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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(114)

第六章 「血と技」(114)

『残りは……』
 幻術使いと、気配断ちの達人……それと、動きを見せていないのが、一人いる……。
 最後の存在を不気味には思ったものの、テンは、忙しく手首のテンキーを操作している。
「……テン!」
 立て続けに丸居遠野と睦美左近を破ったガクに、即された。
 一緒にこのシステムを作り上げたガクは、テンがなにをやっているのか……理解している。
「……わかってる……。
 今……工場内のセンサーで捕らえた情報を……できた!」
 すべてのセッティングを終えたテンは、立ち上がった。
「……ガク!
 外の光景を、信じないで!
 ヘルメット経由の情報には……幻術や気配断ちは、通用しない!
 ……ガク、この順番で、炙り出して!」
 テンは、手首のテンキーを操作し、ヘルメットのバイザーの色を濃くし、外界を直接視認しにくい状態を作る。ガクも、同じようにしている筈だ。
 それから、ディスプレイされている残り三人の敵のマーカーに、倒すべき順番の情報を付加する。
「……よっしゃぁ!」
 ガクの声が聞こえて、ディスプレイの中のガクの光点と、敷島丁児の光点が、交錯。
「……四人目!」
 すぐに、ガクの叫び声が聞こえた。
 幻術が通用しない以上……敷島丁児など、ガクの敵ではない。
「敵」を示す光点は、あと二つとなっている。
 そのうちの一つに、テンは、六角を投げつけている。
「……な、何故!
 何故に、居場所が……」
 刀根畝傍の皺枯れた声は、狼狽を隠しきれていなかった。
 それでもテンの六角を、しぶとくはじいているらしい。
「名人芸は、通じないよ! おじいちゃん!」
 テンの代わりに、敷島丁児を倒したばかりのガクが、答える。
「だってボクら……最初から、おじいちゃんのことは、見ていないもん!」
 そういうのと同時に、ガクもテンに習って、「刀根畝傍の位置情報」に向かって、六角を投げつけはじめている。

「……くっ! こ、この!」
 それでも……刀根畝傍は、粘った。
 両手に持ったくないで、同時に二方向から飛来する六角を、執拗に叩き落とし続ける。
 それでも……すぐに、手が追いつかなくなった。
 テンの六角による攻撃も、かなり「重い」ものだったが……ガクの六角を受け止めると、テン以上の衝撃がある。
 それを叩き落とす刀根畝傍の手は、二、三発も受け止めると、その回転に抗し切れなくなり……くないが、あさっての方向に、飛んだ。
「……がはぁあっ!」
 刀根畝傍は、手にしたくないを弾き飛ばされた拍子に、尻餅をつく。
 と……。
「……まだやる?
 おじいちゃん……」
 目の前に……六節棍の切っ先を、突きつけられていた。
 見上げると……真っ黒のバイザーに、草臥れた自分の顔が映っている。
「わしの……負けじゃ……」
 刀根畝傍は、がっくりとうなだれた。
「……五人目!」
 刀根畝傍に六節棍をつきつけたシルバーガールズ……テンが、うっそりと呟く。

「……あと一人!」
 ガクが、「仁木田直人の位置情報」に向かって、突き進んでいた。
「やっ……気をつけて!」
 テンとしては……これまで手の内を見せていない仁木田直人のことを、かなり警戒していたのだが……ガクを止めようとして、寸前で、思いとどまる。
 残り一人……ということもあったし、何より、テン自身が……。
『……もう……体が……』
 できるだけ運動量を減らしたつもりだが、丸居遠野の薬が、かなり回ってきているようだ。
 手足が重く、思うように動かない。
『せめて……仁木田直人の手の内を、見極めるまでは……』
 意識を失うまい、と、テンが、自分自身を叱咤した。

「……位置を正確に把握できるからといって……」
 ガクが突進してきても、仁木田直人は、慌てる様子がない。
「……だから、どうだというのだ!」
 まっしぐらに向かってくるガクに対して、仁木田直人は、立て続けに六角を投げつける。
 ガクは、その大部分を六節棍で弾くことに成功したが、すべてを遮ることができず、足首に六角を受けて転倒する。
「いくら、力があっても……」
 ガクは自分で起き上がる前にベルトを掴まれ、軽々と持ち上げられる。
「……攻撃が当たらなければ、意味はないのだ!」
 そのまま、空中に、真上に、放り投げられた。
 ガクが空中にいる間に、真下から、ガクを放り投げた仁木田直人が、再び六角を投げつける。
 今度は、ガクも対応することができず、手首に、まともに六角を受けてしまう。
 六節棍が、ガクの手から離れ……ガクは、硬い地面の上に、落下する。
 慌てて身を起こすと……顎を、蹴り上げられる。
 不意の衝撃に、ガクの意識が、飛びそうになる……。

『……無駄が、ない……』
 仁木田直人の動きを観察していたテンは、仁木田直人を、そう評価する。
 ガクと、適度な距離を取り、反撃の可能性を潰し、ちくちくとダメージを、与えている……。
 仁木田直人は、特別、凄いことをやっているわけではないのだが……その攻撃は、正確で、効果的だった。
「……分析しようとしても、無駄だぞ……」
 いつの間にかテンの近くに来ていた荒野が、テンに告げた。
「……仁木田直人は……スタンダードな、術者だ。
 当たり前のことを、当たり前にやっているに過ぎない。
 しかし……特別な能力もない代わりに、経験豊富で、用心深いから……もちろん、慢心することはないし、自分がダメージを受けずに相手にダメージを与える方法も、知り尽くしている……。
 いわば、凡庸な、ベテランだ……」
 あるいは……ああいうタイプが、お前らとは、一番相性が悪いのかも知れないな……と、荒野はいった。




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彼女はくノ一! 第五話 (197)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(197)

「……テンは、襦袢の人の居場所、特定して!」
 楓と孫子が見守る前で、ガクはが一声叫んで、自分の体を軸とし、両手で掴んだ丸居遠野をぶんぶんと振り回しはじめた。
 ガクに振り回されながら、ぶるぶる体を震わせて、輪郭を徐々にあいまいにしながら、細く長く伸びていく丸居遠野。
 あの人の体は……ものすごく、柔らかくなることができるらしい……と、みていた楓は、思った。
 良く聞き取れなかったから、ガクも、「特異体質」とか「隠し芸」とかいっていたから、おそらく、「そういう体質」なのだろう。
 ガクは、そのまま、皮ジャケットの大柄な男に向かって、柔らかい丸居さんの体を投げつける。
 反射的に、ぶるぶる震える丸居さんの体を抱きとめる、皮ジャケットに向かって、ガクはしきりに、「愛」がどうのこうのといっている。
 しまいに、ガクは、
「……愛し合ってるかぁい?」
 とか、皮ジャケットに向かって、今にも噛みつくような迫力のある表情で、叫ぶ。
「……愛し合っているぜぃ! ベイビィ!」
 それまで、ぼんやりとぶつくさ独り言を呟いていた皮ジャケットが、ガクの言葉に反応して、元気良く返答すると、その男の腕に抱かれていた丸居さんが、悲鳴を上げながらそれまで以上に形を崩して、床に放り出された。
「……あの皮ジャン……睦美左近っていうんだが、見ての通り、頭が弱くて……触れた者に、高圧電流を流せる体質なんだ……」
 途中からきた楓や孫子に向かって、荒野が簡単に説明してくる。
「加納……あなたたちの一族って……」
 孫子が、かなりあきれたような口調でいいかけるのを、
「いうな!」
 荒野は、即座にさえぎった。
 それなりに羞恥心を刺激されているらしく、荒野の頬に若干の赤みがさしている。
 ギャラリーがそんな問答をしている間にも、ガクは、六節棍で皮ジャケットの股間を直撃した。
 その瞬間、見ていた荒野のほうが、顔をしかめる。
 実際に攻撃を食らった睦美左近とかいう皮ジャケットは、二メートルくらい飛び上がった上、そのまま悶絶して地面の上に伸び、動かなくなる。
「あの……」
「痛い! あれは、痛い! ものすごく、痛い!」
 なにか問いかけようとした楓の質問を先取りして、荒野が答える。
「女性に説明しても、実感がわかないだろうけど……とにかく、痛い……」
 荒野がそこまで力説するのなら……そうなのだろうな……と、楓は納得した。
「……テン!」
 立て続けに丸居遠野と睦美左近を破ったガクが、テンに向かって振り返る。
「……わかってる……」
 そのテンはというと……ガクが二人を倒している間に、手首のテンキーを忙しく操作していた。
「今……工場内のセンサーで捕らえた情報を……できた!」
 テンは、立ち上がった。
「……ガク!
 外の光景を、信じないで!
 ヘルメット経由の情報には……幻術や気配断ちは、通用しない!」
「……おーけー!」
 ガクは、元気良く答えて、六節棍を、ぶん、と一振りした。
「残り……三人!」

「……どういうこと?」
 事務室内で成り行きを見守っていた玉木が、傍らの徳川に説明を求める。
「幻術……の方は、ともかく、気配断ちは、人間の情報処理系の盲点をついた技だと聞いているのだ。
 だから、肉眼はごまかせても、カメラには映るのだ……」
「うん。
 そんなような話しは、前にも聞いた……」
 徳川の説明に、玉木は素直に頷く。
「それで……あの二人は、電子的なセンサーのデータを、索敵に生かす方法はないかと……この、工場内の設備で、いろいろと実験をしていたのだ。
 ネックは、情報処理に要する時間……つまり、ライムラグの解消、ということだったのだが……あの二人は、寄ってたかって……かなり、使える物を……」
「わずか二、三日で、仕上げてしまった、と……」
 だんだん、徳川がいうことを理解しはじめた玉木は、呆然と結論を引き取る。
 正直、実感はあまりわかないが……説明をする徳川からして、かなり驚いている……ということは、やはり、凄いことなのだろう……。
「……今や、シルバーガールズは、卓越したマン-マシン・システムとして機能している。
 構成部品である、人間の方も、機械の方も……高性能同士、なのだ……。
 そして、今、ここで行われているのは……その、高性能マン-マシン・システムの性能試験なのだ……」

 ガクは、テンの指示を聞くと、手首のテンキーを操作して、ヘルメットのバイザーの色を極端に濃くし、外界の様子がほとんど見えないようにする。網膜に直接映像を投影する装置がヘルメットには内蔵されているので、肉眼で外界を見る必要は、ない。
 一度機械を通し、処理された情報だけが、ガクの視覚に入ってくる。
「……いっくよー!」
 ガクが、吼えた。

 テンの網膜にも、ガクとほぼ同じ画像が映し出されていた。
 ガクとの違いは、外界の情報と同時に、自分の体調データも表示させている、ということだ。
 真っ先に、痺れ薬を体内に注入させられたテンには、時間が残されていない。だから、動くことも、できる限りガクに任せていた。
 心拍数が早くなれば、それだけ、毒の回りも早くなる筈……だったから、だ。
「……ガク、この順番で、炙り出して!」
 テンは、手首のテンキーを操作し、ディスプレイされている残り三人の敵のマーカーに、倒すべき順番の情報を付加する。
「……よっしゃぁ!」
 自分の声よりも早く、ガクは反応している。
 最初の標的として指定された敷島丁児は、こころなしかよろめきながら、あわてて、ガクから逃げようとしていた。
 おそらく……得意の幻術にガクがまったく反応せず、まっすぐに自分の方に向かってくることに、戸惑っているのだろう。
「……四人目!」
 敷島丁児を示す光点と、ガクを示す光点が交錯する時、ガクの叫び声が聞こえた。





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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(113)

第六章 「血と技」(113)

「……よろしいのですか?
 ご老体……」
 仁木田直人が、いつの間にか自分のすぐ脇に移動していた刀根畝傍に問いかける。
「お主とて、動いておらんではないか……。
 なに……後の四人に勝ち抜けたら、いただく……」
 刀根畝傍は肉の薄い皺顔をゆがめて、そう答える。

「……あはぁ、あはぁ、あはぁ……」
 睦美左近は、大柄な割には、痩せている。そのせいで、体全体が骨ばってみえ、ジャケットがぶかぶかに見えるほどだが……それでも、両腕を広げ、焦点の合わない目をテンとガクにに向け、口の端からよだれを垂れ流しながら歩み寄ってくる様子には、鬼気迫るものがある。
 表情が陶然としていて、二人に対する害意がまったく読み取れないのが……かえって、気味が悪かった。
「……お兄さん……」
 ガクが、睦美左近の方に、一歩踏み出す。
「それじゃあ……勝負だ。
 お兄さんがボク抱きつくのが早いか……それとも、ボクが捕まって、感電するのが早いか……」
「……そういうのは、勝手だけど……」
 すぐそばに立っている駿河早瀬が、大きく裂けた口を開いて、発達した八重歯……と、いっても、形状と大きさは、「歯」というよりは「牙」に近い……を覗かせた。
「おれははじめとして、他の四人も、勝負がつくのを待っているほど人は良くないから……」
「……いいさ!」
 ガクは、六節棍を取り出して、構える。
「全員……同時に、相手にしてやる!」
「……それでは……」
 駿河早瀬は、自分の口の周りを、長い舌で舐めまわす。
「……いただきっ……」
 次の瞬間……大口を開けて、ガクに食らいつこうとしていた駿河早瀬は、息を詰めて横に吹き飛んだ。
 そのわき腹に、半ばのめりこみながらも、いまだ回転を止めない六角が、のめりこんでいる。
「……甘いって……」
 六角を投じたテンが、呟く。
「なるほど……。
 投擲武器が使えると、戦い方が広がるな……」
「……犬のお兄さん、タフそうだから、大丈夫だろ……」
 ガクは、白目を剥き、口から泡を出して地面に横たわっている駿河早瀬を見ながら、独り言をいった。
「テンの六角……この間、五ミリ厚の鉄板、ぶち抜いていたけど……」
 肋骨の下……内臓を守る器官がない部分に、まともに六角を受けた駿河早瀬は、もはや、テンやガクの言葉を聴くだけの余裕はない。
「……これで、一人……そんで……」
 ガクが、呟く。
「……二人目!」
 次の瞬間、ガクは、丸居遠野の背後に出現した。
「おじさん……特異体質はいいけど……動きは、鈍い!」
 ガクの動きに対応しきれず、おたおたと床に消えようとした丸居遠野の体の一部を、ガクは鷲掴みにした。
「……テンは、襦袢の人の居場所、特定して!」
 一声叫ぶと、ガクは、「丸居遠野のどこか」を掴んだまま、自分の体を回転させはじめる。
「……や、やめろっ……」
 ガクに振り回された丸居遠野は、もがもがとそんな声を出しながらも、ガクに振り回されるままになっている。
 ぶるぶると震えながら、ガクに振り回されることにより発生した遠心力により、丸居遠野の体は、細長く伸びていく。
「……やっぱり!
 おじさん……形を変えている時は……動きがかなり不自由なんだ!」
 少し考えれば、わかる。
 人間は、人間の形状をしている時、もっとも効率よく運動できるように、できている。
 丸居遠野が自分の体を変形させるのは……潜入任務には、適しているかもしれないが、代わりに、その間、戦闘能力は、大幅に、低下する。
「……隠し芸は、所詮、隠し芸!」
 ガクは、丸居遠野を振り回しながら、睦美左近の方に向う。
「皮ジャンのお兄さん……あげる!」
 そう叫んで、腕を大きく開きながら近づいてきた睦美左近の胸元に、丸居遠野の不定形の体をぶつけた。
 丸居遠野の体は、睦美左近の胸板にぐんにゃりと弾んだだけで、どちらにも、特にダメージがあるわけではなかったが……睦美左近は、反射的に丸居遠野の体を受け止めて、怪訝な顔つきで、腕の中のぶるぶる震える物体を、凝視している。
「皮ジャンのお兄さん!
 ……その、ゴムみたいなおじさん……お兄さんと、愛し合いたいって!」
「……あ……愛?」
 睦美左近が、ガクの言葉をぼんやりと反芻する。
「そう! 愛だよ、愛!
 ぎゅっとして、ビビビッてすると、そのおじさんも喜ぶよ!
 変態さん同士、仲良くね!」
 睦美左近に抱きしめられた丸居遠野が、「ひいっ!」とか、「やめろっ!」とか、「離せっ!」などと叫んでいるが、「……あい……あい……あい……」と、なにやら考え事に忙しい睦美左近の耳には、入っていない。
「……愛し合ってるかぁーい! ベィビィ!」
 一向に反応しようとしない睦美左近に業を煮やし、、ガクが、囁きかける。
「……あい……愛し合っているぜぃ! ベイビィ!」
 睦美左近が、ようやくガクの言葉に反応する。
 と、同時に、睦美左近の腕の中の丸居遠野が、「……がぁ、がぁ、がぁ……」と震えた声で悲鳴をあげ、静かになった。
「……いえぇいっ!」
 ガクは、睦美左近に向けて、親指を上に突き出す。
「……いえー!」
 睦美左近も、ガクの真似をして、両腕の親指を上の方に突き出した。
 なんだか理由が理解できないなりにも、ガクにほめられている、ということだけは理解できたらしい。にたにたと、得意そうに笑っている。
 当然、睦美左近に抱えられていた丸居遠野は、腕を離されて、どさりと音をたてて地面に落下する。
「……あっ! UFO!」
 睦美左近とまともに向かいあったガクは、睦美左近から目をそらさず、腕だけを上に向け、天井を指差す。
 ぼんやりとした動作で、睦美左近は、顔を上に向ける……のと同時に、ガクは、棒状に伸ばした六節棍を、素早く跳ね上げた。
 股間でまともにガクの六節棍を受け止めた睦美左近は、「うはぁ!」とうめいて二メートルばかり飛び上がり、そのまま地響きを立てて、地面に転がり、ピクリとも動かなくなった。
「これで、三人……。
 ……頭の弱い人で、助かった……」
 と、ガクが感想を述べる。





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彼女はくノ一! 第五話 (196)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(196)

「……あ。どうも、楓です……」
 足元に自分たちが倒した術者たちがごろごろ転がってうめいている中、楓は、荒野に電話をかけている。
「こっちは大体カタがつきましたけど、そっちの様子は……。
 はい。はい。
 え? そう……ですか?
 ええ。でも、一応……万が一、ということがありますから……。
 はい。はい。
 では、わたしたちは、今からそちらに向かうということで……はい……」
 楓は、早々に荒野との通話を終え、孫子に向き直った。
「加納様は……わたしたちは、おそらく必要にはないらないだろう、っていってますけど……。
 念の為、立ち寄った方が、いいかと思います……」
「……そう、ですわね……」
 孫子も自分の携帯をチェックしながら、楓の言葉に頷く。
 茅から、メールが着信していた。
「学校は、今では落ち着いているようですし……。
 加納の性格を考えれば、無理に強がっているとも、思いませんけど……向こうに合流した方が、いいでしょうね……」
 そうして、楓と孫子は、全力疾走を開始した。
 徳川の工場までは、現在地からいくらもない。

 そして、徳川の工場に入った楓たちが見たものは、異形、異相の集団に取り囲まれた、テンとガクの姿だった。
 テンたちとの乱闘には参加せず、遠巻きにして、工場内の廃材に腰掛けて、成り行きを見守っている男女も、かなりの人数にのぼった。
 テンやガクとやりあうことを求めなかった、一族の関係者……ということ、らしい。
「……加納様!」
 駆けつけた楓は、そばで見物を決め込んでいる荒野に詰め寄る。
 荒野から少し離れた所に、やけに顔色の悪い三十前後の男と、小柄な老人とが立って、荒野と同じような表情で、乱闘を見守っている。
 二人とも、妙に目つきが鋭い。
 おそらく一族の中でも名のある術者だろう楓は、目礼をして、
「なんで……」
 見ているだけで、手を出さないのか……と詰め寄ろうとした楓を、荒野は手で制した。
「……下手に、加勢をしてみろ」
 荒野は、楓に説明する。
「あいつらに、恨まれるぞ……。
 なに……テンやガクも、この程度の相手にむざむざやられるやつらじゃないさ……」
 荒野は明らかに、この状況を面白がっている風情だった。
「それに……ここで終わるのなら、あの二人も、所詮、そこまでの存在だった、というだけの話しでな……。
 あの二人には、負けたら後始末はするから、存分にやれ……と、そういってある……」
 荒野は、こういう判断を下す時は、冷徹である。
「……だから、楓……。
 お前も、あいつらが確実にやられる前では、手を出すんじゃないぞ……それに、才賀もだ……」
「……わたくしには……手出しする、理由がありません……」
 孫子の回答も、冷淡といえば冷淡だった。
「あの子たちがここからいなくなっても……わたくしには、なんの損失もありませんもの……」
 自分がこの土地に残るための努力は惜しまないが……テンやガクを、身を挺して守るほどの義理もない……というのが、孫子のスタンスだった。
「……そんなところだろうな」
 荒野も、頷く。
 もともと孫子は、たまたまこの場に居合わせただけであって、一族内部の事情にコミットすべき理由も特に見当たらない。
 ことに、現在、二人が相手にしているのは、現在、現役の一族の中でも、札付きの曲者だ。普通に考えたら……気軽に、反抗できる相手ではないのだ。
「加納様……」
 楓が、珍しく緊迫した声で、荒野に話しかける。
「せめて……。
 二人がとどめを刺される直前になら……加勢しても……」
「勝敗が、はっきりしたら……どちらが不利になったにせよ、その時点で、おれも、介入する」
 楓の言葉にも、荒野は頷いた。
「……どっちが勝つにせよ、こんなことで、取り返しのつかない確執を作るのも……馬鹿らしいもんな……。
 最初のうちは、おれも、二人の方が圧倒的に不利だと思ってた。
 でも……今では、どう転ぶか、わからん……。
 どういう結果になるにせよ、よく見ておけ……。
 先天的に優れた素質を持ちながら、技については白紙に近い新種と、それに、いびつな特性を持ち、特定の分野に自分の技を特化させてきたオールド・タイプとの、威信をかけた決闘だ……。
 滅多にある見世物じゃないぞ……」

「……はいはい。
 見てますよ、撮ってますよ……」
 荒野には聞こえない、ということをわかりながらも、玉木としては、返事をせずにいられない。
 事務室内にいる玉木たちの元にも、荒野の声は届いていた。
 徳川の工場内には、今や、高感度マイクやカメラが多数設置されており、工場内であれば、たいていの画像や音声は拾ってしまう。しかも、日を追うごとに、そうした「センサーの網目」は細かくなっている。
 この間の四人組の一件で、歯噛みした徳川が、半ば意地になって、そうした機材を発注しだし、到着するはしから自分の手で設置していったのだ。そうした特殊な機材は決して安価ではなく、こうしたイベントの時にしか役に立たない、ということを考えると、無駄遣いもいいところだったが……おかげで玉木たち「シルバーガールズ製作委員会」は、撮影機材には不自由しない、ということになって、大いに助かっている。
「……こんな、おいしいシシュエーション……撮り逃して、たまるもんですか……」
 ヴィジュアル的にも、キャラが立った敵。それに、テンに打ち込まれた薬が効果を表すまで……という時間制限。
 これらの要素を、どう「シルバーガールズ」のシナリオに反映させるのか……玉木は、現在進行形の事態を観察しつつ、めぐるましく頭を回転させている。
 そうして採取した画像や音声は容量としてもかなり膨大なものにはるはずだったが、すべて、徳川のサーバに一旦格納される。少し先のことになるが、それら膨大な素材を、どう効率よく編集していくのか……というのも、頭の痛い問題にだった。
 もちろん、徳川の事務所でリアルタイムでモニターすることも可能であり、玉木たち放送部員は、固唾をのんで成り行きを見守っていた。





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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(112)

第六章 「血と技」(112)

