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2006-07

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(22)

第六章 「血と技」(22)

 出迎えると、才賀孫子は、当然のようにゴルフバッグを肩にかけていた。一見普段着姿に見える楓も、最低限の武装はしているのだろう。
『やれやれ……』
 と思いながら、荒野はリビングに手招きし、茅に人数分の紅茶を入れて貰う。荒野自身が落ち着きたい、と思っていたし、それ以外に、楓や孫子は、今日、学校に居合わせなかった。そのために詳しい状況を説明する必要もある。佐久間現象を起こして尋問するのは、その後だった。

「……そういや、向こうは大丈夫なの?
 香也君、風邪引いたとかいてたけど……」
「今の所、少し熱がでている程度で、さほど深刻な病症でもないですから……」
 孫子はそう答えてゴルフバッグを自分が座る椅子の背もたれに立てかけ、茅がいれた紅茶を啜る。
「今はぐっすり寝ていますし……それに、今は飯島さんとか柏さんが、台所でご飯つくってくださってますから……」
 猫舌の楓は、紅茶に息を吹きかけながら、孫子の説明を補足した。
「……そうか……。
 しかし、香也君も災難だなあ……昨日まではいつも通りだったのに……」
「そういえば……昼に別れたときも、ぴんぴんしていましたね……。
 あの後、何かあったのかな?」
 荒野が素朴な疑問を口にすると、有働勇作も首を捻った。
 楓と孫子が、同時に咳き込むのを、茅が不思議そうに眺めている。
「おい……お前ら……」
 何事かを察した荒野は、楓と孫子の方を軽く睨んだ。
「まさかとは思うが……お前ら……彼に何かやったんじゃないだろうな?
 それも、昼過ぎに……」
「……そういえば……」
 茅も、記憶を探る顔つきになる。
「佐久間が学校に姿を現した時、真っ先に楓にメールしたのに……ずっと、反応が、なかった……。
 いつもの楓なら、すぐに駆けつけるのに……」
 荒野、茅、有働に見つめられ、無言の圧力を加えられると、途端に楓は動揺しはじめる。
「や。あの。その。そそそ、そんなことは、ないですよ。はははは。
 ちょっとその、急用があって、電話をチェックできなかっただけで……」
「才賀にも連絡したけど、梨の礫だったの」
「その時はちょうど、プライベートで重要な用事がありましたもので……」
 孫子の方は、泰然とした態度を崩さずにティーカップを傾けている。
「ま……深く詮索しない方が、無難なようだな……。
 過ぎたことをとやかく言ってもしょうがないし……」
 なんとなーく、その時、狩野家で何があったのか想像できた荒野は、深く詮索することを諦めた。
「お前らの事情に口を挟むつもりはないけど……。
 二人とも、彼には、あまり迷惑をかけるなよ……」
 荒野がしみじみとした口調で諭すと、二人は返答に窮し、それまで平然とした孫子も含めて、こくこくと頷きはじめる。
 二人とも程度の差こそあれ……疚しい気分には、なっているようだ……。
 と、いうことは……やはり、何か強引なことを、彼にやったんだろうな……と、荒野は内心で納得し、一人心中でため息をついた。

 荒野と有働勇作が交互に情報を補完し合いながら、学校での出来事から商店街での顛末までを説明すると、楓も孫子も、流石に表情を引き締め、それまでとは違った真剣な態度で聞いていた。
 学校や商店街に居合わせた人々とを巻き込むことも厭わない、しかも招待の知れない敵が出現したこと。それに、荒野の正体が、実習室に居合わせた生徒たちの目に晒されてしまったこと……などは、やはり、冗談半分で聞くことは出来ない。
「それで……最初のきっかけとして現れたこの男から……」
 孫子がにこやかな笑顔を浮かべて、椅子に立てかけてあった、ゴルフバッグをテーブルの上に置いた。
「ああ。これから、起こして詳しい話しを聞いてみようと思っている。
 そのこともあって、お前たちを読んだんだが……」
「……んふふふふふ……」
 楓も、いつの間にか紐で連結した状態の六角を取り出して、椅子から立ち上がっている。
 有働は、いきなり殺気だった二人の様子にかなりビビリが入っていて、ゴルフバッグの中から孫子が物騒な金属の塊を取り出すにいたって、「ひっ!」と小さな悲鳴を上げた。
 孫子は、そんな有働に構わず、取り出したライフルの弾倉にマガジンを差し込む。もちろん、「実弾」である。そして、弾丸を込めたライフルの銃口を、ソファでぐったりしている佐久間現象に向けた。
「さあ、いつでもよろしくてよ。おかしなそぶりを見せたら……逃げられないように、丁寧に、大腿骨を砕いてさし上げます……」
「尋問は、加納様がするんですよね……。
 もう、針、抜いちゃっていいですか?」
 楓は、いつの間にか、佐久間現象の背後に立っていて、針が突き刺さっているうなじのあたりに手を伸ばしている。
「……お前らなあ……」
 荒野は頭を抱えた。
 何故に、こういう時ばかり、チームワークがいいのか……。
「まあ、いいか。
 こいつがあやしい動きをしないかぎり、黙ってみておけよ……。
 楓……抜け」
 荒野が合図すると、楓の手が、素早く動く。
 同時に、佐久間現象の体が、バネ仕掛けのように跳ね上がり、両手を構えてファイティング・ポーズを取った。そして、「……あれ?」という、不思議そうな表情になる。
「佐久間現象……お前は、一度おれにのされて、長時間、意識を失っていたんだ……」
 そんな佐久間現象に、荒野は最低限の説明をした。
「ここは、おれたちが住んでいるマンション。
 これから、お前に幾つかの質問をする。答えたくなければ答えなくてもいいけど……出来るだけ、素直になったほうが、身のためだな……」
 そういって、荒野は腕を動かし、背後にいる楓、孫子、それに茅の存在を佐久間現象に印象づけた。
「お前も自覚していると思うが……お前は、彼女たちを怒らせることを、しでかした」
 ここで荒野は言葉を区切った。
 そう。
 お前は、おれたちを、ここに住めないようにするところだった……。
「そして、おれは、彼女たちの怒りを宥める必要を感じていない……。
 今、彼女たちを制止しているのは、まだお前から必要な情報を聞き出していないからだ……」
 佐久間現象は、荒野の言葉があまり耳に入っているようには見えなかった。放心したような顔をして、めぐるましく楓、孫子、茅の顔に、順番に視線を走らせる。
 自分が今置かれている状況は理解したが、この場からどう行動すればいいのか、判断しかねている……という焦りと困惑が、佐久間現象の顔に出ていた。
「それとも……あれだけの人数を用意して、おれ一人に勝てなかったお前が……今度は、本気になった彼女たちと一戦交えて、逃げ出してみるか?
 いっておくが……怒った時のこいつらは……おれほど、甘くないぞ……」

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彼女はくノ一! 第五話 (105)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(105)

「……明日の説明会に来る人たちは、多かれ少なかれ加納さんたちに興味を持っているから来るんですが、その内訳を考えてみると……」
 食事を続けながら、有働勇作はその場にいる全員に説明を続ける。
「……まず、普段から加納さんとつき合って、気心が知れている人たち。
 飯島さんとか、徳川君や玉木さん、ですね。これが、一番少数のグループ……」
 有働は、自分の人差し指をおる。
「……次に、クラスとか部活とかで、いくらか接触はしているけど、そんなに親しいわけではない、っていうグループ。
 今日、実習室に居合わせた人たちなんかは、このグループに入ります。人数的には……正確に人数を把握するのが難しいのですが……今日は実習室にいなかったけど、ボランティア活動に参加している人なども含めて、せいぜい数十人……多く見積もっても、今の時点で、五十人以上っていうことはないでしょう……」
 有働が、今度は自分の中指をおる。
 パソコン部と放送部の有志を合わせただけでも、その程度の人数は集まってしまう。
「……それ以外に……今日、学校での出来事を見た生徒たちから、口コミで明日の説明会のことを聞きつけて、駆けつけてくる人たちのグループ……。
 こっちは、不特定多数、としか、いいようがありません……」
 有働の言葉に、荒野は頷いている。
 実態数を予想しずらい、ということなのだろう。
「でも……少ない、ってことはないよ……」
 玉木はそう断言する。
「カッコいい荒野君……転入してきた時から、女子の注目の的だもん……」
「そうそう」
 斉藤遙も、玉木の言葉に頷いている。
「こんな時期に転入してくる、っていうだけでもアレなのに……先輩、目立つから……」
「……あー! しまった!」
 いきなり、玉木が大声を出して立ち上がった。
「そういえば、校庭の大立ち回り……誰も、カメラ回していないんだった!」
 その時刻、放送部のカメラを扱える人員は、商店街の方に詰めている。
「……カッコいい荒野君の見せ場だったのにぃ……。
 カッコいい荒野君! これからでも再現フィルムとか……」
「やだ」
 荒野の返答は、とりつく島のないものだった。
「誰がやるか、そんな恥ずかしいもん……」
「再現フィルム、は別にいいんですけど……」
 有働は、荒野の表情を伺いながら、おそるおそる、といった感じで、そんな話しを切り出してくる。
「……話しの流れによっては、いくらか体術を実演してもらうかもしれません……」
 荒野は、有働の言葉を検討してみる。
 昨日、こんなことがありました。そういうわけで、ぼくはニンジャです……などと荒野がカミングアウトした所で……確かに、実物を目撃していない者には……説得力はないだろうなぁ……。
「……楓、お前が代わりに……」
 と、荒野が、その役割を楓に振ろうとすると……。
「楓は、駄目なの」
 珍しく、茅が荒野の言葉を否定する。
 荒野が頷いて先を即すと、茅は続けた。
「荒野は……もう、正体を見せちゃったから、これ以上隠すのは意味ないけど……茅と孫子は、違うの。この二人のことは、学校とかこの町の人々には、まだまだ、隠し続けるの。
 この場にいる人、以外には……。
 だから、今日も、楓には顔を隠すように、いっておいたの……」
「ちょっと待って!」
 今度は、柏あんなが、茅の言葉を遮った。
「すると、その……何?
 加納先輩、だけではなくて……才賀先輩や、楓ちゃんまで……その、そう……な、わけ……」
 いい質問だ……と、荒野は思った。
 今後の為にも、この場にいる人々には、これ以上嘘はつかない方がいい……とも。
 荒野が楓と孫子と目を合わせると、二人は頷いた。
「才賀は忍ではなく鉄砲衆の末裔で、おれたちとは別系統。
 楓は、血筋からいえば一般人だけど、訓練の結果、おれたちと同等の能力を持つにいたっている。
 二人とも、出自が違うといえば違うんだが……身体能力その他の性能は、一般人よりはおれたちの方に近い存在だ……」
「そっかぁ……年末のショッピングセンターのアレ……やっぱり、この二人だったのか……」
 飯島舞花は、一人でそんなことに感心し、頷いている。

「……話しを元に戻すと……」
 茅が、逸れかけた話題を元に戻す。
「敵を欺くため……というより……荒野のことが公然になってしまった今……人目を気にせず、匿名で自由に動ける存在は、貴重なの。
 楓と三人は……正体を明かさずに動ける戦力として、残して置きたいの」
 荒野は茅の言葉を吟味する。
 確かに……身元が割れていない戦力があった方が、今後、動きに柔軟性が保証されるか……と、思い、
「楓、そういう話しだ。
 しばらくお前は、今まで通り、自分の正体を隠し続ける、ってことで、いいな……。
 おれはニンジャの子孫だが、お前は、平凡な女生徒だ」
 楓に、そう告げた。
 楓は、頷く。
「……有働君、おれ、商店街での映像、まだチェックしていないんだけど……そんなわけで、テンとガクの顔がはっきりと映っている映像は、公開しないでくれると、助かる……」
「……ぼくも、あれは、ざっと目を通した程度ですが……」
 有働は、荒野の言葉に頷いた。
「どれも、遠くから撮ったものですし、二人とも、ヘルメットとバイザーで顔が隠れている状態ですから……あの映像を観て、シルバーガールズがあの二人だと思う人は、少ないと思います……」

「……つまり、こういうことなのだな……」
 徳川篤朗が、にやにや笑いながら総括した。
「……今後も、ご町内の平和を乱そうとする輩が現れれば、シルバーガールズと謎のくノ一とが、それに対抗していくと、と……」
「そんなことが……今日みたいなことが、頻繁に起こるようだと、困るんだけどね……」
 荒野も、苦笑いしながら、頷く。

 この時の荒野は……シルバーガールズや謎のくノ一が、今後、頻繁に出動することになる……などとは、夢にも思っていなかった。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(21)

第六章 「血と技」(21)

 部屋に誰かが入ってくる気配で目が醒めた。
「……茅?」
「そう」
 茅の返事を確認して、身を起こす。
 茅は制服姿で、窓の外はすっかり暗くなっている。今まで眠れた……ということは、あれから情勢に大きな変化はなかったのだろう。
「先生からの伝言。
 ガクは、心配いらないって……」
「……そうか……」
 荒野はベッドに腰掛ける。一度寝たせいか、頭と体はすっきりとしている。
 これから、謎の襲撃者の調査とか、今後の対策を考えたりとか……やるべきことが山積みになっている。さて、どこから手をつけるか……と、思案していると……。
 不意に、茅に、頭を抱きすくめられた。
「荒野……不安?」
 語調は疑問形だったが、実際には、茅はかなり的確に荒野の心理を読み取っている……と、感じた。荒野が茅の感情を読む以上に、茅は荒野の感情を子細に読む。
「……少し……」
 嘘をついて強がっても、茅に通じない……と、なんとなく悟った荒野は、素直にそう呟く。
「でも……荒野……。
 もう、一人じゃないの……」
 茅の体は雨に濡れていて、抱きすくめられると、濡れた服が荒野に押しつけられる。それでも……荒野は、茅のぬくもりを感じた。
「茅がいるし……それ以外にも、みんな、荒野の味方なの……」
「……茅……体、冷えているよ……。早く着替えなけりゃ……」
 こう答える、声がつまりがちになる。
「……ん……荒野。一緒にシャワー浴びよ。
 そしたら、二人でお隣に行くの。みんな、待っているの」
 荒野は茅に手を引かれて浴室に向かい、そこで二人で服を脱いで手早くシャワーを浴びる。その途中で、茅に涼治との電話でのやりとりを伝えた。
 茅は荒野の話しを頷きながら聞きいた後、
「……これから、みんなお隣りに集まるから……」
 と答えた。
 シャワーを浴び終え、着替えたところに、インターフォンが鳴る。
 ドアを開けると、三島百合香が有働勇作を従えて立っていた。有働勇作は、佐久間現象を背負っていた。
「こんなもん、いつまでも人の車んなかにつっこんだままにしうておくなってーの……」
 三島百合香は、不平混じりの言葉の割には、顔は笑っている。
「……そんなもん、いってくれればおれが取りに行ったのに……。
 悪いな、有働君。とりあえず、中に入ってくれ。
 茅、お茶を……」
「わたしの分はいいぞ、荒野。
 これからちょっと病院にいって、ガクとテンの着替え置いてくるから……」
 そういって三島百合香は、さっさと踵を返して去っていく。
「……有働君だけでも、どうぞ……」
「ええ。お邪魔します……。
 あの、この人は……」
「ああ。そこのソファにでも置いておいてくれ。
 と、そうだな。お隣りに行く前に……あの二人を呼んでおくか……明日のことも、確認しておきたいし……」
 有働が佐久間現象の体をソファに降ろし、荒野が楓に連絡する。茅は、お湯を沸かしながらテンに電話をかけているようだった。

「……茅、お茶、楓と才賀の分も追加」
「荒野……テンとガクも、明日、行くって。
 二人とも、六主家の人たちに会いたいといっていたの」
 ほぼ同時に電話を切り、そう伝え合う。
「……どうしたんです?」
 佐久間現象の体を降ろして身軽になった有働が、怪訝な表情をした。
「例のガス弾のヤツ、一族の方でもいろいろ反響があるみたいでね。
 六主家のやつらが、明日、おれたちと話し合いたいって、打診があった……」
「……偉い人たちが、ですか?」
「そうはっきりとはいわれなかったけど……多分ね。
 どうやら、例のガスのヤツら、一族の方でも持てあまし気味だったらしい……って、これは、あくまでおれの推測なんだが……。
 ついでに、そいつの引き渡しも打診されたよ……」
 と、荒野は佐久間現象を指さす。
「はぁ……そちらも、いろいろと複雑そうですねえ……」
 有働は、あまり納得していないような表情で、曖昧に言葉を濁した。六主家がどうのこうの、というあたりに、実感が伴わないのだろう……と、荒野は推測する。
 昨日今日、その実在を知った一般人としては、当然の反応だと思った。
「ま、そっちの方は、おれの領分だから……って、茅! その針、抜いちゃ駄目!」
 佐久間現象の背後に回り、無造作にうなじに手を伸ばしかけた茅を、荒野は慌てて制止する。
「……こいつ……。
 荒野を、苦しめたの……」
 その時の茅の表情をみて、荒野の背筋に悪寒が走る。有働も、茅の様子に気を呑まれたのか、体を硬くして棒立ちになっている。
「……針の扱いは、一度見たから解るの……。
 こいつ、起こして……意識のある状態で……自分のしてきたことを、後悔、させるの……」
 やばい……と、荒野は、思った……。いや、本能的に、悟った。
 このまま茅のしたいようにさせておくと……ほぼ確実に、取り返しのつかないことになる……。
「やめるんだ、茅!」
 荒野は、強い語調で茅の動きを制止した。
「確かに、そいつには聞きたいことは山ほどある。そろそろ起こす時期だとは、おれも思う。
 だけど……もうしばらく待つんだ。せめて、楓と才賀が来るまで!
 こいつは、佐久間だ! 意識を取り戻したらどんなことをしかけてくるのか、見当もつかない。万全の状態で、挑みたいし……それに茅は、おれたちの中で一番、佐久間の手口を心得ている! だから、今回は、後ろに控えていて、万が一の事態に備えて貰いたい!」
 荒野が早口にまくし立てると、茅は、不承不承、佐久間現象の背後から離れ、荒野の背後に移動した。
 ちょうどその時、インターフォンが鳴り響き、楓と孫子の来意を告げた。インターフォンの音を聞いた時、棒を呑んだように硬直していた有働が、ようやく太い息をついて、体の硬直を解いた。
「茅さん……あんな面も、あったんだ……」
 ぼつり、と、有働が呟く。
 それは……恐怖よりも、むしろ、恐怖の時間が過ぎ去ったことへの安堵を、色濃く含んだ呟きだった。つい今し方までの茅を、有働は明らかに恐怖していた。

 そして……荒野も、有働とほぼ同じ気持ちだった。

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彼女はくノ一! 第五話 (104)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(104)

 なんだか遠くの方で大勢の人の声が聞こえてきたので、香也は目を醒ました。
 いつの間にか、自分の部屋に寝ている。しかも、パジャマに着替えていた。
 ぼーっと熱っぽい頭で思い返してみる。
 昼食後の痴態……の後あたりから、記憶があやふやだった。
 上体を起こすと、額に乗っていたタオルが、布団の上に落ちる。それを手にとると、湿っていて……左右をみると、枕元の傍に水の張った洗面器、なども置いてあった……。
 まるで、風邪でもひいているみたいな……と、思った途端、意識と視界が、ぐらりと揺れる。
 そういえば、さっきからやけに熱っぽいし……どうやら、あんな所で寝てしまったせいで、自分は風邪をひいたらしい……と、香也はようやく自覚する。

「あー……」
 いつの間にか、楓が部屋に入ってきていた。いつの間にか、というより、香也の頭がぼんやりとしていて、楓が入ってくるのに気づかなかっただけ、らしい。楓の背後には、孫子の姿も見える。
「もう、起きあがって大丈夫なんですか? 香也様?
 ……なんなら、お食事こっちに運んできますけど……」
「……んー……」
 香也は、熱っぽい頭で自分の容体を確認する。たしかに、かなり頭が熱っぽくてぼーっとするけど、別に起きあがれないほど重体なわけでもない……。
「……それくらい、大丈夫……」
 香也はそういって、布団から出て立ち上がる。立ち上がった途端、前後によろめいて、慌てて楓が香也の体を支えた。
 気づけば、楓も孫子も、香也の顔を心配そうに覗き込んでいた。
「なんか、さっきから、大勢の人の声が聞こえるけど……」
 香也は、照れ隠しにそんなことを口走る。実際に、居間の方から、話し声が聞こえる。
「ええ。
 今日は、いろいろなことがありまして……。
 みなさんが、集まっていらっしゃいます……」
 楓は香也の体を支えながら、そう答えた。いつの間にか背後に来ていた孫子が、さり気なく香也の肩にどてらをかける。普段、羽生譲が愛用しているものらしかった。
「……んー……。
 どうも、ありがとう……」
 香也が、どちらともなくそういうと、二人は照れたような顔をして、視線をそらした。
 着替えさせて、自分の部屋まで運んでくれたのも、この二人なのだろうな……と、香也は、今さらながらに気づく。
 昼食後の、あの出来事については……とりあえず、今は、頭も回らないことだし、あまり深くは考えないことにしよう……と、香也は思った。
 今になって思い返してみると、かなりとんでもないことをしでかしてしまったような気もするし……。

「……お。来た来た。絵描きさん、風邪引いたんだって?」
 二人に両脇から支えられるようにして居間に入ると、何故かエプロン姿の飯島舞花が、声をかけてきた。
 舞花だけではなく、加納荒野と加納茅はもちろんのこと、栗田精一、柏あんな、堺雅史、玉木珠美、有働勇作、徳川篤朗、徳川浅黄、それに、香也は名前は知らなかったが、見覚えのある、多分、一年の女生徒、などもいて、賑やかに談笑している。何故か、ここにいる筈のテンとガクの姿が、見えなかった。
 家具調炬燵の上には、ガスコンロと土鍋が二台、準備されており、その周囲に所狭しと材料を盛った皿が並んでいる。どうやら、今夜は鍋らしい、と、思った。
 それはいいのだが……この人数。
「……んー……」
 香也は、例によって、呻った。
「……なんか、あった?」
 それまで、それそれに他愛ないことを話し合っていた人々は、その香也の一言でピタリ、と、静まりかえり、顔を見合わせる。
 そして、全員の視線が、加納荒野に集中した。
「……なんか、あったんだ。
 そう。今日一日で、いろいろなことが……」
 珍しく真剣な面持ちで、荒野は重々しく口を開く。
「でもまあ、すぐに説明しきれることでもないし……食べながら、ゆっくり話すよ……」
 荒野の声は、香也の声と同じくらいに擦れていた。
 荒野がそういうと、一斉に静まりかえった面々が一様にほっとした表情をする。
 割と……深刻なことが、起こったのかな……と、香也はようやく察した。
「……うぉーっす……。どうだ。ちゃんと教えた通りに下拵えできたか?」
 玄関の方から、場違いに明るい声が聞こえてきて、どかどかと三島百合香の小さな体が居間に入ってくる。
「ばっちりっす。たぶん、これでいいと思いますけど……。
 ちゃんこって、家庭でもできるんですねえ……」
 やはり明るい声で三島に答えたのは、エプロン姿の飯島舞花だった。
「鍋だからな。下拵えさえ丁寧にしておけば、そうそう失敗はしないって……。ん。この色は、ちゃんと鶏ガラベースだな……」
 鍋の中を覗き込んで、三島は大げさに頷いてみせた。
「……ほれ、ガキども。なにを静まりかえっている!
 今さら嘆いた所で過ぎたことは書き換わらないぞ。ん?
 それよりは、食うモンたらふく食って、明日に備えろ。
 特に荒野とそこの糸目! お前らは今後体力勝負だったり風邪引いたりしているんだから、なおさら食え。食欲がなくても食え。食って、今日よりは良い明日を作れってーの!」
 三島の発破が功を奏したのか、その後は、賑やかな食事になった。

 食べながら香也は、その日が荒野たちにとっていかに大変な日であったのかを、聞かされることになる。テンとガクの姿がみえない理由も……この時に、知った。
 途中で羽生譲が帰ってきて、話しが前後したが、その場にいた人々がそれぞれの視線と立場から語る「今日の出来事」は、聞いていてとても臨場感があった。

「ガクのやつの経過は順調だ。
 ってか、基本的に、傷口塞ぐだけだからな。プロテクタの破片とかが若干肌に突き刺さってたんで、それを取り除くのに多少、手間取ったくらいで……」
 三島の話によると、病院に運び込まれるなり、医者の目の前で、制止する間もなく、テンがガクの手足から器用に突き刺さった破片を指で摘みだしたので、医者は止血と消毒に専念することが出来、結果的に術式の時間が大幅に短縮された、という。
「後は、傷口がふさがるのを待つだけなんだが……ガクのやつは、頭も打っているからな。検査もしておいた方がいいってこって、最低一晩泊まるって。テンも、その付き添い。わたしは、そっちにいてもすることがないから、ヤツラの着替えだけ置いて帰ってきた……」
 徳川篤朗は、「プロテクタの材質は、もっと改良の余地が……」とかなんとか、ぶつくさいっていたが、そちらの話しは誰も聞いていない。

「そういえば、飯島先輩……」
 柏あんなが、飯島舞花に話しをむける。
「加納先輩のこと……知ってました?」
「知っていたっていうか……詳しく聞いたことはないけど、何となくわかってはいた……」
 飯島舞花は、平然とそう答えた。
「だって、ほら。
 おにーさん、隠そうとしていただろ? そういうのを無理にほじくり返して聞くのも悪いかナーって、思って、今ままで聞かなかったんだけど……。
 そーかー。そういう感じでばれちゃったのかー……。
 学校の連中の反応のほうが、心配だなあ……」
 舞花の返答を聞いた柏あんなは、かなり複雑な表情をしている。

「……学校の方の対策は……」
 有働勇作が、口を挟んだ。
「……一応、ぼくらの方でも、いろいろ考えてはいます……。
 明日も、今日の目撃者を中心に、例のボランティアの説明会、という名目で、徐々に情報の公開をしていくつもりですし……。
 それで、無責任な風評が広まるのを、いくらかでも防げればいいんですが……」

