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髪長姫は最後に笑う。第四章(42)

第四章 「叔父と義姉」(42)

 翌朝、支度を終えた荒野と茅がエレベータを降りて玄関前までいくと飯島舞花が立っていた。舞花と挨拶を交わしていると、すぐに栗田精一の乗るママチャリがもの凄いスピードで突っ込んできて、マンションの前で急ブレーキをかけ、数十メートルタイヤの跡を路上のアスファルトに刻んで、ようやく停まる。
「……あせったー……」
 冬の朝だというのに、栗田精一は汗だくだった。舞花から受けとったハンカチで汗を拭きながら、栗田はぼやいた。
「今日からこっちに寄ってから学校行くってこと、すっかり忘れてた……」
 栗田の家は学校の向こう側に位置し、もちろん、こっちのほうに寄るよりも直接学校に直行した方が、早い。しかし、栗田は舞花の命令にはほぼ無条件で従うようになっているのであった。
 栗田が汗を拭っている間に、隣りの狩野家から狩野香也、松島楓、才賀孫子の三人が出てきて、前後して樋口兄弟も集まってくる。樋口兄弟の弟の方、大樹はなぜか野球帽をかぶっていた。制服にまるで似合っていない。
 挨拶をしあっている間に栗田は乗ってきたママチャリをマンション駐輪所に置いてくる。学校にも駐輪所はあるが、使用には登録など面倒な手続きが必要、とのことだった。今朝になって急に自転車を使用することになった栗田は、当然その手続きをしている筈もない。
 荒野が軽い気持ちで、
「なに、これ?」
 と樋口大樹の帽子を取ると、その下からは剃り跡も青々しい大樹の頭部が出てきて、皆を驚かせた。五分刈りとかよりももっと毛足が短い、丸坊主だった。バリカンを使った後、剃刀でもあてたのではないか。
「……昨日、未樹ねーの練習台にされちゃって、いろいろやっているうちに凄い髪型になっちゃって……」
 結局、頭髪全部を極端に短くしなければどうしようもならなくなった、とは、大樹の姉である明日樹の談。樋口明日樹はそう説明しながら、携帯のカメラで撮影した大樹の「すごい髪型」の写真を、皆に回して見させた。
 大樹は、当初、
「……あすねーだって、昨日、おれのこと押さえつけてた癖に……」
 とかぶつくさいっていたが、そのうち、
「おれ、今年から硬派でいきますから」
 とか、わけの分からない開き直りをしてみせるようになった。

 学校に近づくにつれ、荒野たちと同じ制服に身を包む学生の数が増える。荒野たっちをみて指さしたりひそひそと囁き合ったりする姿が目につくようになった。
 年末以来、荒野たちは地元の有名人である。マンドゴドラの店頭では、いまだに着物姿の荒野と茅が見つめ合ったりケーキを食べたりする映像が流れている。
「…………ネコミミ……」
「……サンタ…………」
「……トナカイ……」
 などの単語が漏れ聞こえてくる。
 囁き合っているのは主として女子生徒で、男子生徒の調子のいいのになると、時折「ケーキ食え猫耳」などとわざわざ遠くから声をかけてくる者もいる。
 止せばいいのに茅がその声の主に気まぐれにVサインを送ったりするから、周囲にいた女生徒が黄色い声を上げたりする……。
『……目立たない、という選択肢が……最初から潰されている……』
 荒野は内心で嘆息した。当初の荒野の目論見では、茅と荒野は平凡な一生徒としてひっそりと埋没して暮らしていく筈、だったのだが……。
『こも面子では、無理な相談か……』
 年末からこっち、大小さまざまな不測の事態を経験してきた荒野は、今では半ばあきらめてもいた。

 学校に通学した経験のない茅と松島楓が、才賀孫子に学校生活についてなにやら質疑応答めいた会話を重ねている。しかし、茅と楓に答える孫子のほうも、良家の子女が通うような浮き世離れしたお嬢様学校にしか通学した経験がなく、孫子の説明する「学校生活」は、これから荒野たちが通うことになるごくごく普通の公立校とは、大きく様相を異にする。その相違点を、基本的に真面目な樋口明日樹が一つ一つ訂正していって、その度に孫子は焦りをみせながらも必死になって前言を訂正し誤魔化そうとする。その孫子の誤魔化し言辞の矛盾点を、茅が悪気もなく冷静につっこむ。楓は、誰の話にでも素直に感心して頷いている。
 その向こうでは、狩野香也が級友らしい男子生徒になぜかヘッドロックをかまされていた。香也にヘッドロックをかましていた男子生徒の背後に飯島舞花がそっと近寄り、その男子生徒の脳天に空手チョップを食らわせる。男子生徒は驚いて攻撃者の方向に振り返ろうとするが、その隙に舞花は、その男子生徒の首に腕を回し、締め上げる。動脈を押さえられているのか、男子生徒の顔色がすぐに蒼白になる。その向こうでは栗田精一が「やれやれ」といった様子で肩をすくめている。栗田は、こうした舞花の言動に慣れているのかもしれない。
 香也と舞花と男子生徒の三人の塊は、多少もみ合っていたもののすぐにほどけ、舞花はその男子生徒と向き合って二、三、言葉を交わした後、すぐに先行していた荒野たちに追いついてきた。
 樋口大樹が、香也にいきなり組みついた男子生徒の名は「柊誠二」で、香也と同じ一年A組の生徒だと教えてくれた。大樹は「すかしたやつ」といい、見境なく標準以上の容姿をもつ女生徒に声をかけまくっている、と、柊誠二について説明した。なるほど、その柊誠二とやらは、いかにも軽薄そうな雰囲気を漂わせていたが、容姿はそこそこ整っていて、本気で相手にされることは少ないにしても、それなりに女生徒には人気があるのではないか、と、荒野は判断する。世渡りと他人のご機嫌をとるのが巧そうなタイプだ、と、荒野は思った。
 強面を気取っていても、実は単に不器用なだけ、というタイプの大樹とは、反対のタイプである、といってもいい。
 大樹の柊誠二評は、かなりやっかみも入っている、と、荒野は推測した。
 そんなことを言い合っている間にクラスの話しになり、茅と楓が香也と同じ一年A組、香也と才賀孫子が樋口明日樹と同じ二年B組、ということが判明した。
 ちなみに、樋口大樹と栗田精一は一年D組、飯島舞花は二年E組だという。

 そんなことを言い合っているうちに学校に到着し、在校生はそれぞれの教室に向かい、香也、茅、松島楓、才賀孫子の転入生組は買ったばかりの上履きに履き替えて、職員室に向かった。
『……さて、と……。
 いよいよだな……』
 普通の生徒として学校に通う、ということは、茅にとっては一般社会に馴染むためのリハビリの最終段階であり、茅とは違うが、荒野にとってもそれなりに重みを持っている。それまで与えられた命令を遂行する立場だった荒野が、初めて自分の裁量で一から指揮した計画が、乗るかそるか、という大きな分岐点になるはずだった。
 職員室の前で、他の三人を見渡し、頷き合う。
 深呼吸して、
「……失礼します!」
 と声をかけて職員室に足を踏み入れる。
 と、
「……コウ! わたしのコウ!」
 突然、なにか柔らかくていい匂いのする、暖かい物体に、首に両腕を回され、抱きつかれた。

 荒野も、荒野の背後に控えていた三人も、職員室にいた職員たちも……。

 その瞬間、その場に居合わせた全員が、凍りついた。

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彼女はくノ一! 第四話 (2)

第四話 夢と希望の、新学期!(2)

「……飯島……とりあえず、初対面の下級生と道端でプロレスごっこもなにかと思うよ……」
 香也にヘッドロックをかました男子生徒にさらにヘッドロックをかましている飯島舞花に、樋口明日樹は冷静にツッコミを入れた。栗田精一は、舞花の背後から「もっといってやってもっといってやって」と小声で明日樹に声援を送っている。
「……ただでさえ、注目浴びているのに……」
 樋口明日樹は周囲を見渡す。
 プラチナブ・ロンドでハーフ顔の加納荒野、黒髪ロン毛の加納茅、手足が長くすらりとした体型の才賀孫子、背こそ低めだがトランジスタ・グラマーな松島楓……という、見慣れない美形が制服姿で団体作っているだけでも充分に注視を浴びるに足る。
 加えて、傍らには飯島舞花と名前を知らない男子生徒と狩野荒野が三連ヘッドロック状態で固まっており、スキンヘッドの樋口大樹と栗田精一、樋口明日樹も一緒にいる……という状態である。
 ……狩野香也がとっつかまっていなかったら……樋口明日樹はその場から全力疾走で逃走していただろう。
「……ああ、っと……」
 樋口明日樹にそう指摘され、飯島舞花もきょろきょろと周囲を見渡す。
「……そ、そうだなぁ……」
 上擦った声で「ははは」と笑いながら、首を極めていた下級生の体を路上に叩きつけ、
「……じゃ、いこうか」
 と、なにもなかったかのように、同行していた者たちを即して立ち去ろうとする。
「ちょっと待て!」
 舞花に路上に投げ出された少年が、体をはたきながら起きあがり、怒気を含んだ声で舞花を呼び止めた。そして、ツカツカと一人だけ戻ってきた舞花の姿をみて、呼び止めたことをすぐさま後悔した。
「なに? まだなんか用?」
 一人戻ってきた舞花は、少年のすぐ側まで近づいて立ち止まった。
 飯島舞花の身長は百八十を越える。対して、少年のほうは百六十そこそこである。三十センチくらいの近距離になると、少年が舞花の顔をみようとすると、仰ぎ見る恰好になる……。
『……でけぇ……』
 胸も、背も……。
 直前まで迫ると、いっそう迫力があった。
「……君が狩野君にちょっかいださなければ、わたしも君になにもしなかったんだからな……」
 舞花がそういうと、少年はコクコクと頷いた。後ろで栗田が「嘘つけ。楽しんでいた癖に……」と小声でいったのにも気づかず、ただただ舞花の迫力に呑まれている。
「じゃあ、そういうことで。
 君も早く来ないと遅刻するぞ」
 少年が頷いたのを確認した舞花は、そのままきびすを返し大股で立ち去った。その後をちょこちょこと舞花の分の鞄も持った栗田精一がついてく。
『……カッコいい……』
 少年は登校するのも忘れ、しばらく飯島舞花の背中に見入った。

「……ねー。今の子、誰?」
「……んー……多分、クラスメイト……」
「……多分、ってことは、名前覚えてない?」
「……んー……」
 先行集団の中で、樋口明日樹と狩野香也はそんな会話をしているうちに、飯島舞花と栗田精一が追いついてくる。
「なに? 今の軽そうな子、狩野君のクラスの子?」
「みたい。名前は知らないみたいだけど……」
「……んー……顔は、見覚えある……」
 明日樹、舞花、香也がそんな会話をしていると、
「今のすかしたのは、柊誠二。女子に片っ端から声かけまくっているナンパ野郎」
 と、樋口大樹が横合いから助け船を出した。
「……その割には、うまくいったって話しは聞いたことねーけど……」
「……ああ。転校してきた別嬪さんたちが目当てかぁ……」
 飯島舞花はうんうんと頷いた。
「……これから、狩野君も大変だなあ……ああいう手合い、これからうじゃうじゃ湧いてくるぞ……」
「…………んー?」
「だって、ほら。
 柏が君ん家の状態について、噂広めているって話しだろ?」
「……んー……」
 冬だというのに、香也の額にじわりと汗が滲みはじめた。
 その香也の袖を、松島楓がつんつんと引っ張る。
「……お守りするのです」
 楓がそういうと、香也と楓の二人の方に顔を向け、才賀孫子が一瞬香也の顔をなんともいえない表情で、一瞥しだ。
『それ……逆効果……だと、思うけど……』
 内心でそう思いつつ、口では「……んー……」と不明瞭なうなり声しかあげられない狩野香也だった。
「そういや、狩野って柏と同じクラスなんだろ?」
 香也の顔色をみて、割と察しのいい栗田精一がさりげなく話題をそらす。栗田は、柏あんなとは同じ水泳部で、香也と知り合う前から面識があった。
「……んー……一のA……」
 明らかにほっとした表情で、香也は栗田の誘導に乗る。
「え? 一のA?」
 松島楓は驚きの声を上げて、加納茅と顔を見合わせる。そして片手を上げて、
「……わたしたちも、一年A組だっていわれているんですけど……」
「同じクラスになるの」
 楓の言葉を、茅が裏付けた。
「へー。もう編入するクラスまでわかっているんだ……」
「うん。この間、教科書とりに来た時に……」
 加納荒野も片手をあげて、頷く。
「おれと才賀は、二年B組だって……」
「二のB……じゃあ、樋口のクラスじゃないか……」
「……そう、みたいね……」
 荒野の言葉に、舞花と明日樹が顔を見合わせて頷きあう。

 その周囲を遠巻きにして聞き耳を立てていた生徒たちが、慌てて携帯電話を取り出し、メールで転入生たちの編入クラスを友人たちに送信しはじめる。
 香也たちの団体はその様子に気づいてはいたが、暗黙裏に「とりあえず無視する」ということにして、先を急いだ。

 そんなことをいいあっているうちに学校に到着し、玄関口で「職員室に寄るように言われている」という転入組は職員室へ、在校生たちはそれぞれの教室へと別れた。

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髪長姫は最後に笑う。第四章(41)

第四章 「叔父と義姉」(41)

「茅、どんどんえっちになってく……」
「……そんなんじゃ、なくて……」
 茅は荒野の裸の胸の上に突っ伏し、体重を預け、切れ切れに囁いた。
「……明日から学校……荒野と二人の時間、減るから……」
 荒野と茅は学年が違うし、日中はほどんと会えなくなる筈だった。
 たしかに、茅の今までの境遇を考えれば不安も多いだろうが……今後、一般人に紛れて暮らすのには、学生として過ごす数年間の経験は必須な要素だと荒野は思っている。また、茅には、同じ年頃の友人をまだまだたくさん作ってもらいたい、とも……。
「……荒野は、寂しくないの?」
 荒野がしばらく黙って茅の髪を指で梳いていると、茅は顔を上げて荒野の目をまともに覗き込み、尋ねる。
「……おれ、茅と違って、一人には慣れているし……」
 幼い頃、家族代わりになって親身に世話をしてくれた人々は、何人もいた。
 だが、それらはあくまで仕事として「家族の演技」をしてくれた訳であり、いくら真に迫っていようとも、演技は演技なのだ……と、荒野は感じていた。
 その証拠に、仕事が終われば呆気なくちりぢりになる関係でしかなかったではないか、と……。
 加納涼治や二宮荒神など、実際に血のつながりのある知り合いも、確かに何人かはいるが……彼らの荒野に対する接し方は、一般人の肉親への接し方とは、やはり違う……と、荒野は思う。
 その点茅は、継続して世話をしてくれた仁明という父親代わりがいて、今は、荒野がいる。
 見方によっては、荒野よりも茅のほうが、恵まれた境遇の中にいた、と、いえるのかも知れない……。
「……ごめん……。
 荒野、いつも寂しそうなの……」
 そんなことを思い返して荒野が黙り込んでしまうと、茅は再び目を伏せて、荒野の胸に顔をつける。
「……でも今は、茅が、一緒だから……」
 ひとつになろう、と、茅はいった。

 その日の交わりは、いつもとは違っていた。
 茅の中に入ってから、茅も荒野もほとんど動くことがなく、繋がったまま何時間も抱き合っていた。
 時折、ついばむように口づけをかわす他は愛撫らしい愛撫をすることもなく、それでも荒野の分身は茅の中でいつまでも硬さを失わず、二人は、繋がったまま抱き合って、お互いの呼吸音や心音を聞きながら、何時間か過ごした。
 それは、性交、というにはあまりにも静的な時間で、射精やオルガスムスはなかったものの、茅も荒野も、そうした時間を共有したことに満足ができた。

 明日から二人は、学校に通う。
 茅にとっては、本格的な一般人社会への参入であり、荒野にとっても、学ぶべきことは多い期間になるだろう。茅とはまた違った意味で、最近の荒野は、自身の未熟さと存在のいびつさを自覚する機会が多い。
 今までの荒野は、どこの土地に行っても、どんな仕事を割り振られていても、与えられた役割を演じきることが最重要課題だった。そして荒野は、今まで割り振られた役割や仕事は、かなり器用にこなしてきた、と、思っている。
 だが、今、ここに、茅と一緒にいる加納荒野は、他の誰でもない加納荒野本人であり、「誰かを演じる」必要はなく、さらに、必要な仕事も、誰に命令されるわけでもなく、自分で探しだし作り出さなければならない……。

 荒野は今後、自分自身として、自分の役割を見つけ出し、全うしなければならないわけで……そんな状況に対処するのは、初めての経験だった。とりあえず、茅の一般社会へのリハビリが一段落した現段階では、荒野は、自分自身が今後なにをすべきか、という目標も模索しなければならない。

 加納荒野は、加納荒野自身で在る、ということに、実は、慣れていなかった……。

 学校という空間は、そんな特殊な茅と荒野という二つの存在双方にとって、有益な環境になりえるだろう、と、荒野は予測する。

 明日から新学期が始まる、というその日……。
 茅と荒野は、新しい環境への期待と不安を持ちつつ、寄り添って平穏に過ごした。

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彼女はくノ一! 第四話 (1)

第四話 夢と希望の、新学期!(1)

 いつも通りの時間に起きると、洗顔と朝食を済ませてから着替えても、登校まで五分ほどの余裕があった。そのことで、冬休み中も意外に規則正しい生活をしていたのだな、と、改めて気がつかされる。長期休暇中の香也は、気が乗っている時はいつまでも、それこそ何十時間も集中して絵を描いて、体力の限界ギリギリまで粘ってから長時間の睡眠をとる、などということを平気でするので、学校に通う必要がない期間の生活は、不規則もいいところだった。
 香也の冬休み期間中の生活を規則的なものにした元凶、もとい、原因である二人の少女は、朝食を終えると一旦自室にひっこみ、学校の制服に着替えて再び姿を現した。彼女らの制服姿を目にするのは初めてではないが、かといって見慣れているわけでもない。普段着以外の服装をしている二人の姿は、やはり新鮮だった。特に松島楓は、才賀孫子と違い、ほとんどスカート姿を見たことがないので、香也の目にはとりわけ新鮮に映った。
『……二人とも、似合っているよな……』
 とか、香也は思う。
 制服が似合っているというより、この二人なら、なにを着せても見栄えがするのではないか? 二人の容姿が平均以上に整っていることを、香也は改めて思い知らされ、登校中とその後の学校での生徒たちの反応を想像して、少し気が重くなる。
『……確実に……騒がれるだろうなあ……』
 三学期から、という中途半端な時期に来た転校生……というだけでも、単調な生活を送り刺激に飢えている学生連中の興味をそそるのは、充分なのである。
 それに加えて、彼女らの容姿……。
 香也が軽い憂鬱を感じていると、以前より少し早めの時間に樋口明日樹が玄関に訪れた。後ろには何故か帽子をかぶってふてくされたような表情をしている明日樹の弟、大樹がいる。
 三人で外に出て樋口兄弟と合流すると、隣りのマンションの入り口あたりに数人の制服姿がすでに集まっていて、こちらに手を振ってくる。加納兄弟と飯島舞花、栗田精一だった。栗田精一は、自転車のハンドルを持って息を切らしていた。
 マンションの入り口までいって彼らと合流すると、栗田は「ちょっと自転車おいてくる」と、マンションの駐輪場の方向に自転車のハンドルを持って去っていった。栗田の家はかなり遠方にあるが、舞花の命令でわざわざ早起きをして、遠回りを承知でこちらに立ち寄ったらしい。学校には自転車通学の生徒のための駐輪場もあるが、そこの使用には登録が必要で、駐輪場未登録の生徒の自転車通学は禁止されている。栗田も、こちらの方に寄らず真っ直ぐ学校にいくのなら、別に自転車のお世話にならずに済んだのだろう。

 ……律儀なことだ……と、香也は思う。

 挨拶合戦が一区切り終わった所で、加納荒野が、
「あれ? 大樹。なに、この帽子?」
 とか軽い口調でいって、素早い挙動で樋口大樹がかぶっていた帽子を片手で掴み取る。
 帽子の下から現れた大樹の頭をみて、全員が息を呑んだ。
「……昨日、未樹ねーに、てきとーに切られちゃってね……」
 樋口明日樹の話しによると、酔って帰った樋口未樹が据わった目つきで大樹に因縁をつけ、「練習だ練習」とかいいながら、大樹の毛髪をまだらに刈り込んだ、らしい。その結果、不規則に長かった短くなったりして凄いことになった大樹の髪型をなんとかみられるものにするのには、全体に短くするより他なかった……というか、全体に、極端に短くするより他なかった……。
「……いいっす。おれ、今年は硬派でいくんで……」
 結果的にほぼスキンヘッドになってしまった樋口大樹は、口を尖らせてそういった。
 大樹以外の全員は、笑いをかみ殺すのに苦労した。
 大樹の姉である明日樹だけが遠慮も容赦もなく、「これがその時の髪型……」とかいいながら、携帯の液晶画面に写した「ほぼスキンヘッドになる前の大樹のすさまじい髪型」の写真をみなに見せてまわった。大樹はそうした明日樹の所行を、みて見ぬふりをしている。

 ……樋口兄弟の上下関係は、確固としたものらしい……と、香也は思った。

 学校までは歩いて十五分ほどの距離である。学校が近づくにつれ、同じ制服を着た生徒の数も増え、香也らの団体を指さしてなにやらこそこそ囁きあったりしている。小声で話しているつもりでも、「猫耳」とか「サンタ」とか「トナカイ」とかいう単語が漏れ聞こえてくる。

 ……年末の商店街での彼らの活躍は、まだ忘却されていないようだ……と、香也は思った。

 愛想良く樋口兄弟とか飯島舞花と栗田精一、などと世間話に興じる加納荒野、その様子を興味深そうにみている加納茅と松島楓、話しの輪には加わらないが、泰然としている才賀孫子……一緒に登校している他の連中をみると、それぞれ自然に振る舞っていて、香也のように学校で騒がれることを心配している者はいないらしい。
 ……そうしたことを心配する自分のほうが、考え過ぎなのかな……。
 とか、思ったところで、ぐい、と、不意に背後から首根っこを掴まれ、ヘッドロック状に頭を抱えられた。
「……か、の、う、くーん……」
 と、路上でいきなり香也にヘッドロックをかまして拘束した生徒は、いった。たしか、クラスメイト。顔は覚えていたが、名前までは覚えていない。
「……あんなちゃんから聞いたよー。
 君、いつのまにやら自宅でハーレムな状態なんだってねー……。あの美少女たちを紹介してくんなんと、このまま頸動脈しめて落としちゃうよー……」
 その生徒は、笑顔でそういう。目は笑ってなかったが。
『……ええ、と……』
 香也は、その生徒の背後に飯島舞花がそっと近づいている事を知らせようと目配せした。首を極められている関係で、声がだせないのだ。が、当然、「顔だけは覚えている」程度の関係では、以心伝心というほどの意思疎通は不可能だった。
 香也にヘッドロックをかましている男子生徒の背後に近づいた飯島舞花は、その生徒の脳天に予告なくチョップを食らわせた。

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彼女はくノ一! 第四話 (0)

第四話 夢と希望の、新学期!(0)

