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彼女はくノ一! 第六話 (114)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(114)

 実際に教えてみると、香也は決して物覚えが悪い方ではない。逆に、物覚えがいい、とも断言できなかったが、時間をかければかけただけの成果や手応えは、今まで香也の勉強につき合ってきた楓も感じていた。
 香也は、今までさぼっていた分が債務としてのしかかっているために成績が悪いだけであり、決して、理解力や記憶力が一般の基準より劣っているわけではない。その債務も、ここ最近の楓や孫子の努力と協力によって、かなり挽回している。
 楓が見るところでは、現在の香也の成績は、は、以前の「下の中」くらいから「中の中」くらいにまで、持ち直している。
 とはいえ、これはあくまで楓個人の観測であるからあまり正確な評価とはいえず、そういう意味でも香也の「仕上がり具合」を数字で評価してくれる期末試験の結果は、楓にとっても興味があった。
 このような時の試験結果は、香也本人だけでなく、香也を教えている楓や孫子への評価にも繋がる。
「……そういうわけで……」
 などということを一通り、香也に説明してから、楓は今日の勉強を開始する。
「頑張ってくれると、嬉しいです」
「……んー……」
 香也は、相変わらず覇気に欠けた声を出して答えた。
「やっては、みるけど……」
 結果は保証しないしできない、というわけだった。

「……これが、教科書か……」
 現象が、少し離れて教科書をパラパラとめくっている。
「……ふん。
 知っていることしか載ってないので、つまらん……」
「……へー……」
 いかにも詰まらなさそうな顔の現象とは対照的に、梢の方は、興味津々で教材をチェックしている。
「……一般人の学校って、こういう教え方をするんですか……」
「一般人の、って……」
 梢の発言を受けて、舎人は、少し呆れた表情になる。
「梢。
 お前も、普通の学校に通っていないクチか?」
 楓がそうであったように、一族の中では、一般人に紛れて普通に教育を受ける……というのは、必ずしも「当然」ではない。
「佐久間は特別ですし……その中でも、記憶力に秀でた者は、一般人向けのカリキュラムは……退屈で不合理で無駄なだけです」
 梢は、特に自慢する風でもなく、淡々とした口調で答える。
「むしろ……際限なく頭の中に入ってくる情報を、どう捌き活用するのか……という方法を学ぶ方が、より切実な問題なので……」
「……幼少時から、何も忘れない……というのも……これで、案外不便なもんなんだぜ……」
 にっ、と、現象が、口の端を歪める。
「……特に、身体が出来上がるまでは、知っていることと、出来ることの乖離がひどい。
 言葉の意味は知っているし、語彙はどんどん増えていく。しかし、口が回らなくて自分の意志をうまく伝えられないもどかしさ、とか……」
「……それに、まともに歩けるようになるまでが、とっても長かったですね……。
 歩けるようになってからは、かなりストレスも減りましたけど……」
 梢が、思案顔で現象の言葉を引き取る。
「……おま……」
 舎人は、一度何かを言いかけて、数秒絶句した。
「……それは、何か?
 お前ら佐久間は、はいはいしているような時分の記憶も持っている……って、いうのか?」
「佐久間に限らず……」
 舎人の反応に、現象は、素っ気ない口調で応じる。
「……赤ん坊の頃を覚えているやつは、意外に多いぞ。
 時分が生まれる時の記憶を持っている……と称するヤツらもいるしな。
 記憶力に優れているだけでは、自慢にもならん……」
「そうですね……」
 梢が、英語の教科書のページをパラパラと弄びながら、話す。
「……例えば、語学です。
 単語や文法の知識を得ただけでは、会話一つ成立しません。
 知識に加えて、書いたりしゃべったりする技能を身につけなければならないわけで……。
 そっちの訓練は、記憶力よりも運動野の訓練が物をいいます。
 そういう場合、一番モノをいうのは、結局単純な反復練習になります……」
「……発音したり手を動かすのが、効果的……ということですね」
 楓が、梢の言葉に頷き、香也の方に向き直った。
「そういうわけで、まずは英語から。
 いつもと同じように、単語の書き取りと音読を……」

