寒が走る。
「……やっぱりみんなこっちにいたのか……。
 ちょうどよかった。例のボランティアのことでちょっと提案が……って、何やってるんだ、お前ら……」
 その時、美術室に入って来た荒野が、玉木の体を取り押さえている楓を、不思議なものを見る目でみつめた。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(108)

第五章 「友と敵」(108)

「……えっちな匂いがする……」
 荒野たちと併走しながら、ガクがそういってきた。
「昨日もやったからな、茅と……」
 荒野は平静な声で返答をする。確かに自分たちは、普通のカップルとはいろいろと違うところはあるが……だからといって、別に後ろ暗い関係であるとも思わない。
 飯島舞花と栗田精一、それに、柏あんなと堺雅史などは、回数を競っていたりするのだ。彼らに比べれば、自分たちの関係はかなり慎ましいものだと思えた……。
 茅もなにか言いたそうな顔をしていたが、走りながら、では息が続かないらしく、黙っていた。
「いちいち、そんなこと言うなよ!」
「じゃあ、お前も黙ってろ。匂いがどうこうとか、いうな……」
 そう返してから、ふと荒野は気になった。
「ガク……お前……鼻が、かなり効くんだよな……」
「う……うん。
 じっちゃんは、犬並みとかいってた……。
 発情したり、交尾したりした時のヒトの匂いくらいは、嗅ぎ分けられるけど……」
「犬並」というじっちゃんの評価も、観測から導いた主観的なものなのだろうが……あながち、的はずれではないと思う。
「……お前……ひょっとして、ヒトの感情、汗の臭いとかである程度読み取れないか?」
 荒野がそう指摘すると、ガクは「あっ!」と声をあげた。
「出来る! 出来るよ、それ!
 怒っている時とか動揺している時、確かにヒトの匂い、変わってくるし……」
 ガクは、その鋭敏な嗅覚によって、化学的な嘘発見器としても機能する……と、荒野は脳裏に書き込んだ。
 使いようによっては、かなり有益な特技だ……と、荒野は評価する。日常的な対人関係の場でも、非日常的な荒事の場面でも、相手の心理や感情の動きをある程度読める、ということは、アドバンテージとして、かなり有用だ……。
 荒野に指摘されるまで、ガクがその事に気づかなかったのは、島での生活では他人の顔色をうかがう必要性が、あまりなかった為、だろう……。
『……まだまだ、こいつら自身が自覚していない特技……いろいろ、ありそうだな……』
 荒野は、そう思う。
 加えて……彼女ら三人は、まだまだ成長途中の、子供だ……。
 茅がそうであるように……これから先、今まで出来なかったことが、何かの刺激によっていきなりでいるようになる……ということも、いくらでもありそうだった。
『……一族を……軽く、越える……か……』
 そして、そうした潜在的な脅威を育てるための刺激を外部から供給するのは……多分、これから荒野たちに介入してくる、一族の者たち……という、構図になってくるのだろう……と、荒野は予測する。
 改めて考えてみると……現在の荒野の立ち位置は、とても、微妙なものだった。
 茅なりこの三人なりに与し、守り続ける……ということは、いわば、潜在的に「一族キラー」となりうる素質を秘めた存在を、守る、という事を意味する……。
 彼女ら自身の意志や意図は、この際、あまり関係ない。
 現在の所でも、彼女らの「資質」が、一族の平均をはるかに凌駕している部分がある、ということと……それに、彼女らは生きていて、これから世代を重ねていく事が可能である……という事実……。
 一族以上の能力を持ち、将来、敵対する可能性がある……というだけの根拠だけで、彼女らを「一族の天敵」と決めつける勢力が一族内にいても、決して不思議ではなかった……。
 今の時点では彼女らを守ろうとしている荒野は、そうした勢力からみれば「一族の敵」に映るのかも知れない……。

『……じじい……』
 気づいてみれば……とんでもない宿題を押しつけられているのだな……と、改めて、そう思う。
 見方によっては……今の荒野は、一族全体の将来をある程度決定できる……と、解釈する者も、いるだろう。
 荒野はそんなことをするつもりはないが……茅や三人組は……潜在的な性能からいえば、「対一族用の兵器」として、育てることも可能な筈だった。
『茅を……笑わせてみろ……か……』
 涼治に与えられた課題は、限りなく、重い……。
『できるだけ、穏便に……とは、いかないんだろうなぁ……』
 荒野は、今までに知り合った一族の関係者の顔を、次々と思う浮かべてみる。
 先天的な素質に加え、それまでの生涯をかけて、自分の技を磨き、体を鍛え続けてきた猛者ばかりで……自分の力量に自信を持つ者ほど、「一族の一員」であることに誇りと自負を持っている、という傾向が、ある。
 そうした、職人的な気質の者たちが……スタートラインからして優遇されている茅や三人組のような存在を、どのような眼でみるのか、といったら……。
『……やっかみ混じりの反発……』
 いずれにしても、あまりいい感情は持たないだろう……と、荒野は、考える。
 今の所、様子見で監視がついているだけのようだが……いずれ、一族の間で、荒野たちのこのとは、「公然の秘密」として知れ渡ってしまうのだろう。いや、すでに周知の事実となっていても、おかしくはない……。
 一族、というのは、総じて、情報の扱いに長けた連中だ……。

 荒野にとってはあまり歓迎したくない事態だが、
『組織的な介入、以外に……突発的な、どっかのおっちょこちょいが個人的にいきなり挑戦してくる……』
 一族は、決して一枚板ではない。
 六主家のうち、統制が取れているのは秦野と姉崎くらい、内情が不明なのが佐久間……後は、烏合の衆、といっても過言ではない。噂を聞きつけた誰かが、ふと思いたって、腕試しに荒野たちに挑戦してくる……などということも……荒野は、そういう事態は本当に歓迎したくなかったが……十分に、ありえる……の、だった。
 その一方で……茅や三人組が、実際にどの程度「使える」のか知りがっている勢力もいる、から……かりに、そうした「突発的な挑戦者」が、この先、現れたとしても……外部からの援助や介入は、当てには出来ないだろう……。
 つまり、この先なにがあろうとも、荒野は自力で問題を解決しなければならない訳で……と、いうところまで考えて、荒野は、不意に笑い出したくなった。

 ……なんだ。
 今までと、変わらないじゃないか。

 孤立無援で、行き当たりばったり……本当に、今までと、なんら、変わりはない……。
『まあ……茅は、守り甲斐があるし……』
 苦労するだけの価値はあるか、と、思った。

 ガクが、不意に荒野が表情を変えたのをみつけて声をかけてきたので、荒野がそれまで考えていたことを話すと、
「それ、のろけ!」
 と、指摘された。

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彼女はくノ一! 第五話 (66)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(66)

 翌朝、三人がランニングから帰ってくると、朝食の支度をしていた真理に、居間にあるカレンダーを破いてくれ、と頼まれた。壁にかけてあるカレンダーの前に集まった三人は、顔を見合わせる。
 暦やカレンダーも、島にはなかったものの一つだった。
「そういうものがある」という知識はじっちゃんから伝えられていた。が、そもそも、島では、先々の予定をたてる必要があまりないから、「何月何日に~」などと考える必要もほとんどない。
 ジャンケンに勝ったノリが、カレンダーの一月の紙を破いた。

「寒っ……」
 飯島舞花は自分の肘を抱くような恰好をした。
「もう二月、かぁ……寒さも本格的だぁ……」
「……気温は、昨日の朝もほぼ同じだったの……」
 珍しく、茅が突っ込む。
「まーねー、寒がりだから……」
 栗田精一が突っ込んだ茅に補足説明する。
「……おれがいる週末なんて、外に出たくないから、おれだけ外に買い物に行かせるし……」
 補足説明筈が、後半はいつの間にか愚痴になっている。
「歩く湯たんぽが、そーゆーことゆーなー……」
 舞花が、後ろから精一の首に両手を巻き付ける。
 この二人が公然とじゃれ合うのはいつものことなので、周囲の連中は見て見ぬふりをしている。
「……ようやく二月か……」
 加納荒野がぼつりと呟いた。
 ……三学期が開始してから、まだ丸一月だっていない……。荒野にとっては、時間の進み方がやけに遅い気がした……
「こぉぉぉやくぅぅんはぁ……」
 突如、完璧に気配を消して荒野の背後に近寄った二宮荒神が、背後から荒野に抱きついた。
「……心配性で、気苦労が多いからねぇ……」
 予告もなく突然現れたように見えた「二宮先生」の存在に、飯島舞花や樋口明日樹が「うわぁ!」とか「ひゃっ!」とか、小さい悲鳴を上げる。他の生徒たちも、声はあげないにしても、棒立ちになって驚いている。
「……先生……今日は、おれたちと一緒に学校にいくんですか?」
 荒野の後頭部に頬ずりをしていた荒神に、ようやく樋口大樹が声をかける。声をかけなければ、荒神は、いつまでも荒野に抱きついていそうだった。
「今朝は、珍しく、なんの用事もなかったからねぇ……」
 荒神は、「二宮先生」の口調でのんびりと答えた。
 先ほどから茅が、荒神の腕や胴体に手をかけて荒野から引き離そうと試みていたが、まるで効果はなかった。

 そんな感じで学校へ向け、ぞろぞろと歩いていると、途中から玉木珠美が合流してくる。玉木も、荒神の姿が珍しかったのか、挨拶の後、
「あれ? 今日は先生もいっしょっすか?」
 と問いかけてきた。
 二宮浩司先生が狩野家に下宿していることは周知の事実だったが、二宮浩司先生が狩野家に出入りしているところとか登下校する風景は、滅多に目撃されることがない。
「……ちょうどよかった。
 二宮先生、今度うちらでボランティア活動を大々的にやろうっていうことになりまして……」
 玉木は荒神の答えを待たず、滔々とかねてからの懸案である「ボランティア」うんぬんに説明し、「先生もお一つ……」と誘いをかける。
 誰かしら教員を巻き込んで、怪しいことはしていない、という証人に仕立て上げることは、荒野もちらりと考えていたので、荒野も止めはしなかった。
 が、荒神のほうは、
「……ぼくみたいな、いつ消えるのか分からない臨時雇いが協力しても……」
 と、やんわりと断ってきた。
「……でも、そういうことを、自主的にやろうとするのは、いい心がけだね……。
 教員の中で、そういう話しに乗ってきそうなのは……」
 荒野たちの担任である大清水先生と、香也たちの担任である岩崎先生だ、と続けた。
「え?
 岩崎先生、は、わかりますけど……」
 経験が浅い岩崎先生は、ともすると、実際的な面よりも理念的な面から「学校教育」というものを理解しようとする傾向がある。玉木も、教員の中では「一番騙しやすそうな先生だ」と目星をつけていたところだった。
 だが、もう一人、荒神が名をあげた、大清水先生の方は……「何事につけて、厳しい」と、生徒たちの受けは、非常に良くなかった……。
「……そう?
 話してみると、結構面白い人なんだけど……あれで苦労しているし、人助けのための活動なら、積極的に関わってくれると思うけど……」
 荒神は、大清水先生について「家庭の事情で苦学して大学を卒業して、教員の資格を取った人」、「一回り年の離れた美人の奥さんと、去年産まれたばかりのお子さんがいて、家族の話しをしだすと止まらないこと」などの情報を提供してくれた。
「……前のは初耳だったけど……後者のは、結構有名ですよね……」
 舞花が荒神の情報を補足した。
 大清水先生は舞花や栗田精一が所属する水泳部の顧問でもあり、その関係で、他の生徒たちよりは大清水先生に接する機会が多い。
 うっかり家族の話題を振ったため、携帯の画面を見せながら大清水先生が延々と「自分の妻子自慢」をし続けるのにつき合わされた水泳部員は、かなりの数に昇った。
「……奥さん、たしかに美人だけど……一歳未満の子供の写真なんて、身内以外にはほとんどサルだよ……」
 とは、栗田精一の体験談である。
「……なぁなぁ……こっちのほうのこーや君……」
 そっちの話題が一段落すると、玉木は、ちょいちょいと狩野香也を呼びつけた。玉木が、荒野、ではなく、香也のほうに用事があるのは、珍しい……。
 そんなことを思いつつ、香也が玉木の傍によっていくと、
「……そのボランティア活動の、校内向けのポスター描いてくれないか?」
 と言われた。
 校内向けの広報には、流石に商店街とか美容室とのタイアップ素材を使うのははばかりがあって……ということらしい。
 香也は、
「……んー……」
 と呻っただけで、
「……別に、いいけど……」
 と快諾した。
 内容などについては、放課後、玉木が美術室に立ち寄って打ち合わせをする、ということになった。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(107)