「……何、ごたくを、並べてやがる……」
 仁木田直人が、うっそりと、笑った。
 年齢は、かろうじて二十代。だが、どっしりと落ち着いた物腰は、実年齢よりも十は確実に上に見せていた。
「この場に立った時から、はじまっているんだよ……。
 それが、おれたちの……忍の、戦いってもんじゃねぇのか……」
 そういった仁木田直人は、しかし、棒立ちになったまま、動かない。
 代わりに、いつの間にか、何人かの姿が消え、人数が減っている。
「気をつけろ、テン! ガク!」
 荒野が、叫ぶ。
「こいつらの半分は、隠形の上手だ!」
「……姿を隠しても……」
 不意に、ガクが動く。
 いつの間にか、先程まで自分を戒めていた鎖を手にして、素早くそれを振るう。
「……無駄ぁ!」
 匂いを頼りに、ガクが振り回した鎖は、確かに幾つかの標的を捉えた……かに、ガクには、思えたのだが……。
「……あれ?」
 ガクの手には、鎖が標的に届いた感触を伝えなかった。
「……気をつけろよ……ガク……」
 荒野が、ガクに告げる。
「この中の敷島丁児は……幻術を得意とするそうだ。どういう原理か知らんが、他人の五感を惑わす……。
 安心しろ……お前らが破れても、骨は拾ってやるし、仇もとってやる……」
 荒野は、他人事のような口調で、うそぶく。
 つい先程までの迷いが、嘘のように晴れていた。
 とりあえず……テンとガクに、やらせて見せればいい。初めて遭遇する、力押しが通用しないタイプの相手に……奴らが、どう対応するのか……。
 荒野が動くのは、それを見極めてからで、いい……。
「……そういうこと……か」
 テンは、そうした荒野の態度に、納得した顔をみせた。
「この人たち……搦め手が、得意なんだ……」
「……一族には、六主家以外の血筋も、合流して来ている。
 少数派だが……だからといって、軽視していいわけではない……」
「流石は名門、加納の御曹司は、わかっていらっしゃる!」
 仁木田直人が、芝居がかった口調で声をはりあげる。
 相変わらず、最初の立ち位置から、動かない。一党のリーダー格なのか……あるいは……移動する必要のないなんらかの術を、すでに発動しているのか……。
「我ら軽輩、一族の中でも、虐げられた者どもへも篤き同情心、痛み入ります……」
「軽口も、たいがいにしておけよ……」
 荒野の口は、微笑の形に歪んでいる。
「こいつらも、おれも……そうやすやすとは、やられないから……油断は、しないほうが、いいよ……」
「……わっ!」
 突然、テンが大声をあげる。
「今! 踵の所にちくっと来た!」
「……はっ……はっ……はっ……」
 テンの足元から、くぐもった声が聞こえた。
「い……今……し、新種に……し、しびれ薬を塗った針を……さ、刺したんだな……。
 く、黒とき、金のは……あと、動けて、五分……」
「丸居遠野……身体中の骨を自分の意志で自在に柔らかくし、肌の色も、自由に変えることができる。
 幅五センチほどの隙間があれば、どこにでも潜入することが可能、という、特異な体質を持つ術者だ……」
 荒野が、リストにあった情報を開示する。
 いわれて、慌てて地面に目をやると……かすかに色味が異なった箇所が、テンの足元から数平方メートル、確かに広がっている。
「……へっ、へっ、へっ……」
 くぐもった笑い声を上げながら、その、色味の異なる部分が、徐々に高くせり上がって行く。
 どんどん高く盛り上がり、ついには数十秒ほどで、床のリノリウムと同色の、うづくまった小男の姿となった。
 小柄で、腹がぽこんと突き出ている。
「こ、この子たち……かわいい……。
 か、勝ったら、好きにしていいかな?」
 異形の、床色の小男が、そううめいた。
 座り込んだ股間から、陽物がいきり立っているのが、確認できる。さして大きな代物でもなかったが、肌色をしていないのと、男性を見慣れていないテンとガクにとっては、形状自体がとてもグロテスクに思える。
「ガキを嬲るのが趣味か! 好きにしろ!」
 吠えるように、仁木田直人が、丸居遠野に応じた。
「……か、勝手に決めるな!」
 そう反駁するガクの声は、恐怖と嫌悪に引攣れていた。
「なに……」
 テンが、意外に冷静な声でいう。
「五分もかけずに、全員を片付ければ、いいことじゃないか……」
 ガクが動揺を隠せなかったことで、かえって落ち着きを取り戻したようだ。
「……大きな口を叩くじゃないか、小娘……」
 そのテンのすぐ後ろ、うなじのあたりで、不意に声がした。
 テンは、裏拳を背後に叩きこみながら、振り返る。
 が……テンのこぶしは、空しく宙を切った。
「……ほっ、ほっ、ほっ……。
 どこを見てるのよ……。
 あたいは、ここでありんす……」
 その声と同時に、すらりとした人影が、テンとガクを取り囲むようにして、一ダースほど、出現した。
 下半身は、ジーンズ。上半身には、真っ赤な襦袢を素肌に直に羽織っている。胸元を大きくはだけているので、上半身に襦袢以外のものを身につけていない、ということが分かった。
 薄化粧をした顔は細面で、中性的。男女どちらといわれても、納得してしまう顔立ちだった。
「敷島丁児……性別不明。幻術の達人」
 荒野が、その術者のプロフィールを簡潔に述べる。
 それ以上、なにも言わないのは、その術者について荒野が握っている情報は、それで全てだったからだ。
 敷島丁児「たち」に囲まれたテンとガクは、狼狽を隠せず、おろおろと周囲を見渡すばかりである。
「……どっちだったっけ?
 君らのうち片方は、鼻が効く、と聞いたけど……敷島丁児の幻術は、五感全てを狂わせるからな……。
 おれも、未だに、あれをやられると、立ち往生しちゃうけど……」
 ガクの目の間に、突如、ぬっ、と出現した毛むくじゃらの顔が、フランクに話しかけ、挨拶と自己紹介をする。
 ガクはおろか、テンでさえ、その異相の男の接近に、気づかなかった……。
「あ。おれ、駿河早瀬。
 こんな顔だから、仕方なく術者してるけど、ほかやつらとは違って、君らには特に思い入れは、ない……。
 ただ、君らの中におれと同じ、ひどく鼻が効くのがいるって聞いてね……。
 それで、興味を持って出向いて来たって訳……」
 そう話しかけて来たからには……声の調子からすると、若い男なのだろう。
 しかし、外見からは、男の年齢は、判断できない。
 何となれば、その男の首から下は、服装も含めて、何の変哲もない常人の物だったが……首から上は、一面、剛毛に覆われている。
 そして……鼻から口にかけての形が、犬科のものに、あまりにも酷似していた。
 獣人……という言葉が、テンとガクの脳裏に浮かび上がる。
「駿河早瀬……。
 にこやかな態度にごまかされるな。身体能力は、この中でも一、二を競う。荒事の、エキスパートだ……」
「……加納の直系にお褒めいただくとは……恐悦、しごく……」
 荒野に駿河早瀬、と紹介された若者は、大仰な動作で一礼して見せた。
「……ふん……つまらん。
 何が新種だ。わざわざ出向いてくるまでもなかったわい……」
 いきなり涸れた声を背中から浴びせられて、ガクはぞっとしながら背後を振り返った。
 干からびたような、小柄な老人が、いつの間にかガクの背後に立っている。
「問題外じゃな。
 ……お前ら……もうわしに、優に二十回ずつ、殺されておるところだぞ……。
 その様子では、殺されたことにさえ、気づかなんだろう……」
「刀根畝傍……。
 気配断ちの達人。この道数十年のベテラン。暗殺専門」
 荒野は淡々と老人を紹介する。
「……いやぁぁぁぁあ!……」
 突如、睦美左近の背後から前に躍り出た若者が、その場に膝をついて、両腕を大きく広げ、喉をのけぞらせて奇声を発した。
「……はっ、はっぁっ!
 愛しているかい、ベイビィー! 愛しているよ、ベイビィー!
 殺したいくらいに愛しているよ、ベイビィー!
 さあ、このぼくに、抱き締めさせおくれ……」
 ボロボロの革ジャケットを羽織った長髪の若者は、焦点の合わない目でテンとガクの方を見据えながら、よろよろと、二人の方ににじり寄ってくる。
「このイカかれたのは、睦美左近。
 見ての通り、頭が弱く、理屈が通じる相手ではない。身体的には一族の平均的な能力を持っている。それに加え、ある特殊な体質の保持者だ。
 単独ではどうということもないが、何人かとコンビネーションを組まれると……これで、やっかいな相手となる……。
 この男に抱き締められると……かなり、後悔するぞ……」
 例によって荒野は、静かな口調でとんでもない設定を披露する。
「こいつの体内には……どうした加減か、発電器官があるらしい……。
 こいつに気に入られ、抱き締められると……痺れて、そのままあの世に行ける……そしてこいつは、気に入った者を自分の腕の中で感電死させることを、最上の愛情表現だと思い込んでいる節がある……。
 仁木田直人の子飼いで、仁木田直人のいうことなら、大抵のことなら聞くそうだ……」
 荒野がそう説明する間も、睦美左近は、意味不明のことを喚きながら、両腕を広げた、よろよろとテンとガクの方に歩みよって行く。




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彼女はくノ一! 第五話 (195)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(195)

 まず、最初に孫子のライフルが火を吹く。
「……わたくし……」
 孫子から五メートルほど離れた場所に、突如男が出現し、水月にまともにスタン弾を食らい、体をくの字型にして、その場に蹲る。
「簡単な見切りとやらは、できましてよ……」
 孫子があえてそういったのは、「実例」をこうして見せてしまえば、いわずとも知れる情報だからである。
 どうやら一族も、国内を根城にしている者と海外に基盤をおく者とに分かれているようで、シルヴィ・姉崎経由で孫子の情報が回っていない、ということは不思議ではなかったが、昨夜対戦した酒見姉妹から孫子に関する情報を得ていない、というのは、不自然といえば不自然だ……と、孫子は思う。
 この方々……必要な情報も交換できないほど、関係が薄い……かりそめの同盟者なのだな……と、孫子は判断する。
 いわゆる、烏合の衆なら……いくら人数を揃えたところで、勝機は十分にある。
 何しろ、孫子と楓は……何度か対戦し、お互いの長所と短所を知り尽くした間柄だ。
 お互いの特性を、知り尽くしている。

 完全に気配を断った楓は、「敵」たちの動きが、あまりにもスローモーかつ、隙だらけに見えることに驚愕していた。
 一瞬、何かの罠かと思いかけたが……すぐに、楓の目が、荒神の隙のない動きに慣れ切しまっているだけだと、気づく。
『……こんなんじゃあ……』
 飛び道具を使うまでもないな……と、楓は判断する。
 そう判断を下す頃には、楓の脳裏には、もっとも効率的な動線がくっきりとイメージできている。楓は、頭の中の動線をたどるように、一人一人着実に、「敵」を無力化していった。楓の手の内を知り尽くし、若干の見切りができる今の孫子なら、楓の動き方は確実に予想できる筈なので、背後から撃たれることは警戒していない。
 むしろ、孫子の「近距離に敵に弱い」という短所をフォローすべく、楓は、距離の近い「敵」から、着実に急所をつき、当身を食らわせて、ノックアウトして行く。結果として、楓は、孫子を中心とした螺旋を描くような動線を選択することになった。
 少し離れた敵は、火器を使用する孫子に任せておけばいい……。

「……あれ? これで、終わり……ですか?」
「……不甲斐ない!」
 結果、一連の戦闘行為が終了するのに、五分と要しなかった。
 立っている「敵」が皆無となり、戦闘が終わったことを知った楓は、拍子抜けしたような声を出し、孫子は、「敵」の惰弱さをなじるような声を上げる。
 尾行者の半数が離脱した、といっても、それでも、十名以上の「敵」とたった二人で対峙していた筈だが……。
「お、お前ら……」
「……強すぎ……」
 地面に転がっている連中のうち、声を出せるほどの元気が残っていた何人かが、そんなうめき声をあげる。
 対する楓と孫子は、息も切らしていないし、それどころか、汗一つかいていない。
「あの……いっていいですか?
 皆様……あっけなさすぎですぅ……」
「敵の力量を見積もることもできない方々……という結果でしたわね……。
 行きましょう、楓。
 わたくしたちにとっては、時間の無駄でしたわ……」
 二人は、そんなことを言い捨てて、後も見ずに去って行く。
 楓は、投擲武器を使用していなかったし、孫子は、念のために準備していたライアットガンを使用していない。
 結果として、「近距離の敵は楓に任せ、離れた敵は孫子が仕留める」という分業体制が成立した戦いだった。
「……こっちにろくな人がいない、ということは……」
「本当の本命は、工場である可能性が……」
「今、徳川さんに連絡して、様子を……」
 二人は、何事も無かったように会話を続けながら、徳川の工場に向かう。

 いきなり、茅がやってきて、バケツに水を汲んできたり、その水を、問答無用で美術室に来た女生徒にかけたり、その女生徒を感電させたり、廊下で飯島舞花がプロレスごっこをはじめたり……などという椿事に対する感想を、香也はこの一言で表現した。
「……んー……」
「狩野君!」
 すかさず、樋口明日樹に、しかられる。
 香也の態度が、不真面目にみたたのだろう。
「で、でも……」
 香也は、気弱に抗弁する。
「茅ちゃんたちは……理由もなく、こんなことしないだろうし……。
 それに、あの子たち、こんなものを持って振り回していたわけだし……。
 対応を間違えれば、ぼくらのうちの誰かが、怪我していたりする可能性もあったわけで……」
 そういって、香也は、茅が二人から取り上げて机の上に並べた刃物や携帯電話を指差す。二人の身体検査をして、持ち物のほとんどを取り上げた茅は、今、飯島舞花や柏あんなとともに、モップを持って、水浸しにした床の後始末を行っていた。
 手裏剣などは楓が持っているのを見たことがあるが、ホルスターに収まったごつい二振りの山刀は、その中でもひときわ異彩を放っていた。姉の純は、そのホルスターをスカートの中に、ジャージ姿だった妹の粋は、腰の後ろに固定して、上着をかぶせて隠していた。
 香也にしても、今朝、一緒に朝ごはんを食べた、見覚えのある二人だったが……。
『……あの子たちも、転入してきたのかな?』
 などと、思っている。
 酒見姉妹について、香也は、その程度のことしか考えていない。
 基本的に香也は、細かいことを気にしない性格だった。
 あくまでも呑気な香也の態度を見て、樋口明日樹は、太いため息をついた。
「……いいわ。
 詳しい事情は、あの子たちから、後でじっくり聞くことにして……とりあえず、部活に戻りましょう……」
 茅から、香也たちは「いつもの通り、部活をしていてくれ」と再三、いわれている。
 香也たちは、茅たち周辺の事情についてはあくまで部外者であり、茅も、そのことを重々理解した上で、今回のように、累が及びそうな場合は、体を張って、せきとめようとしてくれているわけで……。
 なおかつ、当の香也が、こうして「気にしていない」のなら、今更樋口明日樹が、どうこういえる立場でも、ないのであった。
『……無力だな……』
 と、樋口明日樹は、自分自身を、そう評価する。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(111)

第六章 「血と技」(111)

「……ほれほれ、そこ、もっと足を広げて……」
「あの……先生……いい加減に……」
「……佐久間は、甘い!
 こいつら、校内で刀傷沙汰を起こすところたったんだぞ! ん!
 昔なら、切腹市中引き回し磔獄門の刑だっての……」
「……そんな昔に、学校はありません……」
 妙に周囲が騒がしくて、酒見純は目を覚ました。
 そして、自分の周囲を見渡し、ギョッとする。
 下着だけしか身につけていない姿で、どことも知れないベッドの上に、寝かされていた。
 ずぶ濡れになった制服は、気を失っている間に脱がされたらしい。
 すぐ隣、同じベッドに、純と同じようにあられもない格好をした粋が、寝かされていた。とはいえ、粋の方は、下着以外にも、上半身だけ、体操服の上を着ていて、しかもそれが、腹のかなり上まで捲り上がっている。
 半端に半裸な姿は、ヘタをすると全裸よりも扇情的に見えた。
 ここに至って……純は、何故、自分たちが、あられもない格好をして、こんなところで寝ているのか……唐突に、理解した。
 自分たちを倒した、加納茅が……わざわざここまで、運んできたのだろう。
「……粋っ! 粋っ!」
 慌てて、純は、未だに目を閉じている妹の肩を揺さぶりはじめる。
 妹を起こそうとしながら、純は忙しく視線を巡らせて、周囲を観察する。
 カーテンで囲まれた、一角……白衣姿の、自分たちよりも背が小さい女性が、目をゼリービーンズ形にしてニタニタと笑っている。その隣には、困った顔をしている、この学校の制服を着た女生徒……。
「……起きて! 粋! 起きてったら!」
 状況からして……ここは、学校の保健室……なのだろう……と、純は、推測した。
「……うひひひひっ……」
 と、白衣を着た小柄な女性が、耳障りな笑い声をあげる。おそらくは、この学校の養護教諭……なのだろうが、その割りには、容姿が随分と幼い。
「……ねーちゃん、よう……」
 その白衣姿の、小さな女性は、出来る限り低い声を出してドスを利かしているつもりのようだったが……幼い顔付きと、地声自体が甲高いので、まるで板についていない。
「……ぐっすりとおねんねしている間に、あんたら二人のあーんな所やこーんな所を、ばっちりと撮影したから……」
 ほれほれ、と、その白衣女性は、手にしたデジタルカメラを振った。
 ……あっ……。
 と、酒見純は思った。
 自分たちが、半端に露出度の高い格好をして寝ていたのは……そういう訳だったのか……。
 慌てて、純は、ベッドの上の毛布で自分体を包み、きっとして、白衣の女性……三島百合香を睨む。
「……何が……目的ですか?」
 低い声で、そう尋ねた。
「……写真のデータは、もう別の場所にコピーしているから……こいつをネット上にばら蒔かれ、世界中のチーズケーキ好きな変態どものズリネタにされたくなかったら……」
「……こらっ! 先生!」
 もう一人、そばにいた女性が、三島百合香の頭をこぶしで、こん、と軽く叩く。
「それでは、まるっきり悪役ですってば……。
 ……大大丈夫よ。
 今後、今日やったような真似をしなければ、今、先生がいったようなことは、絶対にさせないから……」
 と、いうことは……今後、酒見姉妹が、何か悪さをしでかせば……姉妹の恥ずかしい写真が、ネット上に、無制限に解き放たれる……ということで……。
 その女生徒も、一見して白衣女性の言動を抑制しているようで、実質上は、姉妹を脅迫しているのと同じだった。
「……本当、困るのよねー……。
 今日みたいに、校内で刃物を振り回すような事件が、今後も続くとなると……」
 穏やかな口調で、世間話でもするかのようにそう続ける女生徒を、酒見純は、冷静に観察する。
 ネクタイの色から判断するに、自分たちと同じ、三年生。ということは、自分達と同学年、ということになる。
 そして……その隣にいる、白衣の女性よりは、よほど信頼に値する人間に、見えた……。
「……んんっ……。
 って、何! この格好!
 お姉様! これ、一体、何がどうなって……」
 その時になって、うめき声を上げながら、酒見粋が、起きあがった。粋は、自分のあられもない格好と、それに毛布を自分の体に巻き付け、蓑虫と化してベッドに座り込んでいる姉に気づき、狼狽した声をあげる。
「……負けたの。わたしたち……」
 答える酒見純の声は、疲労を含んでいた。
「それも、完敗……。
 今後、この町で……わたしたちは、かなり行動を制限されることになりそう……」
 これが事実上、酒見姉妹の敗北宣言となった。
「……これ、公開できないのは、惜しいなあ……。
 双子の制服レズ写真集、かなりきれいに撮れていたのに……」
 三島百合香が場の空気を読まないすっとんきょうな発言に、佐久間沙織は後頭部をしたたかに叩くことで答えた。

 仁木田直人、敷島丁児、駿河早瀬、刀根畝傍、丸居遠野、睦美左近……。
 荒野たちの前に現れたのは、流入者リストの中でも生え抜きに癖が強く、危険で、扱いにくい連中ばかりだ。性格も、ひねくれていたり掴み所がなかったり、と多種多様に「取り扱い注意」なわけだが、真に恐ろしいのは、その能力……。
 先天的な資質に加え、独自に修練を積み、余人の追随を許さない域に達しており……。
『……総合的なパラメータこそ低いものの、代わりに、一芸に秀でていたり、突出した技を持ったやつらばかり、だ……』
 こいつら……が、ここに寄越されたのは、一族首脳の、荒野への嫌がらせではないのか……と、荒野は思っている。
 大方……癖が強すぎて、他ではもてあまされ……こちらに、送られてきたのだろう。
「どうも……先輩方」
 荒野は、内心の動揺を押し隠し、丁寧に一礼をする。
 無用に刺激していい、相手ではない。
「おれでも、こいつらでも……ご所望の相手と、この場でお相手しますが……」
 しかし、かといって丁重に扱いすぎて、増長させるのも考えものだ……。
 荒野の経験からいっても、この手の、自分の術に自信を持っている手合いは……最初に力でねじ伏せれば、後はそれなりにおとなしくなる筈だった。
 逆にいうと、いくら丁重にもてなしても、こちらの実力を認めなければ、徹頭徹尾、舐めてかかられる……。
『ま……今の、テンやガクがやりあうには……』
 ちょうどいい相手かな、とも、荒野は思う。
 二人には、そろそろ……本格的な敗北を、学んで貰いたかった。




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彼女はくノ一! 第五話 (194)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(194)

 楓と孫子が軽く睨み合っていると……楓の携帯が、呼び出し音を鳴らした。
「……茅様?」
 液晶を確認して、楓は首を捻る。
 工場に向かった荒野から……ということなら、まだわかるのだが、学校にいる茅から、このタイミングで……連絡をしてくるような事が、楓には思いつかなかった。
「……はい。楓、ですけど……」
 不審に思いながら、楓は携帯を手に取り、通話を開始する。
「……えっ!
 そんな……香也様が……ええ。ええ。無事……なら、いいんですけど……。
 あの双子の方が、首謀者ですか?」
 楓の言葉から不穏なものを嗅ぎ取った孫子は、軽く眉を顰めながら自分の携帯を取り出し、徳川の携帯にかける。
 こうして、楓と孫子は、今日の一件の全体像を、初めて把握した。
 大まかなシナリオを書いたの、昨夜、狩野家に一泊した双子。どうやら、この土地に流入してきた一族の者に片っ端から声をかけて、お膳立てを整えたらしい。
 シナリオ、というのは、荒野、楓、孫子を、学校外の離れた場所におびき出し、その隙に香也の身柄を押さえ、人質にする……というものだった。
 しかし双子は、そうした動きを予測していた茅に、逆に身柄を拘束された……。
「……あの方々……」
 徳川経由の情報で、そうした事実を把握した孫子は、こう所感を述べた。
「やられ役が板についているというか……負け癖が、つきつつあるのでは、ありませんこと……」
「そ、それよりも……香也様が、人質になるところだったって……」
 茅経由で同じような情報を聞いている楓は、孫子ほどは落ち着いてはいなかった。
「……あ。大丈夫ですか? 普通に部活を続けている……え? 双子の心配をしてた、ですか? 濡れたままでは、風邪を引くって……。
 茅様! あの子たちに何しましたですか?」
「……あの双子は……一時は、二人とも意識を失って、保健室に運び込まれたそうだけど……すぐに息を吹き返したそうよ……。
 なんでも、どこからか学校の制服を調達して、潜入してたとか……」
「……はぁ……。
 確かに、服さえなんとかすれば、生徒の中に紛れ込んでも違和感のない人たちでしたが……」
 楓と孫子は、携帯経由で得た情報が正確なものかどうか、そんな雑談を交わしながら、確認しあっている。
 十分ほどを費やして、現状を理解した楓と孫子は、一旦通話を切ってお互いの目を見つめ合い、期せずして同時にため息をついた。
「あの二人……後で、おしおきなのです……」
「それには、わたくしも、賛同も参加もいたしますけど……今は……」
「……はい。まだ、包囲網を解く気のない方々が、若干……」
「……どの世界にも、いるものですわね……。
 実際に手合わせをしてみなければ、身のほどを弁えられない方々がというのは……」
 楓と孫子……は、二人を取り巻いて監視する気配が、半減したことを、感じていた。
 しかし、全員が、撤退した訳ではない……。
 それどころか……残った者は、刺すような殺気さえ、放っている。
 二人とも、「その他大勢」が脱落して、少数精鋭が残った……という感触を、得ていた。
「……不本意、ですが……今回は、人数が多い、ということで……」
「ええ……。
 本当に、不本意、ですけど……今回はばかりは、あなたと組まなくてはならないようですわ……」
「……人数も……ですけど……あえて残るだけあって……手練ればかりなのです……」
「加納のいう、レッドというやつらかしら……。
 相手にして不足がない、ということは、まことに結構ですわ……」
「……とりあえず……」
「ええ。表に、出ましょう……」
 二人はそういって、席を立った。
 古来より、喧嘩は……表に出て、やるもの……なのだった。

 二人は混雑しているショッピング・センターを離れ、人気がない工場や倉庫が並ぶ一角へと歩いて行った。
 もともと、このショッピング・センターは、ここいら一帯に大型の生産拠点を持っていた某大手企業が、生産拠点を海外に移したことでぽっかりとゴーストタウン化した際に、土地の値段が急落し、それに当て込んで敷地を確保し、設立されたものだ。
 だから、意外と、徳川の工場から、近かったりする。
 孫子と楓が、灰色の、人気のない歩道を、徳川の工場の方に歩いて行くと、どこからともなく、声がした。
「……女の子だけで、こんな寂しいところをうろつくなんて……」
 また、別の声がした。
「……物騒だよ。
 ほら、日が、暮れかけているし……」
 さらにまた、別の声が続く。
「日が暮れると……暗くなる。
 暗くなれば、おれらの時間だぁ……」
「……そんな虚仮威しが通用する相手だと、思っているのですか?」
 良く通る、怜悧な声で、孫子が抗弁する。
「あの……無駄なことは……しない方が、いいと思いますけど……」
 楓が、妙におどおどした口調でいった。その割りには、声に恐怖の感情は籠もっていない。
「……相手を間違っているのでは、なくて?」
 孫子は、歩みを止めずに、続ける。
「ここにいるのは、才賀の縁者。それに、あなたがたの言う、最強の弟子とやらよ……」
「あの……テンちゃんやガクちゃん……それに、加納様に、挑もうとするのは、まだしも分かるんですが……」
 楓が、ここぞとばかりに、狼狽した声をだす。
「わたしたちと戦ったとしても……あまり、自慢にならないと思いますけど……」
 孫子と楓の諌めは、失笑と哄笑によって応えられた。
 建物ばかりが大きく、人気がまるでない路地に、「……ひゃ、ひゃ、ひゃ……」とかいう、人数も定かでない笑い声が、響く。
「……分かってねぇのは、あんた方だ、お嬢ちゃん……」
「……たった一人で酒見姉妹をぶちのめした才賀衆の小娘、それに、最強の弟子……」
「……どちらにしよ……倒せば、名が上がるって寸法だぁ……」
「しかも……あのガキどもや加納と直接やり合うよりは、よぽどたやすい……」
「……そう……」
 孫子が、すぅ、っと、目を細めた。
「聞いたわね、楓……。
 わたくしたち……加納や、あの子たちより……よっぽど、与し易いそうよ……」
「……はい。無知とは、恐ろしいのです。
 もはや同情の余地は、ないかと……」
 楓が、孫子の言葉に、大仰に、頷く。
「おしおき、なのです……」
 二人は、ぴたりと立ちどまり、背中合わせになった。
「楓……わたくしが背中を任せるということを、光栄に思いなさい……」
 そういう孫子は、いつの間にかゴルフバッグからライフルとライアットガンを取り出し、片手に一丁ずつ持っていた。
「……どちらが多く倒すのか、競争なのです……」
 楓は、孫子の言葉に頷くと……途端に、姿を消した。






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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(110)

第六章 「血と技」(110)

 荒野が工場の奥に走ろうとした時……。
 ポケットの中の携帯が、振動した。
 慌てて、液晶を確認する。茅からのメール、だった。
双子の策士は、策に溺れたの。
現在は、捕虜。
学校は、心配無用。
             (^ ^)v

