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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(2)

第六章 「血と技」(2)

 その日、徳川篤朗は、朝早くから徳川浅黄の手を引いて商店街にやって来た。

 今度のコンテストで使用したネット上での映像配信システムは、孫子との囲碁勝負の時に使用したシステムを流用している。あの時は、孫子の身元が身元なので、ストリーミング映像をローカルなディスク領域に容易にコピーできないよう、かなりタイトなセキュリティシステムを楓と共同で組んだわけだが、今回のコンテストについても、出場者のプライバシーを最大限に保護する、という商店街側の意向をアピールするために、そのシステムが採用された、というわけで、篤朗は、従来のシステムに若干のパッチを当てて改良することと、自分の会社のCM映像をストリーミング映像に混入させることを条件に、システム関係の整備と保守を商店街から請け負った。
 浅黄が着いて来ているのは、例によって篤朗の姉が仕事で何日間か留守にしているのと、浅黄自身がこのイベントを自分の目で見たがったからだ。浅黄については、適当なところで、玉木の弟か妹に預けるつもりでいる。もともと、徳川への依頼は玉木珠美経由で来た話しだし、あそこの家には玉木珠美の弟と妹もいるから、浅黄のいい遊び相手になる筈で、なにかと都合がよかった。

 徳川篤朗がついた時は、時間が早く、まだほとんどの店のシャッターが降りていた。そうした閑散とした商店街で、顔見知りの電気屋の親父さんが、脚立を使って、液晶ディスプレイをアーケードの支柱に取り付けていた。真新しいツナギを来たバイトらしい助手は、その脚立を支えている。
 電気屋の親父さんは、家電メーカーの直販店をやりながら、パソコン部品の通販バイヤーみたいなことにも手を出しているらしく、商店街のサーバーも、この電気屋さんが提供してくれた、と、玉木に聞いている。
 篤朗が声をかけると、電気屋の親父さんは、
「おお。来てくれたか……」
 と声をかけて、脚立から降りてくれた。親父さん、といってもまだ若い。二十代後半からせいぜい三十代前半、というところだろうか? 篤朗との付き合いが始まったのはこの仕事を引き受け立てからだ、両者とも技術屋気質を持った経営者、という部分で、話しが通じるところが多かった。
 しばらく立ち話をしていると浅黄が退屈そうにしだしたので、篤朗は、
「……浅黄を預けたら、手伝いに来てやるのだ……」
 と言い残して、一旦別れた。うお玉に向かった。
 玉木の自宅でもあるうお玉には何度か訪問しているので、勝手口に回って来意を告げると、玉木珠美の母親が出てきた。
 篤朗の顔を見ると、「今、珠美呼んできますから……」と奥に引っ込もうとする。それを呼び止めて、事情を話し、浅黄だけを預け、電気屋の親父さんの元にもどる。
 親父さんの話しによると、液晶デスプレイを固定する為の台は昨夜のうちに溶接で固定しているので、あとはその台にディスプレイをビスで据え付けていくだけ、ということで、その程度の簡単な作業なら、篤朗にも十分に手伝えるのだった。
 もうすぐ「ボランティアの若いの」とやらが大勢詰めかけてくる、ということだったが、手伝いは一人でも多いに決まっている……。