第五章 「友と敵」(107)

 今回の稽古は、楓が十二回ほど投げられた所で、荒神が「やめ」を宣言して終わった。時間にして二十分足らずの短時間だったが、スーツ姿で涼しい顔をしている荒神とは対照的に、楓の方は汗だくになって肩で息をしている。荒神が止めなくとも、このまましばらく続けていれば、楓はぶっ倒れていただろう……と、荒野は思った。
 適当に手を抜く、ということができない真面目な性分、というのも、なかなかやっかいだよなぁ……とも、思った。
 実際、止めを宣言されて、一旦、路上に降り立った楓は、すぐにぐらぐらと揺れはじめ、そのままがくりと膝をついた。
 立っていることも困難なほど、体力を消耗しているらしい……。

 荒神を相手にまともに立ち回って、この程度で済んでいるのは僥倖、というべきなのだが、そのことの意味を理解しているのは、その場にいた中では、荒神と荒野、それに、シルヴィ・姉崎くらいだろう。
 楓自身は、自分の優秀さに、あきれるほど自覚ない……と、荒野は、常々思っている。

 三人組や孫子は、そもそも、一族の水準というものを知らない。ただただ、気配を絶ちながら、あれほど激しい動きを今まで続けていた楓を、感嘆のまなざしでみている。より正確にいうと、荒神と楓、二人の動きに等しく感嘆している筈なのだが……荒神については、すでに「最強」の異名について予備知識を持っていたので、その分、楓に対するものよりは、驚きの度合いが軽減されている。
 普段、一緒に過ごしている楓が……「最強」の荒神に認められた存在であることを、実際にさまざまと見せつけられた形である。

 三人組と孫子の四人の中で、ただ感嘆するばかりなのが、ガクとノリ。
 感嘆はしながらも、なにやら考え込む顔付きになっているのが、孫子とテン。その二人のうち、孫子は何も言わなかったが、テンは「対抗手段を考えている」と明言した上で、荒野にいくつかの質問さえ、した。テンの話によると、徳川篤朗に「三人用の武器を設計してみろ」と、指示されたらしい。そして、テンは、その武器を使用する仮想敵として、「一族の者」を想定しているらしい……。
 島で生活していた時、三人を育てた「じっちゃん」に、
「一族の思惑を、軽く飛び越えてみろ」
 といった意味のことを言われたらしく、テンも、その他の二人も、その言葉を遺言として受け止めているらしい。

 その話しを聞いたことで、荒野は、その「じっちゃん」という人物の立場と思惑が、ますます分からなくなった。
 その、「じっちゃん」という人物は、三人の特殊性を理解した上で、三人を、一族にとって有益な人材になるよう、教育するつもりはなかったらしい……。
 その辺の姿勢は、茅を「一族の一員」として育てなかった仁明に通じる所があるのだが……果たして、仁明やじっしゃんは、なにを思ってそうした教育方針を採用したのか……その方針を決定づけたのは、仁明やじっちゃん個人の判断なのか、それとも、もっと上に、未だ荒野たちには姿が見えない「プランナー」が存在し、その意向どおりに動いていただけなのか……。
『……推測をするにしても……』
 まだまだ、手持ちのピースが少なすぎる、と、荒野は思った。
「姫の仮説」について荒野たちが握っている情報は、あまりにも少なすぎるし、そうした今の段階で、空白部分を無理に想像で埋めようとすれば、実態とかけはなれた想像図しか、できない……。
 今の時点で、余計な先入観を持っても……こちらが有利になる、というメリットは、ないのだった……。
 加えて、こちらから新たな情報を求めて能動的に動けば、ヤブヘビになって、呼ばなくてもいい敵を呼び寄せてしまう可能性も、少なくはなかった。
『まぁ……気長にやるさ……』
 結局、この土地に居着いての長期戦、を想定している荒野としては、そう思うより他、選択肢はなかった。

「荒野、遅いの」
 マンションに帰ると、茅が荒野の帰りを待っていた。玄関に出迎えた茅は、明らかに不満顔だった。
「早く、お風呂、沸いているの。昨日はざっとしか洗ってないから、今夜は丁寧に洗ってもらうの……」
 茅は、いつにななく強引さで荒野の腕を引いて風呂場へと向かう。
「……ま、また、一緒にはいるのか?」
 荒野は内心で冷や汗をかく。
 朝のシャワーなどは、時間がないから一緒に浴びたりするが……今のような、時間に余裕がある時に、茅と一緒に全裸で過ごして……理性を保てる自信が、なかった。
「いいけど……また、昨日みたいに、なっちゃうぞ……」
「髪を洗ってからなら、それでも、いいの」
 茅の返答は端的だった。
「今までは、体力的に自信がなかったから、遠慮してたけど……昨日、試してみて、今日の授業に差し支えなかったから、今夜からは、荒野さえよかったら、毎日でもいいの。
 毎日、えっちな匂いをさせて、二人の肌にしみつけて、ガクにみせつけてやるの……」
「か……茅、さん……」
 荒野が身の危険を感じて若干引き気味になると、
「荒野……茅とえっちするの、嫌い?」
 茅が、躊躇いをみせる荒野の顔を不思議そうにみて、首を傾げる。
「茅は、好き。
 荒野も、荒野とえっちするのも、大好き。
 いつも感じ過ぎて、怖くなって、今までは、あまり求めなかったけど……もう、いいの。
 近くなり過ぎるのが怖くなるより……近寄るのを怖がって、荒野が遠くなるほうが、ずっと怖い……。
 だから、もう、我慢しないの……」
 そんなことを言われて、茅にぎゅーっと抱きつかれれば、荒野とて若い……やりたい盛りの年頃の、男性である。
 本人のやる気の有無にかかわらず、体のほうが反応する。荒野に体を密着させていた茅は、すぐにその変化に気づいた。
「荒野……今、大きくしても、駄目。
 お風呂から上がったら、また、ゆっくり……して。可愛がって……」
 茅は飛び上がって荒野の首に抱きつき、両足を荒野の腰に巻き付けて、耳元に口を寄せて、そう囁く。

 荒野は、茅に言われた通りにした。

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彼女はくノ一! 第五話 (65)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(65)

 荒野がシルヴィと連れだって気配を辿って行くと、すぐに孫子や三人組の背中に追いついた。四人は、気配を消したまま、近辺の地上数メートルをびゅんびゅんと風を切って飛び回りながら荒神に稽古をつけてもらっている楓を、目で追っている。
 荒神と楓は気配をほぼ完全に絶っているため、四人は、はたから見れば、夜間の住宅街の、人気のない道端の狭い路上で、何もない空中をぼーっと見上げている、という格好になる。
 孫子もかなり驚いている様子だったが、三人は完全に口をポカンと空け、楓と荒神の高レベルな攻防に、すっかり呆れ返っている。
 今夜の楓は、いつもより重装備のようだったが、いくら用意した武器を投擲しても、荒神には届かない。
 荒神は、楓が投げた武器を避けるだけではなく、受け止めて足元においたり楓に投げ返したりする余裕さえあった。
 だから、物音も、ほとんどたてていない。
 仮に、気配が読める一族の関係者以外の一般人がこの場を通りかかったとしも、何も異常を察することができず、なにもない空中に注視している三人と孫子、それにシルヴィの姿をみて、いぶかしく思ったことだろう。
 荒野は、路上や塀、屋根や電線、電柱の上に残されたそれらの投擲物を、一つ一つ拾って歩いた。いつもは、稽古が済んだ後、楓が片付けているのだが、今夜は特別に荒野が動いていた。
『なんだかんだで……楓も、荒神に……投げさせるところまでいったんだもんな……』
 最強、の異名を取る荒神の動きに、楓は慣れつつあった。
 荒野は二人の稽古を毎回チェックしている訳ではないが、それでも、見物にくるたびに楓の動きに無駄や隙が少なくなり、シャープになっていっくのを感じている。
 投擲武器を嫌う荒神に、武器を投げ返させる所まで、楓が腕をあげてきた……ということを確認した荒野は、素直に感心した。
 もともと素質があったとはいえ……短期間で、よくもここまで腕を上げたものだ……と、思う。
 ここまで仕上がってくれれば、楓の存在も……。
『どこかで監視しているやつらへの……』
 牽制になってくれる……という計算も、あった。
 純粋な戦闘能力でいえば、荒神や荒野に続いて、楓も、他の一族の水準からみて、「まともに敵対するとなると、損害が多くなりすぎる」レベルに達しつつあった。
 もっとも、正面から攻撃することよりも搦め手のほうが得意な術者も一族には多いから、完全には安心はできないのだが……それでも、楓が「容易に手出しできない存在」に育ちつつある……という事実を、普段からこれだけデモンストレーションしておけば、荒野たちへの敵対行為の抑止力として、十分な効果が望める。

「コウ……カエデ、前よりすごくなってない?」
 あちこちに散らばった投擲武器を拾い集めて、落ちていた網にくるんで持ち帰ると、早速シルヴィが声をかけてきた。姉崎の者は、基本的に個人単位の「戦闘能力」をまるで重視していないが、だからといって、見極める目を持たないないわけではない。
 わずか数日に前にみた楓の様子と、今の楓の状態を見比べての、率直な感想だろう。
「ああ……みるたびに、成長しているな、あいつ……」
 荒野はなるべく感情を込めず、事務的に事実だけを述べた。
「楓を弟子に選んだ荒神の目が……確かだった、ってことだろ?」
 最強の荒神が最初にとった弟子が、もう一方の兄弟弟子をそう評する。荒神は、今のところ、荒野と楓以外の弟子を認めていない。
「……こんなの……」
 背中ごしに荒野とシルヴィの会話を聞いていたテンが、誰にともなく、いった。
「こんな人たちばかりなら……ボクらなんか、今更、必要ないじゃないか……」
 ノリの声が、震えている。
 三人が今、共通して感じていることなのだろう。
 これまで、三人と対峙してきた時も……楓は、かなり手加減していたのだ……と、思い知ったようだった。
「ああいうのは、そんなゴロゴロはしていないから安心しろ……」
 荒野としては、そういうしかない。
 自信を喪失しかけた三人を、荒野が元気づける……というのも、奇妙ななりゆきだ。
「あいつらは、トップクラスもいいところだし……それに、ああいう直線的に強い者だけが、必ずしも優位に立てるとは、限らない……」
 実際、力にも反応速度にも勝る若い術者が、老いて、肉体的には衰えはてた術者にいいようにあしらわれる……という例は、決して、少なくはない。
 荒野たち一族が活躍する場は、公正なルールに基づいて勝敗を決するスポーツや武道の世界とは、明らかに異なる論理で動いている。
 そこでは、「強さ」が必ず有利に働くとは限らない。だから、楓は、養成所時代、「使えない逸材」の異名をとっていたのだ……。

 が、ついこの間まで「島」という、ほとんど自分たちしか存在しない閉鎖的な世界で生活していた三人は、そうした複雑な事情や背景については、おそろしく無知、かつ、無頓着だ。そうした事を、今この場で説明するのは、骨が折れるばかりではなく、あまり意味がない。
 いずれ……他の一族の者たちと接触するようになれば、否応なく思い知らされる筈……だった。
 他の二人よりは想像力がありそうなテンのみが、少しは事情が違いそうだが……テンがなにか考え込んでいる顔をしているのに対し、他の二人、ガクとノリはひたすら、目を見開いて驚いている。
 孫子の反応は、どちらかというとテンに近かったが、テンよりも不遜な表情にみえた。

