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髪長姫は最後に笑う。第四章(34)

第四章 「叔父と義姉」(34)

「……さて、次の質問だが……」
 さっきからしゃべっているのは大清水という教師だけだった。むっつりとした大清水の表情をして淡々と言葉を紡ぐ大清水の表情は読みにくい。
「……何人かの先生方から、才賀孫子君、加納茅君、松島楓君の三名が、年末、商店街で労働に従事していた、との目撃報告がなされている。
 君らの年齢を考慮すればわかると思うが、もちろん、特殊な事情でもないかぎり、当校の生徒はバイトを禁止されている。その点について、なにか説明すべき事はないかね?」
「よろしいでしょうか?」
 才賀孫子が片手を上げて発言を求めると、大清水先生は頷いて発言を認めた。
「第一に、あれはわたくしたちの方から自発的に申し出た行動ではなく、知り合い経由で商店街の方々に頼まれたものです。
 第二に、あらかじめしかじかの報酬を約束され、雇用契約を結んだ上でのお仕事ではありませんので、バイト、という表現は不適切ではないかと思います。
 第三に、商店街の方々のご依頼を受ける際、保護者の許可も取ってあります。
 第四に、商店街の方々のご依頼を承った時点で、わくしたちはこの学校への転入手続きを終えていません。よって、この学校の規則に縛られるいわれはないと思います」
 才賀孫子の年齢に似合わない堂々とした態度と、理路整然とした話しぶりに、大清水以外の教員が毒気を抜かれたような顔をして、口を半開きにする。
「お……ぼくも、よろしいでしょうか?」
 と荒野も片手をあげ、大清水が頷くのを待ってから発言しはじめる。
「才賀さんのいうとおり、ぼくも、たまたまその現場にいあわせたのですが、……商店街の方々が才賀さんたちがお世話になっている家に押しかけてきて、是非にと乞われたので……彼女たちは、しぶしぶ引き受けていました。
 商店街の方々にご確認していただければ、真偽のほどはご確認いただけるかと……」
「それでは、あの商店街での行為は全て奉仕活動であり、金品の授与は一切なかった、というのかね?」
 間髪を入れず、大清水は問い返してくる。
「いいですか!」
 松島楓が片手を上げた。
 楓は、基本的に目上の者には服従する。このような場で自発的に発言を求めるのは、珍しい。
「お金を貰ったか、貰っていないか、ということでいえば……最終的には、確かにいただきました。
 だけどそれは……あくまで、お礼として、結果として、頂いたもので……わたし、そうしたお礼を頂かなくても、商店街のみなさんに喜んでいただいただけでも、とても嬉しかったんです……。
 でも、それって……誰かに喜んで貰うことって……悪い、いけないことなんですか?」
 楓は、半ば涙ぐんでいた。
「あー。さらにご説明しますと……」
 三島百合香が咳払いをして、補足説明をし始めた。
「楓は、施設から狩野家に下宿させてもらっている身分であり、他の三人とは違って、小遣い銭にも困るような境遇です。
 その楓に、向こうさんからの差し出された謝礼を拒めというのは……そっちのほうが少々非人道的、非教育的な扱いで、問題があるのではないでしょうか?」
「なるほど……。
 松島君は、苦労しているわけですね……」
 大清水は楓の書類を確認する。
 書類上、楓は、それまで籍を置いていた加納涼治の経営する私立孤児院が閉鎖されたため、涼治の計らいで狩野家に下宿していることになっている。
「この、松島君の親権者の方は……」
「楓が元居た施設の職員の方かなにかだと思いますが……詳しいことは、弁護士にでも確認してみませんと……」
「うーん。どうもこの書類ではわかりにくいのだが……この、加納君たちの親権者でもある加納涼治氏が、松島君の現在の生活費を負担している……そういう理解で、正しいのかね?」
「その通りです」
 荒野は首肯すると、
「……この件については、特に問題はないように思われますが……」
 大清水という教師は、荒野の髪を話題にした時と同様、ごくあっさりとそういい、背後に座っているタヌキ校長とキツネ教頭に振り返る。タヌキ校長とキツネ教頭は顔を見合わせて、頷きあった。
『……この大清水という先生……』
 荒野は内心で納得する。
『……納得いかないことがあれば、追求はする。
 けれど、全く話しが分からないってタイプでもない……』
 校長と教頭の反応から考えても、多分、現場での判断は的確な方なのだろう……。
『……いわば、たたき上げの軍曹、といったところかな……』
 そうした現場に強いタイプは、あまり出世はしない……という意味でも含めて、荒野は自分の担任になる予定の教師を、そのように評価する。規則遵守で融通はあまり利きそうにもないから、生徒にはさぞや嫌われていることだろう……。
「……わたしの方からは、以上ですが……他の先生方の方から、なにか彼らにお聞きしたいことは……」
 他の三人の教員が首を振ったことを確認してから、大清水先生は荒野たちを立たせた。
「……それでは、これより教科書を配布します。職員室まで来てください」
 大清水先生がそう宣言すると、他の教員たち、特に若い岩崎硝子は、明らかに安堵の表情を浮かべた。
 ……どうやら荒野たちを、よっぽど扱いにくい生徒のように想像していたらしい。
 校長と教頭の二名を残し、残りの全員がぞろぞろと校長室を出て、隣の職員室に向かった。

 職員室で、大清水先生と岩崎先生から教科書一式の入った紙袋を拝領する。
「体操着や上履きなどは、こちらの指定店で扱っているので、各自新学期までに用意するように……」
 大清水先生は、例によって事務的にいってプリントを配る。
「みんな、しっかりしていますねえ。
 先生、感心しちゃった……」
 岩崎先生は、校長室から出た途端、目に見えて緊張がほどけ、軽い口調でそんなような事を話しかけてきた。茅と楓の担任になる予定の女教師は、若いということもあってか、大清水先生とは対照的に、友達感覚で生徒と付き合おうとするタイプのようだ。
『……生徒に舐められていなければいいけど……』
 岩崎先生に対しては、荒野はそんな感想を抱いた。

[つづき]
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