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ぼくと彼女の、最後の前の晩 (9)
結局、またもや先に果てたのは、彼女のほうだった。ぼくが果てる前に、彼女は両腕と両脚をぼくの体に絡ませて、
「……もう、だめ……本当に……」
と、ぼくの動きを制止させる。
「……ひどいよ、こんなの……こんなに、乱暴なの……最後の……これで、最後なのに……」
涙を流しながら、嗚咽の合間に、彼女はいった。
「……ごめん……本当に、ごめん……わたし、君を傷つけていた……でも、こんな終わり方は、いや……」
泣きながら、彼女はぼくの胸にすがりついて、懇願する。
「わたし、君と別れる。明日、ほかの男の所にでていく。でも、君のこと、今でも嫌いじゃないの。嫌いになりたくないの。勝手なこといっているよね。わかっている。でも、君には優しくしてほしいの。優しいままの君でいて欲しいの……」
後は、彼女が本格的に泣きじゃくりはじめたため、言葉にならない。
ぼくは無言で、彼女が泣きやむまで、彼女の髪を撫で続ける。
「……本当に、君のこと好きなの。一番。今でも……」
しばらくして、落ち着いたのか、ぽつりぽつりと、彼女は静かに語りはじめる。
「……でも、君は、わたしなんか、わたし以外の誰も、みようとはしない。君の側にいると、君がだれもみていないということが、すっごく良くわかるの。こうやって裸で抱き合って、くっついていても、君はここにはいないみたいで……」
……君の近くに、一緒でいると、たまらなく寂しくなって、かえってつらいんだよ……。
といい、彼女はひっそりと、静かに笑う。
「ごめんね。最後の夜なのに。泣いたりして」
彼女は自分で目尻の涙を拭った。
「泣かないで別れるつもりだったんだけどな。ふふ。現実は、そううまくはいきませんか」
彼女は、下から腕を回し、ぼくの胸に自分の顔を埋める。
「……もうちょっと、このままで、いさせて。もう少ししたら、元に戻るから……」
ぼくの胸に顔をくっつけながら、彼女は小さく呟く。
「……こんなに近くにいるのに、こんなに遠い……」
それから、震える声で、
「……続けて。わたしを、滅茶苦茶にして……」
と、続けた。
ぼくは彼女の様子をうかがいながら、最初はゆっくりと、徐々に早く、動き始める。腰を両側から掴んで少し浮かせ気味にして、できるだけ深く侵入できるように、少し角度をつける。じゅ、じゅ、という水音が、じゅぱ、じゅぱ、じゅぱ、という破裂音を含みはじめる。「ん。ん。ん」と、彼女が鼻にかかった声をあげはじめる。ぼくは、速度はそこそこに抑え、代わりに、彼女の内部の襞、一つ一つを確かめるように、ぼくのものを彼女の膣壁にこすりつけるような変則的な動きをつける。
上右、左下、上右、左下、上右、左下……。
そして、彼女の最深部に刺さったとき、一番奥の部分をぼくの先端でさぐるように、数秒震わせて、素早く引き抜く。「ふはっ」彼女の吐息。完全に引き抜いて、入り口にかろうじて先端が触れている上体で数秒制止すると、彼女はそれまでなにかに耐えるような表情をして閉じていた目をあけて、懇願するような、媚びを含んだ目でぼくの目を見る。
「欲しい?」
「……ん……」
彼女は微かな、消え入りそうな声で応える。その言葉が終わるか終わらないかのうちに一気に突き入れると、「ぁんぅんはぁ!」と喉から絞り出すような声をあげる。あとはもう小細工は必要としない。ゆっくりと内壁を擦るようにギリギリまで引き抜き、一気に最後まで貫く、というシンプルな反復作業に徹する。今までの経験からいっても、この方法が、一番彼女を反応させる。一突ごとに、目を閉じた彼女は、体全体を震わせて半開きにしたままの口から切なげな声を漏らす。
五分ほどもそういうシンプルな反復作業を続けた頃だろうか。彼女が、
「……ちょっと、待って……」
と、ぼくの胸を手のひらで押し返すような動作をして、とどめた。
「もう、いっぱいいっぱい……休ませて……」
どうやらギブアップらしい。このあたりで、感じすぎた彼女がこれ以上いくことを拒むのも、だいたいいつもと同じ流れだった。
ぼくは無言で彼女の中からぼく自身を引き抜き、彼女の粘液にぬれて湯気を立てているものを、荒い息をしている彼女の口元にもってくる。彼女は、濡れててらてらと光るそれを愛おしそうに眺め、ゆっくりと口に含み、根本の方を手でしごきながら、亀頭部を舌で刺激しはじめる。両手で包み込むようにしてぼくの硬直を支え、舌の先で鈴口をちろちろと舐める。
その間、手持ち不沙汰なぼくは、彼女の股間に指をいれて、乱雑な動作で彼女の穴を攪拌する。「んはぁ!」と、ぼくのをくわえたままの彼女がうめく。
かまわず、ぼくは人差し指と中指で中をかき回しながら、彼女の股間に顔を埋め、彼女の肉芽に舌をはわせ、歯をたてて、こりこりと甘噛みする。
「いやぁ!」
彼女はぼくのものから口を離し、全身を震わせて、叫ぶ。
[
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ぼくと彼女の、最後の前の晩 (8)
ひゃあ、とか、うひゃあ、みたいな音を喉から漏らして、いきなり、彼女が上体をおおきくのけぞらせた。それでもぼくはじゅぼじゅぼと音をたてて彼女の中の指を激しく出し入れさせながら、十分に湿った彼女の陰部を、舌で歯で口唇でたどる。敏感な突起を歯で噛み、襞の間を舌でかき分け、そこから分泌される液体を、じゅるじゅると音をたてて吸い上げる。
しばらく、ぼくが恍惚として彼女の大事な部分を口と舌で味わっていると、それだけで彼女は息も絶え絶えになり、ぼくの体の上に、ぐったりして、突っ伏する。
「なんだよ。自分から誘っておいて」
ぼくはいった。
「満足したんなら、もう終わりにしようか?」
ぼくが体を離そうとすると、彼女はぼくの体によたよたと手をかけて、引き戻そうとする。
「だめ。もっと……」
ぼくの肩にかかった彼女の指には、まるで力を感じなかった。が、ともかく、ぼくを引き戻そうとする意志だけはあるらしく、彼女はなんとか自分の体を引き起こし、ぼくにしなだれかかってくる。
「……最後まで、ちゃんと……これで、最後だから……」
肩で息をしながら、呼吸の合間合間に、しぼりだすように、そういう。
彼女の目に、なんとも形容のしようのない、執念を感じさせる光があった。
ぼくは黙って彼女の体を横たえ、その上に覆い被さる。そのまま、挿入。するり、と、何の抵抗もなく彼女の中に侵入するぼく自身。はふぅ、と、吐息でぼくの挿入に答える彼女。
「動くぞ」
ぼそり、という感じで、彼女の耳元に低く呟き、ぼくは激しく動き始める。どうせ、彼女のほうの準備は、十分すぎるほどに整っているのだし。
「おぉう!」
挿入するとと、彼女は吠えた。
その声は、歓声とか喘ぎ声とかいうよりも、もっと太い声で、動物的な響きを伴っている。ぼくが動く度に、彼女は体をくねらせて、体内のどこかとても深いところから、嗚咽に似た音をくみ出す。彼女が今までにみせたことがないような、反応だった。
おうぅ、おうぅ、おうぅ。
ぼくの動きに鳴動してそう喉をならす彼女。ぼくは楽器を演奏しているような気分になる。二人で、全身と全身で、性器と性器で、かき鳴らす楽器。ただ、その音色はとても精錬されたものとは呼べなくて、かわりに、ぼくの肉体に、彼女の肉体がダイレクトに反応している、そんなようなもっと野蛮な迫力があった。
人間の、もっとも動物的な部分からわき出ていくる音色を奏で、聞くために、ぼくは汗だくになって、全身を使って彼女の中と上とではね回る。
そのl晩のぼくらは、人間の男女というよりも、動物の番いのような交わり方をした。いつ果てるともなく、し続けた。
体力の限界まで、し続けた。
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ぼくと彼女の、最後の前の晩 (7)
「ねえ。いつもやっていたみたいに、して」
そういって彼女は、ぼくの右手の中指を、自分の内部に導く。彼女のそこはすっかっり熱くなっていて、ぼくの指はなんの抵抗もなくするりと根本まで入る。
「ね。動かして」
彼女は、ぼくの指が入ったままの自分の秘処を誇示するように、持ち上げ、ぼくの頭の上に、跨る。この体制だと、彼女の自身の頭はぼくの股間部にくることになり、案の定、彼女はぼく自身を再び口に含む。ぼくの目前には、彼女の一番隠されているべき箇所がさらされており、そのこにはぼくの右手の中指がずっぽりと埋まっている。陰毛の中心にある濡れた溝。ぼくが指を出し入れしはじめると、彼女は、ぼくのをくわえながら、喉の奥で「んん!」っと、うめいた。ぼくはいつもそうしていたように、彼女の内壁の形をたどるように、中に入れた指を慎重に動かす。彼女のそこはすっかり湿っていて、中にいれた指の動きが阻害される、ということはない。彼女の体液によってスムーズに彼女の中を蠢くぼくの指、ぼくの指の動きに応じるように微妙な収縮を繰り返す彼女のあそこの穴、ぼくの目の前でぼくの指を飲み込んでいる彼女の女陰。押し殺した彼女のうめき。彼女の呼吸音。彼女の体臭。彼女の肌に艶をあたえる、彼女の汗。
あまりにも、なにもかもがいつもと同じだった。ただ一つ、ぼくらの関係だけが、以前とは決定的に違っていたことを除いては。
彼女は、ぼくの陰茎を口に含み、執拗に、熱心すぎるほどに、ぼくの亀頭に舌を這わせている。ぼくは、その彼女の執着が少し疎ましくなって、彼女の中に入れたままの指の動きを、わざと、乱雑にする。加えて、目の前にある彼女の敏感な突起に口をつけ、舌の先で弄ぶ。彼女がぼくのものから口を離し、
「んん。はぁ」