「……ふぅーん……」
 斥候に派遣した四人がことごとく返り討ちにあった、という報告を受けた彼女は、これといった感銘を受けたようすもなく、そううそぶいた。
「……ようは、偵察にいってこっちの指示を待たずに襲って勝手に返り討ちにあった、ってことでしょ? そいつら、ばっかじゃない? 養成所出身、とはいっても、あの涼治老が目をつけるような人材よ。間に合わせの下っ端風情が束になっても、かなうもんですか……」
 本当なら真っ先に自分が駆けつけたかった。
 しかし、彼女自身、いまや自分の仕事を多数抱え、責任を伴う地位にいる。思い立ってすぐに身動きができる立場には、ない……。
 その仕事も、ここ数日根回しをしてきた甲斐があって、なんとか能力のある部下たちに配分することが出来た。
 だから……。
「……待っていてね、コウ……」
 祖先は日本から派生したというが、彼女自身はまだ日本の土を踏んだことがない。今までは、その極東の地にまで足を運ぶ理由がなかった。彼女らの血族は世界中に散らばっており、仕事は世界中にある。
 ……引き継ぎでぐずぐずしているうちに、あの気まぐれなバーカーサーがコウに接触し、身辺に根付いた、という……。
 身軽さ、という点において、組織力を力の根源とする自分たちは、個人の戦闘力を基幹にする二宮には、何歩も譲る。
 しかし、個人の資質に依存しすぎることのない自分たちは、入念な下準備と所定目標の完遂、ということにおいて、他の六主家に大きくリードしている。
 表の財政界において多大な影響を及ぼすことができるのが、彼女たの血族の強みだった。
 そして、彼女らの血族は、女系だ。
 女系故に、自然な繁殖過程を経ずして人為的に子孫の資質を操作し、淘汰する計画には、真っ向から対立することを総意とした。
 彼女は、その総意を実現するための現場指揮官として、極東の田舎町に派遣された……。
「……待っていてね、コウ……」
 車中の彼女は、もう一度呟いた。

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第三話 「激闘! 年末年始!!」 登場人物紹介

第三話 激闘! 年末年始!!
 登場人物紹介

狩野香也
 「人気投票」によると、現時点で本編最強の萌えキャラであるらしい。

松島楓
 ……やっぱり影が薄い……。
 ってえか、他のキャラが濃すぎる。他のキャラとの絡みが少な目なので、あまり目立たないのであった……。
 学校に通うようになると、かなり違ってくるんだけどな。

才賀孫子
 おお。ちゃんとライバルになっている。
 なお、作中に「消音ライフル」なんてお馬鹿な代物もでてきますが、あれはフィクション故のご都合主義の産物で、実在したりはしないと思う。
 「才賀仕様の無意味なカスタム」として笑って流してやってください。

加納荒野
 傍目には、見事なシスコン。
 バトル上等! な少年マンガの主役が務まるほど基本スペックは高いのに、そのスペックを見せつけるようなシーケンスには恵まれないのだった……。

加納茅
 当所の予定では「病弱で影がある、思わず守ってあげたくなる系美少女」になるはずが、どんどんイロモノな方向に……。
 「次はどんなコスプレさせようかなぁ」、とか、思案する今日この頃である。

三島百合香
 元祖イロモノキャラ。
 こっちでは時折顔出して変なコトしては去っていく人。
 荒野との関係は、本郷猛とおやっさんの関係に相似する。

羽生譲
 他のキャラとの絡みが多い関係で目立っているおねーさん。
 もう一回くらいはえっちシーン入れたいが、どうなることやら……。
(基本的に、あまり先のほうまで決めないで書いてます)

樋口明日樹
 一般人代表、的な位置づけの人。
 彼女が苦労するのは、これからなのだよ。

柏あんな
 香也のクラスメイト。
 姉経由で羽生譲プロデュースの同人誌作成を手伝いに来るのがきっかけになって、狩野家に出入りするようになる。

堺雅史
 柏あんなの幼なじみで彼氏。
 香也に自主制作ゲームの原画を依頼。

柏千鶴
 柏あんなの姉。羽生譲の高校時代の後輩。
 時折ひょっこり顔を出す。
 この人の言動は書いていると癒されるので個人的には出番を増やしたいのだが……あんまり出過ぎると、どんどんヘンな人だということが明るみになって「はい(♀)×ろぅ(♂)×ろぅ(♀)」の時のイメージが崩れそうなんて、さじ加減が難しい……。
 でも、もともとこういう人っす。

飯島舞花
 身も心も大きな少女。
 大勢で賑やかにするのが好き。
 しきり屋体質の姐御肌。

栗田精一
 飯島舞花の付属品。
 彼女が行くところにはたいていついていく……というより、半ば無理矢理、つき合わされている。

樋口大樹
 樋口明日樹の弟。何故か加納荒野を慕っている。

野呂良太
 六主家の一つ、「野呂」の一員。
 当代の野呂では随一、とされる技量の持ち主。
 三島の資料を勝手に閲覧し、そこから茅の正体に関する推論を導く。
 普段は首都圏で情報屋みたいなことをやっているらしい。
 自営業なヘルメス野郎。

「東京の男」
 野呂良太が三島に紹介。
 使いようによっては役に立つ。でも、イヤなヤツ。

二宮浩司
 加納涼治の紹介により狩野家にやってきた下宿人。
 その正体は、加納荒野とは複雑な因縁がある二宮荒神。
 楓の資質を認め、師匠役を買って出る。

狩野真理
 このシリーズには珍しい「ちゃんとした大人」。

[つづく]
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髪長姫は最後に笑う。第四章(40)

第四章 「叔父と義姉」(40)

 気づけば始業式の前日になっていた。
 その日は勉強会もクラスメイトの身元調査もなかったので、久々に茅と二人きりでだらだらとして過ごした。起床、走り込み、朝食、という朝の流れは茅が崩そうとはしなかったが、ここ数日、午前中にマメに買い物にでていたせいで冷蔵庫の中は満杯の状態であり、外は朝から今にも雨が降りそうなどんよりとした曇り空で、強い北風も吹いていたので、二人は当然のようにマンションの中に閉じこもって過ごした。
 朝食と掃除、それに明日の支度をするともうその日にすべきことはなにもない。
 茅は紅茶をいれたり本のページをめくったりノートパソコンを立ち上げてネットに接続してなにか調べたり、と、ちょこまかと動き回っていたが、荒野はソファに横になってうつらうつらと微睡んでいる。最近、細かな用事が重なっていたから、なんとなく体がだるい。暖房の効いた部屋の中でまったりしているのが、いかにも心地よい……。
「荒野、疲れてる?」
「……ちょっと、ね……」
 茅が近寄ってきて話しかけても、いかにも眠そうな声で生返事しか返さない荒野に、
「……むぅ」
 とむくれてみせて、茅は、ソファに横になっている荒野の腹の部分に、自分の頭をのっけた。
「……寝るのなら……ちゃんとベッドにいくの……」
「……ふぁ……。
 うー……ん……」
 荒野はあくびをかみ殺しながら、否定とも肯定ともつかない返事をする。
「……こうしてると、荒野の心臓の音が聞こえる……」
 荒野は半眼になって首をゆっくりと上下に振るだけで、なにも返事をしなかった。
「……むぅ」
 茅はそういって、横になっていた荒野の上にダイブする。油断しきっていた荒野は、茅の勢いを受け止めることができず、二人はもつれ合ってフローリングの床の上に転がった。
「荒野、相手してくれない……つまらない……」
「……あー……」
 荒野は半分寝とぼけた頭で不明瞭な思考をしながら、とりあえず、くしゃ、っと茅の髪の毛に指をつっこんで、掻き回した。
「……じゃ、二人でなんかやろうか?」
 荒野は特に「何をやる」という具体的なことを考えてなかった。トランプとかそんな健全なことを想定した発言だったが、茅はいきなり覆い被さってきて口唇を重ねてきた。勢い、すぐにお互いの体をまさぐったり服を脱がし合ったり、とかいうことになる。
「……そういや、しばらくやってなかったな……」
 荒野はわざと口にだして、茅に直接聞いてみる。
「茅、もっと頻繁にやったほうがいいのか?」
「むぅ!」
 半裸の茅が、ソファの上にあったクッションで荒野を殴った。
 聞くな、ということらしい。
『……前のときもこんなこと言い合ってたなあ……』
 と、荒野は思いだす。
「いや、なんか、いつも二人でいっしょにいるから、それだけで満足しちゃってさ……茅が欲しくないわけじゃ、ないぞ……」
 実際、荒野のは、茅に抱きつかれキスされただけでかなり硬くなっている。
 茅は半裸のまま半身を起こした荒野の膝の上に乗り、執拗に舌で荒野の口唇や舌をなぶる。その後、ぎゅっと荒野の肩を抱きしめて、
「……セックスより……こうして荒野とくっついているの、好き……」
 と耳元で囁く。
「裸で抱き合うのって、毎晩やってるじゃないか……」
『……そういや……』
 荒野は思い返した。
『……茅がやったのって……茅自身が不安定になった最初と、おれ自身が不安定になった時だけ……だよなあ……』
 その二回しか、荒野は茅を抱いていない。いつも裸で抱き合って寝ているが、だからといっても毎日のように求めるのは少しがっつきすぎだ、と、荒野は思う。先ほど茅にいったように、いつも一緒にいることでそれなりに充足してしまっている部分も、多分にある。
「……こういうまったりした感じでやるのって、初めてだな、おれたち……」
 キスとかお互いの服を脱がせ合ったりする合間に、荒野は茅にそういった。
『……こうしてなんの理由もなく、なんとなくはじめるのって……なんか普通の人みたいだ……』
 漠然と、荒野はそんなことを思う。
 自分と茅は、この先、いわゆる恋人同士のような関係に発展するのだろうか? それとも、今の状態でも、世間的な基準で言えば、すでに恋人同士、と、いえるのだろうか……。
 こういう、「特になんのきっかけもなく、なんとなくはじめる」というのが、えらく新鮮に感じた。
 下着姿になっていた茅はすでにスイッチが入っているようで、荒野に体を密着させて、下着越しに荒野の硬くなったものの輪郭を指先でなぞっている。
「……茅、それほしいの?」
 荒野が茅の耳元に口を寄せて尋ねると、茅が、
「ん」
 と答えたので、
「……じゃあ、あげない」
 といって、荒野の股間に伸ばされていた茅の手を払いのける。
 茅が抗議の声を上げる前に口唇を重ね、下着の上から茅の秘処をまさぐる。茅は、最初こそじたばたと抵抗していたが、次第に体の力を抜いて荒野のなすがままになった。自分から口を開けて荒野の舌を受け入れる。茅の下着、荒野がそっと触っている部分に、すぐにシミができる。鼻腔から漏れる茅の甘い吐息が、早くなる。
「茅……濡れるの、早いね」
 口を離して荒野がそういうと、
「馬鹿!」
 といって茅は半身を起こし、荒野の下着に手をいれて、硬くなった荒野の分身を握った。
「……これ……欲しいの」

[つづき]
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彼女はくノ一! 第三話 (62)

第三話 激闘! 年末年始!!(62)

 気づけば始業式の前日になっていた。
 その日は勉強会がなかったので、香也は久々に一日中プレハブに籠もれると、内心喜んでいた。ここ数日、午後の数時間、半ば無理矢理勉強会に付き合わされたため、自分の絵を描く時間が思うように取れなかった。年末年始もなにかとばたばたしていたから、単純に作業時間だけを見れば、この冬の休暇中は、通常の長期休暇中より、かなり制約を受けていた、ということになる。
 いつものように灯油ストーブに日を入れ、すぐにキャンバスに向かう。
『だけど……』
 と、香也は思った。
『……人を描くのが、少し、怖くなくなった……』
 少し前から、香也は、以前には描かなかった人物画の練習をしている。
 香也が人物をあまり描かなかったのは、香也の人物の描き方を、香也自身が「気に入らなかった」ためだった。香也自身の目から見ると、香也の描く人物は、なんか、死人かマネキンのように生気を欠いてみえて不吉な感じがし、とてもじゃないが完成した作品として残せるような出来にはならなかった。香也の技量は確かなものであり、対象物の形をかなり正確に紙に写すので、生気を欠いた人物像は精巧なデスマスクめいた雰囲気を放ち、いかにも不景気な出来にしか、ならない……。
 そのため、デッサンなどの基礎的な部分以外、人物画を描くことを香也は長いこと自主的に封印してきたのだが……。
『……少しは、マシになっている……』
 クリスマスの前後から毎日のように練習をしていることもあって、香也の筆先は、人物を描く時も、以前ほどは萎縮していない。香也は、記憶している人々の姿を、片っ端から画布の上に描いていく。完成品にするつもりはないので、全身像だったり顔だけ、手だけなどのパーツのみだったりするが、気の向くままに重ね描きしていく。完成品のイメージはまだなく、自分自身がどういう絵を完成させたいのか、香也自身も、まだ漠然とした構想すら、持っていない……。
『……もっと、自由に……』
 客観的にみて、香也の手の動きはかなり早いのだが、香也自身は、技術的にも速度的にも、まだまだ自分の力量に満足してはいなかった。
 もっと、もっと、自由に、速く、正確に……。

『……ぼくは、本当は一体なにが描きたいんだろう……』

 一心不乱に手を動かしていると、香也は自分のことを意識しなくなる。手と目だけに意識が集中する。周囲の物音に、極端に関心がなくなる。だから、香也は、いつの間にか背後に松島楓と才賀孫子が来ていることに気づかなかった。

 二、三時間描き続け、流石にこわばってきた肩をほぐすために大きくのびをする。すると、いいタイミングで楓がティーパックのお茶が入ったマグカップを差し出してくれた。
 香也がプレハブで絵を描いていると、いつのまにか楓が背後にいるのは以前からよくあることだったので、特に驚きもしない。ここ数日は孫子までがそれに加わり、自分の椅子と本を持ち込んでくつろいでいたりする。このプレハブはもともと物置として使われていたものを、「家の中を汚すよりは」と香也にあけ渡されたもので……居住性は、かなり悪い。
 くつろぐなら、もちろん、母屋の中のほうが快適な筈だが……何故か、香也がここで絵を描いていると、彼女たちのどちらか、あるいは両方が、いつの間にか背後にいる、ということが多くなっている……。
『……最初は、加納君が夜に来るだけだったんだけどな……』
 以前、かなり頻繁に訪れた加納荒野は、最近ではこのプレハブに滅多に姿を見せなくなっている。かわりに、妹込みで母屋のほうに出入りするようになったわけだが……。
『……妹さんのことでいろいろ悩んでいたみたいだから、今の状態のほうがいいのか……』
 荒野の事に対しては、香也はそんな事を思っている。加納兄弟はいつも一緒で、樋口明日樹にシスコン呼ばわりされるほど、仲が良さそうにみえた。

「……それで……」
 いつもはおとなしく見ているだけの孫子が、この日に限っては何故か、そんなことを言い出したので、香也は危うく口に含んでいたお茶を吹き出しそうになる。
「……いつになったら、わたくしの絵を描いてくださるの?」
「ええ!」
 途端に、楓が香也に詰め寄り、騒ぎはじめた。
「香也様、そんな約束、したんですか!」
「……んー……したような、しなかったような……」
 香也は、「落ち着け、落ち着け」と必死になって自分自身に命じながら、曖昧に言葉を濁した。
『……たしか、「モデルがいるなら声をかけてくれ」っていう話しじゃなかったっけ?』
 孫子との以前のやりとりを、慌てて思い返す。「孫子を描きたくなった時には、声をかけてくれ」と、「孫子の絵を、描く約束をする」では、かなり意味合いが違うのではないか、とか、香也は思ったが、楓もいる手前、今ここで孫子の言葉を訂正するつもりもなかった。
「……んー……じゃあ、今から描いてみようか……練習でよければ。
 ちゃんとしたのは、また後で、もう少し、ぼくに自信がついてから、ということで……」
 少し考えた末、香也はそう提案した。
「楓ちゃんも、今日、これから、時間あるかな?」

 冬休み最後の日の午後、香也は新しいキャンバスに、二人が並んで立っている絵を描いて過ごした。あくまで「練習」と断った上で、短時間で仕上げたものだったが……。
『……色々なことが変わりはじめたのは、彼女たちが来てからだ……』
 そう思いつつ、香也は、その時点で香也に出来ること全てを、キャンバスにぶちまける。

[つづき]
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   [第三話・完]

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髪長姫は最後に笑う。第四章(39)

第四章 「叔父と義姉」(39)

 なりゆきで始まった狩野家での勉強会は参加者全員の冬休みの課題が終わった三日目、八日をもってひとまず終了となった。
 三日間続けて同じ顔が集まって机を並べていると、荒野のほうにしてみればそれまで縁遠い世界だと思っていた「学校」が、段々と身近なものに感じられるような、錯覚さえ感じた。
 そうした荒野の錯覚を触発するのは、特定のカリキュラムを多人数で修得する、という場の雰囲気であったり、飯島舞花や樋口明日樹、柏あんな、栗田精一や樋口大樹などが合間合間に行わう共通の友人知人のうわさ話だったりするのだが、そうした中に混ざっていると、荒野は自分の特殊な自出を忘れ、彼ら一般人にすっかり同化して生活し続ける自分、というものを、ついつい幻想してしまう。
 もちろん、それは荒野の勝手な思いこみ以外のなにものでもない。どのように巧妙に紛れこもうとも、荒野と彼ら一般人とでは、厳然として差異が存在する。身体的なものから価値観などのメンタルな部分まで、その差異はかなり根深く、安易に無視していいものではない。
 そのことを、荒野はこれまでの短い生涯で、いやというほど思い知らされている……。
 しかし、容易に同化できないことを身に染みて解っているからこそ、他愛のないことで笑い合い、軽口をたたき合う彼らの穏当な世界の中に紛れ込んでいるつかの間の時間を、荒野は大切に思い、また、愛おしくも感じている。

 そんなわけで昼間、勉強会が行われる日も、荒野は楓とともに夜の町を走り、学友になる筈の者たちの身辺を、熱を入れて探り出す。
 目的としては、あくまで我が身の保全であり、場合によっては、結果として、荒野たちが通う予定の学校の者を不慮に傷つけないための行動、にもなっている。
 そう……荒野たちの行動で誰を傷つける、というわけでもないのだが……荒野は、他人の住居や記憶の中に無断で踏み込み、あら探しする自分らの行動が非合法かつ非人道的である、ということも、充分にわきまえていた。わきまえつつも、自分たちの保身、という都合のため、あえてそれらの合理を容認した。

 携帯電話での管制や誘導を担当した茅と、荒野と負けず劣らず熱意を持って作業をこなした楓の助けもあって作業は予定以上に早いペースで進捗し、ちょうど勉強会がお開きとなった八日の夜、全ての作業が間違いなく終わる……という見通しが、たっていた。
 しかし、その八日の深夜、移動中だった楓は、突如どこからか出現した襲撃者に襲われ……そして、あっけなくその連中を返り討ちにした。

 知らせを受けて急行した時、楓は、若干の手傷を負わせ無力化した襲撃者たち四人をロープでぐるぐる巻きにして拘束し、彼らが着ていた衣服を破いて作った即席の包帯で、自分自身が負わせた傷口を縛り、止血しているところだった。
 わざわざ消毒液その他の医薬品を持ってきてまで治療する義理はない、しかし、むざむざ放置するのもなんだしなあ……というで、そういう処置になったらしい。
「あ。ご苦労様です。加納様」
 荒野の姿を認めると、楓は顔をあげて挨拶し、それから淡々と襲撃された前後の「事の次第」を荒野に説明しはじめた。
 一言でいうと、多人数に不意打ちされたにも関わらず、また、本格的な「実戦」はこれが初体験であるのにも関わらず……楓は、彼ら四人の襲撃者をあっけなく撃破した……ということらしい。
「……この人たち、多少は訓練受けているみたいなんですけど……お話しにならないくらい、全然、弱かったです」
 楓は自慢をするわけでもなく、淡々とそういって、荒野への説明を締めくくる。
『……こいつ……』
 荒野は思った。
 楓は、養成所での訓練はさんざんやってきているが、実戦は、これが初めてのはずだ……。
 養成所をでて、最初に接触した術者が野呂良太と二宮荒神、という、一族でもトップクラスのやつらに接触してしまったから……その高いレベルが、楓の中で「術者の標準値」に、なってしまっている……。
 ましてや楓は、ここ数日、毎日のように「最強」の二宮荒神から、手ほどきをうけているのだ。とはいっても、五分とか十分、荒神にいいようにあしらわれているだけだが……それでも、荒神の動きに目と体が慣れてしまったら……凡庸な術者の動きなど、それこそ手に取るように見切ることができるだろう……。
『……自分の強さというものを……まるで、自覚していない……』
 楓の実力は、養成所をでた段階でも、六主家の血を引く者の「平均値」よりも抜きんでている、と評価されていた。
 荒神を相手にするようになってからは、その資質にさらに磨きがか蹴られているわけで……。
 荒野は視線を降ろして、楓に縛られて身動きとれないでいる男たちを見据えた。
 役割から類推するに、彼らは、多分、楓のような「鍛えられた雑種」だ。昔風の言い方をするなら、下忍。
 どっかの養成所出身、なのかもしれない。まだ若く、体力的にも上り坂で、それなりに自分たちの力に酔っていた……のかも、知れない。
『……こいつらも、一般人相手なら、それなりに役には立つんだろうがなぁ……』
 ……それでも、今の楓を相手にするには、役不足もいいところだった。
 六主家の中でもそれなりの実力を持った者を集めなければ、今の楓は押さえきれないだろう……。
「……楓。こいつらなんかここに置いて、残りの作業、さっさと終わらせよう……」
「え? 尋問とかしないんですか?」
「やってもいいけど……こいつら、雑魚だからなぁ……。
 多分なにも知らされていないし……時間の無駄だぞ。
 大方、自分らの役回りも聞かされてなくて、上から一方的に、お前を襲え、って言われただけなんじゃないの?」
 荒野の言葉を聞くと、縛られた男たちがビクンと身を震わせた。
 ……若い女を襲え。後はお前らの好きにして良い……。
 彼らにとっては、実に「おいしい」仕事だった筈だ。
 相手が、楓でさえ、なかったら……鼻歌交じりに終わらせて、役得にありついていたことだろう。
「こいつらをけしかけたヤツの目的は、簡単に推測できる。
 楓、未知数の存在でであるお前の実力を計り、見極めること。こいつらは当て馬だよ……」
 荒野は、肩をすくめる。
「だとすれば、どっかでこっそり聞き耳をたてたり様子を伺ったりしているヤツがいる筈だが……今になっても姿を顕わさない、ってことは、今回のはほんの挨拶代わりなんだろ。
 そっちはそれなりに事情知っているはずだが……もう、逃げているんだろうなあ……時間的に……。
 それに、おれら、敵になりそうな相手の心当たり、多すぎるから……。
 かかってくるヤツた、片っ端から尋問なんてしても、時間と手間がかかりすぎるばかりで……なんのメリットもないぞ……」
 いい機会だったので、「専守防衛でいくという基本方針を、荒野は改めて楓に徹底する。
「……なんといっても、少人数過ぎるからなあ、おれたち……」
 敵が多すぎるかたといって、向かってくる相手を全て真面目に相手にしていたら、身が持たない……。適当に、やり過ごすことも覚えろ……。
 という荒野の意図を、楓は正確に理解し、無言で頷いた。

 ……まさか茅のような存在の警護を、実質、上荒野と楓の二名だけでやっているなんて……思いやしなかったんだろうなあ……。だから、「少数」のうち一方の楓が、どれほどの「精鋭」か、確かめてみたくなったヤツがいる……。今回の件は、そういうことなのではないか、と、荒野は推測した。
 茅という存在の貴重さを知っている者ほど、そうした警護の手薄さに、「なにかしらの裏があるのではないのか」、と、余計な勘ぐりをするはずだった。
「……というわけで、おれたち元の仕事に戻るから。君たちは誰か助けてもらうまで、このまま待機ね……」
「みなさん。最近は夜の冷え込みもきついから、風邪に気をつけてくださいね」
 荒野と茅は、縛られて猿ぐつわを噛まされていた男たちにそう言い残して、姿を消した。

