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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(407)

第六章 「血と技」(407)

「茅や荒野が知らないだけで、荒神は他にもまだ別な動きをしているのかもしれないの」
 と、茅はつけくわえる。
「うーん……」
 荒野としては、うなるよりほかない。
 荒野にとって荒神とは、理不尽と気まぐれの塊……もっとぶっちゃくていってしまえば、災厄が人の姿をとって生きて歩いているような存在だった。
 そんな荒神が、一族の未来のことまでを考慮するほどの思慮を働かせるとも思わえないのだが……困ったことに、茅の推論も、それなりに筋道は通っていて、少なくとも積極的に反論したくなる材料はどこにもないのであった。
「まあ……茅がいうのなら、そういう可能性もあるんだろうなぁ……」
 荒野としては、そんな煮えきらない言い方をするより他、返答のしようがない。
「荒野は……荒神のことを、色眼鏡でみていると思うの。
 身近な人だから、かえって」
 茅は、荒野に、さらに追い打ちをかけてくる。
「小さなときから知っている大人だから、どうしてもそうなるのかもしれないけど……大人が、子供相手に自分のすべてをさらけ出すとも、思わないの」
 この茅の指摘は……これまた困ったことに、客観的にみて、反論のしようがないのだった。何しろ、荒野は荒神のことを、物心つくかつかないかという時期から、知っている。
 荒野が知っている荒神は……あくまで、荒神の一面にすぎない……という「理屈」は、荒野にしてもそれなりに理解はできるのだが……。
「荒野、お子さまなの」
 いつまでも煮えきらない荒野の態度みて、茅はそういって、こん、と頭をそらして自分の後頭部を荒野の胸板に押しつける。
「はいはい。
 おれはお子さまですよ、茅おねーさま……」
 荒野はのんびりした声でいって、茅の両脇に手をいれて、立ち上がる。
「……さて。そろそろあがろう。
 長湯もいい加減にしないと、のぼせちゃう……」
 荒野は両手で茅を抱えたまま立ち上がり、浴槽の縁をまたいで浴室の外へと向かう。脱衣所への出口は、両手がふさがっている荒野に代わって、茅が開けた。
 荒野は用意していたバスタオルで茅の体を丁寧に拭ってから自分自身の体を拭きはじめる。毎日のように繰り返している作業なので、熟練を感じさせる手つきだった。茅は炊事洗濯などの家事については、決して荒野に手伝わようとはしなかったが、入浴時の世話については当初からなんお抵抗もせずに荒野に任せきっている。このあたりの茅がどのような基準で判断を下しているのか、荒野にはいまだに理解できていない。
 そうして風呂から上がったら、後は寝るだけだった。二人は下着もつけずにそのまま寝室に向かう。茅が甘えたい気分の夜には抱っこ(茅にいわせると、「お姫様抱っこ」)を要求されるが、その要求がなされたのは、今までに数えるほどしかない。二人が全裸で抱き合って眠るのは、幼い頃からの習慣で、茅が、人肌を直接感じながら眠ると熟睡できるから、という理由であった。
『……こうして、改めて考えてみると……』
 おれの私生活って、つくずく茅を中心に回っているんだよな……と、荒野は認識する。三島百合香に「しっかり尻に敷かれてやんの」と揶揄されても、ろくに反論する気にならないのは、荒野自身、そういう自覚がないでもないから、でもあった。
『まあ……明日は、期末試験、三日目……』
 最近、細かいイベントはいろいろあるものの、それらは「トラブル」と呼ぶほどでもない、ごくごく小規模な波乱だった。三学期もあとわずかを残すことになった荒野の学生生活は、これまでのところ、それなりに平穏に過ごすことが出来ている、といっていい。
『……こういう状態が、いつまでも続くといいんだけど……』
 荒野は心の底からそんなこと思いつつ、その夜も眠りにおちる。

 翌日も、荒野とかや前二日と同じようなスケジュールで動いたので詳細については割愛する。前二日と違っていたのは試験が行われた科目と、夕方、沙織が帰宅してからの時間の使い方、くらいのものだったから、詳細を描写しても繰り返しになって退屈な読み物にしかならない。
 前までと違っていたのは、夕食後、静流が荒野たちのマンションを訪ねてきたこと、くらいのものだった。
 挨拶もそこそに静流を室内に招きいれた荒野は、静流が用件を切り出す前に、。
「連絡してくだされば、こちらか出向いたのですが……」
 と、切り出した。
「い、いえ……」
 静流は例によって紅茶をいれてきた茅に軽く頭をさげんがら、いう。
「こ、今回は、昨日のお礼と……それに、茅様も含めて、お話ししておきたいことがありまして……」
 静流はそう前置きしたあと、早速、用件を切り出す。
「……う、うちの者たち……野呂系の術者たちが、か、加納様の捜索に、て、手を貸してくださるそうです……」
 静流の話しを要約するすると、昨夜の成り行きから結束を固くした野呂系の術者たちの間から、誰からともなくそういう話しが出てきた、という。
「……な、何のあてもなく、いつまでも待ち続けるのも、つ、つまらないと……みなさんが……」
 例の……荒野たちが「悪餓鬼」たちと誇称している、未知の勢力について……だった。
「も、もともと野呂の者は……そういう探索や調査は、得意な方ですから……」
 他の案件で稼働している術者にも声をかけて、かなり広い範囲で虱潰しで調査をしてくれる、という。もちろん、本来の仕事のついでに……とおうパターンが多いということは、容易に察しがつくわけだが……それでもかなり大きな人数が、捜索に参加してくれる……ということは、動くに動けなかったこれまでと比較すれば、かなりの前進だった。例え、断片的な情報であっても、集まればそれなりに見えてくる構図があり……この手の不確定な要素が多い創作は、人手が多ければ多いほど、有利に働く。
 荒野にしてみれば、願ったりかなったりの申し出であった。
 茅が早速別室に下がり、すぐに現象が学校に襲撃した際の、二人の共犯者の似顔絵を手にして戻ってくる。これは、加齢予想図も含めてかなりの種類を用意してあったので、それなりに分厚い紙の束になっていた。茅は、それを封筒にいれて静流に渡した。
「……あと……」
 荒野は、捜索対象を、さらに指定する。
「……新種たちの計画に携わった関係者、あるいは、関係していた可能性がある者について、これまでの来歴や現在の居場所まで、できるだけ細かい情報を、洗いざらい調べてきてくださると……非常に、ありがたいです」


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