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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(410)

第六章 「血と技」(410)

 その日も昇降口のところで茅や沙織先輩と合流して帰宅することになった。
「……今さら、こういうこともなんですけど……」
 肩を並べてマンションに向かいながら、荒野は沙織に話しかける。
「沙織先輩、おれたちのためにこんなに時間を使ってもらっちゃって……申し訳ない気もします」
 荒野の本音でもあった。
 面倒を見てもらっている側の荒野や香也はともかく、沙織の側から見れば、いっこうにメリットがない。
「いいの、いいの。
 こっちも、好きでやっているだけだから……」
 沙織の方は、鷹揚に頷くだけである。
「……おかげで、面白そうな子たちとも知り合いになれたし、なれそうだし……。
 荒野君の知り合いって、ユニークな人が多いのね……」
「ユニーク、っていうか、なんていうか……」
 荒野としては、口を濁すよりほかない。
 沙織のいう「ユニーク」というのは、「個性的」というよりは「どかか歪んでいる」というニュアンスが強いような気がするのだが……一族の主要な面々の顔を思い起こすと、まったく反論できないのだった。
 そして、沙織の趣味はあまりよくないよな……とも、心中でそっとつけ加える。
「……まあ、個性的な知り合いには、不自由していません……」
 荒野としては、無難にそんな返事をするだけにとどめた。

「……はーい!
 カノウのワカっー!」
 そんなことはぐだぐだ話しながら歩いていくと、商店街のはずれあたりで、脳天気な声に呼び止められた。
 振り返ってみると……。
「……ジュリエッタさん……」
 荒野は、視界に入ってきた姿を認めるなり、うめいた。
「……何やってんですか?
 こんなところで、そんな格好で……」
 ジュリエッタはスリットも胸元も大胆なに開いた真っ赤なチャイナドレスを着用し、プラカードを持っていた。
 ……真昼間から、町中でする格好ではない……と、荒野は思う。
「……似合わないか? これ?」
 一方のジュリエッタは、荒野の反応をみて、不思議そうな顔をして自分の体を見返している。
「……どこもヘンじゃないよ? これ……」
「似合うか似合わないかって、いったら、似合うし……そういう意味では、変じゃないといえば変じゃないんだけど……」
 荒野はどう説明するればいいのか考えながら、口を開く。
「……あー。
 町中で着るものじゃないでしょう、それ。少なくとも日本では……。
 いったい、なにやってんですか?」
「……Oh! 目立つか? それはよかった!」
 ジュリエッタは昂然と胸を張った。
 そうすると、大きく開いた胸元がいっそう強調されるようで……目のやり場に困った荒野はさりげなく目線をそらす。
「……これ、静流の店の宣伝ね!
 静流にはいろいろ、迷惑かけたから……」
 そういって、ジュリエッタは荒野にチラシを手渡した。
「……ああ。チラシ配りか……」
 ジュリエッタに手渡されたチラシを一瞥し、頷く。
「……そういや、楓や才賀も、年末に似たようなことをやっていたっけ……。
 だけど、その格好……いったい誰が用意したんだ?」
「それは、わたしです」
 横合いからいきなり声をかけられ、そちらに首をめぐらした荒野は、しばらく絶句した。
 声をかけてきたのは、柏あんなの姉、柏千鶴だった。千鶴も、ジュリエッタと同じく、プラカードを担いでチラシの束を手にしている。
 問題は、そのファッションで……。
「……ええっと……。
 どうも、ご無沙汰してます……」
 荒野は反応に困りつつも、とりあえず無難に挨拶をしておく。
 知り合いの下級生の姉が、いきなり空色のチャイナドレスで現れたら、荒野でなくても驚く。
「ご無沙汰しています」
 千鶴は荒野に向かって丁寧に頭をさげてから、説明を続ける。
「この衣装、わたしが知り合いのつてで借りてきたものなのですけど……似合いっていますでしょうか?」
「……ええっと……。
 まあ……お似合いだとは思います。二人とも……」
 この際、荒野はTPOの問題は無視することにした。
 似合っているかいないかといえば……二人とも、すごく似合いっているのだ。目のやり場に困るくらいに。
 ジュリエッタはともかく……柏千鶴も、結構着やせするタイプらしかった。
「萌え萌えですか?」
 千鶴が、真剣な顔をして荒野の目を見据え、重ねて聞いてきた。
「も……萌え萌え……です……」
 気圧されながらも、荒野は、なんとかそう答える。
 蛇に睨まれた蛙……というのは、このような心境をいうのだろう……と、荒野は密かに深く納得する。
「……それは、よかったのです」
 それまでの真剣な顔つきから一転して、千鶴は満面の笑顔となった。
「静流さんのお店、商品のクオリティは高いんですから……もっと真剣に、良さを広める努力をしませんと……」
「……ああ……。
 それで……」
 荒野はジュリエッタに手渡されたチラシに視線を落とした。
 静流の店への地図と住所、「おしいお茶のいれ方」の簡単な説明などが手書きの丸文字で書かれていて、ビニール袋に入った少量のお茶の葉がステープラーでとめられている。
 ジュリエッタと千鶴のファッションはどうかと思うが、宣伝方法としては、意外にまともだ……と、荒野は思った。
「荒野君」
 背後から、今度は沙織から声をかけられる。
「この方たちは、紹介してもらえないのかな?」
 沙織もまた、千鶴に負けないくらいに満面の笑みをたたえている。
 おそらく……「変な人」の知り合いが増えて、楽しいのだろう……などと、思いながら荒野は沙織に二人を紹介しはじめる。
「……ええっと……。
 こちらが、一年の柏あんなの姉さんで、千鶴さん。確か、大学生。
 で、こっちが……あー……一口には説明しにくいんだけど、うちの方の関係者で、最近こちに越してきてジュリエッタさん。こうみえて、日常会話程度なら日本語も不自由しないから、あったときは話しかけてあげて……」
「一年の柏さんって……あまり話したことないけど、堺君といつも一緒にいる、可愛い子ですよね……」
「そうそう。あんなちゃんとまーくん。
 まーくん、うちのお隣さんなんですよ……」
 お互いに挨拶しあった後、千鶴と沙織はメアドと電話番号の交換までしていた。



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