 香也と楓がそれなりの真剣さで勉学に励んでいる横で、現象と梢は、二人が使っていない教科書に目を通していた。
 いい機会なので、目を通して、これから通う学校のカリキュラムを、一通り把握してしまおう……と、二人は考えている。この二人にとっては、「ざっと黙読する」のと「記憶する」ということが、ほぼ等しい。
 ただ、教科書を諳んじさえすれば完璧……というわけでもなく、現象は、英語辞書の発音記号と楓の発音とを、熱心に比較していた。
 普通の学校も、一族の教育カリキュラムとも無縁に過ごしてきた現象は、大半の知識を母親の口伝と独学での学習に頼ってきていた。
 当然、欠落している部分も多く、「活きた語学」は、その代表的な一例である。楓の発音はかなり「きれい」な部類に入り、現象が参考にするのには、うってつけの「教材」では、ある。
 楓が教科書の内容を音読し、香也がそれに唱和する。現象も、小声でぶつぶつと唱和する……という光景をみた梢と舎人は、しばし顔を見合わせ、どちらからともなく嘆息した。
「……いろいろ、苦労しそうだなぁ……。
 あいつも、お前も……」
「……現象の苦労は、あいつ自身が一般人の生活に溶け込むための苦労。
 わたしの苦労は、あいつの歪んでいるところをフォローするための苦労です……」
 何気に、容赦がない梢だった。
「……別に、お前さんがフォローしなければならない、って法もなかろう……」
「……フォローしないと……現象には、うまく適応して貰わないと……」
 こっちが目立ってしょうがないんです……と、梢は舎人に訴える。
 この二人は、春から揃って香也たちと同じ学校に通う予定だった。
 同じ学年に、同時に、同姓の転入生が二名、来たら……それだけで、目立つ。梢としては、新学期がはじまるまでに、現象には最低限の「常識」を身につけていて欲しかった。


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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(372)

第六章 「血と技」(372)

