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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(375)

第六章 「血と技」(375)

 茅と舞花の合作による夕食の準備が整い、四人で食卓を囲みはじめると、自然、話題は荒野の話しの続きになる。
「……一体、何を、って……そりゃ……」
「荒野は、悩んでいるのではないの」
 曖昧に言葉を濁そうとする荒野とは違い、茅のいい方はきっぱりとしたものだった。
「荒野は、戸惑っているの。
 自分の立ち位置を、なかなか受けいれることができなくて……」
「……そういうこと、なのか……」
 舞花は箸を止めて、首を少し傾げる。
「……おにーさんの、その、生い立ちが特殊なのは、わかるけど……。
 そんなの、いまさら、あーだこーだといっても、何にも変わらないわけだし……」
 舞花は、考え考え、一言一言区切って、言葉を押し出す。
「……だって、おにーさんは、おにーさんだろ?
 いや、わたしだって、おにーさんのこと、そんなに深く知っているわけではないけど……。
 でも、知っている限りでは、おにーさん、そんな悪いことをしそうな感じでもないし……いや、逆に、誰かが悪いことをしようとしたら、身体張ってでも止めるタイプだし……おにーさんに任せておけば、そうそう悪いことにはならないと思う。
 その……仮に、今後、何かまずいことになったとしても、それは、他の誰かがやってもまずくなるような事態な筈で……」
 訥々と語られる舞花の言葉に、栗田がうんうんと頷いている。
 この二人は、直接的に、あるいは、間接的に、荒野の「活躍」に接している。
 実際にしてきた「行動」は、何よりも雄弁にその人の内面と価値観を物語る……ということを、舞花と栗田は知っていた。
 この二人は、「ここに来るまでの荒野」が何をしてきたのかは知らなかったし、また、知りたいとも思っていなかったが……。
「この二人が知る荒野」とは、知り合いが窮地に陥っていると知れば脇目も振らず突入し、普段から面倒見が良くて、何かと扱いの難しい知り合いとも、ぶちぶち愚痴をいいつつも結構付き合いが良かったり、難しい局面にぶちあたっても、なんだかんだと解決してしまう……ひとことでいうと、「超高性能お人好し」な少年、なのであった。
 この二人にとって、荒野の立場の難しさ、とか、一族関連の事柄は、話しには聞いていても、あまり実感の伴わない「遠い」出来事であり……だとすれば、「二人が普段接する荒野の姿」から、判断するより他ない。
「……っていうか……今、おにーさん以上にうまくやれそうな人って……他に誰か、いるの?」
 最後に、舞花は、そう締めると、荒野は返答に詰まった。
 結局は……そこにいきつくのだ。
「荒野の代わりは、いるのか?」
 いないから、多少、自信がなくとも、手元不如意でも……自分自身でやるよりほか、ない……。
「……おれ、はっきりいって、そっち方面のことは、あんまりよくわかっていないと思うけど……。
 こういういい方が正しいかどうかもよくわからないのだけど、おれ、来年度から水泳部の部長、やることになって、一応、まーねー、来年は三年生だから、代替わりっていうか、他の部員にせっつかれてしかたなくやるわけだけど、おれなんかに勤まるのかな? とか、おれでいいのかな? とか思いつつ、それでもやるしかないわけで。
 あ。いや、何がいいたいかというと、この前、まーねーにいわれたんだけど、部活の部長とか、ああいうのは飾りで、誰かしらが『やっている』ことに意味があって、そこにいさえすれば、それで半分は成功なんだ、って……。
 えっと。
 つまり、何がいいたいかというと、そういうまとめ役っていうのは、積極的に何かをするってわけではなくて、いや、してもいいんだけど……いざという時にさっと動くのはいいけど、普段の、本当の役割は、黙ってみんなを見守ることだって、まーねーがいっていて……」
 一族の行く末と学校の部活とではスケールに差がありすぎるし、論旨は蛇行し、お世辞にも理路整然とはいえないしゃべり方、では、あったが……それでも、荒野には、なんとなく栗田が言いたいことが、了解できた。
「荒野は、高望みしすぎるの」
 今度は茅が、ぽつんと呟く。
「今までも、うまくいきすぎているくらいなのに、それ以上を、望んでいる」
「……そういう風に、いわれちゃうと、あれなんだけど……」
 荒野としては、苦笑いを浮かべるより他、ない。
 茅が指摘する通り、「今まで、うまくいきすぎている」側面は、否定できないのだ。
 荒野は天井の方に視線を向けて、
「……ここまでうまくいっているから、かえって、さらに上を望んじゃうのかもな……」
 などと、呟く。
 いろいろな意見を聞いて、若干ではあるにせよ、心理的にも余裕が出てきた。
「これだけ難しい状況。どこかで失敗しても当然」
 茅は、平坦な口調で続ける。
「それを、パーフェクトにやろうとする荒野は、欲深い」
「そうか」
 荒野は、茅の言い方に、思わず吹き出しそうになる。
「おれは、欲が深いのか……」
 自分の言動を客観的に観ること……観ようとすることは、意外に重要だな……と、荒野は思った。
「……さて、欲深いついでに、冷める前にご飯、食べちゃおう」
 舞花が、故意にはしゃいだ口調をつくって、みんなを即す。
「せっかくの、茅ちゃんと二人での、共同製作なんだから……」
 そういえば、話すのに夢中で、みんな、箸が止まっていた。
 四人はなんとなく顔を見合わせて頷きつ合い、中断していた食事を再開する。それ以降の会話は、学校のこととか今日の料理のこととか、つまり、いちもと同じような他愛のない内容に移っていた。
 メニューは、カレイの煮付け、だし巻き玉子、ひじきとかいわれ菜の和え物、肉じゃが、きんぴら牛蒡、大根とわかめの味噌汁。このうち、だし巻き玉子と肉じゃがが舞花の作で、残りは茅の手による。
 三島に料理を習った都合で、茅のレパートリーは和食が中心となっており、普段の夕食も、ほとんど和食だった。荒野も、もともとあまり食べ物には拘りがある方でもなかったが、今ではすっかり和食に馴染んでいる。
「……うちのおやじが好きなものばかり作ってたら、どっかの居酒屋のメニューみたいなのしか作れなくなっていた」
 などという舞花は、父親と二人暮らしが長いので、必要に迫られて自炊を憶えたクチだった。


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