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髪長姫は最後に笑う。第四章(39)

第四章 「叔父と義姉」(39)

 なりゆきで始まった狩野家での勉強会は参加者全員の冬休みの課題が終わった三日目、八日をもってひとまず終了となった。
 三日間続けて同じ顔が集まって机を並べていると、荒野のほうにしてみればそれまで縁遠い世界だと思っていた「学校」が、段々と身近なものに感じられるような、錯覚さえ感じた。
 そうした荒野の錯覚を触発するのは、特定のカリキュラムを多人数で修得する、という場の雰囲気であったり、飯島舞花や樋口明日樹、柏あんな、栗田精一や樋口大樹などが合間合間に行わう共通の友人知人のうわさ話だったりするのだが、そうした中に混ざっていると、荒野は自分の特殊な自出を忘れ、彼ら一般人にすっかり同化して生活し続ける自分、というものを、ついつい幻想してしまう。
 もちろん、それは荒野の勝手な思いこみ以外のなにものでもない。どのように巧妙に紛れこもうとも、荒野と彼ら一般人とでは、厳然として差異が存在する。身体的なものから価値観などのメンタルな部分まで、その差異はかなり根深く、安易に無視していいものではない。
 そのことを、荒野はこれまでの短い生涯で、いやというほど思い知らされている……。
 しかし、容易に同化できないことを身に染みて解っているからこそ、他愛のないことで笑い合い、軽口をたたき合う彼らの穏当な世界の中に紛れ込んでいるつかの間の時間を、荒野は大切に思い、また、愛おしくも感じている。

 そんなわけで昼間、勉強会が行われる日も、荒野は楓とともに夜の町を走り、学友になる筈の者たちの身辺を、熱を入れて探り出す。
 目的としては、あくまで我が身の保全であり、場合によっては、結果として、荒野たちが通う予定の学校の者を不慮に傷つけないための行動、にもなっている。
 そう……荒野たちの行動で誰を傷つける、というわけでもないのだが……荒野は、他人の住居や記憶の中に無断で踏み込み、あら探しする自分らの行動が非合法かつ非人道的である、ということも、充分にわきまえていた。わきまえつつも、自分たちの保身、という都合のため、あえてそれらの合理を容認した。

 携帯電話での管制や誘導を担当した茅と、荒野と負けず劣らず熱意を持って作業をこなした楓の助けもあって作業は予定以上に早いペースで進捗し、ちょうど勉強会がお開きとなった八日の夜、全ての作業が間違いなく終わる……という見通しが、たっていた。
 しかし、その八日の深夜、移動中だった楓は、突如どこからか出現した襲撃者に襲われ……そして、あっけなくその連中を返り討ちにした。