「……つまり、茅は……」
 荒野は、少し狼狽しながらも、言葉を続ける。
「……おれがこの土地を離れることに、反対なんだな?」
「反対なの」
 茅の返答は、明瞭だった。
「荒野は、リーダー。
 いざという時に、みんなをまとめてくれる人は、必要なの。
 荒野以外の人には、無理なの」
 もっと感情的な……例えば、「茅が荒野と離れたくない」などの理由を想像していた荒野は、内心で虚を突かれた気分になった。
「……一族の人たちの大半……それに、才賀とかに……的確な指示を行えるのは、荒野だけなの。
 影響力的にも、能力的にも……」
 続けて、茅は、自分では判断力と影響力が不足している。
 仮に、茅が管制を行ったととしても、癖の強い一族の者たちが必ずしたがってくれるという保証はない。
 また、少し前の竜斎の件でも明らかになったように、茅では的確な陣頭指揮は望めない。
 才賀の家でそれなりの教育を受けて来た孫子なら、能力的には、茅よりはずっとマシな筈だったが、一族の者が部外者の孫子に従うとは限らない。
 楓は、前線では実力を発揮できるが、指揮の適性はない。
 静流は、野呂の者には絶大な影響力があるのだろうが、野呂以外の者はその限りではない。
 ……つまり、ここに集まって来た連中の実力を最大限に発揮できる人材は、荒野しかいない……と、茅は断言した。
 現在は、いつ、どこで襲われるのか分からない状況であり……。
「……だから、茅たちがここにいる限り、荒野はここを離れてはいけないの……」
 と、茅は続ける。
「……このような時に必要なのは、居合わせた人たちをまとめ、集団としての力を引き出すことができる人。
 特に、個体としての能力で負けている相手の場合、数の力で対抗するしか方法がない。
 そのために、荒野は必要不可欠なの」
「……そういうの、柄じゃあないんだけどね……」
 荒野は、理路整然とした茅の言い分を聞いた後、苦笑いを浮かべる。
「……でもまあ、今の状況では、仕方がないのか……」
 少なくとも今の荒野は、茅へ反論する材料を思いつかない。
「……仕方がないの」
 茅は、頷く。
「……仮想敵の狙いは、おそらく、茅たち新種。
 茅たちがここにまとまっていれば、ここを狙うしかない。
 だから、仮想敵に対向するためには、荒野はここにいなればならない……。
 第一……」
 ……その仮想敵を探すのにしたって……本当に、荒野自身が出て行く必要があるのか?
 といった意味の質問を、続けて茅は、荒野にぶつけて見た。
「……荒野、そういう調査、得意?」
「……得意、ってわけでもないんだけれど……」
 改めてそう問われ、荒野は口ごもる。
 最強の弟子である荒野の一番のアドバンテージは、やはり荒事にある。
 細かい調査なども人並みにはこなせるつもりだが、得意、というほどでもない。少なくとも、一族の中には、荒野よりも巧妙にその手の業務を遂行する者が、ごろごろいることは確かだった。
「……なら、荒野自身が直接出向く必要はないの」
 明瞭な返答が出来ない荒野の様子をみて、茅は断言する。
「……もっと適性のある人材に仕事を割り振るのが、適切な処置……」
 茅は、あくまで荒野を「指示をする者」に仕立て上げたいようだったあ。
 また、現在の荒野の立ち位置からいっても、その判断は理に適っている……と、説明されてみれば、荒野自身も、認めざるを得ない。
「……しばらく、神輿、旗印……か……」
 荒野がぼつりと漏らす。
「……荒野は、本当に何かが起こるまで、どっしり構えていればいいの。下手に忙しそうにしていると、かえって動揺する人がいるの……」
 仮想敵について調べたいことがあるのなら……荒野自身が出て行くよりも、荒野が適切な能力の持ち主に依頼してやらせるべきだ……といった意味のことを、茅は述べた。
「……窮屈だけど、しかたがないか……」
「しかたがないの」
 荒野のぼやきを、茅が追認する。
「……例外的に、荒野がここを離れた方がいい場合、というのが……あるとすれば、それは、茅たち新種が、総出で一緒にここを離れる時なの」
「……新種が総出で、って……茅と、テン、ガク、ノリ……それに現象が、一緒にどこかに行くってことだろ?」
 荒野は、軽く首を捻る。
「……そういう可能性というのは……。
 うーん。
 どういう場合に、そうなるんだろう?
 ちょっと、思いつかないな……」
 ごく近い将来、ある理由でそうした面子がぞろぞろと総出で「外出」することになるのが……この時点での荒野には、そんなことは想像することが出来なかった。
「とにかく……」
 荒野は話しに区切りを入れるため、一人頷く。
「茅の反対理由、というのは、理解した。
 つまり茅は、おれ自身が動くのではなく、おれが他人を使う方が効率がいいしリスクも少ない、といいたいわけだな」
「と、いうより……」
 茅は、荒野の目をまともに見据える。
「今の状況で、荒野が一人で動くのは……とても、リスキーなの。
 茅たち新種が、現在、一族から有形無形のバックアップを受けていられるのは……荒野の存在が、あるから。
 荒野が後見人としていてくれるから、茅たち新種も、一族の保護下に……コントロールされている存在である、と見なされている。
 そこに、荒野が不用意に一人で動き出したら……」
「……おれに何かあったら……下手すると、茅たちと一族とが、分裂する……」
「可能性としては……こういうことも、充分ありえるの」
 今度は、茅が、頷く。
「今のところ沈静化している、テンたち三人の争奪戦がはじまったり……」
 充分に……ありそうだな……と、荒野は思う。
 ともあれ、「荒野がここにいる」というだけで、何種類もの安全弁の役割を果たしているのは、確実なようだった。


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彼女はくノ一! 第六話 (113)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(113)

 香也が目を醒ますと、すでに十時を回っていた。
 同じ部屋に寝ていた筈の二宮舎人の姿はなく、布団もその場に畳んでおいてあった。佐久間現象は、まだ寝ている。
 現象を起こさないように足音を忍ばせて、香也は部屋の外に出る。
「……あっ」
 と、まるで、待ちかまえていたかのように廊下にいた楓と鉢合わせになった。起きてからしばらく経過しているのか、楓はすでにパジャマから普段着に着替えている。
「……起きましたか。おはようございます。
 今起こしに行こうと思ったんですけど……あの、佐久間さん、現象さんは……」
「……寝ているようなら、叩き起こします」
 楓の後にいた梢が、楓の言葉を引き取る。
「……んー……」
 香也は、梢からなんとはなしに漂ってくる迫力に少し気圧されながらも、簡潔に答えた。
「……まだ、寝てる……」
 そして、逃げるような足取りで、洗面所を目指した。
 数秒もせずに、香也の部屋から「……よそ様の家でいつまで寝ていやがりますか……」うんぬん、という梢の声が聞こえた。
 一応、敬語だし、声もそんなに大きくなかったが、梢の声は不思議と良く響いた。

