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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(350)

第六章 「血と技」(350)

「……今回も、結構な人数になるな……」
 荒野は独り言を呟く。
 自分たちの食材の備蓄もどうにかしたいところだが、今晩の夕食はもっと差し迫った問題だった。この場にいる人と、狩野家の住人に加え、今、スポーツ・ジムからの帰路についている、茅や三島、シルヴィに現象たちまでもが合流する。
 この程度の人数での宴席を設けることが日常的になっているので、今では感覚が麻痺している傾向もあったが、普通に考えれば、家庭の食卓に招く人数ではない。
「……ドン・カノウ……」
 荒野がそんなことを考えている間に、ジュリエッタが片手をあげて声をかける。
「……ジュリエッタも、何か作るかね?」
「それは、いいな」
 荒野は、何気なく頷く。
「どうせ材料はこれから調達するわけだし、品数は、多い方がいいだろうし……」
 そんな生返事をしながら、荒野は、茅から届いたばかりのメールをチェックする。メールの内容は、結構な分量の、食材のリストだった。
「……これ、全部買うとなると……時間かかるな……」
「な、何組かに別れて、買いにいけば……」
 静流も、荒野の背中に話しかける。
「……その方が、効率的ですね」
 メールの内容を暗記し終えた荒野は、顔をあげて答える。
「とりあえず、外に出ましょう。
 すぐそこの商店街で、買い物にします……」

「あっ……荒野様……」
 全員で外に出ると、いくらもしないうちに、楓に声をかけられた。
 楓、孫子、香也の三人が、そこにいた。
「まだ……この近くに……」
 楓が、不思議そうな表情をして、荒野に問いかける。
 かなり前に、ここからいくらも離れていない場所で別れた筈だ……と、問いたいのだろう。
「ああ……。
 静流さんの家で、こいつらに、この付近に住む心得を、いろいろと話すつもりだったんだがな……」
 荒野が、「おれ……今まで、何をしていたんだろう……」などと内省的な疑問を頭の中で弄びながら、楓に「本来なら、やっていた筈のこと」を説明すると、楓は、持ち前の素直さで荒野の言葉を鵜呑みした。
「……ああ。
 それで、遅くなったんですか?
 さっきはお買い物にいくとかいってましたが、それはもう……あっ。
 まだ……みたいですね……」
 楓は、荒野たちの様子をざっと見渡して、荒野たちが全員手ぶらであることを確認し、一人で頷いている。
 荒野が「今、茅から連絡が来て、改めて買い物に出たところだ」と説明すると、楓は、「自分たちは、孫子の会社にいって、そこで打ち合わせをしていた」というような説明を、簡潔に述べた。
 そうしてお互いの事情を簡単に説明し合うと、荒野は、
「……何組に分かれて買い出しをした方がいい」
 といって、土地勘のある者とない者をうまく混ぜて、静流とジュリエッタ、孫子とイザベラと楓、それ以外の者たち……の三組に分けた。
 程度の差こそあれ、その場にいる誰もが荒野に一目置いているためか、それとも、その組み合わせで話したいこともあるのか、誰も荒野の指示に異議を唱えることはなかった。楓と孫子についていえば、香也と他の女性の誰かが二人きりになることさえ避ければ、特に文句は言わないだろう……と、荒野は読んでいたが、その読みが当たった形だ。

 三組に分かれると、すぐにホン・ファが、
「……この方は?」
 と、香也のことを確認してきた。
 一族の関係者でもないのに、楓や孫子に重要人物扱いされている……という雰囲気を感じ取り、不審に思ったのだろう。
 荒野は香也を紹介した後、簡単に、「荒野たちが住むマンションの、隣の家の住人で、その家に楓と孫子も住んでいる」と説明を付け加えると、ホン・ファは、
「楓って……今の人が、最強の、二番目のお弟子さんなんですか?」
 少し驚いた顔をして、楓が去っていった方をみた。
「……想像していたのと、全然、違います……」
 どうやら、「話しに聞いていた楓のイメージ」と、「楓の実物」とが、あまりにかけ離れていたので、「楓」の名前を聞いても、あの娘が「=最強の弟子」だとは、今まで気づかなかったらしい。
「……確かに、ああしていると……楓も、全然、見えないのかも知れないけど……」
 年少のユイ・リィは、はにかみ屋で人見知りをするようなところもあるが、年長のホン・ファは、好奇心が強いな……と、荒野は、観測する。
「……それをいったら……最強の実物も、君たちの想像とはかけ離れていると思うよ……」
 荒野は、そういって天を仰いだ。
 別に、はぐらかしたり誤魔化す意図は、さらさらなかったが……荒神のあの性格を、その風評から想像できる者は、皆無な筈である。
「……師父より強い人がこの世にいること自体が、信じられませんから……」
 ホン・ファは真剣な顔で荒野に答えた。
 ホン・ファにとっては、噂に聞く荒神よりも、身近なフー・メイの「強さ」の方が、よっぽど印象が強いのであろう。
『……無理もないかな……』
 と、荒野も思う。
「……おれの実物も、噂に聞いていたのとは、イメージが違うだろう?」
 などという意地の悪い質問は、荒野は口にしなかった。
「……ねぇ?」
 今度はユイ・リィが、香也の上着の裾を遠慮がちに引っ張った。
「こっちのかのうこうやは……強いの?」
 ……香也の方が、自分よりも声をかけやすいのかな?
 と、荒野は思った。
「……んー……。
 全然……」
 香也は、すぐに、のんびりした口調で答える。
「ぼくは……全然、強くないし……たいていのこことは、人並み以下……」
 謙遜でも何でもなく、本気でそう思っているらしい口調だった。
 ……香也らしい答え方だな、と、荒野は思った。




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彼女はくノ一! 第六話 (91)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(91)

 その後、孫子と楓は、二人でもっぱら事務的な打ち合わせに専念した。その上、話題に出た倉庫が、孫子のいうとおり首尾よく確保できたとしたら、それは孫子の会社の配送業務が、量的質的に増大することも意味する。営業的に見るのなら、躍進のチャンスといえないこともないが、現在の業務についても、改善すべきところ、話しあうべき事案は無数にあり、二人の打ち合わせの種は尽きることがなかった。
 その間、香也は放置されていたわけになるが、それで香也が退屈していてた、というわけでもなかった。いや。少し前の香也なら、二人の話していることにまるで興味が持てなかったのかもしれないが、最近の香也は、他人と他人の行動に対して、以前よりも興味を抱くようになってきている。
 二人の話しの多くは、部外者にはよくわからない子細にまで及ぶことが多かったし、香也には、孫子が語る経営とか経済の用語、あるいは、楓が語る情報処理の用語の大半は理解できなかった。つまり、二人が話している内容のほとんどを理解できなかったことになるのだが、それでいて、何故か香也は、退屈を感じることがほとんどなかった。
 極めて実務的、事務的な内容を話し合う二人の表情は、香也の目には、普段よりも活き活きとして見えた。
 その会談を中断させたのは、楓のポケットから響いた着信音だった。
「あっ……茅様……」
 楓は、ポケットの中から携帯を取りだして液晶を確認してからそう呟き、短い応答を行った後、孫子と香也に向き直る。
「茅様から、用事が済んだので、みんなで一緒にお食事をしましょう、って……。
 真理さんの許可も得ているようです……」
「材料の買いだしは?」
 孫子が、すかさず聞き返す。
 新しい住人が来たときの狩野家での宴会も、もはや日常茶飯事と化している感がある。
「先に、荒野様に頼んだそうです」
 楓は、茅に伝えられた内容を答えた。
「そう」
 孫子は頷き、壁に掛けてある時計に視線をやって時刻を確認し、立ち上がった。
「もう……いい時間ですわね。
 そろそろ、帰りましょうか?」
「そうですね」
 楓も席を立って帰り支度をはじめる。
「今から帰れば、お手伝いくらいはできるかも知れませんし……」
 茅たちがジムから車で家まで行くのと、自分たちが家まで帰りつくのと、どちらが早いだろうか……とか思いつつ、楓は呟く。

「あっ……荒野様……」
 孫子の事務所から外に出た三人は、すぐにばったりと荒野のご一行と出会った。
 楓は、大勢の女性たちを引き連れた荒野を見て、不審そうな声をあげる。
「まだ……この近くに……」
「ああ……」
 その時の荒野は、何故か遠い目をした。
「静流さんの家で、こいつらに、この付近に住む心得を、いろいろと話すつもりだったんだがな……」
 後の方にいくにしたがって、荒野の声は小さくなる。
「……ああ。
 それで、遅くなったんですか?」
 楓は、いつもとは違う荒野の様子には気づかない風で、頷く。
「さっきはお買い物にいくとかいってましたが、それはもう……あっ。
 まだ……みたいですね……」
 言いかけて、楓は、すぐに荒野たちが揃って手ぶらであることに気づく。
「そう。
 それで、今し方も……茅から、連絡が来てな……それと、メールで、いろいろと、買い物を言付かってきたし……」
「わたしたちも、今まで才賀さんの会社にお邪魔していたところなんです。
 そのお買い物……みんなで、回りましょうか?」
「そうして貰えると、ありがたい……」
 楓がそういうと、荒野は、露骨に安堵した表情を浮かべた。
 荒野が何故ここで安心した表情を浮かべるのか、楓は違和感は感じたものの、その理由までには思い当たらない。
「……それから、ジュリエッタも何か作りたいっていっているけど……」
 楓と話しているうちに、荒野は、徐々にいつものペースを取り戻していく。
「構わないと思います。
 品数が多くなる分には、歓迎されるんじゃないでしょうか?
 どうします? 人数が多いから、何組かに別れて、分担して買い物にいきますか?」
「そうだな……。
 半分くらい、この土地に不案内なのがいるから……」
 荒野は、そういって、適当に組み分けをした。
 この中では年長組の、静流とジュリエッタ。
 実家が裕福ということと、それに、最初に接触したよしみで、孫子とイザベラ、それに、楓の三人で一組。
 荒野と香也、ホン・ファとユイ・リィは、四人で一組ということにした。香也と他の女性を一組にすると、楓や孫子が収まらない。荒野と一緒で、なおかつ、四人一組なら、そうした問題は回避される。また、荒野にしてみても、ある程度、背景が想像できるジュリエッタやイザベラと比較して、この二人の人となりは、まだ十分に把握していなかった。
 茅のメールを確認しながら、荒野は各組に買うべきもののリストを言い渡し、一端、解散する。

「加納様……」
 楓たちと別れると、二人ほど同行してきた少女のうち年長の方が、何故か香也に直接ではなく荒野に向かって、香也のことを尋ねる。
「……この方は?」
「ああ……そういや、さっきはどたばたしていて、ちゃんとした紹介はまだだったな……」
 荒野は頷いて、香也を二人に紹介した。
「この人は、狩野香也。
 たまたまおれと同じ名前だが、それは音だけで、字はまったく違う。
 おれと茅が住んでいる隣の家の息子さんで……その家に、今の楓と才賀も、下宿している……」
「楓って……今の人が、最強の、二番目のお弟子さんなんですか?」
 ホン・ファは、少し驚いた顔をして、楓が去っていった方向に首を向ける。
「……想像していたのと、全然、違います……」




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(349)

第六章 「血と技」(349)

「……おれのことは、ともかくっ!」
 荒野は、語気を強くした。
「ここで生活しようとするなら、絶対に、問題を起こさないでくれ。特に、周囲の住人、一般人の人たちに、迷惑をかけないっ!
 これ、おろそかにすると、ここいらに流れてきた一族の関係者、全部に累が及ぶからっ!」
 これがいいたくて、新参者の少女たちをひとまとめにしたようなものである。
 荒野にしてみれば、姉崎における自分の風評などにはあまり関心はない。それ以上に、話題が下世話な方向に流れていくのを防ぎたくなった。
「……ネコ、ミミ……」
 しかし、ユイ・リィは荒野を無視して、イザベラに聞き返す。
「それって……これ?」
 ユイ・リィが、自分の頭の上で手をひらひらさせ、掌で「猫の耳」の形を模してみせる。
「おう。それじゃ、それじゃ……。
 なかなか、似あっとたぞ。
 姫と一緒に猫耳つけてケーキ食べて、さっきの、にまーっ、とだらけきった顔、しておった……」
「さ、さっきの……あの……弛緩しきった顔を……ですか……」
 ホン・ファが、ちらりと荒野の顔をみて、何とも複雑な表情になる。
「それは……威力、大……でありますね……」
 といった後、ホン・ファは、しきりに頷いてみせた。
 つい先ほど、一緒にケーキを食べて、荒野の「その顔」を、間近にみたばかりである。
「そうじゃろ、そうじゃろ……」
 イザベラが、したり顔で頷きすた。
「破壊力、満点じゃ……萌え死ぬ者、続出っ、つーやつでな……」
 まるで、見てきたような口調である。
「燃え死ぬ……ドン・カノウ、焼死しましたですか?」
 ジュリエッタが、荒野を指さしながら、不思議そうな顔をして首を傾げた。
「違う違う!
 燃え、じゃなくて、萌え」
 イザベラが、真面目な顔をして、ジュリエッタに講義する。
「最近の俗語で、主としてCuteな有様を現す形容詞じゃ。
 細かいニュアンスを説明しはじめると、話しが少し複雑になるからここでは省くが……心の琴線に触れるものに出会った時、モエー! モエー! などと連呼するのが、ここ数年、ナウなヤングの間で流行っているそうじゃ……」
 妙に、日本のサブカルチャー事情に詳しいイザベラだったっが……その知識はどうにも偏っているし、それ以前に、かなり間違っているような気がする……。
 第一……
『なんだよ、「ナウなヤング」って……。
 どこでそんな奇矯な言い回し、憶えてくるんだろう……』
 と、荒野は、不思議に思った。。
 ジュリエッタは面白がって、
「……モエー! モエー!」
 と、イザベラの口真似をしはじめる。
 まだあどけない風貌のユイ・リィも、
「……モエー! モエー!」
 と、訳がわからないなりに、一応真似してみる。
「わ、若は……これで、Cuteなところが、あるのです……」
 静流までもが、ぶつぶつと小声で脱線しはじめた。

 荒野はその場で、頭を抱える。
 荒野の受難は、まだまだ続きそうであった。
 ……この場に、先生やらヴィがいないのだけが、救いだな……と、荒野は思った。
 三島とシルヴィは、茅たちの検査につき合っている。
 シルヴィも、「いい機会だから……」といって、なかなか興味深そうな様子で見学していた。

 結局。
 荒野はその後、かなり長い時間に渡って、女性たちの他愛のないおしゃべりにつき合わされる羽目になった。
 国境や人種、年齢の違いは、会話に不自由しないということもあり、女性同士の場合には、あまり障害にならないものらしい。

 俗に、「三人寄ればかしましい」などというが、ジュリエッタ、イザベラ、ホン・ファ、ユイ・リィ、静流と三人の二倍近い人数が火鉢の周囲に顔を寄せ合い、すっかりうち解けておしゃべりに興じている。会話の内容も周囲の雰囲気も圧倒的に女性くさく、荒野は、ただただ、圧倒されるばかりであり、結局、いいたいことの半分もいえないうちに茅から「もうすぐ帰るの」という連絡を貰った。
『楓と真理からメールが届いていて、夕飯は、日本に来たばかりの人たちも連れて、あの家でどうですかって……』
「あー……」
 荒野は、今ではすっかり盛り上がっている女性たちから少し離れた場所に移動して背を向け、携帯電話を掌で隠すようにして茅と通話している。
「いつもいつも、悪いなあ……」
 なんか、新規の人が来るとあそこで宴会するのが、パターン化しているし……と思いつつ、荒野は気弱な口調で返答をする。
「……ドン・カノウ。
 そんなところで、なに、矮小化しているのか?」
「……矮小化、って……」
 そんな荒野の様子を不審に思ったのか、ジュリエッタが、荒野の背中に向かって例によって微妙に間違った日本語で問いかける。
「いや、真理さん……さっきいた民家の奥さんが、日本に来たばかりの人たちを、夕食に招待したい、って……」
 どうせ、実際の料理は三島あたりが出しゃばるのだろうが、毎度毎度、あの家を使わせて貰っているのは確かな事実であり、荒野は、真理にはかなり深い感謝の念を抱いている。
「Oh! Dinner!」
 ジュリエッタが、「ぱん!」と両手を打ち合わせて、大きな声をあげる。
 ジュリエッタの風貌だと、そうした大仰なジェスチャーが、板について見えた。ジュリエッタのリアクションに、周囲の者たちが、何事かと荒野に注目した。
「そう。ディナー。
 それも、たぶん、日本食……」
 荒野は、その場にいた全員に告げる。
「先生の料理の腕は……そこの、静流さんも知っている筈だよ……」




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彼女はくノ一! 第六話 (90)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(90)

「……この辺に、ゴミで埋まっている、倉庫がある。かなり、大きい。
 所有者が誰かとかはわからないけど、使われていないことは、確か。
 有働さんなら、詳しくしっていると思う……」
 香也は、そういって液晶画面の地図を指さす。
「……あっ。
 あそこ……」
 楓も、香也が指さした場所に、心当たりがあった。香也が以前、スケッチをしに出ていった場所の一つだ。徳川の工場からも近い位置にある。
「でも、あそこ……確か、権利関係で揉めてて、それで長いこと使われずに放置されているって聞きましたけど……」
 楓は、そんな話しも披露した。もっとも、噂を小耳に挟んだ程度だから、真偽のほどまでは保証はできない、とも、いい添えたが。
「……つまり、何らかの理由で、長いこと使用されていない倉庫がある、ということですわね……」
 孫子は、少し思案顔をした後、すぐに晴れやかな表情になった。
「こちらの方でも、調べてみましょう。
 今まで放置されていた、何らかの理由さえクリアできれば、現在の所有者との交渉も可能でしょうし……」
 孫子は、腕のいい法律屋にもコネがあったし、それに、そこいらの組関係に怯むような人格でもない。第一、そこいらのちんぴらややっさんよりは、孫子自身の方が効果的に暴力を行使することができる。もちろん、その気になりさえすれば……という条件付きではあるが。
 だから、不動産関係のトラブル、ということであれば、どうにでも解決できる自信があった。
「……首尾よくそこを確保できたら……そこのゴミの撤去をすることで、ボランティアの予行練習とマニュアルづくりをしても、いいですしね……」
 香也たちに向かってそんなことを呟きながら、孫子は、「ちょっと失礼」と席を立って、何カ所かに電話をかける。
 はきはきした声で、用件だけを要領よく、的確に伝えたため、孫子が実際に通話をしていた時間はごく短かくてすんだ。
 香也と楓は、せいぜい十分程度、待たされただけだった。
「……法務とか民事の専門家たちに、そこの事情の調査と問題の解決を指示しておきました」
 香也たちの前に帰ってきた孫子は、ことなげにそういった。
「多少、お金はかかりますが……この手のことに慣れているプロですから……数日中には、結果が出るでしょう……」
 本当に必要な経費はけちらない……というのが、孫子のモットーでもある。
 一回だけの手数料で必要な不動産を割安に確保できるのなら、対費用効果的なことを考えても、十分に割が合うのであった。
「……そちらの方は、解決するのも時間の問題ですので……今度は、新しい配送ルートを……。
 いいえ。
 それよりも、せっかく、この場に香也様が、この場にいらっしゃるわけですから……。
 今度の春休みに行う、商店街のシャッターの塗装の件ですが……あれに塗料とか必要な道具一式、うちの会社に負担させていただけませんでしょうか?」
 香也と楓は、思わず顔を見合わせる。
 香也に、商店街のシャッターを塗装し直して貰う……そういう話しが出てきたのは、もとはといえば、玉木からであった。
「ご存じの通り……うちの会社は、地域密着型を指向していますし、特に商店街の方々は、大事な取引相手です。
 その程度の貢献をさせて貰ったとしても……企業イメージ的な面からみましても、長い目でみれば、十分に、元がとれます……」
 そういってから孫子は、
「……もっとも、実際に描くのは、香也様なわけですが……」
 と、付け加える。
 孫子は、この会社で必要以上に利潤を追求するつもりはない。いや、利益率を極限まで高めることに対しては、孫子も、人一倍貪欲なくらいだが、そうして得た利益は、できるだけ地元に循環させてたいとも思っている。
 荒野とも話し合ったことがあったが、この会社の目的には、有事に備えて、優位な人材を傭うための、文字通り軍資金の確保、意外に……孫子自身を含めた、一般人とは異なる人々が、この地域社会に溶け込みやすいような基盤を整備すること……にも、比重をおいている。むしろ、後者の目的を達成するためにも、高収益のシステムを構築しなければならない、と、孫子は思っていた。
 だから、ボランティアや香也の活動に便宜を払い、資金面その他でそこそこの援助をするのも、筋道としては、決しておかしなことではない。
 もっとも……今回に限り、あくまで、孫子個人の希望という理由が、かなり大きかったのだが……。
「……んー……。
 ぼくの方は、別に……それでも、いいけど……」
 香也にしてみれば、異議を唱えるべき根拠など、どこにもない。
「ただ、玉木さんには、話しを通しておいた方がいいような……」
「そちらの方は、わたくしから、話しておきます。
 かかるべき費用をこちら持ちで……といえば、玉木が反対するとも思えませんが……」
 確かに……発案者である玉木の側にとっても、都合のよい話しではある。

『……なんだか……』
 凄いな……と、一連のやりとりをみていた楓は、孫子に対して、気後れを感じていた。
 孫子は……世慣れしていて、周囲の状況を見極め、自分の意志が通りやすいように、環境の方を変化させていく……。
 計画性や行動力も、それに、電話一つで専門家を動かせるコネクションも、十分に凄いと思ったが……それ以上に、自分の欲求を一方的にゴリ押しするのではなく、周囲の利益も考慮しながら、出来るだけ大勢の人が満足できるように配慮することも忘れない……という細やかさに、楓は感歎する。
 とても、真似できない……とも、思う。
 孫子と楓では……やはり、そのスタートラインというかバックグラウンドからして、残酷なほどに格差がある……と、心底、思い知らされた気分だった。
 孫子にあって楓にはないもの。
 それは……こうした、強引なまでの積極性、自分の都合に合わせて周囲を変えていこうとする、アクティブさ……だろう……と、楓は、思う。
 楓自身は……そんな大それた事を、そもそも考えたりもしない。
 自分の周囲さえ、いい雰囲気であったら、それでいい。
 長期的な、とか、広範な視野には、あまり拘泥しない、こぢんまりとした範囲内に自分を収めてしまおう……とういう小市民的な価値観が、自分の中に抜きがたく刷り込まれていることを、楓は実感した。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(348)

第六章 「血と技」(348)

 ケーキを調達した荒野は、新参者の少女たちを引き連れて静流の家に向かった。
 店先で荒野が声をかけると、静流が階上から、
「う、上に、あがってきてください……」
 と、返事をした。
 戸を開けて相変わらずがらんとしている内に入ると、犬の呼嵐が土間の真ん中に寝そべっていた。
「……通るぞ」
 何となく、声をかけておいた方がいいような気がして、荒野は呼嵐に向かって小声で呟く。
 呼嵐は、前肢の中に鼻面をつっこんだまま、小さく耳を動かしてただけだった。
 ケーキの包みを抱えて、二階にあがると、長火鉢を挟んで静流とジュリエッタが差し向かいになってくつろいでいるところだった。
 荒野が台所にあがるところで靴を脱ぐと、引率してきた三人は、珍しそうな表情で、その様子を見守っていた。
「……知識としては、知っているだろう?
 この先からは、靴を脱いであがる」
 荒野がそう即すと、三人の少女たちは、ようやく荒野に倣って靴を脱ぎはじめる。その動作が、どことなくぎこちなかった。日常会話に不自由しない程度に日本語を話せるのだから、日本の生活習慣についてもそれなりの予備知識は持っている筈だったが……三人とも、それまで、椅子と土足の文化圏から離れて生活したことがなかったのだろう。