「……はー……」
 一通りの話しを聞いた羽生譲は、感心したようなため息をついた。当然のことながら、羽生譲にとっては初耳の話が多い。
「……ニンジャの頭領の跡継ぎも、いろいろと大変だなぁ……カッコいいこーや君……。
 でも……ま、前向きに行こうな。
 影でいろいろいうヤツは絶対にいるだろうけど、何にも悪いことをやってないんなら、堂々としてろよ!
 うちも、爺ちゃんの代までテキ屋の親分なんて家業してたから良くわかるけど、そういうヤツらこっちがなにしてたってあることないこというんだから、気にすることないぞ!」

「……そちらの加納荒野さんも、もちろん、興味深いっすけど……」
 香也が顔だけは知っていた一年生女子は、斉藤遙と名乗った。
 堺雅史や楓と同じパソコン部員で、玉木珠美いわく「使える子」で、今後、付き合いが増えそうだから、誘ったという。
「……わたしとしては、こっちの狩野荒野君の関係のが……。
 あの……三人さん……ぶっちゃけ、どういうご関係ですか?」
 斉藤遙の言葉に誘われて、全員の視線が、香也に集中する。
 香也の左右には楓と孫子が侍っており、左右から、箸で煮上がった食べ物を交互に差し出されている状態だったから、ほとんど面識のない斉藤遙がそう尋ねたくなるのは、道理というものだ。

「……んー……」
 香也は、いつもより長く呻った。
 昼間の「あの出来事」があるし……今も、左右の頬に楓と孫子の視線を、痛いほど、感じている。
 炬燵に入って鍋物を食べているにもかかわらず……香也は、冷や汗を流した。
「……同居人?」
 結局、いかにも自信なさそうな声で、そう答えるのにとどまる。
 左右で、楓と孫子が、同時にがっくりとうなだれていた。
「……ま、こういう関係だ……」
 飯島舞花が、斉藤遙にしたり顔で解説する。
「はあ……なんか、よく分からないけど、分かったような気がします……」
 斉藤遙は、曖昧に頷く。
 柏あんなは、少し険しい目つきで香也を睨んでいる。
 女性の敵、とでも思われているのかも知れない……と、香也は思った。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(20)

第六章 「血と技」(20)

『荒野か? 今日はいろいろとあったようだな』
 電話をとるなり、荒野が返事をする前に、涼治は話し出した。
『その件も含めて……佐久間の長が、お前にお詫びをしたいそうだ……』
「……へぇ……」
 荒野の返事は醒めている。
「で、交換条件は、なに?」
 一族の者の前にも、「滅多に姿を現さない」のが佐久間の身上であり……しかもその頂点が……荒野のような若造に、自分から頭を下げに来る……と、盲目的に信じられるほど、荒野は素直ではない。
『急くな。
 わたしは、先方の言い分を伝えているだけだ……』
 涼治の声には、苦笑いが混じっている。
『いいか。まず、先方の申し出を伝えるぞ。
 先方は、明日の夜、お前たちとの会食をご所望だそうだ……。
 できればその席で、佐久間現象の身柄も申し受けたい、と申しておる……』
 荒野は、素早く考えを巡らせる。
 ……佐久間の頂点が、現象の身柄を? やはり、現象は佐久間の主流ではなかった、ということか? 現象は、なんらかの理由で佐久間主流のコントロールを離れた存在だった? ……いや、そんなことは後でじっくり考えろ。今は……。
「……その招待、こっちの人数は、増えてもいいかな?」
『……声が、かなり擦れているな……。
 会食は、ホテルの一室を使うそうだ。人数が増えるなら、早めにわしに伝えておけ。要求を出しているのは向こうさんだからな。多少の融通は、効かせてくれるだろう……。
 それに、他にもゲストがいるそうだし……』
 荒野は素早く勘定する。
 自分、茅、楓……テンと、もし動けるようなら、ガクも。孫子も、本人が希望すれば、同行させてもいい。
 涼治が「ゲスト」という言い方をするのなら……他の六主家の、中枢に近い人間も、同席するのだろう……。
 普通の佐久間でさえ、滅多に姿を現さないというのに……今回は、佐久間の長が、直々に出向いて、自分のような若造に会いに来るというのだ……。
 荒野の脳裏に、物見高い一族中枢の者たちの顔が、去来する。
 やつら……と、荒野は思った……他人事だと思って、面白がっているな……。
「うん。急な話だからね。なるべく早く、こちらの人数を伝えるよ……」
『では、会食自体は、出席という返事で構わないのだな?』
「会うこと自体はね。
 でも、佐久間の申し出を呑み込んだ、とは、まだいっていない……」
『それで十分だ。
 わしも、セッティングまでしか請け負っていないのでな。
 それに、向こうさんも、お前がそうそう甘いとは思ってはいないだろう……』
 会食を明日の夜、に、設定したのは……それだけの猶予を与えるから、それまでに現象から絞れるだけの情報を搾り取っておけ、という期限を切られた、という解釈も可能である。
 それまでは、佐久間現象を自由に扱ってよい、と。
 それ以降は……もし、交渉が決裂したら、佐久間主流は、力づくでも現象を取り戻すつもりだろう。
「ま。それまでに、せいぜい過大な交換条件を考えておくよ……」
『ふむ。ひさびさに面白い見せ物になりそうだな、これは……。
 楽しみだ……』
 口ぶりからすると……涼治も、当然のように同席するようだ。
 やはり……六主家にとって、荒野が預かっている子供たちは、かなり重要な存在であるらしい……と、荒野は思う。
「……なあ、じじい……。
 まだ、姫の真相について、口を割る気になんねーか……」
 荒野は故意に、ぞんざいな口の利き方をする。疲れていて、態度にまで神経を使う余裕がなくなってきている、というのもあったが。
「……状況証拠的には、もう、十分って感じがするけど……。
 それに、一族キラーみたいなのまでが現れたんだ……そっちも、そろそろ足元に火がついているように見えるけど……」
 ガス弾を使ったやつら……の、能力と精神構造は、手口をみればある程度推察がつく。平均的な能力を持つ一族の者が相手にするには……荷が勝ちすぎる筈だった。
 荒野が預かっている子供たちをうまくぶつければ……あるいは、いい勝負になるかも知れないが。
 荒野としては、無関係の人々を平気で巻き添えにするような連中を野放しにするよりは、一族の力を借りてでも、狩りだして無力化したい気分だった。
『その件は……わしの一存では、なんともいえんな……。話しの流れによっては、明日、なにがしかのことはいえるのかもしれないが……。
 それから、ガス弾を使用した連中については、我々の方でも、目下、探索中だ……』
 一族の包囲網を欺いて、これだけの時間が経ってもまだみつかっていないのなら……完全に、姿をくらました、ということなのだろう。あの場には……テンとガクには、いつものように、決して少なくはない、一族の監視者が、距離を置いて張りついていた筈なのだ。
 だとすれば、あるいは……涼治か、それとも他の六主家の誰かが、やつらを匿っているのか……だ。
「知ってのとおり、こっちは圧倒的に手不足でさ。ろくな手がかりもない所で、大がかりな捜査網構築するの、無理だから……。
 やつら、放置しておいても、われたち全員にとっていいことなんか一つもないんだから、出来るだけ速やかにとっつかまえてほしいね……。
 個人的な、希望としては……」
 ついつい、荒野はかなり率直に、「個人的な、希望」をしゃべってしまう。
 交渉の材料に使えないような事柄に関しては、荒野は驚くほど素直に自分の感情を露わにする。
『その点については、出来るだけ期待に応えられるよう、手配をしておこう……』
 答えた涼治の声は、笑いを含んでいる。
 涼治の声に込められたニュアンスを感じ取った荒野は、「なんかおれ……じじいにおねだりしちゃったのか……」と、軽い自己嫌悪を感じた。
「要件はそれだけかな? 悪いけど、おれ、今日は疲れているから……。
 他に要件がなければ、そろそろ、切りたいんだけど……」
『そうか、疲れているか……要件、では、ないんだが……』
 涼治は、珍しく口ごもる。
『その……子供たちは、元気か?』
「ああ。元気だよ。
 茅も、テンも、ガクも……ノリは、今、遠出をしている。ガクは、もう知っている筈だけど、ちょいとした怪我をした。先生の話では、たいしたことないって。それに、テンもガクも、今回の件には、かなりショックを受けている。でも……そういうのも、必要なんだ。大丈夫、やつらなら、そんなショックもすぐに乗り越えて、明日あたりはいつものように笑っているよ……」
『そうか……お前がそういうのなら、大丈夫なのだろう。
 お前も疲れたのなら……今日は、もう休め……』
「いや、少し休んだら、友達と、夕食を一緒にする約束なんだけど……。
 うん。まあ。
 今は、少し眠るよ……。
 ……お休み」

 荒野は通話を切って、瞼を閉じる。

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彼女はくノ一! 第五話(103)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(103)

 一族の少年たちが縛られて転がされていた仲間たちをかついで帰っていくのと前後して、職員室に視聴覚室の使用許可を求めてにいった生徒たちが帰ってくる。視聴覚室が使えることを確認した斎藤遥が、ボランティア活動に参加した生徒たちに、「明日の午後、説明会があります」と同報メールを送信する。

「……このメール、何人ぐらいに……」
柏あんなが、斎藤遥に尋ねる。
「放送部とパソコン部の有志で……今の時点で三、四十人ってところかなあ……今ここにいある人達も含めて……。
 それに、『その他に、興味がある方も飛び入り参加歓迎』っていう文面もいれたから、プラス何人か……柏さんも、来るんでしょ? まだ、十分な説明をしてもらっているわけでもないし……」
「……うん……聞くだけは、聞いておこうと思う……。
 加納先輩、見た目よりもいろいろ考えているみたいだし……」
「そうそう。差別だの偏見だのは実態をよく知らない所で変に想像力を働かせるからエスカレートしていくんでさぁ、実物しっちゃうと、かえってなーんだぁ、とか思っちゃうよ……。
 さっきまでここにいたニンジャの皆さんも、加納さんにはかなわないかもしれないけど、それでも多分、この場にいる人達をどうこうしようと思えば、あっと言う間にできたと思うよ……。
 加納さんたち、茅ちゃんもお兄さんたちも、予想以上にすごい人たちなのかもしれないけど……それでも、話の通じない人じゃないし、さっきのやり取りを見る限り、ここにいる人たちになにかしようってつもりもない……。
 むしろ、どうしたら危害を加えずに、迷惑をかけずに済むのか、それを一番に考えている……。
 そういう人を、事情も知らずに見放してはいけないと思うんだ……」
 結局、実習室にいた生徒たちのほぼ全員がそのまま、明日の午後、視聴覚室で行われる説明会への参加を表明し、その日は解散、ということになった。
 ほぼ全員が浮足立っていて、それ以上実習室に残っていても、以前のようにまともに通常の作業を遂行することはできない、と、大多数の者が判断した。
 混乱していたのは柏あんなだけではなく、程度の差こそあれ他の生徒たちも動揺はしており、少し時間をかけて気持ちを落ち着かせる必要を感じていた。

「……香也様ぁ……」
「取り乱すんじゃないの、このお馬鹿くノ一!」
 荒野や生徒たちが結構な混乱状態にあった時、楓もまた、混乱していた。
「……な、何故、こんなことに……」
「こんな季節に暖房のない玄関先で長時間全裸で汗だくになっていれば……多少の体調不良は、むしろ当然なのではないかしら?」
「……さ、才賀さんは、よく落ち着いていられますね!」
「風邪程度でおろおろしていてもしょうがないでしょう……。
 重病、ってわけでもないんだし、普通に養生していれば二、三日で直ります……」
 香也は、香也の部屋に寝かされている。
 パジャマに着替えさせたり、汗をかいた体をタオルで拭いたりする時に悶着が持ち上がりかけたのだが、そうした火種も、「香也がすぐそばで寝ているから」という理由でどちらともなく自制するので、完全に炎上することはない。楓と孫子は互いに監視し、牽制しあいつつも、二人で氷枕などの定番アイテムを用意する。
 そして、そんなドタバタが一段落した後、二人は寝ている香也の邪魔にならないよう、小声で囁きあっていた。
 香也の邪魔をしたくないのなら、二人そろって部屋から出て行けばいいと思うのだが……あんなことがあった直後なので、楓も孫子も、二人してお互いに不信感を持ち合っている。長く座を離れ、香也とその他一人を「二人っきり」にするわけにはいけない……と思っている。
 もちろん、それ以外、香也の容体も心配である。
 今の香也は、高熱を発して寝ているだけで、言い換えれば、典型的なインフルエンザの症状を発言しているだけなのだが、二人にとってはかなり心配であるらしい。
 そんなわけで、楓と孫子は、香也の部屋で睨み合っていくばかの時間を過ごしていた。
「……そろそろお夕食の時間ですわね……」
「タオルの水、温くなってきましたね……」
 二人して、なんとか相手に仕事を押しつけてこの場から遠ざけよう……とプレッシャーをかけあっている。
 同時に、自分は香也の側から離れまいとしている。
 もう、何度も同じような問答が繰り返されていた。

 そんな膠着状態が破れたのは、楓のもとにかかってきた一本の電話がきっかけだった。
「……はい。楓ですが。茅様、ですか?
 はい。はい。
 え? 今から?
 はい、はい。え? そ、そんなことは、ないですよ……。
 ま、まさか、ガクのことをすっかり忘れていたなんて……ええ。すっごい心配していましたよぉう。まさか、そんな。嘘なんかじゃないですよ。あは。あはははははは……。
 はい、では、そういうことで……」
 通話を切った楓は、やおら立ち上がる。
「……大変!」
「……どうなさったの?」
「みなさんが、これからこの家にくるって!
 今日起こったことの説明と、今後の方針を話しあいながら、お食事をするそうです!
 材料は向こうで用意する、っていってたけど、みなさんが集まる前にお掃除を……」
 今朝からバタバタしていたため、この日は誰も家の掃除に手を着けていなかった。特に、玄関のあたりは、三人でさんざん、あーんなことやこーんなことをしたままの状態のままだ……。それころか、孫子も楓も、外出から帰ってきた時の服装を着替えてさえ、いなかった。つまり、未だ、忍装束とゴスロリ・ドレスを着ていたわけで……。
 一瞬、顔を見合わせて頷きあった孫子と楓は、やおら立ち上がり、今度は競うようにして香也の部屋を出る。

 まずは、着替え。その後、掃除。
 短時間のうちに小なさねばならないミッションが山積みしている以上、いがみ合っている余裕はない。それぞれの部屋に帰って、普段着に着替えた後、二人は言葉少なく分担を取り決め、玄関から居間、台所、それにトイレまで、来客の目につくような場所を片っ端から掃除しはじめる。
 普段の姿からは想像もつかないほどのチームワークの良さだった。

 一人部屋に残された香也は、そんな出来事があったのも知らず、昏々と平和に眠りこけていた。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(19)

第六章 「血と技」(19)

 徳川が呼んでくれたタクシーに乗って、荒野はマンションまで戻ることにした。茅は、残って話し合いを続ける、という。香也の容体も気にはなったが、後で加納家に集まって夕食を作るそうなので、その時にでも様子をみることにしよう……。
 徳川たちにいったように、事実、荒野はかなり疲れていた。それも、肉体的な疲労というよりも、精神的な疲労のほうが大きい……。

『……さて……』
 荒野は、今日の出来事を振り返ってみる。
 一族にとって……あれは、どういう事件だったのか……。
『……秦野のおねーさんたちとか、学校を襲った若い衆を集めたのは、佐久間現象……』
 これは、まず間違いないと思うのだが……実は、荒野がそのように予測しているだけで、しっかりと裏付けを取っているわけではない……。
 若い連中は、口先三寸でどうにでも扇動できそうな気がする。お互いのことにあまり干渉しない気風のある野呂の者が多かったように見えるのも、そのせいだろう。
 しかし……秦野の女たちと二宮舎人に関しては……。
『……個人的な接触、ということは……』
 考えにくい。

 特に二宮舎人は、「二宮が佐久間に借りを返すための、仕事だ」と明言している。尋ねてもいないのに、そんな嘘をいう理由が、二宮舎人の側にはない。
 荒野が二宮に問い合わせれば、真偽のほどはすぐに確認できるからだ。
 佐久間から二宮に、正式な依頼があった、ということは……佐久間は、現象の行動を知っていた、という可能性が高い。
 積極的な加担なのか、それとも、もっと消極的な「やるんなら、かってにやれ」といった具合の黙認なのかまでは、分からないが……。
 二宮とは違い、佐久間の主流に関するチャンネルを荒野は持っていないので、こちらの確認は、多少てこずるかもしれない。

 いずれにせよ……佐久間が堂々と名乗って姿を表した、ということ……それに、それまで表舞台にでてこようとしなかった秦野の女たちが、でてきたこと……は、どちらも、かなり珍しい出来事だった。

『で……その佐久間現象の後ろには、ガス弾の連中が、いる……』
 最後まで姿を表さなかったガス弾の連中と、わざわざ本人がこっちに出向いてきた佐久間現象とでは……感触に、差がある気がする。
 どちらかというと、ガス弾の連中のやり口の方が、荒野の知っている「佐久間」らしい……。
『……いや……』
 佐久間現象のほうが……むしろ、佐久間を自称しているだけの偽物、なのか……とも、思いはしたが……。
『……でも……』
 そんな偽称をして、なんのメリットがあるのか?
 とも、思ってしまう……。
 あの身体能力から判断するなら、一族の関係者であることは、ほぼ確実であって……その上で、あえて一番謎の多い「佐久間」の姓を名乗ることに……なんの意味があるのか……。
 佐久間現象の身柄は確保してあるので、その辺の事情については、後で本人を尋問すればいいか……と思い、荒野は佐久間現象に関する考察を中断する。

『後は……』
 ガス弾の、連中だ。
 多数か複数なのか、性別や年格好さえ、分からないが……。
『いや、二人……以上、か……』
 ガス弾は、二発づつ、ほぼ同時に投擲されている。
 最低でも、二人……徳川篤朗と検証した通り、ガクと同等か、もしくは以上の身体能力を保持している者が、いる。
 それに、あのようなガス弾を用意できるのだから、おそらく、それなりの規模のバックアップ体制が背後にいること……の二点だけは、今の時点でも、確信が持てる……。

『……何が、目的だ?』
 単純に考えれば……荒野たちへの、挨拶と挑戦状を兼ねた示威行為、なのだろうが……。
 その割りには、佐久間現象を手駒に使ったり、ガスの選択も、即効性の毒ガスではなく、催涙ガスだったりと……純粋な攻撃、と言い切るには、手口が回りくどすぎる……。
『威力偵察……』
 それが一番可能性がありそうだが……それにしても、ガスを使う、というのが、どうにも納得がいかない。ガスなんか使ったところで……荒野たちの本当の実力は、推し量ることなどできやしないのだ。
 もちろん、薬物で荒野やガクたちを倒すことは、十分に可能なわけだが……そんなことをして、一体、誰になんの益があるというのだろう?
 薬物でやられる時というのは、実力を発揮する前にぽっくり逝くだけで……単なる殺人でしか、ない。「偵察」の役割を果たさない……。
 佐久間現象をけしかけて、荒野を足止めし、商店街にガス弾を降らせた者たちは……毒ガスではなく、催涙ガスをあえて使用した。
 ガクとテンの抹殺、を、目的としていなかったことは確かなのだが……かといって、偵察でも、なさそうで……。

『……まさか!』
 そこまで考えて、荒野は、あるシンプルな動機に思い当たる。
『……具体的にこれ、といった目的があったわけではなく……』
 荒野たちへの対応を、あわてふためく様子を……面白半分に見ていただけ……だと、したら……。
『性質の悪い、興味本位の……悪戯……いやがらせ……』
 ガス弾を使用した襲撃者は……荒野たちの立場や状況を理解した上で、明確に、荒野たちを苦境に立たせるように、しむけている……。
 おそらくは……。
『そうしむけておいて……おれたちが、あわてふためく様子を……どこか遠くで見物して……高笑いでもしているのだろう』
 困ったことに……その可能性が、荒野が思いつくなかで、一番整合性がある解答だった。

 その能力から見て、敵は、荒野たちが便宜上、「姫」と呼んでいる類いの……茅や、テン、ガク、ノリの、同類だ。
 しかも……善悪の区別はあまり教育されては、いなかったらしい……。
 荒野は、今回のやり口全体に、子供によくみられるような、捕獲した昆虫の手足や羽根をもぎ取るような無邪気さな悪意を感じた。

 そんなことを考えているうちに、タクシーはマンション前に到着し、自分たちの部屋に入った荒野は、ベッドに直行してそのままどさりと横になる。
 荒野の持っているコネクションをフルに酷使して、一族の関係者から情報を収集する必要を感じていたが……今日は、一遍にいろいろなことが起こり過ぎた。
 一休みして鋭気を養ってから、情報収集に取りかかることにしよう……と思って、瞼を閉じた途端……。
 電話が、鳴った。
 液晶を確認すると、涼治から、だった。

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彼女はくノ一! 第五話 (102)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(102)

 銀ピカの子供たちの乱闘と、暴走したその片割れを取り押さえるシーンは別の角度からみた映像が、繰り返し、流されていた。どれも遠くから望遠で撮影した物らしく、画質が粗い。
 そうしたシーンと平行して、電気屋さんの事務室の風景も音声つきで流れている。話しの内容から判断して、こちらは、リアルタイムの中継のようだ。
 加納荒野を取り囲んで、その他の人たちが、このままどこかに姿を消しそうな荒野を引き留めている……というのが、彼らの会話の概略だった。
 会話はいつしか脱線して、ヒーローの定義とか今後のパワーアップ装備のコンセプトとかを審議する内容に変わっている。はしゃいでいるのは玉木と徳川の二人だが、意外なことに加納茅も、時として強硬な主張をぽん、と、いったりする。
 どうやら、あれでヒーロー物には、一言家あるらしい……。
 その輪の中に入れない有働は、困ったような顔をして、彼らをみている。
 荒野は断線が本格化したのをみると、部屋の隅にいってどこかに電話をかけはじめた。それから荒野は、その場にいたみんなに「帰って休む」といいだし、徳川がタクシーを呼んだ。商店街から荒野のマンションまでは、遠すぎるという距離ではないが、相変わらず強い雨がふっていることと、それに、現在の荒野が、まるで似合わない、やぼったくてぶかぶかの、灰色のスウェットスーツを着ていることを、哀れんだのだろう……。
 タクシーはすぐに到着し、荒野は裏口から姿を消した。

「……どうもっす……」
 見覚えのある、少年たちが、遠慮がちに頭を下げながら、実習室にはいってきた。
「ここいらに寝っ転がっているやつら、回収しに来ました……」
 校庭で荒野にやりこめられ、その後、大清水先生によって、実習室の後ろに正座をさせられていた連中だった。
 流石に多少の学習能力はあるらしく、全員、靴を履いておらず、足元は靴下だった。
「……あれ、あれあれ?
 やだなぁ……。
 これ、撮影していたんですか?」
 少年たちは、パソコンの画面に映し出されている映像に気づき、騒ぎはじめる。
「うわー……やばいな、これは……。
 目撃者がでるのはしかたがないとは思っていたけど……まさか、こんなにしっかり撮影されているとは……。
 ね、この映像、ネットに流れているんですか?」
 少年たちの一人が、頭を掻きながら、手近にいた生徒に、そう声をかける。
「……えーと、どうだろ……」
「徳川に聞いてみれば? 誰か、あいつの番号かメアドもってないか?」
「……ちょい待ち!」
 斎藤遥が騒ぎはじめた生徒たちを制止して、マイクのスイッチを入れる。
「……あー、こちら実習室。
 徳川さん、聞こえてますか?」
『……聞こえているのだ』
 映像の中の徳川も、マイクの前に座り込む。
『こちらの様子は、そちらでもちゃんと把握できたかね?』
「ばっちりです。
 ……って、ことは、ぶちゃけこれ、徳川さんの仕込みですか? やっぱり。
 加納先輩が、周囲を巻き込むのを恐れていつ姿を消してもおかしくない状況だということは、把握しました……」
『ぶっちゃけ、ぼくの仕込みなのだ。
 百聞は一見にしかず。商店街での出来事と、加納の思惑を説明する手間が、これで省けたのだ』
「で、加納先輩はこっちに中継されていたことを、知らない、と……。
 あ。そこに茅さんが残っているけど……こういう話し、大丈夫ですか?」
『大丈夫なの』
 画面の中で、茅が、徳川の背後に移動して来た。
『ここにいる人達は、全員、荒野を引き留めようとしているの……』
「あ。あと、徳川さん。
 こっちにいるニンジャの皆様が、この映像のこと気にしていますけど……。
 ネットに流しているのかどうかって……」
『まだ、実習室のIPアドレスにだけ、開放している状態なのだ』
「まだ……って、ことは、いずれ流すってことですか?
 それ、やばいっすよ……」
 斎藤遥の後ろから、それまで控えていた一族の少年が前に進み出し、大きな声でいう。
『……一族の者、とやらかね……。
 やばかったらどうする? この場にいる全員の口封じをした上、その他の目撃者も一人一人をしらみつぶしに探しだし、さらにその上、この映像データまで破壊するかね? 今回、場所が場所だから、目撃者はかなり多いと思うが……。
 今更対応しようとしても、遅いのだ、手遅れなのだ、不可能なのだ! 特に、最後のが!
 この徳川の作ったシステムは、そうそうクラッキングできるないようにしてあるのだ!』
『……茅や楓も、システムの構築には手を貸しているの』
『そうなのだ。この三人が構築したシステムは……堅固だぞぉ……。
 そうそう破れはしないのだ!』
「い……いや、そういうことではなくて、ですね……」
 無意味に偉そうな徳川の態度に、思わず引き気味になる少年。
『心配には及ばないのだ。
 ネットで流す時は、「怪傑! シルバーガールズ!」の一シーンとして使用するだけなのだ!』
「それ、ネーミングセンス、最低っすよ!
 じゃ、なくてですね……」
『いいか、よく考えるのだ……。
 場所が場所、駅前商店街の近辺で、あんなことがあったのだ。目撃者は、かなり出ている。
 あれは、商店街企画の、プロモーションビデオの撮影だった、という規制事実を後付けででっちあげてしまう方が、まだしも、説明しやすいのだ……。
 また、そういうノリなら、どんな突飛な映像が組み込まれても、合成とかCGだと思うだけなのだ。
 それに、今後何かあったときも、撮影です、とごまかしやすくなるのだ……』
「……そ、そういうもんすか?」
『……ちょうどいい。
 あの二人と立ち回れる便利なエキセトラだ必要なところだったのだ。そこにつっ立っている何人か、連絡先をおいて行くのだ。
 なに、全身黒タイツ着て「いー!」と叫んであの二人にいいようにどつかれていればいいだけなので、演技経験は全く必要ないのだ……』
「おれら、戦闘員役っすか!」
 ろくに面識もない人間にこうしたことを頼める徳川篤朗の精神構造は、その少年には理解しがたかった。
「いいようにこき使ってやるから、光栄に思え」とでもいわんばかりの、徳川の口吻だ。
 別の少年が肩を叩いて、「まともに相手をするな」というように首を振る。
「えー。連絡先は、お教えできません。映像の件に関しては、加納荒野に一任します。じゃあ、おれらは、こいつら回収して、撤退しますので……」
 結局、一番無難な、荒野に判断を預ける、という意思表示をしただけで、少年たちは気絶したままの仲間たちを回収して、実習室から出て行った。

