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彼女はくノ一! 第三話 (54)

第三話 激闘! 年末年始!!(54)

 ひょんなことから「最強」の教えを受けることになった楓が狩野家に戻っても、皆はまだ寝静まったままだった。夜明け前、という時刻のせいか、楓が外出していたことに気づいた者もいないらしい。楓は着替えて皆が雑魚寝している居間に戻り、元いた場所、香也の隣りに潜り込む。
『……全然、歯が立たなかった……』
 この間の野呂良太といい、やはり六主家のトップクラスと楓とでは、どだい、格が違う……。
『……でも、これからは……そういう人たちを……』
 ……相手にしなければならない……。
 二宮荒神がどういうつもりで楓を鍛える、などと申し出てきたのか、その辺の機微は、楓には理解できないが……申し出自体は、楓にとっては充分に魅力的なのだ。楓は……縋れるものがあるなら、なんにでも縋りたい心境だった。
 楓は、寝返りを打って横で寝ている香也の横顔をみる。
 楓は、香也にすり寄り添うように体を密着させ、目を閉じ……いつものように、浅い眠りについた。

 居間で雑魚寝していた者たちも昼前にはもぞもぞと起きはじめ、交代で顔を洗ったり、先に起きていた真理が作った雑煮を食べたりする。
 朝食を食べ終わると樋口兄弟が帰ると言いだす。飯島舞花と栗田精一は、皆が寝つく前に、「向こうで寝る」と言い残して飯島舞花の自宅のある隣りのマンションに帰っていた。
「……こーちゃん……」
 居間に残ったのがこの家の住人だけになると、狩野真理は香也に告げた。
「今夜から、プレハブではなくて、こっちの自分の部屋に寝なさい」
 真理の「寝泊まり解除宣言」を聞いて、香也は明らかに安堵の表情を浮かべている。香也と他の住人……特に才賀孫子との雰囲気が良好になったのを真理が認めた上での、宣告だった。
 数日前から香也がプレハブに寝泊まりしていた件について、楓は「香也がなにかしでかし、そのペナルティとして」という漠然とした説明しか聞かされていない。香也のようなおとなしい……というより、絵以外のことに極端に関心が薄い少年が、温厚な真理にこのような強硬な手段を取らせるような何事をしでかしたのか……楓にとっては想像の領外であったが……真理が意味のないことをするわけはないし、第一、香也自身が納得して従っていたので、楓は不審に思いつつも、今まで詳しい事情を詮索しようとはしていない。
 その香也は、食後の一服を終えると、さっそく席を立つ。上着もひっかけていない所をみると、また庭のプレハブに籠もるのだろう。
 楓も、昨日、香也が炬燵にあたりながら眺めていた紙の束を手に持ち、香也の後に続く。時間が許す限り、楓が香也の後をついていくのは、すでにこの家ではありふれた光景だった。

 香也はプレハブに入って年季の入った灯油ストーブに軽油を入れ、火をつけると、いつものようにイーゼルに向かう。
 なんだかんだで、冬休みにはいってから、自分の絵をほとんど描いていない。軽い飢餓感を感じていた香也は、慣れた動作で必要な筆を揃え、絵の具のチューブを絞り、準備を終えると、一見乱雑に見える動作でキャンバスに筆を走らせはじめる。画布に塗りつけられた絵の具が、混合したり塗り重ねられたりしながら、すぐに形を整えはじめる……。
 そうした見慣れた光景を、香也の背後、邪魔にならない場所、今では楓の定位置になっている場所に座り込みながら、楓は、眺めている。
 時折、目線を落としては、持参した制作中のゲームの資料をパラパラとめくる。
 楓はこの手のゲームをやったことがなかったので、資料をみても完成品のイメージは沸いてこなかったが、分岐のフロチャートなどのロジック面をチェックしてみると、
『……意外に作り込んであるなぁ……』
 と、そう思う。
 楓はプログラムやスクリプトについても多少心得があり、こうした詳細な資料をみれば、どの程度の凝ったものなのか、根本的な設計に大きな穴はないか、また、それを完成するのにどれほどマン・パワーが必要なのか……などことは、おおよその見当がつく。
 楓は香也の側で堺雅史や羽生譲の会話を盗み聞いていた程度のだが……フリーで配布するプログラムにしては、規模が大きすぎるように思えた。
『……何人くらいで作るんだろう?』
 フリーで作る、というからには、主力となるのはやはり堺のような学生なのだろう。でも、何のために?
『……やりたいから。
 楽しいから……だろうな……』
 楓は年末、羽生譲に連れられていった冬コミの異様な熱気を思い出す。そして、黙々と手を動かし続ける香也の背中を、再度見る。
 香也の絵や羽生譲の同人誌などの活動、それに、自分たちまで引っ張り出されてた年末の商店街、それに、堺雅史が持ち込んできたゲーム……、
 それらは、今まで楓が所属していた世界の論理とは、根底的な部分からして違う論理から、派生しているように思える……。
 そして……こうした、無償の……「やりたいから、やる」という感性を、楓自身は、まるで持ち合わせていない……と、いうことを、痛感する。
 今朝、二宮荒神に、
「……どんな状況下でも、誰の指示を受けずとも、単独で判断し、行動し続けることが可能になるまで、自律的な状況判断能力を養うこと……」
 と、言われたことを思い出す。
 確かに今までの楓は、誰かに命じられた仕事をこなせばそれでいいだけの存在だった。
 しかし、これからは……。
『……わたし……どうすれば、いいんだろう……』
 年末、野呂によってもたらされた情報によって、荒野は、今後、場合によれば一族の者との抗争も躊躇しない、という決意を、態度で示していた。荒野にとっては、一族の中で孤立する事よりも、茅の身の安全を確保することのほうが、優先順位が高いらしい。
 それはそれでいいのだが……楓自身は、一族の施設で育てられ、派遣された存在だ……。
 これから、荒野と他の一族が決定的に決裂する時が来るたとするなら……自分は、どのように振る舞うべきなのだろうか?
 楓には、荒野が茅を選ぶように、あるいは、香也が絵に没頭するように……他の全てをなげうってでも選択したいモノが、あるのだろうか……。

『……こんな半端な状態で……』
 楓は、荒神とのやりとりを頭の中で反芻する。
 たしかに、荒神に教えを受ければ、楓は見違えるように強くなる筈だ。
 六主家の中でも「個体の強さ」を重視する二宮は、体術では他の一族の者を圧倒する。また、その体術を効果的、効率的に伝授する方法も、蓄積している。
 荒神はその二宮の現在の長であり、荒神自身、まだ三十代の若さで数々の逸話を残し、半ば伝説化しているような、傑出した術者でもある。
 でも……。
『……闇雲に、強さばかり求めても……』
「……わたし……なにも、誰の役にも、立たない……」
 考えていることが、声に出ていた。
 楓のその声は決して大きくなかったが、深刻な響きを持って、プレハブ内に、響く。
 香也が手を止めて、振り返って背後の楓と目を合わせる。
「……んー……役に立たないなんて……そんなこと、ない……」
 香也は、思い起こす。
 年末の商店街、クリスマスの孤児院、そして、この家や、自分自身に、楓という存在が与えた影響……。
 そんな例を、ぽつりぽつりと一つ一つ数え上げ、
「……みんな、楓ちゃんに感謝してる……」
 と、いった。

[つづき]
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