「……これ、おみやげです……」
 階上にあがった荒野は、調達してきたケーキの包みを、静流の目前に差し出す。
「あ、ありがとうございます……」
 静流は礼の言葉を述べてから、手探りでケーキの包みを受け取り、
「い、いま、お茶を入れますから……こ、この家に、大勢お客さんが来るのは、これが、初めてなのです……」
 といって、火鉢の引き出しから湯呑みを人数分取り出した。
 ホン・ファとユイ・リィは、畳敷きの日本間が珍しいらしく、落ち着かない様子でしきりに周囲を見渡している。
「畳の上に、直接、座る」
 荒野は、自分も火鉢の前に座りながらそう口にすると、まずイザベラが、意外に慣れた挙動で荒野の隣に胡座をかく。少し遅れて、ホン・ファとユイ・リィが、静流の座り方をまねて正座をして見せた。
 静流の正座姿は、たしかに背筋がすっと伸びていて、イザベラの胡座姿や、ドレスを着用しているため、正確な足の形はわからないが、少し崩した正座、いわゆる「横座り」しているらしい、ジュリエッタと比較すると、確かに静流の姿が一番、様子がよい。
 ホン・ファとユイ・リィは、二人の様子をみて、格好のよい方を真似したのだろうが……。
 ……後で、足が痺れてなければいいがな……と、荒野は思った。
 静流が手早く人数分のお茶をいれる間に、荒野は静流に断って、一度台所に戻り、人数分の小皿とフォークを持ってくる。それなりに来客があるのか、一人暮らしにも関わらず静流の家に余分の食器があることは、今日、確認したばかりだった。
 荒野が戻ると、早速ケーキの箱をあけて小皿にとりわけ、全員でケーキとお茶を楽しみはじめる。静流がお茶をいれると、周囲に何とも形容のしようがない芳香が漂いはじめ、食欲をそそった。
 まず、お茶だけを口に含むと、濃厚な香りの割りに、苦みが強すぎるくらいだった。コーヒーでいえば、エスプレッソに近いだろう。ぎゅっと、お茶の成分を濃縮したような液体だった。
 が、その直後にケーキを口に入れると、口の中に残った苦みとケーキの強い甘みが一体となって、かなり複雑な刺激を形成する。
 ……ケーキ単体で食べるよりは、このお茶とのコンビネーションのおかげで、ずっとうまくなっているな……と、荒野は思う。
 ジュリエッタ、イザベラ、ホン・ファ、ユイ・リィは、ケーキをした途端、「うっ」とか「あっ」とか小さく呻いたまま、目を見開いて凍り付いた。
 しばらく間をおいてから、その場の全員の頬が、自然と緩む。
「……It’s……cool……」
 イザベラが、放心した表情で、小さく呟いた。
 ホン・ファとユイ・リィが、イザベラの発言に、無言のまま、こくこくと頷く。

 全員、それからしばらく、無言のまま、お茶とケーキを楽しんだので、荒野が本題に入るのには、ケーキを食べ尽くして、食後にもっと薄めのお茶を静流がいれてくれてから……に、なった。
 今度のお茶は、苦みがほとんどなく、すっと自然に飲めるお茶だった。それでも、飲み込んだ後も、ふっと残り香が口の中に漂う。
「……それで、ですね……」
 すっかり全員で飲食に心奪われてしまった後だったから、荒野は、ことさらに真面目な表情をしてみせた。
「みなさんに、これからお願いしたことがあります。双方にとって、有益な提案です……」
 しごく真面目な顔をして荒野は切り出し、その後、
「……どうか、この土地で面倒事を起こさないでください……」
 と、続けた。
 一瞬の間をおいて、イザベラが、げたげたと笑い声をあげはじめた。
「……Oh……Oh……」
 イザベラは、腹を抱え、目尻に涙をたたえながら、「HAHAHJAHAHA!」 と、アメリカンな笑い続ける。
「……加納の、プリンス……ひひ。
 本当に……噂通りの……苦労性じゃあ……」
 言葉が切れ切れになるのは、笑いすぎて息が続かなくなっているからだった。
 荒野は、当然のことながら、憮然とした表情をしている。
 ホン・ファとユイ・リィが、きょとんとした顔をして顔を見合わせ、その後、
「……それ……どういう噂、ですか?」
 と、年長のホン・ファが、イザベラに問いかける。
「……知らんか?」
 イザベラは、笑いを噛み殺すのに苦労しながら、答えた。
「……姉様方の間では、ここのところ、加納の若の噂で持ちきりじゃぞ。
 仮装して、ひひ、猫耳をつけて、ケーキ食べたり……その他にも、いろいろと……新種たちを相手に、悪戦苦闘をしているというてな……」
 ……姉様方、というのは、文脈からして、要するに姉崎全般の間で、ということなのだろう……。
 ……ヴィめ……。
 と、荒野は思った。
 ここのところ、大人しいと思ったら……ここでの出来事を、特に荒野の醜態をクローズアップして、仲間内に喧伝していたらしい。




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HONなび



彼女はくノ一! 第六話 (89)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(89)

 それから孫子は、ノートパソコンを持ち出してきて、楓を相手になにやら込み入った相談をしはじめる。配送ルートがどうの、人員の配置状況がこーとのいうことで、要は「どうしたら一番、仕事の無駄を省けるか」という相談らしい。細部についてはよく理解できないながらも、香也は、楓と一緒にノートパソコンの画面を覗き込む。画面には、周辺地域の地図とか、どうやら配送する荷物の物流量を示すものらしいグラフ、それに重なるようにして、時間の推移によって作業員の出入りを記録したグラフ……などが表示されている。
「……ご覧の通り、このサービスは、開始してから間もないにも関わらず、クチコミで利用者が倍増している状況です……」
 ありがたいことに……と、前置きして、孫子は、そう話しだした。
「利用状況に応じて、手数料をかなり割安にしたり、定額制を導入したり……と、回数券やポイントカードの発行などをして、料金を透明化し、ライフスタイルに合わせて利用方法を選択できる料金体にしたのが、評価されているのではないか……と、分析しています」
 孫子によると、当初、このサービスは、日用品の買い物をしている時間がない、一人暮らしをしている人々をメインのターゲットに想定していたのだが、意外に主婦層の利用も多い、という。
「……かさばる荷物を、格安の料金で、指定した時間に運んでくれる……というので、まとめ買いをしたり、休日に買い物をしてから、そのまま遊びに出かけたり……という使い方をする人が、徐々に増えてきました」
 当然、商店街でも、食料雑貨などの日用品や消耗品が、じわじわと売り上げを伸ばしている。
「……でも、そうなればなったで、負担が増えるのは、サービスを提供する側で……」
 顧客の細かい注文に応じるためには、作業員の人数も、余裕を持って確保しなければならない。それに、流通する物流量が増える、ということは、それだけ倉庫の床面積も必要となる。資金にはまだ余裕があったが、それでも、利益率を上げるためには……。
「……極力、無駄を省かなくてはならない……わけですか……」
 楓は、孫子が示した資料をチェックしながら、頷いた。
 今のところ、赤字ではないが……このまま、利用者が増え続ければ、そのせいでかえって経費がかさみ、経営が破綻する……ということも、十分に想像できる資料だった。
「好評だから赤字化する、というのも、本末転倒ですわね……」
 孫子はそういって苦笑いをする。
 孫子は、実家で経営やロジスティックについて、一通りの知識やノウハウを詰め込まれているが、個別の家庭や個人を相手にする物流と企業を相手にする物流とでは、かなり勝手が違う。
「……今、すぐできることは、顧客ファイルの整備をして、過去の利用状況から、近い将来の利用状況を予測し、必要になる人数の予測を立てること……くらいでしょうか……」
 この会社での楓の専門は、データの処理だった。
 当然、過去の統計から、人件費などを最適化する……などの発想になる。
「それも、いいのですが……」
 孫子は、ため息をついた。
「確保していた倉庫が、予想外に早く……もう、キャパシティ・オーバーになりつつあります……」
 孫子はこの近辺の地図に重ねて、赤と青、二種類の矢印を表示してみせる。
「荷物の出入りが激しいのは、業務上、まことに結構なことなのですが……」
 このまま勢いを落とさないまま顧客が増え続けた場合の、一月後の配送ルートを示したデータだった。青の矢印が、配送が全うできているルート、赤の矢印が、荷物がオーバーフローして、実質、麻痺してしまうであろうと予想される、配送ルートだった。
 青の矢印よりも、赤の矢印の方が、断然、多い。
「もちろん、作業員を多く確保して、人海戦術で処理に当たれば、その場はしのげるわけですが……」
 そうなると、今度は、確実に採算割れになる、という。
 なるべく早く、根本的な部分から、システィマティックに合理化を推進する必要がある……というのが、孫子の考えだった。
 楓は、資料にざっと目を通す。今まで、孫子に相談され目を通していた資料と重複するところが多い。地図と現実の物流量の推移データを頭の中で重ね合わせるうちに、楓は、今までにもやもや感じていた違和感の正体が、だんだん明瞭になって来る気がした。
「……あの……」
 楓は、遠慮がちに片手をあげる。
「荷物って……どうしても、商店街から、運ばなければならないんですか?」
「……そのことは、わたくしも考えました」
 孫子は、楓の言葉に頷きながら、返答をする。
「他のものはともかく……生鮮食料品に関しては、注文したものと違うものが届くのは、トラブルのもとです」
「では……それ以外の日用品は、倉庫や工場から、お店を通さずに、個別に直送するルートを作っても大丈夫ですよね?」
 楓は、売れている商品の品目別にチェックしながら、孫子に向かって、そういう。
「量的なことをいえば……そうした生鮮食料品よりも、それ以外のものの方が、ずっとかさばります。
 日用雑貨や鮮度があまり重要視されない加工食品などは、別の倉庫にストックしておいて、注文がありしだい配送する……という形にすれば……」
「……商店街で扱う商品のうち、かなりの部分をカタログに落とす作業が必要になってきますわね……」
 孫子も、楓のいわんとすることを理解して、頷いた。
 楓は……商店街を丸ごと、いっそ、ショールームにしてしまえ……といっている。
「……これから確保する倉庫も……少し、不便なところを選べば、それだけ経費がかからないわけですし……」
 いいながら、楓は、パソコンを操作し、商店街から直接配送しなければならない商品と、そうでない商品とを区別し、その物流量を比較しできるように、表にして孫子に見せた。
「……かなり大雑把な分類で、あまり正確ではありませんが……」
「その方向で行きましょう」
 孫子は、あっさりと頷く。
「導入時に、かなりのマンパワーと資金が必要になりますが……将来的なことを考えると、それしかないと思いますわ」
「もうすぐ、学校がお休みになりますから、そうしたらわたしも、準備を手伝えます」
 楓も、頷く。
「必要な人手は、いくらでも確保できるのですが……肝心の倉庫は……」
 孫子が、少し考え込む様子をみせる。
 すると、
「……んー……。
 心当たり、あるけど……」
 意外なことに、それまで黙って二人の話しを聞いている一方だった香也が、片手をあげて、そんなことを言いだした。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(347)

第六章 「血と技」(347)

 荒野の顔が、覿面に引き攣っている。
 ……ジュリエッタ、イザベラの二人だけでも、いい加減、げんなり来ているのに……この上……ホン・ファとユイ・リィも、だと……。
 荒野は、フー・メイの両脇にいたホン・ファとユイ・リィ視線を向ける。
 荒野と目があうと、ホン・ファは片手をあげて「ニー・ハオ」と挨拶をし、ユイ・リィは、さっとフー・メイの背後に隠れた。
 この数ヶ月のことを考えても……このくらいの女の子には、あまりいい目にあっていない荒野である。楓、孫子、茅、玉木……などなど、数えはじめればきりがない。
 荒野の意識的には、「同じくらいの少女」というのは、苦手意識を通り越して、今では鬼門であるといっても過言ではないのであった。
 ましてや……。
『……一族……姉崎……』
 思い返してみれば……幼少時、家族同然に育ってきたシルヴィと別れた時のシルヴィの年齢は、ホン・ファやユイ・リィくらいだった筈で……あの頃のシルヴィは……当時の荒野にとって、一番苦手な人間だった……。
『あんなのが、何人も来たら……』
 荒野が今ほど強くはなかった頃、根源的な潜在意識に刷り込まれた恐怖が、荒野の表層意識を脅かす。
「……どうしました?」
 フー・メイが、怪訝そうな表情で荒野の顔をみていた。
「ひどく……顔色が、悪いようですが……」
「い、いや……なんでもない……」
 荒野は反射的にそう答えたが、その声は震えていた。
「ただ……ここ最近、年齢の近い女性には、いろいろと悩まされているもので……」
「若なら……そういうことも、十分にありますでしょう……」
 フー・メイの表情が、ふ、と軟らかくなった。
「ですが……この子たちは……」
「その……おれの悩みは、たぶん、フー・メイさんが想像しているのとは、かなり違った理由だと思いますが……」
 荒野は、ゆっくりと首を振りながら、フー・メイの言葉を穏やかに打ち消す。
「……あー……。
 似たようなトラブル・メイカーが、身近に多いもので……」
 フー・メイの眉が、ぴくんと跳ね上がる。
「この子たちの躾は、わたしが直々に施しております。
 若にご迷惑をおかけするるようなことは、断じてありません……」
 どうやら、フー・メイは、「荒野に信用されていない」と、思ったようだった。
「……そうだと、いいんですがね……」
 荒野は、自分自身の願望も込めて、フー・メイの言葉に大きく頷く。
 この時点で荒野とフー・メイは、厳格な保護者に抑圧的に教育された子供たちが、その厳格な保護者から解放され、しかも、新しい遊び相手に困らない環境に放りだされた時、どのように変質するのか……ということを、まるで想像していなかった。

「……結論からいうと、だな……」
 荒野は、苦り切った顔で、香也たちに告げる。
「……こっちの三人のうち、ホン・ファとユイ・リィは、春からうちの学校に転入してくるそうだ……」
 書類上の手続きは、姉崎の伝手を使ってシルヴィが整える。二人の住居その他の手配ができるまでは、シルヴィのマンションに寝泊まりする……というのが、フー・メイと、それにシルヴィも交えて相談して出した結論だった。
 仕事の合間を利用してこの土地に立ち寄ったフー・メイは、今日中にでも日本を発つ予定だという。

 それから、まだ検査が残っている茅たちをその場に置いて、荒野たちは帰路につく。
 まず、静流の家に転がり込む事になったジュリエッタとセバスチャンが、荷物の移動のために離脱した。さらにその後、荒野はなんやかんやと理由を設けて、イザベラ、ホン・ファ、ユイ・リィの新参者を引き連れ、香也たちと別れた。
 香也たちの姿が見えなくなると、荒野はすぐに静流の携帯に電話をかけ、「これからそちらの家に行きたいのですが……」と交渉し、内密な話しを行える場所を確保する。
「……なんじゃ?
 加納というのは、随分と、面倒なことをするもんじゃな……」
 イザベラが、荒野の工作に対して、率直な感想を述べた。どうやらこの娘は、この手の小細工があまり好きではないらしい……と、荒野は、脳裏に書き留める。
「別に、内密にする必要もない……といえば、ないんだがな……」
 荒野は、苦笑いをしながら、答えた。
「何より、一族絡み話しを一般人たち聞かせる必要はないし……それに、ジュリエッタさんも一緒に、話しておきたいことがあるし……。
 すぐそこに、この近辺で一番おいしいケーキ屋があるんだ。それ、奢るから、少しつき合ってよ……」
 もちろん、荒野は、何かと問題が多そうな新参者たちに、「くれぐれも、問題を起こすな」といい含めるつもりだった。

「お。来た来た」
 マンドゴドラのマスターは、荒野と荒野が引き連れてきた少女たちの顔を見渡すと、何とも複雑な表情をした。
「……お前さんの知り合いには、美形しかいないのか?」
 などといった後、荒野の腕を引いて少し離れた場所に移動し、
「……なぁ、なぁ。
 今度は、あの子たちとか使えないかな、この前みたいな、うちの宣伝に……」
 とか、荒野の耳元に囁きかける。
 年末のアレで、味をしめたらしかった。
 荒野は面倒くさくなって、いっそのこと「そういうのは、本人と直接交渉してください」とか、いってやりたくなったが、危うくその言葉を飲み込む。
 後先考えずに軽率なことをいうと、後でどういう風にエスカレートしていくのかまるで予想がつかない……ということは、今までの経験から、荒野も学習していた。
「……玉木と相談して、前向きに検討します……」
 そこで荒野は、どこぞの政治家のように、どうとでも解釈できる微妙な言い回しで返答することになる。

 ともかく、マンドゴドラで少し余分にケーキを調達した荒野は、そのまま静流の家に向かった。




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彼女はくノ一! 第六話 (88)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(88)

 茅たちの検査だか体力測定だかは、いや、詳しく話しを聞くと、その両方を兼ねたものだそうだが、とにかくそれは、まだもう少し時間がかかるそうで、香也や荒野、楓たち、本来ならここにいるべきではない者たちは、連れだってぞろぞろと連れだって帰ることになった。
 残るのは、茅、テン、ノリ、ガク、現象、それに、もともとこれらの子供たちに付き添っていた、三島や二宮舎人、梢などであり、それ以外の全員が、ぞろぞろとそのスポーツジムを後にする。
 結局徒歩で帰ったわけだが、人数が多いこともあり、なかなか壮観な眺めだった。一目で異国人とわかる者も数名、含んでいることもあり、この一行は、たまたま通りかかった人たちに、好奇の視線を浴びることとなる。
 香也は、どちらかというと、そのような第三者の視線はあまり気にしない方ではあるが、客観的にみて、
『……確かに……』
 目立つ組み合わせだよな……と、思う。

 途中、白い犬を連れた静流が、そのまま家に帰るといいだし、ジュリエッタとセバスチャンも、その後についていく。ジュリエッタはその日から静流の家に寝泊まりし、セバスチャンは当座の宿にしている場所から、ジュリエッタの荷物を静流の家に移動する、という話しだった。セバスチャンは、当然の事ながら、静流の家の所在地など知らないので、一度は足を運んで住所を確認しなければならない。
 フー・メイも、ホン・ファとユイ・リィの二人を残して、その足で駅に行き、そのまま国外に脱出する……とかで、静流たちと一緒に、香也たち一行から離別した。なんでも今回は、「たまたま、フー・メイの仕事先への移動線上で、日本に立ち寄る時間があったから」同門の妹弟子にあたるホン・ファとユイ・リィを連れて立ち寄ってみたまでのことで、フー・メイにしてみても、あまり長居ができるほどの時間的な猶予はないらしい。
 十分な実力はつけてきてはいるものの、まだまだ修行中の身であるホン・ファとユイ・リィは、フー・メイほど時間に追われる身分ではないので、そのままこの土地に根付くための下準備に移行するそうだ。書類関係の準備は姉崎の機関がやってくれる手筈になっている、という。また、しばらくは、同じ姉崎のよしみで、シルヴィのマンションに寝泊まりし、新学期がはじまるまでには、ちゃんとした住所を確保するつもりらしい。

 楓が、歩きながら真理に電話をかけ、しかじかの人数が家に行く、と告げると、真理からは「それでは……」という感じで、夕飯用の食材を買い増しするようにいわれる。
 荒野が楓から携帯電話を借り受け、何やら応答した後、
「……人数も多いけど、荷物持ちも大勢いるってことだからな……」
 などと呟きながら、通話を切って、携帯を楓に返す。
「商店街に寄るのなら……」
 一度、会社に顔を出していきたい、と孫子が言いだす。
 孫子は、イザベラとの接触で予定していた業務を途中で放りだしてきた形で、会社のロゴが入ったつなぎの作業着を着たままだった。自転車とノートパソコンは、家に置いてあるが、一度事務所に顔を出して様子を確認しておきたい、とのことだった。
 モノはついでだから……と、孫子は、楓の腕を取って、事務所への同行を命じた。
「……あなたも、うちの仕事をしているわけだから、この辺で顔つなぎをしていてもいいでしょう……」
 ということで、楓にしても、断る理由がなかった。
 確かに、楓は孫子の要請に従って、孫子の会社のために、データ処理用のソフト開発しているわけだが、実際に会社とか事務所にいって、業務内容を実地に見聞する機会は、これまでになかった。
 ただし、楓は、いきなり孫子に腕をとられ、強引に連れ回されるのが少し不安だった様子で、反射的に、そばにいた香也の腕を取る。
 孫子は、その挙動に一瞬、厳しい表情を浮かべかけたが、すぐに柔和な表情に変えて、
「……いいですわね。
 ここからすぐそこですし、よかったら、香也様もご一緒に……」
 などと言いだした。
「……ほい。
 なんだかわからんが、面白そうじゃの……」
 イザベラがそんなことを呟きながら、楓、孫子、香也の三人について行こうとするのを、荒野が、文字通り首根っこを取り押さえて、制止する。
「……君は、こっち……」
 イザベラの襟首をがっちりと掴んだ荒野は、にこやかな表情を浮かべながら、しかし、イザベラを逃がすつもりはないようだった。
「……せめて、荷物持ちくらいは手伝いなさい……」
 荒野にしてみれば、これ以上、香也を取り巻く人間関係が複雑化するのは、見るに忍びないのであった。
「……お、おう……」
 イザベラは、荒野の笑顔に隠された「なんとはなしの気迫」に気圧されて、気の抜けた返答をして、頷く。

 そんな次第で、イザベラ、ホン・ファ、ユイ・リィを連れた荒野と一端別れた香也たち三人は、孫子の会社の事務所とやらに行く。
「……まだ、開業したばかりで、ばたばたしていますが……」
 とかいいながら、孫子は、商店街の裏手にある雑居ビルの中に、楓と香也を案内する。

 孫子が案内したのは、雑居ビルの一フロアを占める、普通の事務所だった。
 とはいえ、楓も香也も、まとも社会経験がないので、「ドラマなどに出てくるオフィスとあまり変わらないな」という認識でしかない。ドラマの中のオフィスと違っているのは、虚構の中の白々しい清潔さの代わりに、もっと雑然とした活気が漂っていることで……。
 孫子が事務所の中に入って挨拶の声をかけると、即座に、事務所内にいた男女が「お疲れ様でーっす」とかいった意味の言葉を返してくる。
 事務所内にいた人々は、スーツ姿、孫子と同じ作業服、どうやら私服らしい、カジュアルな服装……の三種類の服装をしていた。誰もが、若い。せいぜい、二十代くらいだろう。服装と年齢層は、「登録制の人材派遣」という、この会社の業務と関係があるのかも知れないが……一般的な世間知に乏しい香也には、詳しい事情は、正直なところ、あまりよく想像できなかった。
 今日は土曜日だから、普段いる人で、今、ここにいない人も多いのだろうな……くらいのことは、香也にも想像出来たが。
 孫子は、入り口近くにある応接用のセットに香也と楓を案内し、二人にお茶を用意するよう、手近にいる社員に告げると、自分は事務所内に入っていって、何人かの社員に声をかけたりパソコンを操作したりして、仕事上の連絡事項をチェックして、すぐに楓と香也の元に戻る。
 いかにも手慣れた感じの、きびきびとした挙動だった。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(346)

第六章 「血と技」(346)