と、声をあげる。構わず、ぼくは彼女のクリトリスに歯をたてて、軽く噛む。
「っ、はぁ!」
彼女の声を聞きながら、こりこりと歯と歯の間で彼女のクリトリスを、転がすと、彼女は声を大きくしながら身震いし、ぼくの指がずっぽりと埋没している箇所から潤沢に透明な液体が分泌されて、ぼくの手首にまでしたたり落ちる。
「ぃやぁ! ぅあぅ! やめて!」
「なにが、やめて、だよ」
彼女の歓声を遮るように、間髪を入れずにぼくはいう。
「こんなに、濡れているじゃないか。すっかりぐしょぐしょだよ、ここ」
「やぁ! やめぁ!」
彼女はぼくの上で体を波打たせて、切なげに、鳴き声をあげる。
「だめ。ほんとに、ダメなの」
ぼくは彼女の中の指をより早く動かしながら、もう一方の手で、予測がつかない動きをするようになった彼女の腰を引き寄せて固定し、とどめなく出ている彼女の淫水を、音をたててすする。
[
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ぼくと彼女の、最後の前の晩 (6)
「体、冷えるよ」
しばらく、ぼくの背中に体重をあずけ、嗚咽を漏らしていた彼女に、頃合いをみて、ぼくは声をかける。
「。。そうだね。早くしないと、風邪引くね」
ぼくらはお互い裸のままで、体に付着していた水滴は半ば乾きつつある。
「ごめん。今拭くから」
いいながら、彼女は鼻をならし、慌ただしくぼくの体を拭いはじめる。
「ね。ほんとに、今夜が最後だから……」
ぼくの体にバスタオルを押しつけながら、彼女はいう。
「……このまま、ベッドにいこう」
二人して、もつれ合うように、ベッドに倒れ込んだ。
「ぜんぜん硬くなってないね。もう、わたしじゃ、勃たない?」
仰臥したぼくの胸に顔を押しつけながら、彼女はぼくの下半身をまさぐる。
「でも、無理矢理勃たせる。これでも、君のつぼは知っているんだから」
いいながら、頭を下げて、彼女はぼくを口にくわえた。舌で竿を舐め回しながら、掌で重みを計るように、睾丸をもてあそぶ。ぼくの性器をおもちゃにしながら、彼女はぼくの臑に自分の性器をすりつけている。そこはすでに湿りはじめていて、臑のあたりに彼女の陰毛が擦り付けられる感触とともに、濡れた肌が空気に触れたときの冷たさも感じる。
白い背中を丸めてぼくの下半身にとりついた彼女は、人間の女性というよりは、貪欲に生きたままぼくを食らいつくすものすごく大きな虫かなにかのように思えて、薄暗い部屋の中でちゅぷちゅぷと響く水音が、そんな不謹慎なぼくの妄想を補強する。
「ん。少しは元気になってきた」
彼女はぼくの性器から口を離し、口と舌を徐々に上のほうに這わせていく。臍の下、臍、肋、胸部、乳首。彼女は、いつにない丹念さでぼくの肌を舌でたどる。
その間も、手では、ぼくの性器を刺激することを忘れていない。
彼女自身の肌をぴったりとぼくの肌に張り付かせ、ぴちゃぴちゃと音をたてて、ぼくの体中を、彼女は味わう。彼女の熱く堅く湿った舌の感触が肌を這うたびに、ぼくの刺激された部位は鳥肌さえたてて、少し体温をあげる。
「ふ」
今や、彼女の舌はどんどん上の方へとすすみ、ぼくの首にとりついて、執拗にその辺りを舐めながら。彼女は、ぼくの耳に息を吹きかける。彼女の乳房は、ぼくの胸の上で彼女の体とのサンドイッチになって潰れている。
「君の体、だんだん熱くなってきた」
囁いて、彼女はぼくの耳の後ろをそっと撫でる。
「いいんだよ。もっと感じても」
彼女が、ぼくの顎を持ち上げ、喉仏のあたりにくらいついて、軽く噛む。
ん、と、ぼくは軽くうめき声を上げる。
「声、聞かせて。君が、感じている声」
彼女はぼくの男性器を手でもてあそびながら、口を耳元によせ、耳の中に舌をいれて、まさぐる。耳朶を、甘噛する。
「いつも君にされていたこと、してあげる」
手櫛でぼくの髪をなでつけ、頬骨、鼻梁、額、瞼、などに軽い口づけを繰り返す。
「こんなに硬くなってきた……」
彼女はぼくの体に乗りかかっており、ぼくの頭のそこここを刺激しながら、太股でぼくの性器の硬直を確認する。
「いつでも入れられるね。もう、いれちゃおっか、これ?」
そういう彼女の声も、高揚しで、熱と湿度を帯びている。
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ぼくと彼女の、最後の前の晩 (5)
ギリギリのぼせるまで二人でお湯につかり、お互いの体を義務的に洗いあって、またお湯につかる。彼女と同棲していた二年間、この浴室で、あるいはホテルで、何度も反復してきた行為だが、今夜のそれは、従来のものとは決定的な違いがある。お互いに対する愛情を決定的に欠いていることを、二人とも自覚している、ということ。にもかかわらず、お互いに相手の裸体を見慣れているわれわれの関係は、肉親同士や身内に近い気安さや信頼感、みたいなものはあるわけだが、同時に、なんとも形容しようがない緊張感も、内包している。
「恋愛以後」あるいは「近過去の恋人同士」であったわれわれの関係を、適切にあらわす言葉はあるのだろうか?
風呂から上がると、以前からの習慣で、バスタオルでお互いの体を拭いあう。ただ、やはり以前とは違って、布越しにお互いの肌を刺激しあう行為にも、今では愛撫としての意味はない。
なんだか、お互いの気持ちが冷めていることを確認するために、一緒に風呂に入ったようなものだな、と、ふと、思った。
乾いたタオル布で彼女の体と髪にまとわりついた水滴を一通り拭い終えると、それまで使っていたものを洗濯機に放り込み、新しいバスタオルを手渡し、いつもそうしていたように、彼女に背中を向ける。バスタオルがぼくの背中にかかり、そのバスタオルの上に、彼女が、ふわりと身を寄せる。
「ごめん。少しこうさせて」
背中に感じる、彼女の体温。バスタオル越しに押しつけられた、バストの感触。そして、低い、嗚咽の振動。
「……なんでそんなに平気な顔していられるの、君は……」
低い嗚咽の合間に、彼女のくぐもった声が聞こえる。
「……わたしが別れようっていって、なのに、わたしのほうばかり傷ついて……。
こんなの不公平じゃない……」
ぼくは、なんと答えていいのか、分からない。なんと答えても、彼女をさらに傷つけるような気がする。ぼくはとても途方にくれる。
「……君は、いつもぼくを困らせる……」
いろいろごちゃごちゃ考えたあげく、たぶんそれが一番適切な返答ではない、ということを重々承知ながらも、結局、ぼくはそんなことをいう。それ以外に、彼女にいうべき言葉を思いつかない。
「だから、あんたは!」
彼女は、握った拳の底で、力無く、ぼくの背中を叩く。ぽかぽかと、叩き続ける。
「他人の顔色ばかりうかがって、自分のことなんか考えないで……。
でも、それって、逃避だよね。他人と向き合うことをとことん避けて……」
……だからあんたは、残酷なのよ。
と、彼女は続けた。
「こうして抱き合っていても、全然こっちをみてくれない。憎んでもくれない。愛してもくれない」
「……ごめん……」
しばらくぼくの背中にすがりついてすすり泣いていた彼女は、やがて小さな声でいって、ぼくから身を離した。
「今さらこんなこといっても仕方がないよね。わたしたち、もう終わったんだから……」
そして、ひっそりと笑い声をあげる。
「はは。
今夜のわたし、本当に情緒不安定だ。体冷えちゃったね。はやく服着て、布団に入ろう」
そして、いまだに乾ききっていないぼくの体を、丁寧に拭いはじめる。
彼女が情緒不安定気味なのは、彼女がぼくとの関係に未練をもっている、ということではなく、ぼくとの古い関係を捨て、新しい彼氏との、新たな関係と生活へ本格的に移行する今の時期の、過渡期的な性格が彼女を不安にさせているのだ、と、ぼくは推測する。そしてたぶん、彼女自身も、心の底では、そのことを弁えている。
でなければ、すでに彼女自身が「捨てる」ことを決意した「ぼく」という男に対して、これほど何度も謝罪したりはしない。
彼女の現在の不安は、「彼女とぼくの関係」の問題というよりも、彼女自身の内面の問題なのであり、そのことが容易に予測できるから、なおさらぼくはなにもいえなくなる。
そんなぼくを、彼女は、「残酷だ」、「冷たい」と言い募り続ける。
[
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ぼくと彼女の、最後の前の晩 (4)
「君は、残酷だよ」
彼女の後頭部がぼくに告げる。彼女はぼくの胸に背中をあずけ、方までお湯につかりながら、こちらをみようともせず淡々と続けた。
「一見、にこやかで、穏やかで、誰でも受け入れるようでいて、でも、いざ懐に入ってみると、頑として自分の領域に他人を受け入れようとしない……。
そんなんじゃ、つき合っているこっちは疲れちゃうよ」
そのまま、彼女はずるずると体をお湯に沈め、顔の半分までも沈め、ぶくぶくと盛大に泡をたてて、お湯の中で、なにごとかを、いった。
……当然、ぼくには、そのとき彼女がなにをいっているのか、聞こえないわけだが。
「聞いている? 手応えがないの、君には!」
突如、お湯から顔を上げた彼女が、低い、しかし、力の籠もった声で、そう囁く。
「わたしにも、ほかの誰にも心を開かないくせに、そのくせ、誰にでも半端に優しくて……」
彼女が、お湯の中で力無くぐったりとしているぼくの男性を掴み、太いため息をつく。
「……やはり君は残酷だよ……」
しばらくの沈黙。
「どうしてなにもいわないの? わたしってもう喧嘩する価値もない女? 君にとって!」
……明日、ぼくを見限って別の男の元に走る女に、いまさらぼくがなにをいえるというのだろうか?