『見抜いたのは、ともかく……』
 その文面を見た時、荒野は安堵を通り越して、ちょっとした脱力感を自覚した。
 双子、とは、酒見姉妹のことだろう。昨日のいきさつがいきさつだから、流入組にうまく話しを持ちかけて、リベンジ企んだとしても、別に不思議ではない。
 荒野が不思議に思ったのは……。
『……どうやって、あの二人を取り押さえたんだろう?』
 あの二人は、能力こそ一族の中では平均値程度だが、血を見ると見境がなくなる凶状持ちのサディストな筈で……茅一人でどうにかするのは難しいように思えたが……。
 荒野は疑問に思ったが、とりあえず、ここでは、その疑問を追求は、後回しにすることにした。
 後で詳しい事情を聞けば、いいことだ。
「……おーい!」
 荒野は、大声を上げながら、工場の奥に向かって駆け出す。
 荒野がこの場に駆けつけた、という事実。
 それに加え、双子が失敗した、という事実を突き付ければ、今、テンとガクと争っている連中の大半は、戦意を喪失する筈だった。
「……酒見姉妹は、学校で、取り押さえられたぞ!」

「……うっ……ぐっ……ぐっ……」
 飯島舞花の危うく押し潰されるところだった酒見粋は、うめき声を上げながら、なんとか持ちこたえた。
「……おお……」
 腰を大きく曲げた酒見粋に持ち上げられた格好の舞花が、粋の頭上で感心したような声を上げる。
「凄いな……ちっこいのに、力持ちだ……」
 揶揄しているのではなく、純粋に、感心している口調だった。
「飯島! そいつ、危険!
 油断しないで!」
 すかさず、茅が鋭い口調で叱責する。
「……ああ。そっか……。
 学校であんな大きな刃物振り回してたんだよな、この子……」
 舞花は、どこかのんびりとした口調で茅に応じ、素早い動作で体制を変えた。
 もちろん、いくら素早い、といっても、一族に属する粋が対応できない速度ではなかったのだが、舞花の動きが、粋が知るどんな武術体系とも異なっていたので、粋は戸惑い、反応が遅れた。
 舞花は、一度、粋から体を離した。
『……え?』
 粋は、何故ここで、今にも押し潰されそうだった粋の体から、舞花が離れるのか、理解できない。
 どう考えても……ここで、舞花が体を離すことに、メリットはないのだ。
 粋が疑問に感じた、その一瞬が命取りとなった。
 一度体を離した舞花は、次の瞬間には、粋の背後に周り……背中から、粋の腰に腕を回した。
「……本当なら、素人にこんな危険な技は使わないんだけどな……」
 舞花が、粋の体を軽々と持ち上げながら、呟く。
「相手が素人でなければ、やっちゃっていいか……」
 呟きながら、舞花は、粋の体を抱えたまま、大きく背をそらし、ブリッジに似た体制になって、粋の肩から後頭部を、廊下の床に叩きつける。
 粋と舞花の体重に加え、落下の衝撃すべてを後頭部と肩で受け止めた粋の視界に火花が散り、意識が、一瞬、飛ぶ。
「飯島! そのまま、身動きが出来ないようにして!」
「……え! ああ……いいけど……」
 相変わらず、厳しい口調で指示をする茅に、舞花が、のんびりと答えているのを、粋は、霞かけた意識の中で聞いた。
「この子……もう、そうとう、参っているみたいだけど……」
 舞花は、そんなことをぶつくさ言いながらも、ぐったりとして力が入っていない粋の体に手足をかけ、あっと言う間に複雑な間接技を組み上げる。
 コブラツイスト、だった。
「……これで、滅多なことでは、動けないけど……。
 この子、そんなに悪いこと、しようとしたの? 茅ちゃん?」
 ……やる前に、聞けよ……と、ぼんやとと霞んだ思考の中で、粋は思った。体中の関節が、悲鳴を上げているような気分だった。こうなると、頭を打って意識がはっきりしてないのが、かえって幸いだった。
「この二人、荒野たちを外におびきだして、絵描きを人質に取ろうとしたの……」
 薄れかかった意識の中で、茅の返答をぼんやりと聞いた。
 もちろん、これ以上抵抗する意欲は、粋の中で完全に消えうせている。
『……ああ……』
 粋は薄目を開けて、美術室内の床に、全身濡れ鼠で転がされている姉の姿を認めた。
 濡れた制服が体にぴったりとはりついて、どことなくなまめかしい風情だった。
 校内で一緒に歩いている所を目撃されると目立つから、あえて時間差をつけて行動していたのだが……どういう方法を使ったのか知らないが、姉の純は、その、わずかな時間に、素人同然の茅に、完全に「してやられた」らしい……。
『……お姉様もやられたのなら……』
 自分が失敗しても、仕方ながないな……と、粋は思った。
 そして、がっくりと頭を垂れる。
 その瞬間……素人の、他愛もないプロレス技にしてやられたことを……粋は、認めた。
 敗北を認めたことで、かえって深い安堵を覚えた粋は……潔く、意識を失うことが出来た。

「……おーい!
 ……酒見姉妹は、学校で、取り押さえられたぞ!」
 遠くから、荒野の声が聞こえた。
「……それでもまだやる、ってやつ以外は、どいていろ!」
「……っち! 使えなねーな、あの双子……」
「あの声……加納本家の……」
「人質が取れないのなら、勝ち目はねーな……」
 荒野の声に反応して、テンとガクを取り囲んでいた者の大半が、そんなことをぶつくさ言いながら、ぞろぞろと脱落していった。
「……え? あれ?」
 ガクが、戸惑った様子で周囲を見渡す。
「……何? 終わり……なの?
 これからが、楽しいのに……ほ、ほら、この鎖だって、はい! 外れた!」
 ガクがもぞもぞと身じろぎをしたかと思うと、ガクの上半身に巻き付いていた鎖が、じゃらじゃらと音を立てて足元に落下した。
「……ガク……無駄だよ……」
 ガクのそばに寄ってきたテンが、ゆっくりと首を振った。
「彼らには……もう、ボクたちを足止めしておく理由が、ないんだ……」
「……そういうことだな……」
 いつの間にかそばに来ていた荒野が、テンの言葉に頷く。
「どうやら、酒見の双子が仕掛けて来たてたらしい。
 学校を手薄にして、その隙に、潜入と撹乱、できれば制圧をしようというのが目的だったみたいだが……茅が、二人とも取り押さえたそうだ……」
 荒野は、酒見姉妹の本当の狙いは、香也の身柄を押さえて人質にすることだったのだろう……とは、見当をつけていたが、テンとガクの前では、香也の名前を出さなかった。
 香也の身に危険が及ぶところだった……ということを知れば、この二人が激昂することは想像に難くなく……そうなると、この場の収拾をつけることが困難になる。
 二人がやり過ぎて、買わなくともいい筈の恨みを買ってしまう……というシナリオを想定していた荒野にとって、現在の状況は、かなり「マシ」な収まり方といえた。
「……駄目です!
 双子の携帯、どっちも別人が出ます。変なしゃべり方で、これ以上の抵抗は無駄なの、とかいってます!」
 そうこうするうちにも、荒野の言葉の裏を取ろうとした者もいたらしく、そんな声も聞こえ初めていた。
「……さてっと……楓や才賀にも……」
 連絡をするかな……っと、荒野が自分の携帯に手をかけた時……。
「……ちょっと待ったぁ!」
「……酒見の間抜けどもが、ヘタ打っても、おれたちには関係ないしなぁ……」
「こちとら、都合がいいから、やつらの話しに乗ったまでで……」
「こんな面白いこと、滅多にないんだから……止める、なんて野暮はしないよね……加納!」
 ゆらゆらと、何人かの男女が、荒野たちの前に進み出てくる。
「……へぇ……」
 荒野は、不敵に、笑った。
「よりにもよって……レッド中のレッドが、揃い踏みかぁ……。
 で……この三人の中の、誰とやりたいんだい?
 それとも、団体戦がご所望かい?」





[つづく]
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彼女はくノ一! 第五話 (193)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(193)

『才賀さん……途中から、むっとしていたような……』
 孫子との通話を終えた楓は、しげしげと自分の手の中の携帯を見つめた。
 楓が途中からむっとしたのは、心配して楓が駆けつけようとしているこの時に、思いのほか孫子がのんびりとしていたからだったわけだが……楓にしてみれば……孫子が何故、途中から怒ったような声を出すのか……まるで、わからない。
 楓は釈然としなかったが、だからといって、いつまでもその場で突っ立っているわけにもいかず、あわてて狩野家へと向かった。

 まず最初に、タクシーで乗りつけた徳川篤朗が保育園で拾ってきた浅黄を伴って工場に到着した。それから、放送部員のバス組、自転車組、徒歩組などが時間差を置いて次々と到着する。
 放送部では、近隣のゴミ放置区域の調査がこの時点では一区切りしていたため、学校内には校内放送を担当するごく少数だけが残り、ほとんどの部員がこちらの工場に流れてきている。撮影や編集作業は、真剣にやるとすると思いの他、人手が必要だと判明したから、でもあるが、何より、ここに用意されたカメラもコンピュータも、学校の備品とは比較にならないほど高性能だったの、それをいじる機会を得たくて、率先してやってきている。
 テンとガクは、最初についた徳川に一通りの事情を説明している所に、どんどん人が増えてくる形になり、途中から話を聞いていた放送部員たちに向かって、何度か「後でまた最初から説明するから、今は質問をしないで」と注意しなければならなかった。

 バスを利用して、比較的最初の方に到着した玉木が、早速、工場内に多数設置したカメラを遠隔操作するための人員を適当に選抜し、その他に、手持ちのカメラ要員として、一族の末席に連なる佐藤、田中、高橋の三名に、改めて協力を要請した。
 おととい、テンと一戦交え、あっさりと返り討ちにあった後、四人とは友好的な雰囲気で歓談し、その場で協力を約束してもらっている。
 望遠で撮影した絵ばかりでは迫力に欠けるが、だからといって実際に戦闘行為が行われている現場の近くに、普通の放送部員を貼り付けるの、危険きまわりない……とかいう話をした時、四人の方から「時間がある時なら」という条件つきで、協力を申し出てきたのであった。
 もちろん、玉木は、四人に向かって、その場でカメラの操作方法を、一通りレクチャーしてみせた。一度実演してみただけでどの程度カメラを使いこなせるのか……といったら、これはかなり心もとないわけだが、それをいったら自分たち放送部員だって、素人の集まりである。
 玉木は自分を芸術家とは自認していなかったので、「ベスト」を求めることはあっても、大概の時は「ベター」で満足することを知っていた。
 その場その場で最善を尽くせば、後は別にいいや……という考え方である。
 そのくらい柔軟でなければ、予算的にも人材的にも制約がありすぎる中で、今まで自由すぎるくらい自由に活動して来れなかったし……それに、多少、映像が多少ブレたり見難い構図になったとしても、それはそれで臨場感は出る……か……という気持ちも、あった。

 玉木がテキパキと周囲の者に指示を飛ばしはじめると、テンとガクは装備一式を身につけるために、奥の事務所に引っ込み、徳川は荒野の携帯を呼び出して、一通り、こちらの状況を伝えた。
 驚いたことに、荒野の話しによると、徒歩で工場に向かっていた孫子も、多人数に囲まれている……ということだった。
 孫子は、そのまま工場に向かうのを取りやめ、一時、人目のある場所に退避している……という。
 電話の向こうで荒野は、荒野がこれから工場に駆けつけてくること、孫子の所には、孫子の装備を持たせて、楓を合流させること……などを早口で徳川に伝え、通話を切る。
 ヘルメットとプロテクタを身につけたテンとガクが事務所から出てきて、徳川の横をすり抜けて、出口の方へと向かった。
 徳川は、他の放送部員たちと同じく、比較的安全な事務所内へと退避する。

「……ざっと……二十人以上、いますね……」
 孫子に待ち合わせ場所として指定されたのは、ショッピング・センター内部にテナントとして入っている、上品な内装の洋菓子屋だった。中にいるのはほとんどが女性客で、紅茶一杯が千円近くする。孫子の奢りだというから遠慮なくいただいたが、楓の経済感覚に照らし合わせれば高価すぎた。それに、それなりに高価な茶葉をしようしているのだろうが、茅がいれてくれる紅茶の方が、おいしい気がする……。
 メニューしかみていないが、ケーキの値段も、マンドゴドラの相場の二倍から三倍の値段がついていた。
 こういう所は、必ずしも値段とおいしさが比例するものではないらしい……楓は、口にした紅茶の味からそう類推し、孫子が勧めるのにかかわらず、ケーキの方は辞退した。
「いくら人数がいても、この人ごみの中にいる限り、手は出せませんわ……」
 硬くなっている楓とは対照的に、孫子のほうはリラックスした様子で紅茶のカップを傾けている。孫子の横の椅子には、楓が持ってきた孫子のゴルフバッグが立てかけてあった。孫子は制服のままで、楓は、孫子の荷物を取りに帰ったついでに、動きやすいパンツ姿に着替えている。
 周囲の客たちは……楓と孫子がその気になれば、とんでもない破壊力を持つなんて、想像しないだろうな……とか、楓は思った。
「……外野の方々には好きに気張らせておいて、わたくしたちは、ゆっくりとしていましょう……」
 孫子は、悠然と、そういう。
 楓には……今この瞬間にも荒野やテン、ガクたちが苦境に陥っているのかも知れないというのに……そうしてリラックスした様子を見せる孫子の神経が、理解できないでいた。
「……何?
 あの方々のことを、心配していらっしゃるの?」
 楓の不満そうな表情を読んだのか、孫子も、軽く眉間に皺を寄せる。
 孫子は軽くため息をついてから、楓に解説した。
「……いい?
 万が一、本当に、誰かが苦戦したり、窮地に立っていたりしたら……絶対、わたくしかあなた、どちらかに、連絡が来る筈です」
 孫子は、ここで少し間を置いた。
「あの方々が……そう簡単に、いいようにやられるもんですか……。
 それに、ですわね……。
 わたくしたちがここにいる、ということで……敵も、割ける人員のうち、二十名以上を、ここに無駄にはりつけているわけです。
 例えば、わたくしたちが、徳川の工場に駆けつけたとしたら……わたしたちの総戦力も二人分、増大しますが……敵にも、二十人以上の増援を送ることになります……」
 また、孫子は少し間を置いた。
 どうやら、そうして、楓に考える時間を与えているらしい。
「……わたくしたちが、ここでこうして寛いでいるだけで、敵の兵力を無駄に分散し、引き付けておけるのなら……それはそれで、大変に効率が良いのではなくて?
 わたくしたちが分断されることよりも、わたくしたちがあえて合流しないことで、敵を分断することができる、という事実を、わたくしは重視しています……。
 楓。
 あなたは……どうも、目の前のことしか見ようとしない性分のようですね……。
 もっと大局をみる目を養うことも、時には必要なのではなくて?」





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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(109)

第六章 「血と技」(109)

 樋口明日樹はテキパキと作業を続ける茅を見続けた。「気にしないで」といわれた所で、やはり気になる。
 明日樹が見守る中、茅は、バケツに水を汲んできて床や机の上に置いたり、持参のポーチの中から取り出した道具をいそいそと仕掛けたり、途中でコードが切れたコンセントを差し込んだり、と……なかなかに忙しい。
「……それが……保険……なの?」
「そう。
 保険なの」
 呆然と問いかける明日樹に、茅は答えた。
 そして目をつむり、何かを探すような顔つきになる。
「もう、すぐそこ……に、来ている……扉の、すぐ向こう……」
 小さな声で言いながら、茅は、机の上に置いた、水の入ったバケツに、手を伸ばした。
「……三、二、一……」
 やはり小声で、カウントダウンを開始する茅。
 何事がはじまるのか、と明日樹が見守っていると、茅が「……ゼロ」といったのと同時に、入り口の扉ががらりと開く。
 小柄な、女生徒がたっていた。明日樹の知らない顔だ。中の様子をみて、入り口に立った女生徒の目が、大きく見開かれる。
 茅は、手にしたバケツの水をその女生徒に向かってぶっかけ、同時に、床に置いたバケツも、足で蹴飛ばして転がす。
 その女生徒は、腕を体の前に交差してが、体の正面から、もろに水をかぶった。おまけに、床下も、濡れている。
 茅は、コンセントを差し込んだまま、途中で被覆がはがれ、むき出しになった銅線を、つま先でけって床にたまった水につける。
「……あっ!」
 この時になって、初めて、明日樹は声を上げた。
 明日樹が予想した通り、その女生徒の体が、ビクン、と、大きく跳ね、その後、細かく体を揺さぶっていた。痙攣に近い動きだ。
 明らかに……感電していた。
 扉が開いてから、ほんの数秒、というところだろう。茅の動きは滑らかで、あらかじめなにが起こるのか、すべて知った上で、何回も予行練習を重ねていたかのように、滞りがなかった。
「……あっ……かっ……かっ……」
 あまりにのことに、思考と体が固まっていた明日樹が、ようやくそう叫ぶ。
「……茅ちゃん! なんてことを!」
 明日樹の目には……茅が、用意周到に準備をして、茅がその女生徒を虐待している……ようにしか、見えない。
 その時になって、ようやく香也が顔を上げて、外界の様子を眺めた。
「……んー……」
 香也は、しばらく目の前の様子をしげしげと観察した後、水をかけられ、感電している女生徒をしばらくみて、ポツリと呟いた。
「……あれ? この子……。
 今朝、うちでご飯を食べていた、お客さんじゃあ……」
「そうなの」
 茅が、答える。
「絵描きの家に一泊し、中の様子を観察した二人は……この絵描きが、一番の弱点だと気づき……他のみんなが外に出るように仕向け、その隙に人質にとろうとしたの……」
 そういいつつ、茅は、ゴム手袋をはめた手で、ポーチからスタンガンを取り出し、駄目押しに水溜りに押し付ける。
 びしょ濡れの女の子が、びくん、と、もう一度体を大きくはねあげ、その場にがくりとひざをつけた。
「……え? あっ……あっ……」
 明日樹は、当然のことながら、目前で繰り広げられている状況が、理解できていない。目を白黒させるばかりである。
「先手必勝で、身動きを封じなければ……こちらが、危なかったの」
 茅は、明日樹に向かって、噛んで含めるように、諭す。
 茅は、そろそろと慎重に蹲った女の子に近づき、すばやく、スタンガンを直接、女の子の腕に押し付ける。
 ビクン、ビクン、と何度か痙攣し、その女の子は、水浸しの床の上に、どさりとうつぶせになり、動かなくなった。
「……流石に頑丈なの。普通の人なら、最初ので倒れてもおかしくないのに……」
 そんなことをいいながら、茅は、うつぶせに倒れた女の子の体をずるずると引きずって、完全に、美術室内に入れる。
 そして、その子のスカートを大きく捲り上げ、
「……ほら……普通の子は、こんなものを、持っていない……」
 と、スカートの中身を、明日樹に示す。
 明日樹は、椅子に座ったまま立とうともしない香也の目線上にさりげなく移動してその子の体を隠し、茅が指差した箇所をみる。
 かなり大きな刃物……らしきものが、ホルスターに納まって、その子の太ももに固定されている。その子は、身長百四十センチ以下の小さい子で、しかもかなり痩せて見えたが……その細い太ももとは不釣合いに、そのホルスターごつくて大きかった。
 ホルスターの大きさから推測するのなら、刃渡りは軽く四十センチオーバー、それに、分厚い……。
「それに……ほら……こんなに……」
 茅は、その子の制服のそこここをごそごそとまさぐって、ダース単位で数えたほうがいい位の、小型の刃物を次々と取り出し、床に並べてみせる。
「……わ、わかった……。
 また、加納君関係の、人ってわけで……」
 樋口明日樹は、自分の胸を押さえながら、掠れた声で、ようやくそういう。
 先ほどから、悲鳴を上げたい衝動を、必死に押さえ込んでいる。
「……そうなの……」
 茅は、開いたままの入り口を睨みながら、一旦は床に並べた手裏剣類を、手探りで持ち直す。
「それに……二人目が……来た!」
 いうや否や、茅は、廊下に姿を現した、ジャージ姿の女生徒に、次々と手裏剣を投げつけはじめる。
 明日樹は、「わっ」とか、「ひゃっ」とか、小さな悲鳴を上げながら、その場に尻餅をつく。
 刃渡り半メートルに届こうかというごつい刃物を振り回して、茅が次々に投げつける手裏剣を弾いていたジャージ姿の女子は、美術室の中の様子をみて、
「……お姉様!」
 と叫び、目を丸くした。
 その時、
「……チェストォッ!」
 不意に横合いから、ジャージ女子の手元を狙って、見事な正拳突きを繰り出した、制服姿の女子がいた。柏あんなだ。柏あんなは、幼少時から、近所の空手道場に通っていた。
 当然、ジャージ女子の手元から、ごつい刃物が飛んで行く。
 茅が、ぴたりと手裏剣を投じる手を、休める。
 ジャージ姿の女子は、呆然と何も無くなった自分の手元を見つめた。
 そして……ふと、あたりが暗くなった気がして、ふと顔を上げる。
 そこに、信じられないものをみた。
 身長百八十センチを越える巨体が、自分の頭上から、降ってくる……。
 あまりの非現実的な光景に、ジャージの女子……酒見粋は、逃げるのも忘れて硬直し……結果、そのまま、飯島舞花のフライング・ボディ・プレスをまともに受け止め、下敷きとなった。





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彼女はくノ一! 第五話 (192)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(192)

 テンとガクが徳川の工場に到着した時、時間が早かったせいもあって、徳川とか玉木とか放送部の人たちは、まだ到着していなかった。
「あ。ども」
 代わりに、テンとガクを出迎えたのは、田中君、佐藤君、高橋君の三名だった。鈴木君は大学に講義があるとかで、今日は来ていない。
 この三名は、「どうせ暇でしょ」ということで、すっかり放送部と孫子、テン、ガクたち共用の雑用係と化していて、本人たちも、別段、それを嫌がる風でもない。
 今日も、撮影の手伝い、ということで、喜々として呼び出しに応じている。
 昨日、孫子と一緒に、商店街へ挨拶まわりにいった後、こっちの工場にも寄って、放送部員たちにビデオカメラの扱いをレクチャーされた、ということだった。
 テンやガクの立ち回りを、近場から撮影するとなると、一般人のカメラマンでは動きに追いつけないし、それ以前に危険すぎる。また、田中君たちにとっても、自分たちの能力が人の役に立てることを喜んでいる風でもあった。
「……今、二十名くらいの、多分、一族の人たちが気配を隠さないで、ボクたちの周りをこれ見よがしに付きまとってたんだけど……」
 三人の顔を見るなり、挨拶も抜きにして、テンが、一気にまくしたてる。
「……そういうことする理由って……何か、思いつく?」
 三人は顔を見合わせた。
「それ……気づかれないように尾行してた訳ではないんですよね?」
 おずおずと、田中君が問い返した。
「うん。
 どちらかというと、ボクたちに気づいて欲しいみたいだった」
 テンが頷く。
「おにいさんたちみたいに、挑戦してくるのなら……なんらかの形で接触してくると思うんだけど……それも、ないし……」
 ガクも、首を捻った。
「……挑戦でもない、尾行でもない……。
 とすると……」
 佐藤君も、考え考え、自分の推測を口にする。
「……牽制、かなぁ……。
 二十名くらいのチームってことは……これだけの人数、動員できるんだぞって脅し半分の……」
「……脅し半分、にするくらいだったら……直接、接触してくるんじゃないか?」
 田中君が、それに反駁する。
「だって、牽制……っていたら、抑止力ってことだろ?
 実効的な戦力を持いるぞ、ってことをアピールできなかたら……牽制になんないじゃん……」
「……お前ら……そいつらを、みて……」
 高橋君が、テンとガクに尋ねた。
「やばいな、とか、危機感とか……そういうもん、感じた?」
「ううん」
「全然」
 テンとガクは、即座に首を横に振る。
「……だって、相手がおにいさんたちクラスだったら、二十人いてもそんなに変わらないよ……」
「むしろ、あの中に、少しくらい強い人、混じってないかなぁって、わくわくする……」
「……ほら。こういうやつらだ。
 脅せばびくつく、どころか、戦意を高揚させるような相手に……牽制、はないだろ……」
 高橋君は、肩をすくめた。
「火に油を、注ぎこむようなもんだよ……」
「……それとも……二人のこういう性格が、正しく伝わっていないのか……」
 佐藤君が、腕を組んで考え込む。
「それは……無いんじゃないか?」
 田中君が、佐藤君の仮説を一蹴する。
「こっちの情報、かなり早くから、リークされていたし……だって、おれたちに伝わってくるくらいだぜ? あれだけのチーム組めるほど影響力のあるやつらが、知らない筈はないだろうし……」
 暗に、「自分たちは、一族の中ではまったく影響力を持たない下っ端だ」と認めているような発言だったが、特に鬱屈した様子でもなかった。
 彼らは淡々と、自分たちの地位を、「現実」として受け止めているらしい。
「……じゃあさ、じゃあさ……」
 ガクが、妙に嬉しそうな顔をした。
「あの人たち、逆に挑発して……全員、ぶちのめしちゃっても、いいかな?
 全員の戦意を喪失させてしまえば、背後にいる人も、なにんらかの動きをするよね?」
「はやるな、ガク……」
 テンが、冷静にいなす。
「怪我が治っていろいろ試したいのは、わかるけど……せめて、玉木さんたちが揃ってからにしようよ」
 止めるのではなく、「あせって撮影の機会をふいにするのがもったいない」ということ、らしかった。
「あの……あの人たち、締め上げても、別に構わないよね?」
 最後の確認は、ガク以外の三人に向けたものだ。
「構わないっていうか……そういうこと、おれたちに聞かれても……」
 三人は、顔を見合わせる。
「常識で考えれば……多人数で、たった二人の女の子をつけまわすようなやつらは、ぶちのめされても構わない……」
 その中で、最年少の高橋君が、妙に断定的な口調でいった。
「……ちょっ……」
 その高橋君の言葉に、田中君が軽くのけぞる。
「おま……少し、先走りすぎだぞ……。
 こっちの二人だって……一般論を土台にして語っていいほど、軽い存在ではないし……」
「一番確実なのは、加納さんに指示を仰ぐ、ということですが……」
 佐藤君が、慎重な常識論を唱えた。
「……ボクたち……かのうこうやの部下でもなんでもないんだけど……」
 即座に、ガクが口唇を尖らせる。
「じゃあ、こういうのは、どう?
 玉木のおねーちゃんたちが、学校からこっちについたら、つけてきた人たちに声をかけて、工場内に誘いこんでみる。
 それで誘いに乗るようだったら、撮影しながら、戦闘開始。
 誘いに乗らなかった、それまで……」

