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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(370)

第六章 「血と技」(370)

 テン、ガク、ノリの三人がジャムを作っている間に、茅が紅茶をいれる。茅の紅茶は、幸いなことに、ホン・ファやユイ・リィにも好評だった。
 ちょうど朝食の支度が出来上がった頃に、「鎮魂戦隊ミコレンジャー」がはじまった。
 三人娘と茅、朝食のそっちのけでテレビを食い入るように鑑賞しはじめる。三人娘と茅がテレビにあわせて主題歌を合唱しはじめると、ユイ・リィは一度ぎょっとした表情を浮かべた。が、ホン・ファの方をちらりと伺い、ホン・ファが見事に無反応であることを確認すると、四人と一緒に「ミコレンジャーのテーマ」を合唱しだす。
「……いつもこんな調子なのですか?」
 淡々とした口調で、ホン・ファが荒野に尋ねた。
「集まると、だいたいはこんなもんだな」
 荒野も、淡々と答える。
 ホン・ファは、自分に直接利害を与えるものでない限り、他人の言動に対して、あまり関心を持たないように努めているらしい。
 それはそれで、賢明な見識ではあるな……と、荒野は思う。その分、面白みはないが、荒野の周囲にはすでに面白みにあふれた人物でいっぱいなので、たまにはこういう淡々としたキャラがいてくれると、精神的にも楽な気がする……。
 荒野とホン・ファだけが黙々と手を動かして料理やパンを片付けていく。他の五人は、「ミコレンジャー」が終わるまでは、終始歓声をあげたりして、かなり落ち着きがなかった。
 この後に差し迫った予定があるわけでもなし、荒野はそれを咎めたりすることはなく、ゆっくりと朝食をいただく。
「……そういや、きみたち。
 この後の予定は?」
 荒野は、何の気無しに、ホン・ファに尋ねる。
 他の面子はテレビに夢中なので、いきおい、話し相手は限られて来る。また、ホン・ファをあえて無視する理由も、荒野にはない。
「十時に、シルヴィさんと買い物にでる予定です」
 あくまで生真面目な口調を崩さずに、ホン・ファが答えた。
「……まだだいぶ、時間があるな……」
「ご迷惑ですか?」
 荒野がいうと、ホン・ファからすぐに言葉が返って来る。
「いや、別に……」
 荒野は、小さく首を振った。
「……君たちは、全然、面倒のない方だよ。
 もっとはた迷惑なのに慣れているから、拍子抜けするくらいだ。
 茅の紅茶くらいしかもてなしもできないけど、それでもよかったら、ゆっくりしていってくれ……」
 そんな会話をしている横で、相変わらずテレビに夢中なテン、ガク、ノリの三人は、片手で、手探りでも食べる事ができる菓子パンを手繰り寄せては封を開け、かぶりついていた。
 茅やユイ・リィも、それに倣っている。
「……ここは……」
 そんな様子を見ながら、ホン・ファは、かすかに笑った。
「……賑やかで、平和なんですね……」
「まあね」
 荒野は短く答えて、紅茶を飲み干す。

「ミコレンジャー」が終わってから、三人娘と茅、ユイ・リィも、まともに食卓に向かうようになった。それまでにも、番組をみながらしきりに飲食しているのだが、それでもまだ腹に入るらしい。
 茅が冷めかけた紅茶をいれ直し、トースターをセットし、ようやく手製のジャムとかホン・ファの料理の味とかの話題になる。
 おおむね好評だったが、荒野だけが、ジャムが甘すぎると不平を口にした。
「……甘いもの自体は嫌いではないけど……こんだけ甘いと、素材の味がわからないし……第一、こんなにいっぱい作って、誰が食べるんだ?」
 と、荒野は鍋に一杯にできあがったリンゴジャムとイチゴジャムを指さす。
 これだけ甘いものがこれだけ一杯にあると、見ているだけで胸焼けがしてきそうだった。
 ……こいつらは、甘い物に耐性がありそうだから、気にならないのかも知れないが……。
「……半分は瓶につめてこっちに置かせて貰って、もう半分は持って帰る……」
 三人を代表して、テンが答える。
 涼しい顔をして、
「うちは人数も多いし、多少多くても、すぐになくなるよ……」
 と、いった。
 荒野はそんなテンから目をそらして、
「……そうだといいけどな……」
 とだけ、答えておいた。
 その出来たてのジャムは、「ミコレンジャー」の放映中にちょうどいい具合に冷めている。
 焼き上がった順にトーストを配るっていくと、三人娘は自分たちで作ったジャムを分厚く塗りたくって、じつにおいしそうな顔をしてパクつくのだった。
 ユイ・リィやホン・ファも、焼き上がったトーストを受け取った際に、二種類のジャムを試してみた。
「……ハオ!」
 一口食べるなり、目を見開いて「好」と叫んだのがユイ・リィ。
「……日本のパンは、おいしいですね……」
 控えめな口調でジャムそのものに関する論評を控えたのがホン・ファだった。
 茅は、普段食べ慣れていないからか、もっぱらコンビニで買ってきた菓子パンをぱくついている。ジャムの方は、あとでいくらでも食べる機会があるから……なのかも、知れなかったが……。
 荒野はお義理程度に二種類のジャムを試した後、それ以上何もコメントせずに食事を終えた。