 香也が顔を洗っているところに、梢に引きずられるようにして、現象が姿を現す。
「……歯ブラシとかはこれ、使ってっ!」
 てきぱきとした挙動で、梢が現象に洗面道具を手渡した。
「早くご飯を食べてくれないと、いつまでも片付け出来ないからっ!」
 語調の強さに、香也は、まるで自分が怒られたかのように方を竦める。
「……んー……」
 梢の姿が完全に消えてから、香也は声をひそめて現象に尋ねてみた。
「……彼女、いつも、あんな感じ?」
 寝起きの、ぼんやりとした表情の現象は、無言のままこくこくと頷く。
 監視する者とされる者、という、梢と現象の関係をよく知らない香也は、なんとなく「……大変だなぁ……」と感心するだけだった。

「……あら、こーちゃん。
 みてみて。今朝は、シルヴィさんがポトフ作ってくださったのよ。
 それと、このジャム、テンちゃんたちのお手製なんだって……」
 居間に入るなり、香也は上機嫌の真理にそう声をかけられる。
「……それから、これからシルヴィさんたちと一緒にお買い物いってくるから、留守の方はお願いね。
 夕方には帰ると思うけど……」
 例によって、「……んー……」と生返事をしながら、香也は炬燵にはいって用意された朝食をざっと見渡す。
 ソーセージとタマネギ、皮を剥いたジャガイモが、ごろん、丸のまま入った煮物。ポテトサラダ。トースト。
 狩野家では滅多にパン食は出ないのだが……どうやら、今朝の朝食はシルヴィが用意してくれたものらしかった。
 そのシルヴィは、ホン・ファ、ユイ・リィらとともに、今にも外に出られる格好をしていた。真理も、上着を着用している。
「買い物」とはつまり、ホン・ファとユイ・リィに必要なものなのだろうなぁ……と、香也は漠然と思う。
「……静流さんは、わんちゃんのお散歩もあるからって、先にお帰りになりました……」
 ティーバックの紅茶を香也の前にさし出しながら、楓が説明する。
「……それから、隅に転がっているこの二人については、するっとスルーしておいてくださいね……」
 梢が、にこやかな笑顔を浮かべながら「部屋の隅」に追いやられていたまま寝ているジュリエッタとイザベラを指さす。この二人は、布団に入りながら熟睡している様子だった。
「……んー……」
 適当に返答をしながら、香也は、皿に盛られたジャムを適当にトーストに塗りたくり、一口、口にして……凍り付いた。
 ……甘い。
 非常に、甘い。
 それでも何とか咀嚼して、嚥下して……。
「……このジャム……」
 と、小声で楓に確認する。
「……テンちゃんと、ガクちゃんと、ノリちゃんが……いっぱい作ってきて……。
 台所にも、壜に詰めたものがまだまだいっぱいあって……」
 香也が甘いものが苦手であることを知っている楓は、精一杯、申し訳がなさそうな表情を作ってみせた。
「……お、おはよう、ございます……」
 ぎこちない挨拶をしながら、現象が居間に入ってくる。
 現象も、一族の関係者にならともかく、真理とかこの家の人びとにまで尊大な態度をとるつもりはないようだった。
「……それじゃあ、あとはよろしくお願いします……」
 現象と入れ替わりに、真理とシルヴィ、ホン・ファ、ユイ・リィが、車庫へと向かう。雨が降っていることもあり、おそらく、真理がワゴン車を出すのだろう。
「……羽生さんと才賀さんは、お仕事にいっています……」
 誰にともなく、楓が説明をする。
「……飲み物くらい、自分で用意してください」
 梢は、現象にティバッグとマグカップを差し出している。
 相変わらず、敬語で命令をしていた。
「……んー……。
 インスタントでも良かったら、コーヒーも、あるけど……」
 一応、この家の人間である香也が、フォローの言葉をいれる。
「……これでいい……」
 どこか諦観の入った表情で現象が頷き、自分の分の紅茶を用意しはじめる。
 ふと見ると、炬燵に入った舎人が、興味深そうな表情で一連のやりとりを見守っていた。
「……お食事が終わったら……」
 楓が、香也に話しかける。
「……明日から期末ですし、少し時間を多めにとって、お勉強、しましょうか……」
「……んー……。
 いいけど……」
 香也は、あっさりと頷く。
 決して積極的な生徒ではないが、楓なり孫子なりが時間を割いてつき合ってくれる時は、逃げることもない。


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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(371)

第六章 「血と技」(371)