 楓が靴箱の前までたどり着いた時、茅からのメールが着信した。
荒野の靴を、調理実習室に持って来て。
『……あっ……』
 楓自身も、失念していたことである。
 もちろん、上履きでも外に出ることは可能だが、激しい運動をするのが前提なら、足回りはしっかりした方がいいに決まっている……。
 楓は、荒野のクラスの下駄箱の前に移動し、荒野の靴を捜し当てると、それを抱えて調理実習室に向かう。すぐに反対側から来た茅と出くわし、二人して「はい!」といいあって、荒野のスニーカーを手渡し、すぐに踵を返して、楓は一階に、茅は調理実習室に向かった。
 二人とも、気配を絶って移動したので、廊下を走っていても見とがめる者はいなかった。
 靴を履き替えて、改めて外に出ると、調理実習室の窓から飛び出した荒野の姿がみえた。
 楓は、それを追いかけ、荒野に声をかけると、「孫子に武器を届けろ」という意味のことを命じられた。茅がいったことと同じ内容だった訳だが、打ち合わせをする時間もなかったので、二人して同じ判断を下した、ということになる。
 荒野はすぐに楓と別れ、テンとガクが数十人の刺客に囲まれている、という、徳川の工場に向かった。
 残された楓は、孫子に、現在位置を確認するための電話を入れることにした。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(108)

第六章 「血と技」(108)

 調理実習室にいた生徒たちもまとめてパソコン実習室に誘導した茅は、周囲の生徒たちに気づかれないように、そっと立ち上がる。
『……後は……』
 後顧の憂いを……断つ。
 茅は、今回の敵の動きの動きに対し、大きな疑問を持っていた。
 テンとガク、孫子を個別に狙うのなら……何故、学校を放置しているのだろう?
 脅威、ということでは、決して無視できない戦力である、荒野と楓が、いるというのに?
『……それは……』
 パソコン実習室を出た茅は、ゆっくりとした足取りで一度教室に戻り、自分の鞄の中から、「あるもの」を取り出す。
 そして、美術室へと向かった。
『学校から……荒野と楓を、遠ざけたかった……から……』
 何故、故意に学校を手薄にして、荒野と楓をおびき出したのか?
『……それは……』
 茅は、美術室の前で、入念に、ある作業をしてから、ガラリと引き戸を開けて、中に入る。
 引き戸を開けた瞬間、こちらを見た樋口明日樹と目があう。香也は、顔もあげずに、絵に没頭している。
「……どう、したの?」
 樋口明日樹は、少し驚いているようだ。
 茅が、楓と一緒に美術室を訪れたことは何度かあった。が、茅単独で、放課後、ここに来るのは、初めてのことである。
 まだ、無事だったか……と、茅は思った。
「気にしないで。
 部活を、続けていていいの……」
 茅はそういって、素早く周囲に視線を這わせる。
 大丈夫。まだ、「手出し」は、されていない。
 茅は、携帯を取り出し、メーラーを起動し、素早く短い文面をタイプし、同報メールとして発信する。
 そして、持ってきた荷物を取り出し、引き戸の前で行った作業を、今度は、少し大規模にして、行いはじめる。
「……気にしないで……って、いきなり来て、何をしているの、茅ちゃん……」
 茅が、美術室中をはいずり回りはじめると、樋口明日樹は、とたんに狼狽しはじめる。
「……保険。
 役に立つことがなければ、その方が、いいの……」
 茅は、淡々と答えた。

「……いやぁああぁっ!」
 ガクが、暴れていた。
「あれで……バーサク・モードじゃあ、ないんだよなぁ……」
 テンは、ぼやきながら、六節棍をふるう。
「……みなさーん!
 今のガクには、近寄らない方がいいですよー!」
 そのように注意を呼びかける声も、半ば投げやりだった。
 テンが注意をするまでもなく、一族の者は、両腕を戒められたままでも見境い体当たりをかまし続けるガクから、逃げ惑っている。
『……確かに、こんなので怪我をするのは、馬鹿らしいけど……』
 それにしても……これだけ人数が、いる割りには……。
『……やる気が……ない?』
 士気が、低い……と、テンは観測する。
『……ひょっとすると……』
 自分は、ひどい勘違いを……していたのではないか……。
 今、大勢の一族の者がくれば……それは、自分たちが目当てだ……という、思い込みがあった。
『この人たちの目的が、ボクらそのもの、ではない……という可能性は……』
 テンやガクの実力を知るため……では、なく……テンやガクを、他に行かせないため……ここに、釘づけにするのが目的……だとすると……。
『……素直に、工場に入って来たことも、撮影することを、いやがらなかったことも……』
 合点が、いく。
『……だと、すれば……』
 本当に、危ないのは……。
 テンは、幾人かの術者の胴を、擦り抜けぎわに棍で払いながら、工場の出口に向かう。
 すると……。
 わらわらと、ガクに痛めつけられて、倒れていた者までもが跳ね起きて、テンに殺到し、テンの行く手を塞ごうとする。
「……ガク!」
 テンは叫んだ。
「こいつらの目的は、ボクらの足止めをすることだ!」

 荒野と別れた後、楓はすぐに足を止め、孫子に電話をする。孫子にゴルフバッグを届けるにせよ、現在位置が分からないのでは、話しにならない。
『……あら? 楓なの?』
 孫子は、コール一回で電話をとった。
『どうしたというの? こんな時間に?』
 声に、必要以上に余裕があった。
 番号は交換しているが、同じ家に同居している関係である。いわれずとも、電話で連絡をすること自体が、珍しい。
「無事……なんですか?」
「……無事?
 ああ。あの、ストーカーどものこと?
 全然、問題はありませんわ。
 付きまとうだけで、何も仕掛けてこないし……。
 最近忙しかったから、ちょうどいい機会と思いまして、今、ショッピング・センターに来て、息抜きいるのですけど……」
 リラックスしきった孫子の声を聞くうちに……楓はだんだん腹が立ってきた。
「……命令、なので……」
 楓は、「命令」という単語にアクセントをおいて、孫子の言葉を遮る。
「……才賀さんに、例のゴルフバッグを届けたいと思うのですけど……。
 ショッピング・センターの、どの辺にいますか?」
『……そう。
 命令……なの……』
 孫子の語調も、すっとテンションが低くなる。
『……命令、なら、しかたありませんわね……。
 いいわ。ゴルフバッグを、もっていらっしゃい……。
 もうしばらくはこの辺にいますから、ショッピング・センターについたら、また連絡をいれなさい。
 どこかで待ち合わせをして、合流しましょう……』

「……ガク!
 こいつらの目的は、ボクらの足止めをすることだ!」
 荒野が工場内部に足を踏み入れたのとほぼ同時に、奥の方から、テンの声が響いて来た。
 かなり距離があるのにもかかわらず、ここまで聞こえて来るということは……かなり、大きな声で叫んでいるのだろう。
 ガクだけではなく、その場で、自分たちを取り囲んでいる術者たちに、聞かせるために……。
『……そういう、ことか……』
 荒野は、納得する。
 テンやガクが目的でない、とすると……。
『……おれ、楓、才賀……』
 荒野は、心当たりをひとつひとつ数え上げていき、途中ではっとなった。
『……茅!』
 今……学校には、戦力外の人間しか、いない。

『……あれ? 今の子……』
 居残って下級生の自主勉強会に付き合っていた佐久間沙織は、教室から教室へと移動する時、ふとすれ違った女生徒に違和感を覚え、立ち止まった。
 何故、あんな、一見して普通そうな、制服姿の女生徒に違和感を覚えたのか……。
『……あっ!』
 すぐに、理由に思い当たった。
 今の生徒の顔は……沙織の記憶になかった。佐久間沙織は、全校生徒の顔と名前を記憶している。
 慌ててその女生徒を追いかけようとすると、胸ポケットにしまっていた携帯が振動した。

「……あっ……さく……」
 自主勉強会で一年生の勉強をみていた飯島舞花は、教室の外を通りかかった佐久間沙織に気づき、声をかけようとしたところで、机の上に置いていた、自分の携帯が振動していることに気づいた。
 あわてて携帯に手を延ばし、同じように携帯を取り出した、柏あんなと、目が合う。
『……同じ、タイミングで……』
 不自然……というよりは、不穏なものを感じた。
 舞花とあんなは、手にした自分の携帯を、あわててチェックする。
 メールが、着信していた。
「……美術室!」
「……美術室!」
 メールの文面を確認した二人は、叫んで、やはり同時に立ち上がる。
 そして、顔を見合わせて、教室から足早に出て行った。
 二人とも、心中では急いでいたが、茅からのメールには、「目立たないように来て」と書いてあったので、早足、程度になる。
 途中で、同じ方向に向かう佐久間沙織に追いついた。
「……先輩」
 飯島舞花が、後ろから声をかける。
「先輩も……やはり、メールで、茅ちゃんに呼ばれて?」
「……ええ」
 沙織は、頷く。
「それもありますが……たった今、不審な人を見ました。この学校の生徒ではないのに、この学校の制服を着て……あっ!」
 不意に、沙織が足を止め、左右にいた舞花とあんなが、不審な顔をして、沙織を振り返る。
「……あの子と、まったく同じ顔をしていました……。
 ついさっきは……制服姿だったのに……」
 沙織は声をひそめて、前を歩いて行くジャージ姿の女生徒を、指さす。





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彼女はくノ一! 第五話 (191)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(191)

 学校を出てしばらくしてから、孫子は尾行に気づいた。それも、前後に人員を配置し、複数の人間がチームを組んで、孫子を取り囲んでいる。偶然、とうことは考えられない。
 孫子は、いくつかの可能性を考慮した。
 最初に思いついたのは、実家絡みのテロか誘拐。しかし、この可能性は、思いつくなり、すぐに否定する。
 これみよがしに、孫子に尾行を気づかせる……という手口は、どうみてもプロのやり口ではない。
 今、孫子を取りかんでいる連中は、もっと巧妙に孫子を追尾する技量を持ちながら、あえて自分たちの存在を、孫子に気づかせている……という雰囲気を、感じた。
 本当のプロフェッショナルは……もっとドライに仕事を完遂する。
 孫子は、今、孫子を取り囲んでいる連中から、もっと何か、芝居がかった雰囲気を感じ取っていた。
『……と、するとこちらの動揺を誘うのが、目的……』
 この可能性も、低い。
 この人数を動員している以上、まさか、孫子のことを普通の学生だとは、思っていまい……。
 孫子が、「才賀孫子」であることを知りつつ、大掛かりな尾行を敢行し、挑発するような存在……と、なると……。
『……昨夜、双子を相手に……少々、やり過ぎましたかしら……』
 ようやく孫子は、自分が、一族の自尊心と威信を揺るがした……ということに、思い当たった。
 叔父から、そして、荒野からも、一族の術者には、各々の技量に自負を抱く、職人気質の持ち主が多い……と、聞かされている。
 昨夜、孫子が双子相手に行った行為は……確かに、その自負を粉々に砕いてしまった訳で……。
『……あの子たちと同様……腕試しの材料として認識された可能性も……』
 ここでいう「あの子たち」とは、茅、テン、ガク、ノリなど、荒野が以前、「姫」と呼称していた存在を指す。
 昨夜、双子たちを完膚無きまでに叩きのめしてしまったことで、孫子までがテンやガクと同様に、一族に付け狙われるようになったのだとしたら……。
『……それは、それで……』
 楽しみですわ……と、思ってしまう。
 自分の今の力量で、一族を相手にして、どこまで行けるのか、試してみるのも、また一興……。
 孫子とは、素直にこんな状況を「面白い」と断言してしまえる、少女だった。
『……そうね……せっかく、尾行してくださるのだから……』
 もっといろいろな所を引きずり回さなくては、つけて来る方も、面白みがないだろう……と、考えた孫子は、急遽予定を変更して、一時間前後、寄り道をしてから徳川の工場に向かうことにした。
 そのことを伝えるために、孫子は、携帯電話を取り出す。

「……なんか、お客さん、多くなってない?」
「なっている。お客さん、いっぱいいっぱい……」
「面倒だから、全員、一遍に相手にしようか……」
「向こうも、そのつもりなんじゃないかな……これだけ、あかるさまにつけて来るってことは……」
「……呼んだら、ちゃんと工場に入ってくれるかな?」
「それは、大丈夫だよ。向こうも、人目は気になるだろうし……それよりも、撮影に協力してくれるか、の方が、問題だと思うな、ボクは……」
 ガクとテンが、そんなことを話しながら徳川の工場に向かっている所で、テンの携帯が鳴った。
「……あれ?
 孫子おねーちゃんからだ……」
 路肩に自転車を寄せ、液晶を確認しながら、テンは、通話ボタンを押す。
「……はい、テンですが……。
 はい? そっちも?
 うん。実は、こっちも同じような感じで……」
 ここでテンは、ガクに顔を向けて、「孫子おねーちゃんも囲まれているって」と一言、断りを入れてから、また携帯に向き直った。
「……こっちは、かなり大勢なんだけど……確認できただけで、十人以上。二十人は、いかないかな?
 そっちも……そう。十人前後……。
 あ。そっか。ゴルフバッグね。
 協力したいのは、やまやまだけど……お客さんたちが、ボクたちを、素直に行かせてはくれないと思うな……。
 こっち? もうすぐ、徳川さんの工場に着くところ。うん。うん。そうだね。先に片付けた方が、残りに駆けつけるっていうことで……。
 あ。茅さんか、楓おねーちゃんに連絡は……そう。そうだね。町中にいる間は、おそらく襲ってはこないと思う……。
 うん。わかった。気をつけて……」
 テンが通話を切ると、すかさず、ガクが声をかけてくるる。
「やっぱり、また、戦力分断の、個別撃破?」
「個別撃破、はいいけど……戦力分断、の方は、どうかなぁ……。
 孫子おねーちゃんの方も、つけてくるだけで、まだ手出しをしてくる様子はない、っていうし……。
 孫子おねーちゃんは、滅多にできない経験だから、あちこち回って尾行している人達を引きずり回してから、工場にくるって……。
 あっ。学校の方も、手が回っているかどうか、確認しないと……」
 テンが、手にしていた携帯をそのまま操作し、登録してあった楓の番号にかけた。
「あ。茅さん?
 そっちは、学校の方は、今の所、何ともない?
 こっちと孫子おねーちゃんの方は、なんか変なお客さんが大勢来ているだけど……。
 そう。今のところ、大丈夫……。
 あ。茅さん、そばにいたら、代わってくれる……」
 話し相手が茅に交代すると、テンが手早く茅に現状を報告し、
「……ボクたちの方は、このまま徳川さんの工場に誘いこんで見るつもりだけど……孫子おねーちゃんは、今、一人だし、何も持っていないから……うん。
 そっちで、確認して、できればフォローして欲しい……」
 といって、通話を切った。
「……今の所、動きがない、っていうことは……やはり、工場内に入るのを、待ってくれているのかな……」
 通話が終わったのを見計らって、ガクが、呟く。
「……実際に、工場内に入ってみればわかるよ。もう、すぐそこだし……。
 それに……」
「……せめてこれぐらいの人数がいないと、ボクたちも、手ごたえがないしね……」
 テンとガクは、幼い容貌に似つかわしくない、不敵な笑みをかわし合う。

「……楓!」
 携帯を置いた茅は、珍しく鋭い声を出した。
「才賀のフォローに向かって!
 多人数にストーキングされている。
 今の才賀、何も持ってない!」
「……はい!」
 楓は反射的に立ち上がり、直立不動の姿勢をとった。
 それから……。
「あの……才賀さん、今、どこにいるんです?」
「学校から、直接徳川の工場に向かった、という話しだけど……尾行に気づいたから、あちこち引きずり回してから時間を稼ぐといっているの……」
 茅からそう伝えられた楓は、軽い目眩を感じた。
 興味本位で、なんて危ない真似を……。
「荒野もすぐに向かわせるから、早く……才賀にゴルフバッグを届けて!」
 楓は頷き、即座に廊下に向かう。
 ゴルフバッグなしの、武装をしていない孫子では、多人数の一族を相手にして、無事でいられる公算は、かなり低い……。
「……楓! 走って!」
 楓に少し遅れて、廊下に飛び出した茅が、楓に背中に向けて、叫んだ。
 そして、廊下を全力疾走して、調理実習室の方に向かう。
『……そうだ……なりふりを構っている場合では……』
 次の瞬間、楓は、疾風となった。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(107)

第六章 「血と技」(107)

 荒野が、試食会をしている運動部の連中を前にして、調理器具の後片付けをしている時に、携帯電話の呼び出し音が鳴った。
 液晶を確認して、荒野は首を捻る。
「……徳川、から?」
 一応、番号は教え合ってはいるが、実際にかかってくることはほとんど無い相手だ。
「はい……おれだけど……。
 うん。うん。
 そうか……え?
 うん。こっちは大丈夫だと思うけど……楓や才賀には……ああ。そうか。
 ちょっと待ってて……」
 荒野は、顔を上げて料理研の部員たちに声をかける。
「……先輩!
 おれ、急用できたんですけど、すいません!
 今日は、ここで引けていいですか!」
 その場にいた生徒たちが、全員、いっせいに荒野の方をみて、「おお!」とどよめいた。
 また何かあったのか……と、生徒たちの顔が期待に輝いて来る。
「……もちろん!」
「もう、終わりだし!」
「頑張って、いってきなさい!」
 料理研の部員たちも、ノリノリだった。
「……荒野!」
 その時、どたどたと足音も荒く、髪を振り乱した茅が、調理実習室に入って来た。
「これ……靴!
 荷物は、運んでおくから!」
 そういって、荒野に向かって、荒野のスニーカーを、投げる。
「……サンキュー!」
 茅が投げたスニーカーを受け止めた荒野は、一足跳びに窓の前まで移動し、窓を片手で明けながら、素早く靴を履き替え、とん、と軽い身のこなしで、窓枠の上に飛び乗った。
「……じゃ、後は頼みます!」
 誰にともなくそういって……校庭に向けて、大きく跳躍する。
 おお! と、見守っていた生徒たちが、再びどよめく。
「……すっげぇ……」
「話しには聞いていたけど……初めて、生でみた……」
「……本当だったんだな……」
 そんなざわめきが背後から追いかけて来たが、荒野は、気にかけている余裕がない。
『……今度は……』
 校庭の真ん中に着地した荒野は、そのまま、全力疾走で、外に向かう。徳川の工場に向かいながら、そんなことを考えていた。
『数で、せめてきたか……』
 学校をでると、荒野は跳躍、塀の上などを足場に、電信柱の上に出て、そこから、太い電線を選んで、その上を走る。
 歩行者や車両がいない分、そのルートの方が、時間を短縮で来た。
「……加納様!」
 途中で、追いかけて来た楓が、声をかけてきた。
「……楓!
 お前は、才賀の所に!
 おれは、工場に行く!」
 荒野は短く伝えると、返事を待たずに速度を上げる。
『……戦力を分断して、抑える……。
 いつかと同じパターンだ……』
 佐久間現象の時と違う所、といえば……。
『……学校の奴らを巻き込もうとしていない所と、とりあえず、人目には、それなりに気を払っている所、か……』
 いずれにせよ……。
『……どいつもこいつも、一ダースや二ダース程度、頭数を揃えたからって……』
 どうにかできるタマではないんだがなぁ……と、荒野は嘆息する。
 孫子の所に楓を向かわせたのは、あの二人が組めば、たいていの相手は退けられる、と踏んだからだし、荒野自身が工場に向かっているのは……。
『……テン、ガク……』
 一族内部の、奴らへの見方が厳しくなるような事態は、避けなければならない……。よって、荒野は、危機感は持っていないが、急いではいた。
『……調子に乗って、やり過ぎるんじゃないぞ……』
 テンとガクが調子に乗る前に、制止するために。

「……工場の方は、パソコン実習室で、映像を回しているの……」
 荒野が出て行った後、調理実習室に残っていた生徒たちは、茅に先導されてパソコン実習室に向かう。
 パソコン実習室では、その場に居た生徒たちがディスプレイの前に齧り付いていた。
 何人かに脇にどいてもらい、後から来た生徒たちのために、ディスプレイの前を空けてもらう。
『……繰り返します。これは、実況中継です。今、ここで、現実に起こっていることです。
 学校の皆さん、見てますかぁ!』
 どこからか、玉木の声が聞こえる。
『……ほら、佐藤さん、田中さん、高橋君、カメラ、もっとちゃんと構えて! 画面がぶれてる!
 はい。ここは、徳川君の工場、その内部です。
 あそこの銀色のヘルメット二人が、我らがシルバーバールズのお二人です。金と黒のラインが入っているのが一号、赤と緑のラインが入っているのが二号です……』
 その一号と二号は、玉木のアナウンスを信用すれば、徳川の工場内で大勢の男女に取り囲まれていた。
『……はい。
 ただ今、ニンジャの皆さんが一斉にシルバーガールズに向けて、手裏剣や鈍器などを投げつけました。どこにしまっていたのでしょうか、すごい数です! 夥しい銀の線がシルバーガールズに集中する!
 しかし! ……しかし!』

「……なるほどぉ……」
 プロテクターの縁に赤と緑のラインが入ったシルバーガール二号が、感心したような口調で、呟く。
 二の腕のプロテクタを顔の前にかざしている。
「……刺さるけど、貫通してないや……」
「だけど、これだけ刺さっちゃうと、もうボロボロだね。これ以上受けるといつ壊れてもおかしくないから、適当なところでパージしちゃって……」
 シルバーガール二号と背中合わせに立っていた一号が、そう教える。
「……パージする時の暗証番号は、覚えているよね?」
 一号が言い終わらないうちに、二号は、素早く手首内側のキーを叩いている。
「……そうだね、役に立たないのに、これ以上、重たいものを身につけていても……」
 ぼん、と軽い音がして、一号の肩と肘にあたりから、細い煙が立ちのぼる。
「……しょうが、ない!
 勇気と力の、シルバーガール二号!
 いっきまーすっ!」
 いいざま、ぶん、と上体ごと、腕を振り回した。
 ぶん、と、風切り音をあげて、パージされたプロテクタが、包囲網に向かって飛んでいく。
「……いやぁー!」
 二号は、自分が放り投げたプロテクタを追いかけるように、包囲網を構成している人員に向かって突進した。
「……ガク! 先走りしすぎ!」
 一号が、予想外の二号の挙動に動転して、思わず名前を出してしまう。
「……彼ら、動きを封じようと……」
 してくる……という言葉も、終わらないうちに、二号=ガクの手足に、四方から両端に重りをつけた鎖が投げ付けられる。
 案の定、二号=ガクの手足は、あっという間に、鎖で戒められた……が。
「……こんなもの、で……」
 二号=ガクの勢いは、止まらなかった。
 大きく勢いをつけて上体を折り曲げ、ヘルメットを地面につける。
「……ボクを……」
 首だけで体重を支え、倒立しけたところで、手首のボタンを素早くタイプする。
 二号=ガクの臑を覆っていたプロテクタが、ぼん、と軽い音を立てて、パージされた。
「……縛れると、思うなぁ!」
 ヘルメットを地面につけ、器用にも、一瞬、上下逆さまに「立った」二号=ガクは、今度は、大きく下半身を折り曲げる。
 絡んでいた鎖ごと、臑に当てていたプロテクタが、風を切ってとんでいった。
「……ぃやぁぁああぁっ!」
 下半身だけは戒めを解かれた二号=ガクが、手近にいる者に向かって突進する。
 上半身は相変わらず鎖を巻き付けたままだが、二号=ガクは、意に介した様子がない。
 そのまま、姿勢を低くして突進していって、体当たり。
 相手がよろめいたところで、首と背の力だけで、空高く放り投げる……。
「……目茶苦茶だ……」
 目を点にしていた一号が、ぽつり、とつぶやいた。
「ガクのやつ……よっぽど、フラストレーションが、溜まっていたんだな……」
『……凄い、これが……シルバーガール二号、力の二号です!』
 一号=テンと同じく、それまで呆気に取られていた玉木が、ようやく、実況中継を再開する。
 そうしている間にも、二号=ガクは、近くにいる者から順々に、その体躯を力任せに空中に放り上げていった。





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彼女はくノ一! 第五話 (190)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(190)