「……ごめん。わかってる。情緒不安定だ、わたし。今、ここで、こんなこといっても、もうどうしようもないのに……」
「泣くなよ」
そういって、ぼくは彼女の首に両腕をまわす。
「ほら、また。そうやって半端に期待もたせる。でも、そうして優しくしてくれても、君は、わたしなんか見てやしないんだ……」
彼女はしゃくりあげ、しばらく間を置いてから、
「本当に、ごめん。最後の晩なのに。わたし、混乱している。もうちょっとこうしてて、落ち着かせて」
「ん。まあ、のぼせない程度になら」
ふ、と、彼女がうすく笑う気配がした。
「……そうだね……」
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ぼくと彼女の、最後の前の晩 (3)
湯船にお湯がたまるまでの間、ぼくらはお互いの体にシャワーをかけ、洗いあったりした。ちょうど、ぼくらの関係がぎくしゃくしだす前、つまり、彼女が別れ話を切り出す前に、割とよくやっていたように。
「こうやって洗いあうのも、もう最後だね」
「たぶん、な」
以前なら、お互いに微笑み合いながら前戯としてやっていた行為を、今は穏やかな静粛のなかで、しかし、たしかに二人ともリラックスして楽しんでやっている、ということで、こうした実感は、決してぼくだけが感じていたわけではないと思う。
その証拠に、ぼちぼちお湯が張ってきた浴槽に、二人して折り重なるようにしてつかると、彼女は「ふぅー」と大きく息を吐いてからこういった。
「……んー……気持ちいい……」
まずぼくが浴槽に入り、そのぼくに背をつけて、彼女がつかる。備え付けの浴槽はさほど大きなものではなく、そうして重なるようにして、ようやく二人一緒に入ることができた。
体重と、自分の頭をぼくの胸に預けるようにして、彼女はお湯につかっている。ぼくのほうは、彼女を入れる空間を作るために、両肩はお湯の上にだしている。
「君とこうしていると、本当に落ち着くんだよなぁ……」
「今の彼とは、しないのか?」
「するけどね。まだまだつきあい始めだし、結構がっついてくるから、裸になるとあんま落ち着かない……」
「そんなもんかね」
「そういう君も、けっこうがついてたぞ。はじめの頃は」
そういって、ケラケラと笑い声をたてる。
「それがいまでは、一緒にお風呂にはいったくらいでは勃たないし」
もぞもぞとお尻を動かす。
「ほら。勃ってない」
ぼくは、ため息混じりに、
「あのなぁ」
といった。
「今更勃起してもしかたがないだろ。これからやるわけでもないし」
「え? やらないの?」
彼女が急激にこちらへ振り返ろうとしたので、彼女の頭がぼくの顎にぶつかった。
「あのねえ。若いのに、あきらめのいいのも考えものだよ。いい? こっちからお風呂に誘って、それに、もうお布団、一組しかないんだよ。一緒に寝て、なにもなしですむの? わたしって、そんなに魅力ない?」
ぼくの顎にぶつけた部分を手でさすりながら、彼女はまくしたてる。
「今の彼氏に悪いとか、そういう発想はないのかね?」
「それはそれ。彼とはね、正直、君とつきあってた頃から何度かやっているわけだし、君とつきあっていることも知った上でそういう関係になった訳だし、明日、引っ越すまでは同棲していることも、しっているし」
やれやれ、という感じで、彼女は首を振る。
「つまり、向こうは君から女を奪った側であって、暗黙の了解としてその程度のことがありえる、ということぐらい弁えているはずでね。後はまあ、こちらと君、当事者二人の主体性の問題だな……
しかしまあ、本当に……」
彼女はぼくの目をまじまじと覗き込んで、芝居がかった調子で、こう言い放った。
「控えめで遠慮がちなのも、ほどほどにしないと……もう、わたし、ついていてやれないから。
君のその、何でもすぐに諦めてしまう癖、はやいうちに直さないと、そのうち、なにもかもなくしちゃうぞ」
そして小声で、「このわたしみたいに」と付け加える。
[
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競泳水着の誘惑 (最終回)
急速にしぼんで力を失った栗田自身を舞花の中から引き抜くと、どろり、と驚くほど多量の白濁液が、舞花の中から溢れでてきた。栗田が吐き出した白い液体と、舞花が裂けた証拠である赤い液体が入り交じっている。
「うぁあ。血だよ血」
「初めてだったんだから、出血くらいする。
それより、二回分とはいえ……こんなに出るもんなんだな」
「いつもは、こんなに出ないけど……痛くない?」
「痛い。でも、セイッチがまだ中にいるみたいだから、痛いのも悪くはない」
「……舞花、ときどき真顔ですっごい恥ずかしいこというよな……。
そうだ。ティッシュティッシュ。そこ、拭いてあげようか?」
「ば、馬鹿者! 駄目! 却下! 自分でやる!」
「……ケチ……」
「そういう問題じゃない! いいからあっち向いてろ!」
などというやりとりがあった後、なんとか身支度を終えた二人が女子更衣室の鍵を開け、まだ日が高い外に出ていくと、
「おそーい!」
一応水泳部副顧問の肩書きを持つ三島百合香養護教諭が、カラフルなパレオ付きのビキニの上に白衣を引っかけ、顔の半分を覆うほどの大きなサングラスにサンバイザー、肩には浮き輪、手には扇、というなんともミスマッチ極まるふうたいで、童顔に似合わない仏頂面を作って仁王立ちになっていた。
その後ろ、シャワーが据え付けられているあたりの日陰に、柏あんなと境雅史の二人が、仲良く並んで正座している。バツが悪い思いをしているのか、露骨に視線を合わせないようにして、あさってのほうに顔を向けているが。
「嬉し恥ずかし初体験は無事済ませたかバカップルズ二号。大清水先生から連絡があってプールを独占しよう、もとい、念のために様子みにきてみればあっちであんあん、こっちであふんあふんと盛大に発情しておってからに。学校をなんだと心得ておるこのバカップルズ一号および二号。やるんならやるでもう少し慎ましく最低限ばれないような工夫をしろこのお馬鹿ども。このクソ暑い最中馬鹿面さげて外でぼうっとおのれらが事を終わるまで待ち続けたこっちの身にもなってみろ。そもそもこんな防音もなんもなんところで派手に声たてやがってからにこのアホたれらめ。丸聞こえだったぞ。うらやましいじゃなくっていくら校庭の外れとはいってもまだまだ校内には部活の生徒とかそれなりに人はいるんだから気づかれるかも知れないとか思わなかったのかこのうすらとんかちズ。もう少し用心しろ。わたしだからまだよかったがこれがほかの先生方に見つかってみろ。お前らは停学程度で済むかも知れないが、こっちは連日の退屈な職員会議を召集されて強制参加。ろくな男もおらん職員室で不毛な時間を長々と過ごさねばならんのだ。そんなもんに付き合わされるこっちの身にもなってみろ……」
身長百三十五センチ、体型つるペタ(愛称・みにら)。童顔のため、下手をすると生徒以下の年齢に間違われることもままあるが、実際の年齢は、日差しの厳しい季節には厳重な紫外線対策を必要とするお年頃。栗田精一よりも背が低く、柏あんなよりも胸がない、そんな三島百合香養護教諭の嫉心混じりの説教は、何度も何度も脱線を繰り返しながらし延々と続いた。
「……第一、こっちはもう何年も男日照りだというのに、柏にせよ飯島にせよ、学生の分際でさっさと特定の男を捕まえているのが気にくわない! お前らの男、少しはこっちに貸せ!」
えんえんと続けるうちに三島百合香養護教諭がそんな本音をぽろりとこぼすと、
「却下だ!」
「嫌です!」
間髪いれず、三島百合香養護教諭の目前にたちふさがった巨乳と微乳の女生徒二人が胸を反らして棒立ちになり、無言のまま養護教諭を威圧する。無言とはいっても、その威圧感はただごとではなく、巨乳のほうは、たしか、男女を問わずよくプロレスごっこの相手を捜しているし、微乳のほうは、幼少時から空手の道場に通っている、とか聞く……。
「……ぅ……ぅ……」
気迫に圧され、背をのけぞらせ気味の姿勢のままで固まって、絶句したまま、しばし冷や汗を流していた三島百合香養護教諭は、
「うわーん。生徒たちがいぢめるー!」
と叫びながらプールのほうに駆けていき、教育者にあるまじきことに、そのまんまなんの準備運動もせず、どっぽーん、と盛大に水飛沫をたて、プールの中に身を踊らせた。
それから飯島舞花と栗田精一はシャワーで汗とその他の汁をきれいに洗い流した後、プールで水遊びをしている三島百合香養護教諭、柏あんな、境雅史の三人に合流。
でも、そのうち三島百合香養護教諭が、教育者兼「女の先輩」として柏あんなと飯島舞花の両名に、避妊や性病の正確な知識を独演しはじめ、それはすぐに質疑応答の形へと変化、さらには、心身両面における男性のうまい操縦の仕方、とか、具体的なセックスの技法とかの身も蓋もない内容へと変遷していく。
興味津々な様子で熱心に話し込んでいる女性三名とは別に、そうしたあけすけな内容を聞くことに居心地の悪さを覚えた男子生徒二名は、少し離れたレーンで所在なげに泳いだりぷかぷか水に浮いたりして、「柏家のあいのあわおどり」とか「かつやくきん」とか、意味不明だったり不穏当だったりする単語は、いっさい聞こえないふりを決め込んでいたそうです。
まあ、見方によっては、「教育的な」時間では、あったかも知れない。
まだまだ残暑が厳しい九月初旬の、土曜日の昼下がりのことだった。
[おしまい]
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ぼくと彼女の、最後の前の晩 (2)
つきあい始めの頃はともかく、最近のぼくと彼女の間にはあまり会話というものがなかった。ぼくがわりと寡黙なため、ということもある。つき合いが長くなるにつれ、「いわなくとも通じる」部分が自然に増えていくものだと、ぼくは思っていた。それはつまり、彼女が別れ話をぼくに切り出すまでは、ということなんだけど。
「あなたは自分のことをなにも話さないから」
別れ話しの最中、彼女は何度もそういった。だがいったい、ぼくというあまりにも平凡な人間の中に、語るに足ることがそんなにあるのだろうか? それも、何年も何年も話しても尽きないほどのものが。
そうは思うのだが、彼女がぼくに要求しているものがいったい何か理解できないぼくは、「そうだね、たしかに話しはしていないね」、とだけいって、気弱げに頷く。
だから、その「最後の晩餐」も、ごく静かにはじまり、静かに終わる。
「はいはい。そんなにしんみりしない」
ファミレスから帰るときも、少なくとも外見上は、彼女はいつもとまったく変わらなかった。
「これで今生の別れ、というわけでもないんだから。会おうと思えばいつでも会えるし」
「いや。たぶん、もう会わないよ」
ぼくはいった。
「少なくとも、こちらから連絡することはない」
「だからねー。そういういわなくてもいいことをはっきり言い切っちゃうから、あんたはもてないの」
彼女はぱんぱんとぼくの肩をはたく。
