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彼女はくノ一! 第三話 (55)

第三話 激闘! 年末年始!!(55)

「あ。どうも御無沙汰しております。おめでとうございます」
 翌二日、昼間、狩野真理は電話を取り、ひさしく聴くことのなかった加納涼治の声を聴くことになる。
「え? あ。また、新しい人を……。ええ。ええ。それで、その方はしっかりした人なんですね? ええ。先生。学校の……。はい。ええ。まあ、たしかに、まだ部屋は余っていますけど……」
 受話器を置いた狩野真理に、珍しく居間で炬燵に入ってぐでーっとしていた羽生譲が声をかけた。
「どした、真理さん?」
「加納さんのおじいさまが……番犬、紹介してくださるって」
 涼治の紹介なら、無論、相応の謝礼付き、なわけだが、それ以上に、年頃の香也のいる家に同じような年頃の少女二人を預かる事の難しさを痛感していた真理にとっては、「堅い職業に就く大人の男性」の下宿人が増えること、のほうが、より、重要だった。

 加納涼治老人のいう「番犬代わり」は、その日の夕方、トランクひとつと涼治の手による紹介状を持って、ぶらりと狩野家を訪れた。
「二宮浩司と申します」
 二十代半ばに見える、その割には、どっしりとして落ち着いた雰囲気の黒縁眼鏡の青年は、炬燵の天板の上に涼治の紹介状を差し出した。香也の通う学校に急に欠員が出たため、非常勤の浩司に声がかかり、学校まで楽に通える住所を探していた、という。
 二宮浩司の荷物はトランクひとつに詰めた当座の着替えのみだったので、引っ越しといってもそのわずかな荷物をトランクから出して整理するだけで終わった。
 突如出現した二宮浩司なる人物に対する他の住人の反応は様々だった。
 香也は、「……んー……」といったきりで、あまり興味を示さなかった。
 羽生譲は「歓迎会やりたいけど、また今度」とバイト先のファミレスへ向かった。この時期、羽生譲はほとんど職場にいて、たまに家に寝に帰ってくるような状態である。
 才賀孫子は二宮浩司の顔を見て露骨に眉をひそめ、松島楓は沈黙を守った。
「……住み込みの師匠……なんて、便利なぼくという存在……」
 二宮浩司こと二宮荒神は、楓だけに聞こえるような小声で、楓にそう囁いた。

 表面上、二宮荒神の擬態である二宮浩司は、狩野家の中で「真面目な青年」というキャラを演じ切っていた。二宮浩司が狩野家に到着してから二日目、三日の昼間に真理と羽生譲の思いつきで餅つきをやることになったのだが、その時なども協力的で、車庫の奥にあった臼を軽々と片手で持ち上げて、もう一方の手に杵をぶら下げて、庭に運んでくれた。
 真理は、香也には期待できない男手の有り難さをしみじみと感じた。

 そもそも、真理が羽生譲のバイトの合間を狙ってこのようなイベントを起こしたのは、最近、急にこの家を訪れる子供たちが増えたから、ということもある。真理は基本的に放任主義で、香也のやりたいようにやらせてきてはいるが、だからといって、なかなか同年配の友人を作ろうとしない香也のことを、全く心配していない、というわけでもなかった。
 昨年の年末頃から、楓や才賀孫子、それに加納兄弟が現れてから、狩野家には、香也と同年配の来客が急増した。ともすれば自分の世界に閉じこもりがちな香也にとっては、いい変化だと真理は思っている。また、一時期施設の教員だった真理自身にしても、大人数の人間が集まる賑やかな雰囲気は、好ましく思えた。
 その香也は、柏姉妹の妹経由で、なにか頼まれ事をされたらしい。堺雅史という少年と、なにやらしきりに話し込んでいる。堺雅史には柏あんなが、香也には松島楓が付き従っており、時折、香也と堺の会話に口を挟んでいる。
 そもそも香也には、今まで頼まれ事をされるほど親しい友人もいた様子がない。孤高を守るのもひとつの生き方……と思い、これまで真理は干渉することがなかったが……今まであまり他人と近づこうとしなかった香也が、同年配の少年たちとなにやら熱心に話し込んでいる様子は真理にしても物珍しく、そうした変化を目の当たりにすると、自然に顔がほころんでしまう。
 新しい下宿人は狩野兄弟の遠縁だとかで、荒野に後ろから抱きついては、柏姉に騒がれたり荒野に嫌がられたりしている。ようやく二宮浩司を引き離した荒野は、なにやら険しい顔つきの才賀孫子に、庭の隅に連れられていった。その後を、茅と三島百合香がちょこちょことついていく。

 二宮浩司はあっという間に蒸した餅米をつきあげた。力がある、というだけではなく、動作に滞りがない。ひょっとすると、餅つきという仕事になれているのかも知れない。その後は、物珍しさも手伝って、子供たちが順番に杵を奪いあうような具合になった。
 ただし、ほぼ全員が餅つき未経験ということもあって、率先してやりたがる割には、杵の重さに振り回されて腰が入らない者がほとんどだった。インドア派の荒野や堺雅史は論外。樋口大樹はかけ声だけは元気がいい。栗田精一、飯島舞花、柏あんな、柏千鶴は普段から運動しているせいか、最初こそまごついたが、一旦コツを掴むと見違えるようにスムーズに動くようになった。松島楓、才賀孫子は、最初から手慣れた様子を見せ、最後に参入した狩野荒野と茅は、初体験だったがすぐに作業に慣れ、結局二人で組んで短時間のうちに臼に残っていた餅米をつきあげた。
 全般的にみて、男子よりも女子の方が頼りになったあたり、情けないといえば情けない。雑煮などに料理したつきたての餅を談笑しながらいただき、残った分を世帯事に分けて持ち帰って貰う。

 餅つきが終わると、松島楓の携帯電話のメモリーには、数人分の番号とメールアドレスが増えていた。
 その夜、香也は真理におずおずと「携帯電話が欲しい」といいだし、真理はあっさりとそれを承諾した。
「使いすぎないでね」
 と、釘を刺すのも忘れなかったが。
 普通に学校の友達とメールや電話のやりとりをするくらいなら、人付き合いの苦手な香也が携帯電話を所持することは、いいことだ……と、真理は判断する。
 松島楓は、早速今日登録したばかりのアドレスに、「香也が明日、携帯電話を買いに行く」という情報を流す。楓の携帯のアドレス帳に記載されているのは、ほとんど、香也と共通の知り合いのものだった。
 それから楓は、一族のバックアップ施設の窓口に「投擲武器の補充」をメールで申請した。これからの事を考え、かなり多めに申請したのだが、その窓口からは即座に「受理」の旨、返信が来た。明日には、宅配便で届くという。

 楓には、この先どういう事態が待ち受けているのかは予測できなかったが……自分は、やはり、この狩野家のために働こう……と、そう決心していた。

[つづく]
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