「ねぇ、かのうこうや……これが、一族のトップクラス、といみていいんだよね?」
 その荒野の観測を裏付けるように、テンが、振り返ってそういう。
「ああ。
 なにか……対抗策考えてしたんだろ、お前」
 荒野がそう確認すると、テンは素直に「うん」と頷く。
「昼間、トクツーさんの所で、宿題出されちゃってさ……。
 ボクたち三人の特性に最適化した武器を考案しろっていうんだけど……このレベルに対抗できるものを作れば、なんとか格好がつくかなぁ、って……」
 不遜、ともいえるテンの発言に、ガクとノリがあわてて振り返る。
 荒野は素知らぬふりをして、テンの参考になりそうな情報を与えてみることにした。
「……とはいっても、一族の中でも、流派によってかなり戦いかたが違ってくるからなぁ……。
 例えば、秦野の兄さんたちは、個々人の能力は荒神や楓よりもよっぽど低いけど、かわりに、近代火器で武装し、惜しみ無く弾薬を使い、隙がない連携での集団戦を得意とする……」
 荒野自身が彼らの中に混ざって何度か作戦行動に従事した経験があるのだが……彼らだけは、敵に回したくない……と思っている。
「……その他に、この間、茅がテーブル消した時みたいな芸当が、普通にできる佐久間がいる……」
 荒野が言葉を続けると、ガクとノリが、悄然とうなだれる。
 そうした相手に対する有効な対抗手段を、思いつかなかったのだろう。
「……そっかぁ……いろいろなタイプが、いるんだぁ……」
 そんな中で、テン一人の顔だけが、奇妙に輝いていた。
「大丈夫だよ、ガク、ノリ……。
 じっちゃんが言ってた通り、ボクらは、一族の思惑なんて軽く越えて行かなければならないんだ……」
 その口調は……荒野には、虚勢を張っている、とは、到底思えない、静謐な自信に満ちていた。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(106)

第五章 「友と敵」(106)

 狩野家での夕食の時、三人組に「今度の木曜日、美容院に行くから空けておけ」と言い渡し、カットモデルの件について簡単に説明する。三人は、単純に「お店で髪を切ってもらう」ということだけで、はしゃいでいた。島ではお互い同士で切り合っていたらしい。人里離れた場所で暮らしている時のおれレベルだな、と、荒野は思った。

 夕食をすませ、いったんマンションに引き上げた荒野は、茅がいれてくれた紅茶を飲みながら考えに沈んでいた。
 いつの間にか……自分が、この土地に居続けることを、かなり優先していることに、荒野は気づいていた。
 先程、真里がふと口にした「不法投棄ゴミ」の処理の問題を、真剣に考え始めているのがその証拠で……そんなもん、確固たる財源もなにもない、学生が主体になった急造団体には手が余る、というのは……少し考えれば、誰にでも分かることだ。
 市や県などの地方自治体が手をつけかねている、というのは、相応の事情なり理由なりがある筈なのである。
 加えて、当然のことながら、真里の話を聞いていない玉木や有働は、そこまでのことは考えていない……なのに、荒野は、「どうしたら根本的な解決ができるのか」を、本気で考えはじめている。
 この土地に、深入りしすぎたかな……と、荒野は、いまさらながらに、そう思った。
 そして、立ち上がり、
「……ちょっと、隣りのプレハブにいってくる……」
 と、茅に声をかけた。

 思い返せば……荒野が香也がアトリエ代わりにしているプレハブに赴くのは、自分の気持ちに整理をつけ、落ち着かせるためだ……という気がする。そこにいけば何が解決する、というわけでは、もちろん、ないのだが……。
 そうした、何かにつけて迷い、惑う自分自身の弱さを見つめ、自覚するのには、いい場所だった。
 香也は、決して、別に荒野の疑問や惑いに的確な助言をくれる訳ではないのだが……単純にその背中を眺めているだけで、不思議と気分が落ち着いた。

「……来てたんだ……」
 しばらくして、荒野の来訪に気づいた香也が、静かにそう声をかけてくる。
「うん。少し前から」
 香也の言葉も静かなものだったが、荒野の返答も、聞きようにとっては、ひどく素っ気なく響いた。
「学校の帰りに聞いたボランティアとか……あれ、玉木さんの?」
 香也は、「玉木さんのアイデア?」と聞くべき所を、適当に端折って尋ねてくる。
「玉木と有働くんの合作だな。
 玉木は商店街に人を呼びたいだけらしいけど、有働くんは根が真面目だから……」
 荒野は、そう答えた。
「動機はどうでもいいけど、自分が、誰かの役にたてる……誰かに必要とされるって、いいことだよね……」
「……ああ……」
 この時、荒野はひどく複雑な表情をして頷いたのだが、荒野に背を向けていた香也には、その表情を確認をできなかった。
「そう……だな。
 とてもいいこと、なんだよな……」
 荒野は「……多分」と、口の中で小さく付け加える。
 荒野は、香也のこうした素直さに、時折、気後れに近い感情を覚える時がある。その時々に感じたことを率直に語ることができる彼に比べれば……自分は、なんと複雑に屈折していることか……。
 そんなことを思いながら、荒野は、自分の絵に向き合い続ける香也の背中を見つめ続ける。見つめ続けるうちに、ふと、プレハブの外の空気が、妙な具合にざわつきはじめたのを、感じる。
『……なに?』
 と軽く眉を顰めていたのも、わずかに数秒で、遠くに間違えようもない、強力な術者の気配を感知したことで……荒野は、雰囲気が変化した原因を即座に理解した。
 荒神が帰って来て、楓が出迎えようとしている。
「また……はじまったか……」
 二人の「稽古」が、これからはじまるわけだが……。
 荒野は、小さな呟きを漏らす。
「今回は、ギャラリーが多いかな……」
 楓の気配を後を、数人分の気配が追っているような感じがあった……。
 どうやら、孫子や三人組が、楓の後を追っているらしい……。
『さて……どうするかな……』
 荒野は、少し考える。
 荒神と楓の「稽古」には……楓のほうは、実戦さながらのガチンコモードで臨む。今夜も、楓は、完全武装態勢で荒神にあたって行くのだろう。楓は、もともと、根が真面目だし、完全武装して本気でかかっていっても、未だ荒神の「本気」を引き出せていない……ということにも気づいているから、少々焦りも感じている……ようだ。
 ムキになって突っ掛かって行く楓を、荒神が軽くいなし続けている、というのが現状なのだが……。
『それでも……』
「ガチンコモードの楓」も、「恐らくは素手で、それをなんなくいなす荒神」の姿も……三人や孫子にとっては、それなりに衝撃的な光景である筈、だった。
 荒野自身は、何年も前に荒神に同じような稽古をつけてもらっているので、感覚が鈍化している部分があるのだが……殺る気満々でつっかかっていく弟子と、軽々とそれを避け続ける師匠、という風景は、同じ一族のものにとっては、『レベルの違い』をさまざまと感じさせる光景である……らしい。
 少し前、同じ一族のシルヴィでさえ……あの二人の稽古風景をみたとたん、顔色を失っていたし……。
『……様子をみにいってた方が、無難かな?』
 そう思った荒野が、腰を上げようとした、ちょうどその時……。
 こんこん、プレハブの入り口を、控えめにノックする音がした。
「……はぁい……」
 からからとサッシの引き戸が開かれて、シルヴィ・姉崎が顔だけを覗かせた。
「コウ……今、いいかな?」
 いよいよ、自分が出て行かなくては、ならないようだ……と、荒野は思った。

「……才賀のやつは、今、出て行ったところだぞ」
 荒野がプレハブの外に出てそういうと、シルヴィは、「I, Know」と答えた。
「……今、コウジンとカエデのシミュレーション・プログラム、みてる……」
 この家の人々の動向ぐらい、シルヴィが押さえていたとしても、荒野は別に不思議には思わない。地道な情報収集は、姉崎が得意とする所だ。
「じゃあ、おれの方に、用?」
 荒野は、単刀直入に尋ねた。
「……んー……どちらかというと、コウに、かな……」
 珍しく、シルヴィは言葉を濁す。
「ソンシ……カエデとコウジンのあれみたら……自信、無くさない?」
「……ヴィが、なにを考えているのかは、大体分かった……」
 荒野はゆっくり首を振る。
 シルヴィと孫子は、まだ付き合い初めて日が浅い。だから、お互いの性格を把握しきっていないのは、仕方がないのかもしれないが……。
「才賀の性格だと……格差を理解すればするほど、絶望するよりは、燃える。
 あいつ、すっげぇ負けず嫌いだから……」
 荒野の口調に、若干、苦々しいニュアンスが混じってしまったのは、仕方がないところだろう。
 荒野は、これまでになんどか、孫子のそうした性格に振り回され、後始末に苦慮した経験があった……。
 より性格を期するなら「孫子と楓の対抗意識が際限なくエスカレートした結果、勃発した何回かの騒動」に、苦労をしいられてきた、というべきなのかもしれない。
「……素直に落ち込んでくれるほど、可愛げのある性格なら、おれも苦労しないんだけどねぇ……」
 荒野がしみじみとした口調でそういって、ゆっくりと首を横に振ると、シルヴィにも思い当たる節があるのか、
「……Oh!」
 と、手のひらで口を覆うポーズのまま、凍りついた。そしてシルヴィは、
「I see, understand……」
 と、続けた。

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彼女はくノ一! 第五話 (64)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(64)

 ノリに続いて孫子までがプレハブを出て行くと、香也は一人になった。香也一人が取り残されたプレハブの中は、妙にしんと静まり返っている。
 この中で一人きりでいることは、以前は特に珍しいことではなかった……と、いうよりは、一人でいることが、むしろ当然だったわけだが……こうして、実際に誰もいなくなって見ると、妙に背中が寂しい。
 ……彼女たちが側にいることが、いつの間にか……自分の中で、「当然」になってしまっている……と、香也は感じた。
 それでも香也は、途中まで描きかけたキャンバスをイーゼルにたてかけ、絵の具や筆の準備をはじめる。ゲーム関係の仕事が一段落した今の時点で、少しでも自分自身の絵を進めておきたかった。
 そして、実際にキャンバスに筆を走らせはじめると、香也は日常の細々とした事柄は忘れてしまう。目の前の絵に意識を集中させていくと、絵に向き合っていない時の香也の日常、は、香也にとってかなり遠いで出来事になってしまう……。

 そうしてどれほどの時間がたったのか、香也は、背後に人の気配を感じ、少し顔を巡らせて、横目で確認をした。
「……来てたんだ……」
「うん。少し前から」
 いつの間にか、荒野が来ていた。
 荒野のプレハブへの来訪は気まぐれで、いつも物音をたてず、ひっそりとやってくる。楓がこの家にくる前などは、今とは違ってこの家の周辺も静かなものだったので、荒野が背後に来ているのに、香也が何時間も気づかなかったことさえ、珍しくはなかった。
 香也と荒野のプレハブでのやりとりは、決して親しげなものではない。荒野はむやみに話しかけて香也の邪魔をしようとはしないし、香也は、もとより能弁ではなく、香也が話しかけない限り、荒野はなにもいおうとしないのをいいことに、自分の絵に向きあい続ける。
 錯覚なのかもしれないが、香也は、こうしている時、言葉のやりとり自体は少なくとも、二人の間にはどこか親密な空気が流れている……と、感じていた。
 香也は、このような時間が、決して嫌いではない。
「学校の帰りに聞いたボランティアとか……あれ、玉木さんの?」
「玉木と有働くんの合作だな。
 玉木は商店街に人を呼びたいだけらしいけど、有働くんは根が真面目だから……」
「動機はどうでもいいけど、自分が、誰かの役にたてる……誰かに必要とされるって、いいことだよね……」
「……ああ……」
 この時、荒野はひどく複雑な表情をして頷いたのだが、荒野に背を向けていた香也には、その表情を確認をできなかった。
「そう……だな。
 とてもいいこと、なんだよな……」
 荒野は「……多分」と、口の中で小さく付け加える。
 その声は、小さすぎて香也の耳には入らない。
 香也は香也で、
『……彼ら来てから……』
 自分たちの周辺が、めぐるましく動き出していること、肌で感じている。香也自身の絵も、彼らがここにこなければ、家族と樋口明日樹くらいしか目にする者も注目する者もなく……ただひっそりと暮らし続けたのだろう。
 口には出さなかったが、香也は、そんなことを思っている。
「また……はじまったか……」
 不意に、荒野が、香也には意味不明な呟きを漏らした。
「今回は、ギャラリーが多いかな……」