「こういうときは、本心はどうあれ、そことはなく相手の女性に期待を持たせるような対応をしとくの。でないと、釣れる魚も逃しちゃう」
ドリンク・バーのコーヒーしか飲んでいないはずだったが、彼女はいつもよりもハイに振る舞った。この最後の夜に、必要以上に雰囲気をしんみりさせないための、彼女なりの防御策だったのだと思う。
「お互い、明日に備えて、さっさとお風呂に入って寝よう」
ことさら陽気に振る舞っている彼女は、ぼくの腕をとって、「最後だから、一緒にお風呂はいろうか?」と、ぼくにだけ聞こえるような小声で囁いた。
その横顔はたしかに笑顔の形に作られてはいたが、だからといって、そこから彼女の本音を推測することは叶わない。そう。世の中には「無表情な笑顔」というのも、存在する。
マンションに帰るそうそうに、彼女は自分の上着をハンガーに掛け、その他の衣服もてきぱきと脱いでいく。そして、ぼくにも早く服を脱ぐように、と促す。彼女とは、この部屋で何度か同じような主ちゅえーしょんを経験してきたが、いつもと違うのは、このときの彼女は、自分が脱いだものを洗濯機に放り込むのではなく、スーパーのビニール袋にまとめて入れていたことだ。
そうして、ぼくら二人はすぐに真っ裸になった。
何度も見、何度も触れあい、何度も重ね合った裸体を、お互いにまじまじと見つめ合う。この二年間で、ぼくは少し肉が落ちて痩せ、彼女は逆に少しふくよかになった。口に出してそういうと、
「女性に向かって太ったなんていうな!」
と、背中を、平手で、手形が残るほど強く叩かれる。
まったく、たった二年で、あんなにひ弱そうだった少女は、ここまで逞しい女性になりました……。
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競泳水着の誘惑 (27)
「……もう……」
しばらく時間がたってから、傍らの栗田の頬を、ぷにっ、と摘んだ。
「どさぐさに紛れて、いろいろ酷いこといって……」
「……だって……」
栗田は、そんな舞花の背中を愛おしそうに、撫でる。
「……実際、舞花、エッチが好きじゃないか……積極的だし……」
「それでも!」
舞花は、目尻に涙をためながら、むっとした顔して、栗田に詰め寄る。むにむにと栗田の頬の肉をつまみ上げる
「あんなことをいわれて傷ついたの! わたしは!」
「いいじゃん……」
栗田のほうは平然と、そんな舞花を受け止める。
「……強引で、スケベでエッチ好きな……そんな舞花、おれ、好きだし……」
まともに目を合わせた状態で、栗田に真顔でそういわれ、詰め寄っていた舞花のほうが真っ赤になって目を伏せる。
「……きゅ、急にそういうこというな……狡い……」
「っていうか、いきなりこういう誘い方をした舞花のほうが、もっと狡い」
笑いを含んだ声でそういって、栗田は舞花を抱く腕に力を込める。
「今の舞花にこういう誘われ方したら、誰でも断れないって……」
「……ほめているのか、それは?」
「うん。おれ、自分でするとき、飯島先輩の水着姿とかもっと大胆な格好想像してやってたし。何度も」
「……ほ、本人の前でそういう下品なこというな……」
むに、と舞花は両側から摘んだ栗田の頬を、さらに、むにむにむに、と捻るようにして、引っ張る。
「この、助平変態色魔しきじょーきょうー!」
「その、助平変態色魔しきじょーきょうー! を誘って、上に乗って自分で動いていたのは誰だよー!」
負けずに、栗田も両手でつまんで、捻るようにして、引っ張る。ただし、こちらは舞花のほっぺたではなく、乳首を、ですが。
「もうやめろぉ、馬鹿ぁ!」
即座に、舞花は栗田の頬の肉を掴んでいた両手を離し、自分の乳首を掴んでいた栗田の手を振り払い、自分の身を守るように、胸の前で交差させる。
「も、もうこれ以上そういうことできるか! これ以上やったら、こ、壊れちゃうだろうが!」
「それじゃあ、また今度、やろう」
意外に真剣な顔をして、栗田がまともに舞花に目を合わせると、舞花のほうが目を反らした。
「……う、うん……うち、とうちゃん、ほとんど家にいないから、いつでも……」
不意に舞花は顔をあげて、栗田の顔の両脇をわしっ、と両腕で固定し、自分の顔を至近距離に近づけて、にっこりと、それはもう、艶やかに、笑った。
「その代わり、あれだぞ。他の女とこういうことしたら、なんだ、只ではすまさないから」
その舞花の笑顔の迫力を目の当たりにして、合計三度も射精していたのにもかかわらず、いまだに舞花の中で勢いを保っていた栗田自身は、一気に萎縮した。
「もう、セイッチはわたしのものだし、わたしはセイッチのものなんだからな」
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ぼくと彼女の、最後の前の晩 (1)
彼女の荷物は、なんとかこの週末に纏めることができた。彼女の着替えや生活用品が、梱包されて部屋の半分以上の床を占拠している。彼女がこの部屋に住むようになってから二年ほどの間に、彼女のものはこんなに増えていたんだな、という事実に圧倒される。彼女がここに転がりこんできたときは、当座の着替えが入ったバッグしかもっていなかったのに。それから二年間、彼女は、自分の布団や新しい衣服、化粧品、調理用品(ぼくは料理をしなかったので、彼女が来る以前のこの部屋には、基本的な調味料も揃っていなかった)、洗面用具、などなどを持ち込んできて、がらんとしていたこの部屋をもので埋め尽くした。その、彼女が増やしたものの大半が、今は梱包されて、明日、運び出されるばかりになっている。
これら、彼女が持ち込んだものたちが、明日、彼女もろとも運び出されれば、この部屋はまた、元の静けさと空虚さを取り戻すのだろう。
荷物を纏める作業がだいたい終わると、日が暮れていた。調理に必要なものは大体荷物の中に入っていたので、自然、夕食は外食ということになる。マンションから歩いて五分ほどの場所にある、そこそこよく利用するファミリー・レストランに向かった。チェーン店にありがちな店で、とりわけうまいというわけではないが、それなりの味とそれなりの値段で、なにより家から近いので、利用頻度もそれなりに高い。そんな店だ。彼女が二年前に転がり込んでくるまでは、よく利用していた。
ぼくは生姜焼き定食、彼女はハンバーグ定食に決め、それと二人分のドリンク・バーを追加する。
週末の店内はそれなりに混んでいて、注文した料理がくるまでに少し時間がかかったが、ぼくも彼女も、必要以上にあまり会話を交わさなかった。話し合いなら、彼女が出ていく、と決定するまでに、お互いうんざりするほどしたのだ。ぼくのほうは、彼女のことを、たぶん、未だに嫌いになれていない。と、思う。
でも、彼女への愛情よりも、その愛情を彼女に対して伝えようと努力してきて、それが報われなかったことに対する徒労感のほうが、今では大きかった。
彼女は、ぼくが好きだが、ぼくの方が彼女を求めていない、という。だから、ぼくと別れるという。で、ぼくは、彼女がなぜほかの男の元にいくのか、理解できないでいる。
彼女の言い分を、ぼくが理解している範囲内で要約すると、こういうことになる……
彼女は、ぼくのことを嫌いになったわけではない(と、彼女はいう)。少なくとも、ぼくよりも彼女の新しい相手を強く想っているわけではない(と、彼女はいう)。だけど、ぼくは彼女を必要としていないし、彼女の新しい彼は、少なくとも彼女の事を必要としてくれる(と、彼女はいう)。彼女を必要としていないぼくと一緒に居続けることに、彼女は疲れている(と、彼女はいう)。
こうして彼女のいうことを列挙してみても、ぼくには彼女のいうことがまるで理解できない。嫌いになったわけではないのに、なぜ無理に彼女は出ていこうとするのか? 何度も何度も聞き返し、説明したりされたりすることに、二人ともうんざりして、げんなりして、へとへとになって、ようやく、「ぼくには彼女のいうことが理解できない」、ということを理解した。
そして今、ありふれたチェーン店ファミレスのありふれたハンバーグ定食をぼくの前で普通の顔をして食べている彼女は、明日、二年間一緒に暮らしたぼくのマンションを出ていく。
こうして、ぼくらの別れの、前の晩は、始まった。
ああ。分かっている。ここで断っておくと、今からぼくが記述するこの物語は、どこにでもいそうなカップルが、ごく普通に別れる前の晩の、ごくありふれた話し、なのだと思う。どこにでも転がっていそうな、どこにも特別なところのない、ごくごく平凡な別れの前夜、の、営みの記録。
ぼくが今から書こうとしているのは、つまりはたったそれだけの、なんの変哲もない挿話だ。
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競泳水着の誘惑 (26)
上体を起こした栗田が、舞花の尻に両手をかけ、腕の力で大きく上下に揺すぶりはじめると、「うひゃっ!」と、舞花は盛大に嬌声を上げはじめた。
「ひゃ! ふぁ! ふぁん!」
「この! そんなに! いいのか!」
自分よりも大きな舞花の身体を腕の力だけで動かしている栗田は、さきほどまでの疲労も完全には癒えていないことも手伝って、すぐに息が上がりはじめ、汗だくになっている。
「こうされるのが、えっちが、好きなのか! この女は!」
「あ! 駄目! そんな! ひどい!」
「おらおら! 好きなんだろ、こういうのがこうされるのが!」
「駄目駄目! また! ああ!」
「いやらしい女だな! 自分から上になって腰振って!」
「駄目! 駄目だって! ああ! あん!」
「いいんだろう! 気持ちいいんだろう!」
「いいの! 気持ちいいの!」
「いやらしい女だな、舞花は!」
「……あん……」
舞花の嬌声に、段々別のものが混じりはじめる。
「……だ、だって、セイッチだからだし……すん……あ。あああ……すん……こんなに、あん、気持ちいい! んん! いいのいいのいいの! ああん!」
栗田にいいように揺さぶられ、強引に絶え間ない快楽を引き出されながらも、舞花は、栗田の言葉に傷ついて、鼻をすすりはじめる。
「駄目なのセイッチに触れれるとこんなにされると凄いのいいのいいの駄目駄目いやらしいの舞花はいやらしいの駄目なの。あ。あああ。そこ! そこいいのもっと! 駄目。駄目駄目駄目いっちゃうのいっちゃうの!」
「そうやって泣きながらも、動くとそんな声出すんだよな!」
「そうなの! 舞花はいやらしいの! 駄目なの駄目なの! やめないでもっともっともっと!」
「やっぱりいやらしいな舞花は!」
栗田の腕の力だけではなく、舞花自身も栗田の腿の上で飛び跳ねるように動いている。
「今からもっと動くからな! いくぞ! しっかり受けろめろ!」
「うひっ!」
栗田も、下から突き上げるように腰を動かしている。栗田が下から付きはじめると、舞花は悲鳴をあげて栗田の首にしがみつく。
「来る! ずんずん来るの! セイッチが、舞花に! 下から!はうっ! あうっ!」
「いくぞいくぞもうすぐいくぞ!」
激しく動きながら、栗田も叫んだ!
