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髪長姫は最後に笑う。第四章(29)

第四章 「叔父と義姉」(29)

「……背も伸びているけど、髪も半端にのびているなあ……」
 三島百合香の助手席に座った加納荒野は、自分の前髪を指で摘んでそうぼやいた。
 この土地に来てから、全然鋏を入れていない。もう三ヶ月近くになる。
「お前、ただせさえその髪の色だからな。
 学校始まる前に切っておいたほうがいいぞ」
 国産の軽自動車を運転しながら、三島百合香がいう。
「校則とかにそんなにうるさい学校じゃないけど……教員の中にはそれなりに頑固なのもいる……」
 学校の職員に目をつけられるのは、荒野にしてみても決して本意ではないのだが……。
『……未樹さんの勤める店にも……』
 なんとなく行きずらい荒野だった。
 マンドゴドラのプロモーション・ビデオを撮った時にお世話になった美容師さんにも名刺を貰っているし、マンションからも近い。
 そんな関係で、髪を切りにいくのなら、あそこの店を利用するのが自然だとは思うのだが……。
 結局、未樹とはあの夜依頼、全く連絡を取っていない。向こうは、明日樹や大樹経由で、荒野たちの消息を聞いているのかもしれないが……。
「……そうだ、茅。
 茅も、学校に行く前に一度手入れして貰うか?」
 茅と一緒だと、それなりにいい口実になる。
「茅の髪は、しばらくこのままでいいの。枝毛、ないし」
 荒野の心情を知ってか知らずか、茅はにべもなくそう答えた。
『……明日あたり、予約を入れるしかないか……』
 荒野は一人、そっと嘆息した。

 そうこうする内に、三島の運転する車は、商店街のはずれに到着する。
 コイン・パーキングに車を入れ、
「荷物持ちが必要になったら、電話入れるから」
 といって、三島は荒野たちと別れた。冷蔵庫が空っぽなので、かなり食材を買い込む、と、三島はいっていた。
 三島と別れた荒野たちは、コイン・パーキングからいくらもないマンドゴドラに向かう。新年の昼前、という日時のせいか、年末の盛況が嘘のように、商店街の人通りは少なかった。シャッターが開いていない店も多い。
 マンドゴドラにはすぐに到着した。
 しかし、店の前まで来て、喫茶室に座る人物の正体を見定めた時、荒野は蒼白になって、そのまま回れ右をして茅の手を握り、マンドゴドラから遠ざかろうとする。
 その荒野の肩に、手をかけ、すごい力で荒野をマンドゴドラの店内に気も戻そうとする人物がいた。
「……こ、う、や、くぅぅぅぅぅん……」
 先にマンドゴドラの喫茶室で茶をしばいていた、二宮荒神だった。

「……いやあ、この辺土地勘がないからさ、適当にぶらぶらしていたらちょー吃驚このケーキ屋さんに荒野君のビデオがかかっているんだもん。で、試しに入ってみて食べてみたら、これがもうすっごくおいしくてさらにちょー吃驚こんな田舎に似合わない本格的な味でちょー感激っていうか……」
 マンドゴドラの喫茶室には、十客ほどのスツールがようやく並ぶ程度のカウンターしかない。もともと、持ち帰りがメインの店であり、喫茶室の用途は、商品の試食とちょいとした足休め程度、と割り切られている。
 だから、三人はそのカウンターに横に並んで座っている。
 一番入り口に近い場所に茅、その隣りに荒野、さらにその隣りに荒神。
 故に、荒野は荒神の、いつ果てるともないだべりをモロに聞く羽目になる。
 荒神は、三七分けに野暮ったい黒縁眼鏡、という「浩司偽装」に似合わない軽薄な口調で、どうでもいいようなことを延々としゃべり続けている。
『……そういや、こういう人だった……』
 甘い物が好き。そして、無駄なおしゃべりも好き。なにより、軽薄。軟派か硬派かといったら、明らかに軟派……。
 一族最強にして最凶、のイメージには全くそぐわないが、荒神は、身内や心を許した人物の前では、かなり「軽い」。その「軽い」ほうが、「地」なのだろう、と、荒野は思っている。
 荒神の中には、そうした軽薄さと、眉一つ動かさずに瞬時に大量の人命を奪う酷薄さが、なんの矛盾もなく同居している。
 せっかくの、久しぶりにマンドゴドラのケーキを前にしている、というのに……荒野は、ろくに味わうことができなかった。
『……拷問だ……』
 その荒野の左右では、茅と荒神が、際限なくケーキのおかわりをしている。
 荒神こと二宮浩司が荒野の遠縁だと名乗ると、マンドゴドラのマスターは、
「いやあ、この人も実にうまそうに食ってくれるからねえ」
 とかいって、途端に気前が良くなった。
 マスターは「荒神の分もタダ」で、といってくれたが、荒神のほうが、
「こんないい仕事にお金を支払わないのは、罪です」
 と固辞し、そのかわり、ショーウィンドウの中の商品を片っ端から試す勢いで注文しはじめる。
 茅も、つられているのか対抗意識を燃やしているのかよくわからないが、荒神に負けないペースで次から次へとケーキを平らげていく。
 道行く人々が、カウンターに座る三人と、三人の頭上に設置されている液晶画面に映っているプロモーション・ビデオを見比べて、立ち止まったり指さしたりしている。荒野を除く左右の二人は、これがもう、実にうまそうな顔をしてケーキを食べているので、徐々にマンドゴドラに買いに来る人々が増えてくる……。

 その中で、荒野一人、生きた心地がしなかった。

 三島から「荷物持ち、カモン!」という連絡を貰ったので、これを幸いと店を後にしようとすると、マスターに呼び止められる。
「茅ちゃん茅ちゃん。
 そろそろイチゴ物の季節なんだけどさ。新作の味、一足先に試してみるかい?」
 もちろん、茅はマスターの誘いを断らなかった。

「……で、なんで荒神さんまでついてくるんですか……」
 荒野と茅が店を出ると、精算を済ませた荒神が、さも当然という顔をして二人の後ろについてくる。
「いや。ちょうどいい機会だから、ここいら案内して貰おうかなぁ……なんて……」
「……これから、人と会う予定なんすけど……待ち合わせってぇか……」
 荒野がそう説明しかけた時、
「おい。荒野! こっちだ!」
 小さな体に大量のポリ袋を抱えた三島百合香が、先に荒野たちの姿を認めて声をかけてきた。
「……なに? この卑小な物体……」
 荒神と三島は、昨日の餅つきで顔を合わせているはずだが、きちんと名乗り合ったわけではない。
「お。図体のでかいおまけもついているな。ちょうどいい。なんでもいいから早く荷物、持てって……」
 三島は荒神の存在に気づいても特に意に介した様子もない。
 どうやら、「荷物持ちが一人増えた」程度にしか認識していないらしい。
「これ車に運び込んだら、今度はショッピング・センターのほうに行くぞ!」

[つづき]
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