「……徳川さんとか玉木さんがからむと、どんなに深刻な問題も、冗談と化しますよね……」
 少年たちが出て行くと、斎藤遥が、ぽつりと感想を漏らすと、その場にいた全員が、うんうんとうなずいた。
『ん? ぼくは、極めて真面目に交渉したつもりなのだが……』
 画面の中の徳川は、斎藤遥の感想に対して、そうコメントする。
「はいはい……。
 で、途中で邪魔が入りましたけど……で、どうするんですか、加納先輩の件は……」
『どうもこいうもない。
 敵への対処は加納の領分だが……学校側の受け入れ態勢を整えるのは、ここにいる人間の仕事なのだ。
 生徒たちに、必要以上に反発されている、となると……加納は、おそらく、簡単に、ここから姿を消すのだ。
 まずは、何度か説明会を開いて、生徒たちに理解を求めたいと思っているのだが……』
『早ければ早いほどいいですね……。
 資料は、ぼくのほうの手持ちのものと、それに、今日の映像資料があれば、かなりいいプレゼンテーションができると思います……』
 今度は、有働勇作が徳川のマイクを奪う。
『急ですが……できれば明日か、明後日あたり……学校の、視聴覚室の使用許可を取ってほしいのですが……』
「聞いた? 誰か、職員室にいって、打診してきて……」
 斎藤遥が振り返ってそういうと、二、三人の男子生徒が廊下に出て行った。
「今、放送部員が許可を取りに行きました。
 首尾よく許可が取れたら……今度は、人集めですが……」
『茅と楓が、ボランティア活動用に組んだシステムがあるの……』
 茅が、有働の手の中にあるマイクに向かって、説明しはじめる。
『あれを使えば……登録してあるメールに、簡単に同報メールが送信できるの……』
「はい。
 では、そっちの手配は、こっちでやっておきます。 そちらは、説明会のプロモーションの準備を、お願いします……」
 そういって、斎藤遥はマイクのスイッチを切る。
「……ということで、協力してくれる人は、今後も手伝ってください……」
 斎藤遥は、背後に振り返って、深々とお辞儀した。
「それは、いいけど……」
 柏あんなが、斎藤遥に声をかける。二人は、クラスが違うこともあって、頻繁に会っているわけでもなかったが、顔と名前くらいは知っている……という程度には知り合いである。
「斎藤さん……その、恐くない?」
「恐い……っていうより……。
 うーん……なんだろ?
 全然、別物……だなぁ……。
 校庭での加納先輩……あのくらい掛け離れていると、なんか……わたしたちと、まともに比較するのも馬鹿らしいかなぁ……って……。
 あんなに強くて、その癖、変に腰が低いというか……みんなに恐がられることを、病的に恐がっている……人、ですよね。
 加納先輩って……」

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(18)

第六章 「血と技」(18)

 玉木と徳川が必殺技がどーの合体ロボがこーのとかなり怪しい議論をしはじめ、それまであまりしゃべらなかった茅までもが、
「茅、そうしたら指令やるの」
 とかいってその怪しげな議論に参加しはじめる。
『……こりゃ、横道逸れ確実だな……』
 と判断を下した荒野は、困った顔をして事態を見守っている有働に、
「……ちょっと、電話してくる」
 と声をかけ、部屋の隅に向かう。

「……あー。先生、っすか?」
『……なんだ、荒野か。
 こっちは今忙しいんだ。急用じゃなければ後にしろ……』
「いや、ガクの様子、知りたいんですけど……」
『無事といえば無事だ。骨や腱、それに重要な動脈とかは切れてなかったし、命に別状はない。
 しかし、手術がどうにも厄介でな……医者のほうが、傷跡つけたくないから、できるだけ縫合はしたくないって抜かしてな……』
 三島の話を総合すると、ガクの手足に傷跡を残すことを嫌った外科医が、かなり細かい整形手術をこれから行う、といいだしたらしい。
『……ま、こっちは、付き添いのテンと一緒に、一晩か二晩は泊まりだな。
 テンのやつ、ガクの傍から離れようとしないから、もう少しして落ち着いたら、わたしが二人の着替えやなにかを取りに帰るつもりだ……。
 あ。それからな。
 もう一つのお荷物はどうするんだ?
 というか、どうしたら起きるんだ、こいつ……』
 三島の車に乗せたままだった、佐久間現象のことだ。
「そいつには……聞きたいこともあるんだけど……じばらく構っている余裕ないから、そのままにしておいて……。
 あと、首の所に刺さっている針も抜かないように。
 抜き方が悪いと、最悪半身不随になりかねないから……」
『誰が、こんな現代医学に喧嘩売っているような代物に好んで手を出すかね……』
「テンにも、佐久間の分は、抜かないでそのままにしておくようにいっておいてくれ。
 ガクの分は……そのままにしておけば、麻酔代わりになるはずだけど……」
『もう、抜いた。
 テンが、病院につくなり、さっさと抜いたよ。なかなかの名シーンだったぞ、あれは……』
 ガクは、暴れてみんなに迷惑をかけたことを、テンは、ガクの暴走を抑えきれなかったことを、それぞれに気に病んでいるらしい。
 三島の話によると、ベッドに横たわり、傷の痛みに耐えながら泣くガク、その体に縋ってyはあり泣き喚くテン……という光景が、五分ほど観測できたらしい。
「……テンはもともと涙もろいところあるけど、ガクも、中身はまだまだガキだからな……」
『ずいぶんと物騒なガキどもだな? ん?』
「同感。だけど……あれでもそれなりにいろいろ考えてはいるみたいだから、長い目でみてやってくれ……」
『わたしにいわせりゃ、お前さんもまだ十分ガキだっつーの。
 ガキがガキの心配していてどうする?』
 その他、学校であった出来事なども含め、細々としたことを話してから、三島との電話を切る。

 ちらりと後ろを振り返ると、「理想のご当地ヒーロー像とはなにか?」とかなんとか、まだまだ座が盛り上がっている最中だったので、荒野は三島に次いで楓にも電話をかける。
 これだけ時間を置いてもなにも仕掛けてこない、という点から考えてみれば、今日、これ以上の襲撃はなさそうなものだが……油断は、出来ない。
 呼び出すつもりはないが、いつでも動ける体勢は整えておくように、くらいのことは、いっておくつもりだった。
『か、加納様!』
 電話に出るなり、楓はかなり取り乱した口調だった。
『た、大変、なんです……香也様が……香也様が……』
「香也君がどうした!」
 思わず、荒野の語気が鋭くなる。
 荒野本人はあまり自覚していないが、香也を初めとする隣家の住人たちは……荒野にとって、もっとも「どうにか」なって欲しくない人々だ。
 荒野の後ろでわいのわいの盛り上がっていた連中も、雑談をぴたりと止め、いきなり大声を出した荒野のほうに注目する。
 まさか……まさか、とは、思うが……狩野家まで、標的に含まれていて……楓たちの留守を狙って……。
『こ、香也様がぁ……』
 楓は、泣きそうな声で先を続けた。
『……風邪、ひいちゃったみたいなんですぅ……』
「………………それは……大変だな。
 お大事に。
 風邪はウイルス性の疾患だからな。抗生物質は効かない。
 消化がよくて温かいものを食べさせ、水分もこまめに摂らせて、たっぷりと汗を流すこと。後は、じっと寝かせておく。
 症状がひどい場合は、その症状にあった薬を飲ませてもいいけど……風邪薬っていうのは対症療法でしかないから、できるだけ服用しない方がいい。
 汗を流して休養させて、自然に体の抵抗力が回復するのを待つのが一番だ……。
 おれたちも帰ったら、お見舞いに顔を出すよ……」

 楓との通話を切ると、荒野は静まりかえって自分に注目しているやつらのほうに振り返る。
「香也君、風邪ひいたって……」
 そう報告すると、一同はがっくりと肩を落とした。
「……こっちはテロ対策だとか、カッコいい荒野君たちの今後の身の振り方とか真剣に話し合っているのに……」
 ついさっきまで「地元ヒーロー」がどうのこうのと、白熱してた議論を行っていた自身のことを棚に上げ、玉木がぼやく。
「……おれも……なんか……。
 がっくり、疲れたわ……」
 まだようやく夕方に入りかけた時間であるとはいえ……荒野にとってこの日は、かなり長い一日だったのだが……今ので、駄目押しになった。
「……これ以上の詳しい話しは、明日以降にしよう……。
 おれ、帰って、寝たい……」
 荒野がそう切り出すと、
「……はーい!
 晩ご飯、みんなで食べよう、みんなで!」
 と、玉木が手をあげる。
「……絵描き君の家で!
 このまま解散、じゃあ、今日はちょっと、みんな、しんみりしちゃうし! 話すことまだまだあるし!
 材料とかこっちで用意して……わたし以外の人たちが、作るから!」
 わたしが作るから、とはいわないあたりが、玉木らしい……と、荒野は思った。

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彼女はくノ一! 第五話 (101)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(101)

 楓と孫子が香也の看病の準備を慌ただしく開始したのとほぼ同時刻。

 一旦、商店街に駆けつけたものの、結局やることがなかった生徒たちは、そのまま直に自宅に帰る者と、一旦学校に戻る者とに二分された。前者は、商店街から学校に戻るとかなり遠回りの帰宅になる生徒が多く、後者は、方向的に、学校に寄ってもさして影響がない生徒が多い。
 柏あんなと堺雅史は、後者の、「一度学校に帰る」ことを選択した組で、理由は、やはり、家へ帰る途中に学校があったからだった。
「ぼく……なんか、いろいろありすぎて、頭が……整理、つかないよ……」
 学校へ帰る途上、堺雅史が柏あんなに語りかける。
「同感……だけど……」
 柏あんなは、釈然としない表情で堺雅史に答えた。
「やっぱ、なんか……変な感じ……」
 いろいろと……納得できないらしい。
 納得できない……と、いうよりも……。
『校庭での……加納先輩……』
 人間離れしていた……と、思う。
 長年、空手をやってきた柏あんなは、それだけ、「普通の人間の身体で可能な動き」という限界について、他の同級生たちより、リアルに感じることができる。また、あのスピードとパワーを持つ存在に襲いかかられた時の破壊力についても……かなりの実感を持って、想像することができた。
 背筋に悪寒を感じた柏あんなは、身震いする。
『……怖い……』
 素直に、そう思う。
 以前、同人誌作りの手伝いにいった時……それは、荒野たちとの初めて対面した時、でもあるのだが……柏あんなの姉、柏千鶴は、「その場にいる人の中で、荒野が一番強い」ということを冗談紛れにいっていたことがあったが……その時は、話半分に聞き流していた。
 あの時の千鶴の見立てが、今になって実感を伴ってくる……。
 あの時、千鶴は、「武道に熟練している人たちの、五倍くらい」と荒野の強さを見立てていたが……それどころでは、ないような気がする……。
「嘘をついていた……身元を隠していたことには、しょうがないと思うけど……」
 柏あんなは、震える声で、堺雅史にいう。
 あんなとて、初対面から「おれ、ニンジャの子孫なんです」と自己紹介されたとしたら、かなり対応に困る。だから、そのあたりのことについて嘘をついていたのは、仕方がないことだ……と、柏あんなも、理解している。
「でも……あんなの……人間業じゃ……ない……」
 一度震えはじると、震えは大きくなる一方で、柏あんなは、ガクガクと歯を合わせる。
「それは、否定しないけど……あれを見た後では、否定できないけど……」
 堺雅史は、柏あんなの、傘をさしているほうの手を、握った。
「でも、加納さん……こちらの、ぼくたちのような、平凡な生活をしようとしていたし……それを、素直に楽しんでいたと、思う……。
 本当は、あの人も……。
 今の生活を、誰にも、邪魔されたくはなかったんじゃないかな……」
「わかってる……わかってるの……でも……」
 柏あんなは、弱々しく呟く。
「でも……恐い……」

 出たときの半分くらいの人数が、実習室に帰ってきた。
 黒板には茅が説明をする時に書いた字がまだ消されずに残っていた。大清水先生は、職員室に帰ってのか、姿は見えない。後ろの方に縛られて転がっているままの人たちがいなければ、あのようなことがあったとは思えない……いつもと同じ、実習室だった。
 結局、茅の説明も開始してからいくらもしないうちに中断された恰好で、詳しいことは聞いていない。ニンジャの中には反目し合いながらも緩やかに共存する六つの血族集団があり、荒野はその中の一つ「加納」の、次世代の指導者と目されている……本人の自覚はともかく、周囲には、そのようにに認識されている……というところまでは、柏あんなにも、辛うじて理解できた。
 校庭に来たのも、あの、「さくまげんしょう」とか名乗って実習室に乗り込んできた子も……その、六つの血族集団とやらの関係者で……荒野と、敵対する立場のものなのだろうか……。
 なんだが、マンガやラノベのノリを地でいくような話しだ……と、思いつく。
 柏あんなは突然、笑いの発作に襲われ、その場で盛大に吹き出してしまうところを、あやうく自制する。
 冗談みたいだろうが、なんだろうが……今日、荒野が、校庭で演じたのは、あんな自身がこの目で見た現実だ。
「……おい、これ、見ろよ……」
「なんだ? さっきいった、電気屋さんの事務所じゃないか、これ……」
 生徒たちが、つけっぱなしになっていてパソコンの画面を指さして、そんな風にざわめいている。
 柏あんなと堺雅史は、顔を見合わせてから、人垣の後ろから画面を見つめた。

「では、次の問題……有働君から、学校でのことは一通り聞いたけど……。
 今後……君達、どうするの?」
「どうするって……おれは、できれば残りたいと思っているけど……こんな騒ぎが起こったんじゃ……」
「逆に、玉木に聞きたいけど……さっきのガスな。
 いろいろな幸運が重なって、今日はたまたま、たいした被害がでなかったけど……あれ、テロだぞ。
 今度のやつらは……無関係の人々を、平気で巻き込むっていうことで……。
 おれたちがこの土地から去れば、少なくとも、君たちには危害は及ばない……」
「……でも……。
 それは……根本的な解決には、ならないのです……」  
 荒野、茅、玉木、有働、徳川の五人が、椅子に座って話し合っている。
 中心になって話しているのは荒野で、後の連中が、時折口を挟む、といった形だった。

『……テロ……』
 商店街で起こっていた騒ぎについて予備知識のないあんなは、首を傾げた。
「……あんなちゃん、こっちこっち……」
 堺雅史が、別の画面を指さす。

 そこには……ゴスロリ・ファッションの女たちと非現実的な戦いを行っている、アニメかなにかから抜け出してきたような、銀ピカの装備を身に付けた子供たち……その子供たちの一人が、手にしていた棒で、空を指さす……そこから、煙を吐きながら落下してくる物体……その物体が落下した箇所から、もうもうと白い煙が充満する様子……一人だけ残された、銀ピカの子……必死の形相で飛び込んでいく、荒野……子供を抱えて煙から出て、そのまま煙を吐く物体を抱えて何処かに姿を消す荒野……が、映っていた。
 別の画面には、先ほど、銀色の子供たちと乱闘をしていた女たちが、煙の塊をパスしながら持ち去っていく様子とか……それに、どこかの屋上で、先ほど、荒野に救われていた子供が暴れていて、見覚えのある校庭を襲った人たちとか、銀ピカの片割れとか……初めて出てくる、赤覆面のニンジャ……それも、体のラインから見て、どうも女性らしい……などが、総出で取り押さえる様子が、映っている……。
 ヘルメットが脱げていたのではじめて顔が確認できたが……暴れていた子供は……あんなも面識がある、ガクという子で……だとすれば、もう一人の銀ピカは、ノリかテンだろう……。

「加納さん……校庭での騒ぎのすぐ後で……こんなこと、やってたんだ……」
 あんなのすぐ横で、堺雅史がそんな声を出す。
 感心している、というより、呆れた……といった、口調だった。
 それぞれの画面の隅に、時刻を現すデジタル数字が表示されていた。その時刻が正確であるとするのなら……堺雅史や柏あんなたちが商店街に向かっていた、時刻の出来事だった。
 つまり……こういうことが起こったら……茅は説明を中断し、慌てて出て行ったわけか……。

「分かっている……。
 でも、おれたちがここにいることで……無関係の人々に累が及ぶのは……どう考えても、間違っている……。
 なあ、玉木……例えば、今日みたいなことが……頻繁に、日常茶飯事にあったら……玉木たちも、困るんじゃないのか……」
「うん。困る。
 でも、今日のって……別に、カッコいい荒野君が、望んで起こしたことではないでしょ?
 一族の人たち、あんなに一生懸命、被害の拡大を阻止してくれたし……」
「……一族は、忍だ……。
 自分たちの存在が公になりそうになったら、それを阻止する為に動く……」

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(17)

第六章 「血と技」(17)

「……今後、おれたちがとり得る方針を大別すると……」
 荒野は、指折り数えて見せる。
「……このまま、この町を出て行く。
 そうすれば、少なくともこの町の人には累は及ばない……」
「……でも……それでは、加納君たちの立場は、なんも変わらないのです……。一方的につけ狙われるだけなのです……」
「……そうそう。逃げているだけだもん……」
 有働勇作が、指摘し、玉木珠美も賛同した。
「……次に、現時点では正体がはっきりしない襲撃者を、積極的に狩り出し、追い詰め、おれたちに手出しを出せないようにする……。
 これは、選択肢としてはありだが、現実的には不可能だ……戦力が、少なすぎる……」
「質問!」
 玉木が、片手をあげる。
「……まず、襲撃者って……正体不明なの? さっきいろいろ、トクツー君と推測並べていたけど……」
「……状況証拠かみて、ガクやテンたちと同等、あるいはそれ以上の能力はありそうだ、というあたりは確かなようだけど……それ以外のことは、推測になっちまうな……」
「……捕まえに、いけない?」
「……そいつらの総戦力が判明していない今の段階では……やらない方が、賢明。
 返り討ちにあう可能性、大……。
 焦って直に追うよりは、一族の情報網に頼った方がいいかな、と、思っている……」
 いつ、再度の襲撃があるか予測できない現状では……荒野たちから手を出さない方が、いい……。
「……結局……守るものが、多すぎる、っていうことなんだね……」
 玉木が、顎に手をあてて考え込む。
「無差別テロの場合……実際の被害よりも……心理的なプレッシャーの方が、深刻な場合が多いです……」
 有働が、頷いた。
「あと……実際に取り締まるとなると……多くのマンパワーが無駄に消尽させられる。それに、そうした取り締まりをきつくすればするほど、普通の流通網や情報網の健全な流通に支障をきたす。
 正常な社会インフラが、機能しなくなる……」
 もちろん、表向きはただの学生でしかかない荒野たちには、捜査権もなにもない。
 何万人という人間の中から数人の候補者を絞り込むことさえ、事実上、不可能だった……。
「……だから、ここの人たちに迷惑をかけないですむ、一番いい方法は……おれたちがここから離れることだと思うんだけど……」
「……荒野……」
 それまで黙って聞いていた茅が、片手をあげる。
「……確実、ではないけど……そいつらを、おびき出す方法が……あることにはあるの……」

 そういって茅は、「その方法」について、滔々と説明をしだす。
 と……有働は目を丸くし、玉木は途中からげたげた笑い出し、徳川はにやにや笑って聞いていた。
 荒野は……頭を、抱えた。
「……か、茅……それ、成功率、かなり低いぞ……」
 第一……すごく、恥ずかしいと思う……。
「成功率は低いけど……襲撃者の標的を固定する方法は……これしかないの……。
 大丈夫。
 ガク、正義の味方になりたがっているし……テンも、ガクの暴走を許したことで、かなり落ち込んでいるの……」
 ガクもテンも、汚名挽回の機会を歓迎するだろう……ということは、理解できるのだが……。
「……いいじゃない。
 この際だ。ダメモトでやっちゃおうよ、カッコいい荒野君!
 ご当地ヒーロー、最近はやっているんだしさ!
 あ。あの二人の場合、ヒロインか……」
「それに、二人の危機になると助けにくる、謎のくノ一……。
 楓の正体は、最後の最後まで伏せておくの……」
「ゴスロリ・スナイパーもな……」
 茅と玉木は、顔を見合わせて笑い合った。
「……幸い、今日のあれで、戦闘シーンの素材には事欠かなくなったし……」
 荒野は、頭を抱える。
 どこからそういう発想が……と、思いかけて、荒野は、茅が、戦隊物のファンであったことを思い出す。

 ご当地ヒロイン番組をでっちあげ、ネットで配信し……「次号予告」という形で、正体不明の敵を挑発する……なんてイージーな手に……敵が、乗ってくるのだろうか……。

「……くくく……」
 徳川篤朗が、不気味な笑い方をした。
「……それではぼくは、敵が予想しえないような新兵器を次々とつくってやるのだ……」
 そういえば、こいつも姪御さんに付き合って、見ているんだよな、確か……。
 と、荒野はぼんやりと思う。
「……そうそう。トクツー君は、開発要員だな。博士だ博士。
 で、新兵器をおもむろに出す時は、こういうんだ……」
「「……こんなこともあろうかと……」」
 玉木と徳川の声が、ハモる。
「……あのなー、お前ら……」
 荒野は眉間のあたりを指で揉みながら、二人に突っ込む。
「……ここまで来ると……もう、遊びじゃ済まされないんだぞ……」
 下手すると……死人が、出る。
 今日だって、無関係の人間に負傷者をだしていないのが、奇跡のようなものだ。
「……こっちだって真剣だよ、カッコいい荒野君……」
 玉木は、意外に真剣な表情で荒野を見据える。
「……いいかい?
 もう、今日みたいなことは……あってもらっては、困るんだ……。
 でも、苦情をいたくとも、だれに言えばいいのか……その相手が、わからない。姿をみせない……。
 言いたいことはいっぱいあるのに、宛て先がわからない。
 そういうやつらに、的確にメッセージを伝え、引っ張り出する方法が……なにか別にあるとでも?」
 玉木にそういわれてしまうと……荒野は、言葉に詰まる。
 玉木が、商店街に来る人達の安全を、真剣に考えているのは、本当だ。今日の挙動をみていれば、いやでもわかる……。

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彼女はくノ一! 第五話 (100)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(100)

 スコープを覘いて、ガクが無事取り押さえられたことを確認した才賀孫子は、ライフルを分解してゴルフバッグの中に収納しはじめる。楓が何の合図もなしにいきなり乱入してきたのは気に食わないし、驚いきもしたが、ガクを保護する、という目的は達せられた形だ。
 また、ガクは、孫子のライフル弾程度は余裕で叩き落としてしまうことも以前に実証されているので、孫子がサポートに回るであろうことは、事前に予想されていたことでもあった。

 楓の介入が事態収拾の決定打となったこと、それに、他ならぬ自分自身が、結果として楓のサポート役を務めてしまったことは、心底気に食わなかったが、ほぼ新品同様となったライフルの使い心地が思ったよりも良好であったので、孫子はそれなりに満足していた。
 徳川のいった通り、重量バランスはほとんど変わっていないのに、全体に軽くなっている。実際の命中精度や耐久性などについては、もう少し手間暇をかけて試験してみないとなんともいえないが、今日、使用した感触としては、決して悪いものではない……。

 徳川篤朗、という存在は、孫子にとっても才賀にとっても、今後、重みを持つ可能性がある、と、孫子は評価する。
 今度、時間を作って徳川の工場とやらを見学して見よう……と、孫子は思った。ビデオをみたり話を聞いたりしたことはあったが、孫子自身は、まだ徳川の工場を見学していない。
 敷地はかなり広いようだから、場合によっては、資金融資をして工場内に射撃訓練のための設備を増設しても、いい……。

 そんなことを考えながら、孫子は分解したライフルをテキパキとゴルフバッグの中に収納し、狙撃場所に使用していた場所から撤退した。
 狙撃中に傘を使う訳にもいかなかったので、全身、雨に濡れていたが、通行人に怪しまれないために、帰り道は傘をさした。もともと、ここまで大降りの雨だと、足元はかなり濡れる。傘でうまく隠せば、このドレス姿でゴルフバッグを持ち歩いている不自然も、多少は糊塗できるだろう。
 そんな風に孫子は、帰路もできるだけ目立たないように工夫をこらしたつもりだったが、徒歩十分弱の家までの道程で、数えるほどしか人とすれ違わなかったし、また、そうしたたまたま行き会った人々も、雨を嫌ってか足早にすれ違うだけで、誰も孫子に注意を向けたようには見えなかった。

 帰宅した孫子は、傘を玄関にある傘立てにほうり込み、少し思案して、玄関でソックスとタイツを脱いで裸足になる。
 玄関先であんなことをして、多分、まだ誰も掃除をしていないと思うので、どのみち着替えたら一通りの掃除をするつもりだったが、そうであっても濡れたままの足で廊下を歩くのには、孫子には抵抗があった。
 玄関マットで丁寧に足を拭い、自室に向かう。
 自室で下着まで含めて着替えを行い、脱いだ衣服を風呂場まで持っていく。洗濯機は脱衣所にあり、そこに一度の洗い物を集積してから洗濯をする、という習慣ができていた。
 それから、そろそろ夕方にさしかかる時刻だったので、孫子は、冷蔵庫の在庫を確認するために台所に向かった。場合によっては、買い出しに行く必要があり、そうであれば、荷物持ちという名目で香也を引っ張り出そう……というのが、孫子の目論みである。

