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髪長姫は最後に笑う。 第一章(14)

第一章 「行為と好意」(14)

「ごめんねー。うちのバカ弟が迷惑かけちゃって」
 拾ったタクシーの中で、樋口未樹が荒野にそういった。
 樋口兄弟の家は駅からかなり離れた場所にあり、その割には路線バスもない、不便な地域にあった。荒野が現在住んでいるマンションも、その「不便な地域」にある。
 方向が一緒だし、場所的にも近所といっっていい場所にあったので、荒野は大樹に肩を貸しながら、タクシーに同乗した。
「タクシー代、わたしが出すから。あ。まだ時間早いし、なんなら家でお茶くらい飲んでいく?」
 それから未樹は、自分の家族のことを話し始める。

 わたしと大樹はバカだけど、真ん中の明日樹は真面目っ子。両親は放任主義。というか、子供にも「自分の行動の責任は自分でとれ」と突き放してくるタイプ。だから、学校の成績にも無関心で、子供が外泊や派手なファッションをしても一切お咎めなし。でも、誰か他人に迷惑をかけるようなことをすると、こっぴどく怒られる……などなど。

 そうこうするうちにタクシーが着き、しつこく誘われた荒野は、樋口家にお邪魔することになった。
 兄弟と荒野を迎えた樋口家のご両親は、割合平凡な風貌の中年夫婦で、母親の目鼻立ちが兄弟との血縁関係を連想させた。がっちりとした体つきの赤ら顔の父親のほうは家で酒を飲んでいたらしく、大樹を担いできた荒野に丁寧に礼を述べた後、「きみも一緒に飲もう」としきりにすすめてきては、母親に制止されていた。
 銀髪の荒野が娘とともにこの時間に帰宅してもあまり騒がないあたり、平凡な風貌に似ず、非凡な夫婦なのかもしれない、と、荒野は思った。

 荒野は未樹に案内され、大樹を抱えて二階にある大樹の部屋まで運び込む。
 大樹を布団に寝かしつけて廊下に出ると、母親がお茶を入れた盆もってたっていて、「せっかくだから、ゆっくり休んでいってね」と、未樹の部屋に案内される。
「今、一階は散らかっているし、お父さんは誰にでもお酒をすすめる人だから」ということだが、未樹がお盆ひったくるようにして二人で部屋に入った際、意味ありげな流し目をもらった。
「もー。お母さん、気、回しすぎ」
 と、扉を閉じた未樹が、何故か怒った口調でいったことで、荒野は、『ああ。今、二人きりなんだな』とようやく気づいた。
 しかしこの状況は、ご両親にしてみれば放任主義を少し越えすぎているのではないだろうか?
「お父さんはお父さんでなんかいきなり荒野君のこと気に入っているし。お父さん、気にいった人しかお酒に誘わないの。一目で誘われたの、きみで二人目かな? 妹の友達でもう一人の香也君っていう子がいるんだけど、その子もなんか一度目から気に入られて、家に来るたびに誘われてる。いや、妹はわたしや大樹とは違ってバカじゃないし、真面目ないい子なんだけどね」
 未樹はお茶の用意をしながら、多弁になっている。酒が残っているのか、頬に朱がさしていた。
「はい、お茶。でね、荒野君、きみにはいろいろと聞きたいことあるわけよ、わたしとしては。差し出がましいようだけどさ、妹さんのこととかさ。
 きみ、いろいろな所で、不思議すぎ。
 それに、いつもそうやってにこにこ笑っているけど、その笑顔……」
 荒野に用意したマグカップを渡した未樹は、自然な動作で手をあげ、荒野の頬に、指で触れた。
「……その笑顔、すっごく寂しそうに見える……」

「わたし、大樹と一緒でバカだけどさ、なにかきみにできることがあったら、遠慮なくいってね」
 と、未樹は、そう続けた。

 不意打ちだ、と、荒野は、思った。

[つづき]
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