 知らせを受けて急行した時、楓は、若干の手傷を負わせ無力化した襲撃者たち四人をロープでぐるぐる巻きにして拘束し、彼らが着ていた衣服を破いて作った即席の包帯で、自分自身が負わせた傷口を縛り、止血しているところだった。
 わざわざ消毒液その他の医薬品を持ってきてまで治療する義理はない、しかし、むざむざ放置するのもなんだしなあ……というで、そういう処置になったらしい。
「あ。ご苦労様です。加納様」
 荒野の姿を認めると、楓は顔をあげて挨拶し、それから淡々と襲撃された前後の「事の次第」を荒野に説明しはじめた。
 一言でいうと、多人数に不意打ちされたにも関わらず、また、本格的な「実戦」はこれが初体験であるのにも関わらず……楓は、彼ら四人の襲撃者をあっけなく撃破した……ということらしい。
「……この人たち、多少は訓練受けているみたいなんですけど……お話しにならないくらい、全然、弱かったです」
 楓は自慢をするわけでもなく、淡々とそういって、荒野への説明を締めくくる。
『……こいつ……』
 荒野は思った。
 楓は、養成所での訓練はさんざんやってきているが、実戦は、これが初めてのはずだ……。
 養成所をでて、最初に接触した術者が野呂良太と二宮荒神、という、一族でもトップクラスのやつらに接触してしまったから……その高いレベルが、楓の中で「術者の標準値」に、なってしまっている……。
 ましてや楓は、ここ数日、毎日のように「最強」の二宮荒神から、手ほどきをうけているのだ。とはいっても、五分とか十分、荒神にいいようにあしらわれているだけだが……それでも、荒神の動きに目と体が慣れてしまったら……凡庸な術者の動きなど、それこそ手に取るように見切ることができるだろう……。
『……自分の強さというものを……まるで、自覚していない……』
 楓の実力は、養成所をでた段階でも、六主家の血を引く者の「平均値」よりも抜きんでている、と評価されていた。
 荒神を相手にするようになってからは、その資質にさらに磨きがか蹴られているわけで……。
 荒野は視線を降ろして、楓に縛られて身動きとれないでいる男たちを見据えた。
 役割から類推するに、彼らは、多分、楓のような「鍛えられた雑種」だ。昔風の言い方をするなら、下忍。
 どっかの養成所出身、なのかもしれない。まだ若く、体力的にも上り坂で、それなりに自分たちの力に酔っていた……のかも、知れない。
『……こいつらも、一般人相手なら、それなりに役には立つんだろうがなぁ……』
 ……それでも、今の楓を相手にするには、役不足もいいところだった。
 六主家の中でもそれなりの実力を持った者を集めなければ、今の楓は押さえきれないだろう……。
「……楓。こいつらなんかここに置いて、残りの作業、さっさと終わらせよう……」
「え? 尋問とかしないんですか?」
「やってもいいけど……こいつら、雑魚だからなぁ……。
 多分なにも知らされていないし……時間の無駄だぞ。
 大方、自分らの役回りも聞かされてなくて、上から一方的に、お前を襲え、って言われただけなんじゃないの?」
 荒野の言葉を聞くと、縛られた男たちがビクンと身を震わせた。
 ……若い女を襲え。後はお前らの好きにして良い……。
 彼らにとっては、実に「おいしい」仕事だった筈だ。
 相手が、楓でさえ、なかったら……鼻歌交じりに終わらせて、役得にありついていたことだろう。
「こいつらをけしかけたヤツの目的は、簡単に推測できる。
 楓、未知数の存在でであるお前の実力を計り、見極めること。こいつらは当て馬だよ……」
 荒野は、肩をすくめる。
「だとすれば、どっかでこっそり聞き耳をたてたり様子を伺ったりしているヤツがいる筈だが……今になっても姿を顕わさない、ってことは、今回のはほんの挨拶代わりなんだろ。
 そっちはそれなりに事情知っているはずだが……もう、逃げているんだろうなあ……時間的に……。
 それに、おれら、敵になりそうな相手の心当たり、多すぎるから……。
 かかってくるヤツた、片っ端から尋問なんてしても、時間と手間がかかりすぎるばかりで……なんのメリットもないぞ……」
 いい機会だったので、「専守防衛でいくという基本方針を、荒野は改めて楓に徹底する。
「……なんといっても、少人数過ぎるからなあ、おれたち……」
 敵が多すぎるかたといって、向かってくる相手を全て真面目に相手にしていたら、身が持たない……。適当に、やり過ごすことも覚えろ……。
 という荒野の意図を、楓は正確に理解し、無言で頷いた。

 ……まさか茅のような存在の警護を、実質、上荒野と楓の二名だけでやっているなんて……思いやしなかったんだろうなあ……。だから、「少数」のうち一方の楓が、どれほどの「精鋭」か、確かめてみたくなったヤツがいる……。今回の件は、そういうことなのではないか、と、荒野は推測した。
 茅という存在の貴重さを知っている者ほど、そうした警護の手薄さに、「なにかしらの裏があるのではないのか」、と、余計な勘ぐりをするはずだった。
「……というわけで、おれたち元の仕事に戻るから。君たちは誰か助けてもらうまで、このまま待機ね……」
「みなさん。最近は夜の冷え込みもきついから、風邪に気をつけてくださいね」
 荒野と茅は、縛られて猿ぐつわを噛まされていた男たちにそう言い残して、姿を消した。

「……ということもあったけど、クラスメイトの身元確認作業は、今夜で、無事終了したから……」
 マンションに帰ってきた荒野と楓は、ざっと経緯を茅に説明して、「作業終了」 の宣言をした。
 結局、危惧していたように、洗脳の痕跡を発見することはできなかった。
 だからといって完全に安心しきっていいものでもないのだが……これ以上の調査は、今の人数では事実上不可能だから、とりあえずは「これで良し」とするしかない……。
「……いやあ。なにもなくてよかったねぇ。めでたいめでたい。二人ともおつかれー……」
 茅の他にもう一人、荒野たちの帰還を待ちかまえていた人物、二宮荒神が盛大に拍手して、大仰に二人をねぎらう。この人にはなにを言っても無駄、と、荒野は思っているので、荒野は荒神の存在自体を無視することにしている。その割には、「現在の二宮荒神の所在地」を一族の共有データベースに入力し、ちゃっかり権勢に利用したりもしているのだが……。
「最強」の荒神は気まぐれで、行動原理が理解しづらく、また、「身内には滅法甘い」……という定評のある人物である。
 その荒神が、荒野の周りをうろうろしているとなると……それだけで、荒野たちに手出しがしづらくなる……筈、だった。なにぶん、少人数で茅と自分たちの身の安全を図らねばならないのだ。ハッタリでもブラフでも荒神に対する周囲のイメージでも、利用できるものはなんでも利用する。

[つづき]
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