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彼女はくノ一! 第三話 (52)

第三話 激闘! 年末年始!!(52)

 時間を少し戻す。
 元旦の早朝、路上で樋口明日樹が頭を抱える数時間前。

 松島楓は、異質な感覚を皮膚に感じて目を覚ました。
 夜明け前、狩野家の居間では、昨夜からなんとなく居続けた人々が炬燵を中心にして雑魚寝をしている。毛布を体にかけている者も多い。
 そんな中、一人で目を覚ました松島楓は、しかし、自分を目覚めさせた異質な感覚がどこから来たものなのか、しばらく思案しても結論がでなかった。

 ……なにか、今までに感じたことがない感覚を感じたから、不審を覚えて目を醒ました……。

 としか、いようがない。
 そこで、楓は、そっと立ち上がって軽く周囲を見回ってまわる。全身の五感をとぎすませて、気配を探る。異常は、ない。

 基本的に、松島楓の眠りは浅い。「安心して熟睡する」という経験は、ここ数年、絶えてなかった。だから、この土地に来てからも、荒野に「この家の人々を守れ」と命じられたことを口実に、夜中に起き出して、一人夜の町を徘徊する、などということも、普通に行っていた。
 楓の技能をもってすれば、家の人々に気づかれずにそっと抜け出すことくらい、なんの労も感じずに行う事が可能であり、この日も、家の中をそっと見回ったあげく、「異常なし」という結果を得た楓は、誰にも気づかれることなく、普段着に着替えて狩野家を出る。

 まだまだ夜の暗さが残る中、外に出た楓は、すぐに得体の知れない「影」に遭遇する。
 そして、その「影」に遭遇した途端、楓は金縛りにあったかのように、動けなくなる。
「……おやぁ?
 ふうぅん……君、この状態のぼくのこと、感知できるんだ……」
 羽織袴を着た「影」が、ぺろりと朱い舌を出して、自分の口の周りを舐めた。
『……「舌なめずり」というのは、こういう行為をいうのか……』
 楓は、恐怖で動かない体の中で、そう思索する。楓の頭の中では、目の前の「影」に対して、しきりに「危険! 危険!」と訴えている。飢えた肉食獣が人の形をとったら、ちょうどその「影」のような物体になったことだろう……。
『……離れろ! ここから離れろ! 少しでも遠く、一刻でも早く、その「影」から距離をとれ!』
 楓の直感が、先ほどからしきりに楓に警告を発している。
 しかし、楓の体は、足は、動かない。
 理性と直感は、その「影」とは関わるべきではない、と、しきりに訴えているのだが、体のほうが恐怖に半ば麻痺して、ガクガクと膝が震えている。
 少し力を抜けば、その場で腰を抜かして座り込んでしまいそうになる……。

 敵意や殺気こそ放っていなかったが……それでも、ただそこに立っているだけでも……その「影」は……圧倒的な「強者の存在感」を発していた。
 脅威だ、と、楓の全身の細胞が、楓に告げている……。
「……うん。立っていられるか。面白い……。
 君、雑種だよね?
 ぼく、これでも六主家の中で一定レベル以上の手練れのことは、一通り覚えているつもりだし……」
 その「影」が「六主家」という名詞を出したことで、次第に楓は冷静な思考を取り戻していく。
「六主家」の名を知っているとするならば、この「影」は、一族の関係者……。
 つまり、どんなに桁外れに強い存在であろうとも、同じ人間だ……。
 同じ人間なら、対抗する手段があるはず……。
『……それに……』
 今、楓がこの「影」に屈したら、楓の背中の向こうにある狩野家は、この「影」に対して、無防備になる。
 この「影」の正体や目的は、楓には分からなかったが……この「影」がその気になりさえすれば、自分もろとも狩野家にいる人々を瞬時に鏖殺できる存在であることは、「肌で」理解していた……。
『……だから……』
 退くことも、屈することも、できない……。
 と、楓は判断する。
 敵、と想定するには……絶望的なまで強大な存在ではあったが……。
 楓は、意を決し、戦意を奮い立たせ、体の自由を取り戻そうとする。
『……どこまでできるのか、わからないけど……』
 楽に呼吸をして、緩やかに思考を巡らせる。だんだんと緊張が解け、体が動けるようになった……。
「……ふぅん……。後ろに、君にとって大事なもんがあるんだぁ……。
 君、隠し事や心理戦には向いてないね。ばればれ。
 それからね、今時、差し違え、なんて流行らないよぉ……」
 ぬめり、と、「影」の朱い舌が踊る。
 楓のわずかな体の動きから、「影」は、楓の心理を、ある程度読みとれるらしい……。
「……君なんか殺っちゃうの簡単なんだけど……。
 うーん……元日にそういうのも、縁起悪いか……。
 あ? あれ?
 ちょっと待てよ……こんな所に君みたいなのが、居るってことはぁ……」
「影」は、徐々に羽織り袴姿の、男の形を取りはじめる。
「……ひょっとして君、荒野君の、犬?」
 羽織り袴の男は、「荒野君」の部分を「こぉやくぅぅん」と鼻にかかった発声をした。