 羽生譲の部屋でスキャナーを使用して香也の絵を取り込んだ後、そのデータをゲーム製作のsnsにアップロードし終えた楓は、不意に顔を上げた。
 その場を、たまたま通りかかったフロ上がりのガクが、目にとめる。
「……どうしたの?」
「師匠が……」
 パジャマ姿のガクが問いかけると、楓は言葉少なにそう答え、羽生のパソコンを終了させ、足早に自分の部屋に向かった。
 事情は分からないまでも、楓の様子にただならぬものを感じたガクは、楓の後について歩く。
 いったん自分の部屋に戻った楓は、手慣れた動作で普段着の上に手足や肩の部分に、革製のホルダーを身につけはじめる。装着したホルダーに手裏剣や六角などをぎっしりと差し込み、武装を終えた楓は、軽やかな足取りで玄関に向かった。自身の体重に匹敵する投擲武器を身につけている、とは、とうてい思えない身軽さだった。
 その迫力に気圧されながらも、ガクは、楓の後をついていく。
 武装した楓とガクが二人で玄関に向かうと、居間で炬燵にあたりながらパソコンをいじっていたテンも、異変に気づいてその後を追った。
 玄関から外に出たところで、庭のほうからやってきたノリと、何故か、スケッチブックを抱えてノリを追って来た孫子も、その集団に合流する。
 玄関を出た所で、楓が気配を断ったので、後に続いた連中もそれに従った。
 気配を断った楓は疾走をはじめ、すぐに塀の上、電柱の上へと身軽に飛び移っていく。
 敵……の、存在を想定した、自分の進路を読ませないための蛇行だ……と気づいた後続の連中の間に、にわかに緊張が走った、その時……。
「……甘い……」
 電線の上を疾走していた楓の足首を、何者かが、掴んだ。
 足首を掴まれ、地上に叩きつけられながらも、楓は、落下中にもかかわらず、正体不明の襲撃者に六角を投げつけた。
 楓を地面に叩きつけた襲撃者は、楓が投げ付けた六角に向かって突進する。
 足から地面の降り立った楓は、くないを抜いて突進してくる襲撃者に備える。
 が、その襲撃者は楓の迎撃態勢をものともせず、楓の正面に降り立ち、ぐわぁ……と、楓の体を、無造作に真上に放り投げた。
「これ、返すね」
 襲撃者はつまらなそうにそういって、空中にいる楓に向かって、ある物を、投げた。
 先程楓が襲撃者に投げた、六角だった。
 六角は、先程楓が投擲した時以上の速度で、空中にいる楓を追いかける。
 六角が楓の胴体を貫くかにみえた、その寸前……楓の体が、不意に軌道を逸らした。
 いつの間にか、楓は手にロープを握っており、そのロープの一端は、近くの電柱に巻き付いている。
 楓がロープをひいて着地するよりも、早く……襲撃者が、跳んだ。
 驚異的な跳躍力で、一足で、電柱よりも上にある楓の目前に迫る。
 襲撃者は、無造作に腕を払って、楓の胴体をなぎ払う。
 しかし、襲撃者の腕が捕らえたのは、楓の上着だけだった。
 どうした手段を使ったのか、いつの間にか、楓は襲撃者の背後を回り込んでいる。
 楓は、背後から襲撃者に向かって、ある物を投げた。
 楓の投げた物は、襲撃者の目前で、ばっ、と音をたてて広がった。
 以前、学校でテンを捕獲したのと同じ、投網、だった。
 襲撃者を包み込むように展開する網……逃れることはできないと思われたそれを、襲撃者は、腕の一振りで振り払う。
 ぶん、と、襲撃者が手刀を振ると、襲撃者の周りに展開していた網は、その軌道の部分だけ、すっぱりと裂けた。
 そうしてできた隙間を貫くようにして、襲撃者は再度、楓の目前に迫る。
「……二度目」
 襲撃者に放り投げられた楓の体が、高々と宙に舞った。
「……今日は、ギャラリーが多いねぇ……」
 悠然と電柱上に降り立った襲撃者……二宮荒神は、誰にともなく、そう呟く。

 そのギャラリー……楓の後を追って来た孫子と三人は、目を丸くして言葉を失っていた。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(105)

第五章 「友と敵」(105)

 この日が初日の会議だったというのに、随分細かい話しまで出てきはじめた時、最終下校時刻十分前を告げる予鈴がなった。
 後は後日、ということになり、放送室に集まった面々は下校の支度をしはじめる。とはいっても、鞄などは教室から持ってきており、帰り支度といっても、椅子の背もたれにかけていた上着を羽織る程度だった。
 今の時刻まで本格的に部活をやっている生徒たちは、今頃、慌てて後片付けをしているのだろう。

 全員でぞろぞろと下駄箱のあるエントランスまで降りていくと、そこで狩野香也と樋口明日樹の二人と出くわした。その二人が最終下校時刻ギリギリまで部活をやっているのはいつものことで、今日の会議がなければ、楓や茅も、そっちの二人と一緒に帰るのが日課となっている。だから、偶然という程のこともない。
 校門の所で、家が反対方向だという有働勇作とまず別れ、家に向かって歩いている途中で、玉木珠美が、
「そっちの狩野君、年末、マンドゴドラのウィンドウに、ちゃっちゃとペンキで絵を描いていたでしょ?」
 と、香也むけて、切り出す。
 そして、商店街のシャッターを、統一されたペインティングで飾る計画があり、それを香也に依頼しようか、という動きがある、という。
 玉木と香也が交互に放送室で話していた「地域ボランティア」うんぬん、ということを香也に説明し、「その一環で」、香也にもお鉢が回ってきたらしかった。
 作業時間にしてせいぜい数十分、といった短時間の出来事だが、その間、店の前に人垣を作ったことは事実で、同時期に起こっていた楓や孫子のパフォーマンスのほうがやたら派手だったこともあり、あまり注目されていなかった……と、香也は思っていたが、地元商店街の人々は、それなりに記憶にとどめていたらしい。
 玉木の話によると、確かにそれなりのプロデザイナーに依頼した方がしっかりした仕事はしてくれそうだが、それよりも、たとえ素人の学生がボランティアでやってくれる……というほうが、話題性がありそうだ……という意見が、商店街では多いそうだ。
 なによりそうした意見を出したり支持したりしているしている人たちの大半は、マンドゴドラのマスターの求めに応じて、その場でちゃっちゃと即興で描いてみせた香也の姿を実地に見ているわけで、玉木の話しによると、ライブで見ていた人たちの語調は強かった……という。
 香也は、一応、例によって、
「……んー……」
 と唸って見せてから、
「別に、いいけど……出し惜しみする程の、腕でもないし……」
 と、玉木の依頼をとりあえず諒承する。
 香也の色よい返事を得たところで、ちょうど分かれ道にさしかかったので、いかにも満足そうな顔をして、玉木は自宅方面へと去っていった。
 とはいえ、今の段階では、ボランティアうんうんの正否も、まだまだ不確定な部分が多いし、商店街の依頼も、当然、正式なものではない。
 せいぜいがところ、「こういう話しがあった」と打診された程度のことなのだが……それでも香也は、あまり表情には出ていなかったが、なんとなく、頼りにされて、嬉しそうな様子だった……と、荒野は観測した。

 狩野家の前で、ワゴン車を車庫入れしている真理とばったりと出会い、少し立ち話をするうちに、「久しぶりに、ちょっと家でお夕飯食べていきなさい」、と真理に誘われる。真理は今週末からかなり長期に渡って家を空ける、とかで、今日も保存の効く食材を買いだめしてきた所なのだ、という。
 真理にしてみれば、近所にすむ荒野たちにも、留守中のことを頼みたいのだろうな……と察した荒野は、茅と頷きあって、その誘いを受けることにした。
 一旦、マンションに帰って、着替えてから来ます、といって荒野と茅はマンションに戻り、香也のほうは玄関には入らず、そのまま明日樹をおくっていった。

 鞄を置き、着替えて狩野家に向かうと、手早く食事の支度を済ませた真理がすでに炬燵に入っており、夕飯の支度を手伝うつもりでいた荒野と茅は少し拍子抜けをした。
「今日は湯豆腐で、支度、簡単だったから」
 と、真理は笑った。
 羽生譲もバイト先から帰宅して、真理と一緒に炬燵にあたりながらテレビを眺めていた。
 炬燵に入ってお茶を啜っているうちに、自然と今日玉木や有働と話したようなことも真理に話す感じになる。地域ボランティア、ということに関して、真理は特に強い関心を示したわけではなかったが、「若い人たちが自発的にそういうのをやるのは、いいことねー」とは、頷いてくれる。
 直接利害関係のない人の反応は、その程度のものだろう、と、荒野は納得する。
 しかし、五分ほど談笑した後に、真理は、
「……そういえば、そういうボランティアって、ゴミの不法投棄とか、処理できるのかしら?」
 と言い出した。
 真理の話しによると、この近辺にも、いつの間にかゴミ溜めのような感じになっている空き地が、何カ所か、あって、近所の人たちはかなり迷惑している、という……。
「……それは……ちょっと、難しいですねぇ……」
 荒野は、唸った。
 その土地の所有者との交渉、片付けたゴミをどう処理するのか……という、現実的にクリアしなければならない問題が、多すぎる。
 第一……一度片付けても、ゴミを出す側をなんとか閉め出す方法がないと、またすぐにゴミの山になるのではないのか……。
 人手を集めればなんとかなる、という案件では、ないのであった……。
「……そうよねえ……。
 いろいろ、難しいものね、そういうのは……」
 と、真理も頷いく。
「ああいう、目に目障りなものがどーんとなくなっちゃうと、その近所の人たちは喜ぶと思うんだけど……」
 確かに……目立つな……と、荒野は思い……なんとなく、算段を組み立てはじめている。
 ゴミの種類は……実際に現場をみてみてないと分からないけど、再利用が可能な資源ゴミなら、徳川あたりにも相談してみて……処理に費用がかかる場合……。
 荒野が具体的なプランについて考えはじめた時、玄関の方から、「ただいまー!」という声とともに、どやどやと三人組が帰ってくる。
 真理と茅が食器の支度をしている所に明日樹を送りにいっていた香也も帰宅してきて、全員で夕食となった。

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彼女はくノ一! 第五話 (63)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(63)

 夕食後の勉強がすむと、香也はそそくさと後片付けをして、庭のプレハブに向かう。勉強に対する拒否反応こそないが、基本的に香也は、自分が好きなことを時間を削られることがあまり好きではなく、楓と孫子が強く薦められることがなければ、自分からは手をつけようとしない。
 だから、二人との約束になっている「一日一時間」の勉強が終わると、香也は、普段のボーッとしたイメージからは想像もつかない機敏な動作で庭にとんでいく。
 そして大抵、その後に、楓がとことこと続いていき、孫子は風呂に入りにいく、というのが、最近のパターンになっている。
 いよいよもって家庭内男女比のバランスがひどいことになった結果、香也の入浴時間は、寝る直前にまでずれこんでいた。何度かの「お風呂イベント」を経験してきた香也は、その辺、かなり慎重になってきている。

 そんなわけで香也は、その晩も庭のプレハブでストーブに火をいれた後、スケッチブックを取り出し、それをイーゼルにたたかけ、無造作に鉛筆を走らせる。
 堺雅史に頼まれた、ゲームのキャラクター画、だった。
 毎日数体づつ、地道にこつこつと描き上げていった結果、ようやく今晩になって、ゲームに登場する人物すべての原案を描きあげるところまでこぎつけた。
 とはいえ、原案はあくまで原案であって、その中で決定稿として採用されたのは、今の時点では、香也が提出したデザインの約三分の一ほどに過ぎず、まだまだ膨大なキャラクターについてのイメージのすり合わせやリテイクの繰り返し作業が残っているのだが、最近では香也のほうが、どういうオーダーがくるのか、他の製作者たちの癖や性向というものを学習してきたので、かなり予想がつくようになってきている。
 香也にとってそうしたゲームの絵というのは、羽生プロデュースの同人誌と同じく、あくまで余技にすぎず、こだわりというものがあまりない……ので、極力、相手に注文された通りのものを提出していた。
 ので、堺以外に顔をみたことのないゲームの製作者たちからは、香也は、かなり評判が良かった。
「頼りにされている」、というよりは、「便利に使われている」という感触ではあったが、顔も見たことのない共同制作者たちが香也に対してどういう心境を持とうが、香也はあまり気にしなかった。
 小一時間ほど鉛筆をスケッチブックの紙の上にすべらせ、何体分かの人物の線画……違った角度から見た全体像と、何パターンかの表情が分かる顔のアップ……を描きあげると、それを見計らったように、楓が、
「……これで、一段落ですね……」
 と、声をかけてきた。

