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今は亡き友の妻 (24)
しばらく時間を置くと、響子の様子が少し落ち着いてきたので、冨美子が響子の肩を抱くようにして、バスルームへと連れていく。
一人残されたおれは煙草を取り出し、深々と吸い込んだ。
「おつかれー」
一人だけ帰ってきた文子は、ぺちん、と裸のままのおれの肩をはたく。
「……本当に、疲れたわ」
おれの声は、乾いてかすれていた。
「もうこんな疲れる真似、させるな」
「あんた、響子ちゃん、嫌いでしょう」
「響子個人は嫌いじゃない。
恵まれた境遇にいるのにも関わらず、そのことに無頓着な連中が、一律に好きになれないだけ」
「らしいね。じゃあ、これ。おみやげ」
紙袋を、おれの膝に投げだす。
「なに、これ?」
「抗鬱剤とか睡眠誘導剤とか、そっち系のお薬」
冨美子はいった。
「さっき、ベッドルームにおもちゃ探しに行ったとき、見つけた。普通、そんなにいっぺんに処方されるもんじゃないけど、あの娘、飲まずにためておいたのね。いっぺんに飲んでも体が受け付けないし吐き出すだけなんだけど、お酒とかと一緒に飲んで長時間放置したりすると、万が一ってこともありうるから」
──そういうのが手元にあると、ふと寂しくなったとき、のみすぎちゃったりするのよね、と、付け加える。さすがは元リストカッター。その辺の機微には詳しい。
「……帰る途中で、どっかに捨てよう……」
「うん。疲れているだろうから、帰りはわたしが運転するわ」
「頼む」
深く紫煙を吸い込んで、
「なあ。さっき撮っていたビデオ、どうするんだ?」
「ああ。あの娘のずりネタ」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら、冨美子が答える。
「良樹とかあんたが男の基準になっちゃえば、なかなか次のが見つからないでしょ? その間、寂しくないように」
なにを考えておるのだ、こいつは!
つきあい始めてから何百回目になるんだか、の疑問を心中に浮かべながらも、おれは、目の前の笑顔をまじまじと見つめる。
……これからも振り回され続けるんだろうなあ、こいつに……。
などと思うと、諦め混じりの苦笑いが、自然に浮かんでくる。
「なによ。へんな顔して」
怪訝な顔をしておれを見た冨美子には答えず、素っ裸のまま、おれは堪えきれずに笑い声を漏らす。一度漏れた笑いはとどまることなく、ついには嘲笑になり、ソファの上で背を反らし、大声を上げて笑いだす。
……しかし、まあ……。
……なにやってんだろうな、おれたち……。
[
つづく]
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目次】