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彼女はくノ一! 第三話 (61)

第三話 激闘! 年末年始!!(61)

 その、新学期を前にした数日間行われた「クラスメイトの身元確認」のこそが、実質上、楓のくノ一としての初任務といえた。楓にしてみれば、物心つくかつかないか、という幼いころから何年もかけて厳しい訓練を受けて積んできた成果を初めて実践するわけで、昼間の勉強会などと両立しなければならない、などの時間的体力的な制約がきつい条件ではあったが……今まで学んできた事が無駄にはならなかった、ということと、自分たちの安全を確保するための仕事で、誰を傷つけるわけでもない、という二点の根拠において、楓はそれなりに充実感を持って仕事に取り組んだ。
 楓の、勉強会のない午前中の時間も自主的に仕事をあてる、などの熱意も手伝って、当所の予定よりも速いペースで「仕事」は消化されつつあった。
 楓と荒野がどれほど入念に不審な痕跡を探っても、現在までの所、一向にあやしい者はみつからなかったが、その結果は、今後本格的な武力対立に突入する可能性を狭めるものでもあったため、荒野も楓自身も歓迎していたた。この手の事前調査は、異常が発見されず徒労に終わるのが、一番平和だ。

 楓が正体不明の不審人物に襲われたのは、楓と荒野が予定していた作業の五分の四以上を消化し、もう少しで完了しようとする、そんな時期のことだった。

 作業を開始してから三日目、八日の晩、ここ数日いつもそうしているように、その夜も楓は、茅の官制に従って、気配を絶って町中を飛び回りながら、黙然と自らのなすべき仕事を消化していった。茅と荒野と楓の三人で、一人づつの該当生徒の身元を確認し終える都度に、「作業終了」までのカウントダウンが早まるを。そのまま何事もなく順調いけば、その夜のうちに全てが終わる筈だった。
 そんな時期だっからこそ、楓の心に若干のゆるみが生じていた事は否定できない。

 気がつくと、楓は、明らかに敵対する意志をもった複数の存在に囲まれていた。周囲に耳をそばだて、どんな小さな兆候も見逃すまいと気を配りながら人気のない方へと移動する。住宅街から、駅前商店街の裏手にある、貸しビルが立ち並ぶ地域へ。
 楓は、指だけで携帯電話を操作し、茅に打ち合わせていた通りの手順で救難メールを送る。
 ビルとビルの谷間、夜間はまるで人気のない、幅の狭い裏通りに入り込み、楓が送信ボタンを押すのと同時に、最初の攻撃が来た。

 楓は、複数の方向から同時に自分に向けて放たれた物体、投擲武器を知覚し、その密度が一番濃い方向に、あえて我が身を突っ込む。
 ごく最近、野呂良太とか二宮荒神とまみえた時に、学んだ戦法だ。
 投げられた武器を、避けるのではなく……。
『……弾く!』
 楓は手にしたくないで、投げつけられたものを片っ端かた打ち払いながら、その得物を投げつけたものがいる方向に、遮二無二突進する。

 上の方向からも、楓の後を追うようにいろいろ投げつけられいるようだが、その攻撃者も、楓の速度に予測し、追いけるほどの機転と腕前の持ち主ではないらしい。投擲された武器の方向に突進し、単身、攻撃者のいる側にむざむざ向かってくる楓の行動は、襲撃者たちにとっては充分に意表を突いたものだったのだろう。
 結果、この程度のことでたやすく動揺を現す襲撃者たちは、野呂良太や二宮荒神ほどの手練れではないと知れる。
『……この程度の相手なら、一人でも、捌けるかも知れない……』
 慢心ではなく、冷静に楓はそう判断した。
 茅にエマージェンシィのメールを送るほどの相手ではなかったな、と。
 楓が通り過ぎたすぐ後を追うように、くない、手裏剣、六角などの投擲武器が降り注ぐ。
 しかし、下にいるものが上方向に攻撃を仕掛けるのは不利なので、上方の襲撃者への対処は、後回しにする。
『……まずは……』
 突進し始めてから数秒を経ずして、楓はすぐ人の気配を感じ取った。「気配断ち」をしていたが、至近距離で楓の目をごまかせるほどの熟練の技ではない。襲撃を感知した瞬間、自分の感情を押し殺して楓は、その人影に対して躊躇することなく、感情を込めて手にしたくないを立て続けに投擲する。