 作業を開始した時期がまだ冬休み中だったため、最初のうちは香也も、プリントアウトした資料すべてに律義に目を通していたものだが……新学期がはじまるとともにそうした余裕もなくなり、ここ数週間は楓や堺雅史の話をもとにイメージを起こしている。
 特に楓は、香也があげた絵をネット上にアップする作業をはじめ、ネットを経由して複数の製作者からかえってきた修正案を整理し、重要な部分だけを香也に伝える、という役割まで、行ってくれている。
 そうした、香也と他のゲーム製作との仲介役を、楓が自発的にやってくれたことで、香也の負担は何分の一にも軽減されている筈だった。
 初期の頃、まだそうしたスタイルに慣れていなかった香也は、複数のゲーム製作者か提出させる、矛盾したオーダーの前でかなり悩んだりしていたものだが、楓が間に入って事前にイメージをすり合わせ、統一したものにしてから、そのイメージを香也に伝えてきたため、香也の労力は、一人でやるときの数分の一くらいに減っていた。
 実際に絵にしたのは香也のだが、シナリオとか資料都下から、その元のとなるイメージを統一させたのは、実質楓であり、こと、ゲームの製作に関する限り、楓と香也の二人一組のタッグで仕事を進めていた、といっても、過言ではない。
 人付き合いに慣れていない香也が、一人で同じ作業をしろ、と言われていたら……おそらく、今と同じ結果をだすまでに、もっと長い……下手をすれば、半年とか一年以上もの歳月を必要としていたことも、十分に想像できた。

 だから、楓は、香也と同じくらい……いや、香也以上に、このゲームのことを知っている。今夜、たった今、香也が描き上げた絵が、どういう区切りになっているのか、ということも、楓は、当然、知っていた。
「……早速、アップしてきます」
 そういってプレハブからでていった楓と入れ違いに、孫子とノリが入ってきた。
 ノリはスケッチブックを、孫子は分厚いハードカバーの本を持ってきている。孫子は多趣味で関心が広いらしく、文芸書や科学系のノンフィクションなども、普段から読んでいる。興味や関心を持つ分野の幅が極端に狭い香也とは、対照的といってもよかった。

 孫子は、早速自分専用の椅子に腰掛けて本を開きはじめ、ノリはスケッチブックを差し出して、今日、自分で描いた分の絵を香也にみせてくれる。
 文字通り昨日今日描きはじめたノリの絵は、描線もひどく硬かったし、絵というよりも眼にしたものの輪郭を正確に描きこもうとした後がありありとみえ、ひとことでいうと写真の出来損ないのような素っ気ない絵だった。
 香也は、
『……もっと、子供らしい……はっちゃっけた書き方をしてもいいのに……』
 と、思わないでもなかったが、その辺の印象については特に語らず、
「……んー……」
 と少し考えてから、陰影の付け方や遠近法のおかしな所を二三、指摘するにとどめた。
 ノリのほうは、ひどく真剣な面持ちで身を乗り出し、香也の言葉を一言も聞き漏らすまいと聞いている。最後に香也が、
「そんなにしゃちほこばらずに……もっと、描きたいように描いてもいいと思うけど……」
 といって締めくくると、ノリは、ぱっ背を反らせて、香也の顔から遠ざかった。
 初めて、自分が身を乗り出して、ひどく香也に顔を近づけていたことに、気づいたらしい。
「……や。あ。あ……」
 ノリの頬は、紅潮していた。
「こ、これ……まだ、眼鏡になれてなくて……つい、近づいちゃっただけで……」
 誰もなにもいっていないのに、慌ててそう取り繕い……ノリは、身を翻して、軽々とした足取りで、プレハブから出て行った。
「……あ……ノリちゃん……スケッチブック……」
 取り残された香也の、呆然とした声が背後から聞こえてきたが、ノリは振り返らない。

「……わたくしが、返しておきます……」
 結局、孫子が読んでいた本を閉じて、香也の手からノリのスケッチブックを受け取り、ノリの後を追った。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(104)

第五章 「友と敵」(104)

 有働の話しによると、「報酬を目的としない奉仕活動である」という建前を保持しつつ、地道な活動も普段からやっていれば、多分、問題視はされない筈だ……ということだった。
「……それでもクレームがつくようでしたら、それなりに団体としての体裁を整えなければなりませんが……」
 そこまでする必要はないだろう、というのが、有働の見解だった。
「その、地道な活動って、具体的にはどういうことを……」
 孫子が、有働に質問をする。
「すぐに思いつくのは、公道や公共施設美化活動とか……平たくいうと歩道や公園などの掃除ですね。そのほかに、一人暮らしの高齢者の方々への訪問……。
 こういうことを、定期的に巡回して行えば、その付近の人達には確実に顔を覚えられます……」
 地道……というより、えらく地味だな……と、荒野は思った。
「……もちろん、それだけではありません。こういうのは、あくまでベースの話しで……」
 有働は、こほん、と空咳をした。
「……こんなことを数人単位でやっても高が知れています。だから、全校生徒に呼びかけて、希望者を募ります。
 皆さんには、先陣を切っていただき、この活動の顔になっていただきます……」
「……一種のイメージキャラクターだね……」
 玉木が、有働の説明を引き継いだ。
「少しでも内申をよくしておきたい、という生徒もいるし……そういう子たちに、あんまり真面目に、ではなくて、ノリとか流行みたいなイメージでアプローチして行くのよ……」
「ええ。その流行を作るための、イメージキャラクターです……」
 有働が重々しく締めた。
「……それでねぇ……」
 玉木が、悪戯っ子の微笑みをたたえながら、揉み手をせんばかりの勢いで、まくしたてはじめる。
「……昼休みにいってた、カットモデルの件なんだけど、どうせ写真撮ってポスター作るんなら、それを有効活用して、ボランティア促進運動の宣伝ポスターに転用するという意見を、早速具申してみましたところ、お店の方もご隠居のほうも、快く許可していただきまして……あとは、モデルさんたちのご意向しだい、といったところでございます……」
「……おい……」
 荒野のこめかみに、血管が浮いた。
「……それって……おれたちの写真を、商店街近辺にべたべた貼って歩くっていうわけか?」
「……美容院さんにとっては宣伝になる、わたしらにとっては、活動とか人集めの告知ができる……。
 誰にとっても、いい結果を産むタイアップかと思いますが……」
 玉木の顔は笑っていたが、目は真剣だった。
「……カッコいいこーや君にとっては、不本意なのでしょうが……顔を売って、地元でのこーや君たちの心証を良くする……という方針には、十分に沿っているかと思います……」
 荒野は玉木としばらく睨み合った末、荒野が、ふいっ、と目をそらし、話題も微妙に反らせた。
「……でも、ボランティアっていうのを強調し過ぎるると、商店街とかの客寄せなんかは……かなり、制限されるじゃないか?」
「……いえいえ。
 その辺も、ちゃんと考えていますよ……」
 玉木と有働の案は、学校側を納得させる口実を作ることが、が大前提だったのであり、そのため、真面目な有働の生硬なアイデアを軟派な玉木が、資金その他の現実的な諸問題をクリアできるように補正する、という形でブッシュアップしたことが、ありありと分かる形になっていた。
 町全体の美化や独居老人宅への定期的な訪問、などという、ある程度まとまった人数が動かなければならない活動のためのCMキャラクターとして、年末、商店街にあれだけの人を呼び寄せ、マンドゴドラの売上を飛躍的に伸ばした実績を持つ、楓や孫子、茅や荒野を使う。
 その際のPR活動に必要な資金は、タイアップという形で、地元商店街に出してもらう。もちろん、そのかわり、資金を供出してくださった企業のCMも、同時に行う。
「……この辺は、こんどの美容院さんの事例が成功するか否かで、資金出してくださるお店の数も変わって来るだろうと思うけど……」
 今までの例から考えても、大きくこけることはないであろう……と、玉木は見ている。
「……で、今週末からしばらく、試しに商店街でチラシやティッシュを配ってもらうのを考えている訳だけど……」
 そのチラシやティッシュには、「地域ボランティア要員募集」というのと、商店街のお店の情報が併記される、という……。
「……年末のあれ、商店街の方じゃあ、未だに語り草でさぁ……」
 玉木は、荒野たちの顔をゆっくりと見渡して、断言する。
「……何人か、ご近所さんに声を試しに声をかけてみたけど、君らが出張るのなら、協力してくれそうな人、ごろごろおるわけですよ……。
 またなんかイベントやってくれ、って意見も、すごく多くて……」

 玉木と有働との打ち合わせは、下校時刻ぎりぎりまで続いた。
 終始渋い顔をしていたのは香也一人であり、その他の三人は割合に乗り気だった。
「……ボランティア活動は、富者の権利です」
 というのが孫子の言い分であり、
「別に、悪いことではないと思いますけど……」
 楓も、荒野の顔色を伺いながらそういった。
「いろいろな人に、会ってみたいの」
 茅は、そういった。

「……そこまで考えているのなら、もう反対はしないけどな……」
 荒野は、首をふりながら、そういう。
「……で、肝心の、ボランティア要員の方は、集まる当てはあるのか?」
 掛け声だけ、ポーズだと、また、学校側に目をつけられるのではないか……と、荒野は思った。
「そっちのほうは、割合、なんとかなるんじゃないかと思っています……」
 荒野たちの顔をぐるりと見渡しながら、有働はいった。
「試しに、何人か、心当たりに声をかけてみましたが……校内での反応を見ると、ボランティア活動がどうこうというよりも、皆さんと一緒に過ごすこと目当てで参加しそうな方が多そうで……」
 荒野も、有働の視線を追って、茅、楓、孫子……などの顔を見渡す。
『……なるほど……』
 荒野にしてみても、十分に納得できる動機だった。
『外見だけなら、こいつらも……』
 中身……というか、実態を知らなければ、美少女揃いなのだった……。
「……なに、他人事みたいにうなずいているんですか、この、カッコいいこーや君は……」
 玉木が、荒野の背中をバンバンと平手で叩く。
「君目当てに集まって来る女子も、多いんだぞ!」
 玉木にそういわれ、荒野の目が点になった。
「実態を知らなければ……外見だけなら、加納も美形で通りますものね……」
 とは、孫子の伝である。

 その後、
「まずは、試験的に、カットモデルのポスターを何枚かプリントアウトして、美容院の店頭で反響を確認して見る。
 その反響如何では、本格的に経費を集めて宣伝人集めに繰り出す……」
 ということ確認し、
「カットモデルの反響と人集めについては、あまり心配していないんですが……」
 有働は、「その後の、実務的な段取りの方に、若干の不安がある」という。
「……特に最初のうちは、集まって来る人達のモチベーションは、あまり高くないでしょうから……」
 行動を指示する側がモタモタしていれば、「なんとなく」という曖昧な気分で集まってきた連中は、すぐに散ってしまう、ということだった。
「……だから、的確に仕事を配分する、というマネジメントのシステムが、早急に必要になります……」
「それ……茅が、やるの」
 それまで黙って聞いていた茅が、片手をあげる。
「美化、が必要な場所のリストアップは、放送部にまかせるの……」
 そういう情報については、長年、この土地に住んでいて土地鑑がある人達に任せた方が、危なげがない。
「……あと、定期訪問を希望する独居老人宅の調査は……」
 これこそ、人手がいる。
 人海戦術で、一軒一軒聞き込みでもするより他、ない。
 幸い、以前、学校に転入してくる際、クラスメイトたちの身元調査を行った時に見た地図を、茅は記憶に留どめていた。
 玉木から、コピー用紙を一枚もらった茅は、その場で用紙を裏返し、そこの白紙に、
「……どれくらいの人数が揃うのか、今の時点では予想できないけど……」
 と、フリーハンドで学校と駅前周辺の簡略な地図を描きはじめる。
「……線路とこの通りとこの通りを……」
 という具合に、あっと言う間に、学区内の地域をいくつかのブッロックに区分してしまった。
「……それではわたしは、このブロック分けに従って、参加希望者の住所から班割りを編成するソフト、組んで見ますね……。
 自分の家の近所のほうが、ある程度事情も分かっていると思いますし、聞き込みもしやすいでしょうし……」
 茅が描いた完略地図を手にした楓は、ことなげにそういう。
「……それと、その班内での連絡網やスケジュール確認のソフトも、作ってほしいの。
 聞き込み調査時の管制は、茅が一人でやった方が混乱がないと思うけど、調査が一段落して実際に活動を始めるようになったら、参加者それぞれの都合を確認しつつ、調整することが必要になると思うの……」
「はい。
 みなさん、急がしい中、無給で働いてくださる分けですからね……」
 玉木と有働は、てきぱきと実務的な内容を打ち合わせて行く二人を、目を丸くして見ていた。
「こいつら……外見だけが取り柄の、お人形じゃねーから……」
 玉木と有働の様子をみて、荒野は、楽しそうな声でそういった。
 こうした……荒野たちの能力を善用し、それを衆目の元にさらし続ければ……。

