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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(374)

第六章 「血と技」(374)

 雨も降っていることもあり、それ以上、会話が弾まないまま少し足早にマンションへと向かう。
「……おっ。
 おにーさんたち……」
 そして、マンションのほど近い路上で、飯島舞花と栗田精一の二人と遭遇した。二人のうち、舞花の方は荒野たちと同じマンションに住んでいるわけで、「偶然」ではあったものの、決してあり得ない邂逅ではない。
「なに? 買い物の帰り?」
「ああ。そう」
 荒野はそっけなく返答する。
「これから、夕飯の仕度。
 そっちは……勉強、か……」
「まあ、一応」
 舞花が、屈託のない笑みを見せる。
「気分転換も兼ねて、外でご飯でも食べようかと思ったところ。
 昨日からずっと、部屋に籠もってお勉強していたからね……」
 この二人が週末や休日、舞花の家に入り浸っていることは周知の事実だし、規範的な学生たらんとして、二人して真面目に勉強をすることもあるらしい。明日からは期末試験がはじまるので、舞花の話しも別に嘘というわけではないだろう。
「……それでは……」
 唐突に、茅が口を開いた。
「……ちょうどいいから、うちに来るの。
 どうせ、これからご飯を作るし、二人分も四人分も、手間はそんなに変わらないの」
「……おや、まぁ……」
 舞花は、小さく呟いて、栗田と顔を見合わせる。
「……そっちさえ、よかったら……こっちは、別に異存はないけど……」
「……まーねー。
 せっかくだから、ご馳走になろう……」
 珍しく戸惑った様子を見せる舞花に、栗田が話しかける。栗田はこれで、鈍いわけではない。もっと大勢の時ならともかく、この四人だけの時、食事に誘われる。それも荒野にではなく、茅から……という事実の裏に、何事かあるのではないか……と、想像しはじめていた。
「何か、話しがあるのかも知れないし……」
 それでなくとも、荒野たちの境遇は微妙、かつ、特殊である……ということを、舞花や栗田は、知っている。自分たちのような平凡な、年端もいかない学生に出来ることは少ないのであろうが……荒野たちに協力できることがあるのなら、力になりたい……という心理も、この二人には共通していた。
「そう……だな」
 舞花は、ほんの数秒ほど何かを考える表情になり、その後、きっぱりとした口調でいった。
「そうと決まれば、わたしたちも、荷物持つよ。
 料理も、手伝うし……」
 舞花と栗田は、荒野たち二人からいくらかの荷物を分けて貰い、荒野たちと一緒に、出てきたばかりのマンションに戻りはじめる。

 四人で荒野たちのマンションに入ると、茅はリモコンで暖房を入れ、真っ先にお湯を沸かして、お茶をいれる準備をはじめる。今頃、一年で一番冷え込む時期でもあり、四人の身体は冷え切っていた。
 荒野は運び込んだ荷物をとりあえずキッチン・テーブルの上に置き、茅の指示に従って、すぐに使うものだけを残し、手慣れた挙動で冷蔵庫の中に格納していく。
 舞花は、茅とこれから作る料理について相談しながら、買ってきたばかりの食材に包丁をいれはじめた。仕事で不在がちな父親との二人暮らしが長い舞花は、自炊歴も相応に長く、手つきも手慣れていた。
「はいはい。
 キッチンもそんなに広くないし、男子は向こうで休んでいて……」
 荒野と栗田、男子二名は、早々にキッチンからリビングへと追い出された。追い打ちをかけるように、茅が、入れ立ての紅茶を二人の前に持参して、すぐにキッチンに戻る。
「……それで、なんかあったんですか?」
 茅から手渡されたティーカップをソーサーごと両手で抱えながら、栗田は、心持ち声をひそめて荒野に尋ねた。そろそろ、暖房が効きはじめている。
「なにかあった、といえば……こっちの回りでは、いつもいつも何かしらはあるんだけど……」
 荒野は、キッチンに並んで立って本格t的に料理をはじめた茅と舞花の背中に漠然と視線をやりながら、珍しく歯切れの悪い言葉を並べた。
 実際、昨日などもホン・ファ、ユイ・リィ、ジュリエッタらの海外姉崎組の乱入があったばかりであり、「常に何事かが起こっている」のが、荒野の日常である……と断言しても、過言ではない。
「……だけど……」
 栗田は、荒野のためらいを、容易に見抜く。
「……そういう細かいこととは別に、何か大きな悩み……っていうか、考え事がある、と……」
 荒野は、栗田の顔をまじまじと見つめた。
「……おれ、徳川さんみたいに頭よくないし、有働さんみたいな問題意識も持ってないっすけど……頼りないっつうか、実際、あんまり力にはなれないでしょうけど、それでも、話すだけで気が楽になることも、あるんじゃないっすか?」
「そう……だな」
 荒野は、軽くため息をついた。
 今の自分は、栗田のような一般人の性根からみても、途方に暮れて悩んでいるように見えるのだろうか……。
「……まあ、そんなこんなで、そっちも知っての通り、こっちではいろいろあるわけで……」
 軽くため息をついた後、荒野はゆっくりと順序立てて、今までの出来事と現在の荒野の境遇、それに、思惑や戸惑いなどについて、栗田に説明していった。同様の説明は、昨夜、お隣りの狩野真理にしたばかりだったし、その真理よりは、栗田の方が、荒野たちの周辺事情について、知っていることが多いので、端折れる部分も多く、途中から、少し手の空いてきた舞花が口を挟んできたり、栗田がより詳しい説明を求めて来たりしたが、夕食の準備が整う頃には、一通りのことを説明し終えることが出来た。

「……よく、わかんないだけどさ……」
 四人でキッチン・テーブルを囲み、できたての料理に箸をつけるようになると、舞花は、開口一番、荒野にそう尋ねる。
「それでおにーさんは、一体何を悩んでいるわけ?」


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