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2008-02

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(370)

第六章 「血と技」(370)

 テン、ガク、ノリの三人がジャムを作っている間に、茅が紅茶をいれる。茅の紅茶は、幸いなことに、ホン・ファやユイ・リィにも好評だった。
 ちょうど朝食の支度が出来上がった頃に、「鎮魂戦隊ミコレンジャー」がはじまった。
 三人娘と茅、朝食のそっちのけでテレビを食い入るように鑑賞しはじめる。三人娘と茅がテレビにあわせて主題歌を合唱しはじめると、ユイ・リィは一度ぎょっとした表情を浮かべた。が、ホン・ファの方をちらりと伺い、ホン・ファが見事に無反応であることを確認すると、四人と一緒に「ミコレンジャーのテーマ」を合唱しだす。
「……いつもこんな調子なのですか?」
 淡々とした口調で、ホン・ファが荒野に尋ねた。
「集まると、だいたいはこんなもんだな」
 荒野も、淡々と答える。
 ホン・ファは、自分に直接利害を与えるものでない限り、他人の言動に対して、あまり関心を持たないように努めているらしい。
 それはそれで、賢明な見識ではあるな……と、荒野は思う。その分、面白みはないが、荒野の周囲にはすでに面白みにあふれた人物でいっぱいなので、たまにはこういう淡々としたキャラがいてくれると、精神的にも楽な気がする……。
 荒野とホン・ファだけが黙々と手を動かして料理やパンを片付けていく。他の五人は、「ミコレンジャー」が終わるまでは、終始歓声をあげたりして、かなり落ち着きがなかった。
 この後に差し迫った予定があるわけでもなし、荒野はそれを咎めたりすることはなく、ゆっくりと朝食をいただく。
「……そういや、きみたち。
 この後の予定は?」
 荒野は、何の気無しに、ホン・ファに尋ねる。
 他の面子はテレビに夢中なので、いきおい、話し相手は限られて来る。また、ホン・ファをあえて無視する理由も、荒野にはない。
「十時に、シルヴィさんと買い物にでる予定です」
 あくまで生真面目な口調を崩さずに、ホン・ファが答えた。
「……まだだいぶ、時間があるな……」
「ご迷惑ですか?」
 荒野がいうと、ホン・ファからすぐに言葉が返って来る。
「いや、別に……」
 荒野は、小さく首を振った。
「……君たちは、全然、面倒のない方だよ。
 もっとはた迷惑なのに慣れているから、拍子抜けするくらいだ。
 茅の紅茶くらいしかもてなしもできないけど、それでもよかったら、ゆっくりしていってくれ……」
 そんな会話をしている横で、相変わらずテレビに夢中なテン、ガク、ノリの三人は、片手で、手探りでも食べる事ができる菓子パンを手繰り寄せては封を開け、かぶりついていた。
 茅やユイ・リィも、それに倣っている。
「……ここは……」
 そんな様子を見ながら、ホン・ファは、かすかに笑った。
「……賑やかで、平和なんですね……」
「まあね」
 荒野は短く答えて、紅茶を飲み干す。

「ミコレンジャー」が終わってから、三人娘と茅、ユイ・リィも、まともに食卓に向かうようになった。それまでにも、番組をみながらしきりに飲食しているのだが、それでもまだ腹に入るらしい。
 茅が冷めかけた紅茶をいれ直し、トースターをセットし、ようやく手製のジャムとかホン・ファの料理の味とかの話題になる。
 おおむね好評だったが、荒野だけが、ジャムが甘すぎると不平を口にした。
「……甘いもの自体は嫌いではないけど……こんだけ甘いと、素材の味がわからないし……第一、こんなにいっぱい作って、誰が食べるんだ?」
 と、荒野は鍋に一杯にできあがったリンゴジャムとイチゴジャムを指さす。
 これだけ甘いものがこれだけ一杯にあると、見ているだけで胸焼けがしてきそうだった。
 ……こいつらは、甘い物に耐性がありそうだから、気にならないのかも知れないが……。
「……半分は瓶につめてこっちに置かせて貰って、もう半分は持って帰る……」
 三人を代表して、テンが答える。
 涼しい顔をして、
「うちは人数も多いし、多少多くても、すぐになくなるよ……」
 と、いった。
 荒野はそんなテンから目をそらして、
「……そうだといいけどな……」
 とだけ、答えておいた。
 その出来たてのジャムは、「ミコレンジャー」の放映中にちょうどいい具合に冷めている。
 焼き上がった順にトーストを配るっていくと、三人娘は自分たちで作ったジャムを分厚く塗りたくって、じつにおいしそうな顔をしてパクつくのだった。
 ユイ・リィやホン・ファも、焼き上がったトーストを受け取った際に、二種類のジャムを試してみた。
「……ハオ!」
 一口食べるなり、目を見開いて「好」と叫んだのがユイ・リィ。
「……日本のパンは、おいしいですね……」
 控えめな口調でジャムそのものに関する論評を控えたのがホン・ファだった。
 茅は、普段食べ慣れていないからか、もっぱらコンビニで買ってきた菓子パンをぱくついている。ジャムの方は、あとでいくらでも食べる機会があるから……なのかも、知れなかったが……。
 荒野はお義理程度に二種類のジャムを試した後、それ以上何もコメントせずに食事を終えた。

 ユイ・リィは、昨日と今日とですっかり三人組や茅と打ち解けていた。ホン・ファも、ユイ・リィほど分かりやすい反応ではないにしろ、決して不快感を持っているようではなさそうだ……と観察し、荒野は少しだけ安心をする。
 別に誰かに責任者と名指しされた訳でもないのだが、一族の関係者間で何か問題が起これば、たちどころに泥を被るポジションに、荒野は立っている。
 人間関係が良好であるに越したことはないのであった。
 使い終わった食器を片付けた後、荒野はノートや教科書などの勉強道具を別室から持って来る。
 テン、ガク、ノリの三人は、もうす少し休んでから徳川の工場に行く、といっていた。
 シルヴィと一緒に買い物に行くといっていたホン・ファとユイ・リィも、いったん隣の狩野家に帰るのには、まだ少し時間があった。
「……それ、学校の、ですか?」
 ティーカップを掌で包み込むように持ちながら、ホン・ファは、荒野の教材に興味を示した。
「そう。
 学校の……」
 荒野は軽い口調で答える。
「……おれも、茅たちみたいな便利な頭を持っている訳ではないからね。
 知らない知識を憶えるのには、それなりにリソースを消費して頭に叩きこむしかない」
 ホン・ファが教科書を見せてくれ、といいだしたので、それでは、と茅がノートパソコンを持ち出して、学校の生徒たちと作った教材サイトを画面に表示させてホン・ファに見せる。
「……教科書に書いてある程度の情報は、ここにほぼ網羅しているの……」
 茅がそのサイトの説明を諄々としていくと、次第にホン・ファの顔が強ばっていく。
「……これ……全部、一カ月そこそこで……」
「いろいろな人が協力してくれたの」
「あなたは……あなた方は、教師ではなく生徒……なんですよね……」
「これを作ったのは、生徒。
 基本的なデータ構造を定義しておけば、後はデータを取り込んで配置するだけだから、誰でもできるの」
「……それでも……」
 茅の説明を聞きながら、ホン・ファは何事かを真剣に考え込みこみめる。
「……師父が、ここを見て来い、といった意味が、分かってきました……。
 いくら、佐久間の資質があるとはいえ……極めて短期間のうちに、これだけの共同仕事が行えるほど、多数の一般人との間に、信頼関係を結ぶなんて……」
 ホン・ファはあくまで生真面目な表情で、そう考えているようだった。
 茅と荒野が三学期のはじめに転入してから、まだ三カ月と経っていない。
 ……確かに、作業量的なことを考えたら……それに、冬休みの間に多少の知り合いはできていたとはいえ、それ以外は、まったくのゼロからはじめたことを考えると……。
 自分たちの存在自体は、もうかなり甚大な影響を、あの学校に与えているのではないか……と、荒野も、思った。
 今まで、漠然とそんなことを思ったことはあっても、ホン・ファに指摘されるまで、改めて認識したことはなかったわけだが。


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[つづき]
目次


彼女はくノ一! 第六話 (111)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(111)

