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書評 「東京少女」

『雲をつかむようなおはなし』

内容説明
夏のある日、巨大掲示板に書き込まれた短い文章。クリスマスイブ、渋谷の街、デートクラブの美少女とモテナイ男。それは、3か月にわたって綴られてゆく、切ない純愛ストーリーのはじまりにすぎなかった…。

 という、オフィシャルな説明は結構ウソかと思う。
 なんというか、一見形はきれいに整っているように見えて、読み終えてみると、実になんにも残らないけったいなお話なのでした。この本の元になった「ぼくとヲタとお姫様」というログを某所で読んだのはかなり前だと記憶しているけど、そのときの印象も「ぜんぜんリアリティがないな、これ」という感じで、とくに感銘を受けた、ということはなかった。
(この某所も、いろいろな意味で興味深い観察対象ではあるのだ。このブログで定期的に面白いログをピックアップして紹介してみるかなぁ……。どうせここ、「悪場所」と自称しているわけだしな)

オンライン書店ビーケーワン:東京少女

 今回書店の店頭で「東京少女」という本を開いて拾い読みしたら、これがどっかで読んだことがある内容で、よくよくみてみたら「電車男」以来一種の流行みたいになっている「ネット発」の単行本化、という触れ込みにぶちあたって、「なるほど、あれが本になってたわけね」と納得したんだけど、これ、本当に商業ベースに乗せるほどの出来なのかなぁ? という思いは残る。わたしには、この作品に身銭を切るような読者層、というのが容易に想像できないけど、版元さんにはそれなりの見込みがあったから、商品化したのでしょう。

「クリスマスの夜、デート嬢を買った」という「ぼく」。で、なぜか商売をこえてかなり仲良くなったデート嬢「お姫様」は、背後になにやら「秘密」を抱えているらしい。友人の「オタ」に頼んでいろいろと調べてもらうと、なんか知らないけどお姫様は国際的なアンダーグラウンドでかなりやばい橋渡ろうとしているらしい。でも、詳しいことまでは全然わからないし、ぼくにはなにもできない。できなかった。

 要約すると、こんだけのおはなし。「その先」とか「結末」というのがないの。あとはどうでもいいようなディテールでごたごたと粉飾しているだけで、そのディテールも、よく読むと、実はかなりいい加減にぼやかして「雰囲気」でごまかしていることがわかる。
 例えば、大規模な国際的なアンダーグラウンドの組織から狙われている「お姫様」が、なんで渋谷でデート嬢なんて暢気なことやってんだよ! 作中で、

>おまえは物知りだな。オタ。

とかいわれる「オタ」は、いったいなんのオタクなの? 右から左へ集めた情報流しているだけで、やっている事に「専門性」とか「技術的な素養」全然感じないんだけど……。
 とか、根本的な突っ込みどころは満載。

 全体的な印象としては、石田衣良あたりを思いっきり薄めたような感じなんだけど、この内容で「純愛」とか言われると、「うっそでぇ」といいたくなる。
 リアルさを志向する物語ではなく、一種のファンタジー、寓話だとしても、「ぼく」、「お姫様」、「オタ」、などの人物像や輪郭が、読んでいてどうにも全然想像できない、どういう人なのかよくわからない、というのはいったいどういうことだろうか? 主人公やヒロインの「人となり」がいつまでも模糊蒙昧としたままでは、物語自体に魅力を感じたり感情移入したり、は、正直きついと思うけど……。
 あと、この主人公の「ぼく」ちゃん、見事になんにもしない人で、終始延々と感傷に浸って、友人のオタに一方的に頼っているだけで、目の前の状況に自分から全然アクティブにコミットしていかないからね。これでは主役失格である。
「主人公」というよりは「傍観者」にすぎない役回りで、実は、ヒロインとの「お姫様」とも、短期間ちょっとおつき合いしていた、っていう以外の関係ではないのね。「お姫様」の側からみたら、現代日本の平和ボケなのーてんきな行きずりの男のそのいち、にすぎないと思うけど、それを「ぼく」側の一人称で思い入れたっぷりに書かれているんで、純真な読者はそのへんに誤魔化される、もとい、引きずられるんでしょうねえ……。

 まあ、この物語を支持する方々とわたしとでは、「リアル」に関する認識の地平に、かなり「ずれ」があると思いますので、これ以上は言いませんけど。

 書籍版では、最後のシーンにネット版にはない「加筆」があるようですが(っつか、書店で確認したら、たしかにあった)、でも、その「書き下ろし」も、あったから作品がぐっとよくなった、とか、印象が違ってきた、とか、いうものではなし。わたしはその部分を読んでも、「だからどうだってぇの?」とか思いませんでしたが、なにか?
 これ、正しく「蛇足」ってもんなんじゃぁ……。

 多少なりとも興味のある方は、とりあえずネット版で内容を確認して、それからご購入を検討することをお勧めいたします。


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  • 2005/11/11(Fri) 11:51 
  • DVD、BOOKレビュー
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