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今は亡き友の妻 (1)

今は亡き友の妻 (1)

「だから、響子を抱いてやって、って」
 もちろん、聞き返したのは、冨美子の言葉が聞こえなかったからではない。自分の女房から目の前にいる女を抱け、とけしかけられれば、誰だってなにかの間違いではないのか、と思うだろう。
 冨美子と籍をいれてからそろそろ十年になるが、それ以前のつきあいと合わせて考えても、結構いい関係を保ててきたと思っている。それだけ長い間続いている関係であるわけだから、なにかの弾みや間違いで浮気をしたことがない、などという綺麗事をいまさら言い立てるわけでもないが、それにしたって節度と重んじて大事にならない内に、つまり、冨美子にばれないうちにほどほどの処で深入りせずに引き返してきたつもりである。そうした事情は、冨美子にしてもたいして変わらないはずで、冨美子は、これはひいき目などではなく、十分に、異性の目を引きつけるに足る魅力的を持った女性だった。冨美子が口説かれたり誘惑される機会はかなり頻繁にあったはずだし、それをどうあしらったかまでは一々詮索をしたことはないが、少なくともおれとの関係を壊すところまで填った相手はいなかった、ということなのだろう。
 おれの火遊びを一々冨美子に報告していないのと同様、知らないところで冨美子がどんな遊びをしているかは知らないし、詮索するつもりもないが、それでもお互いに対する愛情、もしくは現在の関係を保持しようとする意志については疑うまでもないほど強固なはずで、つまりおれと冨美子という夫婦は、世間一般的にみればかなり安定した関係の、仲の良い夫婦、なはずだった。

 で、おれはいま、その仲の良い妻から、共通の知人でもある、魅力的な女性を抱け、とけしかけられて、困惑している所、なわけなのである。

 まさか、その相手が冨美子とはタイプが違うがものすげぇ美人で機会があれば是非お手合わせを願いたいタイプであるにせよ、だからといってまさか、「はいそうですか」といって即座に自分の女房の目の前で押し倒すわけにもいかんんだろう。
 それに、冨美子の手前ということとは別に、躊躇すべき理由があった。
 その、目の前の魅力的な女性は、おれと冨美子との共通の知人、というより、冨美子と同じくらい古いつきあいの友人で、彼女の夫ともおれたちは知り合いだった。全員、同じ大学の同じサークルに在籍していたわけで、平たくいえば、十年来の友人、ということになる。彼女の夫である良樹がこの場にいれば、「おう。それではこれからみんなでスワッピングでもするか」とかいいそうなシュチュエーションなわけだが(良樹は、その体脂肪の含有率が多い丸っこい体型から想像つかないほど豪快な性格で、実に話しのわかるヤツだった)、その良樹もこの場にはいないので、かなり後ろめたい気分になる。

 まあ、良樹は、「この場にいない」どころではなく、「この世にいない」、つまり故人なわけだが。

 さて、問題です。
 ほぼ一年前に事故死した友人(良樹。早死にしたのが惜しまれる、実にいいヤツだった)の、美人の未亡人(響子。大学のサークルでいっしょだった後輩。清楚なタイプで、実年齢より五歳から十歳も若く見える)を、自分の女房(冨美子。今更褒めるのもなんだが、美人)に、「抱け」とけしかけられたおれは、いったいどういう態度をとるのが適切なもんかね?


[続き]
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