「……ちょっとテン。
 ……つけてくる人たち、いるけど……」
「今まで同じパターンだな……。
 いいや、このまま工場まで連れていっちゃお……。
 その方が、話しが早いし……」
 ガクとテンは、信号待ちで立ち止まった時に、そんなことを囁き合う。
「……そうだね……」
 ガクは、頷いた。
「すぐに、孫子おねーちゃんや玉木おねーちゃんが合流する予定になっているし……」
「……ボクらとやりあいたいのなら、正面から名乗り出て、そういえばいいのに……」
 テンが、ぶつぶついいはじめた所で、信号が青に変わった。
 二人は、また自転車のペダルを漕ぎはじめる。
「そこは……あれ、ニンジャさんって、本性を隠すのものだって、この間読んだマンガに書いてあったし……」
 ガクは、最近、羽生の本棚をまた漁るようになっている。再読すると、以前はピンとこなかった表現の意味が分かるようになっていて、面白い。最近は、図書館から借りた歴史物の影響で、時代劇の劇画をよく読む。主従の関係とか、歴史的な背景を知らなかった頃は、まるで面白く思えなかった物が、見違えるように面白く思えるようになっていた。
「別に、いいけど……相手にする方にしてみれば、向こうで話し合って、順番とかガード、勝手に決めてもらいたいよな……」
 テンにとって、一族の者が挑戦して来る事は、シルバーガールズの新装備のテストとして都合がいい、という程度の認識しかない。
「……後、何人くらい撃破すれば……静かになるんだろう?」
 正直な話し、必要以上に時間を取られたくはない……と、テンは、思っていた。
 何人かの刺客を倒せば、一定レベルに達しない、例えば、最初の四人組みたいな術者は、はじめっから諦める……という予測を、テンたちは、立てている。
「……でも、昨日の双子も……結局は、孫子おねーちゃんがやっちゃったし……その前は、テンが一人で片付けたし……」
「ガク……怪我をしてたんだから、しかたがないじゃないか……。
 それに、今日は、新しいお客さんを除いても、あの双子とはやれるし……」
 テンは、苦笑いしながら、ガクにそう答える。
「あの二人、かのうこうやの話しだと、二宮と野呂のハーフだってね……。
 頭も悪そうだし、静流おねーちゃんよりは全然、弱そう……」
「……うん。
 静流おねーちゃんみたいに、何か一つ突出している方が……相手をするとなったら、怖いかも……」
 ガクの言葉に、テンは頷いた。
 武器を持った静流と対峙した仮定すると……勝算が、あまり立たないのだ。
 最初に手足の腱を損傷すれば、ろくな抵抗も、できなくなる。そして、静流の速度に対応して、斬撃を躱すことは……。
「……ノリなら、なんとか追いつくかなぁ……」
 テンと同じことを考えているのか、ガクが、不意にそう呟いた。
「ノリ……早く帰って来ると、いいね……」
 テンは、そう答える。
「うん。
 ……もう、後、二、三日、って話しだけど……」
 ガクも、頷く。
「……三人一緒じゃないと、どうも調子、でないや……」
 寂しい、ということ以外に、三人は、お互いの長所短所を知り尽くし、短所をカバーすることに、慣れ過ぎている。
 単独で、あるいは、三人のうち、二人だけ……での行動は、自分たちの性能を発揮できていないような印象を、どうしても持ってしまう。
「とりあえず……今日からは、また二人だよ……」
 そういって、テンはガクに、柔らかく笑いかける。
「そうだね……今日からは、また二人だ……」
 ガクも、笑った。

 その日の放課後も、楓と茅は多忙だった。この頃には、二人は、コンピュータ自習室に集まる生徒たちから、「頼りになる存在」と目されるようになっている。それでも、楓は、まだいい。楓は、プログラムとか、システム回りのことにか、関わっていない。
 しかし茅は、それ以外にも、自主勉強会の質問にまで、律義に答えていた。両手で別々のキーボードをタイプしながら、不意に、それも、上級生である、二年生とか三年生から、勉強の内容で分からない部分を尋ねられると、茅が顔を向けもせず、口頭ですらすらと答える……という風景も、現在ではすっかりなじみのあるものになっている。
 茅が、全学年、全教科の教科書を、すっかり暗記している……ということは、本人が隠そうとも否定しようともしていないこともあって、すっかり周知のものになっていた。
 そんな茅をみて、楓は、
『……人間マルチタスクだぁ……』
 とか、感心してしまう。
 放送部、パソコン部、の以前からの知り合いに加え、茅は、それまで面識のなかった生徒たちからも、顔と名前を知られるようになっていた。
 おかげで、勉強会用の資料をまとめながら、下級生の勉強をみたり、先生方との交渉をできるだけ引き受けて、いい緩衝材になったりしている佐久間沙織、プログラム回りでは、実質上、システム開発の中心人物と目されている楓の注目度は、相対的に下がっている。
 楓自身にとっては、ありがたいことでもあったが……。
『……こんなに目立つというのも……』
 楓にとっては、違和感があるのだった。
 最近では、一部の教師までもが、放課後にパソコン部に出入りして、みんなの前で、茅と「分かりやすい授業の方法」を相談していたりする。
 自主勉強会のことを相談したりするうちに打ち解けてきた、ということもあるが、教師にしてみても、生徒によい成績を取ってもらいたいし、自分から勉強したいといってくる生徒たちに囲まれてあれこれ話して行く、というのは、いい経験になるらしい。
 今、この場に集まっている人たちは、結果として……。
『……自分たちが、中心になって……』
 集めたようなものだ……と、楓は思う。
 自分たちが、ここに来なければ……この場にいる人たちが、ここに来ることもなかった筈で……。
 自分たちがいることで、この学校を……この、今、住んでいる町を……それも……ここに居続けたい、という自分たちの都合によって、エゴによって……。
『本来あるべき姿から……変えてしまっている……』
 そう考えると、楓は……なんだか大それたことをしでかしている気分になって……少し、怖くなってしまう。この場にいる人たちが、みな、満ち足りた顔をしていればいるほど、そう思ってしまう。

 その日、孫子は、授業が終わった後、足早に徳川の工場に向かっていた。バスの時刻が合わなかった、というのもあるが、荒野と徳川から、出資の約束もとりつけた今となっては、少しでも出費を控えたい気分だった。
 徳川の了解をとりつけたので、既に、パテント関係に詳しい事務所に話しをつけ、徳川の発案した工法などを無断使用している海外企業をリサーチして、もし存在していれば、使用料を支払うよう、交渉させるつもりだった。繁雑な作業を嫌う徳川は、正規の使用料を支払う企業とばかりつきあってきて、それまで、そうした海賊版の存在を知る機会があっても放置してきた……ということだから、場合によっては、何もしなくとも、徳川の会社の支出が増大する……という可能性も、あった。
 それ以外に、自分の会社を設立するために必要な準備、登記に必要な書類の作成……など、やるべきことは、いくらでもある。
 不動産については、玉木の顔つなぎで、商店街の外れにある閉店した店舗を借りる話しがついていた。しかし、その店は、現在、イベント時限定のメイド喫茶として使用されているため、事務所として使用できるのは、バレンタインが過ぎてから、ということになる。
 パソコンや什器、車両などは、孫子が株主になっている企業に声をかけ、廃棄される予定のものや倉庫に眠っていたものを、せしめてきた。
 もともと廃棄する予定のものだから、必要なコストは、ほとんど搬入するのに必要な費用だけで済みそうだった。その運送費も、手持ちの人材をうまくやり繰りして、なるべく安くあげるつもりでいる。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(106)

第六章 「血と技」(106)

 放課後、荒野は鞄などの私物をだけ持って、調理実習室に向かった。この日も、前回に引き続き、「材料は、こちらで用意する」と言い渡されている。料理研は荒野を除けば全員が女生徒で占められており、当然のことながら、荒野の発言権は著しく低い。虐待されたりしていないだけまだましだが、荒野以外の部員が全会一致で決定した事項を荒野一人の反対で覆せるわけもなく、結果、荒野には、唯々諾々と彼女らの言うことに従う、という選択肢しか、残されていないのであった。
 だから、
「……今日は、予行練習として、加納君に、講師役のシミュレーションをやってもらいます……」
 とのっけから宣言されても、荒野には、抗う気力は残されていなかった。
 そういわれた荒野は、ゆっくりとうなだれてから、ひっそりとため息をつき、
「……わかりました……。
 やります……」
 と、頷くよりほか、ないのだった。
 荒野はのろのろとした動作で自前のエプロンを取り出し、実につけ、教壇に立って、前回の部活の時に習ったチョコレートの簡易加工法を、再現してレクチャーしはじめる。
 基本的に、「温度変化に注意しつつ、チョコを溶かし、型に入れて冷やす」ということしかやらないので、それなりに簡単な作業では、あった。第一、荒野は、人前に出てしゃべる、ということに対する抵抗がない。

「……で、今回も、チョコか……」
 数時間後、荒野と同じクラスの嘉島が、微妙な表情をして呟いた。
 最近、料理研の実習がある日は、嘉島が所属する野球部を筆頭に、料理が出来上がった頃を見計らって、出来上がったものを略奪しにくる……という習慣が、固定化している。
「いいじゃないか。チョコ。
 疲れた時には、最高だろ……」
 荒野は、憮然として答えた。
 荒野とて、別に、運動部員たちが出来上がった料理を目当てに集まってくることが、気に食わないわけではない。そんなことは、以前からのことだ。
 問題なのは……。
「ま……。
 バレンタインが過ぎるまでは、この調子だろうな……」
 荒野は、げんなりとした声で、呟く。
「そっか……そういや……そういう季節だもんな……」
 嘉島も、微妙な表情をして、頷いた。
 少なくとも、どうしてチョコが続いているのか……事情を彼なりに推測し、納得はしてくれたらしい。
「おれ……今まで、義理しかもらったことないんだよね……」
「おれの場合は……そもそも、日本にいなかったから……」
 荒野と嘉島は、そういいあって、ふむふむと頷きあった。
「……いいじゃないか、それまでは、チョコで……」
 嘉島は、周囲を見渡して、そういう。
「幸い……好評のようだし……」
 確かに……たかりにきた運動部員たちの中で、不満そうな顔をしているものは、いなかった。疲れた時に甘い物は、はやりうまく感じるものだし、極端な辛党も、いないらしい。
「ただ……チョコ……は、いいんだが……」
 嘉島は、声を潜めてリクエストした。
「その……汗をかいた後に、これ、だと……今度は、のどが粘つく。
 飲み物が、欲しくなるな……」
「……なるほど……」
 荒野は、真面目な顔をして、頷く。
 いわれて見れば、確かに……校内では、飲み物の調達にも、不自由する。水道水なら、飲み放題だったが……。
「そうだな……その辺のことは、次の時までの課題にしておこう……」
「……ねー、加納君……」
 数人の女生徒が、背後から近づいてきた。服装から判断すると、どうやら、女子バレー部らしい。
「その……今、聞いたんだけど……来週……」
「……ああ。
 手作りチョコ講座、やるらしいね……ってか、おれに講師役をやれってことらしいけど……」
 荒野は、その女生徒たちの質問を途中から引き取った。
 すると、周囲にいた女生徒たちが「きゃー!」と黄色い声を張り上げる。
「……こういうこと、なんだ……」
 荒野は、嘉島に顔を向けて、いった。
「……なるほど……」
 今度は嘉島が、真面目な顔をして、頷く。
「女子には……受けそうだな、それ……」
「……大部分の男子には恨みを買いそうでもありますよ、それ……」
 嘉島と同じ野球部員の一人が、突然、割り込んでくる。
 みると、ずらりと並んだ野球部員たちが、いっせいに「うんうん」と首を上下に振っていた。
「……あー……」
 思わず、荒野は視線を泳がせる。
「その……みんなは……そういう、もらえそうな、相手……」
「最近は、な……」
 嘉島自身は、あまり悔しい様子をみせず、淡々と答える。
「野球部は、あんまりな……。
 バスケ部は、昔から人気あるし、サッカー部もそこそこ、なんだが……」
「……嘉島君は……随分、余裕がありそうだな……。
 もう、決まった相手がいるのか?」
 荒野は、他の野球部員たちとはあまりに違いすぎる嘉島の様子に、疑念を持った。
「うちの家族……何故か、女性が強くてな……」
 対する嘉島は、やはり淡々とした態度を崩さずに、続ける。
「おれの上に……四人、姉がいるんだ……。
 上にそれだけいると、女性に対する幻想も、軽く吹き飛ぶぞ……」
「……そ、それは……」
 荒野は、内心で冷や汗をかいた。
「ご両親も、大変だな……」
「うち……親まで女が強くてな……」
 嘉島は、静かに答える。
「父親より、母親の方が、よっぽど稼ぎがいいんだ……。
 仲は、いいほうだと思うけど……家事は、ほとんど父の仕事だ……」
 荒野は……一般人にも、いろいろな家庭があるんだな、と、思った。




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彼女はくノ一! 第五話 (189)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(189)

 ところで、香也自身は、以前と、さして変わってはいない。
 多少の変化はあるのかもしれないが、それを重要なことと認識できるほどには、変容していない。
 以前と同じようにぼーっと授業を受け(以前よりは内容が理解できるようになってきている)、黙々と給食を食べ、話しかけられれば適当に答え、放課後になれば、美術室に向かう。
 行動パターンのみを取り出せば、香也自身は確かに、あまり変化をしているようには見えない。それに、「変化」というのなら、樋口明日樹に誘われて、真面目に学校に通うようになったのが、香也が学校生活で経験した最大の変化であり、それに比較すれば、徐々に香也の内部で進行している変化の兆しは、外から確認できない分、人目も引くこともなかった。
 掃除当番や昨日のように他に予定がある場合を除き、の行動パターンは固定されており、至って地味な生活を淡々と繰り返していた。その日は掃除当番に当たってもいなかったし、用事もなかったので、最後の授業が終わり放課後になると、香也は荷物をまとめ、美術室に向かう。
 教室を出る前に、楓が「また後で、帰りに迎えにいきます」と声をかけ、香也が「……んー……」と答えるのも、すっかり日常の風景として定着してしまっている。
 そして、香也は、美術室にたどり着く。
 美術室そのものには鍵はかかっていないので、自由に出入りできる。しかし、物置代わりになっている「美術準備室」への入り口の鍵は、基本的に教員が保管し、生徒が必要になる時は、その都度、職員室に行ってお伺いをたて、借りてこなくてはならない建前になっている。しかし、美術部顧問の先生が、かなりずぼらな性分で、「なるべく部活動に手を煩わせたくない」という考えを持っている人だから、こっそり合鍵を作って香也と樋口明日樹にそれぞれ一つずつ、こっそりと持たせている。
 この二人なら悪用しないだろう、という信用があるから、なのだが、ともかくおかげで、香也は私物の画材各種を美術準備室にキープしており、普段持ち歩いているのはスケッチブックと、時折補充する必要に迫られる、絵の具や筆などの消耗品以外、持ち歩く必要がなくなっている。一応、学校から雀の涙ほどの部費も年に一度給付されているのだが、あまりにも小額なため、香也は、自分が必要とする分は、自前で揃えるようにしている。まともに活動をしている美術部員は、現在の所、香也と明日樹の二名しかいないので、今の所は、そういう体制でまるで問題が発生していない。
 画材を準備し終えると、香也は、昨日描いたスケッチを一枚一枚机の上に並べ、まずは一通り眺めて見た。自分で描いたスケッチと、昨日の記憶を照応し、細部を思い出し、構図や配色などの構想を練る。いくつかのアイデアを新しいスケッチとして、何枚かざっと描きだし、それも見比べて見る。
 二十分ほどそうして検討した上で、香也は他に誰もいない美術室で一人頷き、たった今構図を描いたスケッチから一枚を取り出し、それをキャンバスの上に映し出す。下絵は小さいものだったが、キャンバスはかなり大きく、今回に限らず、香也は、構図を当たるための下絵は小さめに描き、実際に描くときはそれを拡大して描き始める、という技法を採用している。野外でスケッチする時など、縮尺の比率を数字で絵の横にメモしておき、一枚の紙に何種類かの下絵を小さく描きとめておく、ということも、頻繁にしている。
 下絵を簡単に描いている最中に、明日樹が入ってきた。香也の手元を覗き込み、「また、新しいの?」とか声をかけながら、荷物を置きに一旦準備室に入る。
 掃除当番やホームルームが長いびいたり、といった理由で明日樹が数十分ほど遅れて美術室来ることは、別に珍しくもなかった。香也だって、不意に用事ができて来るのが遅れることがあるし、それに部活への参加は強制ではないので、どちらかが遅れたからといって、もう一方に非難されたり咎められたりすることはない。
 樋口明日樹が、荷物を置き、自分の準備を整えて戻ってきた時には、香也はすでに鉛筆を筆に持ち替え、すっかり自分の絵に没頭していた。一度こうなったら、強く声をかけて肩でも揺さぶらない限り、香也の意識が外に向かないのは、今までの経験から明日樹も理解している。
 明日樹はそっとため息をついて、自分が絵を描くための準備をはじめた。

「……うひひ……」
 その少し前……。
「……ふっかーつ!」
 某医院の前で、ガクが、両腕を頭上に高く掲げ、ぶんぶんと振り回していた。
「……あんまり騒ぐなよ、ガク……」
 すぐそばにいたテンは、半眼で微妙にしらけた顔をしている。
「全治一ヶ月を相当と診断されたところを、こんな短期間で治して……」
『……とんでもない生命力だよな……』と、テンでさえ、思う。
 医者もかなり驚いていたが、テンもかなり吃驚している。
 医者の話によると破損した部分を埋める勢いが、通常では考えられない速度だ……と、いうことだった。
『……傷を負うと……その部分だけ、選択的に、代謝速度が速まる……ということ、なのかな……』
 素人考えだが、テンはそう推測する。
 だからといって、「直りが早い」ということを前提として、ガクにばかり危ない仕事を廻すつもりはなかったが……。
「さ……。
 さっさと、徳川さんの工場に行こう。いろいろ、準備もあるし……」
 口に出しては、そういった。
「うん。行こう行こう」
 ガクは、テンの言葉に、素直に頷く。
「もうすぐ、ノリも帰ってくるし……。
 でも、まずは、今日は、シルバーガールズ一号と二号の揃い踏みだー!」
 二人は自転車に乗って、徳川の工場を目指す。
 午前中に家事や家での用事を一通り済ませ、昼を食べてから徳川の工場へ……というのが、ここ二、三日の二人の生活パターンになっている。徳川の工場への出入りはもはや顔パス状態だったし、浅黄を保育園まで迎えに行くこともあった。テンにしろガクにしろ、好奇心が強いので、さまざまな道具や工作機械、材料になりえる廃材、などがある徳川の工場は、いい遊び場にもなったし、学校が引ける時間になれば、玉木たちもやってくる。
 徳川から、さまざまなものを開発するために必要なメッソッドを習うのも、玉木たちと一緒に、自分たちが主演するコンテンツを作るも、二人にとっては、等しく、「楽しい遊び」だった。
「……そういや、あの双子のおねーちゃんたち、ちゃんと来るのかな?」
 自転車をこぎながら、ガクがテンに話しかける。
「……さあ?
 多分、来るとは思うけど……」
 テンは、首を傾げた。
「仮に来なくても、新手はどんどん来るそうだし、他にも撮影が必要なシーンもあるし……暇をもてあます、ということはないよ……」
「新手、かぁ……」
 テンの言葉に、ガクも、頷く。
「今度は……どんな人が来るのかなぁ……。
 次の人も、面白い人だといいけど……」
 テンとガクは、一部では恐れられている酒見姉妹のことを、「面白い人たち」としか、認識していない。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(105)

第六章 「血と技」(105)

 飯島舞花は、荒野と静流の対戦の一部始終を目撃していた……筈、だったが……実際に、「何が起きたのか」は、ほとんど把握できなかった。
 二人の動きが早すぎた、というのが、最大の原因である。
「……ね。楓ちゃん……」
 結局、舞花は周囲を見渡して、一番「わかっていそうな」表情をしている楓に、助けを求めた。
「……今の……何が起こったのか……見えた?」
「……ええ……一応」
 楓は、頷く。
「二人とも……凄いです……」
 凄い、ということは、舞花にも、わかる。
 二人が向き合った途端、静流の白い杖が真っ二つに折れてはじけ飛び、その後すぐに、静流が分裂した……ように、舞花には、見えた。
「二人とも?」
 舞花が、首を捻る。
「……あのおねーさんのが……圧倒していたんじゃあ……」
 舞花の目には、そう映った。
「圧倒されてたよ、見事に……」
 舞花の声が聞こえたのか、荒野はそういって諸手を上げる。
「杖を抜いてたら……抵抗するまもなく、切り刻まれている……」
「そ、それは……話しが、逆なのです……」
 地面にへたり込んだまま、静流が、切れ切れにいった。
 まだ、呼吸が荒い。
「か……加納様で、あれば……射程外から、飛び道具を使えば……わ、わたしの剣くらい……簡単に、へし折れたのです……」
「まあ……手加減するって暗黙の了解があるうちは……どんなに激しくとも、じゃれあいだよなぁ……確かに……」
 荒野はそういって、肩をすくめた。
 真剣勝負でない以上……勝敗にこだわっても、しょうがない……ということらしい。
「そっか……」
 舞花は、なんとなく、荒野の考えを理解して、頷いた。
「おにーさんは……そういう人なんだ……」
 さばさばしている、というよりも……荒野は、「生き残っていれば、それで勝ち」という世界の住人なんだ……と、舞花は、思った。
 だから、勝敗には、こだわらない。
 静流との対戦を断らなかったのも……静流の手の内を、ある程度知りたかった、とか……あるいは、そこまで合目的に考えていなかったとしても、もっと単純な、好奇心、に、寄るところが、大きかったのかも、知れない……。

 事実、この時点で、荒野は、先ほどの静流の戦い方を、無意識の裡に分析し始めている。
 お世辞にも……洗練された身のこなし、ではなかった。
 おそらく、先天的な障害のせいで……満足に、一族の技を仕込まれていなかったのではないのか?
 しかし、静流は、障害や教育の不徹底、という不利を補って有り余る資質を備えていた。とにかく……誰よりも、早かったのだ。
 誰よりも早く剣を振るえば、攻防の駆け引きを学ぶ必要はない。
 同じように、相手が構える前に、攻撃を加えられ、反撃を受ける前に、射程外に逃げられるのなら……体系的な体術も、必要がない。
 いわば、「先手必勝」を、地で行っていたわけで……。

『……生まれ持った体質だけで、ここまでいける人も……珍しいよな……』
 と、荒野は、思う。
 先ほどの静流のフォームを思い返しても……あれは、武術や体術というよりは、ムキになった子供が喧嘩相手をぽかぽか殴っている様子に、近い。
 妙に、打撃に力が入っていない感触だとは思ったが……めちゃくちゃに、手足を振り回していただけ……だったのではないのか……。
『……でも……それで、パーフェクト・キーパーって……』
 そんな静流でも……周囲が、いくつかの条件を整えば……決まりきった仕事は、十分にこなせたのだろう。何しろ、静流は、視覚以外の感覚は桁外れに敏感だし、何かあった時、誰よりも早く反応することができる。
 銃器が容易に使用できない環境……例えば、日本の都市部に住まわせて、そこで、一定期間、大事な物を託す、とか……。
『……適所適材、か……』
 そうしたセッティングの妙があったにせよ……ほとんど生まれ持った体質だけでここまでのことができる静流は……やはり、例外的に恵まれた「天然素材」である、と、いっていいだろう。
 事実、四人組を目を丸くしてあっけにとられているし、テンとガクは、今の荒野とのやり取りについて、ああでもないこうでもないと議論しはじめている。
 四人組は、おそらく、舞花とどっこいどっこいで、目が動きについていかなかった。テンとガクは、楓程度にはみえていて、しかし、自分たちの解釈を確認するために、話し合いをはじめている。
 楓は、荒野と同じ結論を出した上で、「二人とも、すごい」と結論したようだし、孫子は……一人、難しい表情を、していた。
「才賀……」
 荒野には……孫子が、今考えていることが、わかるような気がした。
「……何かいいたいこと、あるか?」
「……今、ここで……しゃべっても、よろしいんですの?」
 孫子が、眉を顰める。
 どうやら……孫子も、荒野と同じ結論に達したようだった。
 静流は……有り余る才能を、まるで生かしきっていない……。
「じゃあ……才賀が、静流さんをこれ以上強くしようとしたら……何を、学ばせる?」
「合気道か、それに近い武術がいいの」
 それまで口を閉じていた茅が、孫子が口を開く前に、答えた。
「今の静流は……縛られた、巨人。
 膨大な力を秘めながら、それを開放する術を教えられていない……」
「わたくしも……同じ、結論ですわ」
 孫子も、茅の言葉に、頷いた。
「わ、わたし……」
 静流が、よろよろと立ち上がりながら、話し出す。
「た、確かに……ろくに、教えられてないですけど……そ、それは、ち、父が、知らなくとも十分に通用すると、いったからで……」
 ……意外に、箱入り娘だったんだな……というのが、荒野の感想だった。
 でも、静流に一族の技を仕込もうとしなかった親御さんの気持ちも、荒野には理解できた。なにしろ、荒野も、茅が一族の技を憶えることに、反対している。凶器から遠ざかれば、それだけ身の安全が確保できるのだ……。
「ここには……父上は、いない……」
 荒野は、静かに答えた。
「だから……後は、静流さんの選択しだいだなぁ……。
 静流さんの父上も、嘘はいってないよ。
 実際、今のままでも、静流さん、十分強いし……それこそ、一族の術者が束になってかかっても、かなわないくらいには……強いし……」
 遠巻きにしていた四人組が、荒野の言葉にコクコクと頷いている。
「……でも、今以上に強くなることも、できるよ……。
 静流さんさえ、そのつもりなら……」
「ちょうど……知り合いに、合気道をやっている人がいるの……」
 茅が、荒野の言葉を引き取った。
「年の頃も、静流と同じくらいだし……同じ女性同士、いい友だちになれると思うの……」
 袈茶がそういったことで、確か……年末に会ったきりの、柏あんなの姉が……そういえば、合気道をやっている、とか、いってたな……と、荒野は、ようやく思い出した。





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彼女はくノ一! 第五話 (188)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(188)

 学校が、以前よりもざわついているような気がした。
 学校全体が、ということではないし、それに騒がしくなった……というのとも、ニュアンスが、違う。
 活発になってきた……というのが、一番、しっくりとくる表現だろう……と、香也は、思う。

