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ぼくと彼女の、最後の前の晩 (3)

ぼくと彼女の、最後の前の晩 (3)

 湯船にお湯がたまるまでの間、ぼくらはお互いの体にシャワーをかけ、洗いあったりした。ちょうど、ぼくらの関係がぎくしゃくしだす前、つまり、彼女が別れ話を切り出す前に、割とよくやっていたように。
「こうやって洗いあうのも、もう最後だね」
「たぶん、な」
 以前なら、お互いに微笑み合いながら前戯としてやっていた行為を、今は穏やかな静粛のなかで、しかし、たしかに二人ともリラックスして楽しんでやっている、ということで、こうした実感は、決してぼくだけが感じていたわけではないと思う。
 その証拠に、ぼちぼちお湯が張ってきた浴槽に、二人して折り重なるようにしてつかると、彼女は「ふぅー」と大きく息を吐いてからこういった。
「……んー……気持ちいい……」
 まずぼくが浴槽に入り、そのぼくに背をつけて、彼女がつかる。備え付けの浴槽はさほど大きなものではなく、そうして重なるようにして、ようやく二人一緒に入ることができた。
 体重と、自分の頭をぼくの胸に預けるようにして、彼女はお湯につかっている。ぼくのほうは、彼女を入れる空間を作るために、両肩はお湯の上にだしている。
「君とこうしていると、本当に落ち着くんだよなぁ……」
「今の彼とは、しないのか?」
「するけどね。まだまだつきあい始めだし、結構がっついてくるから、裸になるとあんま落ち着かない……」
「そんなもんかね」
「そういう君も、けっこうがついてたぞ。はじめの頃は」
 そういって、ケラケラと笑い声をたてる。
「それがいまでは、一緒にお風呂にはいったくらいでは勃たないし」
 もぞもぞとお尻を動かす。
「ほら。勃ってない」
 ぼくは、ため息混じりに、
「あのなぁ」
 といった。
「今更勃起してもしかたがないだろ。これからやるわけでもないし」
「え? やらないの?」
 彼女が急激にこちらへ振り返ろうとしたので、彼女の頭がぼくの顎にぶつかった。
「あのねえ。若いのに、あきらめのいいのも考えものだよ。いい? こっちからお風呂に誘って、それに、もうお布団、一組しかないんだよ。一緒に寝て、なにもなしですむの? わたしって、そんなに魅力ない?」
 ぼくの顎にぶつけた部分を手でさすりながら、彼女はまくしたてる。
「今の彼氏に悪いとか、そういう発想はないのかね?」
「それはそれ。彼とはね、正直、君とつきあってた頃から何度かやっているわけだし、君とつきあっていることも知った上でそういう関係になった訳だし、明日、引っ越すまでは同棲していることも、しっているし」
 やれやれ、という感じで、彼女は首を振る。
「つまり、向こうは君から女を奪った側であって、暗黙の了解としてその程度のことがありえる、ということぐらい弁えているはずでね。後はまあ、こちらと君、当事者二人の主体性の問題だな……
 しかしまあ、本当に……」
 彼女はぼくの目をまじまじと覗き込んで、芝居がかった調子で、こう言い放った。
「控えめで遠慮がちなのも、ほどほどにしないと……もう、わたし、ついていてやれないから。
 君のその、何でもすぐに諦めてしまう癖、はやいうちに直さないと、そのうち、なにもかもなくしちゃうぞ」
 そして小声で、「このわたしみたいに」と付け加える。


[つづき]
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