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髪長姫は最後に笑う。第四章(32)

第四章 「叔父と義姉」(32)

「……とまあ、そんな感じだったんだがな……」
 その日、買い物から帰ってきた三島百合香は、早速荒野に荒神との会話の内容をかいつまんで披露した。
「……そんなん、おれに聞けばよかったじゃないですか……」
「いつもお前の視点からばかりだと、見えてこないものもあるんだって……」
「だからってあんな危ないのに聞かなくても……」
「荒野なぁ……。
 お前さん、あの荒神のこと、意識しすぎだ。たしかに奇矯な男だとは思うが、あれはあれなりに筋を通そうとしているぞ……」
「ま……先生がやることに、おれが口出しするのもなんですがね……」
 荒野は、肩をすくめた。
「先生……そもそも、先生の仕事は、茅の体調管理と監視、それに、じじいにレポートを送ることだったはずです。
 今までとは色々と事情が違ってきていますから……これ以上は、あまり深入りしないことを、お勧めします」
「それこそ、冗談じゃない……」
 三島百合香は不敵に笑う。
「……こんな面白そうな事目の前にぶら下げられて、放っておけるかってぇの!」
「……ま、先生がそういうんなら、いいっすけど……」
 荒野は深いため息をついた。
「肉、食いましょう。焼け過ぎちゃいますよ」

 場所は三島百合香のマンション。
「そろそろ正月料理にも飽きてきただろ」
 という三島の提案で、荒野の茅と二人で来訪し、ホットプレートの焼き肉をご馳走になっている。どうやらこのために、多めに食材を買ってきたらしい。
 この部屋に呼ばれる時、荒野は「そこに荒神はいないだろうな?」と、真っ先に確認した。そして「荒神とはショッピング・センターで別れた」と三島の返答を確認してから、荒野は三島の部屋に行くことを決定した。
「材料はたっぷり買ってきているからな。たんと食えよ」
 と言われたから、というわけではないが、荒野はいつも以上の食欲を見せ、茅と三島の目を丸くさせた。半ば以上やけ食い、でもあったのだろう。

「荒野君は、外見とスペックはあれですけど……」
 その日の昼間、三島の横に座った荒神は、深々と嘆息した。
「中身はまだまだ未熟……と言ってわるければ、年齢相応のナイーブさを持っています。
 意外に内心の動揺が表にでるタイプだし……しかも、そうした動揺が態度に現れていることを、あまり自覚していない……」
「……あー……」
 今までの荒野の言動を思い返し、三島は同意しないわけにないかなかった。
「いわれてみれば……よく茅を、心配させているな……」
「……ぼくが助言とかフォローしてもいいんですけど……。
 ぼくがいったんじゃあ、まあ、逆効果、でしょうねぇ……。
 荒野君は、ぼくのことを信用しきっていませんから……」
「……お前さんの態度のほうにも、問題があるとは思うがな……」
「だってぇ……」
 荒神はいきなり身をくねらせはじめた。
「……荒野君の髪、ねぇやにそっくりで、きらきらして綺麗で触り心地いいんだもん」
『……シスコンの傾向は、遺伝だな……』
 と、三島は一人、納得した。
 表面的な現れれ方こそ異なるものの……身近な者や肉親への拘り、という一点に着眼すれば……荒野と荒神は、実によく似ている。
 荒野が涼治や荒神に強い反発心を見せるのも……いわゆる、近親憎悪ってヤツだ……。

「……荒野。野菜も食べなければ、駄目なの」
 茅が、荒野の小皿に焼けたピーマンやタマネギの輪切りを取り分けている。
 そういう茅は、肉と野菜を交互にバランスよく食べている。少しづつ取っているので目だないが、体の割にはハイペースで口に運んでいる、と、思う。
 荒野の話しでも、最近は以前よりは食が進んでいる、という。
 もう少し様子をみてみないとわからないが、運動をし始めた結果、体質が変わりつつあるのかも知れない。今のところ、体脂肪率などに、問題にするほどの変化は起こっていない。
 ここに来て、茅が荒野と住むようになってから、茅はたしかに変わった。
 しかし、同じくらい、荒野自身も変わっている。
 ここに越してきたばかりの荒野は、いつも愛想笑いを浮かべていたが、目は笑っていなかった。時折、大人や一般人を、見下すような目つきをすることがあった。
 今の荒野は、以前ほど愛想笑いを浮かべることは少なくなったかわりに、喜怒哀楽の感情を素直に表すようになっている。
 茅の感情が豊かになったのと同じで、荒野のそうした変化も、いい傾向だと思っている。荒神も指摘していたが、能力的なパラメータを数値であらわせば、荒野は大抵の大人よりはよっぽど「性能がいい」。
 しかしそれだけでは、優秀なだけでは、どうしようもない……ということを、荒野は学びはじめている……と、三島は思う。
 行きがかり上、学校に勤務してはいるが、そもそも自分は「教育者」なんて柄ではない、と、三島は自身を評価している。それでも、荒野や茅のような子供たちが、段々と一般社会にとけ込んでいくのを見守ることは……快かった。
『……たしかに、荒野が警戒を強めているのもわかるんだが……』
 なにしろ、事態は錯綜している。真偽の確認が取れてない、取りようがない情報だけが集まってきて、それを証明するように、今まで動きがなかった「一族の者たち」が動き始めている。
 これから荒野と茅に、どういう人物が、どういう思惑をもって接触してくるのか……まるで、予測がつかない。
 だが……。
『……いい方向に転がってくれると、いいな……』
 わいわいとしゃべりあいながら健啖ぶりを発揮する二人を眺めながら、三島は、そう思わずにはいられれない。
 荒野は涼治に、
「茅を笑わせろ」
 と命じられた、という。
 そのためには、荒野自身も笑えるようにならなくてはならない、と、三島は思う。
 荒野は、いつも愛想笑いを浮かべながら、その実、割と些細な事にもくよくよ悩む。生い立ちの複雑さ、ということでいえば、茅とどっこいどっこいだ。加えて、自分一人だけならどうにでも切り抜けられる局面を、これからは「茅」というお荷物を抱えたまま切り抜けていかねばならない……。
『……荒野も、茅も……』
 なんの不安も屈託もなく、心から笑いあえる日が来るといいな……と、三島百合香は、そう思う。
「……あ。それからな、学校から連絡があって、明日、教科書とか渡すから、一時半に制服着て学校まで来いってさ。楓や才賀もいっしょだ……。
 ま、急に押しつけられたワケアリらしい転校生たちの顔を、先生方も拝んでみたい、ってこちゃないのか?」

[つづき]
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