 例えば、昼休み。
 給食を食べ終えると同時に、パソコン実習室に向かう生徒が、増えた。以前から頻繁に出入りしていた、堺雅史、柏あんな、楓や茅……のようなパソコン部員や、正式な部員でなくとも、半ば関係者といっていい、以前からの常連以外の生徒が、入れ替わりたちかわり、パソコン実習室に出入りしはじめている。
 一番多いのが、自主勉強会の執行部(という呼称が、徐々に定着し始めていた。もちろん、部活で同好会でもないし、また、正式な生徒会活動の一環でさえない。しっかりとした組織ではないが、現在の所、前生徒会長の佐久間沙織がトップとみなされている)に掛け合って、勉強や進学の相談に行く者。それ以外にも、ボランティア活動への登録や資料の閲覧……とか、しっかりした目的がある場合、あるいは、はっきりとした目的はなくとも、なんとなく様子を見るために、定期的に足を運ぶ生徒も、多い。
 今週に入ってから、毎日のように行われている自主勉強会の方も、当初、空き教室を使用して行われていたものが、稼動しはじめてわずか二、三日で希望者増大により、用意した教室の収容量を越えてしまい、結果、あぶれた生徒たちが、そこいらの教室を適当に使用する……という風景が、日常化している。
 そこでは、たまたた居合わせた上級生が、例え初対面であっても下級生を指導する……という流れが発生しはじめており、それまで学年が異なるせいで面識のなかった生徒同士が知り合う機会も、増えた。
 また、自分たちの学習のためにまとめたノート類を「資料」として自主勉強会に提出する、ということも、日常的に行われるようになっている。多くはノートやレポート用紙に、授業の教科書、参考書の内容を手書きでまとめたものだが、パソコン実習室に持っていけば、その場でスキャナで取り込んでくれる。取り込んだ内容は、ネットに接続できる誰にでも参照でき、注釈や質問をつけ、わからない部分の解説を求める……ということもできるようなシステムも、学校のサーバ内に構築されつつある。そうやって重複する内容のノートを参照し合う環境が整備されたことで、「要点を的確にまとめていて、内容を理解しやすいのは、誰のノートか?」ということを競い合う、ということも、徐々に行われるようになっていた。
 ただ単に「いい成績を」とかいう即物的な効果のみを求める生徒も少なからず存在したが、それ以上に多かったのは、そうしたシステムを「コミュニケーション・ツール」として利用し、ゲームや新手の遊びに参加する生徒たちの方が、数の上では優勢だった。
 それらのシステムを開発したのは、茅や楓、徳川をコアに、パソコン部員たちが周りを固めた有志の生徒たちで、パソコン実習室でともにすごす時間が長く、打ち合わせをする機会も多い放送部員や自主勉強会執行部の生徒たちとは自然に中が良くなり、連帯意識が生まれはじめている。
 パソコン実習室は、今や、所属や学年を越えた生徒たちの溜まり場として機能しており、そこに行けば、役にたつ情報や役に立たない噂話にありつけるし、仕事を持つ生徒たちに何か簡単にできる用事を言いつけられて、それを手伝うこともある……。
 そんなわけで、香也のクラス内でも、半数以上の生徒が、時間がある時にふらりとパソコン実習室に足を向け、そこで得た何年何組の生徒が誰それとくっつきそうだ、とか、また玉木たちが何かたくらんでいるらしいぜ、おれ、今、変な格好して棒振り廻している女の子映像、玉木が学校のパソコンで編集しているのみた、とか、うちのクラスの加納さん、どうやら、佐久間先輩のお気に入りらしいな、とか、有働先輩、いよいよごみ掃除作戦、今週末あたりに発動するらしい、とか、有用無用ごたまぜの情報を教室に持ち帰っては、級友たちに吹聴して回る……という光景も、珍しいものではなくなっている。

 香也自身は、そういった動きにあまり興味はないし、用事がなければパソコン実習室に足を運ぶこともないのだが、その香也の耳にさえ、さまざまな噂が勝手に飛び込んでくるわけだから、やはり生徒全体が少しずつヒートアップしているのだろう……と、香也は思う。
 香也自身の変化はといえば……時折、休み時間に来客があり、「こういう絵を描いてくれ」というリクエストをもらい、その通りの絵を仕上げる……という行為が加わったことに以外に、学校生活に目立った変化はなかった。いや。そもそも、楓たちがこの土地にくるまでは、香也に声をかける生徒さえ、ろくにいなかった状態だったわけだから、それはそれで大きな変化だった……というべきなのかも、知れないが。
 こうした「依頼」は、はやり玉木自身が足を運んで直接伝えに来ることが多かったが、何か用事があって来れない時は、代理の放送部員が来て香也にオーダーを伝えにくる。
 誰がやってこようが、香也の対応と態度は変わることなく、「……んー……」とひとしきり唸ってから、その場でスケッチブックを広げ、オーダーされた通りの絵を即座に書き上げて、相手に手渡す。
 香也の絵の腕、については、三学期に入ってから、香也のクラスでは周知のものとなっている。
 それ以前、香也は、クラス内でもかなり存在感の薄い生徒で、いや、存在感の薄さは今現在もまったく変わらないのだが、現在ではそれに加えて、「絵がうまい」、「何故か美少女が寄ってくる」という評判が付加されている。特に、同じクラスの楓と二年生の孫子と同居しており、その二人にべったりと言い寄られていることは、この時点では隠しようもなく知れわたっており、そのせいか、香也に話しかける男子生徒は、堺雅史などの例外を除くと、ほとんどいなかった。
 女性関係の嫉妬ややっかみも多少はあったのかも知れないが、それ以上に、香也のように「一芸に秀でている」というタイプの存在は同学年はおろか、全校的にも珍しく……要するに、嫌われているとか疎まれている、というよりは、「一目置かれている」というニュアンスで、香也は、級友たちに「あいつの邪魔はできるだけしないでおこう」的な目で見られ、好意的に放置されていた。
 二学期までの香也と現在、クラス内での香也のポジションは表面上、変わらないようにも見えたが、その内実をみると、「はじめから意識されていなかった」前者に比べ、現在は「香也の存在と人となりがある程度理解されており、その上で、そっとされている」ということになり、意味合いがかなり変化している……のだが、香也自身は、そうした周囲の微妙な変化には、あまり興味も関心もない……ように、見えた。
 そんなわけで、時間があれば香也のそばに寄って来る楓を除けば、同じクラス内で香也に声をかけてくれるのは、堺雅史と柏あんなの二人、それに、牧本さんと矢島さん、くらいなものだった。
 堺雅史は例のゲーム関係で話すことが多いし、それを別にしても、同じインドア派同士ということで、香也とは馬が合う。牧本さんと矢島さんは、時折、休み時間などに持参した漫画本やアニメ、ゲーム関係の雑誌を見せて、「このキャラとこのキャラのツーショットを描いてくれ」などといってきて、香也は、例によってその場でその要望に応える。この二人は楓とも仲が良かったが、香也のことは、他のクラスメイトとは違った意味合いで尊敬しているらしかった。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(104)

第六章 「血と技」(104)

『……やばいなぁ……。
 おれ、ドキドキしているよ……』
 荒野は、「自分の中にも、まだこんな部分が残っていたのか……」と、半ば呆れている。
 思えば……「正面からやりあっても、勝てないかも知れない相手」とまともに対峙するのは……もう、何年かぶりになる。ここ数年、荒野が従事してきた荒事は、凄惨なだけで面白みのない、消化仕事だった。
 しかし、今、荒野は、自分の頬が緩んでいることを、明確に自覚している。
 荒野は、一族でも屈指の……近接戦闘では、一、二を争う、と、噂される野呂静流を目の間にして、いつになく高揚している自分に気づいた。
「……か、加納様……」
 白い杖をついた静流が、すぐそこに、立っている。
「ず、随分……期待して、おいでのようで……。
 そ、その期待には、お応えせねば、ならないのです……」
 静流は、硬質な表情で、宣言する。
 そういえば……静流は、視覚に障害はあるが、他の五感は鋭敏だ……という話しを、昨夜もしていた。
 詳しく聞いた訳ではないが……ガクの例もあるから、体臭で、知覚にいる者の体調や心理も、かなりの精度で読める……という可能性も、考慮に入れなくては、ならない……。
「あ、あと一歩、踏み込むと……わ、わたしの射程に、入ります……。
 じ、準備が出来たら、踏み込んで、ください……」
 荒野は、軽く息を吐いて、一歩、踏み込んだ。
 と。
 目の前に、静流の顔が迫っている。
『早い……なんてものじゃあ……ない……』
 そう思うより先に、荒野の手が、反応している。
 反射的に、静流の杖の柄頭を、掌底で叩く。
 不意に、あらぬ方向に力がかかり、静流が少し、姿勢を崩す。
『……ほとんど……瞬間移動だ……』
 静流がよろけた隙に、荒野は、半歩距離をとった。
 本能が……距離を空け過ぎると、かえって危ない……と、告げている。
 距離を空ける、ということは……静流に、自由に動く余地を与える、ということだ。
 そんなことをしたら……荒野は、散々翻弄された末、たやすく打ちのめされるだろう。
『体を……密着気味に、して……』
 静流の動く余地を、なるべく与えない……消極的な方法ではあるが、当面、これ以上の対処法は、思いつかない……。
 荒野がしかけても……軽々と躱され、かえって隙を作る。
 静流は、絶対的な速度差がある者を相手にするとは……つまり、そういうことだった。
「……さ、最初の一撃で、決まらなかったのは……な、何年かぶり、なのです……」
 だから、静流が、うっすらと笑ってそういった時、静流の顔は、荒野の顔から半メートルも離れていなかった。
「そ、それに……二宮の方々は、皆、お、同じような戦い方をします……」
 言い終わると同時に、静流の四肢が、踊った。
 手、足……それに、杖が、予想もつかない軌跡を描いて、荒野に迫る。
 荒野との距離はそのままに、静流は、軟体動物もかくやという柔軟な動きで、同時に、荒野の急所や感覚器を狙う。
 武術……などの、体系的に考案され、整理された動きではなく……単純に、早く、的確に、使えるものを総動員して……効果的な場所を、打突してくる。
 生まれた時から暗闇の世界にいた静流は……「人間として正常な所作」という観念が、薄い。だから、なりふりかまわず、予想外の動きをする。
『……静流さんが、杖を抜いていないから、いいもの……』
 荒野は、腕と足で、その打撃を受け止めるだけで、精一杯だった。
『これが、もし、実戦だったら……』
 腱や手足をいいように傷つけられ、とっくに葬られている所だ……。
 そう思いながらも、荒野の頬は、緩みっぱなしである。
『流石は、野呂の直系……。
 ……おれより、早いのか……』
 荒野が……攻撃を受け止めるのが精一杯、という相手と対面したのも……随分、ひさかたぶりのことだ……。
 そんなことを考えていると……不意に、静流の動きが、止まる。
「……こ、攻撃を、確実に防御していることは、ひ、評価しますが……」
 静流が、静かに告げる。
「そ、そろそろ……本気を、出してください……。
 か、加納様が……この程度の、筈は……な、ないのです……。
 て、手加減をされるというのは、し、心外、かつ……」
 ……恥辱なのです……と、静流はいう。
『……かなわねーなー……』
 そういわれて、荒野は、心中で静かに嘆息し……そして、腹を、くくった。
「……行きます……」
 静かに告げて……荒野が、動く。
 次の瞬間、荒野は静流の頭上に在った。
 慌てて、静流が、杖で空中の荒野を、払う。
 迫ってきた杖を、片手で掴み、もう一方の手で、力任せにぶん殴る。
 静流の杖が、中に収めていた細剣とともに音を立てて、折れる。
 その動作と同時に、まだ空中にいる荒野の臑が、静流の後頭部を刈る。
 静流は、折れた杖を放棄して、側頭部に二の腕を密着させて、ガード。
 しかし、荒野の蹴りの衝撃を、腕だけで吸収出来るはずもなかった。
 荒野が着地する前に、静流の体が、軽々と吹き飛ばされる。
 荒野と静流は、背丈はほぼ同じ。体重は、荒野の方が、十キロ前後、重い。しかし、荒野の瞬発力は、同じ体重の一般人を遥かに凌駕している。
『……バックステップで、勢いを相殺したな』
 荒野は、着地しながら、瞬時に判断を下す。
 反射神経については、定評のある相手だ。その程度も芸当は、平然と行える……と、見るべきだった。
『……と、なると……』
 距離が、開いた。
 着地すると同時に、荒野は、吹き飛んだ静流へ向かって、殺到する。
 少しでも、静流の、行動の自由を制限しないと……。
『……やべぇ……』
 動きが早すぎて、荒野でさえ、ともすれば、姿を見失いがちになる静流である。一瞬の躊躇が命取りになる。
 荒野は、迷わず距離を詰める、という選択をする。
 しかし、静流の方も、その動きを読んでいた。
 荒野が近づくのにタイミングを合わせ、地面に手をついて、腕の力だけで、体全体を振り回す。カポエイラにも似たモーションだったが、あれよりもダイナミック……というより、「雑」な動きだった。
 目で標的を捉えることができない静流は、正確な居場所を把握出来ない敵を牽制する時の動きは、どうしても大雑把になる。
 それでも、荒野は、静流の奔放な動きに巻き込まれないよう、少し身を引かなくてはならなかった。
 荒野の挙動を感じ取ったのか、静流は、腕の力だけで一挙動に体を起こし、立ち上がる。
 荒野との間に、僅か数歩分の距離が出来ていた。
『……来る!』
 荒野が断定したのとほぼ同時に、静流が、またしても、目の前に来ていた。
 それだけでは、なく……。

「……分裂した!
 いや……影分身ってやつか!」
 どこからか、呆れたような飯島舞花の声が、聞こえた。

 荒野は、高速で動き続けるため、同時に何体も出現したように見える「静流たち」の攻撃を捌くのに、数十秒、忙殺されることになる。
『……なんとか……捌けない……というほどでも……ないか……』
 目で追うと、確実に遅れるが……肌や勘を頼りにすると、以外と、静流の猛攻は、ガードできた。
 それに、速度は、ともかく……。
『……一撃一撃が……軽い……』
 貫通力や破壊力に、欠ける……と、荒野は、静流の攻撃を評価する。
 素手で武器を使用しない、という条件であれば……荒野にとっては、静流は、極端な脅威では、なさそうだった。
 武器を使用する、という条件であれば……そもそも、最初の段階で、荒野は、成す術もなく、敗北している。
 荒野が、今、こうして立っていられるのも……最初に、静流が、杖に仕込んだ細剣を、抜かなかったおおかげだ……。
『……それに……』
 一分も持たずに、静流の分身たちが、たった一体に収束する。収束した静流は、地面に蹲って、肩で息をしていた。
 あんな無茶な動きは……短時間に、体力を使い果たすに、決まっている。派手だけど、使えない技……の、筆頭だろう。
 戦いに勝てても……その後、一歩も動けないようでは……実戦の場では、意味がないのだった。





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彼女はくノ一! 第五話 (187)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(187)

 何かと噂の酒見姉妹は、楓、孫子、ガク、テンがランニングから帰ってきて順番にシャワーを浴び、着替えて居間に集まるころ、ようやくのろのろと起き出して来た。
「……こんだけ人数がいれば、あと一人二人増えても手間はさして変わらないし、材料も、いつも余分に買ってあるから、よかったら食って行けば?」
 昨晩は夕食を断った二人だったが、今朝、羽生にそう勧められると、さすがに空腹をおぼえたのか、ばつが悪そうな顔をしながらも、楓と香也、孫子の三人は学校の制服姿、双子はパジャマ、羽生はどてら……といった、外見上、かなり変な組み合わせで、朝食を一緒に食べることになった。
「……今日は、午前中にお医者さんにいって……」
「買い出しも、人が増えない早い時間にいっときたいから、羽生さん、買っておくものあったら、家出る前にメモしておいて……」
 これは、ガクとテン。朝食の時、今日の予定を羽生に簡単に告げるのが、ここ数日の日課になっている。
 掃除や洗濯、買い物……といった家事に加え、ここ数日は、徳川の工場に出入りもしているので、楓や香也、孫子が学校に通っている時間帯も、ガクとテンの二人はそれなりに忙しい。
「才賀さんは、放課後は、徳川さんの工場に行くといってましたよねぇ?」
 楓がそう尋ねたのは、昨日、香也は、珍しく部活をせず、野外写生に出掛けていたからだ。
「……香也様は……今日は、どうするのですか?」
「……んー……。
 美術室で、昨日のスケッチを、整理しようと、思っているけど……」
 つまりは、通常の部活を行う、ということだった。
「わたしは、茅様のお供で学校に残りますから……では、一緒に帰れますね……」
 楓は満足そうな顔をして、頷いた。
「……ちょ、さ、才賀……さん?」
 双子の片割れが、露骨に狼狽えている。
「その……放課後、行く予定の、工場って……」
「学校での知人で、徳川という変人がおりまして……」
 孫子は、何食わぬ顔をして、説明した。
「この男と、新しい事業を開始するにあたって、必要な打ち合わせがありますので、立ち寄る予定です……」
 その言葉を聞いた途端……双子は、落ち着きなく顔を見合わせたり、視線をあらぬ方向にさまよわせたりしはじめる。
 無理のない話しではあったが……双子は、昨夜の一件以来、孫子に対して苦手意識を持っていた。
「……ね、ね……」
 孫子に話しかけたのとは、別の双子が、小声でそばに座っていたガクに話しかける。
「昨日、約束した工場って……まさか、同じ場所では……」
「……うん。
 同じところ。
 トクツーさんの、工場!」
 ガクは、無邪気を装って、あっけらかんと答えた。
「そこにね……玉木っておねーさんとか、その他、撮影班の人とか、いっぱい来て、ボクたちのこと撮影するの!」
「……さ、撮影!?」
「それ……聞いていないんだけど……」
 双子は、今や覿面に度を失っていた。
 二人でそんなことをいい合いながら、微かに震えはじめている。
「……あら?」
 孫子が、双子に向かって、にっこりと微笑んだ。
「わたくし……あなたがたが、喜んで撮影に協力することを、承諾してくださった……と、テンとガクから聞かされましたけど……それは、何かの間違いだったのかしら?」
「……ううん。
 それで、間違いじゃないよ……」
 テンが、声を張りあげる。
「……このおねーちゃんたち……昨日の夜、ボクたちとやりあいたいって、確かにいったもん。
 だから、ボクたち、慌ててトクツーさんとか玉木おねーちゃんに連絡して、話しを通したんだ……」
「……あら?」
 孫子が、実に芝居がかった仕草で、目をみはる。
「それでは……確かですわね。
 玉木の撮影には、わたくしも私財を投資する予定ですから、こんなつまらない所で躓いて欲しくありませんし……」
 その「撮影」とやらは……なんだかよく分からないが、孫子も一枚噛んでいるいるらしい……と知った双子は、ますます引き気味になった。
 しかし、孫子が係わっている以上……今更、前言を撤回したり約束をすっぽかすことも、できない……。
「……た、確かに、約束しましたぁ……」
「ちゃ、ちゃんと……午後三時に、その工場にいきますぅ……」
 気分は、ドナドナだった。
「かーわいそーなこうしー、うられていくよー」というフレーズが、双子の頭の中でリフレインしている。
 どうやら……悪質なトラップに、引っ掛かったようだ……と、ここに至って、ようやく双子たちも理解しはじめていた。
 楓、香也、羽生の三人は、そうしたやり取りには、「我関せず」を決め込んで、黙然と朝食をかき込んでいる。

「……そうそう。
 撮影も、いよいよ本格的になってきましたなぁ……」
 登校時、途中で合流してきた玉木は、そういって「にしし」と笑った。
「……キャストにも恵まれ、うちの放送部以外に、CGとか撮影で協力してくれる人たちも、ぼちぼち現れて……思ったよりも、本格的な内容になりそうな予感……」
 玉木の説明によると、一部、外部に頼んだ造形関係の人たちから、口コミで「シルバーガールズ」の噂が広まっていて、近県で自主制作をしている人たちが、何名か、協力を名乗り出てきている……と、いう。
 多くは大学生やフリーターだが、中には、ちゃんとした社会人もいる、という話しだった。
「……蛇の道は蛇、マニアの道はマニアに通ず……」
 そういって玉木は、ケタケタ笑った。
「……お金の方は、もう少し待ってくださいね……」
 ご機嫌な玉木に向かって、孫子は報告した。
「今、手持ちの、お金になりそうなアイテムを、オークションに出している最中ですから……。
 もう少ししたら、落札して現金化できると思います……」
「そっちは、ゆっくりやてください……。
 今のところ、手弁当で何とかいけていますから……。
 一番、お金を食いそうだった特殊効果とか画像処理は、あのお子様たちが、いいソフト開発してくれる、とかいってたし……」
 玉木がいう「あのお子様たち」とは、テンとガクを指す。玉木は「あの気難しい徳川が、この二人のソフト開発能力を認めている」という一事をもつて、全幅の信頼を置いている。
「……そういう作業なら、茅も協力するの……」
 珍しく、茅が自発的に玉木に話しかけた。
「……おー。
 ありがとー、茅ちゃんー……。
 愛しているよー……」
 茅が特撮物のファンであることを知らない玉木は、軽く受け流した。
「……今までに編集した映像は、予告スポットとして、今日からオンエアするからー……」
 ネット上と、商店街に設置されたディスプレイで……という、極めて限られた、ローカルな場所でしか放映されない訳だが……最初のうちは、それでいい……と、玉木は、思っている。
 クオリティ的には、かなり自信を持てる出来になっているので……最初のうちは小出しにしていっても、徐々に口コミで話題になるだろう……と、計算をしていた。
「……ノリちゃんも、今週末には、一足先に帰ってくるそうでし……」
 楓が、そう付け加えた。
「真理さんは、もう一週間、いろいろと回ってくるそうですが……」





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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(103)

第六章 「血と技」(103)

 その夜は、野呂静流と酒見姉妹の顔見せを兼ねた歓談となった。
 途中、新参の三人には構わず、茅や孫子が現在抱えている案件の話しをしだして、こちらの事情にまだ明るくない三人を戸惑わせたりもしたが、そうしたやり取りの末、三人も多少は打ち解けたようだった。
 特に静流は、目の障害があり、吃音もあるものの、特に卑屈に振舞うこともなく、ゆったりと寛いでいるように見えた。酒見姉妹の方は、どうみても静流ほど無邪気には見えなかったが、それでもなにかと騒がしい連中の中で、徐々に構えを解きだしているのは、荒野にも肌で感じられた。
『基本的に……同じような年頃だしな……』
 酒見姉妹は、移住者リストに記載されていた者の中でも、比較的癖の強い方に分類されている。その姉妹が、初対面で、戸惑いながらもこれほどペースを崩されているのが、荒野にはおかしかった。
『反発や摩擦は、あっても、いい……最終的に、丸く収まるのなら……』
 と、思う、荒野だった。
 もともと、一族の中には、一定の割合で、何かと口実を設けては「実戦」に及ぼうとする、血の気の多い連中が存在するのだ。どうせ避けられない衝突なら、適度に発散する機会と相手を与え、少しでもコントロールしようとする方が……まだしも、現実的に思えた。
『……そうなると……』
 そうした血の気の多い連中を、何かと手段を講じて、玉木たちの「撮影」に協力させる……というのも、ひとつの手かも、知れない……。
 とか、荒野は思いはじめている。

 翌朝、いつものように、多人数でランニングに出かけると、テンがちょうど荒野が考えているのと同じことを提案してきた。
 酒見姉妹が、自分たちに興味を示しているようなので、今日の放課後、徳川の工場内で、玉木たちの撮影隊の監視の元、模擬戦を行いたい……との、ことだった。
「……ま、いいんじゃねーの……」
 内心では、テンの方からそういってきたことに驚きながらも、口に出した荒野の返事はそっけなかった。
「あいつら……おれたちにどうこうするほどの実力は、ないけど、なんかの間違えで、一般人に襲い掛かるようにでもなったら、それなりに脅威ではあるし……お前らなり才賀なりが、あの二人を抑えられるのなら、こちらとしては、むしろ歓迎したいくらいなんだけどな……」
「……ねーねー。かのうこうや」
 ガクが、あっけらかんとした口調で、荒野に語りかけてきた。
「あの二人、ってもしかして……権威とか力に弱いタイプ?
 そんでもって、弱いものいじめが好き、とか……」
 一応、「問いかけ」の形をとってはいる。
 が、ガクの表情をみれば、わかりきった事実を念のために確認している……つもりであることは、明白なようだった。
「……ああ。そんなもんだ……。
 あいつら……下手すると、ガクよりも、分かりやすいからな……。
 やはり、普段の態度でわかったか……」
 荒野は、これにもあっさりと頷く。
 その意味で、あの双子は……荒事以外に、あまり使い道がない人材でもあるのだ。
「……なんか、聞いていると、さいてーなんじゃないか?
 その子たち……」
 横合いから、飯島舞花が口を挟む。
「……うーん。
 あれでも、使いようによっては役に立つし……それに、一族の中には、もっと毒気が強いのもごろごろいるし……」
 荒野は、考え考え、答える。
「……おれたちは、どう転んでも正義の味方なんて代物ではないし、毒を制するためにの毒を、あえて内部に抱え込んでいる、という部分もある。
 暴走して、コントロール不能になった毒を始末するための機構も、ちゃんとある……」
「最強」である荒神に声がかかるのは、そうした「コントロール不能になった毒物」が、ある程度以上の実力を持っている時だ。
 だから、荒神が仕事らしい仕事をする時は……「一族の上層部」が、依頼主であることが、多い。
「……一族、とかのことは、知らないけど……」
 舞花は、荒野が考えていることなどは当然、知らず、先を続ける。
「……おにーさんは……そういう、もっと危ない人たちが、もっと大勢、この町に入り込んできても……ちゃんと、コントロールして、おとなしくさせておけるの?」
 舞花の疑問は……端的に、問題の本質を衝いている……と、荒野には思えた。
「……まず、たいていの連中は、今、この場にいるやつらの敵ではない……」
 荒野は、ゆっくりと、自分に言い聞かせるように、答える。
「それに……おれもいるし……。
 それでも危ういようだったら、静流さんや、いやだけど、荒神に、頭を下げる……」
 野呂静流や二宮荒神でも、対抗できない存在なら……そもそも、荒野たちがいくら騒いだところで、もはやどうにもならないのだが……。
「……おにーさんが、そうやって思いつめた顔をして、ゆっくりしゃべる時は……難しいけど、善処する……って、ことなんだよな……」
 舞花は、しばらく荒野の顔をじっと見つめていたが、しばらくして、軽く息をついて、視線を外した。
「……まあ、なんとかなるでしょう……。
 今までだって、なんとかなってきたし……」
 舞花は、おどけた軽い口調でそういって、肩を竦めた。

