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第六章 「血と技」(412)
それでは、ということで、食事を終えて香也がやってくるまでには、源吉と沙織は、ノートパソコン一台を占有し、かぶりつきでこれまでに撮り溜めてあった対戦映像を鑑賞することになってしまった。
この手の映像データに関しては、徳川が率先して機材を揃えアーカイブとして保存してきただけあって、今ではそれなりの量になってしまっていて、茅がしかるべきサーバに接続してログインしさえすれば、そのすべてが鑑賞可能になっていた。
「……んー……」
まったく事情がわからない香也が、沙織と源吉の異様な情景を目の当たりにして、当然のように尋ねてくる。
「……どうか、したの?」
「気にしないでいいの」
沙織たちのかわりに、茅が答えた。
「向こうは今、忙しいから……今日は、茅が二人に教えるの」
「……んー……。
そう……」
強く疑問に思ったわけではないのか、それとももともとあまり関心がなかったのか、香也はゆっくりとした口調でそう答えて頷いた。
荒野も、それに倣う。
荒野にしてみれば、沙織に教わる、ということが大事なのではなく、あくまで、実際の試験対策を進行させる方が重要だったわけだし……そうした事情は、香也とてあまり変わらないだろう。
いや、香也の場合は、荒野よりもよっぽどそうした細事にこだわらないし、関心もたないのかも知れないが。
いずれにせよ、茅はまったく別の作業をしていた割には、香也並びに荒野の学習進捗情報を正確に把握していた。
『……まあ、茅なら……』
他の作業をしながら片手間に聴きかじった程度であっても、かなり正確な内容を即座に思い返せるわけで、その程度のことが出来ても不思議ではないのか……と、荒野は納得する。
ともあれ、そうして昨日までのように荒野と香也の学習は黙々と続き、沙織と源吉はネットを経由したビデオ映像を延々と鑑賞し続けた。
「……はぁ……」
しばらくたって、みんなで一息つくことにしたとき、沙織は太いため息をついた。
「おじいさんの話し……本当だったんだ……」
沙織は、幼少時、祖父の源吉から本当とも嘘ともつかない一族の物語を聴かされていた。また、最近になってからも、茅や荒野を介して実在する一族について説明され、そのうちの何人かに紹介されてもいる。
しかし、彼らが実際に、一族らしい活躍をしているとkろを、実地に見ていたわけではなく……今日、いろいろな映像を見て、はじめて知識に実感が追いついてきた……と、いったところだろう。
「……そういえば、荒野君は、あまり写っていなかったようだけど?」
「……いや、おれ……一応、本家筋だからさ……」
沙織にそう水を向けられて、荒野は苦笑いを浮かべる。
「……軽々しく出ていくと、他の人たちの活躍の場を奪うのか、って文句をいわれる。
本当におれがでないと場が収まらないときは、でていくけど……」
「……へぇ……」
沙織は、素直に頷く。
「……荒野君、偉かったんだ……」
「おれ自身が、というよりは、おれの家がね」
荒野は、とりあえずそう答えておく。
「最近は、なぜだか人数ばかり増えてきて、ますます出番が減りそうな感じだし……。
それに今は、一族間の摩擦の調停や調整が、一番のおれの仕事みたいになってきてるし……」
「いろいろ、複雑なのね」
「いろいろ、複雑なんです」
沙織と荒野は、そういって頷きあった。
「その複雑なところにもってきて、正体不明の……」
「荒野」
荒野が続けて「悪餓鬼ども」について説明しようとするのを、茅が鋭い語気で制する。
「先輩は、一般人なの」
一般人だから……下手に深層のことを説明して、深入りさせるな……と、茅に釘を刺された形だった。
「はいはい」
茅の意図を察した荒野は、故意にのんびりした声を出して説明を中断した。
「なに、いいかけて。気になるじゃない……」
沙織は、当然のように不満顔だった。
「……ま。
世の中、知らない方がいいこともあるってこってす」
荒野は、軽い口調でそういって、口を閉じた。
「……やっぱ、マンドゴドラのケーキ、うまいなぁ」
「そう、説明してくれないつもり……」
沙織の目が、すぅっと細くなる。
「……茅ちゃん!」
「駄目」
沙織は、今度は茅に向きなおる。
「一般人を巻き込みたくはないの。
下手に首を突っ込むのは危険だし、こちらもフォローしきれないの」
が、茅は当然、相手にしなかった。
「こっちの狩野君!」
今度は、沙織は香也の方に話しかけた。
「……何か、知らない?」
「……んー……」
香也は、ケーキには手をつけず、ずずずずと音をたてて紅茶を啜っていた。
「一応、前に、いろいろ聞いているけど……複雑すぎて、うまく説明できない……」
香也が、荒野たちのいう「悪餓鬼ども」の周辺事情を理解していない……というわけではなく、それを沙織に要領よく説明できない……という、意味だった。
茅やガク、テン、ノリたち、それに、現象までを含めた新種の出自……など、完全にプライバシーに属することだから、軽々しく教えるわけにはいかない。
沙織がどこまで詳しく一族や荒野たちのことを知らされているかわからなかったし、どこまで立ち入った説明をしていいものか、香也には、まるで判断できなかったし、 それらをひっくるめた上での、荒野たちが現在行おうとしていることの意味……などいついても、どこからどこまでを説明したらいいのか、香也には、まったくわからなかった。
「……そう」
香也の表情をみて、どうやら聞くだけ無駄らしい……と判断した沙織は、がっくりとうなだれる。
「……先輩……」
荒野が、ぽつりと呟いた。
「以外に……詮索好きだったんですね……」
荒野にしてみれば……ここ数日、沙織の意外な側面を知ることが出来て、なかなか貴重な体験をしている、といえた。
案外……こういう、好奇心の強いところが共通しているから、玉木や徳川とうまくつき合えて来たのかも知れない。
「……この子は、小さい頃から疑問に思ったことは、そのままにしておけないたちでしてな……」
それまで黙っていた源吉が、そういって目を細める。
すっかり、身内の成長を見守る年長者の顔になっていた。
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つづき]
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