 なんとなく荒野は、本当に、自分たちの居場所を確保できるのではないのか……という希望を、うっすらと持ちはじめる。
 まだまだ不確定な要因が多すぎるし……未知の存在に対する偏見や理由のない恐怖、憎悪……といったものを、荒野は過小評価していないので……少なくとも今の時点では、あまりにも淡い希望、ではあったが……。
 それでも、希望は希望、だった。

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彼女はくノ一! 第五話 (62)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(62)

 食事を終え、荒野と茅が帰って行くと、香也、楓、孫子の三人は教科書やノートなどの勉強道具を準備しだし、ノリは、自分用に貰ったスケッチブックを持って来て、なにやら描きはじめる。テンは、篤朗から押し付けられたノートパソコンを畳の上に置き、腹ばいになって炬燵の中に下半身を突っ込んで、寝っ転がりながら猛然とタイプしはじめた。
 ……特にすることを思いつかなかったガクは、台所に行って、真里や羽生譲と一緒に後片付けの手伝いをすることにした。

 島を出るまで、いや、この家に来るまで、三人はいつも一緒だった。
 しかし、ここに来て……テンとノリには、どうも、個々人でやりたいこと、というのができたようで……二人とも、自分が好きなことをしている時間は、三人一緒でいる必要をあまり感じていないようだった。
 つまり、ガク一人が取り残された形である。
 そうした、夢中になれるもの、を、未だに見つけられることができないガクは、そんな二人が少しうらやましくて、かなり寂しい。
 ガクは、なんだかテンとノリの二人に、置き去りされたような心持ちになっていた。

 食器洗いが片付いて、居間にいる二人に声を「お風呂に入らないか?」と声をかけるが、生返事しか帰ってこなかったので、仕方なく一人で風呂場に向かう。
 狩野家の広々とした風呂場も、たった一人で浸かるとなると、ひどく寒々しい感じがした。
 ガクは、湯船で長々と手足を延ばしながら、島にいた時のことを思い出す。

『……あの頃は、楽しかった。なにも考えないで、いられた……』

 それから、今朝、ランニングの時に、茅に言われたことを反芻する。
『こいつら……自分たちの身の安全を保証してくれる、有力者を確保したいと思っているの。
 涼治の保護下に入ったのも、そうすれば、しばらくは安全だから!
 あわよければ、荒野も取り込もうとしているの。
 荒野、涼治よりは扱いやすいと思われているの! 』
 ……本当に、そうなのだろうか?
 ボクたちは……涼治や荒野の存在を、自分たちに都合がいいから、利用しているのだろうか?
 今まで物事を深く考えることを他の二人へ任せて来ていたガクには、よくわからない。
 でも、仮に、茅のいうとおりだったとしても……それは、悪いことなのだろうか? 荒野と茅も、この家の人達も、知り合ってからまだ間もないが……これまでのところ、付き合ってきてそんなに悪い印象を、ガクは持っていない。
 ……第一、晩年のじっちゃんは、自分が死んだら、加納を頼れ、と、そういっていた。
 ガクは、じっちゃんの事も思い出す。
 じっちゃんは、ガクたち三人を、
『おまえたちは、可能性だ。
 一族だけではなく、人類すべての、可能性だ……』
 と、口癖のようにいっていた。

『……お前らを作ったやつらは、一族の将来に危機感を持っていたのだと思う。
 かつて、特別な能力と技を持つ、特別な存在であった自分たちは……一般人たちのテクノロジーの進歩によって、用済みになりつつある、と……。
 いくら早さを売りにしようが、野呂の者は、自動車や鉄道、飛行機以上に早くは走れない。
 いくら精強を歌おうが、核兵器を上回る殺傷能力を持つ二宮は、いない。
 地球中を覆う情報網を誇った姉崎も、今ではそれ以上に緻密な電気仕掛けのネットワークが世界中に張り巡らされている。
 佐久間の記憶力も、情報機器が発達した現在では、相対的に価値がなくなっている……。
 日々進歩する技術に追われ、日々、その居場所を狭くされ、追い立てられながら……それでも、将来においても、一族が一族でありつづけるための布石として作られたのが……お前たちだ……』
 あれは……じっちゃんにとっては、とても悲痛な言葉だったのかもしれない……と、今になって見れば、ガクにはそう思える。
 島にいた時はあまり意識していなかったが、じっちゃんは、その能力から考えても、明らかに一族の一員だった……。
 自嘲、以上の思いが込められていたのだろう。
『……だがな……。
 自分が何者になるのかは……お前ら自身が、自分で選べ。
 一族の一員といして生きるのもよし、一般人に紛れて平凡な生涯を送るのもよし……それ以外の、わしには想像できんような、別の選択をするのもよし。
 お前らは、お前らだ。
 お前らを作ったやつらの思惑なんか、軽々と飛び越えて見ろ。
 お前らなら、それができる……』

 ここに来て……テンとノリは、なんだか、自分自身が進むべき方向を、見つけたように見える……。
 そして、ガクは、自分がなにをやりたいのか……テンやノリほどには、はっきりと分からないでいる……。
 ガクがそんなことを考えていると、ガラガラと引き戸が開いて、
「……お風呂イベント、発生!」
 と叫びながら、全裸の羽生譲が入って来た。
 羽生譲は、かかり湯を使うのもほどほどに、湯船に入り、ガクと肩を並べる。
「……なんか、他の二人に比べて、ガクちゃんが元気ないように見えてな。
 様子みがてらに、来たんだけど……。
 なんか、しょぼーんとすることあった?」

 ガクがぽつりぽつり自分の考えていることを話すと、羽生譲は「わはははは……」と声に出して笑った。
「……なんか、みんなして同じよううな事、悩んでいるのな。楓ちゃんもこの前、そんなような事、いってたし……」
「……楓おねーちゃんが!」
 ガクが、驚きの声をあげる。
 ガクにしてみれば、楓は、完全無欠、とはいかないまでも、かなりしっかりした大人に見ている。少なくとも、正面からぶつかって、力づくでガクを倒した大人は、楓が初めてだった……。
「……うん。
 いろいろ悩んでいるらしいぞ、楓ちゃんも。
 楓ちゃんの場合は、スペックの高さと本人の指向がずれていて、そのことに悩んでいる感じだったな。
 今の延長で過ごすことは、楓ちゃんにとっては簡単なことなのだけど……それは、果たして、楓ちゃん自身が納得できる選択なのか……」
 羽生譲は、真顔になって、湯船のお湯で顔を洗った。
「……楓ちゃん……ここに来るまで、誰かに対して『NO』っていったことなかったらいんだよね。
 誰かに否定的なこといっちゃうと、自分自身も否定されちゃうような気がしていたみたいで……。
 かなり頑なに、誰にとっても都合のいい楓ちゃん……いい子を、演じていたようで……。
 それも、孫子ちゃんが来たあたりから、かなり様子が変わってきたけど……。 それ以前の楓ちゃん、いつも笑っていて、でも、その、笑顔が、時々、痛々しく見えることがあって……」
 ガクは、羽生譲の話しを、真剣に聞いている。
「……で、この間、楓ちゃん、カッコいい方のこーや君になんか言われたみたいでな……。
 自分自身で考えて動く、ということが、よく分からない……って、いってたんだ。
 そういうこといわれても……わたし自身、自称順也先生の弟子、実態は、居候のフリーターだしな……。
 あまり、まともな相談相手には、ならなかったわ……」
 あはははは、と、羽生譲は声をあげて笑った。
「……だから、まあ……わたしもそんなたいしたこと、言えないけどさ……。
 ガクちゃんも、いろいろと悩むのがいいよ……。
 ガクちゃんたちも、楓ちゃんも、いろいろ思うところはあるでしょうが、それ、わたしら、カッコいいこーや君のいう、一般人の人達も同じだから……」
「……同じ……なの?」
「うん。
 自分が何者なのか、わかんないまま育っちゃうっていうのが、本当だと思う……。
 うちのこーちゃんみたいに、これと決めた分野にわき目も振らずず……っていうのが、かえって珍しいよ……。
 大半の人は、なんも分からないまま学校出て、働いたり結婚したりして、いつの間にか何年かたって……その時、自分がいる場所を、何年も前から予想したような、平然とした顔をして受け入れる訳だけど……そんなもん、後付けの納得よなぁ……ほとんど……」

 だから、悩みたければ納得がいくまで悩めば良い、と、羽生譲はガクにいった。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(103)

第五章 「友と敵」(103)

「……才賀も今の所に住み続けたいわけだし、利害は一致するだろ?」
 そう締めくくって、説明を一段落する。
 孫子は、頷いた。
 孫子にとっては、それ以外に、「他の人のため」という名分があれば、普段は禁止されている「あの格好」が堂々とできる……というメリットも、ある。
「……で、玉木。
 学校側への対策、なんか思いついた?」
「あることはあるけど……。
 ああ……もう、こんな時間だよ……」
 玉木がそうぼや言ったので、時間を確認すると、予鈴が鳴るまでにもう十分もない時刻になっていた。
 孫子への説明が、予想以上に長くなってしまった。
「……じゃあ、続きはまたの機会だな……」
 なにやら、時間のかかる打ち合わせが必要になりそうな雰囲気を玉木の態度から感じ取った荒野は、
「……続きは、放課後にでも……。
 今度は、茅や楓も呼んでおこう……」
 そういって、メールを打とうと携帯を取り出す。

 そして、美容院の予約をまだ入れていないことに気づいた荒野は、札入れの中から、以前の撮影の時、美容師さんから渡された名刺を取り出し、店の番号にかける。
「あ。どうも……。
 予約を、お願いしたいんですけれども……できれば、今度の土日、どちらか……。
 え?
 いえいえ、一人、ではなく、ですね、その、ちょっと人数が多くなっちゃって……ええ。
 えと……五人、です。
 はい。はい。
 あ。加納です。加納、荒野……え?
 はい。あの、確かにその、その時にお世話になった、加納荒野……ですけど……え?
 ええ。ええ。
 え? ええ?」
 荒野は、大声をあげた。
 めったに取り乱すことがない荒野が困惑した様子だったので、その場にいた三人の視線が荒野に集中する。
「……なんですか? カットモデルって!」

 玉木は自分の携帯を取り出し、荒野が電話をしている最中に、登録してある番号にかけはじめた。
「あ。どうも。写真館のご隠居さんですか?
 どうも、うお玉の玉美です。
 はい。はい。
 あの、今日はですねえ、ご隠居に耳寄りな情報をお一つ……。
 いえ。いえいえいえいえ。
 あの、ケーキ屋さんの時の黒猫さんと白猫さんの兄弟。はい。その二枚目の、兄のほう。はい。
 あの二枚目さんがですねぇ、今度は、美容院のほうでも、モデルさんやるそうなんですよ。はい。いえ、一人だけではなくて、ですね、どうも五人ぐらいのキレイドコロ引き連れていくそうですが……はい。はいはいはいはい。でしょ? でしょでしょ? やっぱり写真に残して置きたいですよねぇ。ええ。ええ。はい。ああ、ちょうどよかった。ご隠居、デジタル一眼レフ買った所なんですが。はい。じゃあ、腕慣らしにちょうどいいですねぇ。はい。では、モデルさんとか美容院の方とか、そっちの手配はこっちで話し通して置きますんで。はい。じゃあ、詳しい日時などは、また詳細が決まり次第。はい。できるだけ早く連絡しますので……」
 電話を切ると玉木玉美は「おしっ!」握りこぶしを握って気合を入れて、荒野が持っていた美容師さんの名刺をひったくり、そこに記載されている店の番号をプッシュしはじめる。
「あ。どうも。わたくし、先程電話した加納荒野君の友人で玉木玉美と申します。偶然、加納君がそちらに電話する所に居合わせまして、カットモデル、という単語に反応してついついこうして連絡してしまった次第で、はい。で、早速ご相談なんですが、そのせっかくのカット、はい、そのままにしておくのはもったいないと思いませんか? 折角の上玉モデルです。できあがった端から、この道ン十年の実績を持つプロのカメラマンに写真に収めていただく、場合によっては、ポスターなんかもこちらで作ってしまいますが……。いえいえ。営業ではございませんよ。はい。お金はびた一文、いただくつもりはございませんから。というのは、ですね。わたくし、地元商店街の住人である関係で写真館のご隠居と親しい間柄でして。はい。ご隠居、最近新しいデジカメ購入したばかりで、いい被写体を探していた所なんですよ……。そう。あの、ケーキ屋さんの時にもカメラマンをしてくださった、あのおじいちゃんです。はい。先程こういう話しがあるんですが、と連絡しました所、それは是非参加して、写真を撮ってみたいと、はい、そういう次第です。はい。はい。わたくしは、玉木玉美と申します。はい。加納君の友人で、駅前商店街の、うお玉という魚屋の娘です。はいはい。はい。はい! では、そういうことでぇー……」