 荒野たちがいつものように橋を渡り、河川敷に降りる前の、土手の上の、遊歩道に……犬を連れ、白い杖をついた、若い女性がぶらぶらと歩いていた。
『……偶然、ということは……ないな……』
 野呂静流、だった。
 荒野は、足を止めて、昨夜、静流と会う機会に恵まれなかった人々に、軽く紹介をする。
 静流という存在について、なんの予備知識もない舞花は、通り一遍の挨拶をし、静流が何者か知っている、一足早くこの町に来た四人組みは、「おい! 本当に最速だよ! パーフェクト・キーパーだよ!」とか、こそこそ囁きあいながら、しゃちほこばって自分の名を名乗る。
 静流は、名乗った人々の名前を律儀に一通り復唱してから、周囲を見渡して、やんわりと微笑んだ。
「……こ、ここへは、呼嵐のお散歩で、と、通りかかったんですけど……き、昨日の、夜の話しでは、みなさん、ここで、か、軽いトレーニングをするそうですが……。
 で、できれば、わ、わたしも……そ、その……最強のお弟子さんと、す、少し、う、腕を、試してみたいな……って……。
 あ、あくまで軽く、ですけど……ほ、本気は、出さない程度で……」
 何とまあ……「最速」の腕試しに、付き合えといわれてしまったよ……と、荒野は、他人事のように、ぼんやりと考えた。
「……荒野!」
 茅に、軽くわき腹を小突かれて、はっとわれに返る。
「……あっ、わっ……。
 はいっ。軽く、腕試し……は、いいんですけど……ここには、荒神の弟子が、約二名ほど、おりますが……どちらの弟子を、ご所望でありましょうか?」
 荒野も、軽く取り乱していた。
「……あっ。
 そ、そうでした……今は、二人目のお弟子さんも、い、いたのですよね……。
 そ、その、はじめの弟子の、加納荒野君を、ご、ご所望するのです……」
 こうして荒野は、「最速」直々に、ご所望されてしまった。




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彼女はくノ一! 第五話 (186)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(186)

 酒見姉妹も、加納茅、それにテンやガク、などの「新種」については、漠然とした噂程度は、聞いていた。
 六主家の遺伝子情報を元にして合成された、人間。
 その能力は、六主家本家筋を凌駕するとも、未だ未知数ともいわれ、各説が入り乱れている状態で、はっきりとした定説はない。
 荒野は、彼らを保護し社会に溶け込ませるために、かなりの無理をして、この地に「一般人として」定住する努力をしている……とも、聞いている。
 そうした噂を聞き、なおかつ、いくつかの情報源に確認して、それが事実であるらしい……と、確認したから、来たのだ。
 問題は……今、布団を抱えて部屋には行って来た二人から、手練れの術者特有のプレッシャーを、微塵も感じられない……ということだった。

 もう少し、年期の入った術者なら、ことさらに己が力量を誇示したりせず、気配すらも一般人並……に、抑制して過ごそうとするものであるが……十代二十代の「若造」は、むしろ逆に、周囲に対して威圧感を振り撒こうとする傾向が、ある。ことに、同じ一族同士、ということになれば、その傾向は、なおさら強くなる……と、双子は、考える。
 もっとも、以上の「考え」は、双子が、自分たちの内面に照らし合わせてそうと断定しているだけのことであって、かなりの偏向を抱えているのだが……。

「……ね。
 あなたち……遺伝子操作で、合成された人間、って……本当?」
 単刀直入にそう尋ねたのは、妹の粋だ。しかし、テンにもガクにも、双子を固体識別することはできなかったので、この時点では、彼女を「双子の片割れ」と認識している。
「当たり前の話だけど……ボクたち、自分たちが生まれる前の記憶を持っている訳ではないから、その意味では、なんの確証もないんだけど……」
 テンは慎重に、そう答える。
「……長老とか、一族の偉い人たちは、そういっている。
 ボクらのような子供に嘘をつく必要はないし、それに、ボクたちの現在の能力を説明する理由には、なっているから……かなり高い確率で、本当のことだと思う……」
 このような微妙なやり取りをする時は、「ガクは黙っている」という取り決めが幼い頃よりできあがっているので、ガクは口を閉じて、しかし、興味深そうな顔をして、成り行きを見守っている。
「……そう……。
 あなたたち、そんなに……凄い能力、持っているの……」
 感慨深げに答えたのは、双子のうち姉である、酒見純である。もっとも、テンとガクは、「二人のうちのもう一方」としか認識していない。
「じゃあ……ひとつ、わたしたちと、やってみない?」
 さりげなく観察していたガクは、この瞬間、姉妹の目つきが妙に鋭くなったのを、見逃さなかった。
『なる……こういう人たちか……』
 ガクは、双子の表情の変化に気づかない振りをしながら、さりげなく観察を続ける。
「……おねーちゃんたち、二対一で? それとも、二対二で?」
 テンは、後ろに廻した手でガクを制しながら、無邪気な表情を作った。
「……実は、ボク……三人の中では、一番弱いんだよね……。
 そんなボクでよかったら……明日の朝一でやってもいいけど……ボクたち、毎朝、河原で走り込みとか軽いトレーニングとか、しているし……。
 でも、ガクの怪我も、もうほとんど治りかけだから……明日、お医者さんに診てもらってOKでれば、本気で動けるそうだから……夕方まで待ってもらえれば、万全の体制で、タッグマッチできるけど……。
 その……知り合いの工場の中使わせてもらえば、結構、中広いし、ボクたちのこと知っている人だし、それに、外から見えないし、存分に、やりあえるけど……」
 気弱な笑顔を浮かべながら、テンはもじもじとしおらしい様子を故意に見せつけながら、双子を自分たちに都合のよい条件へと誘導していく。
「ボクは、三人の中で一番弱いし……ガクは、病み上がりだし……おねーちゃんたち相手に、一人づつだとちょっときついから……うん。できれば、だけど、ちょうど二対二で、人数もぴったりだし、明日の夕方、タッグマッチということにしてくれると、嬉しいかな……」

 酒見姉妹は、テンの芝居に気づかないまま、満面の笑みを浮かべながら、テンの出した条件をすべて飲み込んだ。
 二人の部屋から出て、少し離れると、ガクはジト目でテンを睨みながら、
「……この……悪党……」
 と呟いた。
 テンの方は、そ知らぬ顔で、玉木と徳川にメールや電話で、明日の放課後から、「シルバーガールズ」の臨時撮影が入った、という連絡を入れはじめる。
「……ガク、手を余しているのなら、孫子おねーちゃんところに、声をかけてきて……。
 大事なスポンサーなんだから、こういう大事なことは、真っ先に伝えないと……」
「……はいはい……」
 ガクは、方をすくめながら、孫子の部屋に向かった。

 翌朝、ガクとテン、楓や孫子が早朝のランニングにでる時間になっても、酒見姉妹は起きだしてこなかった。早起きの習慣がないのか、それとも……。
「……昨夜のダメージが、まだ抜けていないのではありませんこと……」
 というのが、孫子の意見だった。
 ガクとテンは、河原に向かって軽く走りながら、荒野に、昨夜の双子とのやり取りを報告した。
「……ま、いいんじゃねーの……」
 荒野の返事は、そっけなかった。
「あいつら……おれたちにどうこうするほどの実力は、ないけど、なんかの間違いで、一般人に襲い掛かるようにでもなったら、それなりに脅威ではあるし……お前らなり才賀なりが、あの二人を抑えられるのなら、こちらとしては、むしろ歓迎したいくらいなんだけどな……」
「……ねーねー。かのうこうや」
 ガクが、重ねて尋ねる。
「あの二人、ってもしかして……権威とか力に弱いタイプ?
 そんでもって、弱いものいじめが好き、とか……」
「……ああ。そんなもんだ……」
 ガクの質問に、荒野はあっさり頷いた。
「あいつら……下手すると、ガクよりも、分かりやすいからな……。
 やはり、普段の態度でわかったか……」
「じゃあ……しょっぱなに、出鼻をくじいておいた方が、いいね……」
 テンも、頷く。
「そうして貰えると、正直助かるけど……あまり、やりすぎるなよ……」
 荒野は、あまり熱心に、ではないものの、立場上、やんわりとたしなめておく。
「もちろん、加減はするよ……。
 でないと、あんな細い人たち、あっという間に壊れちゃうもん……。
 それに、シルバーガールズは、正義の味方にするんだから、弱いものいじめはできないし……」
「……念のため、わたくしも、見学に行ったほうがよろしいかしら?
 歯止めにはなるだろうし……それに、撮影にも、無関係ではないですし……」
 孫子は、荒野に向かって、そういう。
「ああ……そうしてくれると、助かるかな……」
 これにも、荒野は頷いた。
「おれが行くのが一番いいとは思うんだけど……今日は、部活があるし……」




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(102)

第六章 「血と技」(102)

 シルヴィの、「どう解釈したらよいのか迷う誘い」には、適当に言を左右にして逃げをうっておいて、マンション前で別れ、自分たちの部屋に戻ると、キッチンで、メイド服の茅と野呂静流が肩を並べて調理をしている所だった。
 目が不自由だという静流は、包丁を使ってキャベツの線切りをしている。見ていて危なげのないしっかりした手つきで、しかも、包丁を動かす手が異常に早かった。あっという間に、わずか数十秒という時間でキャベツの一つを切り刻み終え、切ったものをボウルにほうり込み、次のキャベツを掴む。調理に慣れた健常者の調理人でも、これほど早い者は少ない筈であり、下手をすると、フードプロセッサよりも、早い……。
『……流石は、最速……』
 荒野は、妙な所で感心した。
 茅は静流に包丁を使わせている間に、煮魚や豚汁をみたり、ドレッシングを作ったりしている。胡麻を摺ったものと若干の調味料を合えた、オリジナルのドレッシングだった。まろやかさの中に、ピリ辛風のアクセントが加わり、食が進む。
 シンプルで、栄養のバランスもそここそ良く、飽きがこなくて、量がたっぷりとある、という荒野好みのメニューで、これだけ同居生活が長くなってくると、茅も流石に荒野の好みを学んでいた。

 茅や静流も女性にしてはよく食べた方だが、荒野は二人合わせた量のさらに倍ほど、都合四人前相当を平らげ、すっかり満足した所で、食後のお茶、という段になってと、荒野は、二人に、
「……お隣りで、みんなと一緒にお茶にしよう……」
 と、提案した。
 もともと、そのためにマンドゴドラでケーキを調達して来たのだ。
 酒見姉妹も、そろそろあそこになじみはじめている頃かも知れない。
『……あそこ家の人たちは……』
 滅多なことでは動じないし、順応能力も高い。
 双子にしてみれば、あんな「一般人家庭」に接するのははじてめてのことだろうし、今頃、かなり戸惑っている筈だ……と、荒野は予測した。
 荒野の提案を茅がすんなりと受け止めたのは当然だったが、静流も、荒野たちがかごく簡単に説明すると、狩野家の様子に興味を持ったようだった。
 そこで、ケーキの箱を抱えて三人と一匹でお隣りに向かう。静流が連れていた精悍な面構えをした犬(静流は「こらん」という名前だ、と教えてくれた。どういう字を書くのか、それとも外国語なのか、ということまでは話してくれなかった)はやはり盲導犬で、躾が行き届いていた。
 当初、茅が「こらん」を家に上げ、ミルクでも与えようとしたが、
「……よ、よそさまのお家にお邪魔する時は、餌を与えないはもちろんのこと、い、いつも玄関先で待たせるようにしているのです……」
 と、静流は説明した。
「こらん」は、静流の命令しか聞かないし、静流の与えた餌しか、口にしない。
 まさに、「静流の」犬、だった。

「静流の犬」こらんは、狩野家でも荒野のマンションでと同じように、玄関に座り込み、そこから動こうとはしなかった。
 荒野は、ケーキの箱を出迎えたガクに渡す。
「……これ、盲導犬ってやつ?」
 挨拶をする前に、ガクはそういって、座り込んだ「こらん」を物珍しそうに、しげしげと眺めた。
「……そ、そうなのです。
 こ、こらんは、わたしの犬なのです……」
 静流が、どもりながら、しかしはきはきとした口調で、ガクの方に体をむけて、答える。
「……あ。おねぇさん……目が……」
「は、はい……。
 まるで、みえないのです……」
「……ふーん……。
 そういうヒトも、こういう犬にも初めてあった……。
 ボクは、ガク。茨木、岳……」
「の、野呂の、静流、なのです……」
「野呂、かぁ……。
 じゃあ、おねぇさん、足が早いんだ……」
「……あ、足は、それほどでも……。
 こ、この目ですから、危なくて遠くまで勝手に走れませんし……。
 で、でも……ち、近場では、こ、これで、なかなかのものなのです……」
「……ああ。
 そんな感じだ……おねぇさん……ちっとも、動揺していない……」
「……ガ、ガクさんも……全然、汗の匂いも、心拍数も……変わらないのです……。
 お、大物の、気風を漂わせているのです……」
「……そっか、おねぇさん……目の変わりに、他の感覚が鋭いのか……。
 ボクは、鼻だけだけど……それだと、そこのこらん君程度でしかないな……。
 ……ね?
 おねぇさん、そこのこらん君の名前、どういう字、書くの?」
「……あ、嵐を呼ぶ、と書いて、呼嵐、です……。
 ち、父が、そう、名付けたのです……」
 玄関先で、さっそく話し込むガクと静流。
 意外に、この取り合わせは、馬が合うらしい……と、荒野は思った。
 結局、荒野が、
「……ま、こんな所で長話もなんだから、中に入って……」
 と、頃合いを見て即さなければならなかった。

 居間に通されると、風呂あがりの孫子が妙にさっぱりとした表情で、食事をとっている最中だった。
 メニューは、焼き魚とインゲンの和え物にみそ汁。
 玉木との付き合いができてからこっち、海産物の摂取量が多くなったのは、こちらでも同様らしい。
 他の住人はすでに食事を終えたらしく、楓が台所で洗い物をしている気配がした。テンが、炬燵の上にノートパソコンを広げており、香也はすでにプレハブに籠っているのか、姿が見えなかった。
 ティーセットの入った箱を抱えた茅が、例によってすたすたと台所に姿を消す。文字通り、「勝手知ったる」という奴だった。
「……双子は?」
 荒野が、誰にともなく、たずねる。
 あの二人が、「権威や強者にはとことん弱い」という気質であることは、資料から見ても明らかであり、この家の人々と荒野が親しくしている、ということを早いうちに見せつけておけば、少なくとも、ここの人たちと無用のトラブルは避けられる筈だった。
「まだお風呂ですわ。
 ……すぐ、来ると思いますけど……」
 着ていた服がボロボロだったので、楓と孫子の服を着替えに渡しておいた、という。
「……ま、いいか。
 ケーキ、もって来た……。
 バレンタインなんとかスペシャルと、普通の。
 特製ケーキは、おれたちはもう食べているんで、ガクとテンが食べていいよ……」
 荒野がそういった途端、
「……えー!」
「……ずるい!」
 パジャマ姿の酒見姉妹が、どたどたと居間に入って来た。
 風呂あがりだから、二人とも顔が上気している。
「……お前ら……。
 下手すると……ガク以上に、単純な思考回路しているな……」
 半ば飽きれながら、荒野がそういうと、
「……ボク……このおねぇちゃんたちほど、食い意地張ってないし……」
 これみよがしに、ガクが膨れてみせた。
「……お前ら……ガクよりも、意地汚いってさ……」
 今度は、荒野がそう、酒見姉妹に水を向ける。
「……だって、ガク……。
 その、マンドゴドラのバレンタインスペシャル、昨日、一人でいくつも食べてたし……」
 それまで黙々とノートパソコンに向かっていたテンが、種を明かした。
「……昨日、みんなの注意がカニに向かっていたことをいいことに、ガク、ケーキをほとんど独り占めしてたんだ……」
「……つまり……双子とガクは、食い意地に関しては、どっこいどっこいということだな……」
 荒野は、もっともらしい顔をして、そう結論した。
 ……結論が出たからといって、、どうだということもないのだが……。

「……お茶が、はいったの……」
 その時、茅が、ティーポットと暖めたカップを持って、居間に入って来る。

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彼女はくノ一! 第五話 (185)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(185)

 野呂静流や酒見姉妹がいても、楓や茅、孫子たちは特にいつもと変わった態度をとるということもなく、普段どおりの打ち合わせを続けて行く。時折、静流なり酒見姉妹なりが、質問を挟むが、何度か質疑応答を繰り返すうちに荒野たちがこの土地で行っていることの、構想の大まかな輪郭を掴んでいく。
 静流にせよ、酒見姉妹にせよ、決して、理解力に劣る訳ではない。しかし、特に酒見姉妹は、理解が深くなるにつれ、関心を通り越して呆れ返って来たようだ。
「……それって……この地域を、丸ごと作り替えちゃうようなもんじゃないですか……」
 そういったのは、姉妹のうちどちらか……俄かには、判断できない。
「それはそう……なんだけどな……」
 荒野は、眉間のあたりを指で揉んだ。
「どちらかというと……おれたちの方が、引っ張られているような感じで……おれたちをネタにして、周囲のやつらが騒いでいるうちに、こうなってしまったんだ……」
 以上は、もちろん、荒野の感想である。
「……あら?
 少なくともわたくしは、自分の意志で、基本方針を選択していますけど……」
 孫子が、荒野に異を唱える。
「他の方に命令されて動く趣味はありませんので……」
「……そうかも、知れないけど……。
 それでも才賀だって、徳川とか玉木とかがいなかったら、今とは違ったことをやってだろうし、結構……引きずられている……という言い方が悪ければ、影響を受けている所も、あるんじゃないのか?」
 例えば、出会った頃の孫子なら……こうして、みなと談笑していられるだろうか?
 ……と、荒野は思った。
 しかし、孫子には、自分の変化に対する自覚はあまりないらしく、怪訝な顔をしている。
「……で、でも……皆さん、若い方ばかりなのに……、こ、ここまで自分たちで、やってしまうのは……す、すごいと思います……」
 静流が、さりげなく話題を変えた。
「……あー」
 羽生譲も、頷く。
「……たしかに、身近にいすぎると、それが当たり前になって驚きがないけど……確かに……こーちゃんたちの年頃って……普通に考えれば……保護者の承諾なしには、なんもできない年齢なんだよなぁ……。
 それに……仮に保護者の承諾とか監督があっても……自力で何かできるほどの知識とか能力、持っている子って、少なかろうし……。
 徳川君とかタマちゃんとか……ここにる子たちばかり見ていると……普通の感覚、忘れそうになる……」
「……そんな、もの……ですか?」
 今度は、楓が首を捻る。
 学校の同級生たち……例えば、柏あんなや堺雅史、牧本さんなどの同級生を思い返してみて、養成所で仕込まれたような「特殊な技能」を除いて、精神的な成熟度という点では、楓自身と、さほど変わらないような気がする……。
「……いっちゃあなんだが、わたしが君たちの年頃の時っていったら……。
 世間知らずで何にもできない、単なるヲタだったぞ……」
 羽生は、周囲を見渡して、頷いてみせる。
「……世間知らずっていうか……」
 テンが、背を丸めながら、呟く。
「この世界のこと自体……ボクらは、よく知らないんだけどね……」
「おれ……まだ、日本のこと、よくわからなくなること、ある……」
 荒野も片手をあげる。
「……わ、わたし……目が見える方にとっての、この世界のこと……」
 野呂静流が、おずおずとそういいだした。
「……よ、よく想像できないのです……」
「……んー……。
 ぼくも、絵のこと以外は、全然知らないし……この町の外に出たことも、数えるほどしかないけど……」
 香也が、のほほんとした口調で言った。
「今の所……それで特に、困ること、ない……」
「……そもそも、最近まで人里にいなかった茅ちゃんとかテンちゃん、ガクちゃんたちは極端な例ですけど……」
 楓は、考え考え、「世間知らず」論についての自説を述べる。
「真理さんとか、羽生さんとか……この家の人たちも、学校の方々も……皆さん、親切ですから……それで、かなり助かっていると、思います……」
「……また……」
 茅が、その先を続けた。
「そういう人たちでなければ……荒野も、無理して残ろうとは、思わなかった筈なの……」
 そんなことを話している間に、香也が、
「……んー……。
 そろそろ、いいかな?
 ほかに用がなければ、プレハブに、帰りたいんだけど……」
 いい時間になり、その夜はお開きということになった。
 荒野と茅、それに野呂静流が帰っていき、風呂にまで入った酒見姉妹は、結局、そのまま泊まることになった。
 羽生が、「夕食まだなら、ありあわせで何か作るけど……」と申し出たが、酒見姉妹は、「ケーキを食べたし、夜遅くに食べすぎると太るから……」といって、断る。
 しかし、どう見ても……姉妹は、背も低いし痩せすぎで、実年齢より軽く三歳は下に見えた。

「……何なの、ここ……加納や才賀、最強の二弟子……」
 与えられた空き部屋に案内され、二人きりになると、途端に酒見粋が、姉にこぼしはじめる。
「最速と、最強……それに、得体の知れない、子供たちまで……」
 酒見純が、続ける。
「……何から何まで、気に食わないけど……」
「でも……一般人ははじめっから除外、としても……」
「今日、いた中では……」
「……あの、子供たちが……」
「でも……得体が知れない……実力の、見極めが……」
「それは……一度、手合わせしてみれば……」
 二人は、顔を寄せ合って、小声でぼそぼそと囁き合う。
「わたしたちが、一番下っ端、と、いうのも……」
「……何か、口実をもうけて……」
 二人きりになると、こうして、他人には聞き取れないないような小声で、その時々に考えていることを述べ合うのが、この双子の習性となっている。
 話し合いをしている……という、自覚はない。ただ、そうしていると、どこまでが純の考えで、どこからが粋の意見なのか……その境界が、判然としなくなってくる。
 独り言をいっている、という自覚も、意見を交換している、という意識もなく……二人で、思考をシャフルし、価値観を平準化しているようなものだった。
 二人の挙動や表情が非常に似通っているのは、遺伝的な要因もさることながら、こうした「ブレイン・ストーミング」を、物心ついた頃から頻繁に繰り返しているせいでも、あった。

「……おねーちゃんたち! 今、ちょっといい?
 お布団、持ってきたんだけど……」
 二人がぼそぼそと話し合っているところで、布団を抱えたテンとガクが、襖をあけて入ってきた。
 話し合いに夢中になっていた双子は、ぎくり、とした顔をして、入ってきたテンとガクの方を振り返った。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(101)

第六章 「血と技」(101)

 孫子とともに酒見姉妹を狩野家に送り届けた後、荒野は、その足でマンドゴドラに向かって「売れ残りのケーキを下さい」といって、マスターに微妙な表情をさせることになる。
 その時刻、茅と二宮静流の二人が、共同で夕食を調理中であり、荒野としては、時間を持て余していた。静流は目が不自由とは思えないほど、てきぱきとした動作でキッチンを動き回り、茅と談笑しながら、仲良さそうに、食事を作っていた。はっきりいって、荒野がはいりこむ隙がないように、思えた。
『……茅のことを考えれば……』
 これでいいんだよな、と、荒野は思う。
 一抹の寂しさを感じない訳でもなかったが、荒野はもともと、茅は、もっと多くの人と触れ合うべきだと、思っていた。
 気づけば……茅は、学校でも、ボランティアやコンピュータ・システム回り、それに、自主勉強会の準備などを通じて、多くの生徒と知り合い、頼りにされており、狩野家の三人娘にも、何故か一目置かれている。
 荒野が特に心配するまでもなく、気づけば茅は、多くの、多様な人々と触れ合いっており、また、頼りにされる存在にも、なっていた。
『……茅の周囲だけをみれば……』
 物事は、いいほうに転がっている……ように、思える……。
『……後は……』
 現在の状況を、継続的なものにするために、何ができるか……ということを、荒野は考えれ、実行しなければならない……。
 流入してくる一族の問題は、さておき……。
『……一番のネックは……ヤツラだよなぁ……』
 荒野の脳裏に、ガス弾の事件が蘇る。
 より鮮明に思い出すのは、佐久間現象の記憶を覗き込んだ茅が描いた、似顔絵だったが……。
『どうやって……やつらの先手を取って行くか……』
 この時点で荒野は、敗北する可能性をまるで考慮していない。
 やつらがどういう悪辣なことを行おうとも、実力で阻止する。万が一、阻止行動に遅れをとって間に合わなくとも、能力の及ぶ限り、被害を回復させるように、努める……。
 有働が前に指摘した通り、無差別テロを事前に察知し、十割阻止する……ということは、どんな組織にも不可能な事だったが……それでも、出来る限りのことをする、という選択肢は、残されている。
 そして、荒野が、この土地から逃げない……という選択をした以上……たとえ、この先、現実に少なからぬ被害が出たとしても……荒野は、そこから逃げない、と覚悟を決めている。
 実際に被害が出た時は……おそらく、今ほど、快適な生活は、いとめない。あちこちで白眼視される、筈だったが……それでも、ここに踏みとどまって、少しでも被害の埋め合わせをして、過ごすことになるだろう……。
 現状で、荒野が想定する「敗北」とは、この場から逃げ去ることであり、「完全な勝利」は、以前、宣言したように、対一族用の兵器として育てられた子供たちを一人残らず捕らえ、洗脳を解き、社会復帰させること。その中間に、いくつかの「不完全な勝利」のパターンが存在し、「多大な被害を出して、残りの生涯を埋め合わせに捧げる」とか「敵の子供たちを、死傷させてしまう」、同様の別ベクトル・パターン、「仲間を、死傷させてしまう」などの可能性が、様々に想定できた。
 が……。
 いずれにせよ、荒野は、「逃げ出さない限り、敗北ではない」と定義している。
 そして、「できるだけ、きれいに勝ちたい」とも。

『……そのために、今、おれにできることは……』
 茅、楓、孫子、テン、ガク……荒野の仲間たちは、それぞれの方法で、襲撃に備えはじめている。地元とのネットワークを密接なものとし、経済的な基盤を固め、消耗品の補充機構を構築し、戦力の増強を図っている。
 規模こそ小さいが……国家が、仮想敵国を想定して、戦端を開く準備をしている……様子の、ミニチュア・サイズ版、ともいえた。
 そうした中で、流入してくる一族の世話、の他に、荒野にできること、は……。
『……情報収集、か……』
 荒野の立ち位置では、今はその作業に集中するのが、適切に思えた……。