「……それで……あなた方三人は、一体何を望んで、茅たち新種に接触してきたんですか?」
 荒野は、今度はフー・メイの一派に水を向ける。
「別に、加納の若に、我らの意図を隠すつもりは、ありません。
 ただ……我らは、直接、あの新種たちと交渉をしたいと思っているだけで……」
 三人の中で一番年長のフー・メイが、代表して答える。
 荒野を目前にして臆することもない、なかなか堂に入った態度だった。
「それは、つまり……おれ抜きで、話しをつけたい……ってことなのかな?」
 荒野は、ため息混じりに聞き返す。
 荒野自身は、別に、自分を抜きにして新種たちと六主家のいずれかが関係を深めていいと思っている。あくまで、双方が納得づくならば……というのが、もちろん、前提になるのだが。
 だがそれも……今回のように、変にこそこそと、故意に誤解を招くような接触のされ方をすると、かえって周囲の誤解を招きかねない。
「実のところ……若が来られる直前に、話しはまとまりかけていたのですが……」
 フー・メイは、そういって、ちらりとジュリエッタの方に意味ありげな視線を走らせる。
 事情もよく確認せず、問答無用で斬りかかったジュリエッタと、すぐさまそれに応戦したフー・メイ……荒野にいわせればどっちもどっちなのだが……自分の言動の意味をあまり深く考えているようには見えないジュリエッタに比べ、このフー・メイは、むしろ積極的に事態を混乱させて楽しんでいるようにも見えた。
「……おれ個人としては、あいつらとか現象が、どこと手を組もうが興味はないんですが……」
 荒野は、素直に自分の考えていることを披露することにした。
 フー・メイのような複雑な相手には、下手な駆け引きを持ちかけないで、こちらの手の内のを明かしておいた方が、かえってうまく行く……と、荒野は思っている。少なくとも、変な誤解をされることだけはない。
「ただ……あいつらも、あれで……将来的には、六主家間のパワー・バランスを変え兼ねないわけで……こちらの希望としては、他の連中がどうみるか、ということも考えた上で、行動を選択していただきたいものです……」
 荒野にしてみれば、これ以上はないというほどに、素直に自分の意向を告げた。
 すると、フー・メイは、軽く眉を跳ね上げ、まじまじと荒野の顔をみる。
「……その……こういっては、なんですが……」
 フー・メイは、しばらく考えて、ゆっくりとした口調で続けた。
「若は……何か、思い違いをしていらっしゃいます。
 我らは、彼女たちを姉崎に取り込もうとは、思っておりません……」
 フー・メイは、そこで、少し間をおいた。
「我らが考えているのは、むしろ、その逆で……我らの流派の技を、彼女たちに託すことを、考えております。
 彼女たちが……我らの技を伝授するのに、値するのかどうか……今少し、猶予をもうけて、見極める必要がありそうですが……」
 フー・メイの口から予想もしていなかった言葉が出たので、荒野はしばらく押し黙ってしまった。
「……技、ですか……」
 ようやく、再び口を開けたかと思ったら、荒野の口から漏れたのは、そんな凡庸な聞き返しの文句でしかなかった。
「あの……あいつら三人に……フー・メイさんたちの、技を……」
「左様でございます」
 フー・メイは、今では明らかに、荒野の反応を、つまり、荒野の動揺を、面白がっている。
「若から見れば、そんなことをして、我らに一体なんの益があるのか……と、そのように思うのかも知れませんが……我らが伝承した技を、最高の資質を持つ者の伝承させる……という我らの欲求は、そんなに理解不能なものでしょうか?」
「……い、いや……あの……」
 荒野は、珍しく、言い淀んだ。
「理解できないことは、ないです。
 確かに……どんな体系の体術でも、あいつらの身体能力で駆使されれば……そのポテンシャルを、最大限に引き出されることでしょう……」
 いいながら、荒野は、目まぐるしく思考を回転させる。
 確かに……三人の身体能力は、今の時点でさえ、一族の平均を、確実に上回っている。加えて、これから先、どこまで成長するのか、誰にも予測が出来ない状態だ。
 最高の肉体に、最高の技を叩き込んだら……というフー・メイの欲望は、多少なりとも武術などを嗜んだ者なら、十分に想像できる欲求だともいえた。
 利害とか不利有利とか、そういう実利的な部分に思考を固着しがちな、自分の思考形態を、荒野は恥じ入った。
 おれは……不純だな……、と、思いながら、荒野は、さらに聞き返す。
「だけど……あんまり、あいつらを強くしすぎると……」
「抑止力、ということですか?」
 フー・メイは、荒野に不敵な笑みを見せる。
「あの子たちが、将来、増長するようなことがあったら……。
 おそらく、わたしや若、それに、一族の大人たちが、差し違えになってでも、責任を全うすることでしょう。
 それが、一族というものです……」
 フー・メイの不敵な笑みが、言外に「……おわかりの癖に……」と、荒野に語っている。
 身内の不始末に対して、一族がどのように対処してきたか……確かに、荒野もフー・メイも、知りすぎているくらいに、熟知していた。
「あいつら……新種は……」
 荒野は、フー・メイがいいたいことを悟りながら、故意にそれをずらした返答をする。
「一族の身内……に、なるんですかね?」
「一族から派生した者、であるのは、確かでしょう」
 フー・メイの答え方は、明瞭だった。
「彼女たちが、将来、どのような存在になるのかは、わかりませんが……道を踏み外す事があったら、黙っていない一族の者は、若が考えるより、多いのではないですか?」
 ……もっと、一族の大人たちを信用しろ……と、いうことかな?
 と、荒野は、フー・メイの言葉を解釈する。
「……そちらの狙いは、理解しました」
 荒野は、フー・メイに向かって頷きかける。
「それで、あいつらは……フー・メイさんたちの技を、引き継ぐのに値する存在なんですか?」
「それは……もう少し、時間をかけて見極めねばなりません」
 フー・メイは、またしても、荒野の予想外の答えを返す。
「そのために……こちらの、ホン・ファとユイ・リィを、しばらくこの近辺に、住まわせたいと思います」




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彼女はくノ一! 第六話 (87)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(87)

 その後、荒野が司会役を務めて、ジュリエッタたちの処遇について、話し合うことになる。香也は、立場的には別にその話し合いに参加する必要もなかったのだが、何となくその場に居続けた。
 その場の雰囲気が思いのほか、和やかで、立ち去りがたかった……ということもあったが、このスポーツジムが家から結構距離があって、一人で、つまり徒歩で帰るとなると、この寒い中、かなりの距離をとぼとぼと歩かねばならない、という、かなり現実的な事情もある。決して、歩いて帰れない距離ではなかったが、ご多分にもれず、香也は、運動とか寒さとかが、全然、好きではなかった。
 話し合いの結果、ジュリエッタは静流のところに住み込み店員として居住することに決まり、セバスチャンという人は、自分で住所と身分(というか、仕事)を確保する、と断言する。
 イザベラとかいう若い女性は、どうやら香也と同じ学校に通うらしく、住む場所も、きっちり確保してある、ということだった。
 香也は、強引ではきはきとした物言いをするイザベラが、自分たちと同じ年齢であることに驚いた。荒野や孫子も、その物腰から年上に見えたりするのだが、イザベラは、香也の目には、その二人とは違った意味で世慣れしているように見受けられた。自分の我が儘を押し通し、周囲になんとなく認めさせてしまい、なおかつ、誰からも本気で憎まれない……という、変な魅力が、そのイザベラという少女には、ある……と、香也は感じる。
「……それで……」
 荒野は、今度は、フー・メイ、ホン・ファ、ユイ・リィと名乗った三人組に、視線を向ける。
「……あなた方三人は、一体何を望んで、茅たち新種に接触してきたんですか?
 話したくなければ、話さなくともいいですが……」
 非難している口調ではなく、淡々と事実を確認しようとしている口調だった。
 香也は、ちらりと視線を逸らし、少し離れた場所で各種体力測定を続行している子供たちの方を見た。
 香也が視線を向けたことを敏感に感じ取ったテン、ガク、ノリの三人が、元気よく手を振ってきて、三島に「……こっちの方を真面目にやれってーの!」とか、怒鳴られている。
「別に、加納の若に、我らの意図を隠すつもりは、ありません」
 三人の中で一番年長のフー・メイが、堂々とした物腰で荒野に答える。
「ただ……我らは、直接、あの新種たちと交渉をしたいと思っているだけで……」
「それは、つまり……」
 荒野は、軽くため息をついた。
「おれ抜きで、話しをつけたい……ってことなのかな?」
 フー・メイは、荒野の確認を首肯した。
「実のところ……若が来られる直前に、話しはまとまりかけていたのですが……」
「おれ個人としては……あいつらが、自分の意志で姉崎に合流したいというのなら、止めるつもりはないけど……」
 荒野は、肩を竦める。
「そうなったらなったで、他の六主家が、黙ってはいないだろう。
 無用な摩擦を回避するためにも、じじいには、すぐに連絡させて貰う……」
「……んー……」
 それまで、荒野たちの事情にあまり興味を持っていなかった香也は、隣にいた楓に、小声で質問をした。
「今、話しにでている姉崎、って……シルヴィさんのこと?」
「そうなんですけど……」
 楓は、何故かもどかしげな表情になる。
「シルヴィさんが、今、話しにでている姉崎……っていうのは、間違いがないんですけど……それだけだと、ちょっと、説明が足りていないっていうか……。
 姉崎っていうのは、もっと大きな規模の団体で……」
「……日本語でいうと、概念的に一番近いのは、アレですわ……」
 二人の会話を聞いていた孫子が、やはり小声で口を挟んでくる。
「……屋号。
 シルヴィも、ジュリエッタも、イザベラも、フー・メイも……世界中に散らばった、姉崎の分家のようなもので……」
「屋号、のぉ……」
 当のイザベラも、そのこそこそ話しに参加してきた。
「まあ……当たらずとも遠からず、ってところじゃの。
 早くから広範に散らばっていた姉崎は、他の六主家と違って、あまり本家とかいう意識はないんじゃが……むしろ、中心という概念を極力廃して、人的なネットワークを形成してきた集団なんじゃが……。
 そうか……姉崎は、屋号かぁ……」
 イザベラは、孫子が出した例えに、しきりに感心している。
 ……姉崎、というカテゴリに属する人たちが、世界中にいる……ということだけは、かろうじて香也にも理解できた。その姉崎と荒野たちとが、どのような関係になるのかは……。
『……あとで、折を見て、ゆっくり説明して貰った方がいいかな……』
 と、香也は思う。
 何となく……いろいろ、一口には説明できない、複雑な事情がありそうだ……と、香也は予測する。
 楓や荒野あたりに聞けば、丁寧に解説してくれそうだし……。
 香也は、この時点で、それまでにあまり積極的に感心を持ってこなかった楓や荒野たちの事情に、自分から興味を持ち、詮索するようになっている……という変化を、香也自身は、自覚していなかった。

 香也たちがそんなことを話しているうちに、荒野とフー・メイたちの話しも終わっていたようだ。
「……結論からいうとだな……」
 荒野が、苦り切った顔で、香也たちに告げる。
「……こっちの三人のうち、ホン・ファとユイ・リィは、春からうちの学校に転入してくるそうだ……」
 楓と孫子が、「……ああ……」と微妙な感じでため息をつき、イザベラとジュリエッタが、揃ってパチパチと拍手する。
 前者の二人は、彼女らが登場してきた時点で、こういう展開を半ば予期していた。ホン・ファとユイ・リィは、見た感じ、自分たちと大して変わらない年齢だったからだ。そうした年端もいかない者をわざわざここに連れてくるというのは……やはり、そういう目的があるのだろう……と、楓と孫子は、漠然と予想していた。
「……それで……皆の、年齢は?」
 孫子が、誰にともなく尋ねる。
「わしは、そこの楓と同じ学年になるの」
 イザベラが、片手をあげて応える。
「ホン・ファは、加納の若と同じ」
「ユイ・リィは、あの三人の新種たちと……」
 ホン・ファ、ユイ・リィが、それぞれに片手をあげる。
「さて、これは……戦力増強を喜ぶべきなのか、それとも……」
 そう独りごちる荒野の口調は、苦り切っていた。
 ……かなり、不安になっているのだろうな……と、香也は思った。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(345)

第六章 「血と技」(345)

 ジュリエッタやセバスチャンの話しを聞いているうちに、荒野は頭が痛くなってきた。
 どうやら、この二人は……この土地での生活基盤とか偽装工作とかを、まるで考えてこないまま、しばらく定住するつもりらしい……。
 実に、一族らしからぬ、不用心さであり、無計画さであった。
 ジュリエッタなどは、話しの途中から、実に楽しそうに、
「けせらーせらー……」
 などと、歌いはじめる。
「……ヴィ……。
 姉崎って……埋伏の上手なんじゃなかったか?」
 荒野は、小声でシルヴィに囁きかける。
「何にでも、例外はつきもの」
 シルヴィの答えは、いっそ、素っ気ないほどだった。
「彼女たちは……何代か、一つの土地に定着していたから……その分、姉崎らしさも失われてしまったんでしょう……」
 ……そうなんだろうな……と、荒野も納得する。
 姉崎の大きな武器は、「婚姻により各地の有力者と結びつく」こと。
 それも、「うまくいきすぎる」と、ジュリエッタのように一つの土地に溶け込みすぎて、本来の性質をある程度失う……ということも、ままあるのだろう。
 ジュリエッタの場合は、一族としての偽装性や周到さ、用心深さは鱗片も残っていないようだが、代わりに、独自の技術体系を伝えている。
 ……一口に姉崎、といっても、いろいろだな……と、荒野は、今度はフー・メイの方に視線を向けながら、思う。
 シルヴィ、フー・メイ、ジュリエッタ、イザベラ……外見だけをみれば、とてもではないが、「同じ血脈」とは思えない。古い時代から、何代もかけて広い範囲に移動しながら、転々と地球の表面に自分たちの血を残していった結果が、ここにいる姉崎たちだった。
 現在ではむしろ……。
『……収束的な性質がない、ということが……』
 姉崎の、大きな武器なのかも知れない……と、荒野は思う。
 人種的にも、国籍もまちまちの女たちが、何代にもわたって独自のネットワークを作り、緩やかに「この世界」をコンロールしていこうとしている……そんなイメージを改めて抱き、荒野は、少し呆気にとられた。しかも、その中には……膨大な財力を持つもの、企業や国家の要職についている者、あるいは、配偶者がそのような地位にある者、武術その他の特技を持つ者……などを多数、抱えている。
『……母は、強し……か……』
 と、荒野は思う。
 荒野の知る限り、姉崎の目的は、ただ一つ。
 自分たちと自分たちの子孫に都合のいいように、周囲の環境を改良すること。
 生物として考えると、極めてまともで合目的だ。
 そして、姉崎と他の一族とは、「リスクコントロール」という点で、時に敵対しつつも、大勢としては、相互に依存し合う関係でもある。
 姉崎、という集団は……荒野が今までイメージしていたよりも、ずっと強力で、強靱なのかも知れない……と、荒野は、思いはじめている。

「……あ、あの……」
 全員の分のお茶を用意し、それまでのやりとりを黙って聞いている一方だった静流が、突然、片手をあげて、おずおずと声をかける。
「よ、よかったら……ですけど……。
 ジュ、ジュリエッタさん……う、うちのお店で、働いてみませんか? できれば、住み込みで……」
 静流の言い分は、こうだった。
 今の店舗兼住居は、静流一人が住むには広すぎる。それに、フルタイムで働ける店員も、そろそろ募集をするところだった。同居人と店員を兼ねた、住み込みの従業員がいてくれれば、静流のニーズとしては、かなり都合がいい……。
「も、もちろん、お店で働いた分のお給料は、お支払いしますし……それに、非常時にも……」
「ぜん、っぜん、よろしーでぇーっす……」
 静流が言い終わらないうちに、ジュリエッタは静流の首に抱きついていた。
「……ちょ、ちょっと……そんな、困るのです……」
 などと、静流が困惑の声をあげるのにも構わず、ジュリエッタは静流の頬にキスの雨を降らせる。
 ジュリエッタの育った文化圏では、親愛の情を示す感情表現であり、性愛的な意味合いはないのだが、こうした感情表現に慣れていない静流は、本気で困り果てている様子だった。
「……商店街に、静流さんとジュリエッタさんが常駐してくれれば……警戒態勢的には、確かに安心できますね……」
 荒野も、静流の言葉に頷く。
 人が多い駅前付近は、この周辺でも重点的に警戒しておかなくてはならない箇所でも、ある。
 それに、目の不自由な静流にいつまでも一人暮らしをさせておくのも、心配といえば心配だった。静流なら、望めば、同居する野呂の女性くらい、いくらでも手配できるだろうに、それをしていないというのは……出来るだけ、それまでの自分に近い者を、あまり手近に置きたくはない、ということなのだろう……と、荒野は予測する。静流にそういう心理がなければ、そもそも、静流がこの土地に来ることもない。
 その点、ジュリエッタは……計算高さがなく、どこか抜けていて……「悪い意味での」一族らしさがない。それに、静流と、年齢も近い。
 静流にしてみれば、変に神経を使う必要もなく、一緒にいても安心出来るタイプの同性、なのだろうな……と、荒野は妙に納得する。
 同じような年齢であっても、「静流とシルヴィ」という組み合わせでは、こうはいかないのだろうが……
「……すると、あと、問題なのは……」
 荒野がそういってセバスチャンに視線を向けると、その場にいた全員が、セバスチャンに視線を集中させた。
 全員が全員……こんなに奇妙で、見た感じからして胡散臭いガイジン、受け入れてくれるところは、この田舎にはないんじゃないか……と、思っているのは、明白だった。
「……わたくしのことは、お気になさらず……」
 セバスチャンは、特に慌てた様子もなく、注視する一同に向かって、深々と頭を下げて見せた。
「わたくし一人なら、どうとでも対処できますので……」
 ……本当は心配だったが、あまり深く追求したくない問題でもあったので、荒野はその言葉を信じることにした。
「すると……残るは、イザベラなわけだが……」
 荒野が、そちらに水を向けると、
「もちろん、住むところその他も、こっちに来る前に、ぜーんぶ手配済みっ!」
 イザベラは、そういって晴れやかに笑って見せた。
 ……こちらは、ジュリエッタたちとは対照的に、実に周到に計算と計画をしているらしかった。




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彼女はくノ一! 第六話 (86)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(86)

 実は、香也は、この時はじめて一族同士の戦いを間近に目撃した。
 以前、孫子がはじめて姿を現した時、というのは、つまり、楓と派手にどつきあった時、ということなのだが……その時、香也は、自分と同じ年頃の少女たちが思いっきり殴り合う光景が痛々しくて、すぐにその場に背を向けて、プレハブに籠もったものだった。
 以来、香也は、彼ら超人的な能力を持つ人々が、その本領を発揮する場に、居合わせたことがない。仮に目撃する機会があったとしても、香也自身の意志で、それを見まいとしただろう。
 しかし……今回、「イザベラ」という「香也の意志を無視することもある」個性の出現によって、ジュリエッタとフー・メイの対決を、目の当たりにすることになった。
 その結果……香也は、高度な技の応酬に、すっかり魅入られてしまった。
 もちろん、せいぜい常人並みの動態視力しな持たない香也に、高速で繰り出される二人の攻撃を見切ることはできない。しかし、残像や二人の動きによって発生する空気の動きなどの迫力は、香也を圧倒した。いきなり、その場に胡座をかいて二人の戦いを熱心に見はじめた香也を、楓が心配そうな表情で覗き込んでいることに香也も気づいていたが、香也は、楓のことを考える余裕もなく、ジュリエッタとフー・メイの戦いの趨勢に注目した。

 しかし、その戦いは、荒野のたかだか一挙動で、ぴたりと収まってしまった。
 荒野が、楓から「ろっかく」とかいうモノを受け取り、腕の一振りで、同時に二つを投げつけ……高速で動き続けるジュリエッタの双剣に、ぶち当てたのだ。
 そんな離れ業に、香也はまたしても目を剥いたが、驚いているのはどうやら香也一人だけのようだった。その場に居合わせた人々にとっては、荒野ならその程度のことをしても、別段、不思議でもなんでもないらしい。
 ……とんでもない、人たちなんだな……と、香也は、改めて思った。
 いや、それは……香也とて、「知識」としては認識していたわけだが、そうした特殊な部分を意識的に無視し、できるだけ「普通の人々」として見ようとしていた香也にとっては、軽いショックではあった。
 ああ、やはり……彼らは、自分とは、違う人種なんだな……と、言語にすれば、そんな感慨を香也を抱いてしまい、そして次の瞬間、そんなことを考えてしまった自分に軽い嫌悪感を感じる。自分が……他人のことをどうこう思えるほど、偉い人間なのだろうか、と。
「……大丈夫ですか?」
 荒野が、争っていた二人の女性たちとなにやら話し合いをしている間に、楓が、心配そうな顔をしながら、胡座をかいた香也の顔を覗き込んでくる。香也の様子が、いつもとは違っていることを、察知してのことだろう。
 香也のことを常に見守り、心配してくれるのは、楓である。孫子も同じようなものだが、孫子は楓よりも、感心や興味を持つ範囲が広いと思う。楓は……ほとんど、香也のことしか見ていないような気がする時がある。
 香也にしてみれば、その一途さが、歯がゆかったり、怖かったりするわけだが……。
「……んー……。
 大丈夫……」
 香也は、荒野たちのやりとりを横目で伺いながら、気の抜けた声で応える。
 遂さっきまで激しく争っていた二人の女性は、明らかに自分たちより年少の荒野に一目置いている様子で、それどころか、うやうやしいほどの態度で、荒野のいうことに大人しく頷いていた。
 その様子をみて……やはり、荒野は……「彼ら」の中でも、特殊な位置を占めている人物らしい……と、香也は思う。
 あれほどの能力を持つ人々の中でも、自分よ大して変わらない年齢の荒野が、大人たちから明らかに敬意を持って扱われているのをみて、香也は、「……やっぱり、凄い人だったんだな……」と、これもまた、今更ながらに思う。
 楓が荒野に全面的に服従しているのは知っているし、孫子は、逆に、ことさらに反発しているようにも見える。茅やテン、ガク、ノリは比較的自然体で荒野に接してはいるが、他の「彼ら一族」の大人たちは、ほぼ例外なく、まだ年端もいかない荒野に対し、VIPかなにかのような態度で接することが多かった。少なくとも、香也が目撃した限りにおいては、そういう傾向があった。
 あるいは……この時が、香也が、普段普通に接している「彼ら」の特殊性について、はじめて明瞭に意識した瞬間なのかも、知れない。

 どういう話しをしたのか、荒野が二人を伴って戻ってくると、検査に関係のない者たちは、広い会場の片隅に固まって、お茶会をすることになった。三島がこのスポーツジムの事務所に掛け合って電気ポットを借りてきて、楓が紙コップを調達、静流がお茶をいれる……という連携で、いつもの事ながら、こういう用意の段取りは、実に手際がいい……と、香也は感じる。
「……それって……非常時のみに招集できる、用心棒……というわけですか?」
 荒野は、今は、ジュリエッタと話し込んでいた。
「Yes」
 ジュリエッタは頷く。
「……そうすることで、日本の一族との関係を深めたい、という意味もあります」
 セバスチャン、とかいう、痩せすぎたダリみたいな顔をした人が、補足した。
「ジュリエッタ様の技量を活かせる場は、限られておりますので……しばらくこちらに滞在して、その実力をアピールする機会を与えてくだされば……」
「なるほど」
 荒野は、頷く。
「そちらにしてみれば、活躍する場さえあれば、デモンストレーションの機会を得ることが出来る。
 こっちにとっても……いざという時動かせる戦力は、多ければ多いほどいいし……。
 確かに、双方にとって有益な提案だと思います。
 が……ここに居座る間……お二人は、何もしないでいるわけですか?」
 荒野は、いくつかの指摘をしながら、ジュリエッタとセバスチャンに、今後の身の振り方を尋ねる。
 外国人で、どこか浮世離れしているこの二人が、この田舎町でごく普通の職業につけるとも思えない。そして……成人の、無職の外国人がうろついていれば……否応なく、目立ってしまう土地柄でもあった。日本は、いまだに同質性への指向が強く、特に、都会でもなんでもないこの土地で、外国人の存在は、かなり人目を引く……などと。
 荒野の話しが続くにつれ、ジュリエッタとセバスチャンは、黙り込んでしまう。
 ジュリエッタはニコニコと脳天気に笑っているだけだし、セバスチャンは、ハンカチを取り出して、しきりに汗を拭いていた。
 どうやら……周辺社会に対する偽装、ということは、まるで考慮していなかったらしい。ついでに、自分たちの外見が、この土地では目立ちまくりだということも、まるで意識していなかったらしい……。
 ジュリエッタは、いきなり、
「けせらーせらー……」
 と、歌い出した。
 どうやら「……なるようになる……」と、いいたいらしかった。
 実に、ラテン系らしい発想だ……と、端でやりとりを聞いていた香也も、そう思った。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(344)

第六章 「血と技」(344)