 加納荒野と玉木玉美は、ほぼ同時に通話を切った。
 そして、……。
「……いぇい……」
「……楽しいお友達がいるのね、って、笑われた……」
 加納荒野と玉木玉美は、ほぼ同時にそういった。
 そして、ちょうどその時、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。

 荒野は、五時限目と六時限目の間の休み時間に「放課後、放送室に集合」という内容のメールを、楓に茅に打った。玉木と有働の話しがどれくらいの時間、かかるものなのか、荒野は知らなかったが、二人とも、部活があってもなくても、いつも下校時刻ぎりぎりまで学校に居座っているから、特に不都合はないだろう。
 やがて、放課後になり、掃除の当番に当たってなかった荒野と才賀孫子は連れだって放送室に向かう。
 放送室の前で、一年の楓と合流した。
 楓の話しによると、茅は今週掃除当番に当たっており、少し遅れるという話しだった。
 玉木と有働のほうはまだ放送部に来ていなかったが、孫子の囲碁勝負の件で顔見知りになっていた放送部員たちは荒野たちの来訪を知らされていたらしく、荒野たちを放送室内に招き入れてくれる。
 昼休みの時と同じく、イージーリスニングのBGMを流しながら、時折放送部員が事務的な口調でアナウンスを入れていたが、昼休みに玉木がやったアナウンスの方が数段滑舌がよく、耳に快い、と、荒野は感じる。
 騒がしいし、性格とかにいろいろ問題はあるが、玉木もあれで自分の本領では、それなりにたいしたもんだよな、とか、思った。

 十五分ほど待たされたあげく、コピー用紙の束を抱えた有働勇作を背後に従えて、玉木玉美が放送室に入って来た。
 玉木が、
「……もう、いいよん。
 後はわたしらが代わるから。交替交替……」
 と手をひらひおらさせると、それまで仕事をしていた放送部員たちがぞろぞろと出て行く。
 三学期も半ばのこの時期、部活をしているのは一年生と二年生だが、玉木と有働は、同じく学年の部員たちにも一目置かれているらしい、と、荒野は観察する。
 文科系のクラブは、体育会系とは違って、あまり上下の区別は厳しくないと荒野は聞いていたが……この間の囲碁勝負の件でも、放送部の結束の固さは、間近にもみていた。
 有働がコピー用紙を各人に配っている間に、掃除当番に当たっていた茅も放送部に入って来て、それで、声をかけていた全員が揃ったことになる。
「……いろいろ調べて、何人か先生の考えも、それとなく聞いてみたんですが……」
 有働勇作は全員を見渡してそう切り出した。
「……やはり、対外的には有志によるボランティア活動、というポーズを取ることが、一番、問題がなさそうです……」

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彼女はくノ一! 第五話 (61)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(61)

「……カットモデルというのはな、簡単にいうと、カット代を負けてくれる代わりに、お店の宣伝とか美容師さんの勉強に協力するってことで……」
 夕餉の席で、荒野が主に三人に向けて説明をしはじめる。
「……今回の場合……最初は、人数が多くて予約が難しいって話しだったんだが……それなら、お店が休みの時に……どうせなら、モデルやポスターとか、こっちが協力するのなら、向こうさんも休日出勤してくださる、と……。
 そんな具合に、とんとん拍子に話しが進んでいってな……。
 まあ、あの玉木のいる側で、予約の電話いれたおれのほうも悪かったといえば悪かったんだが……」
 荒野は、箸の動きを止めて、深々とため息をついた。
「ぜんぜん、悪くないと思うけど……」
 湯豆腐に箸を入れながら、テンがいう。豆腐などの加工食品は、島を出て初めて口にしたテンたちだが、今ではそのうまさを認めていた。
 特にテンは、淡泊ななかにもそことはない旨味がある豆腐が、かなり気にいっている。
「……だって、昨日のかのうこうやの話しでは、ボクたち、この辺の人たちの役に立つことをやっていく、って方針だったんでしょ?
 そのお店の役に立って、それで、ボクたちも、お金払わなくていいんなら……どこにも、都合が悪いことなんかないじゃないか……」
 正論だった。
 しかし、荒野は……。
「……お前らは、単純でいいなぁ……」
 と、再度嘆いてみせる。
 三人は機嫌を大いに損ね、盛大にブーイングをしだした。
「荒野、恥ずかしがり屋なの……」
 しばらくして、茅がそういうと、三人はようやく納得した表情で頷きあう。
「……なぁる……」
「道理で……胆、小さいそうだもんな、かのうこうやは……」
「胆、もそうだけど、器量のほうも問題だと思うな、ボクは……」
 本人を目の前にして言いたい放題に論評しあう三人。
 荒野はその様子をみて、怒りを感じるよりは、げんなりとした表情になった。
「いや……もう……なんでもいいよ……」
「まあまあ、カッコいいこーや君、そんな所でめげてないで……」
 そんな荒野を、羽生譲が元気づける。
「その呼び方、なんとかなりませんかね……」
 荒野は、捨てられた子犬のような同情を誘う瞳で羽生譲を見つめる。
「おれ、学校でも玉木にそう呼ばれているから……。
 その呼ばれ方すると、背中に悪寒が走るようになってしまいましたよ……」
「……玉木ちゃん、カッコいい荒野君、いぢめているん?」
「いじめ、じゃあないし……むしろ、よかれと思って、いろいろ段取りつけてくれるんですけど……」
 荒野は、深々とため息をつく。
「……あいつ、もともと行動力がある上に、商店街の人達とも仲いいから……こちらの予想以上のこと、してくるんですよ……。
 相談したの昨日なのに、もう話しをまとめて……こちらの香也君にまで仕事持ってくるし……」

 昨日、荒野は、自分たちの正体が周知のものになる前に、ここの地元に根付く……という方針を、玉木と有働から提案された。
 荒野が特に異存はない旨を伝えると、玉木は、今日のうちに、「自発的な地域ボランティア団体」の発足を提案して来た。
 賃金労働、という形だと、学校からクレームがつく公算が多いが、無料奉仕ならば、別にお咎めをうけることはない……。
「……まあ、商店街の関係でいうと、現金のやりとりがないだけで、現物支給という形で報酬貰えることになるみたいですが……」
 その第一弾として、玉木は、香也に仕事を持って来たのだという……。
「……おれらばかりじゃあ、変に目立つから、ほかにも何人か同じように働いてくれると、たしかにカモフラージュにはなるんですが……」
 玉木が持って来たのは、商店街のシャッターを、香也の絵で飾るとことだった。
 高齢化が進んでいる駅前商店街では、後継者がいなくてシャッターが閉めっぱなしになっている店も決して少なくない。そうした店も含めて、商店街のシャッターを全体を、明るい色調の絵で飾ろう、という計画を進めているらしい。
 まだまだ関係者に話を通し始めた段階だが、昨年末、香也が、マンドゴドラのショーウィンドウに即興で絵を描いた現場を目撃した人々が率先して他の人々の賛同を取り付けはじめている。
 また、その際、ペンキ代などの実費を商店街が持つにしても、業者に頼むよりはよほど安くあがるわけで、玉木の話では、かなりの好感触だという。
「玉木の奴……早速、今日の放課後、部活中の香也君の所に話をつけにきましたよ……」

 香也の返答は、いつものごとく、
「……んー……。
 いいけど……」
 だった。
 他の事ならともかく、絵に関することになると、別に断る理由はないらしい。

「……そんで、カッコいいこーや君のほうは、カットモデルさんかぁ……」
 羽生譲が相槌を打つ。
「……最初は、単純に調髪にいこうってだけだったんですけど……予約の電話した時に、ちょうど玉木の奴がいて……。
 カットモデルの話しはお店の方から出たんですけど、気づくと、玉木の奴が写真館のご隠居とかに電話して……」
 ……その場で手配をつけてしまった……という、話しだった。
「……ポスターなんて、別に印刷しなくても、今はいいプリンターがあるから、っていって……。
 最初は数枚とか数十枚の単位で用意して、好評だったら、印刷にだすとかいっています……」
 玉木の話では、写真館のご隠居は、最近はデジカメに凝りはじめたらしい。
 ご隠居は、店の仕事はもう跡継ぎに任せている状態なので、なにか腕を振るう場所さえあれば、二つ返事で駆けつけてくる。

「……なんだ……それじゃあ、テンちゃんのいう通り、誰もかも得しているわけで、なにもカッコいいこーや君がしょぼくれる必要、ないじゃんかよぉ……」
 羽生譲は、目を細める。
「カッコいいこーや君も……もう、いい加減、腹を括って覚悟を決めちまったら……」
「……そうは、いいますがね……」
 荒野は、嘆息する。
 物心ついてから今まで培ってきた「目立つな」という至上命令を、今さら、自分の意志で解除することは……荒野の心理に、予想以上の負荷をかけている。
「なんか……このまま流されていくと、おれがおれでなくなっちゃいそうで……」
 少なくとも……今まで荒野がそうあろうとしてきた、「忍」、ではなくなる。

 荒野が一人悩んでいる間にも、その場にいた他の人々はいつも通りの健啖ぶりをみせて食事を進めている。

「……なぁんだ、そんなことか……」
 羽生譲は、笑った。
「確かに、わたしは、こっちに来てからのカッコいいこーや君しか知らないし……それと、今のカッコいいこーや君とは、違ってきているかも知れないけどさ……。
 それでも、カッコいいこーや君は、カッコいいこーや君だろ?
 ほんの少しばかり、顔出しの仕事が増えて目立ったからって、根本のところから、カッコいいこーや君の人格が変わってしまう訳でもないし……。
 少なくとも、この場にいる人達が、カッコいいこーや君との付き合い方を変える、ってわけじゃあ、ないだろ?」
 荒野は、炬燵に入って食事をしている人々を見渡す……。
 茅がいる。真里がいる。香也がいる。羽生譲がいる。楓がいる。孫子がいる。テンがいる。ガクがいる。ノリがいる。
「……第一、みんな一緒にやるんだし……。
 あんまり考え過ぎなくても、いいんでないかい?」

 羽生譲の声が、荒野の胸に沁みた。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(102)

第五章 「友と敵」(102)

 その日の午前中、荒野は授業に身が入らなかった。
『……なんか……』
 周囲が……荒野を、荒野たちの背中を、荒野たちがまるで想定していなかった方向に追いやろうとしている……。
 と、いうような感触を、今の荒野は持っている。
 今までの荒野は、自分と、あとせいぜい、茅や楓くらいまでを含めた、ごくごく狭い範囲のことさえ、考えていればよかった。
 しかし……。
『……昨日、玉木と有働君が来た前後から……』
 周囲の、荒野たちが住む、この周辺との関係までを含めた、かなり広い範囲のことまで考えなければならないような具合になっているわけで……。
『正直……』
 気が重い、と、荒野は思う。
 荒野の器量に対して、荷物が勝ちすぎている……とも、思う。

 ついこの間まで、上から指示にしたがって動くだけだった若造に……大状況自体を、自分たちの有利になるように、動かせ、変えて見せろ、と、いわれても……。
 玉木たちが昨日、荒野に提案してきたことは、つまりは、そういうことだった。
 そして荒野は、その提案を却下する、具体的な根拠を、なんら持っていないのだった……。

 今朝、本田三枝に指摘されたことから考えても……綻びは、すでにあちこちに見え隠れしている。そして、こうした綻びは……時間がたてばたつほど多く、大きくなっていく筈で……。
 玉木たちがいう通り……決定的に、荒野たちの正体が露になるのが早いか、それとも……荒野たちの正体がなんであれ、周囲の人々があまり気にかけない状況を構築するのが早いか……。
 もはや、「時間との戦い」といっても、過言ではなかった。