 そして孫子は、台所で、食べ物の残骸にまみれるようにして熟睡している香也を発見した。
 昼寝が悪いとは思わないが……この時期、こんなところで寝ていると、かなり高い確率で風邪を引く……。
 と、思った孫子は、すぐに香也を起こそうと、香也の体に手をかけ……手遅れであることを、悟った。
 香也の体は、高熱を発していた。

 ぐるぐる巻になった鎖から解放され、ガクの身柄はテンがかついで出て行った。楓も、すぐにその後を追う。二宮舎人に指摘された通り、白昼にそのまま町中を歩き続ける格好ではなかったので、一度家に帰るつもりだった。
 ただ、「顔を隠して」とわざわざ指定してきたのは茅であり、また、新たな問題が発生している可能性もあったので、楓は、家へ向かいながら、念のために茅に電話をかけた。
『……今のところ、楓の力が必要な局面はないの……』
 楓が「このまま帰宅してもかまわないか?」と確認すると、珍しく茅は少し考えてから返答した。
 茅は、なにか問いかければ、即答をする癖がある。たいていは、いっそ素っ気ないほどに短い、端的な言葉で答える……の、だが、この時ばかりは、何故か、答えが返ってくるまで、何秒かの間があった。
『その代わり……今夜か、明日あたり……詳しい話し合いが、あるかもしれないの……』
 茅は、そういった後、しばらくは、できるだけ自由に動ける時間を出来る限り増やすように、と、いった。
 ……なにか、楓がまだ知らないところで、いろいろな動きがあったようだ……と、楓は思った。しかし、この時点では、楓は、学校での出来事や、商店街へのガス弾の投擲などの情報を知らされていない。
 だから、茅が数秒、楓に何かを告げようとして、結局その時点では、何も伝えなかったことを……あまり、深刻に受け取らなかった。
 その代わり楓は、深刻、かつ真剣になる事態に、帰宅直後、遭遇することになる。

「……でー!」
 帰宅後、楓は、廊下で孫子と遭遇した。
 孫子は、ぐったりとした香也を両手で抱えている。
「ひ、人の留守中にまた何をしようとしますかこの女は!」
「風邪!」
 取り乱しかけた楓を、孫子が一喝する。
「台所に倒れていたのを、見つけたところです……。 静かになさい、このお馬鹿くノ一……」
 いわれてみれば……香也の頬は、朱に染まっている。呼吸音も、いつもよりうるさい……。
「……ふ、布団を……」
「その前に着替えて、ちゃんと体を拭いてきなさい。濡れた体のままで、病人に接する人がありますか……」
 楓は、こくこくと頷いて、飛ぶような勢いで、自室に戻って行く。
『……まったく……』
 孫子は軽く眉を顰めて、香也の体を香也の部屋に運び込む。
 一度、畳の上に香也の体を横たえ、布団を敷く。そして、香也のパジャマを出して、香也の服に手をかける。
『……い……いいのよ、ね……このまま寝かせるわけにも……』
 とか、心中で自己弁護しながら、香也の服を脱がせる。
 そして即座に、タオルを持ってこなかったことを後悔する。
 香也の体は……予想以上に、汗で濡れていた。
『……思った以上に……』
 体温が、高くなっているらしい……。
 香也の額に手をあてた孫子は、すぐにその手をひっこめる。
 熱い。
『……タオルと、体温計と、氷枕と……』
 香也は、予想以上に高温を発している。おそらく、インフルエンザ、だろうとは思うけど……。
『あと……後で、三島先生にでも……』
 あれでも、医師免許は持っているらしい。何かの足しにはなるだろう。

 そんなことを思っているうちに、着替えた楓が香也の部屋にやってくる。
 孫子と同じく、香也の容体が想像以上に悪いのにすぐ気づき、またあたふたしかけるのを孫子が鎮め、テキパキと指示を飛ばして、二人で分担して必要なものを用意する。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(16)

第六章 「血と技」(16)

「……ガクは、先生の車で近くの病院に行くの。テンも、それに付き添い。二宮舎人は、楓とガクに巻き付いた鎖をとってから、こっちに来るの……」
 部屋の隅で電話をかけていた茅が、荒野の方に戻って来る。
「……荒野、もう十分に栄養、補給した?」
「う……うん……」
 荒野は、あっという間にケーキ一ダースと二リットル入りのスポールドリンクを空にして、ケーキの箱の中に入っていた紙ナプキンで口の回りを拭っている。
「……じゃあ、こっち……。
 口の中と目が、残っているの……」
 そういって茅は、三島が持ち込んだ救急箱を空けて脱脂綿を取り出し、ちぎって丸めたものを、ピンセットの先で摘まみ、徳川が買って来た喉の薬の瓶に浸す。
「荒野……あーん、して……」
「い、いいよ……もう、かなり調子よくなって来たから……」
「駄目。荒野、声、ガラガラ……」
 荒野は睨みつけてくる茅と、茅が手に持つピンセット(の先についた脱脂綿からしたたり落ちる、毒々しい色の液体との間に、等分に視線をさ迷わせ)、そして、観念して口を大きく開ける。

 良薬、かどうかはよく分からなかったが、その薬はひどく苦かった。

 続いて茅は、目薬を取り出して、荒野の両目にじゃぶじゃぶと、大量に流し込む。こっちは、もともとヒリヒリしていた所にかけられたので、相応の痛みは感じたもの、すっきりとした感じもする。
「後は……ちゃんとしたお医者さんに、診てもらうの……」
 そこまでやって茅は、ようやく荒野を解放した。

 玉木玉美、徳川篤朗、有働勇作は、最初のうちこそ茅と荒野のやり取りを興味深そうな顔をして見ていたが、そのうち三人で肩を寄せ合って、ごそごそとなにやら話し込み出した。
 荒野は、なにやらイヤな予感がしたが、制止しようにも、茅が離してくれない。
 ……最近の荒野のイヤな予感というのは、かなり高い確率で当たるのだが……。

「ところで……」
 ようやく茅から解放されると、徳川篤朗が、荒野の方をみて、にんまりと笑った。
「……あのガスの成分は調べておいた方がいいのだ。ぼく自身はそっちの知識はあまりないが、知り合いに詳しいのがいるので、その服を預からせて貰うのだ……」
 そういって、徳川は荒野が脱ぎ捨てたワイシャツと制服のスラックスが入っているビニール袋を指さす。雨にぐっしょりと濡れたそれらは、徳川が適当に買ってきたフリーサイズのスウェットスーツが入っていたビニール袋にまとめて入れていた。
「あ、ああ……」
 荒野は、とりあえず頷く。別に、拒否しなければならない理由は思いつかない。
 もともと、制服は新しいものを一揃え、調達するつもりだった。
「その手の成分分析なら……才賀の関係でも、できるんじゃないのか?」
「時間がかかりすぎるのだ。
 ぼくの伝手なら、一両日中に結果をだせるのだ……」
「まあ……その辺は、任せる……」
 正直、当面の危機が去った今、痕跡の分析、などということについて、荒野の関心は薄い。栄養補給を優先したのも、再三の襲撃に備えるためだった。

「では、次の問題……有働君から、学校でのことは一通り聞いたけど……。
 今後……君達、どうするの?」
 今度は、玉木だ。
「どうするって……おれは、できれば残りたいと思っているけど……こんな騒ぎが起こったんじゃ……」
 荒野は、珍しく、歯切れが悪い言い方をした。
「逆に、玉木に聞きたいけど……さっきのガスな。
 いろいろな幸運が重なって、今日はたまたま、たいした被害がでなかったけど……あれ、テロだぞ。
  今度のやつらは……無関係の人々を、平気で巻き込むっていうことで……」
 今日のは……警告も兼ねた、挨拶なのだろう。悪趣味な挨拶だとは思うが……あのガスが、もし、至死性のものだったら……。
「おれたちがこの土地から去れば、少なくとも、君たちには危害は及ばない……」
 自分の周囲数人単位、なら、なんとか身の安全を確保できるかもしれない……。
 しかし、学校やこの町すべてが標的になってくるとなると……いくら荒野たちが卓越した能力を持っている、としても……現実問題として、なす術はない。
「……でも……」
 有働は、ひっそりと静かな声で、荒野に反論する。
「それは……根本的な解決には、ならないのです……」
「分かっている……」
 荒野も頷く。
「でも、おれたちがここにいることで……無関係の人々に累が及ぶのは……どう考えても、間違っている……」
 荒野だって、悔しいし、口惜しい。
 せっかく……学校のほうは、なんとかなりそうだったのに……。
「なあ、玉木……例えば、今日みたいなことが……頻繁に、日常茶飯事にあったら……玉木たちも、困るんじゃないのか……」
「うん。困る」
 玉木は、あっけらかんと頷いた。
「でも、今日のって……別に、カッコいい荒野君が、望んで起こしたことではないでしょ?
 一族の人たち、あんなに一生懸命、被害の拡大を阻止してくれたし……」
「……一族は、忍だ……。
 自分たちの存在が公になりそうになったら、それを阻止する為に動く……」
 荒野は、答える。
 一族のものは総じて、そのように教育されている。でなければ、今までその存在を秘匿できたわけがない……。
「……でも……ガス弾を使った人たちは……そのロジックに縛られていない」
 玉木は、断定する。
「つまり……ガス弾を使った人たちは、カッコいい荒野君の側からみても……異質な行動原理で動いている……」
 ……三人で、話し合った結果、導いた結論なのだろう……。
 そして、それは、荒野自身の予測と……一致する。
「おれも……そう思う……」
 荒野は、深くため息をついて、玉木たちの推測が妥当なものであることを、認めた。
「学校でのやり口からみても……今回のは、一族のセオリーから、丸ごと、外れている……」
 学校での佐久間現象の出現のように……故意に、目撃者を増やすように仕向けるのは……従来の一族なら、決してやらなかった手口だった。
 一族の存在が明るみに出れば、いずれ、自分自身の足場を突き崩すことになる。だから、一族同士が争う時は、一般人には現場を押さえられないように留意する……。
 これは、一族が一族である限り、変わらない前提の筈だった。
「……つまり、今回の件を仕組んだ人たちは……カッコいい荒野君の一族と同等、ないしは、それ以上の能力を持ちながら……一族自体の存続には、あまり関心を払っていない……。
 あるいはもっと、はっきりと敵対する意志がある……」
「……ああ……」
 その部分も、荒野自身の予測と一致する。
 まったく、年端もいかない一般人の癖に……。
「でも……どうして、一族と同等の、ないしは、一族以上の能力、って分かるんだ?」
「だって……その人たち、洗脳が得意な筈の、佐久間って子を……逆に操って、学校を襲わせたんでしょ?」
 玉木の答えは、明快だった。
「それに、あの、ガス弾……最初は、ランチャーで打ち上げたのかと思ったのだが……映像をみると、実にもろい構造をしているのだ……」
「……ああ。
 このペットボトルを一回り大きくしたような……単なる、プラスチック容器だったよ……投げ易いように、取っ手が着いていたがな……」
「……あれだけの高さから落ちてきて、アーケドを突き破らなかったから、おかしいと思って録画を再生して確かめたのだ……」
 徳川は、荒野の返事に満足したように頷いた。
「……多分、大気中の成分と反応してああいうガスを発生する仕組みなのだ。そうすれば、総重量も押さえられるし、弁を開けた状態で投げられたのも、説明がつくのだ……。
 それに……」
 徳川は、荒野に追い打ちをかけるように、重々しく頷く。
「……いくらそうやって軽量化しているとはいっても、投げた時点での総重量は五キロ以上と推定できる……。
 それだけの質量を……国道の向こうから、ここまで投げる、というと……最短に見積もっても、五百メートル以上にはなるのだ……。
 そんな芸当を可能とするには……ガクと同じくらいか、それ以上の膂力が必要なのだ……」

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彼女はくノ一! 第五話 (99)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(99)

「そこは、そっちの下が噛んでいるから……ああ、それじゃあない!
 そっちの人が右手に持っているやつ、先にこうやって持ってきて……」
 ガクは、楓に抱っこされた形で、何十本という鎖にぐぐるまきにされている。適当に投げ付けられたものだから、ほどくのにも手間がかかる……と、思われたが、途中からテンがテキパキと指示を出しながらこんがらがった鎖を解きはじめ、二宮舎人と数人がその周囲でテンが解いた鎖を手で持って、外に引いている……という感じになった。
「……佐久間の形質、ってのも、便利なもんだなあ……」
 鎖をほどくのを手伝いながら、二宮舎人が感嘆する。一族の関係者でさえ、佐久間と直に対面したことがある者は、少ない。
 特に説明を受けた訳ではないが、二宮舎人は、佐久間現象に続いてテンと接触したことで、二人に共通する資質に気づいている。
「……お前ら、正確な記憶力と、それに……目測も、ほとんど完璧にできるだろ……」
「おじさん……ゴツい見かけによらず、観察力は鋭いね……」
 テンは、手を休めずにそう答えることで、舎人の憶測を半ば認めた。
「……でも、ボクの場合、佐久間の技までhs受け継いでないから、扇動とか洗脳とかはできないよ……」
「やれないでいい、そんなもん……」
 何故か、舎人はげんなりとした顔をしていた。
「二十四時間三百六十五日、マスメディアが垂れ流しているじゃねーか……。
 あれを買え、これを買え、って……」
 舎人によると、資本主義と結び付いたコマーシャリズムも、洗脳や扇動の一種であるらしい。もっとも、そうしたコマーシャリズムには強制力はないから、洗脳や扇動と完全に同一視するもの難がある。
 つまり、完全に正解とはいえないが、反面、完全に不正解というわけでもない。
「それ……なんだよね……」
 テンは、舎人の軽口に、意外に真剣な顔で頷く。
「ボクたちを育ててくれたじっちゃんがよく言っていたことだけど……一族ができることは、もう、一般人もできるようになっている。
 機械とか科学技術の力を借りて、っていうことだけど……」
 舎人は黙って頷き、テンの話の先を即した。
「そんな……以前ほど、一族のアドバンテージが失われてきているこの現代で……おじさんは、どうして一族であろうとするの?
 足抜け、っていうんだっけ?
 そういうのして、一般人として、生活しようとは思わなかった?」
 テンが、一族の内部で、現役で働いている人間にあったら、ぶつけて見たいと思っていた質問だ。
「……直球で……しかも、なかなか答えにくい質問だなあ、それは……」
 舎人は、そういった後、しばらく黙り込んだ。
 その間も、テンは、抱き合った形でぐるぐる巻きにされている楓とガクの回りをせわしなく駆け回って、鎖を解いている。
「……おれはな、二宮の傍流の出だ。
 ここ何代か、親父の代までは、二宮の形質がほとんどでてなくって……かろうじて本家との繋がりは残っていたが、実態はほとんど一般人、っていう、ごく普通の家庭に生まれた……。
 で、おれも……ごく普通の一般人として生活していったんだろうが……ある年齢から、急にガタイが大きくなりはじめ、力も強くなりだしてな……。
 で、そのころ、たまたま町のチンピラに目をつけられて、カツアゲされそうになってな……そん時に、意識を失って……。
 気がついたら、血の海の中に一人でぽつんと立っていた……。
 どうも、隔世遺伝、ってやつだったらしい……」
 だから……と、二宮舎人は、続ける。
「今日のこいつのことも、他人事とは思えなくてな……。
 一族の血を受け継いだのは、たまたまだったが……自分の性質に気づいた後、一族であろうとしたのは……おれ自身の、意志だ……」
 テンは、手を止めて周囲を見渡す。
 ガクの捕獲に協力してくれた少年たちは、かなり数が減っていたが、何人かは残って、ひしゃげて役に立たなくなった手摺りの撤去作業などを行っている。
 この少年たちにも……それぞれ、思うところは、あるのだろう……。
「……一族、っていっても、いろいろな人がいるんだね……」
「そうだな……。
 賢いやつ、調子だけはいいやつ、とか馬鹿なやつ……いろいろなやつがいる。
 能力的に、多少、優れた点があるとはいっても……その他は、一般人とそうは変わらないな……。
 おれたちも、所詮、人間の端くれだ……決して、人間以上のもんじゃない……」
「それは……いわれなくても、わかるような気がする……」
 テンは、鎖による拘束がそろそろとけかかってきている楓の方を、じっとみる。
「な……なんでそこでわたしをみますかぁー!」
「楓おねーちゃんもそうだけど……かのうこうやなんかも、あれで結構……いや、かなり……ヘンな人だよ……」
「パイロンが、か……ほぉ……」
「強いのに、非情になりきれないせいで実力だしきれないし、茅さんと女性と子供……特に、茅さんには甘いし……」
 ぶつくさいいながら、テンは楓たちの周囲をそれまで以上の速度でぐるぐると駆け回って鎖を解く。
「……平然と、他人のために危険な場所に飛び込んで行くし、ガクとどっこいどっこいのお人よしだし……」
 楓は、思わずうんうんと頷きそうになって、それから、はっとして表情を無理に引き締めた。
「ガクもそうだけど、あれじゃあ、いくら命があっても足らないよ!
 はい、終わり!」
『……おーい、テン、まだかー……こっちはさっきから、下で待っているんだが……』
 テンのヘルメットの中に、三島百合香の声が響く。
「今、いく!」
 自由になったガクの体を肩にかつぎ、テンは階段のほうに勢いよく駆け出した。
「じゃあ、ボクたち、病院にいってくるから!」
 テンは、階段の出入り口に姿を消す間際、振り返って誰にともなくそう告げて、階下に姿を消す。

「まあ……難しい年頃ってやつだな、あれも……」
「あ……あはは……」
 二宮舎人にそう振られても、楓としては愛想笑いを返すしかない。そもそも、テンたちと楓とでは、年齢も、そんなに離れているというわけではない……。
「さて……おれは……荒野のところに出頭しなくちゃな……。
 おーい……お前らも、適当なとこで姿をくらましておけよー……。
 とりあえず、落下物の危険さえなければ、後の始末は荒野のほうで手配してくれるそうだから……」
 二宮舎人は、手摺りの残骸などを集めていた少年たちに声をかける。それから、楓の頭の先から足元までじろじろ見渡して、
「で、お嬢ちゃんの方も……いったん、帰ったほうがいいな……。
 そのなりで、町中をうろつくのは……ちょっとその……あれだろ?」
 楓は、二宮舎人の視線を追うようにして自分の服装を見返し、
「あは……あははははあは……」
 と、乾いた笑い声をひとしきりあげてから、
「はい! そうします!」
 と答えて、きびすを返した。

「荒野のやつも……苦労の種が、多いようだなあ……」
 二宮舎人は、楓に続いて階段に向かう。
 ……苦労のしがいも、ありそうだが……とは、口には出さなかった。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(15)

第六章 「血と技」(15)

 荒野がパーテーションの向こうで濡れた衣服を脱ぎ、体をよく拭いてから、三島と茅によって一通り脱脂綿に含ませた消毒液で体を撫でられた。もちろん、荒野自身も手を動かしていたのだが、こんな所でいつまでも半裸になっている趣味はないので、三人がかりで行う。
 上半身の消毒が終わり、荒野は徳川が入手してきたスウェットスーツを身につける。フリーサイズのそれは荒野にはぶかぶかで、明らかに似合っていない。
 制服のスラックスを脱ぐだんになると、茅が「わたしゃあ、医者だぞ」と抗議する三島の背中を押して、パーティションの向こうから追い出した。
 やがて全てが終わり、ようやく乾いた衣服を身につけた荒野は、心持ち顔色もよくなってきたように見えた。
「……今、どうなっている?」
 ガラガラ声でそういって、荒野は身を乗り出して、パソコンの画面をみる。
「たった今、取り押さえられた所……動きが速くてあっという間だったけど……なんか、大捕物だったわ……」
 玉木が、呆れたような声で、答える。
 飛び交う鎖、ひしゃげる手摺り……そして、今、楓と一緒になって、イモムシかなにかのようにもっこりと何重にも鎖を巻き付けて……ガクが、ぐったりとしている。
 時間にすれば……ガクが暴れてから取り押さえられるまで、十分と立っていない。しかし、みんな……ビデオの早回しをみているような動きをしていた。
 それも、倍速、ではなく、五倍とか十倍の世界だ……。

『かのうこうや!
 茅さんでもいいや! 聞いている?』
 テンの声が、パソコンから聞こえてくる。
『どっちでもいいや! 早く、病院の手配、お願い! ガク、こんなんだし……それに、ガスも、かなり吸っている! ちゃんとした検査、受けた方がいい!』
 荒野は、頷いた。
「茅、じじいに連絡して、この一件を報告……
 その後、ガクの病院とか、後始末全て、じじいに押しつけてやれ……」
 いつもなら、こうした際は、荒野自身が連絡するのだが……今は、長時間しゃべるのが、辛い。
 パソコンの画面には、ガクが暴れたおかげで手摺りがぐちゃぐちゃになったどっかのビルの屋上が、映っている。この雨の中、しかも、ズームを使っているらしく、画面はあまり鮮明ではなかったが……惨状は、十分に確認できた。
 荒野は、玉木が差し出したマイクのスイッチを入れて、しゃべった。
「……そういった手配は、今、やっている……。
 テン、今日は、お前も疲れたろう……」
 三島は「ちょっち回収してくる!」といって、裏口に向かった。
「今、先生が車で迎えにいったから、そこで大人しくしてろ……。
 舎人さんとその他のヤツラは……舎人さんを残して、後のは、一旦学校に戻る……。
 そこで、意識を失っているヤツラを回収したら、今日の所は、引き上げてくれ。そちらの事情は、舎人さんから聞く……。
 今日は……」
 荒野は、ガラガラになった声で、しみじみと、いった。
「今日は……いろいろなことが、ありすぎた……」
 荒野は、壁に掛かっている時計をみる。
 平日なら、ようやく……下校の準備をしている時刻だ。
 部屋の隅では、茅が長電話をしている。

 マイクのスイッチを切ると、荒野はマンドゴドラの箱と、二リットル入りのスポーツドリンクのペットボトルを引き寄せる。
「……玉木は……今回の件の、公式見解、なんかうまく辻褄を合わせて、でっち上げてくれ……。
 それなりに目撃者はいるから……誤魔化せない部分も多いと思うけど……」
「……納得するかどうか、分からないけど……」
 玉木も、荒野の言葉に頷いた。
「……一応、アトラクションの撮影中の事故、っていうことで、押してみる……。
 発煙筒の事故、それに、あの屋上……」
「……頼む。
 必要な費用は、じじいに出される……。
 所で……疲れているようだな、玉木……」
「そりゃあ、ね……こんなに、次から次へと、いろいろあると……」
 玉木珠美は苦笑いを浮かべる。
「同感、だな……。
 平和なのが、一番だ……」
 荒野は真顔で頷いて、箱から取り出したマンドゴドラのケーキに、手づかみでむしゃぶりつく。口の周りにクリームがつくのにも構わず、一口でケーキの半分を口の中に入れた後、二リットル入りのスポーツドリンクに直接口をつけて傾け、ぐびぐびと喉を鳴らして、口の中のケーキを流し込む。
 玉木と有働は目を丸くして、徳川は面白そうな顔をして、そんな荒野をみつめている。
 普段なら、こんな……味わう前に胃の中にいれるような真似はしないのだが、今は早急に、水分と栄養を補給したかった……。

「……どうしたんだ、君たち……。
 そんな、大勢で……」
 半ダースほどのケーキを貪り食っている最中に、茅と有働の後を追ってきた生徒たちが、どやどやと事務所に入ってきた。狭い事務所内には全員は入りきれなかったので、大半の生徒たちは、この雨の中、裏口の外で待機している。
「どうしたって……商店街が、大変なことになっているから……なにか、手伝えることはないかって……」
 駆けつけてきた生徒たちを代表して、柏あんながぼそぼそと、いう。
 サイズの合わない、だぶだぶの灰色のスウェット・スーツを着て、口の周りにクリームをべったりとけた荒野は、しばらく思案した後……。
「そういうことか……。
 いや、実にありがたいのだが……危機は、なんとか大事になる前に、抑えることができた……。
 今、君たちがここにいても、出来ることは何もない……」
 荒野は真顔でそういって、頭を下げた。

『……どこまで真面目にいっているんだろう……』
 その時、その場にいた生徒たちは、等しくそう思った。

「……あー……でもせっかく、こうして来てくれたんだ……。
 ケーキでも……有働君、ちょっとマンドゴドラにいって、人数分のケーキを……」
「結構です!」
 柏あんなが、怒ったような声でそういって、踵を返す。
 堺雅史が、少し困ったような顔をして、柏あんなの背中と荒野を見比べ、結局柏あんなの後を追った。
 他の生徒たちも、拍子抜けした顔をして、ぞろぞろと柏あんなの後をついていった。

「……彼女は……一体何を、怒っているんだ……」
 荒野は、玉木と有働に、やはり真面目な顔をして、尋ねる。
 玉木と有働は、顔を見合わせた。
『意外に天然だな、こいつ……』
 と、二人の顔には書いてある。
 徳川篤朗は、肩を振るわせて、笑いを堪えている。

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彼女はくノ一! 第五話 (98)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(98)

 ガクの手足に絡んだ鎖は、一方の端を厳重に屋上の周囲の手摺りに巻き付けられて、固定された。
 突如出現した、テンの見知らぬ少年たちによって、ガクの身動きは封じられたかに見えたが……。
「……うっそう……」
 鎖で縛められたガクが、足に力を込め、両手を振るわせ、力を込めると……スチール製の手摺りの、鎖巻き付けられた部分が、ガクに向かって徐々に凹んでいく。
 最初は緩やかな変化だったが、ガクが喉の奥から絞り出すようなうなり声を上げながら全身に力を込めはじめると、スチール製の手摺りは、鎖が巻き付いた部分から飴のように曲がり始め……屋上の中心付近にいるガクの方に、引き寄せられていく。
 鎖の多くは、ガクの手足……主に、銀色に光るプロテクターの部分に巻き付いていたわけだが……その、鎖が巻き付いた部分が、負荷に音を上げ、軋みを上げて、弾け壊れていく……。
「……鎖、緩めて!
 このままじゃあ、手摺りの前に、ガクの体が壊れちゃうよ!」
 テンが、悲鳴のような声を上げる。
 少年たちは慌て手摺りに巻き付いていた鎖を解きはじめるが、何分、強烈な力でガクに引っ張られつつ、だから、思うようにほどけない。
 テンの手足に、赤い血が伝いはじめる。
 二宮舎人が、テンと手摺りを繋ぐ鎖を鉄扇を振るって力任せにぶち切っていく。少年たちも、時間はかかったのものの、一本、また一本、と、手摺りに巻き付いた鎖を解いていく。