「……ということもあったけど、クラスメイトの身元確認作業は、今夜で、無事終了したから……」
 マンションに帰ってきた荒野と楓は、ざっと経緯を茅に説明して、「作業終了」 の宣言をした。
 結局、危惧していたように、洗脳の痕跡を発見することはできなかった。
 だからといって完全に安心しきっていいものでもないのだが……これ以上の調査は、今の人数では事実上不可能だから、とりあえずは「これで良し」とするしかない……。
「……いやあ。なにもなくてよかったねぇ。めでたいめでたい。二人ともおつかれー……」
 茅の他にもう一人、荒野たちの帰還を待ちかまえていた人物、二宮荒神が盛大に拍手して、大仰に二人をねぎらう。この人にはなにを言っても無駄、と、荒野は思っているので、荒野は荒神の存在自体を無視することにしている。その割には、「現在の二宮荒神の所在地」を一族の共有データベースに入力し、ちゃっかり権勢に利用したりもしているのだが……。
「最強」の荒神は気まぐれで、行動原理が理解しづらく、また、「身内には滅法甘い」……という定評のある人物である。
 その荒神が、荒野の周りをうろうろしているとなると……それだけで、荒野たちに手出しがしづらくなる……筈、だった。なにぶん、少人数で茅と自分たちの身の安全を図らねばならないのだ。ハッタリでもブラフでも荒神に対する周囲のイメージでも、利用できるものはなんでも利用する。

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彼女はくノ一! 第三話 (61)

第三話 激闘! 年末年始!!(61)

 その、新学期を前にした数日間行われた「クラスメイトの身元確認」のこそが、実質上、楓のくノ一としての初任務といえた。楓にしてみれば、物心つくかつかないか、という幼いころから何年もかけて厳しい訓練を受けて積んできた成果を初めて実践するわけで、昼間の勉強会などと両立しなければならない、などの時間的体力的な制約がきつい条件ではあったが……今まで学んできた事が無駄にはならなかった、ということと、自分たちの安全を確保するための仕事で、誰を傷つけるわけでもない、という二点の根拠において、楓はそれなりに充実感を持って仕事に取り組んだ。
 楓の、勉強会のない午前中の時間も自主的に仕事をあてる、などの熱意も手伝って、当所の予定よりも速いペースで「仕事」は消化されつつあった。
 楓と荒野がどれほど入念に不審な痕跡を探っても、現在までの所、一向にあやしい者はみつからなかったが、その結果は、今後本格的な武力対立に突入する可能性を狭めるものでもあったため、荒野も楓自身も歓迎していたた。この手の事前調査は、異常が発見されず徒労に終わるのが、一番平和だ。

 楓が正体不明の不審人物に襲われたのは、楓と荒野が予定していた作業の五分の四以上を消化し、もう少しで完了しようとする、そんな時期のことだった。

 作業を開始してから三日目、八日の晩、ここ数日いつもそうしているように、その夜も楓は、茅の官制に従って、気配を絶って町中を飛び回りながら、黙然と自らのなすべき仕事を消化していった。茅と荒野と楓の三人で、一人づつの該当生徒の身元を確認し終える都度に、「作業終了」までのカウントダウンが早まるを。そのまま何事もなく順調いけば、その夜のうちに全てが終わる筈だった。
 そんな時期だっからこそ、楓の心に若干のゆるみが生じていた事は否定できない。

 気がつくと、楓は、明らかに敵対する意志をもった複数の存在に囲まれていた。周囲に耳をそばだて、どんな小さな兆候も見逃すまいと気を配りながら人気のない方へと移動する。住宅街から、駅前商店街の裏手にある、貸しビルが立ち並ぶ地域へ。
 楓は、指だけで携帯電話を操作し、茅に打ち合わせていた通りの手順で救難メールを送る。
 ビルとビルの谷間、夜間はまるで人気のない、幅の狭い裏通りに入り込み、楓が送信ボタンを押すのと同時に、最初の攻撃が来た。

 楓は、複数の方向から同時に自分に向けて放たれた物体、投擲武器を知覚し、その密度が一番濃い方向に、あえて我が身を突っ込む。
 ごく最近、野呂良太とか二宮荒神とまみえた時に、学んだ戦法だ。
 投げられた武器を、避けるのではなく……。
『……弾く!』
 楓は手にしたくないで、投げつけられたものを片っ端かた打ち払いながら、その得物を投げつけたものがいる方向に、遮二無二突進する。

 上の方向からも、楓の後を追うようにいろいろ投げつけられいるようだが、その攻撃者も、楓の速度に予測し、追いけるほどの機転と腕前の持ち主ではないらしい。投擲された武器の方向に突進し、単身、攻撃者のいる側にむざむざ向かってくる楓の行動は、襲撃者たちにとっては充分に意表を突いたものだったのだろう。
 結果、この程度のことでたやすく動揺を現す襲撃者たちは、野呂良太や二宮荒神ほどの手練れではないと知れる。
『……この程度の相手なら、一人でも、捌けるかも知れない……』
 慢心ではなく、冷静に楓はそう判断した。
 茅にエマージェンシィのメールを送るほどの相手ではなかったな、と。
 楓が通り過ぎたすぐ後を追うように、くない、手裏剣、六角などの投擲武器が降り注ぐ。
 しかし、下にいるものが上方向に攻撃を仕掛けるのは不利なので、上方の襲撃者への対処は、後回しにする。
『……まずは……』
 突進し始めてから数秒を経ずして、楓はすぐ人の気配を感じ取った。「気配断ち」をしていたが、至近距離で楓の目をごまかせるほどの熟練の技ではない。襲撃を感知した瞬間、自分の感情を押し殺して楓は、その人影に対して躊躇することなく、感情を込めて手にしたくないを立て続けに投擲する。

 人影が動揺する気配がし、「くっ!」と、小さく息を吐いた。
 その「敵」は、精神統一を破られ、「気配絶ち」も破れ、二十代くらいの、凡庸な外見の若い男の姿をとる。スーツ姿だから、若いサラリーマン風、とみえたが、それ以外の特徴は、あまりない。忍に相応しい、どこにでもいるような、人混みに紛れてしまえばそのまま見失ってしまいそうな、印象の薄い男だった。
 その若い男は右手で、左手首を押さえている。楓の攻撃が思いの外、深いダメージを与えたらしい。患部を抑えている所をみると、動脈でもを切ったのかも知れない。
 いずれにせよ、その男は無防備に楓に姿を現しながら両手を塞いでいるわけで、楓は、躊躇することなく、さらにくないを投げつけ、男の両足のアキレス腱を絶ち、身動きを封じた。
 多人数で警告も予告もなしに楓を攻撃してきた連中が相手であり、楓の側には遠慮すべき理由がない。また、下手に手加減したら、楓自身の身があやうい。
 その後、楓はその男の水月に掌底を叩き込み、完全に沈黙させる。
 男は、よだれを垂らしながらその場に蹲った。
『……一人、無力化!』
 襲撃者が複数いる今の状況下では、本当なら息の根を止めるのが一番安全なのだが……実戦らしい実戦を経験していない楓は、できるだけ殺人を犯したくない、と思う甘さがまだ残っていた。この処置でも、数十秒から数分ほどは、この男は脅威とならない筈だった。
 間髪入れず、楓は体の向きを変え、上のほうを仰ぎ見る。その時、振り向きざまに手持ちの棒手裏剣を存分に放ち、弾幕とする。
 その弾幕を追うようにして、楓は「上へ」と移動しはじめた。別に空を飛んだわけではなく、道幅がようやく二メートルあるかないか、という狭い路地裏だったので、左右の壁を交互に蹴り続けることで、足の力だけで、襲撃者がいると予測される高度まで移動することが出来た。
 楓は、無力化した男を背にした状態で、武器を投擲してきた方向へとまっしぐらに、壁を蹴りながら進んでいく。
『……いた!』
 楓は、雑居ビルの非常階段の踊り場にいた、三人ほどの襲撃者の影を認めた。襲撃者から楓を攻撃すると、斜線下方に、仲間の「楓が無力化した男」がいる、という配置になっている。
 そのせいか、それとも、楓がこんな手段で自分たちのほうに向かってくる、という事態そのものが想定外だったのか……彼らの攻撃は消極的になっていた。しかし、まだ本格的な逃走にも、入っていない……。
『場馴れ、してない? 舐められている?』
 攻撃をしかけておきながら……襲撃者たちには標的を鎮圧するまで手を緩めない、という意志や気迫が欠けていた。目的を遂行するためには差し違えても……というのが、下忍の論理の筈だ。そうした真摯さは、男たちから感じられなかった……。
 また、襲撃に失敗した時を想定して、あらかじめ逃走経路を確保していない、らしい……などの点も、いかにも不自然さで、素人臭かった……。
 そのような点には疑問を持ったが、だからといって、楓の側に手加減しなければならない理由はない。
 なにしろ、直撃すれば無事では済まない攻撃を、彼らから無警告で受けている身である。

 だから楓は、左右の壁を蹴って男たちの「上」にまで移動すると、容赦なく、手持ちの投擲武器の雨を降らせた。
 重力の助けも借りて、楓の手から放たれた弾幕は、三人組に降り注ぐ。
 その時になって、ようやく彼らは動いた。
 楓に背を向けないようにして、後ろ向きになって楓の弾幕を避けながら、非常階段を、一族の術者にしかできない速度で駆け下りていく。
 だが、その判断も、遅い……と、楓は思う。
『……逃がさない』
 楓はフック付きのロープを取り出し、フックを、非常階段の手摺りになげる。うまい具合に、ロープが手摺りに絡みつくのを確認して、跳ぶ。
 楓の体は振り子のように大きく揺れ、ロープが絡まった手摺りの直下の隙間をくぐり、非常階段の反対側にでる。
 そこで、楓はロープを持つ手を放し、ちょうど眼下に見えた三人組に向かって、正確に狙いをつけて、手裏剣を放った。
 楓が男たちの前方に着地した時、楓の放った棒手裏剣は男たちの足の甲に深々と突き刺さり、男たちの足をアスファルトに縫いつけて、身動きができないようにしていた。
 楓は、男たちの顎を次々に蹴り上げ、器用に脳震盪を起こし、その場に昏倒させていく。

 荒野がようやく駆けつけた時、楓は男たちをロープで束縛した上で、自分が与えた傷の応急処置をしているところだった。

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髪長姫は最後に笑う。第四章(38)

第四章 「叔父と義姉」(38)

 その夜のうちに楓と二人で、二ブロック分の「身元確認」を行って帰ると、すでに日付が変わりかける時間だった。気配を絶ちながら夜陰に乗じて移動し、一人きりになる場所と時間をねらいすまして、他人の家に忍び込み、針をうち、暗示をかけて、聞きたいことを聞き出す……という行為を、ダース単位で行えばくたくたになる。
 楓も荒野も、術者として充分な実力と体力を備えてはいたが、たかだか二人きりで大勢の人間を相手にするのは……時間もかかるが、それ以上に神経をすり減らす作業でもあった。盗難や暴行などとは違い、具体的な損失を与えるわけではないが、他人のプライバシーを侵す、というのは無論非合法な行為であり、その意味でも二人の行為を第三者に知られてならないわけで、そうした秘匿性を意識することで、精神的な負担をさらに感じた。

 そんなわけでその夜の荒野の眠りは深く、翌朝、茅に起こされるまで意識を失っていた。
 荒野が目を覚ますと、茅はすでに外出の支度を整えている状態だった。茅に室内でストレッチをしておくように指示をして顔を洗い、着替える。十分にストレッチをし、体を温めた茅といっしょに外に出て、この朝もいつものように二人で走り込みを行った。
 最近では膝の関節を痛める、とかであまり推奨されていないようだが、走り込みは体力づくりの基礎だ、と、荒野は思っている。たしかに、走る距離が伸びればのびるほど、下半身の関節に与える衝撃は大きくなっていくのだろうが、茅の場合、その衝撃を吸収するために、当初から充分なストレッチと事後のマッサージを行い、柔軟さを養っている。衝撃を吸収しきるためには、筋肉や関節の柔軟さに加え、バネも必要となるのだが、茅の体にそれが備わるのは、まだまだこれからだろう。ここ数日は茅の足もかなり馴れてきたようで、筋肉痛を訴えることもなくなっていたので、後は継続して毎日のように走り続ければ、体力も筋力もそれなりに身に付いていくはずだった。
 茅は、毎朝同じようなメニューをこなしているのにも関わらず、一日ごとに呼吸がゆるやかになり、態度に余裕がでてきている。茅の体が、この程度の運動量に、次第に順応しつつある……ようだった。
『……もう二、三日様子みて、次のフェーズに移ろう……』
 荒野は、茅の様子を観察しながら、そんなことを思った。

 その日も午後から狩野家での勉強会の約束をしていたので、朝食を済ませ、掃除をした後、二人で食料品の買い出しに出かける。荒野が体格に似合わない大食漢である関係で、毎日のように買い物にでても、少し油断するとすぐに冷蔵庫の中が寂しくなる。そんなわけでこの日も、食材の入ったポリ袋を二台の自転車に満載して帰ってきた。昼食を摂って一休みした後、勉強道具、茶器、お茶請けの菓子(今日は、なんだか値段が張りそうなクッキーだった)をそろえて狩野家に向かう。途中、エレベータで飯島舞花が乗り込んでくる。約束の時間に間に合うように出れば大体同じくらいの時間になるので、飯島舞花と合流したこと自体は珍しくはなかったが、飯島舞花が栗田精一と一緒でないのは珍しいと思った。
 そのことを指摘すると、
「あのなあ。わたしら、一緒に住んでいるわけではないぞ」
 と、窘められる。昨夜、舞花は久々に帰ってきた父親と水入らずで過ごした、という。
「うちのとーちゃん、でかいなりして寂しがり屋でな。セイッチが来ていると喜ぶけど、わたしがあまり相手しないと目に見えてしょぼーんとするんだ……」
 だから、舞花の父親が帰ってくる日は、最近では栗田は、舞花の部屋に泊まらないのだという。
『……でかいなりして寂しがり屋……飯島は、父親似か……』と、荒野は思った。
 ふと茅のほうをみると、意味ありげな表情を浮かべて舞花のほうを見ていた。
 茅が舞花から視線をはずし、荒野と目を合わせて何度かこくこくと頷く。
 ……どうやら、荒野と同じようなことを考えていたらしい。

 三人が到着すると、机の配置などの準備を終え、狩野家在住の三人が待っていた。
「……とりあえず、狩野君は、昨日の続き……。
 英単語、どこまで覚えているか確かめるところから、やってみいようか……」
 舞花が香也を捕まえて、早速ノートを広げさせ、適当に単語を発音してみて、スペルを香也に書かせる。
「……以外に覚えているなあ……」
 その時の香也の正解率は、八割を越えていた。昨日、同じようなテストをやってみた時は正解率三割強だったから、一日で長足の進歩といえる……。
「……じゃ、次は発音。これ、なんて読む?」
 と、舞花がたった今香也自身が書いた単語を適当に指さして聞いてみると、香也はろくに答えることができなかった。
『……なるほど……』
 舞花は一人納得した。
『……絵描きさんは、目と手から覚えるんだな……』
 そういう覚え方もありだろう、と、舞花は思う。
 香也の場合、後は、目と手で覚えた単語を、発音や意味と結びつけるだけだ。意味を覚えさせる時に、同時に文法的なことも段階的に教えていこう……。
 舞花は、香也の当面の方針を、そのよう決める。一学期の前半、かなり授業をさぼっていた香也は、英語の初歩の初歩がまるで身についていない節があった。香也は、今行われている授業も、おそらくほとんど理解していないのだろう……。

 そんなことをしているうちに、堺雅史と柏あんなと、栗田精一、樋口兄弟などがやってくる。柏あんなと樋口大樹には香也と同じような試験をして、どこまで記憶しているかを確認してから、それぞれの進行具合によって当面の方針を決めた。
 半年近く栗田精一へ教え続けていた経験のある舞花の判断は概ね順当で、いつの間にか舞花の割り振りに従って、教えたり教えられたり、という手順が確立していた。舞花の指示に従って荒野は、楓とともに、才賀孫子や茅から「学校の英語」の専門用語や文法の概念を学び、代わりに、英語の発音を皆に教えた。世界各地に滞在した経験のある荒野は何種類かのピジン・イングリッシュを使い分けられたし、それ以外に、キングズ・イングリッシュの発音もできた。楓は、海外渡航経験こそなかったが、綺麗なクイーンズ・イングリッシュを披露して見せた。茅は、文法や単語の知識量こそ豊富だったが、発音は荒野や楓ほどに整ってはおらず、L音とR音の区別が不明瞭な、いわゆる「ジャパニーズ・イングリッシュ」に近い発声だった。

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彼女はくノ一! 第三話 (60)

第三話 激闘! 年末年始!!(60)

 それぞれの得手不得手の傾向が解ってくると、役割分担も自然と決まってくる。
 楓と荒野は程度の差こそあれ、学科別に出来不出来の差が激しかったので、弱点科目を重点的に攻めることになった。二人とも理数系、それに古典には明るかったが、現代国語や英語は、学校関係でしかお目にかからないような特殊な用語や文脈に足をとられる。楓も荒野も、地理や歴史に関しては、それなりの知識を持っていた。が、荒野は人名や地名など、固有名詞のカタカナ表記と自分が知っている発音との差異に、最初のうちかなり戸惑った。
「なんで英語発音表記、ドイツ語発音表記、ロシア語発音表記が平然と混在しているんだよぅ!」
 地理や世界史の教科書を開きながら、荒野はそんなことをぼやきつつ、教科書通りのカタカナ名前を片っ端から頭にたたき込んでいく。
「……このグラマーですけど……」
 楓のほうも英語の教科書や参考書をざっと見渡して、そんなことをいっていた。
「こういうのチマチマやって、いつになったらしゃべれるようになるんですか?」
 外国語について、荒野や茅と同様、楓は英語、華語を含めた数カ国語を習っている。しかし、どの言語を習う場合も、はじめは日常会話で使うイデオムの丸暗記から入って、素読、使用頻度の高い単語のスペルの丸暗記……と、実用性を重視した「体で覚える」態の教育法だったので、「文法」の存在を意識したことさえない……。
 外国語を学ぶのに、最初からグラマーを学習する、というのは、楓にとってはかなり迂遠な学習法に思えた。
「……でも、最初に文法がわかっていると、応用が利くの」
 楓の疑問に、茅はそう解説してくれた。
「もともと日本の語学は、明治に新しく入ってきた西欧の文物を効率良く吸収するためのプログラム。だから、文献を読んで理解できる、ということが第一の目的であり、日常会話や発音は後回し。文法さえマスターしていれば、専門用語の多いペーパーも、辞書を引きながら読めるの」
「……で、君たち三人は、その文法を覚えるのに最低限必要な単語さえ、覚えていない、と……」
 飯島舞花は茅の説明を引き取る形で、狩野香也、樋口大樹、柏あんなの三人を見渡す。
「……一年で必要な単語数なんて限られているんだから、さっさと覚えちゃえよ……」
 舞花は動詞の活用や名詞の単数形と複数形などを説明しながら、三人に基本的な語彙を書き取らせたり発音させたりしている。こういうのは楓が習った時のような「体で覚える」方式が、実は一番効率的だったりする。
「飯島……教え方、慣れている……」
 樋口明日樹は、舞花の堂には入った教え方に感心していた。
「いや、前にセイッチ相手に同じようなことやっているし……それに、自分の復習にもなるし……」
「……そうだよね。
 入試、二年とか三年の範囲ばかりからでるわけでもないんだよね……」
 樋口明日樹は楓のほうに向き直って、国語の長文問題を解く時のコツなどを、問題集の実例を一緒に見ながら、訥々と説明しはじめる。
 茅と才賀孫子は、学校の勉強、というよりは、過去、難関校の入試に出た例題集を見ながら、かなりひねった数学の問題について話し合っている。
 かなり先まで予習していたらしい茅を除けば、この中では孫子が、一番成績がよさそうだった。茅と孫子の二人は、主要科目については、ほかの皆に教えて回れるだけの知識を、すでに得ている。
「成績優秀」とまではいかないが、そこそこの点数を平均してとる実力を持つ栗田精一と堺雅史は、それぞれのペースで問題を解いたり、わからない部分を手の空いた上級生に聞いたり、まれに、他の三人の簡単な質問に答えたりしている。

 そんな感じで昼過ぎから始まった勉強会は、最初のうちごねていた面子も含めて次第に熱を帯びてきて、夕方遅くまで続く。
 日が暮れ始めると、真理が夕食の支度をはじめる前に、「今日はとーちゃんが帰って来るんで……」とまず飯島舞花と栗田精一が席を立ち、それを機に、堺雅史、柏あんな、樋口兄弟、加納兄弟も帰る支度をし始める。
 一同が荷物をまとめてぞろぞろと玄関に向かうと、
「……あら? 帰るの? みんな、こっちでご飯たべていってもいいのよ……」
 と、真理が顔を出した。
「いえいえ。いつもご馳走になってばかりだし、また明日もお邪魔しますので……」
 荒野が一同を代表してそういい、全員、真理に挨拶をして帰路に就いた。

 その日の夕食が終わると、楓はそっと狩野家を抜けだし、荒野たちのマンションに向かった。昼間、荒野に合図された、ということは、何か新しい動きが起こったか、それとも、楓の手が必要とされている、ということであり……。
 エレベーターに乗り、荒野たちの住んでいる部屋のインターフォンを鳴らす。
 すぐに玄関の扉を開けた荒野は、楓ではなく、楓の背後を見て、こういった。
「……なんであなたまでついてきているんですか、荒神さん?」
 楓はその時まで、すぐ後ろに荒神がついてくる気配を、関知できなかった。

「クラスメイトになる予定の人々の背後関係を自分たちの手で洗い直す」という荒野の示した案件は、実に納得のいく処置だと思った。相手は自分らと同じく一族の関係者。しかも、その中枢である六主家が直に出てくる可能性すらある。荒野は、
「……百中八九、無駄足になるとは思うけど……」
 と前置きしたが、安全確保のために打つ手は、無駄足になったほうが、むしろいいのだ。なにより、楓と茅が転入する予定のクラスは、香也が属するクラスでもあり……周囲の安全を確認することは、楓自身の意志にも適った。

 荒野が大まかな方針を伝えると、茅はすぐさまノートパソコンを持ち出し、ネット上の地図を取り込んで今後チェックすべき生徒たちの住所にマーキング、効率よく調査できるように、人数ごとにエリアを分け、荒野と楓に示す。
 荒神もしきりに感心していたが、たった今聞いた荒野の構想を咀嚼し、その場であっという間に実行可能なタスクに変換する茅の機転は、楓も驚かせた。
『……この人……知識だけでは、ない……』
 思えば、野呂が初めて姿を見せたときも、茅は、いつの間にか全員の動向を把握し、コントロールしていたような節も、あった……。
 楓は、茅のことを最初「任務として守護すべき存在」としてみていたが、この頃では「体を張ってでも守る価値のある存在」として、認識を改めはじめている。
 少なくとも楓自身は、なんの予備知識もない状態で、荒野のごく簡単な説明だけを受け、咄嗟に今茅がしたような提案を行うだけの能力や柔軟さに欠けている……。

 早速その夜から、楓と荒野は動いた。
 茅がプリントアウトした地図のコピーを手に、マンションに居る茅の管制を携帯電話で受けながら、一人、また一人と生徒の周辺の人々……それは、生徒自身や生徒の家族、それに、たまたま近所に住んでいた人たちだったりするわけでだが……が一人きりになる時間に忍び込み、針を打って身動きを封じた上で暗示をかけ、質問を繰り返す。
 そうした単調な仕事を、楓と荒野は、その日のうちにそれぞれ十人以上立て続けに行い、精神的にも肉体的にもかなり疲弊して、日付が終わる前になんとか帰還する。
「……結構結構。二人とも若いのに手練れだねぇ……。
 いいペースじゃないか……」
 荒野のマンションに帰ると、いまだに居座っていた荒神が、拍手をして二人を出迎えた。
 荒野も楓も疲れきっていて、荒神のねぎらいにまともに答える気にならなかった。