 ジュリエッタとフー・メイの、「剣対拳」のデュエルは、それなりに長引いた。
 そのやりとりについて、荒野は、「……二人とも、楽しんでいるな……」と、見た。
 どちらも、本来なら、対戦した相手を一撃の元に屠る技量の持ち主である。実戦の場では、実力者ほど、勝敗が決するまでの時間は短くてすむ。
 それが、今回のような上級者同士の対決でありながら、数分間以上も勝負がつかなかったのは……ひとえに、二人が、お互いに相手の力量を読み合い、認め合っていたからだった。二人とも、実力を小出しにして、相手の反応や出方を楽しんでいた。
 例えば、ジュリエッタもフー・メイも、最初のうちこそ足をほとんど活かさず、腕や剣だけに頼った攻防から開始して、その後、フットワークも活用し、縦横に場内を駆けめぐる対戦へと移行した。もとよりここは、今日こそ、「茅たちの体力測定」という目的のために貸し切ってはいるが、本来なら室内で運動をするための施設でもある。長大な刃物を持つ者も含む二名が駆け回るのに、十分な面積はあった。
 ただし、荒野たち見物に回っていた数名は、近くで見物するのにはリスクが大きすぎるので、部屋の隅にまで下がらなくてはならなかったが。

 実際に対戦をしている二人を除いたギャラリーたちは、総じて、この成り行きを興味深く見守っていた。
 が、荒野にとって、もっとも意外に思ったのは……ことのほか興味を抱いた様子で二人の応酬を見守っていたのが、イザベラによって半ば無理矢理この場に引き出された形の香也だったことだ。
 他の連中の大多数は、ジュリエッタとフー・メイの対決に気を取られて、香也の態度ににまで、気が回らないようだったが……。
 香也は、ギャラリーたちの一番隅に陣取り、どっかりと床に胡座をかいて、二人の動きを、身動ぎもせずに凝視していた。
 香也が、他人のことにここまで感心を持つのも珍しい……と、荒野は思う。そして、そんな香也を心配そうな表情をして見ている楓の姿にも、荒野は気づいた。
 そうした香也の反応に気づいていたのは、荒野と、それに、楓の二人だけらしい……。

 頃合いをみて、荒野は……そろそろ、潮時か……と、判断し、楓に六角を二つ借りて、それを、ジュリエッタの双剣に、同時にぶち当てた。荒野なら、片手で二つ同時に投げつけ、ジュリエッタの剣に命中させることも容易にできる。
 荒野の投じた六角が命中した結果、ジュリエッタの動きが止まった。
 ジュリエッタは、信じられないものを見る目つきで、自分が手にしていた剣をみつめている。そして、ジュリエッタの表情が、驚愕から歓喜へと、徐々に変わる。
「……そこまで……。
 それ以上は、不毛でしょう……。
 もともと、大した理由があってはじめたわけではないし……二人とも、この辺で収めてください……」
 荒野が、静かな口調で告げると、フー・メイは無言のまま、ジュリエッタのそばから大きく後退しながら頷く。ジュリエッタは、自分の剣に六角を命中させた荒野に対して、しきりに「Great」を連発して褒めたたえている。そんなジュリエッタを、荒野は軽く手でいなしながら、フー・メイに対して、
「茅たちに何か用事があるのなら、ここでの検査が一通り済んでからにしてくれないか?」
 と、提案してみる。
 フー・メイは、荒野の提案に対して、特に抵抗することもなく、あっさりと頷いて見せた。

 室外に非難させておいた医師たちを呼び戻し、中断されていた検査の続きをお願いした。
 同時に、そちらの邪魔にならないよう、部屋の隅に陣取って、フー・メイたち三人とジュリエッタ主従、それに、荒野たち、ここでの変事を聞きつけて駆けつけた数名が固まって、話し合いの席を設けることになった。
 ジムの事務所に話しをつけて電気ポットを借り、それと楓が外にでて調達してきた紙コップを使い、静流が、常時持ち歩いている茶葉を使って、人数分の飲み物を用意する。相変わらず、まるで手間をかけておらず、最低の道具しかない場合でも、静流がいれたお茶は、最高の味と香りだった。
 フー・メイは一口、含んだ瞬間に眉をぴくりとあげ、ホン・ファ、ユイ・リィは、普段、仲間内でおしゃべりする口調で、「なに、これ!」、「こんなうまいの、飲んだことない!」とか小声で話している。杭州訛りと四川訛りがごっちゃになっているな……と、荒野は、二人のアクセントを聞き分ける。
 ジュリエッタも驚きを隠せないようで、「……uuunn……Chai……」としばらく陶酔した表情を浮かべていた。
 香也も、神妙な顔をして、隅の方にちょこんと座り、ご相伴に預かっていた。
 さて、と……と、荒野は少し思案し、結局、フー・メイたちご一行との話しは、後回しにすることにした。
 ジュリエッタの要求することの方が、判断をするのに単純であり、従って、結論も出しやすい。何しろ、ジュリエッタの雇用条件を詰めるだけなのだ。条件が折り合わなければ、ジュリエッタにお引き取り願うだけ……という意味では、荒野にとっては、それだけ、気が楽な交渉でもある。
 また、フー・メイたちがこの土地に来た目的も、荒野にとっては未だ不明であり……それだけなら、まだしも……その件については、荒野は、何となく、茅たちも交えて話し合った方がよいのではないか……と、根拠もなく思ってしまった。
 その茅たちは、こちらの方が気になるのか、時折、ちらちらと視線をなげつけてくるが、大人しく、中断した検査の続きを行っている。
 この会場を押さえているのは今日の午後だけなので、今のうちに、予定を全て消化しなければならない……ということは、どうやら理解しているようだった。

「それで、ジュリエッタさん……」
 荒野は、基本的な事項を確認するところから、はじめる。
「おれに傭われることが、希望だ……と、先ほど、そのようにおっしゃいましたが……それに、間違いはありませんね?」
 ジュリエッタは、荒野の言葉を首肯した。
「……それは、いいんですが……。
 参ったな。
 ぶちまけていうと、おれ……今、ジュリエッタさんクラスの術者を、長期間、拘束できるほどの財産は、持ち合わせていないんです……」
 なけなしの貯蓄は、孫子の会社の資本金として供出していて、現在のところ、荒野の意志では動かせない。
「No problem!」
 ジュリエッタは、荒野の懸念を一蹴した。
「……働いた分だけ、貰えばいいよー。
 非常時、ジュリエッタの腕が必要になった時、その働きに応じて貰えればー……。
 待機期間中のお金は、いらないねー……」
 ……出来高の、用心棒……という形の雇用形態を、ジュリエッタは提案してきた。




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彼女はくノ一! 第六話 (85)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(85)

 跳躍して大きく後退してから、ジュリエッタは、それまでの「待ち」の姿勢から脱却して、積極的にフットワークを活用するようになる。
 ただでさえ、攻撃可能レンジが広いところに加え、一族の脚力で不規則に周囲を跳ね回り、長大な刃物を振り回すジュリエッタの姿に、ギャラリーは慌てて会場の隅まで後退、退避した。
 ここではじめて、先にここにいた茅やテン、ガク、ノリたちと、後から来た荒野たちのグループが合流する。現象は、気を失ったまま舎人に抱えられており、ガクは、首を振りながら、先程のダメージから回復しつつある。
 その時のジュリエッタの印象を率直に述べるのなら、「走り回る凶器」、だった。
 合流した、といっても、まだゆっくり話し合って情報を交換する、というほど、落ち着いた状況ではない。

「……それにしても……こうして間近でみると、凄いな……」
 三島が、呆れが混ざった口調で呟く。
 何しろ、数メートルの間合いを一気につめて、両手で長剣を奮うジュリエッタと、素手で、そのジュリエッタにまったく引けを取っていない、フー・メイとの戦いが、目の前で展開されている。
「でも、あの二人……」
 三島は、少し、首を傾けた。
「二人とも、なんか……笑ってないか?」
「……笑っている!」
 乱入して来た三人組のうち、一番年少であるユイ・リィが、無邪気な歓声をあげて、三島の言葉に同意した。
「あの、長剣使いの人も、すごいっ!
 姉様と互角にやり合える人、ひさしぶりっ!」
「全力を出せる人とめぐりあえて……」
 ユイ・リィより少し年長のホン・ファも、そういって頷く。
「フー・メイの姉様も、喜んでいる……」

「……誰だよ……姉崎が最弱だなんていったのは……」
 舎人は、なんとも間の抜けた顔をして、この事態を見守っていた。
「二宮や野呂にだって……ここまで動けるのは、少ないぞ……」
「……彼女たちの場合、少数の例外と見なすべきですが……」
 自身、姉崎であるシルヴィが、舎人の独白に答える。
「……フー・メイの方はともかく、あのジュリエッタについては、こちらでも把握していなかった……」
「……ジュリエッタ様の血族は、ここ何代か、領地内に引きこもって、外部の方々とはあまり接触してこなかったもので……」
 セバスチャンは、シルヴィにそういって、軽く会釈をした。
「コウ……あの、二刀流……お買い得よ」
 シルヴィは、今度は荒野に顔を向けて、頷いて見せた。
「フー・メイと、あれだけ渡り合える者を身近に置いておけるなんて……」
「……そうはいっても……先立つものが、なあ……」
 しかし、荒野の返答は、慎重なものだった。
「あれだけの術者を拘束するだけの金なんて、どこにもないぞ……」
「対価なら……今、すぐに……とは申しません」
 セバスチャンが、荒野に囁きかける。
「お嬢様は……むしろ、若が示された共生のビジョンに共感し、それに賭けようとなさっています」
「……買いかぶりだな……」
 荒野は、ため息をついた。
「その、共生のビジョンとやらも……別に、自分で希望したものではなく、状況に押し流されて、泥縄式に後から理屈づけたようなもんなんだが……」
「……ご謙遜を……」
 セバスチャンは、荒野に頭を下げた。
「こちらの詳しい事情は、知りませんが……いずれにせよ、お嬢様の、本物を見極める嗅覚は……本物です。
 ゆえに、若様も、本物ですあると確信しています……」
「あの、ジュリエッタさんの勘は……そんなに、凄いのか……」
 荒野は、聞き返す。
「ここ一番、という時に、お嬢様の選択に賭けて、後悔したことはございません……」
 セバスチャンは、真面目な顔をして、頷く。
 強い信頼関係で結ばれているようで、何よりだ……と、荒野は思った。
「……さて、流石に二人とも、息が上がってきたようだし……」
 ……無粋だが、止めに入るかな……と、荒野は動き出す。
「楓。
 六角、二つ貸して……」
 荒野は、楓の前に手を差し出す。
 楓が、差し出された荒野の掌の上に、隠し持っていた六角を二つ、乗せると……。
 次の瞬間、荒野の腕が一閃し、ぶん、と風切り音を発する。

 少し離れた場所で、金属がぶつかりあう音がした。
「……Oh! Oh!……」
 ジュリエッタが、自分が手にしている剣を、信じられない物を見るような目で、見つめている。
 二本の剣に、一度に、六角をぶつけられ……剣の刃が損なわれる、ということはないのだが、衝撃で、ジュリエッタの手が痺れている。かろうじて、剣を取り落とすことはないのだが……それでも、今までのように、自由自在に剣を奮うことは、できそうにもない。
 ジュリエタの動きが止まったのを機に、フー・メイも、後退して距離をとる。
「……そこまで……」
 荒野は、静かな口調で告げた。
「それ以上は、不毛でしょう……。
 もともと、大した理由があってはじめたわけではないし……二人とも、この辺で収めてください……」
 フー・メイが、荒野に向かってはっきりと頷いて見せた。
 セバスチャンがジュリエッタに近づき、ジュリエッタの手から剣を受け取って、プラスチックのケースに剣を収めた。
「……Oh Great……」
 剣を手放したジュリエッタは、いまだ痺れ続ける自分の手を見つめて、しきりに頷いていた。
「……ドン・カノウ……You are Great……」
 ジュリエッタは驚嘆と尊敬の入り交じった視線を荒野に送りながら、そう呟いた。高速で動かしていたジュリエッタの剣に、正確に、六角を当てて見せた荒野の手腕を、褒めたたえている。
「それは、ともかく……」
 荒野は、ジュリエッタには対しては冷淡にいないしておいて、フー・メイに向き直る。
「……そちらの、武闘派の姉崎さんの用件は……もう、済みましたか?」
「……この子たちと話しをしている途中で、この者が乱入してきたもので……」
 フー・メイは、荒野に対して軽く頭を下げた。
「ご挨拶が遅れました。
 姉崎の、フー・メイと申します……」
「……その用件は……どうやら、こいつらと、直接話したいようだけど……急ぎの用件なの?」
 荒野は、愛想良く微笑みながら、続ける。
「もし急ぎの用でなければ、こいつらの検査が一通り終わってからにしてもらえないかな?
 うちのじじいがせっかくこの場を確保したのが、無駄になる……」




[つづく]
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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(343)

第六章 「血と技」(343)

 ジュリエッタが両手に持ったのは、刃渡りが自分の身の丈ほどもある、細身の直剣だった。諸刃で、刃が直線状になっている、典型的な西洋のSwordだったが……ただ、幅が狭く、縦に長い。
 あれでは……バランスが悪い、どころではないだろうな……と、荒野は、ジュリエッタが構えた剣をみて、そう疑問に思った。
 いくら、細長いといっても、金属の塊である。二メートル弱の棒状の金属を、片手にひとつずつ持つことを想像してみればいい。いわゆる、「日本刀」も、一部の例外的なものを除いて、刃渡りは六十センチから八十センチほどで……刃渡りが一メートルを超えるものは、ごくごく少ない。祭祀に使うものや儀礼用、それに、ごく希に、野太刀と呼ばれる長大な刃を持つ刀を実用する者もあったようだが……そもそも、人間が使う道具には、適正な重さや形というものがあり、自分の身長ほどの刃渡りを持つ剣……などという代物は、どのような観点から考えても、取り回しに苦労するだけの「無用の長物」なのだった。
 そんな、「異形」の武器を両手にひとつずつ構えて、ジュリエッタは微動だにしない。それどころか、満足そうな、余裕のある笑みさえ、浮かべている。
 ……こうして、剣を構えている姿が、本来の自分だ……とでも、いうように……。
「……オンビンにぃーできない人はぁー、ジュリエッタが斬り刻むねーっ!」
 いきなり、ジュリエッタが脳天気な口調で叫んだので、荒野は、頭を抱えた。
「……何だよ、それは……」
 ジュリエッタの執事だと自称するセバスチャンなる人物が、荒野に「ジュリエッタは、日本語が不得手である」うんぬんとフォローをいれてくれる。
 どうやら、ジュリエッタは、荒野が先ほど口にした、「穏便に」という単語の意味を理解しておらず、何となくノリだけで反復しているらしい……。

 両手に剣を構えたジュリエッタに向かって、「武闘派の姉崎」たちのうち、一番年長の女性が、無造作に近づいていく。
 茅やテンが、その女性と何やら話していたようだが、少し距離があることもあり、また、荒野の周囲にいる三島や孫子、イザベラなどが、いっせいにおしゃべりをしはじめたこともあって、荒野にはその女性と茅たちが何を話したのか、聞き取ることができなかった。しきりに、「ムサシ」とかいう単語が荒野の耳にも入ってくるが、時代劇にも日本のサブカルチャーにも詳しくない荒野は、その人名がどういう意味を持つのか、まるで理解していなかった。
 その女性は、動きやすい、カジュアルな服装をしているが、取り立てて目立つ外観をしていなかった。強いていえば……その表情が、外見から判断出来る年齢と比較して、ひどく静かだ……ということに、違和感を憶える。
 どこか老成して達観したように見えて……その実、裡に、ひどく強靱な芯を持っているような、面構えをしていた。現代の日本で、そのような表情を持っている若い女性は、当然のことながら、少数派だ。
 出来る……な……。
 というのが、はじめて見るその女性に対する、荒野の印象だった。
 単純に、戦闘能力に秀でいている……とかいう、表面的な差異のみではなく……もっと内面的な部分からして、この人は、成熟している……。

 武器らしいものを何も持っていないのにも関わらず、その女性は、無防備にもジュリエッタの目前まで、無造作に歩いていく。
 ひどく長い剣を構えたジュリエッタの攻撃圏は、当然のことながら、かなり広い。腕を伸ばせる範囲も考慮すれば、半径にして二メートル半以内にあるものは、余裕でぶった斬ることが可能な筈だ。
 事実、ジュリエッタは、躊躇することなく、二つの白刃を、その女性に向けて振る。流れるような自然な動作だったが、荒野の目には、力も勢いも、十分に乗った……人間の胴体など、簡単に両断できるだけの斬撃だということが、見て取れた。
 それも、二振りの剣を、左右から同時に振るっている。普通に考えれば……その間にいる女性は、次の瞬間には、絶命している攻撃だった。
 しかし、その女性は、眉ひとつ動かさずに、ごく単純な動作で、自分の死を回避した。
 刀身が自分の肉体に触れる前に、人差し指で刀身の腹を上に押して、あらぬ方向に、斬撃を逃す。
 十分に勢いの乗っていた攻撃を逸らされたジュリエッタも、それで体勢を大きく崩す……ということはなく、一度振り抜いてから、素早く腕を戻してもう一度、その女性を攻撃した。
 しかし、ジュリエッタが何度同じ攻撃を繰り返そうとも……その女性は、汗ひとつ流すことなく、平然と、その攻撃を指一本で逸らしてみせる。
 恐ろしいのは……その女性が、ジュリエッタが振るう剣を、目で追っていないことだ。
 どうやら……音やジュリエッタの腕の動きをみて、剣の軌跡を読んでいるらしい……と、荒野は、しばらく観察した末、結論する。
 ごく短い時間内に、ジュリエッタは両腕をフルに駆使して、その女性を攻撃し続けた。ムキになっている、というのとは、少し違っていて……ジュリエッタは、自分の攻撃を無効化する存在を目の前にして、満足そうな笑みを浮かべている。
 ……あっ……。
 と、荒野は思う。
 ジュリエッタが浮かべている笑みに、心当たりがあった。
 あれは……ある種の者が、自分よりも強い者に出会った時に浮かべる……会心の、笑みだ。
 ある種の者……つまり……常に、自分よりも強い者と戦うことに飢えている者、特有の……どう猛な笑みを、ジュリエッタは浮かべていた。
 荒野は、今までに何度か、そういう「苦戦するほど気分を高揚させる」タイプの、「戦闘中毒者」に、出会ったことがあった。
 つまり……ジュリエッタとは……そういうタイプの人間だ……と、荒野は結論する。

 ジュリエッタの攻撃を避けながら、その女性はじわじわとジュリエッタに肉薄していた。ジュリエッタは、休む間もなく双剣を振るうので、前進するスピードは、ひどくのろのろとしたものではあったが……それでも、これだけの猛攻に晒されながら、退きもせず、傷ひとつ追わずに前に進んでいる……というのは、十分に賞賛に値する……と、荒野は思う。
 何しろ……その女性は、「素手」、なのだ。
 ジュリエッタとの間合いを詰めると、その女性は、なんの予備動作も行わず、いきなり、ジュリエッタに襲いかかった。
 その女性の背が、一瞬にして二割ほど縮んだかと思うと、次の瞬間には、弾かれたようにジュリエッタに殺到している。
 ジュリエッタは、すんでのところで背後に大きく跳躍して、難を逃れた。
 その女性の、全身のバネを使った攻撃を、ジュリエッタがすんでのところでかわすと、その後に、ようやく「ごぉっっ」っと周囲の空気が鳴る。
 ジュリエッタの額から、一筋の血が、流れ落ちた。
 その女性の、手足による攻撃は、辛くもかわしたものの……その時に発生した空気の動きが、ジュリエッタの額の皮膚を、浅く切っていたのだった。
 ……勘がいいな……と、荒野はジュリエッタを評価する。
 ともかくも、あの攻撃を避けることができたのは……十分に、評価に値する……と、そう思った。




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彼女はくノ一! 第六話 (84)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(84)

「……われら、姉崎は、伝統的に研究熱心なのです」
 フー・メイが、周囲によく通る声で説明しはじめた。
「加えて、肉体的にいうのなら、女系ということもあり、六主家の中でも最弱、とされてきました。
 いや、身体的な能力に限らず、姉崎には、加納のように一代で膨大な知恵を蓄積する寿命も、佐久間のように卓越した知力もありません。一般人並の寿命と、一族でも最低レベルの貧弱な肉体があるだけです。
 ただ……母から子へ、子から孫と収集した知識や体得した技を、愚直に引き継いでいきました。
 単純に、筋力や反射神経などを比べれば、われら、姉崎は、あなた方新種はおろか、他の一族の方々の足下にも及びません。
 ですが……それでも、幾世代にも渡る研鑽と創意工夫の蓄積は、この貧弱な肉体でさえ、あなた方新種を、凌駕することができます……」
 決して、勝ち誇った口調ではなかった。
 淡々と、事実を事実として告げる口調が……かえって、テンやガクの耳には……痛い。
 ただ一人、フー・メイたち三人に挑まなかったテンが、フー・メイの前に進み出て、膝をついた。
「……どうか、その技を……ボクたちに、伝授してください……」
 テンは、フー・メイに頭を垂れながら、静かな口調で懇願した。
「……賢い子だ……」
 フー・メイは、ふ、と、笑みを漏らす。
「加納の姫が、どうやら予測したように……われらがここに来た目的は、あなた方新種が、われらの技を伝授するのに値する存在かどうか、見極めるためでした。
 しかし……」
 フー・メイは、ふと顔をあげ、三島たちが去っていった出入り口に、顔を向ける。
「……どうやらここで……無粋な邪魔者が、入ってくるようですが……」
 ばん!
 とそこのドアが開いて、大柄な、古風なドレス姿の女性を先頭にして、数人の男女が入ってくる。
 だいたいは知った顔だったが、先頭の女性を筆頭に、何人か、見慣れない顔も混ざっている。
「……オーラ! アミーゴ!」
 最初に入ってきた女性は、つき従っていた顔色の悪い男から、細長いプラスチックのケースを受け取り、その中から、素早く、手慣れた動作で、長大な細身の剣を二振り、取り出して、ケースを放り投げる。顔色の悪い男が、やはり手慣れた挙動で、女が放ったケースを受け止めた。
「……二天一流!
 ジュリエッタ・姉崎、参るっ!」
 ジュリエッタという女性は、誇らしげに両手に持った長剣を構えた。
 片刃で反りの入った日本刀、ではない。両刃の、直剣だった。しかも、ひどく長い。刃渡りの部分だけで、それを持って構えている、ジュリエッタ自身の身長と同じくらいの長さになる。柄の部分までを含めれば、二メートル近くになるのではないか。
 ジュリエッタは、そんな細長い得物を片手に一つづつ持って、構えている。
 また、その構えが、ぴったりと決まっていて、隙がない。  
 ただ、得物を持って立っているだけで……その得物が、手になじんでいることが、容易に推察できた。
「……オンビンにぃーできない人はぁー、ジュリエッタが斬り刻むねーっ!」
「……何だよ、それは……」
 ジュリエッタの後ろについてきていた荒野が、文字通り、頭を抱えている。
「実は、ジュリエタ様は、日本語があまり得意とはいいかねまして……」
 細長いケースを抱えたセバスチャンが、ぼそぼそした声で、荒野に告げる。
「……耳慣れない単語や、複雑な言い回しは、理解していないではないかと愚考します……」
「二天一流……二刀流って!
 ……武蔵かよっ!」
 すかさず、三島がつっこみを入れる。
 しかし、それからすぐに、
「いや……でも……柔術の例もあるし……意外と海外の方が、そういう古い流儀は、原型のまま、伝わっているものなのか?」
 などと、自分の前言を打ち消しにかかった。
「姉崎は、伝統として、知識とか情報を収集し、蓄積し、研究することには、熱心なのです……」
 シルヴィが、誰にともなく、解説をはじめる。
「それに……二天一流の、いわゆる宮本武蔵が生きていた時代には……姉崎の祖先も、まだ本格的に、拠点を海外に移していませんしたから……」
 実際に、開祖直伝である可能性は、完全に否定しきれない……ということらしい。
「Oh!……Musashi!
 Musashi Miyamoto!」
 何故か、荒野たちと入ってきた赤毛の少女が、ここで大声をあげた。
「……It's……Vagabond!
 Eiji YoshikawaのNovel、読んだことあるねっ!」
「いわゆる、武蔵は……碑文や弟子たちが残した記録によって、剣聖のイメージが残っている人物ですが……実際に強かったかどうかは、異論が出ている人物でもあります。有名なところでは、文士の菊池寛と植木三十五の論争などがありますが……」
 孫子までもが、すっかり解説モードになっていた。
「……現実の武蔵はどうか、知らんがな……」
 三島が、双剣を構えて微動だにしないジュリエッタを指さして、指摘する。
「……あの、でか乳ねーちゃんは、結構やるんじゃないのか?
 あの、二刀流ってやつを……。
 現に、あんな長物……片手で、軽々と持ってるぞ……」
 