 テン、ガク、ノリの三人にホン・ファとユイ・リィの二人を加えた五人を送り出してからしばらくすると、服を着た舎人が居間に入ってきた。
「……二人はまだ寝ているし、こっちにいた方がいいかな、って思ってな……」
 そういって炬燵に入る舎人に、ごく自然な動作で静流がお茶を用意する。
「……ちょうどよかった……」
 シルヴィが、舎人に向かって意味ありげに笑いかける。
「問題児の保護者の先輩として、何かアドバイスでもない?」
「……問題児の保護者……ねぇ……」
 舎人は、ずずず、と熱いお茶を啜りながら、ぴくん、と片方の眉を跳ね上げる。
「おれが頼まれているのは現象の監視で、保護者になった覚えはないけどな。
 あと、そういうの先輩、ってことなら、それこそ、あの先生が元祖だろう……」
 ここでいう「あの先生」とは、一応、名目上の「荒野と茅の後見人」である、三島百合香のことである。
「あのセンセイが、有用な助言をしてくる……って、本気でそう思うの?」
 シルヴィは、実に楽しそうな表情になった。
「……まともなこといわねーだろうな、あの先生なら……」
 舎人は苦笑いを浮かべて、ゆっくりと首を左右に振る。
「しかしまあ、気づけば随分とおかしなことになっているよな、ここも……。
 最強はいるは、野呂の姫さんはいるは……あげくに、姉崎まで集まってくるし……」
「わたしたち、佐久間もです」
 今度はそれまで黙っていた梢までもが、口を挟む。
「前例のない、未曾有の事態だということは……わたしも、理解しています」
 梢が「わたしも」……と、わざわざ断ったのは、「佐久間である」ということと、それに「まだ若い梢が」という二重の意味を強調したかったからだろう。年齢だけで判断するのなら、梢は、保護するよりもされる側に分類される年頃だった。
 それだけ優秀で、佐久間の中でも信頼されているのだろうな……と、舎人は思う。長くはないこれまでの付き合いからも、梢の真面目さ、慎重さを思い知る機会は、少なくはなかった。
「で、その、前例のない、未曾有の事態っていうのに対して、わたしたち大人はどういうスタンスで取り組んでいくか、っていうのが、問題になってくるわけねー……」
 あくまで軽い口調で、シルヴィは続ける。
「……いつまでも、コウ任せ……ってわけにも、いかないでしょ?」
「……荒野は、よくやっていると思うぜ」
 ……これが、本題だな……と、舎人は直感する。
「正直、別の大人が出張っても、あいつよりもうまく、今のこの事態を捌けるとは思えない」
「そ……そう、です……」
 静流が、舎人に同調する。
「わ、若は……若以外の方が仕切っても……み、みんな……い、今ほど、大人しく収まっているでしょうか?」
 静流のいう「みんな」とは、最近、この土地に流入してきた一族の関係者、すべてのことだ。
「……コウは、サラブレッドだからねー……」
 シルヴィも伏し目がちになって、軽くため息をつく。
 加納本家の直系であり、「最強」荒神の一番弟子……血筋と実力を兼ね備え、なおかつ、今まで信頼を損なうようなポカをしていない。さらにいうと、一族の、人を評価する時の一般的な価値観は、実力主義的な見方に偏っているのだが……荒野は、若年にもかかわらず、十分な実戦経験も積んでいる。
 ……ということから、一族における荒野の人望と評価は、かなり高い。荒野自身がそうと自覚しているよりは、よっぽど高い。特に、荒野と同年配の若年層には、絶大な人気を誇っていた。
 また……荒野自身はそうした自分の人望を、よく自覚していないのか、あるいは、自覚していても、あまり重要視していないのか……ともかく、平然と無視している、という側面もあった。
 荒野自身は、どうも、茅やあの三人娘目当てだけで、一族の若者たちがこの土地に流入してきている……と、本気で信じ込んでいる節がある。
「確かに……コウがいなかったら、ここまで人が集まってくることも、なかったんだけどねー……」
 シルヴィの言葉に、その場にいた全員が頷く。
 例え、茅たち新種がいたとしても……荒野がいて、自分の正体を晒した上で、一般人と共存しようとしている……という事実がなかったら、ここまで人は集まってこないのだ。
「……あいつも、天然で、自己評価が低いからなぁ……」
 舎人が、ため息混じりにシルヴィの言葉を引き取る。
「例えば現象なんぞ……。
 荒野という重しがなかったら、もっと好き放題にしているぞ……」
 舎人は、暗に「自分や梢だけでは、現象を抑えきれない」といっているわけだが……特に韜晦してそういっている様子でもなかった。
「現象が大人しくしているのは……」
 梢が、舎人の言葉を補足する。
「ひとつは、加納の若が、抑止力となっていること。
 あとひとつは、うまくいきかけているこの土地の様子をみて、今までとは違った希望を見いだしたこと……」
「……だから、さ……」
 シルヴィが、その場にいる全員の顔を見渡して、いった。
「保護者、っていい方があれだったら、大人が……と言い直すけど……。
 ようするに、わたしたちがコウたちに出来ることが何か……っていうことよね、問題は……」
「……何が出来るか、って……」
 舎人は、にやりと笑う。
「別に、何もやらなくていいんじゃねーのか……。
 その、何も問題がなければ。
 このままで……」
「か、仮に……な、何か……」
 静流が、先を続ける。
「……も、問題が起こったとしたら……」
 何らかの理由で、新種たちが暴走し……一族や一般人にとって、有害な存在になった場合。
 それに、荒野が「悪餓鬼」と呼ぶ未知の存在などが介入してきた場合。
 現在の状況を破壊する要因として、内因性と外因性、大きく分けて二つの「危険要素」があるわけだが……。
「止めるな」
 舎人は、平然とした顔で言い放つ。
「何が何でも、止める。
 力ずくで、止める」
 舎人の言葉に、大人たちは一斉に力強く頷いてみせた。


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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(369)

第六章 「血と技」(369)

「……それで、今日は五人で飯をたかりにきたわけだ」
 荒野が頬杖をついてぼつりと呟くと、テン、ガク、ノリの三人は口々に不平を鳴らした。
「たかりに、じゃないよ……」
「こうして、材料は持参してきたし……」
「ついでに、このうこうやや茅さんたちの分も作ってやっているんだから、文句言わなくてもいいじゃないか……」
「その代り、しばらくここを占有してわいわい騒ぎたてるんだろ?」
 荒野は速攻で指摘する。
「どうせ、お前らの目当てはスパーヒーロータイムなんだ。
 騒ぐ分、とっとと働け……」
 迷惑だ、とわかりきっていても、強硬な態度に出られないのは、特撮番組を鑑賞中、茅もこの三人と一緒になって騒ぐことが、経験上、わかってしまっているからだった。
 その茅は、ホン・ファとユイ・リィから中華風オムレツの作り方を習っている最中だった。ホン・ファとユイ・リィは旅暮らしが長いといっても、簡単な料理くらいは作れるらしい。
 テン、ガク、ノリの三人は、恐ろしいことに、自家製のジャムを何種類か作りはじめている。
 時折、こうしてマンションを訪れるお礼に……ということらしかったが、荒野にしてみれば、その殊勝さを褒めるよりは、茅との住空間がさりげなく浸食されつつあることが気に障る。
 第一、「自家製のジャム」などという代物を作ってここに備蓄しておく、ということは、この三人が定期的に来る、ということではないか。
 しかし、これも、肝心の茅が特に反対することもなく、それどころか、機嫌がよく歓迎している節さえみえる……以上、荒野にしてみても強硬な態度をとるわけにもいかない。
「……いつも、こんな感じなんですか?」
 一段落ついたのか、ホン・ファが手を洗いながら荒野に話しかけてくる。
 敬語はともかく、態度や物腰がどこか堅さを残している。
 馴れない異国で、馴れない異国語を使用して会話している……ということもあるのだろうが、もともと、真面目な性格なのだろう。
 その証拠に、ホン・ファと一緒に来たユイ・リィなどは、昨日こそ緊張した様子で、何かというとホン・ファの後ろに隠れたりしていたが、一夜明けた今では、表情もかなり柔らかくなって、好奇心に満ちた眼で、目に入るものすべてを見渡している。
「いつも……っていっても、こいつらがここに来る自体が、そんなに多くないけどな……」
 荒野は、憮然とした声で答えた。
「来る時は、まあ、だいたいこんな感じだ。
 というか、今はまだいいけど……お目当ての番組がはじまると、かなりうるさいことになるぞ……」
「……いいじゃんか、別に。
 みんなで楽しんで観ているんだから……」
 すかさず、ガクが口唇を尖らせて反駁する。
「……真理さんのご飯、おいしいんだけど、基本、和食中心だから、こういう機会でもなければパンを食べられないんだよね……」
 ノリも、そんな風につけ加えた。
 テーブルの上には、トーストにする予定の食パンと、それに何種類ものの菓子パンが、文字通り山となって置いてある。
 コンビニに買い物にいった際、ホン・ファとユイ・リィが日本の菓子パンを珍しがったから……という名目で、こういうことになったらしい。その実、本当に菓子パンを欲しがったのは、テン、ガク、ノリの三人なのではないか……と、荒野は疑っている。
 真理は、不用意な間食や買い食いについては、どちらかというと厳しい方らしく、三人娘も真理のいいつけにだけは、率先して従うところがある。
 荒野自身もおおぐらいだし、他の面子も荒野ほどではないにしろ、それなりに健啖家だったから、買ってきた食糧があまる心配だけはないのがまだしも救いだった。
「……別に、おれたちやこいつらのペースに合わせる必要はないから……」
 荒野はホン・ファに対しては、そういうだけに留めた。
 別に荒野が説明するまでもなく、これから先、ホン・ファやユイ・リィがこちらの「実態」を知る機会はいくらでもあるだろう。
「……でも……」
 ユイ・リィが、心持ち小さめの声で荒野に確認する。
「昨日のビデオのようなもの、もっと見られるんでしょ?」
「……うーん……」
 荒野は、まだ目が醒めてから櫛を通していない髪に指を突っ込んで軽くかき回す。
「日本は……そういう子供向けのコンテンツだけは、かなり充実しているからなぁ……。
 普通にテレビをつけているだけでも、ずうっと垂れ流しになっているけど……」
 ホン・ファとユイ・リィは、娯楽らしい娯楽も与えられずにここまで育ってきたのかも知れないな……と、荒野は、そんなことを思った。
「……昨日のビデオ、面白かったのか?」
 ユイ・リィは、黙って頷く。
「羽生さんや先生が、詳しいし、いろいろな本とかDVD持っているから、暇がある時にでも借りるといい……」
 何のことはない。
 このあたりの経過は、テン、ガク、ノリの三人娘の反復なので、荒野は安心して他人に振ることが出来る。
 興味があるなら、自分で勝手に情報を収集していくだろう。
「……コンビニに、マンガ、いっぱい売っていました」
 ホン・ファも、頷く。
「この国は、平和です」
「おれも、週刊のマンガ雑誌があんなに発行されているなんて……こっちに来てから知ったくらいだけど……」
 荒野は、話しを合わせる。
「……先生の話しでは、今では世界中で翻訳されているそうだな……」
 もっとも、三島経由でもたらされたこの辺の情報については、荒野は眉に唾をつけるくらいの心持ちで受け止めている。ニュースソースがニュースソースだし、担がれている可能性も捨てきれない。また、荒野はそっち方面の興味や関心はあまり強くなかったので、自分で裏を取るという手間もかけていなかった。
「海賊版の漫動のことなら、少しは知っています」
 ホン・ファはあくまで真面目な表情を崩さずに頷いた。
「向こうでは普通に売っていますし、それに、テレビでも翻訳したものを放映していますから……」
 しかし、ホン・ファの声にはあまり熱意は感じられなかった。
 ホン・ファは、ユイ・リィほどには、その手の日本文化に対して関心を持っていないようだった。


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彼女はくノ一! 第六話 (110)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(110)

