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彼女はくノ一! 第六話(106)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(106)

 テン、ガク、ノリ、それに、静流やシルヴィ、梢が風呂から上がってくるころには、相変わらず涼しい顔をしてコップ酒を傾け続けているジュリエッタとは対照的に、さんざ動き回っていたホン・ファ、ユイ・リィの二人は、すっかりバテバテになっていた。
「……で、終わった?」
「……どうなりましたか?」
 羽生と真理から借りたパジャマを着用したシルヴィと静流が、荒野に一連の結果を尋ねた。ただし、二人とも、あまり心配そうでもなく、どちらかというと興味本意な好奇心が勝った表情をしている。
「まあ、若い割には、動けていると思うけどね……」
 荒野は、肩を竦める。
「……ジュリエッタさんの方が年季が入っている分、この二人よりも、一枚も二枚も上手ってところかな……」
「ホンちゃんもユイちゃんも、もうかなり汗をかいているようだから、はやくお風呂にはいってらっしゃい」
 その場にへたり込んで動けないでいるホン・ファとユイ・リィに、真理が用意してきたバスタオルとパジャマを手渡した。同じような年頃の少女が多数、同居している関係上、適当なサイズの着替えには事欠かない。
「……立てますか?」
 それを潮時とみたのか、楓が、ホン・ファの脇の下に腕をいれ、肩を抱えるようにして、立たせ、居間を出て風呂場に向かう。
 孫子も、楓に倣ってユイ・リィを抱き起こし、引きずるようにして楓たちの後を追った。
「……ニッポンのおフロねー……」
 ぐったりして歩くのさえ大儀そうに見えるホン・ファとユイ・リィとは違い、相変わらず上機嫌のジュリエッタも、歌うような節回しで鼻歌交じりにそういって、軽い足取りで四人の後を追う。
「……ジュリエッタさんの着替え、羽生さんので大丈夫かしら?」
 真理が、羽生の顔を覗き込んで、そう漏らす。
「身長的には、大丈夫だと思うけど……ガイジンさんだから、袖とか下とかが、つんつるてんになるかも知れないっすね……」
 そんな風に答えながらも、羽生は自分の部屋に着替えを取りに行く。背丈だけを比べれば、ジュリエッタよりも羽生の方が、多少、高いくらいだった。仮に不都合があるにしても、一晩だけのことだから、多少のことは我慢して貰うことにしよう。
「……そろそろ、お開きかな?」
 荒野は立ち上がって、炬燵の上に残っていた食器を片付けはじめる。茅もすぐ、それに倣った。
 が、……。
「……あっ。
 片付け、いいや……」
 荒野と茅の動きを、舎人が留めた。
「……それ、おれたちがやるわ。
 どうせ、泊めて貰うわけだし……そんくらいは、やらせて貰わないとな……」
 舎人のいう「おれたち」とは、舎人自身と佐久間現象、梢の三人のことらしい。
 舎人が目線で合図すると、風呂上がりの梢がまずその意図を察して動きだし、その梢はすぐに動こうとはしなかった現象の腕を半ば強引に引っ張って立たせて手伝わせる。
「……もう遅い時間だし、わたしらもお暇するか? ん?」
 三島も頃合いとみて、荒野たちにそう即し、荒野と茅は素直に三島に従って玄関へと向かった。真理は、香也たちに向かって「お客さん用の布団を出すように」と指示を出してから、隣のマンションに帰っていく三人を玄関まで見送る。
 外はまだ土砂降りだったので、真理は玄関に置いてある傘を三人に渡し、三人は傘を差してマンションに帰っていった。