「……道化が……」
 フー・メイは、苦笑いを浮かべて静かに呟き、
「ホン・ファ、ユイ・リィ、手出しは無用!」
 と、厳かに、仲間たちに宣言し……無造作に、ジュリエッタの前に進み出る。
「……フー・メイ。同じく、姉崎。
 一介の、拳士。
 流派の名を部外者に漏らすことは、禁じられている。
 ご所望なら、お相手つかまつる……。
 ここにいる子供たちに……六主家最弱の姉崎がどう戦うのか、披露するいい機会だ……」
 そういって、フー・メイが躊躇することなく歩んでいくと……ある一点で、ジュリエタが、動いた。
 より、正確にいうと……ジュリエッタの体幹を中心とした、銀色の弧が、幾重にも発生した。ジュリエッタが剣を振るう度に、残像が、銀色の半円となって出現する。
 そして、その銀の半円を歪めながら、フー・メイが、ジュリエッタに近寄っていった。
 半円は、フー・メイの身体の周囲に近寄ると、そこで、フー・メイの身体を避けるように、大きく上下に歪曲する。
 どうやら……フー・メイが、手足をジュリエッタの剣に当てて弾いているらしい。
 ジュリエッタは、何度もフー・メイに剣を弾かれながらも、素早く体勢を立て直し、再度、斬劇を入れる……ということを、繰り返している。 
「……おお……」
 三島が、感嘆の声をあげる。
「しっかり二刀流、しているじゃないか……。
 それ、素手で弾く方も、いい加減非常識だが……」
「……うわぁ……」
 顔をあげたノリも、呆れたような声をあげた。
「刃身の横から力を加えて……軌道を、ねじ曲げている……」
 ノリの動態視力なら、その様子が、つぶさに観察できる。
 しかも……フー・メイは、特に意識を集中させているようでもなく、涼しい顔をして、そうした離れ業を行っている。
「……考えずとも……身体が、自然に動く」
 フー・メイは、一言呟くと、さらに大きく、前に踏み出した。
 ごおぅっ、と、周囲の空気が音をたて……。
 それまで攻勢に徹していたジュリエッタが、はじめて、大きく跳躍して退いた。
「……避けた……」
 ノリの目は、拳と脚によるフー・メイの、幾重にも重なった攻撃を、ジュリエッタが、すんでのところでかわた……動きを、しっかりと捕らえていた。
「……なかなか、やるねー……」
 ジュリエッタが、のんびりとした語調で、声を出す。
 ジュリエッタの額が薄く切られて、うっすらと血が滲んでいた。




[つづく]
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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(342)

第六章 「血と技」(342)

「……いや……その……。
 乱入してきた人たちも、そんなに過激なことはしていないようだし……話しを聞く限りでは……どちらかというと、三人組や現象の方が、危害を加えているような感じだし……。
 おれの意志としても、出来る限り穏便に事を収めたいのですが……」
 荒野は、内心で冷や汗をかきながら、一応、抗弁してみせた。
 ……何だって、この土地には……こうも血の気が多い、好戦的な女性ばかりが集まってくるのだろう……。
「……わっかりましたぁー……」
 ジュリエッタは、にっこりと微笑んで荒野に頷きかけると、細長いケースを肩に担ぎ、すたすたと歩き出す。ジュリエッタが先ほどセバスチャンから受け取ったのは、ジュリエッタの身長よりも長い、二メートル近い長さの、プラスチック製のケースだった。
「……オンビンにぃー。オンビンにぃー……」
 少し調子っぱずれのアクセントで繰り返しながら、ジュリエッタはすたすたとスポーツ・ジムの中に入っていきかけ、そこで足を止めて首だけ振り返り、荒野に話しかけた若い男に、
「……なか、案内してくださりますか?」
 と、問いかけた。
「ど……どうしましょう?」
 警護の者だ、と名乗った男は、荒野に判断を求める。
「……荒野、遅いっ!」
 その時、建物の中から、三島百合香の小さな姿がこちらに向かって駆けてきた。
「こうなったお嬢様は……行き着くところまでいかないと、落ち着きません……」
 いつの間にか荒野のすぐ後に立っていたセバスチャンが、ぼそっ、っと囁く。
 セバスチャンの気配に気づかなかった荒野は、一瞬、ぎくりと身をすくませる。
「Oh!……センセー!
 Photoで観るより、ちっさいねー……」
「……な、なんだっ!
 このでかい女はっ!
 このっ! 乳も不平等にでかいぞこいつはっ!」
 ジュリエッタは、片手で近寄ってきた三島を抱きすくめている。ジュリエッタは確かに大柄で、身長も、荒野より高いくらいだった。そのジュリエッタが三島を抱きすくめると、大人が子供を抱いているような印象になる。ジュリエッタにぐいぐい抱きしめられている三島は、つま先立ちになってジュリエッタの豊満な乳房に顔を埋めているような状態だった。
「……荒野っ!
 このデカぶつ、さっさと何とかしろっつーのっ!」
 楓や孫子は、完全に毒気を抜かれた表情で、ぽかん、と成り行きを見守っていた。
 香也は、楓と孫子の二人に抱きかかえられた状態での移動が応えたのか、青白い顔をして、地面にぺんたんと尻餅をついている。
 静流は困惑した表情でしきりに周囲に顔を巡らせているし、イザベラは、完全にこの場の状況を面白がっているのか、にこにこと笑いながら皆の挙動を観察していた。
 シルヴィと目が合うと、諦観しきった表情で、肩を竦めてみせた。
「……ジュリエッタさんっ!」
 内心で舌打ちをしながら、しかたなく、荒野は決断を下す。
「とりあえず……この場を、出来るだけ、被害を出さずに、収めてみてください。
 まだ中の詳しい状況は、わかっていないわけですが……状況を見極め、どう対処するのかという判断も含めて、実力を測らせてもらいます!」
 ジュリエッタの希望は、「荒野に自分を売り込むこと」。
 その言葉に嘘がなければ……無茶なことは、しない筈だった。
「……アイアイ、サー!
 ドン・カノウ!」
 ジュリエッタは、ようやく三島から手を離し、上機嫌で荒野に敬礼してみせる。
「……では、センセー!
 早く、戦場に案内するねー!」
「……戦場じゃないっつーの……」
 ようやくジュリエッタの胸から解放された三島は、ため息をつきながら荒野の方に視線を送る。荒野が小さく頷いたのを確認してから、先導してジュリエッタを案内しはじめた。
「わたしは、途中から抜けたから、中の会話を全部聞いたわけではないが……」
 三島は、建物の中を進みながら、これまでの経緯をかいつまんで説明する。今までに荒野が聞いた情報と比較しても、特に目新しい知見はなかった。
「……ヴィ。
 さっき、その三人が来ることを、事前に掴んでいたっていってたけど……その理由とかは、わかる?」
「……全然」
 シルヴィは、首を横に振った。
「日本に向かった……という断片的な情報を、掴んだだけ。
 今の日本に、あの三人が興味を示しそうな場所は、ここくらいしかないから……」
「……ほぼ確実な推測、でしかなかった……ってことか……」
 荒野は、ぼそりと呟く。
 シルヴィの情報網も、完璧ではない。現に、同じ姉崎である、ジュリエッタやイザベラの来日を、事前に察知できていない。
「加納……」
 孫子が荒野に近づき、小声で耳打ちしてくる。
「あんなのにまかせて……大丈夫なの?」
「……仮に、失敗しても……今、ここに揃っている面子なら、どうにでも挽回できるだろ?
 わざわざ遠方から来てくれたんだ。客人の顔も、少しは立てないと……」
 そういって荒野は、首を少し振り、後からついていくる面子を示す。
「それは……そう、ですわね……」
 孫子も、納得のいった顔で頷いた。
「これだけの戦力があって、なおかつ、対処できなかったら……」
 その後の言葉を、孫子は省略する。聞かずとも、荒野には容易に推測がついたが。
 今、ここにいる面子は、現在の荒野が動かせる、ベスト・メンバーといっていい。
 これだけの人員が揃っていて、なおかつどうしようもない相手なら……もはや、今の荒野には、為す術はない。

「……オーラ! アミーゴ!」
 三島に案内された室内競技場に入るなり、ジュリエッタは大声で挨拶をする。
 そして、肩に担いでいたケースを開け、中に入っていた、二振りの長剣を、両手にひと振りづつ、握る。
「……二天一流!
 ジュリエッタ・姉崎、参るっ!」
 ジュリエッタが投げ捨てたケースは、地面に落ちる前に、セバスチャンが受け止めていた。




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彼女はくノ一! 第六話 (83)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(83)

「……次は、ぼくがいく……」
 佐久間現象が、表情にありありと闘志を現し、前に進み出た。
 三人の乱入者のうち、一番小さな、ユイ・リィが、現象の前に立ちはだかる。現象は、全体に細身で華奢にみえるが、その現象と比べても、ユイ・リィと名乗った少女は、格段に小さな体つきをしていた。
「……いくぞ」
 ユイ・リィという少女から三歩ほどの間隔をあけた場所で、現象は立ち止まり、拳をつきだして構える。
「無茶ね」
 現象の構えを一目みただけで、ユイ・リィは、一言のもとに切って棄てた。
「怪我をするだけね」
「怪我をするのは……」
 ……お前だ!
 とか、叫びながら、現象は、ユイ・リィに向かって突進する。
 ユイ・リィは、避けずに、突進してくる現象に向けて、踏み出した。
「……踏み込みと同時に現象の軸足を払う。
 さらに同時に、こめかみに掌底。足を払うのとは逆方向に、頭部にダメージを与え、身体全体に横向きの力を与える……」
 茅が、冷静な声で今の技を解説する。
 現象の身体は、茅の言葉通り、横向きにきれいに回転していた。ぐんにゃりと、現象の身体から力が抜けて見えるのは、こめかみのあたりに打撃を受けた時点で、意識を失っているからだろう。
「……相手の攻撃が届く前に踏み込んで、同時に、数カ所に打撃を与える。
 とても合理的な……攻撃と防御が一体となった、きれいな技……」
 一連の乱入者の動きに共通する性質を、茅は、そう総括し終えた時、空中で回転していた現象の身体が、ぺちっ、と、音をたてて床に落ちた。
 床に寝そべった現象は、うめき声を上げている。
「……流石は、姫様……」
 フー・メイと名乗った、一番年長の女性が、呟く。
「我らの技の真価を、あれだけで見抜きましたか……」
「……あなた方の、目的は?」
 茅は、フー・メイの目をまっすぐに見返して、話しかける。
「今、先生がここでのことを荒野に連絡しているの。もういくらもしないうちに、荒野たちが駆けつけてくる。あなた方がいくら強いといっても、荒野や楓たちを相手にして、無事で済むとは思わないの」
「命乞いをするでもなく……真っ先に、こちらの目的を聞きますか?」
 フー・メイは、柔らかい微笑みを見返して、答える。
「あなた方の実力なら、わたしたちを圧倒できる。
 その目的が、殺戮でも誘拐でもないことは、今、こうして話していることで証明されている……」
 茅は、抑揚のない口調で続ける。
「……だとすれば、こうして話し合いの場を持つのが……それも、出来れば、荒野がいない場所で、わたしたち新種と接触するのが、あなた方の目的……と、そう、予測するの」
「……ご明察の通りです、姫様……」
 フー・メイは目を細め、眩しいものを見るような視線を茅に送る。
「……たったこれだけのことで、そこまで推測できますか……」
「さらにいうと……普通の頼みごとや取引なら、荒野を通せばいい。交渉事は、加納の本領なの。
 でも、こんな強引な真似をしなければならない必然性があった……ということは……こちらに相応のダメージを与え、現時点での実力差を、強く印象づける必要があったせいなの……。
 そんな条件があり、なおかつ、荒野と接触する前に、わたしたちに接触しなければならない必然性……というものを考えると……考慮できる可能性は、かなり限定されるの……」
「……あっ!」
 突然、テンが、声をあげる。
「……そうか!
 そういうことなのかっ!」
「……なんだよっ!」
 床にのびたまま、苦しそうにあえぎ続けていたガクの様子をみていたノリが、顔をあげる。
「勝手に納得しているなよ!
 どんな理由があろうと、いきなりやってきて、ガクを、こんなにしていいって理由にはならないだろ!」
 そういうとノリは、立ち上がり、六節棍を取り出して構えた。
「……今度は、ボクが行く!
 相手は誰っ! 三人、いっぺんにでもいいよ!」
 その言葉が終わらないうちに……ノリが、増殖した。

「……ヘン・ハオ! ヘン・ハオ!」
 三人の中で最年少のユイ・リィは、ノリの猛攻を余裕で回避しつつ、両手をぱちぱちと叩く。
「……これ、野呂の技ね!
 はじめてみたよっ!」
 素直に驚きの声を上げているが……ユイ・リィは、今や二十人以上に見えるノリの、六節棍による攻撃を、ことごとくかわし続けている。
 ただでさえ、突く、打つ、払う……と、棍による攻撃はバリエーションが多く、攻撃を予測するのは、かなり難しい。ノリが操る六節棍は、加えて、関節部を、カーボン・フィラメントに取り替えていた。強靱さも折り紙付きだったが、これは、何より視認しにくい代物で……剥き出しの皮膚に絡んだ上、ノリたちの力で横に引いたりすれば、人間の皮膚など、ざっくりと簡単に裂くことができる。
 しかし……今では二十名以上に見えている、ノリによる、全方向からの同時攻撃を受けても……ユイ・リィは、平然とかわし続けた。
「……嘘、だろう……」
 舎人が、愕然とした表情で、間の抜けた声をあげる。
 これだけの分身攻撃を見るのも、舎人は初めてだったし、それを、背後や死角からの攻撃を含め、最小限の動きで、難なく、ことごとくかわし続けるユイ・リィの身のこなしも……舎人の理解できる範疇を、遙かに超える。
 全身、全包囲に向けた「目」があるとしか思えない、動きだった。
「……でも……」
 茅が、冷静な声で、ノリの攻撃を評する。
「こんな派手な動き……そんなに長く続くわけ、ないの……」
 茅の言葉通り……ノリの分身は、すぐに数を減らしていった。一度人数が減りはじめると、ノリの人数は、すぐに半分、さらに半分……といった具合に、加速度的に減っていき……しまいに、たった一人に戻ったノリは、荒い息をついて、その場に膝をついた。
 ノリは、顔中に玉の汗を浮かべて肩を上下させており、疲労のため、分身を維持することは……もはや、出来そうもない。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(341)

第六章 「血と技」(341)

 荒野は、一通り、ジュリエッタとイザベラの事情とやらを聞き終えると、深々と息をついた。
「……出稼ぎと、興味本位に見物……か……」
 両極端の動機だな、と、荒野は思う。
「……ええと……イザベラさんは……」
「わしのことは、ベラでええ」
 イザベラは、そういって荒野に笑いかける。
 ……容姿と、イザベラが祖母に習ったとかいう方言は、見事なまでにミスマッチだな……と、荒野は思う。
「では、ベラ。
 住むところとか身分の保証とかは、そっちで手配して来たんだな……」
「そうじゃ。
 学生ビザ、とってきた」
 イザベラは、頷く。
「長期逗留が目的じゃからの。
 そのへんは、ぬかりない」
「……学生ビザ……」
 いやな予感を感じながら、荒野は聞き返す。
「……どこの学生に、なるつもりだ……」
 外見から言うと……イザベラは、孫子や楓と同じくらいに見える……。
「……今、この地方の教育委員会に手を回して、留学生を受け付けるように、手配しておるとこじゃ」
 イザベラは、にやりと笑った。
「……この国の、new termは、四月からじゃろ?
 時期的にも、ちょうどええ……」
 ……何もかも、手配済みかよ……と思いながら、荒野はさらに確認する。
「……つまり、おれたちの学校に、転入してくるつもりなんだな……」
「おうよ……」
 イザベラは、頷く。
「本当はもっと早うに来たかったのじゃが。
 ここまで細工するのに、思いのほか、手間がかかってしもうて……」
 ……どうやら、両親でさえ容易に連れ戻せないよう、かなり周到に計画しての家出らしい……と、荒野は納得する。
「……ヴィは……この二人のことを、どこまで知っていた?」
 荒野は、試しに尋ねてみる。
「何人かの姉崎が、こっちに向かっている、っていう情報はつかんでいたけど……」
 シルヴィは、肩を竦めた。
「この二人のことは、正直、掴んでいなかった……。
 ヴィが警戒していたのは、武闘派の三人で……」
 その時、荒野の携帯が鳴る。
『……ついさっき、だな。
 フー・メイだかホン・ファだかいう、姉崎が三人、テンたちに声をかけてきてな……。
 茅とか舎人とかが止めようとしたが、三人組と現象が揃って挑発にのっちまって……結構、えらい騒ぎになっている……。
 一応、人目を避けて、検査用に確保していた体育館の中で暴れてくれているが……』
 荒野が出ると、三島の声がまくし立てる。
「……ヴィ……その、武闘派の三人、というのは……Chineseか?」
「……Yes……」
 シルヴィは、真剣な表情で頷く。
「……年少ながら、本格的に功夫を積んだ、武術の達人ね……」
 シルヴィは、「武術」の部分を「ウーシェイ」と発音した。
「……どうやら、その三人が、うちの新種たちと接触しているらしい……」
 荒野は口早に三島と情報を交換しながら、その合間に知り得た情報を、その場にいる全員にも告げた。
 荒野が電話をしている間に、楓と孫子が立ち上がって居間を出て行き、ジュリエッタもセバスチャンに対して「例のものを」と囁き、セバスチャンは、無言のまま一礼し、静かに出ていった。
 それらを横目に見ながら、荒野は、三島から現在地の住所と向こうの現状を聞き出してから、通話を切る。
 荒野が携帯を切る頃には、ゴルフバッグを肩にかけた孫子と、外見上は変化がない楓が戻ってくる。
「……住所でいうと、そんなに、離れていない。
 おれたちなら、人目を避けても、五分もかからないだろう……」
 孫子と楓に、荒野はそう告げた。
「なんか……どうした加減か、検査をそっちのけで、ウーシェイの講習がはじまっちまったそうだ。
 三人娘と現象が突っかかっていくのを、新参の人たちがいなし続けている状態らしい。
 あんまり急ぐ必要もないかな……って気もするけど、万が一ってことがある」
「わ、わたしも……い、一緒に行きます」
 荒野がそこで言葉を切ると、静流が、即座に続ける。
「いや、この場にいる人たちは……だいたい、止めても来るんじゃないかな?」
 荒野は、そういいながら立ち上がる。
「土地鑑のない方は、ほかの人についてきてください。
 もちろん、気配は絶って……」
「ほれ。おんしもじゃ……」
 そういってイザベラが、素知らぬ顔でお茶を啜っていた香也の腕を掴んで、立たせようとする。
「……んー……。
 ぼくも?」
 香也は、イザベラに引き上げられながら、不明瞭な声をあげた。
 ……今まで、一族の関係者も何人かみてきたが、こういう強引さを持つ者に、香也ははじめて接する。
「……こげに面白かみせもん、滅多になか。
 加納の親分と同じ名を持つおんしが、こなくてどうする?」
 そういってイザベラは、邪気のない笑みを浮かべる。
「おんしにその気がなけりゃあ、わしがおんしを負ぶさって向こうまで運んでやるけ」
「……結構です!」
 楓が、イザベラの手から香也の身体をひったくるようにして、取り戻す。
「香也様の身柄は、わたしが運びます!」
「……わたくしたちが、運びます!」
 すかさず、孫子が横合いから口を挟み、楓と両側から、香也の両腕をがっしりと掴む。
 イザベラは一瞬、虚をつかれた表情になり、次の瞬間、破顔した。
「……よかよか」
 イザベラは、ひとしきり笑い声をあげた後、しきりに頷きながら、そういう。
「こりゃ……予想外の、楽しみじゃの……。
 加納の親分、ここは、ほんに楽しか場所じゃ……」
「……それじゃあ、いきます」
 荒野は、全員を見渡して、告げた。
 香也を除く全員が、荒野に向かって頷き返す。
 ……香也も、どんどん深みにはまっていくな……と、荒野は思った。

「……かなり飛ばしますから……怖かったら、眼をつぶっていてくださいね……」
 楓は、香也と肩を組みながら、そういう。
「眼も、ですけど……出来れば口も、しっかり閉じていてください。
 目立ちたくはないので、悲鳴はあげないでください……」
 香也の反対側の肩を組んだ孫子が、耳元でそう告げる。
「「……それでは……」」
 香也を両側から抱え込んだ二人は、同時に地を蹴った。
「「……行きます!」」
 ごおぉっ、と、眼をきつく閉じた香也の耳に、風鳴りが聞こえた。

「……なんだかんだいって、いつの間にか、仲がよくなっているな、あの二人……」
 荒野は、ひと塊に弾むように移動する三人にすぐ後に続き、さらにその後に、静流、シルヴィ、ジュリエッタ、イザベラが続く。
 静流については、目のことがあったから、こうした行程差のある屋根や塀を伝った機動行為は無理なのではないか……とも、荒野は思ったが、
「……加納様の足音を正確に追っていきますので……」
 と、静流自身がありそうな物腰で言い切ったので、その言葉を信用する事にした。
 実際に移動しながら、時折、振り返って確認してみると、静流は、器用にも、荒野が足をついた場所に、正確に足をかけて移動している。
 地上では、呼嵐の白い影が、静流の後を追って、飛ぶように駆け抜けていた。
 ……良く仕込んでいる……と、荒野は関心する。

 目的地であるスポーツジムに到着すると、すぐに、「警護を担当していた者です」といいながら、若い男が荒野に近寄ってくる。
「……中の様子は?」
 荒野は、短く尋ねる。
「変化ありません」
 男は、荒野に答えてから、荒野の後をついてきたイザベルやジュリエッタの顔を目線で追う。
「客人……姉崎の者、だそうだ……」
 荒野は、警護の者にそう告げる。
「……ドン・カノウ!」
 合流してきたセバスチャンから、一抱えもあるケースを受け取ったジュリエッタが、荒野に声をかける。
「この件……わたしに、任せてくれませんか?
 姉崎の始末は姉崎の手で!
 わたしの腕を、アピールさせてください!」




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彼女はくノ一! 第六話 (82)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(82)

