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髪長姫は最後に笑う。第四章(42)

第四章 「叔父と義姉」(42)

 翌朝、支度を終えた荒野と茅がエレベータを降りて玄関前までいくと飯島舞花が立っていた。舞花と挨拶を交わしていると、すぐに栗田精一の乗るママチャリがもの凄いスピードで突っ込んできて、マンションの前で急ブレーキをかけ、数十メートルタイヤの跡を路上のアスファルトに刻んで、ようやく停まる。
「……あせったー……」
 冬の朝だというのに、栗田精一は汗だくだった。舞花から受けとったハンカチで汗を拭きながら、栗田はぼやいた。
「今日からこっちに寄ってから学校行くってこと、すっかり忘れてた……」
 栗田の家は学校の向こう側に位置し、もちろん、こっちのほうに寄るよりも直接学校に直行した方が、早い。しかし、栗田は舞花の命令にはほぼ無条件で従うようになっているのであった。
 栗田が汗を拭っている間に、隣りの狩野家から狩野香也、松島楓、才賀孫子の三人が出てきて、前後して樋口兄弟も集まってくる。樋口兄弟の弟の方、大樹はなぜか野球帽をかぶっていた。制服にまるで似合っていない。
 挨拶をしあっている間に栗田は乗ってきたママチャリをマンション駐輪所に置いてくる。学校にも駐輪所はあるが、使用には登録など面倒な手続きが必要、とのことだった。今朝になって急に自転車を使用することになった栗田は、当然その手続きをしている筈もない。
 荒野が軽い気持ちで、
「なに、これ?」
 と樋口大樹の帽子を取ると、その下からは剃り跡も青々しい大樹の頭部が出てきて、皆を驚かせた。五分刈りとかよりももっと毛足が短い、丸坊主だった。バリカンを使った後、剃刀でもあてたのではないか。
「……昨日、未樹ねーの練習台にされちゃって、いろいろやっているうちに凄い髪型になっちゃって……」
 結局、頭髪全部を極端に短くしなければどうしようもならなくなった、とは、大樹の姉である明日樹の談。樋口明日樹はそう説明しながら、携帯のカメラで撮影した大樹の「すごい髪型」の写真を、皆に回して見させた。
 大樹は、当初、
「……あすねーだって、昨日、おれのこと押さえつけてた癖に……」
 とかぶつくさいっていたが、そのうち、
「おれ、今年から硬派でいきますから」
 とか、わけの分からない開き直りをしてみせるようになった。

 学校に近づくにつれ、荒野たちと同じ制服に身を包む学生の数が増える。荒野たっちをみて指さしたりひそひそと囁き合ったりする姿が目につくようになった。
 年末以来、荒野たちは地元の有名人である。マンドゴドラの店頭では、いまだに着物姿の荒野と茅が見つめ合ったりケーキを食べたりする映像が流れている。
「…………ネコミミ……」
「……サンタ…………」
「……トナカイ……」
 などの単語が漏れ聞こえてくる。
 囁き合っているのは主として女子生徒で、男子生徒の調子のいいのになると、時折「ケーキ食え猫耳」などとわざわざ遠くから声をかけてくる者もいる。
 止せばいいのに茅がその声の主に気まぐれにVサインを送ったりするから、周囲にいた女生徒が黄色い声を上げたりする……。
『……目立たない、という選択肢が……最初から潰されている……』
 荒野は内心で嘆息した。当初の荒野の目論見では、茅と荒野は平凡な一生徒としてひっそりと埋没して暮らしていく筈、だったのだが……。
『こも面子では、無理な相談か……』
 年末からこっち、大小さまざまな不測の事態を経験してきた荒野は、今では半ばあきらめてもいた。

 学校に通学した経験のない茅と松島楓が、才賀孫子に学校生活についてなにやら質疑応答めいた会話を重ねている。しかし、茅と楓に答える孫子のほうも、良家の子女が通うような浮き世離れしたお嬢様学校にしか通学した経験がなく、孫子の説明する「学校生活」は、これから荒野たちが通うことになるごくごく普通の公立校とは、大きく様相を異にする。その相違点を、基本的に真面目な樋口明日樹が一つ一つ訂正していって、その度に孫子は焦りをみせながらも必死になって前言を訂正し誤魔化そうとする。その孫子の誤魔化し言辞の矛盾点を、茅が悪気もなく冷静につっこむ。楓は、誰の話にでも素直に感心して頷いている。
 その向こうでは、狩野香也が級友らしい男子生徒になぜかヘッドロックをかまされていた。香也にヘッドロックをかましていた男子生徒の背後に飯島舞花がそっと近寄り、その男子生徒の脳天に空手チョップを食らわせる。男子生徒は驚いて攻撃者の方向に振り返ろうとするが、その隙に舞花は、その男子生徒の首に腕を回し、締め上げる。動脈を押さえられているのか、男子生徒の顔色がすぐに蒼白になる。その向こうでは栗田精一が「やれやれ」といった様子で肩をすくめている。栗田は、こうした舞花の言動に慣れているのかもしれない。
 香也と舞花と男子生徒の三人の塊は、多少もみ合っていたもののすぐにほどけ、舞花はその男子生徒と向き合って二、三、言葉を交わした後、すぐに先行していた荒野たちに追いついてきた。
 樋口大樹が、香也にいきなり組みついた男子生徒の名は「柊誠二」で、香也と同じ一年A組の生徒だと教えてくれた。大樹は「すかしたやつ」といい、見境なく標準以上の容姿をもつ女生徒に声をかけまくっている、と、柊誠二について説明した。なるほど、その柊誠二とやらは、いかにも軽薄そうな雰囲気を漂わせていたが、容姿はそこそこ整っていて、本気で相手にされることは少ないにしても、それなりに女生徒には人気があるのではないか、と、荒野は判断する。世渡りと他人のご機嫌をとるのが巧そうなタイプだ、と、荒野は思った。
 強面を気取っていても、実は単に不器用なだけ、というタイプの大樹とは、反対のタイプである、といってもいい。
 大樹の柊誠二評は、かなりやっかみも入っている、と、荒野は推測した。
 そんなことを言い合っている間にクラスの話しになり、茅と楓が香也と同じ一年A組、香也と才賀孫子が樋口明日樹と同じ二年B組、ということが判明した。
 ちなみに、樋口大樹と栗田精一は一年D組、飯島舞花は二年E組だという。

 そんなことを言い合っているうちに学校に到着し、在校生はそれぞれの教室に向かい、香也、茅、松島楓、才賀孫子の転入生組は買ったばかりの上履きに履き替えて、職員室に向かった。
『……さて、と……。
 いよいよだな……』
 普通の生徒として学校に通う、ということは、茅にとっては一般社会に馴染むためのリハビリの最終段階であり、茅とは違うが、荒野にとってもそれなりに重みを持っている。それまで与えられた命令を遂行する立場だった荒野が、初めて自分の裁量で一から指揮した計画が、乗るかそるか、という大きな分岐点になるはずだった。
 職員室の前で、他の三人を見渡し、頷き合う。
 深呼吸して、
「……失礼します!」
 と声をかけて職員室に足を踏み入れる。
 と、
「……コウ! わたしのコウ!」
 突然、なにか柔らかくていい匂いのする、暖かい物体に、首に両腕を回され、抱きつかれた。

 荒野も、荒野の背後に控えていた三人も、職員室にいた職員たちも……。

 その瞬間、その場に居合わせた全員が、凍りついた。

[つづき]
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  • 2006/05/18(Thu) 03:52 
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