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彼女はくノ一! 第六話 (131)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(131)

「あっ!」
「いけねっ……」
「やばっ!」
 楓が何か予想外のことをしだしたら、とりあえず逃げる……という意識が身にしみているテン、ガク、ノリの三人は、楓の体が向こう側の人混みの中に放り込まれた時点でそれぞれに短い悲鳴をあげ、別個の方角に逃げにかかった。
 隣にいた太介と高橋君も、訳が分からないなりに、三人に習ってその場から退散する。
 少し距離があるところにいた佐久間梢も、めざとくその動きに応じて、逃げ出す。
 梢よりも場数を踏んでいる舎人は、梢よりも先に逃げている。 
 仁木田は、テン、ガク、ノリの三人とほぼ同時に姿を消している。
「……え? あ……れ?」
 いきなり周囲の人が激減したことに気づいた現象が、間の抜けた左右に首を振って間の抜けた声をあげた、その時……。
「……うわぁぁぁぁぁあっ!」
 という叫び声があがり、ほぼ同時に、雪崩を打つようにして、向こう側で見物を決め込んでいた一族の者たちが、どっとこちらに押し寄せてきた。
 仮にも、されなりに修練を積んできた者たちだけあって、その動きは素早く、力強い。
 すっかり油断しきっていた現象は……そのまま、踏まれた。

「……それなりに、素質はある。
 それに鼻息が荒いのも、若いうちはいいことだと思う。
 だが……」
 いつの間に登ったのか、工場の、天井部分の梁に片手をかけてぶら下がっている仁木田が、同様にぶら下がっている舎人に話しかける。
「……本人が自覚している以上に、腑抜けてるな。
 あれは……」
 現象への、論評だった。
「……おっしゃる通りで……」
 舎人は、指で自分の鼻の頭を掻きながら、何とも情けない表情になる。
「……なまじ、頑丈にできているから、イマイチ危機感が足りないっつうか……緊張感がないっつうか……」
 本人の、意識の持ちようの問題だ。
 とっさの時に、「とりあえず、逃げる」とか「遠くから、様子をみる」という発想をせず、下手すると何の工夫もなく正面から向かっていく……という傾向が、現象にはあり、そうした慢心が、緊張感の欠如としてこのような時に表面化する。
 その意味で、どんなに優れた身体能力を持ち、小手先の技術を磨こうとも、現象は、術者として、「いつまでも三流」の域を脱することができない……という現状が、あった。
 そしてその短所は……現象が、そうと自覚するまでは、改めることができない。また、舎人も、そこまで突っ込んだ意見を現象にするつもりも、ない。
「……お前は、あれをどうしたいんだ?」
 仁木田は、鋭い目線で舎人を見据えた。
 本来は監視役でしかない舎人が、本分である職務を逸脱して、何かと現象に干渉をしている……ということは、すでに周知の事実となっている。
「……まあ、その……」
 舎人は、露骨に舎人から視線を逸らす。
「……あいつに、少しでも広い、選択の余地を残しておきたい、っつうか……」
「……大概、報われねーぞ。
 そういうのは……」
 仁木田は、興がそがれた、といった態の表情を露骨に作って、呟く。

 地上では、ジュリエッタが突如来襲した人間の波濤を、器用にも、楓の服で包まれたままの長剣で、捌いている。未だ、「二本が一本も同然」の状態になっている剣を左手一本で扱っているため、フェッシングの構えに近い形になっていた。
 人が寄ってくる方向は決まっている以上、そちらに剣と体を向けて起きさえすれば、ジュリエッタの技能と身体能力なら、十分に対応できる。
 向かってくる者たちの肩や腰、足などをしたたかに叩いて、強引にでも方向を少し変えてやればいいだけの話し、だった。
 ジュリエッタの前方で、人が、きれいに左右に割れていく。
 不測の事態、であったが、ジュリエッタは慌てていない。
 むしろ……。
 この人ごみよりも、この混乱に乗じて、楓がなにか仕掛けてくる……ことの方を、警戒していた。利き腕をあけているのも、そのためだ。
 ジュリエッタは機械的に左手でこちらに向かってくる人を捌きながら、感覚をすまして、楓の気配を探ろうとしている。
 前後左右に人がいる現在の状況では、ノイズが多すぎて、どこにいるのかわからない、楓の居場所と気配を正確に把握するのは、現実問題として、不可能に近い。
 それでも……ジュリエッタには、「楓の出方を待つ」以外の選択肢は、なかった。
 このような、予想外の形で自分が守勢に立たされている……という事実は新鮮な経験でもあり、ジュリエッタは現在の自分の状況を、楽しんでいる。
 この場に何百人という人間がいるわけではない以上、この騒ぎは、すぐに収まる。だとすれば、楓は、この突発的な騒ぎが鎮静化する前に、「何か」をしかけてくるだろう。
 ジュリエッタはそのように予想し、油断することなく、周囲に、ごく些細なことであっても異変が発生していないかどうか、懸命に気を配っている。
 異変は、ジュリエッタの予測した通り、さほど待つ必要もなく、発生した。
 微かな、異音。こちらに向かってくる六角が、風を切る音。複数。連続。
 先ほどのような、多数の六角を一度に放つ、ということは、今回はしないらしい。
 楓が携帯できる数は限られているだろうから、もはや残数も限られているのかも知れない。
 一度に多数が押し寄せてくるのでないのなら……。
 ジュリエッタは、振り向きざまにつきだした利き手の指で、正確に、飛来する六角を弾く。
 音でだいたいの位置は把握できていたし、ジュリエッタの動態視力と反射神経をもつてすれば、爪先で弾いて六角の行き先をそらす……程度の芸当は、造作もなく実行できる。
 楓も、その程度のことは推測がついているはずであり……。
『……来た』
 足下から、くないを構えた楓が、ジュリエッタの懐めがけて飛び込んでくる。
 楓がジュリエッタに気取られずにここまで近寄れること、それに、ジュリエッタの注意を逸らす行動の後、すぐに攻撃を仕掛けてくること……も、ジュリエッタの想定の範囲内だった。
 ジュリエッタは数瞬の間に現在の体勢での楓の攻撃可能範囲を予測し、半歩分だけ上体を反らす。
 同時に、左手で持っていた長剣を振るう。
 ジュリエッタの脳裏には、横合いから長剣に弾かれて吹っ飛んでいく楓の姿が、ありありと浮かんでいた。


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