「いくからな。すぐ出るからな。今から舞花の中にいくからな!」
「いいの。くるの。来て来て舞花の中に来て!」
「いくぞ来るぞ今いくもうすぐ!」
ついに、栗田は舞花を抱いたまま、体を硬直させる。
「でるぅ!」
「はうううぅ!」
舞花も、栗田に折り重なりながら、栗田が放出したものを受けとめていた。
「でてるセイッチのが出てる。舞花の中に熱いのが入ってくる……熱いのぉ……セイッチのとっても、熱いのぉ……」
寄り添ったまま、その場に倒れ込んだ二人は、しばらく荒い息をついているばかりで、身動きもできなかった。
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競泳水着の誘惑 (25)
「こんなところばかり、元気なんだから」
舞花は、栗田の上でぐったりと体重を預けながら、栗田の胸に指先で「のの字」を書いている。
「しかたがないなあ。それじゃあ、少し休んでから、続きをやるからな」
その言葉を聞いて、栗田は、その場で白目を剥いて気を失いたくなった。
いや、これ、すっげぇ気持ちいいんだけど、同時に、すっげぇ疲れる。できれば連続では勘弁してほしいんだけど……などとという栗田の内心の叫びは、現実には言葉にならない。栗田の喉はぜいぜいと鳴って、極端に不足した酸素を体内に取り込む作業で忙殺されていた。
無理に言葉を出そうとして、栗田は派手に咳きこむ。
「だいじょうぶか? セイッチ」
横になった栗田の上で、半裸の体をぴったりと密着させていた舞花が、咳き込んだ栗田の胸を愛おしそうに、掌で撫でる。
「まだ休んでいていいんだぞ。でもほら、セイッチのあそこ、わたしの中でまた動いて大きくなっているし。やっぱりセイッチのここ、大きいよ。でも、わたしでこんなになってくれるのは、嬉しい……」
年齢に不釣り合いな妖艶な笑みを浮かべ、そんな取り留めのないことを言い続ける舞花をみていると、栗田はなにも言えなくなってしまう……。
「……ん……このまま、今度は、ゆっくりと動くからな……」
舞花は、栗田の上にまたがっり、上体を密着させた姿勢のまま、ほぼ腰の部分だけを、ゆっくりと動かしはじめる。
「こうやって見つめ合って、セイッチがいく瞬間の顔をじっくり観察してやるんだ」
もぞもぞ動きながら、両手で栗田の側頭部をがっちりと固定し、栗田の顔をのぞき込む舞花。
みかたによっては「かわいい」いいようなのかもしれないが、それ以上に「なんだかなぁ……」っていう気も、する。でも、こうして間近で、どアップでみる舞花の上気した顔は、間違いなく、「かわいい」わけだが。
「は。は。ゆっくり動いても、意外に。あ。あ。こんな」
舞花は、自分の動きによって、再び、緩やかに昇りはじめているようだ。
「セイッチ。なるべく動くな。今度は、はぁ、わたしが、セイッチをいかせてやるから……んん」
相変わらず舞花にのりかかられ、頭の両脇をがっちりと捕まれたままなので、栗田からは、舞花の表情の微妙な変化がよく観察できる。自分の口唇を舐める。目を閉じて、眉間に軽く皺を寄せる。顔にかかる吐息が熱い。不意に漏れる、小さな声。震え……。
すべてが、舞花の昂揚を物語っていた。そうした些細な様子を間近にみることで、舞花の内部にすっぽりと収まった栗田は、さらに硬直を増す。
「ん。はっ。はっ」
舞花の押し殺した吐息の音だけが、あたりに響く。最前の行為のような激しさこそなかったが、静かに、そして、より確かに、舞花と栗田は、お互いの存在を感じあっていた。
舞花は自分の体を栗田から離そうとせずに動いているので、結果として、汗に濡れた剥き出しの乳房を、栗田の胸に擦りつけるような格好になる。舞花の豊かな乳房が、栗田と舞花の胸の間で、潰され、たわんでいる。栗田その感触から、舞花の乳首がかなり固くなっていることに気づいた。
「……ま、まい、か……」
ようやく、少しは呼吸が楽になってきた栗田が、それでも苦しそうに、言葉を絞り出す。栗田の上に覆いかぶさるようにして蠢いていた舞花は、上気させた顔を栗田の顔に近づけ、「ん?」と聞く体制に入る。
「……こ、この……」
栗田は、両手を舞花の尻に廻し、がっしりと肉を掴む。
「淫乱! 助平!」
そしてことさら乱暴に、上に乗っている舞花の体を、揺さぶりはじめた。
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競泳水着の誘惑 (24)
栗田の上で、舞花は自在に蠢いている。
その舞花を、栗田は締まりのない顔で見上げている。
「楽しいなあ。気持ちいいなあ。セイッチ」
粗い呼吸の中から、時折、舞花が声をかける。
「すげぇよ。舞花、具合よすぎ!」
下から突き上げながら、栗田も答える。
基本的に、体格差こそあるものの、普段部活でハードな運動をしているだけあって、若い二人には、かなりのスタミナがある。加えて、「覚えたて」のうえ、お互いに相手に対する十全な信頼感もあるので、限界まで、貪れるだけ貪りあうことになる。
すでに二度、射精を行った栗田のほうには、舞花よりは精神的な余裕があった。二人の体液に濡れた股間に指を差し込み、結合部の上部にある、舞花の敏感な突起を、栗田が指で刺激する。
と、
「駄目。駄目駄目ぇ!」
舞花のほうが、声を上げて、再び、急速に先に上りつめはじめた。
結合したまま、栗田が指の腹でその突起を圧すと、それでなくとも自身の動きで半ば理性を失いつつあった舞花は、
「そんなとこそんなところいきなり! あは。あはははは。あはあはぁ」
突如、かすれた笑い声をあげはじめる。
舞花は快楽を貪ることのみに夢中になって、自ら動くことをやめ、力無く自分の上体を腕で支えているような状態になった。舞花が動くのをやめた代わりに、栗田が、下から舞花を容赦なく突き上げはじめる。
段々「コツ」を掴んできたのか、その動きには、最初の頃のぎこちなさはない。
下から突き上げる栗田の動きに合わせて、舞花の大きな真っ白い双丘が、ぶるんぶるん、波打ち、震える。
「駄目。いや! いやいやいや!」
栗田の動きを受け止める一方になった舞花は、そう叫んで、ぐったりと全身の力を抜き、栗田の上に倒れ込んだ。
そのまま荒い息をついて、しばらくは、身動きできない。
「……セイッチ、うますぎ……」
栗田の胸の上に倒れ込んだ舞花が、切れ切れにそう言葉を紡ぐまでに、どれほどの時間が必要だっただのだろう。
「こんな。初めてなのに。わたしたち」
舞花は、汗に濡れた栗田の胸に、指先を滑らせている。
「こんなによかったら、もう離れられなくなるじゃないか……あ……」
何かに気づいたのか、舞花が、小さく声をあげた。
「……中で、まだ小さくなってない……セイッチ、まだいってなかったのか?」
全身汗まみれにになり、ぜいぜいと呼吸をしながら、栗田はようやくこくこくと頷いた。それまでの過重な無酸素運動のつけを取り返そうと、全身の血液がどくどくと脈打って酸素を求めている。むろん、声をだす気力もない。
栗田にとって、身長差が三十センチもある舞花の体を下から突き上げ続ける、というのは、普段の部活動などより、よっぽどハードな運動だった。
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本日は珍しく休日で、ネット徘徊していたら、ふと興味を覚えたblogをもうひとつ見つけました。
「
Sexy_Gentle_Heart -愛の思念を広げよう-」
ぽろりや裸も一応あるけど、あまりエロじゃないっすねぇ。
でも、こういう脳天気なノリは結構好きです。個人的に。
仲間内でわいわい盛り上がりながら撮ったような、そういう写真がイッパイ。
あれだ。日本でいえば、「修学旅行時の異常な盛りあり方」みたいな雰囲気。
こちらのblogに掲載されている人みんな、すっげぇリラックスした笑顔をしていて、平和でいいんじゃないでしょうか?
個人的に興味を覚えたのは、ブログタイトルに併記された、
「女性を蔑視した考えから作られたエロティック画像・動画とは正反対の、愛のある心温まる優しいエロティックさを求めていきたいと思います。」
という文章で、あー、こういう考え方自体に異を唱えるつもりはまるでないんですけど……ポルノグラフィっていうのは、実際にやったら犯罪、あるいは、それ以前に異性に相手にされない方のためのetc、などの理由で「現実に体験することはまず無理」めな願望を仮想体験させる、という機能もあるわけで、画像や動画にしても、それは現実のモデルや女優を「素材」として使った上での「虚構」ないしは「表現」なわけで、現実の性犯罪が横行するよりは、そういう仮想の世界で鬱憤ばらしをしたほうがよっぽど実際的だと思うのだが、いかがなもんでございましょうか?
その「虚構」なり「表現」なりを作成する過程で、人権が蹂躙されるようなケースには、不快感しか覚えないし、無論、反対の立場ですが。
(現実にあるからね。チャイルドポルノを作るために、キッドナップビジネスが「事業」として成立している国とか)
日本でも、やっさん系の企業がクスリ漬けにした女性でブルーフィルムやAV撮る、とか、昔は多かったそうだけど、今の映像産業は、ほとんど合法的な企業が普通に女優やモデルと契約して撮影しているものだと思う。
(流通とか考えても、ある程度ノウハウや資本を持っているところでないと、利益でないと思うし。クスリや借金がらみでどうにもならなくなった女性は、風俗産業のほうに流れるのでは?)
念の為にいっておくと、「女性を蔑視した考えから作られたエロティック画像・動画」の存在自体を「気にくわない」というのは、健全な価値観であり、もっともなご意見だとは思う。
思うけど、現実にニーズがあるからこそ、延々とそういうコンテンツが作られているわけで……法規制とかで無理に抑制しようとしても、そいうものを必要とする個々人の欲望自体までは消せないわけだから、アンダーグラウンドに潜ってなおさら始末の悪いことになるだけ、だと思うけど……。
だから、個人的にはそういうヤヴァめのフェチッシュな欲望は、どんどん虚構のほうに仮託してあっけらかんと楽しんじゃうほうが平和だと思うんだけど……。
あー。
レイプ物のAV愛好家が、全て潜在的な性犯罪者予備軍なわけないし、妹萌えエロゲユーザーの全てが、実際に近親相姦願望があるわけでもないでしょう(笑)
(一部の)女性だって、現実には絶対いそうにない美青(少)年同士が乳繰り合う類のコンテンツをフェティッシュな虚構として楽しんでいるいらっしゃるわけでね。
あれだって見方によっては一種の「男性蔑視」だと思うのだが、個人的には、そういうのをみても別に不快にも思わないし、「誰に迷惑かけているわけでもないのだから、好きにさせておけば」とか思うだけなのですが、そういう鷹揚さで、「ポルノグラフィにおける女性蔑視」についてもお目こぼしいただけないものでございましょうか?
以上、フェミニストでもアンチ・フェミニストでもない一男性の妄言でございました。
……しかし、便器に座った写真が多いのは、外人さんは悪戯としてわりとそういう写真撮るケースが多いからなのか、それとも、このblogの中の人が一生懸命収集したためなのか?