 手摺りに巻き付いた鎖が大方解かれると、今度は、ガクの方が、自分の手足に巻き付いた鎖を乱暴に払いはじめた。最初は、一本や二本筒づつ手で握り、力任せに引っ張って引きちぎっていたが、そのうち面倒になったのか、その場で手足を滅茶苦茶に振るいはじめる。ブレイクダンスにも似たガクの動きに伴って、十本近い鉄の鎖が、うねりながら軽々と振り回される。
 ガクを中心として、十本の鎖が半円形を描いて、ぶんぶんと宙を切る。
 遠巻きにしていたガクや二宮舎人、それに少年たちは、軌道の予測がつきにくい鎖を避けながら、なおかつ、ほどけた鎖が、遠心力によって不意に外に飛び出ていくのも、回収しなければならなかった。地上数十メートルからいきなり金属製の鎖が降ってきたら……下にいる者に、確実に被害を与える……。

「……クスリも効かない、拘束するのも駄目……」
 二宮舎人は、鎖を避けながら、テンに向かってうっそりといった。
「ってことは……あの大暴れしているお嬢さんが、力尽きて抵抗できなくなるまで、逃がさない……持久戦、ってことか?」
「……それも……」
 危うく下に向かって落ちるところだった鎖の端を、危ういところで掴みながら、テンが答える。
「……だって……ガク、あんなに血が出ているし……それに、ここ、町中だし……」
 すでに、ガクの手足から、決して少なくはない量の血が、ぼたぼたと流れている。鎖が絡んだまま暴れたから、プロテクターが圧力を受けて潰れ、中の手足を傷つけているらしい。
 相変わらず、雨は降り続けている。天は厚い雲に覆われ、日が落ちているわけでもないのに、あたりはかなり薄暗い。
 こんな日に、上を見上げる人は少ない……のと、それに、近くには、このビルより高い建物はないので、今のところ、この騒ぎはあまり注目を集めていないようだが……長引けば、確実に目撃者を、増やす。
 いずれにせよ……長時間、というのは……確実に、まずい。
 長引けば長引くほど……リスクは大きくなる。

「状況は……わかりました!」
 びゅん、と、風を切って、柿色の塊が、テンと二宮舎人の背中から、ガクに向かって突進する。
「……ガクを……止めます!」

「おい! あれ!」
「……無茶だ!」
 柿色の忍装束の少女……楓が、まっしぐらに鎖を振り回すガクに向かうのを見て、少年たちが驚きの声を上げる。
 楓は、唸りを上げて振り回される鎖を、器用に避けられるだけ避け……それでも間に合わない時は、渾身の力を込めて、自分に向かってくる鎖に六角を当て、軌道を変える。

 それまで、滅茶苦茶に鎖を振り回していたガクが、自分の方に向かってくる楓の存在に気づき……今度は、鎖を束にして持ち直し、明確に、楓に当てようとして、鎖を振るう。

「……あの……」
 少し離れた場所で、才賀孫子は、スタン弾を装填し終わったライフルを、慌てて構える。
 この天候下では、精密射撃は、難しいというのに……。
「……お馬鹿くノ一!」

 ガクは、数本の鎖を束にして持ち、鞭のように振るって楓の体をなぎ払おうとした。
 しかし……束にして持った鎖の、手元に近いあたりに大きな衝撃があり、鎖がばらける。
 衝撃は一度では終わらず……二度、三度、と続いた。
 衝撃がある都度に、鎖に、十字型の花が咲く。
 ……孫子が発射したスタン弾は、確実にガクの方に近づいていた。

 慌てて、ガクは握っていた鎖を離し、地面に転がる。
 そのすぐ上、ついさっきまでガクの体があった所を、孫子のスタン弾がかすめていく。

 地面に転がったガクは、いきなり襟首を掴まれ、
「……師匠の真似ー!」
 そのまま、凄い力で……真上に放り出された。
 ガクの体は、為す術もなく高々と空に向かう。

「皆さん、鎖を!」
 楓は短くそういい、地面に放り出されていた鎖を何本か素早く拾い上げ、自分で放り上げたガクの後を追うように垂直方向に跳躍する。
 ガクと楓の体がほぼ同じ高さになった瞬間を狙って……楓は、両手で、左右から、ガクの体に鎖を巻き付け、自分の方に引き寄せる。
 自由落下中のガクは……鎖を手で払おうとしたが……。
 落下中も、下方から、次々に鎖が投げつけられ、今や密着した楓の体ごと、ガクの体を縛めはじめる。

 ガクの体ごと鎖で縛められた楓が屋上に着地する頃には、何重にも巻き付いた鎖で、楓の体にガクがぶら下がっている、という感じになっていた。
 ガクは、唸りを上げてもがこうとしているが……鎖で簀巻き状態になり、地面に足がついていない状態では、どうしようもない。
「……はい。ご苦労さん……」
 ガクの背後に近づいた二宮舎人がうっそりとそういいながら、ガクのうなじに針を打ち込んだ。
 暴れようとしていたガクの全身から力が抜ける。

「……なるほどなぁ……あんたが噂の、長の、二番弟子かぁ……」
 二宮舎人は自分の顎を撫でながら、覆面姿の楓の顔を見ながら、そういう。
「あれくらい無茶じゃなければ……あの人の弟子は、務まらないか……。
 ところで……」
 二宮舎人は、呆れたような感心したような、複雑な表情をしている。
「……その恰好は……趣味なのかい?」

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(14)

第六章 「血と技」(14)

「……か、茅さん……。
 意外に、足、早いんですねぇ……」
 校門を出たあたりで、一度は茅に追いついた有働勇作は、今ではすっかり行きを切らしている。有働は、特にスポーツをやっているわけではないのだが、体力には自信がある。足も、クラスの中で、早い部類に入るだろう。
 雨の中、傘をさしながら走っている……という条件を差し引いても、茅の足は、有働のそれに匹敵するものだった。
 体格も違うし、男子と女子という違いもあるから、短距離なら有働のほうが断然有利なのだが……長距離の持久走となると、茅のほうに軍配があがる。
 何しろ、茅は、全力疾走の姿勢を保ちながら、いつまでも速度を緩めない……。
「茅……毎日、走っているの……」
 茅は、そうとだけ、答えた。有働と話しをする時間も、茅は惜しいらしい。茅は、傘さえさしていない……。

 そうして商店街の方向に急行している茅と有働を、
「おっさきにー!」
 とかいいながら、追い抜いていく集団があった。
 妙に……足が速い。というよりは、人間離れした走りだった。
「あっ……校庭の……」
 有働が、声をあげかける。
 校庭で、荒野とやり合って……そして、簡単に一蹴された連中だった。
「……おれたちゃ、正義の味方ちゃんを助けにいきまーす!」
 などと喚きながら、その連中はあっという間に姿を消した。
『なんか……どんどん……』
 派手なことになっている……と、有働は思う。
 今回、荒野は、他に尊重すべきこと……他ならぬ、自分たち、実習室に集まっていた生徒たちの、あるいは、商店街に居合わせた人々の、身の安全を優先して、あえてリスクを覚悟し、自分の身をさらした形、だったが……。
『……本当に……』
 これで……この選択で、正しかったのだろうか……。
 と、根が真面目な有働は思ってしまう。
 少なくとも……。
『当初、狩野君が目指していた……平凡な一学生として、地味に暮らす……』
 という構想は、もはや崩れている……。
 少なくとも、あの時、実習室にいた生徒たちは……もはや、荒野を、自分たちと同じ一学生とは見なせないだろう……。
『今は、立て続けにいろいろな事が起こるので、頭が追いつかないだけかも知れないけど……』
 明日とか明後日とか、あるいは、それ以降とか……とにかく、もう少し時間がたって、荒野のことをよく考えてみる余裕が与えられたら……。
 そこまで考えて、有働は首を振って、思考を中断した。
 今、自分が考えても事態が好転することではないし……それに、これは、個々人の感情の問題だ……。
 自分としては……。
『……最悪のことを、回避するよう……』
 自分なりに、努力することしか、出来ない……。
 有働は、自分は無力だ……と、そう思った。

 有働は、悪い方の予測ばかりしたがる自分自身を叱責し、茅の背中を追うことに専念する。
 茅と茅を追う有働は、商店街のアーケードを潜り、いつもの週末に比べると五割り増し程度の人手をかき分けながら、早足に先へと進む。この雨のせいか、たしかに普段よりは人が、それも、普段ならこの商店街では見かけないような人々が集まってはいるが……年末の、あの奇妙な混雑と比較してしまうと、なんとなく寂しく思ってしまう……。
 有働が黙って背中を追ううちに、茅は、店頭に荷台を出して、デジカメ用のメモリーや電池、それに使い捨てカメラなどを売っていた電気屋さんの横を挨拶もなしにすり抜け、店の奥にある事務所へと直行する。茅の後をついてきた有働も、今朝お世話になったばかりの電気屋さんに頭を下げて、それに続く。お客さんの対応に追われている電気屋さんは、有働に対しておなざりに手を振っただけだった。
 店の奥には……荒野が一人で、座っていた。
 荒野の様子を一瞥して……有働は、息を詰めて、立ちすくむ。
『……ボロボロ……じゃあないか……』
 いつもの荒野は……ふわふわの銀髪をなびかせて、愛想よく笑っている……という、印象が強い。
 今の荒野は……髪も服も雨に濡れ、ぴったりと肌に貼り付けて、震えながら、湯気の立っているプラスチックのカップをいる。しかも、上着を着ておらず、いかにも寒そうに、細かく、震えていた。
 顔面は、いつもにもまして蒼白だ。
 よく見ると、顔や手の所々に、細かい切り傷がある……。
 茅が荒野の膝に手を置くと、荒野は顔を上げて、閉じていた目を開いた。目が、真っ赤に充血している。
「……茅……か……」
 声も、ガラガラだった。
 有働の位置からは、茅の表情は確認できなかったが……肩が、強ばっているように見える。
「おー。お前らも来たか……。
 ちょうどいい、茅、ちょっと手伝え……。
 荒野は、目を閉じてじっとしていろ……」
 裏口から入ってきた三島百合香が、救急箱から脱脂綿を取り出し、それにたっぷりと消毒液を浸し、荒野の顔を拭いはじめる。
「荒野は……少し、じっとしてろよ。見たところ、縫うような傷はなさそうだが……こんな傷だらけで、あんな得体の知れない煙の中につっこんだんだ……催涙ガス、とかいってたな? ソッチの方はよく知らんけど、察するに、タバスコと豆板醤とマスタードをブレンドしたプールの中に、頭の先まで入ったようなもんだろ? ん?
 とりあえず、今は顔と手だけをやっておくが、着替えとタオルが来たら、念のため、全身を消毒しておくからな……。
 茅は、小さな傷は軟膏、大きな傷には絆創膏貼ってくれ……」

 三島と茅が荒野に取り付いている間に、玉木と徳川が前後して入ってくる。
 それぞれ、タオルやスポーツドリンクのペットボトル、フリーサイズのスェットスーツ、それに大きな薬屋の紙袋、それに何故か、マンドゴドラのロゴが入った箱、などを抱えていた。
 玉木は、有働と茅に声をかけてから、持ってきたタオルを荒野の頭にかける。茅がすぐに荒野の背後にまわり、ごしごしと荒野の濡れた髪をタオルで擦りはじめた。もう一枚のタオルを玉木が荒野の膝元に置くと、荒野はそれで自分の体を拭いはじめる。
「ええと……消毒液と、それに喉の薬も、か……。
 なんだ、徳川にしては気が利くな……。
 荒野、服、着替える前に、目薬さしとけ。それに喉の消毒もしておくか……」

 徳川は、普段とあまり変わらない様子だったが、玉木と有働は、心持ち顔色を悪くして、黙り込んでいる。
 あの時……荒野は、躊躇することなく、まっすぐに煙の中に飛び込んでいったが……。
『これで……比較的、毒性の少ないガス……』
 催涙ガス、と、有働は、聞いていた。毒ガス、ではない。
 有働は、徳川や荒野に比べれば、その手の兵器については疎かったが……荒野自身は、十分な知識を持っていた筈だ。それに、もっと毒性の強いガスである可能性だって、あったわけで……。
 いくら、ガクが残っていたからといっても……すぐ下に、商店街があったからといっても……その手の知識を持ちながら、荒野があえてあのガスの中に潜っていったのだとすると……。
『……加納君は……』
 とんでもない命知らず、か……それとも、とんでもない、お人好しだ……。
 と、有働は思う。それから、
『いや……両方、か……』
 と、思い直した。

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彼女はくノ一! 第五話 (97)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(97)

 荒野は、事務用の椅子を引いてそこにどっかりと座った。
 三島百合香は、
「玉木でも徳川でもいい。温かい飲み物と、タオルと着替え用意しろ!
 あと、目薬も買ってきておけ!」
 と叫んで外に出る。
 けが人がいる、と荒野に聞いていた三島は、自分の車に簡単な医療品を用意してきたので、それを取りにいった。消毒液や絆創膏などは余分に用意しているが、さすがに、点眼液などは手持ちがない。
「あと……スポーツ飲料と、なにか食い物も……」
 荒野が、がらがらの声でそうつけ加える。
 玉木は慌てて立ち上がり、事務所にあった電気ポットでお茶をいれ、荒野にカップを手渡すと、
「タオルと食べ物、なんか見繕ってくる!」
 といって、自分の家に駆けだした。
「じゃあ……ぼくは、目薬とスポーツ飲料……それに、喉の薬も適当に買ってくるのだ……」
 徳川もそういって、席を立った。
 荒野を一人にすること、よりも、荒野の状態をなんとか今よりマシなものにすることの方が、優先順位は高そうだ……。
「……ついでに、ケーキ屋にも寄ってくるのだ……」
 徳川は、事務所を出るまぎわに、ふと思いついて荒野にそう声をかける。
「……頼む……」
 荒野は、そう頷くのが精一杯だった。

『……この天候では……』
 その頃、才賀孫子は、商店街にほど近いマンションの屋上に陣取って、徳川篤朗が午前中に手渡してくれたライフルを構えていた。
 持った感じでは、全体に少し軽くなっていて、しかも、重量バランスに違和感はない。徳川篤朗の話しでは、強度や耐熱性、耐爆性を考慮した上で、軽量化を図っている……と、いう。が、兵器の、ということになると、製品の評価は一石一朝には出せない。できれば、こうしてぶつけ本番で使用する前に、何千発か試射して不具合がでないか、自分で確かめたいところだった。
 こうして、銃口を少し離れたビルの上で暴れている、ガクに向けている今では……いっても詮無いことだが……。

 孫子は、スコープから手を離し、一旦狙撃の構えを解いて、テンに電話をかける。
「……テン、聞こえる?」
『……孫子おねーちゃん!』
 テンは、即答した。
「今からガクに、眠くなるクスリを打ち込んでみますわ。
 急なことなので、弾数が限られていますけど……」
 実際あのクスリは、もともと、シルヴィ・姉から、ほんの少ししか分けて貰っていない……。
『それ、この間使ったやつ?
 ……でも、効果は望み薄だと思う……』
「え? どういうこと……」
『あの状態のガクって……免疫機構や、内蔵の機能も強化されているみたいなんだよね……。
 何年前にああなった時も、じっちゃんが熊用の睡眠弾、打ち込んでみたんたけど……何分か、多少動きがにぶくなったくらいで……ああなったガクは、どうも、そういうのも、すぐに分解しちゃうみたいで……』
 代謝系の活動も、総じて活発になっている……と、いうことなのだろうか……と、孫子は思った。
 だとすれば……そうした状態を脱した後のガクは、極端な衰弱状態に陥ることが予想できた。二宮のバーサク体質……とは、短時間に、体内に残っているエネルギーを消尽してしまう現象、であるらしい……。
 今回のガクのように、生命に危険が及び、なおかつ、本人が前後不覚になった状態でなければ、発現しないのではないか……と、孫子は予測する。
 いきなり天敵の生物に出くわした時、咄嗟に仮死状態に陥って、危機が去るのをやり過ごす生物、などは、割と多い。日本でポピュラーなのは、いわゆる「タヌキ寝入り」というヤツだが……一部の二宮の場合は、ポテンシャルをフルに引き出して、体力が続く限り暴れ回る……ということか……。
 確かに、今のガクの状態が「二宮のバーサク」の常態なら……大抵の危機は、粉砕できそうな気がする。
「わかりました……。
 効果は期待しないで、それでも念のため、やってみましょう……」
 そういって電話を切り、孫子はライフルを構えなおした。
 この悪天候下、加えて、実質、新品になって帰ってきたライフルの、初めての実射、だから、精密射撃は望めない。孫子は慎重に、標準のつけやすい、ガクの体幹部に標準をつけ、単発で、立て続けに引き金を絞る。
 悪条件が重なっている割には、弾道はあまり逸れていない……ようだ。
 孫子とて、射出したライフル弾の弾道を、視認できるわけではない。しかし、感触としては、悪くはなかった。
 しかし、ガクの胸を狙った弾丸は、呆気なく、ガクの振るう六節棍に、叩かれ、粉砕される。
『……あの状態、でも……』
 以前、ガクに、同じように弾丸を弾かれた経験があるので、そのことについては、孫子は驚かない。しかし、理性を失った状態でも、ガクが同じことが出来る……というこについては、かなり驚いた。
『思考は麻痺していても……体に染みついた技は、生きている……と、いうことですわね……』
 手持ちのアンプル弾を打ち尽くした孫子は、今度はゴム製のスタン弾を用意しはじめる。
 今のガクにあのクスリがどの程度効くのか、孫子には判断材料がない。
 で、あれば……最悪の事態を想定して、今、準備できる限りのことを、準備し尽くすしかない……。
 スタン弾は、アンプル弾よりは、弾数に余裕があったが……それでも、手持ちは、とてもではないが「潤沢」とはいえない……。
 それを打ち尽くしたら……今度は、実弾、しか、孫子は持っていない。普段、普通に使用する実弾は、たっぷりと持っていたが……。

 孫子のアンプル弾を一通りなぎ払い、粉砕したガクは、鼻をひくつかせてその場から後退し、距離を置いた。口と鼻を掌で覆っている所をみると……。
「……前の匂いを……憶えているんだ……」
 テンが、感心したように呻く。
 理性を失っている、とはいっても……自分の生命を脅かすことに関しては、実によく反応する……。
「ひょっとして……普段のガクより、よっぽど賢いかも……」
「……んなこと、いっている場合かよ!」
 ガクを挟んだ向こう側で事態を見届けていた「二宮の端くれ」さんが、テンの独り言に反応した。
「予想通り、あまり効いていないみたいだぜ! 次は、どうする?」
 ガクについては、テンのほうがよほど詳しい。だから、「二宮の端くれ」さんは、テンの指示に従う姿勢を見せている。
「ええと……どうする、っていわれても……」
 島にいる時は、ガクが疲れ果てて動けなくなるまで、逃げ回っていればよかった。しかし、人家の真ん中であるここでは、まさか同じ手は使えない……。
「ガクを傷つけずに、手足の自由を奪う方法……なにか、ありませんか?」
 テンとて、そうそう名案は思いつかない。

「……あっりまーす!」
 いきなり、テンの背後からそんな声が聞こえてきて、この屋上に通じるたった一つの階段から、わらわらと十数名の男……と、言い切るのには、若すぎる、か……少年たちが姿を現した。
 その少年たちにテンは見覚えがなかったが、現れるなり身軽な足取りで、屋上の手摺りの外にある狭い部分をぐるりと取り囲みはじめた。一歩間違えれば落下する、というのに、何ら臆する様子もなく、手摺りの外からいきなり、一斉にガクに向かって鎖分銅を投げつける。
 まるで号令でもかけたかのように、多方向から同時に投げつけられた分銅を、ガクは避けることが出来なかった。ガクの手足に二十本近い鎖が絡みつき、それを投げつけた少年たちは、スチール製の手摺りに、鎖の一端を絡めて、固定する。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(13)

第六章 「血と技」(13)

 屋上の手摺りまでガクに追いつめられたテンは、ギリギリの所で身をかわすことに成功した。テンの背後にあった手摺りなど存在しなかったように、ガクは、易々と六節棍を振り抜く。紙でも割くように、スチール製の手摺りは易々と叩き裂いていった……。
 テンは、ガクの動きを止めようとしている。完全に身動きを封じることが出来ればベストだが、それが無理なら、最低限でも、この屋上から外へは出したくない……。
 理性を失い、あらゆる抑制が効いていないガクに比べ、いテンは明らかに不利だった。ヘルメットから、なにやら話し合っている声が聞こえるが、ほとんど頭に入ってこない。今は、ガクの気をひきつつ、ガクの攻撃をかわすので精一杯だった。
 今のガクは……目の前にあるすべてのもの、とりわけ、動くものを破壊することしか、考えていない……。
 そして、理性を失ったガクが闇雲に振り回す棍の動きは、いつもにも増して鋭かった。
 テンにしても、避けるのがやっとで……
『……もともと、瞬発力は凄かったけど……』
 今は、さらに威力を増している。
 こうして対面しているから、なおさらそう感じるのかも知れないが……。
『早さも……倍増、している……』

 人は、自分の体に負担をかけ過ぎないよう、無意識のうちに、普段から自分の動きをある程度抑制している。だから、普段の生活で、筋肉が、自分の骨が耐えられないほどの負荷をかけることは、ない。そうした抑制が……リミッターが……今のガクには、効いていないようにみえる……。
 闇雲に六節棍を振り回すガクは、一挙動の度にぎしぎしと体のどこかをきしませている。それに、呼吸も、時折息をついている程度で、あまりしていないようにみえる。体温も、上昇している。それも、かなり危険なほどに……。ガクの全身は、雨ですっかり濡れていたが、雨をすって重くなった服から、際限のない水蒸気が立ちのぼっている。ガクの体温で、水分が蒸発している、と考えると……ガクの体は、過剰な運動によって発生した熱を、排出しきれていない……オーバヒート状態に、なっている……。
 先程までは、切れ切れの、意味の通らない譫言じみた言葉であっても……ガクは、人間の言葉を話していた。
 今は、獣じみたうなり声しかあげていない。
 そんな状態のガクを相手にして、テンが今まで何とか持ちこたえられたのは……テンが、ガクの攻撃を避けること、それに、ガクをこの屋上から出さないこと、の二点のみを、考えていなかったからだ……。
 ガクと付き合いが長いテンは、攻撃をする寸前に瞬きをする、とかいう類いの、ガクの些細な癖を、いくつも熟知している。
 だから、ガクの興味を自分に引き付け、なおかつ、逃げ続けることができた。
『でも、もうそろそろ……』
 限界、だった。
 普段の状態であっても、テンはガクより一段劣る。なおかつ、今のガクはリミッターが外れた状態であり……。

「……よく保たせた、お嬢ちゃん……」
 いつの間には、ゴツイ顔をした、鉄扇を持った若い男が、テンと肩を並べていた。いや、テンが、ガクに対して神経を集中させていたあまり、男が近寄るのに気づかなかった、というべきか……。
「よく、この状態の二宮相手に、ここまで粘ったもんだ……いや、これは、明らかに二宮以上か……。手負いの、獣だ……。
 初対面だったな。だが、この際だから、自己紹介は簡単に。おれはこれでも、二宮の端くれ。
 端くれ、とはいっても……足止め程度の役には、立つぜ……」
 そういってテンに太い笑顔を見せる。
 二宮舎人、だった。
「……今のガクの攻撃、まともに受けない方がいいよ……」
 ちらりと二宮舎人の顔と鉄扇に視線を走らせて、テンがつぶやき、すぐにガクに視線を戻す。今のガクから長時間目を離すのは危険だし、「二宮の端くれ」と名乗った男の持つ鉄扇くらい、ガクなら正気の時でも六節棍の一閃で破砕できる。
「分かっているって……」
 ガクは、新たに出現した男、二宮舎人に向って六節棍を突き出しながら突進して行く。
 二宮舎人は、わずかに身を逸らして六節棍の切っ先を躱し、鉄扇でガクの六節棍を下に叩きつける。
 ガクの六節棍がわずかに下がると、男は、ガクの六節棍に手を置いて、身を横に旋回させる。
 いきなり男の体重、という負荷が六節棍にかかったガクは、さすがに、前のめりに姿勢を崩した。
 すると今度は、男は軽く跳躍し、前のめりになったガクの背中を踏み台にし、ガクの背中側に降り立つ。
「……このお嬢ちゃん、荒野以上の馬鹿力なんだろ?
 勝てやしないから、まともにやりあうつもりはないが……注意を分散させるのだって、一人と二人とでは、まるで違う……」
 ガクが、完全にノリに背を向け、その男の方に振り向いた。

 この男は……たしかに、分かっている。
 自分の能力の限界を過不足なく把握し、その及ぶ範囲内で、最大の効果を狙う方法を……。
 この男の筋力や速度など、基本的な性能は、テンにもガクにも、それに多分、荒野や楓にだって及ばないのだろうが……それでも、経験の蓄積により、自分の資質を十全に活用する術を、心得ている……。
『……じっちゃんと、同じタイプだ……』
 テンはそう評価し、すると同時に、安心感で足元が崩れそうになる。なにしろ、秦野とたっぷりと一時間以上遊んでから、今までで一番恐ろしい敵と、たった一人で相対してきたのだ。
 ともすればへたり込みそうになる自分自身を、テンは叱責して、六節棍を構え直す。
「二宮の端くれ」と名乗った男は、最初の時と同じく、うまくガクの攻撃を受け流していたが、いつまたガクが自分の方に興味を戻すのか、予断を許さない状況だ。
 それに……とにかく、今の状態のガクを、この屋上から出して、野放しにするわけにはいかない……。

