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彼女はくノ一! 第三話 (62)

第三話 激闘! 年末年始!!(62)

 気づけば始業式の前日になっていた。
 その日は勉強会がなかったので、香也は久々に一日中プレハブに籠もれると、内心喜んでいた。ここ数日、午後の数時間、半ば無理矢理勉強会に付き合わされたため、自分の絵を描く時間が思うように取れなかった。年末年始もなにかとばたばたしていたから、単純に作業時間だけを見れば、この冬の休暇中は、通常の長期休暇中より、かなり制約を受けていた、ということになる。
 いつものように灯油ストーブに日を入れ、すぐにキャンバスに向かう。
『だけど……』
 と、香也は思った。
『……人を描くのが、少し、怖くなくなった……』
 少し前から、香也は、以前には描かなかった人物画の練習をしている。
 香也が人物をあまり描かなかったのは、香也の人物の描き方を、香也自身が「気に入らなかった」ためだった。香也自身の目から見ると、香也の描く人物は、なんか、死人かマネキンのように生気を欠いてみえて不吉な感じがし、とてもじゃないが完成した作品として残せるような出来にはならなかった。香也の技量は確かなものであり、対象物の形をかなり正確に紙に写すので、生気を欠いた人物像は精巧なデスマスクめいた雰囲気を放ち、いかにも不景気な出来にしか、ならない……。
 そのため、デッサンなどの基礎的な部分以外、人物画を描くことを香也は長いこと自主的に封印してきたのだが……。
『……少しは、マシになっている……』
 クリスマスの前後から毎日のように練習をしていることもあって、香也の筆先は、人物を描く時も、以前ほどは萎縮していない。香也は、記憶している人々の姿を、片っ端から画布の上に描いていく。完成品にするつもりはないので、全身像だったり顔だけ、手だけなどのパーツのみだったりするが、気の向くままに重ね描きしていく。完成品のイメージはまだなく、自分自身がどういう絵を完成させたいのか、香也自身も、まだ漠然とした構想すら、持っていない……。
『……もっと、自由に……』
 客観的にみて、香也の手の動きはかなり早いのだが、香也自身は、技術的にも速度的にも、まだまだ自分の力量に満足してはいなかった。
 もっと、もっと、自由に、速く、正確に……。

『……ぼくは、本当は一体なにが描きたいんだろう……』

 一心不乱に手を動かしていると、香也は自分のことを意識しなくなる。手と目だけに意識が集中する。周囲の物音に、極端に関心がなくなる。だから、香也は、いつの間にか背後に松島楓と才賀孫子が来ていることに気づかなかった。

 二、三時間描き続け、流石にこわばってきた肩をほぐすために大きくのびをする。すると、いいタイミングで楓がティーパックのお茶が入ったマグカップを差し出してくれた。
 香也がプレハブで絵を描いていると、いつのまにか楓が背後にいるのは以前からよくあることだったので、特に驚きもしない。ここ数日は孫子までがそれに加わり、自分の椅子と本を持ち込んでくつろいでいたりする。このプレハブはもともと物置として使われていたものを、「家の中を汚すよりは」と香也にあけ渡されたもので……居住性は、かなり悪い。
 くつろぐなら、もちろん、母屋の中のほうが快適な筈だが……何故か、香也がここで絵を描いていると、彼女たちのどちらか、あるいは両方が、いつの間にか背後にいる、ということが多くなっている……。
『……最初は、加納君が夜に来るだけだったんだけどな……』
 以前、かなり頻繁に訪れた加納荒野は、最近ではこのプレハブに滅多に姿を見せなくなっている。かわりに、妹込みで母屋のほうに出入りするようになったわけだが……。
『……妹さんのことでいろいろ悩んでいたみたいだから、今の状態のほうがいいのか……』
 荒野の事に対しては、香也はそんな事を思っている。加納兄弟はいつも一緒で、樋口明日樹にシスコン呼ばわりされるほど、仲が良さそうにみえた。

「……それで……」
 いつもはおとなしく見ているだけの孫子が、この日に限っては何故か、そんなことを言い出したので、香也は危うく口に含んでいたお茶を吹き出しそうになる。
「……いつになったら、わたくしの絵を描いてくださるの?」
「ええ!」
 途端に、楓が香也に詰め寄り、騒ぎはじめた。
「香也様、そんな約束、したんですか!」
「……んー……したような、しなかったような……」
 香也は、「落ち着け、落ち着け」と必死になって自分自身に命じながら、曖昧に言葉を濁した。
『……たしか、「モデルがいるなら声をかけてくれ」っていう話しじゃなかったっけ?』
 孫子との以前のやりとりを、慌てて思い返す。「孫子を描きたくなった時には、声をかけてくれ」と、「孫子の絵を、描く約束をする」では、かなり意味合いが違うのではないか、とか、香也は思ったが、楓もいる手前、今ここで孫子の言葉を訂正するつもりもなかった。
「……んー……じゃあ、今から描いてみようか……練習でよければ。
 ちゃんとしたのは、また後で、もう少し、ぼくに自信がついてから、ということで……」
 少し考えた末、香也はそう提案した。
「楓ちゃんも、今日、これから、時間あるかな?」

 冬休み最後の日の午後、香也は新しいキャンバスに、二人が並んで立っている絵を描いて過ごした。あくまで「練習」と断った上で、短時間で仕上げたものだったが……。
『……色々なことが変わりはじめたのは、彼女たちが来てからだ……』
 そう思いつつ、香也は、その時点で香也に出来ること全てを、キャンバスにぶちまける。

[つづき]
目次

   [第三話・完]

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