 シルヴィは梢から、廊下で舎人やテン、ガク、ノリの三人組、それれに楓、孫子と話した内容を聞き出すと、
「その三人は、まだ家にいるのね?」
 と、確認した。
「今、顔を洗っているところだと思います」
 シルヴィの問いに梢はそう答えた。
 もともと、荒野のマンションを訪れるにせよ、早すぎる時間だ。
「……着替えてから、コンビニにいって時間潰しがてら買い物をして、それからマンションにいくとかいってましたけど……」
 梢は先程の会話を思い返しながら、シルヴィに伝える。三人組は、週刊マンガ雑誌がどうとか話していた。
「……今、洗面所にいるのね……」
 シルヴィは立ち上がり、居間を出ようとする。
「どうするんですか?」
 すかさず、梢が尋ねた。
「ついでに、ちょっと買い物をして貰うの。
 ご馳走して貰うばかりではあれだから、今日の朝食くらいはね……」
 シルヴィは軽く肩を竦め、足音も立てずに廊下を歩いて行く。
 そのやりとりの間にも、ホン・ファ、ユイ・リィの二人はてきぱきとした動作で布団を畳みはじめていた。
 梢もそれに倣って布団を片付け、ついで、借り物のパジャマを脱いで、自分の服に着替える。
 三人が身支度を整えた頃、シルヴィが帰ってきた。
「……これ、使っていいって……」
 そういってシルヴィは、タオルと歯磨きセットを三人に配り出した。歯ブラシは、ホテルなどに置いてある、小さな歯磨き粉のチューブが一セットになっているあれだ。
 外泊の際、真理が持ち帰ってくるのだろう。
「……あの……」
 おずおず、といった形で、ホン・ファがシルヴィに語りかける。
「……買い物なら、わたしたちでいってきますけど……」
「そうね」
 シルヴィはあっさり頷いた。
 あるは、この二人は師匠のフー・メイに、世話になるシルヴィのいうことには従うように、程度のことは言い含められているのかも知れない。
「それじゃあ……あの三人と一緒にいってきて貰える?」
 そういってシルヴィは、自分の荷物の中から手帳をとりだし、さらさらとメモを書いてからそのページを破り、財布から紙幣を何枚か取り出して、メモと一緒にホン・ファに手渡した。
「……み、皆さん……」
 いつの間にか、茶碗を乗せた盆を手にした静流が、台所のほうからやってくる。
「ま、まずは、朝の一服を……」
 その声を受けて、シルヴィはホン・ファとユイ・リィにいまだにいびきをかいている酔っぱらい二人を部屋の隅にまとめるよう支持し、自分で炬燵を出しはじめた。
 静流が持参の葉でお茶をいれはじめると、なんともいえないいい香りが居間に漂いはじめる。
「……あっ……」
「……お茶……」
 顔を洗って居間に入ってきたテン、ガク、ノリの三人が、居間に漂う茶の香りに、一瞬、足を止める。
「ま、まだ時間があるようでしたら……」
 静流は、三人に声をかけた。
「……い、一服してから出て行っても……」
 時間的にはむしろ余裕がありすぎるくらいであり、三人組は素直に静流の提案を受けて炬燵に潜り込む。
 シルヴィは一度はホン・ファに渡したメモを取り返して、ホン・ファとユイ・リィには顔を洗ってくるようにいいつけ、先ほどホン・ファに指示した買い物の件を、三人組に改めて説明する。
 ホン・ファとユイ・リィは、三人と入れ替わりに顔を洗いにいった。
「……買ってきた荷物は、あの二人に持たせてくれればいいから……」
「うん。
 わかった……」
 三人を代表してテンが頷いた後、こう続けた。
「あの二人、日本は不案内なんでしょ?
 なんだったら、ボクたちがしばらく案内しようか?
 ボクたちなら、それなりに時間が作れるし……」
 この三人組もボランティア、ハードとソフトを含めた各種開発業務、撮影、鍛錬……などでそれなりに多忙ではあるのだが、学校に通っていない分、融通も、それなりに利く。
「……それも、お願いしたいところだけど……」
 シルヴィは、そう答えて静流がいれたお茶を啜った。
「とりあえず、今日はパス。
 今日は、あの子たちの服とかを揃えたいから……」
 何しろ、ホン・ファとユイ・リィは荷物らしい荷物も持たず、ほとんど着の身着のままでここに来ている。旅暮らしが長かったというから、あの二人にとっては「必要のあるものは現地で調達」というのが自然なのかも知れない。が、二人がこれから日本の生活に溶け込もうとするのなら、着替えや当座の必需品は出来るだけはやいうちに揃えておきたかった。
「そっか……」
 ノリが、もっともらしい表情で頷く。
「……でも、ボクたちの方は、明日以降でもいいし……」
「……日本のこと教えるかわりに、いろいろなこと教えて貰おう」
 そう締めくくったのは、ガクである。
 テン、ガク、ノリも……毎日みているとそうは思えないのだが、この土地に住むようになってから、短期間のうちに多種多様な知識や技術を会得している。完璧な記憶力を持つテンはもとより、ガクやノリにしても、決して頭が悪いわけではない。学習能力、という観点から比較すれば、同年齢の子供たちより遙かに高水準にあるといってよかった。
 それに加えて……。
『……ここの、環境も……』
 一族の中でも一流に近い術者がこれだけ揃って、若年者に技術を伝授している……というだけでも異例なのに……この三人の場合、それに加えて、工場の方で一般人の技術も、かなり深い部分まで、学んでいる最中だった。
 それも座学ではなく、「自分たち専用の装備を作る」という、「実習」で……。
 開発者と被験者、それに使用者が同一である……というのは、開発環境としては、かなり理想的な環境だろう。
 彼女たちの装備は、外見上はそれこそマンガじみているわけが……。
『この子たちが、このまま、完成すれば……』
 これから、どんな怪物が姿を現すのか……シルヴィにしてみても、期待と不安がない交ぜになっている状態だった。



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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(368)

第六章 「血と技」(368)

 結局、茅は荒野が射精をする前に全身を大きく振るわせて静かになった。性急で単調な交わりだったが、茅が快楽を受け取ることには支障がなかったらしい。そもそも、荒野はあまりテクニシャンというわけではないし、こうした交わりの際の快楽も、どちらかというとメンタルな要因が大きく作用している……ように、荒野には、思える。
 要は、気の持ちようということで、何日かお預けを食らった茅の期待値が大きすぎた……ということなのではないか、と、荒野は推測した。
 その点、荒野の方は、茅が禁欲を強いられている間にも入れ替わり立ち替わり、何人もの女性と関係を持っているわけで……荒野とて、決して好んでそうしているわけではないのだが、その辺の不公平さについては、茅に対してかなり申し訳なく思うところも、多々ある。
 荒野はそんなことを考えつつ、ベッドの上にぐったりと身を投げ出している茅の肢体を見下ろした。
 上半身は着衣のまま、顔や首筋に乱れた髪が張り付いている。そして、スカートが捲れあがって露出した下半身の肌はひどく青白くて、こんもりと茂った陰毛の黒さといい対照になっていて、そこに、硬度を失っていない荒野の分身が刺さったままになっている。
 服も脱がないうちから交わる、というパターンも、この二人の間では珍しい……と思い、荒野は、なんのことはない、「自分も飢えていたのだな」、と改めて自覚する。
 女性に……というよりも、茅に……ということだが。
 この点、茅への執着と欲求については荒野自身も重々自覚をするところであり、だからこそ少し適度な距離を置こうと思ったわけだが。

 頃合いを見計らって、荒野はそろそろと茅との結合を解こうと身を離そうとした。
 が、茅が荒野の手首に手をかけて、引き戻そうとする。「離れるな」という合図らしい。未だ、喘いで呼吸を整えている茅が、そんな形で意思表示をしたようだ。
 とはいえ……。
『……このまま、汗まみれだと風邪引いちゃうし……。
 いつまでも、二人して半裸、というわけにもいかないし……』
 荒野は少し躊躇った後、そのままの体勢を維持したまま、自分の上半分の衣服を脱ぎだした。
 仮に、端からみている者がいたとしたら、かなり滑稽な眺めだったと思うが……茅が下の下着しか脱いでいないのと同様、荒野自身も、下半身の衣服だけを乱雑に脱ぎ捨てただけの格好だったのだ。
 改めて、全裸になった荒野は、今でもだらんと弛緩して全身の力が抜けている茅の背中に両腕を回し、結合したまま、ちょうどだっこをする形で抱え上げた。荒野が背中に腕を回すと、茅も荒野の身体に両腕、両脚を絡ませて軽く締め上げて協力してくれる。そろそろ、息も整ってきたらしい。
「ほら。茅。
 このまま、シャワー浴びに行くからな……」
 茅の身体を抱き上げた荒野が、茅の耳元で囁くと、茅は小さく頷く。
 茅を抱えたまま荒野が歩き出すと、それだけで結合部から刺激を得るのか、茅は、「んっ、んっ」と小さく息を弾ませはじめる。向かい合って抱き合っているので、荒野の首筋に直接息がかかるので、すぐにそうと察知できた。

 風呂場に入ってからようやく結合を解いて茅の服を脱がせる。
 荒野と同じく、全裸になると茅はすぐに荒野に抱きついてきて、口唇を合わせてきた。
 正面から向き合った状態で密着して抱き合い、しばらく、お互いの舌でお互いの口腔内を探り合い、唾液を啜り合う。
「……ほら、早く汗を流さないと、風邪引くだろ……」
 しばらく堪能し合ってから、荒野は自制心を総動員して、ようやく茅の身体を自分から剥がした。
「……荒野……。
 まだ、元気。
 それに、今日はまだ出してない……」
 頬を染めた茅が、上目遣いに荒野の顔を見上げながら、そそり立った荒野の分身に指をかける。
「今日と明日で、いっぱいやるんだろ?」
 荒野は茅の髪の毛をまとめてバスタオルで包み込んでから少しおどけた口調を形作り、茅の肩に手をかけて、浴室に入っていく。
 茅も、もうかなり回復しているらしかった。
 そうして二人していちゃつきながらシャワーで汗を流し、身体についた水滴を拭ってから再び寝室に戻ってから、再戦。

 その夜は、それまでに試していなかった体位なども含め、何度も交わることになる。
 茅の体力が、以前に比べて格段に向上していることを、荒野は改めて実感した。

 翌朝、二人して熟睡しているところを、乱暴にチャイムを連打されて起こされた。
 ほぼ同時に起き上がった荒野と茅は、お互いの顔を見合わせて、どちらともなく照れ笑いを浮かべる。起こされるまで無防備に熟睡していた、ということが、照れくさかった。
 常に警戒を怠らない荒野の眠りは、普段からごく浅いものだったし、茅に至っては、寝ている間も、何やら頭の中で作業をしている……ということらしかった。意味合いは多少異なるものの、二人にとって、玄関先にいる来客に、ぎりぎりまで気づかないでいる……というのはかなり異例の事態であり、その異例の事態を引き起こしたのは、昨夜、二人で行った共同作業の疲労と、二人でともにいる……ということから来る充足感ならびに多幸感、もろもろ……。
 簡単な言葉でいうと、二人とも安心しきって、精神的に弛緩しすぎていたので、普段なら察知できる筈の、外の様子に対する注意力が散漫になっていたのだった。
 そして、荒野と茅は、寝起きと同時にお互い表情を伺い、瞬時に同じ兆候を察知したので……誤魔化すような照れ笑いを浮かべた。
「……やべっ!」
 しかし、次の瞬間、荒野は小さく叫ぶと、昨夜、脱ぎ捨てたままにしていた自分の衣服や茅の下着を拾い集めはじめた。
 茅も手早く着替えを出して、身につけはじめ、荒野の衣服も用意する。
 普段ならこれほどだらけたことはしないのだが……昨夜は、少し特別だった。

