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彼女はくノ一! 第三話 (60)

第三話 激闘! 年末年始!!(60)

 それぞれの得手不得手の傾向が解ってくると、役割分担も自然と決まってくる。
 楓と荒野は程度の差こそあれ、学科別に出来不出来の差が激しかったので、弱点科目を重点的に攻めることになった。二人とも理数系、それに古典には明るかったが、現代国語や英語は、学校関係でしかお目にかからないような特殊な用語や文脈に足をとられる。楓も荒野も、地理や歴史に関しては、それなりの知識を持っていた。が、荒野は人名や地名など、固有名詞のカタカナ表記と自分が知っている発音との差異に、最初のうちかなり戸惑った。
「なんで英語発音表記、ドイツ語発音表記、ロシア語発音表記が平然と混在しているんだよぅ!」
 地理や世界史の教科書を開きながら、荒野はそんなことをぼやきつつ、教科書通りのカタカナ名前を片っ端から頭にたたき込んでいく。
「……このグラマーですけど……」
 楓のほうも英語の教科書や参考書をざっと見渡して、そんなことをいっていた。
「こういうのチマチマやって、いつになったらしゃべれるようになるんですか?」
 外国語について、荒野や茅と同様、楓は英語、華語を含めた数カ国語を習っている。しかし、どの言語を習う場合も、はじめは日常会話で使うイデオムの丸暗記から入って、素読、使用頻度の高い単語のスペルの丸暗記……と、実用性を重視した「体で覚える」態の教育法だったので、「文法」の存在を意識したことさえない……。
 外国語を学ぶのに、最初からグラマーを学習する、というのは、楓にとってはかなり迂遠な学習法に思えた。
「……でも、最初に文法がわかっていると、応用が利くの」
 楓の疑問に、茅はそう解説してくれた。
「もともと日本の語学は、明治に新しく入ってきた西欧の文物を効率良く吸収するためのプログラム。だから、文献を読んで理解できる、ということが第一の目的であり、日常会話や発音は後回し。文法さえマスターしていれば、専門用語の多いペーパーも、辞書を引きながら読めるの」
「……で、君たち三人は、その文法を覚えるのに最低限必要な単語さえ、覚えていない、と……」
 飯島舞花は茅の説明を引き取る形で、狩野香也、樋口大樹、柏あんなの三人を見渡す。
「……一年で必要な単語数なんて限られているんだから、さっさと覚えちゃえよ……」
 舞花は動詞の活用や名詞の単数形と複数形などを説明しながら、三人に基本的な語彙を書き取らせたり発音させたりしている。こういうのは楓が習った時のような「体で覚える」方式が、実は一番効率的だったりする。
「飯島……教え方、慣れている……」
 樋口明日樹は、舞花の堂には入った教え方に感心していた。
「いや、前にセイッチ相手に同じようなことやっているし……それに、自分の復習にもなるし……」
「……そうだよね。
 入試、二年とか三年の範囲ばかりからでるわけでもないんだよね……」
 樋口明日樹は楓のほうに向き直って、国語の長文問題を解く時のコツなどを、問題集の実例を一緒に見ながら、訥々と説明しはじめる。
 茅と才賀孫子は、学校の勉強、というよりは、過去、難関校の入試に出た例題集を見ながら、かなりひねった数学の問題について話し合っている。
 かなり先まで予習していたらしい茅を除けば、この中では孫子が、一番成績がよさそうだった。茅と孫子の二人は、主要科目については、ほかの皆に教えて回れるだけの知識を、すでに得ている。
「成績優秀」とまではいかないが、そこそこの点数を平均してとる実力を持つ栗田精一と堺雅史は、それぞれのペースで問題を解いたり、わからない部分を手の空いた上級生に聞いたり、まれに、他の三人の簡単な質問に答えたりしている。