 商店街は、朝の十時前後から異装の人たちが増え続けた。白と黒の少女たち……中には、「少女」という呼称が似つかわしくない年齢の女性も若干名含まれていたが……たちは、朝から電車が駅に到着するするごとに増加し続けた。
「そうした恰好をしても、うろんな眼で見られない場所」、あるいは、「同じような趣味を持つ人たちが、期間限定で集まる場所」として認知されているらしく、コンテストにエントリーはしないまでも、ゴシック・ロリータ・スタイルに身を包んだ女性たちが続々と集まってくる。基本的に、ここいらは「情報発信地」とか「都会」からはほど遠い場所であり、まだまだそうしたファッションに対する偏見も強い。
 その反動か、マイナーな趣味の人たちから、自分たちの価値観が認められる場所として認められると、かなり遠くからでも足を運んでくる人たちがいた。
 加えて、そうした女性たちを目当てに来るカメラやビデオを抱えた男たち、それに、ネットでたまたまこのイベントの存在を知ったナンパ目的の勘違い野郎などなど……それに、ふだん、商店街を利用しているも常連客も当然いるので、時間が経つにつれて、人出はどんどん増えていった。
 商店街に据え付けられた何台かのカメラが、そうした様子をリアルタイムでネットに配信している。また、商店街のサイトで見ることができるその映像は、コンテストにエントリーしてきた人たちの写真や動画とともに、商店街の各所に配置された液晶ディスプレイにも映し出されていた。
 カメラのある位置は、かなり目立つように告知してあるので、遊びに来たゴスロリ少女たちが、カメラに向かってポーズを取ったりする光景も、よく見かけられた。
 普段、利用している人の年齢層が高めなこの商店街に、若い女性が大勢つめかける、ということは滅多にないことだったので、商店街全体がどことなく華やいだ雰囲気になった。
 また、コンテストの投票はポイント制で、ネット上や往来での投票ポイント比べ、かなり大目のポイントを各商店に振り分けられていたので、コンテストにエントリーしてきた出場者のうち、経済的に余裕のある者は、率先して商店街で買い物をした。
 メイド喫茶、ならびに、執事喫茶、も、まだこの地方には進出してきていなかったので、珍しがられたし、局地的に話題にもなっているようだった。コンテストやゴスロリには興味がなく、この臨時営業店舗目当てにやってくる客も多かった。
 そんな感じで、初日の午前中から、今回の企画に対する関係者各位の感触は、決めて良好なものといえた。
 不安材料といえば……この客足が、最後まで持続するか、という部分だが……もともと、商店街側は、孫子の発案によるこの企画へはあまり期待をしていなかったこともあり、「初日の午前中の分だけでも」十分に成功、という意見が多かった。
 大きく期待をしていなかった分だけ、初日から、思っていた以上の客足を喜ぶ声が多く、「これ以上は、おまけ」という余裕さえ、あった。商店街の中には、この客層とはあまり関係のない商品を扱っている店も多かったが、そうした商店も、直接利益には結びつかないにせよ、活気がでてきたこととネームバ\リューが若干あがったことを、素直に喜んでいた。

「名誉実行委員長」という、具体的な仕事の内容がよく分からない肩書きを持つ才賀孫子が(彼女なりの)盛装をして午前中いっぱい商店街各所を練り歩き、その場に居合わせた人々の耳目を集めた後、午後になって孫子と入れ替わるようにして出てきたのは、十才をいくらか越えたか、といった年頃の、二人の「ローリータな」ゴシック・ロリータだった。
 この二人は、いわずと知れたテンとガク、なわけだが、貸衣装屋が誂えてくれた衣装とは対照的に溌剌として元気な様子が、老若男女を問わず、居合わせた人々全てを魅了した。もともと、二人とも愛らしい顔立ちをしているし、澄まして立っていてもそれなりに絵にはなるのだが、くるくるとあっちこっちに休むことなく飛び回って、顔見知りのお店の人たちに挨拶して回る、など、全く持って他人の眼を意識していない、普段通りの、媚びをまるで含んでいない様子が、多いに受けていた。二人は、この日から据え付けられていたウェブ用のカメラをみつけると、いちいち足を止めてポーズをとったりピースサインをしたりしていたから、たまたまネットで二人のことをみつけた人々も、大方は魅了していた。
 無防備で計算のない子供、兼、女性。しかも、美形。
「一般受け」という意味において、無敵の組み合わせかも知れない。

 ガクとテンが、人混みの中に不穏な雰囲気を放つ者をみつけたのは、二人がその衣装に着替えて、商店街を飛び回りはじめてから、小一時間ほど立ってからだった。
 ガクとテンは、同時に顔を見合わせて頷きあい、一旦、二人の詰め所になっている、電気屋さんの事務所に向かう。
 二人が感じたのは、明らかに敵意……いや、それよりも強い、殺気、であり……これみよがしにそうした不穏な気配を放たれて、黙って我慢している二人では、ない。

 電気屋さんの事務所には徳川篤朗がポツンと一人だけ座っていて、パソコンをモニターしていた。商店街のサイトが置いてあるサーバは、電気屋さんが用意した物だが、ソフト的な面では、かなり徳川の手を借りている。そのためのモニター、だろう。
 テンが携帯を取り出して、茅に「交戦許可」を取っていると、篤朗はガクに、
「……前にいっていた、挑戦者とやらが現れたのか?」
 と尋ねた。
「トクツーさん、今度は本格的。
 学校にいるかのうこうやのところにも、別口が来ているって……」
 茅との通話を切ったテンが、篤朗に答える。
「で、その、かのうこうやから伝言。
 メイドール3のように……正々堂々戦うのなら……せいぜい、派手にやれって……。
 ……で、でも……大怪我させたり死なせちゃだめだぞ!」
 テンが慌ててそうつけ加えたのは、
「……そういっておかなければ、ガクなら、無邪気に相手を殺戮して回ることもありうる……」
 と思っているからで……テンには、荒野がいう「正義の味方のように戦え」という意図が、だいたいの所理解できるが……ガクには、あまりそういう想像力は期待できなかった。
 ついこの間まで狩猟生活を送っていたガクと、今、商店街に来ている人たちとでは……倫理観の格差が、ありすぎるのだった……。

[つづき]
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