 二分もかけずにざっくりと簡単に身支度を調え、玄関に向かう。
 ドアを開けると、テン、ガク、ノリのいつもの三人と、それに、ホン・ファとユイ・リィが立っていた。


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彼女はくノ一! 第六話(109)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(109)

「……かわいい寝顔……」
 梢が廊下の気配を察して居間を出て行くと、シルヴィは音もなく布団を抜け出して、抱き合うようにして眠っているホン・ファとユイ・リィの様子を伺った。
 二人は、一見して熟睡しているように見える。
 この土地にまで移動してきてからすぐに昼間の騒ぎ、夜のジュリエッタとの一件……と、それなりにつかれることも多かったのだろう。言葉に不自由しないとはいえ、この二人にとって日本は、慣れない異国でもある。
 もっとも、いくら熟睡しているように見えても、この二人なら、この場で少しでも殺気を放てばすぐに跳ね起きるのだろうが……シルヴィも流石に、興味本位でそのようなことを実地に試したりはしない。
 朝っぱらから、はた迷惑だからだ。
 シルヴィは、身体の向きを変えて、もつれ合った姿勢でいびきをかいている赤毛とブルネットの二人組を観察する。
「……かわいくない寝顔……」
 まだあどけなさが残るホン・ファとユイ・リィとは違い、こちらはあられもない格好で敷布団をはねとばし、二人して豪快にいびきをかいていたりする。
 ジュリエッタとイザベラは、昨夜もかなり遅くまで様盛りを続けていた。両者ともなかなかの酒豪であり、何となく意気投合して盛り上がっていたようだ。かくいうシルヴィ自身も途中まではつき合っていたのだが、二人とも相当に出来上がって英語スペイン語ちゃんぽん、かつ呂律が回らなくていっている内容が判別出来なくなったあたりでこれ以上つきあってもしょうがないと判断し、寝ることにしたわけだが……。
『……姉崎が、いっきに四人も……』
 ……二宮とか野呂とかが集まってきたから、対抗意識でも出してそれとなく発破をかけたのがいるのかな……。
 などと、軽く考え込んでしまう。
 そういう「さりげない根回し」……一種の暗示だが、本人が自分の意志で決断したように思わせたまま、行動指針を誘導する……の達人は、姉崎の中には大勢いる。佐久間ほどではないにせよ、姉崎もその手の誘導は得意としていた。
 この四人の来訪の、どこまでが偶然でどこまでが意識操作の結果なのかは、シルヴィには判別できなかったが……。
 問題なのは、この土地に一番早くから居着いているシルヴィが、どうやらこの四人の面倒をなにかと見なければならないらしい……ということだ。
 別にそんな義理もないのだが。荒野の負担を減らすため、そして、他の六主家との競合を考えると、やはりまるっきり放置というわけにもいくまい。
『……まあ、いっか……』
 とりあえず、シルヴィは、この時点ではあまり深刻に考えてはいない。
 もともと、どちらかというと楽天的な性格ではあったし、たいていのことならそれなりに後始末をする自信もあった。有事の際のフォローということでは、まだ若く経験が不足している荒野よりは、シルヴィの経験と柔軟さの方が役に立つことが多い。
 また、決定的な、取り返しがつかない……ということまでには至らないトラブルが適度に発生し、それを自分が収拾してみれることで、荒野の自分への信頼が増すのではないか……という計算も、シルヴィには、ある。
 ジュリエッタ、イザベラ、ホン・ファ、ユイ・リィ……。
 この四人は、ちょうどいい具合に、「適度に小規模なトラブル」を起こしてくれそうな性格と資質の持ち主なのではないか……と、シルヴィは心中で、そんな不謹慎な計算をしはじめていた。
「……んっ……」
 シルヴィがそんなことを考えていると、後の方で小さな声が聞こえる。
 振り返ると、ホン・ファがぼんやりとした顔で上体を起こしているところだった。まだ目が覚めていないのか、実に眠そうな顔で室内を見渡している。
「……あっー……」
 ……どうやら、「何故自分がここにいるのか」よく分かっていないらしい……。
 この様子だと……日本に来たことを思い出すのも、しばらく時間がかかるのではないか……。
 実に不思議そうな表情をしてホン・ファはしばらく室内を見渡していたが、シルヴィと目が合うと、急にしゃっきりと背筋を伸ばし、目を見開く。
「……アイヤー!」
 一声、そう叫んでから慌てて自分の口を掌で塞ぎ、ぱっと跳ね起きて座り直し、その場で土下座しはじめた。
「……お、おはようございますっ!」
 ……おそらく、師匠のフー・メイから、普段から礼儀についてはやかましく言われているのだろう。特に一族は、一般人よりは序列の意識に敏感だ。無礼な言動が、即、生死を分ける場合も、多々ある。
「……はい。おはよう。
 挨拶はいいけど、土下座はやりすぎ……」
 ジュリエッタはできるだけ柔らかい笑顔を作ってホン・ファに語りかける。
「……今の日本は、どちらかというとフランクな対人関係を好む傾向があるから、あまり作法について厳しく考えすぎないほうがいいわ……。
 特にあなたたちの年頃の日本人は……うーん。
 なんていうのか、フランクっていうか、軽いの多いから……」
 シルヴィは荒野たちが通う学校の生徒たちの様子を思い浮かべながら、出来るっだけ分かりやすくなるよう、言葉を選んで説明する。
 立場からいっても、ホン・ファとユイ・リィには出来るだけ早くこの土地の環境に馴染んで貰いたい。
 そして、「おはようございます」の挨拶一つで平伏するような生徒は、現代の学生の中では明らかに、浮く。
 昨日、一日観察していたのだが……シルヴィの見立てによれば、ホン・ファとユイ・リィは厳格な躾を受けていたらしく、その年齢の割には、言動の端々が「堅い」。
 若いから順応するのも早いとは思うが……日本の、今時の若い者の「軽さ」の中にはいると、明らかに、「浮く」。
「そう……ですか……」
 シルヴィにそういわれたホン・ファは、二、三秒、目をぱちくりさせていたが、すぐに立ち上がり、
「おはようございます!」
 その場で、深々とお辞儀をして挨拶をやり直した。
 ……やっぱり、堅いなぁ……この子……。
 と、シルヴィは思う。
 その時になって、ユイ・リィが目を擦りながら起き上がる。
 そして、お辞儀をしているホン・ファとシルヴィを、不思議そうな顔をして、交互に見つめた。
「……あっ。
 起きていたんですか?」
 そんな時、パジャマ姿の梢が、居間に入ってきた。
「おはようございます。
 って、まだ本当に早いですけど……皆さん、どうします?」


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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(367)

第六章 「血と技」(367)

 茅の弱々しい制止にもかかわらず、荒野はまず自分の亀頭で茅の襞をかき分けて少しだけ侵入し、次いで、一気に体重をかけて最後まで貫いた。
 茅の反応もいつもより激しいくらいだったが、荒野の方も、実のところ、茅の身体に対する、ひりつくような渇望を覚えている。一刻一秒一瞬でも早く、茅の中に侵入したい、という欲求は、荒野の中でかなり切実になっていた。
 こん、と、茅の中に侵入した荒野の先端が壁に突き当たるまで一気に貫くと、茅は、
「……んっ! ぐぅっ!」
 と、鼻にかかった悲鳴に近い声をあげる。その時の茅の表情的には、眉間に皺を寄せ、苦悶に近かったが……声は、かなり湿った印象を与える。
 それ以上に……。
 荒野は、左右から茅の腰を両手でがっちりと掴み、少し持ち上げ気味にした姿勢で、貫いた時と同様の急激な動きで、自身が茅の中から完全に出てしまうまで引き抜く。
 と、膣口まで後退した荒野の分身の動きに合わせ、ずちゃっ、と水音をさせて茅の体液が周囲に散らばる。具体的いうと、臍まで捲れあがったスカートに、何もつけていない茅の白い肌……その中心にある結合部周辺の体毛が、水滴を含んで鈍く光を反射させていた。
 ……茅のそこの反応を見る限り、どうみても、茅も荒野が為すことを歓迎している。第一、茅はさっき一度登りつめたばかりであり、故に、いつもよりも敏感になっているのだろう……と、荒野は、今までの経験から、そう推測し……また、一気に最後まで茅を貫いた。
「……あっ!」
 とも、
「……がっ!」
 ともつかない音を喉の奥から絞り出し、茅は自分の頭を抱えて全身を振るわせる。
 茅の首と耳、それに顔がすっかり朱に染まっていた。
 今度はすぐに抜くことはせず、最後のどん詰まりまで押し入れた上体で、茅の中に入った先端を適当に揺らすように、腰を動かしてみる。
 すると、荒野のその動きに合わせて、茅の喉から、
「……あぁ……ぁぁぁっ……ぁあぁっ……」
 という嗚咽ににも似た呟き声が漏れはじめる。
「……茅……」
 この時の茅は、荒野に腰を抱えられているため、肩と頭部とをベッドに置いて、その接地面だけで体重を支えている不安定な姿勢だった。
「激しく動くのと、こうしているのと……どっちがいい?」
 荒野は声に出してそう聞いて、すぐさま、一気に膣口まで分身を引き抜く。
「……ひゃうっ!」
 という声を口から漏れた後、茅は口を閉じていやいやをするように、首を左右に振った。
 羞恥心と快楽を求める欲求とが、茅の中で微妙に葛藤しているらしい。
「正直にいわないと、ここで止めちゃうよ……」
 荒野は、再度そう聞いて、すっかり濡れて滑りがよくなった茅の入り口付近を、亀裂の入り口に自分の先端押し当てて、ゆっくり上下に揺らす。
 襞の合間に亀頭が隠れるか隠れない、という位置を保ったまま、しばらくゆっくりと動かしていると、茅はすぐに根をあげた。。
 目をきつく閉じたまま、茅は、ようやく聞き取れるくらいの小声で、
「……激しく……。
 激しくして欲しいの……」
 と囁く。
 茅の腰を持ち直して、荒野は、茅への責めを再開した。
 根元まで一気に貫いては膣口まで引き戻す、という動きを、素早く何度も繰り返す。
 茅は荒野の肩と首に両腕を回し、「……うわぁぅ、うわぁぅ……」と聞こえる声をあげて、荒野の耳元に熱い息を吹きかけた。
 息だけではなく、今では、茅の身体全体が、熱い。少なくとも、荒野が触れている部分は……。
 茅のせっぱ詰まった様子にも頓着せず、荒野は、そのままの体制で単純なピストン運動を繰り返す。出し入れするだけのシンプルな動きだったが、いや、それだからこそか、茅はまた急速に昇りはじめたようだった。
 動きの速さや激しさに任せただけの稚拙な動きだったが、その分、荒々しくもある。今までの行為を思い返してみて、茅とする時は、荒野もかなり優しく扱っている……つもりなので、かえってこういう荒々しい動きは、新鮮なのかも知れない。
 茅は荒野にしがみつきながら、荒野が動くたびに、
「……あぁっ!」
 とか、
「……ひゃっ!」
 とかいう可愛い声をたてている。
 それに、明らかに、激しく動いている部分の潤滑油も、以前より潤沢に分泌されているようだった。茅の腰を半ば持ち上げている激しい運動に勤しんでいる荒野の位置からは見えないが、結合部からあふれ出た透明な液体は荒野と茅の局部を濡らすだけではあきたらず、鼠径部を経由して尾骨までを濡らし、その先で幾筋かに別れていた。荒野の運動から受ける刺激を感受するのに夢中な茅も、まだその部分が濡れていることには気づいていない。体温が全般に上昇していて気づきにくい、ということもあるし、そんな些末なことまで気にしている精神的な余裕も、現状では、ない。
 荒野の方はといえば、茅からより激しい反応を引き出すために、せっせと単調な運動に勤しんでいる。茅の反応が普段にも増して激しいものだったから、励み甲斐がある。
 というか、これだけはっきりと身悶えしてくれると、その反応を見るだけで満足してしまうようなところがあって、荒野自身の性感は、かえって醒めがちである。これも、短期間に何人かの女性とつき合ったための「慣れ」なのか、それとも他の要因なのか、荒野自身にも判然としなかった。
 しかし、硬直を失わないまま冷静でいられる、という状態は、茅を悦ばせるためには都合がいい……とも、いえる。
 最初のうち、荒野の首にしがみついていた茅は、次第に腕に力が入らなくなってきたのか、今ではベッドの上に両腕を投げ出し、荒野に突かれるままになっている。
 突かれるたびに、身体をうち震わせる。
 荒野を迎えている部分が、先ほどから複雑な収縮活動をしていた。荒野の侵入している部分全体を、ぎゅうっ、と締め付けてくる。膣穴の直径が、一気に短縮したような感触だった。同時に、細かい襞の部分も、もぞもぞと複雑な動き方をしている。
『……また……茅の終わりが、近いのかな……』
 そうした反応を観測した荒野は、ぼんやりとそんなことを思った。
 荒野の射精感はまだまだ高まっていなかったが、ここでもう一度茅に登りつめて貰っても、いいのかも知れない……。
 何しろ、茅とは、今日と明日とでとんでもない回数をこなす約束をしている。その度に射精するより、何度か茅に余分に逝って貰った方が、いいような気がした。



