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髪長姫は最後に笑う。第四章(30)

第四章 「叔父と義姉」(30)

 三島の車は軽だったので、トランクに荷物を詰めて四人が乗り込むとかなり窮屈に感じた。
「……あんだけ買ってまだ買うんですか? 先生、独身でしょ?」
「……お前な、プライバシーにまで軽々しく踏み込んでくるなよ……。
 わたしにだって手料理の一つや二つ、作る相手くらいいるって……。
 聞きたいか? 聞きたいか? ん? 聞きたいんなら、思いっきりのろけてやるぞ……」
「……別に、聞きたくはないです……」
『……相手の人を気の毒に思うだけで……』
 という台詞は、流石に口にしなかった。三島百合香は運転中であり、荒野は、今、助手席に座っている。事故った時、一番死亡率が高いのは、助手席だった。
『……相手の人、思いっきり振り回されているんだろうなぁ……』
「……っち! 面白みのないヤツだ……」
 愛想のない荒野の相槌に舌打ちをしながらも、三島の運転は法定速度を遵守した、極めて穏当なものだった。

 ショッピング・センターは、商店街の閑散とした様子とは対照的に賑わっていて、駐車場に入るまでに五分ほど待たされた。商店街が駅と日用品を扱う店舗くらいしかないのに比べ、ここにはシネコンやCDショップ、ブランド物を扱うショップなどがテナントとして多数入っている。買い物以外に暇を潰しにくる者も多い。家族連れの他に、カップルや単独など、比較的若い人間が多いのも、商店街との違いだった。
「……総員、整列!」
 順番を待ってようやく車を駐車場に入れると、三島百合香は他の三人に号令をかけはじめる。
「これより作戦行動に入る。今回は量が多いからな。二手に分かれるぞ!」
 三島は当然のように四人を「荒野と茅」、「三島と荒神」の二組に分け、茅に買い物メモを渡す。
「一時間後に車に集合!
 では、総員吶喊!」
 強引、という以上に、皆に有無を言わせない勢いだった。
 荒野と茅はもとより、荒神までがニヤニヤ笑いを浮かべながら素直に三島の後について人混みの中に姿を消した。
『……この状況を面白がっているな、あれは……』
 荒野は、三島に諾々と従っている荒神の思惑をそう読んだ。

 三島が茅に渡したメモの内容は、三十分もかからずにすぐに買いそろえることが出来た。時間が余ったので、とりあえず目についたコーヒーショップに入る。荒野はエスプレッソ、茅はホットココアを注文した。
「……この程度なら、二手に分かれる必要もなかったの……」
 と、茅はメモに記された買い物の量に対して、首を捻っている。
 荒野はそれについて、自分の予測を茅に披露した。
 三島は、突如現れた荒神という人物と、二人きりで話す機会を得たいと、思っていたのではなかろうか?
 と……。
「……ま、荒神さんが居座る腹なら、先生のほうも、荒神さんの性格を見極めておいた方がいいし……」
 三島にしてみても、荒神の乱入は、想定外だった筈だった……。加えて、三島は涼治のあやしげな誘いを受諾したことからもわかるように、好奇心が強い……。
「……あの人、そんなに凄い人なの?」
 荒神の「軽い」部分しか見ていない茅は、荒野にそう疑問をぶつける。
「うん。凄い。おれあたりが束になっても、足下にも及ばない……」
 荒野は、茅の疑問に、あっさりと頷く。
「……ま、強さもそうだけど……それ以上に性格が……」
 凄い。
 この時点で荒野は、荒神のことばかりを念頭に置いていたため、もう一人の、もっと身近な「凄い(性格の)人」と荒神とが意気投合する可能性を、予想だにしていなかった。

 荒野と茅がコーヒーショップに入って二十分ほどしてから、三島から電話がかかってきた。
『……とんでもないことになっちまったぞ! 早くこいっての!』
 やかましく音割れしたBGMに混じって、三島の声が荒野の携帯から聞こえてくる。茅と二人で三島の誘導に従って、ショッピング・センターを出ていくと、昼間なのにネオンがきらめく騒がしい店(?)の前にでた。中から、携帯電話から聞こえるのと同じBGMが流れていることからも、三島がこの中にいることは確かなようだ。
「……なんすか? ここ……」
 どうコメントしたものか迷いながら、荒野が電話に向かって問いかけると、
『……なんだ? 知らないのか? パチンコ、あんど、スロット! いわゆるひとつのジャパニーズ・イージー・カジノだ!』
 三島は興奮した様子で荒野に答えた。
『新年の運試しと荒神氏との勝負を兼ねて試しに入ってみたんだが、これがもう大当たりのうはうはでな! 笑いも出玉も止まらんのよ、これが!』
 ……どうにか状況を把握して目を点にした荒野が、手にしていた荷物を「すぐに戻るから」茅に一時預け、ずかずかと店内に入っていく。博打や賭博に関係した場所に茅を連れて行くつもりはなかった。
 狭い店内は、たしかにスロットマシーンや荒野にはよくルールが分からないゲーム機がみっしりと列をなしておりマシン一台一台の前に丸イスが据え付けてある。その列と列の間の、狭いの空間の両側に丸イスとそこに座る人々がいて、その間の通路は荒野が驚くほど狭かった。
「荒野、こっちだこっちだ!」
 荒野の姿を認めた三島百合香が、丸イスの上からちょこちょこと手を振る。
 三島の隣には荒神も並んで座っており、二人の足下には買い物のポリ袋とコインが入った箱が幾つも置かれていた。
「見ての通り、なんだか知らんが二人ともちょーらっきーって感じでな。
 そういうわけで、しばらくここから動けないから、荷物車に放り込んで、二人で適当に帰っておいてくれ!」
 と、三島は車のキーを荒野に差し出す。三島たちが買った荷物も、車の中に放り込んでおけ……と、いうことらしい。
 ……一気に馬鹿馬鹿しくなった荒野は、おとなしくキーを受け取って、幾つもあるポリ袋をまとめて手に持つと、大股でその騒がしい店内を後にした。
「茅! 帰るぞ!」
 店の入り口の所で茅に声をかけると、茅は見知らぬ二十くらい二人組の男に話しかけられている所であり……。
「……あー。あなた方……うちの妹になにか御用ですか?」
 荒野が、その二人組を睨めつけるながら、語気荒く声をかけると、二人組は明らかに動揺した様子で逃げ出していった。
「さ、茅。荷物を先生の車に放り込んで、帰ろう。
 先生たちは、大人の遊びに夢中だそうだ……」
 三島が荒神の名前に「氏」という敬称をつけていたこと、三島と荒神が自分たちよりも目先のくだらないギャンブルを優先したこと、通りすがりの男たちが茅にいいよっていたこと……。
 なにもかもが、荒野の気に障った。

[つづき]
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