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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(351)

第六章 「血と技」(351)

 その後も、ユイ・リィと香也の、噛み合っているようで微妙に噛み合っていない会話が、しばらく続く。
 ユイ・リィは、この場に紛れ込んでいる一般人らしい香也が、実のところ、一体、何者であるか、という興味を持ったらしく、しきりに香也に細々としたことを聞いていった。香也も、比較的に丁寧に、ユイ・リィの質問に答えていく。
 問答の内容よりも、香也がここまで初対面の人につき合っている、という状況に対して、荒野は興味を持つ。別に、香也が不親切だとはいわないが、どちらかというと、積極的に他人に関わるタイプではない。その香也が、それなりに辛抱強くつき合っている……というのは、やはり、ここ最近の変化、なのではないだろうか?
 そんなことを考えながら、荒野は、香也に二人のことを軽く紹介しながら、買い物を続けていく。

 茅から示されたリストの量は多かったが、三組に別れたおかげでそれほどあちこちを回る必要もなく、買い物自体はごく短時間で終了した。荒野たち四人は、たくさんの荷物を両手に抱えた状態で、集合場所である商店街の外れ、アーケードがとぎれる場所まで出る。品数はさほど多くはないが、一品あたりの量が多い……という状態だった。
 他の二組はまだ来ておらず、荒野たちが一番乗りだった。
『……静流さんたちにも、もう少し人数を分ければよかったかな……』
 他の組が遅れいているのを確認して、荒野は思う。
 ジュリエッタと静流はこれからしばらく同居するということもあり、出来るだけ早くうち解けるよう、二人きりにする機会を作ったわけだが……それが良い判断だったのかどうか、荒野は、ここに来て、自信が持てなくなった。
 荒野がそんなことを考えているうちに、楓と孫子、イザベラのグループが、やはり荒野たち同じく、かなり大量の荷物を抱えた状態で合流してきた。孫子が他の二人に少しきつい口調でなにやら話していて、二人の方は孫子の口撃に対しても怯むことなく、にこにこと笑いながら軽くいなしている……という感じだ。
『……あっちは……』
 そんなに問題ないかな……と、荒野は思う。
 イザベラは、物怖じしない性格らしく、加えて、かなり社交的でもあるらしい。
 その直後に、三島の車が車道からクラクションを鳴らして荒野たちに合図を送った。三島の車の後には、二宮舎人が運転するワゴン車もついてきており、そちらには、佐久間現象と梢が同乗している。
「……荒野。
 そのでかい荷物、後の車に乗っけろっ!」
 運転席の窓を開け、首を伸ばして三島は荒野に指示する。
「……見ての通り、こっちは満杯の状態だっつーの!」
 三島の言葉通り、助手席に茅、後部座席にテン、ガク、ノリの三人を乗せた三島の小型車の内部は、荒野の目からみても、かなり窮屈そうに感じた。
 荒野は大人しく三島の指示に従い、合流してきた連中にも声をかけ、荷物を舎人のワゴン車に運び入れる。こちらは三島の車とは対照的に、キャパシティが余っているような状態だった。
 舎人が荷台のドアを開けてくれたので、荒野たちはどさどさと食材が詰まったビニール袋を片っ端から置いておく。
 舎人は、助手席に座っていた現象に向かって、
「……うしろいって、荷物が転がらないように押さえてろ。
 どうせ、すぐそこだ……」
 と告げた後、窓から首を出して、
「……何人か一緒に、乗っていくかい?」
 と、荒野たちに声をかける。
「おれは……いいや。
 そんなに遠くないし……」
 荒野は首を横に振り、香也も、同じように断った。
 どのみち、毎日、通学のために行き来しているようなご近所でもある。
 重い荷物さえ抱えていなければ、歩くのを苦にするような道のりでもない。
 男性二人が首を振ったから、というわけでもないだろうが、他のみんなも舎人のワゴン車に乗るのを断った。
 三島は、荒野たちが車に乗らないのを確認すると、
「……それじゃあ、先にいって、下拵えでもしてるわ……」
 と言い残して発車させる。

 荒野たちが荷物を車に載せ終えるのと同時に、ジュリエッタと静流が大きな声で歓談しながら、アーケードの中からこちらにやってきた。いや。大きな声を出したり笑い声を上げたりしていたのは、ジュリエッタだけで、静流はもっぱら聞き役に回っているだけのようだったが、その代わり、荷物を抱えているのもジュリエッタ一人だった。ジュリエッタは、器用にも両手と、それに頭の上にも高々と荷物を小山のように積み上げ、悠然と陽気な声をあげながら歩いてくる。
 当然、その場に居合わせた買い物客たちも、ジュリエッタに注目していたが、ジュリエッタはそうした周囲の視線に、まるで頓着していないようだった。視覚に障害のある静流は、当然のことながら、そうした視線に気づいた様子もない。
『……不幸中の幸い、だな……』
 と、荒野は思う。
 同時に、静流の障害について、そのように考えることは不謹慎だ……とも、自覚したが。
 荒野たちはジュリエッタに近づき、荷物を受け取って舎人のワゴン車に放り込んだ。舎人は、静流とジュリエッタたちにも車に乗るよう、声をかけたが、ジュリエッタは荒野たちのように遠慮はせず、「OK!」と即答して後部座席に乗り込む。その時にジュリエッタが静流の腕を取って引っ張ったので、静流もジュリエッタの勢いに乗せられた形で、呼嵐とともにワゴン車の中に乗り込んだ。
 舎人がワゴン車を発車させるのと同時に、荒野たちもおしゃべりをしながら、ぶらぶらと歩きはじめた。
 残った面子は、年齢が近いこともあって、一度うち解けるとなかなか活発に話しをしはじめる。女性同士はともかく、いつもは聞き役に回ることが多い香也までもが、いつもよりも積極的に周囲に話しかけているのをみて、荒野は軽い驚きを憶えた。
「……んー……」
 例えば、帰り道で、香也は初対面に近いイザベラに話しかけた。
「……君も、あの、二刀流の人とか、拳法の人みたいに、何かできるの?」
「……一応、得意はあるんじゃがの……」
 イザベラは、快活な口調で返答した。
「……わしのは、まだまだあの二人の域にまでは、全然達しておらんでなぁ……。自慢げに触れ回るほどのもんでも、なかよ。
 一口に姉崎、いうても、内実はいろいろでの。むしろ、身体を使うのを不得手とするのが多いくらいじゃ……。
 あの二人ほど、荒事に特化したのも……姉崎の中では、むしろ、例外的なんじゃが……」




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HONなび

Comments

最近更新がないけど大丈夫です?
日課の小説が読めなくて心配です。
これからも応援しています。頑張ってください。

  • 2007/07/07(Sat) 20:54 
  • URL 
  • #-
  • [edit]

大丈夫っす。

明日の朝からは、従来通りのパターンでいきます。
その他にも、いろいろ準備だけはしている……。

  • 2007/07/08(Sun) 16:23 
  • URL 
  • 浦寧子 #-
  • [edit]

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