「……はぁーい!」
 荒野がそんなことを考えていると、夜道の向こうから、シルヴィ・姉崎が歩いてきた。
「この間の返事……もらいに、来たの。
 カヤとは、十分に話し合う時間があったでしょ?」
 このタイミングで、偶然、ということは、ない。
 この前の申し出を、荒野が十分に検討する期間を置き、なおかつ、一人きりになる時期を狙って、姿を現したのに、違いない。
「……ああ。うん。受ける。
 茅と話し合った結果、そういう結論になった……」
 荒野は、出来る限りそっけない口調で伝えた。
 一時期、兄弟として暮らした事がある相手と、こういう話し合いをしているのが……どことなく、こそばゆい。
 シルヴィを、いまさら異性として意識する……というのは、実に、奇妙な気分だった。
「……All right!
 予想通りの、結論ね……」
 シルヴィは、荒野と肩を並べて歩きながら、快活な様子でそういった。
「……カヤは、賢い……。
 損得が解る、いい子……」
「……それは、いいけど……」
 荒野は、今一度、確認した。
「見返りの方は、確かなんだろうな……」
「……姉崎の名にかけて、誓うね……」
 シルヴィは、笑いながら自分の胸に手を置いて、宣誓した。
 不信と不誠実とが平然とまかり通る世界だからか……六主家に連なるものが、自分の属する家名にかけて「なにか」を誓うことは、かなり重要な意味を持つ。
 そうした誓約を一度でも違えれば……他の六主家から、完全に孤立する……ような、システムになっているのだ。
 この世界なりの、最低限の「安全保証」だった。
「……bad kidsは……姉崎にとっても、都合がいい存在ではない……。
 コウたちが始末してくれるのが、一番、ケーザイテキね……」
 ネイティブなみの流暢な日本語も話せる筈なのに、シルヴィは、時折故意に、おかしなアクセントでしゃべる。
「悪餓鬼ども、か……」
 荒野は、つぶやいた。
「いい、呼称だな……」
「……そのワルガキのインフォメーション……コウに、あげるよ……」
 シルヴィは、チロリと自分の口唇を、なめた。
「……今度の週末とか、どう?」
「……いいけど……」
 荒野は、頷く。
 ここまで話しがまとまってしまえば、拒否する理由がない。
「あの……お手柔らかに……特に、一度に多くは、できない。
 回数的に……」
「……Why?」
 シルヴィが首を傾げる。
「コウ……若いのに……」
「……茅がつけた条件がな……。
 シルヴィとやった後、その二倍とか三倍、やらなくっちゃいやだってことで……」
 荒野が素直に答えると、シルヴィは、破顔し、首をのけ反らせて大笑いした。
「……はっ……はっ……。
 カヤ……nice!」
 シルヴィはたっぷり三分くらい笑って、ようやく息を整える。
 そして、不意に真顔になり、
「……コウ……実は、姉崎秘伝の、とっても良いドラッグが、あるんだけど……」
 といった。

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彼女はくノ一! 第五話 (184)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(184)

 香也の絵を取り込み、それを3D化したものをテンはノートパソコンに表示させた。茅にみせて、細かい部分を修正してもらう。予想図の方はともかく、佐久間現象の記憶の中の像と、現在の再現データを照合することには、意味がある……と、荒野たちは、思った。
「……服装や髪形で、印象もかなり変わるからね……。その点、骨格は、整形でもしない限り、あまり変わらないし……」
 ガクは、真剣な顔をして画面を覗き込みながら、そういう。
「……一度モデリングしてしまえば、機械的に、このデータに近い人をチェックするのは、簡単だよ……」
「……モニターする装置があれば、の話だけど……」
 テンが、そう続ける。
「でも……徳川さんで作っている、監視カメラ、もうかなりいい所まで仕上がっているらしいし……」
「……そう。後は、ソフトの微調整だけ……。
 製品かの前のテストと称して、この周辺に、無料で一万個くらいばらまいて設置する作業が……うちの会社の、初めて受注する仕事になる予定です……」
 孫子が、答える。
 登記も、事務所の設置もまだなのに、口約束で仕事が入っているのであった。
「……玉木のねーちゃんが、バレンタインイベントの後片付けをしてもらいたいとかいってたけど……どっちが先になるのかな……」
 ガクが、首を捻る。
 シルバーガールズの撮影に協力している関係で、テンとガクは玉木と話す機会が増えている。
「受けられるものは、どんな仕事でも受けますとも……。
 今週中に、事務所の開設と登記も、形になりそうですし……後は、登録者集めですね……」
「……な、なに?」
「先から、なんの話しなの?」
 話題にもノリにもついていけない酒見姉妹は、しきりにそんなことをいいながら、身内の話しをし続ける人々を見回している。
「話すと長くなるし、そのうちいやでも思いしるだろうから、今、詳しくは説明しないけどな……」
 荒野は、酒見姉妹に、しみじみとした口調で説明した。
「……世の中は広くて、一族以外にも、特異な才能や能力を持った奴が、いくらでもいるっていうこった……」
 荒野のその言葉は、なんだか知らないが、有無を言わせぬ説得力を持っていた。
「……は、はい。
 い、一族以外にも、よ、世の中には、さまざまな才能を持った方が、い、いっぱいいるのです……」
 そういったのは、野呂静流である。
「……わ、わたしは、この前まで、東京にいたのですが、あ、あそこには、パ、パートタイムの殺し屋さんとか、飲食店を経営している魔女さんとか、無理やりほつれた物語を終わらせる、デウス=マキナな人がいたりするのです……」
 唐突、かつ意味不明な言辞だった。
「……東京に、静流さんのユニークな知り合いの方々が多くいることは、分かりました……」
 そこで、荒野は、軽くいなして本題に戻すことにした。
「……で、この町にも、外見小学生な保健室の先生とか、マッドサイエンティストな学生とか、自称女子アナ希望のお調子者とか、これまたいろいろなやつらがいて、そいつらの連鎖反応でいろいろなことが同時進行で起こっている……最中な、わけだ……」
 もちろん、この土地の現状に詳しくない酒見姉妹と野呂静流に、説明している。
「……そ、そう、その、小さい、保健の先生なのです……」
 野呂静流は、意外な指摘をした。
「……居酒屋を経営している魔女さんから、お正月に、子供にしか見えない女の方と、デウス=マキナな人が、魔女さんのお店で、いろいろと興味深い話しをしていた……と、聞いていたのです。
 そ、それで、この土地に、興味を持ちはじめたのです……」
「……え?
 あっ……それって……」
 荒野は、その当時の事を必死で思い出す。僅か一月ちょい前の事なのに、はるか昔、のような錯覚がある。
「……ええっと……あの時、先生は……データを、のらさんの知り合いの、なんだか変な人に、渡して……意見を聞いてくるっていって……」
「は、はい……。
 その、デウス=マキナな人は、折り紙付きの変人なのです……。
 でも、不思議な思考回路を持っているので、袋小路に行き当たった時、思わぬ突破口を作ってくれることもあるのです……」
「……そういわれてみれば……のらさんと静流さんの、共通の知人であっても、おかしくはないけど……」
 荒野は、半ば呆然としながらも、渋々、納得する。
「そんなところで、接点があるなんて……。
 世の中、広いようで狭いなぁ……」
「……わ、わたしがここに来たのも、その、デウス=マキナさんと、魔女さんが、別々に、この町にいけと助言してくれたからなのです。
 デウス=マキナさんは、面白がってそう勧めているだけですが、魔女さんの占いとアドバイスには、従った方が賢明なのです……」
 どうやら静流は、その連中に、ある種の信頼を寄せているようだ。
「……ま、魔女さんは、迷うくらいなら、自分の足で歩いていって、自分で道を切り開け、と、いいました。
 デウス=マキナさんは、百一匹ニンジャ、大行進! 面白い展開になって来たから、是非、参加するように……と、い、いいました……。
 わ、わたしが、じゃないですよ!
 ……その人が、いったんですからね……ひゃ、百一匹、って……」
「……いや……いいけど……」
 荒野は、追求するのが馬鹿馬鹿しくなったのか、静流から目をそらし、酒見姉妹に話しかける。
「と、いうわけで……世の中、いろいろな人がいる訳だから、一族の一員だという程度で、疎外感を持つ必要はないぞ……。
 何せ、この世には……おれたちなんかよりも、もっと濃い連中が、大勢いるからなぁ……」
 言外に、「酒見姉妹程度では、キャラの立ち方が足りない」といっているようだが、荒野はそもそも「キャラが立つ」という概念さえ知らない筈なので、単純に、「これ以上、変人に、この場を引っ掻き回されたくない」と思っているのが、自然と態度に現れているだけであろう。
「……とにかく、普通の女の子として暮らしたくてここに来たんなら、くれぐれも、問題、起こさないでくれ……。
 頼む……」
 酒見姉妹に向かってそういって頭をさげる荒野の姿には、そことはない哀愁が漂っていた。
 そんな荒野の頭を、茅が「いいこ、いいこ」といいながら、手で撫でている。
「……そ、そういわれても……」
「……わ、わたしたちだって……静かに暮らしたいから、ここに来た訳で……」
 いきなり荒野が頭を下げたので、姉妹はばつの悪い表情をして、しどろもどろになった。
「そ……それよりも! そういうことをいうのなら!」
「そうそう!
 こういう凶暴な、面識のない人間を、いきなり狙撃してくるような、変な女にいって!」
 酒見姉妹は、二人そろって、孫子を指さした。
「……あら?
 あの程度、ほんのご挨拶、のうちだと思いますけど……」
 姉妹に指弾された孫子は、にこやかに応じた。
「……あれでご満足できない、ということになりますと……今度は、完全武装で改めてご挨拶をし直さないと……」
 こういう時の孫子の笑顔は、妙に迫力がある。
「……すいません。もう、おなか、いっぱいいっぱいです……」
「……ご挨拶は、もう結構です。謹んで、辞退させていただきます……」
 即座に、孫子に対して頭を下げる酒見姉妹。
 計算高い……というより、「自分たちが適わない相手」を肌で感じるセンスを所持しており、なおかつ、「弱いものにはとことん強気、強いものにはとことん卑屈」というDQN根性の持ち主だった。
「「……おねーさまと呼ばせてください……」」
 そう、声をそろえる酒見姉妹は……もちろん、「最強の二番弟子」である楓にも、逆らうつもりは微塵もないのであった……。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(100)

第六章 「血と技」(100)

『……無事で済ますもんかぁ!』
 純は、二の腕を揃えて顔面の前にかざして、ガードしながら、突進する。
 散弾相手にはなんとも心もとないが、得物は、すでに投擲していたから、武器は自分の五体のみ。
 ……衝撃!
『……あれ?』
 しかし、それは、純が予想していたよりは……ずっと、軽い。
『……これ……』
 純の優れた動態視力は、その狙撃手がライアットガンから打ち出したものの正体を見極めている。
 金属、ではなく……白い、粒……。
 純の肉をえぐり、ひき肉に変える筈の散弾は……たんに、服越しに肉にめり込んだだけで終わった。 
『……塩……岩、塩?』
 腕と股、などに受けた衝撃も、その予測を裏付けている。
 衝撃は……確かに、多大なものだったが……着弾の瞬間に、筋肉を収縮していたので、思ったよりもダメージは、少ない……。
 それでも、一般人のやわな体なら、これだけの衝撃を受ければ、もんどり打って倒れ、そのまましばらく動けなかったのだろうが……。
 なにより……。
『……鉛球や、鉄玉が装填されていたら……』
 例え、自分であっても、無事では済まなかったのだろうが……。
『……これなら……』
 酒見純は、笑う。
 純の視界の中には既に狙撃手に攻撃をかけるモーションに入っている酒見粋の姿が、映っていた。
 そして自分も……。
『まだ……動ける!』
 ほんの数瞬、遅滞していた純が、再び狙撃者……孫子に向かって、動き出す。
 しかし、次の瞬間、狙撃者が行った行動が……純を驚愕させることになる。

 純と粋に、前後から挟撃されていた孫子は……振り返りもせず、ライフルの銃身を肩にかつぎ、身をかがめ……自分の背後に向け、立て続けに引き金を引いた。
 孫子に躍りかかろうとしていた粋の頭部から体にかけて、何発か、スタン弾が命中し、十字型の花が開いていた。
 完全に不意をつかれた粋は、そのまま後ろに倒れ込む。

「……粋!」
 純が、思わず声をあげた。
 電線の上を走っていた粋が倒れれば、そのまま数メートル落下して、地上に激突する。
 純の叫びを耳にしたためか、それとも、危うい所で意識が飛んでいなかったのか、落下しかけた粋は、なんとか中指と人指し指を電線に引っかけけてぶら下がり、落下することを防いだ。
 ……しかし……。
「……他人のことを気にかけている余裕が、ありますか……」
 はじめて、純は、狙撃者の声を聞いた。
 凜とした……それでいて、優しく諭している口調で……。
「……game over……」
 ……囁いて、引き金を引いた。
 純が粋に気を取られている、ごく短時間の間に、狙撃者は、弾薬を再装填し終えていた。
 純が気を失う前に見たのは、目前に突き付けられた、ライフルとライアットガンの銃口だった。

「……ああ……お姉様……」
 粋は、電線にぶら下がりながら、スタン弾と塩散弾の直撃を受けた姉の純が、吹っ飛んでいく姿を認めた。
 とはいえ、粋自身も、ようやく意識を止めているような状態だったから、助けに行こうにも、思うように体が動かない……。

「……なんだ……。
 才賀が勝っちまったか……」
 絶望した粋の耳に、気の抜けた声が聞こえる。
「……よっと……」
 地上に視線を落とすと、加納荒野が、落下して来た酒見純を、抱きとめていた所だった。
「……才賀! 気は済んだか!」
 荒野は、狙撃手に向かって、そう声をかけた。
『……才賀……衆?』
 その声に、粋の意識が、のろのろと反応する。
『そっか……一族ではないけど……道理で、戦いなれしていると……』
「……ええ。
 たとえ、一族相手でも……人知を尽くし、地の利を利用し、準備を怠らなければ……なんとかやりあえる、ということが、実証できました……」
 才賀……と、荒野に呼ばれた狙撃手が、あでやかな笑顔を見せる。
 そして、かろうじてぶら下がっている粋に向かって、手を伸ばした。
「……実験台にして、ごめんなさいね……。
 でも、この件に関しては、完全に不意をつかなくては、意味がありませんの……」
 そういいながら……その才賀、という少女は、粋の体を軽々と引き上げた。
『……そんな、軽く、謝られても……』
 その時のあくびれない才賀孫子の様子をみて、粋の脳裏に、初めて「……負けた……」という認識が、刻み込まれた。
 不意をつかれたとはいえ……自分たちが、二人掛かりで、本気でかかっても……この少女に、いいように翻弄されったのは、事実だ……。

「……なんで……こんなこと、したんですか……」
 その狙撃手に……孫子に引き上げられた酒見粋が、あえぎながら、尋ねる。
「……うーん、とぉ……」
 才賀、と荒野に呼ばれた少女は、頤に人差し指をあてて、考え込む表情をつくって見せた。
「端的にいうと……わたくしが、一族の皆さんに対抗できるかどうか、知りたかったからですわ……」
 つまり……この少女の一方的な都合で、自分たちはいいように振り回された……という、ことらしい……。
「……そ! そんなことで、こんな!」
 粋は、かっと逆上しかける。
「……善悪は、問題ではありません」
 その少女は、やんわりとした口調でそういって、肩をすくめた。
「そうすることが、必要だと思えば……どんな犠牲を払おうとも、わたくしは、自身の思う所を行います……」
「……才賀は、そういうやつなんだ……」
 地上で、酒見純の体を肩に抱え直した荒野が、そう声をかけてくる。
「野良犬か毒蛇にでも噛まれた……とでも、思うんだな……。
 いらずらに反発するよりは……なんか、賠償させた方が、利口だぞ……こいつ、金持ちだから……」
「……確かに、お金は持っていますが、今は、ほとんどの資産を凍結されている状態です……」
 孫子が、むっとした顔をして答える。
 その少女にとって、あまり触れて欲しくない話題であるらしい。
 それから、才賀という少女は、粋にほほ笑みかけた。
「……ご自分で、歩けますか?
 スタン弾をあれだけ食らって、自分の足で立っていられるのも、凄いと思いますけど……よろしかったら、わたくしが、かついで下に降ろしますけど……」
 その邪気のない笑顔をみて、粋は、再度、「……負けた……」と、思った。

 悔しいことに、地上に降りても自分の意志で体が思うように動かない状態だったので、結局、その才賀、という少女に担がれたまま、運ばれることになった。
 酒見純も、粋が孫子に運ばれているように、荒野の肩の上でぐったりしている。
 荒野の話によると、「よく世話になっているご近所」で、「同い年くらいの、似たような境遇の女の子がいっぱいいる」家に、とりあえず、運ばれている……らしい。
 そう聞かされても、酒見粋としては、とりたてて反対する理由はなかった。それ以上に、抗弁するだけの気力も、残されてなかったわけだが……。
「……ま、後でまた、マンドゴドラのケーキ、持って行ってやるから……」
 荒野は、「それで機嫌を直せ」とでもいいたげな口調で、粋に向かって語りかける。
 粋は、そんなことで機嫌を直すほど、単純ではない……と、本人は、頑なに信じ込んでいたが……今は、どこでもいいから、安心できる場所で、体を休めたかった……。

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彼女はくノ一! 第五話 (183)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(183)

「……何を、他人事のようにいってやがる……」
 楓の言葉を聞いて、荒野が苦笑いをする。
「……長老の、秘蔵っ子……」
「……最強の、二番弟子……」
 酒見姉妹が同時にそういって、楓に視線を注いだ。
「……え? え? え?」
 他人に注目されることに慣れていない楓が、途端に、狼狽える。
「……生きる災厄……」
 ぼつり、と孫子が呟く。
「……実家にいる時、二宮荒神には、近寄るな……。
 敬して、遠ざけろ……と、聞かされていました……」
「楓……お前もな……その、生ける伝説に見込まれて、仕込まれているんだから……立派な有名人なんだよ……」
 荒野は、楓に向かってそういってから、そっとため息をつく。
 それから、
「……これだから、天然は……」
 とか、ぶちぶち口の中で呟いた。
「……意外と凄い奴だったんだな、楓ちゃん……」
 羽生は、素直に感心している。
「……お茶が、入ったの……」
 その時、台所からやってきた茅、テン、ガクの三人が、全員に暖めたカップを配り、ポットの紅茶を注いで回る。
「……あっ……」
「……これも……」
 一口、口をつけた途端に、酒見姉妹は、そういって絶句した。
「……け、結構な、お手前で……」
 二宮静流は、そういって、紅茶を注いだ者に向かって、頭を下げている。
 茶道か何かと勘違いしているのかも、知れない。
「……そちらの二宮さんも、見た感じ、あまり不自由しているようには見えないけど……」
 羽生が、指摘する。
 す、っと迷う事なく、紅茶が注ぎ終わったタイミングで手を伸ばした……ように、見えた。
「……あっ……。
 こ、これは……熱とか、音とかは、ひ、人様よりも、敏感に感じ取れる性質なので、近くにあるものや動くものは、大体、分かるのです……」
 そう説明することに慣れているのか、静流は、流暢に説明する。
「……それで、近距離の……」
「……ああ。
 近場では、実質、健常者以上……だという話だ……視覚以外の知覚は、かなり鋭いっていうことだし……」
 そう答える荒野とて、人伝に話を聞いただけ、なのだが……。
「……そ、それほどでも、ないのです……」
 静流は、紅茶のカップを傾け、「ん……おいし……」といった。
「こ、紅茶も、ちゃんといれると、おいしいのです……」
 どうやら、茅の紅茶に興味を持ったようだ。
「……それは、よかったの……」
 茅も、賛辞を受けて、まんざらでもないらしい。先程、静流のいれたお茶にかなり衝撃を受けていたから、なおさら、嬉しいのだろう……。
「……ね、ね……もう、ケーキ、いいかな……」
 ガクが、期待を込めて、誰にともなく、尋ねる。
「……いいけど……。
 お前ら、メシ食った後なんじゃないのか?」
「「「……別腹!!」」」
 テン、ガク、茅が、声を揃えた。

「……そういや、香也君は呼ばなくていいのか?」
 箱からケーキを取り出しながら、荒野が尋ねる。
「……甘いもの、苦手な方ですから……」
 楓が、答える。
「それに……それよりも、邪魔をされるのを、いやがるかと……」
「……それも、そうか……」
 香也が絵に取り組んでいる時の様子を思い浮かべ、荒野は一瞬、納得しかける。
「……それでも……」
 と……茅が、楓に向き直った。
「今日は、絵描きを呼んでほしいの……。
 頼みたいことが、あるから……」

 茅に即されて、楓がプレハブに香也を呼びにいく。
「……なんだ、頼みたいことって……」
 荒野が茅に尋ねる。
「絵描きに頼むのは、絵を描くこと……」
 茅が答えると、
「……ああ……あれ……」
 と、孫子も頷く。
「あれって……何なに?」
 ガクが、孫子に聞き返す。
「……元はといえば、あなたが作ったシステムでしょう?」
 孫子は、軽く眉を顰めた。
「……ボクが? あ。顔の、識別システム、かぁ……」
「……そう。
 汎用防犯カメラの量産体制も整ってきたので、ここいらで、茅の似顔絵を、香也様にリファインしてもらおう、ということでしょう……」
 茅が、こくこくと、頷く。
「……あの……話が、見えないんだけど……」
 酒見姉妹の一方が、恐る恐る、といった感じで、荒野に尋ねる。聞いてきたのが姉の方なのか妹の方なのか、識別できるものは、この場にはいない。
「……お前ら、佐久間現象がこっちを襲撃してきた件について、どの程度知っている?」
 荒野は、逆に聞き返し、姉妹が全く同じ角度で首をひねるのをみて、返事を待たずに先を続けた。
「……まあ、いい。
 とにかく、茅が現象の記憶を覗いてな、黒幕らしいやつらの顔を、見たんだ……」
「……って、それ……」
「佐久間の、能力じゃ……」
 酒見姉妹は、揃って絶句した。
「茅と、テンは、佐久間の資質を色濃く引き継いでいるようでな……他の二人も、部分的には継いでいるようだが……詳しいことは、まだ不明だ……。
 これから、育って行くに従って、新たに発現して行く、というパターンもあるだろうし……」
 そういって、荒野は、ちらりとガクをみた。荒野の視線に気づいたガクが、ガッツポーズを取る。
「……ま。
 将来が楽しみであり、怖くもあり、って所だな……鬼が出るか蛇がでるか……」
 いいながら、荒野は、ふと「そういや、佐久間の長からは、まだ連絡がないな……」と思い出した。
 茅たちに佐久間の技を仕込んでくれる指南役を派遣してくれるよう、要請して、思いがけず快諾してくれたのだが……もともと、ダメモトで頼んでみたことだし、向こうも、かなりの人手不足だという話しは聞いていたので、特に焦ることもない。
 そんなことを話している間に、楓が、香也を伴って戻ってきた。
 あまり風采の上がらない香也をみて、双子が露骨に失望した顔をする。
「……この子たちの顔を、見やすいように描き直して欲しいの……」
 茅が、ポケットの中からゴソゴソと折り畳んだ紙を数枚、取り出して、香也の前に広げる。
「……んー……。
 いいけど……」
 香也は、事無げに頷いた。
「どういう絵が、欲しいの?」
「いろいろな角度からみた顔とか……できれば、正面から見た時の顔と、横から見た時の顔、とか、できるだけ、いろいろなパターンが、欲しいの……」
 茅が、答える。
「……後、何歳か成長した時の想像図なんかも、描ければ……もっと、都合がいいの……」
「……んー……。
 分かった……」
 香也は、そう頷いきり、腕を組んで動かなくなってしまった。
「……香也様……。
 あの、どうかしましたか?」
 不審に思った楓が、香也に聞いた。
 こと、絵に関することなら……いつもの香也なら、即座に動き出す筈だった。
「……んー……。
 この子たち……女の子? 男の子?」
 香也は、そう疑問をぶつけた。
「……現状、このままをリライトするのは、問題がないけど……成長した姿を描くとなると、性別が分からないと……」
 香也はしばらく考え込んでみたが、「……ま、いいか。とりあえず、描ける所から……」と一人で結論し、スケッチブックを取り出して、しゃ、しゃ、と鉛筆を走らせはじめた。
「……この顔だと、正面から見た時は、こうなって……真横から見た時は、多分、こんな感じ……」
 とかいいながら、あっという間に、数枚の線画を仕上げてみせる。輪郭線だけの簡単な絵だったが、手の動きに迷いや滞りがないので、ものすごく早く見える。
 はじめて香也が絵を描くところをみる酒見姉妹が、目を丸くしている。
「……これなら、3Dデータ、起こせるかも……茅さん、これ、正確だと思う?」
 ガクが、香也の絵を指さして、尋ねる。
「……誤差は、少ないと思うの……ほとんど、問題にならないくらい……」
 茅も、ガクの質問の意図に気づいて、頷いた。
「……おにいちゃん。これ、髪の毛を取り除いたバージョン、描いてくれない? それから、各人について、男女の二パターンで、成長した時の予想図……そうだね、二歳刻みで、十年たったところまで……」
「……んー……。
 わかった……」
 香也は手を休めもせずに、いつもの調子で淡々と答え、「まずは、この子ね……男の子だった時の、成長パタン……」とかいいながら、二人の子供の、男女別成長予想図をちゃっちゃと描き続けた。
 酒見姉妹は、瞠目するだけでは足りず、口もぽかんと開いている。
 テンが、出来上がっり、香也がスケッチブックから引き破った紙を集めて、羽生の部屋に走った。早速スキャナで取り込んで、3Dデータとして生かすつもりだった。




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