 しばらくすると、テン、ガク、ノリの三人は徳川の工場に、ホン・ファとユイ・リィはシルヴィと買い物に行くために、マンションを退出していった。
 残された荒野は、黙々と期末試験のための勉強を続け、茅の方も、ノートパソコンを開いてなにやら作業を行っている。
 普段なら休日でも学校に行ってパソコン部の部員たちとともに何かしらの作業を行っているのだが、学校の方針で定期試験の前後は部活動は全面的に禁止されている。
 つまり、茅一人で登校してもまるで意味がない。ので、茅はこうして自宅で一人、作業を続けていた。荒野は非常に大雑把な部分しか聞かされていないし、把握していないのだが、今では茅は、パソコン部や放送部など、学校関連のシステム、ならびに、テン、ガク、ノリが進行している「シルバーガールズ」関連の制作に関与しており、その活動内容は極めて多岐にわたる。
『……今では、おれなんかより……』
 ……よっぽど、直接的な影響力は、大きいよな……とさえ、思う。
 荒野自身のことをいうのなら、その出自により、一族の関係者の中ではそれなりに顔がきく身ではあるが……学校では、多少風変わりで人目にたつ風貌の一生徒、というだけの存在である。
 少なくとも、荒野自身はそのように認識している。
 しかし茅は、今ではその能力をハレに憚ることもなく、縦横に活用している。また、茅の活躍によりもたらされたシステムは、現に稼働して生徒たちに使用されている。試験前の現在、学校のサーバに構築された学習ソフトを自宅で活用している生徒は、決して少なくはないだろう。
 もちろん、そうしたシステムすべてを茅が単独で構築したわけではないのだが、それでも、茅という存在がなかったら、実際に使用できるようになるまで、もっと時間がかかったのではないか?
 そうした茅と比較すると、荒野自身は……実際には、何ほどのこともしていないよな……と、思ってしまうのだった。
『……まあ……今、は……』
 考えても仕方がないことだし、目前の勉強に邁進することにしよう……と、荒野はテーブルの上に広げた教科書とノートに意識を戻す。
 幼少時から現実的な判断力を持つよう仕込まれた荒野は、抽象的な概念を弄ぶよりは目前の作業を処理する方が、よほど気が楽な性質の持ち主だった。そして今は、長期的な方針を練るよりは、明日からはじまる試験に備える方が、よっぽど現実的な時間の使い方である、と断言できた。

 それから荒野は、昼過ぎに茅に声をかけられるまで、勉強に没頭した。
 もともと荒野は、体力も気力も集中力も、人並み以上にある。茅のような記憶力さえ持たないものの、充分な時間と神経を集中できる環境さえ確保できれば、他の生徒たちよりは効率的に知識を吸収できるのだった。
 茅に肩を揺すぶられて意識の集中を解いた荒野は、そこではじめて勉強を開始してからかなりの時間が経過したことに気づいた。
 茅はそろそろ昼食の時間だと荒野に告げ、用意した料理を荒野の前に置いた。
 荒野は、すぐ側で茅が調理をしていたことにさえ気づかなかった。

