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競泳水着の誘惑 (1)

競泳水着の誘惑 (1)

「よう栗田。なにを覗いているのか?」
 後になって振り返ってみれば、すべて仕組まれていたのだと思う。しかしそのときは、栗田に精神的余裕などあるはずもなかった。
「うん? おお、柏と堺じゃないか。あの二人、夏休みにとうとうくっついた噂、本当だったんだな」
 言葉遣いこそ男みたいだったが、栗田精一の肩を叩いて、そう声をかけたのは紛れもなく女生徒で、栗田の一年先輩にあたる、飯島舞花だった。同じ水泳部に所属していて、夏場になれば毎日のように顔を合わせているが、部活という先輩後輩の区別が厳しい場所でしか接点がなかったから、栗田とはそう親しいというわけでもない。
 いきなり声をかけられ、勢いよく振り返る。と、舞花の年齢不相応に突き出たバストに鼻先をつっこみそうになる。舞花がタイミング良く栗田の両肩に手をかけ、ぐいと力任せに押し下げたので、接触事故は避けられた。
「騒ぐなよ、栗田。わたしはあの二人が学校内でどこまでやるのか、この目でみてみたい」
 豊満な体を無理矢理に競泳水着に押し込めたような舞花先輩が、しゃがんでいる栗田の体を上から抑えつけるようにして、動きを封じている。こうして間近にみると、たしかに、「飯島舞花のおかげで、去年、男子水泳部の入部者が倍増した」という噂が容易に信じられるほど、見事なプロポーションだった。
「栗田は、あの二人がやっていることに興味がないか? わたしは、あるぞ」
 そういって、部室の中を示す。プールに隣接したプレハブの部室の扉はかすかに開いていて、その中では、柏あんなと境雅史が、声を押し殺して、あきらかに不純異性交遊とおとぼしき行為をやっている最中だった。

 学校のプールの清掃は、水を入れ替えるときに、使用する機会の多い水泳部員が行うことになっている。この週末も、水泳部によるプール清掃が予定されていたので、午前中の授業が終わると同時に栗田はプールに向かい、さっさと着替えて、弁当をもって部室に向かった。水泳部員の中でも、プール掃除とかの雑用はヒエラルキー的に下位にいる一年坊主が率先してやるような雰囲気があったので(「暗黙の了解」というやつである)、雰囲気的にもさぼれない。九月に入ったとはいえ、日中はまだまだ暑い。蒸し風呂のような教室を脱出して、さっさと水につかりたい一心から先を急いだわけだったが、プレハブの部室には、栗田と同学年の柏と堺というカップルの先客が居て、入り口のサッシの引き戸に隙間が開いているのにも気づいた様子はなく、服を脱がしあっているところだった。老朽化した部室の入り口は立て付けが悪く、締まりが悪い。
 部室の入り口を開けようと手をかけたところで、中の気配に気づき、栗田はその場で固まった。
 男の堺のほうは、同学年ではあってもクラスが違うので顔くらいしか知らない。が、女生徒の柏のほうは同じ部員なのでよく知っている。
「柏あんなのおかげで今年の男子水泳部員の入部者が増えた」というのは、たぶん、本当だろう。「倍増」でないのは、去年、「飯島舞花」という女生徒の存在のせいで、例年の倍の近い男子生徒が入部していて、増加率という点では例年に比べてほぼ同じ、だったからである。結果、目下の所、水泳部の男子と女子の人口比は、現在極端な偏重傾向にあり、「プール掃除」などという雑用は、主として人数に勝っている男子の仕事、という事になっていた。
「暗黙の了解」というやつである。
 その「水泳部男子」のなかでさらに最下部としてい認識されているのが、栗田精一の所属する「一年坊主」で、その栗田精一は、前に行為中の柏あんな、すぐ後ろに競泳水着の飯島舞花、という水泳部、いや、学校でも一、二を争う人気のある女生徒に挟まれて、弁当片手に水着姿でしゃがんで固まっている、という状況なわけである。

「覗きの現場を取り押さえられた」ということさえなければ、かなりラッキーな状況、ではあるのだが……。


[つづき]
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