『……テン、聞こえる?』
 いきなり、ヘルメットの中に孫子の声が聞こえた。
「……孫子おねーちゃん!」
『今からガクに、眠くなるクスリを打ち込んでみますわ。
 急なことなので、弾数が限られていますけど……』
「それ、この間使ったやつ?
 ……でも、効果は望み薄だと思う……」
『え? どういうこと……』
「あの状態のガクって……免疫機構や、内蔵の機能も強化されているみたいなんだよね……。
 何年前にああなった時も、じっちゃんが熊用の睡眠弾、打ち込んでみたんたけど……何分か、多少動きがにぶくなったくらいで……ああなったガクは、どうも、そういうのも、すぐに分解しちゃうみたいで……」
 その時、ガクは催眠弾を打ち込まれてからも丸二日暴れ続け、その間、テンとノリ、それにじっちゃんの三人は、不眠不休で狭い島を逃げ回った。
『わかりました……。
 効果は期待しないで、それでも念のため、やってみましょう……』
「……おじさん!」
 テンが、「二宮の端くれ」に声をかける。
「今からガクに薬物が打ち込まれるから、少し離れていたほうがいいよ!」
「お、おじさん……っと……」
 いきなりおじさん呼ばわりされた二宮舎人は一度姿勢を崩したところをガクに叩かれそうになり、慌てて唸りを上げてむかってくる六節棍を避ける。
「おじさん、は、ないなぁ……おれ、まだ二十……」
 二宮舎人がそんなことをぼやいている間に、ガクが自分の胸の前、何もない空間に対して、遮二無二六節棍を振り回しはじめる。
「おじさん、下がって。クスリ、打ち込まれた!」
 孫子とテンとの通話は、ヘルメット越しになされたため、舎人は孫子の言葉を聞いていない。
 さらに何歩か下がった舎人がよく見ると、確かに、ガクの六節棍が振るわれる度に、何かが破砕される音がかすかに消えて、プラスチックのような質感の破片が、雨の中に見分けられた。
「……理性を失っている状態でも……弾丸、落とすかね……あれ、ライフルだろう……」
 舎人は、鼻に皺を寄せ、弾丸が飛来してきた方向に顔を向ける。

 孫子が打ち込んだクスリの成果は、あったといえば、あった。
 六節棍を振り回していたガクの四肢から力が抜け、腕をだらんと下げて、握っていた六節棍を取り落とす。辛うじてたってはいたが……体を前後に揺する……。
 慌てて二宮舎人が、ガクの取り落とした六節棍を蹴って、遠くに飛ばす。
 と……クスリが効いていた筈のガクが、不意に顔を上げて奇声を発し、二宮舎人を威嚇した。
 それでも……ガクから得物を取り上げることができたのは……成果だ。

『……荒野……』
 どこの誰が仕組んだのか知れないが……とんでもない子供たちを、作ったものだ……。
『お前さん、この子らを……一体、どこに連れて行くつもりだ……』

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彼女はくノ一! 第五話 (96)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(96)

 楓との電話を切るのとほぼ同時に、茅の電話がなった。
「……才賀?」
『茅……わたくしにできることは、ないかしら?』
 電話の向こうの才賀孫子は、なぜか上機嫌のようだった。
『この非常時になんですけど……わたくし、今ならなんでもできそうな気がしますの……』
 どうも孫子は、楓のすぐそばにいて、さきほどの通話の内容を聞いていたらしい。
 もちろん、茅は孫子にも協力を要請した。

 そして、茅が孫子との通話を切ると、
『加納茅はそちらにいるのか?』
 今度は、徳川篤朗の声がパソコンから呼びかけてきた。
「……ここに、いるの」
 茅は答えたが、茅の声は徳川に届いていない。徳川は、茅が実習室でストりーみんぐを見ている、という前提で、慌ただしくしゃべりはじめる。
 アーケード上を撮影した画面では、白い煙がかなり大きく育っていた。アーケードの下にいる人々に影響を及ぼしはじめるまで、数秒単位の時間しか残されていない。
『……これから、着弾時の映像を放映するのだ。
 これを見て、残りのガス弾のありかを予測するのだ!』
 徳川は、一気にまくし立てるように、いう。
 その背後では、玉川がマイクに向かって、アーケード上でやっているアトラクションで使用した発煙筒が、アクシデントで大量に発火していること、もし、喉や目に異常を感じたら、すぐに最寄りの店員に申し出て、救護室に案内してもらうよう、アナウンスしている。
『加納茅、君は、完璧な記憶力と、距離や寸法を正確に目測する能力を持っている。君の能力があれば、残りのガス弾の撤去もスムースに進むのだ!』
『……その通りです』
 急に、聞き馴れない女の声が割り込んできた。

 アーケードに隣接したビルの屋上からアーケードの様子を撮影していた放送部員は、背後から伸びた手にいきなりヘッドセットを奪われ、ギョッとした顔をして振り返る。
 ゴスロリドレスに身を包んだ二十代くらいの女性が、放送部員から取り上げたヘッドセットのマイクに話しかけている。すっかり濡れ鼠になって、ドレスが肌に張り付いていた。
「秦野もガス弾除去に協力します。
 われら秦野は一心同体。人海戦術は、得意とするとことです。
 加納の姫様、ご指示を!」

 茅は携帯に登録してある、徳川の携帯に電話をかける。
「……タバコの屋上看板が建っているビルの手前、五メートル付近に着弾音、そこから南西に二メートルずれた所にもう一つ……」
 茅は今までにみた映像の記憶を検索し、そこから導かれる情報を電話に伝える。それと同じ茅の声は、ストリーミング映像からも聞こえてきた。
 そのストリーミング映像の中では、黒いドレス姿の女性たちが次々と白い煙の中に身を踊らせている。
 その女性たちが煙の中に姿を消してから、いくらもたたないうちに、煙の中から次々と白い尾を引いて、ラクビーボール大の円筒が飛び出てくる。全部で五つ。白い尾が太いものが混ざっているのは、着弾時の衝撃でガス弾自体が破損し、そこからガスが漏れているのだろう。
「それ、全部で川に捨てて!」
 そう叫ぶと茅は、立ち上がり、途中で椅子の背もたれにかけておいた自分のコートを引っつかみ、軽い足音を残して実習室から廊下にでていく。
「……茅ちゃーん! どこに……」
 柏あんなが、廊下に頭を出して、茅の背中に声をかけた。
「商店街!
 ……茅にもできること、ある筈……」
 遠くから響いてくる茅の声を聞き終わる前に、自分のコートを手にした有働優作が、茅の後を追って、どたとだと廊下を駆け出していた。
 さらにその後を、他の生徒たちも、ずどどどど……と地響きをたてて追っていく。
「……行こう! あんなちゃん!」
 その声に振り返ると、コート姿の堺雅史が、あんなのコートを片手に立っていた。
「……うん!」
 堺の手からコートを受け取った柏あんなが、元気よくうなずいて、廊下にでる。

 煙の塊の中からほうり出されたガス弾は、それぞれに待機していた黒い女の胸元に、正確に落ちる。
 ガス弾を受け取った黒い女は、すぐに少し離れた所にいる女に、投げ渡す。みると、黒い女たちはかなり遠くまで転々と距離を置いて配置しており、次々とガス弾をパス・リレーしていった。
 五つのボンベは、煙の尾を引いてあっという間に遠ざかる。
「われら秦野も、このような形で不要な被害を与えることは、本意ではない……」
 眼下では、アーケード上に育ちつつあった、白い塊が、成長した時と同様の急速さで萎んでいっている。ガスの発生源がなくなったため、すぐに雨に洗い流されている。
「少年たち、ご協力に感謝する」
 黒衣の女は、ヘッドセットを放送部員の手に返し、深々と一礼して、身を翻す。
 次の瞬間には、その女の姿は、その場から消えていた。

「……あの……おれらも……行って……」
 実習室の後で一列に並んで正座をさせられていた少年たちが、大清水教諭にお伺いをたてた。校庭で荒野と一戦を交え、そして、一蹴された少年たちだ。廊下の掃除が終わった後、そこで正座させられていた。
「好きにしたまえ……」
 大清水教諭がため息混じりにそう答えると、少年たちは立ち上がり、ごもごもと謝罪の言葉を呟ながら大清水教諭に頭を下げ、実習室を出て行く……。
「……舎人さんの加勢にいくぞ!」
「あの銀メット、そのままにしておくわけいかないもんな……」
「あいつ、ガス弾が落下してきた時、本気で命捨ててたぜ……」
 少年たちは、そんな事をいいあいながら、実習室から遠ざかって行く。

「……おーい、一体、なにがどうなってんだ……」
 三島百合香が電気屋さんの事務所に入ってきたのは、黒い女たちがガス弾を撤去した直後だった。
「荒野がいきなりわけわかんないこといって車を飛び出たんで、駐車場に車置いてここに来たんだが……。
 一体、何が起こってんだ?」
 ちょうど商店街へのアナウンスを終え、マイクのスイッチを切った玉木は、三島の顔をまじまじと見詰め、深々とため息をつき、がっくりとうなだれた。
「ミニラ先生……か。
 わたしにも、もう、なにがなにやら……徳川、説明頼む……」
「商店街のアーケードの上に、催涙ガスの詰まったボンベが六つ、降って来たのだ」
 徳川は、前後の事情は省略して、起った現象だけを淡々と伝える。背後関係ぬんぬんは、自分が触れるべき事象ではない、と、徳川は思う。
 三島百合香は、眉間に皺を寄せた。
「……一族の関係か……」
「おそらく……」
 徳川が、頷く。
「そのガスの被害者いたら、こっちに寄越せ。
 謎のニンジャ集団の頭領にかけあって、きっちり責任を取らせる……」
 三島百合香は珍しく真剣な顔をして請け合った。
 三島が連絡をすれば、しかるべき病院を手配してくれるだろう。それに、しかるべき賠償も、おそらくは……。
 そんなことで、実際に被害にあった人への償いになる、とは言えないが……それでも、なにもやらないよりは、遙かにましというものだ。
「いや……今のところ、アーケードの下にいた人たちから、それらしい苦情や申し出は、きてないけど……」
 うなだれたまま、玉木が答える。本気で、気疲れしていた。
 今のところ、ガスはアーケードの上に充満していただけで、その下にいた人たちに影響は見られない。しかし、それも、荒野の第一報とそれに応じて機敏に動いてくれた人たちと……それに、偶然、によるところが多い……。
 ガスに毒性がなかった、と仮定しても……催涙ガスが商店街に充満すればパニックになったろうし、その場に居合わせた人たちにの中には、トラウマを抱える人だって出てくる筈で……落下してきたボンベが、アーケードを突き破って下まで届かなかったのは……幸運、でしかない……。

「……荒野は、こっちじゃないのか?」
 三島が、重ねて質問する。
「今、帰った……」
 いつの間にか、当の荒野が三島の背後に立っていた。
 その声に振り返った三島は、絶句する。
「……真っ先に治療が必要なのは、お前のようだな……」
 校庭から佐久間、と連戦した後、催涙ガスにたっぷりと身を浸し、おまけに、何故か上着も着ていないワイシャツ姿で、全身を雨でぐっしょりと濡れらしている……。
 そんな荒野の様子は、一言で現すのなら「ズタボロ」、だった。
 立って、自力でここまで来られたのが、不思議なくらいだ。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(12)

第六章 「血と技」(12)

 煙の中から脱出した荒野は、深々と深呼吸をした。
 喉も、目も熱い。ひりひりする。涙と鼻水が、際限なく出てくる。頭痛がする……。
 気分は、最悪だ。
 涙にかすむ視界の中に、銀ヘルメットのテンが姿を現した。短い問答のすえ、ぐったりとしたままのガクの体を「安全なところにつれていけ」といって、テンに手渡す。
 荒野は、自分の制服で包んだガス弾を持っていた。来る途中で荒野が目撃したガス弾は六発。最低でもあと五発、落ちた場所で煙を吐き続けている。
 そっちも、一刻も早く処理しなければならないが……。
『……まずは、こいつだな……』
 荒野は、駆け出す。
 今か抱えているボンベを、川に捨てるつもりだった。この付近で一番近い、妥当な廃棄場所だ。
 駅のホームを擦り抜けて、川に向かう。
 ホームにいた人々が、白い煙をたなびかせ、電車並の速度で線路の上を疾走する荒野を目撃して目を丸くしているのを視界の隅に確認したが、今の荒野にはそんなことに構っている余裕はない。

 ボンベは、中身をかなり放出したせいか、見た目よりはかなり軽い。おそらく、極限まで軽量化をしているのだろう。内圧に対する耐久性は考慮されているが、外からの衝撃には、弱い。故意に壊れやすくしている、という面もあるのだろう。
 それに、投げ易いように、バルブの周りに取っ手がついていた。
『……この、悪質ないたずら専用に、わざわざつくったもんだな……これは……』
 荒野はそう推測し、ボンベの形状から推察できる悪意に、ひそかに身震いする。
 わざわざガスに白い色をつけて視認性を高めているのも……精神的ないやがらせ、が、一番の理由だろう……。
 あれだけの高度から飛来していたのだから、ランチャーかなにかを使用したのだと、最初は思ったのだが……手で投げた、とすると……。
『……やな、相手だ……』
 荒野は、そう思う。
 やり口の悪辣さと、身体能力の高さ、それに、タイミングからしても、このガス弾を用意し、使用したのは……。
『……おれたちに、明確な悪意を持っている。
 おれたちについての、詳細なデータを持っている。
 おれたちのことを、今もどこからか監視している。
 そして……六主家以上の能力を持っている可能性が、高い……』
 目的は分からないが……今回の敵は……荒野たちに明確な害意を持っている……茅や三人組と同等の存在だ……。
 と、荒野は結論する。
 そして……これは、後で佐久間現象に確認するつもりだが……佐久間現象を扇動して動かしたのも、そいつらである可能性が、高い。
『……一族キラーとして、育てられた姫……』
 それと、それをバックアップしている六主家の者も、いる筈だった……

 その時ホームに居合わせた人々は、荒野が通過したすぐ後に、二十人ほどのゴシック・ロリータ・ファッションに身を包んだ若い女性たちが、笑いざわめきながら、やはり人間離れした速度で駆けていったのを目撃した。
 もちろん、その中には駅員も含まれていた訳だが、誰何したり注意したりする間もなく通り過ぎていったので、駅のホーム上にいた目撃者たちは、結局、呆然と立ちすくむことしかできなかった。
 少し後に、この出来事を元にした都市伝説がいくつか巷間で流布するようになるのだが、それはまた別の話である。

 そこまでいくルートとして、荒野は鉄道上を選択する。目が涙でかすんでいるし、この雨のせいで見通しはもともとかなり悪い。今、荒野がフルスピードでかける場所として、公道上や凹凸のある民家の上は不適切だ。
 線路に沿ってしばらくいけば、川にかかっている鉄橋にでる。そこで、川の中にぶちこむつもりだった。
 疾走しじめた荒野に、すぐに追いついてきた黒い一団があった。
「お手伝いしますわ、加納の……」
「……秦野さんたち、か……」
 礼を言おうとして、荒野は激しく咳き込む。
 かすむ目でちらりとみると、秦野の女たちは、二十人くらいの団体で、ガスを噴出し続けるボンベをキャッチボールしながら、荒野の後をついてくる。
 ボンベをキャッチボールしているのは、一人に長く持たせてるよりは、ガスの影響を受けるのが少なくなるからだろう……。
「無理にしゃべろうとしないで……。
 お宅のお姫様の指示に、従っただけです」
『……茅か……』
 荒野はその言葉に甘えて発声を節約し、黙って頷いく。
「……この先の、川に……」
 と、短く言った。
 実際、荒野の喉は、ガスでかなり痛んでいる。声を出すだけでも、つらい。
 荒野の言葉に、秦野の一人が頷き、荒野に耳打ちする。
「……ボンベはすべて、回収しました……」
 その他の秦野は、笑いざわめきながら、荒野を追い抜いていった。今の荒野は目もかすんでいるし体調も万全ではないので、全力で走っているつもりでも、ともすれば足がもつれがちになる。
 結局、五百メートルほど走って荒野が鉄橋の上にたどり着く頃には、秦野の女たちの姿は見えなくなっていた。川の中にボンベを捨てて、何処かへと散った後なのだろう。
 荒野も、制服の上着でくるんでいてもまだ白い煙を吐き続けているボンベを、制服の上着ごと川に捨てた。上着のポケットにはなにも入っていないので、惜しくはない。得たいの知れない薬剤をたっぷり吸い込んだ上着をクリーニングに出すよりは、廃棄する方が安全だった。
 それから、ワイシャツの胸ポケットに差し込んでいた携帯を取り出し、茅にかける。
 荒野が以後の経過を尋ねると、催涙ガスは、すでに雨で沈静化している。玉木が放送でそれとなく確認したところ、今のところ、商店街にいた人々で、体調の不良を訴えてきた者はいない。
 催涙ガスの一件は、アトラクション用の発煙弾が、予以上の煙を吐き出した……という風に説明されている。
 そして……鉄橋の上で、荒野は初めてガクの暴走について、知らされた。
 現在のところ、テン、二宮舎が対応して、商店街近くの雑居ビルの屋上から出ないようにしている。楓も現地に向かっており、孫子も、今にでも援護射撃を行える体勢にある……と、茅は説明してくれた。
 それを聞いた荒野は……濡れて冷えきった体の温度が、さらに何度か低下したかのような錯覚に捕らわれた。
 通常の二宮でさえ、理性を失えば、扱いに困るというのに……ガクは、二宮以上の能力を持っている……。
 そして、荒野自身は、現在、バーサーカー・モードに入ったガクを取り押さえられるほど、万全な体調にはない。現在の荒野が駆けつけていっても、かえって足手まといになる筈だ……。
『……楓……』
 茅が名前を挙げた人々の中では、一度ガクを取り押さえた経験のある楓が、一番頼りになりそうだった。
『ガクを……悪者に、するなよ……』
 奇しくも、荒野は、茅と同じようなことを、祈っていた。

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彼女はくノ一! 第五話 (95)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(95)

 荒野が茅に電話をけてくるてから、数秒の間を置いて、それまでお店紹介とかコンテスト出場者のプロモーションビデオとか呑気な映像を流していた実習室のパソコンが、いきなり商店街のアーケードを上から俯瞰する映像に切り替わった。
 画面が切り替わったのを確認し、それまで一族関係の基礎知識を講義していた茅が、俊敏な動作でパソコンの前に移動し、珍しくいらだった様子で、楓たちに何度も電話をかけ直す。

 ばらまらと八方に散っていく黒衣の女たち、それに、逃げて行くテン……を、映している。
 何故か、銀ヘルメットの一人は、その場に留まっていた。
 パソコンの音声は、テンとガクが前後に交わした会話も、そのまま流している。
『ガク! なに、愚図愚図してるの! 早く逃げて!』
『で、でも……もし、毒ガスだったら、早く取りのけないと、商店街の人たちに……そんなの……正義の味方じゃあ……』

「……なんだよ、あのチビ……」
 茅の後で、成り行きを見守っていた男子生徒が、呻くように呟く。
「正義の味方って……格好つけている場合かよ……自分が死んじまったら、元も子もないだろうが……」

 柏あんなが「香也にかければ」とアドバイスした時、二筋の煙を吐きながら、二つの物体が落ちていた。風がないせいか、勢いよく吹き出している割に、白い煙は、あまり広い範囲には広がって行かない。もこもこと半球状に大きくなていっく。白い煙が、大気よりも比重が重いことは確かなようだ。
 制服の姿の荒野が現れ、その、育ちつつあるもこもの中に、姿を消す。
 その直後、白い煙の尾を引いた第二弾が、やはり二つ、もこもこの中に消え……マイクが大きな打撃音とガクの短い悲鳴を拾う。
 どうやら、ガクのヘルメットに、落下物が当たったらしい。ヘルメットに内蔵されていたマイクが衝突音を拾ったので、かなり大きな音として響いた。
 しかし、すぐにガクを肩に乗せ、脇に白煙を吐き続ける制服の塊を小脇に抱えた荒野が、もこもこから出てきたので、見ていた生徒たちは安堵のため息をついた。
 荒野は、ガスを吐き出すボンベを制服で包んで脇に抱えているらしい。
 そのまま、荒野は足を止めず、駅のほうに走りだしている。
 そのすぐ後を、銀ヘルメットのテンが追いかける。
 荒野とテンが走り去った後に、新たな煙の筋が二つ、突き刺さる。

『ガク、大丈夫なの?』
 パソコンが、テンの声を流す。 
『……テンか? 直撃……では、なかったらしい……』
 答えたのは、かなり荒れていたが、明らかに荒野の声だった。
『テン、ガクを、安全な場所へ……』
 テンは、荒野の肩から、グッタリとしているガクの体を両手で受け止める。
『かのうこうやは?』
『……こいつを、捨ててくる。
 そうだな……この辺だと……川、か……』
 荒野はがらがらの声でそう答えた後、制服の包みを持って、駅の方に駆け出した。
 例によって飛ぶような速度で、あっと言う間にカメラのフレームから消える。

 文字にすると随分長いようだが、一実際には荒野が茅に電話をかけてきてから今まで、まだ、一分もたっていない。

『……はい、もしもし……。
 ……え?
 はい。楓ちゃんも才賀さんも、こっちにいますけど……。
 ……んー……。
 今、ちょっといろいろあって、二人とも忙しかったから…… 』
 そんなさなか、電話に出た香也は、いつもにも増して不明瞭な発音で、最初のうち、なにをいっているのか聞き取りずらったが、なんとか楓に代わってもらう。
 そうしたやりとりの最中にも、パソコンの画面の中で、事態は進行する……。

『……うわぁ!』
 テンの悲鳴が聞こえたので、茅がそっちのほうに目を向けると……画面の中で、テンに抱えられたガクが、暴れだしていた。
 二人は、近くのビルの屋上にいるようだ。
 テンのマイクが、切れ切れに、ガクの譫言のような意味不明の声を拾っている。
『……こんな、時に……』
 抱えていたガクに突き飛ばされたテンが、悔しそうな呻き声を上げた。
『……誰か! ガクを取り押さえるの、手伝って!』
 画面の中のガクは、明らかに錯乱した様子で、闇雲に六節棍を振り回している。闇雲に、といったところでも、ガクが渾身の力を込めて振るうのである。テンのマイクが拾った、ガクの棍が風を切る音が、異様に大きい。
 テンは、ガクの棍を避けながら、自分の六節棍でガクの動きを牽制していたが、ガクの方はあまりテンの存在に気をかけていないようだ。と、いいうより、何もない虚空にむけ、棍を振り続けている。あるいは、ガクだけに見える「不在の敵」が、そこにいるのかも知れない。
 力任せのガクの動きに比べると、テンの動きは、明らかに、切れが鈍い。ガクを傷つけたくない、しかし、今の状態のガクを放置したくはない、という苦衷が、テンの動きを鈍くしている。
『ガク……このままだと、体力が尽きるまで、目につくものすべてぶっ壊し続けるよ!』
 テンは、誰かに訴えるように、叫んでいる。
 今のガクは、ガスによって目や鼻が効いていない。それに、頭を強打したため、耳の方も、かなりあやしい。意識もはっきりとしていないことは、ぶつくさ口をついて出る言葉が、まるで意味を成していないことからも、簡単に推測できる……。

「よりによって……バーサーカー・タイプか……」
 生徒たちの後から画面をのぞき込んでいた二宮舎人が、うっそりと呟く。
 何かの拍子に理性を失うと、前後の見境いなく、体力が尽きるまで暴れまわる……という体質の者が、二宮の中に、稀にいる。そのような二宮を「バーサーカー・タイプ」と呼称している。
「……やばいな……。
 それも、あいつは能力的には、並の二宮を遥かに上回る、ときている……。
 銀ピカのおじょうちゃん! すぐにそっちに向かうから、それまでその屋上から逃がすな!」
 二宮舎人は、手に持っていたスニーカーを履いて、窓を空け、そこから飛び出す。

「……楓、力を貸して……。
 ……ガクが、制御不能になっているの……」
 茅は、電話に出た楓にいった。
「すぐに行きます!
 ……でも……どこに?」
「商店街。そこに、荒野もいるの……。
 でも、荒野、別の敵と交戦中。
 もともと、テンとガクが相手をしていた敵だったのだけど……アクシデントがあって、ガクが一度気を失って……意識を取り戻したら、ガクはバーサク・モードに……。
 荒野は今、ガクが抜けた穴を埋めているの……
 楓……お願い。
 茅、ガクが暴れたら、止めるって約束したの……」
 荒野は今、ガクがやろうとした仕事……ガス弾の撤去を、行っている。
「……ガクと約束したの。ガクが暴れたら、ガクを止めるって……」

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(11)

第六章 「血と技」(11)