「……フー・メイ」
 二十代半ばくらいだろうか?
 テンの突進を弾き飛ばした女性が、いった。
「……姉崎の、一員……」
 最初に、舎人たちに「ニーハオ」と挨拶してきた女性だ。
 白い肌に切れ長の目が印象的な、二十代半ばくらいの女性だった。
「……ホン・ファ……」
 ゆらり、と、今度は、高校生くらいの年頃に見える娘が、姿を現す。最初の女性が「怜悧」という印象を与えたのに対し、こちらは、表情に少し愛嬌がある。
 どうやら、ノリの突進を苦もなく阻んだのは、この少女らしい。
「……姉崎、か……」
 舎人は、少し戸惑った。相手の狙いが、見当つかない。
「加納と……事を構えるつもりか?」
 一応、茅をはじめとする新種たちは、一族の内部では、「荒野の預かり」という建前になっている。
「……そんなつもりは、さらさら……」
 フー・メイは、ほほ笑みながら、ゆっくりと首を振る。
「ただ……噂の新種がどれほどのものか、確かめてみたかっただけです……」
「……噂ほどでは、なかったねー」
 ホン・ファと名乗った少女が、屈託なく笑う。
「身体の使い方、まるで知らない。
 あんなんじゃ……宝の持ち腐れ……」
 ……あっ……と、舎人は思った。
 ホン・ファが行ったのは、実に分かりやすい挑発だったが……そういうのを真に受けそうな性格の持ち主に、舎人は、心当たりがあった。
「……こ、このぉっ!」
 案の定、がばり、と、ガクが一瞬で身を起こす。
 その手には、六節棍が握られていた。
 弾かれたように、ホン・ファに躍りかかるガクを……。
「ほいっ!」
 気の抜けた掛け声とともに、阻んだものがいる。
 からん、と、音を立てて、ガクが振りかざした六節棍が、床に転がっていた。
 ガク自身は、脇腹を押さえて床で悶絶している。
「……な、何が起こった?」
 呆然としていた三島が、ようやく声を出した。
「……その子……」
 成り行きを見守っていた茅が、解説をはじめた。
「ガクの足を横から払ったの。
 同時に、左手で、六節棍の柄頭を押し上げ、右手で、ガクの脇腹に掌底をあてたの。
 一つ一つの動作は、さほど早くはないけど……すべてが同時に行われたから、ガクは対応できなかった……」
「……ボクでも……今のは、躱し切れない……」
 ノリが、冷静な声で告白する。
「……今のを、見切りますか……」
 ホン・ファと名乗った年長の女性が、両手を顔の前で合わせ、茅に向かって頭を下げる。
「お初にお目にかかります。
 加納の姫様……」
「……ユイ・リィね」
 瞬時にガクを悶絶させた少女が、片手を上げて屈託ない笑みを見せる。あどけない笑顔だった。
 茅たちとほぼ同年配に見える。
「……先生っ!
 それから、他のお医者さんたちもっ!」
 舎人は、叫ぶ。
「……検査は、一旦中止っ!
 どこかに避難していた方が、身のためだぜっ!」
 このまま……何事もなく、終わればいいのだが……舎人には、とうてい、このまま無事に済むとも思われなかった。
「……ほれ! 退避だ、退避っ!」
 それまで固まっていた三島が、舎人の声に反応し、弾かれたように動き出す。
 手足をばたつかせて、検査の記録を取っていた者たちを、廊下に追い立てはじめた。

「……出稼ぎに、家出……」
 狩野家の居間で、炬燵にあたった孫子は、呆れを滲ませた声を出す。
 荒野に連絡がつかなかったので、仕方なく楓に電話をかけ……そこにも姉崎が来ている、と聞いて、イザベラを伴って合流して来たのだった。自分の仕事は中断して来たわけだが……これは、仕方がない。
「……ええ、そうです……」
 セバスチャン、と名乗った男が、孫子に頷いて見せた。この男は、なんでも、もう一人の姉崎、「ジュリエッタの執事」だそうだ。
「……そろそろ、外貨を稼ぐ手立てを考えませんと……わたくしども、一族郎党、飢え死にしてしまいますの……」
 当のジュリエッタは、にこやかにシャレにならないことをさらりといってのける。
 セバスチャンの説明によると、ジュリエッタは先年没した父親の後を継いで、かなり広大な領地を引き継いだらしい。
 その経営が、ジュリエッタが新たに打ち出した方針によって、かなり傾いて来ている……という話しらしかった。
「……ジュリエッタ様の代になってから、麻薬から手を引いてしまったので……収入源もほぼ壊滅、周囲の有力者からも、常時、圧力をかけられている状態でして……」
 セバスチャンは、淡々とした口調で、説明を続ける。
「領地には、まだ銅やスズ、ニッケルなどの鉱山がいくつかありますが……どれも、たいしたお金には、なりませんのよ……」
 ジュリエッタは、相変わらず、にこやかな表情を崩さずに続ける。
「……今、一番、お金になりそうなのは……このジュリエッタ自身ですの……」
「無能な選択をしたものですわね……」
 孫子は、複雑な表情で、感想を述べる。
「……そこまで困窮するのがわかって、何故……」
 資金源であり、周辺の有力者との太いパイプとして機能する、麻薬畑を破棄したのか……。
 別に、麻薬の類いを称揚するつもりは、孫子にはなかったが……それにしても、自分自身の身を危うくしてまで、人道を全うしようとするのも……組織の趨勢を預かる者としては、無責任ではないのか……と、孫子は思う。
「……だって……今時、そういうの、はやりませんもの……」
 ジュリエッタは、孫子の辛辣な評価を気にする風もなく、にこやかに応じた。
「……ブラック・マーケットや列強の顔色を伺って立ち回る、というのも……今はよくても、長続きはしません……」
「そうじゃ。ヤクは、いけん」
 イザベラも、もっともらしい顔をして、頷く。
「ありゃあ……貧乏人や社会的弱者を、骨の髄まで金に代える卑劣なツールじゃ。
 手を引けるなら、それに越したことはない……」
「……こちらの加納様は、テロに屈せず、しかも、そのテロリストたちにも、更生の機会を与えようとする理想主義者と聞いています。
 どうせ働くのなら、そういう方の元でと……」
 そう続けるジュリエッタの顔をまじまじとみて、シルヴィは、深々とため息をついた。
「……それで……ベラの方は……」
 シルヴィは、困惑顔のまま、今度はイザベラの方に向き直る。
「おお。それじゃ……」
 ベラは、満面の笑みを浮かべて、胸を張る。
「こちらで、なんぞ騒がしいことになっておると、小耳に挟んでの。
 しかも、中心になって動いておるのは、わしとたいして年齢の変わん加納の若様っちゅうこっちゃろ?
 もともと、向うの生活も窮屈っちゅうか、わしの性に合わんっちゅうーか……」
「……ようするに、Strage loveの時期当主としての、英才教育がいやになって、逃げて来た……と……」
 携帯でメールを打つ手を休めて、孫子が顔をあげ、ジト目でイザベラを見る。
 楓はノートパソコンを持ち出し、荒野の電話がつながらないので、先程から、今、目の前で行われている会話の内容を要約して、荒野にメールで送っていた。
 孫子は、いつ、荒野と連絡がついてもいいように、荒野の携帯あてに、メールと電話を、交互にかけていた。

「……あっ。
 加納が、でました……」
 イザベラが答える前に、孫子は、自分の携帯を耳にあてる。
「……急用は、終わりましたか……。
 要件については、メールに一通り、書きましたけど……」
 孫子は、たっぷりと皮肉を滲ませた口調で、携帯電話に語りかける。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(340)

第六章 「血と技」(340)

 携帯に溜まっていたメールは、ほとんどが楓と孫子からのもので、新しい方が、孫子からのものだった。
 楓はともかく、孫子から荒野にメールが来る、というのも珍しい。孫子の性格だと、要件がなければ、わざわざ荒野に連絡をしてくることもない。
 それで、まず、孫子から連絡しておこう……と、思い、アドレス帳に登録していた孫子の番号をメモリーから呼び出したところで、当の孫子から、電話がかかってきた。
「荒野だ。何があった」
 電話にでるなり、荒野は孫子に問いかけた。
『……急用は、終わりましたか……』
 ゆったりとした孫子の口調は、週末の昼間だというのに、今まで連絡がつかなかった荒野を揶揄しているようにも聞こえる。
『要件については、メールに一通り、書きましたけど……』
「今、チェックしようとしたところにこの電話がかかってきた。まだ、メールは読んでいない」
 孫子の揶揄には取り合わず、荒野は、性急な口調で要件だけを問いかける。
「楓からもメールが来ているけど……同じ要件なのか?」
 今までが今までだから、荒野にしてもかなり心配になってきていた。
『……同じ事件の、違った局面、といいましょうか……』
 今度の孫子の口調は、何故かため息まじりだった。
『……まったく別の方面からやってきた、まったく別の目的を持った姉崎が二人……目の前で、炬燵に入ってお茶を飲んでいます。旧知の姉崎も、一緒です……』
 荒野は、携帯電話から顔を離し、手に持ったそれをまじまじと見つめてから、ぽつりと呟いた。
「……なんだ、それは……」
『……いろいろと、ややこしい事情が重なったようで……。
 今、旧知の姉崎が司会役になって、それぞれに事情聴取しているところですが……』
 ……ともかく、早く狩野家に来なさい……といって、孫子は通話を切る。

「あ、姉崎絡みなら、わ、わたしも一緒に……」
 通話が切れるのと同時に、静流が荒野に話しかける。
「……そう……ですね……」
 少し考えてから、荒野は頷いた。
「一族同士、ではあることだし……一緒に来てくれると、心強いです」
「は、はい……。
 わ、わたしも、どういうことになっているのか、きょ、興味があります……」
 そういいながら、静流は立ち上がり、外出の仕度をはじめた。

「コウ、遅い……」
 静流と連れだって狩野家に到着した荒野を玄関先に出迎えたシルヴィは、不機嫌な表情で荒野の顔を一瞥した。
 隣の静流にも、一瞬、視線を走らせ、
「……こんな時に……」
 とか、小声でぶつくさいいながら、シルヴィは二人を居間に案内する。
「……自分の目で確かめてみるのが、一番だから……」
 そういって、シルヴィは腕を伸ばし、ずらりと炬燵に座っている面々を示した。
 香也、楓、孫子……といったお馴染みの顔ぶれは、いい。
 それに加えて、時代がかったドレス姿の若い女性、ピンと横にはねた口ひげの男(白人、ないしは、複雑な混血……と、その男の外観から、荒野は予測した)、楓や孫子と同じくらいの年頃に見える、ラフな格好の赤毛の少女……などがいる。
「……全員、姉崎なのか?」
 腰掛ける前に、荒野は、シルヴィに尋ねた。
「女性はね」
 シルヴィは、肩を竦める。
「……こちらの男性は……」
「……わたくし、執事のセバスチャンでございます。
 本名では、ございませんが……」
 ごく真面目な顔をして、その男は、荒野に頭を下げた。なかなか、渋い声の持ち主だった。
「……このセバスチャン氏だけが、なんか、正体不明。
 こっちのドレスが、ジュリエッタ。
 こっちの家出少女が、イザベラ。
 こっちの二人は、歴とした姉崎……」
「……ちょっと待て!」
 荒野は、シルヴィの言葉を遮る。
「今……すらりと、家出……とか、いわなかったか?」
「……Yes……」
 シルヴィは、天井を仰いだ。
「この子の父親は、Dr. Strange Loveだそうよ……」
 くらり……と、荒野は、周囲の風景が、一瞬にして歪んだような錯覚を得た。
「……そういうことじゃ、加納の親分さん。
 わしのことはどうか、気安くベラとか呼んでくれんかの……」
 赤毛の少女が、風貌に似合わない低い声で、荒野に頭を下げる。
「……今……家出って……あ、あの……Strange Loveの、娘が……家出?」
 荒野は、小さな声でぶつくさとと呟く。
「その通りじゃ……」
 世界でも有数の、軍需コングロマリットのトップの娘は、重々しく頷く。
「姉様方から、ここの噂話しを聞いての。
 面白そうじゃけん、いてもたってもいられなくのうての。
 そんで、国を飛び出してきてしもうた……」
「……シルヴィ!」
 荒野は、叫ぶ。
「早く、USAに連絡しないと……」
「した」
 シルヴィは、何故か、ますます不機嫌な顔になった。
「そうしたら……しばらくそこで、頭を冷やしなさいって……。
 つまり、その子のご両親は……いい機会だから、若いうちに、USA以外の国で、知見を広めるのもいいだろうって……」
 荒野とシルヴィは、それからたっぷり数十秒間、無言のまま顔を見合わせ……そして同時に、太いため息をついた。
「……才賀……」
 荒野は、孫子に向き直り、頭を下げる。
「……こいつと、仲良くしてやってくれ……」
「……なんで、わたくしに……」
 孫子は、軽く眉間に皺を寄せる。
「だって……似たもの同士だろ。境遇的に……」
 荒野はごく真面目な顔で、答える。




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彼女はくノ一! 第六話(81)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(81)

 佐久間現象の身体データは、今回はじめて採取されたわけだが、ガクやノリほど突出した部分はないものの、それでも、記録を取っていた者たちを十分に感歎させた。現象の筋力や反射速度は、テン、ガク、ノリの平均値を少し上回る程度で、一族の平均値よりは、若干、高い程度。これ自体は、なんら記録者たちの感心を誘わなかったが、代わりに、現象の持久力や我慢強さ……例えば、「無呼吸で活発な活動が出来る持続時間」……に関しては、他の面子に比べて群を抜いていた。
 また、今回行われたテストでは実証することができなかったが、二宮舎人や梢の証言によると、負傷時の回復速度や「打たれ強さ」についても、現象は、群を抜いている……という。例えば、ここに来た当時、現象は佐久間の長によって半殺しに憂き目にあっていたのだが、通常の一般人であれば数ヶ月はベッドの上に縛り付けられ、ギプスをかまされているような大怪我をしていたも、僅か数日で、自力で起き上がれるようになっていた。また、この土地に移ってからも、現象は他の一族の者にオモチャにされている。毎日のように生傷を負わされてくるのだが、翌日には平気な顔をしてすっかり回復している。
 つまり、現象は、がりがりに痩せて見える外見に相反して、「非常にタフ」ということであり……以前、負傷して入院した時のガクも、通常よりよほど強靱な快復力を示したデータが残っていたので、記録を取っていた医師たちは、舎人と梢の証言を、素直に記録にとどめた。
 持久力に関しては……性差、ということが、真っ先に考えられるのたが、まだまだデータのサンプル数が少ない状態なので、判断自体は保留されている。

 茅とテン、ガク、ノリ、それに現象の五人は、素直に周囲の指示に従い、次々と運動能力の試験をこなしていった。時に、その合間に脈拍を測られたり、血液を採取されたり、パズルや計算問題を出されたりする。単調で、退屈な作業ではあったが……誰も文句をいわずに、淡々と提示されたタスクを消化していった。

「……今、小耳に挟んだところによると……」
 三島が、傍らにいる舎人に囁く。
「予想以上に……前の時より、スコアが伸びているって話しだな……」
 三島、舎人、梢らは、見物しているだけで何もやることがないので、退屈といえば退屈だった。この中で、茅たちの動向をかなり初期の段階から見守ってきた、加えて、医師免許と相応の医学的好奇心も持ち合わせている三島はまだよかったが、舎人と梢にとっては、楽しみが極端に少ないイベントであるといえる。
「……普通でも、あの年頃は、化けるからなぁ……」
 三島なりに、気を遣ってくれているのだろう……と、思いながら、舎人は返事をする。
 思い返せば……舎人自身の身体が大きくなりはじめたのも、今のあいつらと、たいして変わらない年頃のことだった……。
「成長期、ってのはわかるんだが……あいつらのは、極端すぎるからな……」
 三島も、珍しく真剣な顔をして、頷く。
「こっちも……いつまでフォローしてやれることやら……」
「少年易老学難成。
 一寸光陰不可軽」
 不意に、三島の隣から、きれいなアルトが聞こえた。
「……未覚池塘春草夢。
 階前梧葉已秋声……」
 三島だけではなく、舎人と梢までもが、驚愕の表情でその女性を見つめている。舎人は、ジャケットの内ポケットから、鉄扇を取り出して身構えていた。
 現在、この場所は……外部から出入りは、厳重に見張られている筈だ。
 相応の警戒をしている中、やすやすとそれを破り、なおかつ、なんの騒ぎも起こさず、舎人や梢にまで、その存在を感知させずに、この場に現れた人物が……ただ者である、わけがない。
「……ニーハオ」
 その若い女は、切れ長の瞳で、鉄扇を構えた舎人を見据え……にっこりと、微笑む。
 こんな場面でなければ、思わず見とれてしまうような妖艶さをたたえた笑みだった。
「……梢っ!」
 舎人は、その女性から目を離さず、梢に合図する。
 即応性や反射神経、瞬発力なら舎人の方に分があるが、長期戦になると、つまり、舎人が時間稼ぎをできれば、佐久間である梢は、どうとでも相手を料理できる。
 施術に時間はかかるが、一度相手をはめてしまえば、ほぼ無敵……というのが、舎人の「佐久間の技」に対する理解だった。
 しかし……。
「……哈っ!」
 舎人の背後で、その梢が、ふき飛ばされる気配がした。
 梢の短い悲鳴と、三島の、
「……おいっ!」
 という声とが、舎人の背後で響く。
 舎人が振り返るよりも早く……ごおぉっ、と、風が鳴った。
「……このぉぉぉっ!」
 そのすぐ後を、ガクの怒声が追いかけてくる。
『……馬鹿ども……』
 と、舎人は、内心で悪態をつく。
 おそらく、異変を察知したノリとガクが、真っ先に突進してきたのだろう。
 その心意気はともかく……。
『相手の力量も、目的もわからないうちから闇雲に突っかかっていくのは……』
 ……どう考えても、上策ではない。

 案の定……ノリの身体が、舎人の背後から、軽々と舎人の頭上を超えて、舎人の目前に落ちてきた。
 ノリは、器用に足を下にして、床の上にふわりと着地する。
「……あれ?」
 ノリは、怪訝な顔をして、小首を傾げた。自分の身に、今さっき何が起こったのか、判然としない……という表情だった。
 そのノリの背中に……。
「……うわぁっ!」
 目前の女性にはじき飛ばされたガクの身体が、ぶつかってきた。
 不意に背中を押された格好のノリは、一瞬、前のめりに床に潰れそうになったが、すぐに床に手をついて、体勢を立て直す。
「……えっ? えっ?」
 ノリの背中に弾きとばされたガクが、目を丸くしていた。
「……ボクが……力負けしたぁ?」
 舎人の目にも、突進していったガクの身体が、目の前の女性のふわりとした動きに、弾かれたように見えた。






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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(339)

第六章 「血と技」(339)

 結局、静流が荒野を離そうとしなかったので、二人はかなり長時間、結合したままだった。二度目の射精までは、静流が主導権を握って、荒野の上で蠢いていた。一度目の時のような急速な昂揚はなく、代わりに、ゆったりとした流れの中で、二人の情感を確かめ合うような交わりの果てに、いつの間にか精が漏れていた。
 膣内の感触で、荒野が放ったことを悟った後も、荒野の分身が力を失わないのをいいことに、静流は、上から荒野の胸の上に覆い被さって、ゆっくりと動き続け、荒野の口を塞ぐ。
 結合部周辺に、相変わらず痛みを感じていたが、それよりも、荒野から離れたくなかった。静流が動く度に、結合部で、じゅ、じゅ、じゅ、とか、たぷ、たぷ、とかいう水音が聞こえる。二度の射精と静流自身の愛液で、そこは必要以上にぬるぬるになっている。二人の体温でぬるくなっているため、あまり違和感を感じないていないだけだった。また、ぬるぬるになっているから、静流も、摩擦による痛みを回避できている。ぬるぬるの中心に荒野の硬直があり、その周辺を静流の肉が包み込んでいる、という形だった。静流の膣は、ほぐれてきた静流の心理を反映してか、最初の頃の硬直から解放され、やんわりと荒野を包んでいる。静流が口の中に舌を入れてきたことで、荒野と静流は、上下で結合しながらゆるゆると揺らめき続けた。

 二度目の射精から三度目の射精までは、一度目の射精から二度目の射精までにかかった時間の、倍以上の時間が必要だった。

 荒野が三回目の精を静流の中に放つと、昼をだいぶ過ぎていた。
 静流は、ようやく荒野の上から離れ、二人で時刻を確認してから、「……随分……」長いこと、睦み合っていたものだ……と、それぞれ、実際には言葉にしないまま、同じような感慨を持った。
 二人で裸のまま一階にある風呂場に降り、シャワーを浴びる。二人とも、汗をかいていたし、静流は、それに加えて局部が大変なことになっており、ざっと身体を流した荒野を風呂場から退出させた後、二十分ほどをかけて自分の内部を洗い流した。
 静流が身体を清めている間、荒野は自分の身体をよく拭いて乾かし、二階に上がって乱雑に脱ぎ捨てた自分の衣服を身につける。静流が脱ぎ捨てた服は、まとめて風呂場まで持って行き、静流に声をかけて踊り場に置いた。
 その際、静流に「二階で待っていてくれ」と声をかけられたので、荒野は素直に従い、長火鉢の上に置いてあった鉄瓶から湯呑みに白湯を入れて啜っていた。
 なにより、喉が渇いていたし、この季節、暖房も完備していない部屋では、火鉢に手をかざして暖かい飲み物を飲むくらいしか、暖を取る手段がない。今日はなにも予定がなかったので、静流と過ごす時間が長くなっても、荒野に不都合はなかった。
 しばらくそうして待っていると、バスタオルで髪をまとめ、バスローブに身を包んだ静流が二階に上がってきて、
「お、お昼、ここで食べますか?」
 と荒野に尋ねる。
「ご馳走になるのは、いいですけど……」
 荒野は、即座に答えようとして、言い淀んだ。
「食事は、静流さん、いつもどうしているんですか?」
 長時間、たっぷりと運動した後だから、腹は空いている。しかし、そういった目の前のことよりも、静流がこの家で、どういう生活をしているのか……といったことが、気がかりになってきた。
「ど、どうしている、って……自分で、普通に調理していますが……」
 この時、静流は、若干頬を膨らませて、不満そうな表情を浮かべた。
「わ、わたしが料理するのが、何か、おかしいですか……」
 どうやら静流は、料理の腕を疑われた……と、思ったらしい。
「いや、そういうわけでもないんですか……」
 静流の目のことを、面と向かって指摘するのも憚れるので、荒野は言葉を濁す。
「それじゃあ……なにか、一緒に作りましょうか?」
 自分の当惑を誤魔化す必要もあって、荒野はそう提案してみた。
「か、加納様も、お料理をなさるんですか?」
 今度は、静流が自分の偏見を披露した。
「そこそこ」
 荒野は頷く。
「半径五十キロ以内に誰もいない場所に、一人で何週間も過ごしたことがあったし……そうなれば、最低限の料理くらい、自然と憶えます」
 実際には、そういうシュチュエーションの時は、料理の材料を調達するところからはじめなければならなかったわけだが、そのことは、わざわざ静流につげなかった。
 荒野の返答を聞くと、静流は「……そ、そうですか……」と頷き、
「そ、それでは……一緒に、何か作りましょう……」
 といってくれた。

 冷蔵庫の中の材料をチェックして相談した結果、「オムライスを作ろう」ということになる。玉子と冷や飯が多めに残っていたからだった。
「……ひ、一人だと、多く用意し過ぎちゃって……」
 と、静流はいう。
 ここに来るまで、静流は一人暮らしの経験がなく、自分で料理する時も、たいていはまとまった人数分を作ることが多かった、という。静流の家とはつまり、野呂本家なわけで、身内の者が年中出入りしているような環境なのだろうか……と、荒野はそんな想像もしてみる。
 冷蔵庫に残っていた材料を刻んで冷や飯と炒め合わせ、ケチャップ・ライスを作り、オムレツを乗せる。そのほとんどの作業を、静流が手早く仕上げた。荒野がやったのは、ケチャップ・ライスを作る際、鍋を振ることくらいなもので、その手際の良さを目の当たりにした荒野は、静流が普段から自炊している、というのも、嘘ではなさそうだ……と、納得する。
 材料を刻んだりする作業はともかく、調味料の瓶などは、どうやって見分けているのだろうか……と、不思議にも思ったが、ともかく、静流の手際に遅滞は認められず、むしろ、たいていの健常者よりは手際がよいのではないだろうか……とさえ、思った。
 あっという間にできあがった二皿分のオムライスを二階に運び、そこで、二人で向き合って食事をする。
 あくまで、通常の大人の「一人前」であり、荒野にしてみれば、量的に少々物足りないくらいだったが、静流の味付けは文句のつけようがなく、荒野は素直に「おいしかった」と感想を述べることができた。

 食後に静流がいれてくれたお茶を飲みながら、荒野は、しばらく電源を落としていた携帯を立ち上げ、そこではじめて、留守電とメールが予想以上に溜まっていたことを知る。




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彼女はくノ一! 第六話 (80)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(80)

