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競泳水着の誘惑 (20)

競泳水着の誘惑 (20)

「あー。舞花……さん」
 未だに、舞花を名前で呼ぶことには、抵抗を感じる。
「そろそろ、動いていいかな?」
「あ。……うん」
 舞花のほうも、多少は動揺している。あまり表面には出していないが、あんな他愛のないじゃれ合いをした後でも、栗田との距離を測りかねているところがあった。
「まだまだ痛いけど、たぶん、大丈夫。かなりなれてきた感じ……かな?
 動かないと、そっちも気持ちよくないんだろ?」
「いや、こうしてじっと抱き合ったまま、というのも結構いいんだけどね。でもそれだと、その、……」
 栗田は、上目遣いに、舞花の表情を伺う。
「……ここでやめたら、最後まで、っていうことには、ならないんじゃないのかな?」
 実際、栗田の実感としては、さっきのお馬鹿な会話をしたことと、今現在、舞花と繋がった状態であることで、性行為の最中であること、などは、実はどうでも良くなってきている。多少、自分のものがすっぽり舞花の中に収まった、ということへの安心感や充足感もあるが、それ以上に、
 ──……舞花が舞花であり、自分が自分である以上、こんなもん、いつでもできる行為じゃないか……
 今の栗田は、照れも衒いもなく、そう思ってしまえる。

 ほんの数時間前には、想像すらできなかった境地である。
「いわれてみれば……そうだな。
 せっかく苦労して、痛い思いをして、全部はいったのに、最後までしないというのも、もったいないか……」
 屈託のない栗田の表情に、舞花はしばらくに瞼を開閉させていたが、それから一人で頷いて奇妙な納得の仕方をすると、言葉を続けた。
「慣れるとよくなる、っていうし、なにもしなければ、慣れもしない、か……。
 まだ痛いけど、痛いだけで終わるのも悔しいから、続けよう、セイッチ」
 こういう言い方は、いかにも舞花らしい、と栗田は思う。
「第一、わたしは、もっとセイッチを感じたい」
 いや、そういう聞いていて赤面するようなこと、真顔で目を合わせたままいわないでください、舞花さん。抱き合って、これ以上ない、というくらい至近距離に、あなたの顔があるんですから……。
 自分の頬が熱くなるのを自覚しながら、栗田も対抗して、真顔で、
「それで舞花さんは、上になるのがいいですか? それとも下になるのがいいですか?」
 と、聞いた。

 もちろん舞花は、無言のまま、渾身の力を込めて、栗田の頭をはたいた。


[つづき]
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