 人影が動揺する気配がし、「くっ!」と、小さく息を吐いた。
 その「敵」は、精神統一を破られ、「気配絶ち」も破れ、二十代くらいの、凡庸な外見の若い男の姿をとる。スーツ姿だから、若いサラリーマン風、とみえたが、それ以外の特徴は、あまりない。忍に相応しい、どこにでもいるような、人混みに紛れてしまえばそのまま見失ってしまいそうな、印象の薄い男だった。
 その若い男は右手で、左手首を押さえている。楓の攻撃が思いの外、深いダメージを与えたらしい。患部を抑えている所をみると、動脈でもを切ったのかも知れない。
 いずれにせよ、その男は無防備に楓に姿を現しながら両手を塞いでいるわけで、楓は、躊躇することなく、さらにくないを投げつけ、男の両足のアキレス腱を絶ち、身動きを封じた。
 多人数で警告も予告もなしに楓を攻撃してきた連中が相手であり、楓の側には遠慮すべき理由がない。また、下手に手加減したら、楓自身の身があやうい。
 その後、楓はその男の水月に掌底を叩き込み、完全に沈黙させる。
 男は、よだれを垂らしながらその場に蹲った。
『……一人、無力化!』
 襲撃者が複数いる今の状況下では、本当なら息の根を止めるのが一番安全なのだが……実戦らしい実戦を経験していない楓は、できるだけ殺人を犯したくない、と思う甘さがまだ残っていた。この処置でも、数十秒から数分ほどは、この男は脅威とならない筈だった。
 間髪入れず、楓は体の向きを変え、上のほうを仰ぎ見る。その時、振り向きざまに手持ちの棒手裏剣を存分に放ち、弾幕とする。
 その弾幕を追うようにして、楓は「上へ」と移動しはじめた。別に空を飛んだわけではなく、道幅がようやく二メートルあるかないか、という狭い路地裏だったので、左右の壁を交互に蹴り続けることで、足の力だけで、襲撃者がいると予測される高度まで移動することが出来た。
 楓は、無力化した男を背にした状態で、武器を投擲してきた方向へとまっしぐらに、壁を蹴りながら進んでいく。
『……いた!』
 楓は、雑居ビルの非常階段の踊り場にいた、三人ほどの襲撃者の影を認めた。襲撃者から楓を攻撃すると、斜線下方に、仲間の「楓が無力化した男」がいる、という配置になっている。
 そのせいか、それとも、楓がこんな手段で自分たちのほうに向かってくる、という事態そのものが想定外だったのか……彼らの攻撃は消極的になっていた。しかし、まだ本格的な逃走にも、入っていない……。
『場馴れ、してない? 舐められている?』
 攻撃をしかけておきながら……襲撃者たちには標的を鎮圧するまで手を緩めない、という意志や気迫が欠けていた。目的を遂行するためには差し違えても……というのが、下忍の論理の筈だ。そうした真摯さは、男たちから感じられなかった……。
 また、襲撃に失敗した時を想定して、あらかじめ逃走経路を確保していない、らしい……などの点も、いかにも不自然さで、素人臭かった……。
 そのような点には疑問を持ったが、だからといって、楓の側に手加減しなければならない理由はない。
 なにしろ、直撃すれば無事では済まない攻撃を、彼らから無警告で受けている身である。

 だから楓は、左右の壁を蹴って男たちの「上」にまで移動すると、容赦なく、手持ちの投擲武器の雨を降らせた。
 重力の助けも借りて、楓の手から放たれた弾幕は、三人組に降り注ぐ。
 その時になって、ようやく彼らは動いた。
 楓に背を向けないようにして、後ろ向きになって楓の弾幕を避けながら、非常階段を、一族の術者にしかできない速度で駆け下りていく。
 だが、その判断も、遅い……と、楓は思う。
『……逃がさない』
 楓はフック付きのロープを取り出し、フックを、非常階段の手摺りになげる。うまい具合に、ロープが手摺りに絡みつくのを確認して、跳ぶ。
 楓の体は振り子のように大きく揺れ、ロープが絡まった手摺りの直下の隙間をくぐり、非常階段の反対側にでる。
 そこで、楓はロープを持つ手を放し、ちょうど眼下に見えた三人組に向かって、正確に狙いをつけて、手裏剣を放った。
 楓が男たちの前方に着地した時、楓の放った棒手裏剣は男たちの足の甲に深々と突き刺さり、男たちの足をアスファルトに縫いつけて、身動きができないようにしていた。
 楓は、男たちの顎を次々に蹴り上げ、器用に脳震盪を起こし、その場に昏倒させていく。

 荒野がようやく駆けつけた時、楓は男たちをロープで束縛した上で、自分が与えた傷の応急処置をしているところだった。

[つづき]
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