第四章 「叔父と義姉」(28)
荒野は放出した後、しばらく茅の上に重なっていた。
「……大丈夫、荒野……」
茅が自分の上にのしかかっている荒野の髪を優しく指で梳きながら、そういう。
「茅がいるから……荒野は、大丈夫なの……」
茅にそういわれ、荒野はのろのろと思考し始める。
『ひょっとしておれ……茅に、心配されてる?』
予想外の荒神の登場によって、かなり動揺していたことは確かだが……。
『……まあ、心配と嫉妬……半々、なんだろうな……』
未樹との一件で荒野が理解したことだが……茅は、意外に嫉妬深い。それに、荒野の表情を読むのが、巧い。
……いずれにせよ、荒野が無防備に不安を表面に出していたために、茅に影響を与えていたことは確かなわけで……。
……あー。……もう……。
「……茅は、可愛いなあ……」
荒野はそういって、茅の髪に指をつっこんで、くしゃりくしゃり、と掻き回す。
メイドさんがご奉仕……とかいう方法は、ともかく……茅が荒野のことを心配し、気遣ってくれたのは、確かなようだ……。
『……茅に心配けるようじゃあ、いけないな……』
そう、荒野は思う。
「……今日は疲れたし、汗もかいたから、シャワーでも浴びて早めに寝よう……」
「……ん……。
でも、その前に……荒野、もう一度キス。それから、抱っこ……」
「……あ。……ああ……」
『なんか、すっかり茅のペースに乗せられているような気がする……』
そう思いながらも荒野は、茅の甘えを受けて、茅が要求することをすべて実行した。
結果、浴室でも盛大にいちゃついてしまい、その日の就寝時間はかなり遅れた。
翌日の朝も、荒野はスポーツウェアに身を包んだ茅に起こされた。
まだ、夜明けまで少し間がある時刻だった。
『……茅……朝に弱い、というわけでもないのか……』
あるいは、ここ数日運動量が増えているから、眠りが深くなっているのかも知れない。
茅は、その日も室内での入念なストレッチと、河原の遊歩道で一キロ往復を数セット、という昨日と同じメニューをこなした。心持ち、昨日よりは余裕がありそうだった。
「よ。今日もやっているね」
河原から帰ってくる時に、スーパーカブに跨った羽生譲から声をかけられた。
ここ数日、羽生譲はバイトにかなり力を入れているらしく、かなり不規則な時間に家を出入りしている。女性であるにも関わらず、夜に出て朝帰ってくる日も多いようだ。
「いやぁ。やっぱ、お正月は休む人多いし、人手が足りないんだわ……」
そんなことをいいながら、羽生譲はスーパーカブを手で押して、狩野家の庭に持っていく。
狩野家の前で羽生譲と別れ、自分たちの部屋に戻ってから、昨日貰った餅と残っていたおせちで朝食をとっていると、三島百合香が訪ねて来た。
「みやげ。昨日渡しそびれた」
と、銘菓なんたらとかいういかにも土産物めいた菓子の箱を荒野に押しつけた。
ついでだからと三島を食後のお茶に誘うと、
「いや、朝飯まだなんだ」
といいだしたので、三島にはそのままおせちと餅をあてがい、甘い物は別腹の荒野と茅は、早速三島が持ってきた菓子折を開けてお茶請けにする。
「……むぅ」
包装を解き、箱の中からヒヨコの形を菓子を小皿の上に取り出すと、茅は途端に難しい顔をした。
「どうした、茅? 食わないのか?」
荒野が自分の分を無造作に取り出し、そのままヒヨコの頭から口に放り込み、食べ出すと、茅はなんともいえない顔をする。
荒野がお茶を飲んで咀嚼した菓子を嚥下すると、茅は困ったような顔をして、荒野の顔と自分の手前に置かれたヒヨコ型の菓子とを見比べ、荒野になにかいいかけては躊躇う、という動作を繰り返した。
「……うまいぞ。これ……」
茅の反応を不可解に思いながらも、荒野は、頭の部分が歯形になくなっているヒヨコ型菓子の残りを自分の口の中に放り込み、ゆっくりとあんこの味を味わって噛みしめた後、飲み込み、熱いお茶を啜った。
「甘いし……」
茅は何故か、泣きそう顔をしていた。
その茅の顔を見て、箸を止めて成り行きを見守っていた三島百合香が、とうとう吹き出した。
「……荒野、お前、なんで茅が食べるの悩んでいるのか、まるで分かってないだろ?」
「え? 茅、なにか悩んでいたの?」
「これだから……」
三島が、「菓子は食べたい」しかし「このヒヨコは、可愛い」という茅の葛藤を代弁すると、茅はこくこくと頷き、荒野は軽いカルチャーショックを受けた。
「……だって、お菓子って……食べるために作るもんだろ……」
その菓子が可愛い形をしているから、食べるのをためらうなんて……荒野にいわせれば本末転倒もいい所の……理解不能な発想であり、思考法だった……。
荒野が呆然としていると、三島は含み笑いをしながら、
「お前ら、ほんと、いいコンビだな……」
とかいって、茅に、「携帯のカメラに菓子の姿を納めて、菓子を食べること」、を、提案する。
しぶしぶ三島の言葉に従った茅は、一旦口にしてみると、そのヒヨコ型菓子が思いの外うまかったっらしく、食後だというのに、立て続けに三つほど平らげた。
その後、
「三が日を過ぎて、今日からお店が開いているはずだから、一緒にマンドゴドラに行こう」
と、荒野を誘った。
『まだ食うのかよ!』
と思わないでもなかったが、荒野にしてみても久しぶりにマンドゴドラのケーキを口にしたいという欲求はあったので、素直に頷く。
あそこのケーキは、確かに中毒性があると思う。
「商店街に行くなら、わたしも買い物したいから車で送っていくか。
でも、その前にメシ、最後まで食わせろ。それから、茅の身体検査やるからな……」
医師免許を持つ三島百合香は、茅の体調管理も「仕事の内」として涼治に申しつけられている。そのため、定期的に簡単な身体検査……といっても、身長と体重の測定に、血液検査と問診程度の物だが……を行って、その結果もレポートに添えて提出していた。
「身長と体重が少し増加しているが……育ち盛りだし、特に異常なことではないな……前の時よりは少し脂肪率が減って、筋肉が増えている……ま。これも誤差に収まる程度の変化だ……」
一通りの診断を終えた後、三島百合香はそういった。
「……ということで、今回もまったく問題なし、と」
茅は、相変わらず健康体だ……と、いうことらしい。
「それから荒野。
お前も、また背が伸びたんじゃないのか?」
三島百合香は、加納荒野を見上げて、そういった。
[
つづき]
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