「加納君……なに、難しい顔、してんの?」
 昼休み、給食を食べ終えた後、本田三枝がそう声をかけてくる。
「ひょっとして……今朝いったこと、気にしていたりする?
 心配しなくてもいいよ、別に、わたし、言いふらしたりしないから……」
「あ……ああ。
 そっちの方もあれだけど、もうちょっと気掛かりなことがあって、そっちの方のことで、少し考え事、してた……」
「……もしかして、妹さんのこと?」
「んー……。
 それも、多少は、はいっているのか……。
 でも、うん。大丈夫。
 多分、なんとかなるから……」
 荒野がそういいかけた所で、
「……やっほー! 格好いいこーや君、いるかねー?
 放送部が直々に呼び出しだよーん……」
 とかなんとか、能天気な声を張り上げて、玉木珠美が教室内に入って来る。
 玉木は、荒野の席まで近づいた所で、ようやく羽田歩の存在に気づき、
「……ありゃ? お邪魔だった?」
 と本田三枝に尋ねた。
「い、いえ……別に……たいしたこと、話してないから……」
 そういって本田は、小走りに教室の外に出て行く。
「……憎いね、このこの。
 カッコいい荒野君は、カッコいいからなぁ……」
 玉木はそういいながら、荒野に顔を近付け、
「……例の件の打ち合わせ。
 ここではなんだから、放送室で……」
 と、小声で囁く。
「……ああ。そうだな……」
 荒野は返事をしながら、同じ教室内の自分の席で読書に勤しんでいた才賀孫子に声をかけた。
「おい。才賀。
 お前にも関係あることだ。ちょっと付き合え!」

「……カッコいいこーや君、あそこで才賀さんに声をかけたのはナイスだったねー……」
 放送部に行く道すがら、玉木珠美はそんな話題を振った。
「あれで、教室内の誰も、わたしがカッコいいこーや君呼び出したの、個人的な用件だとは思わなくなったよ……」
「……えーと……。
 おれのほうの、個人的な用件だとは思うけど……」
「……そりゃ、そーだけどさぁ……」
 荒野が平然とした様子だったので、玉木は不満顔で口を尖らせた。
「……才賀さん、この朴念仁にいってやっていってやって!」
「いうだけ、無駄……ですわ」
 孫子の返答は、にべもない。
「この子……他人のことにばかりかまけている癖に……自分のことには、随分と鈍感ですから……」
「……まさか、まさか……」
 玉木珠美は、戦慄した。
「カッコいいこーや君……校内の女子に、自分がどういう目でみられているか……」
「まるで、自覚している様子がありませんわ……。
 誰も、指摘する人がいませんでしたし……」
 玉木は「……あたぁー……」といって、天を仰いだ。
「おれ……。
 女子の間で……なんか、変な風に見られているのか?」
 まるで自覚がないのに、なんか大変ないわれようをしている荒野は、徐々に不安になってきた。
「ま……その話しは、廊下ではなんなんで、放送部でゆっくりと……」
 玉木珠美は、がっくりと肩を落としていた。
「意外に天然だったんだなぁ……カッコいいこーや君……」
「というより、今まで、そこまで気を回す余裕がなかったのだと……」
 孫子が、例によって荒野には理解不能なフォローを入れる。

「あ。玉木さん、ちょうどよかった……。
 今、曲が切れる所です。アナウンス、お願いします……」
 放送部には、すでに有働勇作が来ていた。有働の言葉を玉木は、「おーけーおーけー」と軽く手を振って受け止め、有働の手から原稿を受け取って、マイクの前の椅子に座った。
 ちょうど、放送で流れていたイージーリスニングの面白みのないBGMが、途絶える。
 そこで、玉木はすかさずマイクのスイッチを入れ、いつもとはまるで違った、はきはきしたしゃべり方で、「風邪の予防が」どうのこうのとか「風紀委員からお知らせです」とか、あんまり真面目に聞いている者はいないのではないのか、という、学校関係のオフォシャルな情報をアナウンスし始める。
 最後に次の曲の曲名を告げて、玉木がマイクのスイッチを切ると、すかさず、有働が年代物のコンソールを操作して、次の曲を流し始めた。
「あの……校内放送の声……玉木だったのか……」
 呆然とつぶやく荒野。
 順当に考えれば、放送部の誰かがやっていることは、容易に想像がついた筈だが……いつもの玉木と今のとりすました声との間にイメージのギャップがありすぎて、こうして実物を拝見するまで、両者を結びつけられなかった……。
「ふっふっふ……女子アナ志望は伊達ではないのだよ!」
「……玉木さんは、うちで一番発声が正確ですから……」
 玉木は得意そうに胸をそらし、有働もフォローを入れる。
「そんなことよりも、だ。
 今日、お呼びだししたのは他でもなぁい!」
「……加納が意外に鈍感で、自分のことには気が回らない件について、ですわね?」
「そうそう。
 カッコいい荒野君は、自分の外見について自覚が足りなすぎるよ!
 このイケ面だよ! このふわっふわの銀髪だよ! 三学期という半端な時期に来た謎の転校生だよ!
 これでどうして女子の注目を集めないでいられようか!
 ……って、ちがーう!
 才賀さん、人が珍しく真面目にやろうとしているんだから、変な方向に話しをずらさないで!」
「……その話しじゃあ、ありませんの?」
 孫子は軽く眉を顰めた。
 この面子で、昼休みにわざわざ集まって話し合うようなことが……。
「……才賀には、まだ詳しく話していなかったな……」
 荒野は軽くため息をついて、才賀孫子に自分たちの思惑を話しはじめた。
 茅や三人組を相手に昨夜説明したことの繰り返しだったから、比較的手際よく説明できた。

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彼女はくノ一! 第五話 (60)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(60)

 六節棍、というからには、節が六つある訳で、その六つの節で連結されるている棒状の本体は全部で七つ、ある。三人が使う物の場合、その棒一本の長さは二十五センチ、すべてを連結して一本の棒にした場合の全長は百八十センチ弱になる。
 三人の身長よりも長い得物を、三人は縦横に振り回す。三人の力と速度で振えば、軽いグラスファイバーの棒も、十分な凶器になる。
 篤朗と一緒にその演舞をみていた浅黄は、「おさるさんみたいー」と喜んで手を叩いていた。
 ……孫悟空みたい、と、いいたかったらしい。

『……とりあえず、棍の基本的な使い方を見せておくか……』
 そう思ったテンは、一通りの型を演じてみせた。
 突く、薙ぐ、払う……などといった、棒術と共通の基本的な動作に加え、関節を外した状態での変則的な型まで、一通り、やってみせる。
 初めてみる篤朗や浅黄たちのため、一部、あるいは全部の関節を外すところを、ゆっくりと実演して見せる。通常は、「棒」から「棍」への移行も、どこでそれを切り替えるのか、というのも、実戦の場での駆け引きである訳だから、ことさらに見せることはない。 
 それでも、ノリが全ての関節を外した状態で六節棍を振うと、細いワイヤーで連結された短い棒はまるで生き物のように蠢く。その動きは、素人の篤朗や浅黄の眼にはあまりにもめぐるましく、かつ、変幻自在にみえた。
 六節棍は、ノリの身体の回りを、生き物のようにくねりながら、蠢く。テンの回りをヘビが這っているようにも、みえたが……その各部が、不意に跳ね起き、払い、突く……。
 浅黄はマジックショーかなにかのように思いながら、手を叩いて無邪気に観ていたが、篤朗のほうは、
『……近接戦闘用の……武器……なのだな……』
 という三人にしてみれば当たり前の事実を、改めて実感した。
 火器が発達した現代で、どれほどの価値があるのか……という部分は疑問に思ったが……これほど、先の動きが読みにくい武器も、珍しい……敵対する者にとっては、これは、とてもイヤな武器なのではなか……と、篤朗は思った。
 しかし……いくら速度が乗っていても、素材は所詮グラスファイバー。当たったとしても、ダメージは、たかが知れている……というのが、技術屋である篤朗の予測である。

「ねぇ……この辺にある金属、全部廃材なの?」
 テンは、そんな篤朗の予測をすべて見透かした上で、あえて鷹揚にそう尋ねた。
「ああ……。
 試料として使うのも多いが……製品ではないから、形は、崩してもかまわないのだ……」
 テンは、篤朗の答えを聞いて頷くと、
「……適当な大きさのを、投げて……」
 と、傍らのノリとガクに告げる。
 テンの意図を察したノリとガクが、人の頭大のいびつな形状の金属片を見つけて来て軽々と両手で掲げ、ほぼ同時に放り投げる。

 次の瞬間、テンがどういう動きをしたのか、篤朗には動きが早すぎて見えなかった。

 しかし、「……ひゅっ……ひゅっ……」という軽やかな音がした後、放り投げられた金属の固まりが地面に落ちる衝撃は感じず……代わりに、テンの肩に、天秤棒のように方にかつがれた、棒の両端に……ごつい金属の固まりが、二つ、ぶら下がっていた。
 テン自身の頭部より大きな金属片を両端にぶら下げた棒は、重さによって弓なりにしなっている。

 篤朗があわてて近寄ると、棒の両端は、どちらも、金属片を完全に貫通していた……。

「今の……空中で……貫いた、ということなのかね?」
「うん。
 横に薙ぐ時は、こんな大きな力には、棍のほうが耐えられないけど……。
 突きの場合は、力が一点に集中する形だし、衝突時の加速度さえ確保出来れば、質量比による不利をカバー出来るから、この程度のことは、できるんだ……」
 そういってテンが、肩にかついだ棒を少し傾けて見せると、棒に貫通された金属片が、どごん、がごん、といかにも重そうな音を立てて、地面に激突した。
「……この程度のことなら、みんなできるよ……。
 というより、三人の中で、一番弱いのが、ボクなんじゃないかな?
 ガクは力持ちだし、ノリは速いし……」

 結局、篤朗は、テンが望む素材を自由に使わせることを、約束した。
 彼らが……テンがいうとおりの、各人の特性に合わせてしつらえた武器を手にしたら……いったい、どれほどのことが可能になるのか、篤朗自身が、実地にみてみたい……と、思いはじめている。
 興味がある事柄については、とことん突き詰めて検証せねば気が済まない性分を、徳川篤朗は持っていた。
 そうした、六節棍関係の打ち合わせをしただけで、テンの工場勤務一日目は終了した。テンが持参したもう一つのデータ、孫子のライフルに関する諸データは、テンたちが帰ってから篤朗が検証作業を行う、ということだった。
 帰ろうとするテンに、篤朗は一台のノートパソコンを渡す。
「当面、これを使うのだ。君専用なのだ……。
 ぼくが少し前まで使っていたもので、必要なデータは揃っている筈だが……」
「……いいの?」
 テンは、目をしばたいた。
「優秀な人材を確保するためのエサだから、遠慮することはないのだ……。
 そうだ。メアドはもっているのかね?」
「……携帯の、なら、とりあえずあるけど……」
 それだって、今日取得したばかりだ。
「……とりあえずは、それでいいか……。
 フリーでもなんでもいいから、できるだけ早めに……うん。なるべく、メールサーバが大きい物のほうがいいな……。
 とにかく、取得しておくように。
 最初のうちはこっちに通うのも仕方がないが、そのうち、自宅で出来る仕事は自宅でしてもらうようになるのだ……」
「は! はい!」
 テンは、大きな声で返事をした。
「お願いします!」
「……それから、これは……才賀君の、ライフルのデータなのだがな……」
 篤朗はテンが今日、持参したディスクを返す。中のデータは、コピーした、ということなのだろう。
「……もし君らがこれを使うとしたら、これをどのように改良するのか……今度来る時まで……それを、具体的なプランとして形にして来るのだ……」
 篤朗は、「いつでも歓迎する」とはいったが、次はいつに来るように、というように具体的な日時は指定しなかった。
 具体的な日時を指定してこなかった、ということは……孫子のライフルの改良案が具体的な形になるまでは、工場にくるな……ということだろう……と、テンは、受け止める。その改良案までが、篤朗によるテンへの試験なのだ、と。
 正確な寸法や重量の計測、あるいは、記憶力のよさ、などというテン生来の性質は、機械で替えが効く。篤朗は、それらの土台を生かしたうえで、テンが、どのような発想をしてくるのかを、期待している……。
 篤朗の言葉を、テンはそにように解釈した。
 篤朗は、テンができるだけ自由に動けるように気を払ってくれれるが……同時に、とても厳しい面もある……という印象を、テンは受けた。

 家に帰ると、すでに夕食の準備が整っている時刻だった。食卓には、真里、香也、羽生、楓、孫子などの狩野家の人々が揃っているばかりではなく、荒野と茅の姿もみえた。
 三人が居間に姿をみせると、荒野は開口一番、こういった。
「昨日言った美容院のことな。
 週末っていったが、向うさんの申し出で、木曜日の夕方からになった……。
 いろいろ話しているうちに、なんだか話しが大きくなってきちゃって……どううわけだか、おれら全員で、カットモデルやることになっちまった……」
 そういう荒野の顔には、見事なまでに生気が欠けている。

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