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髪長姫は最後に笑う。第四章(37)

第四章 「叔父と義姉」(37)

 その夜、予測通り、楓は荒野たちのマンションを訪ねてきた。予測していなかったことは、楓の後ろに、二宮荒神がついてきたことだ。
「……こっちに興味持つな、っていっても無駄でしょうけど……」
 荒野は荒神の顔を見て、達観したような深いため息をついて、肩をすくめた。
「……邪魔だけはしないでください。もし、荒神さんが邪魔をするうようだったら……」
 ……じじいに言いつけます。
 と、荒野はそう断言した。
 荒神の行動を抑圧するのにそんなことしか思い浮かばないあたり、自分でも情けないと思うのだが……荒神には、自分らが束になってかなわないことは、わかりきっているのだ。
 外部の力が背後にあることをちらつかせるくらいしか、有効な手だてを思いつかない。
「……荒野君のいけずぅ……」
 玄関口で顔を見せた途端、荒野にそう釘を刺されて、荒神は口をとがらした。
「……ぼくは、雑種ちゃんがレッスンお休みしたいっていうから、理由聞き出してついてきただけなのにさぁ……」
 ……『雑種ちゃん』とは、楓のことだろうか?
 いずれにせよ、これみよがしに膨れっ面をする荒神は極力無視して、荒野は楓を室内に招き入れた。

「……というわけで……」
 荒野は、茅がいれてくれた紅茶を前にして、これからやろうとしている「クラスメイトの身元洗い」に関して説明した。
「……なにぶん、傀儡繰りの佐久間が相手にまわっている可能性も否定できないんで……自覚がない被洗脳者が紛れ込んでいる可能性もあるわけで……」
「……なるほど……数が、多すぎますねぇ……」
 楓も頷く。
 こうして考えてみると、「学校」という場は……自分たちのような者が身を隠すには、恰好の場所だ。大勢の人間が集まる。その割には、セキュリティが甘くて、少しの細工で容易に入り込める。
「クラスの名簿は簡単に手に入ったけど……」
 荒野はハードコピーを楓に渡す。茅と荒野が編入するクラスの名簿、の、コピーだった。
「……家族そっくり記憶を書き換えられている可能性もあるから……ご近所さんとか、外堀から埋めていかなければならないし……。
 まず、一番注意しなければならないのが、ここ一、二年で転入してきた生徒。これは、数が限られているからすぐ終わると思う。
 残りは、住所ごとにブロックで区切って、分担して、何人か眠らせて聞き出す……とかしか、手がないからなぁ……」
「……眠らせて、聞き出す?」
 茅が、荒野の言葉に疑問を差し挟む。
「あ。うん。催眠術、に近い……のかなぁ……。
 針と併用して、意識のかなり深いところの情報を、しゃべらせる。かなり深い洗脳でない限り、嘘がつけない。しゃべった後、しゃべったという記憶も残らない……」
 生身の人間相手の、安全、かつ、確実な情報収集法ではあったが……一人一人に術をかけなければならない関係で、多人数を相手にする時には、時間がかかる方法でもあった。

「……わかったの」
 荒野の言葉を聞くと、茅は一旦物置になっている自分の部屋に戻って、ノートパソコンを抱えて帰ってきた。
「……名簿、見せて」
 茅はパソコンを立ち上げて、荒野の手から名簿のハードコピーをむしるように奪い、その名簿にシャーペンでチェックを入れながら、幾つかの住所を入力して、周辺の地図を表示させ、何枚かの地図を画像としてパソコンのメモリに取り込む。
 OSに付属の画像処理ソフトで取り込んだ地図を表示させ、
「このへんと、このへんと……」
 と、地図の画像に、直接、マウスで生徒が住んでいる場所に点を書き込む。その後、線を書き込んで、四十名二クラス、八十名分の生徒を、住んでいる地区ごとに、十二ブロックに分類する。
 それだけの処理を、茅は、作業開始後から、三十分もかけずに終えてしまった。

「十二ブロックに分けたから……今日は五日、だから……冬休みが終わるまで……明日、六日から動き始めるとしたら、一日三ブロック……今日の夜からはじめられるなら、一日あたり二ブロック以下のペースで消化していけば、始業式の日に間に合うと思うの……」
 あまりの手際の良さに、楓はもとより、荒野や荒神までもが呆気にとられて茅の作業を見守っていた。
「……あー。君……」
 目をまん丸に見開いて、荒神が茅に話しかける。
 荒神は、滅多なことでは驚かないし、仮に驚くことがあったとしても、それを素直に表面に出す人格ではない。
 しかし、この時は、茅への驚きを素直に顔に出していた。
「……君、こういうのも……仁明から習っていたの?」
「ならってないの」
 茅は首を横に振った。
「でも、荒野がやろうとしていることと、初期条件が与えられれば、それを最も効率的に実行する方法は容易に割り出せるの」
「……こりゃあ、いい!」
 茅の返答を聞き、荒神は頭を後ろにそらして愉快そうに笑い声を上げた。
「……ぼく、姫だなんだって話し、正直、今まで馬鹿にして聞いていたけど……ろくに訓練を受けていない娘っこでこれだって?
 こりゃあ……そうだ! ほかの六主家も欲がる筈だよ、うん!」
 荒神はひとしきり笑った後、不意に真顔になり、荒野のほうに向き直る。
「断言するよ、荒野君。
 遠からず、この子の……姫の、争奪戦が、はじまると思うよ。
 ……我々六主家の者の間で……」

 荒野たち……荒野と楓は、その夜から動いた。
 茅が作成した地図を元に、ブロックごとに何人かの住人を無作為に選び、生徒と生徒の家族に、最近あやしい動きや変化がなかったか、眠らせて、聞き出し、解放する……。
 荒神もその作業を手伝いたがったが、荒野が荒神に借りを作りたくなかったので、丁重にお断りした。
「二宮は、この手の細かい仕事は不得手でしょう」
 という理由をつけて。

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彼女はくノ一! 第三話 (59)

第三話 激闘! 年末年始!!(59)

 年が改まって以来、バイト先に赴いては自分の部屋に寝に帰るだけ、という生活を送っていた羽生譲は、この頃になってようやく五時間以上の睡眠を取る余裕ができた。郷里に帰って不在だったバイト先のスタッフたちも大体復帰していて、新年用の緊急シフトから、だんだんといつも通りの余裕のあるシフトに変わってくる。
 そんなわけで、五日の深夜、くたくたになって帰ってきた羽生譲は、そのまま風呂にも入らず力尽きたように就寝し、そして、起床すると、すでに六日の昼過ぎだった。
 風呂場に行ってシャワーを浴び、なにか食べるものを探しに台所に行くと、猫耳メイド服姿の加納茅がお茶を入れている所に出くわす。
「……おっ」
 加納茅がこの家にいるのも、茅がメイド服や猫耳を装備しているのにも慣れていたつもりだったが、起き抜けに予告無しに出会うと、かなりどきりとさせられる。
「なんだ茅ちゃん。今日も着てたのか……」
 羽生が目覚めの一本を口に咥えると、茅は非難するような目で、羽生を睨みながら、
「お勉強会。だから、今日はスコーンもあるの……」
 と、オーブンを指さした。オーブンの硝子窓の中に、たしかに丸い物体が焼かれている。
「……そっかあ……お勉強で、お茶でスコーンなのね……」
「お勉強」という単語と「スコーン」という単語の組み合わせは、羽生譲にとってはなかなか新鮮に思えた。
「……そのスコーンの余裕あったら、ひとつふたつおねーさんにもまわして欲しいかナー、なんて……」
「……キッチンで煙草に火をつけなかったら、あげるの」
 猫耳メイドさんは、なかなか手厳しかった。

「……おー。やっているなあ、学生諸君!」
 火をつけていない煙草を咥えたまま、羽生譲はスコーンの皿を持ってその部屋に入った。
 居間として使っている部屋ではなく、加納家で一番広い十五畳間を、さらに何枚かの襖を取り払って隣接する部屋と合体させた場所で、そこに幾つかのちゃぶ台を置いて、その周りに学生たちがノートや教科書、参考書を広げている。
 先々代あたりの持ち主がかなり阿漕な儲け方をしていた関係で、狩野家にはこのように広すぎて普段使われていない部屋幾つかあり、羽生譲の同時誌作成の追い込み時などには重宝している。
 集まっていた学生たちの三分の一ぐらい……具体的な人名を上げると、狩野香也、樋口大樹、柏あんなは、かなりげんなりした、疲れ切った表情をしていた。
「……いやぁ、関心関心。
 今、メイドさんがおいしい紅茶いれてくれるってよう……」
「……その茅ちゃんなんだけど……」
 樋口明日樹は、感心したような声を出した。
「……なによ、これ……。ほぼ、全問正解って……」
 二年生の監視の下、一年生全員に問題集からランダムに抜粋した問題を溶かせてみたところ、茅の成績は、突出したものだった。
「……おーどれどれ……堺君と栗田君はまあまあ……。
 くノ一ちゃんは、科目によって差がありすぎ……。
 他の一年は……うちのこーちゃんも含めて、問題外だな、こりゃ……」
 問題外、な、狩野香也、樋口大樹、柏あんなの三名は、俯いたりそっぽを向いたりしている。柏あんなにいたっては、
「わ、わたしは、まぁくんに養って貰うからいいもん!」
 とかうそぶいて、その「まぁくん」こと堺雅史に、丸めたノートで頭をはたかれる。
「そういう問題じゃない。
 ……ここまで手を抜いているとは思わなかった……」
 堺雅史は柏あんなとは古い付き合いになる。が、クラスは違う。よって、学校の成績のことなど、今まで知らされていなかった。もっと端的に言うと、柏あんなが、堺雅史と会話する時、その手の話題を積極的に避けて隠していた結果である。

 茅が用意してくれた熱いお茶とスコーンを楽しみながら、会話は、自然に今後の対策会議、のような方向に向かう。
「……一年は、そんでいいとして……二年生のほうは、どうなの?」
「……心配なのは、この中ではおれだけですねぇ……」
 加納荒野が片手を上げる。
「……なるほど、帰国子女、か……」
 荒野はいかにも利発で、成績が悪そうにみえないから……もたぶん、楓と同様、「科目によって出来不出来が激しい」という傾向があるのだろう。
 他の二年生……樋口明日樹、才賀孫子、飯島舞花は、個性はそれぞれ違うが、基本的に地道に努力する一面があるので、そこそこ以上の学力を自然につけている。
「英語とか、暗記が占める割合が多い科目は……ともかく、地道に時間をかけて覚えていかないとどうしようもないし……」
「数学とか、国語とか、問題の解き方を教えやすいものからいきますか……」
「暗記物に関しては、それぞれ身近な人たちが監視して、じっくりやらせる、ということで……」
 比較的余裕のある二年生たちは、そう頷きあう。
 樋口大樹には樋口明日樹、柏あんなには堺雅史、そして、狩野香也は複数の「身近な監督者」になりうる人がいる。
「……おれは、現国中心に教えて貰いたいな……」
 加納荒野は早々に自分から申し出た。教科書をざっとみてみた感じ、他の教科に関してはなんとかしのげると思ったが、現国の文章読解問題などは、一種独特の「文脈」があるような気がして、荒野にはどうにも理解しきれない領分があるように感じた。
「じゃあ、そちらはわたくしが……」
 才賀孫子が、荒野の隣につく。荒野のバックグラウンドを知っている孫子のほうが、フォローしやすいように思えた。
 比較的基礎が出来ている栗田と堺に関しては、明日樹と飯島が教えることにして、他の一年生に関しては、時間を分割して、一つ一つの教科の基礎から、叩き込んでいく必要があった。
「……ということで、楓ちゃんと茅ちゃん、お願い」
 同学年に編入することになっている楓は、数学と物理に関しては、ほぼパーフェクトだったので、基礎さえ覚えていない香也たちを教えることは充分にできた。全科目的にパーフェクトだった茅は、他の一年に対して、なんでも教えることが出来た。
 教科書や参考書をちらりと一瞥しただけで、すらすらと内容を暗唱してみせる茅に、全員が畏敬の念を込めて注目する。
 試しに、茅に二年生の問題をやらせてみたところ、それもさらさらと解いてしまった。
「……すごいな茅ちゃん……。今までどこで勉強していたんだ?」
 飯島舞花が呆れたような声を上げると、茅は小首を傾げて、
「全部、仁明に習ったの」
 と、平坦な口調で答えた。
 その後、茅は、難関校のかなり捻った入試予想問題もさらっと解いてみせたので、結局、終わりの方では、二年生も含めて、全員、分からないところがあったら、茅に聞きにいくような感じになった。
 どんな問題を出されても、茅は、答えられない、ということがなかった。

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髪長姫は最後に笑う。第四章(36)

第四章 「叔父と義姉」(36)

 茶器とエプロンを二人で抱えて、一旦、庭のプレハブに寄る。才賀と楓がそっちのほうに向かったからだ。
 プレハブの中ではみんなに囲まれた香也ががっくりとうなだれており、着流し姿の二宮荒神は何故か脳天気な笑い声を上げていた。
『……なにがあったんだ?』
 不審に思った荒野だが、その場ではなにも聞かず、
「……茅が、お茶いれてくれるって……」
 とのみ、言った。

 荒野たちが抱えてきたティーセットを見ると、真理は意表を突かれた表情をした。
「あー。すいません。茅がみんなにお茶、御馳走したいというんで、台所、少し貸していただけませんか?」
『主婦に向かっていきなり、キッチン貸して、っていうのも、たしかに呆れられるよな……』とか思いながら、荒野は精一杯の愛想笑いを浮かべ、真理にそうお願いする。
 そういや、以前、大晦日にこれやった時、真理さん、留守だったよな……
「お願いなの」
 茅も、真理に頭を下げた。
「え、ええ……もちろん、構わないけど……。どうぞ、ご自由に……」
 真理は腕を上げて、荒野たちを台所に導いた。
 制服の上にエプロンを付けた茅が、お湯を沸かしている間に湯沸かし器のお湯をシンクに溜め、手際よくカップを浸して暖める……といった一連の作業を、真理は興味深そうに見守っていた。荒野にとっては見慣れた光景だったので、一足お先に居間にいって、みんなと合流する。炬燵が、恋しかった。

 居間の雰囲気は、なぜか張りつめていた。
 荒神が何故か異様ににこにこしていて、三島百合香はそっぽを向いてなにかふてくされたような表情を作っている。
 すぐに真理と茅がお盆の上に人数分のティーカップを乗せてやって来て、全員の前に置いてから、茅が順番にポットの熱いお茶を注いでいく。
 茅の紅茶は、大晦日の時と同様、おおむね好評だった。初めて飲む真理、荒神、三島も口々に褒めている。
「……で、この家の息子さんは、結局、誰選ぶの?」
 荒神が唐突にそういった時、荒野は危うく飲みかけの紅茶を吹き出すところだった。
「……お前さん、絶対に面白がっているだろ?」
「え? なに? そういう話しになっているわけ?」
 三島が憮然として荒神にそういうのと、荒野が誰にともなく疑問を口にしたのは、ほぼ同時だった。
「……茅は、判ってたの。みんな、絵描きにらぶらぶ……」
「みんな若いし、そういうのも経験だとは思うけど……最低限の節度だけは、守ってね。
 わたし、この歳でおばあさんになりたくないし……」
 茅と真理の反応は、比較的冷静だったと思う。というか、真理さん、それ、鷹揚すぎるよ、と、荒野は思った……。
 いきなり、電子音の「メリーさんの羊」が流れだし、狩野香也があわてふためいて携帯を取り出して、画面を確認する。その後すぐ、香也は顔を上げ、楓の方をみた。楓は、どこか誇らしげな表情をしている。
 ……どうやら、楓から香也へのメール、が、着信したらしい。
 次の瞬間、才賀孫子と樋口明日樹が自分の携帯を取り出し、猛然とキーをたたき出す。楓も、それに続く。
 ひっきりなしに鳴り出す「メリーさんの羊」。
 どんどんこわばっていく香也の表情。
 そんな状態が、二、三分続いた。香也にとっては、もっともっと長く感じたに違いないが……。
 香也の、だけではなく、荒野、茅、孫子、楓、明日樹の携帯がいっせいに鳴り出したので、とりあえず、その「メール合戦状態」はようやく終わった。
 荒野が自分の携帯を確認してみると、飯島舞花からのメールで、
学校はじめる前に、みんなで勉強会でもやらないか?
冬休みの課題、やってないのもいるだろうし、転入してくる人たちは、こっちの勉強のこと知りたいだろうし……。

 という内容だった。
 荒野が顔を上げると、他の面子と視線が合う。どうやら、同じ内容のメールを、何人かに送ったようだ。
『……そういや、大晦日にもそんなこともいってたな……』
「……勉強会?」
「……そういえば、今日も始業式にわたくしたちだけ小テストをするとか……」
「……うーん。日本の学校の勉強、確かに教えて貰ったほうがいいかも……」
「……そうね……いい機会だし……。
 わたしと飯島、それに才賀さんが三人がかりでやれば、なんとか教えられると思うの……大樹も引っ張ってくるし、もちろん、狩野君も……」
 樋口明日樹は考え考えいっているようだが、実はかなりやる気になっているのではないか?
「……というわけで、みんなで勉強会やりたいので、明日と明後日くらい、場所をお貸しいただけませんでしょうか?」
 とか、真っ先に真理に確認しているし。
「ええ。ええ。いいことねー。
 うちのこーちゃん勉強なんてやっているのみたことないから、存分にしごいてあげて頂戴」
 その「うちのこーちゃん」は、こっそり逃げようとしたとことを、孫子に前を塞がれ、楓に足を羽交い締めにされ、とっつかまっていたりする。
 逃げられない、と観念してから、香也は、何故か携帯を取り出し、猛然とキーを打ち始めた。
『……メール?』
 今更香也がどこにメールを打つのか、荒野は気にはなったが、改めて問いただす気にもなれなかった。
「……みんなが集まるなら、お茶以外にスコーンも用意するの……」
 茅は、なんか見当違いな方向に闘志を燃やしているし。
『……やれやれ。ここに来て、仕事が増えたな……』
 朝は茅の体力作りに付き合って、昼間は勉強。そして、夜はクラスメイトたちの身元を洗い直す……。
 と、そこまで考えて、荒野は、ようやく楓の存在に思い当たった。
『……そうだよ。こういう時のために、楓がいるんじゃないか……』
 荒野は、香也、孫子の二人とじゃれあっている楓に目配せし、「後で話しがある」という意志を伝えた。
 荒野の視線を捕らえた楓は、心持ち表情を引き締めて頷き、「了解」の意志を露わにする。

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彼女はくノ一! 第三話 (58)

第三話 激闘! 年末年始!!(58)

「……お茶請けがお煎餅と蜜柑くらいしかないんですけど……」
 加納兄弟が持ち込んできた本格的なティーセットを見て、狩野真理は若干引き気味になっていた。そうした真理の様子をみて、樋口明日樹も恐縮する。
「いやぁ、本当に楽しいねぇ、この家は……」
 着流し姿の二宮浩司はなんかかなりくつろいだ様子で歓声をあげる。
「……うわぁ。おしいい。
 こんな所で本格的な紅茶飲めるとは思わなかったよ……」
 称賛の声を受けて、制服にエプロン姿の茅がティーポットを抱えたまま優雅に一礼する。
「……で、この家の息子さんは、結局、誰選ぶの?」
 二宮浩司は、そう言葉を継いだ。
 その言葉が、瞬時に狩野家の居間の空気を瞬間冷凍させる。
「……お前さん、絶対に面白がっているだろ?」
 隣りに座った三島百合香が、珍しくむすっとした顔をして二宮に突っ込む。
「え? なに? そういう話しになっているわけ?」
 加納荒野も、今更ながらに驚きの声を上げる。
「……ここ数日、自分らの事ばかりで、こっちのほうには注意を払っていなかった……」
 言われてみれば……餅つきの時も、一部の人たちの間に、みょーな緊張が漂ってもいたような……。
「……お前さん、妙に鈍い所あるからなぁ……」
 三島百合香はやれやれと首を振り、呆れたような感心したような声を出して、荒野をそう評した。
「……茅は、判ってたの。みんな、絵描きにらぶらぶ……」
 一通り、みんなの分の紅茶を注ぎ終わった茅が、荒野の隣りに座って、そういう。
「みんな若いし、そういうのも経験だとは思うけど……最低限の節度だけは、守ってね。
 わたし、この歳でおばあさんになりたくないし……」
 どこまで本気で言っているのかわからないが、狩野真理もわざとらしくため息を吐いた。
 話しの種にされている狩野香也、松島楓、才賀孫子、樋口明日樹は、顔色を赤くしたり白くしたりしながら、なにも言い返せなくて俯いたり明後日の方に目をそらしたりしている。ここでなにか言っても揚げ足を取られてドツボに填るのは目に見えていた。
(あなたが大晦日にあんなことをいうからこんなことに……)
 才賀孫子が肘で隣に座る樋口明日樹を軽くつつき、小声で責める。
(他人のせいにしないでよ……。
 それに、わたし、その時なにいったのか覚えていないんだから……)

 その時、香也の携帯から着信音が響く。メール着信。中身を確認すると。
おまもりするのですv^^

という、楓からのものだった。炬燵の中に手を入れて、ほとんど手探り状態で入力したらしい。
 香也がなんともいいようのない表情で楓のほうを見、楓が照れたような顔をして目をそらす。そのことで事態を察した才賀孫子と樋口明日樹が自分の携帯を取り出し、猛然とメールを打ちはじめる。香也の携帯に矢継ぎ早に着信するメール。中身を確認するまもなく次々と鳴り響く着信音の中、香也は半ばパニックに襲われつつ、蒼白な顔をしてメールをチェックし続けた。
『……マナーモードに設定……。
 そして、今後、緊急の用件以外、メールの返信は控えよう……』
 硬くそう決心する香也だった。
 この場に飯島舞花がいたら「やるなぁ……」といいって口笛の一つも吹いただろうし、樋口大樹がいたら「それどこのエロゲですか!」と叫んだことだろう。
 ……だからといって、現在の香也の境遇を羨ましがるか、といったらそれは別問題だろうが。

「……らぶらぶなの……」
「……せーしゅんだねぇー……」
「……らぶでもこめでも勝手にやってろっての……」
「……お茶がおいしい……」
 銘々、勝手な感想を述べる外野衆。
 その中でただ一人、加納荒野だけが狩野香也にひじょーに同情的な眼差しを向けていた。

「お」
 狩野香也が絶望的な守勢状態から救ったのは、飯島舞花からのメールだった。同報メールらしく、その場にいるほぼ全員の携帯が、いっせいに着信音を鳴り響かせる。
「……勉強会?」
「……そういえば、今日も始業式にわたくしたちだけ小テストをするとか……」
「……うーん。日本の学校の勉強、確かに教えて貰ったほうがいいかも……。
 楓、自信、ある?」
 いきなり荒野に話題を振られ、楓はぶんぶんと首を振った。
「……そうね……いい機会だし……」
 樋口明日樹も考え考え、言葉を紡ぐ。
「わたしと飯島、それに才賀さんが三人がかりでやれば、なんとか教えられると思うの……大樹も引っ張ってくるし、もちろん、狩野君も……」
 その時、メールを貰った瞬間に風向きが悪くなってきたことを察した香也は、そろそろと立ち上がり居間から逃げようとしていた所だったが、すぐに「道連れなのですぅ」と楓が足に抱きついてきて、ほぼ同時に孫子が退路を塞いでいた。
 肩を落とし観念した香也は、携帯を取り出し、堺雅史宛に「お誘いのメール」を打ち始める。堺を誘えばかなり高い確率で柏あんなもついてくる。
 そして、以前、期末テスト最終日の帰り、柏あんなの反応を見るかぎり……柏あんなの成績は、あまり良くないほうだと予測できた。
 ……逃げ切れないのなら、道連れは一人でも多いほうがいい……。
「……というわけで、みんなで勉強会やりたいので、明日と明後日くらい、場所をお貸しいただけませんでしょうか?」
 一同を代表して、樋口明日樹が真理に確認をとる。
 多人数が収容可能な場所は限られており、空き部屋が多い狩野家以外の候補地は、図書館くらいしか思いつかない。図書館では、あまり大きな声が出せないので、「教えあう」という行為がしづらい。
「ええ。ええ。いいことねー。
 うちのこーちゃん勉強なんてやっているのみたことないから、存分にしごいてあげて頂戴」
 にっこりと笑って即答する狩野真理だった。
「……みんなが集まるなら、お茶以外にスコーンも用意するの……」
 加納茅は、なにか間違った方向に燃えているようだった。