 昼食が終わってからも午前中と同じようにして過ごし、夕方になってから、茅に無理矢理引っ張られるようにして、二人で買い物に行く。
 冷蔵庫の中身が乏しくなっていた、という現実的な問題もあったが、茅はテーブルから離れようとしない荒野に執拗に話しかけ、気分転換を兼ねて二人で買い物に出るよう、勧めた。荒野の方も、一度意識を集中しはじめると、なかなかそこから離れようとしない自分の性質について自覚もあったので、茅の勧めに従って二人で買い物に出ることに、同意する。
 茅の方にしてみれば、久しぶりに二人きりで過ごす時間なのに、荒野があまりにも茅のことを構わないため、それなりに不満を持っていたのかも知れなかったが。
 外は、朝から比べると少々雨足が弱くなっているとはいえ、相変わらずの雨模様だった。
『……こういう鬱陶しい天気は……』
 現象が現れた日を連想させるので、荒野は、あまり好きではない。何か、不吉なことが今にも起こりそうな気がしてくるのだ。
 そうはいっても、現実には、あの日のような騒動がそうそう起こるわけもなく、茅と二人で傘を差して商店街に向かう。二月も終わりに近づいたこの日、雨にしろ風にしろ、少し前まで感じていた、厳しい冷たさは伴っていない。冷たいことは冷たいが、その冷たさも、前よりは少し緩んでいるような気がする。
 ……一雨ごとに、春になり、か……と、荒野は、以前どこかで聞き及んできた文句を脳裏に浮かべた。
「そういえば、二人で買い物に出るのも久しぶりかも知れない……」
 肩を並べて歩きながら、荒野がそんなことを漏らすと、
「久しぶりなの」
 茅は、頷く。
「最近は、双子に荷物を持たせることが多いから……」
 茅の下校時に酒見姉妹が護衛につくようになってからこっち、買い出しの荷物持ちもその双子にやって貰うようになっていたから……確かに、荒野と茅が連れ立って買い物をする機会は、以前に比べればぐっと減ってきている。
 そうでなくとも、学校生活に慣れるに従って、茅も独自に動きはじめ、荒野とともに行動する時間がぐっと減ってきていた。
 そのこと自体は、荒野にしてみても、「良い傾向だ」と思ってはいたが、反面、一抹の寂しさも感じているのであった。
「……学校が、休みになったら……」
 ちょうどいい機会だから……と、荒野は、少し前から考えていたことを、茅に相談してみることにする。
「……おれ、少しここを離れて、例の悪餓鬼どものことを、いろいろ探ってみようかと思っている。
 もちろん、茅が反対をするなら、やめておくけど……今では、ここにもそれなりに頼りになる人が増えてきているし、おれ一人が離れても、大勢に影響はないと思う……」
 今までの例から見ても、「有事の際」に、都合良く荒野が茅の側にいられる確率は、さほど多くはない。多く見積もっても、せいぜい半々といったところか。
 荒野と楓くらいしかいなかった時と比べて、今では、大勢の一族の者たちがこの土地に来ていた。ここの術者を比較すれば、実力の差はそれなりにあったが……それでも、戦力の全体量を考えると、以前とは比較にならないくらい、増えている。
「……荒野がここを離れるのなら……」
 茅は、そういって荒野の袖を掴んだ。
「……茅も、荒野について行くの……」
 荒野は、思わず茅の顔を覗き込む。
 本気でそういっている、表情だった。
 ……それは、荒野にとって予想外の反応だった。
「それでは、意味がない」
 荒野は、軽くため息をつく。
「茅とおれが、一緒にここを離れたら……茅の守りが、極端に、薄くなる」
 茅の護衛に事欠かなくなったから……というのが、荒野が、「しばらくここを離れてもいい」と判断した「前提」である。
 また、そのことを察することが出来ない茅でもあるまい。


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彼女はくノ一! 第六話 (112)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(112)

 テン、ガク、ノリの三人と一緒にコンビニに行っていたホン・ファとユイ・リィは、三十分ほどで帰ってきた。気配を感知したシルヴィが玄関先に荷物を受け取りに出ると、少し遅れて楓もやってくる。
「……キッチン、使わせて貰っても構わない?」
 この家の住人、ということで、シルヴィは楓に確認する。
「構わない……と、思います。
真理さん、そういうのは、あまり気にしない人ですし……それに、真理さんの家事の負担が減ることは、いいことだと思いますし……」
 楓は、コンビニのロゴが入ったビニール袋を受け取りながら、即答した。
「……お手伝い、しましょうか?」
 これまでにも、三島や舎人が台所を使用していた例があるので、楓も、深く考える必要がなかった。
「……そうね、お願い」
 シルヴィも、あっさり頷く。
「そんなに凝ったものを作るつもりもないけど……」
 ホン・ファとユイ・リィは、三人と一緒に荒野たちのマンションへいくといって、シルヴィや楓に荷物を渡すと、すぐに玄関を出て行く。

