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彼女はくノ一! 第三話 (53)

第三話 激闘! 年末年始!!(53)

「……って、ことで……」
 長老こと加納涼治との通話を終え、携帯を袂に入れながら、荒神は楓に告げる。
「……長老からは、君を鍛え直すって言質を取ったから……。
 もちろん、君の方にも異存はないよね?
 このぼくが直々に指南するなんて、荒野君の時以来なんだから……。
 それに……」
 ……今の君では、守りたいものも守りきれないよ……。
 と、荒神が、囁く。
 最後の言葉を聞くと、並んで座っていた楓の肩が、ぴくり、と震えた。
「……おやぁ? 納得いかないかい?
 ま。いいや……。
 じゃあ早速、レッスン・ワン。
 試しに、ぼくに向かって手加減抜きで、本気で来てみな。こっちかは攻撃しないから……」
 荒神が言い終わるか終わらないかのうちに、楓は土手に座った姿勢から飛び退りながら、くないを数本、同時に荒神に向かって投擲する。
 外すことも避けることもできない至近距離からの攻撃……の、筈だった。
 が、楓がくないを投げる動作を終えないうちに、飛び退る楓に迫るようにして、荒神も跳躍している。
 楓は荒神を振り切ろうと何度か背後に跳躍したが、荒神は楓と至近距離で向き合ったまま、楓の移動に合わせてぴたりと追尾し続ける。
「ほらほら。雑種ちゃん。
 これ、君の」
 荒神はひらひらと、楓の目前に、楓が投擲した筈のくないをひけらかす。
 荒神が楓のくないを手にしている、ということは……荒神は、楓を追尾するように移動しながら、楓が投げたくないを全て素手で受け止めた……と、いうことを、意味した。
「それから、ぼくからの反撃は考慮しなくていいから。
 そんな後ろ向きに、ではなく、もっと自由に動いてごらん。
 もっとこう、本気でぼくを取るつもりでさぁ……」
 ……今までだって、君、ぼくがその気なら、何度も死んでるよ……。
 荒神はそういうと、なんの遮蔽物もない河原のグランドの真ん中に、どかりと胡座をかいて座り込んだ。
「……こっちは、これから鍛える君が、現在どの程度の代物なのか正確に見極めたいわけでさ。
 だから、手加減抜きできていいよ……」
 荒神は懐に手を収めて、ふぁぁ、と大きくあくびをした。
 楓は完全に気配を消し、夜明け前の闇の中に姿を消した。
 座り込んだ荒神の周囲から、小石、くない、六角などが降り注ぎはじめる。それらが投げつけられる方向に一定の法則はなく、とても楓一人の仕業とは思えないほど、短時間、かつ、大量に投げつけられたものだが……。
 時には同時に幾つも物体が弾幕と化し「面」となって荒神に迫ったが、荒神はその場に胡座をかきながら、指先だけを最小限に動かして、それらを、ことごとく弾く。
 野呂良太が以前、グローブの糸とアンカーでやったことを、荒神は、指一本であくび混じりに行った。
 この、光源が乏しい環境下にあっても、荒神は楓の全力攻撃を、指一本であしらった……。
 楓は座り込む荒神の背後にそっと片膝をつき、八方手裏剣を取り出して、手持ちのそれを一気に使った。扁平な八方手裏剣は、狙いはぶれやすいが扱いがたやすく、一気に多数を放つのには向いている。
「……飛び道具は、無駄だよ」
 楓が八方手裏剣を放ち尽くすと、いつの間にか、少し離れた場所に座っていた筈の荒神が、楓の背後に立っていた。
 飛び退り、荒神と距離を取ろうとする楓の動きを、荒神はたやすく指一本で封じる。
 荒神が楓の額を人差し指で弾くと、それだけで、楓の体は軽々と吹っ飛んだ。いわゆる「デコピン」だが、一見無造作に放たれた荒神のそれには、途方もないエネルギーが込められていたらしい。
 ふっとんだ楓は、地面に体を投げ出したまま、しばらく身動きが出来なかった……。
「はい。そんなところに、寝ない」
 荒神は横たわって身動きもままならない楓のベルトを掴み、楓の体を高々と放り投げる。
 楓の体は、地上三メートル程度まで、軽々と持ち上がった。
 易々と空中に放り投げられた楓は、抵抗のしようがない。自由落下中の人体が出来る事は、極めて限られている。せいぜい、体を捻って軌道をわずかに反らすことくらいだ。実践の場では、「良い的」になる。
「基本はそれなりに出来ているようだけどね……」
 無防備な状態で落下する楓を止めたのも、楓を放り投げた荒神だった。
「君、基本に忠実すぎ。並の相手ならそれでもそこそこ対処できるけど、ぼくみたいに六主家のトップクラス相手だと、その程度では、通用しない……」
 荒神は頭上に片手を上げ、楓の背中、腰のあたりの一点を、人差し指一本で受け止めた。荒神の指一本で持ち上げられている恰好の楓は、そのまま身動きを封じられる。安易に動けば、そのまま落下する。もちろん、荒神がいなければ、軽く身を翻して着地することは可能なのだが……。
 今は、これだけ近距離に、荒神いる。
 ……荒神は、これまで何度、楓を殺せただろう……。
『……完敗だ……』
「安全と思われる距離から、弾幕を張る。
 ある意味基本的な戦法だが……ぼくらのように離れした人間は、その程度の攻撃なら、いくらでも対応策を持っている……」
 楓を地面の上に立たせ、荒神はうっそりと言い放った。
「……はっきりいって、君のは下忍の闘い方だ。優秀な指揮官と僚友がいて、その中の一人として働く分には、今ので充分だろう……」

 しかし、これから、現在、楓が置かれた状況を考慮すると……。
 それは、時には単独で、誰の支援も受けずに、自分以上の実力の持ち主と相対することも充分に考えられる。
「だから、君は、これから二つのことを早急に学ばねばならない……」
 荒神は、楓に、告げる。
「ひとつは、今まで培ってきた技を捨て、自分だけにしか使えない技をものにすること。
 もうひとつは、どんな状況下でも、誰の指示を受けずとも、単独で判断し、行動し続けることが可能になるまで、自律的な状況判断能力を養うこと……」
 後者は、楓が育った養成所では、故意に教えられなかった事柄だった。一族の養成所は、基本的に、六主家の人間の手足になって動く人材を輩出するための場所で……その手足が余計な判断をし始めると、時として都合が悪い……。
 荒神は、誰かの手足になるように、と育てられた楓を、自分自身の思考と判断で動く、自律的な存在へと作り替えようとしていた……。

「……ということで、今回は、ここまで……」
 ともあれ、この元旦の朝から、荒神は楓の師となった。
「……君は、このまま帰って、普段通りの生活に戻りなさい……」

[つづき]
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