 ジュリエッタと自称「セバスチャン」という主従を連れて居間に入ると、二人の姿をみた香也が、ぽかんと口を空けた。真理はいそいそとお茶を入れると、
「じゃあ、楓ちゃん。後はお願い」
 とかいって、そそくさと居間を出て行く。
 楓は、真理の後ろ姿をみながら、「……逃げたな……」と思いつつ、香也に二人を紹介する。
 とはいっても、楓が知り得た情報はいまだ少なく、ジュリエッタが姉崎に連なる者である、ということ、それに、自称「セバスチャン」がジュリエッタの家来というか子分というか、ともかく、おつきの人であるらしい……ということくらいで、二人の名前を香也に告げると、楓も、後が続かなくなる。
「……んー……。
 姉崎……」
 珍しく、楓に助け舟を出したのは、香也だった。
「シルヴィさんは、もう、知っているの?
 あと、もう一人の荒野さんも……」
「あっ。はい。
 まだです……」
 香也にいわれ、楓は、背筋を延ばす。
「今、連絡をいれます。
 それで、こちらの方は……」
「今、もう一人のコウヤいいました」
 香也を紹介しようとした楓の言葉を、ジュリエッタが遮る。
「ということは……カノウ・コウヤが二人いて、今、目の前にいるのは、イチゾクとは無関係の、カノウ・コウヤ……と、いうこと?」
「……そういうことに、なります」
 楓は「察し悪い人では、ない……」と、ジュリエッタのことを評価する。今までに知り得た、最小限の断片的な情報から、即座に自分の勘違いを訂正できるくらいには、頭が切れるらしい。
「では、イチゾクのカノウ・コウヤの居場所か連絡先、教えてもらえませんか?
 すっかり、この家に、イチゾクのカノウ・コウヤ、いると思ってました……」
「連絡は、これからします」
 楓が、携帯電話を取り出す。
「近くにいると思うので……呼ぶ方が早いです」
 今までに何度か「緊急事態」を経験してきている楓は、このような場合、荒野を呼び付けることに抵抗がない。むしろ、対応が遅れることで話しがこじれることを恐れた。なんらかの事情で荒野が動けなければ、指示を仰げばいい。
 しかし……荒野は、電話に出なかった。
 仕方なく、楓は、その場で用件をメールに書いて送信し、時刻を確認して、「……茅様……まだ、検査をしている頃かな……」と予想して、同じ文面のメールを茅にも出して置いた。
 それから、ようやくシルヴィに電話をする。シルヴィの番号は、いざという時のために、以前、携帯に登録してさった。
 シルヴィはすぐに出て、はきはきとした口調で楓に必要な事項を説明させると、「すぐにそっちに向かう」といって通話を切った。

「……んー……。
 だから、発音が同じだけで、別人……。
 そちらの方には、よく間違えられるのだけど……」
 楓が電話やメールをしている間に、香也がレポート用紙に、「加納荒野」という字と「狩野香也」という字を、大書きしていて、来客の二人に説明しているところだった。
「そちらの方」というのは、おそらく一族の関係者のことで……これは、荒野に関する資料の大半が、英語をはじめとするアルファベットで記されている訳で……もう一方の香也の方は、年端も行かない学生であり、そもそもプロフィールなどを記した資料が流布しているわけもない。何の予備知識も持たない第三者は、通常、条件的に、両者を比較することすら、思いつかないのであった。
 思い返せば、楓が最初に見せられた資料も英文で、身長、体重などのデータは記載されていたが、写真はなかった。本人を目の前にすると、印象はぜんぜん異なるが、香也と荒野の背格好は、だいだい同じくらいである。
「……この、前の字が、ファミリーネーム……」
 ジュリエッタは、香也がレポート用紙に書いた、「加納」という文字と「狩野」という文字を、交互に指さす。
「それで……チョウロウのカノウは、こっち……」
 今度は「加納」の文字を指さす。
「このハウスに住むファミリーは、こっち……。
 イチゾクとは無関係の、people……」
 ジュリエッタは、「狩野」の文字を指し、首を傾げる。
「……セニョリータ・カエデは……なんで、こっちの家にいますか? 関係のない家に?」
「楓、だけでいいです」
 楓はジュリエッタに訂正を求めてから、
「……いろいろな事情があって、こちらの家に下宿させていただいてます」
 と、簡単に、説明する。
 初対面の人間に、当初の細々とした事情を遂一説明するつもりは、楓にはなかった。
「……ゲシュク?」
 耳慣れない単語を、ジュリエッタが聞き返す。
「ステイ……している、ということです」
 ジュリエッタよりは日本語に堪能であるらしい「セバスチャン」が、補足説明をした。
「……Oh……homestay……」
 ジュリエッタは小さく呟き、何度も頷く。
 その勢いで、ジュリエッタの大きく胸が、たっぷんたっぷんと揺れた。ジュリエッタは胸元が大きく開いたドレスを着ていたから、隣に座っていた香也は、顔を赤くして慌てて視線を逸らす。
 ……楓のよりも、大きいな……と、そんな感想を持ってしまった。流石は、外人さん。
「……加納様には連絡がつきませんでしたが、シルヴィさんは、すぐにこちらに向かうそうです」
 楓は、そんな香也の変化には気づいて少し表情を硬くしたが、素知らぬ顔で話題を変える。
「それで……ジュリエッタさんは、どういったご用件で、こちらに来たんですか?
 やはり、茅様とか新種が狙いですか?」
「……狙い……」
 ジュリエッタは、何か意味を含めたような笑い方をした。
「ジュリエッタは、ドン・カノウに、雇っていただきに来ました」
「……日本語でいう、出稼ぎです」
「セバスチャン」が、ジュリエッタの言葉を補足する。

 香也と楓は、思わず顔を見合わせた。

 時間を少しさかのぼる。
 茅と三人娘、それに、現象を含めた五人の身体検査は、滞りなく行われていた。各種スキャンや身体的なデータの採取はだいたい午前中に終わり、昼食を挟んで指定されたスポーツジムに向かう。そこの一区画を借り切って、新種たちの運動能力を測定する予定だった。
 この行程は、以前の検査の時とほぼ同じであり、強いていえば、検査に必要な機器を使用できるタイミングの問題で、検査の順序が多少、前後している程度の違いしかない。
 付き添いの経験がある三島の車に、茅と三人娘が乗って先導し、その後を、舎人の運転するワゴン車が追いかける形で、いくつかの医療施設を梯子した。そのワゴン車には、現象と梢が同乗している。ワゴン車は、舎人がここでの生活が長引くことを想定して、購入した中古車だった。
 一人二人ならともかく、ある程度まとまった人数が生活するとなると、買い物一つするのにも、自前の足がなければ不自由する土地柄である。

 関係者以外の出入りを完全に遮断した上で行われ各種測定は滞りなく進行し、そこではじき出された数値は関係者を驚かせた。
 茅やテン、ガク、ノリについては、わずか数週間前に行われた同様の測定の時のスコアから、著しい成長をみせていた。
 ガクとノリに関しては、外見上の変化も激しく、その成長についても、関係者をどこか納得させるところがあったが……前回の時には、「身体能力的には、一般人の水準以下」とされた茅までもが、今回は、大幅に能力を向上させていた。
 今回、茅がはじき出したデータによれば、茅は、一族の平均値に迫り、一部のパラメータは、遙かに凌駕さえ、している……。

 その場に集まっていたのは、当然のことながら、一族の息がかかった、かなり深いところまで事情を知っている者たちばかりだったが……それでも、彼らは、ごく短期間でこれほどの成長をみせたことに対して、驚きを隠せないでいた。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(338)

第六章 「血と技」(338)

「……挿れます……」
 荒野は静流の膝を押し広げて、その間に自分の腰を割り込ませる。
 静流は、喘ぎながら、しかし、明瞭な動作で頷き、荒野を受け入れる意志があることを告げた。
 荒野は、亀頭を静流の入り口に当てがい、ゆっくりと上下に振る。荒野の硬直は静流の襞をかき分けて、ゆっくりと中に沈んで行く。
 静流は、はやり初めて異性を受け入れることで苦痛を感じているのか、時折、顔をしかめて「……うっ!」とか「……いっ!」とか、短い悲鳴をあげる。そのたびに荒野は、それ以上、静流の中に侵入するのを中断し、静流の中に入りかけた硬直を微妙に左右に振って、周辺の静流の肉をほぐそうとした。
 まだ、僅かに亀頭が半分も潜っていない状態だったが、荒野の慎重な侵入振りに、静流は破瓜の痛みとじんわりとその部分から染みてくる、痺れに似た快楽とがないまぜになったものを感じている。
 荒野があまりにもゆっくりと侵入してくるので、静流は、その動きがもどかしいような、もうすぐに中断して、身体を離して欲しいような、複雑な心境になっていた。
 しかし……口に出しては、
「……も、もっと……」
 などと、いっている。
 それで、またメリっ、と静流の肉を割って、荒野が一段深く、侵入してくる。茅や酒見姉妹など、処女と経験もそれなりにある荒野は、かなりゆっくりと、静流の表情を読みながら、侵入の度合いを調整していたが……だからといって、静流が感じる、身を引き裂かれるような苦痛がなくなる訳ではない。
「……い、一気に……」
 苦痛に喘ぎながら、静流は荒野に告げる。
 ……貫いて、欲しい……という静流の意図は、荒野には伝わったようで、荒野は、
「痛いですよ……」
 と、前置きした後、静流の体が上に逃げないよう、肩の上に腕を回して固定する。
 静流は、荒野の首に腕を回し、身体を密着させて、荒野の口を求めた。
 汗まみれの二人の身体の前面が、隙間なく密着し、それまで、ほんの先端が沈んでいただけの荒野が、本格的に静流の中に入ってくる。
 ……自分の身体が、半分に裂けるのではないか……という錯覚を、静流は感じた。
 もはや、苦痛や快楽を通り越して、身体の半分以上がじんじんと痺れている。
 静流は、きつく眼を閉じて、「んんっ! んんっ!」とうめき声をあげながら、いつまでも荒野の口を求めて抱きついていた。

 ……そうして、どれほどの時間が経過したことだろう……。
「……全部、入りましたよ……」
 耳元で、荒野の声が聞こえた。
 最初のうち、静流は、荒野のいう意味が、よく理解できない。
「……あ、あ……」
 焦点の合わない瞳で荒野を見上げて、そんな声をあげた。
「おれのが、最後まで、静流さんの中に入りました」
 ぼんやりとしている静流の様子をみて、荒野は、同じ内容の言葉を繰り返す。
「……あっ!」
 ようやく、荒野の言葉を理解した静流は、短い声をあげた。
「わ、わたし……。
 か、加納様の女に、なったのですね……」
 すると今度は、荒野の方が、一瞬、虚をつかれた表情になる。
「……その……ご自分を、誰かの所有物のようにいう感性は……正直、あまり共感できません……」
 しばらくして、荒野は表情を引き締めて、静流にいう。
「……静流さんは、おれの女でもなんでもない」
 次の瞬間、静流は、破瓜の苦痛も忘れて吹き出している。
「か、加納様は……本当に、真面目な方なのですね……」
 しばらく笑い転げた後、静流は、ようやくそういうことができた。
「そ、そういう方でなければ……今のような複雑な状況に……しょ、正面から、対峙しようと思いませんものね……」
 結合しながら、笑われた荒野の方は……なんで静流が笑い出したのか理解できず、憮然とした表情をしている。
「お、お気を悪くしたのなら、謝罪します……。
 だ、だけど……やっぱり加納様の相手は、茅様なのです……。
 わ、わたしも……時々でいいので……こうして、抱いてください……」
 この人は……あまりにも、大人びているので、時折、忘れるが……基本的には、年齢相応の、未成熟な部分を抱えているのだ……と、荒野について、静流は、思う。
 いや。
 今まで経験してきていることに、大きな偏重があるため、ある局面においては、同年配の子にも劣る部分も、あるのではないか……。
 例えば、異性の扱い、とか……。
 特定の局面だけに限定すれば、荒野は、大人顔負けのプロフェッショナルである。
 しかし、一度、プライベートな側面に入ると……意外と、不器用なのではないか……。
 そんなことを考えながら、静流は、
「も、もう……大丈夫、ですから……。
 か、加納様のよろしいように、動いてみてください……」
 と、いった。
 肉を裂かれた苦痛は、相変わらず、感じている。苦痛を通り越して、今でも下半身全体が痺れ、感覚がないような状態だった。
 しかし、それ以上に……静流は、この、なんでもできる癖に、ひどく不器用な少年を、自分の身体を使って、楽しませたくなった。
 痛みは、その気になれば我慢することができる。それ以上に、この、いつも張り詰めている少年の緊張を、自分の手で、身体で、ほぐしてあげたい……という要求の方が、静流の中で大きくなっている。

 荒野は、最初は遠慮がちに、次いで、徐々に動きを早くして、静流の上で、はねはじめた。
 静流も、最初のうちは痛みを堪えるだけだったが、荒野が自分の中を出入りするうちに、じんわりと微妙な、奇妙な感覚を、自覚した。それは、荒野が動くにしたがって段々と大きくなり、やがて、痛みを以上に、静流を意識を占めるようになる。

 そのままの状態で何十分か動いたあげく、荒野が静流の中に熱い固まりを放った時、静流は、
「……あーっ、あーっ、あーっ!」
 と、かなり大きな声をあげていた。
 静流自身にも、それが、痛みを堪えかねて上げた悲鳴なのか、それとも、静流の感じた快楽が喉を通して出た歓喜の声なのか、判然としていない部分がある。
 極めて珍しい事例ではあるが……静流は、初体験時から、一種のエクスタシーを感じることができた。

 荒野が長々と静流の中に射精した後、疲労と虚脱を感じた二人は、しばらく折り重なって、そのまま動くことができなかった。
 何分か、そのまま抱き合って息を整えた後、静流は、自分の中に在る荒野の分身が、まだ力を失っていないことに気づく。
「……ま、まだ……硬いままですね……」
 静流は、そういって荒野に微笑んでみせ、その後、抱きついたままで荒野の身体を仰向けに転がし、結合を解かないまま、その上に、跨る。
「……ちょっ……。
 静流さん……はじめてなのに……」
 荒野は、驚きの声をあげながらも、静流のするがままにさせておいた。
「い……痛みは、我慢できます。
 い、今は……加納様に、何かをしてさしあげたいのです……」
 結合したまま、荒野の上に座り込んだ静流は、そういって、膝をたてた。
「そ、それに……んんっ! はぁ……。
 痛いのは、相変わらずですが……ふっ!
 だ、段々……よ、良くなって、きました……」
 そういって静流は、荒野の上で、自ら、腰を降りはじめる。
 すでに一度、荒野が静流の内部に大量に射精しているので、二人の結合部の潤滑油も、十分にあった。
 ……はぁっ……はぁっ……と安定した吐息をつきながら、静流は、自分から腰を振って、荒野の硬直を味わいはじめる。




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彼女はくノ一! 第六話 (79)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(79)

「……中国文字……」
 楓は、少し考え込んで、ようやく彼らが言わんとしていることを察した。
「ああっ!
 漢字のことっ!」
「そう。そのカン、ジ……です」
「セバスチャン」が、大仰に頷く。
「カナの読み方は憶えましたが……シナの文字を、文脈によって幾通りにも読み替える現地の……当地の風習は、われらVisitorにとって、はなかなか厄介なのでごさいます……」
「……シナの、文字……」
 楓は、短い間だか、確かに絶句した。
「確かに、起源はChinaなわけですが……その、入って来た時代は、もう何百年も前のことですよ……」
 楓の感覚によれば、「漢字」は、もはや日本語の一部なわけであるが……「シナの文字」説も、決して間違いとは言えない。
「失礼ながら……我らには、東洋の方々……ChinaとKoriaの区別すら、明確ではありません。
 ましてや、Japanese!」
「……あらあら。
 結局、お隣りの加納さんの関係の方、なのですね……」
 それまで硬直していた真理が、急に生き生きとした態度で柏手を打って、話しに割り込んできた。
「……こんなところで立ち話もなんですから、楓ちゃん、お客さんを居間に入れてちょうだい。今、お茶をお出ししますから……。
 あら。いけない。
 もうこんな時間っ!
 お夕飯のお買い物に行かなくては……。
 わたし、お茶をお出ししたら、すぐに外出しますから、楓ちゃん、お客様の対応は、後はお任せしますね……」
 真理は早口にまくし立てると、楓の返事を待たずにそそくさと台所に引っ込んでしまった。
「……あっ……」
 楓は、一瞬、「……逃げられた……」と思いつつ、真理の背中に手を延ばしかけたが、よくよく考えて見れば、この来訪者二人が、明らかに一族の関係者だと分かった今、確かに真理がこの二人の対応をするべき理由は、ない……。
「……こちらに、お入りください……」
 楓は、若干肩を落として、二人の来訪者を家の中に招いた。
 とりあえず、家の中に招いて……すぐに、荒野を呼ぼう。それに、シルヴィも……と、楓は頭の中で「すぐやることリスト」を整備しはじめる。

「……Hey!」
 その日の夕方、文字通り「走り回っていた」孫子に、声をかけてきた者がいた。
「Are you …… son-su?」
 この時の孫子は、色気のない会社の作業服を着用して、荷台にかなりの重量物を載せて走ることができる、無骨な自転車に乗って、人気のない車道を走っていたところだった。
 この周辺では、週末とか休日になると、幹線道路以外の交通量は、極端に激減する。
 その時、孫子が走っていた車道にも、その声をかけてきた人物と孫子以外、姿が見えなかった。
 ……ネイティブの発音だな……と、その言葉を聞いて、孫子は判断する。
「わたくしの名前は、son-suではなく、そんし、と発音します」
 しかし、あえて……孫子は、明瞭な発音の日本語で答える。
「第一……他者の名を尋ねるのなら、その前に自らの名を名乗るのが、礼節というものです……」
「……Oh!」
 その、ローラーブレードで孫子の自転車と併走している人物は、大袈裟な動作で肩を竦めて見せた。
「……Sorry!
 My name is Isabel Anesaki!」
 ジーンズにノースリーブのジャケット、その下にTシャツ、という軽装。薄いブラウンのスポーツ・グラスをかけているので、瞳の色は判別できない。しかし、ヘッドガードからはみ出した髪は、燃えるような赤毛だった。
「……姉崎の、イザベルさん……で、よろしいのかしら?」
 孫子は、油断なく周囲を見渡しながら、慎重な口ぶりで対応する。
「姉崎を名乗るのなら、あなたも日本語の心得はあるでしょう。
 ここは、日本です。日本語でお話しなさい……」
 孫子とて、それなりの教育を受けてきている身だから、日常会話程度の英語なら、不自由なく操れる。
 しかし、いきなり姿を表したこの女性の目的が不明である以上、孫子はあえて、相手に負担をかける選択をした。
 イザベル・姉崎……と名乗るこの若い女性が、英語圏の人間なら、慣れない日本語を操ろうとすることで、多少なりとも、注意力が散漫になる筈……と、孫子は期待している。
「……Yes,……」
 イザベルは、「日本語で」という孫子の提案に、あっさりと頷く。
「……ほんじゃあ、不慣れじゃけん、日本語でいくかいの。
 機内からここに着くまで、ばっちゃに習ったこの言葉、試しにつこうとっとったんだけんど……みな、変なものを見る目付きでわしのことを見とったからの。
 ここしばらくは、英語で通しとったんじゃ。
 わしの日本語、どこぞ変なところ、あるんじゃろか?」
 そう返答され……孫子は、あやうくハンドルを切りそうになるのを、慌てて自制する。
 一瞬、よろめいた孫子は、体勢を立て直してから、自転車を路肩に寄せ、ブレーキをかけた。
「……それで……その……。
 姉崎のイザベラさんが、わたくしに、何のご用件かしら?」
 イザベラも、孫子の自転車の前に、立ち止まった。
「……どちらかというと、姉崎の一員として……というより、親父との関連で、挨拶しとった方がいいと思っての。
 わしの親父……Strange Love Cop.の取締役での……」
「……Strange Love Cop.……」
 孫子は、絶句した。
 Strange Love Cop.……ナイフから最新鋭の軍事衛星までを開発、製造し、世界中にばらまいている軍需産業の巨魁……。
 孫子の実家である、才賀グループの業務を考えれば、確かに、因縁浅からぬ関係にある。才賀もStrange Loveも、組織としてあまりにも巨大で、その活動も多岐にわたるため、単純に「敵」とも「味方」とも位置付けることはできないのだが……。
「孫子は、Rifle Womanじゃそうだの。
 わしの得意は、これじゃけん……」
 そういって、イザベラは、ジャケットの中からニ丁のオートマチック・ハンドガンを、ゆっくりとした動作で取り出す。孫子に見せつけるような仕草だった。
 両脇の下に、ホルスターを吊るしているらしい。
「……わしのこたぁ、堅苦しいのは苦手じゃけん、ベルとかベラとか呼んでくれりゃあ、ええ。
 わしも、しばらくはこの辺に住まうつもりじゃから、まずは、挨拶しておこう、思っての……」
 どうやら……敵意は、無さそうだ……と、孫子は判断する。

「……ああ。
 荒野か……」
 三島は、自分の車の中で背を小さく丸めて、携帯電話に話しかけている。
「……ついさっき、だな。
 フー・メイだかホン・ファだかいう、姉崎が三人、テンたちに声をかけてきてな……。
 茅とか舎人とかが止めようとしたが、三人組と現象が揃って挑発にのっちまって……結構、えらい騒ぎになっている……。
 一応、一目を避けて、検査用に確保していた体育館の中で暴れてくれているが……。
 ああ?
 そっちにも姉崎が出ているってか?
 それも、楓と孫子のところに……同時に?
 南米のジュリエッタと、北米のイザベラだぁ?
 こっちは、華僑だか客家だか知らないが、名前からして中華系だぞ……」
 三島は、そういってから携帯から少し顔を離して、呆然と呟く。
「……世界忍者、だな……」




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(337)

第六章 「血と技」(337)

 荒野と静流は、もはや下着一枚の状態で、自分たちの脱ぎ散らかした衣服の上で汗まみれになって絡まり合い、口唇を貪り合い、もつれ合っている。経験がほとんどない静流も、荒野の時間をかけた入念な愛撫とその後の抱擁によって、これまでに経験したことがないほどの高まりを感じていた。
 荒野ともつれ合いながら、「他人と肌を合わせることは、これほどまでに心地よいことだったのか……」と、静流は思っている。
 荒野の体臭、肌にかかる吐息、体温、汗に湿った肌の感触、二人分の鼓動……先天的に損なわれている視覚以外の四感覚、全てが、荒野に関する情報を、恐ろしい勢いで静流の中に流し込んでいく。体中の感覚が鋭敏になっていることを、静流は感じる。
 熱い……と、静流は思う。荒野の全てが。
 体臭、吐息、体温、汗、肌……今、静流に触れ、感じ取れる荒野は、全て、「熱」を持っていた。
 いや。
 静流自身も、熱を発している。
 荒野と静流、ふたりともが高熱を発し合い、汗だくになって絡み合っている。まだ結合こそしていないが、ペティングの段階で、二人は、お互いの性感をかなり引き出し合っていた。
 半裸になり、全身を汗で濡らした静流は、知らぬ間に喘ぎ声を断続的に漏らしている。
 荒野が、最後に残った下着をはぎ取る時も、静流は、半ば無意識に荒野の動きに合わせて腰を浮かせ、下着を脱がせ易いように動いていた。静流は、どちらかというと羞恥心が強いほうだったが、自身は、ほとんど「視る」という感覚を理解していないため、自分の裸体を晒すことに対する想像力は、欠落している。それよりも、触覚や嗅覚において、至近距離に他人の……ことに、異性に気配を感じることに、静流は堪らない羞恥を感じる性質だった。
 静流自身の父や兄弟同然に育った野呂良太を除けば、ここまで静流に密着した異性は、荒野がはじめてであり……その状態をすでに受け入れている今、静流の羞恥心は、昂揚の中に解けているといっても過言ではなかった。
 荒野は、静流を横向きに寝かせた状態で汗とその他の体液に濡れた最後の衣服を静流の腿から引き抜いて、近くの畳の上に放り投げる。
 そして、静流の太股を、両腕で抱え……その合間に、顔を入れようとした。
「……やぁっ!」
 荒野の意図を察した静流は、反射的に、抗議の声を上げ、身を捩る。
 が、荒野は、静流の抵抗をあらかじめ予想していたのか、がっしりと静流の腿を自分の肩の上に抱え、静流が多少暴れても、逃さないよう、しっかりと押さえつけている。
 そうしながら、荒野は静流の腰を浮かせて、静流の股間に口を近づけた。
 股間の敏感な部分に荒野の吐息がかかると、静流は、泣きながら「恥ずかしいです。そこは、汚いです」と訴え続けた。
 が、荒野は静流の抗議に耳を貸さず、そのまま、静流の未開拓の秘部に、直接、口をつける。
「……うっ、ふぁあぁっ!」
 その瞬間、太股を荒野の両肩に乗せた不安定な姿勢のまま、静流は背を反らせて硬直した。
 これまでの荒野の愛撫が、徐々にヒートアップしていく感じだったの対し……静流の股間に荒野が直接、口をつけた時、静流の全身を貫いたのは、一挙に静流を性感を直撃した。
 静流は、生まれて初めての刺激に、一瞬、何が何だかわからなくなり、その後、荒野が音を立てて静流の秘部を舐めあげはじめると、両手で頭を掻きむしりながら首を左右に振って「……あぁー、あぁー、あぁー……」と、意味を成さない声を張り上げ続ける。
 気持ちがいい……というよりも、もっと深いところで、静流の自我が溶けていくような快楽を感じていた。
 これが……男女の交わり、なのか……と、静流の微かに残っている理性が思考する。
 自慰をした時、あるいは、この前とか、直前まで荒野に触れられていた時……とは比べものにならないほどの快楽を、静流は、今、受け取りつつある。