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髪長姫は最後に笑う。第四章(35)

第四章 「叔父と義姉」(35)

 その後、岩崎先生と三島の案内で校舎の中をざっと案内される。
 一年生の教室、職員室や実験室、保健室などが一階。二年生の教室と音楽室、美術室、などが二階。三階には、三年生の教室と図書室、視聴覚室、ずらりとパソコンが置いてある情報実習室がある。設備や備品はいかにも公立校らしく、古ぼけたものも少なくはなかったが、いかにも公共物然としたそうした質素さは、むしろ荒野に安心感を与えた。
 案内された先々、例えば音楽室で「夜、勝手にピアノが鳴り出したりするところ」となどと茅があやしげな知識を披露しはじめ、案内していた岩崎先生も最初のうちは黙っていたが、「下駄箱。ラブレターが入っていたり靴に画鋲を入れられたりする場所」のくだりで、とうとう吹き出した。
「……加納さん……茅さんって……おとなしい子だと思ったけど、面白い子ねぇ……」
 岩崎先生は、茅が真顔で冗談をいっている、と、判断したようだ。
「……あー。すいません。
 こいつ、学校に来るのこれが初めてで……テレビやマンガで仕入れた知識、適当に口走りっているだけなんで……」
 岩崎先生の顔が「え?」という疑問の形に凍りつく。
「ええと……聞いてませんでしたか? 茅、この間まで長期入院してたもんで……ここ二、三ヶ月じっくりリハビリしましたので、今ではすっかりよくなってますし、もう日常生活にはなんにも支障はないんですが……」
 荒野がいうのは「一般社会に溶け込むためのリハビリ」だが、茅が「茅、毎朝走っているの」といったこともあって、岩崎先生はそうはとらず、フィジカルなトレー二ングの類を想像しているようだった。
「……そう」
 といったきり、難しい顔をして黙り込んでしまった。
「岩崎先生、そう構えることないぞ。今の茅はすっかり健康体だし、成績のほうも、全然問題ない。むしろ、多分、大抵の生徒よりは上になるんじゃなかな?」
 親権者ではないが、加納兄弟の保護者代わり、という事になっている三島百合香が、考え込んだ岩崎先生にそう請け負った。
 考え込んでいた岩崎先生の表情は、若干、晴れた。
「そのあたりは問題ないんですが……こいつ、今まであまり外にでなかったせいで、一般常識とかあまりないんで……その辺りは、どうかご指導のほどを……」
 黙っていればガイジンっぽい風貌の荒野が流暢な日本語でそういって頭を下げたので、岩崎先生は慌てて「い、いいのよ。先生の方こそ、よろしく」とかなんとか、その場を取り繕う。
『……大丈夫かな、この先生……』
 頭を下げながら、荒野はそんなことを思っている。
『……やっぱ、経験があまりないのか……』
 経験の多寡は往々にして自信の有無に繋がる。茅や楓のような「特殊な」生徒を、この先生に任せておいて大丈夫なのかな、という一抹の不安が、荒野にはあった。

 校舎内を一通り案内されると、外に出て、校庭、運動部の部室が長屋風に連なるプレハブ、体育館、プールなどをざっと見回る。
 校舎が小さめな割には敷地が広い。運動部の活動が活発なようで、年が開けたばかりだというのに、校庭の向こうにジャージ姿の生徒を、何人か見かける。部活をやっているらしい。
「……あれは……女子バスケ部かな?」
 岩崎先生が、遠目に見える生徒たちに気づいて、推測を語る。
 荒野たちの姿に気づくと、その生徒たちも頭を下げたり手を振ったりしてきた。指を刺して「ねこみみー」と叫んでいる生徒もいる。
『……やっぱり目立つか、おれたち……』
 荒野と茅が並んでいると、遠目にもそれと知れるらしい。
 岩崎先生はマンドゴドラのことを知たなかったのか、
「猫耳……なんのこと……」
 と首をひねっていた。
 荒野は乾いた笑い声を上げてごまかした。

「ざっとこんなものだけど……あと、なにか質問はありますか?」
 一通り校内を案内され、再び職員室に戻ってきてから、岩崎先生は荒野たちに、尋ねる。
「あの……」
 荒野が片手を上げる。
「この学校、何人くらい通っているんですか?」
「一クラス四十人前後で、一学年五クラスですから……全校で大体、六百人くらいですね」
『……職員を含めても、千人いかなのいか……』
 日本の学校の基準を知らない荒野は、それが公立校の規模として大きいのか小さいのか判断がつかない。
『……ま、自分のクラスと茅たちのクラス、くらいを調べておけば、当座は十分だろう……』
 潜伏先では真っ先に身の安全を確保する、という習慣のある荒野は、接触する機会が多い人間の背後関係を調べることも、普段から怠りなくやっている。今回もどうにかして生徒の名簿を入手して、自力でざっと調査するつもりだった。こうした調査は、たいていの場合、徒労に終わる。調査対象のほとんどは、なんの背景もない善良な一市民、という結果がでる。しかし、今回は、場合によっては自分らと同じ一族の者と対立する可能性もあり、安全確保のための努力を惜しむつもりは、荒野にはなかった。
「あと質問はないですか? なければ、今日はこれで解散します……」
 荒野がそんなことを考えている間に、岩崎先生は皆にそう告げている。
「……あ。言い忘れるところでした。
 それから、始業式の後に、皆さんには簡単なテストをしていただく予定です。
 皆さんは……あー。気を悪くしないでください。帰国子女だったり、事情があって学校へ通っていなかったり、特殊な境遇を経てきた方が多いようですので、どの程度の学力を持っているか、事前に調べるための簡単なテストです。
 成績には響きませんので……」

 解散、ということになって、再び三島の車に寿司詰めになると、途端に、才賀孫子と松島楓は携帯電話を取り出して、一心にメールを打ち出した。
 二人に挟まれた茅が、珍しそうに首を左右に振って二人の手元をみている。
「……メール、はやってんのか?」
 バックミラー越しにその光景を認めた荒野が、誰にともなく呟くと、
「狩野家のヤツら限定の流行らしいな……」
 エンジンをかけながら、つまらなそうに三島が呟く。三島はなにやら察するところがあるらしいが、荒野には解説してくれなかった。

 マンションの駐車場に車を入れ、外に出ると、才賀孫子と松島楓が先を争うようにして、狩野家に戻る。
「……なんだ、あいつら……」
 そう呟く荒野の手を引くようにして、茅は、一旦荒野たちのマンションに戻り、持ち帰った荷物を置いて、荒野にティーセットを持たせた。
「……みんな、お隣に来ているの」
 怪訝な顔をする荒野に茅は短く説明しただけで、制服を着替えもせずに、荒野の背を押すようにして、狩野家に向かう。

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彼女はくノ一! 第三話 (57)

第三話 激闘! 年末年始!!(57)

 帰宅後、香也は松島楓、才賀孫子らの同居人とも番号とアドレスの交換をした。
 同じ家に住んでいるの彼女らとはメールでやりとりすることはそんなにはないだろう、と、当初香也は思っていたが、その日の夕方、いつものように庭のプレハブに籠もっていた所に
ご飯できましたv(^^)

 というメールを楓から貰ったのを皮切りに、孫子からも寝る間際に、
おやすみなさいませ。
明日があなたにとって佳き日でありますように。

 などというメールが来るようになる。

 以後、「二人で示し合わせているんじゃないのか?」と思うくらい、同居人の少女二名は競うようにして日に何通かのメールを香也に送信するようになり、それに対応するために、香也はマニュアルを開いて何種類かの汎用性のある返信用のテンプレート文章を考案し、登録しなければならなかった。
「同居しているんだから、なにか用事あったら直接いってくれればいいのに……」
 というのが香也の感覚だったが、香也の性格だと、面と向かって二人にそういうのも心苦しいのだった。
 翌日、二人が教科書を貰いに学校に出向いて留守の際、ちょうどいい具合に堺雅史からメールが着信したので、他に相談する相手ももたない香也は「ちょっと、電話でいいかな?」と確認してから、しかじかと電話で事情を説明し、相談をしてみた。知り合ったばかりの堺にこうしたことを相談するのも何だが、極端に人付き合いが悪い香也は、同性異性を問わず、こうした時に会話する相手に不足している。
『……ええっと、つまり……。
 その女の子たち二人からのメール攻勢、なんとかならないかってこと?』
「……う、うん……二人から日に何度も来るようになると、こっちも集中力が……」
『……あ。ちょっと待って。あんなちゃんがなんか言いたいことあるって』
 香也はイヤな予感がした。
『……ちょっと狩野君!』
 案の定、柏あんなは電話口に出た途端、挨拶もぬきで香也に荒い口調でまくし立てる。
『そばで聞いていれば一番悪いのははっきりしない狩野君のほうでしょ? あんな綺麗な子たちから好意を持たれるなんて滅多にないことだよ。観念してすっぱりどちらかに決めちゃえば済むことじゃない。それとも狩野君、誰か他に好きな人とかいるわけ?』
 うんぬん、と柏あんなは感情的な物言いで言い募る。
 香也は、「なんでみんなそっちのほうに解釈するのだろう……」と内心で思いながらも、しどろもどろに「今のところ、二人を恋愛対象としては見ていない」こと、「そのことは二人とも知っている筈であること」などを説明する。
 大晦日の夜、酔っぱらった樋口明日樹の詰問がきっかけとなって、楓と孫子が変に自分を意識し始めた、ということは、香也も肌で感じている。しかし、自分のことをいろいろな意味で「未熟者」と認識している香也は、今の時点で特定の女性とつき合う、という決断をする勇気は持ち合わせていなかった。
 堺と同様、つき合いが浅く、かつ、大晦日の夜、現場にいあわせなかった柏あんなに、そうした細かいニュアンスを説明するのは、香也の語彙では至難の業だったが、それでも香也は、しどろもどろになりながらも、必死になって柏あんなにぐだぐだと説明をし続ける……。
『……わかった。
 ようするに狩野君、人付き合いに対して、圧倒的に自信がないってことね……』
 柏あんなも、ようやく納得してくれたようで、かなり低い声でそう呟いてくれた。
 香也は安堵のため息をつきながら、
「……そうそう。ぼく、人とつき合ったこと、ほとんどないから……」
 と、続けようとすると、
『うん。それじゃあ、話しは簡単だ。
 狩野君のほうが、人に慣れればいいのよ……』
 などと、とんでもないことを言いだす。
『ちゃんとクラスのみんなに狩野君とお友達になるようにって連絡し廻しておくから、新学期から、覚悟するように……』
 柏あんなはそういいって、一方的に通話を切る。

 香也はプレハブの中で、手の中の買ったばかりの携帯電話を、いつまでも眺め続けた。

「ブラボぉー! いやぁ、素晴らしい!」
 いつの間にプレハブに入り込んだのか、着流し姿の三七分け黒縁眼鏡の青年が、呆然と立ちつくす香也に向かって拍手を送っていた。
「せーしゅんだねぇー。いや、この家に来て正解。こんなに面白い場所だとは、思っていなかった……」
 二、三日前からこの家に住み始めたばかりの新しい同居人、二宮浩司はそういって、なれなれしく香也の肩に手を置く。
「さー。少年。このぼくにも、もっと詳しい説明をしてみたまえ。
 ようするに、あれかね?
 才賀の小娘とぼくの可愛い雑種ちゃんとが、君を狙っているってことでOK?」
 香也は「……この人もなんかややこしそうな人だな……」とか「可愛い雑種ちゃん、って、楓ちゃんのこと?」とか思いつつ、返答に窮していると、
「……狩野くーん。こっちいる?」
 と、樋口明日樹がプレハブの中に入ってきて、それとほぼ同時に、香也の携帯からメールの着信を告げるメロディが流れた。
 プレハブ中に入った明日樹は、着流し姿の二宮浩司に会釈する。明日樹は、三日の餅つきの時に「今度学校に赴任し来てくる先生」として、二宮浩司を紹介されていた。
「あ。狩野君、携帯買ったんだ」
 二宮浩司と樋口明日樹が見守る中、香也が着信したメールを確認する。楓と孫子から、「今から帰ります」という旨の、文面は異なるがほぼ内容のメールが二通、届いていた。
「……じゃあ。狩野君の番号とメアド教えてもらえるかな?」
 当然のことながら、現在香也が置かれている状況についてなんの予備知識ももたない明日樹が自分の携帯を取り出してそういうと、香也は流石にげんなりとした顔をした。
 傍らに立っていた二宮浩司は、なにが面白いのかしばらく大声を上げて豪快に呵々大笑している。

 それから十分も立たないうちに、制服姿の松島楓、才賀孫子、それにスーツ姿の三島百合香がどやどやとプレハブの中に入ってくる。しばらく遅れて、ティーセットを抱えた加納兄弟もやってきた。
 このうち、荒野だけが二宮の姿を認めてぎょっとした顔をしたが、今日は餅つきの時のように、二宮が荒野に抱きつく、という珍事は発生せず、全員で、狩野家の居間に移動する。

 メイド服はクリーニングに出したまま、まだ引き取りにいっていたなかったので、制服のままだった茅は、みんなに紅茶をいれてくれた。

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髪長姫は最後に笑う。第四章(34)

第四章 「叔父と義姉」(34)

「……さて、次の質問だが……」
 さっきからしゃべっているのは大清水という教師だけだった。むっつりとした大清水の表情をして淡々と言葉を紡ぐ大清水の表情は読みにくい。
「……何人かの先生方から、才賀孫子君、加納茅君、松島楓君の三名が、年末、商店街で労働に従事していた、との目撃報告がなされている。
 君らの年齢を考慮すればわかると思うが、もちろん、特殊な事情でもないかぎり、当校の生徒はバイトを禁止されている。その点について、なにか説明すべき事はないかね?」
「よろしいでしょうか?」
 才賀孫子が片手を上げて発言を求めると、大清水先生は頷いて発言を認めた。
「第一に、あれはわたくしたちの方から自発的に申し出た行動ではなく、知り合い経由で商店街の方々に頼まれたものです。
 第二に、あらかじめしかじかの報酬を約束され、雇用契約を結んだ上でのお仕事ではありませんので、バイト、という表現は不適切ではないかと思います。
 第三に、商店街の方々のご依頼を受ける際、保護者の許可も取ってあります。
 第四に、商店街の方々のご依頼を承った時点で、わくしたちはこの学校への転入手続きを終えていません。よって、この学校の規則に縛られるいわれはないと思います」
 才賀孫子の年齢に似合わない堂々とした態度と、理路整然とした話しぶりに、大清水以外の教員が毒気を抜かれたような顔をして、口を半開きにする。
「お……ぼくも、よろしいでしょうか?」
 と荒野も片手をあげ、大清水が頷くのを待ってから発言しはじめる。
「才賀さんのいうとおり、ぼくも、たまたまその現場にいあわせたのですが、……商店街の方々が才賀さんたちがお世話になっている家に押しかけてきて、是非にと乞われたので……彼女たちは、しぶしぶ引き受けていました。
 商店街の方々にご確認していただければ、真偽のほどはご確認いただけるかと……」
「それでは、あの商店街での行為は全て奉仕活動であり、金品の授与は一切なかった、というのかね?」
 間髪を入れず、大清水は問い返してくる。
「いいですか!」
 松島楓が片手を上げた。
 楓は、基本的に目上の者には服従する。このような場で自発的に発言を求めるのは、珍しい。
「お金を貰ったか、貰っていないか、ということでいえば……最終的には、確かにいただきました。
 だけどそれは……あくまで、お礼として、結果として、頂いたもので……わたし、そうしたお礼を頂かなくても、商店街のみなさんに喜んでいただいただけでも、とても嬉しかったんです……。
 でも、それって……誰かに喜んで貰うことって……悪い、いけないことなんですか?」
 楓は、半ば涙ぐんでいた。
「あー。さらにご説明しますと……」
 三島百合香が咳払いをして、補足説明をし始めた。
「楓は、施設から狩野家に下宿させてもらっている身分であり、他の三人とは違って、小遣い銭にも困るような境遇です。
 その楓に、向こうさんからの差し出された謝礼を拒めというのは……そっちのほうが少々非人道的、非教育的な扱いで、問題があるのではないでしょうか?」
「なるほど……。
 松島君は、苦労しているわけですね……」
 大清水は楓の書類を確認する。
 書類上、楓は、それまで籍を置いていた加納涼治の経営する私立孤児院が閉鎖されたため、涼治の計らいで狩野家に下宿していることになっている。
「この、松島君の親権者の方は……」
「楓が元居た施設の職員の方かなにかだと思いますが……詳しいことは、弁護士にでも確認してみませんと……」
「うーん。どうもこの書類ではわかりにくいのだが……この、加納君たちの親権者でもある加納涼治氏が、松島君の現在の生活費を負担している……そういう理解で、正しいのかね?」
「その通りです」
 荒野は首肯すると、
「……この件については、特に問題はないように思われますが……」
 大清水という教師は、荒野の髪を話題にした時と同様、ごくあっさりとそういい、背後に座っているタヌキ校長とキツネ教頭に振り返る。タヌキ校長とキツネ教頭は顔を見合わせて、頷きあった。
『……この大清水という先生……』
 荒野は内心で納得する。
『……納得いかないことがあれば、追求はする。
 けれど、全く話しが分からないってタイプでもない……』
 校長と教頭の反応から考えても、多分、現場での判断は的確な方なのだろう……。
『……いわば、たたき上げの軍曹、といったところかな……』
 そうした現場に強いタイプは、あまり出世はしない……という意味でも含めて、荒野は自分の担任になる予定の教師を、そのように評価する。規則遵守で融通はあまり利きそうにもないから、生徒にはさぞや嫌われていることだろう……。
「……わたしの方からは、以上ですが……他の先生方の方から、なにか彼らにお聞きしたいことは……」
 他の三人の教員が首を振ったことを確認してから、大清水先生は荒野たちを立たせた。
「……それでは、これより教科書を配布します。職員室まで来てください」
 大清水先生がそう宣言すると、他の教員たち、特に若い岩崎硝子は、明らかに安堵の表情を浮かべた。
 ……どうやら荒野たちを、よっぽど扱いにくい生徒のように想像していたらしい。
 校長と教頭の二名を残し、残りの全員がぞろぞろと校長室を出て、隣の職員室に向かった。

 職員室で、大清水先生と岩崎先生から教科書一式の入った紙袋を拝領する。
「体操着や上履きなどは、こちらの指定店で扱っているので、各自新学期までに用意するように……」
 大清水先生は、例によって事務的にいってプリントを配る。
「みんな、しっかりしていますねえ。
 先生、感心しちゃった……」
 岩崎先生は、校長室から出た途端、目に見えて緊張がほどけ、軽い口調でそんなような事を話しかけてきた。茅と楓の担任になる予定の女教師は、若いということもあってか、大清水先生とは対照的に、友達感覚で生徒と付き合おうとするタイプのようだ。
『……生徒に舐められていなければいいけど……』
 岩崎先生に対しては、荒野はそんな感想を抱いた。

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彼女はくノ一! 第三話 (56)

第三話 激闘! 年末年始!!(56)

 翌日、午前中のうちに掃除と洗濯を済ませ、昼食後、真理は香也を伴って買い物に出かけた。
 人数が増えた分、狩野家の食料品の消費量も増えているわけで、その分、一度に大量に買ってくる必要があり、効率という点からみても、日常の買い物に荷物持ち要員は必須になってきている。なにしろ、今の狩野家には以前の二倍の人間がいて、加えて、不意の来客があっても自然と食事を勧める家風でもある。
 腕力という点ではかなり心許ない香也が、今回に限り荷物持ちに選ばれたのは、香也の携帯電話を買うためでもあった。それに、今回はショッピング・センターで保存の利く食材や調味料類を買いだめするつもりだったから、荷物の運搬もほとんどカートを押していくだけ、の筈である。

 三が日が明けたばかりだというのに、ショッピング・センターは盛況だった。メモをチェックしながら、真理は安売りのセール品をメインに、次々と商品を手早く香也の押すカートに積んでいく。レジを済ませ、真理のワゴン車に買ったものを積み込んでから、モバイル・ショップに向かう。
 そこで、家族割引が効く、とういうことで、真理が使用している携帯とおなじキャリアの型遅れの一円機種を選択し、手続きを済ませる。携帯への機能に対して特に拘りを持たない……というより、具体的にどのような機能があるのかよく知らない香也は、必要最低限に使用できれば特に問題を感じなかったので、一円機種でも特に不満は感じなかった。
「登録作業が終わったら、電話で連絡するように」と言い残して、真理は自分の服を見に出かけた。どうやら、香也に「自分で使う携帯は、自分で受け取るように」ということらしい。香也は保護者である真理の携帯の番号を、緊急連絡先として記憶している。
 三十分ほど空き時間がぽっかり空いたので、香也はそこいらをぶらつくことにした。このショッピング・センター時間を潰すことには、実は、慣れている。
 途中、三島百合香と狩野家に居着いたばかりの二宮浩司が、二人で連れ立って、声高になにやら話し込みながら歩いていくのを、遠目に見かけた。
 話し込んでいる……とはいっても、背の低い三島が一方的にまくしたて、二宮のほうがうんうん相槌をうっているような具合で、たまたま途中で出会って立ち話をしている、という風でもないし、ましてや、デートという雰囲気でもない。
 距離があったので話しの内容までは聞こえなかったが、香也が軽い不審を覚えるうちに、二人は人混みの中に紛れて姿を消した。
『……まあ、いいか……』
 もとより、香也には他人の関係を詮索するほどには、「他人」という存在に興味を持っていないので、意外性のある組み合わせには軽く驚いたものの、それ以上深く考えることもなく、そのまま本屋へと向かう。

 時間になったので携帯を取りに行き、受け取ったばかりの携帯を使って真理に連絡を取ってみると、「今バーゲンやっているのぉ!」とかなり切迫した声で返答があった。どうやら、新春バーゲンかなにかに引っかかって、修羅場っているらしい。
「時間がかかるから、先に帰っていていい」
 という真理の言葉に従い、香也は、携帯のマニュアルやら箱やらを入れた小さな紙袋を手に、とりあえず近くのカフェに入る。寒かったので、このままとぼとぼ歩いて帰る前に、一息つきたかった。セルフサービスでコーヒーを受け取り、カウンターに座って携帯電話のマニュアルに目を通していると、何者かに肩を叩かれた。
「や」
 昨年末から家に出入りするようになった、飯島舞花と栗田精一のカップルが、映画のパンフレットを手にして立っていた。