 二組の布団を香也の部屋に運び入れ、それ以外の布団を、炬燵を片づけた居間に用意し終える頃には、舎人や現象たちの食器洗いも完了していた。
 研究熱心な現象が居間一面に広がった布団の上に座り込んで、早速、先ほど香也がしたためていたスケッチを取りだして検分しはじめると、すぐにテン、ガク、ノリの三人が、現象の手元を覗き込む。
 気を散らしたくない現象は、一瞥したスケッチをすぐに三人に渡しはじめた。もともと、茅と同等、完璧な記憶力を持つ現象は、一度しっかりスキャンしさえすれば、後で、頭の中で、何度でも内容を子細に検討出来る。
 テンも茅や現象と同じ記憶力の持ち主だったが、黙って観て隣にいる人間に手渡すだけの現象とは違い、香也のスケッチを広げて、ガクやノリと一緒に、その場で意見交換をし始めた。これまで一緒に育ってきたこの三人は、何かしら懸念事項があると、すぐにディスカッションを開始する性癖がある。また、昼間、ホン・ファとユイ・リィに歯が立たなかったこともあって、この三人は、新参のあの二人の体術に対する関心も共通して持っていた。
 三人が香也のスケッチを元に、具体的な対応策まで含めてあーでもないこーでもないと言い合いをはじめると、楓や孫子、シルヴィや静流までもがこの輪に近寄って成り行きを見守りはじめる。舎人と梢は、少し離れた場所に座り込んで、話しを効いている風だった。こうしたやりとりに興味を持てない香也は、布団を用意し終わった時点で、そうそうに自室に引き上げている。
 もっとも、テン、ガク、ノリの三人組とは違い、後の年長者たちは活発に発言するということもなく、三人の囀りに耳を傾け、何かしら聞かれたことに答えるだけだったが。
 三人が意見を求めたのは、具体的にいうと、楓と舎人の二人に対して、だった。最強の弟子である楓と、アジア方面での実戦経験が豊富な舎人に尋ねるのは、順当だといえよう。
「……戦わないようにします。
 できるだけ、逃げます」
 ホン・ファとユイ・リィ、あるいは、フー・メイと敵対することになったら、どう対処するのか……と問われた楓は、躊躇いもせずそう答えた。
「常識的な判断だな」
 舎人も、もっともらしい顔をして頷いて見せた。
「フー・メイとか最強とか荒野だとかが相手だったら、おれでも真っ先に逃げるね。
 それこそ、脇目も振らずに……」
 つい先日、正面から荒野と対峙した筈の舎人は、しれっとした顔でそう答えた。
 ……どうしても、逃げられない局面だったら……と、重ねて尋ねられると、楓は少し考えて、
「……距離を取って、投擲武器を使いつつ、やはり逃走を試みる……でしょうか?」
 と答えて、首を少し傾けた。
「俗にいう、ヒット・アンド・アウェイ……。
 常道、ですわね……」
 楓の言葉に、今度は孫子が頷く。
「……決定的な打撃力を欠く場合、可能な限り安全な距離を置いて、相手の消耗を図る。
 近接戦や格闘戦が得意な相手に、無理に合わせて不利な状況を招くよりは……より勝ちやすい状況を引き寄せようとする方が、いくらかはましですわ……」
「攻撃とは、嫌がらせ……か……」
 少し思案顔になったテンが、その答えに頷く。
 楓とか荒野の強さは……筋力とか技のキレとか、そんな単純な要素に還元できるものだけではなく……置かれた状況に応じて、柔軟に対応できる、という点なのではないか……と、テンは考えはじめている。
 


[つづき]
目次

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
HONなび

Comments

再開待ってました。

再開待ってました。
更新楽しみにしてます。お忙しいと思いますが、
お身体にお気をつけて。

  • 2008/02/18(Mon) 08:21 
  • URL 
  • はばっち #ytPlIO5.
  • [edit]

管理人のみ閲覧できます

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  • 2008/02/18(Mon) 18:23 
  •  
  • #
  • [edit]

更新再開待ちわびておりました。
地道にお続け願えれば幸いです。
どうかゆっくりと頑張ってください。

  • 2008/02/18(Mon) 23:21 
  • URL 
  • #-
  • [edit]

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