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彼女はくノ一! 第六話(108)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(108)

 翌朝、この家の男性三人組の中で一番最初に目覚めたのは、やはり二宮舎人だった。もともと舎人は、たいていの一族の関係者がそうであるように、眠りが浅い。浅い、というよりは、どんなに深く眠っていても、周囲の気配や物音に反応して瞬時に目覚めることが出来る。出来なくては、急場の役には立たない。
 舎人は寝ている香也や現象を起こさないように、物音を立てないで素早く寝床から抜け出し、立ち上がり、そっと襖を開いて廊下の様子を伺う。
「……何やってんだ、お前ら……」
 やはり足音を忍ばせて玄関方向に向かっていたテン、ガク、ノリの姿を見いだした舎人は、小声で声をかける。舎人はトランクスにシャツだけの下着姿だったが、三人はすでに外出着に着替えていた。
「……何って……」
「……朝ご飯」
「……まだ、みんな寝ているし、雨降っているからいつものトレーニングも出来ないし……」
「だから、コンビニに寄って買い物してから、かのうこうやのところでご飯、食べるの」
 三人組は、小声で細切れに説明をしはじめる。
「……お前ら……」
 舎人は、荒野に少し同情したくなった。
「雨が降った朝は、いつもそんな感じなのか?」
「いつもじゃないよ、日曜日だけだよ」
 ノリが、パタパタと顔の前で平手を横に振る。
「日曜の朝は、スーパーヒーロータイムがあるから……」
 テンが、もっともらしい顔をして付け加えた。
「舎人のおじさん、ヒーロータイム知らない?
 ミコレンジャーとか……」
 ガクが、舎人に向かって尋ね返す。
 首だけ出していた舎人は、廊下に出てそっと襖を閉じた。
「……子供向けの特撮番組だろ?
 戦隊物っていえば、おれがガキの自分は土曜日の夕方にやっていたもんだが……」
 答えながら舎人は、会話内容の間抜けさに軽く目眩を覚えている。
「……改めて、聞く。
 つまりお前らは、日曜の朝、雨が降っていて外でトレーニングが出来ない時は、荒野のところにお邪魔して朝飯を食らっている……と、こういうことだな?」
 念のため、これらの会話はすべて小声で行われている。この家の住人たちは、未だ寝静まっているからだ。
 がたいのいい下着姿の舎人が、上体をかがめるようにしてテン、ガク、ノリとひそひそ囁き合っている様子は、珍しいといえば珍しい。事情を知らない第三者がみたら、「一体、どういうシュチュエーションだろう」と首を捻ること請け合いである。
「そういうことになるね」
 舎人の問いかけに、テンが頷く。
「日曜の朝は、真理さんもたいてい遅くまで寝ているし……特に今日は、お客さんも来ているし……」
「……おれは、荒野のやつに同情する……」
 舎人は、ため息混じりに先ほどの感想をあえて口にした。
「あいつも……なんだかんだいって、面倒見が良すぎるくらいだからなぁ……」
「……こんなところで、何をやっていますの?」
「……あれ?
 みなさん、早いですねぇ?」
 そんなことを話している間に、今度は孫子と楓が姿を現した。
「……早いもなにも、いつもなら、土手を走っている時間だろう?」
 舎人が片手を上げながら、楓に答える。
「……自然に起きないのは、現象くらいなものです……」
 さらに梢までもが、顔を出した。
 一族の者なら、例え睡眠中であっても、近くでこれほどの人数が集まって会話していれば、すぐにそれと分かる。警戒して然るべき……という意味だ。
 言外に、「現象は生粋の一族とはいえない」という含みを持たせた口調だった。
「あいつは、まあ……」
 舎人は、顎に手を当てて、顔を軽く顰める。
「……最近、急成長してきたとはいえ、基本的な心構えをすっ飛ばして、実用的な応用技ばかりを身につけているようなもんだからなぁ……。
 根っこのところで、緊張感が足りないんだよ……」
 それに……と、舎人は心中で付け加える。
 それに、このところ、現象は、周囲の者たちとの実力差を目の当たりにして、かなり焦りが出てきている。体術にせよ、知識の習得にせよ……かなりの詰め込み教育を、自分の意志で体力任せに遂行していた。
 多少、頑強に出来ているとはいっても……あれだけ張り詰めた生活を続けていれば、やはりどこかで無理が出る。
 現象が目を醒まさないのなら、しばらくそのままにして寝かせておこう……と、舎人は思っていた。
「居間の様子はどうだ?」
 今度は舎人が、梢に尋ねる。
「イザベラさんとジュリエッタさんは、遅くまで酒盛りをしていました。今も寝ています」
 早口に、梢は報告する。
「静流さんとシルヴィさんは、ご自分の意志で浅い睡眠を維持しています」
 いつでも起きることが出来るが、そのタイミングを見計らっている……ということだろう、と、舎人は梢の言葉を、そう解釈する。世間一般でいえば、今の時間は、まだまだ早朝。用事もない普通の人間は、まず起きていない時間だ。だから、あえて目を醒まさずに体力を温存している……ということなのだろう。
 梢も訓練を受けた佐久間であり、その程度のことは……近くに寝ている者の睡眠の深度くらいは、察知できるようだった。
「……で、そこの三人は、これから荒野のところで朝飯を食ってくる……って、ことだそうだが……」
 舎人は、今度は、梢、楓、孫子に尋ねた。
「お前らは、どうする?」
「わたしは、現象を見張らなければなりませんから……」
 最初に答えたのは、梢だった。
 だから、現象がここで寝ている限り、遠くに離れるわけにはいかない……ということらしい。
「わたしは……そうですね」
 楓の答えに、舎人は少し意表を突かれた。
「自分の部屋で、勉強でもしています。明日から、期末試験ですし……」
 期末試験……そういえば、こいつら、学生でもあるんだよな……。
「わたくしの場合、勉強に加えて、会社のデスクワークもあります。
 ええ。これでも、時間を持てあせるほど暇な身ではないのですわ……」
 孫子は、どこか自慢げな口調で答えた。



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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(366)

第六章 「血と技」(366)

 二人してもつれ合うよう玄関に入ると、傘を置くのももどかしい様子で、茅は、性急に荒野の首に両腕を回して口唇を求めてくる。荒野も茅の肩に腕を回し、茅の体を持ち上げるようにして、茅の体を部屋の内部に運んだ。
 その間も、茅は、荒野の口腔内を舌でむさぼることを止めない。茅の舌が唾液を撹拌しながら自分の歯茎を、舌を舐めまわしはいずりまわる感触に、荒野は短時間で高まってしまった。
 もともと、平日のこうした「深い接触」を禁じた荒野にして見ても、けっしてこうした行為が嫌なのではなく、逆に、茅相手だとしごく些細なことがとてつもない悦楽になってしまうからだった。相性がよすぎるというのか、どこかで線引きをしておかないとずぶずぶと際限なく溺れそうな、恐怖にも似た予感さえ覚えていた。
 今では、荒野も何人かの茅以外の女性を相手にしているわけだが、荒野が麻薬にも似た吸引力を感じる存在は茅だけであり、だからこそ荒野は、警戒を怠ればずぶずぶと耽溺し続けて日常生活に支障をきたすことも、ありえる……という、恐怖にも似た感情を抱いていた。
 しかし、どこかで求め合わなくては……定期的にガス抜き的な行為をしなければ、今度は欲求不満によって精神に不調を来すだろう……ということも、二人の間では、暗黙のうちに了解していて、だから、「学校がない日のみ」という現在の取り決めは、現実的な判断力で本能をねじ伏せた妥協案である……ということを、二人ともわきまえていた。