 たまたま空いていたテーブル席に移り、二人と軽く世間話しをする。といっても、香也はだいだい相づちを打つ役割になるわけだが……。
「……そこの駐車場の所で加納兄弟の姿みかけてさあ、声をかけようとしたけど、兄のほうがずんずん歩いていっちゃったんで、かけそびれた。あの二人、いつも一緒で仲が良すぎるよなあ……」
 飯島舞花は自分たちのことを棚にあげて、そんなことをいう。
 飯島舞花と栗田精一は、仲がいい……と、香也は思う。二人一組の姿以外、香也は見かけた記憶がない。大柄で活発、よくしゃべる飯島舞花と、小柄で控え目、しかしいつもにこにこしている栗田精一は二人で一緒にいることが、とても自然に見える組み合わせでもあった。かといって、二人だけの世界を作るタイプでもなく、特に飯島舞花は、加納荒野と他の人たちとのいい潤滑油になっている、とも、思う。
「……んー……そういえば、こっちも、さっき三島先生と二宮さん、一緒にいるの、見た……」
 と、香也が告げると、
「マジっすか!」
 栗田精一が、いつぞやと同じように大げさに驚く。
「二宮さん、って、餅つきの時にいた大きな人でしょ?
 あの二人、密かにつきあっているとか……案外、あの人、三島先生を追っかけて引っ越してきたりして……」
 と言った後、栗田と舞花は顔を見合わせて、
「……いや……それは、ないない……」
 と、二人で否定しあった。
 二人の「三島百合香観」というものが、容易に推測できた。
 栗田のほうも、舞花と一緒にいるとあまり目立たないが、樋口大樹とのやりとりなどから判断すると、意外に社交的なタイプなのではないだろうか。同級生といるときなどは、割にはしゃぐ方、なのでは……。
「それ? 新しく買った携帯って……」
「……んー……そう……まだ、買ったばかり……」
「そっか、じゃあ、使い方の練習がてらに……」
 と、飯島舞花は、自分の携帯の番号とメアドを香也に伝え、交換しよう、と言い出す。
「……んー……でも、まだ、自分のメアド、登録してない……」
 と香也が言い出したので、三人で索引を頼りにマニュアルのページを繰り、なんとか香也の携帯を、メールが使える状態にする。
 そうしでようやく、番号とメアドの交換が行われた。
「ちょっと待って。
 柏のほうにも、メアド教えていいか、聞いてみる」
 と、舞花は早速持ち前の社交性を発揮し、素早く指を走らせてメールを送信する。
 言われてみれば柏あんなは香也のクラスメイトでもあり、ろくにしゃべったことがない以前とは違い、なにかと接点ができた今の時点では、香也とメアドくらい交換していてもおかしくないのかも知れない……と、香也は思い当たる。
 柏あんなから「快諾」の旨を伝える返信はすぐに来て、それには、堺雅史のメアドと番号も書かれていた。
「練習練習」
 と舞花に即され、香也は、マニュアルと舞花の携帯の液晶を見ながら、たどたどしい指使いで二人のアドレスと番号を自分の携帯のアドレス帳に登録し、
携帯買いました。今後ともよろしく。

 というたった一行のメッセージを、二人宛に送信する。
 香也が産まれて初めて送信するメール、になった。

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髪長姫は最後に笑う。第四章(33)

第四章 「叔父と義姉」(33)

 翌日の昼過ぎ、荒野と茅は松島楓、才賀孫子とともに、三学期から通う予定になっている学校へと赴いた。全員真新しい制服姿であり、荒野、茅、楓の三人のこの土地での保護者代わりでもある三島百合香の小さな車に五人が同乗しての初登校となった。助手席に荒野、後部座席に女生徒三人が窮屈そうに座っている。
「なに、学校までなら、すぐそこだ」
 歩いてもたいした時間は要さない距離なのに車を出したのは、年末以来、四人がこの近所では割合に顔を知られた存在になってしまったため、という要因が大きい。実際、四人とも、道を歩いていて声をかけられたり指をさされたりすることも少なくない。相手が面識のない通行人なら軽くいなして通り過ぎればいいだけの話しだが、商店街でお世話になった人から挨拶をされることも多く、そうして誰かに会うたびに時間を取られ、指定された時刻に間に合わなくなるのも馬鹿馬鹿しかった。三島の話によると、学校では校長と何人かの教員が待機しているという。
「たかが転校生に大仰だとは思うんだがな……。
 お前ら、バックがバックだから、先生の中には、神経過敏になっているのもいる」
 四人のうち三人の後見人、加納涼治は市内でも有数の某高額納税者であり、才賀孫子のに至っては、実家が実家である。
 加納なり才賀なりが、荒野らを特別扱いするよう、学校側に要請したわけではないが……とりたてて特徴のない地方の公立校に、時期を同じくしてそうした有力者の師弟が転校させられてくる……という事態に対し、ありもしない裏事情を推測したり、戦々恐々としたり……と、教員の間では、色々な噂が飛び交っているらしい。
「……ま、先生方も、地方公務員だからな。
 基本的に、大過なく過ごしたいわけで……」
 で、「教科書の配布」という口実で荒野たちを呼びつけ、「問題を起こしそうな生徒か否か」の首実検を、新学期が始まる前にしたいようだ……。
 というのが、三島の推測である。
 推測ではあるが、三島自身、その学校の職員として入り込んでいるわけで、自然と耳に入ってくる話しや肌で感じた事柄を根拠とした推測だから、それなりに真実味はあった。
「……おれ、普通の学生生活送りたいだけなのに……」
 三島の推測に頷きながらも、荒野はそうぼやいてため息をついた。

 学校の正門を開け(鍵はかかっていなかった)、車を職員用の駐車場にいれ、三島の案内で校舎の中に入る。
 荒野と茅が土足のまま中に入ろうとすると、三島に呼び止められて来賓用のスリッパに履き替えるようにいわれた。
「日本の学校は、基本的に土足厳禁」と説明され、普段、学生は「上履き」という校舎内用の履き物を使用している、といわれる。
「奇妙な風習だな。宗教上の理由なのか?」
 真顔でそう聞き返した荒野に、
「馬鹿いえ。単に中を汚したくないだけだ。今はそうでもないが、数十年前までは、未舗装の道路が珍しくなかったんだぞ」
 そして、日本には、鬱陶しい長雨の季節もある。ぬかるみを経て来た生徒や職員が数百人、土足のまま泥水を引きずって校舎内に上がり込んできたら、目も当てられないだろう……。
「……うん。日本の風土に合わせた風習だというのは、分かった。
 でも、おれ、日本に来てから、未舗装の道路なんて、数えるほどしか見てないけど……」
 三島の説明になんとなく納得しながら、荒野はさらに質問をぶつける。
「そこは、ほれ。慣性ってやつだ……。習慣ってのは、大方そういうもんだろ?
 それに、舗装してあっても、長雨が続くと水の溜まる道なんてざらにあるしな……」
 などとしゃべっている間に、一階の職員室の隣にある、校長室の前に到着する。職員室の入り口は引き戸だったのに対して、校長室のみが黒塗りの扉だった。素っ気ないプラスチックのプレートに「校長室」と書かれている。
 三島はノックをし、返事を確認してから、引き連れてきた生徒たちを中に招いた。
 荒野たち四人の生徒が入ってくると、校長室で待ちかまえていた四人の教員が、軽くどよめく。
 ……四人の転校生たちは、揃いも揃って容姿端麗。しかも、保護者は大金持ちとか市の実力者とか……。
 職員たちの動揺を見て、荒野は、彼らがそんなことを考えているのが、手に取るように予測できた。
『……三島先生の予測、ほぼ的中だな、こりゃ……』
「ああ。
 君たちが、加納荒野君、才賀孫子君、加納茅君、松島楓君、だね……」
 校長室で待ちかまえていた四人の教員の中で、比較的落ち着いていた中年男が、冷静な口調で話し始める。
「わたしは、二年B組の担任を務めている、大清水潔。担当教科は数学。加納荒野君と才賀孫子君の、担任になる予定の者だ。
 本来なら、転校してくる生徒を個別に呼び出すような権限はわたしたちにはないのだが、あくまで教科書を取りにくるついでとして、少し付き合って貰いたい……」
『……この先生は、比較的まともか……』
 まとも、というよりも、仕事を仕事と割り切って推敲する冷淡さを、荒野は、大清水と名乗った教師から感じた。
『……ヘンに興味本位だったり、ありもしない圧力を恐れて萎縮しているよりは……』
 大清水のお役所仕事的な冷淡さのほうが、その隣で不自然にこわばった面持ちをしている若い女教師よりも、ずっと好ましい……。
「……早速だが、まず最初に確認しておきたいのだが……加納荒野君のその髪は、染めているのかね?」
「いいえ……」
 校則のことについても、あらかじめ聞かされていたので、荒野は即答することが出来た。
「……これは、地毛です。
 黒い方が好ましいようであれば、そのように染めますが……」
「地毛ならいい。仕方がない……」
 大清水という教師は、荒野があっけにとられるほど簡単に納得した。
「毛髪を染色することは、校則で禁止されている。周りに合わせるために、そのような不自然なことをする必要はない。
 ただ、最初のうちは生徒たちに質問責めになるだろうから、そのへんは覚悟しておくように……」
 大清水は、にこりともせず、淡々と先を続ける。
「……で、この隣の方が、一年A組の担任、岩崎硝子先生。担当教科は、英語。加納茅君と松島楓君の担任になる予定だ……」
 大清水は、事務的な口調で校長先生、教頭先生を紹介した。
 岩崎硝子という若い先生は、経験が浅いらしい……と、荒野はあたりをつける。
 その態度から、「なにか曰くありげな転校生を押しつけられ、内心戦々恐々としている」様子が、ありありとみてとれた。
 校長と教頭は、どちらも初老の男性だった。太っているか痩せいているかの違いはあっても、荒野たちに対する興味と不安の間で表情が揺れ動いている。
『……定年間際で、おれたちが問題を起すことを恐れている……』
 というところかな……と、荒野は読んだ。
 荒野にしてみても、この学校にとけ込むのが目的であり、自分から問題を起こすつもりは毛頭なかったので、校長と教頭の名前は、あえて記憶にとどめない。うまく「普通の学生業」をまっとうできれば、一生徒と教員の管理職とは、それほど接点がない筈なのである。
 不幸にして、荒野の意志に反して、まっとうできなかった場合は……。
『……イヤでも、名前を覚えることになるだろう……』
 とりあえず、荒野は、太った校長に「タヌキ」、痩せた教頭に「キツネ」というニックネームを奉るだけで満足した。もちろん、心中でそんなことを思っているなどということは、おくびにも態度には出さない。

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彼女はくノ一! 第三話 (55)

第三話 激闘! 年末年始!!(55)

「あ。どうも御無沙汰しております。おめでとうございます」
 翌二日、昼間、狩野真理は電話を取り、ひさしく聴くことのなかった加納涼治の声を聴くことになる。
「え? あ。また、新しい人を……。ええ。ええ。それで、その方はしっかりした人なんですね? ええ。先生。学校の……。はい。ええ。まあ、たしかに、まだ部屋は余っていますけど……」
 受話器を置いた狩野真理に、珍しく居間で炬燵に入ってぐでーっとしていた羽生譲が声をかけた。
「どした、真理さん?」
「加納さんのおじいさまが……番犬、紹介してくださるって」
 涼治の紹介なら、無論、相応の謝礼付き、なわけだが、それ以上に、年頃の香也のいる家に同じような年頃の少女二人を預かる事の難しさを痛感していた真理にとっては、「堅い職業に就く大人の男性」の下宿人が増えること、のほうが、より、重要だった。

 加納涼治老人のいう「番犬代わり」は、その日の夕方、トランクひとつと涼治の手による紹介状を持って、ぶらりと狩野家を訪れた。
「二宮浩司と申します」
 二十代半ばに見える、その割には、どっしりとして落ち着いた雰囲気の黒縁眼鏡の青年は、炬燵の天板の上に涼治の紹介状を差し出した。香也の通う学校に急に欠員が出たため、非常勤の浩司に声がかかり、学校まで楽に通える住所を探していた、という。
 二宮浩司の荷物はトランクひとつに詰めた当座の着替えのみだったので、引っ越しといってもそのわずかな荷物をトランクから出して整理するだけで終わった。
 突如出現した二宮浩司なる人物に対する他の住人の反応は様々だった。
 香也は、「……んー……」といったきりで、あまり興味を示さなかった。
 羽生譲は「歓迎会やりたいけど、また今度」とバイト先のファミレスへ向かった。この時期、羽生譲はほとんど職場にいて、たまに家に寝に帰ってくるような状態である。
 才賀孫子は二宮浩司の顔を見て露骨に眉をひそめ、松島楓は沈黙を守った。
「……住み込みの師匠……なんて、便利なぼくという存在……」
 二宮浩司こと二宮荒神は、楓だけに聞こえるような小声で、楓にそう囁いた。

 表面上、二宮荒神の擬態である二宮浩司は、狩野家の中で「真面目な青年」というキャラを演じ切っていた。二宮浩司が狩野家に到着してから二日目、三日の昼間に真理と羽生譲の思いつきで餅つきをやることになったのだが、その時なども協力的で、車庫の奥にあった臼を軽々と片手で持ち上げて、もう一方の手に杵をぶら下げて、庭に運んでくれた。
 真理は、香也には期待できない男手の有り難さをしみじみと感じた。

 そもそも、真理が羽生譲のバイトの合間を狙ってこのようなイベントを起こしたのは、最近、急にこの家を訪れる子供たちが増えたから、ということもある。真理は基本的に放任主義で、香也のやりたいようにやらせてきてはいるが、だからといって、なかなか同年配の友人を作ろうとしない香也のことを、全く心配していない、というわけでもなかった。
 昨年の年末頃から、楓や才賀孫子、それに加納兄弟が現れてから、狩野家には、香也と同年配の来客が急増した。ともすれば自分の世界に閉じこもりがちな香也にとっては、いい変化だと真理は思っている。また、一時期施設の教員だった真理自身にしても、大人数の人間が集まる賑やかな雰囲気は、好ましく思えた。
 その香也は、柏姉妹の妹経由で、なにか頼まれ事をされたらしい。堺雅史という少年と、なにやらしきりに話し込んでいる。堺雅史には柏あんなが、香也には松島楓が付き従っており、時折、香也と堺の会話に口を挟んでいる。
 そもそも香也には、今まで頼まれ事をされるほど親しい友人もいた様子がない。孤高を守るのもひとつの生き方……と思い、これまで真理は干渉することがなかったが……今まであまり他人と近づこうとしなかった香也が、同年配の少年たちとなにやら熱心に話し込んでいる様子は真理にしても物珍しく、そうした変化を目の当たりにすると、自然に顔がほころんでしまう。
 新しい下宿人は狩野兄弟の遠縁だとかで、荒野に後ろから抱きついては、柏姉に騒がれたり荒野に嫌がられたりしている。ようやく二宮浩司を引き離した荒野は、なにやら険しい顔つきの才賀孫子に、庭の隅に連れられていった。その後を、茅と三島百合香がちょこちょことついていく。

 二宮浩司はあっという間に蒸した餅米をつきあげた。力がある、というだけではなく、動作に滞りがない。ひょっとすると、餅つきという仕事になれているのかも知れない。その後は、物珍しさも手伝って、子供たちが順番に杵を奪いあうような具合になった。
 ただし、ほぼ全員が餅つき未経験ということもあって、率先してやりたがる割には、杵の重さに振り回されて腰が入らない者がほとんどだった。インドア派の荒野や堺雅史は論外。樋口大樹はかけ声だけは元気がいい。栗田精一、飯島舞花、柏あんな、柏千鶴は普段から運動しているせいか、最初こそまごついたが、一旦コツを掴むと見違えるようにスムーズに動くようになった。松島楓、才賀孫子は、最初から手慣れた様子を見せ、最後に参入した狩野荒野と茅は、初体験だったがすぐに作業に慣れ、結局二人で組んで短時間のうちに臼に残っていた餅米をつきあげた。
 全般的にみて、男子よりも女子の方が頼りになったあたり、情けないといえば情けない。雑煮などに料理したつきたての餅を談笑しながらいただき、残った分を世帯事に分けて持ち帰って貰う。

 餅つきが終わると、松島楓の携帯電話のメモリーには、数人分の番号とメールアドレスが増えていた。
 その夜、香也は真理におずおずと「携帯電話が欲しい」といいだし、真理はあっさりとそれを承諾した。
「使いすぎないでね」
 と、釘を刺すのも忘れなかったが。
 普通に学校の友達とメールや電話のやりとりをするくらいなら、人付き合いの苦手な香也が携帯電話を所持することは、いいことだ……と、真理は判断する。
 松島楓は、早速今日登録したばかりのアドレスに、「香也が明日、携帯電話を買いに行く」という情報を流す。楓の携帯のアドレス帳に記載されているのは、ほとんど、香也と共通の知り合いのものだった。
 それから楓は、一族のバックアップ施設の窓口に「投擲武器の補充」をメールで申請した。これからの事を考え、かなり多めに申請したのだが、その窓口からは即座に「受理」の旨、返信が来た。明日には、宅配便で届くという。

 楓には、この先どういう事態が待ち受けているのかは予測できなかったが……自分は、やはり、この狩野家のために働こう……と、そう決心していた。

[つづく]
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髪長姫は最後に笑う。第四章(32)

第四章 「叔父と義姉」(32)

「……とまあ、そんな感じだったんだがな……」
 その日、買い物から帰ってきた三島百合香は、早速荒野に荒神との会話の内容をかいつまんで披露した。
「……そんなん、おれに聞けばよかったじゃないですか……」
「いつもお前の視点からばかりだと、見えてこないものもあるんだって……」
「だからってあんな危ないのに聞かなくても……」
「荒野なぁ……。
 お前さん、あの荒神のこと、意識しすぎだ。たしかに奇矯な男だとは思うが、あれはあれなりに筋を通そうとしているぞ……」
「ま……先生がやることに、おれが口出しするのもなんですがね……」
 荒野は、肩をすくめた。
「先生……そもそも、先生の仕事は、茅の体調管理と監視、それに、じじいにレポートを送ることだったはずです。
 今までとは色々と事情が違ってきていますから……これ以上は、あまり深入りしないことを、お勧めします」
「それこそ、冗談じゃない……」
 三島百合香は不敵に笑う。
「……こんな面白そうな事目の前にぶら下げられて、放っておけるかってぇの!」
「……ま、先生がそういうんなら、いいっすけど……」
 荒野は深いため息をついた。
「肉、食いましょう。焼け過ぎちゃいますよ」

 場所は三島百合香のマンション。
「そろそろ正月料理にも飽きてきただろ」
 という三島の提案で、荒野の茅と二人で来訪し、ホットプレートの焼き肉をご馳走になっている。どうやらこのために、多めに食材を買ってきたらしい。
 この部屋に呼ばれる時、荒野は「そこに荒神はいないだろうな?」と、真っ先に確認した。そして「荒神とはショッピング・センターで別れた」と三島の返答を確認してから、荒野は三島の部屋に行くことを決定した。
「材料はたっぷり買ってきているからな。たんと食えよ」
 と言われたから、というわけではないが、荒野はいつも以上の食欲を見せ、茅と三島の目を丸くさせた。半ば以上やけ食い、でもあったのだろう。

「荒野君は、外見とスペックはあれですけど……」
 その日の昼間、三島の横に座った荒神は、深々と嘆息した。
「中身はまだまだ未熟……と言ってわるければ、年齢相応のナイーブさを持っています。
 意外に内心の動揺が表にでるタイプだし……しかも、そうした動揺が態度に現れていることを、あまり自覚していない……」
「……あー……」
 今までの荒野の言動を思い返し、三島は同意しないわけにないかなかった。
「いわれてみれば……よく茅を、心配させているな……」
「……ぼくが助言とかフォローしてもいいんですけど……。
 ぼくがいったんじゃあ、まあ、逆効果、でしょうねぇ……。
 荒野君は、ぼくのことを信用しきっていませんから……」
「……お前さんの態度のほうにも、問題があるとは思うがな……」
「だってぇ……」
 荒神はいきなり身をくねらせはじめた。
「……荒野君の髪、ねぇやにそっくりで、きらきらして綺麗で触り心地いいんだもん」
『……シスコンの傾向は、遺伝だな……』
 と、三島は一人、納得した。
 表面的な現れれ方こそ異なるものの……身近な者や肉親への拘り、という一点に着眼すれば……荒野と荒神は、実によく似ている。
 荒野が涼治や荒神に強い反発心を見せるのも……いわゆる、近親憎悪ってヤツだ……。

「……荒野。野菜も食べなければ、駄目なの」
 茅が、荒野の小皿に焼けたピーマンやタマネギの輪切りを取り分けている。
 そういう茅は、肉と野菜を交互にバランスよく食べている。少しづつ取っているので目だないが、体の割にはハイペースで口に運んでいる、と、思う。
 荒野の話しでも、最近は以前よりは食が進んでいる、という。
 もう少し様子をみてみないとわからないが、運動をし始めた結果、体質が変わりつつあるのかも知れない。今のところ、体脂肪率などに、問題にするほどの変化は起こっていない。
 ここに来て、茅が荒野と住むようになってから、茅はたしかに変わった。
 しかし、同じくらい、荒野自身も変わっている。
 ここに越してきたばかりの荒野は、いつも愛想笑いを浮かべていたが、目は笑っていなかった。時折、大人や一般人を、見下すような目つきをすることがあった。
 今の荒野は、以前ほど愛想笑いを浮かべることは少なくなったかわりに、喜怒哀楽の感情を素直に表すようになっている。
 茅の感情が豊かになったのと同じで、荒野のそうした変化も、いい傾向だと思っている。荒神も指摘していたが、能力的なパラメータを数値であらわせば、荒野は大抵の大人よりはよっぽど「性能がいい」。
 しかしそれだけでは、優秀なだけでは、どうしようもない……ということを、荒野は学びはじめている……と、三島は思う。
 行きがかり上、学校に勤務してはいるが、そもそも自分は「教育者」なんて柄ではない、と、三島は自身を評価している。それでも、荒野や茅のような子供たちが、段々と一般社会にとけ込んでいくのを見守ることは……快かった。
『……たしかに、荒野が警戒を強めているのもわかるんだが……』
 なにしろ、事態は錯綜している。真偽の確認が取れてない、取りようがない情報だけが集まってきて、それを証明するように、今まで動きがなかった「一族の者たち」が動き始めている。
 これから荒野と茅に、どういう人物が、どういう思惑をもって接触してくるのか……まるで、予測がつかない。
 だが……。
『……いい方向に転がってくれると、いいな……』
 わいわいとしゃべりあいながら健啖ぶりを発揮する二人を眺めながら、三島は、そう思わずにはいられれない。
 荒野は涼治に、
「茅を笑わせろ」
 と命じられた、という。
 そのためには、荒野自身も笑えるようにならなくてはならない、と、三島は思う。
 荒野は、いつも愛想笑いを浮かべながら、その実、割と些細な事にもくよくよ悩む。生い立ちの複雑さ、ということでいえば、茅とどっこいどっこいだ。加えて、自分一人だけならどうにでも切り抜けられる局面を、これからは「茅」というお荷物を抱えたまま切り抜けていかねばならない……。
『……荒野も、茅も……』
 なんの不安も屈託もなく、心から笑いあえる日が来るといいな……と、三島百合香は、そう思う。
「……あ。それからな、学校から連絡があって、明日、教科書とか渡すから、一時半に制服着て学校まで来いってさ。楓や才賀もいっしょだ……。
 ま、急に押しつけられたワケアリらしい転校生たちの顔を、先生方も拝んでみたい、ってこちゃないのか?」

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彼女はくノ一! 第三話 (54)

第三話 激闘! 年末年始!!(54)