「
J&Yの写真」
「彼女Jの野外での露出写真です。」
という説明から察するに、カップルでモデルとカメラマンをしていて、その写真を公開しているblogだと思います。
「エロ」とか「野外露出」とかいうよりは、「ヌード・ポートレイト」だと思いますので、過激な映像とかがお好きな方にはままりお薦めはしませんが。
あくまで素人が趣味の範疇でやっている感じて、正直、写真のバリエーションや量的には寂しい気もしますけど、モデルとカメラマンの距離感がとても近い雰囲気がでているので、そういう「普通っぽさ」に好感をもちました。
「彼女J」さん、乳大きいし、見栄えするプロポーションだしね(笑)。
ちょっと前には、こういう「普通のカップル・夫婦が運営するほんのりエロな素人写真」のサイトとか、多かった様な気がするのですが、いや、今でも依然として多数あるんですけど、ヘンにメジャーになっちゃって、一部有料化とかセミプロ化とかサーバーが劇重になったりして、個人的なことをいうと、ここ一~二年はその手のサイトから遠ざかっています。
ブログの普及で、もっとこういう静かに愛でるのが似合いそうな、「普通の人」運営のヌード写真とか、もっと増えないですかねぇ……。
競泳水着の誘惑 (23)
二度目だというのに栗田は、舞花の中に大量に射精した。
「……ドクドクいっぱいでてる……。熱いよ、セイッチの……」
舞花は、霞がかかったような瞳で栗田の目を見据え、いった。
「……すごい……いっぱい出た……」
「……ごめん……」
栗田は、舞花から目をそらす。頬を紅潮させている舞花の笑顔が、まぶしい。
「なんで、謝る?」
「……いや、……中に……」
「馬鹿。わたしは最初からそのつもりだった。いいんだ。わたしがそのつもりで、そうし向けたんだから」
「いや、まー……舞花のこと、大切にしたいから……」
「かわいいなあ、セイッチは」
舞花は、自分の上に馬乗りになっている栗田の頭に手を伸ばし、撫でる。
「気持ちはうれしいがな、わたしだってこの年齢で母親になるつもりはないし、ちゃんと計算している。たぶん、大丈夫なはずだ」
頭を撫でられながらも、その「たぶん」というのが結構怖いんですが、とか、栗田は思う。
「そんな不安そうな顔をするな。わたしまで心配になるじゃないか」
舞花はそういって、身を起こして、栗田の口唇を自分の口唇で塞いだ。
「それよりも、まだまだ硬いな。セイッチのここは。元気なもんだ」
くすり、と笑い、繋がったまま、舞花は栗田の体を押し倒し、入れ替わるように、栗田の上に馬乗りになる。
「しかしこれがセックスというものか。こんなに気持ちがいいとは思わなかった……。初めてだから痛かったし、というか、今でもかなり痛いんだけど、それとは別に、痛み以上に、とても気持ちがいい。
わたしは、このまま離れたくない。いつまでもセイッチと繋がっていたい」
興奮しているのか、舞花はいつもよりも饒舌になっている。
「ん。そういうことで、このまま、続けるぞ。そっちも元気なままだし、まだまだできるよな。今度はわたしが上だ。上から押さえつけられて、いいように突かれて、結構フラストレーションがたまっているからな。今度は、はぁ、んん。わたしが、好きに動く」
舞花は、以前として結合したままの状態で栗田の上体を押し倒して馬乗りになり、M字型に両足を開き、ゆっくりと上下に動き出す。
「はぁ。セイッチのここ、またぴくんって大きくなった。ふふ。この助平め」
舞花は栗田の胸と肩に両手を突き、本格的に自分の腰を上下させはじめる。
「す、スケベなのは舞花だろ……」
栗田は、言い返す。
「初めてなのに、自分から上になって、動いて……。それにこの格好だと、おっぱいが揺れるのも、股間の繋がっている部分も、全部丸見えだぞ」
「はっ、はっ。
だって。んん。こんなに、気持ちいいんだもん」
動きに弾みがつきはじめた舞花は、息も絶え絶えにそういいながら、片手で結合部を栗田の視線から遮る。
「駄目。ここは、みないで。……恥ずかしい」
自分から上になって動いているのに、結合部を見られるのは恥ずかしい、という感覚は栗田には理解できないセンスだった。舞花なりの「恥ずかしさの基準」というのもがあって、それと実際の「性行為」と「見られること」とは、別個のものとされているらしい。舞花は水着の上をはだけただけで、下半身の水着は、未だに舞花の肌に張り付いている。汗とその他の体液に濡れた部分は、光沢のある紺色の生地に、斑模様を形作っていた。
こうして下から見上げてみて、改めて感じ入るのは、舞花のプロポーションが、それはもう素晴らしいものである、という事実だった。水着姿をみただけでもある程度は確認できるが、栗田は、舞花が今、全裸ではないことを、ものすごく残念に思った。半裸の今でさえ、舞花のボディラインは、剥き出しになり、汗に濡れて光ながら、上下に弾んでいる乳房も含めて、とても美しい、と、思った。
もちろん、舞花の行為が現在進行形で生み出している快楽のほうにも、かなり気をとられてはいた。
けれどそれ以上に、息をはずませながら、必死になって動いている舞花の姿は、性行為という、卑猥とされる行為の最中であるにもかかわらず、とても健康的なオーラに包まれているように思え、見ているとなんだか切ない気分になって、そのまま渾身の力を込めて抱きしめたくなる……。
そんな衝動に駆られるほど、栗田は、そのときの舞花の姿をみて、どうしようもない愛おしさを感じた。
[
つづき]
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競泳水着の誘惑 (22)
「すげぇ気持ちいいよ。舞花の中。ぴくぴく痙攣してる」
「ん。……馬鹿。こういうときばかり名前呼んで……」
「まだ痛い?」
「痛い。けど、それだけでもない……なんか変な感覚が……あ……」
今や舞花の上で跳ねるように動き続ける栗田の体に、いきなり、舞花がしがみつく。
「変なの! 変なのが! 怖い! 怖いよセイッチ……あ……あ……駄目。駄目駄目……あ。あ。あ」
舞花は栗田に抱きつきい、目を閉じて、ぎゅうっと両腕に力を込める。
「変なの怖いの駄目なの」
「やめる?」
「やめないでやめちゃ駄目」
栗田を抱きしめたまま、背を反らしたかと思うと、左右に肩をふったり、と、舞花の上体も激しく動く。栗田も、せわしなく動き続ける舞花の体を腕で抱きとめながら、結合部だけは外さないようにして、腰を打ち付ける。
「初めて。初めてなのに。こんなの……あ……あ……あ……」
ぱんぱんぱんぱん、と、肉と肉がぶつかり合う音が、響く。
「くるのなんかくるの駄目だの駄目駄目駄目」
譫言のような舞花の言葉が、栗田の耳に届く。栗田の呼吸も、かなり、荒い。
「気持ちいいよ舞花すごくいい気持ちいい」
一度射精したばかりだというのに、下腹部の底から、こみ上げてくる感覚があった。
「出ちゃうよこのままだと出ちゃうよ」
「出して中に出して」
舞花は長い足を栗田の胴体に巻き付け、事実上、栗田が抜くことを不可能にした。
「このまま、一緒に。ああ。来る。来る」
「やばいよ舞花やばいよ」
栗田のどこか冷静な部分が、無理にでも舞花足を振りほどくことを考えたが、舞花は足だけではなく、両腕も使って栗田の身体を逃すまいとしがみついてくる。それに、十分に加速がついた栗田自身の腰の動きも、すでに容易なことでは止められないほどの快楽を栗田に与えていた。
このままぶちまけたいという本能とそれを回避しようとする理性が、ほんの一瞬、栗田の中で葛藤し、すぐに本能が理性を駆逐する。
「舞花いくよこのまま出るよいっちゃうよやばいよ」
「いいのいいの来るの来るのなにか来るの駄目駄目駄目!」
現在の状態を正しく理解できているのかどうか、舞花のほうも栗田にしがみつき、わめく。
「このまま来ていっしょに駄目駄目駄目」
「いくよいくよいっちゃうよ出ちゃうよ」
「いいのいいのいいの本当にいいのなにかくるの」
「舞花舞花舞花」
こらえきれず、栗田も叫んだ。
「いっちゃうよ出ちゃうよやばいよ出ちゃうよ!」
「来て!」
栗田は、その日二度目の射精を舞花の中で行った。
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ありがたいことで、このようなほぼテキストだけの地味なブログでも、ぼちぼち常連さんも増えてきたようでございます。総アクセス数のほうも、じわじわと、ではありますが、おかげさまで着実に増えております。
そこで、アリガチな企画かもしれませんが、当サイトでも「人気投票」なるもをはじめました。
右サイドバー中程に設置しております。
まあ、余興のひとつということで、よかったら使ってやってくださいませ。
なお、投票結果は、投票フォーム下部の「虫眼鏡アイコン」をクリックすることで、誰にでも閲覧できます。
競泳水着の誘惑 (21)
「じゃあ、そろそろ」
「できれば、その……ゆっくり」
「……うん……」
結局、繋がったまま、栗田が舞花の体を押し倒す形になった。
十分に濡れているとはいっても、舞花の中はきつく、いわれなくとも、栗田はそろそろと慎重に、としか、動かす気しかなれない。それでも、ゆっくりと動かしているうちに、ぎちぎちに締め付けられているような感覚が徐々に緩んできて、動きやすくなってくる。そうすると、自然に動かす速度も速くなってくる。
栗田も舞花も不慣れなせいで、不器用で大雑把な動きだったが、舞花のほうも少しづつ、苦痛以外の感覚を得はじめているようだ。「ふっ、ふっ、ふっ」という吐息に、前戯に応えていたような高揚した響きが混ざりはじめる。栗田が出入りしている部分から、再び、潤滑油が潤沢に供給されるようになり、さらに動きやすくなる。舞花は、意外と濡れやすい性質なのかも知れない。我知らず、栗田の動きも加速をはじめる。いちど弾みがつくと、自分でも容易に制御が効かなくなり、栗田はザクザクと乱雑に舞花の中をかき回す。舞花の吐息が「あふっぅ、ぅんふっぅ」という荒いものになり、よく陽に灼けた喉をのけぞらせる。
しまいには、「……も、もっと優しく……」掠れた声で、栗田に訴える。
「ごめん、まーねー」栗田は反射的に答えている。「止まらない。気持ちよすぎ舞花のなか」
「馬鹿」舞花は、栗田にしがみつき、背中に爪をたてる。「こんな時ばかり名前で呼んで。痛いって」
「痛いだけ?」栗田は、相変わらず激しく動きながら、より深く入れる体勢を捜して、舞花の足を組み替える。
「聞くな……ぁあっ。ぁあっ! ぁあっ!……」
腹部は引き締まっているのに、胸と腰周りはふくよかな舞花は、いざ交わってみると、その魅力的な脂肪層がクッションになって、最後の数センチ分、奥に届かないような気がする。突き入れる都度に、栗田の腰が舞花の脂肪を叩く、ぺんちんぺちん、というどこか間の抜けた音がする。そのクッション分のもう数センチ分、奥に入れるために、出し入れをしながら、栗田はいろいろと試してみる。
舞花の両脚を大きく開き、そこに乗りかかる姿勢から、舞花を横臥させ、左股をあげて折り曲げ、右の太股に乗って出し入れするような姿勢に変えてみたところ、
「ぁあっ! ぁあっ! うはっ!」
と、舞花が声を上げはじめた。以前より深く入っている、というわけではないが、以前とは違った部分を摩擦するのが、新鮮な刺激になったようだ。
「……は、激しすぎるって! 初めてなんだぞ。も、もっと優しく……。
くぁっ。あっ。あっ……」
「そういいながら、感じているんじゃん。舞花」
栗田は、動き続ける。気持ちよすぎて、腰が止まらない。
「中の壁、震えてるし」
実際、舞花の内部は、痙攣するような収縮を繰り返していた。同じ締め付けでも、少し前までの締め付けとは、性質が違うような気がする。栗田は、腰を動きをさらに大きくする。
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競泳水着の誘惑 (20)
「あー。舞花……さん」
未だに、舞花を名前で呼ぶことには、抵抗を感じる。
「そろそろ、動いていいかな?」
「あ。……うん」
舞花のほうも、多少は動揺している。あまり表面には出していないが、あんな他愛のないじゃれ合いをした後でも、栗田との距離を測りかねているところがあった。
「まだまだ痛いけど、たぶん、大丈夫。かなりなれてきた感じ……かな?