 茅も荒野の口の中をねぶりながら急速に高まって行くのか、荒野の首に回した腕にさらに力を込め、それどころか、スカートの裾が乱れ放題になるのにも構わず、両足まで荒野の腰に回し、ちょうど正面から向き合った状態で荒野が茅を抱っこしているような格好で荒野の口の中を蹂躙し続ける。荒野も茅の両股を手のひらで持ち上げ気味にしながら、寝室として使用している部屋へと移動する。
 二人とも火がついていたので、荒野のそこは固く充血けつしている状態だったし、そこに押し付けられている茅の下腹部も、急速に湿り気を帯びはじめているようだった。荒野が一歩歩くつどに接触しているそこが擦れるのか、熱くなった茅の鼻息が、荒野の歩調に合わせて、荒野の頬を叩いた。
 ベッドの傍らに到着すると、荒野は、二人の体をベッドの上に投げ出した。どうやら自分は、酷く渇えているらしい……と、荒野は、頭の片隅でぼんやりと思考する。たかだか数日間、茅とこうした接触していなかっただけで、茅の肌の感触に対する飢餓感が、予想していた以上に昂進していたことを自覚する。
 それまでの優しい交わり方とは打って変わった乱雑な動作で、荒野は、自分の首に回されていた茅の腕を振り払い、密着していた茅の身体から、身を離した。
 茅は、抗議するような、不満気な鼻声をあげたが、荒野がすぐにスカートをまくり上げて茅の下着に手をかけると、不安と期待の籠もった潤んだ瞳で荒野を見上げた。
「茅を……直接、味わいたい……」
 荒野はかすれた声でそんなことをいいながら、素早く、茅の下着を引き抜いて、股の間に自分の頭を割り込ませ、埋めた。
 そのまま鼻先を茅のくさむらの中に埋め、すでに湿り気を帯びはじめている茅の亀裂の中に舌を割り込ませる。
「……やっ! 駄目っ! 汚いのっ……」
 茅は、荒野の頭に手をついて、荒野の頭部をそこから引きはがそうとした。
 いつもの手順なら、荒野が茅の股間に触れるのは、風呂に入って清潔にしてからだ。
 外から帰ったままの状態で直接、そこに触られることは……ましてや、口や舌で愛撫されることは、茅にしてみれば抵抗がある。
「……あっ……。
 んっ……。
 んっ……」
 しかし、スカートの中にもぐりこんだ荒野の首を茅が両手で引きはがそうとしていたのは、ごく短い時間でしかなかった。
「……やっ!
 あっ! あっ!
 ……んんっ……」
 荒野の頭を引きはがそうと突っ張っていた茅の腕の力は、すぐに弱々しいものになった。
 荒野の舌がそこで動くたびに、茅の身体から力が抜けて行く。
 荒野の頭部が潜り込んでいるそこから、ぴちゃぴちゃと水音が大きく響く。
「……ん、あっ……。
 あっ。
 ……あっ。
 あーっ、あっー、あぁーっ!」
 いつしか、最初のうち、荒野の頭部を押し戻そうとしていた茅の腕から力が失われていた。それどころか、太腿で荒野の頭部をきつく挟みこみ、荒野の頭の上に掌を乗せて、荒野の鼻面を自分の股間に押しつける方向に引き戻そうとさえ、していた。
「……んっ、はぁっ。んっ、はぁっ。んっ、はぁっ……」
 荒野の舌が茅の秘裂をかき分けて内部にまで侵入し、熱を持ちはじめた茅自身の中を嬲りはじめると、茅は首を仰け反らせ、鼻息を荒くした。
 帰宅してからまださほど時間がたっていないのたっていないのにも関わらず、茅は、もうすっかり登りつめはじめている。
「……んっ。んっ。んんっ!」
 ほどなくして、茅は荒野の首を腿に挟んだまま、背筋をピンと反らせた状態で全身を硬直させ、ひときわ大きなせっぱ詰まった声を上げたかと思うと、ぐったりと全身から力を抜いた。
 一度、完全に登りつめてしまったらしい。
「……茅、おれ……」
 茅がベッドの上に身体を投げ出してぐったりしているのを確認すると、荒野はようやく茅の股間から顔を離し、もどかしげにベルトを解きはじめた。
「もう、我慢出来ないよ……」
 そういって荒野は一挙動で下着もろともパンツをずり降ろし、茅のスカートを大きくまくり上げた。
 まだ荒い息をついている茅は、気怠げな表情で荒野を観あげている。汗に濡れ、上気した顔に幾筋か髪がほつれて張り付いており、端正な茅のイメージに似つかわしくない様子が、荒野にしてみれば妙にエロチックに感じられた。
 今は抵抗する気力すらないのか、茅は、荒野が茅の太腿を大きく割って身体を割り込ませても荒い息をついているだけで、特に反応らしい反応を見せない。
「……んっ……」
 いきりたった荒野の分身が膣口の触れると、茅はようやく反応らしい反応をしめした。軽く目を細めて、小さく息を吐く。
「……ああっ。
 荒野……。
 ……今、いつもより敏感になっているから……」
 茅は小さな声でそういって、いやいやをするように、首を振った。



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彼女はくノ一! 第六話(107)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(107)

 湯上がりのジュリエッタ、ホン・ファ、ユイ・リィが居間にかえってきた。
 ホン・ファは楓の、ユイ・リィは三人組共用のパジャマを着用している。ジュリエッタは羽生のスウェットを着ていたが、日本人とは体格が異なり、やはり手足の丈が短く、手首や臑の肌が通常より多めに露出していた。
「……おフロ、よかったっー……。
 次は、お酒ねー……」
 とはいえ、ジュリエッタ本人は服のサイズなどにあまり頓着した様子もなく、居間に入るそうそう、真理に向かって邪気のない笑顔を向けた。
「……まだ……お飲みに……」
 真理は、目を丸くしてジュリエッタの顔をまじまじと見返した。
「お体の方は、その……」
 真理の目から見ても、湯上がりで上気したジュリエッタの顔は、いたって健康そうに見えた。ジュリエッタはこの居間にはいってからこっち、ホン・ファやユイ・リィの相手をしている間も含めて、ずうっーと飲み続けだった。
 にもかかわらず、飲み過ぎで体調を崩したり、悪酔いしている様子でもない……。
「……ええ。
 今、用意しますから……」
 真理はジュリエッタの顔色を確認した上で、いわゆる、「うわばみ」というやつらしい……と結論し、台所に足を向ける。
「いやいやいや」
 すかさず立ち上がったイザベラが、真理を手で制した。
「……もうすっかり片付けてしまっとるし、後はわしらで勝手にやりますけん、この家の方はごゆるりと休んでおってくだせぇ……」
 そういって真理の返事も待たず、イザベラは、軽やかな足取りで台所へと向かう。
「……ええ。
 そこにあるものは、お好きになさって結構ですから……」
 真理はそういって、羽生と一緒に風呂に向かった。
 ホン・ファとユイ・リィはといえば、そんなやりとりをしている横で、居間に入るなりどさりと布団の上に身を投げ出しピクリとも動かなくなった。
「げ、限界ですか……」
 そのまま寝息をたてはじめた二人の様子に真っ先に気づいたのは静流だった。主に聴覚で周辺の情報を得る静流は、心拍音や呼吸の変化であまり距離が開いていない人間の体調をある程度推察できる。静流の見立てによれば、先ほどのジュリエッタとの一件で二人の体力は払底している筈で……事実、ホン・ファとユイ・リィは、掛け布団の上につっぷしたまま、瞬時に熟睡している様だった。
 楓と梢が、慌てて二人の下から掛け布団を引きづりだし、二人の身体の上にかけた。
 そんなことをしている間にも、酒瓶とコップ二つを抱えたイザベラが台所から帰ってくる。
「……ほれほれ、ねーさん。
 この際、グッといきましょ。グっと……」
 などといいながら、イザベラはジュリエッタに手渡したコップになみなみと一升壜の中身を注ぎ込み、ついで、自分のコップにもめいっぱい注いだ。
「……日本の酒ば、お気に召しましたかいのぉ……」
「……おさけー。
 おいしぃー……」
 ジュリエッタは相好を崩してイザベラに答え、二人はお互いのコップを軽く打ち付けて、すぐにぐびぐびと喉を鳴らして飲みはじめた。
「……おいおい。
 お前ら、まだ飲むつもりかよ……」
 舎人がジュリエッタとイザベラの様子をみて、軽く眉を顰める。
「……ほんじゃあ、今夜のところは、おれたちも引き上げるか……。
 姉崎の。
 後のことは、お願いするぜ……」
 舎人は現象の頭に平手を置いて退出を即し、シルヴィの方に軽く合図をして立ち上がる。
 ジュリエッタ、ホン・ファ、ユイ・リィらがフロに入っている間に、香也のスケッチを元にした分析ミーティングも、だいたいのところ話題が出尽くしている。時間も時間だし、すぐ隣で酒盛りをしている横で、これ以上言葉だけを尽くしてもあまり意味がない……と、舎人は判断した。第一、分析の対象である三人は、まだ当分この土地に滞在するのであるから、これ以上の突っ込んだ部分は、当人たちに直接教えを乞えばいい。
 現象も舎人の判断に異存がないのか、数人の手元に散らばった香也のスケッチをかき集め、すぐに立ち上がった。
 そんな舎人と現象を、梢がなにか言いたげな表情で見上げる。
「……ま。
 この家では、こいつもおとなしくしているだろう……」
 舎人は梢が考えているであろうことを察して、現象の頭に乗せた掌で、現象の髪の毛をぐしゃぐしゃかき回した。
 もともと、梢も舎人も、現象のお目付役としてこの場にいる。
「……それとも心配なら、お前もこっちで寝るか?」
 それから、からかいを含んだ口調でそう付け加える。
「……遠慮しておきます」
 梢は、少しむっとした表情になって、答えた。
 今夜、この家に泊める男性は香也、現象、舎人の三名だけ。香也の部屋に押し込められるのは、当然といえば当然だった。

「……そんなわけで、迷惑だろうが、一晩お世話になる……」
 現象を伴って香也の部屋に入った舎人は、真っ先にそういって香也に頭を下げた。
 舎人の隣に座った現象も、慌てて頭をさげる。
「……んー……。
 別に、いいから……」
 舎人のような大男から頭を下げられた経験のない香也は、少し面食らいながらも、のんびりとした口調で返答する。そもそも、大の大人が香也のような少年に頭を下げるシュチュエーションなど滅多にないわけだが、この舎人という人は、必要とあれば誰にでも素直に頭を下げられる人なのだろうな……と、そんなことを考える。
 身体が大きい割に威圧感を感じないのは、そいう性格が雰囲気としてにじみ出ているせいかもしれない。
 たしかに、香也の部屋に三組の布団を敷いてしまうとかなり狭く感じてしまうのだが……そんなことは、実際の話し、香也はあまり気にしていない。
 さらにいうと、周囲に第三者の目がある間は同居人の少女たちから強引に迫られるということもなくなるので、香也としては、むしろ歓迎したい気分もあったりする。
 