 ガス弾、という言葉を聞いた時、徳川篤朗はかなりきな臭い物を感じた。ケミカル系、といえば、俗称ABC兵器のうちの三番目。
 安価で効果的な……歴とした……大量殺戮兵器、である。
 商店街のサイトとアーケード内のディスプレイには、現在、玉木の指示でお店の案内とかコンテスト出場者の映像とかが流れているが、この土砂降りの雨の中、放送部員たちはまだ外で「シルバーガールズ対シャドウレイディ」の撮影をしており、その映像データはリアルタイムでサーバに送られてきている。
 徳川は設定を変更し、外の映像を、この事務内にあるパソコンのディスプレイにだけ、表示させるようにした。
 案の定、外のカメラマンたちは、煙を吐きながら落下してくるその物体を、カメラに収めていた。
 まずいことに……それらは、どうも、ひとつふたつだけではないらしい……
 徳川が、携帯電話の通信網を違法改良して結びつけたシステムに、荒野が「逃げろ!」と繰り返し叫んでいる。そういいながらも、荒野自身は、こちらに向かっているらしい……。
 ガスの正体が分かっていない今の時点で、こっちに向かってくるというのは……無謀だな……と、徳川は荒野の行動を、評価する。
 テンとガクが「はたののおねーさん」と呼んでいた女性たちは、既に姿を消している。
 ガクは、どうやら身を挺してガス弾を取り除くつもりらしい……荒野以上の、自殺行為だ……と、徳川は思った。
 そう思っている徳川自身、逃げようとはしていない。別に、自己犠牲の精神に富んでいるわけではなく、化学兵器についての詳細な知識を持っている分、あのガスが毒性の強い物であったなら、今さら逃げても手遅れだ、と知っているから、無駄な足掻きをしていないだけだ……と、本人は、思っている。
 そして、忙しくキーボードをタイプし、今徳川が観ている、アーケード上の映像を、学校の実習室のLANにだけ開放するよう、設定し直す。
 その作業をしているうちに、最初のガス弾が着地した。かなり上空から落下してきたらしく、落下時にかなり大きな音をたて、徳川の所まで聞こえてきたほどだが……アーケードの構造材は、なんとか耐えきった。
 徳川は、防犯カメラの映像を盗み見る。その音に対して、不安そうに上を見上げる人は多かったが、今のところ、アーケード上にもうもうと吐き出されている白い煙は……もちろん、降りてきてはいる筈だったが……あまり、影響はみられない。
 どうやら、僅かな量で即死する、という性質の気体ではないらしい。この土砂降りの雨も、かなりのガスを流してくれている筈だ。
 毒性がない、と決まったわけではないが……まずは、結構……と、徳川は思う。
 そのうち、テンの必死の呼びかけにも関わらず、もうもうと嵩を増し続ける白い煙のそこに残ったガクが、盛大に咳き込みながら、切れ切れにガスの性質を報告してくる。
 その断片的な情報から……どうやら、催涙ガスらしい、と、徳川は判断する。
 暴徒鎮圧用の、刺激性のガスだ。喉や目の粘膜を刺激し、身動きが取れないようにする。実際、まともにその手のガスを浴びると、気力が根こそぎ奪われる、という。その中でも、まだしゃべり、動こうとしているガクの体力と気力は……称賛に値する、と、評価した。
 それ以上に、ガスの正体を確かめずにそうして身を浸すのは、無謀だ……とは思ったが。
 ガス弾の中身は、催涙ガスらしい、という情報を、徳川が荒野に伝えようとした、その時……。

 先ほどの落下音とは違う、大きな、鈍い音がした。

 茅に電話した後、テンへ連絡をすると、何故かガクの声が答えた。なんだかよくわからないが、徳川が通信システムを、継続的に同時通話になるように、いじくったらしい。多分、違法になる類の改良だろう。
 とりあえず、テンへの通話を切らないでおけば、主だった者への通信も同時に行える、と知った荒野は、通話を続けながら商店街に急行し、アーケードの上に飛び乗った。
 正体不明のガス弾が落下してくる、というのは、荒野にしてみれば十分に非常事態であり、人目を気にしている余裕はない。
 荒野がアーケードの上に降り立ったちょうどその時、その、正体不明のガス弾が、アーケードの天板に落下した。ちょうど骨組みにでも当たって跳ね返されたのか、大きな鈍い音がしたが、天板を貫通はしなかったようだ。
 あっという間に白い煙が立ち上り、膨れあがる。
 ガクは、あえて残ったようだ。
 逃げろ、と言い続けるテンに、ガクは、ガス弾を除去する、と言い張っていた。
 馬鹿が。正義の味方だと。クソ。死んだらそれどころではないだろ……と、荒野は思い、その後、そのガクがいる方向を目指して、煙の中に飛び込んだ。
 途端に、目が開けていられなくなる。鼻、それに、喉も、痛い。
 携帯電話から、「逃げろ」と言い続けるテンと、荒野と同様の症状を訴えながらも、残って今出来ることをやる、といい張っているガクとのやりとりが、えんえんと続いている。
 催涙ガス、か……と荒野は思う。
 そして、ガクに向かって……目を開けて立っているだけで辛いはずだ……無理、するな……と、祈るように思った。足の下にある商店街にまで、ガスの被害が及んでいないことも、祈った。
 昼下がりの現在、夕方のピークにはまだ間があり、それに、この雨のおかげで、来る来る途中でちらりと見てきた印象では、商店街の人出は今一歩、というところだった。
 積極的な集客イベントを起こしている玉木たちには悪いが……この雨は、恵みの雨かも知れない。
 客足を減らし、催涙ガスを洗い流してくれるのだから。今現在も、滝のような土砂降りだが……出来れば、もっと降って欲しい所だ。

 催涙ガスなら……視界は効かないが、息を止めて動けば、なんとかなる……。
 今は、ガクの救出が第一優先で、その次が、ガス弾の処理だ……と、荒野は思った。
 荒野は、複数のガス弾が落下中であることを確認していたが、それらが三回にわけて時間差を置いて放出されたことまでは知らない。これだけのガスが噴出しているのだから、すでに、全てのガス弾は落下し終わったのだろう……と、荒野は思っていた。
 ハンカチで口と鼻を塞ぎ、目を細くして、慎重な足取りで、ガクの姿を探していると……。
 意外に近くで、先ほどとは違う、かなり大きな音がした。
 同時に、ガクの声も、聞いたような気がする。
 テンが、異常を察し、しきりにガクに呼びかけるが、ガクは返事をしない。

 荒野は、その音がした方に移動する。
 すぐに、延々と煙を吐き出すガス弾をみつけた。要するに、ラグビーボール大のボンベなのだが、その弁からもの凄い勢いで白い煙が吐き出されている。
 荒野は、制服の上着を脱いでそのボンベを包み込み、さらに、ガクの姿を探す。
 ボンベから五メートルほど離れた地点で、側頭部の形が変わった、銀色のヘルメットがみつかった。
 荒野は、姿勢を低くして、ガクの姿を探す。
 ヘルメットからさらに十メートルくらい離れたところに、なにか黒い塊が寝そべっている。ここからでははっきりと断定はできないが……おそらく、ガクだろう。
 落下してきたガス弾が測頭部をかすめ、もんどりうってあそこまで吹き飛ばされた……と想定すれば、辻褄は合う。
 実際に、その地点にまで足を運んでみると……確かに、力を失ったガクが、倒れていた。
 荒野は、ガクの体を肩に担ぎ上げる。
 一旦、この煙を脱出。ガクの身柄を安全な場所にまで移動した後、このガス弾を処理する。

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彼女はくノ一! 第五話 (94)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(94)

 荒野から連絡が入った時、茅は実習室の看板に「六主家」とか「姫の仮説」とか板が書きして、大清水教諭と生徒たちを前に自分たちの現在の境遇について、かなり詳細な説明をしているところだった。
 茅は荒野からの電話をとり、しばらく耳を傾けた後、
「……分かったの」
 といって、すぐに通話を切り、楓の電話に書けなす。
 出ない。
 才賀孫子の電話にかける。
 やはり、出ない。
「あの……緊急なの?」
 柏あんなが、おそるおそる茅に声をかける。茅は無言で頷いた。
 他の生徒たちも、かなり心配そうな顔をして、茅を取り囲んでいる。
「出ないの。さっきから、何度もかけているんだけど……」
「楓ちゃんも、才賀先輩も?」
 茅は、また頷いた。
「あの……狩野君には?
 あの二人、家にいる時はいつも、狩野君のそばにいるような気がするけど……」
 茅は目を見開いて、「あっ……」と小さな声をあげ、狩野香也の携帯に電話をかける……。

 テンとガクの二人と、秦野の女たちとの奇妙な戦いは、もう随分続いている。一進一退を返し、傍目には、完全に膠着状態に陥っているようにみえた。第一、同じようなことを延々と繰り返しているだけで、見た目的に変化に乏しい。確かに、これだけ土砂降りの中、あれだけ動けるというのは、凄いのだが……。
 そんな訳で玉木は、二人対大勢の戦いの映像はさりげなくストリーミングからファイドアウトさせはじめる。コンテスト関係者が用意した映像素材はまだまだあり、他にも放映する予定だった映像に割り込ませてその戦いの映像を入れていた、という遠慮もあった。

「……テン、ガクを連れて、そこから逃げろ!
 今からそこに、ガス弾が落ちて行く!」

 だから、荒野から唐突にその連絡が入った時、ネットにも商店街にいる据え付けられたディスプレイも、二人と秦野たちの戦いの様子を、流していなかった。
 たまたま、ではあるが……思い返してみると、そうであってよかった……と、玉木思う。
 数年前、某カルト教団が通勤時の地下鉄構内に毒ガスを散布した事件を覚えている人は、少なくはない。その頃、玉木自身はまだほんの子供だったが、前後の数日間は、テレビがその教団関連の話題で持ちきりだったことを記憶している。そして、それから数年、意味が理解できるような年齢になるまでに、いろいろな情報源から、事件についての知識を得てきている。そんな玉木でさえ、「ガスは怖い」という先入観を持っている。もっと年配の、当時の事件を理解できる年齢で、リアルタイムで接してきた人々は、もっと過敏に反応するだろう。
 今現在、正体不明のガス弾が商店街めがけて落下中である……などという情報を不用意にアナウンスしたら、それなりの騒ぎが持ち上がったに違いない……。

『……かのう、こうや?』
『あれ? ガク? ……お前、テンの携帯もってんのか……』
『ぼくが、いくつかの回線をまとめておいたのだ……』
 徳川篤朗の声が会話に割り込んで、解説をする。
『徳川……か……。
 い、いや、それより……』
 荒野が、狼狽えたような声をあげる。
『……あそこ!
 国道の方から、かなり高い位置に……煙を吹いているものが……ええと……三個、以上。後ろの方は、煙でよく見えない!
 秦野のおねーさんたち!
 一時、中止! 退避! 全員で、退避!』
 これは、ノリの声。
「カメラ、上を探して!」
 そのノリの声に重ねるようにして、玉木が叫ぶ。

 放送部有志の即席カメラマンたちは、二、三人づつに分れてアーケードを見下ろす位置に建っている建物のベランダや外部階段、屋上などに配置されていた。上から見下ろすロングショットだと構図が単調になりがちだったが、ガクとテンがした「危ないから、あまり近寄らないほうがいいよ」という忠告を守って、被写体とは少し距離を取った。二人と秦野の戦いが実際にはじまった後では、素直にその忠告に従っておいてよかった、と、思っている。
『……あそこ! 国道の方から、かなり高い位置に……煙を吹いているものが……ええと……三個、以上。後ろの方は、煙でよく見えない!
 秦野のおねーさんたち!
 一時中止! 退避! 全員で、退避!』
『カメラ、上を探して!』
 反射的に、即席カメラマンたちは、シルバーガールズの一人が長い棒で指さした方角にカメラを向けている。
「……あ、あれ……」
「本当だ……」
 かなり高くから、ポツンと煙の尾を引いて落下してくる一群の物体を、放送部員たちはカメラに収めた。何人かは、ズームアップでその物体を追っている。

『とにかく! これを聞いているやつら! とりあえず、早く逃げろ! あれ、正体がわからないんだ!』
 荒野の声が、徳川から渡されたヘッドセットから聞こえてくる。
『……駄目……』
 弱々しい玉木の声が、荒野の声にかぶった。
『……あれ……毒ガスだったりしたら……』
 指摘されてはじめてその可能性に思い当たった放送部員たちは、手近にいた仲間と顔を見合わせる。他の放送部員たちは、玉木ほどの想像力は持たなかったようだ。
 恐れるよりも、玉木が指摘した可能性がピンと来なくて、キョトンとした表情をしている者が多い。
 玉木の言葉を裏付けるように、あれだけいたシャドウレイディ……秦野の女たちの姿も、いつの間にか消え失せていた。
『ガク! なに、愚図愚図してるの! 早く逃げて!』
『で、でも……もし、毒ガスだったら、早く取りのけないと、商店街の人たちに……そんなの……正義の味方じゃあ……』
『そんなこといっている場合じゃ……も、もう……あ。落ちた!』

 放送部員たちが具体的な行動を起こす前に、ガス弾は、夥しい煙を吐きながら、次々とアーケードの上に落下してきた。比較の対象がない遠い上空にあった時は、細い線でしかなかったが、地上に降りてみると、煙を噴出する勢いはもの凄かった。
 数秒も要せずに、周囲は白煙に包まれる。
『……ガクー!』
 周囲のビルの窓枠に器用にぶららさがっているシルバーガールズの片割れが、煙の中に取り残された相棒に呼びかけた。
 そうしているうちにも、白い煙だまりは刻々と膨れあがっていく。
『……だ……』
 無線越しにシルバーガールズのもう一人、ガクの声が漏れ聞こえている。ガクは、激しく咳き込んでいる。
『……だいじょ……目と喉に……即死するような……』
『分かった、分かったから、早く逃げろ!』
『駄目だよ……ガスの発生源を除けば、この雨なら流れて……死ぬことがないのなら、ボクらが……』

 この時点で、時間差を置いて投擲された後続のガス弾が落下中である、ということに気づいている者はいなかった。
 運悪く……その、後続のガス弾の一発は……煙の中で喉と目、鼻をやられ、しかし、それでも手探りで、はいずりまわりながら、ガス弾を探していたガクのヘルメットを、かすめた。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(10)

第六章 「血と技」(10)

 佐久間現象の上体が、ぐらりと揺れた。
 気力が、尽きかけているのか……と、判断した荒野は、さらに手数を増やす。
「……おれたち一族は、確かに、怪物だ!」
 佐久間のガードをくぐり抜けて、さらに何発か、荒野の攻撃が、佐久間の顔を変形させる。
「相手がおれたちを認めてくれようが、くれまいが……おれたち自身が変るわけでは、ないんだぞ!
 生まれは……今さら、変えようがねーだろ!」
 佐久間現象の動きが鈍い。防御が間に合わず、荒野の攻撃を、立て続けに受けるようになっている。
 佐久間現象が、沈む。膝をつく。
「……自分の居場所が欲しければ……」
 佐久間の顔の形は、今や完全に変わっていた。
 荒野の膝が、佐久間現象の水月に潜り込む。
「……自分自身で……」
 だらり、と、力無く前に傾いだ佐久間現象の顎を、荒野のつま先がきれいに打ち抜いた。
「……作ってみやがれ!」
 佐久間現象は、大の字になって、倒れる。
 もはや完全に意識を喪失している佐久間現象に向かって、荒野はぽつりと呟いた。
「……寂しくなったら……また喧嘩を売りに来い……」
 荒野は、佐久間現象の首筋に、念のために針を打ち込んで動きを封じ、携帯電話を取り出す。
「……あ。先生? 悪いけど、今、出てこられる?
 商店街? ああ、知っている。おれもそっちに行く途中だだけど、ちょっといろいろあって怪我人がでちゃって……うん。大丈夫、ぶちのめして気を失っているから、ほっといてもそのうち目を覚すとは思うけど、何分この雨だし。うん。後は、打撲と小さな切り傷が、たくさん……。うん。そいつだけじゃなくて、実はおれも……」

「……また、いい顔になったな、荒野……」
「……うるせー……ちゃんと前見て運転しろって……先生……」
 三島百合香は十分もせずに、荒野がしてした人目の少ない裏道に車で駆けつけてくれた。
「……で、それが、お前の喧嘩相手か?
 お前がそんなんなるんだ、やっぱ相手は一族関係者か? ん?」
「……拗ねたガキだよ。
 ……先生。
 おれ、今、ひどく疲れているんだ……。
 詳しい事情の説明は、またの機会にさせてくれ……」
「いいけどな、別に……。
 ちゃんと聞かせてもらえれば……。
 いつでも澄まして涼しい顔をしているお前さんを、どうやったらそんな顔にできるのか、是非お聞きしたいだよ、こっちは……」
「……ガキさ……いけすかないガキに、いいように引っかき回されたよ……」
 荒野は車の窓から外をみながら、三島百合香に答えた。
「……そもそもの最初から、幾つかの違和感を感じてたんだ……。
 周到な構想と、詰めの甘さのとが混在していて……最初は、裏に何か特別な事情があったのかと思ったけど……」

 荒野が感じていた違和感とは……戦力の分断と各個撃破、という方針を定めながら、その方針を徹底していない詰めの甘さ、との齟齬に起因する。
 第一、駆り出された戦力が、実戦経験もろくにない年少者と、今まで荒野たちの世界に顔を出したことがない、秦野の女たち、である。
 第一線で活躍している人材は、二宮舎人くらいなもので……後は、後方の予備戦力……いわゆる、女子供しか、でてきていない……。
 いくら基本戦略がよくできていても……それを実行するための人材に不安があれば、それだけ目的を達成する可能性が目減りするのは、自明のことだ……。
 冷静に状況を分析すれば、荒野でなくとも、この程度のことは予測がつく……
 などという説明を三島にすることが……今の荒野は、ひどく億劫な気分だった……。
「……じゃあ、行き先は、商店街でいいんだな?」
 何も言わずに物思いに沈んでいるようにみえる荒野に、三島百合香が声をかける。
「ああ。電気屋さんの裏手につけてくれ。
 あそこの事務所に、玉木と徳川がいるそうだから……。
 こいつとおれの手当も、そこで頼む……」

「佐久間はあっけなく加納に捕まっちゃったね……」
「ぼくらの思惑通りに動くような傀儡繰りだ。別に意外な結果ではないよ……」
「加納も、意外に脆いところがあるね……」
「脆いよね、あれも……」
 くすくす笑い。
「……一つのゲームは終わった。それでは、次のゲームをはじめよう……」
「はじめよう! はじめよう!」
「さて、一発の銃声が開始を告げる!
 ……というのも、劇的ではあるが、ありきたりだ……」
「第一、うるさい!」
「うるさい! うるさい!
 それに、たった一発、というのも、いかにもあっけなさすぎる」
「あっけなさすぎ! あっけなさすぎ!
 ……一ダースならどう?」
「怖くなる!」
 笑い声。
「でも、実際の所、多すぎるな。
 ……一ダースでは……」
「半分! 半分!」
「そうだね。半分を、さらに半分づつ。君が三発。ぼくが三発」
「三発づつ! 三発づつ!」
「さあ、これだ。ちょっと重いけど、ちゃんとあの子たちの所まで投げられるよね?」
「投げられる! 投げられる!」
「さて、この六発が、いかなる反響を呼び起こすのか!」
「涙と感動!」
「笑いと興奮!」
 笑い声。
「でも、最初の涙、ってのは確実だよ……。
 なんてったってこれ……」
「催涙弾! 催涙弾!」
 爆笑。
「さあ、投げるよ!」
「「一個目!」」
 爆笑。
「「二個目!」」
 爆笑。
「「三個目!」」
 爆笑。

 三島の国産車は荒野がぼんやりと窓の外を眺めている間にも商店街の方に近づいていった。
 もともと、歩いてもいくらもかからない距離まで近寄っていたのだが、雨がいよいよ激しくなってきたことと、身動きの取れない佐久間現象を抱えていること、それに、荒野自身が心身両面で疲労を感じていることなどの理由で、三島の車に乗せてもらていた。
 ぼんやりと外を眺めていた荒野は、近くのビルを飛び越えて放物線を描いている幾つかの物体を認め、シートの上に身を起こした。
「先生! ここで止めて!」
 三島の車から飛び降りた荒野は、走りながら茅に電話をかける。
「茅! 楓を非常召集!
 誰かが……何者かが、テンとガクの上にガス弾を投げ込んだ!」
 荒野の目は、この視界の効かない天候下にあっても、煙の尾を引いて空中を横切る六つの物体を認めていた。

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彼女はくノ一! 第五話 (93)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(93)

 ガクが、ノリ用として試作された六節棍を使用して手首を搦めとった秦野を振り回して、景気よく他の秦野を吹き飛ばすことができたのは、実際には数秒間、という、ごく短時間でしかない。
 しかし、その様子を目撃した人々は、一見して小学生ほどに見えるガクが、女性とはいえ大の大人を軽々と振り回し、群がる女性たちをなぎ倒す様をみて、ただただ目を剥いた。

「……これ、なんのCGだよ……」
「現実だよ! 現実! 紛れもなく、今、目の前で起きている現実だよ!」
 周囲のビルの窓や屋上に配置し、カメラを構え、その様子を撮影していた放送部員たちの間で、興奮したそんな会話が同時多発的になされていた。
 そして、少しして落ちつてくると、今度は、
「……くっそうぅ……この雨さえ、なければなぁ……」
 土砂降りの雨で、視界はかなり悪くなっている。
 このような貴重なシーンが、雨なぞに邪魔されて不鮮明の映像として記録される、ということは、いかにも残念だった。
 ストリーミングでは、回線の都合上、さらに画質が悪くなるので、ネット上でみる人は、この光景に、あまりリアリティを感じられないではないか……という思いも、あった。
「これ……後でちゃんと説明しろよ……玉木……」
 放送部員たちは口々にそんなことを呟きながら、テンとガク、それに秦野の、非現実的な戦いを撮影し続ける。

 ガクが捕らえた秦野の体を一周させる前に、他の幡野は、極めて有効な対抗策を打ち出してきた。さすがに、黙ってなぎはらわれてくれるほど、殊勝ではないらしい。
 ガクがノリの六節棍で捕らえた秦野の体に、次々と他の幡野が飛びつく。ガクの振り回す秦野の周囲に、別の秦野がほとんど同時に取り付き、ガクは……黒々とした固まりが膨れ上がってくる……といった態の物を、振り回している格好となった。
『ガク、早く捨てろって! そんなもん!』
 ガクが振り回す六節棍の先には、すでに十人以上の秦野がとりついていた、中には、六節棍を伝ってガクに飛びかかろうとしている者もいる。
「……分かっているって!」
 無線越しにテンに返事をするのと同時に、ガクは、だん!、と足を大きく踏み出して、取り付いた十人以上の秦野ごと、六節棍を放り出した。
 それまで秦野たちが陣取っていた、反対側の方向へと……。
 ガクに高々と放り投げられた秦野たちは、空中でばらばらと散らばり、別々に、着地する。
 これで、細長いアーケード上で、テンとガクを挟んで、十人以上の秦野が両端からにらんでいる、という形になった。
「……ほれ、みろ……。
 ガクのせいで、挟撃される形になっちゃったじゃないか……」
「物は考えようだよ、テン。
 これで、前後半数ずつ。二人で片付けるのに都合いいじゃないか……」
 テンとガクは背中合わせに囁き会う。
「またそうやって、失敗をごまかす……。
 もう!
 先にいくからね! どっちが先には片付けるか、競争ね!」
「……あっ! テン、ずるい!」
 無線を通して、ガクとテンの緊張感のないやりとりを聞いていた放送部員たちは、いっせいに脱力した。

 それでいて……それぞれ、反対方向に駆け出していった、玉木の命名によるところの「シルバーガールズ」は、それぞれ単独でも獅子奮迅の活躍をするのだった。
 相手の方が人数が多いのを幸いに、「ちぎっては投げ」という慣用句を地でいっている。
「シルバーガールズ」が動くと、物騒な物を持った黒衣の女たちが、面白いように宙に舞う。「シルバーガールズ」は棒を降るって、黒衣の女たちを吹き飛ばしたり、腕ですくい上るように舞上げたりしている訳だが、随分と乱暴な真似をしている割に、見ていて悲惨な感じがしない。
 これは、「シルバーガールズ」の相手をしているゴスロリ・ファッッションの女たち……これも、玉木の命名によると、「シャドウレイディーズ」……が、そろって終始にこやかな表情を保っていることと、それに、簡単に「シルバーガールズ」の攻撃を受け、吹き飛ばされる割りには、あまりダメージを受けた様子がなく、ふわりと着地して、すぐにまた「シルバーガールズ」に群がって行くから……で、「シャドーレイディーズ」が全く見分けがつかない顔をしていること、「シルバーガールズ」がどっかのマンガやアニメから抜け出てきたようなヘルメットとプロテクターを装備していること、などと相俟って、こうして実際にカメラで撮影していても……時間が立てば立つほど、非現実感が増していくのであった……。
「……女版エージェント・スミス対パワパフガールズ、って感じだな……」
「ああ……完全に世界観が違う感じな……あの二人と、その他、大勢とでは……」
 カメラを向けながら、放送部員たちはそんなことを囁きあう。

 一見して優勢なのは、景気よく秦野たちを豪快に吹き飛ばし続けるテンとガクだったが、テンとガクの大ざっぱな攻撃を受けている秦野たちの側はというと、たいしたダメージを受けているようにも見えなかった

 テンとガクはといえば、不特定多数の観客に対して不快感をあたない戦い方をすること、すなわち、「正義の味方のように」戦うこと、を前提としていたので、間違っても相手に致命傷を与えるような攻撃は出来ずにいた。結果、有り余るパワーとスピードを持ちながら、どうしても矛先が鈍くなってしまっう。
 事実、秦野たちはにこやかにテンとガクの攻撃を受け流しているが、それも「ようやく受けととめるのが間に合っている」という態であり、テンとガクの速度に対して、完全に遅れて反応していた。
 しかし、体ごと吹き飛ばされながら、それでも手持ちの「ちゃんとしていない武器」とやらで打撃を受け流せる程度には、二人の動きについてきている。
 パワー、の点でいうのならば、体重差がありながら、激突する度に二人ではなく秦野たちのほうが吹き飛ばされている、ということからも明らかなように、完全に二人が秦野たちを凌駕している。
 秦野たち人数がもう少し少なければ、一人が秦野たちの注意を引いているうちに、もう一人が絞め技や当て身を使って一人一人落として行く……という、多少リスキーな方法も使用可能だったが、テンとガクの二人に対して秦野は三十人以上、という人数比を考えると、現在の状況ではそれも難しい……。

 つまり、テンとガクは、固体としては、秦野たちを圧倒的に上回る速度とワパーを持ちながら、かといって、数の上で劣勢を押し返すほどには優勢なわけでもなく、じわじわと秦野たちに体力を消耗されつつあった。
 実習室で、ストリーミング配信された映像を一瞥しただけで、荒野がその状況を読みとっていたように。

 テンションの高い玉木の実況だけがテンとガクの無意味に大袈裟なアクションを褒めたたえていたが、そのテンとガクはといえば、見た目とは裏腹に、真綿で首を絞められるように、ゆっくりと追い詰められていた。
 その状況を一変させるアクシデントが発生するまでには、今少しの時間が必要になる。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(9)

第六章 「血と技」(9)

