2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

髪長姫は最後に笑う。第四章(37)

第四章 「叔父と義姉」(37)

 その夜、予測通り、楓は荒野たちのマンションを訪ねてきた。予測していなかったことは、楓の後ろに、二宮荒神がついてきたことだ。
「……こっちに興味持つな、っていっても無駄でしょうけど……」
 荒野は荒神の顔を見て、達観したような深いため息をついて、肩をすくめた。
「……邪魔だけはしないでください。もし、荒神さんが邪魔をするうようだったら……」
 ……じじいに言いつけます。
 と、荒野はそう断言した。
 荒神の行動を抑圧するのにそんなことしか思い浮かばないあたり、自分でも情けないと思うのだが……荒神には、自分らが束になってかなわないことは、わかりきっているのだ。
 外部の力が背後にあることをちらつかせるくらいしか、有効な手だてを思いつかない。
「……荒野君のいけずぅ……」
 玄関口で顔を見せた途端、荒野にそう釘を刺されて、荒神は口をとがらした。
「……ぼくは、雑種ちゃんがレッスンお休みしたいっていうから、理由聞き出してついてきただけなのにさぁ……」
 ……『雑種ちゃん』とは、楓のことだろうか?
 いずれにせよ、これみよがしに膨れっ面をする荒神は極力無視して、荒野は楓を室内に招き入れた。

「……というわけで……」
 荒野は、茅がいれてくれた紅茶を前にして、これからやろうとしている「クラスメイトの身元洗い」に関して説明した。
「……なにぶん、傀儡繰りの佐久間が相手にまわっている可能性も否定できないんで……自覚がない被洗脳者が紛れ込んでいる可能性もあるわけで……」
「……なるほど……数が、多すぎますねぇ……」
 楓も頷く。
 こうして考えてみると、「学校」という場は……自分たちのような者が身を隠すには、恰好の場所だ。大勢の人間が集まる。その割には、セキュリティが甘くて、少しの細工で容易に入り込める。
「クラスの名簿は簡単に手に入ったけど……」
 荒野はハードコピーを楓に渡す。茅と荒野が編入するクラスの名簿、の、コピーだった。
「……家族そっくり記憶を書き換えられている可能性もあるから……ご近所さんとか、外堀から埋めていかなければならないし……。
 まず、一番注意しなければならないのが、ここ一、二年で転入してきた生徒。これは、数が限られているからすぐ終わると思う。
 残りは、住所ごとにブロックで区切って、分担して、何人か眠らせて聞き出す……とかしか、手がないからなぁ……」
「……眠らせて、聞き出す?」
 茅が、荒野の言葉に疑問を差し挟む。
「あ。うん。催眠術、に近い……のかなぁ……。
 針と併用して、意識のかなり深いところの情報を、しゃべらせる。かなり深い洗脳でない限り、嘘がつけない。しゃべった後、しゃべったという記憶も残らない……」
 生身の人間相手の、安全、かつ、確実な情報収集法ではあったが……一人一人に術をかけなければならない関係で、多人数を相手にする時には、時間がかかる方法でもあった。

「……わかったの」
 荒野の言葉を聞くと、茅は一旦物置になっている自分の部屋に戻って、ノートパソコンを抱えて帰ってきた。
「……名簿、見せて」
 茅はパソコンを立ち上げて、荒野の手から名簿のハードコピーをむしるように奪い、その名簿にシャーペンでチェックを入れながら、幾つかの住所を入力して、周辺の地図を表示させ、何枚かの地図を画像としてパソコンのメモリに取り込む。
 OSに付属の画像処理ソフトで取り込んだ地図を表示させ、
「このへんと、このへんと……」
 と、地図の画像に、直接、マウスで生徒が住んでいる場所に点を書き込む。その後、線を書き込んで、四十名二クラス、八十名分の生徒を、住んでいる地区ごとに、十二ブロックに分類する。
 それだけの処理を、茅は、作業開始後から、三十分もかけずに終えてしまった。

「十二ブロックに分けたから……今日は五日、だから……冬休みが終わるまで……明日、六日から動き始めるとしたら、一日三ブロック……今日の夜からはじめられるなら、一日あたり二ブロック以下のペースで消化していけば、始業式の日に間に合うと思うの……」
 あまりの手際の良さに、楓はもとより、荒野や荒神までもが呆気にとられて茅の作業を見守っていた。
「……あー。君……」
 目をまん丸に見開いて、荒神が茅に話しかける。
 荒神は、滅多なことでは驚かないし、仮に驚くことがあったとしても、それを素直に表面に出す人格ではない。
 しかし、この時は、茅への驚きを素直に顔に出していた。
「……君、こういうのも……仁明から習っていたの?」
「ならってないの」
 茅は首を横に振った。
「でも、荒野がやろうとしていることと、初期条件が与えられれば、それを最も効率的に実行する方法は容易に割り出せるの」
「……こりゃあ、いい!」
 茅の返答を聞き、荒神は頭を後ろにそらして愉快そうに笑い声を上げた。
「……ぼく、姫だなんだって話し、正直、今まで馬鹿にして聞いていたけど……ろくに訓練を受けていない娘っこでこれだって?
 こりゃあ……そうだ! ほかの六主家も欲がる筈だよ、うん!」
 荒神はひとしきり笑った後、不意に真顔になり、荒野のほうに向き直る。
「断言するよ、荒野君。
 遠からず、この子の……姫の、争奪戦が、はじまると思うよ。
 ……我々六主家の者の間で……」

 荒野たち……荒野と楓は、その夜から動いた。
 茅が作成した地図を元に、ブロックごとに何人かの住人を無作為に選び、生徒と生徒の家族に、最近あやしい動きや変化がなかったか、眠らせて、聞き出し、解放する……。
 荒神もその作業を手伝いたがったが、荒野が荒神に借りを作りたくなかったので、丁重にお断りした。
「二宮は、この手の細かい仕事は不得手でしょう」
 という理由をつけて。

[つづき]
目次

有名ブログランキング

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
newvel ranking HONなび



↓このblogはこんなランキングにも参加しています。 [そのいち]
小説Hランキング かうんとだうん☆あだると エッチランキング 1番エッチなランキング ☆Adult24☆ 大人のブログ探し処 Hな読み物の館 アダルトステーション Access Maniax アダルトランド

Comments

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