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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(365)

第六章 「血と技」(365)

 ジュリエッタとホン・ファ、ユイ・リィによる酒肴も、一緒に風呂を使っている連中が居間に帰ってきたところでお開きということになった。のほほんと手酌のコップ酒を舐め続けているジュリエッタはともかく、長時間、絶え間なく動き続けていたホン・ファとユイ・リィの二人に関しては、すでに体力の限界に近づきつつある。足元がふらついている状態では、いくら二人が意地になっていても、それ以上はどうしようもない。いくら意欲があっても、ホン・ファとユイ・リィは、身体がついて行かない状態になっていた。
 ……まあ、頑張った方だよな……。
 無駄に終わった二人の努力に対して、荒野はそんな風に評価する。結果として、ジュリエッタに一矢報いようとする二人の行動は無駄な努力に終わってしまったわけだが、荒野の方はというと、この「酒肴」からいくつかの知見を仕入れることが出来た。
 ジュリエッタとホン・ファの体術は師匠であるフー・メイ譲りであり、「格闘戦のみ」に限定すれば、かなりの域に達している。条件を限定しさすれば、楓とだって互角にやり合えるかも知れない。
『……だけど……』
 楓も馬鹿ではないから、仮に機会があっても、よりによってこの二人に近接戦闘をすることは、まずないだろう。楓は、大局をみたり戦略的な判断力には欠けるものの、こと、戦術単位での思考となると、決して馬鹿ではない。相手にとって有利な条件をむざむざ設定するわけがないのだ。
 そして……。
『……ジュリエッタさんも……』
 昼間のフー・メイとの一件でも分かっていたことだが……ジュリエッタの方は、野性的な勘と体力、それに長年に渡って技を磨き培ってきた、熟練の武芸者だ……と、荒野は評価する。戦力、ということでいえば、一族でもトップクラスに入れも差し支えないレベルだった。
 この現代にそんな代物がなんの役に立つのか、と考えるのが現代的な常識というものだが、こと、一族がらみの案件になると、火器をはじめとする現代兵器があまり有効に活用できない局面も多く……ジュリエッタのような一流の武芸者が、荒野たちに友好的、協力的なポジションを取ってくれる……というのは、荒野にとってはかなり心強いことだった。
 人格的、性格的な、つまりメンタルな部分で癖は強そうだが……。
『……そこまで完璧を求めるのも……』
 虫が良すぎるよな……とも、荒野は思う。
 荒野の経験からいっても、基本的に、一族の連中は、熟練の術者になるほど、癖が強くなる。いいかえると、性格にいびつな部分が育ちがちであり……そうした癖の強い連中を渡り合い、あるいは騙し騙しでも使役するのが、現在と未来の、荒野の立ち位置なのだった。
 多少癖があっても、これから「悪餓鬼ども」という未知の存在に対応していこうというこの時期、強力な即戦力になりうるジュリエッタのような存在は、荒野としてみてもかなり歓迎したいところである。
 対して、ホン・ファとユイ・リィの方は……。
『……戦力としてみれば、準一級、くらいではあるんだけど……』
 いや。年齢のことを加味すると、つまり、同年配の他の一族と比較すると、二人とも、それなりに抜きんでた実力の持ち主といえるのだが……。
 やはり、人格的には、まだまだ未成熟であり……進んでなにがしかの仕事を頼みたい、とは、荒野は思わない。
『フー・メイさん……姉崎から預かった、客分……』
 シルヴィも承知しているようだし、そんな対応で、当面は問題ないだろう……と、荒野は、ホン・ファとユイ・リィに対する扱いに関して、心中でそう定義づける。ちょっと風変わりな留学生。他の連中といろいろ影響を与え合うのは結構なことだが、よほど苦しい立場に置かれない限り、「戦力」として助けを求めることはしまい……と。
 今日の新参者のうち、最後に残ったイザベラに関しては……それこそ、荒野は「放置」するつもりだ。
 実のところ、このイザベラが何を考えているのか……荒野には、理解しがたい。というより、理解したくない。目的が、分からない。
 興味本位の観光気分、という本人の主張はそれなりに筋が通っているようにも思えるが、荒野にしてみれば、現在のこの町が置かれた微妙さを承知し、いくら興味を引かれたといっても……世界で一番金持った国の巨大軍需企業オーナーのご令嬢、という社会的地位を投げうち、周到に準備して、長期間「ここ」に腰を据えるつもりで家出してきたジュリエッタという存在は……明らかに、異常、異質な存在であり……つまり、どのように扱っていいのか、判断に困っている。
 故に、荒野は、ジュリエッタに関しては、この時点では判断を保留していた。
 このまま何もなければ、荒野の方も何もしない。しかし、今後、ジュリエッタが意図的に荒野たちの邪魔をしたり敵対行動に出た場合は、躊躇なく排除するつもりだったし、それ以外にも、ジュリエッタの実家から身柄の引き渡しとか強制送還作業に協力を要求されたりしたら、喜んで協力するつもりだった。
 荒野にしてみれば、不確定な不安要素は、少なければ少ないほど、いい……のだった。

 ジュリエッタとホン・ファ、ユイ・リィが風呂場に向かったのを確認し、荒野と茅、それに三島の三人は、真理に傘を借りてマンションに引き上げる。
 どたばたしがちなのは毎度のことではあったが、今日は流石に……。
「……いろいろ、忙しない一日だったなぁ……」
 マンションに帰る途上、我知らず、荒野はぽつりと呟いていた。突発的なイベントだけなら、毎度のこと……なのだが、荒野は、今後の、長期的な影響までも含め、様々な要因を想定して想像力をたくましくしなければならない立場であり……今日のような、どう扱ってよいのか判断に困る新参者が同時に押し寄せてくると……いろいろなことを考えすぎて、気疲れをする。
「……お前さんも、苦労性だからなぁ……」
 若干、げんなりしている荒野の顔色を読んで、三島がそういってケラケラと笑い声をあげた。
「まあ、明日は日曜だし、今夜はゆっくりと休むんだな。ん?」
「……そうしたいのは、山々なんですけどね……」
 荒野は、真面目な顔をして三島に答える。
「月曜から、期末試験があるから……受験生としては、そっちの準備も真面目にしておきたいっす……」
「……妙なところで律儀だな、お前さん……」
 三島は荒野の顔をまじまじと見つめた後、そう呟いた。
「ま……。
 そういうのも、平和でいいといえば、いえるんだが……」

 エレベーターで三島とも別れ、二人きりになると、茅はすぐに荒野の背中に腕を回し、抱きついてくる。茅の行動を半ば予測していた荒野は、茅の肩を抱き寄せた。
 二人は、密着した状態で二人の家に向かう。



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彼女はくノ一! 第六話(106)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(106)

 テン、ガク、ノリ、それに、静流やシルヴィ、梢が風呂から上がってくるころには、相変わらず涼しい顔をしてコップ酒を傾け続けているジュリエッタとは対照的に、さんざ動き回っていたホン・ファ、ユイ・リィの二人は、すっかりバテバテになっていた。
「……で、終わった?」
「……どうなりましたか?」
 羽生と真理から借りたパジャマを着用したシルヴィと静流が、荒野に一連の結果を尋ねた。ただし、二人とも、あまり心配そうでもなく、どちらかというと興味本意な好奇心が勝った表情をしている。
「まあ、若い割には、動けていると思うけどね……」
 荒野は、肩を竦める。
「……ジュリエッタさんの方が年季が入っている分、この二人よりも、一枚も二枚も上手ってところかな……」
「ホンちゃんもユイちゃんも、もうかなり汗をかいているようだから、はやくお風呂にはいってらっしゃい」
 その場にへたり込んで動けないでいるホン・ファとユイ・リィに、真理が用意してきたバスタオルとパジャマを手渡した。同じような年頃の少女が多数、同居している関係上、適当なサイズの着替えには事欠かない。
「……立てますか?」
 それを潮時とみたのか、楓が、ホン・ファの脇の下に腕をいれ、肩を抱えるようにして、立たせ、居間を出て風呂場に向かう。
 孫子も、楓に倣ってユイ・リィを抱き起こし、引きずるようにして楓たちの後を追った。
「……ニッポンのおフロねー……」
 ぐったりして歩くのさえ大儀そうに見えるホン・ファとユイ・リィとは違い、相変わらず上機嫌のジュリエッタも、歌うような節回しで鼻歌交じりにそういって、軽い足取りで四人の後を追う。
「……ジュリエッタさんの着替え、羽生さんので大丈夫かしら?」
 真理が、羽生の顔を覗き込んで、そう漏らす。
「身長的には、大丈夫だと思うけど……ガイジンさんだから、袖とか下とかが、つんつるてんになるかも知れないっすね……」
 そんな風に答えながらも、羽生は自分の部屋に着替えを取りに行く。背丈だけを比べれば、ジュリエッタよりも羽生の方が、多少、高いくらいだった。仮に不都合があるにしても、一晩だけのことだから、多少のことは我慢して貰うことにしよう。
「……そろそろ、お開きかな?」
 荒野は立ち上がって、炬燵の上に残っていた食器を片付けはじめる。茅もすぐ、それに倣った。
 が、……。
「……あっ。
 片付け、いいや……」
 荒野と茅の動きを、舎人が留めた。
「……それ、おれたちがやるわ。
 どうせ、泊めて貰うわけだし……そんくらいは、やらせて貰わないとな……」
 舎人のいう「おれたち」とは、舎人自身と佐久間現象、梢の三人のことらしい。
 舎人が目線で合図すると、風呂上がりの梢がまずその意図を察して動きだし、その梢はすぐに動こうとはしなかった現象の腕を半ば強引に引っ張って立たせて手伝わせる。
「……もう遅い時間だし、わたしらもお暇するか? ん?」
 三島も頃合いとみて、荒野たちにそう即し、荒野と茅は素直に三島に従って玄関へと向かった。真理は、香也たちに向かって「お客さん用の布団を出すように」と指示を出してから、隣のマンションに帰っていく三人を玄関まで見送る。
 外はまだ土砂降りだったので、真理は玄関に置いてある傘を三人に渡し、三人は傘を差してマンションに帰っていった。

