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ぼくと彼女の、最後の前の晩 (4)

ぼくと彼女の、最後の前の晩 (4)

「君は、残酷だよ」
 彼女の後頭部がぼくに告げる。彼女はぼくの胸に背中をあずけ、方までお湯につかりながら、こちらをみようともせず淡々と続けた。
「一見、にこやかで、穏やかで、誰でも受け入れるようでいて、でも、いざ懐に入ってみると、頑として自分の領域に他人を受け入れようとしない……。
 そんなんじゃ、つき合っているこっちは疲れちゃうよ」
 そのまま、彼女はずるずると体をお湯に沈め、顔の半分までも沈め、ぶくぶくと盛大に泡をたてて、お湯の中で、なにごとかを、いった。

 ……当然、ぼくには、そのとき彼女がなにをいっているのか、聞こえないわけだが。

「聞いている? 手応えがないの、君には!」
 突如、お湯から顔を上げた彼女が、低い、しかし、力の籠もった声で、そう囁く。
「わたしにも、ほかの誰にも心を開かないくせに、そのくせ、誰にでも半端に優しくて……」
 彼女が、お湯の中で力無くぐったりとしているぼくの男性を掴み、太いため息をつく。
「……やはり君は残酷だよ……」
 しばらくの沈黙。
「どうしてなにもいわないの? わたしってもう喧嘩する価値もない女? 君にとって!」
 ……明日、ぼくを見限って別の男の元に走る女に、いまさらぼくがなにをいえるというのだろうか?
「……ごめん。わかってる。情緒不安定だ、わたし。今、ここで、こんなこといっても、もうどうしようもないのに……」
「泣くなよ」
 そういって、ぼくは彼女の首に両腕をまわす。
「ほら、また。そうやって半端に期待もたせる。でも、そうして優しくしてくれても、君は、わたしなんか見てやしないんだ……」
 彼女はしゃくりあげ、しばらく間を置いてから、
「本当に、ごめん。最後の晩なのに。わたし、混乱している。もうちょっとこうしてて、落ち着かせて」
「ん。まあ、のぼせない程度になら」
 ふ、と、彼女がうすく笑う気配がした。
「……そうだね……」

[つづき]
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