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今は亡き友の妻 (最終回)

今は亡き友の妻 (最終回)

 帰路、助手席で、夢をみた。全部を覚えているわけではない。けど、昔のおれ自身と、良樹とに出会った。ガキの、病院暮らしの頃の、青白い顔をした痩せこけたおれ。高校卒業前後の、どうにか奨学金受給の審査をパスした頃の、生意気盛りのおれ。それに、知り合った当時とほとんど変わらない、良樹。その夢の中で、あいかわらず丸っこい体型の良樹に、おれはいった。
「なあ、良樹。いろいろあって響子ちゃん抱いちまったよ、おれ」
「まったく気にならないっていえば嘘になるけどさ」
 生前のときとまったく変わらない様子の夢の中の良樹は、いかにも「奴ならいいそうなこと」を、いった。
「君が冨美子に逆らえないのは今にはじまったことではないし、それに、響子だって、そろそろ自分の人生を生きないと。響子、ぼくと知り合う前は生まれた家に、ぼくと知り合ってからはぼくに盲目的に従うことで、精神的な安定を得るタイプの女性だからさ。ぼくが一緒に居てあげられればどうにでもしてあげられるんだけど、もうそういう訳にもいかないし。もうそろそろ彼女も、自分自身の人生に向き合っていい頃だと思う。リスクも込みでね」

 まったく、死んでからも嫌みなぐらいに出来過ぎた奴だよ。お前さんは。

「目、さめた?」
 運転席の冨美子がいう。
「なんかいい夢でもみた。顔が笑ってた」
「ちょっと、昔のことをね」
「もうすぐ着くわよ」
「ん」
 おれは煙草に火をつける。
「良樹にあった。響子を抱いた、といった」
「なに? 夢のはなし?」
「ん」
「馬鹿正直ねぇ、あんたも」
 もっとも、上着のポケットの中に、いつの間にか入っていないはずのないメモが入っていた事は、良樹にも冨美子にも告げていない。メモには、響子の字で携帯の番号とめアドが記されていて、トイレで内容を確認したおれは、その内容を携帯に登録して、メモはトイレに流した。
 だって、浮気や不倫はこそこそやるスリルがいいんだし。それに、あれだ。そろそろ響子も自分自身の人生を生きていかなけりゃならないわけだし。リスク込みで。

「やぁねぇ。いやらしい顔しちゃって。今日のこと思い出してたんでしょ。すけべ」
 冨美子がなんか見当違いのことをいっているが、なに、いわせておけばいい。
「それよりもかえったら、今日、響子ちゃんにしてくれたこと以上のこと、してくれないと怒るわよ」
「をい!!」
 思わず、おれは叫んだ。
「おれを過労死させるつもりですか君は!」
「うーん。この場合、過労死というよりも腹上死のが近いと思うけど……」
 なお、悪い。
「今日のあれ、みてたらかなり興奮してきちゃったし、わたしも。それに、……」
 冨美子は、この女らしい笑顔を浮かべる。おれは、この顔に弱い。というより、逆らえない。逆らえたためしがない。
「わたしたちもそろそろ、子供欲しくない?」

 そうかそうくるか。


[おしまい]
目次





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