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彼女はくノ一! 第六話 (115)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(115)

「……なんじゃ、これは……」
 しばらく、香也と楓が肩を並べて勉強に専念していると、突如、ぬっと赤毛を割り込ませるようにして、イザベラが二人の間に強引に隙間を作ってきた。
「……おー……」
 イザベラは、血走った酔眼を炬燵の上に広げられた教科書やノートの上に走らせ、
「これは……学校の、テキスト……かぁ……」
 などと、呟く。
 そして、いまだ酒臭い息を吐き出しながら、「うひゃひゃひゃひゃ」と笑い声を上げはじめた。
 香也たちの教科書に書いてある内容は、文法的にはともかく、ネイティブのイザベラにいわせれば、「おおよそありえない内容」の連続であり、そのナンセンスさが、酔いの残っているイザベラの脳を刺激している。
「ちょっと、もうっ!」
 楓が珍しくむっとした表情で、強引に割り込んできたイザベラの肩に手をかけて、後に引き戻す。
 楓の性格では、真面目に取り組んでいる勉強の妨害行為には、厳しい態度で臨むことになる。
「……いや。すまん、すまん。
 別段、悪気はないんじゃが……」
 イザベラは、弛緩した笑顔を見せながら頭を掻き、素直に謝ってみせた。
「いいですからっ!
 眼が醒めたのなら、顔でも洗ってきてくださいっ!」
「……うぃーっす……」
 イザベラが気の抜けた返事を返すと同時に、声を聞きつけた真理が居間に顔を出し、
「……あら、起きたの?
 ご飯、食べられます?」
 などといいつつ、イザベラを洗面所に案内しだした。
 もう一人の泥酔者であるジュリエッタは、いまだ部屋の隅で一升瓶を抱えて布団にくるまれながら、無邪気な寝顔を見せていた。

 顔を洗って居間にかえってきたイザベラは、真理の用意したトーストとインスタント・コーヒー、ポトフの朝食を盛大にかきこみながら、「すぐ返すから」と楓から教科書を借りて、パラパラとめくり、
「……おぉーっ……」
 と、何故か感歎の声をあげてから、先の言葉通り、教科書をすぐに楓に返す。
「……なるほどのぉ。
 日本じゃ、こういう教材になるんじゃのぉ……」
 妙に感心した声をあげながらそんなことをいい、
「……なんだったら、お手伝いしようかの?
 わし、いちおー、ネイティブじゃけん……」
 などと提案してくる。
「それは……。
 その、そうしていただければ……」
 楓の対応は、らしくもなく、歯切れが悪い。
「……こういうのあれじゃろ? こっちじゃ、一宿一飯の義理とかいうのじゃろ?
 ばっちゃんは、そげにいうとったが……」
 そんあことをいいつつ、イザベラは旺盛な食ををみせて朝食を平らげている。

「……はぁー。
 食った食った……」
 食後のコーヒーを飲みながら、イザベラは満足そうな声をあげ、
「……どれ」
 と、再度、楓から英語の教科書を受け取る。
「……姉崎のモンは、各地で現地に溶け込むんを身上としとる。
 語学は、アイデンティティの根幹に関わるスキルなんよ……」
 と前置きしてから、
「……こげなもん、理屈の前に、身体で覚えこませる!」
 と言い切り、教科書の内容を流石に流麗な発音で、一気に読み出した。
 区切りのいいところまで読み終えると、そこで一旦、止め、
「……今度は、ワン・センテンスづつ細切れに、ゆっくり読むから、続けて復唱する」
 といい、いった通りのことを実行した。
 香也と楓、それに、現象と梢までもが、何故か素直にイザベラの言葉に従い、イザベラの朗読に続けて復唱する。
「……うむ。
 こっちのおなご組は、問題なか」
 復唱を聴いたイザベラは、偉そうな口調でそう断言し、香也と現象に向かい、今度は一人づつ、教科書を読ませ、単語一つ一つの発音を直していった。
 日本語にはなくて英語にはある発音は多く、香也と現象も、そこを徹底的に繰り返し指摘され、「そうではなくて、こう」と、実演混じりで修正される。
 いつのまにかイザベラが場の主導権を握っていた形だが、教授法は意外と正当派であり、また、イザベラの態度も、意外に熱心でもあった。
 確かに、これだけしつこく繰り返せば、いやでも憶える。
 ……強引なところはあるけど、悪い人ではないのかも知れない……と、楓は、イザベラについて認識しはじめる。

「……お茶でも、いれましょうか?」
「……そう、ですね。
 なんか、邪魔しちゃ、悪いですし……」
 香也と現象の指導をイザベラが買って出たことで、なんとなく暇になった楓と梢は、どちらともなくそんなことをいいだす。
 楓も梢も、語学に関しては、すでにしっかりとした教育を終了しており、少なくとも学校で習うレベルのことは、楽々とクリアしている。
 イザベラが香也たちの指導をしている間は、二人とも手持ち不沙汰になるのだった。
 二人は急須と湯呑みを用意し、自分たちの分と、それにもっと前から成り行きを見守っていた舎人の分まで含め、三人分のお茶を用意して、本格的に休憩の体勢に入った。
 梢と舎人は「現象の監視」が本来の任務であり、この場から離れられない。楓は、香也がここにいる限り、ここを離れるつもりはない。
「……なんか、おかしなことになってますね」
「……本当に……」
 楓と梢は、勉強の邪魔にならないように、小声になってそんなことを囁きあいはじめる。
 二人は当然、お互いの顔と立場を知り合ってはいたが、この組み合わせだけでじっくり話し合う機会は、これがはじめてのことだった。


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