 そんな感じで昼過ぎから始まった勉強会は、最初のうちごねていた面子も含めて次第に熱を帯びてきて、夕方遅くまで続く。
 日が暮れ始めると、真理が夕食の支度をはじめる前に、「今日はとーちゃんが帰って来るんで……」とまず飯島舞花と栗田精一が席を立ち、それを機に、堺雅史、柏あんな、樋口兄弟、加納兄弟も帰る支度をし始める。
 一同が荷物をまとめてぞろぞろと玄関に向かうと、
「……あら? 帰るの? みんな、こっちでご飯たべていってもいいのよ……」
 と、真理が顔を出した。
「いえいえ。いつもご馳走になってばかりだし、また明日もお邪魔しますので……」
 荒野が一同を代表してそういい、全員、真理に挨拶をして帰路に就いた。

 その日の夕食が終わると、楓はそっと狩野家を抜けだし、荒野たちのマンションに向かった。昼間、荒野に合図された、ということは、何か新しい動きが起こったか、それとも、楓の手が必要とされている、ということであり……。
 エレベーターに乗り、荒野たちの住んでいる部屋のインターフォンを鳴らす。
 すぐに玄関の扉を開けた荒野は、楓ではなく、楓の背後を見て、こういった。
「……なんであなたまでついてきているんですか、荒神さん?」
 楓はその時まで、すぐ後ろに荒神がついてくる気配を、関知できなかった。

「クラスメイトになる予定の人々の背後関係を自分たちの手で洗い直す」という荒野の示した案件は、実に納得のいく処置だと思った。相手は自分らと同じく一族の関係者。しかも、その中枢である六主家が直に出てくる可能性すらある。荒野は、
「……百中八九、無駄足になるとは思うけど……」
 と前置きしたが、安全確保のために打つ手は、無駄足になったほうが、むしろいいのだ。なにより、楓と茅が転入する予定のクラスは、香也が属するクラスでもあり……周囲の安全を確認することは、楓自身の意志にも適った。

 荒野が大まかな方針を伝えると、茅はすぐさまノートパソコンを持ち出し、ネット上の地図を取り込んで今後チェックすべき生徒たちの住所にマーキング、効率よく調査できるように、人数ごとにエリアを分け、荒野と楓に示す。
 荒神もしきりに感心していたが、たった今聞いた荒野の構想を咀嚼し、その場であっという間に実行可能なタスクに変換する茅の機転は、楓も驚かせた。
『……この人……知識だけでは、ない……』
 思えば、野呂が初めて姿を見せたときも、茅は、いつの間にか全員の動向を把握し、コントロールしていたような節も、あった……。
 楓は、茅のことを最初「任務として守護すべき存在」としてみていたが、この頃では「体を張ってでも守る価値のある存在」として、認識を改めはじめている。
 少なくとも楓自身は、なんの予備知識もない状態で、荒野のごく簡単な説明だけを受け、咄嗟に今茅がしたような提案を行うだけの能力や柔軟さに欠けている……。

 早速その夜から、楓と荒野は動いた。
 茅がプリントアウトした地図のコピーを手に、マンションに居る茅の管制を携帯電話で受けながら、一人、また一人と生徒の周辺の人々……それは、生徒自身や生徒の家族、それに、たまたま近所に住んでいた人たちだったりするわけでだが……が一人きりになる時間に忍び込み、針を打って身動きを封じた上で暗示をかけ、質問を繰り返す。
 そうした単調な仕事を、楓と荒野は、その日のうちにそれぞれ十人以上立て続けに行い、精神的にも肉体的にもかなり疲弊して、日付が終わる前になんとか帰還する。
「……結構結構。二人とも若いのに手練れだねぇ……。
 いいペースじゃないか……」
 荒野のマンションに帰ると、いまだに居座っていた荒神が、拍手をして二人を出迎えた。
 荒野も楓も疲れきっていて、荒神のねぎらいにまともに答える気にならなかった。

[つづき]
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