 ひょんなことから「最強」の教えを受けることになった楓が狩野家に戻っても、皆はまだ寝静まったままだった。夜明け前、という時刻のせいか、楓が外出していたことに気づいた者もいないらしい。楓は着替えて皆が雑魚寝している居間に戻り、元いた場所、香也の隣りに潜り込む。
『……全然、歯が立たなかった……』
 この間の野呂良太といい、やはり六主家のトップクラスと楓とでは、どだい、格が違う……。
『……でも、これからは……そういう人たちを……』
 ……相手にしなければならない……。
 二宮荒神がどういうつもりで楓を鍛える、などと申し出てきたのか、その辺の機微は、楓には理解できないが……申し出自体は、楓にとっては充分に魅力的なのだ。楓は……縋れるものがあるなら、なんにでも縋りたい心境だった。
 楓は、寝返りを打って横で寝ている香也の横顔をみる。
 楓は、香也にすり寄り添うように体を密着させ、目を閉じ……いつものように、浅い眠りについた。

 居間で雑魚寝していた者たちも昼前にはもぞもぞと起きはじめ、交代で顔を洗ったり、先に起きていた真理が作った雑煮を食べたりする。
 朝食を食べ終わると樋口兄弟が帰ると言いだす。飯島舞花と栗田精一は、皆が寝つく前に、「向こうで寝る」と言い残して飯島舞花の自宅のある隣りのマンションに帰っていた。
「……こーちゃん……」
 居間に残ったのがこの家の住人だけになると、狩野真理は香也に告げた。
「今夜から、プレハブではなくて、こっちの自分の部屋に寝なさい」
 真理の「寝泊まり解除宣言」を聞いて、香也は明らかに安堵の表情を浮かべている。香也と他の住人……特に才賀孫子との雰囲気が良好になったのを真理が認めた上での、宣告だった。
 数日前から香也がプレハブに寝泊まりしていた件について、楓は「香也がなにかしでかし、そのペナルティとして」という漠然とした説明しか聞かされていない。香也のようなおとなしい……というより、絵以外のことに極端に関心が薄い少年が、温厚な真理にこのような強硬な手段を取らせるような何事をしでかしたのか……楓にとっては想像の領外であったが……真理が意味のないことをするわけはないし、第一、香也自身が納得して従っていたので、楓は不審に思いつつも、今まで詳しい事情を詮索しようとはしていない。
 その香也は、食後の一服を終えると、さっそく席を立つ。上着もひっかけていない所をみると、また庭のプレハブに籠もるのだろう。
 楓も、昨日、香也が炬燵にあたりながら眺めていた紙の束を手に持ち、香也の後に続く。時間が許す限り、楓が香也の後をついていくのは、すでにこの家ではありふれた光景だった。

 香也はプレハブに入って年季の入った灯油ストーブに軽油を入れ、火をつけると、いつものようにイーゼルに向かう。
 なんだかんだで、冬休みにはいってから、自分の絵をほとんど描いていない。軽い飢餓感を感じていた香也は、慣れた動作で必要な筆を揃え、絵の具のチューブを絞り、準備を終えると、一見乱雑に見える動作でキャンバスに筆を走らせはじめる。画布に塗りつけられた絵の具が、混合したり塗り重ねられたりしながら、すぐに形を整えはじめる……。
 そうした見慣れた光景を、香也の背後、邪魔にならない場所、今では楓の定位置になっている場所に座り込みながら、楓は、眺めている。
 時折、目線を落としては、持参した制作中のゲームの資料をパラパラとめくる。
 楓はこの手のゲームをやったことがなかったので、資料をみても完成品のイメージは沸いてこなかったが、分岐のフロチャートなどのロジック面をチェックしてみると、
『……意外に作り込んであるなぁ……』
 と、そう思う。
 楓はプログラムやスクリプトについても多少心得があり、こうした詳細な資料をみれば、どの程度の凝ったものなのか、根本的な設計に大きな穴はないか、また、それを完成するのにどれほどマン・パワーが必要なのか……などことは、おおよその見当がつく。
 楓は香也の側で堺雅史や羽生譲の会話を盗み聞いていた程度のだが……フリーで配布するプログラムにしては、規模が大きすぎるように思えた。
『……何人くらいで作るんだろう?』
 フリーで作る、というからには、主力となるのはやはり堺のような学生なのだろう。でも、何のために?
『……やりたいから。
 楽しいから……だろうな……』
 楓は年末、羽生譲に連れられていった冬コミの異様な熱気を思い出す。そして、黙々と手を動かし続ける香也の背中を、再度見る。
 香也の絵や羽生譲の同人誌などの活動、それに、自分たちまで引っ張り出されてた年末の商店街、それに、堺雅史が持ち込んできたゲーム……、
 それらは、今まで楓が所属していた世界の論理とは、根底的な部分からして違う論理から、派生しているように思える……。
 そして……こうした、無償の……「やりたいから、やる」という感性を、楓自身は、まるで持ち合わせていない……と、いうことを、痛感する。
 今朝、二宮荒神に、
「……どんな状況下でも、誰の指示を受けずとも、単独で判断し、行動し続けることが可能になるまで、自律的な状況判断能力を養うこと……」
 と、言われたことを思い出す。
 確かに今までの楓は、誰かに命じられた仕事をこなせばそれでいいだけの存在だった。
 しかし、これからは……。
『……わたし……どうすれば、いいんだろう……』
 年末、野呂によってもたらされた情報によって、荒野は、今後、場合によれば一族の者との抗争も躊躇しない、という決意を、態度で示していた。荒野にとっては、一族の中で孤立する事よりも、茅の身の安全を確保することのほうが、優先順位が高いらしい。
 それはそれでいいのだが……楓自身は、一族の施設で育てられ、派遣された存在だ……。
 これから、荒野と他の一族が決定的に決裂する時が来るたとするなら……自分は、どのように振る舞うべきなのだろうか?
 楓には、荒野が茅を選ぶように、あるいは、香也が絵に没頭するように……他の全てをなげうってでも選択したいモノが、あるのだろうか……。

『……こんな半端な状態で……』
 楓は、荒神とのやりとりを頭の中で反芻する。
 たしかに、荒神に教えを受ければ、楓は見違えるように強くなる筈だ。
 六主家の中でも「個体の強さ」を重視する二宮は、体術では他の一族の者を圧倒する。また、その体術を効果的、効率的に伝授する方法も、蓄積している。
 荒神はその二宮の現在の長であり、荒神自身、まだ三十代の若さで数々の逸話を残し、半ば伝説化しているような、傑出した術者でもある。
 でも……。
『……闇雲に、強さばかり求めても……』
「……わたし……なにも、誰の役にも、立たない……」
 考えていることが、声に出ていた。
 楓のその声は決して大きくなかったが、深刻な響きを持って、プレハブ内に、響く。
 香也が手を止めて、振り返って背後の楓と目を合わせる。
「……んー……役に立たないなんて……そんなこと、ない……」
 香也は、思い起こす。
 年末の商店街、クリスマスの孤児院、そして、この家や、自分自身に、楓という存在が与えた影響……。
 そんな例を、ぽつりぽつりと一つ一つ数え上げ、
「……みんな、楓ちゃんに感謝してる……」
 と、いった。

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髪長姫は最後に笑う。第四章(31)

第四章 「叔父と義姉」(31)

「さて、と……荒野たちは無事あっちいったな……こっからいよいよ本題だ。
 荒神のおっさん……」
「しかし、パチンコ屋とは考えましたね……この喧噪の中なら、ぼくたちがなにを話していても気にする人はいないでしょう……」
「……とかいいつつ、平気でこっちの分まで目押しもしてるし……適当に手を抜かないと、店のもんに怪しまれるぞ……」
「……いやぁ、ぼくらの目にかかれば、この程度の速度なんかとまっているようなもんです……。ま、あまり勝ちすぎるのもなんなんで、そろそろ負け越していきましょうか……」
「とかいいながら、また出してるし……。
 で、あんた。実のところ、なに考えているだ? こんな田舎町にいつまでもくすぶっていられる身分でもなかろう?」
「……いやぁ、本職のほうも、ちゃんとやりますよ。こっちの合間に……。
 長老に無理いって貸し作っちゃいましたからねぇ……。
 これでしばらく、週末はヨゴレ仕事三昧でしょう」
「いや……そっちの内部事情はどうでもいいけどな……。
 わたしが聞きたいのは、お前さんは荒野や茅たちの味方なのかどうか、ってこった?
 お前さん、一体なに考えている?」
「ぼくは、荒野君の叔父。それに、あの雑種……楓、とかいいましたっけ? あれを使えるように躾しなおしてみたくなったって、ただ、それだけです。
 ぼくが敵か味方か……それを判断するのは、ぼくではなく、荒野君のほうでしょうねぇ……」
 荒神は、うっすらと嗤った。
「彼……荒野君がこの先、ぼくら六主家とまともに相対したとき、一体どういう選択をするのか……。
 それを知りたいと思っているのは、ぼくも先生と同じですよ……。
 ……いや、先生よりも荒野君のことを深く知っているぼくのほうが、そうした興味は強いかも知れない……」
「……じゃあ、お前さん……。
 姫の仮説は聞いたんだろ? あれについては、どう思う?」
「さあぁ……。
 他の二宮はともかく、ぼく自身は、あまり興味ないなぁ……。
 あの、ねぇやと同じ名前の子は可愛いと思ったけど……。
 ぼくら二宮は、血筋よりも、個々人の修練とその成果を重視しますからねぇ……。
 遺伝子操作うんぬん、っていうのはようするに、よりよい素質を人工的に寄せ集めて都合のいい人間を作ろうって話しでしょ?
 そんな手間をかけるよりは、多少元の出来が悪いヤツでも、技を仕込むことで無理矢理使えるヤツに仕上げてしまったほうが、早い……と、我々二宮なら、そう考えます……」
 ……何百年もかけて、「普通の人間」を「使える人間」に仕立て上げる技術を、我々二宮は練り上げてきたんですよ……。ま。この点は、他の六主家も同様なんでしょうけど……。
 平静な態度でそう付け加える荒神をみて、三島百合香は脳裏に「二宮は、先天的な素質はあまり重視していない」とメモをする。
 荒神は二宮の長だという。
 だとすれば、荒神の価値観は、他の二宮の平均的な価値観と、大きくは乖離していない筈だ……。
 だから、「姫の仮説」が真である、と仮定した場合、二宮の関与は……ある種の取引による、消極的な協力者、といった役回りしか、果たしていないだろう……。
 少なくとも、主犯や企画者では、ないらしい……。
「……話題をかえるか……」
 三島は、隣りに座る荒神に向き直った。
「仮に、姫の仮説が真だとして……その企画を立ち上げたヤツらは、今後、どう動くと思うかね?
 お前さんがここに来ている、ってことは、茅の情報もお前らの間にただ漏れになっているってことだろ? ん?」
「さあ……ねぇ……。
 ぼくはそっちの側には立っていないんで、なんともいえませんが……新製品の試作品ができたら、まずやるのは性能テスト。その結果を考慮した上での、後継機の製造……。
 あたりが順当だと思うんだけど……なにぶん、モノがモノだからなぁ……。まともなテストが可能になるまでにものすごっく時間も手間もかかるもんだし……大方、今荒野君が確保している以外の姫を、直接ぶつけてくるかも知れませんねぇ……。
 そうすれば、どの完成品が一番使えるか、一発でわかる……」
「……ああ。
 その可能性は、野呂から紹介されたヤツも指摘していた……イヤな予測だが……」
「順当で、合理的では、ある……。
 三島さん、参考までにいっておくと、その手のことに熱心になりそうな六主家は、秦野か佐久間だね……。
 秦野は、六主家の中で、一番血を残すこと、子供の資質をコントロールすることに、拘る。
 佐久間は、優秀で従順な実働部隊を、喉から手がでるほど欲しがっている……。
 逆に、姉崎、野呂あたりは、その手の計画には、本気で乗り気にはなりそうもない……。野呂は、二宮と同じくらいに個々人の修練を尊ぶ連中だし……姉崎は……」
 ……あの連中が一番拘るのは、個々人の資質や能力ではなく、「血縁」だ……。
 と、荒神は吐き捨てるように断言した。
「血縁? 血と血縁って……」
「似て非なるモノですよ、三島さん……」
 女系の姉崎……彼女らの最大の武器は、体術などではない。
「寝技とコネクション。奴らは、自分たちの体を使って、世界中に網を張っている……」
 婚姻……という、太古から使い古されてきた手段で、じっくりと時間をかけて各地の有力者に間に入り込み、情報を収集する。太いパイプを構築する。必要とあれば、国家や企業などを、背後から乗っ取り、動かす……
 他の六主家から「姉崎」と総称される集団は、そんな性質を持った女たちだった……。
「……自身は背後に隠れ、他者を操る……それに「最弱」ということでは、姉崎と佐久間は共通しています。しかし……」
「傀儡操りの佐久間」は操る者を使い捨てにする。が、「女系の姉崎」は、操作する対象と利害を一致させ、同化し、とことん愛し、守ろうとする……。
「……だから、仮に姫の計画、というものが存在するとしても……姉崎が、積極的に荷担するわけはないと思います……」
 仮に今後、この件で姉崎が荒野君に接触してくるとすれば……。
「……多分、敵対行動はしないでしょう。
 だからといって、素直に荒野君に協力してくれるかっていうと、そいつは微妙な所ですが……」
「……随分と親切に説明してくれるじゃないか……」
「三島さんとぼくとは、これから同じ職場に通う同僚になるわけでしょ? 親切にしておいても損ではないでしょう。
 それに、この程度のことは、荒野君だって簡単に推測できる事だし……。
 ……それに、ぼくの敵は荒野君ではない。
 荒野君の父親、仁明だ……」
 荒神の朱い舌がひらひらと踊っていた。
「……今後、ぼくが仁明を倒すことがあったら……その時こそ、荒野君はぼくを『敵』と見なすようになるかも知れない……」

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彼女はくノ一! 第三話 (53)

第三話 激闘! 年末年始!!(53)

「……って、ことで……」
 長老こと加納涼治との通話を終え、携帯を袂に入れながら、荒神は楓に告げる。
「……長老からは、君を鍛え直すって言質を取ったから……。
 もちろん、君の方にも異存はないよね?
 このぼくが直々に指南するなんて、荒野君の時以来なんだから……。
 それに……」
 ……今の君では、守りたいものも守りきれないよ……。
 と、荒神が、囁く。
 最後の言葉を聞くと、並んで座っていた楓の肩が、ぴくり、と震えた。
「……おやぁ? 納得いかないかい?
 ま。いいや……。
 じゃあ早速、レッスン・ワン。
 試しに、ぼくに向かって手加減抜きで、本気で来てみな。こっちかは攻撃しないから……」
 荒神が言い終わるか終わらないかのうちに、楓は土手に座った姿勢から飛び退りながら、くないを数本、同時に荒神に向かって投擲する。
 外すことも避けることもできない至近距離からの攻撃……の、筈だった。
 が、楓がくないを投げる動作を終えないうちに、飛び退る楓に迫るようにして、荒神も跳躍している。
 楓は荒神を振り切ろうと何度か背後に跳躍したが、荒神は楓と至近距離で向き合ったまま、楓の移動に合わせてぴたりと追尾し続ける。
「ほらほら。雑種ちゃん。
 これ、君の」
 荒神はひらひらと、楓の目前に、楓が投擲した筈のくないをひけらかす。
 荒神が楓のくないを手にしている、ということは……荒神は、楓を追尾するように移動しながら、楓が投げたくないを全て素手で受け止めた……と、いうことを、意味した。
「それから、ぼくからの反撃は考慮しなくていいから。
 そんな後ろ向きに、ではなく、もっと自由に動いてごらん。
 もっとこう、本気でぼくを取るつもりでさぁ……」
 ……今までだって、君、ぼくがその気なら、何度も死んでるよ……。
 荒神はそういうと、なんの遮蔽物もない河原のグランドの真ん中に、どかりと胡座をかいて座り込んだ。
「……こっちは、これから鍛える君が、現在どの程度の代物なのか正確に見極めたいわけでさ。
 だから、手加減抜きできていいよ……」
 荒神は懐に手を収めて、ふぁぁ、と大きくあくびをした。
 楓は完全に気配を消し、夜明け前の闇の中に姿を消した。
 座り込んだ荒神の周囲から、小石、くない、六角などが降り注ぎはじめる。それらが投げつけられる方向に一定の法則はなく、とても楓一人の仕業とは思えないほど、短時間、かつ、大量に投げつけられたものだが……。
 時には同時に幾つも物体が弾幕と化し「面」となって荒神に迫ったが、荒神はその場に胡座をかきながら、指先だけを最小限に動かして、それらを、ことごとく弾く。
 野呂良太が以前、グローブの糸とアンカーでやったことを、荒神は、指一本であくび混じりに行った。
 この、光源が乏しい環境下にあっても、荒神は楓の全力攻撃を、指一本であしらった……。
 楓は座り込む荒神の背後にそっと片膝をつき、八方手裏剣を取り出して、手持ちのそれを一気に使った。扁平な八方手裏剣は、狙いはぶれやすいが扱いがたやすく、一気に多数を放つのには向いている。
「……飛び道具は、無駄だよ」
 楓が八方手裏剣を放ち尽くすと、いつの間にか、少し離れた場所に座っていた筈の荒神が、楓の背後に立っていた。
 飛び退り、荒神と距離を取ろうとする楓の動きを、荒神はたやすく指一本で封じる。
 荒神が楓の額を人差し指で弾くと、それだけで、楓の体は軽々と吹っ飛んだ。いわゆる「デコピン」だが、一見無造作に放たれた荒神のそれには、途方もないエネルギーが込められていたらしい。
 ふっとんだ楓は、地面に体を投げ出したまま、しばらく身動きが出来なかった……。
「はい。そんなところに、寝ない」
 荒神は横たわって身動きもままならない楓のベルトを掴み、楓の体を高々と放り投げる。
 楓の体は、地上三メートル程度まで、軽々と持ち上がった。
 易々と空中に放り投げられた楓は、抵抗のしようがない。自由落下中の人体が出来る事は、極めて限られている。せいぜい、体を捻って軌道をわずかに反らすことくらいだ。実践の場では、「良い的」になる。
「基本はそれなりに出来ているようだけどね……」
 無防備な状態で落下する楓を止めたのも、楓を放り投げた荒神だった。
「君、基本に忠実すぎ。並の相手ならそれでもそこそこ対処できるけど、ぼくみたいに六主家のトップクラス相手だと、その程度では、通用しない……」
 荒神は頭上に片手を上げ、楓の背中、腰のあたりの一点を、人差し指一本で受け止めた。荒神の指一本で持ち上げられている恰好の楓は、そのまま身動きを封じられる。安易に動けば、そのまま落下する。もちろん、荒神がいなければ、軽く身を翻して着地することは可能なのだが……。
 今は、これだけ近距離に、荒神いる。
 ……荒神は、これまで何度、楓を殺せただろう……。
『……完敗だ……』
「安全と思われる距離から、弾幕を張る。
 ある意味基本的な戦法だが……ぼくらのように離れした人間は、その程度の攻撃なら、いくらでも対応策を持っている……」
 楓を地面の上に立たせ、荒神はうっそりと言い放った。
「……はっきりいって、君のは下忍の闘い方だ。優秀な指揮官と僚友がいて、その中の一人として働く分には、今ので充分だろう……」

 しかし、これから、現在、楓が置かれた状況を考慮すると……。
 それは、時には単独で、誰の支援も受けずに、自分以上の実力の持ち主と相対することも充分に考えられる。
「だから、君は、これから二つのことを早急に学ばねばならない……」
 荒神は、楓に、告げる。
「ひとつは、今まで培ってきた技を捨て、自分だけにしか使えない技をものにすること。
 もうひとつは、どんな状況下でも、誰の指示を受けずとも、単独で判断し、行動し続けることが可能になるまで、自律的な状況判断能力を養うこと……」
 後者は、楓が育った養成所では、故意に教えられなかった事柄だった。一族の養成所は、基本的に、六主家の人間の手足になって動く人材を輩出するための場所で……その手足が余計な判断をし始めると、時として都合が悪い……。
 荒神は、誰かの手足になるように、と育てられた楓を、自分自身の思考と判断で動く、自律的な存在へと作り替えようとしていた……。

「……ということで、今回は、ここまで……」
 ともあれ、この元旦の朝から、荒神は楓の師となった。
「……君は、このまま帰って、普段通りの生活に戻りなさい……」

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髪長姫は最後に笑う。第四章(30)

第四章 「叔父と義姉」(30)

 三島の車は軽だったので、トランクに荷物を詰めて四人が乗り込むとかなり窮屈に感じた。
「……あんだけ買ってまだ買うんですか? 先生、独身でしょ?」
「……お前な、プライバシーにまで軽々しく踏み込んでくるなよ……。
 わたしにだって手料理の一つや二つ、作る相手くらいいるって……。
 聞きたいか? 聞きたいか? ん? 聞きたいんなら、思いっきりのろけてやるぞ……」
「……別に、聞きたくはないです……」
『……相手の人を気の毒に思うだけで……』
 という台詞は、流石に口にしなかった。三島百合香は運転中であり、荒野は、今、助手席に座っている。事故った時、一番死亡率が高いのは、助手席だった。
『……相手の人、思いっきり振り回されているんだろうなぁ……』
「……っち! 面白みのないヤツだ……」
 愛想のない荒野の相槌に舌打ちをしながらも、三島の運転は法定速度を遵守した、極めて穏当なものだった。

 ショッピング・センターは、商店街の閑散とした様子とは対照的に賑わっていて、駐車場に入るまでに五分ほど待たされた。商店街が駅と日用品を扱う店舗くらいしかないのに比べ、ここにはシネコンやCDショップ、ブランド物を扱うショップなどがテナントとして多数入っている。買い物以外に暇を潰しにくる者も多い。家族連れの他に、カップルや単独など、比較的若い人間が多いのも、商店街との違いだった。
「……総員、整列!」
 順番を待ってようやく車を駐車場に入れると、三島百合香は他の三人に号令をかけはじめる。
「これより作戦行動に入る。今回は量が多いからな。二手に分かれるぞ!」
 三島は当然のように四人を「荒野と茅」、「三島と荒神」の二組に分け、茅に買い物メモを渡す。
「一時間後に車に集合!
 では、総員吶喊!」
 強引、という以上に、皆に有無を言わせない勢いだった。
 荒野と茅はもとより、荒神までがニヤニヤ笑いを浮かべながら素直に三島の後について人混みの中に姿を消した。
『……この状況を面白がっているな、あれは……』
 荒野は、三島に諾々と従っている荒神の思惑をそう読んだ。

 三島が茅に渡したメモの内容は、三十分もかからずにすぐに買いそろえることが出来た。時間が余ったので、とりあえず目についたコーヒーショップに入る。荒野はエスプレッソ、茅はホットココアを注文した。
「……この程度なら、二手に分かれる必要もなかったの……」
 と、茅はメモに記された買い物の量に対して、首を捻っている。
 荒野はそれについて、自分の予測を茅に披露した。
 三島は、突如現れた荒神という人物と、二人きりで話す機会を得たいと、思っていたのではなかろうか?
 と……。
「……ま、荒神さんが居座る腹なら、先生のほうも、荒神さんの性格を見極めておいた方がいいし……」
 三島にしてみても、荒神の乱入は、想定外だった筈だった……。加えて、三島は涼治のあやしげな誘いを受諾したことからもわかるように、好奇心が強い……。
「……あの人、そんなに凄い人なの?」
 荒神の「軽い」部分しか見ていない茅は、荒野にそう疑問をぶつける。
「うん。凄い。おれあたりが束になっても、足下にも及ばない……」
 荒野は、茅の疑問に、あっさりと頷く。
「……ま、強さもそうだけど……それ以上に性格が……」
 凄い。
 この時点で荒野は、荒神のことばかりを念頭に置いていたため、もう一人の、もっと身近な「凄い(性格の)人」と荒神とが意気投合する可能性を、予想だにしていなかった。