動かないと、そっちも気持ちよくないんだろ?」
「いや、こうしてじっと抱き合ったまま、というのも結構いいんだけどね。でもそれだと、その、……」
栗田は、上目遣いに、舞花の表情を伺う。
「……ここでやめたら、最後まで、っていうことには、ならないんじゃないのかな?」
実際、栗田の実感としては、さっきのお馬鹿な会話をしたことと、今現在、舞花と繋がった状態であることで、性行為の最中であること、などは、実はどうでも良くなってきている。多少、自分のものがすっぽり舞花の中に収まった、ということへの安心感や充足感もあるが、それ以上に、
──……舞花が舞花であり、自分が自分である以上、こんなもん、いつでもできる行為じゃないか……
今の栗田は、照れも衒いもなく、そう思ってしまえる。
ほんの数時間前には、想像すらできなかった境地である。
「いわれてみれば……そうだな。
せっかく苦労して、痛い思いをして、全部はいったのに、最後までしないというのも、もったいないか……」
屈託のない栗田の表情に、舞花はしばらくに瞼を開閉させていたが、それから一人で頷いて奇妙な納得の仕方をすると、言葉を続けた。
「慣れるとよくなる、っていうし、なにもしなければ、慣れもしない、か……。
まだ痛いけど、痛いだけで終わるのも悔しいから、続けよう、セイッチ」
こういう言い方は、いかにも舞花らしい、と栗田は思う。
「第一、わたしは、もっとセイッチを感じたい」
いや、そういう聞いていて赤面するようなこと、真顔で目を合わせたままいわないでください、舞花さん。抱き合って、これ以上ない、というくらい至近距離に、あなたの顔があるんですから……。
自分の頬が熱くなるのを自覚しながら、栗田も対抗して、真顔で、
「それで舞花さんは、上になるのがいいですか? それとも下になるのがいいですか?」
と、聞いた。
もちろん舞花は、無言のまま、渾身の力を込めて、栗田の頭をはたいた。
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競泳水着の誘惑 (19)
「……はぁ……んんっ……んっ……」
息を吐き、呻きつつ、ゆっくりと、目を閉じた舞花が、腰を沈めていく。剥き出しになった乳房の表面には、うっすらと汗が浮かび、上気した肌に艶を与えている。
舞花のプロポーションが生むシュルエットと舞花の厳粛な表情とが相まって、下から見上げている栗田の目には、「美しい」のを通り越して、「神々しい」とさえ、感じた。
「……ふぅ……」
すっかり腰を降ろし終えた舞花は、大きく息を吐いて、ようやく目を開けた。
「やったぞ……。。……これで、最後まで……」
舞花の目尻に涙が浮かんでいることを確認すると、栗田は上体を跳ね起こして、舞花の体に抱きついた。
「すげぇーよ、まーねー……舞花! 頑張った!」
「……セイッチ……」
抱きしめられ、いきなり耳元で名を呼ばれた舞花は目を見開いたが、すぐに小声で付け加えた。
「でも……その……しばらくは、動かないで欲しい……えと……まだ、痛いし……」
「あは。わははは」
「わ、笑うな馬鹿者!」
「いや。悪い……。じゃあ、えと……キスは?」
「……甘えんぼうめ……」
再び舞花が目を閉じて、顔を下に向ける。身長も座高も舞花のほうが長く、加えて、栗田の腿の上に舞花が乗って繋がっているので、舞花の頭の位置がかなり上になる。
栗田は、背筋を伸ばすようにして、ようやく舞花と口唇を重ねた。
「って、いい雰囲気になっているのにそんなところを触るな、この助平! 変態!」
口唇を重ねながら、栗田が舞花の乳房に手を当てて、にぎにぎと揉んだので、舞花はすかさず爆発した。
「いや、つい……って、そんなに暴れると、痛くないか?」
「痛い! でも、それ以上に腹立たしい!」
舞花は、両手で栗田の両耳を掴み、前後に振った。
「いいか。こんなに痛い思いをして、ようやく一つになったんだからな! これからはもう、絶対ずっと一緒だぞ!」
「あ……ああ……」
その言葉によって、今更ながら、栗田は「あること」に気づいた。
……それって、まーねー……舞花と正式につき合う、っていうことだよなぁ……。
そのこと自体には、全然問題ない。問題なのは、「学校」という閉鎖社会の中で「飯島舞花」という生徒が占めている位置にあるのであって……。
「どうした。浮かない顔して……」
「……いや、……まーねーと公然とつき合うなると、かなり風当たりがきつくなるかなぁ、と……」
特に、女子方面。
舞花は一瞬、きょとんとした表情を浮かべた後、栗田の心配事に思い当たって、声をあげて笑い出した。
「諦めろ。
わたしなんか、今までずっと、何年間もそういう居心地の悪い思いをしてきたんだ。今度はセイッチが苦労する番だな」
にやにやと、意地の悪そうな笑いを浮かべている。
まあ、この人のこういう顔を知っているのも、おれだけなわけだしな、と、栗田は思った。
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競泳水着の誘惑 (18)
苦悶の表情を浮かべ、目を閉じたまま、栗田にしがみついた舞花は、
「続けて」
といった。
その表情をみて、栗田はいいようのない罪悪感に苛まれる。それと、ようやくはいったあそこの先端も、痛い。舞花の入り口はとてもきつくて、まるで万力で締めるつけられているかのようだった。「指か何かでほぐしてから入れた方が良かったかな?」という思いも、ちらりと脳裏をかすめたが、舞花が「続けて」、という以上、途中やめる訳にもいかない。
あとは、舞花の締め付けに、自分のナニが壊れずに保ってくれることを願うばかりだ。そう思うほど、舞花のあそこはきつかった。体は大きいし、十分に濡れているのに、ここはこんなにきつい……。
栗田がゆっくりと侵入すると、舞花が大きく息を吐く。
締め付けがきつくて、栗田自身が痛かったので、進行は、ごくごくゆっくりだった。
入り口さえ入れってしまうと、内部の締め付けは心配していたほどきつくなく、むしろ、中にはいればはいるほど、広くなって、弾力のある壁でやさしく押し包まれている感じがした。それとも、舞花自身がリラックスしてきて、収縮が解けてきた、ということなのだろうか?
いずれにせよ、入り口の部分が、一番、きつい。
「……もう……入った?」
「えーと……三分の一くらい、かな?」
舞花は、目を閉じたまま、栗田にしがみつき、大きく息を吐いた。
「続けて」
相変わらず、表情が痛々しい。
すぐに、それまでにない抵抗を感じる箇所に、いきあたった。
「あ」
なにか感じるところがあったのか、舞花も栗田に、いった。
「ちょっと、止まって。休憩」
そういって、相変わらず目は閉じたままだが、栗田の胸を掌で押して重心を変え、ゆっくりと押し倒す。横たわった栗田の胸に両手をつき、舞花が覆い被さっている。
「ここからは、わたしが、入れる」
目を閉じたまま、栗田の上に覆い被さった舞花がいった。「まーねー」でも「舞花」でもなく、「飯島先輩」の、クールな表情だった。
「痛いし、それ以上に怖いけど。
いいか。こんなことをするのは、セイッチ、お前にだけだからな」
舞花の声は、震えていた。
舞花は、身震いしながらも、ゆっくりと、自分の腰を降ろしはじめた。
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競泳水着の誘惑 (17)
「えーと……ここでいいの?」
「んー。たぶん」
舞花が全裸になることを恥ずかしがったため、相変わらず舞花の下半身は水着に覆われている。上半身だけをはだけた舞花と全裸の栗田が相対して座り込み、水着の脇からお互いの性器を接しようとしている光景は、傍目には滑稽な光景だったが、当事者たちの表情は真剣そのものだ。
「あああの、本当に、怖いんだからね。自分の指も、入れたことないんだから」
「あー。なるべく、ゆっくりする。さっき一回出したし……」
栗田は、舞花の腰の両脇に手をかけて固定し、しずしずと自分の腰を舞花のほうに近づけた。舞花は、栗田のを指でしかるべき箇所に固定し、導いている。硬いままの栗田の先端が、舞花の濡れた肉を割って中に入ろうとする。
「ぎ」
と、舞花が息を吐いた。いや、歯ぎしりの音だったのかも知れない。
「大丈夫? 痛い?」
「痛い。それと、怖い」
まだ先端が軽く割れ目に触れている程度で、内部には侵入していないのだが……。
「というか、本当に、こんなに大きいのが、全部はいるのか?」
「た、たぶん」
初めて同士だと勝手が分からなくて、いろいろと大変ではある。
「じゃあ、いくよ。舞花」
「あ」
「なに?」
「初めて、まいか、って呼んでくれた」
「あ」
二人して顔を赤くして、俯いて、黙り込む。
「……じゃ、いくから。ゆっくり」
「……ん……」
舞花が、俯いたまま、両手を栗田の胴体に回し、自分の体を、栗田の胸に密着させる。「あ。胸板が厚い」、と、舞花は思った。
「きて」
目を瞑り、舞花が、いう。
めりめりと、栗田の肉が、自分の肉を割る感触があった。
舞花は、歯を食いしばる。ふうぅ、っと大きく息を吐いて、訊ねる。
「入った?」
「先端だけ。痛い? やめる?」
「大丈夫。まだ、痛くない」
本当は少し、痺れに似た感じがする。でも、まだ我慢できないほどでもない。
しかし、これで先端だけなのか。
怖くて、目を開けられない。
舞花は大きく息を吐いて、栗田の体にしがみつく。
「続けて」
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競泳水着の誘惑 (16)
「やぁ!……だめぇ!……馬鹿!……いやぁ!」
嬌声なんだか悲鳴なんだか区別しかねる舞花の叫びを頭上に聞きながら、栗田は舞花の股間に顔を埋め、舞花の分泌した体液で濡れた水着越しに、形が明瞭になっている溝とその両端のかすかな膨らみを、鼻先と舌でたどっていく。時折、水着の脇から指を差し入れ、陰毛をかき分けて、襞の内側の湿った感触も確かめる。舞花の反応が予測不能なので、指をあまり奥深い部分にまでつっこむ、という事はなかったが。
とにかく、水着一枚を隔てたところにある舞花の股間部は、童貞である栗田の最大の関心事である、といっても過言ではなく、その部分のことを知るためには、多少の無理も辞さない覚悟だった。
最初のほうこそ、栗田とその行為を罵りながら、太股で栗田の頭を締め付けて、暴れていた舞花だったが、いざ実際に、そこの部分に栗田の舌が触れ、水着越しに、ではあっても、ぴちゃぴちゃと盛大に音を立てて舐められはじめると、徐々に抵抗する気力も失っていき、終いには、栗田の頭を両手で押さえ、自分の股間に押しつけるようになっていた。
しばらく、押し殺した舞花の声と、水音だけがあたりに響く。
「……馬鹿ぁ。変態。助平」
ようやく、栗田が頭を舞花の股間から離すと、舞花はぐったりした様子で、荒い息の中から、ただそれだけの単語を並べた。ただ、それらの単語には、罵倒というよりは、照れ隠しか、それとも、甘えているような響きの方が、強かったが。
「……感じていたくせに……」
「いうな、馬鹿!」
舞花は平手で栗田の肩を叩こうとしたが、栗田はその動きを予測していたので、さりげない動作でかわし、かわりに、ぐったりしている舞花の頭と肩を、自分の胸元に引き寄せて、抱きしめる。
「やっぱりかわいいなぁ、まーねーは……」
「……あ……う……あ……」
栗田から見える舞花の耳の裏が、覿面に、真っ赤になる。
「ばばばばばばば馬鹿!」
叫んで暴れようとする舞花を羽交い締めにして、無理に押さえ込みながら、栗田は、舞花の耳元に囁いた。
「そろそろ、その、……まーねーの中に、入れたいんだけど……」
「……ぁぅ……」
その言葉を聞いた舞花は、栗田の腕の中で、途端に静かになる。
「……いいよ……その……あの……」
舞花は、栗田の腕をふりほどき、同じ目の高さで、向き合うようにする。
