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第三話 激闘! 年末年始!!(51)
元日の朝、樋口明日樹は狩野家の居間で目を覚ました。
下半身を炬燵につっこんだ上体で、体の上に毛布が掛かっている。どうやら、クリスマスの日のようにここで雑魚寝になったらしい。
目を擦りながら起きあがると、
「あ。目が覚めました? なにか食べられますか?」
と、エプロン姿の松島楓に声をかけられた。
炬燵の上にはお重と小皿が置いてあり、どうやら楓は配膳の途中だったらしい。
炬燵には、自分以外に狩野家の人々と自分の弟、大樹がついている。飯島舞花と栗田精一は、帰ったのだろうか?
「……今、何時……」
掠れた声でそう尋ねると、
「時間的には、もうすぐお昼ですね……。
でも皆さん、ついさっき起きたばかりなので……」
『……そっか、また泊まっちゃったのか……』
そんな事を、ぼけら、と考える。
「……ちょっと、顔洗ってくる……」
誰にともなくそういって、席を立つ。
途中、廊下で会った狩野真理に挨拶し、トイレに済ませてから洗面所で顔を洗っていると、徐々に意識がはっきりしてきた。
思い返してみても……昨夜の記憶が、あまり残っていない……。
『たしか、飯島がまたお酒持ってきて……』
それに口をつけた、というところまでは、覚えている。
「……ね。昨日、わたし、なんか変なことしなかった?」
居間に帰ってから弟の大樹に小声で尋ねると、
「え! あすねー、憶えてないの?」
と大声を出されて、その場にいた人々の注目を浴びてしまう。
明日樹は、顔が熱くなっていくのを感じながら、
「な、なに? なんかやったの? わたし……」
と、大樹に詰め寄った。大樹は、露骨に目をそらして、
「……ま。過ぎた事だし……」
とかうそぶくばかりで、「なにをやったのか」という肝心なところは明言しない。
しかし、小声で、
「あすねーが人前で、あんなことをするなんて……」
と、呟いた事を、明日樹は聞き逃さなかった。
『え? え? え?』
明日樹は、一旦頭に昇りかけた血が、さーっと引いていく気がした。
『……わたし、なにか恥ずかしい事、したの……』
青い顔をして見渡すと、狩野香也は視線を避けるように顔を背け、才賀孫子は軽く眉をひそめ、松島楓は「あは。あははははっ」と露骨なごまかし笑いをする。
「さ。みんな起きたことだし、遅いけどご飯にしましょう」
一晩熟睡して顔色が良くなったように見える狩野真理がそう宣言して、今年最初の食事が始まった。しかし、その時の樋口明日樹はせっかくの料理を味わう精神的余裕を欠いており、ろくに味がわからなかった。
食事を終え、大樹の腕を引くようにして狩野家を辞し、帰路で飯島舞花に「昨日、わたしなにかやった?」という意味のメールを送る。
返信はすぐ来て、でもそれはたった一行
恥ずかしいこと(^^)
のみ、だった。
明日樹の携帯の画面をのぞき込んだ大樹が、「確かに、あれは恥ずかしい……なにも、みんなの前であんなこと……」などと言い出したので、明日樹はさらに不安になる。
「だから、なにをやったのかって聞いているのよ!」
明日樹はどんどん不穏な想像を巡らせる。
『……まさかまさか……狩野君たちの前で……クリスマスに松島さんがやっりかけたようなことを……』
……わたしって、松島さんほど胸、ないからなあ……。
とか思っていると、
「……すごいよな、あすねー。
あれ、みんなの前で告ったようなもんだろ……」
姉がやたらと不安を抱いているのを不憫に思ったのか、大樹がようやく説明しはじめた。
大樹によると、明日樹は昨夜、みんなの前で「この中の誰が一番好きなのか?」と狩野香也に詰め寄ったらしい……。
『……うわぁあああ……』
説明されて、なんとなく断片的な記憶を思い出しかけた明日樹は、その場に穴を掘って自分自身を生き埋めにしたい衝動に駆られた。
「いや、あすねーのあれってのは、普段の態度からして、他のみんなにはバレバレだったみたいだけどさ……おれ、あすねーがああいう度胸がいる告り方、するとは思わなかった……」
大樹に半ば関心し、半ば呆れたような口調でそういわれて、明日樹は頭を抱えてその場にうずくまる。
「……うっ……そぉ……」
思わず、小さく呟くと、
「本当。
嘘だと思うなら、他の人に確認してみりゃいい」
淡々と、大樹が念を押す。
「……それで、狩野君はなんていったの?」
その大樹の首元を掴んで引き寄せ、すっかり狼狽した表情の明日樹は、問いただした。
「……あれ、ぼーっとしているだけのヤツかと思ったら……意外と大物なのか、それとも単に馬鹿なのか……」
明日樹にがくがくと揺すぶられた大樹は、明日樹から目をそらして、答えた。
「……ぼくにはそういうの、早すぎる……だってさ……」
「……ぼく、この家に来る前のこと……子供の頃のこと……ほとんど覚えてないんだよね……」
昨夜、明日樹に問いつめられた香也は、「自分にはそういうの早すぎる」と答えた後、そう続けた。
「絵はその前から描いていたらしいけど……なにがきっかけで描き始めたのか、ぼくは覚えてない。気がついたら、描いていて、描き続けて……他のこと、ほとんどやったことがなくって……この年齢まで、きちゃった……」
だから、実質的には、ぼくの中身は子供と同じだよ、と香也はいう。
「……例えば、つい最近まで、ぼくは、家族以外の人間とほとんど話したことがなかった……友達と呼べる人も、当然いない……」
ぼくは恐ろしく希薄で、中身がスカスカなんだよ……と、香也はいう。
「だから……仮に、誰かを好きになって、その誰かを好きになってくれたとしても……うまくつき合えないんじゃないかと思う……。
ぼく、そういうのに疎いとかいう以前に……」
他人とのつき合い方、というのが、よくわかっていないんだ……。
昨夜香也は、自分自身の事を、みなの前で、そう評した。
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つづき]
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