 荒野と茅がコーヒーショップに入って二十分ほどしてから、三島から電話がかかってきた。
『……とんでもないことになっちまったぞ! 早くこいっての!』
 やかましく音割れしたBGMに混じって、三島の声が荒野の携帯から聞こえてくる。茅と二人で三島の誘導に従って、ショッピング・センターを出ていくと、昼間なのにネオンがきらめく騒がしい店(?)の前にでた。中から、携帯電話から聞こえるのと同じBGMが流れていることからも、三島がこの中にいることは確かなようだ。
「……なんすか? ここ……」
 どうコメントしたものか迷いながら、荒野が電話に向かって問いかけると、
『……なんだ? 知らないのか? パチンコ、あんど、スロット! いわゆるひとつのジャパニーズ・イージー・カジノだ!』
 三島は興奮した様子で荒野に答えた。
『新年の運試しと荒神氏との勝負を兼ねて試しに入ってみたんだが、これがもう大当たりのうはうはでな! 笑いも出玉も止まらんのよ、これが!』
 ……どうにか状況を把握して目を点にした荒野が、手にしていた荷物を「すぐに戻るから」茅に一時預け、ずかずかと店内に入っていく。博打や賭博に関係した場所に茅を連れて行くつもりはなかった。
 狭い店内は、たしかにスロットマシーンや荒野にはよくルールが分からないゲーム機がみっしりと列をなしておりマシン一台一台の前に丸イスが据え付けてある。その列と列の間の、狭いの空間の両側に丸イスとそこに座る人々がいて、その間の通路は荒野が驚くほど狭かった。
「荒野、こっちだこっちだ!」
 荒野の姿を認めた三島百合香が、丸イスの上からちょこちょこと手を振る。
 三島の隣には荒神も並んで座っており、二人の足下には買い物のポリ袋とコインが入った箱が幾つも置かれていた。
「見ての通り、なんだか知らんが二人ともちょーらっきーって感じでな。
 そういうわけで、しばらくここから動けないから、荷物車に放り込んで、二人で適当に帰っておいてくれ!」
 と、三島は車のキーを荒野に差し出す。三島たちが買った荷物も、車の中に放り込んでおけ……と、いうことらしい。
 ……一気に馬鹿馬鹿しくなった荒野は、おとなしくキーを受け取って、幾つもあるポリ袋をまとめて手に持つと、大股でその騒がしい店内を後にした。
「茅! 帰るぞ!」
 店の入り口の所で茅に声をかけると、茅は見知らぬ二十くらい二人組の男に話しかけられている所であり……。
「……あー。あなた方……うちの妹になにか御用ですか?」
 荒野が、その二人組を睨めつけるながら、語気荒く声をかけると、二人組は明らかに動揺した様子で逃げ出していった。
「さ、茅。荷物を先生の車に放り込んで、帰ろう。
 先生たちは、大人の遊びに夢中だそうだ……」
 三島が荒神の名前に「氏」という敬称をつけていたこと、三島と荒神が自分たちよりも目先のくだらないギャンブルを優先したこと、通りすがりの男たちが茅にいいよっていたこと……。
 なにもかもが、荒野の気に障った。

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彼女はくノ一! 第三話 (52)

第三話 激闘! 年末年始!!(52)

 時間を少し戻す。
 元旦の早朝、路上で樋口明日樹が頭を抱える数時間前。

 松島楓は、異質な感覚を皮膚に感じて目を覚ました。
 夜明け前、狩野家の居間では、昨夜からなんとなく居続けた人々が炬燵を中心にして雑魚寝をしている。毛布を体にかけている者も多い。
 そんな中、一人で目を覚ました松島楓は、しかし、自分を目覚めさせた異質な感覚がどこから来たものなのか、しばらく思案しても結論がでなかった。

 ……なにか、今までに感じたことがない感覚を感じたから、不審を覚えて目を醒ました……。

 としか、いようがない。
 そこで、楓は、そっと立ち上がって軽く周囲を見回ってまわる。全身の五感をとぎすませて、気配を探る。異常は、ない。

 基本的に、松島楓の眠りは浅い。「安心して熟睡する」という経験は、ここ数年、絶えてなかった。だから、この土地に来てからも、荒野に「この家の人々を守れ」と命じられたことを口実に、夜中に起き出して、一人夜の町を徘徊する、などということも、普通に行っていた。
 楓の技能をもってすれば、家の人々に気づかれずにそっと抜け出すことくらい、なんの労も感じずに行う事が可能であり、この日も、家の中をそっと見回ったあげく、「異常なし」という結果を得た楓は、誰にも気づかれることなく、普段着に着替えて狩野家を出る。

 まだまだ夜の暗さが残る中、外に出た楓は、すぐに得体の知れない「影」に遭遇する。
 そして、その「影」に遭遇した途端、楓は金縛りにあったかのように、動けなくなる。
「……おやぁ?
 ふうぅん……君、この状態のぼくのこと、感知できるんだ……」
 羽織袴を着た「影」が、ぺろりと朱い舌を出して、自分の口の周りを舐めた。
『……「舌なめずり」というのは、こういう行為をいうのか……』
 楓は、恐怖で動かない体の中で、そう思索する。楓の頭の中では、目の前の「影」に対して、しきりに「危険! 危険!」と訴えている。飢えた肉食獣が人の形をとったら、ちょうどその「影」のような物体になったことだろう……。
『……離れろ! ここから離れろ! 少しでも遠く、一刻でも早く、その「影」から距離をとれ!』
 楓の直感が、先ほどからしきりに楓に警告を発している。
 しかし、楓の体は、足は、動かない。
 理性と直感は、その「影」とは関わるべきではない、と、しきりに訴えているのだが、体のほうが恐怖に半ば麻痺して、ガクガクと膝が震えている。
 少し力を抜けば、その場で腰を抜かして座り込んでしまいそうになる……。

 敵意や殺気こそ放っていなかったが……それでも、ただそこに立っているだけでも……その「影」は……圧倒的な「強者の存在感」を発していた。
 脅威だ、と、楓の全身の細胞が、楓に告げている……。
「……うん。立っていられるか。面白い……。
 君、雑種だよね?
 ぼく、これでも六主家の中で一定レベル以上の手練れのことは、一通り覚えているつもりだし……」
 その「影」が「六主家」という名詞を出したことで、次第に楓は冷静な思考を取り戻していく。
「六主家」の名を知っているとするならば、この「影」は、一族の関係者……。
 つまり、どんなに桁外れに強い存在であろうとも、同じ人間だ……。
 同じ人間なら、対抗する手段があるはず……。
『……それに……』
 今、楓がこの「影」に屈したら、楓の背中の向こうにある狩野家は、この「影」に対して、無防備になる。
 この「影」の正体や目的は、楓には分からなかったが……この「影」がその気になりさえすれば、自分もろとも狩野家にいる人々を瞬時に鏖殺できる存在であることは、「肌で」理解していた……。
『……だから……』
 退くことも、屈することも、できない……。
 と、楓は判断する。
 敵、と想定するには……絶望的なまで強大な存在ではあったが……。
 楓は、意を決し、戦意を奮い立たせ、体の自由を取り戻そうとする。
『……どこまでできるのか、わからないけど……』
 楽に呼吸をして、緩やかに思考を巡らせる。だんだんと緊張が解け、体が動けるようになった……。
「……ふぅん……。後ろに、君にとって大事なもんがあるんだぁ……。
 君、隠し事や心理戦には向いてないね。ばればれ。
 それからね、今時、差し違え、なんて流行らないよぉ……」
 ぬめり、と、「影」の朱い舌が踊る。
 楓のわずかな体の動きから、「影」は、楓の心理を、ある程度読みとれるらしい……。
「……君なんか殺っちゃうの簡単なんだけど……。
 うーん……元日にそういうのも、縁起悪いか……。
 あ? あれ?
 ちょっと待てよ……こんな所に君みたいなのが、居るってことはぁ……」
「影」は、徐々に羽織り袴姿の、男の形を取りはじめる。
「……ひょっとして君、荒野君の、犬?」
 羽織り袴の男は、「荒野君」の部分を「こぉやくぅぅん」と鼻にかかった発声をした。

「……いやぁ。
 危うく同士討ちになるところだったねえ……」
 羽織り袴の男は、楓に「二宮荒神」と名乗った。
 その名を聞いた途端、楓は納得するよりも全身が総毛立つ。
『……なんで、「最強」が、こんな所に……』
 それから、いきなりにこやかになった荒神は、
「こんな近くで睨み合っていると、こぉやくぅぅんにバレるから……」
 と強引に楓の手を引き、マンションから少し離れた河原まで連れてきた。「少し離れた」とはいっても、楓や荒神の足で移動すれば、あっという間なのだが。
「二宮荒神」の名を耳にした途端、その場に平伏した楓に対して、荒神は、
「これ、飲みなよ」
 と、いつの間に用意したのか、熱々の缶コーヒーを懐から取って楓に投げ渡し、自分でも缶入りのおしるこを取り出して、プルトップを開ける。
 それから荒神は自分と荒野の関係を諄々と楓に説明し、楓のほうも、荒神に問われるままに、ここ最近の出来事を詳細に語る。
「二宮の頂点」に立つ生ける伝説に、隠し事や反抗ができる楓ではなかった……。
「……なるほどねー……。
 いや、こぅやくぅぅん、難しい年頃でさ、ぼくに変な警戒心持っているから、あれ、隠し事をしてるってわけでもないんだけど、全てを話してくれたわけでもなくってねぇ……」
 一通り、楓の説明を聞いた荒神は、うんうんとひとしきり頷いた後、
「……あー。
 でも、そういうの聞くと、こっちもすっごく楽しそうだなぁ……君とかこぅやくぅぅんとか、才賀の小娘とかが、これから一緒の学校通うんでしょ?
 ……うーん。
 長老、ぼくに黙ってた、ってことは、これはもうお楽しみを独り占めしようって魂胆だよね、絶対……」
 そういって、懐から携帯電話を出し、登録された番号にかけ始める。
「あ。長老? ぼくぼく。荒神でぇす! でね、早速なんだけど、荒野君の事ね。うん。そうそう。今日、年始回りしてきて、いろいろ聞いて来ちゃったんだ。うん。ずるいよぉ、長老。こんな弄り甲斐のある子たちことぼくに黙っているなんてぇ! でね、ぼく、ここいらの状況、非常に気に入っちゃたんで、今日からこの近くに住もうかと思いまぁす! いや。いやいやいやいや。もう決めちゃったもんね。っていうか、いうこと聞いてくんないと暴れちゃうぞ! と、いうことで、こっちでの職と巣の手配、お願い。巣はどこでもいいけど……職は、先生がいいなあ……。うん。荒野君たちの学校の。いるでしょ? 一人二人いきなり事故にあって怪我しちゃう先生とか、いきなり産休とっちゃう先生とか……。いなければいないで、ぼくが工作してもいいし……。あ。そっちでやってくれる? うんうん。そうだね。ぼくがやると血ぃみちゃうし。お願いするわ、長老。え? 巣のほうも、心当たりに紹介状書いてくれるって? わぁお! 長老。もう、大好き……。あ。あと、それとね……」
 二宮荒神はちょいちょいと楓を手招きして、楓の名前を初めて尋ねた。
「……うん。そう。その、松島楓っていう雑種ね、ちょっと興味がわいたんで、ここに居る間、ぼくが鍛えちゃったりしてもいいかなぁ、って……」

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髪長姫は最後に笑う。第四章(29)

第四章 「叔父と義姉」(29)

「……背も伸びているけど、髪も半端にのびているなあ……」
 三島百合香の助手席に座った加納荒野は、自分の前髪を指で摘んでそうぼやいた。
 この土地に来てから、全然鋏を入れていない。もう三ヶ月近くになる。
「お前、ただせさえその髪の色だからな。
 学校始まる前に切っておいたほうがいいぞ」
 国産の軽自動車を運転しながら、三島百合香がいう。
「校則とかにそんなにうるさい学校じゃないけど……教員の中にはそれなりに頑固なのもいる……」
 学校の職員に目をつけられるのは、荒野にしてみても決して本意ではないのだが……。
『……未樹さんの勤める店にも……』
 なんとなく行きずらい荒野だった。
 マンドゴドラのプロモーション・ビデオを撮った時にお世話になった美容師さんにも名刺を貰っているし、マンションからも近い。
 そんな関係で、髪を切りにいくのなら、あそこの店を利用するのが自然だとは思うのだが……。
 結局、未樹とはあの夜依頼、全く連絡を取っていない。向こうは、明日樹や大樹経由で、荒野たちの消息を聞いているのかもしれないが……。
「……そうだ、茅。
 茅も、学校に行く前に一度手入れして貰うか?」
 茅と一緒だと、それなりにいい口実になる。
「茅の髪は、しばらくこのままでいいの。枝毛、ないし」
 荒野の心情を知ってか知らずか、茅はにべもなくそう答えた。
『……明日あたり、予約を入れるしかないか……』
 荒野は一人、そっと嘆息した。

 そうこうする内に、三島の運転する車は、商店街のはずれに到着する。
 コイン・パーキングに車を入れ、
「荷物持ちが必要になったら、電話入れるから」
 といって、三島は荒野たちと別れた。冷蔵庫が空っぽなので、かなり食材を買い込む、と、三島はいっていた。
 三島と別れた荒野たちは、コイン・パーキングからいくらもないマンドゴドラに向かう。新年の昼前、という日時のせいか、年末の盛況が嘘のように、商店街の人通りは少なかった。シャッターが開いていない店も多い。
 マンドゴドラにはすぐに到着した。
 しかし、店の前まで来て、喫茶室に座る人物の正体を見定めた時、荒野は蒼白になって、そのまま回れ右をして茅の手を握り、マンドゴドラから遠ざかろうとする。
 その荒野の肩に、手をかけ、すごい力で荒野をマンドゴドラの店内に気も戻そうとする人物がいた。
「……こ、う、や、くぅぅぅぅぅん……」
 先にマンドゴドラの喫茶室で茶をしばいていた、二宮荒神だった。

「……いやあ、この辺土地勘がないからさ、適当にぶらぶらしていたらちょー吃驚このケーキ屋さんに荒野君のビデオがかかっているんだもん。で、試しに入ってみて食べてみたら、これがもうすっごくおいしくてさらにちょー吃驚こんな田舎に似合わない本格的な味でちょー感激っていうか……」
 マンドゴドラの喫茶室には、十客ほどのスツールがようやく並ぶ程度のカウンターしかない。もともと、持ち帰りがメインの店であり、喫茶室の用途は、商品の試食とちょいとした足休め程度、と割り切られている。
 だから、三人はそのカウンターに横に並んで座っている。
 一番入り口に近い場所に茅、その隣りに荒野、さらにその隣りに荒神。
 故に、荒野は荒神の、いつ果てるともないだべりをモロに聞く羽目になる。
 荒神は、三七分けに野暮ったい黒縁眼鏡、という「浩司偽装」に似合わない軽薄な口調で、どうでもいいようなことを延々としゃべり続けている。
『……そういや、こういう人だった……』
 甘い物が好き。そして、無駄なおしゃべりも好き。なにより、軽薄。軟派か硬派かといったら、明らかに軟派……。
 一族最強にして最凶、のイメージには全くそぐわないが、荒神は、身内や心を許した人物の前では、かなり「軽い」。その「軽い」ほうが、「地」なのだろう、と、荒野は思っている。
 荒神の中には、そうした軽薄さと、眉一つ動かさずに瞬時に大量の人命を奪う酷薄さが、なんの矛盾もなく同居している。
 せっかくの、久しぶりにマンドゴドラのケーキを前にしている、というのに……荒野は、ろくに味わうことができなかった。
『……拷問だ……』
 その荒野の左右では、茅と荒神が、際限なくケーキのおかわりをしている。
 荒神こと二宮浩司が荒野の遠縁だと名乗ると、マンドゴドラのマスターは、
「いやあ、この人も実にうまそうに食ってくれるからねえ」
 とかいって、途端に気前が良くなった。
 マスターは「荒神の分もタダ」で、といってくれたが、荒神のほうが、
「こんないい仕事にお金を支払わないのは、罪です」
 と固辞し、そのかわり、ショーウィンドウの中の商品を片っ端から試す勢いで注文しはじめる。
 茅も、つられているのか対抗意識を燃やしているのかよくわからないが、荒神に負けないペースで次から次へとケーキを平らげていく。
 道行く人々が、カウンターに座る三人と、三人の頭上に設置されている液晶画面に映っているプロモーション・ビデオを見比べて、立ち止まったり指さしたりしている。荒野を除く左右の二人は、これがもう、実にうまそうな顔をしてケーキを食べているので、徐々にマンドゴドラに買いに来る人々が増えてくる……。

 その中で、荒野一人、生きた心地がしなかった。

 三島から「荷物持ち、カモン!」という連絡を貰ったので、これを幸いと店を後にしようとすると、マスターに呼び止められる。
「茅ちゃん茅ちゃん。
 そろそろイチゴ物の季節なんだけどさ。新作の味、一足先に試してみるかい?」
 もちろん、茅はマスターの誘いを断らなかった。

「……で、なんで荒神さんまでついてくるんですか……」
 荒野と茅が店を出ると、精算を済ませた荒神が、さも当然という顔をして二人の後ろについてくる。
「いや。ちょうどいい機会だから、ここいら案内して貰おうかなぁ……なんて……」
「……これから、人と会う予定なんすけど……待ち合わせってぇか……」
 荒野がそう説明しかけた時、
「おい。荒野! こっちだ!」
 小さな体に大量のポリ袋を抱えた三島百合香が、先に荒野たちの姿を認めて声をかけてきた。
「……なに? この卑小な物体……」
 荒神と三島は、昨日の餅つきで顔を合わせているはずだが、きちんと名乗り合ったわけではない。
「お。図体のでかいおまけもついているな。ちょうどいい。なんでもいいから早く荷物、持てって……」
 三島は荒神の存在に気づいても特に意に介した様子もない。
 どうやら、「荷物持ちが一人増えた」程度にしか認識していないらしい。
「これ車に運び込んだら、今度はショッピング・センターのほうに行くぞ!」

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彼女はくノ一! 第三話 (51)

第三話 激闘! 年末年始!!(51)

 元日の朝、樋口明日樹は狩野家の居間で目を覚ました。
 下半身を炬燵につっこんだ上体で、体の上に毛布が掛かっている。どうやら、クリスマスの日のようにここで雑魚寝になったらしい。
 目を擦りながら起きあがると、
「あ。目が覚めました? なにか食べられますか?」
 と、エプロン姿の松島楓に声をかけられた。
 炬燵の上にはお重と小皿が置いてあり、どうやら楓は配膳の途中だったらしい。
 炬燵には、自分以外に狩野家の人々と自分の弟、大樹がついている。飯島舞花と栗田精一は、帰ったのだろうか?
「……今、何時……」
 掠れた声でそう尋ねると、
「時間的には、もうすぐお昼ですね……。
 でも皆さん、ついさっき起きたばかりなので……」
『……そっか、また泊まっちゃったのか……』
 そんな事を、ぼけら、と考える。
「……ちょっと、顔洗ってくる……」
 誰にともなくそういって、席を立つ。
 途中、廊下で会った狩野真理に挨拶し、トイレに済ませてから洗面所で顔を洗っていると、徐々に意識がはっきりしてきた。
 思い返してみても……昨夜の記憶が、あまり残っていない……。
『たしか、飯島がまたお酒持ってきて……』
 それに口をつけた、というところまでは、覚えている。
「……ね。昨日、わたし、なんか変なことしなかった?」
 居間に帰ってから弟の大樹に小声で尋ねると、
「え! あすねー、憶えてないの?」
 と大声を出されて、その場にいた人々の注目を浴びてしまう。
 明日樹は、顔が熱くなっていくのを感じながら、
「な、なに? なんかやったの? わたし……」
 と、大樹に詰め寄った。大樹は、露骨に目をそらして、
「……ま。過ぎた事だし……」
 とかうそぶくばかりで、「なにをやったのか」という肝心なところは明言しない。
 しかし、小声で、
「あすねーが人前で、あんなことをするなんて……」
 と、呟いた事を、明日樹は聞き逃さなかった。
『え? え? え?』
 明日樹は、一旦頭に昇りかけた血が、さーっと引いていく気がした。
『……わたし、なにか恥ずかしい事、したの……』
 青い顔をして見渡すと、狩野香也は視線を避けるように顔を背け、才賀孫子は軽く眉をひそめ、松島楓は「あは。あははははっ」と露骨なごまかし笑いをする。
「さ。みんな起きたことだし、遅いけどご飯にしましょう」
 一晩熟睡して顔色が良くなったように見える狩野真理がそう宣言して、今年最初の食事が始まった。しかし、その時の樋口明日樹はせっかくの料理を味わう精神的余裕を欠いており、ろくに味がわからなかった。

 食事を終え、大樹の腕を引くようにして狩野家を辞し、帰路で飯島舞花に「昨日、わたしなにかやった?」という意味のメールを送る。
 返信はすぐ来て、でもそれはたった一行
恥ずかしいこと(^^)

のみ、だった。

 明日樹の携帯の画面をのぞき込んだ大樹が、「確かに、あれは恥ずかしい……なにも、みんなの前であんなこと……」などと言い出したので、明日樹はさらに不安になる。
「だから、なにをやったのかって聞いているのよ!」
 明日樹はどんどん不穏な想像を巡らせる。
『……まさかまさか……狩野君たちの前で……クリスマスに松島さんがやっりかけたようなことを……』
 ……わたしって、松島さんほど胸、ないからなあ……。
 とか思っていると、
「……すごいよな、あすねー。
 あれ、みんなの前で告ったようなもんだろ……」
 姉がやたらと不安を抱いているのを不憫に思ったのか、大樹がようやく説明しはじめた。
 大樹によると、明日樹は昨夜、みんなの前で「この中の誰が一番好きなのか?」と狩野香也に詰め寄ったらしい……。
『……うわぁあああ……』
 説明されて、なんとなく断片的な記憶を思い出しかけた明日樹は、その場に穴を掘って自分自身を生き埋めにしたい衝動に駆られた。
「いや、あすねーのあれってのは、普段の態度からして、他のみんなにはバレバレだったみたいだけどさ……おれ、あすねーがああいう度胸がいる告り方、するとは思わなかった……」
 大樹に半ば関心し、半ば呆れたような口調でそういわれて、明日樹は頭を抱えてその場にうずくまる。
「……うっ……そぉ……」
 思わず、小さく呟くと、
「本当。
 嘘だと思うなら、他の人に確認してみりゃいい」
 淡々と、大樹が念を押す。
「……それで、狩野君はなんていったの?」
 その大樹の首元を掴んで引き寄せ、すっかり狼狽した表情の明日樹は、問いただした。
「……あれ、ぼーっとしているだけのヤツかと思ったら……意外と大物なのか、それとも単に馬鹿なのか……」
 明日樹にがくがくと揺すぶられた大樹は、明日樹から目をそらして、答えた。
「……ぼくにはそういうの、早すぎる……だってさ……」

「……ぼく、この家に来る前のこと……子供の頃のこと……ほとんど覚えてないんだよね……」
 昨夜、明日樹に問いつめられた香也は、「自分にはそういうの早すぎる」と答えた後、そう続けた。
「絵はその前から描いていたらしいけど……なにがきっかけで描き始めたのか、ぼくは覚えてない。気がついたら、描いていて、描き続けて……他のこと、ほとんどやったことがなくって……この年齢まで、きちゃった……」
 だから、実質的には、ぼくの中身は子供と同じだよ、と香也はいう。
「……例えば、つい最近まで、ぼくは、家族以外の人間とほとんど話したことがなかった……友達と呼べる人も、当然いない……」
 ぼくは恐ろしく希薄で、中身がスカスカなんだよ……と、香也はいう。
「だから……仮に、誰かを好きになって、その誰かを好きになってくれたとしても……うまくつき合えないんじゃないかと思う……。
 ぼく、そういうのに疎いとかいう以前に……」
 他人とのつき合い方、というのが、よくわかっていないんだ……。

 昨夜香也は、自分自身の事を、みなの前で、そう評した。

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