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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(378)

第六章 「血と技」(378)

 そういくらもしないうちに、香也、楓、孫子の狩野家の三人もマンション前に集合する。香也の顔に若干、疲れの色が見えているようだったが、楓と孫子はいつもと変わらない様子だった。
 話しを聞けば、楓も孫子も、特に試験のための勉強はしておらず、かえってそのために、香也の方にプレッシャーがかかったような形だった。とはいえ、楓や孫子が、香也に「試験前日の徹夜」などという不健康な真似をさせる筈もなく、茅や荒野とは違い、狩野家の三人は、昨夜もいつも通りの時間に就寝したという。その分、香也が起きている時間は、一日みっちりと楓と孫子に勉強を見て貰っていたようだが……。
『……なるほど……』
 そこまで事情を聞いて、荒野は、今日、香也の顔色がすぐれない理由を納得した。
 香也のことだから、いろいろと世話を焼いてくれる二人に申し訳なくて、断りきれなかったのだろう……と。
 そもそも、ごく最近まで自宅で勉強する習慣がなかった香也に、マン・ツー・マンという逃げも隠れもしない環境で、長時間にわたり、つけに向かうようしむけたら……香也自身もあまり自覚がないのかもしれないが……そんなことをしたら、確実、かつ、効果的にストレスを蓄積することができるだろう。
 楓で孫子に悪気はないのだろうが……自分たちの尺度で、ものを判断しすぎるのだ。楓や孫子なら、一日中、だろうが、何日もぶっ通しで、だろうが、書類を広げてその内容を暗記しようとすることも可能かも知れない。少なくとも、その程度のことが出来るくらいの体力と集中力を、この二人は持ち合わせている。
 しかし、一般人の集中力、というのは、半日とか丸一日、あるいはそれ以上、持続したりするものではなく、成人した者でも、二時間から三時間がせいぜいで……まだ身体が未完成で、体力的も決して頑強とはいえない香也の場合、一時間前後、気を入れていられれば上出来、というところだろう。
 それをいきないり、「昨日一日、起きている間中、つきっきりで勉強漬け」などにしたら……その精神的疲労度は、察するにあまりある。
 そこまで想像して「さりげなく、注意しておくかな」と思った荒野が、三人に近寄ろうとすると、その前に身体を割り込ませるようにして、香也よりも一層青白い顔をした茅が、立ちふさがった。
「駄目」
 茅は、荒野にだけ聞き取れるような小声で告げる。
 荒野は、軽く首を傾げて、無言のまま「何故」と茅に問い返す。
「この三人の問題には、極力、介入しないで」
 さりげなく荒野に近づいてきた茅が、早口気味に、やはり小声で囁く。
「できるだけ、そっとしておいてあげて」
 茅にそういわれ、荒野は少し考え直す。
 おそらく、茅にしてみれば、いろろいろ微妙なバランスの上になんとか成立している香也周辺の人間関係に、荒野から介入することを阻止したかったのだろう。
 あくまで荒野の観察による所感、ではあるが……茅は、楓にも孫子にも、だいたい等分に友情を感じているらしい。
 だから、荒野にも、むやみにこの三人の関係には、介入するな……ということなのだろう、と、荒野は推察した。
 荒野としては、楓や孫子のどちらかに肩入れするつもりなど、微塵もありはせず、香也の健康状態を心配して声をかけようとしただけなのだが……まあ、慣れない試験勉強のせいで疲れている程度のことなら、さほど気にすることもないか……と、思い直す。
 試験はまだ初日だし、楓にしろ孫子にしろ、すぐに香也の体力や集中力の限界値に気づき、適切な時間をはじき出すことだろう。二人とも、香也の不調に長く気づかないでいるほど迂闊でもないし馬鹿でもない……筈、だった。
 それに、一年生の三学期の段階で、多少、試験の成績が悪くとも、まだまだ挽回できる時期でもあるし……と、ここまで考えて、荒野は、自分の思考が割と普通の受験生的なものになっていることを自覚した。進路アンケートとか佐久間佐織に進学先を推挙されたこと、同じ学年であるクラスメイトたちの雰囲気……などに作用されて、の変化なのだろう。
 そういう自分の心理の変質を、荒野自身は、むしろ歓迎している。自分の感性が、それだけ、同年代の一般人的なものへと変化している証拠だからだった。もっとも、感性が一般人的なものに近づけば近づくほど、現在、自分が置かれている複雑な状況とのギャップが大きくなり、荒野の精神的な負担もそれだけ大きくなるわけで、一概に喜ばしいばかりの変化でもないのだが……そうしたデメリットを自覚した上で、荒野は、内的な自分の変化を歓迎した。
 例によって、全員でぞろぞろ登校をしながら、荒野がそんなことを考えると、商店街の入り口あたりで、いつもの通りに玉木珠美が合流してきた。いつもと違ったのは玉木の様子で、目の下にもくっきりと色濃い隈が浮かび上がり、目蓋や口の端、頬が、断続的に痙攣するようなひきつれを起こしている。髪や肌の色つやも、一目見てそうと判別できるほどに悪くなっているし、おまけに、足元も、完全にふらついている。
 はっきりいって、香也や茅の比ではなく、疲弊した様子だった。
「……大丈夫か、お前……」
 朝の挨拶もそこそこに、荒野が代表して声をかけた。
「……だいじょーぶだいじょーぶ。
 試験前は、だいたい、いつも、こんな感じれすからぁ……」
 そういって玉木は「わははははっ」と笑い声をあげた。
 しかし、その呂律もうまく回っておらず、本来なら「こんな感じですから」というところを、「こんな感じれすから」としか、発音できていない。
 ……こいつ、この状態で試験を受けるつもりか……とか思いつつ、荒野は、とりあえず問いただしてみる。
「大方……徹夜で試験勉強でもした口か?」
 お前も……とは、あえて付け加えなかった。
「……わははははっ。
 その通りだよ、明智くんっ!
 完徹三日目の耐久レースのまっただ中なわけだっ!」
 道理で、いつもにも増して、テンションが高いわけだ……と、荒野は納得した。今の玉木の頭の中には、眠気を誤魔化すための脳内麻薬がしきりに分泌されていることだろう。
「三日目……ってことは、土曜日の夜からか……」
 荒野は、内心かなり呆れかえりながらも、聞きかえす。
「……そんな調子で試験、受けるのか、お前……」
「わははははっ。
 なに、いつものことさっ!
 心配ない、心配ないっ!」
 ハイテンションな玉木の返答を聞きながら、「そういや、いつだったかも、試験直前にヤマカケ派とかいっていたよな、こいつ……」とか、荒野は以前のやりとりの内容を、思い出している。


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