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彼女はくノ一! 第六話(105)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(105)

 手玉にとる……というのは、きっと、こういう状態のことをいうんだろうな……と、ジュリエッタ、ユイ・リィ、ホン・ファの三人の動きを見ながら、香也は心中でそう評した。
 ジュリエッタの周辺をぐるぐると巡って隙を伺うユイ・リィ、ホン・ファに比べ、ジュリエッタ自身はあまり動いていない印象を受ける。しかし、ユイ・リィ、ホン・ファが何事かを仕掛けると、ジュリエッタはそれを見越したかのような動きで、確実に反応、迎撃した。
 ……後ろに目がついているかのように、ジュリエッタは、四角から繰り出される二人の攻撃にも確実に対応、完全に機先を制して自分に向けられた攻撃が、ヒットする前に力を逸らす。
 ユイ・リィ、ホン・ファも馬鹿ではない。
 二人がかりでも連携も考慮し、フェイントも織り交ぜ、足を使って目まぐるしくジュリエッタの周囲を旋回、別方向からの同時攻撃なども再度試みているようだが、そのたびに、ジュリエッタに完全に防御される。
 香也の動態視力では、もちろん、三人が激突する際の詳細を詳しく知ることはできないのだが、無音のまま高速でぐるぐるとジュリエッタの周囲を巡っては、ジュリエッタにはじき返され、吹き飛ばされる様子は確認できる。
 ジュリエッタに弾かれた二人は、三人の周囲で待ちかまえている荒野、楓、舎人が体を受け止めて、派手な転倒と周囲への被害を未然に防いでいた。
 荒野たちは、どうやら、この家への被害を防ぐために、ジュリエッタ、ホン・ファ、ユイ・リィらの周りを囲い、待機しているらしい。
 ホン・ファ、ユイ・リィは、かなりの頻度でジュリエッタに弾き飛ばされたり転倒したりするので、外縁を守る荒野や三人の動きは、それなりにせわしないものとなっている。
 その甲斐、あってか、ホン・ファとユイ・リィの派手な動きにも関わらず、一連の運動は、ジュリエッタを中心とした、半径二メートルの範囲を超えることはなく、当然、家具などへの被害も皆無だった。
 炬燵などは、香也が居間に戻った時点で、壁際に押しつけられており、真理や羽生などは湯呑みを傾け、時折、声援やら歓声などをあげながら、一連の動きをのんびりと観戦している。二人とも、荒野や楓が家や家具に被害が出ないよう、見張っているのを知っているので、安心して興味のままに見物に徹することが出来るのだろう。
 憮然と呆然が複雑に混合した表情を浮かべているのは、佐久間現象だった。
 香也がそっと現象の顔に視線をやると、
「……気にしないでいいの。
 現象は、自分が到底及ばない領域の技を見せつけられて、不機嫌になっているだけ……」
 香也の表情から疑問を読みとった茅が、現象の心理を代弁して香也に説明してくれる。
 その声は、当然、現象の耳にも入ったので、現象の顔は、ますます不機嫌そうになったが、現象は特に反論するということもなく、への字型に結んだ口元に、さらに力がこもる。
 現象も、茅を相手にして反論したりする気はないようだった。
 ……この二人、いつの間に、こんなに親しく会話するようになったんだろう……と、香也は思ったが、やはり余計なことを何もいわずに絵を描くことに専念する。
 香也は、夜ごとにテン、ガク、ノリの三人が外出することは知っていたが、どこに行っているのかまでは知らされていなかったし、当然、茅も三人娘と一緒に、毎晩のように現象たちが住む家に通っていることも、知らなかった。
 そんなことをいいながらも、茅と現象は、三人の動きについて、時折、小声で意見を交換したりしていた。孫子も、二人の会話に自分の見解を挟んだりしている。
 香也は無言で手を動かしながら、すぐ横で行われている茅、現象、孫子たちの会話にも耳を傾けている。香也は、茅たちの会話のすべてを理解できるわけではなかったし、ジュリエッタ、ホン・ファ、ユイ・リィの動きをすべて見切れるわけでもなかったが、香也の知識と語彙で理解できる範囲内で会話を耳にし、香也の動態視力で見切れる範囲内で見切るだけでも、香也にとっては十分に刺激的な情報だった。
 香也のそれまでの人生では、このようなことを見聞する機会に恵まれなかったのだから、当然といえば当然だったのだが。

「……いい湯じゃったぁ……」
 借り物のパジャマを身につけ、まだ湿っている髪をタオルで拭いながら、イザベラが居間に入ってくる。
 彼女だけ早風呂なのか、一緒に入浴しに出て行った人たちは一緒ではなかった。
「……やっぱり、うまいもんじゃな……」
 香也の背中に身を乗り出すようにしてかがみ込み、イザベラは、香也の手元を覗き込む。
 孫子が警戒心を露わにした表情で、無言のままイザベラの顔を軽く睨むと、イザベラは苦笑いを浮かべながら香也から少し体を離した。
「……一般人で、ここまで目がついていければ、たいしたもんじゃ……」
 香也との距離を少し開けたイザベラが、香也の手元を指さしながら、そんなことをいう。
「……んー……」
 香也は、手を止めず、顔も上げずに、反射的に答えている。
「……あの二人の動きは、大きいから……」
 この時の香也は、「誰かと会話している」という意識も持っていない。
 香也の意識は半ば以上、描きかけの絵に集中しており、そう問いかけたのが誰なのかもろくに意識していないのだった。
「……フェイントもあるから、当然、動きも大きくなるのじゃろうのぉ……。
 あの二人だと、並の相手なら、最小限の動きでしとめられる筈なんじゃが……」
 イザベラは、香也の言葉に、したり顔で頷く。
「……このひと……」
 香也は、スケッチブックの紙面、ジュリエッタが描かれた部分を、こつこつと叩く。
「……ほとんど同じ場所にたっていて、くるくる回ったり、手を動かしているだけ。
 この人が、主導権を握っていると思う……」
 最小限の動きでホン・ファとユイ・リィの相手をしているジュリエッタの動きは、香也の動態視力でも、動きが追いやすい。
 その場からあまり動かずにくるくると旋回するジュリエッタの動きは、香也の目には、優雅なダンスか何かのように見えた。つまり、香也の目から見ても、ジュリエッタの動きに無駄がないのであろうことは、予測がついた。
「……二人も相当なもんじゃが、ぞれ以上にジュリエッタが抜きんでいるんじゃの……」
 イザベラも、香也の見解を裏付ける発言をする。
「……あの二人の師匠と互角だったわけじゃから、二人がかりで敵わなくても、不思議はないのじゃがのぉ……」
 



[つづき]
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HONなび

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  • 2007/12/01(Sat) 20:33 
  •  
  • #
  • [edit]

大丈夫ですか?

更新楽しみに待ってます。

  • 2007/12/11(Tue) 16:48 
  • URL 
  • コタロウ #JalddpaA
  • [edit]

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