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今は亡き友の妻 (2)

今は亡き友の妻 (2)

「そういわれて、ハイそうですか、ってやれるわけないだろう。
 しかも、お前の目の前で」
 とりあえず、おれは富美子にいう。面白味はないかもしれないが、妥当。とりあえず、常識的な返答では、あるだろう。
「そういうのもわかるけどね、響子、もう一年もなんにもしてないのよ。男と。このままなら一生ね。たぶん。そんなのもったいないでしょう。この子、まだまだ若いのに」
 おれの隣に座っていた富美子が、おれに顔を向けて、そういう。富美子は響子のことを「この子」などといったが、同じ大学に同時期に在学していたのだから、年齢的にはさほど差はない。せいぜい、「先輩、後輩」程度の違いがあるだけだが、たしかに響子には、これも育ちの良さ故か、どこかおっとりとした雰囲気があり、前にも言ったとおり、年齢よりもずっと若く見える。
 冨美子が響子のことを「この子」と呼び、なにかと世話を焼きたくなる気持ちも、確かに、分からなくはないのだ……。

 しかしおれは、富美子と響子との間にどのような取り決めや話し合いがあったのか、知らない。知らされていない。ただ、良樹が亡くなってからも、以前から親交のあった富美子と響子が、メールや電話で普段からなにかと連絡をとりあっていることは、知っていた。あれだ、女同士のネットワークとか連携とかいうやつだ。そこに割り込んで行くほど、おれは野暮でも無粋でもないつもりだったので、放置していたわけだが……。
 半ば呆れているおれにはかまわず、富美子は、この一年ほど、つまり、良樹が事故死して以来、響子が家からほとんど出ていないこと。このまま世間と没交渉のまま残りの人生を過ごすのも悪くはないな、と思い始めていること。良樹の遺した財産を使えば、まだまだ何十年もなにもしなくても暮らしていけること(これはかなり控えめな言い方だと思う。響子は不動産や現金のほかに、良樹の起こした会社の株をかなり相続しており、その良樹の会社は未だに衰えない勢いで膨張し続けている優良企業だ。女一人で食いつぶすほうが、どちらかというと難しい)。実家や良樹の家からは、そのような響子の状態を良くは思われていないこと。
 ……などなど、おれたちにとっては先刻承知の、わかりきった事情を立て続けにしゃべりたおす。いやはや、何度か目の当たりにしているが、このようなときの富美子の「しゃべり」は、なまじ顔の造作が整っているだけに、一種異様な迫力がある。富美子の勤め先で、営業成績全国ナンバーワンの成績を長期間キープしていられるのも、この迫力があればこそ、なのだろう。
「そういうのって、不健康で非建設的だと思わない? それに、。。。」
 と、ここで、富美子はわざとらしく一拍、間を置いて、
「響子、良樹しか知らないんだって」
 と、とどめを刺すように、いった。
 ……オーケィ。お前は一流のセールス・レディだよ、富美子、と、内心で思いつつ、改めて、向かい側に座っている響子の様子を確かめる。もちろん、富美子の長々としたセールス・トークの間にも、ちらりほらりとさりげなく伺ってはいたのだが、今度はことさら「みている」ということを強調するように、顔の向きもかえ、正面から富美子の顔を見据える。
 少なくとも響子は、おれや、富美子の提案を厭がっている様子ではなかった。まあ、おっとりしている分、つかみどころがない、表情の読みにくい娘ではあるんだが。


[つづき]
目次








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