「……いやぁ。
 危うく同士討ちになるところだったねえ……」
 羽織り袴の男は、楓に「二宮荒神」と名乗った。
 その名を聞いた途端、楓は納得するよりも全身が総毛立つ。
『……なんで、「最強」が、こんな所に……』
 それから、いきなりにこやかになった荒神は、
「こんな近くで睨み合っていると、こぉやくぅぅんにバレるから……」
 と強引に楓の手を引き、マンションから少し離れた河原まで連れてきた。「少し離れた」とはいっても、楓や荒神の足で移動すれば、あっという間なのだが。
「二宮荒神」の名を耳にした途端、その場に平伏した楓に対して、荒神は、
「これ、飲みなよ」
 と、いつの間に用意したのか、熱々の缶コーヒーを懐から取って楓に投げ渡し、自分でも缶入りのおしるこを取り出して、プルトップを開ける。
 それから荒神は自分と荒野の関係を諄々と楓に説明し、楓のほうも、荒神に問われるままに、ここ最近の出来事を詳細に語る。
「二宮の頂点」に立つ生ける伝説に、隠し事や反抗ができる楓ではなかった……。
「……なるほどねー……。
 いや、こぅやくぅぅん、難しい年頃でさ、ぼくに変な警戒心持っているから、あれ、隠し事をしてるってわけでもないんだけど、全てを話してくれたわけでもなくってねぇ……」
 一通り、楓の説明を聞いた荒神は、うんうんとひとしきり頷いた後、
「……あー。
 でも、そういうの聞くと、こっちもすっごく楽しそうだなぁ……君とかこぅやくぅぅんとか、才賀の小娘とかが、これから一緒の学校通うんでしょ?
 ……うーん。
 長老、ぼくに黙ってた、ってことは、これはもうお楽しみを独り占めしようって魂胆だよね、絶対……」
 そういって、懐から携帯電話を出し、登録された番号にかけ始める。
「あ。長老? ぼくぼく。荒神でぇす! でね、早速なんだけど、荒野君の事ね。うん。そうそう。今日、年始回りしてきて、いろいろ聞いて来ちゃったんだ。うん。ずるいよぉ、長老。こんな弄り甲斐のある子たちことぼくに黙っているなんてぇ! でね、ぼく、ここいらの状況、非常に気に入っちゃたんで、今日からこの近くに住もうかと思いまぁす! いや。いやいやいやいや。もう決めちゃったもんね。っていうか、いうこと聞いてくんないと暴れちゃうぞ! と、いうことで、こっちでの職と巣の手配、お願い。巣はどこでもいいけど……職は、先生がいいなあ……。うん。荒野君たちの学校の。いるでしょ? 一人二人いきなり事故にあって怪我しちゃう先生とか、いきなり産休とっちゃう先生とか……。いなければいないで、ぼくが工作してもいいし……。あ。そっちでやってくれる? うんうん。そうだね。ぼくがやると血ぃみちゃうし。お願いするわ、長老。え? 巣のほうも、心当たりに紹介状書いてくれるって? わぁお! 長老。もう、大好き……。あ。あと、それとね……」
 二宮荒神はちょいちょいと楓を手招きして、楓の名前を初めて尋ねた。
「……うん。そう。その、松島楓っていう雑種ね、ちょっと興味がわいたんで、ここに居る間、ぼくが鍛えちゃったりしてもいいかなぁ、って……」

[つづき]
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