 ユイ・リィは、昨日と今日とですっかり三人組や茅と打ち解けていた。ホン・ファも、ユイ・リィほど分かりやすい反応ではないにしろ、決して不快感を持っているようではなさそうだ……と観察し、荒野は少しだけ安心をする。
 別に誰かに責任者と名指しされた訳でもないのだが、一族の関係者間で何か問題が起これば、たちどころに泥を被るポジションに、荒野は立っている。
 人間関係が良好であるに越したことはないのであった。
 使い終わった食器を片付けた後、荒野はノートや教科書などの勉強道具を別室から持って来る。
 テン、ガク、ノリの三人は、もうす少し休んでから徳川の工場に行く、といっていた。
 シルヴィと一緒に買い物に行くといっていたホン・ファとユイ・リィも、いったん隣の狩野家に帰るのには、まだ少し時間があった。
「……それ、学校の、ですか?」
 ティーカップを掌で包み込むように持ちながら、ホン・ファは、荒野の教材に興味を示した。
「そう。
 学校の……」
 荒野は軽い口調で答える。
「……おれも、茅たちみたいな便利な頭を持っている訳ではないからね。
 知らない知識を憶えるのには、それなりにリソースを消費して頭に叩きこむしかない」
 ホン・ファが教科書を見せてくれ、といいだしたので、それでは、と茅がノートパソコンを持ち出して、学校の生徒たちと作った教材サイトを画面に表示させてホン・ファに見せる。
「……教科書に書いてある程度の情報は、ここにほぼ網羅しているの……」
 茅がそのサイトの説明を諄々としていくと、次第にホン・ファの顔が強ばっていく。
「……これ……全部、一カ月そこそこで……」
「いろいろな人が協力してくれたの」
「あなたは……あなた方は、教師ではなく生徒……なんですよね……」
「これを作ったのは、生徒。
 基本的なデータ構造を定義しておけば、後はデータを取り込んで配置するだけだから、誰でもできるの」
「……それでも……」
 茅の説明を聞きながら、ホン・ファは何事かを真剣に考え込みこみめる。
「……師父が、ここを見て来い、といった意味が、分かってきました……。
 いくら、佐久間の資質があるとはいえ……極めて短期間のうちに、これだけの共同仕事が行えるほど、多数の一般人との間に、信頼関係を結ぶなんて……」
 ホン・ファはあくまで生真面目な表情で、そう考えているようだった。
 茅と荒野が三学期のはじめに転入してから、まだ三カ月と経っていない。
 ……確かに、作業量的なことを考えたら……それに、冬休みの間に多少の知り合いはできていたとはいえ、それ以外は、まったくのゼロからはじめたことを考えると……。
 自分たちの存在自体は、もうかなり甚大な影響を、あの学校に与えているのではないか……と、荒野も、思った。
 今まで、漠然とそんなことを思ったことはあっても、ホン・ファに指摘されるまで、改めて認識したことはなかったわけだが。


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[つづき]
目次


Comments

久々に見にきたら復活してるじゃないか!!
感無量とはこのことか

  • 2008/03/01(Sat) 17:39 
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