「でも……その……『まーねー』じゃなくって、『まいか』と呼んで欲しい」
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競泳水着の誘惑 (15)
栗田は露出した舞花の乳房に顔を埋め、本能と欲望の命ずるままに、思うさま、こねくり回す。舐め回す。
「……すげぇ……」
顔を埋めながら、栗田はいった。
「すげぇよ、柔らけぇーよ。まーねーの胸」
「……いちいち言うな、馬鹿ぁ……んん……」
目を閉じて、なにかに耐える表情をしながら、舞花は栗田の頭と胴体に手足を巻きつけている。
「セイッチの顔……とても、熱いぞ……」
いって、舞花は「はぁ」と息を吐く。吐息が、舞花の胸に頭を密着させていた栗田のうなじを、なでる。
熱い。
栗田は両腕で舞花の腰を引き寄せ、さらに体を密着させ、仰ぎ見るように顔を上に向け、舞花の口唇を、求める。
「甘えん坊め」
軽く笑いながら、舞花は、二、三度軽く口唇を押し当てた後、長く口唇同士を合わせる。どちらともなく、お互いの口内に舌を差し込み、絡ませる。
そうしながらも、栗田は半ば無意識的に、密着させている腰を前後に揺すりはじめた。
すっかり硬くなっている栗田自身が、濡れた水着越しに舞花の敏感な部分を刺激し、舌を絡ませながらも、舞花は喉の奥で「んん」と、うなった。
「はぁあぁ……」
口を離して、舞花はいった。
「……元気すぎるぞ、セイッチの……」
頬が紅潮し、瞳は潤んでいる。
栗田は応えず、無言で口唇を舞花の首にあて、肌につけたまま、首筋を下がっていく。ゆっくり時間をかけて首や鎖骨を舐め、再び、乳房と乳首にとりつく。乳房の重みを確かめるように、掌で弄びながら、乳輪が小さくて色の薄い乳首に、軽く、歯をたてる。
「んん!」
舞花が、首を後ろにのけぞらせて、うめく。
「痛い?」
強く噛みすぎたかな? と思った栗田が訊ねると、
「いや。この程度で、ちょうどいい。……気持ちいい」
意外に素直に、舞花が答えた。
「じゃあ、もっとやろう」
ちゅぷちゅぷとことさら水音をたてながら、栗田は舞花の乳首を舐め回し、歯をたてる。同時に、もう一方の乳首も、故意に爪を立てるように摘みあげ、引っ張る。
「ん。あぁ……」
舞花のうめき声には、せつなげな響きが混じるようになっている。
「そろそろ、下のほうも……」
盛り上がってきたかな? と判断した栗田が、舞花の下半身に手を延ばそうとすると、
「……まだ、だめ……」
息も絶え絶えに、それでも、舞花は拒絶した。
「……そっちは、本当に、恥ずかしいから……」
そういって、自分の掌で、股間を覆う。
「さっき、さんざん触ったじゃん」
「……触るのは、いいけど……」
触るのはいいが、その部分を露出させたり見たりするのはNG、ということらしい。
ここまできて恥ずかしがる、という基準や気持ちは、栗田には理解できなかったが、とりあえず、「舞花の基準」に従うことにする。
「じゃあ、水着越しに、舐める」
栗田はそう宣言して、目を丸くするばかりの舞花に、抵抗する猶予を与えず、素早く股間に顔を埋める。
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競泳水着の誘惑 (14)
「続けるの? 続けていいの?」
「……いいから」
「まーねー、ちゃんと感じてる?」
「……」
「ちゃんといわないと、やめるよ」
「……い、いじわるに育ったな、セイッチは……」
栗田は無言で指の動きを早める。
「……ん。ん……」
舞花は眉間に皺をよせてなにかに耐える表情をしていたが、やがて、栗田の耳元に口を寄せ、
「……感じてる。うまいな、セイッチは。本当に初めてか?」
ぽつり、と、囁いた。
「いや、まーねーがすっかり濡れてるから……」
『滑りがいい』、といおうとして、イヤというほど背中をつねられる。
「せ、セイッチだけだからな! わ、わたしがこんなことするのは!」
照れ隠しなのか、舞花はことさら大きな声でいう。
「かわいいいよ、まーねー」
股間に指をあてたまま、栗田は舞花の上に覆い被さり、舞花の豊満なバストに顔を埋める。しばらく水着越しに感触を楽しんだ後、顔を舞花に近づけ、
「そろそろ、脱がしていい?」
と訊ね、返事を待たずに、口唇を塞ぐ。さんざん、ねっとりと舌同士を絡ませた後、ゆっくりと顔を離すと、頬を染めた舞花が、
「……恥ずかしいんだからな……本当に……」
ぽつり、という感じで呟く。
その返事を「消極的賛成」と解釈した栗田は、口で、舞花の水着の胸の部分を、引っ張る。
ぷるん、と、大きいだけではなく、形もいい乳房が、露わになった。お椀型で、しかも、寝そべっていても平らにならない。乳首も乳輪も小さくて、見た目の印象が「かわいい」。色素も薄かった。
「……うぉおぉぉぉ……」
思わず、栗田は小さく驚嘆の声をあげる。
「……かっこいいぃ……」
「……馬鹿ぁ……」
顔を真っ赤にして、舞花は露骨に視線を逸らしている。
血が昇って朱に染まった部分、健康的に日焼けした部分、水着の形に、日焼けから免れて本来の肌の白さを露呈している部分、水着の部分……眼下の舞花の様子をじっくりと見つめていた栗田は、ごくり、と固唾を飲み込むと、一息深呼吸をして、露わになった舞花の豊かな乳房に、顔を埋める。そのまま、かわいい乳首を口に含む。舌でなぶり、軽く歯をたてる。
「んん!」
小さく声をあげた舞花が、両手で栗田の頭を、両足で栗田の胴体を、力を込めて抱きとしめた。
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競泳水着の誘惑 (13)
「……ぃやぁ……はぁ……はぁ……」
指を溝に沿って何度か往復させると、舞花は明らかに喘ぎはじめた。声を抑えようとしているようだが、完全に成功してはいない。
「気持ちいいの? ここ?」
「……聞くな、馬鹿」
掠れた、かろうじて聞き取れる程度の小声で囁いた舞花は、「ん」と、呻いて、目を閉じて、栗田の首にしがみつく。
栗田は、「おー。こういう反応するのかー」と、思った。
自分でも、どうにか舞花を喜ばせることができるらしい。調子に乗って、指の動きを早くする。
「ん。ん。ん」
呻いて、舞花は、両腕だけではなく、両足も栗田の胴体に絡ませてくる。
指を動かしながら、栗田は頭を下げて、舞花の乳首を軽く噛む。
「んんっ!」
小さく叫んで、舞花の体が、少し、跳ねた。股間は、栗田が指を動かす都度に水音がするようになっている。
「まーねー」
栗田は舞花の耳元に口を近づけ、囁く。
「……あふれてる……」
「やぁ……」
舞花は、栗田の首に回している両腕に、力を込めた。
「……いわないで……」
声が、本当に、小さい。
目の前にある耳たぶを、栗田は口にくわえ、甘噛みした。それだけで、また、「ひゃん」と、舞花が、小さく鳴く。
舞花の股間を弄る指は離さずに、もう一方の腕を舞花の腰に廻し、ゆっくりと体を倒す。愛撫されるまま、仰向けになった舞花の上に、栗田は覆い被さった。
その体勢で、片手を股間、もう片方を乳房の上に置き、乱暴に揉みしだく。すでに十分に高ぶっている舞花は、もはや乱暴な愛撫にも、痛みよりは快楽を感じるようになっているらしく、いっそう大きな声を上げはじめた。
「わかいいよ、まーねー」
手で、体で、舞花の熱い体の感触を楽しみながら、栗田はいった。どこをどのように触っても、舞花の体は反応するようになっている。
「そろそろ、まーねーに、直に、触れたい」
「……まいか、って……」
息も絶え絶えにそういったのが、舞花の答えだった。
「二人っきりのときは、まいか、って……ん……まーねー、じゃなく……まい、か……あ。ん。ん」
栗田が水着の隙間から指をいれ、陰毛をかき分けて直に舞花自身に触れると、それだけで舞花は体全体を震わせた。じょりしょりとした感触の陰毛をかき分け、つるつつと濡れた溝の部分に指をあて、ゆっくりと上下に動かす。
「おー」
栗田は感嘆の声をあげる。
「こういう風になってるのかー」
「馬鹿!」
舞花は、目の前にあった栗田の耳たぶに噛みつく。
「痛いって。なんだよ。自分だってさっき、おれのさんざんいじくってたのに」
「だからって、いちいち声に出さなくても……んんっ!」
適当に動かしていた指が、どこか敏感な場所に触れたのか、舞花はびくんと体を大きく震わせる。
「痛かった? やめる?」
「……やめるな……」
荒い息の合間に、舞花が、なんとか声を絞り出す。
「……続けろ……」
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競泳水着の誘惑 (12)
ようやく、長々とした──とはいっても、実際にはせいぜい数秒だったはずだが、受け止めていた舞花の主観によれば、とても長い時間だった──栗田の射精が終わる。
と、途端に、舞花は自分で自分の口を押さえ、更衣室の壁一面にしつらえてある棚の方にとことこと走っていった。そこで、片手で自分の口を押さえつつ、もう一方の手で、もどかしげな動作で自分の荷物を探ると、中からなんとかティッシュを取り出し、乱暴に何枚かを引き出し、その中に、口の中に含んだ物体を吐き出す。
「……うぅえぇ……」
低く、呻く。
心持ち、顔色も悪い。
「……飲み込もうと思ったけど、できなかった。あんな味や臭いがするとは、思わなかった。……吐きそう……」
栗田は、その場にぺたんと座り込んでゆらゆらと上体を揺らしている舞花の背を、後ろから抱きとめる。
「……あのなぁ……。
なにを考えているんだ、まーねー……」
かなり呆れながら、訊ねた。
「いや……ははは……あのまま出たら水着にかかるな、とか、『受け止めてやる』といっちゃったしな……とか、思って、……。
実際にでてきそうなの目の前でみていたら、なんか反射的にくわえてた……」
……行動の予測がつかない人だな、と、改めて栗田は思い、舞花の肩を抱く腕に力を込める。
「そのまま飲み込もうと思ったんだが……駄目だな、あれは。ああいうものだとは思わなかった。想像していたのと、ぜんぜん違ってた」
「……あのなぁ……」
……なんといったら、いいのやら……。
思案する栗田の手をほどき、舞花は向き直る。正面から顔を見つめながら、栗田にしなだれかかる。
「なんだ。まだまだ元気じゃないか」
下のほうに手をやって、栗田の状態を確認する。
「しきり直しだ。このまま続けるからな」
いって、目を閉じて口唇を近づけてくるのだが。。舞花のその口元からは、たった今栗田が出したものの臭いが濃厚に漂ってくるんですが。。栗田は悲鳴をあげてその場から去りたい衝動を懸命にこらえ、こわばってひきつった表情のまま、従容と自分の匂いのする舞花の口唇を受け止めた。
……それ以外の選択肢は、栗田にはなかった。
長々と舌と舌を絡ませている間に、栗田の体は、舞花にゆっくりと押し倒される。
「すごいな、セイッチのここ。一回だしても、全然元気だ。収まってない」
間近でみる舞花の顔は、明らかに上気していた。
「……まーねー……」
栗田も、一度射精して、しかもそれを舞花が受け止めようとしたことで、「とことんやる」という合意を得たことに確信がもてたので、大胆になりはじめている。
「……今度は、おれが……」
口唇を重ねながら、舞花の体をまさぐる。特に、今まで遠慮していた下半身を中心に……舞花の股間の溝を、形を確かめるように指でさすると、その部分だけほかの部分と感触が違うことに気づいた。
「あ……湿ってる……」
「ば、馬鹿ぁ……」
舞花が、鼻にかかった声で答える。
「……そういうこと、……ん……いちいち声に出すなぁ……」
水着の上からでもわかるくらいに、そこの部分だけが舞花の分泌した体液より、湿っていた。
[
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