 荒野は、静流の腿を抱えて静流の襞に舌を這わせた。
 荒野自身も、静流の快楽に奉仕し、反応を引き出すことに夢中になり、恍惚としている。
 そこに荒野が口をつける前から静流のソコからじんわりと愛液が滲んではいたが、荒野が直接口と舌をつけてからは、静流のソコは、もっと端的に液体を染みだしはじめている。
 襞の合わせ目の力も緩んでいるらしく、単純に下から上へと舐めあげているだけの荒野の舌の先が、特に力を入れていないのにも関わらず、するりと襞の中に隠れて静流の中を味わってしまうことがあった。
 そのような時、静流は、より一層大きく身体を震わせ、すすり泣きのような声を上げた。
 荒野の舌に、透明な液体が、どろり、と、さらに絡みつく。

 ひとしきり、静流の陰毛をかき分けて静流の秘裂を表面から舐めあげると、荒野は肩に抱えて持ち上げていた静流の腰を畳の上に置き、今度は襞の中を舌で掬うように動かしてみる。
 すでにかなり緩んでいた静流の秘裂は、荒野の舌の進入をたやすく許した。
 喘ぎ疲れたのか、静流は、もはや声もなく、苦悶の表情をして、嫌嫌をするように、ゆっくりと首を横に振るだけだった。
 ただ、時折、不定期に「あうっ!」とか、「ひゃっ!」とかいう声を、断続的にあげる。
 それらは決して、苦痛を訴える悲鳴ではなく……逆に、隠そうとしても隠しきれない、静流の快楽の深さを証明するものだった。
 荒野は静流の「中」をひとしきり舌でかき回した後、秘裂の上部に位置する小さな突起を、舌の先で、つつく。
 静流が、これまでで一番大きな身動ぎをした。
 強弱をつけて舌先で静流の敏感な突起を攻めると、しばらく、声にもならない掠れ声を上げて身悶えした後、静流は、すぐにぐったりと動かなくなった。
 全身、汗に濡れた身体を畳の上に横たえ、静流は静かに胸を上下させて、目を閉じている。

 どうやら……執拗な荒野の愛撫に、完全に到達したようだった。
 荒野が顔を近づけて静流の顔を覗き込むと、それまで休んでいた静流は不意に荒野の首に腕を回し、強引に荒野の口を塞いだ。
 静流に抱き寄せられる形で、荒野は、静流の上に身体を重ね、そのまま、全身を密着させて、長々と接吻をする。




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彼女はくノ一! 第六話 (78)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(78)

「……ごめんくださいィー……」
 狩野家の玄関先で、少々イントネーションのおかしい、しかし、凜とした声が響いたのは、その日の昼下がり……と、いうよりは、夕方に近い時間。午後もかなり遅くになってから……といった頃だった。
「……はぁーい……」
 そろそろ買い物に行こうかな、とか考えていた真理、玄関先に出て……そこに立っていた人物を見るなり、絶句した。
「わたし、ジュリエッタ・姉崎、いいます。
 こちらに、セニョリータ・カエデ、ないしは、セニョリータ・テン、ないしは、セニョリータ・ガク、ないしは、セニョリータ・ノリなどいる、聞いて、ここ、来ました……」
 黒い髪と薄いグリーンの眼、彫りの深い顔立ち……明らかに、東洋人ではありえない風貌のその人物は、イントネーションは少しおかしいものの、なかなか流暢な日本語を話していた。
 だが、真理は、ごく普通の主婦である。別に人種的な偏見がなくとも、いきなり外人さんに訪問されたら、かなり動揺してしまう。荒野やシルヴィと接しているから、それでも多少は、非日本人的な風貌の持ち主には慣れているつもりだったが……。
 いきなり訪問して来た相手が、胸元が大きく開いた、古風なデザインのドレスを身にまとっている、という条件が付加すれば、流石の真理も凍り付く。きちっとコルセットを着用し、ウェストを引き締めた上で、紡錘形にスカートの形を整えている。おまけに、派手な飾りのついた帽子と日傘……いくら外人さん、とはいっても、あまりにも時代がかっている服装だった。真理は、詳しくは知らないのだが、これは十九世紀とか十八世紀の頃の女性の服装なのではないか……。どこの国だろうと、現代の女性がこんな重々しい服を着用して生活をしているとは思えないし、それに、真理は、こんなドレスには、時代物の映画の中でしか、お目にかかったことがない……。
 玄関に訪問してきた、その女性は、ぞろっとしたドレスを着用し、豊かでつややかな黒髪を複雑な縦ロールにカールしている。髪の量が豊かなこともあって、これが鬘でなければ、髪型をセットするだけで、気が遠くなる手間と暇が必要となるだろう……と、想像できてしまう、複雑な髪型だった。
 しかも……目の前の女性は、そうした時代がかった服装を、自然体で着こなしている……ように、見えた。
 そんな人物が、白昼堂々、家を訪れて玄関先に現れれば……真理が数秒フリーズしたとしても、別に、不思議でもなかろう。
「……あっ。あっ。あっ……」
 真理は数十秒間、眼を見開いて酸欠の金魚のように、口を開閉させていた。
「……マダム?
 セニョリータ・カエデ、ないしは、セニョリータ・テン、セニョリータ・ガク、セニョリータ・ノリ……ジュリエッタは、これらの人物を、所望します。
 彼女たち、ご在宅か、否か?」
 訪問者は、真理に婉然とほほ笑みかけながら、ゆっくりとした口調で繰り返し、確認した。言葉遣いはともかく、ぱっと花が咲いたかのような印象を与える、艶やかな微笑みで……文法的にも、大きくは間違っていない。「ちゃんとした日本語」というには、かなり違和感を覚えるのだが……。
 少なくとも真理は、彼女のいっている内容を理解した。
「か……楓ちゃーん!」
 ようやくのことで、パニックからやや持ち直した真理は、大声を出して、居間にいる楓を呼ぶ。
「……はぁーい……」
 居間で香也とともに勉強をしていた楓が、返事をしながらとことこと玄関まで出向き……そこで棒立ちになって、真理と同じように絶句する。
「……な、な、な……」
 楓は、かなり引き気味になりながらも、気丈に言葉を紡ぐ。
「なんですか、この人……」
「この人? どの人?」
 ジュリエッタ、と名乗った女性は、自分の左右を、優美な仕草で見渡す。
「不審なるものは、半径五メートル以内に見受けられないと思うが? 如何に?」
 その人物の自覚するところにおいては、自分自身は格好は「不審」ではないらしい。
「この下僕が察するところ……彼の者どもは、ジュリエッタ様の美しさにおののいているのございます」
 その女性の背後にいつの間にか立っていた人影が、うっそりとした口調で呟いた。
 いや。
 しゃべったことで、はじめて真理や楓に、その存在をしらしめた……というべきか。
 それまで、その男の気配にまったく気づかなかった楓は、慌てて表情を引き締める。
 楓の緊張にも気づかない風で、その若い男性は、優雅な仕草で一礼する。
「お初にお目にかかります。
 ジュリエッタ様の警護と身辺のお世話をさせていただいている者でございます。生まれついての名は別にありますが、わたくしのことは、どうかセバスチャンとお呼びください……」
 ジュリエッタ以上に流暢で自然な日本語だった。
「……せ、セバスチャン……さん?」
 真理が、疑問形で問い返した。
「さようでございます。奥様。
 彼の国……いえ、この国では、高貴なお方に仕える従僕を、そのような名で呼ぶ伝統があるとか……」
 緊張していた真理が、その言葉を聞いて大きく姿勢を崩した。
 ……どこの伝統だ、どこの……と、楓も、心中でつっこみを入れる。

 ジュリエッタと名乗った女性が白人にしか見えないのと同様に、その男も、白人にしか見えなかった。
 青白い、血色の悪い顔色に、落ちくぼんだ眼窟。きれいに撫でつけた髪に、ピンと両脇に跳ね上がった口ひげ……。
 蝶ネクタイに黒の上下で、しっかりとフォーマルな衣装に身を包んでいるのに、針金細工のように痩せ細った体躯と相俟って、どことなく、胡散臭い印象を与える人物だった。
 楓は、外見から人種や出身を言い当てるのは得意なわけではないが、男の肌の色が、若干、色づいていることを見分けている。肌色から見て、東洋人にも見えないのだが……。
 その男の印象を、楓は……今にも餓死しそうな、吸血鬼……みたいだな……などと、かなり失礼な例え方をする。
『ヨーロッパでもずっと東の方とか……あるいは、中東の人かも……』
 人種的な知見に乏しい楓は、男の人種的な特徴について、今度、荒野に教えて貰おう、と、そんなことを考える。
 そこまで考えて、楓は、はっと顔を上げた。
「……姉崎っ! さっき、姉崎って名乗りましたよねっ!
 その、ジュリエッタという人っ!」
「さようでございます」
 いきなり大きな声を出しはじめた楓をみても、特に驚いた風もなく、「セバスチャン」は恭しく頭を下げた。
「姉崎って、あの……六主家の、姉崎ですかっ?!
 シルヴィさんとかのっ!」
「流石は、サイキョウの教えを受け、カノウの家に住まうカエデ様……ご明察にございます」
「セバスチャン」は、慇懃な態度を崩そうとはせず、淡々とした口調で答えて、頭を下げた。「サイキョウ」、「カノウ」、「カエデ」などの語の発音が、日常的に使用する単語でないためか、微妙に、おかしい。
「……カノウの家……あっ!
 ち、違いますっ! おそらく、かなり勘違いしていますっ!」
 楓は、「セバスチャン」の言葉を慌てて打ち消した。
「ここ……カノウはカノウでも……六主家とか一族とは、まったく無関係の……一般人のお家です。
 そうだ、表札っ!
 字が、違うでしょっ!」
 楓は、ジュリエッタと「セバスチャン」の間をすり抜けて外に出て、玄関の上にかかった表札を指さす。
「加納、じゃなくって、狩野っ!」
「……確かに、チョウロウの字とは、違うようですが……」
 楓が指さした表札を、ジュリエッタと一緒に見上げた「セバスチャン」は、楓に、申し訳なさそうな口調で答える。
「……この文字は……カノウと、発音するのですか?
 お嬢様もそれがしも、日常の会話には不自由しないものの、中国文字にはあまり堪能とはいいかねますので……」




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(336)

第六章 「血と技」(336)

 荒野は本格的に静流の身体に乗りかかり、体重を預けながら、静流のベルト外しにかかる。荒野自身のジッパーも開いたままだったが、静流の方に躊躇いがあるのか、下着越しに荒野の局部に触れる程度のことしか、まだしていない。自分からは大胆になりきれない静流も、荒野がすることに抵抗することはなかった。前の時と同じく、静流は素直に、荒野のなすがままにされている。
 ベルトのバックルを外すと、荒野は静流の臍から下に指を這わせた。
 下腹部からパンツの中に指を入れ、指先に静流の陰毛が触れると、静流が「……んっ……」と強い吐息を吐く。
 ……緊張しているのかな……と、思った荒野は、それ以上、性急に静流の秘処に指を入れようとはせず、静流の下腹部から手を離し、静流の口唇を求めながら、両手を静流の胸に置く。
 荒野が顔を近づけると、静流の方から口を開けて、自分の口の中に荒野の部分を迎え入れやすくする。
 荒野は、再び、静流の口の中を舌でかき回しながら、静流の双丘を両手で揉みしだいた。最初のうちは、さほど力を込めず、ゆっくりと。そして、静流の呼吸が速くなり、身体が火照りはじめたあたりから、次第に力を込めていく。
 そうしながら、静流の膝の間に自分の身体を割り込ませ、下腹部を……特に股間を、密着させる。
 荒野の、熱く、硬くなったままの分身が、二人の薄い下着を介して、静流の局部に押しつけられた。
 ……はぁ、はぁ……と、息を荒くしながら、今では静流も、荒野の舌を貪っている。
 荒野の手の中で、静流の乳首が硬く尖るのが、下着や服越しにでも感じ取れた。
 荒野は、乳房全体を揉みしだくのを止め、静流の乳首を軽く抓む。
 と、静流は、「……ふんっ!」と息を吐いて、軽く背を反らせた。
「こうすると……感じます?」
 静流から口を離して、荒野が尋ねる。
「わ……わかりま……んんっ!」
 静流が答える途中で、荒野が静流の耳たぶを軽く甘噛みすると、静流はさっきよりも大きな声を出す。
「……駄目……そんなことをされると……ふぁぅうんっ!」
 耳の中に舌を入れると、静流は、今までで一番大きな声を出す。
「やっ……そ、そんな……ところ……」
 静流は、自分の身体の反応に戸惑っているらしく、弱々しく出した声には、困惑の色が濃く滲んでいる。
 自分が……そんなことで、感じる……とは、夢にも思わなかったようだ。
 荒野は、静流が動揺している隙に、今度は首筋に丁寧に舌を這わせながら、静流のシャツのボタンを解いていく。
 静流は、荒野が自分の服を脱がそうとしているのにも気づかない風で、
「……うわぅうっ!」
 とか、
「ひゃうっ!」
 とかいう風に聞こえる声を、荒野の口による愛撫の動きに合わせてあげていた。
 静流が意識しないうちに、ほぼ全てのシャツのボタンを外した荒野は、静流の胸の谷間に顔を沈める。
 静流のその部分は、シルヴィよりは小さく、茅よりは大きかった。しかし、荒野が間に顔を埋めることが出来るほどには大きく、しかも、ぐんにゃりとした感触のシルヴィの胸よりは、よっぽど張りがある。こうして真ん中に顔を埋めてみても、両側から押し返してくる力が感じられた。この分では、下着なしで立っていても、重力に逆らって、つんと乳首を上に向けているかもしれない……などと荒野は埒もあかないことを考える。考えながら、首を軽く左右に振って、静流の胸の感触を楽しむ。
 静流は、今までに荒野が与えた刺激が強すぎたのか、荒い息をしながら、荒野の後頭部に手を当てて、髪を撫でていた。
 どうやら、呼吸を整えているらしい。
 しばらく、その姿勢のまま、静流に休む間を与えてから、荒野は静流のブラジャーを下にずり降ろした。肩紐を横にずらし、パットの上部に指を差し込んで下に引くと、乳輪が小さく色素の薄い、静流の乳首が露わになる。静流の乳首は、今までに荒野の触覚が感受した通り、つんと上を向いて、硬く尖っていた。
 荒野は、その乳首の回りに、舌の先が、触れるか触れないかという微妙な間隔で舐めてから、少し強めに歯を当てて、甘噛みしてみた。
「……うわぅっ!」
 呼吸が整いかけていた静流は、またもや、悲鳴に近い声をあげる。
「静流さん……痛いですか?」
 静流の胸から顔をあげて、荒野は尋ねてみた。
「い、痛い……というより……何か、で、電気か何かが、びっと走ったような……」
 静流の声には、やはり困惑の色が濃く混じっている。
「……それが……感じるってことだと思います」
 荒野は、平静な声で説明する。
「静流さんは、こういうことに慣れていないから……静流さんにとっては、未知の感じで、驚いているのかも知れませんが……」
「……そ、そうなのですか……」
 静流が、ごく真面目な口調で頷いたのが、荒野はおかしかった。
「静流さんがいやでなければ……このまま、続けますが……」
 念のため、荒野は、確認してみた。無理矢理、というのは、荒野の趣味ではないし……それ以上に、現在の荒野は、無理矢理どうこうするほど、女性に不自由はしていない境遇だった。
「い、痛くは、ないのです」
 静流は、やはり真面目な口調を崩さずに、荒野を即した。
「つ……続けて、ください……」
 荒野は、静流には見えないことを承知で頷き、再び、静流の胸に顔を埋める。
 両方の乳首を中心に、荒野は歯で甘噛みしたり、指の先で摘まんだりする度に、静流は小さな声をあげる。同じ乳房でも、優しく揉みしだいたりする時は、あまり強い反応は、示さなかった。
 どうやら、静流は……少し痛みを伴うくらいの刺激の方が、感じるらしい……と、荒野は見当をつけた。

 荒野は胸や首筋を中心に、執拗に、静流の愛撫を続けた。
 最初のうち、自分の感覚に戸惑い、鈍い反応しか示さなかった静流も、荒野の執拗さによって、徐々に性感を開発されていく。
 当初は断続的、あるいは、間が空きがちだった静流の歓声も、荒野が粘るだけ粘ると、段々と頻繁になり、最後の方には、荒野がどこを触れても、絶え間なく声をあげるようになる。
 静流の反応を見極めながら、慎重に愛撫を続ける荒野の方も汗だくで……そうこうするうちに、二人とも、ほとんどの衣服をはだけて脱ぎ捨てていた。






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彼女はくノ一! 第六話 (77)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(77)

 このところ、孫子は多忙であった。理由は、いうまでもあるまい。先日、事業主になったばかりだったからである。
 孫子は周到な計画を作成して、その計画通りに淡々と作業をこなしていくことも苦にしない、几帳面さを持っていたが、会社を一つ経営するとなると、流石に自分一人だけの裁量で片がつくことばかりではない。それどころか、社内、社外の不特定多数の人間とつき合い、取引をするわけだから、不測の事態は常に起こり得る。
 加えて、孫子の会社は、まだ業務を開始してから間もなく、用意した業務マニュアルにも、不備が多い。孫子は、時に自分の手で実際に作業をして作業マニュアルの整備をしたり、登録してきたアルバイトの中からしっかりしていそうな人を選んで、昇給を含む待遇改善を餌に、リーダー、サブリーダーを指名していったり……などという、「ゼロから事業立ち上げ」に必然的に伴う作業に忙殺されている形だった。
 業務自体の合理化と組織作りを平行して行っている形で、まだ社員は、事務員数名しか抱えていない現在、どうしても、孫子の負担は多くなる。
 開始して数日が経過した、商店街の配送作業に関しては、徐々に安心して仕事を任せられる作業員の目星がついてきたので、どうにか軌道に乗りはじめたところだが、孫子は、配送ルートその他の改善、工夫が必要であると感じている。
 そんなわけで、最近の孫子は、週末など学校がない日は、社用に買い入れた自転車の荷台にノートパソコンを放り込み、作業服姿でそれをにまたがって、町内のそこここを徘徊して、自社の従業員たちの作業ぶりを虱潰しにチェックして回っていた。自転車は、免許を取得していない孫子が気軽に乗り回せて、小回りが利く乗り物として重宝していた。時には、孫子自らが、汗を流して仕事に従事することもある。
 大局から事業計画を見直すのも重要だが、時には現場に出て、自分の身で末端の作業内容を確認してみることも、重要だ……と、孫子は、実家でしつけられていた。現場での孫子のチェックは、その性質上、ほとんど抜き打ちだったが、勤務態度いかんによっては、その日限りで登録を抹消されたものもいる反面、昇給とともにより責任のある立場に引き立てられる者も多かったので、現場にもおおむね歓迎されていた。
 孫子の会社では、周辺の相場より割り増しの時給を支払っている。そのかわりに、多少なりと手を抜いて仕事をした者は、容赦なく仕事を外された。競合の同業者との差別化を、孫子は、仕事内容のクオリティを高めることで、アピールしようとしている。
 現在のところ、孫子の会社の主な業務は、商店街の荷物を個人宅まで配送する仕事なわけだが、孫子は、これから徐々に、他の業種にも手を広げていくつもりだった。
 そのためには、一人でも多く信頼できる従業員を確保しなければならず、経歴や年齢、性別を問わず、人材を確保するために、孫子は、実際に仕事をやらせてみた上での入念なチェックと可能な限りでの公正な審査の上、できるだけ多額の報酬を支払えるよう、会社全体の財務状況を常に改善するように努めること……で、クリアしようとしていた。

「……いわれてみりゃあ……ここいら、経営規模と設備投資が釣り合っていない病院ばかりだよな……」
 三島は、舎人の他に誰もいない病院の待合い室で座り、ぽつりと呟く。
「長老が根を張っているってのは……そういうことなのか……」
 テン、ガク、ノリ、それに、現象が検査を受けている間、三島百合香と二宮舎人は、大人同士の話しをしている。
 このような時は、流石の三島もそれなりに引き締まった表情をしていた。
「……そういうことなんすよ……」
 舎人は、真剣な顔をしている三島とは対照的に、飄然とした態度を崩そうとはしなかった。
「おれたち、別に国とか大義名分のために命張っているわけではないだから……バックアップ……老後、怪我を治す、家族を住まわせる……そういう場所を、ごく普通の町中に、ひっそりと確保しているわけだ。もちろん、一つ二つってわけではない。
 この町も、……長老が長い時間をかけて下地を整えてきた、そうした土地のひとつだ……」
「……荒野のやつ、そんなこと全然、こっちには説明しないからな……」
 三島は、下唇を、軽く噛む。
「あいつは……国内の事情は、あんまり詳しく知らないんじゃないかな?」
 舎人は、少し首を傾げながら答えた。
「荒野のやつ……長老のこと、どうも苦手みたいで、必要なこと以外はしゃべっていないようだし……。
 長老も、聞かれない限りは……いいや、聞かれても、答えをわざとはぐらかして他人を煙に巻くようなところもあるし……」
「必要なことも、聞かれないと答えない……聞かれても、時に答えを濁す……か……」
 三島は、天井を仰いで、ぼやく。
「……そういや、荒野もそういうところ……あるよな……」
「荒野の場合は……」
 舎人は、何故かため息混じりだった。
「……あいつ、あれで、格好つけだから……知らないことを、素直に知らないっていえなくて……適当に誤魔化すことあるから……それが、故意に知っていることを、韜晦して伏せているように見える時があるんじゃないのか……。
 あいつは……外見や能力はともかく……中身は、まだまだガキのままなのに……自分では、いっぱしの大人のつもりなんだ……」
「お前さん……随分と、あいつのことをよく見ているじゃないか……」
 三島は、感心した顔つきで、舎人の横顔をみる。
「……まあ、あれも……荒野のやつも、半端に出来がいいからな。
 かえって自分のいたらなさに気づきにくいし、変に背伸びしがちなところがある、って点には、賛成なんだが……」
「……付き合いは、さほど長いわけではありませんがね……」
 舎人は、軽く肩を竦める。
「荒野は……物心ついてから、このかた……自分の境遇や出自を当然のこととして、受け止めようとしてきた。
 でも……どんなに出来がよくっても……どだい、無理ってもんでしょう。
 たった一人のガキが、一族の将来を丸ごと背負っちまうなんて……。
 それを、あの荒野は……自分なら、それが出来るもんだって、自然体で自惚れて……しかも、自分が無理をしているとは、これっぽっちも思っちゃいないんだ……。
 昔からあいつは、自分自身のことには無頓着だった……」
「……その無理が、どっかで来るかね?」
 三島が、再び表情を引き締めて、舎人に尋ねる。
「このままだと……いずれ、来ますね」
 舎人は、即座に頷く。
「何かきっかけがあって、取り返しのつかない失態をしでかすか……それとも、何事もなくても、心労が重なってポッキリといくか……」
 いずれにせよ……そう遠くない将来、何らかの変化があるでしょう……と、舎人は、呟く。




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