 二組の布団を香也の部屋に運び入れ、それ以外の布団を、炬燵を片づけた居間に用意し終える頃には、舎人や現象たちの食器洗いも完了していた。
 研究熱心な現象が居間一面に広がった布団の上に座り込んで、早速、先ほど香也がしたためていたスケッチを取りだして検分しはじめると、すぐにテン、ガク、ノリの三人が、現象の手元を覗き込む。
 気を散らしたくない現象は、一瞥したスケッチをすぐに三人に渡しはじめた。もともと、茅と同等、完璧な記憶力を持つ現象は、一度しっかりスキャンしさえすれば、後で、頭の中で、何度でも内容を子細に検討出来る。
 テンも茅や現象と同じ記憶力の持ち主だったが、黙って観て隣にいる人間に手渡すだけの現象とは違い、香也のスケッチを広げて、ガクやノリと一緒に、その場で意見交換をし始めた。これまで一緒に育ってきたこの三人は、何かしら懸念事項があると、すぐにディスカッションを開始する性癖がある。また、昼間、ホン・ファとユイ・リィに歯が立たなかったこともあって、この三人は、新参のあの二人の体術に対する関心も共通して持っていた。
 三人が香也のスケッチを元に、具体的な対応策まで含めてあーでもないこーでもないと言い合いをはじめると、楓や孫子、シルヴィや静流までもがこの輪に近寄って成り行きを見守りはじめる。舎人と梢は、少し離れた場所に座り込んで、話しを効いている風だった。こうしたやりとりに興味を持てない香也は、布団を用意し終わった時点で、そうそうに自室に引き上げている。
 もっとも、テン、ガク、ノリの三人組とは違い、後の年長者たちは活発に発言するということもなく、三人の囀りに耳を傾け、何かしら聞かれたことに答えるだけだったが。
 三人が意見を求めたのは、具体的にいうと、楓と舎人の二人に対して、だった。最強の弟子である楓と、アジア方面での実戦経験が豊富な舎人に尋ねるのは、順当だといえよう。
「……戦わないようにします。
 できるだけ、逃げます」
 ホン・ファとユイ・リィ、あるいは、フー・メイと敵対することになったら、どう対処するのか……と問われた楓は、躊躇いもせずそう答えた。
「常識的な判断だな」
 舎人も、もっともらしい顔をして頷いて見せた。
「フー・メイとか最強とか荒野だとかが相手だったら、おれでも真っ先に逃げるね。
 それこそ、脇目も振らずに……」
 つい先日、正面から荒野と対峙した筈の舎人は、しれっとした顔でそう答えた。
 ……どうしても、逃げられない局面だったら……と、重ねて尋ねられると、楓は少し考えて、
「……距離を取って、投擲武器を使いつつ、やはり逃走を試みる……でしょうか?」
 と答えて、首を少し傾けた。
「俗にいう、ヒット・アンド・アウェイ……。
 常道、ですわね……」
 楓の言葉に、今度は孫子が頷く。
「……決定的な打撃力を欠く場合、可能な限り安全な距離を置いて、相手の消耗を図る。
 近接戦や格闘戦が得意な相手に、無理に合わせて不利な状況を招くよりは……より勝ちやすい状況を引き寄せようとする方が、いくらかはましですわ……」
「攻撃とは、嫌がらせ……か……」
 少し思案顔になったテンが、その答えに頷く。
 楓とか荒野の強さは……筋力とか技のキレとか、そんな単純な要素に還元できるものだけではなく……置かれた状況に応じて、柔軟に対応できる、という点なのではないか……と、テンは考えはじめている。
 


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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(364)

第六章 「血と技」(364)

 元々その場からほとんど動くことがなかったジュリエッタは、ホン・ファとユイ・リィを完全に翻弄していた。ジュリエッタはその場に根を生やしたかのようにどっしりと居座り、目まぐるしく周囲を駆け回っては不意を突こうとするホン・ファとユイ・リィの動きを完全に把握し、ゆったりとさえ見える、余裕に満ちた挙動で機先を制し続ける。
 具体的にいうと、ホン・ファとユイ・リィによる攻撃は、手足による打突がメインになるわけだが、そうして繰り出された手足を、
「ほい」
 とか、
「はい」
 とか気の抜ける合いの手を入れながら、軽々とすくい上げたりする。
 そのたびに、ホン・ファとユイ・リィは、面白いように姿勢を崩し、動きを読んで待ちかまえていた楓、荒野、舎人のいずれかに抱えられ、あやうく転倒するところを免れる。
 二人が派手に姿勢を崩す度に、完全に見物に回っていた真理、羽生、三島の三人が、
「……おおっー……」
 とか、感嘆の声をあげ、ぱちぱちと手を打つ。
 緩慢で隙が多いゆおうに見えるジュリエッタの動きによって、きびきびとシャープに動いているように見えるホン・ファとユイ・リィの両名の体は、面白いほどに宙に舞った。
 ホン・ファとユイ・リィにとっては、二人掛かりでもジュリエッタ一人にいいように翻弄されている今の事態は屈辱以外のなにものでもないのだが、真理、羽生、三島らの三人にとっては、完全に酒の席でのよい余興だった。
 なにより、二人の体が浮き上がったりこけたりする様子は、第三者の目にはダイナミックな動きのパフォーマンスに見えたし、それに、三人の周囲を取り囲んだ楓と荒野、舎人の三人が、延々とコケ続ける二人の行先にいちいち先回りして抱きとめていたので、怪我、それに室内の内装や家具が破損することを心配する必要がなかった。
 楓と荒野、舎人の三人は、どうした加減か、ホン・ファとユイ・リィが転ける先に、必ず誰かしらが先回りをしており、二人が派手な転倒をするたびに、受け止め、助け上げている。
『……こいつら……』
 と、現象は、半ば本気で呆れた。
 楓と荒野、舎人の三人は、ホン・ファ、ユィ・リィ、ジュリエッタの動きと動線をある程度先読みし、二人が弾き飛ばされる可能性が高い地点にあらかじめ移動している……ということに気づいた現象は、内心で歯噛みしている。
 実戦経験が少ない現在の現象には、とうていできない芸当だった。
 現象も、自分の身体能力については、かなり客観的に把握している。テン、ガク、ノリの三人、それに茅とともに詳細な測定を行ったばかりだ。それに、毎朝の河川敷でのトレーニングで、一族の平均的な能力というのも把握している……つもりだった。
 瞬発力や筋力など、数値的な値のみを取り出してみれば、現象は、一族の平均値を遙かに超えている。かなり割り引いて判断してみても、そう思える。
 しかし……。
『……本気で、こいつらとやりあったとしたら……』
 現象は、楓にも荒野にも舎人にも、勝てないだろうな……と、本気でそう思う。
 とっさの判断までを含めた現在の現象の「実戦能力」は、楓や荒野、舎人などには到底及ばず、もちろん、その下のテン、ガク、ノリよりも遙かに下……。
『下手をすれば……あいつらと、同レベル……か……』 
 朝、舎人に「遊び相手」として紹介された、高橋君や太介の顔を、現象は思い浮かべる。
 困ったことに……その二人を現象にあてがった舎人の判断は、現象の目から見てもさほど誤ったものに思えなかった。
 今までの経験からいっても、能力的には自分には到底及ばないはずの、他の一族の者たちらも、現象はいいように玩具にされている……という現実がある。
 今の自分に、圧倒的に足りていないものは……と、現象は、思う……戦うためのノウハウと、判断力だ、と。経験が圧倒的に不足しているために、有り余る身体能力を十全に生かし切れていない……と。
『……ならば……』
 とも、現象は結論づける。
『今は……』
 その、最低の地点から、自分を鍛えなおせばいい……。
 幸い、そのために必要な環境下に、自分はいる……と。

 師匠にあたるフー・メイほどには精神修養のできていないホン・ファとユイ・リィは、ここまでの実力差を見せつけられたことですっかり頭に血が昇っており、もはや真理ら三人のギャラリーたちの反応は意識にさえのぼっていない。
 二人の意識は、もはや、「ジュリエッタをいかにして攻略するのか」というただ一点に集中しており、元々鋭かった動きも、さらに機敏なものとなていく。
 ……その割には、相変わらず、二人の攻撃の矛先は、目標に届く前に、当のジュリエッタによりやんわりと潰されしまうのだが。

 そうこうするうちに、やがて、風呂から上がった香也が居間に戻ってきた。
 香也は、そこで居間の中央に座り込んで手酌でコップ酒をグビグビあおっているジュリエッタ、その周囲を飛び跳ねながら時折襲撃を試みてはあえなく返り討ちの憂き目にあっているホン・ファとユイ・リィ、さらにその外側に楓、荒野、舎人がおり、ジュリエッタに弾き飛ばされるホン・ファとユイ・リィを、そのたびに受け止めて抱え起こしている……という風景を目撃することになる。
 香也は、居間で起こっている騒動に対しても、少なくとも外見上は驚いた様子を見せず、即座に部屋の隅に押しのけられた炬燵に入ってスケッチブックを開く。
 香也にしてみれば、昼間の続き、といった感覚なのだろう。
 どっしりと座り込んで一人で酒盛りをしているジュリエッタはともかく、ホン・ファとユイ・リィの動きは、香也には、昼間のフー・メイの動きと相似しているようにみえた。しかも、フー・メイほどの鋭さがないから、目を凝らせば香也の目でも、なんとか動きを追える……ような、気がする。
『……まぁ……』
 まずは、実際にカタチにしてみることだな、と香也は思い、無言のままスケッチブックの紙の上に鉛筆を走らせはじめる。
 すると、それまで成り行きを見守っていた現象が香也の手元を覗き込んで、
「……ここは、こういう格好……」
 とか、香也の目が追いきれなかった二人の動きを、自分でスケッチブックの紙の上に再現してみせる。
 流石に香也よりは、現象の方が二人の動きを正確に把握しているようだった。また、茅やテンと同程度の学習能力を持つ現象は、簡単な人体のデッサン程度はその場で描写できるようになっていた。簡単なデッサン、とはいうのはたやすいが、現在、ジュリエッタ、ホン・ファ、ユイ・リィらの三人が行っているような日常の場ではまずお目にかからないポーズを、人体の各パーツを正確な比率を損なわないで紙の上に再現する、ということはそれなりのスキルが必要となることは、香也が一番よく理解している。
 さらさらと手慣れた様子で香也の目が追いきれない動きを紙の上に再現してみせる現象の手元をみながら、香也は、現象が少なからぬ時間を絵の練習に当てていることを悟った。




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