「……しかし、まあ……」
 シルヴィと楓が台所で朝食の仕度をしている頃、居間では、舎人と静流、梢が炬燵に入っていた。
「……随分とおかしかことにはなっているよな、ここも……」
 舎人はそういって自分の顎を撫でている。
 つい数週間前の舎人なら、自分が野呂本家の直系とこうして炬燵を囲んでいる光景など、とうてい想像できなかっただろう。
「……いつの間にか、一族の溜まり場みたいなことになっているし……」
 そういって舎人は、梢の顔に視線を向ける。
 ……佐久間の実物をこうして拝める……というのも、この前までは、極めて現実味のない話しだった筈で……。
「……たまたま、前例がなかっただけです……」
 舎人の視線に何か、感じ取ることがあったのか、梢は平静な態度を崩さずに、静流のいれたお茶を啜る。
「……前例がなければ、作ればいいだけです……」
 荒野や楓と同世代である梢は、将来に対してあまり不安を抱いていないらしい。
「……若いってのは、いいねー……」
 そういって、舎人は肩を竦める。
 舎人は、まだ若いといっていい年齢ではあるが、危険な現場を知ってもいるため、まず「うまくいかなかった時のこと」を想定する癖がついていた。
 梢と舎人の心性の差は、年齢よりも現場経験の有無によるところが多い。
「……わ、若たちを、信じるだけです……」
 静かな、しかし、揺るぎのない口調で、静流は断言する。
「……こ、これだけ雑多な人たちが集まって……たいした摩擦もなく、なんとか、やっていけている……というのは……と、とてもいい……ことでは、ないでしょうか?」
 一口に一族、といっても、その内部は決して一様ではなく、混沌としている。
 現在、その多様な一族がこれほど一カ所に密集していながら、微妙な平衡状態を保っているのは、一族内のマジョリティである六主家のうち、ふたつ、二宮と野呂の本家筋がこの地に定住し、結果的に睨みを効かせているような効果を持っているから……でも、ある。
「……まあ、姫様自身が、こうして手ずからお茶も入れてくれますし……」
 さして恐縮もしていない様子で、舎人も答える。
 荒神と静流がいて……結果的に、荒野の方針を容認しているように見える……という事実は、一族の者たちに少なからぬ精神的安定感を与えていた。
「……多少、能力や文化が異なっていても、一族も一般人も、同じ人間です……」
 梢は、そういいきる。
「……時間をかけてお付き合いすれば、分かり合うことは出来ます……」
「悪意がある相手でも、か?」
 舎人は、梢の言葉尻を捉えた。
「一族以上の能力を持った相手が、本気でこっちを潰す気で向かってきても……そういえるのか?」
 平静な口調だったが、思いの外、真剣な目つきをしていた。
「……直接的な戦闘は、佐久間の領分ではありません」
 梢の返答は、ある意味ではとても巧妙だった。
「……さらにいうと、わたしに与えられた任務は現象の監視と暴走制御です。
 舎人さんと違って、与えられた任務以外の仕事を率先して引き受けるつもりもないですし、外敵との交戦に参加する予定もありません」
 同じ任務を与えられながら、現象の教化や教育に力を入れはじめている舎人の方針を、さりげなく皮肉っていた。
「……向こうさんも、攻撃対象を選んでくれるといいんだがね……」
 舎人はのんびりした口調で、梢の想定外のアクシデントが、今後、起こる可能性を示唆する。
「少なくとも荒野は、相手が無差別攻撃してくる可能性を考慮している。おれも、その可能性は、かなり大きいと考えている。
 一族とこの土地に住む一般人との関係に対して、効果的に被害を与えることができる攻撃方法だからだ……」
 時と相手を選ばない無差別攻撃が実際にはじまったとしたら……梢の思惑など関係がない……という指摘でもあった。
「……相手が何者であろうとも、自分の身くらいは、守れます」
 梢の返答は、簡潔なものだった。
「佐久間の技は、相手を選びません」
 その簡潔な口調の中に、静かな自信が満ちている。
「……わ、わたしは、怖いです……」
 静流は、梢とは対照的に、弱々しい声を出した。
「な、何を考えているのか分からない人とは……で、出来るだけ、喧嘩はしたくないです……」
 ……例えば、同じ戦場にこの二人が放り込まれたとしたら……どちらが生き残るのか、といったら、慎重な静流の方だろうな……と、舎人は考える。
 もちろん、そんな考えをそのまま口にするほど短慮でもなかったが。
 何しろ、目下のところ、梢は舎人と同居しているわけで……その同居人との関係を悪化させても、舎人には何の得にもならないのであった。
 ……ま……と、舎人は心中で考える。
 ……何度か挫折を経験すれば、それなりに謙虚な態度が身につくだろう。
 若いうちは、そのくらい鼻息が荒いくらいで、ちょうどいいのかも知れない。
「……今、何か失礼なことを考えませんでしたか?」
 梢が、舎人の顔を軽く睨んだ。
「……いいや。
 別に……」
 舎人は、「……読まれたかな?」と思いつつ、梢から目を逸らす。
 佐久間の者を相手にとぼけても、あまり意味はないのかも知れなかったが。


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[つづき]
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