「……すまん、玉木。
 一度、切る。敵は……」
 そういいながら、荒野は腰に指したままのくないを無造作に投じた。そして、投げたくないの後を追うように、進路を変えた。
「……おれの足止めを、まだ、諦めていないようだ……」
 荒野は、疾走しながら、玉木の返事を待たずに通話を切り、携帯をポケットに収める。
 薄笑いを浮かべた佐久間現象の顔が、見る間に大きくなった。
「……よくも……」
 荒野が投じたくないを避けた佐久間現象に迫りながら、荒野は、常時持ち歩いているパチンコ玉を指弾で弾いた。
「……おれの前に……」
 佐久間を相手にする時は、常時攻撃をしかけ、相手に精神を集中する余裕を与えては、いけない……。
 佐久間現象は、荒野の指弾も全て避けた。しかし、その隙に、荒野は佐久間現象の間近に迫っている。
 佐久間現象の、瞳孔がやけに小さい三白眼が、すぐ近くに見えた。
「……顔を出せたなぁ! 佐久間ぁ!」
 荒野は、身に染みついた挙動で、掌底と蹴りとを、何十発と浴びせかける。
 佐久間現象は、荒野の攻撃の半分以上を回避し、四割以上を自分の手足でブロック、直接、体幹部や頭部にまで届いた荒野の攻撃は、全体の一割以下に過ぎなかった。
 それでも、ごく短時間に荒野の攻撃を受け止めた佐久間現象の体は、十メートル以上も吹っ飛んで行く。クリティカルヒットは少なかったから、たいしたダメージは与えられなかったはずだが、荒野の攻撃を全ての勢いを殺すこともできなかった。
 荒野は、吹っ飛んだ佐久間現象を、追う。
 その鼻先に迫ってきたくないを、荒野は片手の指で受け止める。
 吹き飛ばされながら、佐久間現象は、次々と荒野に向かって投擲武器を投じた。
 荒野は、受け止めたくないを持ち直し、それで投擲武器を弾きながら、さらに佐久間現象に迫る。
 荒野に追い詰められながらも、佐久間現象の表情に焦りの色は見えない。
『……まだ……伏兵が、いるのか?』
 ふと、荒野の脳裏に疑念がよぎった時……。
「……はっ、ははっ……」
 佐久間現象が、乾いた笑い声を上げた。
「……楽しいじゃないか! 加納荒野!
 まさか、あの仕掛けが、あんなに短時間で突破されるとは思わなかったよ! 君達は、強敵だ! それでこそ、ぼくの天敵だよ!」
 佐久間現象は、地に足をつけて立ちすくむ。
 特に構えを取っていない、自然体……。
 だが、その姿は、荒野の警戒心を呼び覚ました。
『……こいつ……』
 そうして、荒野を待ち構える佐久間現象から……それまでには感じることがなかった、ピリピリとした、術者気配を感じた。
 それも……。
『おれと互角か……それとも、おれ以上……』
 幼少時はともかく、現在の荒野が「自分以上」と認める術者は、わずかに二人しかいない。
 二宮荒神と、加納涼治。
 もともと有り余る素養を持ち、なおかつ、かなり早い時期から「最強」の手ほどきをうけた荒野は、単体で脅威を感じるほどの術者には、あまりお目にかかった経験がない。
 ましてや、佐久間現象は、荒野と同年配だ……。
「……君にもわかるかい? 感じるかい?
 加納荒野……」
 佐久間現象は、たちすくんだまま、笑っている。
「……わかるだろう?
 加納である君と、佐久間であるぼくとは、対局の存在……。
 天敵同士なんだよ……。
 そして……」
 佐久間現象が、動いた。
「……ぼくは、怒っているだよぉ! 加納荒野ぁ!」
 それまで、荒野を嘲笑するように薄笑いを浮かべていた佐久間現象が、初めて怒気を露にする。
 佐久間現象の動きは荒野にも追い切れないほどに素早く、今度は、佐久間現象の攻撃全てを受け流し切れなかった荒野のほうが、吹き飛ばされる。
 吹き飛ばされた荒野が身構えるよりも早く、佐久間現象が荒野に追いすがる。
 荒野は手持ちのパチンコ玉全てを佐久間現象に向かって投げつけるが、佐久間現象は的確にパチンコ玉を弾いて荒野に肉薄した。
「……なんで、あの状況で……」
 佐久間現象は瞬時に間合いを詰め、荒野と顔がくっつかないばかりに迫っていた。
 荒野も足場を固めて、急遽、身構える。
「……あんなに信頼されているんだよぉ! お前はぁ!
 孤立する筈だろう! 普通!」
 打ち合いに、なった。
『……忍の、戦い方じゃあねぇなぁ……』
 荒野の、頭の隅のどこか醒めた部分が、そんなことを思っている。
 荒野が感情的になっているように、佐久間現象も感情的になっていた。
 二人とも、体が覚えている体技を、感情のままに繰り出している状態だ。
 冷静に、効果を計算して使っているわけではない。
 勢いだけは凄いが……これは、術者同士の戦いではない。
『要するに……ガキの喧嘩だ……』
 荒野は、今の自分たちの姿をそう評価し、ふ、と頬を緩める。
「なにがおかしい! 加納荒野ぁ!」
 その荒野の表情を余裕の現れととったのか、激昂した佐久間現象の動きがさらに激しくなる。
 荒野のガードをかいくぐって、何発かの掌底が、立て続けに荒野の水月にはいった。
 荒野は息を詰めながら、反射的に腕をひらめかせる。
 今度は、荒野の掌底が佐久間現象の側頭部を掠めた。
 荒野と密着し過ぎた、と思ったのか、佐久間現象は心持ち、上体を逸らせた。
 その顎に向けて、荒野のつま先が跳ね上がる。
 直撃はしなかったものの、風圧を受けた佐久間現象は、その場に尻餅をついた。
「……今の自分の姿が、おかしくなったんだよ……
 佐久間現象!」
 その場にへたり込んだ佐久間現象に追い打ちをかけることなく、荒野は叫んだ。
「おれの知り合いに……機会がある度に、際限の無いどつきあいしてくれる二人組がいてなぁ!」
 一度尻餅をついた佐久間現象は、追い打ちをかけてこない荒野に怪訝な顔を向けながらも、慌てて起き上がり、身構える。
 佐久間現象の態勢が整ったことを認めた荒野は、即座に攻撃を再開した。
「……あいつら、なんであんなこと繰り返すんだろう、って、いつも不思議に思っていた!
 でも……楽しいよなぁ!
 ……全力を出しても、それでも壊れない相手がいるってことはぁ!」
「……た、楽しいわけねぇーだろぉ! 加納荒野ぁ!」
 佐久間現象と加納荒野、両者の攻撃は、計算されて組み立てられたものではないといえ、次第に激しさを増している。
「なんで……あれで、孤立しないだよ、お前!」
 佐久間現象の声は、震えていた。
 怒りで、ではない。
「……なんだ。
 お前も、周りの人に気味悪がられた口か?」
 荒野は、楽しそうに、笑った。
「甘えるな、佐久間現象ぉ!
 そんなもん、おれたち、一族の者なら、誰でも経験しているんだよぉ!
 今回のおれはな、たまたま運が良かっただけだ! たまたま、周りに、恵まれていただけだよ! こんな幸運、百回に一回もない!
 単なる確率の問題を、うらやましがって僻んでいるじゃねぇ!」
 荒野の攻撃が、以前より頻繁に佐久間現象に当たるようになっている。

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彼女はくノ一! 第五話 (92)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(92)

 放送部員たちが周囲のビルに分散して、アーケードの上を睨むようにカメラを配置し終わるのとほ同時に、テンとガクが姿を現した。ゴスロリドレの上に銀ピカのヘルメットとプロテクター姿の二人は、遠目からでも見間違えようがない。
「……あー。現在カメラテスト中。
 今、二人が上に出て来ました。そちらから、見えますか?」
『見えるのだ』
「なんだ、徳川かよ。玉木はどうした?」
『イベント実行委員会の方に、根回しにいったのだ……。
 この椿事をいったいどう説明するのか非常に興味深い所ではあるが、ぼくは居残りでシステムの調整なのだ……』
「……そーかそーか……。
 で、あの二人のコスプレが、そんなに椿事なのか? ……って……。
 をいっ! あれ!」
 放送部員たちが見守る中、商店街アーケード上のがらんとした空間に、次々と黒衣のスカート姿が出現する。それも、一人二人、というわけではなく、次から次へとテンとガクの対面に現れて、黒い人だかりを作った。
『……ちゃんと、カメラにも映っているから、夢ではないのだ。
 どうだ、見て損はしなかったであろう?』
 電話越しにそういう徳川の口調は、何故か嬉しげに響いた。
『……It's Show Time!
 なのだ……』
「……確かに……椿事だな……これは……」
『……放映の許可、取ってきたよ!』
「おい! 玉木かよ!
 お前、どっから……」
『そのほうが連絡に都合がよかろうと、いくつかの回線を繋いで同時通話が可能なようにしてみたのだ……』
 なんでもないことのように、徳川の声が答える。
『……ねーねー。
 ボクたちの声も、ちゃんと聞こえてる?』
 銀ヘルメットの人影が、カメラの中で手を振っている。
『おお。ちゃんと聞こえているぞ、テン……。
 通信関係は万全なのだ』
『……向こうは、万全以上だよ……。
 あれだけの人数全てが、一心同体なんだから……』
『それは……どういう意味なのだ?』
『これから実際にみてみれば、嫌でも分かるって。
 レギオンっていうより、テュポーンかヘカトンヘイレスって感じ……』
『……なんだかよく分からないが……ともかく、放映の準備は整ったのだ。いつ開始してもよいぞ……』
『うん。ちょっと待ってね……』
「……はたののおねーちゃんたちー……。
 そっちはもう準備はいいー!」
 銀ピカヘルメットのうち、小さなプロテクターをつけている方が、そう声を張り上げて手を黒衣の女たちに手を振った。

「もう、はじめるの?
 いいわ。今、準備しまぁす!」
 遠目には黒衣、に見えたものは、カメラを望遠モードにして細部が見てとれるようになると、ゴシック・ロリータ・ファッションのドレスであることが判明する。そのゴスロリドレスの裾がいっせいにひるがえり、形の良い太ももが露になる。その太ももには、ナイフとか角材とか斧とかがくくりつけられていた。黒衣の女たちは、スカートを翻した時と同じように、同じ動作を同一のタイミングで、自分達の太ももにくくりつけた武器を手に取った。
 まるでシンクロナイズドスイミングを見ているようだった。
「……ごめんなさいねー……ちゃんとした武器、用意できなくて……。
 今回はお忍びだから、一般人と同じく関税があるルートで来たもんで、こんなもんしか用意できなかったの……」
 なんか、呑気な口調でとんでもないことを口走っているような気がする。
 あれで、「ちゃんとした武器」でないというのなら……「ちゃんとした武器」なら、一体どういうことになるのだろう?
 第一、あれだけの人数がいて、「お忍び」って……。

 わらわらとアーケードの上に集まって来たゴスロリドレスの集団、銀ピカヘルメットのテンがいう「はたののおねーさん」とやらの人数は、今ではざっと見て三十人以上になっている。
 しかも、全員が全員、同じ顔、に、見えた。
 絶世の美女、というわけではないが、誰にでも好感を持たれそうな、まるでクローン人間か何かのように全く同じ顔が、揃ってにこやかな表情を浮かべている。
「……なんなんだ、これは……」
 ある放送部員が、呻いた。
『だから、損はさせないっていったでしょ?』
 電話越しに、玉木の声が聞こえた。
『商店街側の許可は、今、取ってきたから……しっかり、カメラを廻してよね……』
『……準備が、整った……。
 行くよ! ガク!
 さっきもいったけど、この間みたいに、不用意に近づかないように……』
『……分かっているよ……。
 いっくぞぉー!』
 銀ピカヘルメットのうちの一人が、黒衣の女たちに突進する。

 同時に、「ぴんぽんぽんぽーん」という間の抜けたチャイムが鳴り響いた。
『……あー、テステス。
 雨の中、商店街にご来場いただきありがとうございます。
 天候不順のため、当初、駅前特設ステージで進行しておりました、第一回ゴシック・ロリータ・ファッションコンテスト関係のイベントを一時中断させていただいております。なお、商店街のサイトにおきまして、コンテスト参加者様のPR映像などは、引き続きご覧になれます。
 現在、中断中のコンテストに代わり、商店街アーケード上に置きまして、特別アトラクション、シルバーガールズ、バーサス、シャドウレイディを開催中です。現在、その模様を、ネット上、並びに商店街内に設置してあるディスプレイ内でリアルタイム配信しております……』
 玉木の声で、放送がはじまった。

 真っ先に敵に突っ込んで行くのは、いつだってガクの役目だ。
『……だけど、今度は遠くから……』
 少々慎重さに欠ける所があるが、ガクも学習能力がないわけではない。
 以前、三人組の秦野と模擬戦をやった時の経験から、学んでいることもある。
 ガクは、棒状にした自分の六節棍を振りかざしながら、片手でノリの試作品の六節棍を取り出し、関節を繋げないまま、黒衣の女の一人に向かって、振る。
 最初に振りかざしていた六節棍に気を取られ、身を逸らして回避しようとしていた一人の秦野の手元に、予期せぬ方向から向かってきたノリの六節棍が絡みつく。
 六節棍の関節部は、ワイヤーで接続されている。そのワイヤーの部分が、その秦野の手首に巻きついていた。

「……いやぁあっー!」
 気合とともに、ガクが、その秦野の体を、ぶんっ!、と、大きく力任せに振り回す。
 棍の部分を連結していない状態では、かなりリーチが長くなる。ましてや、ノリの試作品の六節棍は、棒状に連結した状態でさえ、二メートルを優に越える。関節部のワイヤーを完全に延ばした状態なら、その五割増し、といった所だろうか。
 それだけの長物に手首を捕らわれ、ガクによって振り回されたその秦野は、完全に体を宙に浮かせ、弧を描いて、密集した仲間たちの体をなぎ払って行く。

「……なんだよ、これ……」
 呆然と、カメラを構えていた、ある放送部員が呟いた。
 おそらく、この映像を見ている全ての人が、そう思っていた事だろう。
 銀ヘルメットの子供……は、どうみても、彼らの常識の範疇に収まる存在ではない……ことは、確かなようだった。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(8)

第六章 「血と技」(8)

 大清水先生が突然出現したことで、荒野はその場に棒立ちになった。
 だが、よくよく考えてみれば、いくら週末で学校が休みであるとはいえ、こうして実習室が開放されているのだから、たとえ最低限の人数であっても、職員も登校しているのだろう。でなければ、生徒の立ち入りも禁止されている道理であり……しかるに、そのことに荒野は、たった今まで思い当たらなかった。
「……あ……あ……あ……」
 と荒野は、つい先ほどまで校庭で勇姿を見せていたのと同一人物であるとは思えない無様な吐息をついた後、
「……先生! すいません!」
 深々と、大清水に向かって頭を下げる。
「……加納君。
 君は、なにか、謝らねばならないようなことをしたのかね……。
 わたしには、校内に侵入した、凶器を持った不審者を撃退してくれたようにしかみえなかったが……」
 荒野に頭を下げられたほうの大清水教諭は、つまらなそうな顔をして、たった今実習室に土足で入ってきた連中に冷たい視線を向ける。
 大清水教諭に睨まれた連中は、身をすくめて硬直し、ぎこちなく頭を下げたりしていた。
「もちろん、無条件に暴力を肯定するものでもないし、しかも、刃物まで持ち出すのはどうかと思うが……ケンカぐらい、若い頃は誰でもやるものだし……。
 君はむしろ、彼らから凶器を取り上げて、不祥事を防ごうとしてくれたのでは、なかったのかね……」
 そういって大清水教諭は、荒野の腰のあたりを指さした。
「君は、その、取り上げた刃物を、使おうとはしなかったではないか……」
 大清水教諭が指さしたあたりには、荒野が腰に差したままのくないがあった。
 どうやら、一部始終をしっかりと目撃されたらしい……と、荒野は判断する。これは……もはや、誤魔化しの効く段階ではない……。
「そのことは、必要なら、また後で説明します……」
 荒野は、顔を上げずに続ける。
「でも、今は……この場を、去らせてください!
 おれ、ちょっと、今すぐ行かなければならない所があるんで……」
「もちろん、説明はしてもらうつもりだが……。
 加納君。
 あれも、君の関係者かね……」
 大清水教諭は、パソコンに液晶画面に映っている、ストリーミング画面を指さす。
「君は、あれを止めに行くつもりかね……」
「止めたいのは、山々ですけど……」
 荒野は、頭を下げたままため息をついた。
「おれが止めて、止まるやつらじゃあ、ありません。
 ですから、あそこにいって……せめて、周りに被害が出ないように、見張ってこようと思っています……」
「……そうか……」
 大清水教諭は、荒野の言葉にあっさりと頷く。
「では、行きたまえ。
 あの様子では……警察などには、取り押さえられないだろうし……君になら、なんとかできるかもしれない。
 その代わり、週明けにでも、じっくりと話しを聞かせてもらうぞ……」
「……先生……」
 荒野は、頭を上げられなくなった。
「おれ……。
 週明けに、また……学校に来ても、いいんですか?」
「……加納君……学校とはな……学科も大事だが、それ以上に、集団生活や社会生活を学ぶ所だ……」
 大清水教諭は、その場にいる全員に言い聞かせるように、淡々と話す。
「君ら生徒にとっては、細かな、くだらない校則がたくさんある、窮屈な場所だろう。
 だがな、社会にでれば、それ以上に細かな、くだらない規則が、明文化された物も、されていない物も含めて、びっしりと網のように張り巡らされている。学校とは、そうした、個人を抑圧しようとする社会という装置の、雛形でありシミュレーションの場だ。
 だから教師も、よい教師であろうとすればするほど、生徒に対して抑圧的な存在になる。
 加納君。
 君は、見たところ、かなり特殊な生徒のようだが……それでも、この社会とか学校とかに張り巡らされた、無形、無数の規則に従い、そこから逸脱しないように努めている。それに合わせようと、自分を変えようと、している……。
 そうでは、ないのかね?
 そうした努力をしている限り……君が学ぼうと努力している限り、君は生徒であり……わたしは教師だ。
 今後もせいぜい、抑圧的な教師であり続けるつもりだよ、わたしは……」
「……行きます……。
 行かせて、貰います……」
 それだけいうと、荒野は実習室から廊下へと、音もなく駆けだしていく。
「さて……加納君に関しては、火急の用事があるから後で話しを聞くつもりだが……その他の者に関しては、知っていることをしゃべって貰うぞ……。
 加納茅君と、それに、有働君は、何か知っているといっていたな……。
 それに、靴を抱えた、そこの君にもだ。
 後、土足でここまで来た人たちは、ちゃんと自分たちの足跡を掃除するように。モップとか掃除道具は、そこのロッカーに入っている……」
 走っていく荒野は、背中で、漏れ聞こえてくる大清水教諭の声を聞く。

 荒野は下駄箱で靴を履き替え、学校を飛び出す。
 外は相変わらず土砂降りだったが、傘はささない。どのみち、全身ずぶ濡れの状態だったし、どのみち、全力で商店街に向かうとなると、傘は邪魔になるばかりで役には立たない。
 荒野は、一足で近くの民家の屋根に飛び乗り、そのまま商店街の方向に一直線に走りながら、携帯を取り出し、少し考えてから、結局、玉木に電話をいれた。
 あの様子がストリーミング中継されていた、ということは、必要な手配をした者があの場にいた、ということであり、そして有働は自習室にいた、となると、玉木が商店街の近辺にいる可能性は、かなり高かった。
『カッコいいこーや君?
 今まで、なにしてたの!』
 コール音が一回、鳴り終わる前に電話に出るなり、玉木は叫んだ。
「すまん。こっちにも来客があってね……。
 敵さん、戦力の分断まで視野にいれて、かなり周到な用意していたらしい……」
『だ……大丈夫、だった?』
「なんとか……片付いたっていうか……」
 荒野は、大清水教諭の対応について、玉木にどう説明するべきか迷ったあげく……。
「玉木……。
 おれ、本気でこの町から、離れたくなくなってきた……」
 ようやく、それだけをいうことができた。

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彼女はくノ一! 第五話 (91)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(91)

 玉木が二人にスパッツを買い与えてそれを履かせ、近くにいる放送部員を招集して、中継の準備をする。「絶対に後悔させないから」と玉木に強くいわれたこともあり、放送部員たちは不審な顔をしながらも、慌ただしく準備をはじめる。幸い、午前中から降りはじめた雨が強くなってきたので、駅前特設ステージでの催物は、今日は中止になったので、そちらで使用するはずだったカメラなどの機材を流用することができた。
 ばたばたと俄に騒がしくなる中、玉木は、「二人みたいなのが本気でこの人ゴミの中で暴れ出したら、大惨事になる……」ということに、ようやく思い当たる。
 玉木の不安を聞いたガクは、ことなげに答えた。
「敵の目的は、ボクたちだもん!
 ボクたちと戦うために、ここまで来たんだもん!
 ボクたちと戦いたかったら、ここまでおいでっていえばいいんだよ!
 でないと、ボクたち、絶対に戦いません! って……」
 ガクのその発言を聞いた玉木は、
「……出来れば……一緒に、周りの建物やなんかも、壊さないように、頼んでも貰える……」
 という要求を、つけ加えた。
 その時の玉木は、泣きそうな顔をしていた。

「……ねーねー、おねーさん……」
 そんなわけでガクは、中継の準備ができたのを見計らって、商店街の雑踏に戻った。そして、殺気を隠そうともしない女性に声をかける。
「……おねーさん、ボクたちと戦いに来たんでしょ?
 そのことについて、幾つかこちらから、条件を出させて貰いたいんだけど……」
 ガクの隣には、テンも立っていた。
 交渉をすること、については、テンは特に反対する理由を思いつかなかったが、ガクほどには楽天的な見通しも持っているわけでもない。
 そして、交渉が決裂した時、ガク一人では荷が勝ちすぎる……と、思っていた。だから、ガクに好きにしゃべらせながらも、テンはすぐ隣に立って、様子を伺っている。
「あら。可愛いお嬢さん。
 ……戦い?
 お嬢さん、どうしてそんなことを……」
 銀ピカヘルメットをつけたままのガクに呼び止められ、唐突にそんなことをいわれても、その女性は特に不審な顔をすることもなく、にこやかに答えた。
「とぼけたって、分かるよ。
 その汗の匂い、狩りをする前の、血が滾っている時の匂いだし……」
 ガクは、恬然と答える。
「……それに、おねーさん、この間の秦野のおにーさんたちと、似たような匂いがする……」
「……そう。
 わたし、そんな匂いがするの……」
 その女性は、ころころと笑った。
「……確かに、わたしは秦野といいますけど……。
 そう……わたし、狩りの前の、血が滾っている時の汗を、かいてますか……」
「うん。
 獲物を見定めた時の、肉食獣がよくそんな匂いさせている。
 そのへんの匂い、ほ乳類は、だいたい共通しているから……ボクには、その手のことで、嘘は効かないんだ……」
 ガクがそういって頷くと、その女性は本当に面白うそうな顔をして、笑った。
「面白いお嬢さんね……。
 それで、その、幾つかの条件、ってなんなの?」
「幾つかって、いうか……たった一つの、絶対に外しちゃいけない約束事があって、それを実現するためには、どうしても幾つかの細かい条件が派生してしまう、っていうわけなんだけど……」
 ガクが説明しはじめると、その女性は頷いて先を即した。
「その、たった一つの、絶対に外しちゃいけない約束事っていうのはね、無関係の人を巻き込まないこと。
 人や建物を、無闇に傷つけちゃいけないってことなんだ……。
 ボクたち、ここの人たち好きだし……」
 そういってガクは、両手で商店街を行き交う人たちをぐるりと差ししめす。
 隣にいるテンも、ガクの言葉に頷く。
「……だから、誰にも迷惑にならないようにやる分なら……おねーさんたちの、相手をしてもいいよ。
 その代わり、場所は、この上ね……。
 この上なら、比較的広いし、他に人はいないし……」
「……なかなか、興味深い提案ね……」
 その女性は、先ほどから、ガクとテンの表情を観察している。
「それで……その提案を呑むことで、わたしたちにどんな得があるのかしら……」
「正直、おねーさんたちには、メリットがないと話しなんだけ……」
 その質問を予測していたガクは、あっさりと頷いた。
「でも、ボクたち以外の、無関係の人には迷惑をかけない、っていうこと……それに、やるんなら、今すぐ、この上ではじめるって……この二つの条件を呑んでくれない限り……ボクたちは、戦わない。
 絶対に、戦わない。死んでも、戦わない……」
「それ、本当だよ、おねーさん……」
 それまで交渉をガクに任せていたテンが、そこではじめて口を開いた。
「ガクが出した条件を呑んでくるつもりがないのなら……おねーさんたちが何をしてきても、無抵抗でされるがままになっている。
 あ。あるいは、ボクがガクを殺して、ガクがボクを殺しちゃうのもいいな。
 そんなの、簡単だもん。
 こうやって……」
 ぶん、と、いつの間にか手にしていた六節棍を、テンはガクの頭に向けて、正面から振るう。
 そして、ガクの頭に衝突する寸前、六節棍からガクのヘルメットまで一ミリ以下、という距離で、ピタリと止める。
「ガクと一緒に、いっせいのせ、で、頭を潰し合えばいい。
 その程度のこと、ボクらなら簡単だよ……」
 テンが顔色も変えずにそういうと、身じろぎもせず、テンの六節棍が間近に迫るのをみていたガクも頷いた。
「……本当、面白いお嬢さんたちね……」
 その女性は、屈託のない笑顔をみせた。
「見ず知らずの他人のために、我が身を犠牲にする。しかも、そのことにまるで疑念を挟まない……
 それ、一族の考え方ではないわ……」
「ボクたちは、確かに一族から出た者だけど、一族ではないよ……」
 テンが答える。
「じっちゃんにいわれたんだ……。
 一族の思惑なんか、軽く越えてみせろ、って……。
 ボクたちは、一族を越えるんだ……」
 ガクも、テンの言葉にそうつけ加え、真面目な顔をして頷いた。
「本当……面白いお嬢さんたちだわ……。
 佐久間の甘言にあえて乗って、ここまでやって来た甲斐があった……」
 その女性……秦野、は……。
「……いいわ。
 そちらの条件、全て呑みましょう。
 お嬢さんたちのような面白い子たち、みすみす失うのは、大きな損失ですもね……」
 二人の提案を、あっさりと受け入れた。

[つづき]
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